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2019年の野球において、メジャーリーグベースボール(MLB)のポストシーズンは10月1日に開幕した。ナショナルリーグの第50回リーグチャンピオンシップシリーズ(英語: 50th National League Championship Series、以下「リーグ優勝決定戦」と表記)は、11日から15日にかけて計4試合が開催された。その結果、ワシントン・ナショナルズ(東地区)がセントルイス・カージナルス(中地区)を4勝0敗で下し、球団創設51年目で初のリーグ優勝およびワールドシリーズ進出を果たした。
両球団がポストシーズンで対戦するのは、2012年の地区シリーズ以来7年ぶり2度目。ナショナルズは、38年前の前回リーグ優勝決定戦出場時はカナダのケベック州モントリオールを本拠地都市とする "モントリオール・エクスポズ" として活動しており、アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.へ移転してナショナルズとなってからは今回が15年目での初出場だった。ナショナルズのリーグ初制覇により、リーグ優勝未経験の球団は全30球団中シアトル・マリナーズのみとなった[3]。ポストシーズンの7戦4勝制シリーズにおいて、全試合で先制したあと同点にされることすらなく勝利し、初戦から4連勝の "スウィープ" でシリーズを制したのは、1966年ワールドシリーズでのボルチモア・オリオールズ以来ナショナルズが史上2球団目である[4]。シリーズMVPには、第3戦で2打席連続の適時二塁打を放ち3打点を挙げるなど、4試合で打率.333・4打点・OPS 1.012を記録したナショナルズのハウィー・ケンドリックが選出された。このあとナショナルズは、ワールドシリーズでもアメリカンリーグ王者ヒューストン・アストロズを4勝3敗で下して初優勝を成し遂げた。
今シリーズの冠スポンサーは、自動車保険会社のGEICOが務める[5]。したがって大会名はナショナルリーグチャンピオンシップシリーズ presented by GEICO(英語: National League Championship Series presented by GEICO)となる。
カージナルスの内野手
ポール・デヨング(左。写真は2017年8月13日撮影)と、ナショナルズの外野手
フアン・ソト(写真は2020年7月18日撮影)
10月9日、まず先に行われた試合でカージナルス(中地区優勝)が、そのあとの試合ではナショナルズ(東地区2位=第1ワイルドカード)が、それぞれ地区シリーズ突破を決めてリーグ優勝決定戦へ駒を進めた。
カージナルスは2018年、88勝74敗の地区3位でポストシーズンに届かず。オフには1年前からの課題だった打線の強化策として、ポール・ゴールドシュミットを獲得した[6]。2019年は3・4月で19勝10敗と好調な滑り出しも、5月にはゴールドシュミットが打撃の調子を落とし、チームも月間9勝18敗で勝率5割に戻る[7]。前半戦もそのまま44勝44敗の地区3位で終えたが、中地区は全5球団が4.5ゲーム差内にひしめく混戦で[8]、カージナルスも首位シカゴ・カブスとのゲーム差を2.0にとどめていた。後半戦に入ると調子が上向き、7月17日からの10試合で9勝を挙げて地区単独首位へ浮上する[9]。同月31日までのトレード期間中は補強に動かなかったものの[10]、8月以降も勝ち星を積み重ねた。9月19日からは3.0ゲーム差の2位カブスに敵地で4連勝してポストシーズン進出を確定させ[11]、その後ミルウォーキー・ブルワーズの追撃もかわしてレギュラーシーズン最終戦で地区優勝を決めた[12]。平均得点4.72はリーグ10位、防御率3.82はリーグ2位。若手のジャック・フレアティやダコタ・ハドソンが先発ローテーションに定着して好投し、野手もセンターラインを中心に好守で失点を防いだ[13]。特に守備は監督のマイク・シルトが重点的強化を図ったところであり、ゴールドシュミットも打撃では期待を下回ったが、一塁で守備力向上に寄与した[11]。地区シリーズではアトランタ・ブレーブスを3勝2敗で下した[14]。
ナショナルズは2018年、82勝80敗の地区2位でポストシーズン進出を逃した。オフには中心打者ブライス・ハーパーがFAとなったが、ナショナルズは10年契約のオファーを断られると、代わりに先発投手のパトリック・コービンやアニバル・サンチェス、捕手のヤン・ゴームズやカート・スズキなどを加えた[15]。2019年は開幕から5月23日までの50試合で19勝31敗と大きく負け越し、7月31日のトレード期限までに主力選手を他球団へ放出するのではとも囁かれた[16]。しかしそこから巻き返して前半戦終了時には47勝42敗とし、地区2位・ワイルドカード争い首位につけた。トレード期限までには、防御率が6点近くでリーグ最低の救援投手陣にダニエル・ハドソンらを補強した[17]。後半戦は勝率をさらに上げたものの、地区首位ブレーブスに追いつくことはできず。ただワイルドカード争いの首位は守り、9月24日にポストシーズン進出を確定させた[18]。平均得点5.39はリーグ2位、防御率4.28はリーグ8位。打線はアンソニー・レンドンとフアン・ソトを中心に得点を重ね、投手陣は救援の弱さをスティーブン・ストラスバーグやコービンら先発陣が補った[19]。5月24日からの112試合は74勝38敗で、この期間に限ればロサンゼルス・ドジャースと並ぶリーグ最高勝率だった[20]。ワイルドカードゲームでブルワーズ相手に4-3の逆転勝利を収めると[21]、地区シリーズではドジャースを3勝2敗で下した[22]。
リーグ優勝決定戦の第1・2・6・7戦を本拠地で開催できる "ホームフィールド・アドバンテージ" は、地区優勝球団どうしが対戦する場合はレギュラーシーズンの勝率がより高いほうの球団に、地区優勝球団とワイルドカード球団が対戦する場合は地区優勝球団に与えられる。したがって今シリーズでは、カージナルスがアドバンテージを得る。この年のレギュラーシーズンでは両球団は7試合対戦し、カージナルスが5勝2敗と勝ち越していた[23]。
両チームの出場選手登録(ロースター)は以下の通り。
- 名前の横の★はこの年のオールスターゲームに選出された選手を、#はレギュラーシーズン開幕後に入団した選手を示す。
- 年齢は今シリーズ開幕時点でのもの。
- ※ Dan・ハドソンが妻の第3子出産に立ち会うため父親産休リストに入り第1戦を欠場、その試合のみスエロが代わりにロースター入りした。
地区シリーズのロースターからは、カージナルスは変更はない[24]。これに対しナショナルズは救援投手をふたり入れ替え、ハンター・ストリックランドとワンダー・スエロを外してロエニス・エリアスとハビー・ゲラを登録した。地区シリーズでは、ストリックランドは2試合2.0イニングで3被本塁打・4失点、スエロは1試合0.1イニングで1失点だった。エリアスは左投手でありながら対右打者も苦にしないことが[25]、ゲラはロングリリーフをこなせることが[26]、それぞれ評価されてロースター入りした。
ただスエロは、こうしていったんロースターを外れたあと、第1戦を前に改めてロースター入りした。というのも、チームの抑え投手であるダニエル・ハドソンが、妻の第3子出産に立ち会うために父親産休リストに入り、スエロがその代役となったためである[27]。父親産休リストは2011年に制度化されたもので、選手は最大3日間の休暇取得を認められ、その間に限りチームは代役の選手を補充することができる。ポストシーズンでこの制度を利用するのはDan・ハドソンが初めてである[28]。ポストシーズンよりも家庭を優先させたDan・ハドソンと球団の方針について、世間には否定的な意見も一部にあったものの、概ね好意的に捉えられた[29]。Dan・ハドソンは誹謗中傷に耐えかねて自身のTwitterアカウントを2016年に閉鎖した経験があり、今回の父親産休リスト入りに対してTwitterで支持があふれたことはいい意味で意外だったという[28]。
2019年のナショナルリーグ優勝決定戦は10月11日に開幕し、途中に移動日を挟んで5日間で4試合が行われた。日程・結果は以下の通り。
日付 |
試合 |
ビジター球団(先攻) |
スコア |
ホーム球団(後攻) |
開催球場
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10月11日(金) |
第1戦 |
ワシントン・ナショナルズ |
2-0 |
セントルイス・カージナルス |
ブッシュ・スタジアム |
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10月12日(土) |
第2戦 |
ワシントン・ナショナルズ |
3-1 |
セントルイス・カージナルス
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10月13日(日) |
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移動日 |
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10月14日(月) |
第3戦 |
セントルイス・カージナルス |
1-8 |
ワシントン・ナショナルズ |
ナショナルズ・パーク
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10月15日(火) |
第4戦 |
セントルイス・カージナルス |
4-7 |
ワシントン・ナショナルズ
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優勝:ワシントン・ナショナルズ(4勝0敗 / 球団創設51年目で初)
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- ^ "Umpires for League Championship Series announced," MLB.com, October 12, 2019. 2022年5月5日閲覧。
- ^ Ryan Divish, "Mariners now stand alone — as only MLB team never to reach World Series," The Seattle Times, October 16, 2019. 2022年5月5日閲覧。
- ^ R.J. Anderson, "What to know about the Nationals reaching the World Series for the first time in franchise history," CBSSports.com, October 16, 2019. 2022年5月5日閲覧。
- ^ "LCS Start Times Through Sunday Announced," MLB.com, October 10, 2019. 2022年5月5日閲覧。
- ^ Bob Baum, "Cardinals strike gold, get Goldschmidt from Diamondbacks," AP News, December 6, 2018. 2022年12月10日閲覧。
- ^ Andy McCullough, "Column:: Paul Goldschmidt's struggles mirror those of the Cardinals," Los Angeles Times, June 22, 2019. 2022年12月10日閲覧。
- ^ Neil Greenberg, "The NL Central is MLB's only divisional race worth watching," The Washington Post, July 10, 2019. 2022年12月10日閲覧。
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- ^ 久保田市郎(SLUGGER編集部) 「30球団通信簿 全選手最終成績+編成トップの通信簿 セントルイス・カーディナルス 『カーディナルス野球』に若手が融合して4年ぶり地区V」 『隔月刊スラッガー』2019年12月号増刊、日本スポーツ企画出版社、2019年、雑誌15510-12、82頁。
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- ^ 出野哲也 「30球団通信簿 全選手最終成績+編成トップの通信簿 ワシントン・ナショナルズ ハーパーが去った年に悲願のリーグ制覇」 『隔月刊スラッガー』2019年12月号増刊、日本スポーツ企画出版社、2019年、雑誌15510-12、77頁。
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- ^ Jamal Collier, "Nats stun LA with slam in 10th, head to NLCS / Kendrick's go-ahead blast reshapes Game 5 history for Washington," MLB.com, October 11, 2019. 2022年12月10日閲覧。
- ^ "Head-to-Head Records," Baseball-Reference.com. 2022年5月5日閲覧。
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- ^ Jay Cohen, "NLCS rosters: Nationals reliever Hudson on paternity list," AP News, October 12, 2019. 2022年5月5日閲覧。
- ^ Sam Fortier, "Nationals closer Daniel Hudson will miss Game 1 of NLCS on paternity leave," The Washington Post, October 12, 2019. 2022年5月5日閲覧。
- ^ Jamal Collier, "Hudson to return from paternity list for Game 2 / Elías, Guerra in NLCS; Strickland out; Robles, Suzuki OK," MLB.com, October 12, 2019. 2022年5月5日閲覧。
- ^ a b Jeff Passan, "First comes the NLDS, then comes ... a baby? Inside Daniel Hudson's life-altering weekend," ESPN.com, October 14, 2019. 2022年5月5日閲覧。
- ^ Jen Juneau, "Nationals Pitcher Daniel Hudson Criticized for Taking Paternity Leave During MLB Playoffs," PEOPLE.com, October 15, 2019. 2022年5月5日閲覧。
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球団 | |
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歴代本拠地 | |
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文化 | |
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永久欠番 |
ワシントン・ナショナルズ永久欠番 | |
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モントリオール・エクスポズ永久欠番 | |
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ワールドシリーズ優勝(1回) | |
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リーグ優勝(1回) | |
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傘下マイナーチーム | |
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球団 | |
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歴代本拠地 | |
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永久欠番 | |
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カージナルス球団殿堂 | |
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ワールドシリーズ優勝(11回) | |
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ワールドシリーズ敗退(08回) | |
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リーグ優勝(19回) | |
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できごと | |
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傘下マイナーチーム | |
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