「天体力学」の版間の差分
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[[File:Solar system orrery inner planets.gif|thumb|太陽系内惑星の軌道アニメーション。]] |
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'''天体力学'''(てんたいりきがく、Celestial mechanics または Astrodynamics)は[[天文学]]の一分野であり、[[アイザック・ニュートン|ニュートン]]の[[ニュートン力学#運動の法則|運動の法則]]や[[万有引力の法則]]に基づいて[[天体]]の運動と力学を研究する[[学問]]である。 |
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'''天体力学'''(てんたいりきがく、{{lang-en-short |celestial mechanics}}){{R|天文学辞典}}は[[万有引力の法則]]に従う[[天体]]の運動を[[古典力学]]に基づいて扱う学問である。[[ニュートン力学]]から成立した[[物理学]]の一分野であり{{Sfn|Collins|2004|p=1}}、また[[位置天文学]]と並び古典[[天文学]]の一角を占める<ref name="カラー天文百科">{{仮リンク|ヨアヒム・ヘルマン|de|Joachim_Herrmann_(Astronom)}} 著、[[小平桂一]] 監修 『カラー天文百科』 [[平凡社]]、[[1976年]][[3月25日]]初版第1刷発行、18-19頁</ref>。 |
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[[惑星]]の運動は主に[[太陽]]の[[重力]]によって支配されている([[ケプラーの法則]])ものの、他の惑星等が及ぼす重力が[[摂動 (天文学)|摂動]]として無視できない影響を及ぼすため、天体力学ではそのような摂動を解析的に取り扱う[[摂動論]]が発達した。その最も単純かつ非自明な問題が[[三体問題]]である。[[月]]の運動は[[暦]]の編纂や[[航海術]]への応用という実用的な目的のためにとりわけ精確な予測が求められる一方で、惑星の運動に比べ太陽や惑星の摂動が大きく影響するため、[[太陰運動論]]は何世代にも渡って改良されてきた。また[[天王星]]の観測データの異常から[[海王星]]の存在を予言しその位置を予測したことでも知られる。 |
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天体力学は惑星の平衡形状、[[軌道共鳴]]、[[太陽系の安定性]]、[[自転と公転の同期]]といった問題をも扱う。20世紀には[[人工衛星]]・[[宇宙探査機]]の[[軌道設計]]および軌道制御を扱う[[軌道力学]]が派生し、また天体力学の適用対象も[[太陽系]]から[[惑星形成]]、[[ブラックホール連星]]、そして[[球状星団]]および[[銀河]]などへと拡大した。 |
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== 概説 == |
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[[位置天文学]]と並び'''天文学の古典部門'''もしくは'''古典天文学'''と呼ばれ、「天文学の近代部門」あるいは「近代天文学」と呼ばれる[[天体物理学]]と対比されることが多いが、「古典部門」という意味は今日この分野がまったく意味を持たないというのではなく、むしろ現在においても欠くことのできない天文学研究の基礎であるといえる<ref name="カラー天文百科">{{仮リンク|ヨアヒム・ヘルマン|de|Joachim_Herrmann_(Astronom)}} 著、[[小平桂一]] 監修 『カラー天文百科』 [[平凡社]]、[[1976年]][[3月25日]]初版第1刷発行、18-19頁</ref>。事実、今日の[[天文学者の一覧|天文学者]]でも[[古在由秀]]や[[堀源一郎]]、[[長谷川一郎]]、[[中野主一]]といった天体力学を専門とする[[学者|研究者]]は多く存在する。 |
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== ケプラー運動 == |
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天体力学では従来、[[月]]や[[惑星]]といった[[太陽系]]内の天体を研究対象としてきたが、近年では[[星団]]や[[銀河]]といった恒星系を質点系と捉えてその運動や力学を研究することも増えている<ref name="カラー天文百科"/>。このような研究分野を特に[[恒星系力学]] (stellar dynamics) と呼ぶ。 |
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中心天体(例えば[[太陽]])からの[[重力]]([[万有引力の法則]])を受ける天体(例えば[[惑星]])の運動は[[ケプラー問題|ケプラー運動]]と呼ばれる{{R|天文学辞典-ケプラー運動}}。ケプラー運動では、天体の位置 <math>\mathbf{r}</math> は[[ニュートンの運動方程式]] |
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{{Indent|<math>\frac{ d^2 \mathbf{r} }{ d t^2 } = - \mu \frac{ \mathbf{r} }{ | \mathbf{r} |^3 }</math>}} |
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を満足する。<math>\mu</math> は[[重力定数]]と中心天体の[[質量]]と問題の天体の質量の和の積である。なお天体力学では伝統的に重力定数 <math>\mathcal{G}</math> の代わりにその平方根として定義されるガウス定数 <math>k</math> が、また質量の単位として太陽質量を基準とする単位系が採用される{{Sfn|Beutler|2005a|p=48}}{{Sfn|Plummer|1918|pp=19-20}}。この単位系では、問題の天体の質量を <math>m</math> とすると |
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{{Indent|<math>\mu = k^2 ( 1 + m )</math>}} |
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が成立する{{Sfn|Plummer|2005a|p=20}}。 |
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=== ケプラーの法則 === |
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現在、日本の天体力学の研究の第一人者は国立天文台の吉田春夫教授で、少し前は微分ガロア理論を用いて、運動方程式の積分可能性(解を解析的に求めること)を考察していた。 |
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[[ケプラーの法則]]{{R|天文学辞典-ケプラーの法則}}は惑星の[[軌道 (力学)|軌道]]の最も基本的な性質を述べたものである(これは惑星のまわりを運動する[[衛星]]に関しても成立する){{Sfn|福島|2017|p=155}}。 |
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* 第1法則: 惑星は太陽をひとつの[[焦点]]とする[[楕円]]軌道を描く。 |
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* 第2法則: 太陽と惑星を結ぶ線分が単位時間に掃く面積([[面積速度]])は一定である。 |
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* 第3法則: 惑星の公転周期の二乗は軌道長半径の三乗に比例する。 |
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第1法則が主張する楕円軌道の形状は[[長半径]] ({{lang-en-short|semi-major axis}}) <math>a</math>、[[離心率]] ({{lang-en-short|eccentricity}}) <math>e</math> によって特定される。中心天体との距離が最も小さくなる軌道上の点を[[近点]] ({{lang-en-short|pericenter}}) と呼ぶが{{R|天文学辞典-近点}}、特に太陽のまわりを運動する天体の場合は[[近日点]] ({{lang-en-short|perihelion}}){{R|天文学辞典-近日点}}、地球のまわりを運動する天体の場合は[[近地点]] ({{lang-en-short|perigee}}){{R|天文学辞典-近地点}} などと呼ぶ。中心天体との距離が最も大きくなる軌道上の点が[[遠点]] ({{lang-en-short|apocenter}}) である{{R|天文学辞典-遠点}}。中心天体と問題の天体の距離(動径) <math>r</math> は、中心天体と近点を結ぶ線分と動径がなす角 <math>f</math> を用いて |
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== 天体力学の応用分野 == |
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{{Indent|<math>r ( f ) = \frac{ a ( 1 - e^2 ) }{ 1 + e \cos f }</math>}} |
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天体力学分野は、特に[[惑星探査機]]の軌道設計([[フライバイ]])や新発見された天体の軌道の決定などでは欠かせない分野である。特に、近年心配されている[[小惑星]]の地球衝突を予測し回避するための研究などでも用いられている。また、[[シミュレーション天文学]]でもシミュレータの代表例として掲げた[[GRAPE]]なども、星団・銀河・銀河団の形成などを大規模質点系として捉えた、多体力学問題を高速で演算するための専用計算機でもある。 |
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と表示される。角 <math>f</math> は[[真近点角]]または真近点離角 ({{lang-en-short|true anomaly}}) と呼ばれる{{R|天文学辞典-離心近点角}}([[#軌道要素]]節を参照)。なお <math>p = a ( 1 - e^2 )</math> を半直弦と呼ぶ{{Sfn|福島|2017|p=146}}。 |
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第2法則は[[角運動量]]の保存を意味する{{Sfn|福島|2017|p=142}}。第3法則に対応して、長半径 <math>a</math> は平均角速度を表す[[平均運動]] ({{lang-en-short|mean motion}}) <math>n</math> と |
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古典的な分野であるが、現在も位置天文学と並び暦の編纂や地球-月系の形成、太陽系の形成、銀河の形成-進化、銀河団の形成-進化などでも数多くの研究が行われている分野でもある。 |
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{{Indent|<math>n^2 a^3 = \mu</math>}} |
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という関係にある{{Sfn|Plummer|2005a|p=20}}。 |
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ケプラー運動には楕円軌道の他に[[放物線]]軌道、[[双曲線]]軌道が存在する{{Sfn|福島|2017|pp=146-148}}。これらはいずれも[[円錐曲線]]である{{Sfn|福島|2017|p=148}}。 |
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== 脚注・出典 == |
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{{Reflist}} |
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=== 軌道要素 === |
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[[File:Orbit1.svg|thumb|軌道傾斜角 <math>i</math>、昇交点黄経 <math>\Omega</math>、近点引数 <math>\omega</math>、真近点角 <math>\nu</math> を表す模式図。]] |
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天体の軌道およびその上の位置を特定するために用いられるパラメータを[[軌道要素]] ({{lang-en-short|orbital element}}) と呼ぶ{{R|天文学辞典-軌道要素}}。上述の楕円軌道の形を特定するために用いられる[[長半径]] <math>a</math> と[[離心率]] <math>e</math> は軌道要素のひとつである。さらに、軌道面内における楕円軌道の向きを特定するために[[近点引数]] ({{lang-en-short|argument of pericenter}}){{R|天文学辞典-近日点引数}}{{Sfn|福島|2017|pp=150}} <math>\omega</math> が、軌道面を特定するために[[軌道傾斜角]] ({{lang-en-short|inclination}}){{R|天文学辞典-軌道傾斜角}} <math>i</math> と[[昇交点黄経]] ({{lang-en-short|longitude of ascending node}}){{R|天文学辞典-昇交点}} <math>\Omega</math> が用いられる。まず軌道傾斜角 <math>i</math> は天体の軌道面が基準面(多くの場合[[黄道|黄道面]]{{R|天文学辞典-昇交点}}または[[不変面]])となす角として定義される{{R|天文学辞典-軌道傾斜角}}。天体の軌道上の点で軌道面と基準面の双方に乗る点が昇交点であり、昇交点が黄道面内の基準方向([[春分点]]{{R|天文学辞典-黄道座標系}})となす角([[黄経]])が昇交点黄経 <math>\Omega</math> である{{R|天文学辞典-昇交点}}。最後に近点引数 <math>\omega</math> は昇交点と近点がなす角である{{R|天文学辞典-近日点引数}}。近点引数 <math>\omega</math> の代わりに |
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{{Indent|<math>\varpi = \Omega + \omega</math>}} |
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により定義される[[近点黄経]] ({{lang-en-short|longitude of pericenter}}) を採用してもよい{{R|天文学辞典-近日点引数}}。 |
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楕円軌道上の天体の位置を表す角度として真近点角 <math>f</math> 以外に[[離心近点角]] ({{lang-en-short|eccentric anomaly}}){{R|天文学辞典-離心近点角}} <math>E</math>、[[平均近点角]] ({{lang-en-short|mean anomaly}}) <math>M</math>、[[平均黄経]] ({{lang-en-short|mean longitude}}) <math>\lambda</math> がある。離心近点角 <math>E</math> は |
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{{Indent|<math>r = a ( 1 - e \cos E )</math>}} |
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を満足し{{Sfn|福島|2017|p=153}}、真近点角 <math>f</math> と |
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{{Indent|<math>\tan \frac{ f }{ 2 } = \sqrt{ \frac{ 1 + e }{ 1 - e } } \tan \frac{ E }{ 2 }</math>}} |
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という関係にある。平均近点角 <math>M</math> は近点通過時刻を <math>t_0</math> として <math>M = n ( t - t_0 )</math> により定義され、離心近点角 <math>E</math> と[[ケプラーの方程式]] |
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{{Indent|<math>E - e \sin E = M</math>}} |
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によって結ばれる。平均黄経 <math>\lambda</math> は |
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{{Indent|<math>\lambda = M + \Omega + \omega = M + \varpi</math>}} |
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により定義される。これらの角 <math>f</math>, <math>E</math>, <math>M</math>, <math>\lambda</math> は時間的に変化する量であるが、近点通過時刻 <math>t_0</math> または[[元期]] ({{lang-en-short|epoch}}) での平均黄経 <math>\epsilon</math> を与えればどの角も現在時刻 <math>t</math> から計算できるため、元期での平均黄経 <math>\epsilon</math> を軌道要素として用いれば十分である。これらの軌道要素の組 <math>\{ a, e, i, t_0, \varpi, \Omega \}</math> はケプラーの軌道要素<ref>{{Cite web |url=https://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1978/pdf/19780109.pdf |title=天体力学の話 |author=古在由秀 |accessdate=2021-02-16}}</ref>または軌道6要素と呼ばれ、これによって天体の運動状態を完全に特定できる{{Sfn|福島|2017|p=155}}。 |
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具体的な太陽系惑星の軌道要素の値は[[#太陽系惑星の軌道要素]]節および[[#月の軌道要素]]節を参照。 |
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=== 軌道決定 === |
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ある瞬間における天体の座標 <math>( x, y, z )</math> および速度 <math>( v_x, v_y, v_z )</math> が与えられたならば、その天体の軌道要素は一意に定まりそれを計算することができる{{Sfn|福島|2017|pp=160-163}}。しかし実際には一回の観測で得られるのはふたつの角度([[赤道座標]]では[[赤緯]] <math>\alpha</math> と[[赤経]] <math>\delta</math>{{Sfn|福島|2017|p=62}})だけであり、天体の軌道要素を決定するためには最低三回の観測を行う必要がある<ref>{{Cite web |url=http://ynag.eco.coocan.jp/3-orbit.pdf |title=星の軌道計算について |accessdate=2021-02-16}}</ref>。観測データから軌道要素を決定する方法論は{{仮リンク|軌道決定|en|Orbit determination}}として知られている<ref>{{Cite book |和書 |title=軌道決定の原理 彗星・小惑星の観測方向から距離を求めるには |author=長沢工 |publisher= 地人書館 |date=2003 isbn=978-4805207314}}</ref>。 |
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== 摂動論 == |
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惑星の公転軌道は第一に太陽の重力によって支配されており、0次近似としては太陽-惑星の二体問題とみなすことができる。この近似では惑星の軌道要素は一定であり、時間変化しない。しかし実際には惑星の軌道は他の惑星の[[摂動 (天文学)|摂動]] ({{lang-en-short|perturbation}}) によって変化する{{R|天文学辞典-摂動}}{{Sfn|福島|2017|p=164}}。そこである瞬間の惑星の軌道について、その瞬間に運動状態が一致するような仮想的なケプラー軌道を考え、その軌道要素を惑星のその時刻の[[接触軌道要素]] ({{lang-en-short|osculating orbital elements}}){{R|天文学辞典-接触軌道要素}} と呼ぶ{{Sfn|福島|2017|pp=165-166}}。接触軌道要素は他の惑星の摂動によって時間変化するため、それを計算することができれば惑星の軌道が求まることになる。このような摂動手法が定数変化法 ({{lang-en-short|variation of arbitrary constants}}) である{{Sfn|Plummer|1918|p=134}}。 |
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=== 摂動関数とラグランジュの惑星方程式 === |
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摂動として働く力が重力などの[[保存力]]である場合、天体の運動方程式は[[摂動関数]]{{Sfn|谷川|2002|p=7}}または擾乱関数 ({{lang-en-short|disturbing function}}{{Sfn|Plummer|1918|p=19}} または {{lang-en-short|perturbation function}}{{Sfn|Beutler|2005a|pp=54-55}}) として知られる関数 <math>R</math> を用いて |
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{{Indent|<math>\frac{ d^2 \mathbf{r} }{ d t^2 } + \mu \frac{ \mathbf{r} }{ | \mathbf{r} |^3 } = \frac{ \partial R }{ \partial \mathbf{r} }</math>}} |
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と書くことができる。例えば太陽系惑星の場合、<math>i</math> 番目の惑星の太陽を中心とする座標での位置 <math>\mathbf{r}_i</math> は、運動方程式 |
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{{Indent|<math>\frac{ d^2 \mathbf{r}_i }{ d t^2 } + k^2 ( 1 + m_i ) \frac{ \mathbf{r}_i }{ | \mathbf{r}_i |^3 } = \frac{ \partial R }{ \partial \mathbf{r}_i }</math>}} |
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{{Indent|<math>R_i = k^2 \sum_{j \neq i} m_j \left( \frac{ 1 }{ | \mathbf{r}_i - \mathbf{r}_j | } - \frac{ \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{r}_j }{ | \mathbf{r}_j |^3 } \right)</math>}} |
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を満足する{{Sfn|Beutler|2005a|p=54}}。ここに <math>m_i</math> は惑星 <math>i</math> の質量であり、摂動関数の第1項を直接項 ({{lang-en-short|direct term}})、第2項を間接項 ({{lang-en-short|indirect term}}) と呼ぶ{{Sfn|Beutler|2005a|p=55}}。 |
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摂動関数 <math>R</math> による接触軌道要素 <math>\sigma_j</math> の時間変化は[[ラグランジュの惑星方程式]] |
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{{Indent|<math>\sum_{k = 1}^6 [ \sigma_j, \sigma_k ] \frac{ d \sigma_k }{ d t } = \frac{ \partial R }{ \partial \sigma_j } \ \ (j = 1, 2, \ldots, 6 )</math>}} |
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によって記述される{{Sfn|Boccaletti|Pucacco|2002|pp=18-19}}{{Sfn|Beutler|2005a|pp=232-233}}。ここに <math>[ c_j, c_k ]</math> は[[ラグランジュ括弧]]である。接触軌道要素として <math>\sigma_j = \{ a, e, i, \epsilon, \varpi, \Omega \}</math> を取るとき、ラグランジュの惑星方程式は次のように書き下される{{Sfn|Boccaletti|Pucacco|2002|p=23}}。 |
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{{Indent|<math>\frac{ d a }{ d t } = + \frac{ 2 }{ n a } \frac{ \partial R }{ \partial \epsilon }</math>}} |
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{{Indent|<math>\frac{ d e }{ d t } = - \frac{ \sqrt{ 1 - e^2 } }{ n a^2 e } [ 1 - \sqrt{ 1 - e^2 } ] \frac{ \partial R }{ \partial \epsilon } - \frac{ \sqrt{ 1 - e^2 } }{ n a^2 e } \frac{ \partial R }{ \partial \varpi }</math>}} |
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{{Indent|<math>\frac{ d i }{ d t } = - \frac{ \tan ( i / 2 ) }{ n a^2 \sqrt{ 1 - e^2 } } \left( \frac{ \partial R }{ \partial \epsilon } + \frac{ \partial R }{\partial \varpi} \right) - \frac{ 1 }{ n a^2 \sqrt{ 1 - e^2 } \sin i } \frac{ \partial R }{ \partial \Omega }</math>}} |
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{{Indent|<math>\frac{ d \epsilon }{ d t } = - \frac{ 2 }{ n a } \frac{ \partial R }{ \partial a } + \frac{ \sqrt{ 1 - e^2 } }{ n a^2 e } [ 1 - \sqrt{ 1 - e^2 } ] \frac{ \partial R }{ \partial e } + \frac{ \tan ( i / 2 ) }{ n a^2 \sqrt{ 1 - e^2 } } \frac{ \partial R }{ \partial i }</math>}} |
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{{Indent|<math>\frac{ d \varpi }{ d t } = + \frac{ \sqrt{ 1 - e^2 } }{ n a^2 e } \frac{ \partial R }{ \partial e } + \frac{ \tan ( i / 2 ) }{ n a^2 \sqrt{ 1 - e^2 } } \frac{ \partial R }{ \partial i }</math>}} |
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{{Indent|<math>\frac{ d \Omega }{ d t } = + \frac{ 1 }{ n a^2 \sqrt{ 1 - e^2 } \sin i } \frac{ \partial R }{ \partial i }</math>}} |
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摂動関数 <math>R</math> が与えられたならば、それを摂動展開し惑星方程式を逐次的に解くことにより軌道要素の時間変化が計算できる。 |
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=== 正準変数 === |
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ケプラーの軌道要素ではなく正準共役量を基本変数として選ぶと問題が簡単になる場合がある。例えば[[ドロネー変数]] <math>( l, g, h, L, G, H )</math> は |
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{{Indent|<math>l = M , \ \ L = \sqrt{ \mu a }</math>}} |
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{{Indent|<math>g = \omega , \ \ G = \sqrt{ \mu a ( 1 - e^2 ) }</math>}} |
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{{Indent|<math>h = \Omega , \ \ H = \sqrt{ \mu a ( 1 - e^2 ) } \cos I</math>}} |
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により定義され、<math>( l, L )</math>, <math>( g, G )</math>, <math>( h, H )</math> が正準共役な組となっている。このときハミルトニアンは |
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{{Indent|<math>\mathcal{H} = - \frac{ \mu^2 }{ 2 L^2 }</math>}} |
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により与えられる{{Sfn|Boccaletti|Pucacco|2004|p=161}}。なおこれらの変数はケプラー問題の[[作用・角変数]]と関係している{{Sfn|Boccaletti|Pucacco|2004|pp=160-161}}。 |
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=== ガウスの方法 === |
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[[カール・フリードリヒ・ガウス]]による方法は摂動関数ではなく天体に働く力を陽に扱うものであり{{Sfn|Beutler|2005a|pp=215-231}}、非保存力を扱うことができる{{Sfn|Beutler|2005a|p=240}}。この場合、運動方程式を |
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{{Indent|<math>\frac{ d^2 \mathbf{r} }{ d t^2 } = - \mu \frac{ \mathbf{r} }{ | \mathbf{r} |^3 } + \mathbf{F} ( t, \mathbf{r}, \dot{\mathbf{r}} )</math>}} |
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と書くとき{{Sfn|Beutler|2005a|p=209}}、<math>I = I ( \mathbf{r}, \dot{\mathbf{r}} )</math> を軌道要素として{{Sfn|Beutler|2005a|p=216}}摂動方程式は |
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{{Indent|<math>\frac{ d I }{ d t } = \frac{ \partial I }{ \partial \dot{\mathbf{r}} } \cdot \mathbf{F}</math>}} |
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により与えられる{{Sfn|Beutler|2005a|p=216}}。摂動 <math>\mathbf{F}</math> の成分としては以下の二通りの与え方がある{{Sfn|Beutler|2005a|pp=228-229}}。 |
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* 動径成分 <math>R'</math>、軌道面内の <math>R'</math> の法線成分 <math>S'</math>、軌道面の法線成分 <math>W'</math>。 |
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* 軌道の接成分 <math>T'</math>、軌道面内の <math>T'</math> の法線成分 <math>N'</math>、軌道面の法線成分 <math>W'</math>。 |
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前者の立場では、軌道要素 <math>\{ a, e, i, \Omega, \omega, t_0 \}</math> に関するガウスの摂動方程式は次により与えられる{{Sfn|Beutler|2005a|p=230}}。ここに <math>p</math> は半直弦である。 |
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{{Indent|<math>\frac{ d a }{ d t } = \sqrt{ \frac{ p }{ \mu } } \frac{ 2 a }{ 1 - e^2 } \left\{ e \sin f R' + \frac{ p }{ r } S' \right\}</math>}} |
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{{Indent|<math>\frac{ d e }{ d t } = \sqrt{ \frac{ p }{ \mu } } \left\{ \sin f R' + ( \cos f + \cos E ) S' \right\}</math>}} |
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{{Indent|<math>\frac{ d i }{ d t } = \frac{ r \cos ( f + \omega ) }{ n a^2 \sqrt{ 1 - e^2 } } W'</math>}} |
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{{Indent|<math>\frac{ d \Omega }{ d t } = \frac{ r \sin ( f + \omega ) }{ n a^2 \sqrt{ 1 - e^2 } \sin i } W'</math>}} |
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{{Indent|<math>\frac{ d \omega }{ d t } = \frac{ 1 }{ e } \sqrt{ \frac{ p }{ \mu } } \left\{ - \cos f R' + \left( 1 + \frac{ r }{ p } \right) \sin f S' \right\} - \cos i \frac{ d \Omega }{ d t }</math>}} |
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{{Indent|<math>\frac{ d t_0 }{ d t } = - \frac{ 1 - e^2 }{ n^2 a e } \left\{ \left( \cos f - 2 e \frac{ r }{ p } \right) R' - \left( 1 + \frac{ r }{ p } \right) \sin f S' \right\} - \frac{ 3 }{ 2 a } ( t - t_0 ) \frac{ d a }{ d t }</math>}} |
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=== 永年摂動 === |
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摂動関数 <math>R</math> の展開は literal expansion として知られる<ref name="Mardling2013">{{cite journal |last1=Mardling|first1=Rosemary A. |title=New developments for modern celestial mechanics – I. General coplanar three-body systems. Application to exoplanets |journal=Monthly Notices of the Royal Astronomical Society |volume=435|issue=3 |year=2013|pages=2187–2226|issn=1365-2966 |doi=10.1093/mnras/stt1438}}</ref>。これは摂動関数を角度座標(平均近点離角 <math>M</math> や近点黄経 <math>\lambda</math> など)の三角関数の和に分解するものであり、具体的な計算方法がラグランジュ、ラプラス、ルヴェリエ、ハンゼンら多くの人の手によって研究されてきた{{R|Mardling2013}}。軌道要素の時間変化は、周期摂動とそれより長い時間スケールでの時間変化を引き起こす({{lang-en-short|secular perturbation}})<ref>{{天文学辞典 |urlname=secular-perturbation |title=永年摂動 }}</ref> に分解できるが、太陽系天体では周期摂動より永年摂動の方が重要である{{R|天文学辞典-摂動}}。そのため摂動関数から周期摂動を落としたものをラグランジュの惑星方程式と用いることにより永年摂動の計算が可能となる{{Sfn|Beutler|2005b|pp=269-270}}。 |
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== 応用 == |
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=== 太陰運動論 === |
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月の満ち欠け([[月相]])は[[太陰暦]]および[[太陰太陽暦]]の基礎であり<ref>{{Cite web |url=https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/C2C0B1A2CEF1.html |title=暦Wiki/太陰暦 |publisher=国立天文台暦計算室 |accessdate=2021-02-16}}</ref>、月の運動は古くから記録されてきた<ref>{{Cite book |editor=岡村定矩 池内了 海部宣男 佐藤勝彦 永原裕子 |title=シリーズ現代の天文学 1 人類の住む宇宙 第2版 |publisher=日本評論社 |date=2017 |isbn=9784535607514 |pages=349-351}}</ref>。[[月の軌道]]は等速円運動ではなく、そこからのずれ([[不等]], {{lang-en-short|inequality}})が存在する{{R|暦-月}}。月の軌道が楕円軌道であることによる不等が{{仮リンク|中心差|en|Equation of the center}}であるが、これ以外に例えば太陽の摂動によって次のような不等が存在する。 |
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* {{仮リンク|出差|en|Evection}} ({{lang-en-short|evection}}): 遠地点または近地点が太陽の向きにあるとき、相対的に強い摂動を受ける効果{{R|暦-月}}。 |
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* {{仮リンク|二均差|en|Variation (astronomy)}} ({{lang-en-short|variation}}): 1朔望月の間に太陽の摂動によって地球の重力が実効的に変化する効果{{R|暦-月}}。 |
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* [[年差]] ({{lang-en-short|annual equation}}): 地球の離心率のために一年の間に太陽の摂動の強さが変化する効果{{R|暦-月}}。 |
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これらの不等を説明し、精度よく月の運動を予測することは{{仮リンク|太陰運動論|en|Lunar theory}}として古くから調べられてきた。これには純粋な天文学上の興味に加えて、航海術([[経度]]の測定)への応用という実用的な目的があった{{Sfn|Wepster|2010|p=12}}。 |
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また[[エドモンド・ハレー]]によって指摘された、古代から続く月食の記録を比較すると月の平均運動が徐々に増大しているように見えるという[[永年加速]]の問題がある{{Sfn|Wepster|2010|p=11}}。ラプラス、アダムズを含む数世代にわたる長い論争を経て{{Sfn|Kushner|1988}}、潮汐摩擦によって地球の自転が減速し時刻の定義自体が変化している効果を考慮することによって永年加速の問題は解決された{{Sfn|Wepster|2010|p=11}}。 |
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=== 軌道共鳴 === |
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同一の中心天体のまわりのふたつの公転軌道について、その平均運動が簡単な整数比にあるとき[[尽数関係]] ({{lang-en-short|commensurable}}) にあるという{{R|天文学辞典-尽数関係}}。このような軌道は安定化または不安定化し、[[平均運動共鳴]]と呼ばれる{{R|天文学辞典-平均運動共鳴}}。より正確には、ふたつの軌道 <math>A</math>, <math>B</math> が平均運動共鳴にあるとは、<math>p</math>, <math>q</math> を整数として |
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{{Indent|<math>p n_A - q n_B + (q - p) \dot{\varpi}_A = 0</math>}} |
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が成立することを言う(通常第三項は小さな値を取り落としてよい){{Sfn|谷川|2002|p=7}}。例えば[[小惑星帯]]の[[カークウッドの空隙]]と呼ばれる小惑星の数が少ない領域は木星と平均運動共鳴にあり不安定化したものだと考えられている{{R|天文学辞典-カークウッドの間隙}}。逆に太陽系外縁部には[[共鳴外縁天体]]と呼ばれる[[海王星]]と平均運動共鳴にある天体群が存在することが知られており、その代表的なものが2:3の平均運動共鳴にある[[冥王星]]である{{R|天文学辞典-共鳴外縁天体}}。またふたつの1:2平均運動共鳴が同時に成立するとき(すなわち1:2:4の平均運動共鳴にあるとき)[[ラプラス共鳴]]と呼び、太陽系では[[木星]]系の[[イオ (衛星)|イオ]]-[[エウロパ (衛星)|エウロパ]]-[[ガニメデ (衛星)|ガニメデ]]が唯一の例である<ref name="Barnes2011">{{Cite journal |last1=Barnes|first1=Rory |publisher=Springer |journal=Encyclopedia of Astrobiology |title=Laplace Resonance |year=2011 |pages=905–906 |doi=10.1007/978-3-642-11274-4_864}}</ref>。 |
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一方、平均運動共鳴とは異なり、永年摂動による近点移動の振動数が摂動天体の固有振動数と尽数関係にあるときは[[永年共鳴]] ({{lang-en-short|secular resonance}}) として知られている{{Sfn|谷川|2002|p=8}}{{R|天文学辞典-永年共鳴|}}。これは軌道周期に比べ非常に長い時間スケールでの軌道の不安定化を導く{{R|天文学辞典-永年共鳴|}}。 |
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{{詳細記事|軌道共鳴}} |
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=== 太陽系の安定性 === |
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太陽系惑星の軌道が長期的に安定して保たれるかという{{仮リンク|太陽系の安定性|en|Stability of the Solar System}}の問題は[[アイザック・ニュートン]]以来研究されてきた{{Sfn|伊藤|谷川|2007|p=8}}。ニュートンは太陽系は不安定であると考えていた{{Sfn|Laskar|2013|p=240}}<ref>{{Cite web |url=http://www.gutenberg.org/ebooks/33504 |title=Opticks by Isaac Newton |publisher=Project Gutenberg |accessdate=2021-02-15}}</ref>。 |
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{{Quotation |blind Fate could never make all the Planets move one and the same way in Orbs concentrick, some inconsiderable Irregularities excepted, which may have risen from the mutual Actions of Comets and Planets upon one another, and which will be apt to increase, till this System wants a Reformation. Such a wonderful Uniformity in the Planetary System must be allowed the Effect of Choice. (盲目の運命はすべての惑星を同心円状の軌道上を同じように動かすことはできない。彗星や惑星の相互作用から生じると考えられるわずかな不規則性は増大しつづけ、終には再構築が必要になるだろう。惑星系の驚くべき一様性は神による選択の帰結でなければならない。)|アイザック・ニュートン|Opticks (1706)}} |
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ラグランジュらによる摂動論の研究を経て{{Sfn|Laskar|2013|pp=239-244}}、ラプラスは1776年に永年摂動の1次の範囲では惑星の軌道長半径は時間変化せず安定であることを示した{{Sfn|Laskar|2013|pp=245, 250-251}}。[[シメオン・ドニ・ポアソン]]はラプラスの結果を拡張し、1808年に2次摂動の範囲でも軌道長半径は永年不変量であることを示した{{Sfn|Laskar|2013|p=252}}。しかし[[ユルバン・ルヴェリエ]]は1840年から41年にかけて、長期間の軌道進化では高次の摂動が重要であり、摂動の低次の項だけに基づくラプラスらによる安定性の証明は信頼できないと指摘した(同時に[[小分母の問題]]にも言及している){{Sfn|Laskar|2013|p=254}}。[[アンリ・ポアンカレ]]はこれらの問題提起を受けて、惑星系の軌道は解析的な解の表示が存在しないこと([[ポアンカレの定理]])、そして問題の摂動級数は一般に発散することを証明した{{Sfn|Laskar|2013|p=255}}。1960年代のコルモゴロフらによる[[KAM理論]]は[[近可積分系]]の大部分の軌道は摂動が十分に小さければトーラス上の準周期解となることを示しており、太陽系の安定性をこの路線で証明する研究が行われた{{Sfn|Laskar|2013|pp=256-257}}。 |
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一方で、1950年頃からは電子計算機による太陽系の長時間高精度シミュレーションが行われるようになった。初期のものとしては1951年の W. J. Eckert らによる5惑星シミュレーションがある{{Sfn|伊藤|谷川|2007|pp=8-9}}<ref>{{Cite journal |date=1951 |last1=Eckert |first1=W. J. |last2=Brouwer |first2=D. |last3=Clemence |first3=G. M. |title=Coordinates of the Five Outer Planets 1653-2060 |journal=Astron. Pap. Amer. Ephemeris. Naut. Alm. |volume=12 |url=https://books.google.co.jp/books?id=TVMnAQAAIAAJ}}</ref>。Laskar は1989年の論文でシミュレーションの結果[[リアプノフ指数|リャプノフ時間]]500万年で不安定化すると主張した{{Sfn|谷川|2002|p=12}}<ref name="Laskar1989">{{cite journal |last1=Laskar|first1=J.|title=A numerical experiment on the chaotic behaviour of the Solar System |journal=Nature|volume=338 |issue=6212|year=1989|pages=237–238 |issn=0028-0836|doi=10.1038/338237a0}}</ref>。しかしリャプノフの意味での不安定性にもかかわらず、伊藤孝士と谷川清隆は±40億年のシミュレーションでは惑星軌道は安定に存在し続けたと報告している{{Sfn|谷川|2002|p=12}}<ref name="ItoTanikawa2002">{{cite journal|last1=Ito|first1=Takashi|last2=Tanikawa|first2=Kiyotaka |title=Long-term integrations and stability of planetary orbits in our Solar system|journal=Monthly Notices of the Royal Astronomical Society |volume=336|issue=2|year=2002|pages=483–500 |issn=1365-2966|doi=10.1046/j.1365-8711.2002.05765.x}}</ref>。太陽系の安定性に関する一般的な理論は2009年現在未だ存在しない<ref>{{Cite web |url=http://wtk.gfd-dennou.org/2009-08-18/ito/src/ito.pdf |title=太陽系惑星運動の安定性 |author=伊藤孝士 |accessdate=2021-02-14}}</ref>。 |
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== 自転と潮汐 == |
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=== 自転: 歳差と章動 === |
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多くの天体は[[公転]]に加えて[[自転]]しており、自転運動は[[オイラーの運動方程式]]によって記述される{{Sfn|Beutler|2005a|pp=66-68}}。[[測地学]]では地球の自転を地球に対して固定された座標系で議論することが多いものの、天文学分野では慣性系を用いて議論することが好まれる{{Sfn|Beutler|2005a|pp=64-65}}。惑星の自転はある軸([[自転軸]])まわりの回転として表現でき、その軸を <math>\mathbf{n}</math>、自転角速度を <math>\omega</math> とするとき自転は角速度ベクトル <math>\boldsymbol{\omega} = \omega \mathbf{n}</math> により記述される{{Sfn|Beutler|2005a|p=66}}{{Sfn|福島|2017|p=189}}。角速度ベクトルは自転角運動量 <math>\mathbf{L}</math> と <math>\mathbf{L} = \mathbf{I} \boldsymbol{\omega}</math> という関係にある。ここに <math>\mathbf{I}</math> は[[慣性モーメント]]テンソル |
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{{Indent|<math>I_{i j} = \int \rho ( |\mathbf{x}|^2 \delta_{i j} - x_i x_j ) d^3 x</math>}} |
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である{{Sfn|福島|2017|pp=191-192}}。しばしば座標系として慣性主軸を取り、そのとき慣性モーメントテンソルは主慣性モーメント <math>A</math>, <math>B</math>, <math>C</math> を固有値とする対角行列となる。 |
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[[File:Earth precession.svg|thumb|地球の自転軸の回転運動が歳差である。]] |
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地球の自転軸は月と太陽および他の惑星による摂動を受け、複雑に変化する{{Sfn|福島|2017|p=71}}。このうち長周期での軸の移動を[[歳差]] ({{lang-en-short|precession}}){{Sfn|福島|2017|pp=71-72}}、より短周期での振動を[[章動]] ({{lang-en-short|nutation}}){{Sfn|福島|2017|pp=71, 74}} と呼ぶ。歳差の周期は約2万6000年であり、[[春分点]]の移動をもたらす{{Sfn|福島|2017|p=72}}。章動のうちもっとも振幅の大きな成分は周期18.6年であり、月の昇交点がこの周期で移動していることによる{{Sfn|福島|2017|p=74}}。歳差および章動は[[木下宙]]によって1977年に精密な理論が構築された{{Sfn|伊藤|谷川|p=6}}<ref name="Kinoshita1977">{{cite journal|last1=Kinoshita|first1=Hiroshi|title=Theory of the rotation of the rigid earth|journal=Celestial Mechanics|volume=15|issue=3|year=1977|pages=277–326|issn=0008-8714|doi=10.1007/BF01228425}}</ref>。 |
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=== 潮汐力 === |
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[[潮汐力]] ({{lang-en-short|tidal force}}){{R|天文学辞典-潮汐力}}は重力の非一様性のために生じる非一様な重力の作用であり、月および太陽による潮汐力は海の[[潮汐]]の原因として知られている{{R|天文学辞典-潮汐}}。潮汐力はまた天体の潮汐変形、潮汐トルク、潮汐加熱{{R|天文学辞典-潮汐加熱}}といった現象を引き起こす{{R|天文学辞典-潮汐}}。 |
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{{詳細記事|潮汐力}} |
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潮汐による海水の移動が生じる摩擦([[潮汐摩擦]]、{{lang-en-short|tidal friction}})は地球の自転を減速させる{{R|天文学辞典-潮汐摩擦}}。この結果、全角運動量の保存により月は地球から遠ざかる{{R|天文学辞典-潮汐摩擦}}。 |
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=== 惑星の変形 === |
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惑星は厳密には球形ではなく、自転による変形および潮汐力による[[潮汐変形]]{{R|天文学辞典-潮汐}}を被る。 |
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主慣性モーメント <math>A</math>, <math>B</math>, <math>C</math> を持つ天体がその外部につくる[[重力ポテンシャル]] <math>\Phi</math> の表式 |
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{{Indent|<math>\Phi = - \frac{ \mathcal{G} M }{ r } - \frac{ \mathcal{G} ( A + B + C - 3 I ) }{ 2 r^3 }</math>}} |
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は[[マッカラーの公式]]と呼ばれる{{Sfn|福島|2017|pp=211-213}}。ここに <math>I</math> は天体の重心とポテンシャルの評価点を結ぶ軸まわりの慣性モーメントであり{{Sfn|福島|2017|p=212}}、評価点の座標を <math>( x, y, z )</math> とするとき |
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{{Indent|<math>I = \frac{ A x^2 + B y^2 + C z^2 }{ r^2 }</math>}} |
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により与えられる{{Sfn|福島|2017|p=213}}。 |
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=== 自転と公転の同期 === |
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[[File:Lunar libration with phase2.gif|thumb|月は常に同じ面を地球に向けているものの、[[秤動]]による変化がある。]] |
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月は([[秤動]] ({{lang-en-short|libration}}) を除き)常に同じ面を地球に向けているが、これは月の自転周期と公転周期が同期しているためである。これは地球の重力による月の潮汐変形が原因であり<ref>{{Cite web |url=https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/C4ACBCAE2FC4ACBCAECBE0BBA4.html |title=暦Wiki/潮汐/潮汐摩擦 |publisher=国立天文台暦計算室 |accessdate=2021-02-14}}</ref>、潮汐ロックと呼ばれる{{R|天文学辞典-潮汐ロック}}。 |
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{{詳細記事|自転と公転の同期}} |
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== その他のトピック == |
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=== 環 === |
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[[土星]]や[[天王星]]に存在する[[環 (天体)|環]]は天体力学の重要な適用対象であり、環の構造や安定性、[[羊飼い衛星]]{{R|天文学辞典-羊飼い衛星}}といった問題が取り扱われる{{Sfn|Tiscareno|Murray|2018|pp=225-275}}。 |
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{{詳細記事|環 (天体)}} |
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=== 彗星と太陽系小天体の軌道 === |
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[[File:Tisserand parameter conservation animation.webm|thumb|木星による摂動を受ける彗星の軌道のシミュレーション。図中の赤点が太陽、黒点が木星、青点が彗星を表す。距離および時間の単位は木星公転運動の半径および周期。薄い青色の楕円が初期の軌道、濃い青の楕円が摂動後の軌道である。]] |
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[[彗星]]は大きな離心率を持ち、特に極端なものは[[サングレーザー]]と呼ばれる<ref name="Shevchenko"/>。しばしば彗星は木星との近接散乱により大きな摂動を受けるが、これは円制限三体問題とみなせ、ヤコビ積分の保存から導かれる[[ティスラン・パラメータ|ティスランの判定式]]によって彗星の同一性を判定できる{{Sfn|福島|2017|p=108}}。また彗星が大きな離心率を獲得する機構として[[古在メカニズム]]が提案されている<ref name="Shevchenko">{{cite book | last=Shevchenko | first=Ivan I. | title=Astrophysics and Space Science Library | volume=441 | chapter=The Lidov-Kozai Effect - Applications in Exoplanet Research and Dynamical Astronomy | publisher=Springer International Publishing | location=Cham | year=2017 | isbn=978-3-319-43520-6 | issn=0067-0057 | doi=10.1007/978-3-319-43522-0 | pages=105-115}}</ref>。 |
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[[小惑星]]などの[[太陽系小天体]]の軌道は[[カオス理論|カオス]]を示すことでも注目される。[[小惑星帯]]の小惑星の多くは小惑星-木星系の、または小惑星-木星-土星系の平均運動共鳴に由来するカオス軌道を持つ{{R|Tsiganis2007}}。これは軌道要素の[[カオス拡散]]といった効果を生じる{{R|Tsiganis2007}}。 |
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{{See also |馬蹄形軌道}} |
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=== 重力ポテンシャルの高次成分 === |
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厳密には天体は[[球形]]ではなく、それに対応して天体の[[重力ポテンシャル]]には単極子項への補正が存在する({{仮リンク|多重極展開|en|Multipole expansion}})。これは特に地球を周回する[[人工衛星]]の軌道に最も大きな摂動として寄与するため、[[軌道力学]]では重力ポテンシャルの補正を考慮する必要がある<ref>{{Cite web |url=http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/KOHO/HIGHLIGHT/KYODO/2004-W-01/ppr/eri0411-04kubo-oka.pdf |title=やさしい軌道力学 - 人工衛星に作用する摂動 - |author=久保岡 俊宏 |pages=19-20 |accessdate=2021-02-15}}</ref>。軸対称な天体の場合には、重力ポテンシャル <math>\Phi</math> は[[ルジャンドル多項式]] <math>P_l</math> を用いて |
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:<math>\Phi ( r, \theta, \varphi ) = - \frac{ G M }{ r } \left\{ 1 - \sum_{l = 2}^\infty J_l \left( \frac{ R }{ r } \right)^l P_l ( \cos \theta ) \right\}</math> |
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と書ける{{Sfn|木下|1998|pp=181-182}}。 |
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=== 一般相対論 === |
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強重力場のもとでは[[一般相対性理論]]によるニュートン重力からの補正が必要となる。これは水星の近日点移動の要因のひとつとして有名である{{Sfn|Misner|Thorne|Wheeler|p=662}}。例えば[[シュワルツシルト時空]]における[[ハミルトン–ヤコビ方程式]]は |
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{{Indent|<math>- \frac{ 1 }{ 1 - 2 M / r } \left( \frac{ \partial S }{ \partial t } \right)^2 + \left( 1 - \frac{ 2 M }{ r } \right) \left( \frac{ \partial S }{ \partial r } \right)^2 + \frac{ 1 }{ r^2 } \left( \frac{ \partial S }{ \partial \theta } \right)^2 + \frac{ 1 }{ r^2 \sin^2 \theta } \left( \frac{ \partial S }{ \partial \phi} \right)^2 + 1 = 0</math>}} |
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と書ける{{Sfn|Misner|Thorne|Wheeler|p=649}}。一般相対論効果は[[ブラックホール]]などの[[コンパクト天体]]で顕著であり{{Sfn|Misner|Thorne|Wheeler|p=655}}、[[銀河中心]]の構成の運動は[[超大質量ブラックホール]]の一般相対論効果を強く受ける<ref name=DEGN>{{Cite book |last=Merritt |first=David |title=Dynamics and Evolution of Galactic Nuclei|year=2013 |publisher=Princeton University Press|location=Princeton, NJ|isbn=9781400846122 |url=https://openlibrary.org/works/OL16802359W/Dynamics_and_Evolution_of_Galactic_Nuclei |pages=117-120}}</ref>。また[[連星パルサー]]を代表とするコンパクト星連星では[[重力波 (相対論)|重力波]]放出により軌道が収縮する<ref>{{天文学辞典 |urlname=pulsar-binary |title=パルサー連星}}</ref>。 |
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=== 惑星形成 === |
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惑星形成理論は[[微惑星]]の集積として惑星が形成される過程を議論するものであり、[[微惑星]]の合体成長過程は天体力学と関係している{{Sfn|伊藤|谷川|p=8}}。 |
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=== 恒星系力学 === |
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{{仮リンク|恒星系力学|en|Stellar dynamics}}は多数の重力相互作用する[[恒星]]からなる系を取り扱う理論であり、[[球状星団]]や[[銀河]]の力学的な性質の基礎となる<ref name="BinneyTremaine">{{Cite book |last=Binney |first=James |last2=Tremaine |first2=Scott |year= 2008 |title=Galactic Dynamics |edition=Second |publisher=Princeton University Press |isbn=978-0-691-13027-9 |page=1}}</ref>。この理論は天体力学と顕著な繋がりがある他、[[統計力学]]および[[プラズマ物理学]]とも関係している{{R|BinneyTremaine}}。 |
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== 歴史 == |
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{{See also |天文学史}} |
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=== ケプラーの法則 === |
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1576年から1601年にかけて、[[ティコ・ブラーエ]] (1546-1601) は[[デンマーク]]([[ウラニボリ]])、次いで[[チェコ]]の[[プラハ]]において[[太陽]]と[[惑星]]を観測し、[[望遠鏡]]がない当時としては最高精度の誤差1-2分角でその位置をした{{Sfn|Beutler|2005a|p=19}}。[[ヨハネス・ケプラー]] (1571-1630) はブラーエの観測結果をもとに[[ケプラーの法則]]に到達し、1609年の ''[[:en:Astronomia nova|Astronomia nova]]''、1619年の ''[[:en:Harmonice Mundi|Harmonice Mundi]]'' においてこれらの法則を公刊した{{Sfn|Beutlera|2005|p=20}}。 |
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=== ニュートンの『自然哲学の数学的諸原理』 === |
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[[エドモンド・ハレー]] (1656-1742) の勧めもあり{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|p=259}}、1687年に[[アイザック・ニュートン]] (1642-1727) は『[[自然哲学の数学的諸原理]]』(プリンキピア、{{lang-la-short|''Philosophiæ Naturalis Principia Mathematica''}})を出版し、[[ニュートン力学]]および天体力学の基礎を築いた。なおニュートンがプリンキピアを書き上げるにあたって、[[ロバート・フック]] (1635-1703){{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|pp=255-260}} やジョン・フラムスティード (1646-11719){{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|pp=259-260, 273}} ら同時代の研究者の業績に大きく影響を受けている。 |
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まず第1巻でニュートンは[[質量]] (quantity of matter) および[[運動量]] (quantity of motion) を定義し、[[力]] (force) について論じている{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|pp=260-261}}。続いて[[運動の法則]]を定式化し{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|pp=262-265}}、[[中心力]]場のもとでは[[面積速度]]が一定であること(そして逆に面積速度が一定であるならば中心力が働いていること){{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|pp=265-266}}、[[円錐曲線]]を描いて運動する物体には距離の二乗に反比例する中心力が作用していること{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|p=266}}、その場合に楕円軌道を描く物体の周期は楕円の長半径の1.5乗に比例すること{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|p=266}}を示した。 |
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さらにニュートンは互いに引力を及ぼす[[二体問題]]についても論じ、その[[重心]]まわりの運動に帰着できることを示し、逆二乗則の場合には重心まわりの軌道は円錐曲線となることを主張した{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|p=267}}(ただし逆二乗則から楕円軌道が導かれることの証明をプリンキピアの初版では与えず、後の版では証明の概略のみを著述している{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|pp=266-267}})。また、ニュートンはその理論を月の運動に適用し三体問題の一般解を求めようとしたものの見出すことができず、プリンキピアでは近似解についてのみ記述している{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|p=267}}。 |
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プリンキピアの第2巻は[[空気抵抗]]などの抵抗力のもとでの物体の運動を扱っている{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|p=268}}。''The System of the World'' と題された第3巻は前2巻とは異なり[[自然哲学]]を扱ったもので、ニュートンはそれまでの巻で展開した数学理論を天界の物体の運動に適用した{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|pp=268-269}}。木星の衛星、土星の衛星、そして惑星がいずれもケプラーの法則(第2法則と第3法則)を満たすことから、天体間には逆二乗則の引力が働いていること、そして地球-月間に働くこの引力は地球上の物体が地球の中心に向かって落下しようとする力(重力)と同じものであると論じている{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|p=269}}。そしてこのことからすべての物体間に重力が作用すること([[万有引力の法則]])を主張した{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|p=270}}。さらに第3巻には自転する球体(すなわち地球)は扁平な形に変形すること{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|p=272}}、[[潮汐]]が月の引力によるものであること{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|p=272}}、月の運動(ただしこの議論は成功しているとは言い難い){{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|p=272}}、月と太陽の重力による地球の[[歳差]]の計算{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|p=272}}、[[彗星]]の軌道{{Sfn|Timberlake|Wallace|2016|p=273}}といった内容を扱っている。 |
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=== 解析力学 === |
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[[File:First appearance of Newton second law in rectangular coordinates (Euler, E177, page 196).jpg|thumb|オイラーによって初めてニュートンの運動方程式は現代的な記法で書き下された。]] |
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ニュートンのプリンキピアは当時考案されたばかりの[[微分法]]および[[積分法]]の使用を避け幾何学的な考察に基づくものであり極めて難解なものであった。プリンキピアの出版後18世紀初頭にかけて[[ピエール・ヴァリニョン]] (1654-1722)、[[ヨハン・ベルヌーイ]] (1667-1748)、[[:en:Jakob Hermann|Jakob Hermann]] (1678-1733) らはプリンキピアの内容を[[ゴットフリート・ライプニッツ]] (1646-1716) らによる[[微積分学]]の言葉を用いて理解するようになった{{Sfn|Caparrini|2014|p=47}}。1730年頃からは[[ダニエル・ベルヌーイ]] (1700-1782)、[[レオンハルト・オイラー]] (1707-1783)、[[アレクシス・クレロー]] (1713-1765)、[[ジャン・ル・ロン・ダランベール]] (1717-1783)らによって保存則やポテンシャルの概念などが導入され、1760年頃までには現在の力学に近い形にまで整備された{{Sfn|Caparrini|2014|pp=47-48}}。ダランベールは1843年に ''Traité de dynamique'' を出版した{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|pp=159-160}}。オイラーは1749年に[[ニュートンの運動方程式]]を初めて現在知られている形で書き下している<ref>{{Cite journal |last=Euler |first=Leonhard |title=Recherches sur le mouvement des corps célestes en général |date=1749 |journal=Mémoires de l'académie des sciences de Berlin |volume=3 |pages=93-143 |url=https://scholarlycommons.pacific.edu/euler-works/112/}}</ref>{{Sfn|Beutler|2005a|p=23}}{{Sfn|Bogolyubov|2014|p=172}}。[[ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ]] (1736-1813) は1750年代から統一的な原理に基づく力学の再構築に取り組み、現在[[解析力学]](特に[[ラグランジュ力学]])として知られる体系を1788年の著書 ''{{仮リンク|Mécanique analytique|en|Mécanique analytique}}'' にまとめ上げた{{Sfn|Caparrini|2014|pp=47-48}}{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|pp=208-210}}。 |
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=== 二体問題と三体問題 === |
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上述のように、アイザック・ニュートンはプリンキピアにおいて惑星軌道が円錐曲線であるならば逆二乗則に従う中心力が作用していることを示したものの、逆に逆二乗則の重力を受けて運動する物体の軌道がどのようなものかという問題に対しては十分な回答を著述しなかった。この問題は1710年の Jakob Hermann の研究<ref>{{Cite journal |last=Hermann |first=Jacob |title=Extrait d’une Lettre de M. Herman à M. Bernoulli, datée de Padoüe le 12. Juillet 1710 |journal=Mémoires de l’Académie des Sciences |date=1710 |pages=519–521}}</ref>、そしてそれに続くヨハン・ベルヌーイの研究<ref>{{Cite journal |last=Bernoulli |first=Johann |title=Extrait de la Réponse de M. Bernoulli à M. Herman, Datée de Basle le 7 Octobre 1710 |journal=Mémoires de l’Académie des Sciences |date=1710 |pages=521–33}}</ref>によって解決された<ref>{{Cite journal|last1=Speiser|first1=David|title=The Kepler Problem from Newton to Johann Bernoulli|journal=Archive for History of Exact Sciences|volume=50|issue=2|year=1996|pages=103–116|issn=0003-9519|doi=10.1007/BF02327155}}</ref><ref name="Guicciardini2015">{{cite journal |last1=Guicciardini|first1=Niccolò |title=Proofs and Contexts: the Debate between Bernoulli and Newton on the Mathematics of Central Force Motion |year=2015|pages=67–102|issn=2297-2951|doi=10.1007/978-3-319-12030-0_4}}</ref>。 |
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1693年にハレーは古代バビロニアおよび中世アラブ界の月食の記録を当時の記録と比較し、月の[[永年加速]]を指摘した{{Sfn|Wepster|2010|p=11}}。 |
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1730年代に[[ピエール・ルイ・モーペルテュイ]] (1698-1759) 率いる観測隊は地球が[[赤道]]付近で膨らんでいる[[扁球]]であることを証明した。これにより地球の形状に関する[[ジャック・カッシーニ]] (1677-1756) の理論<ref>{{Cite book |title=De la grandeur et de la figure de la terre |first=J. |last=Cassini |date=1720 |url=https://books.google.fr/books?id=u0liAAAAcAAJ}}</ref>が棄却され、それと対立していたニュートンの理論の正しさが明らかになった。この観測に参加していたアレクシス・クレローは地球の形状に関する1743年の著書 ''Théorie de la figure de la terre'' を出版した後に天体力学の研究を始め、1747年11月に[[パリ]]で[[三体問題]]に関する口頭発表を行い、月の近地点移動を説明するためには万有引力の法則に逆三乗則に従う付加項が必要であると主張した{{Sfn|Bodenmann|2010|pp=27-28}}(逆二乗則に補正を加えるというアイデアは [[:en:John Keill|John Keill]] にまで遡る{{Sfn|Wilson|2010|p=11}})。この主張は激しい拒否反応を引き起こし、短距離側ではなく遠距離側で万有引力の法則を修正する必要があると考えていたレオンハルト・オイラーとの間で論戦となった{{Sfn|Bodenmann|2010|pp=28-29}}{{Sfn|Wilson|2010|p=11}}。ダランベールもこの問題に興味を示し、独自のアイデアで研究に参入した{{Sfn|Bodenmann|2010|p=29}}。1714年に英国が定めた[[経度法]]の懸賞金に繋がる可能性から{{Sfn|Bodenmann|2010|pp=31-32}}月の近地点移動はこの三者による研究競争となったものの、1749年にクレローは当初の主張を撤回し当時は無視されていた太陽による高次摂動を考慮することによって月の近地点移動を説明できることを示し{{Sfn|Bodenmann|2010|p=29}}、この成果によって[[帝国サンクトペテルブルク科学アカデミー]]の賞を1750年に獲得した(受賞論文 ''Théorie de la lune'' は1753年に出版された){{Sfn|Bodenmann|2010|p=31}}{{Sfn|Bogolyubov|2014|p=172}}。その後クレローは[[ハレー彗星]]の軌道の摂動計算などの研究を行っている。 |
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1748年にパリの[[科学アカデミー (フランス)|科学アカデミー]]は木星と土星の相互摂動に関するコンテストを開催し、レオンハルト・オイラーが優勝した(受賞論文は1749年に出版された){{Sfn|Wilson|2010|p=9}}。彼は木星と土星の運動のケプラー軌道からの逸脱を完全に説明することはできなかったものの{{Sfn|Wilson|2010|p=9}}、その後の天体力学の研究において極めて重要な役割を果たす[[フーリエ級数|三角級数]]の方法を導入した{{Sfn|Wilson|2010|p=10}}。またオイラーの研究には観測データからのパラメータ推定に関する先駆的な業績が含まれている(当時[[最小二乗法]]は考案されていなかった){{Sfn|Wilson|2010|p=10}}。 |
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[[トビアス・マイヤー]] (1723-1762) はオイラーの木星と土星の理論を発展させ太陽-地球-月系に応用することにより{{Sfn|Wilson|2010|p=13}}、月の天文表を作成し1753年に出版した{{Sfn|Wilson|2010|p=12}}。その正確さは1760年までに[[ジェームズ・ブラッドリー]] (1693-1762) の観測によって裏付けられ、1767年に創刊された[[航海年鑑]]の基礎となった{{Sfn|Wilson|2010|p=12}}。 |
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[[File:Lagrange very massive.svg|thumb|ラグランジュ点。]] |
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レオンハルト・オイラーは三体問題を求積するために[[運動の積分]]を探し求めたものの、必要な数の積分を得ることはできなかった{{Sfn|Bogolyubov|2014|p=264}}。そこで三体が同一直線に乗る配位の特殊解に目を向け、1766年に三体問題に関する論文 ''Considerationes de motu corporum coelestium'' の中で制限三体問題の平衡点である[[ラグランジュ点]]のうち直線解と呼ばれる L<sub>1</sub>, L<sub>2</sub> を発見した{{Sfn|Geiges|2016|p=94}}{{Sfn|Bogolyubov|2014|p=265}}。ラグランジュは1772年にすべての平衡点、特に正三角形解を発見した<ref>{{Cite journal |last=Lagrange |first=J.-L. |date=1772 |title=Essai sur le Problème des trois Corps |journal=Prix de l’Académie des Sciences de Paris }}</ref>。ラグランジュはまた一般三体問題の18本の方程式を7本の方程式に帰着できることを示している。 |
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円制限三体問題における[[ヤコビ積分]]は1836年に[[カール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビ]] (1804-1851) によって導入された<ref>C.G.J. Jacobi, ''Comptes rendus de l’Académie des Sciences de Paris'', III, 5961.</ref>{{Sfn|Geiges|2016|p=94}}。 |
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=== 摂動論の開発 === |
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摂動論の基本的な道具立てはジョゼフ=ルイ・ラグランジュによって整備され{{Sfn|Wilson|2010|p=17}}、[[ピエール=シモン・ラプラス]] (1749-1827) によって発展した。接触軌道要素はレオンハルト・オイラーによって厳密に定義された{{Sfn|Bogolyubov|2014|p=265}}。ラグランジュは月の[[秤動]]に関する研究を行い、1764年にフランス科学アカデミーの賞を獲得した<ref>{{Cite web |url=https://www.britannica.com/biography/Joseph-Louis-Lagrange-comte-de-lEmpire |title=Joseph-Louis Lagrange, comte de l'Empire - Encyclopedia Britannica |author=Dirk Jan Struik |date=2021-02-14 |accessdate=2021-02-13}}</ref>。またラグランジュは1779年に摂動関数を導入した{{Sfn|Beutler|2005a|p=21}}。 |
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ピエール=シモン・ラプラスは1773年頃から天体力学の研究を始め、天体の運動および地球の形状・海の潮汐に取り組んだ{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|pp=143-144}}。ラプラスは1776年に永年摂動の1次の範囲では惑星の軌道長半径は時間変化しないことを示した{{Sfn|Laskar|2013|pp=245, 250-251}}。また1787年に木星および金星の摂動によって地球軌道の離心率が変化することにより月の永年加速が説明できると主張した(なお半世紀以上が経った1854年にアダムズがラプラスの計算に誤りを発見し、この効果により永年加速は観測を説明するのに必要な値の半分しかないことを指摘している){{Sfn|Wepster|2010|p=11}}。1789年の[[フランス革命]]に伴う環境の激変もありながら{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|p=244}}、ラプラスは1796年に ''Exposition du système du monde'' を{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|p=242}}、1799年から1827年にかけて5巻からなる『{{仮リンク|天体力学論|en|Traité de mécanique céleste}}』<ref>{{Cite web |url=https://www.kyoto-su.ac.jp/lib/kichosyo/laplace/index.html |title=『天体力学論』 ラプラス著 1799 ~1825年 |accessdate=2021-02-12}}</ref> (''Traité de mécanique céleste'') を出版した{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|p=243}}。この著作は以下の内容を取り扱っている{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|p=247-249, 255}}。 |
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*第1巻: (Book 1) 平衡と運動に関する一般論、(Book 2) 重力と物体の運動。 |
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*第2巻: (Book 3) 天体の形状、(Book 4) 海洋と大気の運動、(Book 5) 天体の重心まわりの運動。 |
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*第3巻: (Book 6) 惑星の運動、(Book 7) 月の運動。 |
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*第4巻: (Book 8) 木星、土星、天王星の衛星、(Book 9) 彗星、(Book 10) 世界観について。 |
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*第5巻: (Book 11) 地球の自転と形状、(Book 12) 弾性流体の運動、(Book 13) 惑星を覆う流体運動、(Book 14) 歳差と秤動、(Book 15) 惑星と彗星の運動、(Book 16) 衛星の運動 |
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ラグランジュは1814年に出版した ''Mécanique analytique'' の第2版の中で[[摂動関数]]および[[ラグランジュの惑星方程式]]といった天体力学の基本的な道具立てをまとめ、高次摂動の系統的な計算が可能であることを示した{{Sfn|Wilson|2010|p=17}}{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|p=217}}。 |
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=== 軌道決定 === |
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[[ティティウス・ボーデの法則]]は1766年に[[ヨハン・ティティウス]] (1729-1796) によって発見され、1772年に[[ヨハン・ボーデ]] (1747-1826) によって紹介されたことで知られるようになった<ref>{{Cite web |url=https://www.britannica.com/science/Bodes-law |title=Bode's law |publisher=Britanica |accessdate=2021-02-15}}</ref>。これは、太陽系惑星の軌道長半径が簡単な数列 |
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{{Indent|<math>a_n = 0.4 + 0.3 \times 2^n \, \mathrm{AU} \ \ (n = -\infty, 0, 1, 2, 4, 5 )</math>}} |
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により与えらえるというものである。1781年の[[ウィリアム・ハーシェル]] (1738-1822) による[[天王星]]の発見が <math>n = 6</math> の予測に一致したため、この法則は一層興味を集めるようになった<ref name="Britanica-Asteroid">{{Cite web |url=https://www.britannica.com/science/asteroid |title=Asteroid |publisher=Britanica |accessdate=2021-02-15}}</ref>。 |
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[[File:Ceres-Beobachtung von Piazzi.png|thumb|ピアッツィによるケレスの観測データ。]] |
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1801年1月に[[ジュゼッペ・ピアッツィ]] (1746-1826) は <math>n = 3</math> に対応する[[ケレス (準惑星)|ケレス]]を発見し(これは最初の[[小惑星]]の発見であった)2月上旬まで観測を続けたものの、見失った{{R|Britanica-Asteroid}}{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|p=317}}。そこで[[カール・フリードリヒ・ガウス]] (1777-1855) は同年9月からケレスの軌道計算に取り組み{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|p=317}}、11月にケレスの軌道計算に成功した{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|p=317}}。ガウスは[[フランツ・フォン・ツァハ]] (1754-1832) へ計算結果を送り、ツァハと[[ヴィルヘルム・オルバース]] (1758-1840) はガウスの予測通りの位置にケレスを再発見した{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|p=318}}。さらに翌年に発見された小惑星[[パラス]]の軌道計算にも成功し{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|p=318}}、ガウスは[[ゲッティンゲン大学]]の天文台のポストを得た{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|p=317}}。ガウスはさらに天体力学の研究を進め、その成果を1809年に『[[天体運動論]]』 ({{lang-la-short|''Theoria motus corporum coelestium in sectionibus conicis solem ambientum''}}) として出版した{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|pp=316-328}}。軌道決定に関する{{仮リンク|ガウスの方法|en|Gauss's method}}はラグランジュやラプラスによるものよりコンパクトである{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|p=316}}。なお『天体運動論』は最小二乗法に関する解説が含まれていることでも知られる{{Sfn|Grattan-Guinness|2005|pp=326-327, 332-333}}。 |
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=== 正準理論 === |
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[[ウィリアム・ローワン・ハミルトン]] (1805-1865) は自身の[[光学]]に関する研究から着想を得て{{Sfn|Nakane|Fraser|2002|p=162}}1834年から35年にかけての一連の論文<ref>{{Cite journal |last=Hamilton |first=William R |title=On a General Method in Dynamics |journal=Philosophical Transactions of the Royal Society, part II |date=1834 |pages=247-308}}</ref><ref>{{Cite journal |last=Hamilton |first=William R |title=On the Application to Dynamics of a General Mathematical Method Previously Applied to Optics |journal=Report of the British Association for the Advancement of Science |pages=513-518 |date=1834}}</ref><ref>{{Cite journal |last=Hamilton |first=William R |title=Second Essay on a General Method in Dynamics |journal=Philosophical Transactions of the Royal Society, part I |date=1835 |pages=95-144}}</ref>において[[ハミルトン力学]]を創始した。1836年に円制限三体問題に新しい運動の積分を発見した{{Sfn|Nakane|Fraser|2002|p=195}}ヤコビはこの論文を書き上げた後にハミルトンの論文を読んだと考えられており{{Sfn|Nakane|Fraser|2002|p=201}}、彼は力が時間に依存する場合へとハミルトンの理論を拡張し1837年に現在[[ハミルトン–ヤコビ方程式]]として知られる単一の偏微分方程式を書き下した{{Sfn|Nakane|Fraser|2002|pp=201-204}}。[[正準方程式|ハミルトンの方程式]]はヤコビによって「正準」 ({{lang-fr-short|canonique}}) と命名された{{Sfn|中根|1999|p=64}}。 |
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=== さらなる発展 === |
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1821年に[[アレクシス・ブヴァール]] (1767-1843) は天王星の天文表を出版したが、その後の観測はブヴァールの計算と食い違った<ref name="NASA-Neptune">{{Cite web |url=https://pwg.gsfc.nasa.gov/stargaze/Sneptune.htm |title=Neptune |accessdate=2021-02-15}}</ref>。これは未知の惑星の摂動によるものであると考え、[[ジョン・クーチ・アダムズ]] (1819-1892) と[[ユルバン・ルヴェリエ]] (1811-1877) は独立にこの未知の惑星の軌道を計算し、ルヴェリエの予測をもとに[[ヨハン・ゴットフリート・ガレ]] (1812-1910) が1846年に[[海王星]]を発見した{{R|NASA-Neptune}}(アダムスの計算結果を受け取った[[ジェームズ・チャリス]] (1803-1882) と[[ジョージ・ビドル・エアリー]] (1801-1892) も探索を試み、ガレによる発見の後に海王星を見出したが彼らは発見者とは認められていない<ref>{{Cite web |url=https://www.britannica.com/place/Neptune-planet/Neptunes-discovery |title=Neptune’s discovery |publisher=Britanica |accessdate=2021-02-15}}</ref>)。 |
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1833年に[[シメオン・ドニ・ポアソン]] (1781-1840) は独立変数として真近点角 <math>f</math> ではなく時刻 <math>t</math> を取ることを提案し、[[:en:Philippe Gustave le Doulcet, Comte de Pontécoulant|Philippe Gustave le Doulcet]]はこの方法を発展させた{{Sfn|Wilson|2010|p=16}}。 |
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ルヴェリエは7次までの literal expansion を遂行し、1855年に出版した<ref>{{Cite journal |last=Le Verrier |first=U.-J.J. |date=1855 |journal=Ann. Obs. Paris, Mem. |volume=1 |pages=258–331}}</ref>。この展開は[[ペーター・ハンゼン]] (1795-1874)、[[サイモン・ニューカム]] (1835-1909) らによってさらに発展した。 |
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1856年に[[ジェームズ・クラーク・マクスウェル]] (1831-1879) は[[土星]]の[[環 (天体)|環]]が固体であるならば不安定であることを証明し、無数の粒子からできているであろうことを指摘した{{Sfn|Tiscareno|Murray|2018|p=157}}。 |
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1889年に[[フェリックス・チスラン]] (1845-1896) は彗星の同一性に関する[[ティスラン・パラメータ|ティスランの判定式]]を提案した<ref name="Tisserand1889">{{Cite journal |author=F. Tisserand |title=Sur la théorie de la capture des comètes périodiques |journal=Bulletin Astronomique, Serie I |date=1889 |volume=6 |pages=289-292 |bibcode=1889BuAsI...6..289T}}</ref>。ティスランはまた『天体力学概論』{{Sfn|中根|1999|p=70}} ''Traité de mécanique céleste'' を出版した。 |
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=== 太陰運動論 === |
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[[シャルル=ウジェーヌ・ドロネー]] (1816-1872) は1860年および1867年に二巻からなる ''La Théorie du mouvement de la lune'' を出版し、月の運動について論じた{{Sfn|Wilson|2010|pp=20-21}}。その中でドロネーは [[:en:Jacques Philippe Marie Binet|Jacques Binet]] (1786-1856) が1841年に導入した変数<ref>{{Cite journal |last=Binet |first=Jacques |title=Mémoire sur la variation des constantes arbitraires dans les formules générales de la Dynamique et dans un système d'équations analogues plus étendues |journal=Journal de l'École Polytechnique |volume=17 |date=1841 |pages=1-94}}</ref>をもとに[[ドロネー変数]]として知られる正準変数を定義している{{Sfn|Wilson|2010|pp=20-21}}。ただしドロネーの理論は級数の収束が遅く十分な精度を得るためには多大な計算を要するという難点があった{{Sfn|Wilson|2010|p=22}}。 |
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[[ジョージ・ウィリアム・ヒル]] (1838-1914) は1870年代からドロネーの理論を発展させた{{Sfn|Wilson|2010|p=20}}。彼は月の軌道を楕円軌道ではなく三体問題の近似解である卵形の軌道として扱い{{Sfn|Wilson|2010|p=23}}、またそれまで天体力学ではあまり普及していなかった複素[[指数関数]] |
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{{Indent|<math>e^{\pm \sqrt{ -1 } \theta} = \cos \theta \pm \sqrt{ -1 } \sin \theta</math>}} |
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を全面的に採用した{{Sfn|Wilson|2010|p=27}}。[[アーネスト・ウィリアム・ブラウン]] (1866-1938) は1896年に ''An Introductory Treatise on the Lunar Theory'' を出版した<ref>{{Cite book |last=Brown |first=E.W. |title=An Introductory Treatise on the Lunar Theory |publisher=Cambridge University Press |date=1896}}</ref>後も月の理論についての研究を続け、1919年に月の天文表を完成させた。 |
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=== 力学系の理論 === |
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19世紀末に三体問題の求積不可能性が [[:en:Heinrich Bruns|Heinrich Bruns]] (1848-1919) による[[ブルンスの定理]]、そして[[アンリ・ポアンカレ]] (1854-1912) による[[ポアンカレの定理]]によって明らかになった{{Sfn|Barrow-Green|1997|p=127}}。ポアンカレはこの定理および関連する彼の研究成果を1892年から1899年にかけて出版された三巻からなる著書『天体力学の新しい方法』{{Sfn|中根|1999|p=60}} ({{lang-fr-short|''Les méthodes nouvelles de la mécanique céleste''}}) にまとめている{{Sfn|Barrow-Green|1997|pp=3, 151}}。その後ポアンカレは微分方程式の解を解析的に求めるのではなく、その定性的な性質を明らかにする[[力学系]]の理論を創始した{{Sfn|Barrow-Green|1997|p=}}。なお、先行する1880年代にはロシアでは[[アレクサンドル・リャプノフ]] (1857-1918) が力学系の先駆的な研究を行っている{{Sfn|Barrow-Green|1997|pp=177-181}}。ポアンカレの力学系の理論は[[ジョージ・デビット・バーコフ]] (1884-1944) らによって受け継がれ20世紀に大きく発展した{{Sfn|Barrow-Green|1997|pp=4-5}}。バーコフは1927年に ''Dynamical Systems'' を出版している{{Sfn|Barrow-Green|1997|p=209}}。 |
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20世紀に入ってからも[[:en:Edvard Hugo von Zeipel|Edvard Hugo von Zeipel]] (1873-1959) は伝統的な摂動論の研究を行い、リンドステッド-ポアンカレの方法を発展させた。また[[トゥーリオ・レヴィ=チヴィタ]] (1873-1941){{Sfn|Barrow-Green|1997|pp=184-186}}、[[カール・スンドマン]] (1873-1949){{Sfn|Barrow-Green|1997|pp=187-190}} らは三体問題の数学的な研究を継続した。 |
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=== 一般相対性理論 === |
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[[アルベルト・アインシュタイン]] (1879-1955) は1915年に[[一般相対性理論]]を完成させた。この理論は強重力場中でニュートン理論への補正項を生じ、アインシュタインはこれによって[[水星]]の[[近日点移動]]の予測値と観測値の不一致(これはルヴェリエによって発見された)が説明できることを示した{{Sfn|Misner|Thorne|Wheeler|p=433}}。後に5冊からなる ''Celestial mechanics'' を出版したことで知られる[[萩原雄祐]] (1897-1979) は1930年代に一般相対論的天体力学の研究を行った{{Sfn|伊藤|谷川|2007|p=7}}<ref>{{Cite journal |last=Hagihara |first=Y. |title=Theory of the Relativistic Trajeetories in a Gravitational Field of Schwarzschild |journal=Japanese Journal of Astronomy and Geophysics |volume=8 |page=67 |date=1930 |bibcode=1930JaJAG...8...67H }}</ref>。アインシュタインは1938年に[[レオポルト・インフェルト]]、[[:en:Banesh Hoffmann|Banesh Hoffmann]] とともに[[ポスト・ニュートン展開]]による補正項を含むN体系の運動方程式である{{仮リンク|アインシュタイン・インフェルト・ホフマンの方程式|en|Einstein–Infeld–Hoffmann equations}}を導出した<ref>{{Cite journal |last=Einstein |first=A. |last2=Infeld |first2=L. |last3=Hoffmann |first3=B. |year=1938 |title=The Gravitational Equations and the Problem of Motion |journal=[[Annals of Mathematics]] |series=Second series |volume=39 |issue=1 |pages=65–100 |jstor=1968714 |bibcode = 1938AnMat..39...65E |doi = 10.2307/1968714 }}</ref>。 |
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=== 準惑星と太陽系小天体 === |
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20世紀には観測技術の進展によって太陽系天体が多く発見され、またその理論も進展した。[[平山清次]] (1874-1943) は1918年に小惑星の族の概念を導入した{{R|天文学辞典-族}}。[[クライド・トンボー]] (1906-1997) は1930年に[[冥王星]]を発見した(冥王星は2006年のIAU決議によって惑星から準惑星へと分類が変更された){{R|天文学辞典-冥王星}}。[[:en:Mikhail Lidov|Mikhail Lidov]] (1926-1993) と[[古在由秀]] (1928-2018) は1961年から62年に彗星が大きな離心率を獲得する機構を説明し得る[[古在メカニズム]]を提案した<ref name="Lidov1961">{{cite journal | last = Lidov | first = Mikhail L. | year = 1961 | title=Эволюция орбит искусственных спутников под воздействием гравитационных возмущений внешних тел | journal = Iskusstvennye Sputniki Zemli | volume = 8 | pages = 5–45 | language = ru }} 英訳: {{cite journal |last= Lidov|first= Mikhail L. | year=1962 |title= The evolution of orbits of artificial satellites of planets under the action of gravitational perturbations of external bodies|journal= Planetary and Space Science |volume=9 |issue=10 |pages=719–759 |doi=10.1016/0032-0633(62)90129-0 |bibcode = 1962P&SS....9..719L }}</ref><ref name="Kozai1962">{{cite journal | last = Kozai | first = Yoshihide | year=1962 | title = Secular perturbations of asteroids with high inclination and eccentricity | journal = Astronomical Journal | volume = 67 |issue= |page=591 |publisher= |doi= 10.1086/108790| bibcode = 1962AJ.....67..591K }}</ref>。[[ピーター・ゴールドレイク]] (1939-) と[[:en:Scott Tremaine|Scott Tremaine]] (1950-) は1979年に環における[[羊飼い衛星]]の存在を理論的に予想した<ref>{{cite journal|last1=Goldreich |first1=Peter |first2=Scott |last2=Tremaine |title=Towards a theory for the Uranian rings. |year=1979 |journal=Nature |volume=277 |issue=5692 |pages=97–99 |doi=10.1038/277097a0 |s2cid=4232962 |url=https://www.nature.com/articles/299209a0.pdf?origin=ppub}}</ref>。 |
|||
=== 現代の天体力学 === |
|||
ソ連の[[スプートニク計画]]による1957年に世界初の人工衛星[[スプートニク1号]]の打ち上げ以降、宇宙空間における人工物の軌道制御を扱う[[軌道力学]]が急速に進展した{{Sfn|伊藤|谷川|2007|p=2}}。また同時期に電子計算機が実用化されたことにより数値シミュレーションによる軌道計算が可能となった{{Sfn|伊藤|谷川|2007|p=7}}。一方で理論的研究も続けられ、[[アンドレイ・コルモゴロフ]] (1903-1987) らによる[[KAM理論]]、[[堀源一郎]] (1930-) らによる[[リー変換摂動論]]の開発などの進展があった{{Sfn|伊藤|谷川|2007|p=2}}。特にKAM理論は摂動論の有効性を一般的に示すものとみなせ、20世紀天体力学最大の成果と評されている{{Sfn|伊藤|谷川|2007|pp=2, 4}}。また数値計算に関して1980年代から90年代に開発された[[吉田春夫]]らによる[[シンプレクティック数値積分法]]、そして[[杉本大一郎]]、[[牧野淳一郎]]らによる[[GRAPE]]等の特筆に値する発展がある{{Sfn|伊藤|谷川|2007|p=7}}。 |
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== 付録 == |
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=== 太陽系惑星の軌道要素 === |
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理科年表2021年版<ref>{{Cite book |和書 |title=理科年表 2021 |editor=国立天文台 |publisher=丸善出版 |date=2020-11 |isbn=978-4-621-30560-7}}</ref>による、太陽系惑星の質量および元期2021年7月5.0日TT=JD2 459 400.5TTの平均軌道要素。黄道と平均春分点は2001年1月1.5日TT=JD2 451 545.0TTの値による。 |
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{| class="wikitable" style="text-align:center;" |
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|+ 太陽系惑星の軌道要素 |
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|- |
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! 惑星 |
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! 質量 [<math>M_\odot</math>] |
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! 軌道長半径 <math>a</math> [AU] |
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! 離心率 <math>e</math> |
|||
! 軌道傾斜角 <math>i</math> [deg]<br/>(黄道面) |
|||
! 軌道傾斜角 <math>i</math> [deg]<br/>(不変面) |
|||
! 近日点黄経 <math>\varpi</math> [deg] |
|||
! 昇交点黄経 <math>\Omega</math> [deg] |
|||
! 元期平均近点角 <math>M_0</math> [deg] |
|||
|- |
|||
! 水星 |
|||
| 1.6601×10<sup>-7</sup> || 0.3871 || 0.2056 || 7.004 || 6.343 || 77.490 || 48.304 || 282.128 |
|||
|- |
|||
! 金星 |
|||
| 2.4478×10<sup>-6</sup> || 0.7233 || 0.0068 || 3.394 || 2.196 || 131.565 || 76.620 || 35.951 |
|||
|- |
|||
! 地球 |
|||
| 3.0404×10<sup>-6</sup> || 1.0000 || 0.0167 || 0.003 || 1.578 || 103.007 || 174.821 || 179.912 |
|||
|- |
|||
! 火星 |
|||
| 3.2272×10<sup>-7</sup> || 1.5237 || 0.0934 || 1.848 || 1.680 || 336.156 || 49.495 || 175.817 |
|||
|- |
|||
! 木星 |
|||
| 9.5479×10<sup>-4</sup> || 5.2026 || 0.0485 || 1.303 || 0.328 || 14.378 || 100.502 || 312.697 |
|||
|- |
|||
! 土星 |
|||
| 2.8589×10<sup>-4</sup> || 9.5549 || 0.0555 || 2.489 || 0.934 || 93.179 || 113.610 || 219.741 |
|||
|- |
|||
! 天王星 |
|||
| 4.3662×10<sup>-5</sup> || 19.2184 || 0.0464 || 0.773 || 1.028 || 173.024 || 74.022 || 233.182 |
|||
|- |
|||
! 海王星 |
|||
| 5.1514×10<sup>-5</sup> || 30.1104 || 0.0095 || 1.770 || 0.726 || 48.127 || 131.783 || 303.212 |
|||
|} |
|||
=== 月の軌道要素 === |
|||
国立天文台による月の平均軌道要素(J2000.0の平均春分点および黄道による)<ref>{{Cite web |url=https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/CABFB6D1B5B0C6BBCDD7C1C7.html |title=暦Wiki/平均軌道要素 |publisher=国立天文台暦計算室 |accessdate=2021-02-15}}</ref>。<math>T</math> はユリウス世紀数で、<math>J</math> をユリウス日として <math>T = (J - 2451545) / 36525</math> により与えられる<ref>{{Cite web |url=https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/A5E6A5EAA5A6A5B9C0A4B5AABFF4.html |title=暦Wiki/ユリウス世紀数 |publisher=国立天文台暦計算室 |accessdate=2021-02-15}}</ref>。 |
|||
{{Indent|<math>a = 383397.7725 + 0.0040 T \, [\mathrm{km}]</math>}} |
|||
{{Indent|<math>e = 0.055545526 - 0.000000016 T</math>}} |
|||
{{Indent|<math>\lambda = 218.31664563^\circ + 1732559343.48470'' T - 6.3910'' T^2 + 0.006588'' T^3 - 0.00003169'' T^4</math>}} |
|||
{{Indent|<math>\varpi = 83.35324312^\circ + 14643420.2669'' T - 38.2702'' T^2 - 0.045047'' T^3 + 0.00021301'' T^4</math>}} |
|||
{{Indent|<math>i = 5.15668983^\circ - 0.00008'' T + 0.02966'' T^2 - 0.000042'' T^3 - 0.00000013'' T^4</math>}} |
|||
{{Indent|<math>\Omega = 125.04455501^\circ - 6967919.3631'' T + 6.3602'' T^2 + 0.007625'' T^3 - 0.00003586'' T^4</math>}} |
|||
== 脚注 == |
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{{Reflist |3 |refs= |
|||
<ref name="天文学辞典">{{天文学辞典 |urlname=celestial-mechanics}}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-ケプラーの法則">{{天文学辞典 |urlname=keplers-laws |title=ケプラーの法則 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-ケプラー運動">{{天文学辞典 |urlname=keplerian-motion |title=ケプラー運動 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-近点">{{天文学辞典 |urlname=pericenter |title=近点 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-近日点">{{天文学辞典 |urlname=perihelion |title=近日点 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-近地点">{{天文学辞典 |urlname=perigee |title=近地点 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-遠点">{{天文学辞典 |urlname=apocenter |title=遠点 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-離心近点角">{{天文学辞典 |urlname=eccentric-anomaly |title=離心近点角 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-軌道傾斜角">{{天文学辞典 |urlname=orbital-inclination |title=軌道傾斜角 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-昇交点">{{天文学辞典 |urlname=ascending-node |title=昇交点 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-近日点引数">{{天文学辞典 |urlname=argument-of-perihelion |title=近日点引数 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-軌道要素">{{天文学辞典 |urlname=orbital-element |title=軌道要素 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-接触軌道要素">{{天文学辞典 |urlname=osculating orbital elements |title=接触軌道要素 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-黄道座標系">{{天文学辞典 |urlname=ecliptic-coordinate-system |title=黄道座標系 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-摂動">{{天文学辞典 |urlname=perturbation |title=摂動}}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-永年共鳴">{{天文学辞典 |urlname=secular-resonance |title=永年共鳴"}}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-平均運動共鳴">{{天文学辞典 |urlname=mean-motion-resonance |title=平均運動共鳴"}}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-尽数関係">{{天文学辞典 |urlname=commensurability |title=尽数関係 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-カークウッドの間隙">{{天文学辞典 |urlname=kirkwood-gap |title=カークウッドの間隙 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-族">{{天文学辞典 |urlname=asteroid-family-2 |title=族(小惑星の)"}}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-冥王星">{{天文学辞典 |urlname=pluto |title=冥王星"}}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-共鳴外縁天体">{{天文学辞典 |urlname=resonant-trans-neptunian-object |title=共鳴外縁天体 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-潮汐">{{天文学辞典 |urlname=tide |title=潮汐 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-潮汐力">{{天文学辞典 |urlname=tidal-force |title=潮汐力 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-潮汐ロック">{{天文学辞典 |urlname=tidal-lock |title=潮汐ロック }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-潮汐摩擦">{{天文学辞典 |urlname=tidal-friction |title=潮汐摩擦 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-潮汐加熱">{{天文学辞典 |urlname=tidal-heating |title=潮汐加熱 }}</ref> |
|||
<ref name="天文学辞典-羊飼い衛星">{{天文学辞典 |urlname=shepherd-satellite |title=羊飼い衛星 }}</ref> |
|||
<ref name="暦-月">{{Cite web |url=https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/B7EEA4CEB8F8C5BEB1BFC6B0.html |title=暦Wiki/月の公転運動 |publisher=国立天文台暦計算室 |accessdate=2021-02-13}}</ref> |
|||
<ref name="Tsiganis2007">{{Cite journal |last=Tsiganis |first=K. |date=2007 |title=Chaotic Diffusion of Asteroids |editor=Benest D., Froeschle C., Lega E. |journal=Topics in Gravitational Dynamics |publisher=Springer |doi=10.1007/978-3-540-72984-6_5 |page=111}}</ref> |
|||
}} |
|||
== 参考文献 == |
|||
=== 書籍 (教科書) === |
|||
* {{Cite book |和書 |title=シリーズ現代の天文学 13 天体の位置と運動 |edition=第2版 |editor=福島登志夫 |publisher=日本評論社 |date=2017-07 |isbn=9784535607637 |ref={{SfnRef|福島|2017}} }} |
|||
* {{Cite book |和書 |author=木下宙 |title=天体と軌道の力学 |publisher=東京大学出版会 |date=1998 |isbn=978-4-13-060721-6}} |
|||
* {{Cite book |last1=Murray |first1=Carl D. |last2=Dermott |first2=Stanley F. |title=Solar System Dynamics |publisher=Cambridge University Press |date=2000 |isbn=9780521575973 |doi=10.1017/CBO9781139174817 |ref=harv}} |
|||
* {{Cite book |last=Plummer |first=H. C. |authorlink=ヘンリー・プラマー (天文学者) |title=An Introductory Treatise on Dynamical Astronomy |date=1918 |url=https://archive.org/details/introductorytrea00plumuoft |ref=harv}} |
|||
* {{Cite book |last1=Boccaletti |first1=Dino |last2=Pucacco |first2=Giuseppe |title=Theory of Orbits: Volume 1: Integrable Systems and Non-perturbative Methods |doi=10.1007/978-3-662-03319-7 |publisher=Springer |date=2004 |isbn=978-3-642-08210-8 |ref=harv}} |
|||
* {{Cite book |last1=Boccaletti |first1=Dino |last2=Pucacco |first2=Giuseppe |title=Theory of Orbits: Volume 2: Perturbative and Geometrical Methods |date=2002 |publisher=Springer |isbn=3-540-60355-7 |ref=harv}} |
|||
* {{Cite book |first=Gerhard |last=Beutler |title=Methods of Celestial Mechanics Volume I: Physical, Mathematical, and Numerical Principles |publisher=Springer |date=2005a |doi=10.1007/b138225 |isbn=978-3-540-40749-2 |ref=harv}} |
|||
* {{Cite book |first=Gerhard |last=Beutler |title=Methods of Celestial Mechanics Volume II: Application to Planetary System, Geodynamics and Satellite Geodesy |publisher=Springer |date=2005b |doi=10.1007/b137725 |isbn=978-3-540-26512-2 |ref=harv}} |
|||
* {{Cite book |last=Geiges |first=H. |date=2016 |title=The Geometry of Celestial Mechanics |publisher=Cambridge University Press |doi=10.1017/CBO9781316410486.003}} |
|||
* {{Cite book |title=Foundations of Celestial Mechanics |author=George W. Collins, II |date=2004 |url=http://bifrost.cwru.edu/personal/collins/celest/ |bibcode=1989fcm..book.....C |ref={{SfnRef|Collins|2004}} }} |
|||
=== 書籍 (その他) === |
|||
* {{Cite book |first1=Todd |last1=Timberlake |first2=Paul |last2=Wallace |title=Finding our Place in the Solar System: The Scientific Story of the Copernican Revolution |publisher=Cambridge University Press |date=2019 |isbn=9781316856208 |doi=10.1017/9781316856208 |ref=harv}} |
|||
* {{Cite book |last1=Misner |first1=Charles W. |first2=Kip S. |last2=Thorne |first3=John Archibald |last3=Wheeler |title=Gravitation |date=1973 |publisher=Freeman |isbn=0-7167-0344-0 |ref=harv}} |
|||
* {{Cite book |editor=N.N. Bogolyubov, G.K. Mikhaĭlov, and A.P. Yushkevich |translator=Robert Burns |title=Euler and modern science |publisher=Mathematical Association of America |date=2007 |ref={{SfnRef|Bogolyubov|2014}} }} |
|||
* {{Cite book |title=The Hill-Brown Theory of the Moon’s Motion: Its Coming-to-be and Short-lived Ascendancy (1877-1984) |first=Curtis |last=Wilson |date=2010 |publisher=Springer |isbn=978-1-4419-5937-9 |doi=10.1007/978-1-4419-5937-9 |ref=harv}} |
|||
* {{Cite book |last=Barrow-Green |firsT=June |title=Poincaré and the Three-Body Problem |date=1997 |publisher=American Mathematical Society |doi=10.1090/hmath/011/01 |ref=harv}} |
|||
* {{Cite book |first=Steven |last=Wepster |title=Between Theory and Observations: Tobias Mayer's Explorations of Lunar Motion, 1751-1755 |doi=10.1007/978-1-4419-1314-2 |date=2010 |publisher=Springer |isbn=978-1-4419-1314-2 |ref=harv}} |
|||
* {{Cite book |title=Landmark Writings in Western Mathematics 1640-1940 |isbn=978-0-444-50871-3 |date=2005 |publisher=Elsevier |doi=10.1016/B978-0-444-50871-3.X5080-3 |editor=I. Grattan-Guinness, Roger Cooke, Leo Corry, Pierre Crépel, Niccolo Guicciardini |ref={{SfnRef|Grattan-Guinness|2005}} }} |
|||
* {{Cite book |title=Planetary Ring Systems: Properties, Structure, and Evolution |editor=Matthew S. Tiscareno & Carl D. Murray |publisher=Cambridge University Press |date=2018 |isbn=9781316286791 |doi=10.1017/9781316286791 |ref={{SfnRef|Tiscareno|Murray|2018}}}} |
|||
=== 論文等 === |
|||
* {{Cite web |url=http://th.nao.ac.jp/MEMBER/tanikawa/21seiki/cm21j.pdf |author=伊藤孝士, 谷川清隆 |date=2007 |title=21世紀の天体力学 |accessdate=2021-02-12 |ref={{SfnRef|伊藤|谷川|2007}} }} |
|||
* {{Cite web |url=http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1282-2.pdf |title=天体力学とハミルトン力学系 |author=谷川清隆 |date=2002 |accessdate=2021-02-14 |ref={{SfnRef|谷川|2002}} }} |
|||
* {{Cite web |url=https://www2.tsuda.ac.jp/suukeiken/math/suugakushi/sympo09/9_4nakane.pdf |title=Hamilton-Jacobi理論の新展開 Poincaréによる「Jacobiの定理」の解釈 |author=中根美知代 |date=1999 |accessdate=2021-02-14 |ref={{SfnRef|中根|1999}} }} |
|||
* {{Cite journal |last1=Wilson |first1=Curtis |title=The great inequality of Jupiter and Saturn: from Kepler to Laplace |journal=Archive for History of Exact Sciences |volume=33|issue=1-3|year=1985|pages=15–290|issn=0003-9519 |doi=10.1007/BF00328048 |ref=harv}} |
|||
* {{Cite journal |last1=Bodenmann|first1=Siegfried|title=The 18th-century battle over lunar motion|journal=Physics Today |volume=63|issue=1|year=2010|pages=27–32 |issn=0031-9228|doi=10.1063/1.3293410|bibcode=2010PhT....63a..27B |url=http://sites.apam.columbia.edu/courses/ap1601y/Lunar_Motion_PhysToday_2010.pdf |ref=harv}} |
|||
* {{Cite journal |last1=Caparrini|first1=Sandro |title=The history of the Méchanique analitique|journal=Lettera Matematica |volume=2|issue=1-2|year=2014|pages=47–54 |issn=2281-6917|doi=10.1007/s40329-014-0043-3 |ref=harv}} |
|||
* {{Cite journal |last1=Nakane|first1=Michiyo|last2=Fraser|first2=Craig G. |title=The Early History of Hamilton-Jacobi Dynamics 1834-1837 |journal=Centaurus|volume=44|issue=3-4|year=2002|pages=161–227|issn=0008-8994|doi=10.1111/j.1600-0498.2002.tb00613.x |ref=harv}} |
|||
* {{Cite journal |last=Kushner |first=D. |title=The controversy surrounding the secular acceleration of the moon's mean motion |journal=Archive for History of Exact Sciences |date=1989 |volume=39 |pages=291-316 |bibcode=1989AHES...39..291K |doi=10.1007/BF00348444 |ref=harv}} |
|||
* {{Cite journal |last=Peale |first=Stanton J. |title=Celestial mechanics |journal=Encyclopedia Britannica |date=2015 |url=https://www.britannica.com/science/celestial-mechanics-physics |ref=harv}} |
|||
* {{Cite journal |last=Laskar |first=J. |date=2013 |title=Is the Solar System Stable? |editors=Duplantier B., Nonnenmacher S., Rivasseau V. |journal=Chaos. Progress in Mathematical Physics |volume=66 |publisher=Birkhäuser |location=Basel |doi=10.1007/978-3-0348-0697-8_7 |ref=harv}} |
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== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
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{{Commons|Category:Celestial mechanics}} |
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* [[天体物理学]] |
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* [[位置天文学]] |
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* [[天文学]] |
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* [[天球座標系]] |
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== 外部リンク == |
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* [[暦法]] |
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* {{Spedia|Celestial_mechanics|Celestial mechanics}} |
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* [[三体問題]] |
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* [[N体シミュレーション]] |
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{{天文学}} |
{{天文学}} |
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{{DEFAULTSORT:てんたいりきかく}} |
{{DEFAULTSORT:てんたいりきかく}} |
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[[Category:天 |
[[Category:天体力学|*]] |
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[[Category:天文学の分野]] |
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[[Category:力学]] |
[[Category:力学]] |
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[[Category:物理学の分野]] |
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[[Category:天 |
[[Category:天文学の分野]] |
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[[Category:天文学に関する記事]] |
2021年2月17日 (水) 04:07時点における版
古典力学 | ||||||||||
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歴史 | ||||||||||
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宇宙力学 |
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天体力学(てんたいりきがく、英: celestial mechanics)[1]は万有引力の法則に従う天体の運動を古典力学に基づいて扱う学問である。ニュートン力学から成立した物理学の一分野であり[2]、また位置天文学と並び古典天文学の一角を占める[3]。
惑星の運動は主に太陽の重力によって支配されている(ケプラーの法則)ものの、他の惑星等が及ぼす重力が摂動として無視できない影響を及ぼすため、天体力学ではそのような摂動を解析的に取り扱う摂動論が発達した。その最も単純かつ非自明な問題が三体問題である。月の運動は暦の編纂や航海術への応用という実用的な目的のためにとりわけ精確な予測が求められる一方で、惑星の運動に比べ太陽や惑星の摂動が大きく影響するため、太陰運動論は何世代にも渡って改良されてきた。また天王星の観測データの異常から海王星の存在を予言しその位置を予測したことでも知られる。
天体力学は惑星の平衡形状、軌道共鳴、太陽系の安定性、自転と公転の同期といった問題をも扱う。20世紀には人工衛星・宇宙探査機の軌道設計および軌道制御を扱う軌道力学が派生し、また天体力学の適用対象も太陽系から惑星形成、ブラックホール連星、そして球状星団および銀河などへと拡大した。
ケプラー運動
中心天体(例えば太陽)からの重力(万有引力の法則)を受ける天体(例えば惑星)の運動はケプラー運動と呼ばれる[4]。ケプラー運動では、天体の位置 はニュートンの運動方程式
を満足する。 は重力定数と中心天体の質量と問題の天体の質量の和の積である。なお天体力学では伝統的に重力定数 の代わりにその平方根として定義されるガウス定数 が、また質量の単位として太陽質量を基準とする単位系が採用される[5][6]。この単位系では、問題の天体の質量を とすると
が成立する[7]。
ケプラーの法則
ケプラーの法則[8]は惑星の軌道の最も基本的な性質を述べたものである(これは惑星のまわりを運動する衛星に関しても成立する)[9]。
- 第1法則: 惑星は太陽をひとつの焦点とする楕円軌道を描く。
- 第2法則: 太陽と惑星を結ぶ線分が単位時間に掃く面積(面積速度)は一定である。
- 第3法則: 惑星の公転周期の二乗は軌道長半径の三乗に比例する。
第1法則が主張する楕円軌道の形状は長半径 (英: semi-major axis) 、離心率 (英: eccentricity) によって特定される。中心天体との距離が最も小さくなる軌道上の点を近点 (英: pericenter) と呼ぶが[10]、特に太陽のまわりを運動する天体の場合は近日点 (英: perihelion)[11]、地球のまわりを運動する天体の場合は近地点 (英: perigee)[12] などと呼ぶ。中心天体との距離が最も大きくなる軌道上の点が遠点 (英: apocenter) である[13]。中心天体と問題の天体の距離(動径) は、中心天体と近点を結ぶ線分と動径がなす角 を用いて
と表示される。角 は真近点角または真近点離角 (英: true anomaly) と呼ばれる[14](#軌道要素節を参照)。なお を半直弦と呼ぶ[15]。
第2法則は角運動量の保存を意味する[16]。第3法則に対応して、長半径 は平均角速度を表す平均運動 (英: mean motion) と
という関係にある[7]。
ケプラー運動には楕円軌道の他に放物線軌道、双曲線軌道が存在する[17]。これらはいずれも円錐曲線である[18]。
軌道要素
天体の軌道およびその上の位置を特定するために用いられるパラメータを軌道要素 (英: orbital element) と呼ぶ[19]。上述の楕円軌道の形を特定するために用いられる長半径 と離心率 は軌道要素のひとつである。さらに、軌道面内における楕円軌道の向きを特定するために近点引数 (英: argument of pericenter)[20][21] が、軌道面を特定するために軌道傾斜角 (英: inclination)[22] と昇交点黄経 (英: longitude of ascending node)[23] が用いられる。まず軌道傾斜角 は天体の軌道面が基準面(多くの場合黄道面[23]または不変面)となす角として定義される[22]。天体の軌道上の点で軌道面と基準面の双方に乗る点が昇交点であり、昇交点が黄道面内の基準方向(春分点[24])となす角(黄経)が昇交点黄経 である[23]。最後に近点引数 は昇交点と近点がなす角である[20]。近点引数 の代わりに
により定義される近点黄経 (英: longitude of pericenter) を採用してもよい[20]。
楕円軌道上の天体の位置を表す角度として真近点角 以外に離心近点角 (英: eccentric anomaly)[14] 、平均近点角 (英: mean anomaly) 、平均黄経 (英: mean longitude) がある。離心近点角 は
を満足し[25]、真近点角 と
という関係にある。平均近点角 は近点通過時刻を として により定義され、離心近点角 とケプラーの方程式
によって結ばれる。平均黄経 は
により定義される。これらの角 , , , は時間的に変化する量であるが、近点通過時刻 または元期 (英: epoch) での平均黄経 を与えればどの角も現在時刻 から計算できるため、元期での平均黄経 を軌道要素として用いれば十分である。これらの軌道要素の組 はケプラーの軌道要素[26]または軌道6要素と呼ばれ、これによって天体の運動状態を完全に特定できる[9]。
具体的な太陽系惑星の軌道要素の値は#太陽系惑星の軌道要素節および#月の軌道要素節を参照。
軌道決定
ある瞬間における天体の座標 および速度 が与えられたならば、その天体の軌道要素は一意に定まりそれを計算することができる[27]。しかし実際には一回の観測で得られるのはふたつの角度(赤道座標では赤緯 と赤経 [28])だけであり、天体の軌道要素を決定するためには最低三回の観測を行う必要がある[29]。観測データから軌道要素を決定する方法論は軌道決定として知られている[30]。
摂動論
惑星の公転軌道は第一に太陽の重力によって支配されており、0次近似としては太陽-惑星の二体問題とみなすことができる。この近似では惑星の軌道要素は一定であり、時間変化しない。しかし実際には惑星の軌道は他の惑星の摂動 (英: perturbation) によって変化する[31][32]。そこである瞬間の惑星の軌道について、その瞬間に運動状態が一致するような仮想的なケプラー軌道を考え、その軌道要素を惑星のその時刻の接触軌道要素 (英: osculating orbital elements)[33] と呼ぶ[34]。接触軌道要素は他の惑星の摂動によって時間変化するため、それを計算することができれば惑星の軌道が求まることになる。このような摂動手法が定数変化法 (英: variation of arbitrary constants) である[35]。
摂動関数とラグランジュの惑星方程式
摂動として働く力が重力などの保存力である場合、天体の運動方程式は摂動関数[36]または擾乱関数 (英: disturbing function[37] または 英: perturbation function[38]) として知られる関数 を用いて
と書くことができる。例えば太陽系惑星の場合、 番目の惑星の太陽を中心とする座標での位置 は、運動方程式
を満足する[39]。ここに は惑星 の質量であり、摂動関数の第1項を直接項 (英: direct term)、第2項を間接項 (英: indirect term) と呼ぶ[40]。
摂動関数 による接触軌道要素 の時間変化はラグランジュの惑星方程式
によって記述される[41][42]。ここに はラグランジュ括弧である。接触軌道要素として を取るとき、ラグランジュの惑星方程式は次のように書き下される[43]。
摂動関数 が与えられたならば、それを摂動展開し惑星方程式を逐次的に解くことにより軌道要素の時間変化が計算できる。
正準変数
ケプラーの軌道要素ではなく正準共役量を基本変数として選ぶと問題が簡単になる場合がある。例えばドロネー変数 は
により定義され、, , が正準共役な組となっている。このときハミルトニアンは
により与えられる[44]。なおこれらの変数はケプラー問題の作用・角変数と関係している[45]。
ガウスの方法
カール・フリードリヒ・ガウスによる方法は摂動関数ではなく天体に働く力を陽に扱うものであり[46]、非保存力を扱うことができる[47]。この場合、運動方程式を
により与えられる[49]。摂動 の成分としては以下の二通りの与え方がある[50]。
- 動径成分 、軌道面内の の法線成分 、軌道面の法線成分 。
- 軌道の接成分 、軌道面内の の法線成分 、軌道面の法線成分 。
前者の立場では、軌道要素 に関するガウスの摂動方程式は次により与えられる[51]。ここに は半直弦である。
永年摂動
摂動関数 の展開は literal expansion として知られる[52]。これは摂動関数を角度座標(平均近点離角 や近点黄経 など)の三角関数の和に分解するものであり、具体的な計算方法がラグランジュ、ラプラス、ルヴェリエ、ハンゼンら多くの人の手によって研究されてきた[52]。軌道要素の時間変化は、周期摂動とそれより長い時間スケールでの時間変化を引き起こす(英: secular perturbation)[53] に分解できるが、太陽系天体では周期摂動より永年摂動の方が重要である[31]。そのため摂動関数から周期摂動を落としたものをラグランジュの惑星方程式と用いることにより永年摂動の計算が可能となる[54]。
応用
太陰運動論
月の満ち欠け(月相)は太陰暦および太陰太陽暦の基礎であり[55]、月の運動は古くから記録されてきた[56]。月の軌道は等速円運動ではなく、そこからのずれ(不等, 英: inequality)が存在する[57]。月の軌道が楕円軌道であることによる不等が中心差であるが、これ以外に例えば太陽の摂動によって次のような不等が存在する。
- 出差 (英: evection): 遠地点または近地点が太陽の向きにあるとき、相対的に強い摂動を受ける効果[57]。
- 二均差 (英: variation): 1朔望月の間に太陽の摂動によって地球の重力が実効的に変化する効果[57]。
- 年差 (英: annual equation): 地球の離心率のために一年の間に太陽の摂動の強さが変化する効果[57]。
これらの不等を説明し、精度よく月の運動を予測することは太陰運動論として古くから調べられてきた。これには純粋な天文学上の興味に加えて、航海術(経度の測定)への応用という実用的な目的があった[58]。
またエドモンド・ハレーによって指摘された、古代から続く月食の記録を比較すると月の平均運動が徐々に増大しているように見えるという永年加速の問題がある[59]。ラプラス、アダムズを含む数世代にわたる長い論争を経て[60]、潮汐摩擦によって地球の自転が減速し時刻の定義自体が変化している効果を考慮することによって永年加速の問題は解決された[59]。
軌道共鳴
同一の中心天体のまわりのふたつの公転軌道について、その平均運動が簡単な整数比にあるとき尽数関係 (英: commensurable) にあるという[61]。このような軌道は安定化または不安定化し、平均運動共鳴と呼ばれる[62]。より正確には、ふたつの軌道 , が平均運動共鳴にあるとは、, を整数として
が成立することを言う(通常第三項は小さな値を取り落としてよい)[36]。例えば小惑星帯のカークウッドの空隙と呼ばれる小惑星の数が少ない領域は木星と平均運動共鳴にあり不安定化したものだと考えられている[63]。逆に太陽系外縁部には共鳴外縁天体と呼ばれる海王星と平均運動共鳴にある天体群が存在することが知られており、その代表的なものが2:3の平均運動共鳴にある冥王星である[64]。またふたつの1:2平均運動共鳴が同時に成立するとき(すなわち1:2:4の平均運動共鳴にあるとき)ラプラス共鳴と呼び、太陽系では木星系のイオ-エウロパ-ガニメデが唯一の例である[65]。
一方、平均運動共鳴とは異なり、永年摂動による近点移動の振動数が摂動天体の固有振動数と尽数関係にあるときは永年共鳴 (英: secular resonance) として知られている[66][67]。これは軌道周期に比べ非常に長い時間スケールでの軌道の不安定化を導く[67]。
太陽系の安定性
太陽系惑星の軌道が長期的に安定して保たれるかという太陽系の安定性の問題はアイザック・ニュートン以来研究されてきた[68]。ニュートンは太陽系は不安定であると考えていた[69][70]。
blind Fate could never make all the Planets move one and the same way in Orbs concentrick, some inconsiderable Irregularities excepted, which may have risen from the mutual Actions of Comets and Planets upon one another, and which will be apt to increase, till this System wants a Reformation. Such a wonderful Uniformity in the Planetary System must be allowed the Effect of Choice. (盲目の運命はすべての惑星を同心円状の軌道上を同じように動かすことはできない。彗星や惑星の相互作用から生じると考えられるわずかな不規則性は増大しつづけ、終には再構築が必要になるだろう。惑星系の驚くべき一様性は神による選択の帰結でなければならない。) — アイザック・ニュートン、Opticks (1706)
ラグランジュらによる摂動論の研究を経て[71]、ラプラスは1776年に永年摂動の1次の範囲では惑星の軌道長半径は時間変化せず安定であることを示した[72]。シメオン・ドニ・ポアソンはラプラスの結果を拡張し、1808年に2次摂動の範囲でも軌道長半径は永年不変量であることを示した[73]。しかしユルバン・ルヴェリエは1840年から41年にかけて、長期間の軌道進化では高次の摂動が重要であり、摂動の低次の項だけに基づくラプラスらによる安定性の証明は信頼できないと指摘した(同時に小分母の問題にも言及している)[74]。アンリ・ポアンカレはこれらの問題提起を受けて、惑星系の軌道は解析的な解の表示が存在しないこと(ポアンカレの定理)、そして問題の摂動級数は一般に発散することを証明した[75]。1960年代のコルモゴロフらによるKAM理論は近可積分系の大部分の軌道は摂動が十分に小さければトーラス上の準周期解となることを示しており、太陽系の安定性をこの路線で証明する研究が行われた[76]。
一方で、1950年頃からは電子計算機による太陽系の長時間高精度シミュレーションが行われるようになった。初期のものとしては1951年の W. J. Eckert らによる5惑星シミュレーションがある[77][78]。Laskar は1989年の論文でシミュレーションの結果リャプノフ時間500万年で不安定化すると主張した[79][80]。しかしリャプノフの意味での不安定性にもかかわらず、伊藤孝士と谷川清隆は±40億年のシミュレーションでは惑星軌道は安定に存在し続けたと報告している[79][81]。太陽系の安定性に関する一般的な理論は2009年現在未だ存在しない[82]。
自転と潮汐
自転: 歳差と章動
多くの天体は公転に加えて自転しており、自転運動はオイラーの運動方程式によって記述される[83]。測地学では地球の自転を地球に対して固定された座標系で議論することが多いものの、天文学分野では慣性系を用いて議論することが好まれる[84]。惑星の自転はある軸(自転軸)まわりの回転として表現でき、その軸を 、自転角速度を とするとき自転は角速度ベクトル により記述される[85][86]。角速度ベクトルは自転角運動量 と という関係にある。ここに は慣性モーメントテンソル
である[87]。しばしば座標系として慣性主軸を取り、そのとき慣性モーメントテンソルは主慣性モーメント , , を固有値とする対角行列となる。
地球の自転軸は月と太陽および他の惑星による摂動を受け、複雑に変化する[88]。このうち長周期での軸の移動を歳差 (英: precession)[89]、より短周期での振動を章動 (英: nutation)[90] と呼ぶ。歳差の周期は約2万6000年であり、春分点の移動をもたらす[91]。章動のうちもっとも振幅の大きな成分は周期18.6年であり、月の昇交点がこの周期で移動していることによる[92]。歳差および章動は木下宙によって1977年に精密な理論が構築された[93][94]。
潮汐力
潮汐力 (英: tidal force)[95]は重力の非一様性のために生じる非一様な重力の作用であり、月および太陽による潮汐力は海の潮汐の原因として知られている[96]。潮汐力はまた天体の潮汐変形、潮汐トルク、潮汐加熱[97]といった現象を引き起こす[96]。
潮汐による海水の移動が生じる摩擦(潮汐摩擦、英: tidal friction)は地球の自転を減速させる[98]。この結果、全角運動量の保存により月は地球から遠ざかる[98]。
惑星の変形
惑星は厳密には球形ではなく、自転による変形および潮汐力による潮汐変形[96]を被る。
主慣性モーメント , , を持つ天体がその外部につくる重力ポテンシャル の表式
はマッカラーの公式と呼ばれる[99]。ここに は天体の重心とポテンシャルの評価点を結ぶ軸まわりの慣性モーメントであり[100]、評価点の座標を とするとき
により与えられる[101]。
自転と公転の同期
月は(秤動 (英: libration) を除き)常に同じ面を地球に向けているが、これは月の自転周期と公転周期が同期しているためである。これは地球の重力による月の潮汐変形が原因であり[102]、潮汐ロックと呼ばれる[103]。
その他のトピック
環
土星や天王星に存在する環は天体力学の重要な適用対象であり、環の構造や安定性、羊飼い衛星[104]といった問題が取り扱われる[105]。
彗星と太陽系小天体の軌道
彗星は大きな離心率を持ち、特に極端なものはサングレーザーと呼ばれる[106]。しばしば彗星は木星との近接散乱により大きな摂動を受けるが、これは円制限三体問題とみなせ、ヤコビ積分の保存から導かれるティスランの判定式によって彗星の同一性を判定できる[107]。また彗星が大きな離心率を獲得する機構として古在メカニズムが提案されている[106]。
小惑星などの太陽系小天体の軌道はカオスを示すことでも注目される。小惑星帯の小惑星の多くは小惑星-木星系の、または小惑星-木星-土星系の平均運動共鳴に由来するカオス軌道を持つ[108]。これは軌道要素のカオス拡散といった効果を生じる[108]。
重力ポテンシャルの高次成分
厳密には天体は球形ではなく、それに対応して天体の重力ポテンシャルには単極子項への補正が存在する(多重極展開)。これは特に地球を周回する人工衛星の軌道に最も大きな摂動として寄与するため、軌道力学では重力ポテンシャルの補正を考慮する必要がある[109]。軸対称な天体の場合には、重力ポテンシャル はルジャンドル多項式 を用いて
と書ける[110]。
一般相対論
強重力場のもとでは一般相対性理論によるニュートン重力からの補正が必要となる。これは水星の近日点移動の要因のひとつとして有名である[111]。例えばシュワルツシルト時空におけるハミルトン–ヤコビ方程式は
と書ける[112]。一般相対論効果はブラックホールなどのコンパクト天体で顕著であり[113]、銀河中心の構成の運動は超大質量ブラックホールの一般相対論効果を強く受ける[114]。また連星パルサーを代表とするコンパクト星連星では重力波放出により軌道が収縮する[115]。
惑星形成
惑星形成理論は微惑星の集積として惑星が形成される過程を議論するものであり、微惑星の合体成長過程は天体力学と関係している[116]。
恒星系力学
恒星系力学は多数の重力相互作用する恒星からなる系を取り扱う理論であり、球状星団や銀河の力学的な性質の基礎となる[117]。この理論は天体力学と顕著な繋がりがある他、統計力学およびプラズマ物理学とも関係している[117]。
歴史
ケプラーの法則
1576年から1601年にかけて、ティコ・ブラーエ (1546-1601) はデンマーク(ウラニボリ)、次いでチェコのプラハにおいて太陽と惑星を観測し、望遠鏡がない当時としては最高精度の誤差1-2分角でその位置をした[118]。ヨハネス・ケプラー (1571-1630) はブラーエの観測結果をもとにケプラーの法則に到達し、1609年の Astronomia nova、1619年の Harmonice Mundi においてこれらの法則を公刊した[119]。
ニュートンの『自然哲学の数学的諸原理』
エドモンド・ハレー (1656-1742) の勧めもあり[120]、1687年にアイザック・ニュートン (1642-1727) は『自然哲学の数学的諸原理』(プリンキピア、羅: Philosophiæ Naturalis Principia Mathematica)を出版し、ニュートン力学および天体力学の基礎を築いた。なおニュートンがプリンキピアを書き上げるにあたって、ロバート・フック (1635-1703)[121] やジョン・フラムスティード (1646-11719)[122] ら同時代の研究者の業績に大きく影響を受けている。
まず第1巻でニュートンは質量 (quantity of matter) および運動量 (quantity of motion) を定義し、力 (force) について論じている[123]。続いて運動の法則を定式化し[124]、中心力場のもとでは面積速度が一定であること(そして逆に面積速度が一定であるならば中心力が働いていること)[125]、円錐曲線を描いて運動する物体には距離の二乗に反比例する中心力が作用していること[126]、その場合に楕円軌道を描く物体の周期は楕円の長半径の1.5乗に比例すること[126]を示した。
さらにニュートンは互いに引力を及ぼす二体問題についても論じ、その重心まわりの運動に帰着できることを示し、逆二乗則の場合には重心まわりの軌道は円錐曲線となることを主張した[127](ただし逆二乗則から楕円軌道が導かれることの証明をプリンキピアの初版では与えず、後の版では証明の概略のみを著述している[128])。また、ニュートンはその理論を月の運動に適用し三体問題の一般解を求めようとしたものの見出すことができず、プリンキピアでは近似解についてのみ記述している[127]。
プリンキピアの第2巻は空気抵抗などの抵抗力のもとでの物体の運動を扱っている[129]。The System of the World と題された第3巻は前2巻とは異なり自然哲学を扱ったもので、ニュートンはそれまでの巻で展開した数学理論を天界の物体の運動に適用した[130]。木星の衛星、土星の衛星、そして惑星がいずれもケプラーの法則(第2法則と第3法則)を満たすことから、天体間には逆二乗則の引力が働いていること、そして地球-月間に働くこの引力は地球上の物体が地球の中心に向かって落下しようとする力(重力)と同じものであると論じている[131]。そしてこのことからすべての物体間に重力が作用すること(万有引力の法則)を主張した[132]。さらに第3巻には自転する球体(すなわち地球)は扁平な形に変形すること[133]、潮汐が月の引力によるものであること[133]、月の運動(ただしこの議論は成功しているとは言い難い)[133]、月と太陽の重力による地球の歳差の計算[133]、彗星の軌道[134]といった内容を扱っている。
解析力学
ニュートンのプリンキピアは当時考案されたばかりの微分法および積分法の使用を避け幾何学的な考察に基づくものであり極めて難解なものであった。プリンキピアの出版後18世紀初頭にかけてピエール・ヴァリニョン (1654-1722)、ヨハン・ベルヌーイ (1667-1748)、Jakob Hermann (1678-1733) らはプリンキピアの内容をゴットフリート・ライプニッツ (1646-1716) らによる微積分学の言葉を用いて理解するようになった[135]。1730年頃からはダニエル・ベルヌーイ (1700-1782)、レオンハルト・オイラー (1707-1783)、アレクシス・クレロー (1713-1765)、ジャン・ル・ロン・ダランベール (1717-1783)らによって保存則やポテンシャルの概念などが導入され、1760年頃までには現在の力学に近い形にまで整備された[136]。ダランベールは1843年に Traité de dynamique を出版した[137]。オイラーは1749年にニュートンの運動方程式を初めて現在知られている形で書き下している[138][139][140]。ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ (1736-1813) は1750年代から統一的な原理に基づく力学の再構築に取り組み、現在解析力学(特にラグランジュ力学)として知られる体系を1788年の著書 Mécanique analytique にまとめ上げた[136][141]。
二体問題と三体問題
上述のように、アイザック・ニュートンはプリンキピアにおいて惑星軌道が円錐曲線であるならば逆二乗則に従う中心力が作用していることを示したものの、逆に逆二乗則の重力を受けて運動する物体の軌道がどのようなものかという問題に対しては十分な回答を著述しなかった。この問題は1710年の Jakob Hermann の研究[142]、そしてそれに続くヨハン・ベルヌーイの研究[143]によって解決された[144][145]。
1693年にハレーは古代バビロニアおよび中世アラブ界の月食の記録を当時の記録と比較し、月の永年加速を指摘した[59]。
1730年代にピエール・ルイ・モーペルテュイ (1698-1759) 率いる観測隊は地球が赤道付近で膨らんでいる扁球であることを証明した。これにより地球の形状に関するジャック・カッシーニ (1677-1756) の理論[146]が棄却され、それと対立していたニュートンの理論の正しさが明らかになった。この観測に参加していたアレクシス・クレローは地球の形状に関する1743年の著書 Théorie de la figure de la terre を出版した後に天体力学の研究を始め、1747年11月にパリで三体問題に関する口頭発表を行い、月の近地点移動を説明するためには万有引力の法則に逆三乗則に従う付加項が必要であると主張した[147](逆二乗則に補正を加えるというアイデアは John Keill にまで遡る[148])。この主張は激しい拒否反応を引き起こし、短距離側ではなく遠距離側で万有引力の法則を修正する必要があると考えていたレオンハルト・オイラーとの間で論戦となった[149][148]。ダランベールもこの問題に興味を示し、独自のアイデアで研究に参入した[150]。1714年に英国が定めた経度法の懸賞金に繋がる可能性から[151]月の近地点移動はこの三者による研究競争となったものの、1749年にクレローは当初の主張を撤回し当時は無視されていた太陽による高次摂動を考慮することによって月の近地点移動を説明できることを示し[150]、この成果によって帝国サンクトペテルブルク科学アカデミーの賞を1750年に獲得した(受賞論文 Théorie de la lune は1753年に出版された)[152][140]。その後クレローはハレー彗星の軌道の摂動計算などの研究を行っている。
1748年にパリの科学アカデミーは木星と土星の相互摂動に関するコンテストを開催し、レオンハルト・オイラーが優勝した(受賞論文は1749年に出版された)[153]。彼は木星と土星の運動のケプラー軌道からの逸脱を完全に説明することはできなかったものの[153]、その後の天体力学の研究において極めて重要な役割を果たす三角級数の方法を導入した[154]。またオイラーの研究には観測データからのパラメータ推定に関する先駆的な業績が含まれている(当時最小二乗法は考案されていなかった)[154]。
トビアス・マイヤー (1723-1762) はオイラーの木星と土星の理論を発展させ太陽-地球-月系に応用することにより[155]、月の天文表を作成し1753年に出版した[156]。その正確さは1760年までにジェームズ・ブラッドリー (1693-1762) の観測によって裏付けられ、1767年に創刊された航海年鑑の基礎となった[156]。
レオンハルト・オイラーは三体問題を求積するために運動の積分を探し求めたものの、必要な数の積分を得ることはできなかった[157]。そこで三体が同一直線に乗る配位の特殊解に目を向け、1766年に三体問題に関する論文 Considerationes de motu corporum coelestium の中で制限三体問題の平衡点であるラグランジュ点のうち直線解と呼ばれる L1, L2 を発見した[158][159]。ラグランジュは1772年にすべての平衡点、特に正三角形解を発見した[160]。ラグランジュはまた一般三体問題の18本の方程式を7本の方程式に帰着できることを示している。
円制限三体問題におけるヤコビ積分は1836年にカール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビ (1804-1851) によって導入された[161][158]。
摂動論の開発
摂動論の基本的な道具立てはジョゼフ=ルイ・ラグランジュによって整備され[162]、ピエール=シモン・ラプラス (1749-1827) によって発展した。接触軌道要素はレオンハルト・オイラーによって厳密に定義された[159]。ラグランジュは月の秤動に関する研究を行い、1764年にフランス科学アカデミーの賞を獲得した[163]。またラグランジュは1779年に摂動関数を導入した[164]。
ピエール=シモン・ラプラスは1773年頃から天体力学の研究を始め、天体の運動および地球の形状・海の潮汐に取り組んだ[165]。ラプラスは1776年に永年摂動の1次の範囲では惑星の軌道長半径は時間変化しないことを示した[72]。また1787年に木星および金星の摂動によって地球軌道の離心率が変化することにより月の永年加速が説明できると主張した(なお半世紀以上が経った1854年にアダムズがラプラスの計算に誤りを発見し、この効果により永年加速は観測を説明するのに必要な値の半分しかないことを指摘している)[59]。1789年のフランス革命に伴う環境の激変もありながら[166]、ラプラスは1796年に Exposition du système du monde を[167]、1799年から1827年にかけて5巻からなる『天体力学論』[168] (Traité de mécanique céleste) を出版した[169]。この著作は以下の内容を取り扱っている[170]。
- 第1巻: (Book 1) 平衡と運動に関する一般論、(Book 2) 重力と物体の運動。
- 第2巻: (Book 3) 天体の形状、(Book 4) 海洋と大気の運動、(Book 5) 天体の重心まわりの運動。
- 第3巻: (Book 6) 惑星の運動、(Book 7) 月の運動。
- 第4巻: (Book 8) 木星、土星、天王星の衛星、(Book 9) 彗星、(Book 10) 世界観について。
- 第5巻: (Book 11) 地球の自転と形状、(Book 12) 弾性流体の運動、(Book 13) 惑星を覆う流体運動、(Book 14) 歳差と秤動、(Book 15) 惑星と彗星の運動、(Book 16) 衛星の運動
ラグランジュは1814年に出版した Mécanique analytique の第2版の中で摂動関数およびラグランジュの惑星方程式といった天体力学の基本的な道具立てをまとめ、高次摂動の系統的な計算が可能であることを示した[162][171]。
軌道決定
ティティウス・ボーデの法則は1766年にヨハン・ティティウス (1729-1796) によって発見され、1772年にヨハン・ボーデ (1747-1826) によって紹介されたことで知られるようになった[172]。これは、太陽系惑星の軌道長半径が簡単な数列
により与えらえるというものである。1781年のウィリアム・ハーシェル (1738-1822) による天王星の発見が の予測に一致したため、この法則は一層興味を集めるようになった[173]。
1801年1月にジュゼッペ・ピアッツィ (1746-1826) は に対応するケレスを発見し(これは最初の小惑星の発見であった)2月上旬まで観測を続けたものの、見失った[173][174]。そこでカール・フリードリヒ・ガウス (1777-1855) は同年9月からケレスの軌道計算に取り組み[174]、11月にケレスの軌道計算に成功した[174]。ガウスはフランツ・フォン・ツァハ (1754-1832) へ計算結果を送り、ツァハとヴィルヘルム・オルバース (1758-1840) はガウスの予測通りの位置にケレスを再発見した[175]。さらに翌年に発見された小惑星パラスの軌道計算にも成功し[175]、ガウスはゲッティンゲン大学の天文台のポストを得た[174]。ガウスはさらに天体力学の研究を進め、その成果を1809年に『天体運動論』 (羅: Theoria motus corporum coelestium in sectionibus conicis solem ambientum) として出版した[176]。軌道決定に関するガウスの方法はラグランジュやラプラスによるものよりコンパクトである[177]。なお『天体運動論』は最小二乗法に関する解説が含まれていることでも知られる[178]。
正準理論
ウィリアム・ローワン・ハミルトン (1805-1865) は自身の光学に関する研究から着想を得て[179]1834年から35年にかけての一連の論文[180][181][182]においてハミルトン力学を創始した。1836年に円制限三体問題に新しい運動の積分を発見した[183]ヤコビはこの論文を書き上げた後にハミルトンの論文を読んだと考えられており[184]、彼は力が時間に依存する場合へとハミルトンの理論を拡張し1837年に現在ハミルトン–ヤコビ方程式として知られる単一の偏微分方程式を書き下した[185]。ハミルトンの方程式はヤコビによって「正準」 (仏: canonique) と命名された[186]。
さらなる発展
1821年にアレクシス・ブヴァール (1767-1843) は天王星の天文表を出版したが、その後の観測はブヴァールの計算と食い違った[187]。これは未知の惑星の摂動によるものであると考え、ジョン・クーチ・アダムズ (1819-1892) とユルバン・ルヴェリエ (1811-1877) は独立にこの未知の惑星の軌道を計算し、ルヴェリエの予測をもとにヨハン・ゴットフリート・ガレ (1812-1910) が1846年に海王星を発見した[187](アダムスの計算結果を受け取ったジェームズ・チャリス (1803-1882) とジョージ・ビドル・エアリー (1801-1892) も探索を試み、ガレによる発見の後に海王星を見出したが彼らは発見者とは認められていない[188])。
1833年にシメオン・ドニ・ポアソン (1781-1840) は独立変数として真近点角 ではなく時刻 を取ることを提案し、Philippe Gustave le Doulcetはこの方法を発展させた[189]。
ルヴェリエは7次までの literal expansion を遂行し、1855年に出版した[190]。この展開はペーター・ハンゼン (1795-1874)、サイモン・ニューカム (1835-1909) らによってさらに発展した。
1856年にジェームズ・クラーク・マクスウェル (1831-1879) は土星の環が固体であるならば不安定であることを証明し、無数の粒子からできているであろうことを指摘した[191]。
1889年にフェリックス・チスラン (1845-1896) は彗星の同一性に関するティスランの判定式を提案した[192]。ティスランはまた『天体力学概論』[193] Traité de mécanique céleste を出版した。
太陰運動論
シャルル=ウジェーヌ・ドロネー (1816-1872) は1860年および1867年に二巻からなる La Théorie du mouvement de la lune を出版し、月の運動について論じた[194]。その中でドロネーは Jacques Binet (1786-1856) が1841年に導入した変数[195]をもとにドロネー変数として知られる正準変数を定義している[194]。ただしドロネーの理論は級数の収束が遅く十分な精度を得るためには多大な計算を要するという難点があった[196]。
ジョージ・ウィリアム・ヒル (1838-1914) は1870年代からドロネーの理論を発展させた[197]。彼は月の軌道を楕円軌道ではなく三体問題の近似解である卵形の軌道として扱い[198]、またそれまで天体力学ではあまり普及していなかった複素指数関数
を全面的に採用した[199]。アーネスト・ウィリアム・ブラウン (1866-1938) は1896年に An Introductory Treatise on the Lunar Theory を出版した[200]後も月の理論についての研究を続け、1919年に月の天文表を完成させた。
力学系の理論
19世紀末に三体問題の求積不可能性が Heinrich Bruns (1848-1919) によるブルンスの定理、そしてアンリ・ポアンカレ (1854-1912) によるポアンカレの定理によって明らかになった[201]。ポアンカレはこの定理および関連する彼の研究成果を1892年から1899年にかけて出版された三巻からなる著書『天体力学の新しい方法』[202] (仏: Les méthodes nouvelles de la mécanique céleste) にまとめている[203]。その後ポアンカレは微分方程式の解を解析的に求めるのではなく、その定性的な性質を明らかにする力学系の理論を創始した[204]。なお、先行する1880年代にはロシアではアレクサンドル・リャプノフ (1857-1918) が力学系の先駆的な研究を行っている[205]。ポアンカレの力学系の理論はジョージ・デビット・バーコフ (1884-1944) らによって受け継がれ20世紀に大きく発展した[206]。バーコフは1927年に Dynamical Systems を出版している[207]。
20世紀に入ってからもEdvard Hugo von Zeipel (1873-1959) は伝統的な摂動論の研究を行い、リンドステッド-ポアンカレの方法を発展させた。またトゥーリオ・レヴィ=チヴィタ (1873-1941)[208]、カール・スンドマン (1873-1949)[209] らは三体問題の数学的な研究を継続した。
一般相対性理論
アルベルト・アインシュタイン (1879-1955) は1915年に一般相対性理論を完成させた。この理論は強重力場中でニュートン理論への補正項を生じ、アインシュタインはこれによって水星の近日点移動の予測値と観測値の不一致(これはルヴェリエによって発見された)が説明できることを示した[210]。後に5冊からなる Celestial mechanics を出版したことで知られる萩原雄祐 (1897-1979) は1930年代に一般相対論的天体力学の研究を行った[211][212]。アインシュタインは1938年にレオポルト・インフェルト、Banesh Hoffmann とともにポスト・ニュートン展開による補正項を含むN体系の運動方程式であるアインシュタイン・インフェルト・ホフマンの方程式を導出した[213]。
準惑星と太陽系小天体
20世紀には観測技術の進展によって太陽系天体が多く発見され、またその理論も進展した。平山清次 (1874-1943) は1918年に小惑星の族の概念を導入した[214]。クライド・トンボー (1906-1997) は1930年に冥王星を発見した(冥王星は2006年のIAU決議によって惑星から準惑星へと分類が変更された)[215]。Mikhail Lidov (1926-1993) と古在由秀 (1928-2018) は1961年から62年に彗星が大きな離心率を獲得する機構を説明し得る古在メカニズムを提案した[216][217]。ピーター・ゴールドレイク (1939-) とScott Tremaine (1950-) は1979年に環における羊飼い衛星の存在を理論的に予想した[218]。
現代の天体力学
ソ連のスプートニク計画による1957年に世界初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げ以降、宇宙空間における人工物の軌道制御を扱う軌道力学が急速に進展した[219]。また同時期に電子計算機が実用化されたことにより数値シミュレーションによる軌道計算が可能となった[211]。一方で理論的研究も続けられ、アンドレイ・コルモゴロフ (1903-1987) らによるKAM理論、堀源一郎 (1930-) らによるリー変換摂動論の開発などの進展があった[219]。特にKAM理論は摂動論の有効性を一般的に示すものとみなせ、20世紀天体力学最大の成果と評されている[220]。また数値計算に関して1980年代から90年代に開発された吉田春夫らによるシンプレクティック数値積分法、そして杉本大一郎、牧野淳一郎らによるGRAPE等の特筆に値する発展がある[211]。
付録
太陽系惑星の軌道要素
理科年表2021年版[221]による、太陽系惑星の質量および元期2021年7月5.0日TT=JD2 459 400.5TTの平均軌道要素。黄道と平均春分点は2001年1月1.5日TT=JD2 451 545.0TTの値による。
惑星 | 質量 [] | 軌道長半径 [AU] | 離心率 | 軌道傾斜角 [deg] (黄道面) |
軌道傾斜角 [deg] (不変面) |
近日点黄経 [deg] | 昇交点黄経 [deg] | 元期平均近点角 [deg] |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
水星 | 1.6601×10-7 | 0.3871 | 0.2056 | 7.004 | 6.343 | 77.490 | 48.304 | 282.128 |
金星 | 2.4478×10-6 | 0.7233 | 0.0068 | 3.394 | 2.196 | 131.565 | 76.620 | 35.951 |
地球 | 3.0404×10-6 | 1.0000 | 0.0167 | 0.003 | 1.578 | 103.007 | 174.821 | 179.912 |
火星 | 3.2272×10-7 | 1.5237 | 0.0934 | 1.848 | 1.680 | 336.156 | 49.495 | 175.817 |
木星 | 9.5479×10-4 | 5.2026 | 0.0485 | 1.303 | 0.328 | 14.378 | 100.502 | 312.697 |
土星 | 2.8589×10-4 | 9.5549 | 0.0555 | 2.489 | 0.934 | 93.179 | 113.610 | 219.741 |
天王星 | 4.3662×10-5 | 19.2184 | 0.0464 | 0.773 | 1.028 | 173.024 | 74.022 | 233.182 |
海王星 | 5.1514×10-5 | 30.1104 | 0.0095 | 1.770 | 0.726 | 48.127 | 131.783 | 303.212 |
月の軌道要素
国立天文台による月の平均軌道要素(J2000.0の平均春分点および黄道による)[222]。 はユリウス世紀数で、 をユリウス日として により与えられる[223]。
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