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「うみへび座」の版間の差分

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{{Infobox Constellation
{{Infobox Constellation
|janame = うみへび座
| janame = うみへび座
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}}
}}
'''うみへび座'''うみへびざ、海蛇座、Hydra)は、[[トレミー48星座]]の1つ[[星座]]中で[[星座の広さ順の一覧|最も領域が広い]]。[[みずへび座]] (Hydrus) は、[[ラテン語]]の綴りよく似ている
{{読み仮名|'''うみへび座'''|うみへびざ、{{lang-la|Hydra}}}}は、[[星座#国際天文学連合による88星座|現代88星座]]の1つで、[[トレミーの48星座|プトレマイオス48星座]]の1つ{{R|Ridpath}}。[[ミズヘビ]]をモチーフしている{{R|IAU_constellations|Ridpath}}。約1303[[平方度]]と、現代88星座で最大きな領域を持つ{{R|NAOJ_constellationsarea}}

== 特徴 ==
うみへび座の領域は、西端は[[こいぬ座]]・[[いっかくじゅう座]]と、東端は[[てんびん座]]と接する、東西差し渡し102.5&deg;に及ぶ細長い形状をしている{{R|Ridpath|boundary}}。20時[[正中]]は4月下旬頃とされる{{R|Yamada2023}}が、この東西に長い形状のため、西端では3月下旬頃、東端では6月下旬頃となる{{R|StellaNavigator11}}。角で接する[[おおかみ座]]も含めると14個の星座と境界を接しており、これは88星座中最大である{{R|Fujii2009}}。領域の面積1302.844 [[平方度]]も88星座中最大{{R|NAOJ_constellationsarea}}で、これは全天の約3.16%に相当する{{efn2|全天の立体角は4&pi;ステラジアン&#8786;41253 平方度。}}。


== 主な天体 ==
== 主な天体 ==
=== 恒星 ===
=== 恒星 ===
{{See also|うみへび座の恒星の一覧}}
{{See also|うみへび座の恒星の一覧}}
全天で最も大きな星座であるにもかかわらず2等星の&alpha;星以外に、3等星が5あるのみで、残り星である
全天で最も大きな星座だが3.0 より明るい恒星は2だけで、市街地でその全容を見ること難しい。


以下の恒星には、国際天文学連合によって正式な固有名が定められている。
[[2024年]]1月現在[[国際天文学連合]] (IAU) によって8個の恒星に固有名が認証されている{{R|iaucsn}}
* [[うみへび座アルファ星|&alpha;星]]:[[見かけの等級|見かけの明るさ]]1.97 等、[[スペクトル分類|スペクトル型]] K3IIIa の[[赤色巨星]]で2等星{{R|simbad_alpha}}。うみへび座で最も明るく見える恒星で、唯一の2等星{{R|simbad_alpha}}。質量は{{Val|3.03|0.36|ul=Solar mass}}([[太陽質量]]){{R|da_Silva2006}}、[[金属量]]は太陽とほぼ同じである{{R|simbad_alpha|da_Silva2006}}が、[[バリウム]]などの[[s過程]]の[[中性子捕獲|中性子捕獲元素]]が過剰に見られる[[バリウム星]]の特徴も見られる{{R|Kaler_alpha}}。誕生から約4億2000万年が経過しており{{R|da_Silva2006}}、中心核の[[トリプルアルファ反応]]でエネルギーを生み出していると考えられている{{R|Kaler_alpha}}。[[アラビア語]]で「孤独なもの」を意味する言葉に由来する{{R|Kunitzsch2006}}「'''アルファルド'''{{R|StellaNavigator11}}(Alphard{{R|iaucsn}})」という固有名が認証されている。
* [[うみへび座アルファ星|&alpha;星]]:うみへび座で最も明るい恒星で、唯一の2等星{{R|simbad_alpha}}。固有名は「アルファルド (Alphard{{R|iaucsn}})」。
* [[うみへび座イプシロン星|&epsilon;星]]:3等星{{R|simbad_epsilon}}。A星の固有名「Ashlesha」は、[[インド占星術]]の[[ナクシャトラ]]で第9番目の[[星宿]]である「アーシュレーシャー」に由来する。
* [[うみへび座イプシロン星|&epsilon;星]]:太陽系から約123 光年の距離にある、見かけの明るさ3.38 の連{{R|simbad_epsilon}}。3.5 等で スペクトル型 G1III の[[巨星|黄色巨星]]A星と5.6 等でスペクトル型 A8V [[A型主系列星]]B星の連星の周囲を、6.66 等でスペクトル型 F7V のC星と12.5 等のD星が周回する四重星系であるとされる{{R|WDS_eps}}。A星に、[[2018年]]6月にIAUの恒星の命名に関するワーキンググループ (WGSN) によって、[[インド占星術]]の[[ナクシャトラ]]で第9番目の[[星宿]]に由来する「'''アーシュレーシャー'''{{R|StellaNavigator11}}(Ashlesha{{R|iaucsn}})という固有名が認証されてい{{R|iaucsn}}
* [[うみへび座イオタ星|&iota;星]]:4等星{{R|simbad_iota}}。固有名の「ウクダー{{R|Kusaka}} (Ukdah{{R|iaucsn}})」は、アラビア語で「結び目」という言葉に由来するとされる{{R|Allen2013}}
* [[うみへび座イオタ星|&iota;星]]:太陽系から約253 光年の距離にある、見かけの明るさ3.91 等、スペクトル型 K2.5III の赤色巨星で、4等星{{R|simbad_iota}}。アラビア語で「結び目」を意味する言葉に由来する{{R|Allen2013}}'''ウクダー'''{{R|StellaNavigator11}} (Ukdah{{R|iaucsn}})」という固有名が認証されている。
* [[うみへび座シグマ星|&sigma;星]]:4等星{{R|simbad_sigma}}。固有名はMinchir{{R|iaucsn}}。
* [[うみへび座シグマ星|&sigma;星]]:太陽系から約379 光年の距離にある、見かけの明るさ4.43 等、スペクトル型 K1III の赤色巨星で、4等星{{R|simbad_sigma}}。「'''ミンキル'''{{R|StellaNavigator11}}(Minchir{{R|iaucsn}})」という固有名が認証されている
* [[うみへび座ウプシロン1星|&upsilon;{{sup|1}}星]]:4等星{{R|simbad_upsilon}}。A星の固有名「チャン(張、Zhang{{R|iaucsn}})」は、中国の[[二十八宿]]の1つ「[[張宿]]」の[[星]]とされたことから固有名が付けら
* [[うみへび座ウプシロン1星|&upsilon;{{sup|1}}星]]:太陽系から約248 光年の距離にある、見かけの明るさ4.11 等、スペクトル型 G7III の黄色巨星で、4等星{{R|simbad_upsilon}}。中国の[[二十八宿]]の1つ「[[張宿]]」の[[星]]「張」とされたことに由来する「'''ジャン'''{{R|StellaNavigator11}}(張、Zhang{{R|iaucsn}})」という固有名が認証さている
* [[HD 85951]]:5等星{{R|simbad_HD85951}}。固有名の「フェリス (Felis)」は、かつて[[フランス]][[天文学者]][[ジェローム・ラランド]]が考案した星座「ねこ座 (Felis)」のc星とされたことからの名が付けられ
* [[HD 85951]]:太陽系から約574 光年の距離にある、見かけの明るさ4.94 等、スペクトル型 K5III の赤色巨星で、5等星{{R|simbad_HD85951}}。[[1799年]]頃に[[パリ天文]]台長の[[ジェローム・ラランド]]が考案した星座「[[ねこ座]] (Felis)」がこ領域にあったことから「'''フェリス'''{{R|StellaNavigator11}}(Felis{{R|iaucsn}})」という固有名が認証されている{{efn2|ラランドがねこ座星は複数あったが、IAUの恒星の命に関するワーキンググループ (WGSN) それの中からなぜこの星を選んだのか、理由は明らかにさていない。}}
* [[HAT-P-42]]:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」で[[ギリシャ共和国]]に命名権が与えられ、主星はLerna、太陽系外惑星はIolausと命名された{{R|approved}}。
* [[HAT-P-42]]:太陽系から約1,350 光年の距離にある、見かけの明るさ12.17 等の12等星{{R|simbad_HAT-P-42}}。IAUの100周年記念行事「[[NameExoWorlds|IAU100 NameExoWorlds]]」で[[ギリシャ共和国]]に命名権が与えられ、主星は '''Lerna'''、太陽系外惑星は '''Iolaus''' と命名された{{R|approved2019}}。
* [[WASP-166]]:太陽系から約373 光年の距離にある、見かけの明るさ9.35 等、スペクトル型 F9V のF型主系列星で、9等星{{R|simbad_WASP166}}。[[2022年]]から[[2023年]]にかけてIAUが実施したキャンペーン「NameExoWorlds 2022」で[[スペイン]]のグループからの提案が採用され、主星は '''Filetdor'''、太陽系外惑星は '''Catalineta''' とそれぞれ命名された{{R|approved2022}}。

に以下の恒星が知られている。
ほかに以下の恒星が知られている。
* [[うみへび座ガンマ星|&gamma;星]]:太陽系から約128 光年の距離にある、見かけの明るさ3.00 等、スペクトル型 G8IIIa の黄色巨星で、3等星{{R|simbad_gamma}}。うみへび座で2番目に明るく見える恒星で、尾部に位置している。[[2016年]]には、{{Val|0.61|0.12|0.14|ul=Solar mass}}の伴星Bの存在を示す研究結果が発表された{{R|Ryu2016}}。
* [[うみへび座ガンマ星|&gamma;星]]:うみへび座の尾部に輝く3等星。
* [[うみへび座ゼータ星|&zeta;星]]:うみへび座の頭部3等星。
* [[うみへび座ゼータ星|&zeta;星]]:太陽系から約153 光年の距離にある、見かけの明るさ3.10 等、スペクトル型 G8.5III の黄色巨星で、3等星{{R|simbad_zeta}}。うみへび座で3番目明る見える恒で、頭部に位置している
* [[うみへび座ニュー星|&nu;星]]:太陽系から約137 光年の距離にある、見かけの明るさ3.11 等、スペクトル型 K1.5IIIHdel-0.5 の赤色巨星で、3等星{{R|simbad_nu}}。うみへび座で4番目に明るく見える恒星。
* [[うみへび座ニュー星|&nu;星]]:3等星。
* [[うみへび座パイ星|&pi;星]]:太陽系から約106 光年の距離にある、見かけの明るさ3.28 等、スペクトル型 K2-IIIFe-0.5 の赤色巨星で、3等星{{R|simbad_pi}}。
* [[うみへび座R星|R星]]:[[ミラ型変光星]]。
* [[うみへび座C星|C星]]:太陽系から約129 光年の距離にある、見かけの明るさ3.90 等、スペクトル型 A0Va の[[A型主系列星]]で4等星{{R|simbad_30Mon}}。C という[[ラテン文字]]の符号が振られているが、これは[[バイエル符号]]ではなく、[[1879年]]にアメリカ生まれの天文学者[[ベンジャミン・グールド]]が刊行した星表『Uranometria Argentina』で振られたものである{{R|Gould1879}}。[[いっかくじゅう座]]との境界近くにあり、かつて「いっかくじゅう座30番星 (30 Monocerotis, 30 Mon)」とされていたことから、[[SIMBAD]]では 30 Mon として登録されている{{R|simbad_30Mon}}。波長毎の明るさに大きな差がないことから、[[1953年]]に[[ハロルド・レスター・ジョンソン|ジョンソン]]と[[ウィリアム・ウィルソン・モーガン|モーガン]]が考案し、IAUに採用された「[[ジョンソンのUBVシステム|ジョンソンUBVシステム]]」において、U等級・B等級の基準となる6個の恒星の1つに選ばれた{{R|std_system|JohnsonMorgan1953}}{{efn2|UBVシステムにおいてV等級の原点は、北極標準星野にある国際式標準星の[[写真等級|写真実視等級]]をV等級と同一とみなすことで定義され、U等級とB等級の原点は、A0Vのスペクトルを持つ、[[ベガ|こと座&alpha;星(ベガ)]]、[[おおぐま座ガンマ星|おおぐま座&gamma;星]]、[[おとめ座109番星]]、[[かんむり座アルファ星|かんむり座&alpha;星]]、[[へびつかい座ガンマ星|へびつかい座&gamma;星]]、そしてうみへび座C星 (HR 3314) の6つの星の平均の U-B、B-Vを0とすることで(すなわち U&#61;B&#61;V とすることで)定められた{{R|JohnsonMorgan1953}}。}}。
* [[うみへび座V星|V星]]:SRA型の[[半規則型変光星]]。
* [[うみへび座R星|R星]]:太陽系から約484 光年の距離にある、見かけの明るさ4.97 等、スペクトル型 M6-9e の赤色巨星{{R|simbad_R}}。[[ミラ型変光星]]に分類される[[脈動変光星]]で、388.87 日の周期で3.5 等から10.9 等の範囲で明るさを変える{{R|GCVS_R}}。周期的に変光することが確認された1700年頃は495日とされていた変光周期が年を経る毎に短くなっていることで知られている{{R|AstroArts20230113}}。
* [[うみへび座W星|W星]]:ミラ型変光星。
* [[うみへび座V星|V星]]:太陽系から約1,412 光年の距離にある、見かけの明るさ6.80 等、スペクトル型 C-N:6 の赤色巨星{{R|simbad_V}}。[[半規則型変光星]] (SRA) またはミラ型変光星に分類される脈動変光星で、530.7 日の周期で10.9 等から16.0 等の範囲で明るさを変える{{R|GCVS_V}}。中小質量星が恒星進化の終末期に辿り着く[[漸近巨星分枝]] (asymptotic giant branch, AGB) の段階にあるとされ、その分光スペクトルに炭素に関連する分子の吸収線が顕著に見られる[[炭素星]]に分類されている{{R|Sahai2016}}。およそ8.5年の周期で放出される複数の高温プラズマの塊が検出されており、未発見の伴星によるものであるという仮説が提唱されている{{R|Sahai2016}}。
* [[うみへび座TW星|TW星]]:[[おうし座T型星]]。
* [[うみへび座TW星|TW星]]:太陽系から約196 光年の距離にある、見かけの明るさ10.50 等、スペクトル型 K6Ve の[[おうし座T型星]]で、11等星{{R|simbad_TW}}。年齢は900万±100万歳、{{Val|0.7|0.1|ul=solar mass}}([[太陽質量]])の若い[[前主系列星]]で{{R|Setiawan2008}}、このタイプの星としては太陽系の最も近くにあるものの1つ{{R|Tsukagoshi2019|ALMA20190626}}。早くから[[原始惑星系円盤]]が存在することが知られており、太陽系の近くにあり、かつ[[太陽]]に近い質量を持つ恒星であることから、太陽系の起源を知る手掛かりとなる天体として観測されてきた{{R|ALMA20190626}}。[[2007年]]に主星から0.041[[天文単位]] (au) の公転軌道を回る1.2[[木星質量]]の惑星の存在を示唆する研究結果が公表された{{R|Setiawan2008}}。[[アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計|アルマ望遠鏡]]による電波観測が始まると、[[2013年]]に史上初めて[[一酸化炭素]]の[[雪線 (天文学)|スノーライン]]が{{R|ALMA20130719}}、[[2016年]]には原始惑星系円盤中の2本のギャップ構造{{R|ALMA20160331}}が相次いで発見された。[[2019年]]には、形成されつつある[[海王星]]サイズの惑星を取り巻く[[周惑星円盤]]、または惑星になる可能性のある構造のいずれかを発見したとする研究が発表された{{R|Tsukagoshi2019|ALMA20190626}}。
* [[SDSS J090745.0+024507]]:[[天の川銀河]]からの[[脱出速度]]の2倍に達する速度で移動する、Hyper velocity star(超高速度星)の1つ。
* うみへび座V361星:見かけの明るさ15.258 等{{R|simbad_V361}}、スペクトル型 sdB{{sub|r}}{{R|Kilkenny2010}}の[[B型準矮星]]を含む連星系で、15等星{{R|simbad_V361}}。スペクトル分類の sd は[[準矮星]]であること、{{sub|r}} は高速で脈動していることを示している{{R|Kilkenny2010}}。[[1997年]]に南天の高温天体サーベイで偶然発見された{{R|Kilkenny1997}}。144 [[秒]]と134 秒という短い周期で1000分の12 等級未満の振幅で変光しており{{R|Kilkenny1997}}、[[変光星総合カタログ]] (General Catalogue of Variable Stars, GCVS) では新たに RPHS (Very rapidly pulsating hot (subdwarf B) stars) という脈動変光星のグループを設けて、そのプロトタイプとしている{{R|GCVS}}。
* [[HE 1327-2326]]:最も[[金属量]]の少ない恒星。
* [[HE 1327-2326]]:太陽系から約3,466 光年の距離にある、見かけの明るさ13.55 等、スペクトル型 CEMP-no の[[化学特異星]]で、14等星{{R|simbad_HE1327-2326}}。スペクトル分類の CEMP-no は、化学特異星の中でも[[金属量]]の低いグループの1つ「[[炭素過剰金属欠乏星]] (Carbon enhanced metal poor star, '''CEMP''') に分類され、その中でもs過程や[[r過程]]といった中性子捕獲過程由来の元素がほとんどない星であることを示している{{R|Aoki2007}}。金属量は&#91;Fe/H&#93;=-5.71と太陽の50万分の1未満しかなく、[[2005年]]に発見された当時は、既知の恒星で最も金属量が低い恒星とされた{{R|Brainard2014}}。
* [[SDSS J090745.0+024507]]:見かけの明るさ19.84 等の[[B型主系列星]]と思われる恒星で、20等星{{R|simbad_HV1}}。2005年に発見された超高速度星 ({{Lang-en-short|Hyper velocity star}}) で、[[天の川銀河]]からの[[脱出速度]]の2倍に達する速度で運動している{{R|Brown2005}}。2006年には高精度測光観測により変光していることが確認されている{{R|Fuentes2006}}。


=== 星団・星雲・銀河 ===
=== 星団・星雲・銀河 ===
[[18世紀]][[フランス]]の天文学者[[シャルル・メシエ]]が編纂した『[[メシエカタログ]]』に挙げられた天体、いわゆる[[メシエ天体]]が3つ位置している{{R|SEDS_Messier}}。また、{{仮リンク|パトリック・ムーア (天文学者)|label=パトリック・ムーア|en|Patrick Moore}}がアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだ「[[カルドウェルカタログ|コールドウェルカタログ]]」に選ばれた天体が2つ位置している{{R|SEDS_Caldwell}}。[[うみへび座銀河団]]という[[銀河団]]がある。
[[File:NGC 4993 and GRB170817A after glow.gif|thumb|left|楕円銀河NGC 4993と連星中性子星合体によるガンマ線バーストGRB170817A。]]
* [[M48 (天体)|M48]]:太陽系から約2,500 光年の距離にある[[散開星団]]{{R|simbad_M48}}。[[1771年]]にメシエが発見してカタログに記載していたが、メシエがその位置を誤って記録したため、[[1934年]]に[[ウィーン]]のウラニア天文台台長{{仮リンク|オスヴァルト・トマス|en|Oswald Thomas}}が散開星団NGC 2548であると同定するまで行方不明の天体となっていた{{R|SEDS_M48}}。星団の年齢は4億2000万歳と、[[プレヤデス星団]](1億2000万歳)より古く、[[ヒアデス星団]]や[[プレセペ星団]](6億5000万歳)より新しい星団であると見積もられている{{R|Sun2023}}。
* [[M48 (天体)|M48]]:[[散開星団]]。
* [[M68 (天体)|M68]]:[[球状星団]]。
* [[M68 (天体)|M68]]:太陽系から約33,000光年の距離にある[[球状星団]]{{R|simbad_M68}}。[[1780年]]4月9日にメシエが発見した{{R|SEDS_M68}}
* [[M83 (天体)|M83]]:[[天の川銀河]]から約1460万 光年の距離にある[[棒渦巻銀河]]{{R|simbad_M83}}。[[1752年]]にフランスの天文学者[[ニコラ=ルイ・ド・ラカーユ|ニコラ=ルイ・ド・ラカイユ]]が発見した{{R|SEDS_M83}}。[[地球]]から見て[[銀河円盤]]をほぼ垂直方向から見ることができる「フェイスオン銀河」で、その姿を[[おおぐま座]]の[[M101 (天体)|M101]]回転花火銀河になぞらえて「'''南の回転花火銀河'''{{R|AstroArts20091112}} ({{Lang-en-short|Southern Pinwheel Galaxy}}{{R|simbad_M83}})」と呼ばれることもある。
* NGC 3242([[木星状星雲]]):[[惑星状星雲]]。
* [[木星状星雲|NGC 3242]]:太陽系から約3,610 光年の距離にある[[惑星状星雲]]。コールドウェルカタログの59番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。[[1785年]]2月7日に[[ウィリアム・ハーシェル]]が発見した{{R|SEDS_NGC3242}}。木星と同じくらいの[[視直径]]があることから「'''木星状星雲''' (Jupiter's Ghost, Ghost of Jupiter{{R|simbad_NGC3242}})」と呼ばれている{{R|SEDS_NGC3242}}。また、大口径の望遠鏡で観測したときの外見が[[アメリカ合衆国]]のテレビ・ラジオネットワークの[[CBS]]の[[ロゴマーク]]と似ていることから '''CBS Eye''' という愛称で呼ばれることもある{{R|SEDS_NGC3242|Mobberley2009}}。
* [[M83 (天体)|M83]](南の回転花火銀河):[[渦巻銀河]]。
* [[NGC 5694]]:太陽系から約11万4000光年の距離にある球状星団{{R|simbad_NGC5694}}。コールドウェルカタログの66番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。[[r過程]]・[[s過程]]の[[元素]]を著しく欠く化学組成から、[[局所銀河群]]内の他の銀河で形成されたのちに天の川銀河に捕獲されたものと考えられている{{R|Mucciarelli2013}}。
* [[NGC 4993]]:[[楕円銀河]]。連星[[中性子星]]合体に由来する重力波として史上初めて観測された[[GW170817]]の母銀河。
* NGC 4993:天の川銀河から約1億2900万 光年の距離にある[[レンズ状銀河]]{{R|simbad_NGC4993}}。[[セイファート銀河|2型セイファート銀河]]に分類される[[活動銀河]]でもある{{R|simbad_NGC4993}}。[[2017年]]8月17日、連星[[中性子星]]合体に由来する[[重力波 (相対論)|重力波]]として史上初めて観測された突発現象[[GW170817]]の母銀河。
なお、うみへび座には、[[うみへび座銀河団]]という[[銀河団]]がある。
** GW170817:2017年8月17日12時39分 (UTC) から41分にかけて観測された重力波{{R|Nikkei-Science201801}}。まず[[ワシントン州]][[ハンフォード・サイト]]の[[重力波検出器]][[LIGO|LIGOハンフォード]]で信号が捉えられ、信号が途絶えた1.7秒後には[[フェルミガンマ線宇宙望遠鏡]]で[[ガンマ線バースト]]が検出された{{R|Nikkei-Science201801}}。同時期に稼働していた重力波検出器LIGOリビングストンや[[イタリア]]の[[Virgo]]でも検出が確認され、重力波検出から5時間後にはうみへび座の尾の方向約1億数千万光年から放射された重力波であったことが世界各地の観測施設に速報された{{R|Nikkei-Science201801}}。重力波検出から約11時間後には[[チリ]]の[[ラスカンパナス天文台]]からNGC 4993の外縁部で未知の新天体の発見が報告された{{R|Nikkei-Science201801}}。その後世界中の観測施設による24時間態勢の多波長観測の結果、この突発現象の正体が連星を成す2つの中性子星が合体して生じた「[[キロノヴァ]]」と呼ばれる現象であったことが判明した{{R|Nikkei-Science201801}}。
* [[うみへび座銀河団]]:天の川銀河から約1億3400万 光年の距離にある[[銀河団]]。天の川銀河が属する[[超銀河団]]「[[おとめ座超銀河団]]」から最も近くに位置する超銀河団「[[うみへび座・ケンタウルス座超銀河団|うみへび-ケンタウルス超銀河団]]」の一部である。中心には巨大な楕円銀河{{仮リンク|NGC 3311|en|NGC 3311}}が位置する。
* うみへび座A:天の川銀河から8億4000万 光年の距離にある銀河団{{R|Chandra19991209|AstroArts19991209}}。強力な電波源として知られる{{R|AstroArts19991209}}。
{{Gallery
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| 20190626 TWHya inset E.png | [[2019年]]にアルマ望遠鏡が撮像した[[うみへび座TW星]]。点対称な形状を描く[[原始惑星系円盤]]中の右下に[[木星]]サイズの電波源が写されている。
| M48 Mazur.jpg | [[2012年]]2月にアメリカのアマチュア天文家 Jim Mazur が撮影した[[散開星団]][[M48 (天体)|M48]]。
| A Ten Billion Year Stellar Dance.jpg | 2012年に[[ハッブル宇宙望遠鏡]]の[[掃天観測用高性能カメラ]] (Advanced Camera for Survey, ACS) で撮像された[[球状星団]][[M68 (天体)|M68]]。
| M83 - Southern Pinwheel.jpg | [[チリ]]にある[[ヨーロッパ南天天文台]] (ESO) [[ラ・シヤ天文台]]の広視野イメージャーで撮像された[[棒渦巻銀河]][[M83 (天体)|M83]]。その姿から「'''南の回転花火銀河''' ({{Lang-en-short|Southern Pinwheel Galaxy}})」と呼ばれている。
| Caldwell 59.jpg | ハッブル宇宙望遠鏡の[[広視野惑星カメラ2]] (WFPC2) で撮像された[[惑星状星雲]][[木星状星雲|NGC 3242]]。その外観から'''木星状星雲''' ({{Lang-en-short|Jupiter's Ghost, Ghost of Jupiter}}) や '''CBS Eye''' の通称で知られる。
| Caldwell 66 (50378832176).jpg | ハッブル宇宙望遠鏡の WFPC2 で撮像された球状星団[[NGC 5694]]。
| NGC 4993 and GRB170817A after glow.gif|楕円銀河NGC 4993と、連星中性子星合体によって生じた[[キロノヴァ]](枠内)。このイベントで生じた重力波[[GW170817]]が重力波検出器LIGOやVirgoで観測され、ガンマ線から電波までのあらゆる電磁波の波長で追観測がなされた。
| Hydra I galaxy cluster.jpg | Legacy Surveys で撮像された[[うみへび座銀河団]]。
}}

== 流星群 ==
うみへび座の名前を冠した[[流星群]]のうち、IAUの流星データセンター (IAU Meteor Data Center) で確定された流星群 (Established meteor showers) とされているのは、うみへび座&alpha;流星群 (alpha Hydrids, AHY)、うみへび座&omicron;流星群 (omicron Hydrids, OHY)、うみへび座&eta;流星群 (eta Hydrids, EHY)、[[うみへび座σ流星群|うみへび座&sigma;流星群]] (sigma Hydrids, HYD) の4つである{{R|NAOJ_meteor}}。2023年に日本の西村栄男が発見した長周期彗星 C/2023 P1 は、軌道要素がうみへび座&sigma;群と似通っていることから、うみへび座&sigma;群の[[母天体]]である可能性が示唆されている{{R|CBET5285}}。

== 由来と歴史 ==
うみへび座は、[[紀元前4世紀]]の古代ギリシアの天文学者[[エウドクソス|クニドスのエウドクソス]]の著書『パイノメナ ({{Lang-grc-short|Φαινόμενα}})』に記された星座のリストに既にその名前が上がっていたとされ、エウドクソスの著述を元に詩作されたとされる[[紀元前3世紀]]前半の[[マケドニア]]の詩人[[アラトス|アラートス]]の詩篇『パイノメナ ({{Lang-grc-short|Φαινόμενα}})』では '''Ὕδρη''' (Hydra) という名称で登場する{{R|PDL_Aratus}}。アラートスは、[[かに座]]の南に頭部を起き、[[しし座]]の南を通って[[ケンタウルス座]]の北に至る、現代のうみへび座とほぼ変わらない蛇の姿を記述している{{R|PDL_Aratus|Ito2007}}。アラートスの『パイノメナ』や[[1世紀]]初頭の[[古代ローマ]]の著作家[[ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌス]]の『天文詩 ({{Lang-la-short|De Astronomica}})』では、女性名詞の Ὕδρη (Hydra) とされたが、紀元前3世紀後半の天文学者[[エラトステネス|エラトステネース]]の天文書『[[カタステリスモイ]] ({{Lang-grc-short|Καταστερισμοί}})』や、[[帝政ローマ]]期[[2世紀]]頃の[[クラウディオス・プトレマイオス]]の天文書『ヘー・メガレー・スュンタクスィス・テース・アストロノミアース ({{Lang-grc-short|ἡ Μεγάλη Σύνταξις τῆς Ἀστρονομίας}})』、いわゆる『[[アルマゲスト]]』では、男性名詞の '''Ὕδρος''' (Hydros) という名称が使われた{{R|Ridpath}}。

うみへび座のモチーフとなった事物について、現代では勇者[[ヘーラクレース]]の12の功業の2番目として彼に倒されたレルネーの沼に住む怪物[[ヒュドラー]]が挙げられることが多い{{R|Ridpath|Nojiri1977|Kusaka1969|Hayamizu2023}}{{Sfn|原恵|2007|pp=96-98}}が、エラトステネースの『カタステリスモイ』やヒュギーヌスの『天文詩』など星座の起源と伝承を記した古代ギリシア・ローマ時代の文献では、'''怪物ヒュドラーとうみへび座を結び付ける伝承は全く言及されていない'''{{R|Hard2015}}。実際、『カタステリスモイ』や『天文詩』のうみへび座の項では、怪物ヒュドラーについては全く語られず、アポローンとカラスにまつわる伝承に登場するミズヘビだけが星座の起源として語られている{{R|Condos1997|Hard2015}}{{efn2|ヘーラクレースの第2の功業については[[かに座]]の伝承で触れられているが、うみへび座と伝承の毒蛇の関係については特に語られていない。}}。このように怪物ヒュドラーとうみへび座を結び付ける考えが支持されなかった理由として、ギリシア・ローマの古典の現代語訳で知られる Robin Hard は、多頭の毒蛇として伝承で語られるヒュドラーの姿と星座の長細い姿が大きく異なっていることが原因ではないかとしている{{R|Hard2015}}。

アラートスの『パイノメナ』に付けられた{{仮リンク|欄外古註|en|Scholia}}には、うみへび座の起源についてエラトステネースらとは異なる2つの説が記されていた{{R|Hard2015}}。1つはヘーラクレースの第2の功業で倒されたヒュドラーと見なす説、もう1つはうみへび座を[[ナイル川]]の流れと見なす説である{{R|Hard2015}}。後者の説では、うみへび座の各部が季節ごとに異なるナイル川の水位を表すものであるとされた{{R|Hard2015}}。
[[File:Hydra Uranometria.jpg|thumb|360px|ヨハン・バイエル『ウラノメトリア』(1603) に描かれたうみへび座 (Hydra)。]]
うみへび座に属する星の数は、エラトステネースの『カタステリスモイ』、ヒュギーヌスの『天文詩』、プトレマイオスの『アルマゲスト』のいずれでも27個とされた{{R|Condos1997}}。大きく時代を下った[[17世紀]]初頭の[[ドイツ]]の[[法律家]][[ヨハン・バイエル]]は、[[1603年]]に刊行した星図『[[ウラノメトリア]]』で、&alpha; から &omega; までの[[ギリシャ文字]]24文字とAとbの[[ラテン文字]]2文字の計26文字を用いてうみへび座の星に符号を付した{{R|Bayer1603a|Bayer1603b|Bayer1603c}}。このうち b は、[[コップ座]]で &alpha;・&beta; とされた2つの星を指しており、コップ座とうみへび座の両方に属する星とされている{{R|Bayer1603a}}。

[[1922年]]5月に[[ローマ]]で開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は '''Hydra'''、略称は '''Hya''' と正式に定められた{{R|IAU_list}}。{{-}}

=== 廃止された星座 ===
[[File:Sidney Hall - Urania's Mirror - Noctua, Corvus, Crater, Sextans Uraniæ, Hydra, Felis, Lupus, Centaurus, Antlia Pneumatica, Argo Navis, and Pyxis Nautica.jpg|thumb|360px|19世紀イギリスの星座カード集『[[ウラニアの鏡]]』に描かれたうみへび座。[[アレクサンダー・ジェイミソン]]の考案した[[ふくろう座]] (Noctua) と[[ジェローム・ラランド]]の考案した[[ねこ座]] (Felis) も描かれている。]]
[[18世紀]]後半から[[19世紀]]にかけて、うみへび座とその周辺の星座に使われていない星を用いて新たな星座を設けようとするいくつかの試みが成された。フランスの天文学者[[ピエール・シャルル・ルモニエ|ピエール=シャルル・ル・モニエ]]は、[[1776年]]の[[科学アカデミー (フランス)|フランス王立科学アカデミー]]の紀要の中で、[[ロドリゲスドードー]] ({{Lang-en-short|Rodrigues solitaire}},{{Lang-la-short|Pezophaps solitaria}}) モチーフとした星座 '''Solitaire''' を設けた{{R|Ridpath_Solitaire}}{{Sfn|Barentine|2015|pp=449-464}}。これは、[[1761年]]に[[インド洋]]の[[ロドリゲス島]]で[[金星の太陽面通過]]を観測したフランスの天文学者[[アレクサンドル・パングレ]]の業績を称えるために「[[東インド諸島|インド諸島]]や[[フィリピン諸島]]の鳥」をモチーフとするもので、うみへび座の尾の部分にある&pi;星から東側の星と[[てんびん座シグマ星|てんびん座&sigma;星]]を含む[[てんびん座]]の南西部の星を用いて設けられたものであった{{R|Ridpath_Solitaire}}{{Sfn|Barentine|2015|pp=449-464}}。しかし、星図には誤って「フィリピンのツグミ」とも呼ばれた[[イソヒヨドリ]] (Monticola solitarius) に似た星座絵が描かれてしまった。そして、その姿が18世紀末の{{仮リンク|ジャン・ニコラ・フォルタン|en|Jean Nicolas Fortin}}や[[ドイツ]]の[[ヨハン・ボーデ]]の星図に引き継がれ、[[つぐみ座|ツグミの星座]]として広まってしまった{{R|Ridpath_Solitaire}}{{Sfn|Barentine|2015|pp=449-464}}。さらに、[[イギリス]]の物理学者[[トマス・ヤング]]が[[1807年]]に刊行した『自然哲学及び機械技術に関する講義 (A Course of Lectures on Natural Philosophy and the Mechanical Arts)』の中でこの鳥の星座を[[キツツキ]]の星座 '''Mocking bird''' へと改変、また[[スコットランド]]生まれの教育者[[アレクサンダー・ジェイミソン]]が[[1822年]]に刊行した『ジェミーソン星図 (Celestial Atlas)』の中でこの星座を[[フクロウ]]の星座 '''Noctua''' へと改変するなど、19世紀に入ってからもこの領域に鳥の星座を置く試みは続けられた{{Sfn|Barentine|2015|pp=449-464}}。しかし、19世紀中頃にはこれらの鳥の星座は使われなくなり、現代の88星座の選からも外れている{{Sfn|Barentine|2015|pp=449-464}}。

[[1799年]]にフランスの天文学者ジェローム・ラランドが考案した[[ネコ]]の星座 '''Felis''' は、うみへび座&upsilon;星の南側にある星を使って作られたものであった{{R|Ridpath_Felis}}{{Sfn|Barentine|2015|pp=139-152}}。ボーデの星図『ウラノグラフィア』にも描かれた Felis は、19世紀を通じて一定の支持を集めていたが、19世紀末にはほぼ姿を消し、現代の88星座に選ばれることもなかった{{Sfn|Barentine|2015|pp=139-152}}。ただ、つぐみ座が跡形もなく姿を消したのに対して、ねこ座は HD 85951 の固有名'''フェリス (Felis)'''にわずかにその痕跡を遺している。

=== 中東 ===
[[紀元前500年]]頃に製作された天文に関する粘土板文書『{{仮リンク|ムル・アピン|en|MUL.APIN}} (MUL.APIN)』に描かれた[[バビロニア|古代バビロニア]]の蛇の星座 '''MUL.DINGIR MUŠ''' は、その位置や方向がギリシャの Hydra と似通っていた{{R|White2014}}。ただし、Hydra が竜頭蛇身の姿をしていたのに対して、MUL.DINGIR.MUŠ は角を持ち翼と1対の前脚を持つ姿で描かれることが多かったとされる{{R|White2014}}。

=== 中国 ===
ドイツ人宣教師{{仮リンク|イグナーツ・ケーグラー|en|Ignaz Kögler}}(戴進賢)らが編纂し、[[清|清朝]][[乾隆帝]]治世の[[1752年]]に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、うみへび座の星は、[[二十八宿]]の[[青龍|東方青龍]]七宿の第一宿「[[角宿]]」、第ニ宿「[[亢宿]]」、第三宿「[[氐宿]]」[[朱雀|南方朱雀]]七宿の第ニ宿「[[鬼宿]]」、第三宿「[[柳宿]]」、第四宿「[[星宿]]」、第五宿「[[張宿]]」、第六宿「[[翼宿]]」、第七宿「[[軫宿]]」に配されていたとされる{{Sfn|伊世同|1981|pp=140-141}}{{R|Osaki1987_1}}。

角宿では、&gamma;・&pi; の2星が星官「平」に配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=140-141}}{{R|Osaki1987_1}}。亢宿では、50番星がてんびん座の2星とともに斬刑を司る星官「折威」に配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=140-141}}{{R|Osaki1987_1}}。氐宿では、58・60 の2星が[[チャリオット#中国|戦車]]を表す星官「陣車」に配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=140-141}}{{R|Osaki1987_1}}。

鬼宿では、2・f・14の3星と不明の3星の計6星が外賓向けの料理を作る厨房を表す星官「外厨」に配された。柳宿では、柳を表す星官「柳」に&delta;・&sigma;・&eta;・&rho;・&epsilon;・&zeta;・&omega;・&theta; の8星が配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=140-141}}{{R|Osaki1987_1}}。星宿では、&alpha;・&tau;{{sup|1}}・&tau;{{sup|2}}・&iota;・27・26・HD 82428 の7星が星官「星」に配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=140-141}}{{R|Osaki1987_1}}。張宿では、&upsilon;{{sup|1}}・&lambda;・&mu;・HD 87808・&kappa;・&phi; の6星が星官「張」に配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=140-141}}{{R|Osaki1987_1}}。翼宿では、&nu;・&chi;{{sup|1}} の2星がコップ座の星とともに星官「翼」に配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=140-141}}{{R|Osaki1987_1}}。軫宿では、&beta;・HD 103596・HD 100287・HD 100393・&xi;・HD 100623・&omicron; の7星が星官「青邱」に配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=140-141}}{{R|Osaki1987_1}}。


=== その他 ===
* うみへび座A:電波源。{{-}}
== 神話 ==
== 神話 ==
{{See also|ヘーラクレース|ヒュドラー|からす座|コップ座}}
[[File:Sidney Hall - Urania's Mirror - Noctua, Corvus, Crater, Sextans Uraniæ, Hydra, Felis, Lupus, Centaurus, Antlia Pneumatica, Argo Navis, and Pyxis Nautica.jpg|thumb|240px|19世紀イギリスの星座カード集『[[ウラニアの鏡]]』に描かれたうみへび座。]]
エラトステネースやヒュギーヌスは、[[アポローン]]と彼に仕える[[カラス]]にまつわる以下のような話を伝えている{{R|Ridpath|Condos1997|Hard2015}}。アポローンは、捧げ物に使う水を泉から汲んでくるようにカラスに命じた。泉に着いたカラスは、そのほとりにある[[イチジク]]の木にまだ熟していない実が生っていることに気付き、実が熟すまで待つこととした。時が過ぎて熟れたイチジクの実を食べたカラスは、自分が過ちを犯したことに気付いた。そこでカラスは、泉にいたミズヘビを捕まえて水を湛えた杯と一緒にアポローンの下へ運び去った。カラスは「このヘビが毎日湧き出る水を飲み干したせいで、水を汲めなかった」と言い逃れしようと目論んだが、全てお見通しのアポローンはカラスに長い間渇きに苦しむように罰を与えた。そしてアポローンは、カラスが神々に対して犯した罪が忘れられないように、ミズヘビ、カラス、杯を星々の中に表し、杯から水を飲むことも杯に近づくこともできない位置にカラスを置いた{{R|Condos1997|Hard2015}}。この伝承では、カラスは[[からす座]]の、杯は[[コップ座]]の起源を表している{{R|Condos1997|Hard2015}}。
勇者[[ヘーラクレース]]([[ヘルクレス座]])の12の冒険のうち、2番目がこの怪物[[ヒュドラー]]退治であった。この怪物は、9つの首を持ち、そのうちの1つは不死であった。また首を切ればすぐに新しい首が2つ生えてくるため、ヘーラクレースは苦戦した。彼は従者の[[イオラーオス]]を呼び、切り口に火を当てて焼き、新しい首が生えないようにした。そして、不死の首は大きな岩の下敷きにしてようやく退治した{{R|Ridpath}}。


== 呼称と方言 ==
== 呼称と方言 ==
世界で共通して使用されるラテン語の学名は '''Hydra'''、日本語の学術用語としては「'''うみへび'''」とそれぞれ正式に定められている{{Sfn|学術用語集:天文学編(増訂版)|1994|pp=305-306}}。現代の中国では、'''长蛇座'''{{Sfn|伊世同|1981|p=131}}(長蛇座{{R|Osaki1987_2}})と呼ばれている。
[[日本天文学会]]の会誌『[[天文月報]]』の1910年(明治43年)2月号の記事「星座名」では既に「海蛇」と訳が充てられており{{R|AH191002}}、『[[理科年表]]』でも1922年の初版から継続して「海蛇(うみへび)」という呼称が使われている{{R|Rika_1922}}。初期のころは、[[野尻抱影]]のように「かいだ」と音読みをした例もある{{R|Nojiri1931}}。


うみへび座 (Hydra) と[[みずへび座]] (Hydrus) はどちらもミズヘビを意味するラテン語の学名が付けられており、Hydraは女性形、Hydrusは男性形の名詞である。そのため、IAUはうみへび座のモチーフを「雌のミズヘビ (The Female Water Snake)」、みずへび座のモチーフを「雄のミズヘビ (The Male Water Snake)」としている{{R|IAU_constellations}}。しかし、「みずへび座の考案から1世紀半経ってから雌雄が付けられたものであり、この数世紀の文献では一般的なものではなかった」として、うみへび座を「The Water Snake」、みずへび座を「The Lesser Water Snake」と変更する提案が恒星の命名に関するワーキンググループ (WGSN) から提出されている{{R|Ann2022-2023}}。
この訳語に対しては、京都大学系の研究者から反発があった{{R|Hara}}。1934年、[[山本一清]]は[[東亜天文学会]]の会誌『[[天界]]』第161号に「天文用語に關する私見と主張 (3)」と題した記事を寄稿し、Hydraはギリシャ神話に登場する怪物であって海蛇ではないとして「ヒドラ」と呼ぶべき、と主張した{{R|Yamamoto1934}}。山本のこの主張を受けて、翌1935年には野尻抱影も、オーストラリアの教育者 Percy Ansell Robin の1932年の著書 ''Animal Lore in English Literature'' に書かれた「Hydraは神話上の怪物、hydrusは一般の蛇も指す言葉であった」とする説を引き、「Hydraは「ヒドラ」、Hydrusは「水蛇」とすべき」と主張した{{R|Nojiri1935}}。しかし、その後数度行われた星座名の改訂でも彼らの主張は容れられず、現在も Hydraに対しては「うみへび」という訳が充てられている。


明治初期の[[1874年]](明治7年)に[[文部省]]より出版された[[関藤成緒]]の天文書『星学捷径』で「'''ハイドラ'''」という読みと「'''水中ニ居ル蛇'''」という解説が紹介された{{R|Sekito1874}}。また、[[1879年]](明治12年)に[[ノーマン・ロッキャー]]の著書『Elements of Astronomy』を訳して刊行された『洛氏天文学』では、上巻の星座の一覧で「'''ハイドラ'''」というラテン語読みと「'''ス子ーキ'''」という英語読みが紹介され{{R|Rakushi}}、下巻で「'''南蛇宿'''」と記述された{{R|Rakushi_last}}。これは、「北蛇宿」とされた[[へび座]]とともに2つのヘビの星座を南北に呼び分けたものであった{{R|Hayamizu2023}}。これらから30年ほど時代を下った明治後期には「'''海蛇'''」と呼ばれていたことが、[[1908年]](明治41年)4月に創刊された[[日本天文学会]]の会報『天文月報』の第1巻1号に掲載された「四月の天」と題した記事で確認できる{{R|AH190804}}。この訳名は、[[東京天文台]]の編集により[[1925年]](大正14年)に初版が刊行された『[[理科年表]]』にも「'''海蛇(うみへび)'''」として引き継がれた{{R|Rika_1925}}。ただし[[野尻抱影]]のようにこれを「'''かいだ'''」と音読みをした例もある{{R|Nojiri1931}}。
== 出典 ==

{{Reflist|30pm|refs=
この「海蛇」という訳に対しては、京都大学系の研究者から反発があり{{Sfn|原恵|2007|p=44}}、[[東亜天文学会|天文同好会]]{{efn2|現在の[[東亜天文学会]]。}}の[[山本一清]]らは異なる訳語を充てた。天文同好会の編集により[[1928年]](昭和3年)4月に刊行された『[[天文年鑑]]』第1号では、Hydra に対して「'''ヒドラ'''」、南天の Hydrus に対して「うみへび(海蛇)」の訳語を充てた{{R|nenkan1928}}。1931年(昭和6年)刊行の第4号からは Hydrus の訳語を「みづへび(水蛇)」と変更したものの、Hydra の訳語は「ヒドラ」のまま据え置かれ{{R|nenkan1931}}、以降の号でもこの表記が継続して用いられた{{R|nenkan1937}}。これについて山本は、東亜天文学会の会誌『[[天界 (雑誌)|天界]]』1934年8月号の「天文用語に關する私見と主張 (3)」という記事で以下のように主張している{{R|Yamamoto1934}}。{{Quotation|每年の春の天に見える Hydra といふ星座がある.これを獨逸語で Wasserchlange 卽ち「海蛇」叉は水蛇などと譯するのは宜しくない.此の原語や意味は,ギリシヤ神話にあるアルゴ船の遠征物語り中にある怪獸を意味してゐるのであつて,決して單なる動物の一種を表はしてゐるのではない.故に,むしろ,神話的な連想を保持するための立て前から,佛語や英語の譯名に習つて,只「ヒドラ」として置くのが最も穩當であると思はれる.尤も,「ヒドラ」といふ言語の中に,今日の動物學者が取り扱つてゐる水生の虫類を意味するものでないことを,特に注意して置かなければならないが.|[[山本一清]]|『天界』161号}}山本のこの主張を受けて、翌1935年(昭和10年)には野尻抱影も、[[オーストラリア]]の教育者 Percy Ansell Robin の1932年の著書 ''Animal Lore in English Literature'' に書かれた「Hydraは神話上の怪物、hydrusは一般の蛇も指す言葉であった」とする説を引き、「Hydraは「ヒドラ」、Hydrusは「水蛇」とすべき」と主張した{{R|Nojiri1935}}。

しかし、その後数度行われた星座名の改訂でも山本らの主張は容れられなかった。[[1944年]](昭和19年)に天文学用語が見直しされた際も「'''海蛇(うみへび)'''」が継続して使用されることとされ{{R|1944jutsugo}}、[[1952年]](昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」{{Sfn|学術用語集:天文学編(増訂版)|1994|p=316}}とした際に、Hydra の日本語名は「'''うみへび'''」と定められた{{R|AH195210}}。以降は「'''うみへび'''」という表記が継続して用いられている。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}

=== 注釈 ===
{{Notelist2}}

=== 出典 ===
{{Reflist|25em|refs=

<ref name="IAU_constellations">{{Cite web
| title=The Constellations
| publisher=[[国際天文学連合]]
| url=https://www.iau.org/public/constellations/#hya
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| title=Hydra
| website=Star Tales
| url=http://www.ianridpath.com/startales/hydra.html
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<ref name="boundary">{{Cite web
| title=Constellation boundary
| publisher=[[国際天文学連合]]
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<ref name="Yamada2023">{{Cite book | 和書
| author=山田陽志郎
| title=天文年鑑2024年版
| chapter=星座 | date=2023-11-30 | isbn=978-4-416-11545-9 | pages=328-331}}</ref>

<ref name="NAOJ_meteor">{{Cite web | 和書
| title=流星群の和名一覧(極大の日付順)
| website=[[国立天文台]] | date=2023-12-30
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<ref name="Fujii2009">{{Cite book | 和書
| author1=藤井旭 | author2=石川勝也 | author3=川村晶 | author1-link=藤井旭
| editor=藤井旭
| title=天文検定
| publisher=[[河出書房新社]] | date=2009-03-20 | isbn=978-4-309-61605-6 | page=14}}</ref>


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| title=IAU Catalog of Star Names
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| author=ジェー、ノルマン、ロックヤー | authorlink=ノーマン・ロッキャー
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| author=ジェー、ノルマン、ロックヤー | authorlink=ノーマン・ロッキャー
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2024年2月27日 (火) 14:06時点における版

うみへび座
Hydra
Hydra
属格 Hydrae
略符 Hya
発音 [ˈhaɪdrə]、属格:/ˈhaɪdriː/
象徴 水蛇[1][2]
概略位置:赤経  08h 11m 23.7617s -  15h 02m 31.3847s[3]
概略位置:赤緯 +6.6302376° - −-33.6938934°[3]
20時正中 4月下旬[4]
広さ 1302.844平方度[5]1位
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
75
3.0等より明るい恒星数 2
最輝星 α Hya(1.97
メシエ天体 3
確定流星群 うみへび座σ流星群
うみへび座α流星群
うみへび座η流星群
うみへび座ο流星群[6]
隣接する星座 ポンプ座
かに座
こいぬ座
ケンタウルス座
からす座
コップ座
しし座
てんびん座
おおかみ座(角で接する)
いっかくじゅう座
とも座
らしんばん座
ろくぶんぎ座
おとめ座
テンプレートを表示

うみへび座うみへびざ、ラテン語: Hydraは、現代の88星座の1つで、プトレマイオスの48星座の1つ[2]ミズヘビをモチーフとしている[1][2]。約1303平方度と、現代の88星座で最も大きな領域を持つ[5]

特徴

うみへび座の領域は、西端はこいぬ座いっかくじゅう座と、東端はてんびん座と接する、東西差し渡し102.5°に及ぶ細長い形状をしている[2][3]。20時正中は4月下旬頃とされる[4]が、この東西に長い形状のため、西端では3月下旬頃、東端では6月下旬頃となる[7]。角で接するおおかみ座も含めると14個の星座と境界を接しており、これは88星座中最大である[8]。領域の面積1302.844 平方度も88星座中最大[5]で、これは全天の約3.16%に相当する[注 1]

主な天体

恒星

全天で最も大きな星座だが、3.0 等より明るい恒星は2つだけで、市街地でその全容を見ることは難しい。

2024年1月現在、国際天文学連合 (IAU) によって8個の恒星に固有名が認証されている[9]

  • α星見かけの明るさ1.97 等、スペクトル型 K3IIIa の赤色巨星で2等星[10]。うみへび座で最も明るく見える恒星で、唯一の2等星[10]。質量は3.03±0.36 M太陽質量[11]金属量は太陽とほぼ同じである[10][11]が、バリウムなどのs過程中性子捕獲元素が過剰に見られるバリウム星の特徴も見られる[12]。誕生から約4億2000万年が経過しており[11]、中心核のトリプルアルファ反応でエネルギーを生み出していると考えられている[12]アラビア語で「孤独なもの」を意味する言葉に由来する[13]アルファルド[7](Alphard[9])」という固有名が認証されている。
  • ε星:太陽系から約123 光年の距離にある、見かけの明るさ3.38 等の連星系[14]。3.5 等で スペクトル型 G1III の黄色巨星A星と5.6 等でスペクトル型 A8V のA型主系列星B星の連星の周囲を、6.66 等でスペクトル型 F7V のC星と12.5 等のD星が周回する四重星系であるとされる[15]。A星には、2018年6月にIAUの恒星の命名に関するワーキンググループ (WGSN) によって、インド占星術ナクシャトラで第9番目の星宿に由来する「アーシュレーシャー[7](Ashlesha[9])」という固有名が認証されている[9]
  • ι星:太陽系から約253 光年の距離にある、見かけの明るさ3.91 等、スペクトル型 K2.5III の赤色巨星で、4等星[16]。アラビア語で「結び目」を意味する言葉に由来する[17]ウクダー[7] (Ukdah[9])」という固有名が認証されている。
  • σ星:太陽系から約379 光年の距離にある、見かけの明るさ4.43 等、スペクトル型 K1III の赤色巨星で、4等星[18]。「ミンキル[7](Minchir[9])」という固有名が認証されている。
  • υ1:太陽系から約248 光年の距離にある、見かけの明るさ4.11 等、スペクトル型 G7III の黄色巨星で、4等星[19]。中国の二十八宿の1つ「張宿」の星官「張」とされたことに由来する「ジャン[7](張、Zhang[9])」という固有名が認証されている。
  • HD 85951:太陽系から約574 光年の距離にある、見かけの明るさ4.94 等、スペクトル型 K5III の赤色巨星で、5等星[20]1799年頃にパリ天文台台長のジェローム・ラランドが考案した星座「ねこ座 (Felis)」がこの領域にあったことから「フェリス[7](Felis[9])」という固有名が認証されている[注 2]
  • HAT-P-42:太陽系から約1,350 光年の距離にある、見かけの明るさ12.17 等の12等星[21]。IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoWorlds」でギリシャ共和国に命名権が与えられ、主星は Lerna、太陽系外惑星は Iolaus と命名された[22]
  • WASP-166:太陽系から約373 光年の距離にある、見かけの明るさ9.35 等、スペクトル型 F9V のF型主系列星で、9等星[23]2022年から2023年にかけてIAUが実施したキャンペーン「NameExoWorlds 2022」でスペインのグループからの提案が採用され、主星は Filetdor、太陽系外惑星は Catalineta とそれぞれ命名された[24]

このほかに以下の恒星が知られている。

  • γ星:太陽系から約128 光年の距離にある、見かけの明るさ3.00 等、スペクトル型 G8IIIa の黄色巨星で、3等星[25]。うみへび座で2番目に明るく見える恒星で、尾部に位置している。2016年には、0.61+0.12
    −0.14
     M
    の伴星Bの存在を示す研究結果が発表された[26]
  • ζ星:太陽系から約153 光年の距離にある、見かけの明るさ3.10 等、スペクトル型 G8.5III の黄色巨星で、3等星[27]。うみへび座で3番目に明るく見える恒星で、頭部に位置している。
  • ν星:太陽系から約137 光年の距離にある、見かけの明るさ3.11 等、スペクトル型 K1.5IIIHdel-0.5 の赤色巨星で、3等星[28]。うみへび座で4番目に明るく見える恒星。
  • π星:太陽系から約106 光年の距離にある、見かけの明るさ3.28 等、スペクトル型 K2-IIIFe-0.5 の赤色巨星で、3等星[29]
  • C星:太陽系から約129 光年の距離にある、見かけの明るさ3.90 等、スペクトル型 A0Va のA型主系列星で4等星[30]。C というラテン文字の符号が振られているが、これはバイエル符号ではなく、1879年にアメリカ生まれの天文学者ベンジャミン・グールドが刊行した星表『Uranometria Argentina』で振られたものである[31]いっかくじゅう座との境界近くにあり、かつて「いっかくじゅう座30番星 (30 Monocerotis, 30 Mon)」とされていたことから、SIMBADでは 30 Mon として登録されている[30]。波長毎の明るさに大きな差がないことから、1953年ジョンソンモーガンが考案し、IAUに採用された「ジョンソンUBVシステム」において、U等級・B等級の基準となる6個の恒星の1つに選ばれた[32][33][注 3]
  • R星:太陽系から約484 光年の距離にある、見かけの明るさ4.97 等、スペクトル型 M6-9e の赤色巨星[34]ミラ型変光星に分類される脈動変光星で、388.87 日の周期で3.5 等から10.9 等の範囲で明るさを変える[35]。周期的に変光することが確認された1700年頃は495日とされていた変光周期が年を経る毎に短くなっていることで知られている[36]
  • V星:太陽系から約1,412 光年の距離にある、見かけの明るさ6.80 等、スペクトル型 C-N:6 の赤色巨星[37]半規則型変光星 (SRA) またはミラ型変光星に分類される脈動変光星で、530.7 日の周期で10.9 等から16.0 等の範囲で明るさを変える[38]。中小質量星が恒星進化の終末期に辿り着く漸近巨星分枝 (asymptotic giant branch, AGB) の段階にあるとされ、その分光スペクトルに炭素に関連する分子の吸収線が顕著に見られる炭素星に分類されている[39]。およそ8.5年の周期で放出される複数の高温プラズマの塊が検出されており、未発見の伴星によるものであるという仮説が提唱されている[39]
  • TW星:太陽系から約196 光年の距離にある、見かけの明るさ10.50 等、スペクトル型 K6Ve のおうし座T型星で、11等星[40]。年齢は900万±100万歳、0.7±0.1 M太陽質量)の若い前主系列星[41]、このタイプの星としては太陽系の最も近くにあるものの1つ[42][43]。早くから原始惑星系円盤が存在することが知られており、太陽系の近くにあり、かつ太陽に近い質量を持つ恒星であることから、太陽系の起源を知る手掛かりとなる天体として観測されてきた[43]2007年に主星から0.041天文単位 (au) の公転軌道を回る1.2木星質量の惑星の存在を示唆する研究結果が公表された[41]アルマ望遠鏡による電波観測が始まると、2013年に史上初めて一酸化炭素スノーライン[44]2016年には原始惑星系円盤中の2本のギャップ構造[45]が相次いで発見された。2019年には、形成されつつある海王星サイズの惑星を取り巻く周惑星円盤、または惑星になる可能性のある構造のいずれかを発見したとする研究が発表された[42][43]
  • うみへび座V361星:見かけの明るさ15.258 等[46]、スペクトル型 sdBr[47]B型準矮星を含む連星系で、15等星[46]。スペクトル分類の sd は準矮星であること、r は高速で脈動していることを示している[47]1997年に南天の高温天体サーベイで偶然発見された[48]。144 と134 秒という短い周期で1000分の12 等級未満の振幅で変光しており[48]変光星総合カタログ (General Catalogue of Variable Stars, GCVS) では新たに RPHS (Very rapidly pulsating hot (subdwarf B) stars) という脈動変光星のグループを設けて、そのプロトタイプとしている[49]
  • HE 1327-2326:太陽系から約3,466 光年の距離にある、見かけの明るさ13.55 等、スペクトル型 CEMP-no の化学特異星で、14等星[50]。スペクトル分類の CEMP-no は、化学特異星の中でも金属量の低いグループの1つ「炭素過剰金属欠乏星 (Carbon enhanced metal poor star, CEMP) に分類され、その中でもs過程やr過程といった中性子捕獲過程由来の元素がほとんどない星であることを示している[51]。金属量は[Fe/H]=-5.71と太陽の50万分の1未満しかなく、2005年に発見された当時は、既知の恒星で最も金属量が低い恒星とされた[52]
  • SDSS J090745.0+024507:見かけの明るさ19.84 等のB型主系列星と思われる恒星で、20等星[53]。2005年に発見された超高速度星 (: Hyper velocity star) で、天の川銀河からの脱出速度の2倍に達する速度で運動している[54]。2006年には高精度測光観測により変光していることが確認されている[55]

星団・星雲・銀河

18世紀フランスの天文学者シャルル・メシエが編纂した『メシエカタログ』に挙げられた天体、いわゆるメシエ天体が3つ位置している[56]。また、パトリック・ムーア英語版がアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだ「コールドウェルカタログ」に選ばれた天体が2つ位置している[57]うみへび座銀河団という銀河団がある。

流星群

うみへび座の名前を冠した流星群のうち、IAUの流星データセンター (IAU Meteor Data Center) で確定された流星群 (Established meteor showers) とされているのは、うみへび座α流星群 (alpha Hydrids, AHY)、うみへび座ο流星群 (omicron Hydrids, OHY)、うみへび座η流星群 (eta Hydrids, EHY)、うみへび座σ流星群 (sigma Hydrids, HYD) の4つである[6]。2023年に日本の西村栄男が発見した長周期彗星 C/2023 P1 は、軌道要素がうみへび座σ群と似通っていることから、うみへび座σ群の母天体である可能性が示唆されている[75]

由来と歴史

うみへび座は、紀元前4世紀の古代ギリシアの天文学者クニドスのエウドクソスの著書『パイノメナ (古希: Φαινόμενα)』に記された星座のリストに既にその名前が上がっていたとされ、エウドクソスの著述を元に詩作されたとされる紀元前3世紀前半のマケドニアの詩人アラートスの詩篇『パイノメナ (古希: Φαινόμενα)』では Ὕδρη (Hydra) という名称で登場する[76]。アラートスは、かに座の南に頭部を起き、しし座の南を通ってケンタウルス座の北に至る、現代のうみへび座とほぼ変わらない蛇の姿を記述している[76][77]。アラートスの『パイノメナ』や1世紀初頭の古代ローマの著作家ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスの『天文詩 (: De Astronomica)』では、女性名詞の Ὕδρη (Hydra) とされたが、紀元前3世紀後半の天文学者エラトステネースの天文書『カタステリスモイ (古希: Καταστερισμοί)』や、帝政ローマ2世紀頃のクラウディオス・プトレマイオスの天文書『ヘー・メガレー・スュンタクスィス・テース・アストロノミアース (古希: ἡ Μεγάλη Σύνταξις τῆς Ἀστρονομίας)』、いわゆる『アルマゲスト』では、男性名詞の Ὕδρος (Hydros) という名称が使われた[2]

うみへび座のモチーフとなった事物について、現代では勇者ヘーラクレースの12の功業の2番目として彼に倒されたレルネーの沼に住む怪物ヒュドラーが挙げられることが多い[2][78][79][80][81]が、エラトステネースの『カタステリスモイ』やヒュギーヌスの『天文詩』など星座の起源と伝承を記した古代ギリシア・ローマ時代の文献では、怪物ヒュドラーとうみへび座を結び付ける伝承は全く言及されていない[82]。実際、『カタステリスモイ』や『天文詩』のうみへび座の項では、怪物ヒュドラーについては全く語られず、アポローンとカラスにまつわる伝承に登場するミズヘビだけが星座の起源として語られている[83][82][注 4]。このように怪物ヒュドラーとうみへび座を結び付ける考えが支持されなかった理由として、ギリシア・ローマの古典の現代語訳で知られる Robin Hard は、多頭の毒蛇として伝承で語られるヒュドラーの姿と星座の長細い姿が大きく異なっていることが原因ではないかとしている[82]

アラートスの『パイノメナ』に付けられた欄外古註英語版には、うみへび座の起源についてエラトステネースらとは異なる2つの説が記されていた[82]。1つはヘーラクレースの第2の功業で倒されたヒュドラーと見なす説、もう1つはうみへび座をナイル川の流れと見なす説である[82]。後者の説では、うみへび座の各部が季節ごとに異なるナイル川の水位を表すものであるとされた[82]

ヨハン・バイエル『ウラノメトリア』(1603) に描かれたうみへび座 (Hydra)。

うみへび座に属する星の数は、エラトステネースの『カタステリスモイ』、ヒュギーヌスの『天文詩』、プトレマイオスの『アルマゲスト』のいずれでも27個とされた[83]。大きく時代を下った17世紀初頭のドイツ法律家ヨハン・バイエルは、1603年に刊行した星図『ウラノメトリア』で、α から ω までのギリシャ文字24文字とAとbのラテン文字2文字の計26文字を用いてうみへび座の星に符号を付した[84][85][86]。このうち b は、コップ座で α・β とされた2つの星を指しており、コップ座とうみへび座の両方に属する星とされている[84]

1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Hydra、略称は Hya と正式に定められた[87]

廃止された星座

19世紀イギリスの星座カード集『ウラニアの鏡』に描かれたうみへび座。アレクサンダー・ジェイミソンの考案したふくろう座 (Noctua) とジェローム・ラランドの考案したねこ座 (Felis) も描かれている。

18世紀後半から19世紀にかけて、うみへび座とその周辺の星座に使われていない星を用いて新たな星座を設けようとするいくつかの試みが成された。フランスの天文学者ピエール=シャルル・ル・モニエは、1776年フランス王立科学アカデミーの紀要の中で、ロドリゲスドードー (: Rodrigues solitaire,: Pezophaps solitaria) モチーフとした星座 Solitaire を設けた[88][89]。これは、1761年インド洋ロドリゲス島金星の太陽面通過を観測したフランスの天文学者アレクサンドル・パングレの業績を称えるために「インド諸島フィリピン諸島の鳥」をモチーフとするもので、うみへび座の尾の部分にあるπ星から東側の星とてんびん座σ星を含むてんびん座の南西部の星を用いて設けられたものであった[88][89]。しかし、星図には誤って「フィリピンのツグミ」とも呼ばれたイソヒヨドリ (Monticola solitarius) に似た星座絵が描かれてしまった。そして、その姿が18世紀末のジャン・ニコラ・フォルタン英語版ドイツヨハン・ボーデの星図に引き継がれ、ツグミの星座として広まってしまった[88][89]。さらに、イギリスの物理学者トマス・ヤング1807年に刊行した『自然哲学及び機械技術に関する講義 (A Course of Lectures on Natural Philosophy and the Mechanical Arts)』の中でこの鳥の星座をキツツキの星座 Mocking bird へと改変、またスコットランド生まれの教育者アレクサンダー・ジェイミソン1822年に刊行した『ジェミーソン星図 (Celestial Atlas)』の中でこの星座をフクロウの星座 Noctua へと改変するなど、19世紀に入ってからもこの領域に鳥の星座を置く試みは続けられた[89]。しかし、19世紀中頃にはこれらの鳥の星座は使われなくなり、現代の88星座の選からも外れている[89]

1799年にフランスの天文学者ジェローム・ラランドが考案したネコの星座 Felis は、うみへび座υ星の南側にある星を使って作られたものであった[90][91]。ボーデの星図『ウラノグラフィア』にも描かれた Felis は、19世紀を通じて一定の支持を集めていたが、19世紀末にはほぼ姿を消し、現代の88星座に選ばれることもなかった[91]。ただ、つぐみ座が跡形もなく姿を消したのに対して、ねこ座は HD 85951 の固有名フェリス (Felis)にわずかにその痕跡を遺している。

中東

紀元前500年頃に製作された天文に関する粘土板文書『ムル・アピン英語版 (MUL.APIN)』に描かれた古代バビロニアの蛇の星座 MUL.DINGIR MUŠ は、その位置や方向がギリシャの Hydra と似通っていた[92]。ただし、Hydra が竜頭蛇身の姿をしていたのに対して、MUL.DINGIR.MUŠ は角を持ち翼と1対の前脚を持つ姿で描かれることが多かったとされる[92]

中国

ドイツ人宣教師イグナーツ・ケーグラー英語版(戴進賢)らが編纂し、清朝乾隆帝治世の1752年に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、うみへび座の星は、二十八宿東方青龍七宿の第一宿「角宿」、第ニ宿「亢宿」、第三宿「氐宿南方朱雀七宿の第ニ宿「鬼宿」、第三宿「柳宿」、第四宿「星宿」、第五宿「張宿」、第六宿「翼宿」、第七宿「軫宿」に配されていたとされる[93][94]

角宿では、γ・π の2星が星官「平」に配された[93][94]。亢宿では、50番星がてんびん座の2星とともに斬刑を司る星官「折威」に配された[93][94]。氐宿では、58・60 の2星が戦車を表す星官「陣車」に配された[93][94]

鬼宿では、2・f・14の3星と不明の3星の計6星が外賓向けの料理を作る厨房を表す星官「外厨」に配された。柳宿では、柳を表す星官「柳」にδ・σ・η・ρ・ε・ζ・ω・θ の8星が配された[93][94]。星宿では、α・τ1・τ2・ι・27・26・HD 82428 の7星が星官「星」に配された[93][94]。張宿では、υ1・λ・μ・HD 87808・κ・φ の6星が星官「張」に配された[93][94]。翼宿では、ν・χ1 の2星がコップ座の星とともに星官「翼」に配された[93][94]。軫宿では、β・HD 103596・HD 100287・HD 100393・ξ・HD 100623・ο の7星が星官「青邱」に配された[93][94]

神話

エラトステネースやヒュギーヌスは、アポローンと彼に仕えるカラスにまつわる以下のような話を伝えている[2][83][82]。アポローンは、捧げ物に使う水を泉から汲んでくるようにカラスに命じた。泉に着いたカラスは、そのほとりにあるイチジクの木にまだ熟していない実が生っていることに気付き、実が熟すまで待つこととした。時が過ぎて熟れたイチジクの実を食べたカラスは、自分が過ちを犯したことに気付いた。そこでカラスは、泉にいたミズヘビを捕まえて水を湛えた杯と一緒にアポローンの下へ運び去った。カラスは「このヘビが毎日湧き出る水を飲み干したせいで、水を汲めなかった」と言い逃れしようと目論んだが、全てお見通しのアポローンはカラスに長い間渇きに苦しむように罰を与えた。そしてアポローンは、カラスが神々に対して犯した罪が忘れられないように、ミズヘビ、カラス、杯を星々の中に表し、杯から水を飲むことも杯に近づくこともできない位置にカラスを置いた[83][82]。この伝承では、カラスはからす座の、杯はコップ座の起源を表している[83][82]

呼称と方言

世界で共通して使用されるラテン語の学名は Hydra、日本語の学術用語としては「うみへび」とそれぞれ正式に定められている[95]。現代の中国では、长蛇座[96](長蛇座[97])と呼ばれている。

うみへび座 (Hydra) とみずへび座 (Hydrus) はどちらもミズヘビを意味するラテン語の学名が付けられており、Hydraは女性形、Hydrusは男性形の名詞である。そのため、IAUはうみへび座のモチーフを「雌のミズヘビ (The Female Water Snake)」、みずへび座のモチーフを「雄のミズヘビ (The Male Water Snake)」としている[1]。しかし、「みずへび座の考案から1世紀半経ってから雌雄が付けられたものであり、この数世紀の文献では一般的なものではなかった」として、うみへび座を「The Water Snake」、みずへび座を「The Lesser Water Snake」と変更する提案が恒星の命名に関するワーキンググループ (WGSN) から提出されている[98]

明治初期の1874年(明治7年)に文部省より出版された関藤成緒の天文書『星学捷径』で「ハイドラ」という読みと「水中ニ居ル蛇」という解説が紹介された[99]。また、1879年(明治12年)にノーマン・ロッキャーの著書『Elements of Astronomy』を訳して刊行された『洛氏天文学』では、上巻の星座の一覧で「ハイドラ」というラテン語読みと「ス子ーキ」という英語読みが紹介され[100]、下巻で「南蛇宿」と記述された[101]。これは、「北蛇宿」とされたへび座とともに2つのヘビの星座を南北に呼び分けたものであった[80]。これらから30年ほど時代を下った明治後期には「海蛇」と呼ばれていたことが、1908年(明治41年)4月に創刊された日本天文学会の会報『天文月報』の第1巻1号に掲載された「四月の天」と題した記事で確認できる[102]。この訳名は、東京天文台の編集により1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「海蛇(うみへび)」として引き継がれた[103]。ただし野尻抱影のようにこれを「かいだ」と音読みをした例もある[104]

この「海蛇」という訳に対しては、京都大学系の研究者から反発があり[105]天文同好会[注 5]山本一清らは異なる訳語を充てた。天文同好会の編集により1928年(昭和3年)4月に刊行された『天文年鑑』第1号では、Hydra に対して「ヒドラ」、南天の Hydrus に対して「うみへび(海蛇)」の訳語を充てた[106]。1931年(昭和6年)刊行の第4号からは Hydrus の訳語を「みづへび(水蛇)」と変更したものの、Hydra の訳語は「ヒドラ」のまま据え置かれ[107]、以降の号でもこの表記が継続して用いられた[108]。これについて山本は、東亜天文学会の会誌『天界』1934年8月号の「天文用語に關する私見と主張 (3)」という記事で以下のように主張している[109]

每年の春の天に見える Hydra といふ星座がある.これを獨逸語で Wasserchlange 卽ち「海蛇」叉は水蛇などと譯するのは宜しくない.此の原語や意味は,ギリシヤ神話にあるアルゴ船の遠征物語り中にある怪獸を意味してゐるのであつて,決して單なる動物の一種を表はしてゐるのではない.故に,むしろ,神話的な連想を保持するための立て前から,佛語や英語の譯名に習つて,只「ヒドラ」として置くのが最も穩當であると思はれる.尤も,「ヒドラ」といふ言語の中に,今日の動物學者が取り扱つてゐる水生の虫類を意味するものでないことを,特に注意して置かなければならないが. — 山本一清、『天界』161号

山本のこの主張を受けて、翌1935年(昭和10年)には野尻抱影も、オーストラリアの教育者 Percy Ansell Robin の1932年の著書 Animal Lore in English Literature に書かれた「Hydraは神話上の怪物、hydrusは一般の蛇も指す言葉であった」とする説を引き、「Hydraは「ヒドラ」、Hydrusは「水蛇」とすべき」と主張した[110]

しかし、その後数度行われた星座名の改訂でも山本らの主張は容れられなかった。1944年(昭和19年)に天文学用語が見直しされた際も「海蛇(うみへび)」が継続して使用されることとされ[111]1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[112]とした際に、Hydra の日本語名は「うみへび」と定められた[113]。以降は「うみへび」という表記が継続して用いられている。

脚注

注釈

  1. ^ 全天の立体角は4πステラジアン≒41253 平方度。
  2. ^ ラランドがねこ座の星は複数あったが、IAUの恒星の命名に関するワーキンググループ (WGSN) がそれらの中からなぜこの星を選んだのか、理由は明らかにされていない。
  3. ^ UBVシステムにおいてV等級の原点は、北極標準星野にある国際式標準星の写真実視等級をV等級と同一とみなすことで定義され、U等級とB等級の原点は、A0Vのスペクトルを持つ、こと座α星(ベガ)おおぐま座γ星おとめ座109番星かんむり座α星へびつかい座γ星、そしてうみへび座C星 (HR 3314) の6つの星の平均の U-B、B-Vを0とすることで(すなわち U=B=V とすることで)定められた[33]
  4. ^ ヘーラクレースの第2の功業についてはかに座の伝承で触れられているが、うみへび座と伝承の毒蛇の関係については特に語られていない。
  5. ^ 現在の東亜天文学会

出典

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参考文献

座標: 星図 10h 00m 00s, −20° 00′ 00″