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「カシオペヤ座」の版間の差分

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{{表記揺れ案内|表記1=カシオペヤ座|表記2=カシオペア座|議論ページ=}}
{{Infobox Constellation
{{Infobox Constellation
|janame = カシオペヤ座
| janame = カシオペヤ座
|name = Cassiopeia
| name = Cassiopeia
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| abbreviation = Cas
|genitive = Cassiopeiae
| genitive = Cassiopeiae
|pronounce = {{IPA-en|ˌkæsi.ɵˈpiː.ə|}} ''Cássiopéia,'' 口語的に{{IPA|/ˌkæsiˈoʊpiː.ə/}} ''Cássiópeia;'' 属格 {{IPA|/ˌkæsi.ɵˈpiː.iː/}}
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|symbology = the Seated [[女王|Queen]]
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| RA = {{RA|22|57|04.6}} - {{RA|03|41|14.1}}{{R|boundary}}
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}}
}}
{{読み仮名|'''カシオペヤ座'''|カシオペヤざ|{{lang-la|Cassiopeia}}}}は、[[星座#国際天文学連合による88星座|現代の88星座]]の1つで、[[トレミーの48星座|プトレマイオスの48星座]]の1つ{{R|Ridpath}}。[[古代ギリシア]]の伝承に登場するエチオピアの王妃[[カッシオペイア]]をモチーフとしている{{R|IAU_constellations}}。3個の2等星と2個の3等星が、ラテン文字の'''W'''の形に並ぶ姿で知られる。このW字は、[[天の北極]]を探すための[[指極星]]として用いられる。北緯44&deg;より北の地域では、星座全体が地平線に沈むことのない[[周極星]]となる。
'''カシオペヤ座''' (カシオペヤざ、Cassiopeia) は、北天に見られる[[星座]]。[[トレミーの48星座]]の1つ。


星座名の正式な[[日本語]]表記は「'''カシオペヤ'''」と定められているが、いくつかの[[国語辞典]]では見出し語を「カシオペア座」とするものもある{{R|mainichi-kotoba}}。
5個の2, 3等星がローマ字の'''W'''の形に並ぶ。周りには、他に明るい星が無いので、比較的探しやすい。[[ポラリス (恒星)|ポラリス]](現在の[[北極星]])を探すために用いられる。

北極に近い地方では、現在、この星座は一晩中見える[[周極星]]となる。


== 主な天体 ==
== 主な天体 ==
=== 恒星 ===
=== 恒星 ===
{{See also|カシオペヤ座の恒星の一覧}}
{{See also|カシオペヤ座の恒星の一覧}}
&alpha;星、&beta;星、&gamma;の3つの2等星がある<ref name="simbad_alpha"/><ref name="simbad_beta"/><ref name="simbad_gamma"/>&alpha;&beta;星、&gamma;星、&delta;、&epsilon;の5つの恒星が、独特の「W」字を形作る。
&alpha;&beta;&gamma;の3つの2等星がある{{R|simbad_alpha|simbad_beta|simbad_gamma}}5等&rho;星とV509非常に珍しい'''[[黄色極超巨]]'''に分類される大質量である。


以下の恒星には、[[国際天文学連合]]によって正式な固有名が定められている。
[[2023年]]9月現在、[[国際天文学連合]] (IAU) によって8個の恒星に固有名が認証されている{{R|iaucsn}}
* [[カシオペヤ座アルファ星|&alpha;星]]:[[太陽系]]から約231 [[光年]]の距離にある、[[見かけの等級|見かけの明るさ]]2.23 等、[[スペクトル分類|スペクトル型]]K0-IIIaの巨星で、2等星{{R|simbad_alpha}}。カシオペヤ座で最も明るく見える。固有名の「'''シェダル'''{{R|StellaNavigator11}}(Schedar{{R|iaucsn}})」は、[[アラビア語]]で「胸」を意味する言葉に由来する{{Sfn|Kunitzsch|2006|p=26}}。
* [[カシオペヤ座アルファ星|&alpha;星]]:シェダル (Schedar) は、オレンジ色の[[巨星]]<ref name="simbad_alpha"/>。
* [[カシオペヤ座ベータ星|&beta;星]]:カフ (Caph) 、[[恒星時]]を計るためのおおざっぱな指針として使われる。ほぼ赤経 0h に位置すための星[[子午線]]場合、恒時は0る。
* [[カシオペヤ座ベータ星|&beta;星]]:見かけの明るさ2.27 等、スペクトル型F2IIIの巨星で、2等星{{R|simbad_beta}}。ほぼ赤経0h に位置しているため、[[恒星時]]を計るための大まかな指針として使われる。2.30 等のA星と12.45 等のB星から成[[連星|連星系]]で約27日周期で互いを周回している{{R|WDS_beta}}。A[[たて座デルタ型変光星]]に分類され[[脈動変光]]で、約0.1 日の周期で0.03 等の振幅で変光する{{R|GCVS_beta}}。固有名の「'''カフ'''{{R|StellaNavigator11}}(Caph{{R|iaucsn}})」は、アラビア語で「染められた手」いう意味の言葉に由来す{{Sfn|Kunitzsch|2006|p=26}}
* [[カシオペヤ座デルタ星|&delta;星]]:太陽系から約102 光年の距離にある、見かけの明るさ2.680 等、スペクトル型A5IV の[[準巨星]]で、3等星{{R|simbad_delta}}。[[おうし座]]の[[ヒアデス星団]]と同じ[[分子雲]]で生まれた[[運動星団|ヒアデス運動星団]] ({{Lang-en-short|Hyades Moving Group}}) の一員と考えられている{{R|simbad_delta}}。固有名の「'''ルクバー'''{{R|StellaNavigator11}}(Ruchbah{{R|iaucsn}})」は、アラビア語で「膝」を意味する言葉に由来する{{Sfn|Kunitzsch|2006|p=26}}。
* [[カシオペヤ座デルタ星|&delta;星]]:ルクバー (Ruchbah) は、2.680等星の白色準巨星。
* [[カシオペヤ座イプシロン星|&epsilon;星]]:太陽系から約466 光年の距離にある、見かけの明るさ3.37 等、スペクトル型B3Vp_sh の[[B型主系列星]]{{R|simbad_epsilon}}。固有名の「'''セギン'''{{R|StellaNavigator11}}(Segin{{R|iaucsn}})」は、おそらく[[うしかい座ガンマ星|うしかい座&gamma;星]]の固有名セギヌス (Seginus) が転訛したものであろうと考えられている{{Sfn|Kunitzsch|2006|p=62}}。
* [[カシオペヤ座ゼータ星|&zeta;星]]:附路 (Fulu) 。
* [[カシオペヤ座ゼータ星|&zeta;星]]:太陽系から約355 光年の距離にある、見かけの明るさ3.66 等、スペクトル型B2IV の準巨星で、4等星{{R|simbad_zeta}}。Aa星の固有名「'''フールー'''{{R|StellaNavigator11}}(附路、Fulu{{R|iaucsn}})」は、この星が[[中国]]の天文学において[[二十八宿]]の1つ「[[奎宿]]」にある星官「附路」に充てられていたことから認証された{{R|iaucsn}}。
* [[カシオペヤ座イプシロン星|&epsilon;星]]:セギン (Segin) は、3.37等星の青色巨星。主要5星の中で一番暗い。
* [[カシオペヤ座イータ星|&eta;星]]:太陽系から約19.3 光年の距離にある、見かけの明るさ3.44 等、スペクトル型F9V の[[主系列星]]で、3等星{{R|simbad_eta}}。3.52 等のA星と7.36 等のB星から成る連星系で、A星の固有名「'''アキルド'''{{R|StellaNavigator11}}(Achird{{R|iaucsn}})」は、&epsilon;星と同じく[[スロバキア]]の天文学者[[アントニーン・ベチュヴァーシュ]]が1951年に刊行した『スカルナテ・プレソ星図』に付された星表で初めて登場した由来不明の名称{{Sfn|Kunitzsch|2006|p=62}}だが、[[2017年]]にIAUの恒星の命名に関するワーキンググループ (WGSN) によって認証された{{R|iaucsn}}。
* [[カシオペヤ座イータ星|&eta;星]]:A星にはAchirdという固有名が付けられている{{R|iaucsn}}。[[太陽]]によく似た[[黄色]]の[[主系列星]]を主星に持つ実視連星。
* [[カシオペヤ座ウプシロン2星|&upsilon;{{sup|2}}星]]:太陽系から約196 光年の距離にある、見かけの明るさ4.622 等、スペクトル型G8.5IIIbFe-0.5 の[[化学特異星]]で、5等星{{R|simbad_upsilon2}}。[[核 (天体)|中心核]]での[[水素]]の[[核融合]]を終えて、[[ヘリウム燃焼過程|ヘリウム核燃焼]]を始めた[[水平分枝]]の段階にあると考えられている{{R|Puzeras2010}}。また、スペクトル中にバリウムの強い吸収線を示すことから[[バリウム星]]に分類されていることから、既に[[白色矮星]]に進化した未発見の伴星が存在しており、その星が[[漸近巨星分枝]]だった頃に合成された[[s過程]]元素を多く含む物質が主星の表面に降着したものと考えられている{{R|Bergeat1997}}。A星の固有名「'''カストゥラ'''{{R|StellaNavigator11}}(Castula{{R|iaucsn}})」は、[[ヨハン・バイエル]]の天文書『[[ウラノメトリア]]』で&upsilon;星の位置を「ペチコートのようなもの」を意味する castulam と形容したことに由来する{{Sfn|原恵|2007|p=184}}{{efn2|[[原恵]]は[[ケフェウス座]]の項にこの固有名と由来を記述している{{Sfn|原恵|2007|p=184}}が、実際はカシオペヤ座のページにその記述がある{{R|Bayer1603}}。また『ウラノメトリア』のケフェウス座には&upsilon;星は存在しない{{R|Bayer1603}}。}}。
* [[カシオペヤ座ウプシロン2星|&upsilon;<sup>2</sup>星]]:固有名はカストゥラ (Castula){{R|iaucsn}}。
* [[HD 17156]]:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」で[[アメリカ合衆国]]に命名権が与えられ、主星はNushagak、太陽系外惑星はMulchatnaと命名された{{R|approved}}。
* [[HD 17156]]:太陽系から約253 光年の距離にある、見かけの明るさ8.16 等、スペクトル型F9V の主系列星で、8等星{{R|simbad_HD17156}}。IAUの100周年記念行事「[[NameExoWorlds|IAU100 NameExoWorlds]]」で[[アメリカ合衆国]]に命名権が与えられ、主星は''Nushagak''、太陽系外惑星はMulchatnaと命名された{{R|approved}}。
特徴的な恒星には以下のものる。
ほか、以下の恒星が知られている。
* [[カシオペヤ座ガンマ星|&gamma;星]]:ツィーは、特有の変星である。視級は1.6~3変わ。&gamma;[[連星]]であると考えられ、伴星は[[中性子星]]である考えられる。これは最も明るい[[X線連星]]で。ほに肉眼見えX線星はない。アメリカの宇宙飛行士[[ガス・グリソム]]のミドルネーム Ivan にちなんだ Navi という名前でも知られる。
* [[カシオペヤ座ガンマ星|&gamma;星]]:太陽系から約382 年の距離にある、見かけの明るさ2.39 、スペクトル型B0.5IVpeの化学特異星で、2等星{{R|simbad_gamma}}。強力なX線を放出しており、スペクトル中水素の強い輝線が見られ[[Be]]の主星Aと白色矮星の伴星Bからなる[[X線連星]]であると考えられている{{R|Hamaguchi2016}}。主星のA星は[[カシオペヤ座ガンマ型変光星|カシオペヤ座&gamma;型変光星]]」のプロトタイプれる[[爆発型変光星]]で、その明さを1.60 等ら3.00 等ま大きく変化させ{{R|GCVS_gamma}}。中国天文学において二十八宿の1つ「奎宿」にある乗馬に使う鞭を表す官「策」に充てられてたことから「'''ツィー'''{{Sfn|原恵|2007|p=204}}(Tsih{{R|Allen2013}})」という名前で呼ばれることもあるまた、[[アメリカ合衆国]][[宇宙飛行士]]で[[アポロ1号]]の搭乗員であった[[ガス・グリソム]]のミドルネーム Ivan の綴りを前後逆した '''Navi''' という通称でも知られる{{R|NASA}}
* [[カシオペヤ座ミュー星|&mu;星]]:太陽系から約25 光年の距離にある、G型主系列星のA星と赤色矮星のB星からなる連星系で、5等星{{R|simbad_mu}}。2020年の研究では、連星系の年齢は127億&plusmn;27億 歳で、おそらく'''肉眼で見える恒星としては全天で最も古い星'''であるとしている{{R|Bond2020}}。
* [[カシオペヤ座ミュー星|&mu;星]]:黄色[[準矮星]]。
* [[カシオペヤ座ロー星|&rho;星]]:見かけの明るさ4.59 等、スペクトル型G2_0 の[[黄色極超巨星]]で、5等星{{R|simbad_rho}}。[[1901年]]に[[エドワード・ピッカリング]]の下で[[写真乾板]]の解析をしていたLouisa Wellsによって変光星であることが発見された{{R|PickeringColsonFlemingWells1901}}。1945年以降、4回の大きなアウトバーストを起こしている{{R|MaraveliasKraus2022}}。[[主系列星]]から低温で巨大な[[赤色超巨星]]に進化した後に、再び高温の星となる段階にあると考えられている{{R|Beasor2023}}。
* [[カシオペヤ座ロー星|&rho;星]]:SRD型の[[半規則型変光星]]。
* [[カシオペヤ座R星|R星]]:太陽系から約568 光年の距離にある[[ミラ型変光星]]{{R|simbad_R}}。[[1853年]]に[[イギリス]]の天文学者[[ノーマン・ポグソン]]によって発見された{{R|AAVSO_R}}。約430日の周期で最大4.7 等から最小13.5 等までの範囲で見かけの明るさを変える{{R|AAVSO_R}}が、1周期の光度の振幅は6等級前後である{{R|AstroArts20230203}}。
* [[カシオペヤ座R星|R星]]:[[ミラ型変光星]]。
* [[カシオペヤ座V509星|V509星]]:見かけの明るさ5.13 等、スペクトル型G4_0 の黄色極超巨星で、5等星{{R|simbad_V509}}。&rho;星と同じく赤色超巨星の段階から再び高温の星となる段階にあると考えられている{{R|Nieuwenhuijzen2012}}。[[1978年]]の研究からB型主系列星の伴星の存在が示唆されている{{R|Nieuwenhuijzen2012}}。
* [[カシオペヤ座RZ星|RZ星]]:[[食変光星]]。
* [[カシオペヤ座TZ星|TZ星]]:[[赤色超巨星]]でLC型の[[脈動変光星]]。
* [[カシオペヤ座V509星|V509星]]:SRD型の半規則型変光星。


==== アステリズム ====
&alpha;・&beta;・&gamma;・&delta;・&epsilon; の5つの星が形作る「W」字の[[アステリズム]]は、[[北極星]]のある方角を知るための'''指極星'''として用いられている{{R|Shosanbetu201812}}。
[[File:The Pointers (Cassiopeia).jpg|thumb|center|360px|カシオペヤ座のWから[[北極星]]を見つける方法。&beta;と&alpha;、&epsilon;と&delta; をそれぞれ結んだ線分を2つの線が交わるまで拡張する。2つの線の交点からW字の中心の星 (&gamma;) に向けて線で繋ぎ、その線分を5倍に伸ばしたあたりに[[天の北極]]や北極星を見つけることができる。]]
=== 星団・星雲・銀河 ===
=== 星団・星雲・銀河 ===
[[メシエ天体]]に数えられる散開星団が2つ位置している。また、6つの天体が{{仮リンク|パトリック・ムーア (天文学者)|label=パトリック・ムーア|en|Patrick Moore}}がアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだ「[[カルドウェルカタログ|コールドウェルカタログ]]」に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。また、[[16世紀]]から[[17世紀]]にかけて地球に光が届いた2つの[[超新星爆発]]の[[超新星残骸|残骸]]がある。
カシオペヤ座には、[[超新星残骸]]が2つある。
* [[M52 (天体)|M52]]:太陽系から約5,400 光年の距離にある[[散開星団]]{{R|simbad_M52}}。[[1774年]]9月7日、[[シャルル・メシエ]]が発見した{{R|SEDS_M52}}。
* [[SN 1572]]:[[1572年]]に[[ティコ・ブラーエ]]が観測した[[超新星]]の名残りで、「ティコの星」の名前で知られる。
* [[M103 (天体)|M103]]:太陽系から約6,700 光年の距離にある散開星団{{R|simbad_M103}}。[[1781年]]に[[ピエール・メシャン]]が発見した{{R|SEDS_M103}}。メシエが編纂した[[メシエカタログ]]で最後に収録された。すぐ隣にあるNGC 663 のほうが星が多く見栄えもすることから、M103と間違えられることもある{{R|SEDS_M103}}。
* [[カシオペヤ座A]]:強力な電波源となっている。元の星は計算上1667年ごろ爆発したと推測されているが、その光が届かなかったためか発見の記録はない。
* [[NGC 559]]:太陽系から約9,400 光年の距離にある散開星団{{R|simbad_NGC559}}。コールドウェルカタログの8番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。
その他に、以下の星団・星雲・銀河が知られている。
* [[NGC 663]]:太陽系から約9,600 光年の距離にある散開星団{{R|simbad_NGC663}}。コールドウェルカタログの10番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。7 等級と明るい星団で、東西に2つの星の集団が並んでいる姿を馬の蹄に喩えて Horseshoe cluster と呼ばれることもある{{R|Mobberley2009}}。
*[[M52 (天体)|M52]]:[[散開星団]]。
* [[NGC 7635]]:太陽系から約7,900 光年の距離にあり、M52のすぐ隣に見える[[散光星雲]]{{R|simbad_NGC7635}}。コールドウェルカタログの11番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。[[1787年]]にイギリスの天文学者[[ウィリアム・ハーシェル]]によって発見された{{R|Hubble20160421}}。そのシャボン玉のような見た目から「'''バブル星雲'''{{R|Numasawa2007}}(Bubble Nebula{{R|simbad_NGC7635}})」という通称でも知られる{{R|simbad_NGC7635}}。星雲内にあるO型の大質量星BD +60°2522 から放たれる[[恒星風]]によって形成されたと考えられており、BD +60°2522は1000万-2000万年後に超新星爆発を起こすと予測されている{{R|Hubble20160421}}。
*[[NGC 7635]]:[[散光星雲]]。M52と隣接している。「バブル星雲」とも呼ばれる。
* [[NGC 457]]:散開星団{{R|simbad_NGC457}}。コールドウェルカタログの13番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。5等星の&phi;{{sup|1}}と7等星の&phi;{{sup|2}}が目のように見えることから「'''ふくろう星団''' (Owl Cluster{{R|simbad_NGC457}})」や「'''ET星団''' (ET Cluster{{R|simbad_NGC457}})」と呼ばれることもある。
*[[M103 (天体)|M103]]:散開星団。
* [[NGC 147]]:天の川銀河から約248万 光年の距離にある[[矮小楕円銀河]]{{R|simbad_NGC147}}。コールドウェルカタログの17番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。[[1829年]]9月8日にイギリスの天文学者[[ジョン・ハーシェル]]が発見した{{R|Frommert2012}}。[[1944年]]、ドイツ生まれのアメリカの天文学者[[ウォルター・バーデ]]によって、近くにある[[NGC 185]]とともに[[局所銀河群]]に属していることが発見された{{R|Frommert2012|Baade1944}}。NGC 185と共にM31([[アンドロメダ銀河]])の[[伴銀河]]となっているが、現在はM31よりも天の川銀河のほうがより近い位置にある{{R|Frommert2012}}。
* [[NGC 185]]:天の川銀河から約215万 光年の距離にある矮小楕円銀河{{R|simbad_NGC185}}。コールドウェルカタログの18番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。1787年11月30日にウィリアム・ハーシェルが発見した{{R|Frommert2005}}。2016年の研究によると、NGC 147では約69億年前から約30億年前にかけて盛んに星形成されたが3億年前にはほとんど星形成されなくなったのに対して、NGC 185では約83億年前に星形成のピークを迎えた後、率は大きく落ちたもののある程度コンスタントに星形成が続いている、とされた{{R|Hamedani2016}}。
* [[SN 1572|SN 1572A]]:[[1572年]]に観測された[[超新星]]で、[[ティコ・ブラーエ]]が詳細な観測記録を残したことから「'''ティコの超新星'''{{R|AstroArts20221129}}(Tycho's Supernova)」の名前で知られる{{R|simbad_SN1572}}。その[[超新星残骸]]のX線のスペクトルから[[Ia型超新星]]と推測されており、周辺の残骸から届く[[光エコー]]のスペクトルを解析した2008年の研究により、標準的なIa型超新星であったことが判明した{{R|Subaru20081203|Krause2008}}。
* [[カシオペヤ座A]]:全天で最も強力な電波源の1つとされる超新星残骸{{R|simbad_CasA}}。超新星残骸の膨張速度からの逆算により、1681&plusmn;19年頃に[[超新星爆発]]の光が太陽系に到達したと推測されている{{R|Fesen2006}}が、明らかな観測記録は残されていない{{R|Krause2008b}}。周辺の残骸から届く光エコーのスペクトルを解析した2008年の研究により、[[II型超新星|IIb型超新星]]であったことが判明した{{R|Krause2008b}}。
{{Gallery
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| 2022-10-24 25-ngc7635 BubbleNebula 136x300 v01.1.jpg | [[散開星団]][[M52 (天体)|M52]](右)と、'''バブル星雲'''の通称で知られる[[散光星雲]][[NGC 7635]](左)。
| M103, NGC 581 (noao-m103).jpg | [[2000年]]12月24日に[[アメリカ]] [[アリゾナ州]]の[[キットピーク国立天文台]]の2.1 m望遠鏡で撮影された散開星団[[M103 (天体)|M103]]。
| NGC 559 PanSTARRS.jpg | [[パンスターズ|PanSTARRS]]によって撮影された散開星団[[NGC 559]]。
| NGC663HunterWilson.jpg | 散開星団[[NGC 663]]。
| The Bubble Nebula - NGC 7635 - Heic1608a.jpg | 2016年2月、[[ハッブル宇宙望遠鏡]] (HST) の[[広視野カメラ3]] (WFC3) によって撮像されたバブル星雲。色は青が[[酸素]]、緑が[[水素]]、赤が[[窒素]]に対応している。
| NGC457.jpg | 散開星団[[NGC 457]]。
| NGC 0147 DSS.jpg | [[矮小楕円銀河]][[NGC 147]]。
| Caldwell 18 (50289818793).jpg | HSTのWFC3によって撮像された矮小楕円銀河[[NGC 185]]。
| Tycho-supernova-xray.jpg | [[NASA]]の[[X線天文衛星]]「[[チャンドラ (人工衛星)|チャンドラX線天文台]]」によって撮像された[[SN 1572|ティコの超新星残骸]]の疑似カラー画像。
| Cassiopeia A Spitzer Crop.jpg | [[ハッブル宇宙望遠鏡]]、[[スピッツァー宇宙望遠鏡]]、チャンドラX線天文台による撮像を合成した、[[カシオペヤ座A]]の疑似カラー画像。
}}
== 流星群 ==
カシオペヤ座の領域内に[[放射点]]がある[[流星群]]のうち、IAUの流星データセンター (IAU Meteor Data Center) で確定された流星群 (Established meteor showers) とされているものは、[[ペルセウス座流星群]] (Perseids){{R|Perse|group="注"}}、6月カシオペヤ座&mu;流星群 (June mu-Cassiopeiids)、カシオペヤ座&psi;流星群 (psi-Cassiopeiids)、12月カシオペヤ座&phi;流星群 (December phi-Cassiopeiids) の4つである{{R|NAOJ_meteor}}。毎年8月13日前後に極大を迎えるペルセウス座流星群は、12月の[[ふたご座流星群]]、1月の[[しぶんぎ座流星群]]とともにいわゆる'''三大流星群'''の1つとされる{{R|NAOJ_majormeteor}}。


== 由来と歴史 ==
== 由来と歴史 ==
[[File:Sidney Hall - Urania's Mirror - Cassiopeia (image right side up).jpg|thumb|360px|[[19世紀]]の[[イギリス]]で販売された星座カード集『[[ウラニアの鏡]]』に描かれたカシオペヤ座。]]
古代アラビアでは、「[[ヘナ]]で染めた手」と呼ばれていた。ヘナ(マニキュアの顔料)で爪を染めた女性の五本の指に見えることを由来とする呼称である<ref name="hayashi"/>。
この星座のモチーフとされたのは、[[古代ギリシア]]の伝承に登場するエチオピア王[[ケーペウス]]の妃で、王女[[アンドロメダー]]の母親とされる[[カッシオペイア]]である{{R|Ridpath}}。

星座としてのカシオペヤは、[[紀元前4世紀]]の古代ギリシアの天文学者[[エウドクソス|クニドスのエウドクソス]]の著書『ファイノメナ ({{Lang-grc-short|Φαινόμενα}})』に名前が挙げられていた。エウドクソスの『ファイノメナ』は現存していないが、これを元に詩作したとされる[[紀元前3世紀]]前半の[[マケドニア]]の詩人[[アラトス|アラートス]]の詩篇『ファイノメナ ({{Lang-grc-short|Φαινόμενα}})』にはカシオペヤ座を詠った詩が収められており、アラートスはこの星座の特徴的な形状を「鍵」に喩えている{{R|Ito2007}}。

カシオペヤ座に属する星の数は、[[紀元前3世紀]]後半の天文学者[[エラトステネス|エラトステネース]]の天文書『[[カタステリスモイ]] ({{Lang-grc-short|Καταστερισμοί}})』では15個、1世紀初頭の[[古代ローマ]]の著作家[[ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌス]]の『天文詩 ({{Lang-la-short|De Astronomica}})』では14個、[[帝政ローマ]]期の2世紀頃の[[クラウディオス・プトレマイオス]]の天文書『ヘー・メガレー・スュンタクスィス・テース・アストロノミアース ({{Lang-grc-short|ἡ Μεγάλη Σύνταξις τῆς Ἀστρονομίας}})』、いわゆる『[[アルマゲスト]]』では13個とされた{{R|Condos1997}}。

[[9世紀]]から[[15世紀]]にかけての挿し絵では、両手を広げたカッシオペイアの姿が描かれていたが{{R|Ridpath|TheWarburgInstituteIconographicDatabase}}、ドイツの[[版画家]][[アルブレヒト・デューラー]]が[[1515年]]に製作した[[星図]]では左手に[[ヤシ]]の葉を携えて玉座から身を乗り出すような姿で描かれている{{R|Ridpath}}。さらに[[17世紀]]フランスの天文学者[[オギュスタン・ロワーエ|オギュスタン・ロワイエ]]が[[1679年]]に著した星図では、左手にヤシの葉を携えて玉座に深く腰掛けた姿が描かれた{{R|Staal1988}}。ヤシの葉はキリスト教の殉教のシンボルであるため、17世紀の星図にはカッシオペイアの姿ではなく[[マグダラのマリア]]や[[ソロモン]]の母[[バト・シェバ]]、ヤシの木の下で裁きをおこなった[[デボラ]]などが描かれることもあった{{R|Staal1988}}。

[[1922年]]5月に[[ローマ]]で開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は '''Cassiopeia'''、略称は '''Cas''' と正式に定められた{{R|IAU_list}}。

=== 中東 ===
10世紀の[[ペルシア]]の天文学者[[アブドゥル・ラフマーン・スーフィー|アブドゥッラハマーン・スーフィー]]が、『アルマゲスト』を元に[[964年]]頃に著した天文書『[[星座の書]]』では、「玉座にある女」を意味する Dhāt al-Kursīy という星座名が付けられ、13個の星があるとされた{{R|Hafez2010}}。

アラブの一部では、&alpha;・&beta;・&gamma;・&delta;・&epsilon;の5つの星群を「染められた手」を意味する al-kaf al-khadib とも呼んでいた{{R|Adams2015}}。これは、アラブの女性が手や足に[[ヘナ]]と呼ばれる植物性の赤い染料を塗るという習慣に由来するものと考えられており{{R|Staal1988}}、&beta;星の固有名カフ (Caph) の由来ともなっている{{Sfn|Kunitzsch|2006|p=26}}。この手は、アラビアの[[月宿]]で第3宿とされた[[プレヤデス星団]]{{R|Yamamoto1985}} ath-thuraya (al-thurayya) を頭として、そこから[[くじら座]]と'''カシオペヤ座'''に伸びる2つの腕を持つ巨大な[[アステリズム]]の一部であった{{R|Adams2015}}。一方、この「染められた手」は、[[ムハンマド]]の娘[[ファーティマ]]の血に染まった手であるとする伝承もある{{R|Staal1988}}。

また、[[アンドロメダ座]]や[[ペルセウス座]]の星々と合わせて大きな[[ヒトコブラクダ]]の姿に見立てられることもあった{{R|Staal1988}}。このラクダの中でカシオペヤ座の星々は胴体を成しており、W字の5星はコブから臀部にかけてを構成していた{{R|Staal1988}}。

=== 中国 ===
ドイツ人宣教師{{仮リンク|イグナーツ・ケーグラー|en|Ignaz Kögler}}(戴進賢)らが編纂し、[[清|清朝]][[乾隆帝]]治世の[[1752年]]に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、カシオペヤ座の星は、天の北極近くの区域である[[三垣]]の1つで天の北極を中心とする「[[紫微垣]]」と、二十八宿の[[玄武|北方玄武]]七宿の第六宿「[[室宿]]」、[[白虎|西方白虎]]七宿の第一宿「[[奎宿]]」に配されていたとされる{{Sfn|伊世同|1981|pp=140-141}}。

紫微垣では、不明の星1つと40・HD 7389・31・&phi;・43・&omega;の計7星が[[天子]]の車に被せられる飾りのついた蓋を表す[[星官]]「華蓋」に、HD 19275・49・51・[[カシオペヤ座50番星|50]]・54・48・42・38の8星が華蓋の柄(え)を表す星官「杠」に、23番星が紫微垣の左の垣を表す星官「紫微左垣」の「少丞」に、16・32・55・HD 17948の4星が[[食客]]のための宿舎を表す星官「伝舎」に、それぞれ配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=140-141}}{{R|Osaki1987_1}}。室宿では、&sigma;・&rho;・&tau;・ARの4星が空を飛ぶ蛇身の怪物を表す「[[螣蛇]]」に配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=140-141}}{{R|Osaki1987_1}}。奎宿では、&beta;・[[カシオペヤ座カッパ星|&kappa;]]・&eta;・&alpha;・&lambda;の5星が[[春秋時代]][[晋 (春秋)|晋]]の政治家[[趙無恤|趙襄子]]の御者で馬術の名人であった王良を表す星官「王良」に、&gamma;星が御者の使う鞭を表す星官「策」に、&zeta;星が閣道の別道を表す星官「附路」に、[[カシオペヤ座イオタ星|&iota;]]・&epsilon;・&delta;・[[カシオペヤ座シータ星|&theta;]]・&nu;・&omicron;の6星が宮殿と宮殿を繋ぐ渡り廊下を表す星官「閣道」に、それぞれ配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=140-141}}{{R|Osaki1987_1}}。


== 神話 ==
== 神話 ==
エラトステネースの『カタステリスモイ』やヒュギーヌスの『天文詩 ({{Lang-la-short|De Astronomica}})』では、[[紀元前5世紀]]の[[ソポクレス]]や[[エウリピデス|エウリーピデース]]の[[戯曲]]『アンドロメダー』にその物語が伝えられているとしている{{R|Condos1997}}。これらの戯曲はいずれも現存していないが、以下の伝承が伝えられている{{R|Ridpath}}。
[[File:Sidney Hall - Urania's Mirror - Cassiopeia (image right side up).jpg|thumb|『[[ウラニアの鏡]]』に描かれたカシオペヤ座]]
[[カッシオペイア]](カシオペヤ)は、エティオピア王[[ケーペウス]]([[ケフェウス座]]の由来である)の妻で王妃であり、[[アンドロメダー]]姫([[アンドロメダ座]]の由来である)の母親である{{R|ridpath|hosizora}}。自慢好きの王妃で、カッシオペイアが「自分の美貌は[[ネーレーイス]](ネレイス、海の[[ニュムペー]])に優る」とうぬぼれたことに腹を立てたネーレーイスたちが[[ポセイドーン]]に訴えたところ、[[ポセイドーン]]はエティオピアに海の怪物[[ケートス]]([[くじら座]])を遣わし、災害を引き起こした{{R|ridpath}}。ケーペウスが神託を立てたところ、災害を止めるにはアンドロメダーをケートスに生贄として捧げなければならないとのことだった。神託に従ってアンドロメダーは生贄に出されたが、勇者[[ペルセウス]]([[ペルセウス座]])によって助けられた{{R|ridpath|hosizora}}。


ある日、カッシオペイアは「自分は海の[[ニュムペー]]の[[ネーレーイス]]よりも美しい」と自惚れた。[[ポセイドーン]]の妻でネーレーイスの[[アムピトリーテー]]とその姉妹たちは、カッシオペイアの自惚れを罰するようポセイドーンに訴え出た。彼女らの訴えを聞き入れたポセイドーンは、エチオピアに海の怪物[[ケートス]]を遣わし、災害を引き起こさせた{{R|Ridpath}}。困り果てたエチオピア王[[ケーペウス]]が神託を立てたところ、「災害を止めるにはアンドロメダーを生贄としてケートスに捧げなければならない」という神託が下った。ケーペウスは神託に従ってアンドロメダーを生贄に出したが、たまたま通りがかった勇者[[ペルセウス]]によってケートスは倒され、アンドロメダーは救い出された{{R|Ridpath}}。その後、ペルセウスとアンドロメダー、ケーペウス、カッシオペイアは天に上げられ星座とされたが、玉座に座った姿で天に上げられたカッシオペイアは、彼女の不敬ゆえに頭を下にして天を回転させられている、とされる{{R|Condos1997}}。
カシオペヤ座は北半球の大部分の地域では水平線下に没することがない。これは、ポセイドンが彼女が海の下に降りて休息することを許さず、ために彼女は常に天空を巡り続けているからであるという。


== 呼称と方言 ==
== 呼称と方言 ==
世界で共通して使用されるラテン語の学名は Cassiopeia、日本語の学術用語としては「'''カシオペヤ'''」とそれぞれ正式に定められている{{Sfn|学術用語集:天文学編(増訂版)|1994|pp=305-306}}。

明治初期の[[1874年]](明治7年)に[[文部省]]より出版された[[関藤成緒]]の天文書『星学捷径』で「'''カッシオペイア'''」という読みと「'''椅子ニ踞シタル女王'''」という解説が紹介された{{R|Sekito1874}}。また、[[1879年]](明治12年)に[[ノーマン・ロッキャー]]の著書『Elements of Astronomy』を訳して刊行された『洛氏天文学』では「'''カスシオペイア'''」と紹介された{{R|Rakushi}}。30年ほど時代を下った明治後期には「'''カシオペイア'''」と呼ばれていたことが、[[1908年]](明治41年)4月に創刊された[[日本天文学会]]の会報『天文月報』の第1巻1号に掲載された「四月の天」と題した記事で確認できる{{R|AH190804}}。この訳名は、[[東京天文台]]の編集により[[1925年]](大正14年)に初版が刊行された『[[理科年表]]』にも「'''カシオペイア'''」として引き継がれ{{R|Rika_1925}}、[[1944年]](昭和19年)に天文学用語が見直しされた際も「'''カシオペイア'''」が継続して使用されることとされた{{R|1944jutsugo}}。

これに対して、[[東亜天文学会|天文同好会]]{{efn2|現在の[[東亜天文学会]]。}}の[[山本一清]]らは異なる読みを充てていた。天文同好会の編集により[[1928年]](昭和3年)4月に刊行された『[[天文年鑑]]』第1号では、星座名 Cassiopeia に対して「'''カシオペア'''」の読みを充てた{{R|nenkan1928}}。しかし、翌1929年(昭和4年)刊行の第2号ではこれを「'''カシオペヤ'''」と改め{{R|nenkan1929}}、以降の号でもこの表記を継続して用いた{{R|nenkan1937}}。これについて山本は東亜天文学会の会誌『[[天界]]』1934年4月号の「天文用語に關する私見と主張 (2)」という記事の中で{{行内引用|Cassiopeia はフランス語で Cassiopée と書く.それで,筆者も以前には「カシオペ」と屡々書いた.しかし,叉,考へ直して,今日我が國のインテリゲンチャたちは,やはり,「カシオペ」よりも「カシオペヤ」と書いた方が,女性名詞としてのより自然な感じを受けるだらうと思ひ,最近は改めた.Cassiopeia を「カシオペイア」と書く人があるが,之れは實に滑稽である.ラテン語を知つて居る人には,わかつてゐる通り,ラテン語の i は子音としても用ゐられる.現にドイツ語でも,Cassiopeia は Cassiopeja と譯してゐるではないか! 故に,日本語では -ia は單に -ヤ と書くのが好いのである.}}{{R|Yamamoto1934}}と述べている。

戦後も継続して「カシオペイア」が使われていた{{R|Rika_1949}}が、[[1952年]](昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」{{Sfn|学術用語集:天文学編(増訂版)|1994|p=316}}とした際に、Cassiopeia の日本語名は「'''カシオペヤ'''」と改められた{{R|AH195210}}。以降は「カシオペヤ」という表記が継続して用いられている。

このように、学術用語としての星座名は'''カシオペイア'''または'''カシオペヤ'''という表記が用いられ、現在は明確に'''カシオペヤ'''と定められているが、集英社国語辞典・[[新明解国語辞典]]・[[日本国語大辞典]]などの国語辞典のように '''カシオペア座'''を見出し語として採用している辞典もある{{R|mainichi-kotoba}}。

現代の中国では、'''仙后座'''{{Sfn|伊世同|1981|p=131}}{{R|Osaki1987_2}}と呼ばれている。

=== 方言 ===
{{See also|[[星・星座に関する方言#カシオペヤ座|カシオペヤ座の方言]]}}
{{See also|[[星・星座に関する方言#カシオペヤ座|カシオペヤ座の方言]]}}
その特徴的な'''W'''の形から「[[錨]]」「山形星」などの呼称が伝わっている。
日本各地に、その特徴的な'''W'''の形を成す5つのの総称としての呼称が伝わっている。


構成する星の数から、[[静岡県]][[静岡市]]、[[埼玉県]][[さいたま市]][[浦和区]]・[[所沢市]]・[[上尾市]]・[[秩父郡]][[横瀬町]]・[[皆野町]]、[[千葉県]][[成田市]]、[[東京都]][[西多摩郡]][[檜原村]]、[[神奈川県]][[相模原市]][[藤野町|藤野]]に「'''イツツボシ'''(五つ星)」、[[山梨県]][[上野原市]]に「'''イツボシ'''(五星)」、[[茨城県]][[坂東市]][[岩井市|岩井]]に「'''ゴヨセボシ'''(五寄せ星)」という呼称が伝わっている{{R|Kitao2018}}。星の並びから、[[愛媛県]][[西条市]]や[[京都府]][[綾部市]]ではWの形を山に見立てた「'''ヤマガタボシ'''(山形星)」、[[大分県]][[中津市]]には、Wの2つの角がずれていることを指した「'''カドチガイボシ'''」とした呼称が伝えられている{{R|Kitao2018}}。天球上での動きから、子の星(北極星)を食べようとする七曜の星(北斗七星)を追い払って守る星と見立てて「'''ヤライノホシ'''」という呼称も伝えられている{{R|Kitao2018}}。また、W字を船の[[錨]]に見立てた呼び名として、[[香川県]][[観音寺市]]に「'''イカリボッサン'''」、[[宮城県]][[仙台市]][[泉区 (仙台市)|泉区]][[根白石]]・[[大沢 (仙台市泉区)|大沢]]、静岡県[[焼津市]]・静岡市、神奈川県相模原市藤野、香川県[[東かがわ市]]に「'''イカリボシ'''」という呼称が伝わっている{{R|Kitao2018}}。信仰に由来する呼び名として、静岡県[[御前崎市]]白羽に「'''ゴヨウ'''(五曜)」、埼玉県秩父郡横瀬町に「'''ゴヨウセイ'''」、静岡県焼津市・[[牧之原市]]静波に「'''クヨー'''(九曜)」、焼津市・静岡市鷹匠に「'''クヨーノホシ'''」、[[兵庫県]][[宍粟郡]]に「'''ホクヨウセイ'''(北曜星)」という呼称が伝えられている{{R|Kitao2018}}。この他、兵庫県姫路市北条にはWを弓に見立てた「'''ユミボシ'''(弓星)」、同市網干には英文字に見立てた「'''エイモンジボシ'''(英文字星)」という比較的新しい呼称も採集されている{{R|Kitao2018}}。
日本では、1944年1月に[[日本学術会議|学術研究会議]]から刊行された小冊子で'''カシオペイア座'''を正式とし、'''カシオペヤ座'''も並行して使ってよいとされた{{R|hara}}。その後、1957年から1960年にかけての日本学術会議で議論の結果、'''カシオペヤ座'''のみが正式な呼称とされ{{R|hara}}、1989年に刊行された「[[学術用語集]]」天文学編(増訂版)でもこの結論が引き継がれている<ref name="ost"/>。しかし、'''カシオペア座'''と誤表記されるケースも見られ{{R|jaxa}}、[[日本国語大辞典]]など見出し語にカシオペア座を採用している国語辞典もある<ref>{{Cite web|url=https://mainichi-kotoba.jp/enq-379|title=日本では「いかり(錨)星」とも|date=2021-09-02|website=毎日ことば|accessdate=2021-09-02}}</ref>。


== カシオペヤ座に由来する事物 ==
== カシオペヤ座に由来する事物 ==
{{Main|星座を扱った事物}}<!--各種作品についてはこちらにお願いします-->
{{Main|星座を扱った事物}}<!--各種作品についてはこちらにお願いします-->


== 出典 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Commons&cat|Cassiopeia|Cassiopeia_(constellation)}}

{{Wiktionary|カシオペヤ座}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|refs=
{{Notelist2}}
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| title=Results for NAME SCHEDAR
=== 出典 ===
| work=[[SIMBAD]] Astronomical Database|publisher=[[ストラスブール天文データセンター|CDS]]
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| publisher=恒星社厚生閣 | date=2007-02-28 | edition=新装改訂版第4刷 | isbn=4-7699-0825-3 | ref=harv}}
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{{Wiktionary|カシオペヤ座}}


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2023年10月27日 (金) 12:35時点における版

カシオペヤ座
Cassiopeia
Cassiopeia
属格 Cassiopeiae
略符 Cas
発音 [ˌkæsi.ɵˈpiː.ə] Cássiopéia, 口語的に/ˌkæsiˈoʊpiː.ə/ Cássiópeia; 属格 /ˌkæsi.ɵˈpiː.iː/
象徴 カッシオペイア
概略位置:赤経  22h 57m 04.6s -  03h 41m 14.1s[1]
概略位置:赤緯 +77.69° - +46.68°[1]
20時正中 12月上旬[2]
広さ 598.407平方度[3]25位
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
53
3.0等より明るい恒星数 4
最輝星 α Cas(2.23
メシエ天体 2
確定流星群 ペルセウス座流星群[注 1]
6月カシオペヤ座μ流星群
カシオペヤ座ψ流星群
12月カシオペヤ座φ流星群[6]
隣接する星座 きりん座
ケフェウス座
とかげ座
アンドロメダ座
ペルセウス座
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カシオペヤ座カシオペヤざラテン語: Cassiopeia)は、現代の88星座の1つで、プトレマイオスの48星座の1つ[7]古代ギリシアの伝承に登場するエチオピアの王妃カッシオペイアをモチーフとしている[8]。3個の2等星と2個の3等星が、ラテン文字のWの形に並ぶ姿で知られる。このW字は、天の北極を探すための指極星として用いられる。北緯44°より北の地域では、星座全体が地平線に沈むことのない周極星となる。

星座名の正式な日本語表記は「カシオペヤ」と定められているが、いくつかの国語辞典では見出し語を「カシオペア座」とするものもある[9]

主な天体

恒星

α・β・γの3つの2等星がある[10][11][12]。5等星のρ星とV509星は、非常に珍しい黄色極超巨星に分類される大質量星である。

2023年9月現在、国際天文学連合 (IAU) によって8個の恒星に固有名が認証されている[13]

  • α星太陽系から約231 光年の距離にある、見かけの明るさ2.23 等、スペクトル型K0-IIIaの巨星で、2等星[10]。カシオペヤ座で最も明るく見える。固有名の「シェダル[4](Schedar[13])」は、アラビア語で「胸」を意味する言葉に由来する[14]
  • β星:見かけの明るさ2.27 等、スペクトル型F2IIIの巨星で、2等星[11]。ほぼ赤経0h に位置しているため、恒星時を計るための大まかな指針として使われる。2.30 等のA星と12.45 等のB星から成る連星系で、約27日の周期で互いを周回している[15]。A星はたて座デルタ型変光星に分類される脈動変光星で、約0.1 日の周期で0.03 等の振幅で変光する[16]。固有名の「カフ[4](Caph[13])」は、アラビア語で「染められた手」という意味の言葉に由来する[14]
  • δ星:太陽系から約102 光年の距離にある、見かけの明るさ2.680 等、スペクトル型A5IV の準巨星で、3等星[17]おうし座ヒアデス星団と同じ分子雲で生まれたヒアデス運動星団 (: Hyades Moving Group) の一員と考えられている[17]。固有名の「ルクバー[4](Ruchbah[13])」は、アラビア語で「膝」を意味する言葉に由来する[14]
  • ε星:太陽系から約466 光年の距離にある、見かけの明るさ3.37 等、スペクトル型B3Vp_sh のB型主系列星[18]。固有名の「セギン[4](Segin[13])」は、おそらくうしかい座γ星の固有名セギヌス (Seginus) が転訛したものであろうと考えられている[19]
  • ζ星:太陽系から約355 光年の距離にある、見かけの明るさ3.66 等、スペクトル型B2IV の準巨星で、4等星[20]。Aa星の固有名「フールー[4](附路、Fulu[13])」は、この星が中国の天文学において二十八宿の1つ「奎宿」にある星官「附路」に充てられていたことから認証された[13]
  • η星:太陽系から約19.3 光年の距離にある、見かけの明るさ3.44 等、スペクトル型F9V の主系列星で、3等星[21]。3.52 等のA星と7.36 等のB星から成る連星系で、A星の固有名「アキルド[4](Achird[13])」は、ε星と同じくスロバキアの天文学者アントニーン・ベチュヴァーシュが1951年に刊行した『スカルナテ・プレソ星図』に付された星表で初めて登場した由来不明の名称[19]だが、2017年にIAUの恒星の命名に関するワーキンググループ (WGSN) によって認証された[13]
  • υ2:太陽系から約196 光年の距離にある、見かけの明るさ4.622 等、スペクトル型G8.5IIIbFe-0.5 の化学特異星で、5等星[22]中心核での水素核融合を終えて、ヘリウム核燃焼を始めた水平分枝の段階にあると考えられている[23]。また、スペクトル中にバリウムの強い吸収線を示すことからバリウム星に分類されていることから、既に白色矮星に進化した未発見の伴星が存在しており、その星が漸近巨星分枝だった頃に合成されたs過程元素を多く含む物質が主星の表面に降着したものと考えられている[24]。A星の固有名「カストゥラ[4](Castula[13])」は、ヨハン・バイエルの天文書『ウラノメトリア』でυ星の位置を「ペチコートのようなもの」を意味する castulam と形容したことに由来する[25][注 2]
  • HD 17156:太陽系から約253 光年の距離にある、見かけの明るさ8.16 等、スペクトル型F9V の主系列星で、8等星[27]。IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoWorlds」でアメリカ合衆国に命名権が与えられ、主星はNushagak、太陽系外惑星はMulchatnaと命名された[28]

このほか、以下の恒星が知られている。

  • γ星:太陽系から約382 光年の距離にある、見かけの明るさ2.39 等、スペクトル型B0.5IVpeの化学特異星で、2等星[12]。強力なX線を放出しており、スペクトル中に水素の強い輝線が見られるBe星の主星Aと白色矮星の伴星BからなるX線連星であると考えられている[29]。主星のA星は「カシオペヤ座γ型変光星」のプロトタイプとされる爆発型変光星で、その明るさを1.60 等から3.00 等まで大きく変化させる[30]。中国の天文学において二十八宿の1つ「奎宿」にある乗馬に使う鞭を表す星官「策」に充てられていたことから「ツィー[31](Tsih[32])」という名前で呼ばれることもある。また、アメリカ合衆国宇宙飛行士アポロ1号の搭乗員であったガス・グリソムのミドルネーム Ivan の綴りを前後逆にした Navi という通称でも知られる[33]
  • μ星:太陽系から約25 光年の距離にある、G型主系列星のA星と赤色矮星のB星からなる連星系で、5等星[34]。2020年の研究では、連星系の年齢は127億±27億 歳で、おそらく肉眼で見える恒星としては全天で最も古い星であるとしている[35]
  • ρ星:見かけの明るさ4.59 等、スペクトル型G2_0 の黄色極超巨星で、5等星[36]1901年エドワード・ピッカリングの下で写真乾板の解析をしていたLouisa Wellsによって変光星であることが発見された[37]。1945年以降、4回の大きなアウトバーストを起こしている[38]主系列星から低温で巨大な赤色超巨星に進化した後に、再び高温の星となる段階にあると考えられている[39]
  • R星:太陽系から約568 光年の距離にあるミラ型変光星[40]1853年イギリスの天文学者ノーマン・ポグソンによって発見された[41]。約430日の周期で最大4.7 等から最小13.5 等までの範囲で見かけの明るさを変える[41]が、1周期の光度の振幅は6等級前後である[42]
  • V509星:見かけの明るさ5.13 等、スペクトル型G4_0 の黄色極超巨星で、5等星[43]。ρ星と同じく赤色超巨星の段階から再び高温の星となる段階にあると考えられている[44]1978年の研究からB型主系列星の伴星の存在が示唆されている[44]

アステリズム

α・β・γ・δ・ε の5つの星が形作る「W」字のアステリズムは、北極星のある方角を知るための指極星として用いられている[45]

カシオペヤ座のWから北極星を見つける方法。βとα、εとδ をそれぞれ結んだ線分を2つの線が交わるまで拡張する。2つの線の交点からW字の中心の星 (γ) に向けて線で繋ぎ、その線分を5倍に伸ばしたあたりに天の北極や北極星を見つけることができる。

星団・星雲・銀河

メシエ天体に数えられる散開星団が2つ位置している。また、6つの天体がパトリック・ムーア英語版がアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだ「コールドウェルカタログ」に選ばれている[46]。また、16世紀から17世紀にかけて地球に光が届いた2つの超新星爆発残骸がある。

  • M52:太陽系から約5,400 光年の距離にある散開星団[47]1774年9月7日、シャルル・メシエが発見した[48]
  • M103:太陽系から約6,700 光年の距離にある散開星団[49]1781年ピエール・メシャンが発見した[50]。メシエが編纂したメシエカタログで最後に収録された。すぐ隣にあるNGC 663 のほうが星が多く見栄えもすることから、M103と間違えられることもある[50]
  • NGC 559:太陽系から約9,400 光年の距離にある散開星団[51]。コールドウェルカタログの8番に選ばれている[46]
  • NGC 663:太陽系から約9,600 光年の距離にある散開星団[52]。コールドウェルカタログの10番に選ばれている[46]。7 等級と明るい星団で、東西に2つの星の集団が並んでいる姿を馬の蹄に喩えて Horseshoe cluster と呼ばれることもある[53]
  • NGC 7635:太陽系から約7,900 光年の距離にあり、M52のすぐ隣に見える散光星雲[54]。コールドウェルカタログの11番に選ばれている[46]1787年にイギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルによって発見された[55]。そのシャボン玉のような見た目から「バブル星雲[56](Bubble Nebula[54])」という通称でも知られる[54]。星雲内にあるO型の大質量星BD +60°2522 から放たれる恒星風によって形成されたと考えられており、BD +60°2522は1000万-2000万年後に超新星爆発を起こすと予測されている[55]
  • NGC 457:散開星団[57]。コールドウェルカタログの13番に選ばれている[46]。5等星のφ1と7等星のφ2が目のように見えることから「ふくろう星団 (Owl Cluster[57])」や「ET星団 (ET Cluster[57])」と呼ばれることもある。
  • NGC 147:天の川銀河から約248万 光年の距離にある矮小楕円銀河[58]。コールドウェルカタログの17番に選ばれている[46]1829年9月8日にイギリスの天文学者ジョン・ハーシェルが発見した[59]1944年、ドイツ生まれのアメリカの天文学者ウォルター・バーデによって、近くにあるNGC 185とともに局所銀河群に属していることが発見された[59][60]。NGC 185と共にM31(アンドロメダ銀河)の伴銀河となっているが、現在はM31よりも天の川銀河のほうがより近い位置にある[59]
  • NGC 185:天の川銀河から約215万 光年の距離にある矮小楕円銀河[61]。コールドウェルカタログの18番に選ばれている[46]。1787年11月30日にウィリアム・ハーシェルが発見した[62]。2016年の研究によると、NGC 147では約69億年前から約30億年前にかけて盛んに星形成されたが3億年前にはほとんど星形成されなくなったのに対して、NGC 185では約83億年前に星形成のピークを迎えた後、率は大きく落ちたもののある程度コンスタントに星形成が続いている、とされた[63]
  • SN 1572A1572年に観測された超新星で、ティコ・ブラーエが詳細な観測記録を残したことから「ティコの超新星[64](Tycho's Supernova)」の名前で知られる[65]。その超新星残骸のX線のスペクトルからIa型超新星と推測されており、周辺の残骸から届く光エコーのスペクトルを解析した2008年の研究により、標準的なIa型超新星であったことが判明した[66][67]
  • カシオペヤ座A:全天で最も強力な電波源の1つとされる超新星残骸[68]。超新星残骸の膨張速度からの逆算により、1681±19年頃に超新星爆発の光が太陽系に到達したと推測されている[69]が、明らかな観測記録は残されていない[70]。周辺の残骸から届く光エコーのスペクトルを解析した2008年の研究により、IIb型超新星であったことが判明した[70]

流星群

カシオペヤ座の領域内に放射点がある流星群のうち、IAUの流星データセンター (IAU Meteor Data Center) で確定された流星群 (Established meteor showers) とされているものは、ペルセウス座流星群 (Perseids)[注 1]、6月カシオペヤ座μ流星群 (June mu-Cassiopeiids)、カシオペヤ座ψ流星群 (psi-Cassiopeiids)、12月カシオペヤ座φ流星群 (December phi-Cassiopeiids) の4つである[6]。毎年8月13日前後に極大を迎えるペルセウス座流星群は、12月のふたご座流星群、1月のしぶんぎ座流星群とともにいわゆる三大流星群の1つとされる[71]

由来と歴史

19世紀イギリスで販売された星座カード集『ウラニアの鏡』に描かれたカシオペヤ座。

この星座のモチーフとされたのは、古代ギリシアの伝承に登場するエチオピア王ケーペウスの妃で、王女アンドロメダーの母親とされるカッシオペイアである[7]

星座としてのカシオペヤは、紀元前4世紀の古代ギリシアの天文学者クニドスのエウドクソスの著書『ファイノメナ (古希: Φαινόμενα)』に名前が挙げられていた。エウドクソスの『ファイノメナ』は現存していないが、これを元に詩作したとされる紀元前3世紀前半のマケドニアの詩人アラートスの詩篇『ファイノメナ (古希: Φαινόμενα)』にはカシオペヤ座を詠った詩が収められており、アラートスはこの星座の特徴的な形状を「鍵」に喩えている[72]

カシオペヤ座に属する星の数は、紀元前3世紀後半の天文学者エラトステネースの天文書『カタステリスモイ (古希: Καταστερισμοί)』では15個、1世紀初頭の古代ローマの著作家ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスの『天文詩 (: De Astronomica)』では14個、帝政ローマ期の2世紀頃のクラウディオス・プトレマイオスの天文書『ヘー・メガレー・スュンタクスィス・テース・アストロノミアース (古希: ἡ Μεγάλη Σύνταξις τῆς Ἀστρονομίας)』、いわゆる『アルマゲスト』では13個とされた[73]

9世紀から15世紀にかけての挿し絵では、両手を広げたカッシオペイアの姿が描かれていたが[7][74]、ドイツの版画家アルブレヒト・デューラー1515年に製作した星図では左手にヤシの葉を携えて玉座から身を乗り出すような姿で描かれている[7]。さらに17世紀フランスの天文学者オギュスタン・ロワイエ1679年に著した星図では、左手にヤシの葉を携えて玉座に深く腰掛けた姿が描かれた[75]。ヤシの葉はキリスト教の殉教のシンボルであるため、17世紀の星図にはカッシオペイアの姿ではなくマグダラのマリアソロモンの母バト・シェバ、ヤシの木の下で裁きをおこなったデボラなどが描かれることもあった[75]

1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Cassiopeia、略称は Cas と正式に定められた[76]

中東

10世紀のペルシアの天文学者アブドゥッラハマーン・スーフィーが、『アルマゲスト』を元に964年頃に著した天文書『星座の書』では、「玉座にある女」を意味する Dhāt al-Kursīy という星座名が付けられ、13個の星があるとされた[77]

アラブの一部では、α・β・γ・δ・εの5つの星群を「染められた手」を意味する al-kaf al-khadib とも呼んでいた[78]。これは、アラブの女性が手や足にヘナと呼ばれる植物性の赤い染料を塗るという習慣に由来するものと考えられており[75]、β星の固有名カフ (Caph) の由来ともなっている[14]。この手は、アラビアの月宿で第3宿とされたプレヤデス星団[79] ath-thuraya (al-thurayya) を頭として、そこからくじら座カシオペヤ座に伸びる2つの腕を持つ巨大なアステリズムの一部であった[78]。一方、この「染められた手」は、ムハンマドの娘ファーティマの血に染まった手であるとする伝承もある[75]

また、アンドロメダ座ペルセウス座の星々と合わせて大きなヒトコブラクダの姿に見立てられることもあった[75]。このラクダの中でカシオペヤ座の星々は胴体を成しており、W字の5星はコブから臀部にかけてを構成していた[75]

中国

ドイツ人宣教師イグナーツ・ケーグラー英語版(戴進賢)らが編纂し、清朝乾隆帝治世の1752年に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、カシオペヤ座の星は、天の北極近くの区域である三垣の1つで天の北極を中心とする「紫微垣」と、二十八宿の北方玄武七宿の第六宿「室宿」、西方白虎七宿の第一宿「奎宿」に配されていたとされる[80]

紫微垣では、不明の星1つと40・HD 7389・31・φ・43・ωの計7星が天子の車に被せられる飾りのついた蓋を表す星官「華蓋」に、HD 19275・49・51・50・54・48・42・38の8星が華蓋の柄(え)を表す星官「杠」に、23番星が紫微垣の左の垣を表す星官「紫微左垣」の「少丞」に、16・32・55・HD 17948の4星が食客のための宿舎を表す星官「伝舎」に、それぞれ配された[80][81]。室宿では、σ・ρ・τ・ARの4星が空を飛ぶ蛇身の怪物を表す「螣蛇」に配された[80][81]。奎宿では、β・κ・η・α・λの5星が春秋時代の政治家趙襄子の御者で馬術の名人であった王良を表す星官「王良」に、γ星が御者の使う鞭を表す星官「策」に、ζ星が閣道の別道を表す星官「附路」に、ι・ε・δ・θ・ν・οの6星が宮殿と宮殿を繋ぐ渡り廊下を表す星官「閣道」に、それぞれ配された[80][81]

神話

エラトステネースの『カタステリスモイ』やヒュギーヌスの『天文詩 (: De Astronomica)』では、紀元前5世紀ソポクレスエウリーピデース戯曲『アンドロメダー』にその物語が伝えられているとしている[73]。これらの戯曲はいずれも現存していないが、以下の伝承が伝えられている[7]

ある日、カッシオペイアは「自分は海のニュムペーネーレーイスよりも美しい」と自惚れた。ポセイドーンの妻でネーレーイスのアムピトリーテーとその姉妹たちは、カッシオペイアの自惚れを罰するようポセイドーンに訴え出た。彼女らの訴えを聞き入れたポセイドーンは、エチオピアに海の怪物ケートスを遣わし、災害を引き起こさせた[7]。困り果てたエチオピア王ケーペウスが神託を立てたところ、「災害を止めるにはアンドロメダーを生贄としてケートスに捧げなければならない」という神託が下った。ケーペウスは神託に従ってアンドロメダーを生贄に出したが、たまたま通りがかった勇者ペルセウスによってケートスは倒され、アンドロメダーは救い出された[7]。その後、ペルセウスとアンドロメダー、ケーペウス、カッシオペイアは天に上げられ星座とされたが、玉座に座った姿で天に上げられたカッシオペイアは、彼女の不敬ゆえに頭を下にして天を回転させられている、とされる[73]

呼称と方言

世界で共通して使用されるラテン語の学名は Cassiopeia、日本語の学術用語としては「カシオペヤ」とそれぞれ正式に定められている[82]

明治初期の1874年(明治7年)に文部省より出版された関藤成緒の天文書『星学捷径』で「カッシオペイア」という読みと「椅子ニ踞シタル女王」という解説が紹介された[83]。また、1879年(明治12年)にノーマン・ロッキャーの著書『Elements of Astronomy』を訳して刊行された『洛氏天文学』では「カスシオペイア」と紹介された[84]。30年ほど時代を下った明治後期には「カシオペイア」と呼ばれていたことが、1908年(明治41年)4月に創刊された日本天文学会の会報『天文月報』の第1巻1号に掲載された「四月の天」と題した記事で確認できる[85]。この訳名は、東京天文台の編集により1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「カシオペイア」として引き継がれ[86]1944年(昭和19年)に天文学用語が見直しされた際も「カシオペイア」が継続して使用されることとされた[87]

これに対して、天文同好会[注 3]山本一清らは異なる読みを充てていた。天文同好会の編集により1928年(昭和3年)4月に刊行された『天文年鑑』第1号では、星座名 Cassiopeia に対して「カシオペア」の読みを充てた[88]。しかし、翌1929年(昭和4年)刊行の第2号ではこれを「カシオペヤ」と改め[89]、以降の号でもこの表記を継続して用いた[90]。これについて山本は東亜天文学会の会誌『天界』1934年4月号の「天文用語に關する私見と主張 (2)」という記事の中でCassiopeia はフランス語で Cassiopée と書く.それで,筆者も以前には「カシオペ」と屡々書いた.しかし,叉,考へ直して,今日我が國のインテリゲンチャたちは,やはり,「カシオペ」よりも「カシオペヤ」と書いた方が,女性名詞としてのより自然な感じを受けるだらうと思ひ,最近は改めた.Cassiopeia を「カシオペイア」と書く人があるが,之れは實に滑稽である.ラテン語を知つて居る人には,わかつてゐる通り,ラテン語の i は子音としても用ゐられる.現にドイツ語でも,Cassiopeia は Cassiopeja と譯してゐるではないか! 故に,日本語では -ia は單に -ヤ と書くのが好いのである.[91]と述べている。

戦後も継続して「カシオペイア」が使われていた[92]が、1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[93]とした際に、Cassiopeia の日本語名は「カシオペヤ」と改められた[94]。以降は「カシオペヤ」という表記が継続して用いられている。

このように、学術用語としての星座名はカシオペイアまたはカシオペヤという表記が用いられ、現在は明確にカシオペヤと定められているが、集英社国語辞典・新明解国語辞典日本国語大辞典などの国語辞典のように カシオペア座を見出し語として採用している辞典もある[9]

現代の中国では、仙后座[95][96]と呼ばれている。

方言

日本各地に、その特徴的なWの形を成す5つの星の総称としての呼称が伝わっている。

構成する星の数から、静岡県静岡市埼玉県さいたま市浦和区所沢市上尾市秩父郡横瀬町皆野町千葉県成田市東京都西多摩郡檜原村神奈川県相模原市藤野に「イツツボシ(五つ星)」、山梨県上野原市に「イツボシ(五星)」、茨城県坂東市岩井に「ゴヨセボシ(五寄せ星)」という呼称が伝わっている[97]。星の並びから、愛媛県西条市京都府綾部市ではWの形を山に見立てた「ヤマガタボシ(山形星)」、大分県中津市には、Wの2つの角がずれていることを指した「カドチガイボシ」とした呼称が伝えられている[97]。天球上での動きから、子の星(北極星)を食べようとする七曜の星(北斗七星)を追い払って守る星と見立てて「ヤライノホシ」という呼称も伝えられている[97]。また、W字を船のに見立てた呼び名として、香川県観音寺市に「イカリボッサン」、宮城県仙台市泉区根白石大沢、静岡県焼津市・静岡市、神奈川県相模原市藤野、香川県東かがわ市に「イカリボシ」という呼称が伝わっている[97]。信仰に由来する呼び名として、静岡県御前崎市白羽に「ゴヨウ(五曜)」、埼玉県秩父郡横瀬町に「ゴヨウセイ」、静岡県焼津市・牧之原市静波に「クヨー(九曜)」、焼津市・静岡市鷹匠に「クヨーノホシ」、兵庫県宍粟郡に「ホクヨウセイ(北曜星)」という呼称が伝えられている[97]。この他、兵庫県姫路市北条にはWを弓に見立てた「ユミボシ(弓星)」、同市網干には英文字に見立てた「エイモンジボシ(英文字星)」という比較的新しい呼称も採集されている[97]

カシオペヤ座に由来する事物

脚注

注釈

  1. ^ a b ペルセウス座流星群放射点は、ペルセウス座きりん座、カシオペヤ座の境界近くのカシオペヤ座の領域内に位置している[4][5]
  2. ^ 原恵ケフェウス座の項にこの固有名と由来を記述している[25]が、実際はカシオペヤ座のページにその記述がある[26]。また『ウラノメトリア』のケフェウス座にはυ星は存在しない[26]
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出典

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座標: 星図 01h 00m 00s, +60° 00′ 00″