「閨閥」の版間の差分
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2020年7月11日 (土) 10:13時点における版
閨閥(けいばつ)とは、外戚(妻方の親類)を中心に形成された血縁や婚姻に基づく親族関係、又はそれから成す勢力、共同体、仲間などを指す[1][2]。もともとは中国語で「閨」の意味は夜、寝るための部屋のこと。婚姻は政略結婚[3]も含み、政界、財界、官界さらには王室、貴族に属す一族が自身や血族の影響力の保持および増大を目的に、婚姻関係を用いて構築したネットワークを門閥(もんばつ)と呼ぶこともある[4]。
ここでは便宜上門閥も含めた広義の閨閥について解説する。
世界的な閨閥
ヨーロッパでは各国の王室や貴族との間の政略結婚が古くから行われており、現在にいたるまで複雑な血縁関係が形成されている。英仏関係に見られる閨閥[5]や英独露三帝閨閥のように、これはしばしば国境を越える。三帝閨閥をホーエンツォレルン家の系図から1親等ずつたどってゆき、最初に戻ってくるように書く。フリードリヒ・ヴィルヘルム3世 (プロイセン王)、ヴィルヘルム1世 (ドイツ皇帝)、フリードリヒ3世 (ドイツ皇帝)、ヴィクトリア (ドイツ皇后)、ヴィクトリア (イギリス女王)、エドワード7世 (イギリス王)、アレクサンドラ・オブ・デンマーク、クリスチャン9世 (デンマーク王)、マリア・フョードロヴナ (アレクサンドル3世皇后)、アレクサンドル3世、アレクサンドル2世、アレクサンドラ・フョードロヴナ (ニコライ1世皇后)[6]。
アメリカ合衆国では王室や貴族制度がない。そこでまずボストン等で富裕な旧家同士が通婚するようになり、やがて有力政治家とも姻戚関係をもつようになった[7]。国連の合衆国要人は軍需産業やジャーナリズムと家族関係にあった[8]。
中国・台湾では四大家族が勢力を振るい、現在の国際関係に影響を残した。
日本の場合
摂関政治を筆頭に、古来から皇室を中心にした政略結婚が広く行われている。
武家政権が成立してからは、武家同士、あるいは武家と公家との間に政略結婚は広く行われた。前者の場合、勢力の保持、増大が目的であり、後者では勢力の補完に主眼がおかれているといえる。江戸時代には武家と公家との間の婚姻が将軍家、有力大名家と天皇家、宮家、五摂家などの有力公家との間にさかんに行われ、それぞれの影響力の補完が行われた。
明治時代に入ると、華族制度が成立した。華族には公家華族、大名華族、勲功華族などあり、それぞれが格式や実力などに強み弱みがあったため、それぞれを補完するための通婚が行われた。華族は皇室の藩屏なので当然、天皇家、宮家を巻き込んだものとなった。また富国強兵、殖産興業の結果現れた資本家や高級官僚も、格式や政治力を得るために華族との通婚を望み、経済的、政策的な支援が期待できることから華族も資本家や高級官僚との婚姻による関係強化を望んだ。[9]
第二次世界大戦後、華族制度こそ廃止されたが、政・財・官の分野で有力な一族の間での通婚は、戦後も盛んに行われ、各々の影響力を保持・強化に努めるようになった[10]。政治の分野では国会議員の世襲が常態化したため、政界の主導による財界、官界、さらには皇室との間の通婚で複雑な血縁関係が形成されるようになった。特に大蔵省では、「高輪会」と呼ばれる、若手官僚と政財官界の要人の令嬢との見合いパーティーが定期的に開催されていたという[11]。省庁内部での閨閥形成もしばしば見られ、高級官僚が自省庁の若手有望株のキャリアに娘を嫁がせ、自身の影響力拡大を図る例がある。
近年では政界・財界・官界のみならず学界や芸能界の有力一族も閨閥を形成しており[12]、学界・芸能界の一族と政界・財界・官界・旧皇族・旧華族と姻戚関係を結ぶケースもみられる。
具体的な人物
自民党及びその前身政党である日本自由党・日本民主党・国民協同党、さらに前身である立憲政友会・立憲民政党から輩出された総理大臣や政治家、岩崎家・住友家・三井家などの財閥家族、財界人、官僚、学者(大学教授など)、天皇家・旧皇族・旧華族などがそれぞれ縁戚関係にあり、また彼らの一族から芸能人や文化人が輩出されることもある。ここでは一例を挙げる。
明治・大正・昭和前期の総理大臣経験者
- 伊藤博文-桂太郎-長崎英造-鈴木正雄-後藤新平
- 黒田清隆-黒木三次-松方正義(松方巌)-長與專齋-犬養毅
- 松方正義-山本権兵衛-阿部泰蔵-西園寺公望-住友吉左衛門
- 山縣有朋-船越衛-加藤隆義-加藤友三郎
- 大隈重信-廣澤金次郎-池田勇人-山持巌-田中角栄
- 桂太郎-長崎英造-鈴木正雄-山崎種二-森永太平-松崎昭雄-安倍晋三
- 西園寺公望-鮎川義介-久原房之助-北野隆興-竹中統一-竹下登-金丸信
- 山本権兵衛-松方正義-岩崎弥太郎-加藤高明
- 寺内正毅-児玉源太郎-木戸幸一-阿部信行
- 高橋是清-大久保利通-牧野伸顕-吉田茂-麻生太郎-三笠宮寛仁親王-大正天皇
- 清浦奎吾-坂内義雄-与謝野馨
- 加藤高明-岩崎弥太郎-木内重四郎-渋沢栄一-大川平三郎
- 若槻禮次郎-田原和男-森永貞一郎-武藤清-佐野利器-中田亮吉-愛知和男
- 田中義一-藤井裕久
- 濱口雄幸-正田英三郎-安西正夫-森矗昶-三木武夫-高碕達之助
- 犬養毅-犬養健-安藤和津-奥田瑛二-柄本明-柄本時生-入来茉里
- 齊藤實-豊川良平-岩崎弥太郎-池田成彬
- 岡田啓介-鈴木貫太郎
- 広田弘毅-菅野尚一-村上七郎
- 林銑十郎-斎藤樹-小川平吉-宮澤裕-岸田文武
- 近衛文麿-細川護貞-細川護熙
- 平沼騏一郎-平沼赳夫-高松宮妃喜久子-大正天皇-九条道孝
- 米内光政-竹中統一-黒田善太郎-小原夏樹
昭和後期の総理大臣経験者
- 幣原喜重郎-岩崎弥太郎-澤田美喜-安田祥子・由紀さおり
- 吉田茂-麻生太賀吉-加納久朗-中村久次-橋本龍太郎
- 芦田均-吉沢清次郎-武藤絲治-中上川彦次郎-福澤諭吉-岩崎久弥
- 鳩山一郎-石橋正二郎-石井光次郎-久原房之助-濱口儀兵衛-中部謙吉
- 石橋湛山-足立正-伊藤恭一-河野一郎-河野洋平-河野太郎
- 岸信介-安倍晋太郎-安倍晋三-松崎昭雄-森永太平-山崎種二
- 池田勇人-石橋正二郎-濱口儀兵衛-太田誠一-武田恭作-浅野総一郎
- 佐藤栄作-佐藤信二-安西浩-安西正夫-森矗昶
- 田中角栄-山持巌-池田勇人-石橋正二郎-鳩山威一郎-鳩山邦夫
- 三木武夫-森矗昶-松崎哲久-曽祢益-五島慶太・五島昇
- 福田赳夫-横手信一-千野志麻
- 大平正芳-上原明-堀田庄三-安西正夫-正田英三郎-昭和天皇
- 鈴木善幸-麻生太郎-三笠宮寛仁親王-昭和天皇
- 中曽根康弘-渥美健夫-鹿島守之助-石川六郎-下条進一郎-鈴木三郎助
- 竹下登-竹中統一-黒田暲之助-椿原慶子
平成期の総理大臣経験者
- 宮澤喜一-宮澤エマ・宮澤洋一-郷和道-石橋正二郎-成毛厚子
- 細川護熙-近衛文麿-明仁上皇-千宗室-永谷嘉男-十五代目片岡仁左衛門-藤原紀香-陣内智則-松村未央
- 羽田孜-津下綱平-大澤徳太郎-八馬安二良-坂野常礼-中内㓛
- 橋本龍太郎-中村久次-阪谷芳郎-渋沢栄一
- 森喜朗-森茂喜-谷本大-八木又右衛門-時國益夫-右近保太郎-小林中
- 小泉純一郎-小泉正也-石田光治-石原慎太郎・石原伸晃・石原良純-石原裕次郎
- 安倍晋三-安倍寛信-牛尾治朗-牛尾奈緒美
- 福田康夫-嶺駒夫-斎藤明-福永一臣-福永浩介-石田博英-三宅和助-三宅雪子
- 麻生太郎-鈴木善幸-堤平五-小川平吉-宮澤喜一-宮澤エマ
- 鳩山由紀夫-石橋幹一郎-團伊能-團伊玖磨-團遥香-上野季三郎-服部金太郎
旧華族・財界など
関連項目
参考文献
- 新村出 編 『広辞苑 第四版』 岩波書店、1991年11月15日第1刷発行。ISBN 4000801023
- 川内俊彦・貝原浩 『部落差別と人権〈2〉』(フォー・ビギナーズ・シリーズ) 現代書館、1998年1月発行。ISBN 9784768400821
- 神一行 - 『閨閥』
- 佐藤朝泰 - 『閨閥-日本のニューエスタブリッシュメント』、『門閥-旧華族階層の復権』、『豪閥-地方豪族のネットワーク』、『日本のロイヤルファミリー』
脚注・出典
広瀬隆の著作について、出典となる系図がその著作に収録されているものの大部分であるときは系図番号を省いている。
- ^ 『広辞苑 第四版』、793頁。
- ^ デジタル大辞泉(けい‐ばつ / 閨閥) 小学館 2018年01月01日閲覧
- ^ 政治、経済、官僚組織などはそれぞれの分野に強みや弱みがあり、各々分野に秀でた一族がそれらを補完し合うため行われる。家同士の互助であるから、必然的に有力な家同士の婚姻が成立する。
- ^ 『広辞苑 第四版』、2561頁。
- ^ 広瀬隆『赤い楯―ロスチャイルドの謎』 1991年11月 集英社 系図85 イギリス・フランスの歴代首脳と現代大富豪の血族関係
- ^ 吉川弘文館 『標準 世界史年表』
- ^ アメリカ対日協議会の母体となったニューズウィーク所有者のハリマン家、アスター家、メロン家、モルガン家などは代表的である。
- ^ 広瀬隆『地球のゆくえ』 集英社 1994年7月 系図16 国連に仕組まれたPKO
- ^ 広瀬隆 『持丸長者 日本を動かした怪物たち 幕末・維新編』『持丸長者 国家狂乱編』
- ^ 広瀬隆 『持丸長者 戦後復興篇』
- ^ 「選択」2007年2月号、選択出版
- ^ 学者の閨閥を形成している箕作家は佐藤朝泰著『門閥―旧華族階層の復権』(立風書房、1987年4月10日第1刷発行、ISBN 4-651-70032-2)及び小谷野敦著『日本の有名一族―近代エスタブリッシュメントの系図集』(幻冬舎〈幻冬舎新書〉、2007年9月30日第1刷発行、ISBN 978-4-344-98055-6)で取り上げられており、芸能人の閨閥を形成しているマキノ家も小谷野著『日本の有名一族』で取り上げられている。