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ニシアフリカコビトワニ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ニシアフリカコビトワニ
生息年代: 中新世 - 現世, 11.6 - 0 Ma[1]
動物園のニシアフリカコビトワニ
保全状況評価[2]
VULNERABLE
(IUCN Red List Ver.2.3 (1994))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: ワニ目 Crocodilia
: クロコダイル科 Crocodylidae
: コビトワニ属 Osteolaemus
: ニシアフリカコビトワニ
O. tetraspis
学名
Osteolaemus tetraspis
Cope1861
英名
Dwarf crocodile
African dwarf crocodile
bony crocodile
[4]
分布

ニシアフリカコビトワニ(西阿弗利加小人鰐、Osteolaemus tetraspis)はクロコダイル科に分類されるワニの一種。ニシアフリカコガタワニとも呼ばれる[5]。その名の通り西アフリカに分布し、現存するクロコダイル科の中でもかなり小型である。

分類

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コンゴコビトワニ英語版は長らく亜種とされていた。コンゴコビトワニはカール・パターソン・シュミット英語版によって1919年に現在のコンゴ民主共和国にあるコンゴ川上流域から採取された数個の標本に基づき、Osteoblepharon osborni として記載された。Robert F. Ingerは別属に分類するほどの特徴は無いと判断し、1948年にコビトワニ属へと分類し、学名は Osteolaemus osborni となった。1961年には亜種へと格下げされた[6]

2007年に発表された形態学的研究、2009年、2013年、2015年のDNA研究では、 コビトワニ属の3つの明確に異なる個体群が完全な種として認められる可能性があることが示された[7][8][9][10]。コンゴ川流域を除く中央アフリカのニシアフリカコビトワニ、コンゴ川流域のコンゴコビトワニ、および西アフリカの未記載種である[8][10][11]。ナイジェリアの個体群については研究が進んでおらず、どの種に分類されるか不明である[11]。4番目の系統群は2013年の飼育下での調査で発見されたが、野生での分布域は不明である[9]。カメルーンではニシアフリカコビトワニとコンゴコビトワニの分布が重なっているなど、分布の重なる系統群も存在する[12]

名称

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属名はギリシア語で「骨の喉」を意味し、首と腹の間の皮骨を示す。種小名はギリシア語で「4つの盾」を意味し、4つの大きな盾状の頸鱗板を示す[5]

系統

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2018年の形態学的、分子学的、地層学的データを同時に使用した年代測定研究により、クロコダイル科内の相互関係が確立された[13]。2021年には絶滅したヴォアイ英語版からDNAを抽出して解析を行い、クロコダイル亜科とコビトワニ亜科を含むクロコダイル科内の関係がより明確となった[14]。以下はそれらの研究成果を示した系統樹である。

クロコダイル科
コビトワニ亜科英語版

ニシアフリカクチナガワニ英語版

エウテコドン英語版

Brochuchus

Rimasuchus

コンゴコビトワニ英語版

ニシアフリカコビトワニ

クロコダイル亜科英語版

ヴォアイ英語版

クロコダイル属

Crocodylus anthropophagus

Crocodylus thorbjarnarsoni

Crocodylus palaeindicus

Crocodylus Tirari Desert†

オーストラリアワニ

ニューギニアワニ

フィリピンワニ

イリエワニ

シャムワニ

ヌマワニ

Crocodylus checchiai

Crocodylus falconensis

ニシアフリカワニ

ナイルワニ

グアテマラワニ

キューバワニ

オリノコワニ

アメリカワニ

(クラウングループ)

形態

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洞窟に生息するオレンジ色の個体(左)と通常の個体(右)。

全長は通常1.5m、最大1.9mである。体重は通常18-32kgで、雌では最大40kg、雄では最大80kgに達する[15][16]。以前はコビトカイマンに次いで2番目に小さいワニだと考えられていた[16][17]。コンゴコビトワニが亜種から独立したため、コビトカイマンよりも小さな最小のワニとなった[18]。成体の背側と側面は暗色で、腹面は黄色がかり、黒い斑点が散らばる[19]。幼体は茶褐色から灰褐色で、黒褐色の斑紋が散らばる[5]。ガボンのアバンダ洞窟英語版内の個体には体色がオレンジ色のものも見られ、アルカリ性グアノによるものと思われる[20]。また遺伝的な違いも発見されている[5]。体が小さいため、防御力を確保するために頸、背中、尾は固い鱗で覆われており、腹部と頸部の間には皮骨板がある。口吻は短く基部の1-1.3倍で、隆起が無い。コビトカイマンの吻と形状が似ており、同様の生態的地位を占めていると考えられる。前上顎骨に4本、上顎骨に12-13本、下顎骨に14-15本の歯を持つ。後方の歯は球状で、硬い獲物を噛み砕くのに適していると考えられている。口吻の後端が切れ上がる。水掻きは後肢の趾の半分ほどまである。前顎骨と上顎骨の縫合線はアルファベットの「V」字状[5]

分布と生息地

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ガーナの野生個体

サハラ砂漠以南の西アフリカ中部アフリカ熱帯地域に分布する。分布域の大部分はクチナガワニ属と重なっており、西はセネガル、東はウガンダ南西部、南はアンゴラにまで及ぶ[2][18]。ウガンダでは1940年代以降発見されておらず、現在の分布状況は不明である[18]

小川、池沼、マングローブ林に生息し、一般的に大きな河川の本流では見られない[18][21]。一般的に森林生息地で見られるが、開けた場所で見られることもある。季節的に浸水する森林でも見られる[22]。ほとんどのワニと異なり、日光浴をすることはめったにない。夜間は水から少し離れた場所に移動することもある[18]サバンナの孤立した水場からの報告もある[11]。ガボン西部の洞窟に生息する個体群が知られており[23]、遺伝子的に孤立している[24]汽水域海岸に進出することもある[5]

生態と行動

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幼体

クロコダイル科では珍しく、性質は温和でおとなしい[25]。主に夜行性であり、日中は水中や巣穴に隠れて過ごすが[11]、日中に活動する場合もある[18]。主に水中または水辺で索餌を行うが、ワニの中でも陸生傾向が強く、特に雨が降った後は広範囲に渡って陸上で餌を探す[11]ジェネラリスト種英語版であり、カニカエル腹足類昆虫トカゲ水鳥コウモリトガリネズミなど、幅広い小動物を捕食する[18][21][23]コンゴ民主共和国において主な獲物は魚であり[18]ナイジェリアでの主な獲物は腹足類とカニであった[26]コンゴでは季節によって食性が変化し、雨季には魚、乾季には甲殻類を食べる[19]。胃の中からは植物質も見つかっているが、偶発的に摂取したものと考えられている[21]。比較的絶食にも強い[16]。乾季には深い穴に逃げ込むことが多い[21]。水場付近に巣穴を掘り、巣穴の入り口は水面下にある場合もある。適切な条件に恵まれない場合、水域の上に張り出した木の根の間に住む。

繁殖期にのみ密接に交流し、5-6月にかけての雨季の初めに塚状の巣を作る。巣は水辺に作られ、腐敗した植物の分解によって発生する熱によって卵が温められる。通常約10個、最大20個の卵を産み、85-105日で孵化する。孵化時の全長は28cm。雌は巣を守り、孵化後は鳥、魚、哺乳類、爬虫類、他のワニを含む天敵から幼体の捕食を防ぐため、一定期間幼体を保護する[5]

人間との関係

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動物園の飼育個体

IUCNレッドリストでは絶滅危惧種とされており[2]CITESの付属書Iに掲載されている[18]。研究が進んでおらず、人間活動による個体数の変化などはあまり認識されていない。ブッシュミートを目的とした狩猟や森林伐採による生息地の喪失により、ある程度は個体数の減少が示されている。しかし分布域は広いため、全体としては個体数は豊富だと考えられている。ガンビアリベリアなどでは深刻な個体数の減少が見られ、絶滅の危機に瀕している可能性がある[19]。いくつかの保護区に生息している[21]。地元では皮革製品の製造に使用されているが、品質が悪いため、飼育下繁殖や持続可能な利用にはほとんど関心が寄せられていない。食用目的で狩猟されることもある[18][19]

日本では恩賜上野動物園などで飼育され、繁殖も行われている[27][28]。北米の動物園を対象とした調査では、西アフリカの未記載種や、雑種も何頭か飼育されていた[10]。ヨーロッパでも同様の状況であったが、分布域の不明な4番目の系統が数頭、コンゴコビトワニも1頭が飼育されていた[9]。ペットとして飼育されることもあり、かつては日本でも流通していた[29]

出典

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  1. ^ Rio, Jonathan P.; Mannion, Philip D. (6 September 2021). “Phylogenetic analysis of a new morphological dataset elucidates the evolutionary history of Crocodylia and resolves the long-standing gharial problem”. PeerJ 9: e12094. doi:10.7717/peerj.12094. PMC 8428266. PMID 34567843. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8428266/. 
  2. ^ a b c Crocodile Specialist Group (1996). Osteolaemus tetraspis. IUCN Red List of Threatened Species 1996: e.T15635A4931429. doi:10.2305/IUCN.UK.1996.RLTS.T15635A4931429.en. https://www.iucnredlist.org/species/15635/4931429 2024年12月2日閲覧。. 
  3. ^ Appendices CITES”. cites.org. 2024年12月2日閲覧。
  4. ^ Osteolaemus tetraspis (Cope, 1861)”. crocodilian.com. 2020年2月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月23日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g 中井穂瑞嶺『ディスカバリー 生き物再発見 ワニ大図鑑』誠文堂新光社、2023年4月15日、206-207頁。ISBN 978-4-416-52371-1 
  6. ^ Wermuth, H. & R. Mertens (1961). Schildkröten, Krokodile, Brückenechsen. Veb Gustav Fischer Verlag 
  7. ^ Brochu, C.A. (2007). “Morphology, relationships, and biogeographical significance of an extinct horned crocodile (Crocodylia, Crocodylidae) from the Quaternary of Madagascar”. Zoological Journal of the Linnean Society 150 (4): 835–863. doi:10.1111/j.1096-3642.2007.00315.x. 
  8. ^ a b Eaton, Mitchell J.; Andrew Martin; John Thorbjarnarson & George Amato (March 2009). “Species-level diversification of African dwarf crocodiles (genus Osteolaemus): A geographic and phylogenetic perspective”. Molecular Phylogenetics and Evolution 50 (3): 496–506. doi:10.1016/j.ympev.2008.11.009. PMID 19056500. 
  9. ^ a b c Franke, Franziska Anni; Schmidt, Fabian; Borgwardt, Christin; Bernhard, Detlef; Bleidorn, Christoph; Engelmann, Wolf-Eberhard & Schlegel, Martin (2013). “Genetic differentiation of the African dwarf crocodile Osteolaemus tetraspis Cope, 1861 (Crocodylia: Crocodylidae) and consequences for European zoos”. Organisms Diversity & Evolution 13 (2): 255–266. doi:10.1007/s13127-012-0107-1. 
  10. ^ a b c Shirley, M. H.; Villanova, V. L.; Vliet, K. A. & Austin, J. D. (2015). “Genetic barcoding facilitates captive and wild management of three cryptic African crocodile species complexes”. Animal Conservation 18 (4): 322–330. Bibcode2015AnCon..18..322S. doi:10.1111/acv.12176. 
  11. ^ a b c d e Eaton, M.J. (2010). “Dwarf crocodile Osteolaemus tetraspis. In Manolis, S.C.; C. Stevenson. Crocodiles: Status, Survey and Conservation Action Plan (3 ed.). IUCN Crocodile Specialist Conservation Group. pp. 127–132. https://www.iucncsg.org/365_docs/attachments/protarea/21%20O-c1d8ab26.pdf 
  12. ^ Smolensky, N.L. (2015). “Co-occurring cryptic species pose challenges for conservation: a case study of the African dwarf crocodile (Osteolaemus spp.) in Cameroon”. Oryx 49 (4): 584–590. doi:10.1017/S0030605314000647. 
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  16. ^ a b c The African Dwarf Crocodile”. h2g2 (2010年6月1日). 2021年12月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年8月7日閲覧。
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  22. ^ Eaton, M. J., Martin, A. P., Thorbjarnarson, J. B., & Amato, G. (2009). Species-level diversification of African dwarf crocodiles (Genus Osteolaemus): A geographic and phylogenetic perspective. Molecular Phylogenetics and Evolution, 50(3), 496–506. https://doi.org/10.1016/j.ympev.2008.11.009
  23. ^ a b Weird orange crocodiles found gorging on bats in Gabon's caves”. New Scientist (12 October 2016). 2024年12月2日閲覧。
  24. ^ Hance, Jeremy (2018年1月29日). “Orange cave crocodiles may be mutating into new species” (英語). the Guardian. 2024年12月2日閲覧。
  25. ^ 『小学館の学習百科図鑑5 動物の図鑑』小学館
  26. ^ Luiselli, L.; Akani, G. C. & Capizzi, D. (1999). “Is there any interspecific competition between dwarf crocodiles (Osteolaemus tetraspis) and Nile monitors (Varanus niloticus ornatus) in the swamps of central Africa? A study from south-eastern Nigeria”. Journal of Zoology 247 (1): 127–131. doi:10.1111/j.1469-7998.1999.tb00200.x. 
  27. ^ どうぶつ図鑑/ニシアフリカコガタワニ東京ズーネット(東京動物園協会)2018年9月24日閲覧。
  28. ^ 【TOKYO動物園日記】上野動物園 斉当史恵さん/希少ワニ 繁殖への挑戦『読売新聞』朝刊2018年9月11日(都民面)。
  29. ^ ニシアフリカコビトワニ”. Allabout. 2024年12月2日閲覧。

参考文献

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  • 『原色ワイド図鑑3 動物』 学習研究社1984年、150、201、218頁。
  • 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『レッド・データ・アニマルズ6 アフリカ』、講談社2000年、118-119、222-223頁。
  • 千石正一監修 長坂拓也編 『爬虫類・両生類800種図鑑 第3版』 ピーシーズ、2002年、156頁。
  • 『小学館の図鑑NEO 両生類はちゅう類』 小学館2004年、142頁。

外部リンク

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