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ドラヴィダ語族

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Dra (ISO 639)から転送)
ドラヴィダ語族
話される地域南アジア、主にインド南部
言語系統世界の基本となる語族の一つ。
下位言語
ISO 639-2 / 5dra
ISO 639-5dra
ドラヴィダ語族の分布

ドラヴィダ語族(ドラヴィダごぞく、Dravidian)は、主にドラヴィダ人と総称される人々が使用する言語語族 (ごぞく) であり、およそ26の言語が含まれる。ドラヴィダ語は、主として南インドスリランカで話されているが、また、パキスタンアフガニスタンネパール、そして東部及び中央インドの特定の地域、バングラデシュブータンでも話されている。 ドラヴィダ語族の話者人口は2億5千万人を数える[1]

歴史

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ドラヴィダ語の起源は、後続する言語の展開及びその分化の時代と共に分かっていない。この状態は、ドラヴィダ諸語に対する比較言語学的研究が欠如しているため、改善されていない。

多くの言語学者は南部ドラヴィダ諸語が、北部ドラヴィダ諸語が接触していない言語集団と接触したことを表すある種の特徴を示すという事実より、ドラヴィダ語話者たちが、インド亜大陸を横ぎって、南方に、そして東方に広がったとする理論を支持する傾向にある。ソ連、チェコスロバキアなどの言語学者の研究によれば、前3500年頃にイラン高原からインド西北部に移動したドラヴィダ民族は、やがて三派に分岐し、そのうちの一派が南インドに移住したと考えられる。原ドラヴィダ語(Proto-Dravidian)は、紀元前1500年頃に、原北部ドラヴィダ語、原中央ドラヴィダ語、そして原南部ドラヴィダ語に分化した、と主張する言語学者たちが存在する。多くの言語学者たちは、この語族の亜派(sub-family)のあいだに見られる分化の大きさは、分裂がより古い時代に起こったことを示していると考えている。

ドラヴィダ語族の存在は、1816年に、『テルーグー語(Teloogoo Language)の文法』において、著者アレグザンダー・D・キャンベル(Alexander D. Campbell)によって最初に示唆された。この著作のなかで、キャンベルとフランシス・W・エリス(Francis W. Ellis)は、タミル語テルグ語は、印欧語ではない、共通の祖語から派生したと主張した。とはいえ、ドラヴィダ語族が非常に大きな語族であるということが確認されたのは、1856年ロバート・コールドウェルが著書『ドラヴィダまたは南インド語族の比較文法』を出版して以降のことだった。この本は、ドラヴィダ語の包括範囲を著しく拡張し、この語族を世界における有数の大言語群の一つとして確立した。コールドウェルは、「ドラヴィダ語(Dravidian)」という術語を、紀元7世紀サンスクリット語のテクストにおいて、南インドの諸言語を指すのに使われていた「 drāvida 」という言葉より造語した。T・バロー(T. Burrow)とM・B・エメノー(M. B. Emeneau)による『ドラヴィダ語語源辞典』の出版は、ドラヴィダ語学における画期的な出来事であった。

他の言語との関係

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ドラヴィダ語とインダス文明で使用されていた言語との関連性が複数の研究から支持されている。一部の研究者は、ドラヴィダ語を、より大きな分類としてのエラム・ドラヴィダ語族(Elamo-Dravidian language family)のなかに含めている。これは現在の南西イランに当たる領域で使われていた古代エラム語をドラヴィダ語に加えた語族である。他方で、ドラヴィダ語とウラル語及びアルタイ語の間にも、著しい類似性が存在する。地理的に遥か離れたドラヴィダ語とウラル語・アルタイ語の類似性には謎が多いが、総合的に勘案すれば、メソポタミア文明を携えた原エラム人が、一方ではパキスタンに移住してインダス文明・ドラヴィダ語族を生じさせ、他方では東アジアに移住し遼河文明ウラル・アルタイ語族を生じさせた可能性がある。エラム人のY染色体ハプログループはJ2と想定されるが、ドラヴィダ人にはJ2が約20%ほどの中頻度で観察され[2] 、満州・遼河地域においてもハプログループJが約8%みられる[3]

なお、ドラヴィダ語族を、日本諸語(Japonic languages,日琉語族)、バスク語朝鮮語シュメール語オーストラリア・アボリジニ諸語と結び付けようとした研究があるが、一般に支持されていない。

ドラヴィダ語の一覧

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日本語での言語名を最初に示し、インドの公用語である言語はボールド体で示している。括弧内は、その言語が使用する文字による表記、その文字のローマ字転写、英語名を順に示している。但し、不明なものについては記していない。

南部ドラヴィダ語派

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中南部ドラヴィダ語派

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中部ドラヴィダ語派

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北部ドラヴィダ語派

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以上の諸言語のうち、インドおよびスリ・ランカ外に中心地をもつ言語は、ブラーフーイー語のみである。

音韻体系

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ドラヴィダ語は、フィンランド語と似て、有声閉鎖音無声閉鎖音のあいだに区別がないことが特徴であり、実際タミル語には、有声閉鎖音と無声閉鎖音とを区別して示す記号がない。またタミル語には、帯気閉鎖音と無気閉鎖音とを区別して示す記号もない。ドラヴィダ諸語(とりわけ、マラヤラム語カンナダ語、そしてテルグ語)は、有声音と無声音、および帯気音と無気音のあいだで明瞭な区別を行うサンスクリット語やその他の印欧語から非常に多数の借用語を取り込んでいる一方で、このような単語はしばしばドラヴィダ諸語の話者によって、ドラヴィダ語族の音韻に合うような調整を受けた発音をされている。(但し上記の三言語ではタミル語と違い、本来ドラヴィダ語にはない帯気閉鎖音と無気閉鎖音の区別をサンスクリットなどを通じて受け入れた。)ドラヴィダ語はまた、非常に多数の流音に加え、歯間、歯茎、反転音硬口蓋という三通りの調音点のあいだの区別で特徴付けられる。

他言語の影響

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タミル語などインド南東部の言語は、基層言語であったオーストロアジア語族ムンダ語派の影響を受けている。

カンナダ語マラヤラム語及びテルグ語は、印欧語インド・アーリア語派に属するサンスクリット語などの言語の影響を相対的により大きく受けており、帯気子音を借用し取り入れている。サンスクリット語の単語とその派生語は、カンナダ語、マラヤラム語、そしてテルグ語では共通している。タミル語は、サンスクリット語やその他の外来言語の影響がもっとも少なく、原ドラヴィダ語にもっとも近い形を保持している。

また北インドイスラーム化やインド洋でのイスラーム商人の活動により、北インドの諸言語ほどではないもののアラビア語ペルシア語サンスクリット語に続く新たな上層としてドラヴィダ諸語の上にかぶさった。これらの要素にはヒンドゥスターニー語などの近代北インド諸語を仲介に導入されたものと、インド洋交易を通じて直接導入されたものがある。

とはいえこれらの影響はサンスクリットによるものに比べれば軽微であり、ヒンドゥスターニー語をはじめとする北インドの諸言語ではアラビア語ペルシア語の上層によって廃棄されたサンスクリット由来の語彙が、却ってこれらのサンスクリットの影響を強く受けたドラヴィダ諸語に残っているというねじれ現象も少なくない。


語彙

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以下はドラヴィダ語族における数字の1から10のリストである。比較対照のため、インド・ヨーロッパ語族の言語も付記されている[4]

南部 中南部 中部 北部 ドラヴィダ祖語 インド・アーリア語派 イラン語派
タミル語 カンナダ語 マラヤーラム語 コダグ語 トゥル語 ベアリ語 テルグ語 ゴーンディー語 コーラーミー語 クルク語 ブラーフーイー語 ヒンディー語 サンスクリット語 マラーティー語 バローチー語 ペルシア語
1 oṉṟu ondu onnu ond onji onnu okaṭi undi okkod oṇṭa asiṭ *onṯu 1 ek éka ek yak yek
2 iraṇṭu eraḍu raṇḍu danḍ raḍḍ jend renḍu raṇḍ irāṭ indiŋ irāṭ *iraṇṭu 2 do dvi don do do
3 mūṉṟu mūṟu mūnnu mūṉd mūji mūnnu mūḍu muṇḍ mūndiŋ mūnd musiṭ *muH- tīn tri tīn seh
4 nāṉku nālku nālu nāl nāl nāl nālugu nāluṇg nāliŋ nāx čār (II) *nāl cār catúr cār cār cahār
5 aintu aidu añcu añji ayN añji ayidu saiyuṇg ayd 3 pancē (II) panč (II) *cay-m- panc pañca pātc panc panj
6 āru āṟu āṟu ār āji ār āṟu sāruṇg ār 3 soyyē (II) šaš (II) *cāṯu che ṣáṣ sahā śaś śeś
7 ēẓu ēlu ēẓu ēḻ yēl ēl ēḍu yeḍuṇg ēḍ 3 sattē (II) haft (II) *ēẓ sāt saptá sāt hapt, haft haft
8 eṭṭu eṇṭu eṭṭu eṭṭ enma ett enimidi armur enumadī 3 aṭṭhē (II) hašt (II) *eṇṭṭu āṭh aṣṭá āṭh haśt haśt
9 oṉpatu 5 ombattu ompatu 5 oiymbad ormba olimbō tommidi unmāk tomdī 3 naiṃyē (II) nōh (II) *toḷ/*toṇ nau náva nau nuo noh
10 pattu hattu pattu patt patt patt padi pad padī 3 dassē (II) dah (II) *paH(tu) das dáśa dahā da dah
  1. これはタミル語とマラヤーラム語でも数字の1の別形として存在するが、用法としては、不定冠詞を表すとき、名詞の数を言うとき(例:「一人の人」など)に用いられるものとなっている。
  2. 語幹の*īrは複合語に見ることができ、タミル語・テルグ語・カンナダ語・マラヤーラム語では「二重・二倍」の意味で用いられる。例えば、irupatu(20、文字通りには「10の2倍」)、iravai(テルグ語で20)、iraṭṭi(タミル語で「二重の」)、iruvar(タミル語で「二人の人」)、ippatthu(ipp-hatthu、カンナダ語で20。文字通りには「10の2倍」)。
  3. コーラーミー語の5から10まではテルグ語からの借用である。
  4. 古代のサンガム文学では9の意味でtonduも用いられたが、後世ではonpaduに置き換わった。
  5. この語形は「10より1少ない」という語義から派生している。ドラヴィダ祖語の*toḷはタミル語とマラヤーラム語では例えば90 (thonnooru)に用いられている。


脚注

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  1. ^ Steever, S.B., ed (2019). The Dravidian languages (2nd ed.). Routledge. pp. 1. doi:10.4324/9781315722580. ISBN 9781315722580. https://doi.org/10.4324/9781315722580 
  2. ^ Sengupta, S; Zhivotovsky, LA; King, R; et al. (February 2006). "Polarity and temporality of high-resolution y-chromosome distributions in India identify both indigenous and exogenous expansions and reveal minor genetic influence of Central Asian pastoralists". Am. J. Hum. Genet. 78: 202–21. PMC 1380230 Freely accessible. PMID 16400607. doi:10.1086/499411.
  3. ^ Hammer, Michael F.; Karafet, Tatiana M.; Park, Hwayong; Omoto, Keiichi; Harihara, Shinji; Stoneking, Mark; Horai, Satoshi (2006). "Dual origins of the Japanese: Common ground for hunter-gatherer and farmer Y chromosomes". Journal of Human Genetics 51 (1): 47–58. doi:10.1007/s10038-005-0322-0. PMID 16328082
  4. ^ Krishnamurti, Bhadriraju (2003), The Dravidian Languages, Cambridge University Press, ISBN 0-521-77111-0, pp.260-265

参考文献

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  • Bhadriraju Krishnamurti 『The Dravidian Languages(ドラヴィダ語)』 Cambridge University Press 2003年 :ISBN 0521771110
  • バロー、エメノー著 田中孝顕監修『オックスフォード/ドラヴィダ語語源辞典』きこ書房2006年 :ISBN 978-4877716158
  • Robert Caldwell 『A comparative grammar of the Dravidian or South-Indian family of languages(ドラヴィダまたは南インド語族の比較文法)』 改訂第三版 J.L. Wyatt, T. Ramakrishna Pillai 編集  New Delhi : Asian Educational Services 1998年 :ISBN 8120601173
  • A. D. Campbell 『A grammar of the Teloogoo language, commonly termed the Gentoo, peculiar to the Hindoos inhabiting the northeastern provinces of the Indian peninsula(テルーグ語の文法)』 第三版 Madras Printed at the Hindu Press 1849年

関連項目

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外部リンク

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