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「ろくぶんぎ座」の版間の差分

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}}
'''ろくぶんぎ座'''{{R|Hara}}(ろくぶんぎざ、六分儀座、Sextans{{R|Hara|Ridpath}})は、[[しし座]]の南、[[天の赤道]]ある[[星座]]。5[[等級 (天文)|等級]]より明るい星1つしかな、目立たない星座である。
'''ろくぶんぎ座'''(ろくぶんぎざ、{{Lang-la|Sextans}})は、[[星座#国際天文学連合による88星座|現代の88星座]]の1つ{{R|IAU_constellations|Ridpath}}。[[17世紀]][[ヨハネス・ヘヴェリウス]]が考案した新しい[[星座]]で、[[六分儀]]がモチーフとされている{{R|IAU_constellations|Ridpath}}

== 特徴 ==
[[File:SextansCC.jpg|thumb|360px|center|ろくぶんぎ座の全体像。ろくぶんぎ座の上の輝星は[[しし座]]&alpha;星[[レグルス]]、右の輝星は[[うみへび座]]&alpha;星[[アルファルド]]が見える。]]
北を[[しし座]]、南を[[うみへび座]]、南東を[[コップ座]]に囲まれている{{R|StellaNavigator11}}。[[天の赤道]]をまたぐように位置しているため、[[エクメーネ|人類が居住しているほぼ全ての地域]]から星座の全域を観望することができる。20時[[正中]]は4月下旬頃{{R|Yamada2023}}、北半球では春の星座とされ{{Sfn|原恵|2007|pp=66-67}}、早春から晩春にかけて観望できる{{R|StellaNavigator11}}。明るい星のない、目立たない星座である{{Sfn|原恵|2007|pp=89-92}}。

== 由来と歴史 ==
17世紀末に[[ポーランド]]生まれの天文学者[[ヨハネス・ヘヴェリウス]]によって考案された{{R|Ridpath}}。ヘヴェリウスの死後の[[1690年]]に妻によって出版された著書『Prodromus Astronomiae』に収められた星表『Catalogus Stellarum』と星図『Firmamentum Sobiescianum』に '''Sextant Uraniæ''' という名称で記載されたのが初出である{{R|Ridpath}}。「最後の肉眼観測者」{{R|astro-dic}}と称されることもあるように、ヘヴェリウスは[[六分儀]]を用いた肉眼観測で天体の正確な位置観測を行っていた。しかし[[1679年]][[9月26日]]に起きた火災により、ヘヴェリウスは愛用の六分儀を含む観測機器や書籍の多くを失ってしまった。Sextant Uraniae は、この火災で失われた六分儀を偲んで考案されたものであり{{R|Ridpath}}、文芸を司る女神[[ムーサ]]の1柱で天文を司る[[ウーラニアー]]の六分儀とされた{{Sfn|原恵|2007|pp=89-92}}。Sextans Uraniæ を[[しし座]]と[[うみへび座]]の間に置いたことについてヘヴェリウスは『Prodromus Astronomiae』の中で「Sextans Uraniæ をしし座とうみへび座の間に置いたのは、そこが新しい星でいっぱいの最適な場所であるからではなく、占星術師によればしし座とうみへび座は共に火の性質を持つ星座であり、Sextans Uraniæ も完全に火の星座であると思われるからである。なぜなら、確かに Sextans Uraniæ は火、あの邪悪な火によって苦しめられ、ウゥルカーヌスが彼を連れ去り、疑わしき最期を遂げたからである。」としている{{R|Allen2013|Smyth1881|Hevelius1690_115}}。日本のアマチュア天文家の[[藤井旭]]や[[山田卓]]は「六分儀をしし座やうみへび座に守ってもらうため」と説明していた{{R|StudyStyle|Fujii2003|Yamada1993}}が、へヴェリウスがそのように述べた事実はない。

その後、[[イギリス]]の初代[[王室天文官]][[ジョン・フラムスティード]]が編纂し、死後の[[1725年]]に出版された星表『大英恒星目録 (Catalogus Britannicus)』や[[1729年]]に出版された星図『[[天球図譜]] (Atlas Coelestis)』では「Uraniæ」の部分が除かれて、'''Sextans''' と短縮された{{R|Ridpath|Flamsteed1729}}。この短縮された Sextans という星座名は、イギリスの天文学者[[フランシス・ベイリー]]が編纂し彼の死後[[1845年]]に刊行された『The Catalogue of Stars of the British Association for the Advancement of Science』でも採用された{{R|Ridpath}}。その一方で、[[1801年]]に出版された[[ドイツ]]の天文学者[[ヨハン・ボーデ]]の天文書『ウラノグラフィア』では原型の Sextans Uraniæ が使用されるなど{{R|Bode1801}}、天文学者によってまちまちであった。

現在のろくぶんぎ座の星に付されている[[バイエル符号]]風の[[ギリシア文字]]の符号は、[[アメリカ]]の天文学者[[ベンジャミン・グールド]]が[[1879年]]に刊行した『Uranographia Argentina』で付したものである{{R|Ridpath|Gould1879}}。グールドは明るいものから順に、5つの星に&alpha;から&epsilon;までの符号を付している{{R|Gould1879}}。

[[1922年]]5月に[[ローマ]]で開催された[[国際天文学連合]] (IAU) の設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は '''Sextans'''、略称は '''Sex''' と正式に定められた{{R|Ridpath2}}。
{{Gallery
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| Johannes & Elisabetha Hevelius Sextant 1673.png|ヨハネス・ヘヴェリウスの著書『Machinae Coelestis』(1673) に描かれたヘヴェリウス愛用の六分儀と、ヨハネスとエリザベータのヘヴェリウス夫妻。
| Sextans Uraniae (1690).jpg|ヨハネス・ヘヴェリウス『Prodromus Astronomiae』(1690) に描かれた Sextans Uraniæ。
| 1822 - Alexander Jamieson - Hydra Sextans Felis and Crater.jpg|[[アレクサンダー・ジェイミソン]]の『ジェミーソン星図』(1822) に描かれた Sextans Uraniæ。
| Sidney Hall - Urania's Mirror - Noctua, Corvus, Crater, Sextans Uraniæ, Hydra, Felis, Lupus, Centaurus, Antlia Pneumatica, Argo Navis, and Pyxis Nautica.jpg|19世紀イギリスの星座カード集『[[ウラニアの鏡]]』に描かれた Sextans Uraniæ(中央右)。
}}
=== 中国 ===
ドイツ人宣教師{{仮リンク|イグナーツ・ケーグラー|en|Ignaz Kögler}}(戴進賢)らが編纂し、[[清|清朝]][[乾隆帝]]治世の[[1752年]]に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、&epsilon;星と17番星の2星が、[[二十八宿]]の南方朱雀七宿の第四宿「[[星宿]]」にある星官「天相」に配されていた{{R|Osaki1987}}。
[[File:Imperial Encyclopaedia - Military Administration - pic014 - 星宿圖.png|thumb|center|360px|[[古今図書集成]]に描かれた星宿。ろくぶんぎ座の星は画像左側の星官「天相」に置かれた。]]

== 神話 ==
17世紀に作られた新しい星座のため、星座にまつわる神話や伝承はない{{R|Hayamizu2023}}。

== 呼称と方言 ==
[[ラテン語]]の学名 Sextans に対応する日本語の学術用語としての星座名は「'''ろくぶんぎ'''」と定められている{{Sfn|学術用語集:天文学編(増訂版)|1994|pp=305-306}}。現代の中国では'''六分仪座'''{{Sfn|伊世同|1981|p=131}}(六分儀座{{R|Osaki1987_2}})。

日本では、明治末期には「'''六分儀'''」という訳語が充てられていたことが、[[1910年]](明治43年)2月刊行の[[日本天文学会]]の会報『天文月報』第2巻11号に掲載された「星座名」という記事でうかがい知ることができる{{R|AH191002}}。この訳名は、[[1925年]](大正14年)に初版が刊行された『[[理科年表]]』にも「'''六分儀(ろくぶんぎ)'''」として引き継がれた{{R|Rika_1925}}。戦後の[[1952年]](昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」{{Sfn|学術用語集:天文学編(増訂版)|1994|p=316}}とした際に、Sextans の日本語の学名は「'''ろくぶんぎ'''」と定められ{{R|AH195210}}、これ以降は「ろくぶんぎ」という学名が継続して用いられている{{Sfn|学術用語集:天文学編(増訂版)|1994|pp=305-306}}。

これに対して、[[東亜天文学会|天文同好会]]{{efn2|現在の[[東亜天文学会]]。}}の[[山本一清]]らは異なる訳語を充てていた。天文同好会の編集により[[1928年]](昭和3年)4月に刊行された『[[天文年鑑]]』第1号では星座名 Sextans に対して「'''六分儀'''」の訳語を充てていた{{R|nenkan1928}}が、1931年(昭和6年)3月に刊行した『[[天文年鑑]]』第4号からは、星座名を Sextans Uraniae、訳名を「天の六分儀」と紹介し{{R|nenkan1931}}、以降の号でもこの星座名と訳名を継続して用いていた{{R|nenkan1937}}。


== 主な天体 ==
== 主な天体 ==
=== 恒星 ===
=== 恒星 ===
{{See also|ろくぶんぎ座の恒星の一覧}}
{{See also|ろくぶんぎ座の恒星の一覧}}
以下の恒星には、[[国際天文学連合]]によって固有名が定められている。
[[2024年]]6月現在、[[国際天文学連合]] (IAU) によって2個の恒星に固有名が認証されている{{R|iaucsn}}
; [[HD 86081]]
* [[HD 86081]]:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」で[[インド]]に命名権が与えられ、主星はBibhā、太陽系外惑星はSantamasaと命名された{{R|approved}}。
: [[太陽系]]から約337 [[光年]]の距離にある、[[見かけの等級|見かけの明るさ]]8.70 等、[[スペクトル分類|スペクトル型]] G1V の[[G型主系列星]]で、9等星{{R|simbad_HD86081}}。IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」で[[インド]]に命名権が与えられ、主星はBibhā、太陽系外惑星はSantamasaと命名された{{R|approved}}。

; [[WASP-43]]
その他の特徴ある恒星として以下のものがある。
: 太陽系から約284 光年の距離にある、見かけの明るさ12.4 等、スペクトル型 K7V の[[K型主系列星]]で、12等星{{R|simbad_WASP-43|EPE_WASP-43b}}。[[2022年]]に開催されたIAUの太陽系外惑星命名キャンペーン「NameExoWorlds 2022」で[[ルーマニア]]のグループからの提案が採用され、主星は '''Gnomon'''、太陽系外惑星は Astrolábos と命名された{{R|approved2022}}。
* [[ろくぶんぎ座アルファ星|&alpha;星]]:ろくぶんぎ座で最も明るい恒星(+4.49等)。
そのほか以下の恒星が知られる。
; [[ろくぶんぎ座アルファ星|&alpha;星]]
: 太陽系から約426 光年の距離にある、見かけの明るさ4.49 等、スペクトル型 A0III のA型巨星で4等星{{R|simbad_alpha}}。ろくぶんぎ座で最も明るく見える恒星。


=== 星団・星雲・銀河 ===
=== 星団・星雲・銀河 ===
[[18世紀]][[フランス]]の天文学者[[シャルル・メシエ]]が編纂した『[[メシエカタログ]]』に挙げられた天体は1つもない{{R|SEDS_Messier}}。{{仮リンク|パトリック・ムーア (天文学者)|label=パトリック・ムーア|en|Patrick Moore}}がアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだ「[[カルドウェルカタログ|コールドウェルカタログ]]」には、1つの天体が選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。
* [[NGC 3115]](スピンドル銀河):[[レンズ状銀河]]。
; [[NGC 3115]]
* [[CID-42]]:[[活動銀河]]。高速度で運動する[[超大質量ブラックホール]]にも同名が名づけられている。
: [[天の川銀河]]から約3160万 光年の距離にある[[レンズ状銀河]]{{R|simbad_NGC3115}}。[[1787年]][[2月22日]]に[[イギリス]]の天文学者[[ウィリアム・ハーシェル]]が発見した{{R|SEDS_NGC3115}}。紡錘状に見えることから「'''スピンドル銀河''' (Spindle Galaxy{{R|SEDS_NGC3115|simbad_NGC3115}})」の別名で知られ、中型のアマチュア向け望遠鏡でもその紡錘状の輪郭と明るい中心部を見ることができる{{R|Ridpath2017}}。コールドウェルカタログの53番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。
; [[ろくぶんぎ座A]]
: 天の川銀河から約430万 光年{{R|simbad_SexA}}、[[局所銀河群]]の外縁部に位置する矮小不規則銀河{{R|sorae20210806}}。
; [[ろくぶんぎ座B]]
: 天の川銀河から約450万 光年{{R|simbad_SexB}}、局所銀河群の外縁部に位置する矮小不規則銀河{{R|sorae20210504}}。
{{Gallery
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| The Cosmic Jewels of Sextans A.jpg| アメリカ [[キットピーク国立天文台]]の口径4 m[[リッチー・クレチアン式望遠鏡]]「メイヨール望遠鏡」で撮影された矮小不規則銀河ろくぶんぎA。
| Sextans B.jpg | アメリカ キットピーク国立天文台の「メイヨール望遠鏡」で撮影された矮小不規則銀河ろくぶんぎB。
| NGC 3115.jpg | [[NASA]]のX線観測衛星[[チャンドラ (人工衛星)|チャンドラ]]と[[欧州南天天文台]]の[[超大型望遠鏡VLT]]の観測データから合成されたスピンドル銀河 (NGC3115) の画像。
}}


== 由来と歴史 ==
== 流星群 ==
ろくぶんぎ座の名前を冠した[[流星群]]で、IAUの流星データセンター (IAU Meteor Data Center) で確定された流星群 (Established meteor showers) とされているものは、ろくぶんぎ座昼間流星群 (Daytime Sextantids, DSX)の1つのみ{{R|NAOJ_meteor}}。
[[1687年]]に[[ヨハネス・ヘヴェリウス]]によって設定された{{R|Ridpath}}。ヘヴェリウスは、天体の観測に[[天体望遠鏡]]を用いず、肉眼での天体観測に[[六分儀]]を愛用していた。[[1679年]][[9月26日]]、ヘヴェリウスは火災によって自宅の天文観測装置や書物を失った。ろくぶんぎ座は、このとき失われた観測装置を偲んで設定したものである{{R|Ridpath}}。ヘヴェリウスは、文芸を司る女神[[ムーサ]]の1柱で天文を司る[[ウーラニアー]]に寄せて Sextans Uraniae と名付けた{{R|Hara}}が、後の[[ジョン・フラムスティード]]や[[フランシス・ベイリー]]によって単に Sextans と呼ばれるようになった{{R|Ridpath}}。

[[File:Johannes Hevelius - Prodromus Astronomia - Volume III "Firmamentum Sobiescianum, sive uranographia" - Tavola VV - Sextans Uraniae.jpg|thumb|left|1690年に出版された[[ヨハネス・ヘヴェリウス]]の ''Firmamentum Sobiescianum, sive Uranographia'' に描かれたろくぶんぎ座]]{{-}}
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}

=== 注釈 ===
{{Notelist2}}

=== 出典 ===
{{Reflist|25em|refs=
<ref name="IAU_constellations">{{Cite web
| title=The Constellations
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<ref name="boundary">{{Cite web
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<ref name="NAOJ_meteor">{{Cite web|和書
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== 出典 ==
{{Reflist|refs=
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<ref name="Ridpath">{{Cite web
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<ref name="Gould1879">{{Cite journal
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| title=中国の星座の歴史 | chapter=中国の星座・星名の同定一覧表 | pages=294-341
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<ref name="nenkan1937">{{Cite book | 和書
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== 参考文献 ==
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| title=学術用語集:天文学編(増訂版)
| publisher=日本学術振興会 | edition=第1刷 | date=1994-11-15 | isbn=4-8181-9404-2 | ref={{sfnref|学術用語集:天文学編(増訂版)|1994}}}}


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2024年11月3日 (日) 22:15時点における最新版

ろくぶんぎ座
Sextans
Sextans
属格 Sextantis, Sextansis
略符 Sex
発音 英語発音: [ˈsɛkstənz]、属格:/sɛksˈtæntɨs/
象徴 六分儀[1][2]
概略位置:赤経  09h 41m 04.8653s -  10h 51m 30.2447s[3]
概略位置:赤緯 +6.4327669° - −11.6621428°[3]
20時正中 4月下旬[4]
広さ 313.515平方度[5]47位
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
28
3.0等より明るい恒星数 0
最輝星 α Sex(4.49
メシエ天体 0[6]
確定流星群 1[7]
隣接する星座 しし座
うみへび座
コップ座
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ろくぶんぎ座(ろくぶんぎざ、ラテン語: Sextans)は、現代の88星座の1つ[1][2]17世紀末にヨハネス・ヘヴェリウスが考案した新しい星座で、六分儀がモチーフとされている[1][2]

特徴

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ろくぶんぎ座の全体像。ろくぶんぎ座の上の輝星はしし座α星レグルス、右の輝星はうみへび座α星アルファルドが見える。

北をしし座、南をうみへび座、南東をコップ座に囲まれている[8]天の赤道をまたぐように位置しているため、人類が居住しているほぼ全ての地域から星座の全域を観望することができる。20時正中は4月下旬頃[4]、北半球では春の星座とされ[9]、早春から晩春にかけて観望できる[8]。明るい星のない、目立たない星座である[10]

由来と歴史

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17世紀末にポーランド生まれの天文学者ヨハネス・ヘヴェリウスによって考案された[2]。ヘヴェリウスの死後の1690年に妻によって出版された著書『Prodromus Astronomiae』に収められた星表『Catalogus Stellarum』と星図『Firmamentum Sobiescianum』に Sextant Uraniæ という名称で記載されたのが初出である[2]。「最後の肉眼観測者」[11]と称されることもあるように、ヘヴェリウスは六分儀を用いた肉眼観測で天体の正確な位置観測を行っていた。しかし1679年9月26日に起きた火災により、ヘヴェリウスは愛用の六分儀を含む観測機器や書籍の多くを失ってしまった。Sextant Uraniae は、この火災で失われた六分儀を偲んで考案されたものであり[2]、文芸を司る女神ムーサの1柱で天文を司るウーラニアーの六分儀とされた[10]。Sextans Uraniæ をしし座うみへび座の間に置いたことについてヘヴェリウスは『Prodromus Astronomiae』の中で「Sextans Uraniæ をしし座とうみへび座の間に置いたのは、そこが新しい星でいっぱいの最適な場所であるからではなく、占星術師によればしし座とうみへび座は共に火の性質を持つ星座であり、Sextans Uraniæ も完全に火の星座であると思われるからである。なぜなら、確かに Sextans Uraniæ は火、あの邪悪な火によって苦しめられ、ウゥルカーヌスが彼を連れ去り、疑わしき最期を遂げたからである。」としている[12][13][14]。日本のアマチュア天文家の藤井旭山田卓は「六分儀をしし座やうみへび座に守ってもらうため」と説明していた[15][16][17]が、へヴェリウスがそのように述べた事実はない。

その後、イギリスの初代王室天文官ジョン・フラムスティードが編纂し、死後の1725年に出版された星表『大英恒星目録 (Catalogus Britannicus)』や1729年に出版された星図『天球図譜 (Atlas Coelestis)』では「Uraniæ」の部分が除かれて、Sextans と短縮された[2][18]。この短縮された Sextans という星座名は、イギリスの天文学者フランシス・ベイリーが編纂し彼の死後1845年に刊行された『The Catalogue of Stars of the British Association for the Advancement of Science』でも採用された[2]。その一方で、1801年に出版されたドイツの天文学者ヨハン・ボーデの天文書『ウラノグラフィア』では原型の Sextans Uraniæ が使用されるなど[19]、天文学者によってまちまちであった。

現在のろくぶんぎ座の星に付されているバイエル符号風のギリシア文字の符号は、アメリカの天文学者ベンジャミン・グールド1879年に刊行した『Uranographia Argentina』で付したものである[2][20]。グールドは明るいものから順に、5つの星にαからεまでの符号を付している[20]

1922年5月にローマで開催された国際天文学連合 (IAU) の設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Sextans、略称は Sex と正式に定められた[21]

中国

[編集]

ドイツ人宣教師イグナーツ・ケーグラー英語版(戴進賢)らが編纂し、清朝乾隆帝治世の1752年に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、ε星と17番星の2星が、二十八宿の南方朱雀七宿の第四宿「星宿」にある星官「天相」に配されていた[22]

古今図書集成に描かれた星宿。ろくぶんぎ座の星は画像左側の星官「天相」に置かれた。

神話

[編集]

17世紀に作られた新しい星座のため、星座にまつわる神話や伝承はない[23]

呼称と方言

[編集]

ラテン語の学名 Sextans に対応する日本語の学術用語としての星座名は「ろくぶんぎ」と定められている[24]。現代の中国では六分仪座[25](六分儀座[26])。

日本では、明治末期には「六分儀」という訳語が充てられていたことが、1910年(明治43年)2月刊行の日本天文学会の会報『天文月報』第2巻11号に掲載された「星座名」という記事でうかがい知ることができる[27]。この訳名は、1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「六分儀(ろくぶんぎ)」として引き継がれた[28]。戦後の1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[29]とした際に、Sextans の日本語の学名は「ろくぶんぎ」と定められ[30]、これ以降は「ろくぶんぎ」という学名が継続して用いられている[24]

これに対して、天文同好会[注 1]山本一清らは異なる訳語を充てていた。天文同好会の編集により1928年(昭和3年)4月に刊行された『天文年鑑』第1号では星座名 Sextans に対して「六分儀」の訳語を充てていた[31]が、1931年(昭和6年)3月に刊行した『天文年鑑』第4号からは、星座名を Sextans Uraniae、訳名を「天の六分儀」と紹介し[32]、以降の号でもこの星座名と訳名を継続して用いていた[33]

主な天体

[編集]

恒星

[編集]

2024年6月現在、国際天文学連合 (IAU) によって2個の恒星に固有名が認証されている[34]

HD 86081
太陽系から約337 光年の距離にある、見かけの明るさ8.70 等、スペクトル型 G1V のG型主系列星で、9等星[35]。IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でインドに命名権が与えられ、主星はBibhā、太陽系外惑星はSantamasaと命名された[36]
WASP-43
太陽系から約284 光年の距離にある、見かけの明るさ12.4 等、スペクトル型 K7V のK型主系列星で、12等星[37][38]2022年に開催されたIAUの太陽系外惑星命名キャンペーン「NameExoWorlds 2022」でルーマニアのグループからの提案が採用され、主星は Gnomon、太陽系外惑星は Astrolábos と命名された[39]

そのほか以下の恒星が知られる。

α星
太陽系から約426 光年の距離にある、見かけの明るさ4.49 等、スペクトル型 A0III のA型巨星で4等星[40]。ろくぶんぎ座で最も明るく見える恒星。

星団・星雲・銀河

[編集]

18世紀フランスの天文学者シャルル・メシエが編纂した『メシエカタログ』に挙げられた天体は1つもない[6]パトリック・ムーア英語版がアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだ「コールドウェルカタログ」には、1つの天体が選ばれている[41]

NGC 3115
天の川銀河から約3160万 光年の距離にあるレンズ状銀河[42]1787年2月22日イギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルが発見した[43]。紡錘状に見えることから「スピンドル銀河 (Spindle Galaxy[43][42])」の別名で知られ、中型のアマチュア向け望遠鏡でもその紡錘状の輪郭と明るい中心部を見ることができる[44]。コールドウェルカタログの53番に選ばれている[41]
ろくぶんぎ座A
天の川銀河から約430万 光年[45]局所銀河群の外縁部に位置する矮小不規則銀河[46]
ろくぶんぎ座B
天の川銀河から約450万 光年[47]、局所銀河群の外縁部に位置する矮小不規則銀河[48]

流星群

[編集]

ろくぶんぎ座の名前を冠した流星群で、IAUの流星データセンター (IAU Meteor Data Center) で確定された流星群 (Established meteor showers) とされているものは、ろくぶんぎ座昼間流星群 (Daytime Sextantids, DSX)の1つのみ[7]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 現在の東亜天文学会

出典

[編集]
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  2. ^ a b c d e f g h i Ridpath, Ian. “Sextans”. Star Tales. 2023年1月29日閲覧。
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参考文献

[編集]