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蜜蝋

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
蜜蝋

蜜蝋(みつろう、Beeswax、Cera alba)、または蜂蝋(はちろう)[1]は、ミツバチから採取される、をいう[2]

ミツバチ(働きバチ)は、蜂蜜糖分脂肪細胞代謝した脂肪などを、第4‐7節腹板にある蝋分泌腺(蝋腺)から鱗状に分泌し、口器で柔らかくこねて巣材とする[3][4][5]

当初は透明で、次第に花粉プロポリス、幼虫の繭、排泄物などが付着して[2]鮮黄色~黄土色[6]となる。 素材としての利用には、伝統的な太陽熱による陽熱法や工業的な加熱圧搾法[6]精製され、さらに蒸溜や漂白により得られた局方サラシミツロウ[7]は白色をしている。

成分・性質

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多数の物質で構成され、成分はモノエステル(35%)、炭化水素(14%)、ジエステル(14%)、遊離酸(12%)、ヒドロキシモノエステル(8%)など、重量1%以上の成分は21種類[6]を数えるが、多くは精製過程で生じている可能性がある[6]。 ミツバチの種により差があり、[† 1][6]。 香りの成分はアルデヒド類(ノナナールデカナールなど)、ケトン類(2-ウンデカノンなどの)など数十種類を数える[8]

融点は62 - 65℃、酸価17 - 24、エステル価70 - 80、ケン化価90 - 100、比重0.93 - 0.97[2]ジエチルエーテルクロロホルム四塩化炭素植物油に溶け、鉱物油には溶けない[2]

用途

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古代より蜂蜜ごと食用として、さらに素材として利用されていた。 イタリア南部のカヴァロ洞窟英語版で見つかった4万5000‐4万年前の三日月形石器から蜜蝋を接着剤として使った形跡が見られることから、古代からの利用が確認される[9][10]。 古代エジプトのミイラ用防腐処理剤に含まれる[11]。 6,500年前の人骨の歯から、蜜蝋の詰め物が発見されている[12]

養蜂や食用に使われるパラフィンステアリンステアリン酸が混合された蜜蝋がある。ステアリン、ステアリン酸が一定レベル量に達すると、ミツバチの幼虫に有害な影響を及ぼす可能性が指摘される[13][14]

食用

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古くから中世にかけて蜂蜜の精製方法が普及されていない時期は欧州や中東地域、中国周辺地域、アフリカ大陸、南北アメリカ大陸では蜂蜜と巣を共に摂取するという形で蜜蝋は常食されてきた。特に欧州では蜜蝋のままでもカロリーが高い飢救食物としても利用された[要出典]。現在でも、巣蜜(蜂の巣ごと切り出した蜂蜜)として利用されている。

ヨーロッパでは、食品添加剤の分類番号E番号にてE901とされている。毒性は無視できる程度である。人間の消化器官では分解されないため栄養価はほとんどない[15]。 花粉由来ビタミン類、鉄分およびカルシウムなどミネラル類、蜜蝋本来の脂溶性ビタミン類といった栄養成分が含まれているため、食用に巣のままの状態で健康食品としてコムハニー英語版という名目で販売されているほか、カヌレガムなどの洋菓子にも使用される。かつて欧州ではバターが量産普及する以前ではバター同様に調理用油脂として用いられた。

化粧品

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体温より高い融点を活かし、化粧品の基剤として用いられる[8]。 最大の用途はクリームや口紅などの原料[8]

蝋燭

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パラフィンワックス製のものに融点を高める目的で混ぜられる場合も多い。パラフィンワックスが発明される以前の中世ヨーロッパでは教会用の蝋燭の原料として盛んに用いられた[8]。日本でも奈良時代にから伝来したばかりの蝋燭は蜜蝋燭であった。

カトリック教会では、教義の思想から蜜蝋で作られたロウソクが推奨されている[16]

養蜂

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養蜂用巣箱でミツバチに巣を構築させる巣礎の材料は蜂蜜に混入する可能性がある[2]ため、蜜蝋の板が使われる[17]。ミツバチはこの上に蜜蝋を盛り、巣房(六角形の小部屋、ハニカム)を構成する[18]

医療用途

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サラシミツロウ(white beeswax)は軟膏基剤や、整形外科手術などで切断したの断端に詰めるなどして利用する。

絵画

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ローマ時代以降から見られる蜜蝋を顔料で着色して描くエンカウスティークという手法があり、描かれた絵画は蜜蝋画、蝋画と呼ばれる。

素材

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ワックスクレヨン、接着剤、ガムリトグラフエッチングろうけつ染めなど[8]として、また手紙や書簡を封泥のようにシーリングする封蝋、筆記用の蝋板。 初期のシリンダー型蓄音機の円筒型レコード松脂と混ぜ合わせて、雅楽の楽器)の調律に用いられる。

脚注

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注釈

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出典

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  1. ^ 『広辞苑』(第四)岩波書店、1991年、2070頁。ISBN 4000801015 
  2. ^ a b c d e 佐々木1994、122頁。
  3. ^ A Closer Look: Beeswax, Wax Glands” (英語) (2015年3月31日). 2023年10月17日閲覧。
  4. ^ Sanford, Malcolin T.; Dietz, Alfred (1976). “THE FINE STRUCTURE OF THE WAX GLAND OF THE HONEY BEE (APIS MELLIFERA L.)”. Apidologie 7 (3): 197–207. doi:10.1051/apido:19760301. ISSN 0044-8435. http://www.apidologie.org/10.1051/apido:19760301. 
  5. ^ ハチ博士のミツバチコラム第5回ロウソクと蜜蝋(みつろう) サイト:京都市 著:坂本文夫
  6. ^ a b c d e f 佐々木1994、123頁。
  7. ^ [1] 製品案内 – 三木化学工業株式会社
  8. ^ a b c d e 佐々木1994、124頁。
  9. ^ Sano, Katsuhiro; Arrighi, Simona; Stani, Chiaramaria; Aureli, Daniele; Boschin, Francesco; Fiore, Ivana; Spagnolo, Vincenzo; Ricci, Stefano et al. (2019-10). “The earliest evidence for mechanically delivered projectile weapons in Europe” (英語). Nature Ecology & Evolution 3 (10): 1409–1414. doi:10.1038/s41559-019-0990-3. ISSN 2397-334X. https://www.nature.com/articles/s41559-019-0990-3. 
  10. ^ ネアンデルタール人絶滅の謎の解明に手がかり サイト:東北大学 発表日:令和元年9月26日
  11. ^ 考古学:古代エジプトの遺体防腐処置に関する新知見”. www.natureasia.com. 2023年10月17日閲覧。
  12. ^ Bernardini, Federico; Tuniz, Claudio; Coppa, Alfredo; Mancini, Lucia; Dreossi, Diego; Eichert, Diane; Turco, Gianluca; Biasotto, Matteo et al. (2012-09-19). Bondioli, Luca. ed. “Beeswax as Dental Filling on a Neolithic Human Tooth” (英語). PLoS ONE 7 (9): e44904. doi:10.1371/journal.pone.0044904. ISSN 1932-6203. PMC 3446997. PMID 23028670. https://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0044904. 
  13. ^ European Food Safety Authority (EFSA) (2020-05). “Risk assessment of beeswax adulterated with paraffin and/or stearin/stearic acid when used in apiculture and as food (honeycomb)”. EFSA Supporting Publications 17 (5). doi:10.2903/sp.efsa.2020.EN-1859. https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.2903/sp.efsa.2020.EN-1859. 
  14. ^ European Food Safety Authority (EFSA) (2020年5月). “食品安全関係情報詳細”. www.fsc.go.jp. doi:10.2903/sp.efsa.2020.EN-1859. 2024年12月29日閲覧。
  15. ^ Beeswax (E 901) as a glazing agent and as carrier for flavours - Scientific Opinion of the Panel on Food additives, Flavourings, Processing aids and Materials in Contact with Food (AFC)” (英語). www.efsa.europa.eu. 欧州食品安全機関(EFSA) (2007年12月20日). 2023年10月17日閲覧。
  16. ^ CATHOLIC ENCYCLOPEDIA: Altar Candles”. www.newadvent.org. 2023年10月17日閲覧。
  17. ^ 角田1997、164頁。
  18. ^ 角田1997、51-52頁。

参考文献

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  • 佐々木正己『養蜂の科学』サイエンスハウス〈昆虫利用科学シリーズ5〉、1994年。ISBN 4915572668 
  • 角田公次『ミツバチ 飼育・生産の実際と蜜源植物』農山漁村文化協会〈新特産シリーズ〉、1997年。ISBN 4540961160