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ニューギニアワニ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ニューギニアワニ
生息年代: 後期更新世現世, 0.1–0 Ma[1]
動物園のニューギニアワニ
保全状況評価[2]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: ワニ目 Crocodilia
: クロコダイル科 Crocodylidae
: クロコダイル属 Crocodylus
: ニューギニアワニ
C. novaeguineae
学名
Crocodylus novaeguineae
(Schmidt, 1928)
英名
New Guinea crocodile
分布域

ニューギニアワニ (学名:Crocodylus novaeguineae) は、クロコダイル科に分類されるワニの一種。パプアワニとも呼ばれる[4]ニューギニア島の中央に存在するニューギニア高地英語版の北側に分布する。高地の南側に生息する個体群は、以前は同種と考えられていたが、現在は別種のミナミニューギニアワニ英語版とされている。過去にはフィリピンワニも亜種として含まれていたが、現在では別種とされている。主に淡水沼地に生息する。夜行性傾向が強く、やその他の小動物を捕食する。雌は植物でできた巣に卵を産み、近くで巣を守る。親はある程度幼体の世話を行う。20世紀半ばには貴重な皮のために乱獲されたが、その後保護対策が講じられ、飼育下繁殖も行われた結果、国際自然保護連合レッドリストでは低危険種に分類されている。

分類と名称

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1928年にアメリカ爬虫類学者であるカール・パターソン・シュミット英語版によって Crocodylus novaeguineae として記載された[5]。かつてはパプアニューギニア西ニューギニアに生息するニューギニアワニ C. n. novaeguineae と、ブスアンガ島ルソン島マスバテ島ミンドロ島ネグロス島サマール島ミンダナオ島を含むいくつかの島に生息するフィリピンワニ C. n. mindorensis の2亜種に分類されていたが、現在はフィリピンワニは完全な別種と考えられている[6]。2011年に報告されたDNA配列のデータによると、フィリピンワニはニューギニアワニに対して部分的に側系統的であり、ニューギニアワニはフィリピンワニ内の個体群を構成している可能性があることが示された[7]。ニューギニアワニの2つのサンプルのうち、1つはフィリピンワニの系統の一部であり、もう1つは別個の系統で、260万-680万年前に分岐したと推定されている。両方のサンプルは飼育下から採取されたもので、誤認または雑種の可能性もあるため、結果には注意して扱う必要がある[7]

属名はギリシア語で「小石のミミズ」を意味し、背面のゴツゴツした形態を指す。種小名はラテン語で「ニューギニアの」を意味する。New Guinea freshwater crocodile、Singapore large grain、Puk Puk、Buaya air tawar、Wahne hualaなどの一般名がある[6]

ミナミニューギニアワニは本種と最も近縁な種で、ニューギニア高地の南に分布し、ニューギニア島の固有種でもある。2019年に別種とされ、本種とミナミニューギニアワニを比較して研究を行ったフロリダ大学の研究者であるPhilip M. Hallへの献名として命名された[8][9]。両種は非常によく似ているが、遺伝的に隔離されており、頭蓋骨の形状も異なる[10]

系統

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クロコダイル属はおそらくアフリカを起源とし、東南アジアアメリカ大陸へと広がったが[11]オーストラリアアジアを起源とする説もある[7]。クロコダイル属は近縁種である絶滅したマダガスカルのヴォアイ英語版から、約2500万年前の漸新世中新世の境界付近で分岐した[11]

以下は2018年の年代測定に基づく系統樹である。形態学的、分子学的、地層学的データが同時に使用されている[12]。また2021年のヴォアイから抽出したDNAを使用したゲノム研究も参考とした[11]。ミナミニューギニアワニはこの研究の後に分割されたため、系統樹には存在していない。

クロコダイル亜科英語版

ヴォアイ英語版

クロコダイル属

Crocodylus anthropophagus

Crocodylus thorbjarnarsoni

Crocodylus palaeindicus

Crocodylus Tirari Desert†

アジア‑オーストラリア系統

オーストラリアワニ

ニューギニアワニ

フィリピンワニ

イリエワニ

シャムワニ

ヌマワニ

アフリカ‑新大陸系統

Crocodylus checchiai

Crocodylus falconensis

ニシアフリカワニ

ナイルワニ

新大陸系統

グアテマラワニ

キューバワニ

オリノコワニ

アメリカワニ

形態

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全長は雄で3.5m、雌で2.7mに達し、体重は最大200kgに達するが、ほとんどの個体はこれより小さい[13]。全長2.91m、体重123kgの個体の咬合力は4,782N、全長3.15m、体重186kgの個体の咬合力は5,938Nであった[14]。体色は灰色から茶色で、尾と体に濃い色の縞模様があるが、成長するにつれて薄れる[6]。目の前には縦の隆起があり、4つの大きな頸鱗板の後方には粒状の鱗がある[15]。本種とミナミニューギニアワニでは、頭蓋骨の形態と鱗の配置にいくつかの違いがある[16]。幼体の吻は尖っていて比較的狭く、成長に伴って広くなる。分布域の近いフィリピンワニシャムワニとは形態的に類似している。体色はオーストラリアワニに似るが、吻はやや短く幅広い[6][17]

分布と生息地

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ニューギニア島北部、特に内陸部の淡水湿地、沼地、湖沼に生息する[6]汽水域にも進出するが、沿岸部では非常に稀であり、競合関係にあるイリエワニがいる場所からは発見されない[6][13]。パプアニューギニア北部のセピック川流域から初めて記載された。ミナミニューギニアワニは島の南半分に分布し、パプアニューギニア南東部からインドネシア南パプア州にまで広がっている。ミナミニューギニアワニは島の中央部に沿って走るニューギニア高地によってニューギニアワニと隔てられている[16][17][18]。DNA分析により遺伝的に異なる種であることが明らかになっており[19]、形態や行動にも若干の違いがある[20]。野生個体数はミナミニューギニアワニと合わせて5万-10万頭と推定されている[6]

生態と行動

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動物園の個体

一般に夜行性であり、水生傾向が強い。日中の大半を水中で過ごし、鼻孔と目は水面上に出していることが多い。尾を左右に力強く動かすことで水中を進み、尾と脚の両方を使って方向転換する。陸上では下草の密生した日陰を好む[6]。日中は群れ日光浴をし、夜には餌を求めて散らばる[17]

雌は全長約1.6-2m、雄は約2.5mで性成熟する。交尾後約14日で産卵する。繁殖は8-10月の乾季に行われる。植物を材料に塚状の巣を草木の生い茂った水路、湖の端、湿地、河畔などの浅瀬に作る。22-45個の卵を産み、さらに植物で覆う。対照的にミナミニューギニアワニは雨季に繁殖し、巣は陸上にあることが多く、より少数でかなり大きな卵が産まれる。両種ともに抱卵期間は約80日間で、その間母親は巣の近くに留まる。卵が孵化し始めると、幼体は声を出し、両親は孵化したばかりの幼体を口に含んで水辺まで運ぶ[6][17]。10-12年で性成熟し、寿命は50年と推定される[4]

幼体は水生昆虫クモオタマジャクシ巻貝カエル、小型哺乳類を食べる。成長するにつれ獲物も大きくなり、魚の消費量も増えるが、食べられる大きさのものなら何でも食べる。成体は主に魚を捕食し、吻を横に振って獲物に噛みついて捕まえるが、エビカニ、カエル、ヘビ、中型哺乳類も捕食する。獲物を捕獲する際は、頭を振って鋭い歯で突き刺し、掴んで押し潰す。顎を横に動かして食べ物を噛むことは無い。代わりに頭を振って獲物を口の奥に運び、丸呑みする。驚くほど敏捷で、体を空中に突き上げてコウモリや飛んでいる鳥、飛び跳ねる魚を捕まえることもできる。吻先の感覚器官で川や沼の底の泥の中を探り、カニや軟体動物を探すこともある[4][17]

成体、幼体問わず様々な発声を行い、成体の雌は他の成体が近づくと、うなり声を繰り返し発する。幼体は卵の中にいる間から、互いにコミュニケーションを取り始める。これは孵化の同期に役立つ可能性がある。孵化したばかりの幼体は、さまざまな鳴き声やうなり声を出す。驚いたときに1匹が警告音を発すると、幼体はすべて水底に潜る。近くにいる成体はうなり声、威嚇、攻撃で反応する。幼体は脅威を感じると叫び、それを聞いた成体は狂ったように行動し、幼体に向かって突進する個体もいれば、水中で暴れ回ったり、頭を水面に叩きつけたりすることが観察された[17]

人との関わり

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頭部

IUCNは1986年と1988年にレッドリストの中で危急種として記載したが、1996年に評価を低危険種に変更した。分布域が広く、個体数や適切な生息地も豊富であることが理由とされた。それ以来再評価はされていない。CITESの付属書IIに掲載されている[2]

本種の皮は貴重であり、1950年代から1960年代にかけて絶滅寸前まで追い詰められた。1970年頃に法律が制定され、いくらかの保護が受けられるようになった[6]。1977年から1980年にかけて、野生個体の皮の収穫量は年間2万枚を超えていたが、1980年代には1万2000-2万枚に減少した。これに加え、年間2500-1万の卵と幼体が、飼育するために収集されていた。しかし1995年に島内最大のファームが戦略変更を行い、イリエワニの飼育に集中すると、ニューギニアワニの卵と幼体の需要は枯渇した。それ以来、インドネシアとパプアニューギニアの両国で野生個体の皮の採取が規制されている。インドネシアでは湿った皮の腹幅が25-51cm、パプアニューギニアでは塩漬けの皮の腹幅が18-51cmに制限されている[16]。一部の卵や孵化したばかりの幼体は巣から取り出され、飼育下で育てられており、同様のプログラムがミナミニューギニアワニに対しても開始されている[6]

性質は荒いが、人間を襲うことは珍しい[4]。2018年7月には、西パプア州の養殖場で男性がイリエワニに殺害された。地元住民は復讐として養殖場のイリエワニとニューギニアワニ292頭を殺害した[21][22]

出典

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  1. ^ Rio, J. P. & Mannion, P. D. (2021). “Phylogenetic analysis of a new morphological dataset elucidates the evolutionary history of Crocodylia and resolves the long-standing gharial problem”. PeerJ 9: e12094. doi:10.7717/peerj.12094. PMC 8428266. PMID 34567843. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8428266/. 
  2. ^ a b Solmu, G.; Manolis, C. (2019). Crocodylus novaeguineae. IUCN Red List of Threatened Species 2019: e.T46591A3010398. doi:10.2305/IUCN.UK.2019-2.RLTS.T46591A3010398.en. https://www.iucnredlist.org/species/46591/3010398 2024年12月3日閲覧。. 
  3. ^ Appendices CITES”. cites.org. 2024年12月3日閲覧。
  4. ^ a b c d 中井穂瑞嶺『ディスカバリー 生き物再発見 ワニ大図鑑』誠文堂新光社、2023年4月15日、159頁。ISBN 978-4-416-52371-1 
  5. ^ Schmidt, Karl P. (1928). “A new crocodile from New Guinea”. Field Museum of Natural History Publication 247 12 (14): 177–181. https://www.biodiversitylibrary.org/item/20978#page/7/mode/1up 2013年11月6日閲覧。. 
  6. ^ a b c d e f g h i j k Britton, Adam (2009年1月1日). “New Guinea Crocodile”. Crocodilians: Natural History & Conservation. Florida Museum of Natural History. 2023年1月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年10月22日閲覧。
  7. ^ a b c Oaks, Jamie R. (2011). “A time-calibrated species tree of Crocodylia reveals a recent radiation of the true crocodiles”. Evolution 65 (11): 3285–3297. doi:10.1111/j.1558-5646.2011.01373.x. PMID 22023592. 
  8. ^ Murray, Christopher M.; Russo, Peter; Zorrilla, Alexander; McMahan, Caleb D. (September 2019). “Divergent Morphology among Populations of the New Guinea Crocodile, Crocodylus novaeguineae (Schmidt, 1928): Diagnosis of an Independent Lineage and Description of a New Species”. Copeia 107 (3): 517–523. doi:10.1643/CG-19-240. ISSN 0045-8511. 
  9. ^ Hall, Philip M. (1989). “Variation in Geographic Isolates of the New Guinea Crocodile (Crocodylus novaeguineae Schmidt) Compared with the Similar, Allopatric, Philippine Crocodile (C. mindorensis Schmidt)”. Copeia 1989 (1): 71–80. doi:10.2307/1445607. ISSN 0045-8511. JSTOR 1445607. 
  10. ^ New species of crocodile discovered in museum collections: Crocodylus halli named after late scientist who started investigating the reptile's lineage”. ScienceDaily. 2024年12月4日閲覧。
  11. ^ a b c Hekkala, E.; Gatesy, J.; Narechania, A.; Meredith, R.; Russello, M.; Aardema, M. L.; Jensen, E.; Montanari, S. et al. (2021-04-27). “Paleogenomics illuminates the evolutionary history of the extinct Holocene "horned" crocodile of Madagascar, Voay robustus” (英語). Communications Biology 4 (1): 505. doi:10.1038/s42003-021-02017-0. ISSN 2399-3642. PMC 8079395. PMID 33907305. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8079395/. 
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  14. ^ Erickson, Gregory M.; Gignac, Paul M.; Steppan, Scott J.; Lappin, A. Kristopher; Vliet, Kent A.; Brueggen, John D.; Inouye, Brian D.; Kledzik, David et al. (14 March 2012). “Insights into the Ecology and Evolutionary Success of Crocodilians Revealed through Bite-Force and Tooth-Pressure Experimentation”. PLOS ONE 7 (3): e31781. Bibcode2012PLoSO...731781E. doi:10.1371/journal.pone.0031781. PMC 3303775. PMID 22431965. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3303775/. 
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  16. ^ a b c Cox, Jack H. (2010年). S.C. Manolis: “New Guinea Freshwater Crocodile: Crocodylus novaeguineae”. Crocodiles. Status Survey and Conservation Action Plan. Third Edition. Crocodile Specialist Group, Darwin. pp. 90–93. 2024年12月4日閲覧。
  17. ^ a b c d e f Ross, Charles A., ed (1992). Crocodiles and Alligators. Blitz. pp. 71–81, 104. ISBN 9781853910920 
  18. ^ Murray, Christopher M.; Russo, Peter; Zorrilla, Alexander; McMahan, Caleb D. (September 2019). “Divergent Morphology among Populations of the New Guinea Crocodile, Crocodylus novaeguineae (Schmidt, 1928): Diagnosis of an Independent Lineage and Description of a New Species”. Copeia 107 (3): 517–523. doi:10.1643/CG-19-240. ISSN 0045-8511. 
  19. ^ Zhang Man; Wang Yishu; Yan Peng; Wu Xiaobing (2011). “Crocodilian phylogeny inferred from twelve mitochondrial protein-coding genes, with new complete mitochondrial genomic sequences for Crocodylus acutus and Crocodylus novaeguineae”. Molecular Phylogenetics and Evolution 60 (1): 62–67. Bibcode2011MolPE..60...62M. doi:10.1016/j.ympev.2011.03.029. PMID 21463698. 
  20. ^ Hall, P. (1989). “Variation in geographic isolates of the New Guinea crocodile (Crocodylus novaeguineae Schmidt) compared with the similar, allopatric, Philippine crocodile (C. mindorensis Schmidt)”. Copeia 1989 (1): 71–80. doi:10.2307/1445607. JSTOR 1445607. 
  21. ^ “Indonesia mob slaughters nearly 300 crocodiles in revenge killing”. BBC. (2018年7月16日). https://www.bbc.co.uk/news/world-asia-44844367 2024年12月4日閲覧。 
  22. ^ Osborne, Simon (2018年7月16日). “Bloodthirsty mob slaughters 300 crocodiles in revenge after villager eaten alive”. The Express. https://www.express.co.uk/news/world/989588/indonesia-crocodile-slaughter-west-papua 2024年12月4日閲覧。 

外部リンク

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