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「著作権法 (フランス)」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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m ノート:著作権指令#改名提案に基づき著作権指令から情報社会指令へ、ノート:国内法化#改名提案に基づき転置 (法学) から国内法化へそれぞれリンク先変更
EU指令の国内法化を中心に加筆。GA選考ご指摘事項の反映含む。
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{{Law|地域=[[フランス]]}}
{{Law|地域=[[フランス]]}}
[[File:Entrée du Conseil d&#039;Etat, Paris 2010.jpg|thumb|300px|著作権を管轄する[[文化・通信省|文化省]]などが入る[[パレ・ロワイヤル]] (2010年)]]
[[File:Entrée du Conseil d&#039;Etat, Paris 2010.jpg|thumb|300px|著作権を管轄する[[文化省 (フランス)|文化省]]などが入る[[パレ・ロワイヤル]] (2010年)]]
'''フランスの著作権法''' (フランスのちょさくけんほう、{{Lang-fr|Les droits d'auteur et les droits voisins du droit d'auteur en France}}{{Refnest|group="註"|伝統的には'''La propriété littéraire et artistique''' (直訳: 文学的および芸術的所有権) と呼ばれていたが、著作物の対象が拡大したこと、また著作者本人だけでなく著作隣接者にまで保護対象が拡大したことを受け、現在は使用頻度が下がっている{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=1}}。}}、意訳: 著作者および著作隣接者に関する権利) は、文芸・音楽・美術・ソフトウェアといった[[著作物]]、およびその[[著作者]]や[[著作隣接権|著作隣接者]]などを保護する[[フランス]]国内の法律である。その条文は{{仮リンク|知的財産法典 (フランス)|fr|Code de la propriété intellectuelle|label=知的財産法典}}の第1部に収録されている{{Refnest|group="註"|著作者本人の権利は1957年3月11日法、著作者隣接権は1985年7月3日法により、それぞれ知的財産法典に収録されることとなった<ref name=ThomsonReuters-Law>{{Cite web |url=https://uk.practicallaw.thomsonreuters.com/w-011-3781?transitionType=Default&contextData=(sc.Default)&firstPage=true&bhcp=1 |title=Copyright litigation in France: overview |trans-title=フランスにおける著作権訴訟の概要 |last1=Bertho |first1=Jean-Mathieu |last2=Robert |first2=Aurélie |publisher=Thomson Reuters Practical Law |accessdate=2019-08-03 |language=en |quote=''Law stated as at 01-Oct-2018'' (2018年10月1日時点のフランス著作権法に基づく解説)}}</ref>。}}。本項では、他国との相違点や著作権法に関連した[[判例]]も取り上げながら、フランス著作権法の条文を解説していく。
'''フランスの著作権法''' (フランスのちょさくけんほう、{{Lang-fr|Les droits d'auteur et les droits voisins du droit d'auteur en France}}{{Refnest|group="註"|伝統的には'''La propriété littéraire et artistique''' (直訳: 文学的および芸術的所有権) と呼ばれていたが、著作物の対象が拡大したこと、また著作者本人だけでなく著作隣接者にまで保護対象が拡大したことを受け、現在は使用頻度が下がっている{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=1}}。}}、意訳: 著作者および著作隣接者に関する権利) は、文芸・音楽・美術・ソフトウェアといった[[著作物]]、およびその[[著作者]]や[[著作隣接権者]]などを保護する[[フランス]]国内の法律である。その条文は{{仮リンク|知的財産法典 (フランス)|fr|Code de la propriété intellectuelle|label=知的財産法典}}の第1部に収録されている{{Refnest|group="註"|著作者本人の権利は1957年3月11日法、著作者隣接権は1985年7月3日法により、それぞれ知的財産法典に収録されることとなった<ref name=ThomsonReuters-Law>{{Cite web |url=https://uk.practicallaw.thomsonreuters.com/w-011-3781?transitionType=Default&contextData=(sc.Default)&firstPage=true&bhcp=1 |title=Copyright litigation in France: overview |trans-title=フランスにおける著作権訴訟の概要 |last1=Bertho |first1=Jean-Mathieu |last2=Robert |first2=Aurélie |publisher=Thomson Reuters Practical Law |accessdate=2019-08-03 |language=en |quote=''Law stated as at 01-Oct-2018'' (2018年10月1日時点のフランス著作権法に基づく解説)}}</ref>。}}。本項では、他国との相違点や著作権法に関連した[[判例]]も取り上げながら、フランス著作権法の条文を解説していく。


文化・芸術大国のフランスが、他国の著作権法に与えた歴史的影響は極めて大きい{{Sfn|木棚照一|2009|pp=6, 60}}。たとえば、世界の先進国の著作権法は[[大陸法]]と[[英米法]]に大きく二分されるが、大陸法諸国の中で著作権法を初めて制定した国がフランスである{{Refnest|group="註"|世界初の本格的な著作権法は、英米法を採用するイギリスが1710年に制定した[[アン法]]である{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=50}}。}}。今日の著作権法の世界的基盤となっている[[ベルヌ条約]]{{Refnest|group="註"|2019年9月時点で170ヶ国以上が加盟<ref name=WIPO-BerneParties>{{Cite web |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ActResults.jsp?act_id=26 |title=WIPO-Administered Treaties {{!}} Contracting Parties > Berne Convention > Paris Act (1971) (Total Contracting Parties : 187) |trans-title=WIPO寄託条約 {{!}} ベルヌ条約 (1971年パリ改正版) の加盟国一覧 (閲覧時点の加盟国数: 171) |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-09-03 |quote=ページタイトル上では加盟187か国と表記されているが、16か国が一覧表に二重登録されていることから、ベルヌ条約1971年パリ改正版の正確な加盟国数は171か国である。 |language=en}}</ref>。}}の起草を、19世紀後半に提唱したのもフランスである{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=11}}。美術著作物の[[追及権]]を保障したのも、フランスが初である{{Refnest|group="註"|美術品がオークションなどで転売されるたびに、売買価格の一定料率を著作者が受け取れる仕組み。フランスが1920年に初導入し、2013年時点で、欧州を中心に世界76ヶ国が追及権を法的に保障しているが、美術取引市場の大きいアメリカ合衆国の連邦法や日本では2018年現在、未導入である<ref name=Bunka2018-Ogawa>{{Cite web |url=http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/kokusai/h30_02/pdf/r1412245_02.pdf |title=追及権の現状 |work=文化審議会著作権分科会国際小委員会(第2回)2018年12月19日開催配布資料 |publisher=[[文化庁]] |date=2018-12-19 |accessdate=2019-07-29}}</ref>。[[米国著作権法]]には州法も一部存在しており、[[カリフォルニア州]]が民法典 第986条で追及権を認めているケースはあるが、その適用は同州内での転売に限定される{{Sfn|山本隆司|2008|pp=37&ndash;38}}。}}。また、フランスの{{仮リンク|SACEM|fr|Société des auteurs, compositeurs et éditeurs de musique|en|Société des auteurs, compositeurs et éditeurs de musique}}は、音楽業界では最古の[[著作権管理団体]]である<ref name=MEXT-CMOs>{{Cite web |url=http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_bunka/chosakuken_index/toushin/attach/1325680.htm |title=第4章 外国の法制度及び集中管理団体の現状 |work=平成11年7月 著作権審議会 権利の集中管理小委員会専門部会中間まとめ |publisher=文部科学省 (文化庁長官官房著作権課が審議会の所管部門) |date=1999-07 |accessdate=2019-07-26}}</ref>{{Sfn|石井大輔|2010|p=23}}{{Refnest|group="註"|19世紀に音楽著作権の協会が立ち上がったのはフランスに続き、イタリア、オーストリア、スペインの3か国のみである{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=9&ndash;10}}。}}。
文化・芸術大国のフランスが、他国の著作権法に与えた歴史的影響は極めて大きい{{Sfn|木棚照一|2009|pp=6, 60}}。たとえば、世界の先進国の著作権法は[[大陸法]]と[[英米法]]に大きく二分されるが、大陸法諸国の中で著作権法を初めて制定した国がフランスである{{Refnest|group="註"|世界初の本格的な著作権法は、英米法系のイギリスが1710年に制定した[[アン法]]である{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=50}}。}}。今日の著作権法の世界的基盤となっている[[ベルヌ条約]]{{Refnest|group="註"|2019年9月時点で170ヶ国以上が加盟<ref name=WIPO-BerneParties>{{Cite web |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ActResults.jsp?act_id=26 |title=WIPO-Administered Treaties {{!}} Contracting Parties > Berne Convention > Paris Act (1971) (Total Contracting Parties : 187) |trans-title=WIPO寄託条約 {{!}} ベルヌ条約 (1971年パリ改正版) の加盟国一覧 (閲覧時点の加盟国数: 171) |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-09-03 |quote=ページタイトル上では加盟187か国と表記されているが、16か国が一覧表に二重登録されていることから、ベルヌ条約1971年パリ改正版の正確な加盟国数は171か国である。 |language=en}}</ref>。}}の起草を、19世紀後半に提唱したのもフランスである{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=11}}。美術著作物の[[追及権]]を保障したのも、フランスが初である{{Refnest|group="註"|美術品がオークションなどで転売されるたびに、売買価格の一定料率を著作者が受け取れる仕組み。フランスが1920年に初導入し、2013年時点で、欧州を中心に世界76ヶ国が追及権を法的に保障しているが、美術取引市場の大きいアメリカ合衆国の連邦法や日本では2018年現在、未導入である<ref name=Bunka2018-Ogawa>{{Cite web |url=http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/kokusai/h30_02/pdf/r1412245_02.pdf |title=追及権の現状 |work=文化審議会著作権分科会国際小委員会(第2回)2018年12月19日開催配布資料 |publisher=[[文化庁]] |date=2018-12-19 |accessdate=2019-07-29}}</ref>。[[米国著作権法]]には州法も一部存在しており、[[カリフォルニア州]]が民法典 第986条で追及権を認めているケースはあるが、その適用は同州内での転売に限定される{{Sfn|山本隆司|2008|pp=37&ndash;38}}。}}。また、フランスの{{仮リンク|SACEM|fr|Société des auteurs, compositeurs et éditeurs de musique|en|Société des auteurs, compositeurs et éditeurs de musique}}は、音楽業界では最古の[[著作権管理団体]]である<ref name=MEXT-CMOs>{{Cite web |url=http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_bunka/chosakuken_index/toushin/attach/1325680.htm |title=第4章 外国の法制度及び集中管理団体の現状 |work=平成11年7月 著作権審議会 権利の集中管理小委員会専門部会中間まとめ |publisher=文部科学省 (文化庁長官官房著作権課が審議会の所管部門) |date=1999-07 |accessdate=2019-07-26}}</ref>{{Sfn|石井大輔|2010|p=23}}{{Refnest|group="註"|19世紀に音楽著作権の協会が立ち上がったのはフランスに続き、イタリア、オーストリア、スペインの3か国のみである{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=9&ndash;10}}。}}。


現代のフランスは[[欧州連合]] (EU) の加盟国として、[[著作権法 (欧州連合)|EUの各種著作権指令]]に基づき、社会の変化に合わせた著作権法の整備を他の加盟国と共に進めている。21世紀に入ってからインターネットを介した著作物の海賊版が急増したことから、EUでは2001年に[[情報社会指令]]を出している。これを受けてフランスでは、著作権の改正立法を成立させて著作権侵害の刑事罰を強化し<ref name=LF2006-961/><ref name=Loi2009-669-WIPO/>{{Sfn|麻生典|2013|p=1}}、[[文化・通信省|文化省]]傘下の監視組織である{{仮リンク|HADOPI|fr|Haute Autorité pour la diffusion des œuvres et la protection des droits sur internet}}を中心にインターネット上の取り締まりを行っている{{Sfn|文化庁|2010|pp=47&ndash;68}}。
現代のフランスは[[欧州連合]] (EU) の加盟国として、[[著作権法 (欧州連合)|EUの各種著作権指令]]に基づき、社会の変化に合わせた著作権法の整備を他の加盟国と共に進めている。21世紀に入ってからインターネットを介した著作物の海賊版が急増したことから、EUでは2001年に[[情報社会指令]]を出している。これを受けてフランスでは、著作権の改正立法を成立させて著作権侵害の刑事罰を強化し<ref name=LF2006-961/><ref name=Loi2009-669-WIPO/>{{Sfn|麻生典|2013|p=1}}、[[文化・通信省|文化省]]傘下の監視組織である{{仮リンク|HADOPI|fr|Haute Autorité pour la diffusion des œuvres et la protection des droits sur internet}}を中心にインターネット上の取り締まりを行っている{{Sfn|文化庁|2010|pp=47&ndash;68}}。
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**** 「演奏・上演権」-- 朗読・生の演奏・展示・上映・テレビ放送・衛星配信・通信などの手段で公衆に伝える権利 (いわゆる[[公衆伝達権]]を含む) (L122条-2)<ref name=LF-CPI-L122/>
**** 「演奏・上演権」-- 朗読・生の演奏・展示・上映・テレビ放送・衛星配信・通信などの手段で公衆に伝える権利 (いわゆる[[公衆伝達権]]を含む) (L122条-2)<ref name=LF-CPI-L122/>
**** 「追及権」-- 美術品が転売されるたびに売買価格の一定割合を著作者が受け取れる権利 (L122条-8)<ref name=LF-CPI-L122/>
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** 著作隣接者の権利{{Sfn|Greffe|2016|p=90}}
** 著作隣接者の権利{{Sfn|Greffe|2016|p=90}}
*** [[実演家人格権|実演家の人格権]] -- 著作者本人と同様、尊重権が認められる (L212条-1、L212条-2)<ref name=LF-CPI-L212/>
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*** 実演家の財産権 -- メディア企業に無断で複製・頒布されないよう、労働法典に基づく書面契約と正当な報酬支払が必要 (L212条-3)<ref name=LF-CPI-L212/>
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*** 実演家以外の財産権 -- レコード製作者、映画などの視聴覚著作物製作者、放送事業者 (すなわちメディア企業など) に複製権、頒布権、貸与権が認められる (L213条-1<ref name=LF-CPI-L213/>、L215条-1<ref name=LF-CPI-L215/>およびL216条-1<ref name=LF-CPI-L216/>)
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** [[データベース権|スイ・ジェネリス権]] (データベース権) -- データベース製作者に認められる権利で、著作権や著作隣接権に根拠を持たない特別な権利{{Refnest|group="註"|ラテン語の{{仮リンク|スイ・ジェネリス|en|Sui generis}} (Sui generis) とは、「他の分類に属しない、それ単体でユニークな」の意味であり、法学以外でも広く一般的に用いられる用語である<ref name=SuiGeneris-TFD>{{Cite web |url=https://www.thefreedictionary.com/sui+generis |title=sui generis |publisher=The Free Dictionary |work=American Heritage Dictionary of the English Language, Fifth Edition |accessdate=2019-08-07}}</ref>。著作権法においては、著作者本人の権利ないし著作隣接権に属しない権利として、スイ・ジェネリス権の表現が用いられ、特にEU著作権法においてはSui generis database right (スイ・ジェネリス・データベース権) を指すことが多い{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=9}}。}}
** [[データベース権|スイ・ジェネリス権]] (データベース権) -- データベース製作者に認められる権利で、著作権や著作隣接権に根拠を持たない特別な権利{{Refnest|group="註"|ラテン語の{{仮リンク|スイ・ジェネリス|en|Sui generis}} (Sui generis) とは、「他の分類に属しない、それ単体でユニークな」の意味であり、法学以外でも広く一般的に用いられる用語である<ref name=SuiGeneris-TFD>{{Cite web |url=https://www.thefreedictionary.com/sui+generis |title=sui generis |publisher=The Free Dictionary |work=American Heritage Dictionary of the English Language, Fifth Edition |accessdate=2019-08-07}}</ref>。著作権法においては、著作者本人の権利ないし著作隣接権に属しない権利として、スイ・ジェネリス権の表現が用いられ、特にEU著作権法においてはSui generis database right (スイ・ジェネリス・データベース権) を指すことが多い{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=9}}。}}
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=== 特徴まとめ ===
=== 特徴まとめ ===
[[File:Map of the Legal systems of the world (en).png|世界の法体系: フランスを含む水色が大陸法系、桃色が英米法系、緑色がイスラム法系、黄色が慣習法系の国。|thumb|550px]]
[[File:Map of the Legal systems of the world (en).png|世界の法体系: フランスを含む水色が大陸法系、桃色が英米法系、緑色がイスラム法系、黄色が慣習法系の国。|thumb|550px]]
一般的に大陸法系の国々は、著作者本人の権利を著作者人格権と著作財産権に分ける二元論を採用している。その中でもフランスでは、著作者人格権を著作財産権に優先させている点が特徴的である{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=3}}。知的財産法典は「精神の著作物の著作者」という条文表現から始まっており、著作者の人格を尊重するフランスの立法精神がうかがえる (L111条-1)<ref name=LF-CPI-L111/>。
一般的に大陸法系の国々は、著作者本人の権利を著作者人格権と著作財産権に分ける二元論を採用している{{Refnest|group="註"|二元論を採用する代表国としてフランスが、一元論としてドイツが挙げられる。両者の違いであるが、二元論に基づくフランスでは、著作財産権は譲渡が可能であり、また市場の現実に即して著作財産権の保護期間に上限を設けている。一方のドイツは、著作者人格権と著作財産権の差異が少なく、たとえば著作財産権も譲渡不可能であり、死後も永続すると考えられている{{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|pp=19&ndash;20}}。}}。その中でもフランスでは、著作者人格権を著作財産権に優先させている点が特徴的である{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=3}}。知的財産法典は「精神の著作物の著作者」という条文表現から始まっており、著作者の人格を尊重するフランスの立法精神がうかがえる (L111条-1)<ref name=LF-CPI-L111/>{{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|p=6}}


またフランスでは、著作権は「所有権」であると考えられている{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=3&ndash;4}}。フランスを含む大陸法の国々では、著作物とは著作者の人格を投映した成果物であることから、他の誰でもない著作者の所有物であり (人格理論)、著作物の創作にかかる労力に見合った利益を享受する権利がある (労働理論) という考えに基づいている{{Refnest|group="註"|人格理論についてはドイツの法哲学者[[ヘーゲル]]を、労働理論についてはイギリスの哲学者[[ジョン・ロック|ロック]]の政府二論を下敷きにしている{{Sfn|山本隆司|2008|pp=9&ndash;11}}。}}。
またフランスでは、著作権は「所有権」であると考えられている{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=3&ndash;4}}。フランスを含む大陸法の国々では、著作物とは著作者の人格を投映した成果物であることから、他の誰でもない著作者の所有物であり (人格理論){{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|p=6}}、著作物の創作にかかる労力に見合った利益を享受する権利がある (労働理論) という考えに基づいている{{Refnest|group="註"|人格理論についてはドイツの法哲学者[[ヘーゲル]]を、労働理論についてはイギリスの哲学者[[ジョン・ロック|ロック]]の政府二論を下敷きにしている{{Sfn|山本隆司|2008|pp=9&ndash;11}}。}}。


これらの考え方は、英米法を採用するとは対極的である。たとえば英国の[[アン法]]を模倣して発展してきた[[米国著作権法]]は、あくまで産業・文化の振興という目的を達するため、その手段として著作権保護があると捉える「産業政策理論」に立脚している{{Sfn|松川実|2014|pp=3&ndash;4}}{{Sfn|山本隆司|2008|pp=9&ndash;11}}。その結果、著作権は英語ではCopyright (コピーする権利) と表現されるように、英米法における著作権は、著作者以外に無断で複製させず、著作者の財産を守る権利だと狭義に捉えられてきた{{Sfn|岡本薫|2003|p=16}}。
これらの考え方は、英米法国とは対極的である。たとえば英国の[[アン法]]を模倣して発展してきた[[米国著作権法]]は、あくまで産業・文化の振興という目的を達するため、その手段として著作権保護があると捉える「産業政策理論」や「[[功利主義]]」に立脚している{{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|pp=6&ndash;7}}{{Sfn|松川実|2014|pp=3&ndash;4}}{{Sfn|山本隆司|2008|pp=9&ndash;11}}。その結果、著作権は英語ではCopyright (コピーする権利) と表現されるように、英米法における著作権は、著作者以外に無断で複製させず、著作者の財産を守る権利だと狭義に捉えられてきた{{Sfn|岡本薫|2003|p=16}}。


著作者の人格を守ることを重視し、権利の範囲を広く捉えるフランスでは、著作物が著作者の元から離れた後でも人格は投映されたままであることから、著作権法で保護を与え続けている。著作者人格権を例にとると、著作者本人の死亡により消滅すると考える国もあるが<ref group="註">たとえば同じ大陸法系の日本では、著作者人格権を含む一般的な人格権は相続の対象にならず、すなわち本人死亡で消滅するとされている ([[b:民法第896条 但書]])。</ref>、フランスでは死後も永続するとされる (L121条-1-3)<ref name=LF-CPI-L121/>{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=14}}。また、[[追及権]]を世界で初めて認めたのがフランスである。この追及権とは、絵画や彫刻などの美術品を創作した美術家が、その作品を売却したのちも、オークションなどで転売されるたびに売買価格の一定割合を得ることができる権利である<ref name=Bunka2018-Ogawa/>。
著作者の人格を守ることを重視し、権利の範囲を広く捉えるフランスでは、著作物が著作者の元から離れた後でも人格は投映されたままであることから、著作権法で保護を与え続けている。著作者人格権を例にとると、著作者本人の死亡により消滅すると考える国もあるが<ref group="註">たとえば同じ大陸法系の日本では、著作者人格権を含む一般的な人格権は相続の対象にならず、すなわち本人死亡で消滅するとされている ([[b:民法第896条 但書]])。</ref>、フランスでは死後も永続するとされる (L121条-1-3)<ref name=LF-CPI-L121/>{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=14}}。また、[[追及権]]を世界で初めて認めたのがフランスである。この追及権とは、絵画や彫刻などの美術品を創作した美術家が、その作品を売却したのちも、オークションなどで転売されるたびに売買価格の一定割合を得ることができる権利である<ref name=Bunka2018-Ogawa/>。


著作者の人格が投映されていれば、その表現形態がいかなるものであれ、著作物として認められる。著作物というと、書籍や絵画、音楽、映像など視覚または聴覚を使って鑑賞する作品をイメージしやすいが、フランスではさらに嗅覚に訴える香水にまで著作権を認めた判例があるほどである{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=5}}。また、美術作品については純粋美術のみ認め、実用品のデザインといった[[応用美術]]に対する著作権保護を否定する国もあるが{{Refnest|group="註"|たとえば米国著作権法は第106A条で著作者人格権の対象を視覚美術作品 (visual art) に限定しており<ref name=USLaw-106A>{{Cite web |url=https://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section106A&num=0&edition=prelim |title=17 USC 106A: Rights of certain authors to attribution and integrity |trans-title=合衆国法典第17編 (著作権法収録) 第106A条: 著作者に帰属する権利と人格保護 |publisher=The Office of the Law Revision Counsel in the U.S. House of Representatives |accessdate=2019-07-28 |language=en }}</ref>、第101条の定義によると、視覚美術作品の対象から応用美術が除外されている<ref name=USLaw-101>{{Cite web |url=https://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section101&num=0&edition=prelim |title=17 USC 101: Definitions |trans-title=合衆国法典第17編 (著作権法収録) 第101条: 用語の定義 |publisher=The Office of the Law Revision Counsel in the U.S. House of Representatives |accessdate=2019-07-28 |language=en |quote=''A work of visual art does not include (中略) any poster, map, globe, chart, technical drawing, diagram, model, applied art, motion picture or other audiovisual work, book, magazine, newspaper, periodical, data base, electronic information service, electronic publication, or similar publication...''}}</ref>。日本では、応用美術は意匠法で保護されるが、さらに著作権法でも二重に保護されるのかは司法判断が分かれている{{Sfn|田村善之|1998|pp=31&ndash;39}}。}}、フランスでは応用美術も保護対象としている{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=6}}。
著作者の人格が投映されていれば、その表現形態がいかなるものであれ、著作物として認められる。著作物というと、書籍や絵画、音楽、映像など視覚または聴覚を使って鑑賞する作品をイメージしやすいが、フランスではさらに嗅覚に訴える香水にまで著作権を認めた判例があるほどである{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=5}}。また、美術作品については純粋美術のみ認め、実用品のデザインといった[[応用美術]]に対する著作権保護を否定する国もあるが{{Refnest|group="註"|たとえば米国著作権法は第106A条で著作者人格権の対象を視覚美術作品 (visual art) に限定しており<ref name=USLaw-106A>{{Cite web |url=https://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section106A&num=0&edition=prelim |title=17 USC 106A: Rights of certain authors to attribution and integrity |trans-title=合衆国法典第17編 (著作権法収録) 第106A条: 著作者に帰属する権利と人格保護 |publisher=The Office of the Law Revision Counsel in the U.S. House of Representatives |accessdate=2019-07-28 |language=en }}</ref>、第101条の定義によると、視覚美術作品の対象から応用美術が除外されている<ref name=USLaw-101>{{Cite web |url=https://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section101&num=0&edition=prelim |title=17 USC 101: Definitions |trans-title=合衆国法典第17編 (著作権法収録) 第101条: 用語の定義 |publisher=The Office of the Law Revision Counsel in the U.S. House of Representatives |accessdate=2019-07-28 |language=en |quote=''A work of visual art does not include (中略) any poster, map, globe, chart, technical drawing, diagram, model, applied art, motion picture or other audiovisual work, book, magazine, newspaper, periodical, data base, electronic information service, electronic publication, or similar publication...''}}</ref>。日本では、応用美術は意匠法で保護されるが、さらに著作権法でも二重に保護されるのかは司法判断が分かれている{{Sfn|田村善之|1998|pp=31&ndash;39}}。}}、フランスでは応用美術も保護対象としている{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=6}}。


[[職務著作]]についても、フランス著作権法は創作した個人を尊重する態度をとっている。一般的に職務著作とは、職務の一環で雇用主の命で創作された著作物は、創作した個人ではなく、雇用主に著作権が帰属するという考え方である{{Sfn|岡本薫|2003|pp=50&ndash;51}}。しかしフランスでは、単に雇用契約や発注契約を締結していたからといって、自動的に雇用主や発注主である企業・団体に著作権が認められるわけではない{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=10&ndash;11}}。
[[職務著作]]についても、フランス著作権法は創作した個人を尊重する態度をとっている。一般的に職務著作とは、職務の一環で雇用主の命で創作された著作物は、創作した個人ではなく、雇用主に著作権が帰属するという考え方である{{Sfn|岡本薫|2003|pp=50&ndash;51}}。しかしフランスでは、単に雇用契約や発注契約を締結していたからといって、自動的に雇用主や発注主である企業・団体に著作権が認められるわけではない{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=10&ndash;11}}。


著作財産権の観点では、一般的な著作権法で認められる「頒布権」および「[[消尽|消尽論]]」がフランス著作権法では認められてこなかったが{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=19&ndash;20}}、21世紀に入ってインターネットを通じた海賊版が横行した結果、これらを明文化する法改正を行っている。頒布権とは、著作権者が独占的に著作物を社会に流通販売できる権利である。また消尽論とは、その著作物の購入者は中古売買 (再販) するなど自由に処分できる (すなわち著作権者の独占権は、購入者の行動にまでおよばずに消え尽きる) という考え方である{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=19&ndash;20}}。この消尽論に則ると、たとえばデジタル楽曲の購入者は、インターネット上で楽曲ファイルをシェアすることができてしまう。しかし、2006年のDADVSI、2009年のHADOPI法によって著作権法が改正され、頒布権が著作者に認められることで、このようなファイルシェアは頒布権を侵害していることになり、刑事罰の対象となった{{Sfn|文化庁|2010|pp=47&ndash;68}}。
著作財産権の観点では、一般的な著作権法で認められる「頒布権」および「[[消尽|消尽論]]」がフランス著作権法では認められてこなかったが{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=19&ndash;20}}、21世紀に入ってインターネットを通じた海賊版が横行した結果、これらを明文化する法改正を行っている。頒布権とは、著作権者が独占的に著作物を社会に流通販売できる権利である。また消尽論とは、その著作物の購入者は中古売買 (再販) するなど自由に処分できる (すなわち著作権者の独占権は、購入者の行動にまでおよばずに消え尽きる) という考え方である{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=19&ndash;20}}。この消尽論に則ると、たとえばデジタル楽曲の購入者は、インターネット上で楽曲ファイルをシェアすることができてしまう。しかし、2006年の{{仮リンク|DADVSI|fr|DADVSI|en|DADVSI}} (情報社会における著作権・著作隣接権法) と、2009年のHADOPI法<ref group="註" name=HADOPI-Desc/>によって著作権法が改正され、頒布権が著作者に認められることで、このようなファイルシェアは頒布権を侵害していることになり、刑事罰の対象となった{{Sfn|文化庁|2010|pp=47&ndash;68}}。


また、米国などで採用されている[[フェアユース]] (公正利用) の法理は、フランスを始めとする欧州各国では否定されている。米国のフェアユースは、著作物を第三者が無断で利用しても著作権侵害に当たらないとする抽象的な一般基準を条文で定めたもので、具体的にどこまでを合法とするかは、もっぱら司法判断に任されている。フランスではこのような一般基準ではなく、著作権法の条文上で個別具体的な基準を設けており、それ以外は原則禁止としている{{Sfn|Hugenholtz|2013|pp=26&ndash;27}}。
また、米国などで採用されている[[フェアユース]] (公正利用) の法理は、フランスを始めとする欧州各国では否定されている。米国のフェアユースは、著作物を第三者が無断で利用しても著作権侵害に当たらないとする抽象的な一般基準を条文で定めたもので、具体的にどこまでを合法とするかは、もっぱら司法判断に任されている。フランスではこのような一般基準ではなく、著作権法の条文上で個別具体的な基準を設けており、それ以外は原則禁止としている{{Sfn|Hugenholtz|2013|pp=26&ndash;27}}。これは、功利主義的な米国では、著作物の利用がどこまで社会的・文化的に価値があるのかの線引きするのは著作者ではなく裁判所だと捉えるのに対し、フランスなど著作者の権利 (droits d'auteur) 意識が強い国では、あくまで他者による著作物の利用は「例外」でしかないためである{{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|p=7}}。


=== 権利の内訳 ===
=== 権利の内訳 ===
==== 著作者人格権 ====
==== 著作者人格権 ====
フランス著作権法では、以下の諸権利が著作者人格権として認められている (L121条)<ref name=LF-CPI-L121/>{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=13&ndash;16}}。著作物そのものが転売されたり、著作財産権を第三者に譲渡したとしても、著作者人格権は「[[一身専属|一身専属性]]」の原則により、著作者本人を死後も永続的に守り続ける (L121条-1-2、L121条-1-3)<ref name=LF-CPI-L121/>。
フランス著作権法では、以下の諸権利が著作者人格権として認められている (L121条)<ref name=LF-CPI-L121/>{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=13&ndash;16}}。著作物そのものが転売されたり、著作財産権を第三者に譲渡したとしても、著作者人格権は「[[一身専属|一身専属性]]」の原則により、著作者本人を死後も永続的に守り続ける (L121条-1-2、L121条-1-3)<ref name=LF-CPI-L121/>。


; 公表権
; 公表権
: 公表権は判例で認められてきた保護内容を、1957年の法改正時に明文化している。公表権に関する代表的な判例として、1900年の[[破毀院]] (フランスの最高裁判所) による「ウィスラー判決」や、1931年の「カモワン判決」(Camoin v. Carco) が知られている{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=13&ndash;16}}。前者は、アメリカ合衆国出身でイギリスで主に活躍した画家[[ジェームズ・マクニール・ウィスラー]] (ホイッスラーとも綴る) が、完成した作品を契約主に対して引き渡し拒否した事例である。破毀院は、ウィスラーに対して損害賠償は命じたものの、著作権法上の公表権をウィスラーに認め、作品の引き渡し要求は棄却した{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=13&ndash;16}}。また後者は、出来栄えに不満を持った画家{{仮リンク|シャルル・カモワン|fr|Charles Camoin|en|Charles Camoin}}が切り刻んでゴミ箱に捨てた作品を、ゴミ漁り人がアート収集家に売却して復元されてしまい、11年後の1925年に{{仮リンク|フランシス・カルコ|fr|Francis Carco|en|Francis Carco}}が所有していることが判明した事件である。復元された作品は差し押さえられ、5000フランを損害賠償として原告カモワンに支払うよう命じられた{{Sfn|Teilmann|2004|pp=5&ndash;6}}。
: 公表権は判例で認められてきた保護内容を、1957年の法改正時に明文化している。公表権に関する代表的な判例として、1900年の[[破毀院]] (フランスの最高裁判所) による「ウィスラー判決」や、1931年の「カモワン判決」(Camoin v. Carco) が知られている{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=13&ndash;16}}。前者は、アメリカ合衆国出身でイギリスで主に活躍した画家[[ジェームズ・マクニール・ウィスラー]] (ホイッスラーとも綴る) が、完成した作品を契約主に対して引き渡し拒否した事例である。破毀院は、ウィスラーに対して損害賠償は命じたものの、著作権法上の公表権をウィスラーに認め、作品の引き渡し要求は棄却した{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=13&ndash;16}}。また後者は、出来栄えに不満を持った画家{{仮リンク|シャルル・カモワン|fr|Charles Camoin|en|Charles Camoin}}が切り刻んでゴミ箱に捨てた作品を、ゴミ漁り人がアート収集家に売却して復元されてしまい、11年後の1925年に{{仮リンク|フランシス・カルコ|fr|Francis Carco|en|Francis Carco}}が所有していることが判明した事件である。復元された作品は差し押さえられ、5000フランを損害賠償として原告カモワンに支払うよう命じられた{{Sfn|Teilmann|2004|pp=5&ndash;6}}。


: なお、ベルヌ条約は第6条で著作者人格権を全般的に規定しているが、公表権については規定がないことから{{Refnest|group="註"|公表権については、1928年のローマ改正の際に追加が提案されるも実現していない{{Sfn|田村善之|1998|p=350|ps=--WIPO (黒川徳太郎訳) 1979年からの孫引き}}。}}、各国の著作権法で保護状況にバラつきがある。フランスでは単に無断で公表されない権利だけでなく、公表する手段についても著作者の意思が尊重され、手厚い保護がなされている。たとえば、書籍の出版契約上でハードカバーの装丁が規定されていたにも関わらず、出版者が著作者に無断でポケット文庫の装丁に変更して出版すると、フランスでは公表権侵害に当たる{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=14}}。
: なお、ベルヌ条約は第6条で著作者人格権を全般的に規定しているが、公表権については規定がないことから{{Refnest|group="註"|公表権については、1928年のローマ改正の際に追加が提案されるも実現していない{{Sfn|田村善之|1998|p=350|ps=--WIPO (黒川徳太郎訳) 1979年からの孫引き}}。}}、各国の著作権法で保護状況にバラつきがある。フランスでは単に無断で公表されない権利だけでなく、公表する手段についても著作者の意思が尊重され、手厚い保護がなされている。たとえば、書籍の出版契約上でハードカバーの装丁が規定されていたにも関わらず、出版者が著作者に無断でポケット文庫の装丁に変更して出版すると、フランスでは公表権侵害に当たる{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=14}}。


; 氏名表示権
; 氏名表示権
: つづいて氏名表示権とは、著作者が実名で公表している場合は、その作品に著作者名と肩書を表示しなければならない権利である。したがって、著作者名を削除する行為だけでなく、著作者以外の第三者の名前を表示する行為 (盗作を含む) も、氏名表示権の侵害に当たる。しかし、先述のとおりフランスでは応用美術の作品にも著作権を認めていることから、たとえば自動車のデザインにまで逐次デザイナーの氏名を表示するのは現実的ではない。このようなケースでは氏名の非表示が免責される判例も存在する{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=14}}。
: つづいて氏名表示権とは、著作者が実名で公表している場合は、その作品に著作者名と肩書を表示しなければならない権利である。したがって、著作者名を削除する行為だけでなく、著作者以外の第三者の名前を表示する行為 (盗作を含む) も、氏名表示権の侵害に当たる。しかし、先述のとおりフランスでは応用美術の作品にも著作権を認めていることから、たとえば自動車のデザインにまで逐次デザイナーの氏名を表示するのは現実的ではない。このようなケースでは氏名の非表示が免責される判例も存在する{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=14}}。


: また、変名や無名 (匿名) を選択することも氏名表示権の範疇である。いわゆる[[ゴーストライター]]を起用して著作物を発表する場合は、ゴーストライター本人に著作者人格権が発生するため、一身専属性の原則に基づき、ゴーストライターの起用主に著作者人格権を譲渡することはできない。仮にこのような譲渡契約を結んだとしても、フランスでは契約自体が無効になる。ただし、ゴーストライターは本人の名前を表示しない意思であることから、ゴーストライターの起用主の名前を著作物に表示する行為そのものは、氏名表示権の侵害には当たらない{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=15}}。
: また、変名や無名 (匿名) を選択することも氏名表示権の範疇である。いわゆる[[ゴーストライター]]を起用して著作物を発表する場合は、ゴーストライター本人に著作者人格権が発生するため、一身専属性の原則に基づき、ゴーストライターの起用主に著作者人格権を譲渡することはできない。仮にこのような譲渡契約を結んだとしても、フランスでは契約自体が無効になる。ただし、ゴーストライターは本人の名前を表示しない意思であることから、ゴーストライターの起用主の名前を著作物に表示する行為そのものは、氏名表示権の侵害には当たらない{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=15}}。


; 尊重権
; 尊重権
[[File:En attendant Godot, Festival d&#039;Avignon, 1978 f22.jpg|thumb|尊重権が問われた『[[ゴドーを待ちながら]]』の原作は男性主人公 (1978年[[アヴィニョン演劇祭]]より)]]
[[File:En attendant Godot, Festival d&#039;Avignon, 1978 f22.jpg|thumb|尊重権が問われた『[[ゴドーを待ちながら]]』の原作は男性主人公 (1978年[[アヴィニョン演劇祭]]より)]]
: フランスの尊重権は、著作物の内容を他者に無断で削除、付加、改変されないよう守り、著作者の個性を尊重する権利であり、他国の著作権法で一般的な「[[同一性保持権]]」よりも保護範囲の広い概念である。尊重権に関する判例はフランスで多数存在する。たとえば、[[サミュエル・ベケット]]著『[[ゴドーを待ちながら]]』(1952年出版) は、ベケットが男性主人公を想定していたにも関わらず、演劇の演出家が女性に変更しようとしたことから、ベケットの死後に著作権相続人がこの演劇の差し止めを求めて提訴している。これに対し、パリ大審裁は1992年、尊重権侵害を認めている{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=15&ndash;16}}{{Refnest|group="註"|しかし、同様の裁判がイタリアのローマでも問われ、2006年に改変を認めていることから、フランスとイタリアでは異なる判決となっている<ref name=Gurdian-Beckett>{{Cite web |url=https://www.theguardian.com/world/2006/feb/04/arts.italy |title=Beckett estate fails to stop women waiting for Godot |trans-title=ベケットの相続人が『ゴドーを待ちながら』の女性主人公化の阻止に失敗 |last=McMahon |first=Barbara |publisher=The Guardian |date=2006-02-04 |accessdate=2019-07-29 |language=en}}</ref>。}}。また、画家[[ベルナール・ビュッフェ]]は冷蔵庫に絵を描いたが、その作品の購入者がビュッフェの意に反して冷蔵庫を解体して絵だけを切り売りしようとした事件では、破毀院が1965年にビュッフェの意思を尊重する判決を下している。同一性保持 (改変禁止) 以外でも、自動車大手[[ルノー]]が彫刻家デュビュッフェに作品を発注したにも関わらず、ルノーが完成を拒んだことから、彫刻家の作品を完成させる尊重権が侵害されたと、ベルサイユ控訴院は1981年に判示している。このように、フランスの尊重権は条文上だけでなく、実質的にも広く適用されている{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=15&ndash;16}}。
: フランスの尊重権は、著作物の内容を他者に無断で削除、付加、改変されないよう守り、著作者の個性を尊重する権利であり、他国の著作権法で一般的な「[[同一性保持権]]」よりも保護範囲の広い概念である。尊重権に関する判例はフランスで多数存在する。たとえば、[[サミュエル・ベケット]]著『[[ゴドーを待ちながら]]』(1952年出版) は、ベケットが男性主人公を想定していたにも関わらず、演劇の演出家が女性に変更しようとしたことから、ベケットの死後に著作権相続人がこの演劇の差し止めを求めて提訴している。これに対し、パリ大審裁は1992年、尊重権侵害を認めている{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=15&ndash;16}}{{Refnest|group="註"|しかし、同様の裁判がイタリアのローマでも問われ、2006年に改変を認めていることから、フランスとイタリアでは異なる判決となっている<ref name=Gurdian-Beckett>{{Cite web |url=https://www.theguardian.com/world/2006/feb/04/arts.italy |title=Beckett estate fails to stop women waiting for Godot |trans-title=ベケットの相続人が『ゴドーを待ちながら』の女性主人公化の阻止に失敗 |last=McMahon |first=Barbara |publisher=The Guardian |date=2006-02-04 |accessdate=2019-07-29 |language=en}}</ref>。}}。また、画家[[ベルナール・ビュッフェ]]は冷蔵庫に絵を描いたが、その作品の購入者がビュッフェの意に反して冷蔵庫を解体して絵だけを切り売りしようとした事件では、破毀院が1965年にビュッフェの意思を尊重する判決を下している。同一性保持 (改変禁止) 以外でも、自動車大手[[ルノー]]が彫刻家デュビュッフェに作品を発注したにも関わらず、ルノーが完成を拒んだことから、彫刻家の作品を完成させる尊重権が侵害されたと、ベルサイユ控訴院は1981年に判示している。このように、フランスの尊重権は条文上だけでなく、実質的にも広く適用されている{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=15&ndash;16}}。


; 修正・撤回権
; 修正・撤回権
: 一方の修正・撤回権であるが、こちらについては著作者が権利行使すると出版者などに実損害が発生するため、権利行使の際には損害賠償が伴うことから、尊重権と比較して実際の権利行使は極めて限定的である{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=16}}。
: 一方の修正・撤回権であるが、こちらについては著作者が権利行使すると出版者などに実損害が発生するため、権利行使の際には損害賠償が伴うことから、尊重権と比較して実際の権利行使は極めて限定的である{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=16}}。


; 著作者人格権の制限・例外
; 著作者人格権の制限・例外
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==== 著作財産権 ====
==== 著作財産権 ====
一般的な著作権法では、著作財産権の支分権を細かく用語定義する傾向にあるが、フランス著作権法ではシンプルに「複製権」(L122条-3)、「演奏・上演権」(L122条-2)、「追及権」の3つに分類している。このうち、複製権と演奏・上演権は「利用権」であると捉えられている (L122条-1)<ref name=LF-CPI-L122/>。著作財産権における利用権とは、著作者以外が無断で利用できない権利、すなわち著作者のみに排他性を認める権利であり{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=17}}、使用権とは異なる{{Refnest|group="註"|著作権法上で「利用」と「使用」の用語は異なる意味合いを持つ。著作物を使う行為のうち、著作権者に独占が許されており、つまり著作権者に利権が発生していることから、第三者が無断で使えない領域は「利用」である。一方の「使用」は、たとえば小説本や音楽CDの購入者が、これらを鑑賞する行為などが含まれる{{Sfn|岡本薫|2003|p=2}}。著作権者の独占はおよばないため、著作権者である小説家や作曲家が、購入者の「使用」方法を指図したり制限することはできない。}}。したがって、無断で第三者が著作物の複製や演奏・上演を行えば、著作権侵害に当たる。ただしこの利用権には、後述する著作権の保護期間が定められていることから、永久に利用権を独占することはできない{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=17}}。また、著作者は第三者に有償または無償で利用権を譲渡することができる (L122条-7)<ref name=LF-CPI-L122/>。
一般的な著作権法では、著作財産権の支分権を細かく用語定義する傾向にあるが、フランス著作権法ではシンプルに「複製権」(L122条-3)、「演奏・上演権」(L122条-2)、「追及権」の3つに分類している。このうち、複製権と演奏・上演権は「利用権」であると捉えられている (L122条-1)<ref name=LF-CPI-L122/>。著作財産権における利用権とは、著作者以外が無断で利用できない権利、すなわち著作者のみに排他性を認める権利であり{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=17}}、使用権とは異なる{{Refnest|group="註"|著作権法上で「利用」と「使用」の用語は異なる意味合いを持つ。著作物を使う行為のうち、著作権者に独占が許されており、つまり著作権者に利権が発生していることから、第三者が無断で使えない領域は「利用」である。一方の「使用」は、たとえば小説本や音楽CDの購入者が、これらを鑑賞する行為などが含まれる{{Sfn|岡本薫|2003|p=2}}。著作権者の独占はおよばないため、著作権者である小説家や作曲家が、購入者の「使用」方法を指図したり制限することはできない。}}。したがって、無断で第三者が著作物の複製や演奏・上演を行えば、著作権侵害に当たる。ただしこの利用権には、後述する著作権の保護期間が定められていることから、永久に利用権を独占することはできない{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=17}}。また、著作者は第三者に有償または無償で利用権を譲渡することができる (L122条-7)<ref name=LF-CPI-L122/>。


著作財産権3つのうち、追及権だけは利用権とは定義されていない (L122条-1)。つまり、美術作品の著作者は、その作品を手放した後に作品の購入者がどのように利用するかを拘束することはできない。また、追及権は複製権や演奏・上演権とは異なり、譲渡不能と定義されている (L122条-8)<ref name=LF-CPI-L122/>。EU指令によって、追及権はEU加盟国で広域に認められていることから、EU加盟国民が美術作品の著作者であった場合でも、追及権は適用される (L122条-8)。ここでの「美術作品」であるが、絵画や彫刻などの一点物だけでなく、リトグラフ、版画、写真のように複製可能な作品であっても、シリアルナンバーが付されているなど、著作者がオリジナルだと何らかの方法で認めている場合は、追及権の対象となる ({{仮リンク|追及権指令|label=EU追及権指令|en|Resale Rights Directive}} 第2条第2項)<ref name=EUResaleDirective>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/ALL/?uri=CELEX:32001L0084 |title=Directive 2001/84/EC of the European Parliament and of the Council of 27 September 2001 on the resale right for the benefit of the author of an original work of art |publisher=[[EUR-Lex]] |accessdate=2019-08-04 |language=en}}</ref>。
著作財産権3つのうち、追及権だけは利用権とは定義されていない (L122条-1)。つまり、美術作品の著作者は、その作品を手放した後に作品の購入者がどのように利用するかを拘束することはできない。また、追及権は複製権や演奏・上演権とは異なり、譲渡不能と定義されている (L122条-8)<ref name=LF-CPI-L122/>。EU指令によって、追及権はEU加盟国で広域に認められていることから、EU加盟国民が美術作品の著作者であった場合でも、追及権は適用される (L122条-8)。ここでの「美術作品」であるが、絵画や彫刻などの一点物だけでなく、リトグラフ、版画、写真のように複製可能な作品であっても、シリアルナンバーが付されているなど、著作者がオリジナルだと何らかの方法で認めている場合は、追及権の対象となる ({{仮リンク|追及権指令|label=EU追及権指令|en|Resale Rights Directive}} 第2条第2項)<ref name=EUResaleDirective>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/ALL/?uri=CELEX:32001L0084 |title=Directive 2001/84/EC of the European Parliament and of the Council of 27 September 2001 on the resale right for the benefit of the author of an original work of art |publisher=[[EUR-Lex]] |accessdate=2019-08-04 |language=en}}</ref>。


一般的には著作財産権の一つとして「頒布権」を規定する国が多いが、フランスでは頒布権、およびこれとセットで議論される「[[消尽|消尽論]]」が否定されてきた。頒布権とは、著作者が著作物を販売するなどして、社会に流通させることができる独占的な権利である。消尽論とは、複製・頒布された著作物の購入者は、その著作物を自由に売却処分 (再販) できるとする考え方であり、換言すると著作者に認められた独占的な権利は、購入者のその先の使用行動にまではおよばず、消え尽きてしまう。たとえば、小説家は執筆した小説の著作権を有しているが、その小説が文庫本として出版されたら、その文庫本の購入者は小説家に無断で古本屋に売却しても、著作権侵害にはならない{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=19&ndash;20}}。
一般的には著作財産権の一つとして「頒布権」を規定する国が多いが、フランスでは頒布権、およびこれとセットで議論される「[[消尽|消尽論]]」が否定されてきた。頒布権とは、著作者が著作物を販売するなどして、社会に流通させることができる独占的な権利である。消尽論とは、複製・頒布された著作物の購入者は、その著作物を自由に売却処分 (再販) できるとする考え方であり、換言すると著作者に認められた独占的な権利は、購入者のその先の使用行動にまではおよばず、消え尽きてしまう。たとえば、小説家は執筆した小説の著作権を有しているが、その小説が文庫本として出版されたら、その文庫本の購入者は小説家に無断で古本屋に売却しても、著作権侵害にはならない{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=19&ndash;20}}。


ところがフランスでは、この消尽論を認めておらず、代わりにフランスでは「用途指定権」の考え方を判例上で用いてきた。用途指定権とは、複製された著作物の購入者が再販するのを禁じる、あるいは事前許諾を求める権利である{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=19&ndash;20}}。しかし、デジタル著作物への対応強化を目的とする[[WIPO著作権条約]]に基づき、2001年に施行された[[EU指令]]の一つである「[[情報社会指令]]」で、頒布権を規定している (第4条第1項)<ref name=InfoSec-Text>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=CELEX:32001L0029:EN:HTML |title=Directive 2001/29/EC of the European Parliament and of the Council of 22 May 2001 on the harmonisation of certain aspects of copyright and related rights in the information society |trans-title=情報社会における著作権と著作隣接権の一定の側面のハーモナイゼーションに関する2001/29/EC指令 (2001年5月22日[[欧州議会]]および[[欧州理事会]]可決) |publisher=[[EUR-Lex]] |accessdate=2019-08-07 |language=en |quote=''Article 4 - Distribution right, Section 1. Member States shall provide for authors, in respect of the original of their works or of copies thereof, the exclusive right to authorise or prohibit any form of distribution to the public by sale or otherwise.'' (抄訳: 第4条 - 頒布権、第1項 - EU加盟国は、原著作物またはその複製に関し、これを販売その他のいかなる手段で頒布する排他的権利を著作者に保障する。)}}</ref>。フランスもこのEU指令に対応すべく、2006年に通称「{{仮リンク|DADVSI|fr|DADVSI|en|DADVSI}}」({{Lang-fr|Loi sur le Droit d'Auteur et les Droits Voisins dans la Société de l'Information}}、情報社会における著作権・著作隣接権法、法令番号: 2006-961)<ref name=LF2006-961>{{Légifrance|base=JORF|numéro=MCCX0300082L|texte=Loi {{numéro|2006-961}} du 1er août 2006 relative au droit d'auteur et aux droits voisins dans la société de l'information (1)}}</ref>
ところがフランスでは、この消尽論を認めておらず、代わりにフランスでは「用途指定権」({{Lang-fr-short|le droit de destination}}) の考え方を判例上で用いてきた。用途指定権とは、複製された著作物の購入者が再販するのを禁じる、あるいは事前許諾を求める権利である{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=19&ndash;20}}{{Sfn|井奈波朋子 (コピライト)|2006|p=2}}。しかし、デジタル著作物への対応強化を目的とする[[WIPO著作権条約]]に基づき、2001年に施行された[[EU指令]]の一つである「[[情報社会指令]]」で、頒布権を規定している (第4条第1項)<ref name=InfoSec-Text>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=CELEX:32001L0029:EN:HTML |title=Directive 2001/29/EC of the European Parliament and of the Council of 22 May 2001 on the harmonisation of certain aspects of copyright and related rights in the information society |trans-title=情報社会における著作権と著作隣接権の一定の側面のハーモナイゼーションに関する2001/29/EC指令 (2001年5月22日[[欧州議会]]および[[欧州理事会]]可決) |publisher=[[EUR-Lex]] |accessdate=2019-08-07 |language=en |quote=''Article 4 - Distribution right, Section 1. Member States shall provide for authors, in respect of the original of their works or of copies thereof, the exclusive right to authorise or prohibit any form of distribution to the public by sale or otherwise.'' (抄訳: 第4条 - 頒布権、第1項 - EU加盟国は、原著作物またはその複製に関し、これを販売その他のいかなる手段で頒布する排他的権利を著作者に保障する。)}}</ref>。フランスもこのEU指令に対応すべく、2006年に通称「{{仮リンク|DADVSI|fr|DADVSI|en|DADVSI}}」({{Lang-fr|Loi sur le Droit d'Auteur et les Droits Voisins dans la Société de l'Information}}、情報社会における著作権・著作隣接権法、法令番号: 2006-961)<ref name=LF2006-961>{{Légifrance|base=JORF|numéro=MCCX0300082L|texte=Loi {{numéro|2006-961}} du 1er août 2006 relative au droit d'auteur et aux droits voisins dans la société de l'information (1)}}</ref>
を、2009年には通称「{{仮リンク|インターネット上の創作物の頒布及び保護を促進する法|label=HADOPI 1法|fr|Loi favorisant la diffusion et la protection de la création sur internet}}」(法令番号: 2009-669){{Sfn|麻生典|2013|p=1}}<ref name=Loi2009-669-WIPO>{{Cite web |url=https://wipolex.wipo.int/en/legislation/details/14292 |title=Law No. 2009-669 of June 12, 2009, on the Promotion of the Dissemination and Protection of Creation on the Internet (as amended up to October 30, 2009) |trans-title=インターネット上の創作物の頒布及び保護を促進する2009年6月12日法 (法令番号: 2009-669) |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-08-01 |language=en}}</ref>と「{{仮リンク|インターネット上の文学的及び美術的所有権の刑事的保護法|label=HADOPI 2法|fr|Loi relative à la protection pénale de la propriété littéraire et artistique sur internet}}」(法令番号: 2009-1311){{Sfn|麻生典|2013|p=1}}を成立させ、特にインターネットを介した頒布権に関し、フランス著作権法の条文上で明文化するようになった。
を、2009年には通称「{{仮リンク|インターネット上の創作物の頒布及び保護を促進する法|label=HADOPI 1法|fr|Loi favorisant la diffusion et la protection de la création sur internet}}」(法令番号: 2009-669){{Sfn|麻生典|2013|p=1}}<ref name=Loi2009-669-WIPO>{{Cite web |url=https://wipolex.wipo.int/en/legislation/details/14292 |title=Law No. 2009-669 of June 12, 2009, on the Promotion of the Dissemination and Protection of Creation on the Internet (as amended up to October 30, 2009) |trans-title=インターネット上の創作物の頒布及び保護を促進する2009年6月12日法 (法令番号: 2009-669) |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-08-01 |language=en}}</ref>と「{{仮リンク|インターネット上の文学的及び美術的所有権の刑事的保護法|label=HADOPI 2法|fr|Loi relative à la protection pénale de la propriété littéraire et artistique sur internet}}」(法令番号: 2009-1311){{Sfn|麻生典|2013|p=1}}を成立させ、特にインターネットを介した頒布権に関し、フランス著作権法の条文上で明文化するようになった (詳細は[[#情報社会指令と国内法化の遅延]]で後述)


また、従来の複製権を拡大する形で、「複写複製権」が導入されている (L122条-10以降)<ref name=LF-CPI-L122/>。ここでの複写とはコピー機を想定しており、[[Random Access Memory|RAM]]への書き込み・保存は対象外である。複写複製権は、国が認可した[[著作権管理団体]] (集中管理機関) に著作権者から譲渡される{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=19}}。
また、従来の複製権を拡大する形で、「複写複製権」が導入されている (L122条-10以降)<ref name=LF-CPI-L122/>。ここでの複写とはコピー機を想定しており、[[Random Access Memory|RAM]]への書き込み・保存は対象外である。複写複製権は、国が認可した[[著作権管理団体]] (集中管理機関) に著作権者から譲渡される{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=19}}。


==== 著作隣接権 ====
==== 著作隣接権 ====
[[著作隣接権]]とは、著作物を社会に伝達する者の権利である。具体的に著作隣接者とは、歌手・俳優・朗読者といった実演家や (L212条-1)<ref name=LF-CPI-L212>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000032856293&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|212}}, Section 1 : Dispositions communes (第2編 単一章 第2節: 著作隣接権 - 実演家の権利 共通規定、第212条)}}</ref>、レコード製作者 (L213条-1)<ref name=LF-CPI-L213>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161644&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|213}}, Chapitre III : Droits des producteurs de phonogrammes (第2編 単一章 第3節: 著作隣接権 - レコード製作者の権利、第213条)}}</ref>、映画など視聴覚著作物の製作者 (L215条-1)<ref name=LF-CPI-L215>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161646&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|215}}, Chapitre V : Droits des producteurs de vidéogrammes (第2編 単一章 第5節: 著作隣接権 - ビデオグラム製作者の権利、第215条)}}</ref>、および放送事業者 (L216条-1)<ref name=LF-CPI-L216>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161647&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|216}}, Chapitre VI : Droits des entreprises de communication audiovisuelle (第2編 単一章 第6節: 著作隣接権 - 視聴覚伝達企業の権利、第216条)}}</ref>の計4者が著作権法上で定義されている。フランスでは歴史的に、著作者本人よりも著作隣接者に特権を与える形で発達してきた ([[#古法時代|#歴史節]]で後述)。しかし現代の著作権法では、著作隣接権が著作者本人の権利を害してはならないと明記されており (L211条-1)<ref name=LF-CPI-L211>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161642&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|211}}, Chapitre Ier : Dispositions générales (第2編 単一章 第1節: 著作隣接権 - 一般規定、第211条)}}</ref>、保護の優先度が逆転している。
[[著作隣接権]]とは、著作物を社会に伝達する者の権利である。具体的に著作隣接者とは、歌手・俳優・朗読者といった実演家や (L212条-1)<ref name=LF-CPI-L212>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000032856293&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|212}}, Section 1 : Dispositions communes (第2編 単一章 第2節: 著作隣接権 - 実演家の権利 共通規定、第212条)}}</ref>、レコード製作者 (L213条-1)<ref name=LF-CPI-L213>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161644&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|213}}, Chapitre III : Droits des producteurs de phonogrammes (第2編 単一章 第3節: 著作隣接権 - レコード製作者の権利、第213条)}}</ref>、映画など視聴覚著作物の製作者 (L215条-1)<ref name=LF-CPI-L215>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161646&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|215}}, Chapitre V : Droits des producteurs de vidéogrammes (第2編 単一章 第5節: 著作隣接権 - ビデオグラム製作者の権利、第215条)}}</ref>、および放送事業者 (L216条-1)<ref name=LF-CPI-L216>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161647&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|216}}, Chapitre VI : Droits des entreprises de communication audiovisuelle (第2編 単一章 第6節: 著作隣接権 - 視聴覚伝達企業の権利、第216条)}}</ref>の計4者が著作権法上で定義されている。フランスでは歴史的に、著作者本人よりも著作隣接者に特権を与える形で発達してきた ([[#古法時代|#歴史節]]で後述)。しかし現代の著作権法では、著作隣接権が著作者本人の権利を害してはならないと明記されており (L211条-1)<ref name=LF-CPI-L211>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161642&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|211}}, Chapitre Ier : Dispositions générales (第2編 単一章 第1節: 著作隣接権 - 一般規定、第211条)}}</ref>、保護の優先度が逆転している。


実演家には著作者本人と同様、尊重権が認められており、相続は可能だが、譲渡は不可能であり、時効はない (L212条-2)<ref name=LF-CPI-L212/>。また、財産権としては、複製権や頒布権が実演家にも認められており、たとえばレコード製作者が歌手や演奏者に無断で音楽CDなどを販売できないことから、書面での契約を必要とする (L212条-3)<ref name=LF-CPI-L212/>。同様に、映画製作者が俳優に無断で映画の配給やDVD販売を行うことはできず、やはり書面契約が必要となる (L212条-4)<ref name=LF-CPI-L212/>。これらは、実演家の報酬を保護する{{仮リンク|労働法典|fr|Code du travail (France)}}第762-1条および第762-2条の規定とも密接に関連している<ref name=LF-CT-L762-1>{{Légifrance|base=CT|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCodeArticle.do?cidTexte=LEGITEXT000006072050&idArticle=LEGIARTI000006650643&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|762-1}}, Livre VII : Dispositions particulières à certaines professions, Titre VI : Journalistes, artistes, mannequins, Chapitre II : Artistes, auteurs, compositeurs, gens de lettres, Section 2 : Artistes de spectacles : contrat, rémunération, placement, Paragraphe 1 : Contrat. (労働法典 職務別特別規定 実演家: 契約・報酬・人材起用 パラグラフ1: 契約)}}</ref><ref name=LF-CT-L762-2>{{Légifrance|base=CT|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCodeArticle.do?cidTexte=LEGITEXT000006072050&idArticle=LEGIARTI000006650644&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|762-2}}, Livre VII : Dispositions particulières à certaines professions, Titre VI : Journalistes, artistes, mannequins, Chapitre II : Artistes, auteurs, compositeurs, gens de lettres, Section 2 : Artistes de spectacles : contrat, rémunération, placement, Paragraphe 2 : Rémunération. (労働法典 職務別特別規定 実演家: 契約・報酬・人材起用 パラグラフ2: 報酬)}}</ref>。
実演家には著作者本人と同様、尊重権が認められており、相続は可能だが、譲渡は不可能であり、時効はない (L212条-2)<ref name=LF-CPI-L212/>。また、財産権としては、複製権や頒布権が実演家にも認められており、たとえばレコード製作者が歌手や演奏者に無断で音楽CDなどを販売できないことから、書面での契約を必要とする (L212条-3)<ref name=LF-CPI-L212/>。同様に、映画製作者が俳優に無断で映画の配給やDVD販売を行うことはできず、やはり書面契約が必要となる (L212条-4)<ref name=LF-CPI-L212/>。これらは、実演家の報酬を保護する{{仮リンク|労働法典|fr|Code du travail (France)}}第762-1条および第762-2条の規定とも密接に関連している<ref name=LF-CT-L762-1>{{Légifrance|base=CT|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCodeArticle.do?cidTexte=LEGITEXT000006072050&idArticle=LEGIARTI000006650643&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|762-1}}, Livre VII : Dispositions particulières à certaines professions, Titre VI : Journalistes, artistes, mannequins, Chapitre II : Artistes, auteurs, compositeurs, gens de lettres, Section 2 : Artistes de spectacles : contrat, rémunération, placement, Paragraphe 1 : Contrat. (労働法典 職務別特別規定 実演家: 契約・報酬・人材起用 パラグラフ1: 契約)}}</ref><ref name=LF-CT-L762-2>{{Légifrance|base=CT|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCodeArticle.do?cidTexte=LEGITEXT000006072050&idArticle=LEGIARTI000006650644&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|762-2}}, Livre VII : Dispositions particulières à certaines professions, Titre VI : Journalistes, artistes, mannequins, Chapitre II : Artistes, auteurs, compositeurs, gens de lettres, Section 2 : Artistes de spectacles : contrat, rémunération, placement, Paragraphe 2 : Rémunération. (労働法典 職務別特別規定 実演家: 契約・報酬・人材起用 パラグラフ2: 報酬)}}</ref>。
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# 舞踊・パフォーマンス著作物 -- 舞踊、サーカスの出し物、芸当、無言劇作品 (ただし演出が文書その他の方法で固定されている必要あり)
# 舞踊・パフォーマンス著作物 -- 舞踊、サーカスの出し物、芸当、無言劇作品 (ただし演出が文書その他の方法で固定されている必要あり)
# 音楽著作物 -- 楽曲およびその歌詞
# 音楽著作物 -- 楽曲およびその歌詞
# 視聴覚著作物 -- 映画やテレビ番組などの動画 (楽曲などの音声を伴う場合も含むが、ゲームは含まれない{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=7}})
# 視聴覚著作物 -- 映画やテレビ番組などの動画 (楽曲などの音声を伴う場合も含むが、ゲームは含まれない{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=7}})
# 純粋美術・建築著作物 -- スケッチ、絵画、建築、彫刻、版画、石版画など
# 純粋美術・建築著作物 -- スケッチ、絵画、建築、彫刻、版画、石版画など
# 図形・組版著作物 -- グラフィック・デザイン、プリント・デザイン
# 図形・組版著作物 -- グラフィック・デザイン、プリント・デザイン
# 写真著作物 -- 写真に類似の技術を用いた著作物を含む
# 写真著作物 -- 写真に類似の技術を用いた著作物を含む
# 応用美術著作物 -- 著作者の人格を反映し、かつ新規性があれば著作権法で保護される{{Refnest|group="註"|デザインが審美的な目的か実用的な目的かは問われない。しかし、他の著作物には要求されない「新規性」が応用美術著作物の保護には必要とされる点に注意が必要である{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=7}}。}}
# 応用美術著作物 -- 著作者の人格を反映し、かつ新規性があれば著作権法で保護される{{Refnest|group="註"|デザインが審美的な目的か実用的な目的かは問われない。しかし、他の著作物には要求されない「新規性」が応用美術著作物の保護には必要とされる点に注意が必要である{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=7}}。}}
# イラスト著作物 -- イラスト、地図など
# イラスト著作物 -- イラスト、地図など
# 図面等著作物 -- 地理学、地形学、建築学および科学に関する設計書、スケッチ、立体造形作品
# 図面等著作物 -- 地理学、地形学、建築学および科学に関する設計書、スケッチ、立体造形作品
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==== 著作物の保護要件 ====
==== 著作物の保護要件 ====
[[画像:Duchamp Fountaine.jpg|250px|thumb|[[マルセル・デュシャン|デュシャン]]作『[[泉 (デュシャン)|泉]]』は小便器に署名しただけの作品。[[コンセプチュアル・アート]]に著作権保護は発生しない場合がある。]]
[[画像:Duchamp Fountaine.jpg|250px|thumb|[[マルセル・デュシャン|デュシャン]]作『[[泉 (デュシャン)|泉]]』は小便器に署名しただけの作品。[[コンセプチュアル・アート]]に著作権保護は発生しない場合がある。]]
著作権はジャンル、表現形式、価値または用途を問わず、あらゆる精神的な著作物を保護すると規定されている (L112条-1)<ref name=LF-CPI-L112>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161634&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|112}}, Chapitre II : Oeuvres protégées (第1章 第2節: 著作物の保護対象、第112条)}}</ref>。また著作物が未公表や未完成であったとしても、著作者の構想の実現という事実だけをもって、著作物は創作されたと見なされる (L111条-2)<ref name=LF-CPI-L111>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161633&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|111}}, Chapitre Ier : Nature du droit d'auteur (第1章 第1節: 著作権の性質、第111条)}}</ref>。さらに、著作物を当局に登録する、あるいは著作権マーク「&copy;」 (マルC、Copyrightの意) や「&#x2117;」(マルP、レコードのPhonogramの意) などを表示するといった手続も任意であり、これらを怠ったとしても著作権保護される<ref name=ThomsonReuters-Law/>。つまり、著作者による知的な創作活動によって (創作性)、何らかの表現がなされていること (表現性) が、著作権保護の要件として挙げられる{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=4&ndash;6}}。
著作権はジャンル、表現形式、価値または用途を問わず、あらゆる精神的な著作物を保護すると規定されている (L112条-1)<ref name=LF-CPI-L112>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161634&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|112}}, Chapitre II : Oeuvres protégées (第1章 第2節: 著作物の保護対象、第112条)}}</ref>。また著作物が未公表や未完成であったとしても、著作者の構想の実現という事実だけをもって、著作物は創作されたと見なされる (L111条-2)<ref name=LF-CPI-L111>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161633&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|111}}, Chapitre Ier : Nature du droit d'auteur (第1章 第1節: 著作権の性質、第111条)}}</ref>。さらに、著作物を当局に登録する、あるいは著作権マーク「&copy;」 (マルC、Copyrightの意) や「&#x2117;」(マルP、レコードのPhonogramの意) などを表示するといった手続も任意であり、これらを怠ったとしても著作権保護される<ref name=ThomsonReuters-Law/>。つまり、著作者による知的な創作活動によって (創作性)、何らかの表現がなされていること (表現性) が、著作権保護の要件として挙げられる{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=4&ndash;6}}。


したがって、単なるアイディアや発見は創作性や表現性の要件を満たさないため、著作権の保護外となる<ref name=ThomsonReuters-Law/> (これを一般的な著作権法上では「[[アイディア・表現二分論]]」と呼ぶ)。ただし、どこまでがアイディアでどこからがアイディアの表現なのか、境界線が曖昧な創作物も存在する。たとえば、フランス人芸術家[[マルセル・デュシャン]]の『[[L.H.O.O.Q.]]』は、名画『[[モナリザ]]』に鉛筆で髭を付け加えた作品である。また、男性用の小便器に署名だけを施した『[[泉 (デュシャン)|泉]]』という作品もある。髭や署名を付け加えること自体はアイディアに過ぎないが、このような現代美術の[[コンセプチュアル・アート]]に著作性が認められるのか、フランス国内外で議論がなされている<ref name=Stanford-ConcpArt>{{Cite web |title=May I Copyright My Shovel? Intellectual Property Incentives and Conceptiual Art |trans-title=私のショベルは著作権保護の対象か? 知的財産権とコンセプチュアル・アートの関係性 |last=Hinks |first=Sarah Fenton |url=https://scholarship.shu.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1236&context=student_scholarship |publisher=[[スタンフォード大学]]ロースクール |date=2013 |accessdate=2019-08-04 |language=en}}</ref>{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=4&ndash;6}}。
したがって、単なるアイディアや発見は創作性や表現性の要件を満たさないため、著作権の保護外となる<ref name=ThomsonReuters-Law/> (これを一般的な著作権法上では「[[アイディア・表現二分論]]」と呼ぶ)。ただし、どこまでがアイディアでどこからがアイディアの表現なのか、境界線が曖昧な創作物も存在する。たとえば、フランス人芸術家[[マルセル・デュシャン]]の『[[L.H.O.O.Q.]]』は、名画『[[モナリザ]]』に鉛筆で髭を付け加えた作品である。また、男性用の小便器に署名だけを施した『[[泉 (デュシャン)|泉]]』という作品もある。髭や署名を付け加えること自体はアイディアに過ぎないが、このような現代美術の[[コンセプチュアル・アート]]に著作性が認められるのか、フランス国内外で議論がなされている<ref name=Stanford-ConcpArt>{{Cite web |title=May I Copyright My Shovel? Intellectual Property Incentives and Conceptiual Art |trans-title=私のショベルは著作権保護の対象か? 知的財産権とコンセプチュアル・アートの関係性 |last=Hinks |first=Sarah Fenton |url=https://scholarship.shu.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1236&context=student_scholarship |publisher=[[スタンフォード大学]]ロースクール |date=2013 |accessdate=2019-08-04 |language=en}}</ref>{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=4&ndash;6}}。


また、法律の条文や裁判所の判決文など、公的機関の作成した著作物は、著作権保護の対象外となるほか<ref name=ThomsonReuters-Law/>、所有者の許可なく行われる壁への落書きアートなど、不法行為によって創作された著作物は著作権保護の対象外となる。
また、法律の条文や裁判所の判決文など、公的機関の作成した著作物は、著作権保護の対象外となるほか<ref name=ThomsonReuters-Law/>、所有者の許可なく行われる壁への落書きアートなど、不法行為によって創作された著作物は著作権保護の対象外となる。
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コンピュータ・プログラムの著作物性については、1986年破毀院の「パショ事件」(英: Pachot case) などがある。フランスでは伝統的に、著作者の精神性が反映された作品を著作物として認めていたが、パショ事件では「知的な操作であり、個人にゆだねられた創作活動」だとして、コンピュータ・プログラムにも著作物性を認めた画期的な判決として知られている{{Sfn|Derclaye|2009|p=120}}。
コンピュータ・プログラムの著作物性については、1986年破毀院の「パショ事件」(英: Pachot case) などがある。フランスでは伝統的に、著作者の精神性が反映された作品を著作物として認めていたが、パショ事件では「知的な操作であり、個人にゆだねられた創作活動」だとして、コンピュータ・プログラムにも著作物性を認めた画期的な判決として知られている{{Sfn|Derclaye|2009|p=120}}。


著作物が著作者の人格を投映しており、創作性が認められれば、その著作物の題名も著作権保護が与えられる(L112条-4)<ref name=LF-CPI-L112/>。しかし、その題名が汎用的で一般的な用語の場合、判例では著作権保護の対象外と判示されており、題名における創作性の具体的な線引きは司法判断に任されている{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=9}}。また、題名は商標登録できる場合があり、このようなケースでは商標権と著作権で二重保護される{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=9}}{{Refnest|group="註"|EUでは、加盟国すべてに通用する商標登録制度である{{仮リンク|欧州連合商標|en|European Union trade mark}} (略称: EUTM、旧称: 欧州共同体商標 (CTM)) がある。登録先はスペインにある[[欧州連合知的財産庁]] (略称: EUIPO、旧称: 共同体商標意匠庁 (OHIM)) である。したがって、フランスのみで通用する国内商標登録以外に、EU全域での一括商標登録の方法も選択できる{{Sfn|奥田百子|2014|pp=198&ndash;199}}。}}。
著作物が著作者の人格を投映しており、創作性が認められれば、その著作物の題名も著作権保護が与えられる(L112条-4)<ref name=LF-CPI-L112/>。しかし、その題名が汎用的で一般的な用語の場合、判例では著作権保護の対象外と判示されており、題名における創作性の具体的な線引きは司法判断に任されている{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=9}}。また、題名は商標登録できる場合があり、このようなケースでは商標権と著作権で二重保護される{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=9}}{{Refnest|group="註"|EUでは、加盟国すべてに通用する商標登録制度である{{仮リンク|欧州連合商標|en|European Union trade mark}} (略称: EUTM、旧称: 欧州共同体商標 (CTM)) がある。登録先はスペインにある[[欧州連合知的財産庁]] (略称: EUIPO、旧称: 共同体商標意匠庁 (OHIM)) である。したがって、フランスのみで通用する国内商標登録以外に、EU全域での一括商標登録の方法も選択できる{{Sfn|奥田百子|2014|pp=198&ndash;199}}。}}。


=== 保護される権利者 ===
=== 保護される権利者 ===
フランスの著作権法では「精神の著作物の著作者」と謳われていることから (L111条-1)<ref name=LF-CPI-L111/>、原則は個人 (自然人) のみ著作者として認められる (L113条-1)<ref name=LF-CPI-L113>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161635&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|113}}, Chapitre III : Titulaires du droit d'auteur (第1章 第3節: 著作権者、第113条)}}</ref>。しかし、1993年の判例でこの原則が覆され、法人も著作者として認める判決が出ている。著作者は以下に分類される{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=9&ndash;13}}。
フランスの著作権法では「精神の著作物の著作者」と謳われていることから (L111条-1)<ref name=LF-CPI-L111/>、原則は個人 (自然人) のみ著作者として認められる (L113条-1)<ref name=LF-CPI-L113>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161635&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|113}}, Chapitre III : Titulaires du droit d'auteur (第1章 第3節: 著作権者、第113条)}}</ref>。しかし、1993年の判例でこの原則が覆され、法人も著作者として認める判決が出ている。著作者は以下に分類される{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=9&ndash;13}}。
* 原始的帰属 (原則ルール) -- 著作物を創作した個人が著作権を有する (L113条-1)<ref name=LF-CPI-L113/>
* 原始的帰属 (原則ルール) -- 著作物を創作した個人が著作権を有する (L113条-1)<ref name=LF-CPI-L113/>
* [[職務著作]] -- 著作物の創作を指示した雇用主あるいは発注主が著作権を有するには、個別の譲渡契約が必要となる (L111条-3、L131条-3)<ref name=LF-CPI-L111/><ref name=LF-CPI-L131>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161639&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|131}}, Chapitre Ier : Dispositions générales (第3章 第1節: 著作権の利用 - 一般規定、第131条)}}</ref>
* [[職務著作]] -- 著作物の創作を指示した雇用主あるいは発注主が著作権を有するには、個別の譲渡契約が必要となる (L111条-3、L131条-3)<ref name=LF-CPI-L111/><ref name=LF-CPI-L131>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161639&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|131}}, Chapitre Ier : Dispositions générales (第3章 第1節: 著作権の利用 - 一般規定、第131条)}}</ref>
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* [[二次的著作物]] -- 原著作物を活用して、翻訳・編曲などの手段で新たな著作物が創作された場合、原著作物と二次的著作物は別々の著作権が発生する (L113条-2、L113条-3)<ref name=LF-CPI-L113/>
* [[二次的著作物]] -- 原著作物を活用して、翻訳・編曲などの手段で新たな著作物が創作された場合、原著作物と二次的著作物は別々の著作権が発生する (L113条-2、L113条-3)<ref name=LF-CPI-L113/>


職務著作をどのような条件下で認めるか、各国の著作権法で異なっており、フランスの場合は雇用契約に基づいて著作物を創作しただけでは、その著作権は雇用主が有することはできない。したがって、雇用契約とは別に、従業員から雇用主に著作財産権を譲渡する契約を締結しなければならない{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=9&ndash;13}}。職務著作を巡っては、医療現場で用いられる{{仮リンク|頭蓋計測分析|en|Cephalometric analysis}}のソフトウェア裁判などがある。このソフトウェア企業はコンピュータ・エンジニアと医学者の2名で設立されたが、のちに医学者がこの会社の支配権を増したことから、開発されたソフトウェアの著作権が個人ではなく、会社に帰属するとして提訴した裁判である。2015年1月、破毀院は原告である医学者の主張を棄却して、ソフトウェアの職務著作を認めなかった<ref name=CorporateAuthorship-2015>{{Cite web |url=https://dreyfus.fr/en/2015/12/11/cour-de-cassation-in-france-authorship-rights-belong-to-individuals/ |title=Cour de cassation: in France, authorship rights belong to individuals |trans-title=フランス破毀院、著作権は個人に帰属すると判示 |publisher=Dreyfus |date=2015-12-11 |accessdate=2019-08-07 |language=en}}</ref>。
職務著作をどのような条件下で認めるか、各国の著作権法で異なっており、フランスの場合は雇用契約に基づいて著作物を創作しただけでは、その著作権は雇用主が有することはできない。したがって、雇用契約とは別に、従業員から雇用主に著作財産権を譲渡する契約を締結しなければならない{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=9&ndash;13}}。職務著作を巡っては、医療現場で用いられる{{仮リンク|頭蓋計測分析|en|Cephalometric analysis}}のソフトウェア裁判などがある。このソフトウェア企業はコンピュータ・エンジニアと医学者の2名で設立されたが、のちに医学者がこの会社の支配権を増したことから、開発されたソフトウェアの著作権が個人ではなく、会社に帰属するとして提訴した裁判である。2015年1月、破毀院は原告である医学者の主張を棄却して、ソフトウェアの職務著作を認めなかった<ref name=CorporateAuthorship-2015>{{Cite web |url=https://dreyfus.fr/en/2015/12/11/cour-de-cassation-in-france-authorship-rights-belong-to-individuals/ |title=Cour de cassation: in France, authorship rights belong to individuals |trans-title=フランス破毀院、著作権は個人に帰属すると判示 |publisher=Dreyfus |date=2015-12-11 |accessdate=2019-08-07 |language=en}}</ref>。


共同著作物については、特に映画などの視聴覚著作物に関し、個別規定が存在する(L113条-7)<ref name=LF-CPI-L113/>。多くの関係者が映画製作に携わるのが一般的であることから、誰を共同著作者として認め、著作権を与えるかの線引きが必要になる。条文上では、シナリオの著作者 (例えば映画化の原作小説を執筆した小説家)、翻案および台詞の著作者 (原作を元にした脚本の執筆者など)、楽曲の作詞・作曲家 (その映画用に創作された楽曲に限る)、監督・ディレクターが具体的に例示されている。ただし、これら以外でも共同参画を立証できれば、共同著作者として法的に認められる場合がある{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=7&ndash;8}}。映画の場合、著作財産権だけでなく、著作者人格権も重要な要素となる。先述のとおり、映画の共同著作者以外の者が、完成版を無断で改変したり、また途中で製作を離脱した者が、自分の寄与分を除去するよう求めることができない (L121条-5、L121条-6)<ref name=LF-CPI-L121/>。
共同著作物については、特に映画などの視聴覚著作物に関し、個別規定が存在する(L113条-7)<ref name=LF-CPI-L113/>。多くの関係者が映画製作に携わるのが一般的であることから、誰を共同著作者として認め、著作権を与えるかの線引きが必要になる。条文上では、シナリオの著作者 (例えば映画化の原作小説を執筆した小説家)、翻案および台詞の著作者 (原作を元にした脚本の執筆者など)、楽曲の作詞・作曲家 (その映画用に創作された楽曲に限る)、監督・ディレクターが具体的に例示されている。ただし、これら以外でも共同参画を立証できれば、共同著作者として法的に認められる場合がある{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=7&ndash;8}}。映画の場合、著作財産権だけでなく、著作者人格権も重要な要素となる。先述のとおり、映画の共同著作者以外の者が、完成版を無断で改変したり、また途中で製作を離脱した者が、自分の寄与分を除去するよう求めることができない (L121条-5、L121条-6)<ref name=LF-CPI-L121/>。


集合著作物も共同著作物と同様、複数名によって創作されるが、その定義は曖昧である。集合著作物と、その素材となる各著作物との間に上下関係があり、集合著作物の創作をある特定の者が指示した場合には、共同著作物ではなく集合著作物だとされる。この指示者には法人も含まれることから、集合著作物の場合は原則として職務著作が認められていると考えられる{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=12&ndash;13}}。
集合著作物も共同著作物と同様、複数名によって創作されるが、その定義は曖昧である。集合著作物と、その素材となる各著作物との間に上下関係があり、集合著作物の創作をある特定の者が指示した場合には、共同著作物ではなく集合著作物だとされる。この指示者には法人も含まれることから、集合著作物の場合は原則として職務著作が認められていると考えられる{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|pp=12&ndash;13}}。
{{See also|en: Collective work (France)}}
{{See also|en: Collective work (France)}}


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: 没後に公表された[[遺作]]の場合、没年翌年から70年間を基本とするが、延伸が認められるケースもある (L123条-4)<ref name=LF-CPI-L123/>。遺作が70年間公表されずに保護期間が消滅した後に公表された場合は、公表日の翌年1月1日から起算して25年間に保護期間が延伸する (L123条-4)<ref name=LF-CPI-L123/>。たとえば著作者が1980年7月1日に没したと仮定して、その遺作が2000年に公表されようが2020年に公表されようが、保護期間は2050年12月31日までである。しかし同遺作が70年保護期間満了後の2060年3月1日に公表された場合は、2085年12月31日までの25年間が保護される。
: 没後に公表された[[遺作]]の場合、没年翌年から70年間を基本とするが、延伸が認められるケースもある (L123条-4)<ref name=LF-CPI-L123/>。遺作が70年間公表されずに保護期間が消滅した後に公表された場合は、公表日の翌年1月1日から起算して25年間に保護期間が延伸する (L123条-4)<ref name=LF-CPI-L123/>。たとえば著作者が1980年7月1日に没したと仮定して、その遺作が2000年に公表されようが2020年に公表されようが、保護期間は2050年12月31日までである。しかし同遺作が70年保護期間満了後の2060年3月1日に公表された場合は、2085年12月31日までの25年間が保護される。


; 著作隣接者の著作財産権の保護期間
; 著作隣接者の著作財産権の保護期間
実演家の権利は、実演の翌年1月1日を起点にして、原則60年間を保護期間としている (L211条-4-I){{Refnest|group="註"|例外として、公衆向けのビデオ映像は50年間、レコードは70年間が認められている<ref name=LF-CPI-L211/>。}}。レコード製作者の権利は、音の媒体固定から50年間を原則とする (L211条-4-II){{Refnest|group="註"|例外として、公衆向けのレコード提供は70年間が認められている<ref name=LF-CPI-L211/>。}}。映像製作者の権利は、映像の媒体固定から60年間を原則とする (L211条-4-III)<ref name=LF-CPI-L211/>。放送事業者など視聴覚著作物の伝達者の権利は、伝達から50年間を原則とする (L211条-4-IV)<ref name=LF-CPI-L211/>。
実演家の権利は、実演の翌年1月1日を起点にして、原則60年間を保護期間としている (L211条-4-I){{Refnest|group="註"|例外として、公衆向けのビデオ映像は50年間、レコードは70年間が認められている<ref name=LF-CPI-L211/>。}}。レコード製作者の権利は、音の媒体固定から50年間を原則とする (L211条-4-II){{Refnest|group="註"|例外として、公衆向けのレコード提供は70年間が認められている<ref name=LF-CPI-L211/>。}}。映像製作者の権利は、映像の媒体固定から60年間を原則とする (L211条-4-III)<ref name=LF-CPI-L211/>。放送事業者など視聴覚著作物の伝達者の権利は、伝達から50年間を原則とする (L211条-4-IV)<ref name=LF-CPI-L211/>。


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; フェアユース導入論
; フェアユース導入論
フランスを含む欧州各国では、米国著作権法のような[[フェアユース]]の法理による、一般的な著作権制限の条項に対して否定的な立場をとっている。したがって、フランスでは上述のとおり、著作権者の権利を制限し、利用者の自由な著作物の利用を認める条件を個別具体的に列記している{{Sfn|Hugenholtz|2013|p=26}}。この方針は、2001年の[[情報社会指令|EU情報社会指令]]に起因する。情報社会指令では、制限条項を21条件に限定しているだけでなく、EU加盟国の国内法でこの21条件以外を追加規定することを禁じている{{Sfn|Hugenholtz|2013|p=27|ps=--著者はこの21条件を「ショッピングリスト」(shopping list) と評して揶揄している。}}。
フランスを含む欧州各国では、米国著作権法のような[[フェアユース]]の法理による、一般的な著作権制限の条項に対して否定的な立場をとっている。したがって、フランスでは上述のとおり、著作権者の権利を制限し、利用者の自由な著作物の利用を認める条件を個別具体的に列記している{{Sfn|Hugenholtz|2013|p=26}}。この方針は、2001年の[[情報社会指令|EU情報社会指令]]に起因する。情報社会指令では、制限条項を21条件に限定しているだけでなく、EU加盟国の国内法でこの21条件以外を追加規定することを禁じている{{Sfn|Hugenholtz|2013|p=27|ps=--著者はこの21条件を「ショッピングリスト」(shopping list) と評して揶揄している。}}。さらに2019年に成立した[[DSM著作権指令]]によって、制限条項を3条件追加した<ref name=EUMag-201908>{{Cite web |url=http://eumag.jp/questions/f0819/ |title=EUの新しい著作権指令について教えてください |work=Europe Magazine (駐日欧州連合代表部の公式ウェブマガジン) |publisher=駐日欧州連合代表部 |date=2019-08-29 |accessdate=2019-09-15}}</ref>


フェアユースの法理を採用するかは、法的な安定性と柔軟性のどちらを重視するかに依存する。フランスのように限定列挙すれば、著作権者にとっては著作財産権の価値が高まると同時に、著作物の創作のための投資と回収の見通しが立ちやすくなる。一方で米国のように一般的な基準を設け、個別判断は裁判所に任せることで、著作物の内容や流通経路といった社会的・技術的な変化にも対応しやすくなるメリットが考えられる{{Sfn|中山信弘|2014|pp=396&ndash;397}}。実際、フェアユースを導入している米国よりも、導入していない欧州の方が、インターネットを通じた著作権侵害の件数が多いとの指摘がなされている (2013年時点での比較){{Sfn|Hugenholtz|2013|p=26}}。
フェアユースの法理を採用するかは、法的な安定性と柔軟性のどちらを重視するかに依存する。フランスのように限定列挙すれば、著作権者にとっては著作財産権の価値が高まると同時に、著作物の創作のための投資と回収の見通しが立ちやすくなる。一方で米国のように一般的な基準を設け、個別判断は裁判所に任せることで、著作物の内容や流通経路といった社会的・技術的な変化にも対応しやすくなるメリットが考えられる{{Sfn|中山信弘|2014|pp=396&ndash;397}}。実際、フェアユースを導入している米国よりも、導入していない欧州の方が、インターネットを通じた著作権侵害の件数が多いとの指摘がなされている (2013年時点での比較){{Sfn|Hugenholtz|2013|p=26}}。
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権利侵害された者は、民事あるいは刑事手続によって救済される。民事訴訟の場合、侵害行為を「認識」してから5年以内の出訴が認められている、また刑事手続の場合は、侵害行為が「発生」してから6年以内とされている<ref name=ThomsonReuters-Law/>。
権利侵害された者は、民事あるいは刑事手続によって救済される。民事訴訟の場合、侵害行為を「認識」してから5年以内の出訴が認められている、また刑事手続の場合は、侵害行為が「発生」してから6年以内とされている<ref name=ThomsonReuters-Law/>。


著作権侵害とは具体的に、著作物の演奏・上演、複製、翻訳、翻案、変形、編曲などが挙げられている (L122条-4)<ref name=LF-CPI-L122/>。刑事事件の場合、文書・楽曲・スケッチ・絵画などを印刷出版すると、偽造の罪に問われ、3年以下の禁固または30万ユーロ以下の罰金が科される (L335条-2)<ref name=LF-CPI-L335>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161658&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|335}}, Chapitre V : Dispositions pénales (第3編 第3款 第5節: 著作権、隣接権及びデータベース製作者の権利に関する一般規定 - インターネット上の著作物の頒布及び権利の保護のための高等機関 - 罰則、第335条)}}</ref>。また、著作隣接者に無断で実演、複製、公衆伝達、利用の提供を行うと、同様に3年以下の禁固または30万ユーロ以下の罰金となる (L335条-4)<ref name=LF-CPI-L335/>。ただし著作権侵害者が組織犯罪の場合は、それぞれ7年以下の禁固または75万ユーロ以下の罰金に上限が引き上げられる。さらに再犯の場合、初版の刑罰の上限が2倍に引き上げられる<ref name=ThomsonReuters-Law/>
著作権侵害とは具体的に、著作物の演奏・上演、複製、翻訳、翻案、変形、編曲などが挙げられている (L122条-4)<ref name=LF-CPI-L122/>。刑事事件の場合、文書・楽曲・スケッチ・絵画などを印刷出版すると、偽造の罪に問われ、3年以下の禁固または30万ユーロ以下の罰金が科される (L335条-2)<ref name=LF-CPI-L335>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161658&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|335}}, Chapitre V : Dispositions pénales (第3編 第3款 第5節: 著作権、隣接権及びデータベース製作者の権利に関する一般規定 - インターネット上の著作物の頒布及び権利の保護のための高等機関 - 罰則、第335条)}}</ref>。また、著作隣接者に無断で実演、複製、公衆伝達、利用の提供を行うと、同様に3年以下の禁固または30万ユーロ以下の罰金となる (L335条-4)<ref name=LF-CPI-L335/>。ただし著作権侵害者が組織犯罪の場合は、それぞれ7年以下の禁固または75万ユーロ以下の罰金に上限が引き上げられる。さらに再犯の場合、初版の刑罰の上限が2倍に引き上げられる<ref name=ThomsonReuters-Law/>。これらの罰則は、2006年のDADVSIを受けて追加された条項である<ref name=NDL-DADVSIDelay2/>。


禁固や罰金以外にも、偽造品の差押や破棄、侵害行為の差止、企業活動の停止、インターネットへのアクセスなど著作権侵害の手段利用を最大1年間禁止といった刑事上の措置も取られる。海賊版などの輸出入が発見された場合は、税関がその物品を差し押さえる権利を有している<ref name=ThomsonReuters-Law/>。
禁固や罰金以外にも、偽造品の差押や破棄、侵害行為の差止、企業活動の停止、インターネットへのアクセスなど著作権侵害の手段利用を最大1年間禁止といった刑事上の措置も取られる。海賊版などの輸出入が発見された場合は、税関がその物品を差し押さえる権利を有している<ref name=ThomsonReuters-Law/>。
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違法ダウンロードに対するインターネット・アクセス制限を目的とした2009年制定のHADOPI法<ref group="註" name=HADOPI-Desc>通称HADOPI法とは、{{仮リンク|インターネット上の創作物の頒布及び保護を促進する法|label=HADOPI 1法|fr|Loi favorisant la diffusion et la protection de la création sur internet}}」(法令番号: 2009-669)と{{仮リンク|インターネット上の文学的及び美術的所有権の刑事的保護法|label=HADOPI 2法|fr|Loi relative à la protection pénale de la propriété littéraire et artistique sur internet}}」(法令番号: 2009-1311) の総称。</ref>に基づき、インターネットを介した著作権侵害に対し、文化省に属する組織である{{仮リンク|HADOPI|fr|Haute Autorité pour la diffusion des œuvres et la protection des droits sur internet}}が監視の目を光らせている。HADOPIが著作権侵害を認識すると、被疑者に対して警告・改善通知を発信できるようになった。ただしHADOPIは行政機関であることから、司法機関である裁判所のように、侵害行為の差止命令を出すことはできない。いわゆる「[[三振法]]」をHADOPIは採用しており、三度の警告後、著作権侵害を[[検察官|検察]]に通達し、刑事手続に進む流れとなっている<ref name=ThomsonReuters-Law/>。
違法ダウンロードに対するインターネット・アクセス制限を目的とした2009年制定のHADOPI法<ref group="註" name=HADOPI-Desc>通称HADOPI法とは、{{仮リンク|インターネット上の創作物の頒布及び保護を促進する法|label=HADOPI 1法|fr|Loi favorisant la diffusion et la protection de la création sur internet}}」(法令番号: 2009-669)と{{仮リンク|インターネット上の文学的及び美術的所有権の刑事的保護法|label=HADOPI 2法|fr|Loi relative à la protection pénale de la propriété littéraire et artistique sur internet}}」(法令番号: 2009-1311) の総称。</ref>に基づき、インターネットを介した著作権侵害に対し、文化省に属する組織である{{仮リンク|HADOPI|fr|Haute Autorité pour la diffusion des œuvres et la protection des droits sur internet}}が監視の目を光らせている。HADOPIが著作権侵害を認識すると、被疑者に対して警告・改善通知を発信できるようになった。ただしHADOPIは行政機関であることから、司法機関である裁判所のように、侵害行為の差止命令を出すことはできない。いわゆる「[[三振法]]」をHADOPIは採用しており、三度の警告後、著作権侵害を[[検察官|検察]]に通達し、刑事手続に進む流れとなっている<ref name=ThomsonReuters-Law/>。


著作権は著作者および著作隣接者に独占的な権利を与えるものであるから、原則として[[欧州連合競争法]] (特に[[欧州連合基本条約#欧州連合の機能に関する条約|欧州連合の機能に関する条約]] 第101条および第102条) の適用対象外となる。ただし、著作権を預かる[[著作権管理団体]]が、その地位を濫用して市場に大きな影響をおよぼしている場合には、不正競争行為の取り締まり対象となる<ref name=ThomsonReuters-Law/>。
著作権は著作者および著作隣接者に独占的な権利を与えるものであるから、原則として[[欧州連合競争法]] (特に[[欧州連合基本条約#欧州連合の機能に関する条約|欧州連合の機能に関する条約]] 第101条および第102条) の適用対象外となる。ただし、著作権を預かる[[著作権管理団体]]が、その地位を濫用して市場に大きな影響をおよぼしている場合には、不正競争行為の取り締まり対象となる<ref name=ThomsonReuters-Law/>。


== 著作権法の成立と改正の歴史 ==
== 著作権法の成立と改正の歴史 ==
ここからは、フランス著作権法がどのような歴史的変遷を経て現行法に至ったのか、時代背景とともに解説していく。フランスの法制史は一般的に、[[フランス革命]]以前を指す「古法時代」、1789年に勃発したフランス革命から1804年制定の[[フランス民法典|ナポレオン法典]] (民法典) までの「中間法時代」、民法典以降の「近代法時代」に三分類される{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=2}}。
ここからは、フランス著作権法がどのような歴史的変遷を経て現行法に至ったのか、時代背景とともに解説していく。フランスの法制史は一般的に、[[フランス革命]]以前を指す「古法時代」、1789年に勃発したフランス革命から1804年制定の[[フランス民法典|ナポレオン法典]] (民法典) までの「中間法時代」、民法典以降の「近代法時代」に三分類される{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=2}}。
{{Main2|法制史の時代区分|フランス法#フランス法の歴史}}
{{Main2|法制史の時代区分|フランス法#フランス法の歴史}}
=== 古法時代 ===
=== 古法時代 ===
フランスにおいて、著作権の概念の前身とも呼べる「{{仮リンク|特権許可状|fr|privilège}}」を国王が初めて発行したのは、[[ルイ12世]]治世下の1500年頃である{{Refnest|group="註"|原語の[[:fr:Privilège_(livre)|''privilège'']]は日本語で「特権許可状」のほか、「特権」、「特認」、「出版権」、「出版允許」などと訳され、学者や辞書の間で定訳はない{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=41}}。}}{{Refnest|group="註"|世界初の特権許可状は、1495年にベネチア元老院によって発行された{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=34}}。}}{{Refnest|group="註"|フランス初の特権許可状の発行年は、1498年説<ref name=EH-Copyright>{{Cite web |url=https://eh.net/encyclopedia/an-economic-history-of-copyright-in-europe-and-the-united-states/ |title=An Economic History of Copyright in Europe and the United States |last=Khan |trans-title=欧州および米国における著作権の経済史 |first=B. Zorina ([[ボウディン大学]]所属) |date=2008-03-16 |publisher=Economic History Services (EH.net) |accessdate=2019-08-07 |language=en}}</ref>、1500年説{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=34}}、および1507年説{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=1}}がある。}}。この特権許可状は劇場運営者、文芸業界団体の側面もある[[王立アカデミー]] (例: [[アカデミー・フランセーズ]])、大学、印刷業者{{Sfn|Gautier|2007|p=983}}、書籍商、コメディアン (俳優){{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=10, 20}} といった著作隣接者に対して与えられるものであった。したがって当初の特権許可状は、著作者本人の保護を目的としたものではなく{{Refnest|group="註"|ただし『オード』の著者として知られる詩人の[[ピエール・ド・ロンサール]] (1524年 - 1585年) など、著名な著作者に対しては特権許可状が与えられたケースもある{{Sfn|Gautier|2007|p=983}}。}}、むしろ著作者を搾取する側面があった{{Sfn|Gautier|2007|p=983}}。その後、徐々に特権許可状の発行対象が広がっていき、1777年の王令によって、言語著作物の著作者とその相続人に対し、[[永久著作権]] (無期限の著作権) が認められることとなった{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=10, 20}}{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=2}}<ref name=EH-Copyright/>。以下、著作物のジャンル別に古法時代を見ていく。
フランスにおいて、著作権の概念の前身とも呼べる「{{仮リンク|特権許可状|fr|privilège}}」を国王が初めて発行したのは、[[ルイ12世]]治世下の1500年頃である{{Refnest|group="註"|原語の[[:fr:Privilège_(livre)|''privilège'']]は日本語で「特権許可状」のほか、「特権」、「特認」、「出版権」、「出版允許」などと訳され、学者や辞書の間で定訳はない{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=41}}。}}{{Refnest|group="註"|世界初の特権許可状は、1495年にベネチア元老院によって発行された{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=34}}。}}{{Refnest|group="註"|フランス初の特権許可状の発行年は、1498年説<ref name=EH-Copyright>{{Cite web |url=https://eh.net/encyclopedia/an-economic-history-of-copyright-in-europe-and-the-united-states/ |title=An Economic History of Copyright in Europe and the United States |last=Khan |trans-title=欧州および米国における著作権の経済史 |first=B. Zorina ([[ボウディン大学]]所属) |date=2008-03-16 |publisher=Economic History Services (EH.net) |accessdate=2019-08-07 |language=en}}</ref>、1500年説{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=34}}、および1507年説{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=1}}がある。}}。この特権許可状は劇場運営者、文芸業界団体の側面もある[[王立アカデミー]] (例: [[アカデミー・フランセーズ]])、大学、印刷業者{{Sfn|Gautier|2007|p=983}}、書籍商、コメディアン (俳優){{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=10, 20}} といった著作隣接者に対して与えられるものであった。したがって当初の特権許可状は、著作者本人の保護を目的としたものではなく{{Refnest|group="註"|ただし『オード』の著者として知られる詩人の[[ピエール・ド・ロンサール]] (1524年 - 1585年) など、著名な著作者に対しては特権許可状が与えられたケースもある{{Sfn|Gautier|2007|p=983}}。}}、むしろ著作者を搾取する側面があった{{Sfn|Gautier|2007|p=983}}。その後、徐々に特権許可状の発行対象が広がっていき、1777年の王令によって、言語著作物の著作者とその相続人に対し、[[永久著作権]] (無期限の著作権) が認められることとなった{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=10, 20}}{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=2}}<ref name=EH-Copyright/>。以下、著作物のジャンル別に古法時代を見ていく。


; 書籍
; 書籍
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1445年頃の[[グーテンベルグ]]による[[活版印刷|活版印刷術]]の発明により、1500年には[[パリ]]市内の印刷業者は50軒以上に達し、当時のパリは欧州で2番目に印刷業が盛んな都市であった{{Refnest|group="註"|当時、欧州で最も印刷業が盛んだったのは[[イタリア]]の[[ベネチア]]である{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=34&ndash;35}}。}}。この印刷業者の急増に加え、[[海賊版]]印刷が横行した結果、特権がなければ出版業界が経営上成り立たなくなってしまったことが、1500年頃に初めて特権許可状がフランスで発行された背景にある{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=34&ndash;35}}。しかしまだ、著作者本人には特権許可状は与えられていない。当時の印刷出版の対象はギリシャやローマの著作物、あるいは聖書が主体だったため、新作を執筆する著作者を権利保護する必要性がなかったからである{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=36&ndash;37}}。
1445年頃の[[グーテンベルグ]]による[[活版印刷|活版印刷術]]の発明により、1500年には[[パリ]]市内の印刷業者は50軒以上に達し、当時のパリは欧州で2番目に印刷業が盛んな都市であった{{Refnest|group="註"|当時、欧州で最も印刷業が盛んだったのは[[イタリア]]の[[ベネチア]]である{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=34&ndash;35}}。}}。この印刷業者の急増に加え、[[海賊版]]印刷が横行した結果、特権がなければ出版業界が経営上成り立たなくなってしまったことが、1500年頃に初めて特権許可状がフランスで発行された背景にある{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=34&ndash;35}}。しかしまだ、著作者本人には特権許可状は与えられていない。当時の印刷出版の対象はギリシャやローマの著作物、あるいは聖書が主体だったため、新作を執筆する著作者を権利保護する必要性がなかったからである{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=36&ndash;37}}。


著作者本人に特権許可状が徐々に与えられるようになったのは、17世紀に入ってからである{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=36&ndash;37}}。書籍商の中でもパリが特権許可状を独占していたことから、都市と地方の書籍商との間で対立が起きた{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=2}}{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=57&ndash;58}}。その結果、著作者たちは地方の書籍商から擁護されるようになる{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=57&ndash;58}}。したがって、著作者本人の権利保護は著作者自らが求めたものではなく、都市と地方の書籍商の抗争の副産物とも言える{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=60}}。この抗争を解決すべく、[[ルイ16世]]治世下の1777年8月30日に「特権許可状に関する裁定」が出され{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=2}}<ref name=EH-Copyright/>、初めて著作者本人の文学的所有権が認められ、書籍商と著作者の権利を分けて捉えられるようになった{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=70&ndash;74}}。また、この裁定 (王令) は、書籍商の永久著作権を10年間に短縮する一方で、著作者とその相続人に永久著作権を認めている{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=70&ndash;74}}{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=2}}{{Refnest|group="註"|しかし実態は、書籍商に特権許可状の権利を譲渡しなければ、著作者は書籍商との契約を打ち切られ、他の著作者に声がかかってしまう苦しい立場にあった{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=75}}。}}。
著作者本人に特権許可状が徐々に与えられるようになったのは、17世紀に入ってからである{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=36&ndash;37}}。書籍商の中でもパリが特権許可状を独占していたことから、都市と地方の書籍商との間で対立が起きた{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=2}}{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=57&ndash;58}}。その結果、著作者たちは地方の書籍商から擁護されるようになる{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=57&ndash;58}}。したがって、著作者本人の権利保護は著作者自らが求めたものではなく、都市と地方の書籍商の抗争の副産物とも言える{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=60}}。この抗争を解決すべく、[[ルイ16世]]治世下の1777年8月30日に「特権許可状に関する裁定」が出され{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=2}}<ref name=EH-Copyright/>、初めて著作者本人の文学的所有権が認められ、書籍商と著作者の権利を分けて捉えられるようになった{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=70&ndash;74}}。また、この裁定 (王令) は、書籍商の永久著作権を10年間に短縮する一方で、著作者とその相続人に永久著作権を認めている{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=70&ndash;74}}{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=2}}{{Refnest|group="註"|しかし実態は、書籍商に特権許可状の権利を譲渡しなければ、著作者は書籍商との契約を打ち切られ、他の著作者に声がかかってしまう苦しい立場にあった{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=75}}。}}。


; 戯曲
; 戯曲
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フランスでは、[[アンリ4世]] (在位: 1589年 - 1610年) による国家統治の結果、観劇を楽しむ余裕と社会秩序を回復したことから、17世紀にはフランスで劇場文化が興隆する{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=80&ndash;81}}。当時は有名な[[劇作家]]であっても、[[戯曲]]の台本を俳優に売却する1回限りの取引が主流であったが{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=80&ndash;81}}、17世紀中頃には、現代で言うところの「[[ロイヤルティー]]」に該当する「台本使用料」の考え方を取り入れているケースもあった{{Refnest|group="註"|1653年の喜劇『ライバル』を執筆したフィリップ・キノとコメディアン (俳優) の間で、劇場収入が[[レベニューシェア]]されていた記録が残っている{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=80&ndash;81}}。}}。1757年になるとようやく、王立劇団である[[コメディ・フランセーズ]]と著作者との間で、台本使用料の名目で劇場「利益」の一定割合が著作者にシェアされる協定が結ばれるようになった{{Refnest|group="註"|コメディ・フランセーズの協定は劇場「収入」ではなく「利益」の一部還元である。つまり、劇場チケット売上 (収入) が好調であっても、諸経費がかさんでしまえば、残った利益はわずかとなるため、著作者の元に入っている金額は少額となる。さらに計算の基礎となる劇場収入も窓口販売のみの金額であり、劇場総収入の多くを占めていたボックス席や、年間予約料は含まれていなかった{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=81}}。}}。
フランスでは、[[アンリ4世]] (在位: 1589年 - 1610年) による国家統治の結果、観劇を楽しむ余裕と社会秩序を回復したことから、17世紀にはフランスで劇場文化が興隆する{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=80&ndash;81}}。当時は有名な[[劇作家]]であっても、[[戯曲]]の台本を俳優に売却する1回限りの取引が主流であったが{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=80&ndash;81}}、17世紀中頃には、現代で言うところの「[[ロイヤルティー]]」に該当する「台本使用料」の考え方を取り入れているケースもあった{{Refnest|group="註"|1653年の喜劇『ライバル』を執筆したフィリップ・キノとコメディアン (俳優) の間で、劇場収入が[[レベニューシェア]]されていた記録が残っている{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=80&ndash;81}}。}}。1757年になるとようやく、王立劇団である[[コメディ・フランセーズ]]と著作者との間で、台本使用料の名目で劇場「利益」の一定割合が著作者にシェアされる協定が結ばれるようになった{{Refnest|group="註"|コメディ・フランセーズの協定は劇場「収入」ではなく「利益」の一部還元である。つまり、劇場チケット売上 (収入) が好調であっても、諸経費がかさんでしまえば、残った利益はわずかとなるため、著作者の元に入っている金額は少額となる。さらに計算の基礎となる劇場収入も窓口販売のみの金額であり、劇場総収入の多くを占めていたボックス席や、年間予約料は含まれていなかった{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=81}}。}}。


しかし実態は、著作者 (つまり劇作家や伴奏の作曲者) の弱い立場が続いていた。コメディ・フランセーズと著作者間の対立が激化したことから{{Refnest|group="註"|たとえば、人気劇作家であり、社会弱者を支援する活動を国をまたいで展開していたことでも知られる[[カロン・ド・ボーマルシェ|ボーマルシェ]]は、『[[セビリアの理髪師]]』の上演使用料の条件や算出方法が不当であるとして、1775年にコメディ・フランセーズに対して条件拒否と明細提示を求めて抗議している{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=83}}。}}、1777年には演劇法立法促進事務局 ({{Lang-fr|Bureau de législation dramatique}}) が設立された。当組織は、著作者の待遇改善をコメディ・フランセーズに求め、最終的には権利保護の立法を目指すことを目的とし、終身会長には『[[セビリアの理髪師]]』などで有名な[[カロン・ド・ボーマルシェ|ボーマルシェ]]が就任している{{Refnest|group="註"|またボーマルシェは、演劇法立法促進事務局創設の翌年1778年には『[[フィガロの結婚]]』を完成させ、3年後にコメディアンに納入したものの、ルイ16世によって上演が禁じられ、ボーマルシェは4日間バスティーユ牢獄に投獄されている。『[[フィガロの結婚]]』の上演が実現されたのは、6年後である{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=93}}。}}。なお、この組織は後の{{仮リンク|劇作家作曲家協会|label=劇作家作曲家協会 (SACD)|en|Société des Auteurs et Compositeurs Dramatiques|fr|Société des Auteurs et Compositeurs Dramatiques}}として継承されることになる{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=84}}。1780年には、凡庸とも言われる[[ルイ16世 (フランス王)|ルイ16世]] (在位: 1774年 - 1792年) への直接陳情が行われ、国王顧問会議がコメディ・フランセーズへの新たな規制を公布したが、むしろ改悪だと批判された{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=85&ndash;86}}。
しかし実態は、著作者 (つまり劇作家や伴奏の作曲者) の弱い立場が続いていた。コメディ・フランセーズと著作者間の対立が激化したことから{{Refnest|group="註"|たとえば、人気劇作家であり、社会弱者を支援する活動を国をまたいで展開していたことでも知られる[[カロン・ド・ボーマルシェ|ボーマルシェ]]は、『[[セビリアの理髪師]]』の上演使用料の条件や算出方法が不当であるとして、1775年にコメディ・フランセーズに対して条件拒否と明細提示を求めて抗議している{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=83}}。}}、1777年には演劇法立法促進事務局 ({{Lang-fr|Bureau de législation dramatique}}) が設立された{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=84}}。当組織は世界初の著作権集中管理団体と言われており{{Sfn|三菱UFJリサーチ報告書|2018|p=4}}、著作者の待遇改善をコメディ・フランセーズに求め、最終的には権利保護の立法を目指すことを目的とし、終身会長には『[[セビリアの理髪師]]』などで有名な[[カロン・ド・ボーマルシェ|ボーマルシェ]]が就任している{{Refnest|group="註"|またボーマルシェは、演劇法立法促進事務局創設の翌年1778年には『[[フィガロの結婚]]』を完成させ、3年後にコメディアンに納入したものの、ルイ16世によって上演が禁じられ、ボーマルシェは4日間バスティーユ牢獄に投獄されている。『[[フィガロの結婚]]』の上演が実現されたのは、6年後である{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=93}}。}}。なお、この組織は後の{{仮リンク|劇作家作曲家協会|label=劇作家作曲家協会 (SACD)|en|Société des Auteurs et Compositeurs Dramatiques|fr|Société des Auteurs et Compositeurs Dramatiques}}として継承されることになる{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=84}}。1780年には、凡庸とも言われる[[ルイ16世 (フランス王)|ルイ16世]] (在位: 1774年 - 1792年) への直接陳情が行われ、国王顧問会議がコメディ・フランセーズへの新たな規制を公布したが、むしろ改悪だと批判された{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=85&ndash;86}}。


; 音楽
; 音楽
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=== 中間法時代 ===
=== 中間法時代 ===
国王の権威を否定するフランス革命が1789年に勃発し、同年8月4日の憲法制定会議によって、特権許可状の制度も廃止されていくこととなる{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=20}}。1791年1月13日 - 19日法、および1793年7月19日 - 24日法の2本の法律制定により、現代の著作権法の原点となる制度が開始された{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=10}}。当時、本格的な著作権法としてはイギリスで制定された1710年の[[アン法]]が存在したが、フランスはこれに次ぐ、世界2番目の著作権制度整備国となった{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=11}}。1791年法は演劇著作物に限った上演権・演奏権を、1793年法は著作物の範囲を広げた上で出版権・複製権を、それぞれ著作者に認めるものであった。しかし1777年の王令によって書籍に永久著作権が認められていたにも関わらず、1791年法と1793年法によって、権利保護期間はそれぞれ著作者の没後5年および10年にそれぞれ短縮されている{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=10&ndash;11, 20, 23&ndash;25}}。この2本の法律は、1957年3月11日法まで160年以上もの間、抜本的改正なしで運用され続けた{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=26}}{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=2}}。
国王の権威を否定するフランス革命が1789年に勃発し、同年8月4日の憲法制定会議によって、特権許可状の制度も廃止されていくこととなる{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=20}}。1791年1月13日 - 19日法、および1793年7月19日 - 24日法の2本の法律制定により、現代の著作権法の原点となる制度が開始された{{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|p=19}}{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=10}}。当時、本格的な著作権法としてはイギリスで制定された1710年の[[アン法]]が存在したが{{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|pp=15&ndash;18}}、フランスはこれに次ぐ、世界2番目の著作権制度整備国となった{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=11}}。1791年法は演劇著作物に限った上演権・演奏権を、1793年法は著作物の範囲を広げた上で出版権・複製権を、それぞれ著作者に認めるものであった{{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|p=19}}。しかし1777年の王令によって書籍に永久著作権が認められていたにも関わらず、1791年法と1793年法によって、権利保護期間はそれぞれ著作者の没後5年および10年にそれぞれ短縮されている{{Sfn|宮澤溥明|2017|pp=10&ndash;11, 20, 23&ndash;25}}。この2本の法律は、1957年3月11日法まで160年以上もの間、抜本的改正なしで運用され続けた{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=26}}{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=2}}{{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|p=19}}。


; 1791年1月13日 - 19日法
; 1791年1月13日 - 19日法
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=== 第二次世界大戦後 ===
=== 第二次世界大戦後 ===
1957年3月11日法によって著作権法は大幅改正され<ref name=LF1957-03>{{Légifrance|base=JORF|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000000315384|texte=Loi {{numéro|57-298}} du 11 mars 1957 sur la propriété littéraire et artistique}}</ref>、フランス革命期の1791年法と1793年法以降、約160年の間に蓄積されたさまざまな判例法を1957年法に取り込んでいる{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=2}}。また、著作財産権だけでなく、著作者人格権も成文化している<ref name=LF1957-03/>。
1957年3月11日法によって著作権法は大幅改正され<ref name=LF1957-03>{{Légifrance|base=JORF|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000000315384|texte=Loi {{numéro|57-298}} du 11 mars 1957 sur la propriété littéraire et artistique}}</ref>、フランス革命期の1791年法と1793年法以降、約160年の間に蓄積されたさまざまな判例法を1957年法に取り込んでいる{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=2}}。また、著作財産権だけでなく、著作者人格権も成文化している<ref name=LF1957-03/>。


1985年7月3日法によって、コンピュータ・プログラムが著作権保護の対象として追加されたほか、著作隣接権が新たに明文化されている<ref name=LF1985-07>{{Légifrance|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=LEGITEXT000006068913&dateTexte=20090701|texte=Loi {{numéro|85-704}} du 12 juillet 1985 relative à la maîtrise d'ouvrage publique et à ses rapports avec la maîtrise d’œuvre privée}}</ref>{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=2}}。また、音楽著作物に関しては著作権の保護期間が50年から70年に延伸している{{Sfn|Derclaye|2009|p=149}}{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=303}}。
1985年7月3日法によって、コンピュータ・プログラムが著作権保護の対象として追加されたほか、著作隣接権が新たに明文化されている<ref name=LF1985-07>{{Légifrance|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=LEGITEXT000006068913&dateTexte=20090701|texte=Loi {{numéro|85-704}} du 12 juillet 1985 relative à la maîtrise d'ouvrage publique et à ses rapports avec la maîtrise d’œuvre privée}}</ref>{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=2}}。また、音楽著作物に関しては著作権の保護期間が50年から70年に延伸している{{Sfn|Derclaye|2009|p=149}}{{Sfn|宮澤溥明|2017|p=303}}。


1992年7月1日法 (法令番号No. 92-597) によって過去の法令を全面改廃し<ref name=LF1992-07>{{Légifrance|base=JORF|numéro=MENX9100082L|texte=Loi {{numéro|92-597}} du 1 juillet 1992 relative au code de la propriété intellectuelle}}</ref>、現在の{{仮リンク|知的財産法典 (フランス)|fr|Code de la propriété intellectuelle|label=知的財産法典}}に著作権法が収録された{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=2}}。
1992年7月1日法 (法令番号No. 92-597) によって過去の法令を全面改廃し<ref name=LF1992-07>{{Légifrance|base=JORF|numéro=MENX9100082L|texte=Loi {{numéro|92-597}} du 1 juillet 1992 relative au code de la propriété intellectuelle}}</ref>、現在の{{仮リンク|知的財産法典 (フランス)|fr|Code de la propriété intellectuelle|label=知的財産法典}}に著作権法が収録された{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=2}}{{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|p=19}}。


=== EU指令とフランス国内法改正 ===
=== EU指令とフランス国内法改正 ===
{{See also|著作権法 (欧州連合)}}
{{See also|著作権法 (欧州連合)}}
フランスは[[欧州連合]] (EU) 加盟国として、[[著作権法 (欧州連合)|EUの各種著作権指令]]に基づき、必要に応じて[[国内法化]]を行っている。「[[欧州連合域における著作権保護期間調和に関する指令]]」(93/98/EEC指令) に基づきフランス国内でも1997年3月27日法をさせて、べての著作物の保護期間70年に延伸させた{{Refnest|group="註"|音楽著作物のみは1985年7月3日法ですでに70年に延伸していが、1997年3月27日によって音楽以外も70年に合わせている{{Sfn|Derclaye|2009|p=149}}。}}
フランスは[[欧州連合]] (EU) 加盟国として、[[著作権法 (欧州連合)|EUの各種著作権指令]]に基づき、必要に応じて[[国内法化]]を行っている。EU指令の国法化とは、既存国内法ではEU指令の求める結果・水準を満たせない場合、国内法を改正あるいは新たにる手続指し{{Sfn|庄司克宏|2015||pp=4&ndash;6}}既に国内法で満たしている場合は、特に国内法化は発生しない。EU指令発効してから各国が国内化を完了さるまでの導入期限は、指令ごとに個別設定されている{{Sfn|庄司克宏|2015||pp=43&ndash;47}}。以下、代表的なEU著作権指令 (左) とフランス国内法化 (右) を対比してまとめる
* 1993年の[[欧州連合域内における著作権保護期間の調和に関する指令]] (93/98/EEC指令) -- 1997年3月27日法を成立させて、フランスでもすべての著作物の著作財産権保護期間を70年に延伸させた。音楽著作物のみは、1985年7月3日法ですでに70年に延伸していたが、1997年3月27日法によって音楽以外も70年に合わせている{{Sfn|Derclaye|2009|p=149}}。なお、93/98/EEC指令はその後2006/116/EC指令により改廃され、さらに2011/77/EU指令で改正されている<ref name=EURLex-Term2006Summary>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/LSU/?uri=CELEX:32006L0116&qid=1570081327451 |title=SUMMARY OF: Directive 2006/116/EC on the term of protection of copyright and certain related rights |publisher=[[EUR-Lex]] |work=[[欧州連合官報]] (OJ L 372, 27.12.2006, p. 12–18のサマリー版) |accessdate=2019-10-03 |language=en}}</ref>。2011/77/EU指令に伴い、フランスでは2015年に国内法化の改正を行っているが、国内法化の期限である2013年1月11日から2年以上遅延したことになる<ref name=EURLex-Term2011Trans>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/NIM/?uri=CELEX:32011L0077 |title=National transposition measures communicated by the Member States concerning: Directive 2011/77/EU of the European Parliament and of the Council of 27 September 2011 amending Directive 2006/116/EC on the term of protection of copyright and certain related rights |trans-title=2011/77/EU指令の各国国内法化概況 |publisher=[[EUR-Lex]] |work=[[欧州連合官報]] (OJ L 265, 11.10.2011, p. 1–5) |accessdate=2019-10-03 |language=en}}</ref>。
* 2000年の{{仮リンク|電子商取引指令|en|Electronic Commerce Directive 2000}} (2000/31/EC指令) -- インターネット・サービスを提供した[[インターネット・サービス・プロバイダー|ISP]]などに対して、侵害コンテンツを削除するよう求める{{仮リンク|デジタル経済法 (フランス)|label=デジタル経済法|fr|Loi pour la confiance dans l'économie numérique}} (通称: LCEN、法令番号: 2004-575)<ref name=LF2004-575>{{Légifrance|base=JORF|numéro=ECOX0200175L|texte=Loi {{numéro|2004-575}} du 21 juin 2004 pour la confiance dans l’économie numérique}}</ref>が2004年6月21日に成立している{{Sfn|文化庁|2010|p=4}}。またデジタル経済法以外に[[デクレ]] (政令) 1本と{{仮リンク|オルドナンス|en|Ordonnance|fr|Ordonnance en droit constitutionnel français}} (大統領による委任立法) 1本が発せられている。電子商取引指令はEU加盟各国で国内法化の期限日が個別に設定されており、フランスは2002年1月17日であったことから、2年以上遅延した<ref name=EURLex-ECommerce2000Trans>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/NIM/?uri=CELEX:32000L0031&qid=1570082866104 |title=National transposition measures communicated by the Member States concerning: Directive 2000/31/EC of the European Parliament and of the Council of 8 June 2000 on certain legal aspects of information society services, in particular electronic commerce, in the Internal Market ('Directive on electronic commerce') |trans-title=2000/31/EC指令 (電子商取引指令) の各国国内法化概況 |publisher=[[EUR-Lex]] |work=[[欧州連合官報]] (OJ L 178, 17.7.2000, p. 1–16) |accessdate=2019-10-03 |language=en}}</ref>。
* 2001年の[[情報社会指令]] (2001/29/EC指令) -- [[WIPO著作権条約]]を具現化するために成立した、EU著作権指令の根幹を成す指令である<ref name=EUMag-201908/>。フランスでは2006年8月1日法、通称: {{仮リンク|DADVSI|fr|Loi relative au droit d'auteur et aux droits voisins dans la société de l'information|en|DADVSI}}{{Sfn|文化庁|2010|p=47}}<ref name=LF2006-DADVSI>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000000266350&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|2006-96}} du 1er août 2006 relative au droit d'auteur et aux droits voisins dans la société de l'information (情報社会における著作権および著作隣接権に関する2006年8月1日法 (法令番号No. 2006-96))}}</ref>で情報社会指令を国内法化し、さらに2009年制定のHADOPI法<ref group="註" name=HADOPI-Desc/>で強化・補完した<ref name=ThomsonReuters-Law/>。詳細は後述する。
* 2001年の{{仮リンク|再販権指令|en|Resale Rights Directive}}(2001/84/EC指令、追求権指令とも{{Refnest|group="註"|追及権はフランス語で Droit de Suite (英訳するとRight to Followの意) と呼ばれていることから、2001/84/EC指令を追及権指令と訳す専門家も多い。追及権に詳しい早稲田大学・小川明子{{Sfn|小川明子|2012|p=1&ndash;4}}や、フランス著作権法全般に詳しい弁護士・井奈波朋子{{Sfn|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006|p=2}}などに使用例が認められる。一方、[[EU官報]]で公示された正式名称には英語で Resale Right が使われていることから<ref name=EURLex-ResaleRight>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2001/84/oj |title=Directive 2001/84/EC of the European Parliament and of the Council of 27 September 2001 on the resale right for the benefit of the author of an original work of art |publisher=[[EUR-Lex]] |work=[[欧州連合官報]] (L 272 , 13/10/2001 P. 0032 - 0036) |accessdate=2019-10-03 |language=en}}</ref>、これを直訳して再販権指令と呼ぶケースもある。}}) -- フランスは世界で初めて追及権を認めた国であり、追及権指令が出る前に基礎的な法制度は整っていた。2006年8月1日法により、部分的に改正している{{Sfn|小川明子|2012|p=1&ndash;4}}。
* 2004年の{{仮リンク|知的財産権の執行に関する指令|en|Enforcement Directive}} (2004/48/EC指令) -- 当指令を受けて、フランスでも著作権侵害の救済に関して国内法化を行っている。2007年10月29日法 (法令番号: 2007-1544) および2008年6月27日法 (法令番号: 2008-624) により、民事訴訟手続上、著作権侵害者の個人情報を得ることを合法化したほか、金銭賠償に関しフランス著作権法が改正されている{{Sfn|文化庁|2010|p=47}}。当指令の国内法化期限は2006年4月29日に設定されており、1年以上遅延した<ref name=EURLex-Enforcement2004Trans>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/NIM/?uri=CELEX:32004L0048 |title=National transposition measures communicated by the Member States concerning: DIRECTIVE 2004/48/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 29 April 2004 on the enforcement of intellectual property rights (Text with EEA relevance) |trans-title=2004/48/EC指令の各国国内法化概況 |publisher=[[EUR-Lex]] |work=[[欧州連合官報]] (OJ L 157, 30.4.2004, p. 45–86) |accessdate=2019-10-03 |language=en}}</ref>。
* 2014年の[[著作権集中管理指令]] (2014/26/EU指令) -- フランスは世界初の著作権管理団体発祥の地であり、既に2000年から著作権管理団体を統制するために監督委員会が設けられていた。2014年のEU指令を受け、監督委員会の役割を拡大させる法改正を2016年7月7日に成立させている<ref name=LegFra-2016-925>{{Cite web |url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000032854341 |title=LOI n° 2016-925 du 7 juillet 2016 relative à la liberté de la création, à l'architecture et au patrimoine (1) |publisher=[[レジフランス]] |accessdate=2019-10-03 |language=fr}}</ref><ref name=EURLex-CMO2014Trans>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/NIM/?uri=CELEX:32014L0026 |title=National transposition measures communicated by the Member States concerning: Directive 2014/26/EU of the European Parliament and of the Council of 26 February 2014 on collective management of copyright and related rights and multi-territorial licensing of rights in musical works for online use in the internal market Text with EEA relevance |trans-title=2014/26/EU指令の各国国内法化概況 |publisher=[[EUR-Lex]] |work=[[欧州連合官報]] (OJ L 84, 20.3.2014, p. 72–98) |accessdate=2019-10-03 |language=en}}</ref>{{Sfn|三菱UFJリサーチ報告書|2018|pp=4, 20}}。
* 2019年の[[DSM著作権指令]] (2019/790/EU指令) -- DSM著作権指令は2001年の情報社会指令以来の大型改革である<ref name=EUMag-201908/>。2019年6月7日に発効し、フランスを含む各国は2年後の2021年6月7日までに国内法化を完了させる義務を負っている<ref name=EUR-Lex-Summary-DSM>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/LSU/?uri=CELEX:32019L0790 |title=SUMMARY OF: Directive (EU) 2019/790 on copyright in the Digital Single Market |trans-title=DSM著作権指令 (2019/790) の概要 |publisher=[[EUR-Lex]] |date=2019-07-12 |accessdate=2019-09-10 |language=en}}</ref>。


; {{Visible anchor|情報社会指令と国内法化の遅延}}
インターネットを介した著作物の流通における技術的保護を定めた「[[情報社会指令]]」(2001/29/EC指令) は、フランス国内でも著作権法の改正が複数回発生している。2006年制定の{{仮リンク|DADVSI|fr|Loi relative au droit d'auteur et aux droits voisins dans la société de l'information}}では、個人による違法ファイルの共有を初めて刑事罰として規定した{{Sfn|文化庁|2010|p=47}}<ref name=LF2006-DADVSI>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000000266350&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|2006-96}} du 1er août 2006 relative au droit d'auteur et aux droits voisins dans la société de l'information (情報社会における著作権および著作隣接権に関する2006年8月1日法 (法令番号No. 2006-96))}}</ref>。さらにDADVSIを補完する形で、違法ダウンロードに対するインターネット・アクセス制限を目的としたHADOPI法<ref group="註" name=HADOPI-Desc/>が2009年に制定されている<ref name=ThomsonReuters-Law/>。しかしこれらの改正法の内容を巡って、利害関係者や世論の間で激しい論争が起こった<ref>{{Cite web |url=http://www.ip-watch.org/2006/03/18/sign-of-the-digital-times-frances-struggle-with-a-new-copyright-law/ |title=Sign Of The (Digital) Times: France’s Struggle With A New Copyright Law |first=Dugie |last=Standeford |publisher=Intellectual Property Watch |date=2006-03-18 |accessdate=2019-08-07 |language=en}}</ref>。HADOPI 1法については、その一部が憲法にて違憲判決が出ており、これに対応したHADOPI 2法が追加成立した経緯がある{{Sfn|麻生典|2013|p=1}}。
インターネットを介した著作物の流通における技術的保護 (いわゆる[[デジタル著作権管理]]、DRM) を定めた情報社会指令 (2001/29/EC指令) は、フランス国内でも著作権法の改正が複数回発生している。2006年制定のDADVSIでは、個人による違法ファイルの共有を初めて刑事罰として規定した{{Sfn|文化庁|2010|p=47}}<ref name=LF2006-DADVSI>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000000266350&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|2006-96}} du 1er août 2006 relative au droit d'auteur et aux droits voisins dans la société de l'information (情報社会における著作権および著作隣接権に関する2006年8月1日法 (法令番号No. 2006-96))}}</ref>。しかしDADVSIが成立する過程で紛糾し、法案は修正・削除が繰り返された結果、国内法化の期限である2002年12月から3年半以上も遅延した<ref name=DADVSI-Jondet>{{Cite web |url=http://www.law.ed.ac.uk/ahrc/script%2Ded/vol3-4/jondet.asp |title=La France v. Apple: who’s the dadvsi in DRMs? |last=Jondet |first=Nicolas |publisher=[[エジンバラ大学]]ロースクール |date=2006-12 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20070304002654/http://www.law.ed.ac.uk/ahrc/script-ed/vol3-4/jondet.asp |archivedate=2007-03-24 |accessdate=2019-10-03}}</ref>。その結果、2004年2月に[[欧州委員会]]はフランスを[[欧州司法裁判所]]に提訴し<ref name=NDL-DADVSIDelay1>{{Cite web |url=https://current.ndl.go.jp/e433 |title=E433 - PtoP方式によるダウンロード自由化のゆくえ−フランスの新しい著作権法案 |date=2006-01-18 |issue=No.75 |publisher=[[国立国会図書館]] |work=カレントアウェアネス-E |accessdate=2019-10-02}}</ref>{{Sfn|井奈波朋子 (コピライト)|2006|p=1}}<ref name=ECvFrance2004-EURLex>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:C2004/071/33&qid=1570088664766&from=EN |title=Action brought on 10 February 2004 by the Commission of the European Communities against the French Republic (Case C-55/04) |trans-title=欧州委員会対フランス共和国 (2004年2月12日提訴、訴訟番号 C-55/04) |publisher=[[EUR-Lex]] |work=[[欧州連合官報]] (C 71/18) |date=2004-03-20 |accessdate=2019-10-03 |language=en}}</ref>、2005年1月にフランスへ制裁金を科す判決が下っている<ref name=ECvFrance2005-EURLex>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:C2005/082/09&qid=1570088664766&from=EN |title=JUDGMENT OF THE COURT OF JUSTICE (Sixth Chamber) of 27 January 2005 in Case C-59/04 Commission of the European Communities v French Republic |trans-title=訴訟番号 C-55/04に関する欧州委員会対フランス共和国の判決 (2005年1月27日判示) |publisher=[[EUR-Lex]] |work=[[欧州連合官報]] (C 82/5) |date=2005-02-04 |accessdate=2019-10-03 |language=en}}</ref>。なお、情報社会指令の国内法化に苦戦したのはフランスだけではない。国内法化の期限に間に合ったのはギリシャとデンマークの2か国のみであり、特に遅延が著しかった国々 (ベルギー、スペイン、フランス、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、フィンランド、スウェーデン) はフランス同様に提訴されている<ref name=InfoSoc-Delay-AEPO>{{Cite web |title=Implementation of the directive 2001/29/EC of the European Parliament and the Council of 22 May 2001 on the harmonization of certain aspects of copyright and related rights in the Information Society |trans-title=2001年情報社会指令の各国導入状況 |publisher={{仮リンク|AEPO-ARTIS|en|Association of European Performers' Organisations}} |url=http://www.aepo-artis.org/pages/59_1.html |accessdate=2019-09-09 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20121104062814/http://www.aepo-artis.org/pages/59_1.html |archivedate=2012-11-04 |deadurl=yes |language=en}}</ref>。


国内法化がフランスで大幅に遅れた要因は複合的であるが、もともとフランスは著作権に限らず、EU指令全般で国内法化の遅延比率が他国よりも高いことが欧州委員会から指摘されている{{Refnest|group="註"|2004年4月末時点で、国内法化の期限内導入完了率は旧EU15か国中、フランスが最下位となっている。また新たに10か国を加えた拡大25か国で見ても、2004年5月末時点でフランスは17位となっている{{Sfn|門彬|2005|p=126}}。}}。その文化・政治的背景として、自国で決めていない指令を導入することへの抵抗感、政治的圧力団体による[[ロビイング]]によって立法過程が複雑化していること、そして国会提出法案の入念なチェック手続の3点が挙げられる{{Sfn|門彬|2005|p=128}}。
[[デジタル著作権管理]] (DRM) についてはこの他に、著作権侵害の手段となりうるインターネット・サービスを提供した[[インターネット・サービス・プロバイダー|ISP]]などに対して、侵害コンテンツを削除するよう求める{{仮リンク|デジタル経済法 (フランス)|label=デジタル経済法|fr|Loi pour la confiance dans l'économie numérique}} (通称: LCEN、法令番号: 2004-575)<ref name=LF2004-575>{{Légifrance|base=JORF|numéro=ECOX0200175L|texte=Loi {{numéro|2004-575}} du 21 juin 2004 pour la confiance dans l’économie numérique}}</ref>が2004年に成立している。デジタル経済法は、2000年の{{仮リンク|電子商取引指令|en|Electronic Commerce Directive 2000}} (2000/31/EC指令) に対応したものである{{Sfn|文化庁|2010|p=4}}。


DADVSIを巡っては、フランスで紛糾の種となったのが法案の第1条に盛り込まれていた「グローバル・ライセンス」({{Lang-fr-short|licence globale}}) である。これはインターネットユーザが毎月一定額を著作権者に支払うことで、音楽や映画などのデジタルファイルを合法的に[[Peer to Peer|Peer-to-peer]] (P2P) で共有できるようにする制度であった。フランス政府は反対したものの、[[著作権管理団体]]や消費者団体などからの強い支持を背景に、中道左派の[[社会党 (フランス)|社会党]]や、後の大統領を務めた[[ニコラ・サルコジ]]を擁する保守系の[[国民運動連合]]などが賛成に回り、2005年12月に[[国民議会 (フランス)|フランス国民議会]] (下院) はグローバル・ライセンス条項を含む法案を可決した<ref name=NDL-DADVSIDelay1/>{{Sfn|井奈波朋子 (コピライト)|2006|p=1}}。しかしながら政府が多数派党に法案反対を働きかけた結果、最終的にグローバル・ライセンスは廃案に追い込まれている。対案として一般ユーザではなく[[ISP]]に対して賦課金を課す提案が提出されるも、こちらも廃案となった{{Sfn|井奈波朋子 (コピライト)|2006|p=1}}。
また、{{仮リンク|知的財産権の執行に関する指令|en|Enforcement Directive}} (2004/48/EC指令) に対応して、著作権侵害の救済についても国内法化を行っている。2007年10月29日法 (法令番号: 2007-1544) および2008年6月27日法 (法令番号: 2008-624) により、民事訴訟手続上、著作権侵害者の個人情報を得ること、および金銭賠償に関し、フランス著作権法が改正されている{{Sfn|文化庁|2010|p=47}}。

また、DADVSI法案の第7条は欧米メディアから「[[iPod]]法」と呼ばれて批判を受けた<ref name=DADVSI-NYT200608>{{Cite web |url=https://www.nytimes.com/2006/07/29/technology/29music.html?_r=1&oref=slogin |title=Apple Gets French Support in Music Compatibility Case |trans-title=アップル社、楽曲の互換性問題を巡ってフランスから支持を獲得 |last=Crampton |first=Thomas |publisher=[[New York Times]] |date=2006-07-29 |accessdate=2019-10-03 |language=en}}</ref>{{Sfn|井奈波朋子 (コピライト)|2006|pp=2&ndash;3}}。この条項では、楽曲ファイルをダウンロードした一般ユーザが他社製の再生機器を使って鑑賞できるよう、アクセスコントロール技術に互換性を持たせることを義務化する内容であった。そのため、[[iTunes]]で楽曲配信し、iPodで楽曲再生するビジネスモデルを展開していた米国[[アップル (企業)|アップル社]]などに打撃を与えると懸念されていた{{Sfn|井奈波朋子 (コピライト)|2006|pp=2&ndash;3}}。しかし、相応の金銭的補償なしに楽曲配信事業者に互換性の義務を負わせてはならないとして、フランスの司法機関である[[憲法評議会]]が当条項の違憲性を指摘して、大幅な修正に至っている<ref name=DADVSI-NYT200608/><ref name=NDL-DADVSIDelay2>{{Cite web |url=https://current.ndl.go.jp/node/4411 |title=フランスDADVSI法が施行される−納得の出来とはいえないようですが |date=2006-08-09 |publisher=[[国立国会図書館]] |work=カレントアウェアネス・ポータル |accessdate=2019-10-03}}</ref>。

さらにDADVSIを補完する形で、違法ダウンロードに対するインターネット・アクセス制限を目的としたHADOPI法<ref group="註" name=HADOPI-Desc/>が2009年に制定されている<ref name=ThomsonReuters-Law/>。しかしこれらの改正法の内容を巡って、利害関係者や世論の間で激しい論争が起こった<ref>{{Cite web |url=http://www.ip-watch.org/2006/03/18/sign-of-the-digital-times-frances-struggle-with-a-new-copyright-law/ |title=Sign Of The (Digital) Times: France’s Struggle With A New Copyright Law |first=Dugie |last=Standeford |publisher=Intellectual Property Watch |date=2006-03-18 |accessdate=2019-08-07 |language=en}}</ref>。HADOPI 1法については、その一部が憲法評議会にて違憲示され、これに修正対応したHADOPI 2法が追加成立した経緯がある{{Sfn|麻生典|2013|p=1}}。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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; 主要文献 (50音・アルファベット順)
; 主要文献 (50音・アルファベット順)
* {{Cite journal|和書|url=https://www.taf.or.jp/files/items/570/File/001.pdf |title=フランス Hadopi 法の終焉と著作権侵害に伴うインターネット規制のあり方 |series= 2013年度 研究調査助成 |author=麻生典 |publisher=公益社団法人 [[電気通信普及財団]] |year=2013 |format=PDF |ref=harv}}
* {{Cite journal|和書|url=https://www.taf.or.jp/files/items/570/File/001.pdf |title=フランス Hadopi 法の終焉と著作権侵害に伴うインターネット規制のあり方 |series= 2013年度 研究調査助成 |author=麻生典 |publisher=公益社団法人 [[電気通信普及財団]] |year=2013 |format=PDF |ref=harv}}
* {{Cite journal|和書|title=フランス著作権制度の概要とコンテンツの法的保護 |issue=一般社団法人 デジタルコンテンツ協会が2005年11月24日に開催したセミナー議事録の加筆版 |author=井奈波朋子 |publisher=龍村法律事務所 |year=2006 |format=PDF |url=http://www.tatsumura-law.com/attorneys/tomoko-inaba/column/wp-content/uploads/2016/05/051124DCAJ.pdf |ref=harv}} -- 著者はフランス知的財産法専門弁護士、[[国際著作権法学会]]および日仏法学会会員
* {{Cite journal|和書|title=フランス著作権制度の概要とコンテンツの法的保護 |issue=一般社団法人 デジタルコンテンツ協会が2005年11月24日に開催したセミナー議事録の加筆版 |author=井奈波朋子 |publisher=龍村法律事務所 |year=2006 |format=PDF |url=http://www.tatsumura-law.com/attorneys/tomoko-inaba/column/wp-content/uploads/2016/05/051124DCAJ.pdf |ref={{SfnRef|井奈波朋子 (デジタルコンテンツ協会)|2006}}}} -- 著者はフランス知的財産法専門弁護士、[[国際著作権法学会]]および日仏法学会会員
* {{Cite journal|和書|title=フランスにおける情報社会指令の国内法化について |issue=月刊『コピライト』(公益社団法人著作権情報センター出版) 541号 26-27頁への投稿論文 |author=井奈波朋子 |publisher=龍村法律事務所 |year=2006 |format=PDF |url=http://www.tatsumura-law.com/attorneys/tomoko-inaba/column/wp-content/uploads/2014/09/06copyright541_DADVSI.pdf |ref={{SfnRef|井奈波朋子 (コピライト)|2006}}}} -- 国内法化が完了する4か月前時点のため、一部法案は可決時に修正となっている点に注意
* {{Cite journal|和書|title=インターネット上の著作権侵害対策ハンドブック─ 欧州編 ─ |url=http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/kaizokuban/handbook/pdf/internet_shingai_handbook.pdf |author=文化庁 |publisher=[[文化庁]] |year=2010 |format=PDF |ref=harv}} -- イギリス、フランス、ドイツ、スペインの4か国の著作権法を調査し、[[著作権法 (欧州連合)|EUの各種著作権指令]]と対比。欧州以外にアジア発展途上国のハンドブックも[http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/kaizokuban/index.html 文化庁ホームページで公開]
* {{Cite journal|和書|title=インターネット上の著作権侵害対策ハンドブック─ 欧州編 ─ |url=http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/kaizokuban/handbook/pdf/internet_shingai_handbook.pdf |author=文化庁 |publisher=[[文化庁]] |year=2010 |format=PDF |ref=harv}} -- イギリス、フランス、ドイツ、スペインの4か国の著作権法を調査し、[[著作権法 (欧州連合)|EUの各種著作権指令]]と対比。欧州以外にアジア発展途上国のハンドブックも[http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/kaizokuban/index.html 文化庁ホームページで公開]
* {{Cite book|和書|title=著作権の誕生 フランス著作権史 |edition=1998年出版からの改訂版 |series=出版人・知的所有権叢書01 |author=宮澤溥明 |publisher=太田出版 |year=2017 |isbn=978-4-7783-1570-2 |url=http://www.ohtabooks.com/publish/2017/04/21195243.html |ref=harv}} -- 著者は[[JASRAC]]にて国際部長、常勤監事など歴任
* {{Cite book|和書|title=著作権の誕生 フランス著作権史 |edition=1998年出版からの改訂版 |series=出版人・知的所有権叢書01 |author=宮澤溥明 |publisher=太田出版 |year=2017 |isbn=978-4-7783-1570-2 |url=http://www.ohtabooks.com/publish/2017/04/21195243.html |ref=harv}} -- 著者は[[JASRAC]]にて国際部長、常勤監事など歴任
* {{Cite book|title=International copyright: principles, law, and practice |trans_title=国際著作権法: 法理、実定法と実務 |edition=3 |last1=Goldstein |first1=Paul |last2=Hugenholtz |first2=P. Bernt |publisher=Oxford University Press |year=2013 |isbn=9780199794294 |language=en |url=https://global.oup.com/academic/product/international-copyright-9780199794294 |ref={{SfnRef|Goldstein & Hugenholtz|2013}}}}<!-- 2019年10月に第4版が出版される予定 -->
* {{Cite journal |title=National Studies on Assessing the Economic Contribution of the Copyright Industries {{!}} The Economic Contribution of Copyright Industries in France |trans_title=各国の著作権市場分析 {{!}} フランス編 |series=Creative Industries Series No. 9 |url=https://www.wipo.int/edocs/pubdocs/en/wipo_pub_1045.pdf#page=79 |last=Greffe |first=Xavier (Economics Centre, the Sorbonne University of Paris I) |year=2016 |publisher=[[WIPO]] |format=PDF |language=en |ref=harv}}
* {{Cite journal |title=National Studies on Assessing the Economic Contribution of the Copyright Industries {{!}} The Economic Contribution of Copyright Industries in France |trans_title=各国の著作権市場分析 {{!}} フランス編 |series=Creative Industries Series No. 9 |url=https://www.wipo.int/edocs/pubdocs/en/wipo_pub_1045.pdf#page=79 |last=Greffe |first=Xavier (Economics Centre, the Sorbonne University of Paris I) |year=2016 |publisher=[[WIPO]] |format=PDF |language=en |ref=harv}}
* {{Cite journal|title=Law and Technology {{!}} Fair Use in Europe |trans_title=法と科学技術 {{!}} 欧州におけるフェアユース |journal=Communications of the ACM |url=https://www.ivir.nl/publicaties/download/Communications_ACM.pdf |volume=56 |issue=5 |last=Hugenholtz |first=Bernt |publisher=[[アムステルダム大学]]情報法研究センター |year=2013 |format=PDF |doi=10.1145/2447976.2447985 |language=en |ref=harv}} -- 国際著作権法に通じた[[アムステルダム大学]]教授による執筆記事 ([[WIPO]]による[https://www.wipo.int/meetings/en/2011/wipo_cr_wk_ge_11/bios/hugenholtz.html 著者略歴紹介ページ])
* {{Cite journal|title=Law and Technology {{!}} Fair Use in Europe |trans_title=法と科学技術 {{!}} 欧州におけるフェアユース |journal=Communications of the ACM |url=https://www.ivir.nl/publicaties/download/Communications_ACM.pdf |volume=56 |issue=5 |last=Hugenholtz |first=Bernt |publisher=[[アムステルダム大学]]情報法研究センター |year=2013 |format=PDF |doi=10.1145/2447976.2447985 |language=en |ref=harv}} -- 国際著作権法に通じた[[アムステルダム大学]]教授による執筆記事 ([[WIPO]]による[https://www.wipo.int/meetings/en/2011/wipo_cr_wk_ge_11/bios/hugenholtz.html 著者略歴紹介ページ])
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* {{Cite journal|和書|url=https://mejiro.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=343&item_no=1&page_id=13&block_id=21 |author=石井大輔 |journal=目白大学総合科学研究 |issue=6 |publisher=目白大学 |title=フランスにおける音楽著作権保護と管理の史的展開 |year=2010 |accessdate=2019-07-27 |ref=harv}}
* {{Cite journal|和書|url=https://mejiro.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=343&item_no=1&page_id=13&block_id=21 |author=石井大輔 |journal=目白大学総合科学研究 |issue=6 |publisher=目白大学 |title=フランスにおける音楽著作権保護と管理の史的展開 |year=2010 |accessdate=2019-07-27 |ref=harv}}
* {{Cite book |和書 |author=岡本薫 |title=著作権の考え方 |publisher=岩波書店 |series=岩波新書 (新赤版) 869 |year=2003 |isbn=4-00-430869-0 |ref=harv}}
* {{Cite book |和書 |author=岡本薫 |title=著作権の考え方 |publisher=岩波書店 |series=岩波新書 (新赤版) 869 |year=2003 |isbn=4-00-430869-0 |ref=harv}}
* {{Cite journal |url=http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/kokusai/h24_02/pdf/siryou2.pdf |title=欧州の追及権制度 |author=小川明子 |publisher=文化庁 |series=文化審議会著作権分科会国際問題小委員会報告資料 |format=PDF |year=2012 |ref=harv}}
* {{Cite book|和書|title=なるほど図解 商標法のしくみ |author=奥田百子 |publisher=中央経済社 |edition=第3版 |year=2014 |isbn=978-4-502-12081-7 |ref=harv}}
* {{Cite book|和書|title=なるほど図解 商標法のしくみ |author=奥田百子 |publisher=中央経済社 |edition=第3版 |year=2014 |isbn=978-4-502-12081-7 |ref=harv}}
* {{Cite journal |url=http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/287276/www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/223/022307.pdf |title=EU指令の国内法化の遅れに苦慮するフランス |author=門彬 |publisher=国立国会図書館 |series=外国の立法 |issue=223(2005.2)|format=PDF |year=2005 |ref=harv}}
* {{Cite book|和書|title=国際知的財産法 |author=木棚照一 |publisher=日本評論社 |edition=第1版 |year=2009 |isbn=978-4-535-51678-6 |ref=harv}}
* {{Cite book|和書|title=国際知的財産法 |author=木棚照一 |publisher=日本評論社 |edition=第1版 |year=2009 |isbn=978-4-535-51678-6 |ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=庄司克宏 |authorlink=庄司克宏 |title=はじめてのEU法 |publisher=[[有斐閣]] |url=http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641048164 |date=2015-12 |isbn=978-4-641-04816-4 |ref=harv}}
* {{Cite journal |url=https://www.iip.or.jp/summary/pdf/detail06j/18_22.pdf |title=1830年代から1960年代にかけての国際著作権法整備の過程における著作権保護に関する国際的合意の形成とその変遷 |author=園田暁子 |publisher=一般財団法人[[知的財産研究教育財団]] 知的財産研究所 |series=知財研紀要 |format=PDF |year=2007 |ref=harv}}
* {{Cite journal |url=https://www.iip.or.jp/summary/pdf/detail06j/18_22.pdf |title=1830年代から1960年代にかけての国際著作権法整備の過程における著作権保護に関する国際的合意の形成とその変遷 |author=園田暁子 |publisher=一般財団法人[[知的財産研究教育財団]] 知的財産研究所 |series=知財研紀要 |format=PDF |year=2007 |ref=harv}}
* {{Cite book |和書 |title=著作権法概説 |author=田村善之 |authorlink=田村善之 |year=1998 |publisher=[[有斐閣]] |isbn=4-641-04473-2 |ref=harv}}
* {{Cite book |和書 |title=著作権法概説 |author=田村善之 |authorlink=田村善之 |year=1998 |publisher=[[有斐閣]] |isbn=4-641-04473-2 |ref=harv}}
* {{Cite book|和書|title=著作権法 |author=中山信弘 |authorlink=中山信弘 |publisher=有斐閣 |edition=第2版 |year=2014 |isbn=978-4-641-14469-9 |ref=harv}}
* {{Cite book|和書|title=著作権法 |author=中山信弘 |authorlink=中山信弘 |publisher=有斐閣 |edition=第2版 |year=2014 |isbn=978-4-641-14469-9 |ref=harv}}
* {{Cite report|author=三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 |authorlink=三菱UFJリサーチ&コンサルティング |title=著作権等の集中管理の在り方に係る諸外国基礎調査 報告書 |publisher=[[文化庁]] |url=http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/chosakuken/pdf/r1393032_08.pdf |date=2018-03-30 |format=PDF |ref={{SfnRef|三菱UFJリサーチ報告書|2018}}}}
* {{Cite book|和書|title=アメリカ著作権法の基礎知識 |edition=第2版 |author=山本隆司 |publisher=太田出版 |year=2008 |isbn=978-4-7783-1112-4 |url=http://www.ohtabooks.com/publish/2008/10/14201410.html |ref=harv}}
* {{Cite book|和書|title=アメリカ著作権法の基礎知識 |edition=第2版 |author=山本隆司 |publisher=太田出版 |year=2008 |isbn=978-4-7783-1112-4 |url=http://www.ohtabooks.com/publish/2008/10/14201410.html |ref=harv}}
* {{Cite book |first=Estelle |last=Derclaye |title=Research Handbook on the Future of EU Copyright |url=https://books.google.com/books?id=MIIOdtjZLCkC&pg=PA149 |year=2009 |publisher=Edward Elgar Publishing |isbn=978-1-84844-600-7 |ref=harv |language=en}}
* {{Cite book |first=Estelle |last=Derclaye |title=Research Handbook on the Future of EU Copyright |url=https://books.google.com/books?id=MIIOdtjZLCkC&pg=PA149 |year=2009 |publisher=Edward Elgar Publishing |isbn=978-1-84844-600-7 |ref=harv |language=en}}

2019年10月3日 (木) 13:45時点における版

著作権を管轄する文化省などが入るパレ・ロワイヤル (2010年)

フランスの著作権法 (フランスのちょさくけんほう、フランス語: Les droits d'auteur et les droits voisins du droit d'auteur en France[註 1]、意訳: 著作者および著作隣接権者に関する権利) は、文芸・音楽・美術・ソフトウェアといった著作物、およびその著作者著作隣接権者などを保護するフランス国内の法律である。その条文は知的財産法典フランス語版の第1部に収録されている[註 2]。本項では、他国との相違点や著作権法に関連した判例も取り上げながら、フランス著作権法の条文を解説していく。

文化・芸術大国のフランスが、他国の著作権法に与えた歴史的影響は極めて大きい[3]。たとえば、世界の先進国の著作権法は大陸法英米法に大きく二分されるが、大陸法諸国の中で著作権法を初めて制定した国がフランスである[註 3]。今日の著作権法の世界的基盤となっているベルヌ条約[註 4]の起草を、19世紀後半に提唱したのもフランスである[6]。美術著作物の追及権を保障したのも、フランスが初である[註 5]。また、フランスのSACEMフランス語版英語版は、音楽業界では最古の著作権管理団体である[9][10][註 6]

現代のフランスは欧州連合 (EU) の加盟国として、EUの各種著作権指令に基づき、社会の変化に合わせた著作権法の整備を他の加盟国と共に進めている。21世紀に入ってからインターネットを介した著作物の海賊版が急増したことから、EUでは2001年に情報社会指令を出している。これを受けてフランスでは、著作権の改正立法を成立させて著作権侵害の刑事罰を強化し[12][13][14]文化省傘下の監視組織であるHADOPIフランス語版を中心にインターネット上の取り締まりを行っている[15]

現行法

※本節における「現行」とは、特記のない限り2019年7月現在の知的財産法典 第1部 (文学的および美術的著作権) のフランス語原文に基づき記述している[註 7]

  • フランスにおける著作権の分類方法
    • 著作者本人の権利
      • 著作者人格権 (著作者の「心」を守る権利)[17]
        • 「公表権」-- 無断で著作物を公表されない権利 (L121条-2、L121条-3)[18]
        • 「氏名表示権」-- 著作物を公表する際に表示する名前を選べる権利。変名や無名 (匿名) を含む (L121条-1)[18]
        • 「尊重権」-- 無断で著作物の内容を改変されず (いわゆる同一性保持権)、かつ著作物が正しく伝達される権利
        • 「修正・撤回権」-- 公表済の著作物の修正を求めたり、市場から著作物の回収を求める権利 (L121条-4)[18]
      • 著作財産権 (著作者の「財布」を守る権利)[19]
        • 「複製権」-- 印刷・写真現像・鋳造・映画フィルム・その他デジタル媒体など、何らかの記録媒体に固定する権利。また、翻訳や編曲などの二次的著作物の創作も、フランスでは複製と見なされる (L122条-3)[20]
        • 「演奏・上演権」-- 朗読・生の演奏・展示・上映・テレビ放送・衛星配信・通信などの手段で公衆に伝える権利 (いわゆる公衆伝達権を含む) (L122条-2)[20]
        • 「追及権」-- 美術品が転売されるたびに売買価格の一定割合を著作者が受け取れる権利 (L122条-8)[20]
    • 著作隣接権者の権利[21]
      • 実演家の人格権 -- 著作者本人と同様、尊重権が認められる (L212条-1、L212条-2)[22]
      • 実演家の財産権 -- メディア企業に無断で複製・頒布されないよう、労働法典に基づく書面契約と正当な報酬支払が必要 (L212条-3)[22]
      • 実演家以外の財産権 -- レコード製作者、映画などの視聴覚著作物製作者、放送事業者 (すなわちメディア企業など) に複製権、頒布権、貸与権が認められる (L213条-1[23]、L215条-1[24]およびL216条-1[25])
    • スイ・ジェネリス権 (データベース権) -- データベース製作者に認められる権利で、著作権や著作隣接権に根拠を持たない特別な権利[註 8]

特徴まとめ

世界の法体系: フランスを含む水色が大陸法系、桃色が英米法系、緑色がイスラム法系、黄色が慣習法系の国。

一般的に大陸法系の国々は、著作者本人の権利を著作者人格権と著作財産権に分ける二元論を採用している[註 9]。その中でもフランスでは、著作者人格権を著作財産権に優先させている点が特徴的である[29]。知的財産法典は「精神の著作物の著作者」という条文表現から始まっており、著作者の人格を尊重するフランスの立法精神がうかがえる (L111条-1)[30][31]

またフランスでは、著作権は「所有権」であると考えられている[32]。フランスを含む大陸法の国々では、著作物とは著作者の人格を投映した成果物であることから、他の誰でもない著作者の所有物であり (人格理論)[31]、著作物の創作にかかる労力に見合った利益を享受する権利がある (労働理論) という考えに基づいている[註 10]

これらの考え方は、英米法諸国とは対極的である。たとえば英国のアン法を模倣して発展してきた米国著作権法は、あくまで産業・文化の振興という目的を達するため、その手段として著作権保護があると捉える「産業政策理論」や「功利主義」に立脚している[34][35][33]。その結果、著作権は英語ではCopyright (コピーする権利) と表現されるように、英米法における著作権は、著作者以外に無断で複製させず、著作者の財産を守る権利だと狭義に捉えられてきた[36]

著作者の人格を守ることを重視し、権利の範囲を広く捉えるフランスでは、著作物が著作者の元から離れた後でも人格は投映されたままであることから、著作権法で保護を与え続けている。著作者人格権を例にとると、著作者本人の死亡により消滅すると考える国もあるが[註 11]、フランスでは死後も永続するとされる (L121条-1-3)[18][37]。また、追及権を世界で初めて認めたのがフランスである。この追及権とは、絵画や彫刻などの美術品を創作した美術家が、その作品を売却したのちも、オークションなどで転売されるたびに売買価格の一定割合を得ることができる権利である[7]

著作者の人格が投映されていれば、その表現形態がいかなるものであれ、著作物として認められる。著作物というと、書籍や絵画、音楽、映像など視覚または聴覚を使って鑑賞する作品をイメージしやすいが、フランスではさらに嗅覚に訴える香水にまで著作権を認めた判例があるほどである[38]。また、美術作品については純粋美術のみ認め、実用品のデザインといった応用美術に対する著作権保護を否定する国もあるが[註 12]、フランスでは応用美術も保護対象としている[42]

職務著作についても、フランス著作権法は創作した個人を尊重する態度をとっている。一般的に職務著作とは、職務の一環で雇用主の命で創作された著作物は、創作した個人ではなく、雇用主に著作権が帰属するという考え方である[43]。しかしフランスでは、単に雇用契約や発注契約を締結していたからといって、自動的に雇用主や発注主である企業・団体に著作権が認められるわけではない[44]

著作財産権の観点では、一般的な著作権法で認められる「頒布権」および「消尽論」がフランス著作権法では認められてこなかったが[45]、21世紀に入ってインターネットを通じた海賊版が横行した結果、これらを明文化する法改正を行っている。頒布権とは、著作権者が独占的に著作物を社会に流通販売できる権利である。また消尽論とは、その著作物の購入者は中古売買 (再販) するなど自由に処分できる (すなわち著作権者の独占権は、購入者の行動にまでおよばずに消え尽きる) という考え方である[45]。この消尽論に則ると、たとえばデジタル楽曲の購入者は、インターネット上で楽曲ファイルをシェアすることができてしまう。しかし、2006年のDADVSIフランス語版英語版 (情報社会における著作権・著作隣接権法) と、2009年のHADOPI法[註 13]によって著作権法が改正され、頒布権が著作者に認められることで、このようなファイルシェアは頒布権を侵害していることになり、刑事罰の対象となった[15]

また、米国などで採用されているフェアユース (公正利用) の法理は、フランスを始めとする欧州各国では否定されている。米国のフェアユースは、著作物を第三者が無断で利用しても著作権侵害に当たらないとする抽象的な一般基準を条文で定めたもので、具体的にどこまでを合法とするかは、もっぱら司法判断に任されている。フランスではこのような一般基準ではなく、著作権法の条文上で個別具体的な基準を設けており、それ以外は原則禁止としている[46]。これは、功利主義的な米国では、著作物の利用がどこまで社会的・文化的に価値があるのかの線引きするのは著作者ではなく裁判所だと捉えるのに対し、フランスなど著作者の権利 (droits d'auteur) 意識が強い国では、あくまで他者による著作物の利用は「例外」でしかないためである[47]

権利の内訳

著作者人格権

フランス著作権法では、以下の諸権利が著作者人格権として認められている (L121条)[18][48]。著作物そのものが転売されたり、著作財産権を第三者に譲渡したとしても、著作者人格権は「一身専属性」の原則により、著作者本人を死後も永続的に守り続ける (L121条-1-2、L121条-1-3)[18]

公表権
公表権は判例で認められてきた保護内容を、1957年の法改正時に明文化している。公表権に関する代表的な判例として、1900年の破毀院 (フランスの最高裁判所) による「ウィスラー判決」や、1931年の「カモワン判決」(Camoin v. Carco) が知られている[48]。前者は、アメリカ合衆国出身でイギリスで主に活躍した画家ジェームズ・マクニール・ウィスラー (ホイッスラーとも綴る) が、完成した作品を契約主に対して引き渡し拒否した事例である。破毀院は、ウィスラーに対して損害賠償は命じたものの、著作権法上の公表権をウィスラーに認め、作品の引き渡し要求は棄却した[48]。また後者は、出来栄えに不満を持った画家シャルル・カモワンフランス語版英語版が切り刻んでゴミ箱に捨てた作品を、ゴミ漁り人がアート収集家に売却して復元されてしまい、11年後の1925年にフランシス・カルコフランス語版英語版が所有していることが判明した事件である。復元された作品は差し押さえられ、5000フランを損害賠償として原告カモワンに支払うよう命じられた[49]
なお、ベルヌ条約は第6条で著作者人格権を全般的に規定しているが、公表権については規定がないことから[註 14]、各国の著作権法で保護状況にバラつきがある。フランスでは単に無断で公表されない権利だけでなく、公表する手段についても著作者の意思が尊重され、手厚い保護がなされている。たとえば、書籍の出版契約上でハードカバーの装丁が規定されていたにも関わらず、出版者が著作者に無断でポケット文庫の装丁に変更して出版すると、フランスでは公表権侵害に当たる[37]
氏名表示権
つづいて氏名表示権とは、著作者が実名で公表している場合は、その作品に著作者名と肩書を表示しなければならない権利である。したがって、著作者名を削除する行為だけでなく、著作者以外の第三者の名前を表示する行為 (盗作を含む) も、氏名表示権の侵害に当たる。しかし、先述のとおりフランスでは応用美術の作品にも著作権を認めていることから、たとえば自動車のデザインにまで逐次デザイナーの氏名を表示するのは現実的ではない。このようなケースでは氏名の非表示が免責される判例も存在する[37]
また、変名や無名 (匿名) を選択することも氏名表示権の範疇である。いわゆるゴーストライターを起用して著作物を発表する場合は、ゴーストライター本人に著作者人格権が発生するため、一身専属性の原則に基づき、ゴーストライターの起用主に著作者人格権を譲渡することはできない。仮にこのような譲渡契約を結んだとしても、フランスでは契約自体が無効になる。ただし、ゴーストライターは本人の名前を表示しない意思であることから、ゴーストライターの起用主の名前を著作物に表示する行為そのものは、氏名表示権の侵害には当たらない[51]
尊重権
尊重権が問われた『ゴドーを待ちながら』の原作は男性主人公 (1978年アヴィニョン演劇祭より)
フランスの尊重権は、著作物の内容を他者に無断で削除、付加、改変されないよう守り、著作者の個性を尊重する権利であり、他国の著作権法で一般的な「同一性保持権」よりも保護範囲の広い概念である。尊重権に関する判例はフランスで多数存在する。たとえば、サミュエル・ベケット著『ゴドーを待ちながら』(1952年出版) は、ベケットが男性主人公を想定していたにも関わらず、演劇の演出家が女性に変更しようとしたことから、ベケットの死後に著作権相続人がこの演劇の差し止めを求めて提訴している。これに対し、パリ大審裁は1992年、尊重権侵害を認めている[52][註 15]。また、画家ベルナール・ビュッフェは冷蔵庫に絵を描いたが、その作品の購入者がビュッフェの意に反して冷蔵庫を解体して絵だけを切り売りしようとした事件では、破毀院が1965年にビュッフェの意思を尊重する判決を下している。同一性保持 (改変禁止) 以外でも、自動車大手ルノーが彫刻家デュビュッフェに作品を発注したにも関わらず、ルノーが完成を拒んだことから、彫刻家の作品を完成させる尊重権が侵害されたと、ベルサイユ控訴院は1981年に判示している。このように、フランスの尊重権は条文上だけでなく、実質的にも広く適用されている[52]
修正・撤回権
一方の修正・撤回権であるが、こちらについては著作者が権利行使すると出版者などに実損害が発生するため、権利行使の際には損害賠償が伴うことから、尊重権と比較して実際の権利行使は極めて限定的である[54]
著作者人格権の制限・例外
なお、一部の著作物ジャンルでは、これら著作者人格権の例外が存在する。映画などの視聴覚著作物の場合、プロデューサーや主たるディレクター、あるいは法定上の共同著作者が最終版を確定した場合、無断で改変や転写は不可とされる (L121条-5)[18]。したがって、製作実務者として参加していても、後述する「共同著作者」として認定されない者は、著作者人格権の修正・撤回権や尊重権を主張できない。また、視聴覚著作物の共同著作者が製作過程で途中離脱しても、完成版からその離脱者の寄与分を取り除いたり、公表を阻止することはできない (L121条-6)[18]
ソフトウェアに関しても、名誉棄損に該当しない限りにおいて、著作者は同一性保持権および修正・撤回権を行使できない (L121条-7、L122条-6-1)[18][20]。これは、感情を表現した芸術的な著作物とは異なり、実用的なソフトウェアの場合は、中身を修正・改変しても、著作者であるプログラマーが精神的に傷つく可能性が低いためである[55]

著作財産権

一般的な著作権法では、著作財産権の支分権を細かく用語定義する傾向にあるが、フランス著作権法ではシンプルに「複製権」(L122条-3)、「演奏・上演権」(L122条-2)、「追及権」の3つに分類している。このうち、複製権と演奏・上演権は「利用権」であると捉えられている (L122条-1)[20]。著作財産権における利用権とは、著作者以外が無断で利用できない権利、すなわち著作者のみに排他性を認める権利であり[56]、使用権とは異なる[註 16]。したがって、無断で第三者が著作物の複製や演奏・上演を行えば、著作権侵害に当たる。ただしこの利用権には、後述する著作権の保護期間が定められていることから、永久に利用権を独占することはできない[56]。また、著作者は第三者に有償または無償で利用権を譲渡することができる (L122条-7)[20]

著作財産権3つのうち、追及権だけは利用権とは定義されていない (L122条-1)。つまり、美術作品の著作者は、その作品を手放した後に作品の購入者がどのように利用するかを拘束することはできない。また、追及権は複製権や演奏・上演権とは異なり、譲渡不能と定義されている (L122条-8)[20]。EU指令によって、追及権はEU加盟国で広域に認められていることから、EU加盟国民が美術作品の著作者であった場合でも、追及権は適用される (L122条-8)。ここでの「美術作品」であるが、絵画や彫刻などの一点物だけでなく、リトグラフ、版画、写真のように複製可能な作品であっても、シリアルナンバーが付されているなど、著作者がオリジナルだと何らかの方法で認めている場合は、追及権の対象となる (EU追及権指令英語版 第2条第2項)[58]

一般的には著作財産権の一つとして「頒布権」を規定する国が多いが、フランスでは頒布権、およびこれとセットで議論される「消尽論」が否定されてきた。頒布権とは、著作者が著作物を販売するなどして、社会に流通させることができる独占的な権利である。消尽論とは、複製・頒布された著作物の購入者は、その著作物を自由に売却処分 (再販) できるとする考え方であり、換言すると著作者に認められた独占的な権利は、購入者のその先の使用行動にまではおよばず、消え尽きてしまう。たとえば、小説家は執筆した小説の著作権を有しているが、その小説が文庫本として出版されたら、その文庫本の購入者は小説家に無断で古本屋に売却しても、著作権侵害にはならない[45]

ところがフランスでは、この消尽論を認めておらず、代わりにフランスでは「用途指定権」(: le droit de destination) の考え方を判例上で用いてきた。用途指定権とは、複製された著作物の購入者が再販するのを禁じる、あるいは事前許諾を求める権利である[45][59]。しかし、デジタル著作物への対応強化を目的とするWIPO著作権条約に基づき、2001年に施行されたEU指令の一つである「情報社会指令」で、頒布権を規定している (第4条第1項)[60]。フランスもこのEU指令に対応すべく、2006年に通称「DADVSIフランス語版英語版」(フランス語: Loi sur le Droit d'Auteur et les Droits Voisins dans la Société de l'Information、情報社会における著作権・著作隣接権法、法令番号: 2006-961)[12] を、2009年には通称「HADOPI 1法フランス語版」(法令番号: 2009-669)[14][13]と「HADOPI 2法フランス語版」(法令番号: 2009-1311)[14]を成立させ、特にインターネットを介した頒布権に関し、フランス著作権法の条文上で明文化するようになった (詳細は#情報社会指令と国内法化の遅延で後述)。

また、従来の複製権を拡大する形で、「複写複製権」が導入されている (L122条-10以降)[20]。ここでの複写とはコピー機を想定しており、RAMへの書き込み・保存は対象外である。複写複製権は、国が認可した著作権管理団体 (集中管理機関) に著作権者から譲渡される[61]

著作隣接権

著作隣接権とは、著作物を社会に伝達する者の権利である。具体的に著作隣接権者とは、歌手・俳優・朗読者といった実演家や (L212条-1)[22]、レコード製作者 (L213条-1)[23]、映画など視聴覚著作物の製作者 (L215条-1)[24]、および放送事業者 (L216条-1)[25]の計4者が著作権法上で定義されている。フランスでは歴史的に、著作者本人よりも著作隣接権者に特権を与える形で発達してきた (#歴史節で後述)。しかし現代の著作権法では、著作隣接権が著作者本人の権利を害してはならないと明記されており (L211条-1)[62]、保護の優先度が逆転している。

実演家には著作者本人と同様、尊重権が認められており、相続は可能だが、譲渡は不可能であり、時効はない (L212条-2)[22]。また、財産権としては、複製権や頒布権が実演家にも認められており、たとえばレコード製作者が歌手や演奏者に無断で音楽CDなどを販売できないことから、書面での契約を必要とする (L212条-3)[22]。同様に、映画製作者が俳優に無断で映画の配給やDVD販売を行うことはできず、やはり書面契約が必要となる (L212条-4)[22]。これらは、実演家の報酬を保護する労働法典フランス語版第762-1条および第762-2条の規定とも密接に関連している[63][64]

実演家や映画製作者への報酬支払については、著作権管理団体が徴収・分配業務を代行すると規定されている (L214条-5)[65]。具体的には、対実演家の窓口としてADAMIフランス語版SPEDIDAMフランス語版の2団体が、また対映画製作者の窓口としてはSCPPフランス語版SPPFフランス語版の2団体がフランスには存在する[21]。これらの規定は、1961年採択・1964年発効のローマ条約 (実演家等保護条約) に準拠している[21]

一方、レコード製作者、視聴覚著作物の製作者、および放送事業者の3者には、財産権として複製権や頒布権以外に貸与権 (第三者が無断で作品をレンタル貸出できない権利) が認められている (L213条-1[23]、L215条-1[24]およびL216条-1[25])。

著作物の定義と保護対象

著作物のジャンル

ロワール=アトランティック県の村にある壁画広告。都市アートは著作権保護されるのか?

14ジャンルの著作物が著作権法上で定義されている (L112条-2)[66]。ただしこれら14ジャンルに限定されない[2]

  1. 言語著作物 -- 書籍、小冊子その他の文芸、芸術及び学術の文書
  2. 口述著作物 -- 講演、演説、説教、口頭弁論など
  3. 演劇著作物 -- 演劇やミュージカル作品
  4. 舞踊・パフォーマンス著作物 -- 舞踊、サーカスの出し物、芸当、無言劇作品 (ただし演出が文書その他の方法で固定されている必要あり)
  5. 音楽著作物 -- 楽曲およびその歌詞
  6. 視聴覚著作物 -- 映画やテレビ番組などの動画 (楽曲などの音声を伴う場合も含むが、ゲームは含まれない[67])
  7. 純粋美術・建築著作物 -- スケッチ、絵画、建築、彫刻、版画、石版画など
  8. 図形・組版著作物 -- グラフィック・デザイン、プリント・デザイン
  9. 写真著作物 -- 写真に類似の技術を用いた著作物を含む
  10. 応用美術著作物 -- 著作者の人格を反映し、かつ新規性があれば著作権法で保護される[註 17]
  11. イラスト著作物 -- イラスト、地図など
  12. 図面等著作物 -- 地理学、地形学、建築学および科学に関する設計書、スケッチ、立体造形作品
  13. ソフトウェア -- 開発計画段階の資料を含む
  14. ファッション -- 流行に左右される季節産業の創作物 (婦人服、下着、刺繍、帽子、靴、革製品など)

著作物の保護要件

デュシャン作『』は小便器に署名しただけの作品。コンセプチュアル・アートに著作権保護は発生しない場合がある。

著作権はジャンル、表現形式、価値または用途を問わず、あらゆる精神的な著作物を保護すると規定されている (L112条-1)[66]。また著作物が未公表や未完成であったとしても、著作者の構想の実現という事実だけをもって、著作物は創作されたと見なされる (L111条-2)[30]。さらに、著作物を当局に登録する、あるいは著作権マーク「©」 (マルC、Copyrightの意) や「℗」(マルP、レコードのPhonogramの意) などを表示するといった手続も任意であり、これらを怠ったとしても著作権保護される[2]。つまり、著作者による知的な創作活動によって (創作性)、何らかの表現がなされていること (表現性) が、著作権保護の要件として挙げられる[68]

したがって、単なるアイディアや発見は創作性や表現性の要件を満たさないため、著作権の保護外となる[2] (これを一般的な著作権法上では「アイディア・表現二分論」と呼ぶ)。ただし、どこまでがアイディアでどこからがアイディアの表現なのか、境界線が曖昧な創作物も存在する。たとえば、フランス人芸術家マルセル・デュシャンの『L.H.O.O.Q.』は、名画『モナリザ』に鉛筆で髭を付け加えた作品である。また、男性用の小便器に署名だけを施した『』という作品もある。髭や署名を付け加えること自体はアイディアに過ぎないが、このような現代美術のコンセプチュアル・アートに著作性が認められるのか、フランス国内外で議論がなされている[69][68]

また、法律の条文や裁判所の判決文など、公的機関の作成した著作物は、著作権保護の対象外となるほか[2]、所有者の許可なく行われる壁への落書きアートなど、不法行為によって創作された著作物は著作権保護の対象外となる。

コンピュータ・プログラムの著作物性については、1986年破毀院の「パショ事件」(英: Pachot case) などがある。フランスでは伝統的に、著作者の精神性が反映された作品を著作物として認めていたが、パショ事件では「知的な操作であり、個人にゆだねられた創作活動」だとして、コンピュータ・プログラムにも著作物性を認めた画期的な判決として知られている[70]

著作物が著作者の人格を投映しており、創作性が認められれば、その著作物の題名も著作権保護が与えられる(L112条-4)[66]。しかし、その題名が汎用的で一般的な用語の場合、判例では著作権保護の対象外と判示されており、題名における創作性の具体的な線引きは司法判断に任されている[27]。また、題名は商標登録できる場合があり、このようなケースでは商標権と著作権で二重保護される[27][註 18]

保護される権利者

フランスの著作権法では「精神の著作物の著作者」と謳われていることから (L111条-1)[30]、原則は個人 (自然人) のみ著作者として認められる (L113条-1)[72]。しかし、1993年の判例でこの原則が覆され、法人も著作者として認める判決が出ている。著作者は以下に分類される[73]

  • 原始的帰属 (原則ルール) -- 著作物を創作した個人が著作権を有する (L113条-1)[72]
  • 職務著作 -- 著作物の創作を指示した雇用主あるいは発注主が著作権を有するには、個別の譲渡契約が必要となる (L111条-3、L131条-3)[30][74]
  • 共同著作物 -- 複数の著作者によって創作された場合、共同著作者が権利を共有する (L113条-2、L113条-3)[72]
  • 集合著作物 -- 複数の著作者によって創作された個々の著作物をまとめ直した場合、集合著作物の創作を発意した者が著作権を有する (L113条-2、L113条-3)[72]
  • 二次的著作物 -- 原著作物を活用して、翻訳・編曲などの手段で新たな著作物が創作された場合、原著作物と二次的著作物は別々の著作権が発生する (L113条-2、L113条-3)[72]

職務著作をどのような条件下で認めるか、各国の著作権法で異なっており、フランスの場合は雇用契約に基づいて著作物を創作しただけでは、その著作権は雇用主が有することはできない。したがって、雇用契約とは別に、従業員から雇用主に著作財産権を譲渡する契約を締結しなければならない[73]。職務著作を巡っては、医療現場で用いられる頭蓋計測分析英語版のソフトウェア裁判などがある。このソフトウェア企業はコンピュータ・エンジニアと医学者の2名で設立されたが、のちに医学者がこの会社の支配権を増したことから、開発されたソフトウェアの著作権が個人ではなく、会社に帰属するとして提訴した裁判である。2015年1月、破毀院は原告である医学者の主張を棄却して、ソフトウェアの職務著作を認めなかった[75]

共同著作物については、特に映画などの視聴覚著作物に関し、個別規定が存在する(L113条-7)[72]。多くの関係者が映画製作に携わるのが一般的であることから、誰を共同著作者として認め、著作権を与えるかの線引きが必要になる。条文上では、シナリオの著作者 (例えば映画化の原作小説を執筆した小説家)、翻案および台詞の著作者 (原作を元にした脚本の執筆者など)、楽曲の作詞・作曲家 (その映画用に創作された楽曲に限る)、監督・ディレクターが具体的に例示されている。ただし、これら以外でも共同参画を立証できれば、共同著作者として法的に認められる場合がある[76]。映画の場合、著作財産権だけでなく、著作者人格権も重要な要素となる。先述のとおり、映画の共同著作者以外の者が、完成版を無断で改変したり、また途中で製作を離脱した者が、自分の寄与分を除去するよう求めることができない (L121条-5、L121条-6)[18]

集合著作物も共同著作物と同様、複数名によって創作されるが、その定義は曖昧である。集合著作物と、その素材となる各著作物との間に上下関係があり、集合著作物の創作をある特定の者が指示した場合には、共同著作物ではなく集合著作物だとされる。この指示者には法人も含まれることから、集合著作物の場合は原則として職務著作が認められていると考えられる[77]

権利の所在が不明な著作物 (いわゆる孤児著作物) が公表される際には、DRフランス語版 (フランス語: droits réservés、権利留保の意) の文字が表記される。孤児著作物とは、著作権者が誰なのか不明なだけであり、著作権を放棄したわけではない。しかし、2012年10月に孤児著作物に関するEU指令英語版が成立し、一定条件を満たせば孤児著作物の著作者から許諾を得ずとも、第三者が著作物を利用できるようになった。欧州連合知的財産庁 (EUIPO) が孤児著作物の検索データベースを一般公開している[78]

著作権の保護期間

著作者の平均余命に基づく著作権保護期間の歴史的変遷
著作権の保護期間: 2018年創作著作物の場合

先述のとおり、著作人格権は著作者の没後も権利保護が永続し、時効はない (L121条-1-2、L121条-1-3)[18]。一方、著作者本人の著作財産権、および著作隣接権には、以下のとおり一定の保護期間が設定されている。換言すると、この保護期間を過ぎた著作物はパブリック・ドメイン (公有) に帰し、著作者人格権を侵害しない限りにおいて、第三者が自由に利用することができる。

著作者本人の著作財産権の保護期間

1997年3月27日制定の改正法以前は、著作権の保護期間は著作者の存命中、および没後50年間が著作者の相続人に対して認められていたが、これが当改正により70年間に延伸した (L123条-1)[79][80]。「70年間」の計算法であるが、没した当年は含まれず、没した翌年1月1日から起算する[79]

例外 (1) 戦時加算
第二次世界大戦で国家のために命を落とした著作者に対しては、通常の保護70年間に加えて戦時加算の30年間が適用されることから、著作権の保護期間は計100年間となる。ただし、著作物が戦争勃発前に公表されている場合は、1997年法改正以前に認められていた50年間 + 14年272日間 (すなわち計64年272日間) に保護期間は短縮される (L123条-8、L123条-9)[79]
例外 (2) 変名・無名・集合著作物・共同著作物・未公表の遺作など
変名、あるいは無名 (匿名) 著作物で実際の著作者が一般には判明しない場合、または集合著作物の場合は、原則は発表から70年間が著作権の保護期間として認められている (L123条-3)[79]
共同著作物も通常の没後70年間が適用されるが、共同著作者で最も長く存命した者の没日を起点として算出する。映画やテレビ番組といった視聴覚著作物は、多くの共同著作者によって制作されるのが常であるが、視聴覚著作物における「共同著作者」の定義は法的に限定されている。シナリオおよびセリフの脚本家、視聴覚著作物用に創作された楽曲の作詞・作曲家、ないし主なプロデューサーやディレクターのみが共同著作者として規定されている (L123条-2)[79]
没後に公表された遺作の場合、没年翌年から70年間を基本とするが、延伸が認められるケースもある (L123条-4)[79]。遺作が70年間公表されずに保護期間が消滅した後に公表された場合は、公表日の翌年1月1日から起算して25年間に保護期間が延伸する (L123条-4)[79]。たとえば著作者が1980年7月1日に没したと仮定して、その遺作が2000年に公表されようが2020年に公表されようが、保護期間は2050年12月31日までである。しかし同遺作が70年保護期間満了後の2060年3月1日に公表された場合は、2085年12月31日までの25年間が保護される。
著作隣接権者の著作財産権の保護期間

実演家の権利は、実演の翌年1月1日を起点にして、原則60年間を保護期間としている (L211条-4-I)[註 19]。レコード製作者の権利は、音の媒体固定から50年間を原則とする (L211条-4-II)[註 20]。映像製作者の権利は、映像の媒体固定から60年間を原則とする (L211条-4-III)[62]。放送事業者など視聴覚著作物の伝達者の権利は、伝達から50年間を原則とする (L211条-4-IV)[62]

著作物の合法的な利用

仮に著作権の保護期間中であっても、公表済の著作物を著作権者に無断で利用しても、以下の条件を満たす場合は著作権侵害に当たらない (L122条-5)[20]

  1. 私的な実演 -- 私的な空間内で、私用かつ非営利で行われる実演
  2. 私的な複製 -- 私的用途に限定され、かつ集団に配布・展示するなどを意図しない場合に限る
  3. 利用に際して著作者の氏名および出所を明示する必要がある場合:
    1. 要約・短い引用 -- 著作物の批評、論評、教育、学術、報道を目的とした場合に限る
    2. プレスレビュー
    3. 演説の報道 -- 立法・行政・司法機関の各種会議や学会、政治的儀式といった公共性の高い場における演説内容を、報道機関やテレビ放送がニュースとして報道する行為 (報道する発言が全量であっても構わない)
    4. オークション -- グラフィックアートや造形美術作品の全部または一部複製し、公的競売に用いられるカタログに収録して、競売前に公衆に頒布する行為
    5. 教育・研究 -- 教育・研究目的の例示のために行う、著作物の複製や演奏・上演。ただし教育現場であっても娯楽活動の目的は不可。想定対象者は学生、教員および研究者など教育・研究活動に直接関与する主体に限る。また、演奏・上演や複製によって収益が発生してはならない。第三者による著作物の利用に際し、複製権の譲渡に不利益を生じることなく、また利用料が著作者に支払われなければならない。ただしこの支払条件は教育目的の著作物、言語著作物のデジタル版、ないし楽譜には適用されない
  4. パロディ等 -- 著作物を活用したパロディ、作風の模倣風刺人物画の創作 (ただし当該分野の慣習に基づく)
  5. データベース -- 契約に基づき、データベースの中身にアクセスが必要な場合
  6. 技術プロセス -- 技術的な目的で、一時的に著作物の複製が必要な場合 (インターネット・ブラウザのキャッシュなど[81])
  7. 障害者福祉 -- 一定の条件に基づく、図書館、公文書館、資料館、マルチメディア文化施設などによる著作物の複製ないし演奏・上演
  8. 保存・閲覧 -- 美術館や公文書館が著作物の保存、あるいは私的な調査・研究のため施設内での閲覧または専用端末での閲覧目的であり、その行為に営利性が認められない限りにおいて行われる複製
  9. 直接報道 -- グラフィックアート、造形美術ないし建築作品の一部または全部を使った文書化・映像化・デジタル化による報道 (ただし利用量・質や目的妥当性が考慮される)
フェアユース導入論

フランスを含む欧州各国では、米国著作権法のようなフェアユースの法理による、一般的な著作権制限の条項に対して否定的な立場をとっている。したがって、フランスでは上述のとおり、著作権者の権利を制限し、利用者の自由な著作物の利用を認める条件を個別具体的に列記している[82]。この方針は、2001年のEU情報社会指令に起因する。情報社会指令では、制限条項を21条件に限定しているだけでなく、EU加盟国の国内法でこの21条件以外を追加規定することを禁じている[83]。さらに2019年に成立したDSM著作権指令によって、制限条項を3条件追加した[84]

フェアユースの法理を採用するかは、法的な安定性と柔軟性のどちらを重視するかに依存する。フランスのように限定列挙すれば、著作権者にとっては著作財産権の価値が高まると同時に、著作物の創作のための投資と回収の見通しが立ちやすくなる。一方で米国のように一般的な基準を設け、個別判断は裁判所に任せることで、著作物の内容や流通経路といった社会的・技術的な変化にも対応しやすくなるメリットが考えられる[85]。実際、フェアユースを導入している米国よりも、導入していない欧州の方が、インターネットを通じた著作権侵害の件数が多いとの指摘がなされている (2013年時点での比較)[82]

たとえば、Googleサジェスト機能 (オートコンプリート機能) が著作権法上の複製権侵害に該当するかについて、欧州各国の司法判断は分かれている[86]。楽曲を例にとると、一般ユーザがGoogle検索で「共有サイト、大量アップロード、高速シェア」などとキーワード入力すると、違法なデジタル楽曲シェアサイトが検索ヒットすることから、Googleが著作権侵害サイトにユーザを誘導してしまうおそれがある。これに対し、フランスではパリ大審裁がGoogle有利の判決を2011年5月に出している。これは、サジェストされた検索結果が必ずしも違法サイトに限らないとの理由からである[87]

著作権侵害と救済

権利侵害された者は、民事あるいは刑事手続によって救済される。民事訴訟の場合、侵害行為を「認識」してから5年以内の出訴が認められている、また刑事手続の場合は、侵害行為が「発生」してから6年以内とされている[2]

著作権侵害とは具体的に、著作物の演奏・上演、複製、翻訳、翻案、変形、編曲などが挙げられている (L122条-4)[20]。刑事事件の場合、文書・楽曲・スケッチ・絵画などを印刷出版すると、偽造の罪に問われ、3年以下の禁固または30万ユーロ以下の罰金が科される (L335条-2)[88]。また、著作隣接権者に無断で実演、複製、公衆伝達、利用の提供を行うと、同様に3年以下の禁固または30万ユーロ以下の罰金となる (L335条-4)[88]。ただし著作権侵害者が組織犯罪の場合は、それぞれ7年以下の禁固または75万ユーロ以下の罰金に上限が引き上げられる。さらに再犯の場合、初版の刑罰の上限が2倍に引き上げられる[2]。これらの罰則は、2006年のDADVSIを受けて追加された条項である[89]

禁固や罰金以外にも、偽造品の差押や破棄、侵害行為の差止、企業活動の停止、インターネットへのアクセスなど著作権侵害の手段利用を最大1年間禁止といった刑事上の措置も取られる。海賊版などの輸出入が発見された場合は、税関がその物品を差し押さえる権利を有している[2]

このような著作権侵害を行った者に対して、その手段であるインターネット・サービスを提供したISPなどに対しては、原則として著作権侵害の免責規定が適用される。ただし、著作権者からの通報を無視して、不法コンテンツを掲載し続けた場合には、その責が問われる (2004年制定・デジタル経済法フランス語版 (通称: LCEN、法令番号: 2004-575)[90] 第6条 I.1)。

民事訴訟の場合、提訴できるのは著作権者 (著作者本人だけでなく、著作財産権を譲渡・相続した者を含む)、あるいは著作権者に代わって利用料を徴収する著作権管理団体のみである。独占ライセンスあるいは非独占ライセンス先は提訴できないものの、著作権侵害が認められた場合、損害賠償の受取人になることができる。2015年4月より、事前に著作権者が侵害者に対して警告を発したり、和解などを試みることが、民事訴訟の事前要件として定められた。ただしその後の判例により、これらの友好的な事前対応を怠った場合でも、著作権侵害の訴訟を認めるケースが存在している[2]

違法ダウンロードに対するインターネット・アクセス制限を目的とした2009年制定のHADOPI法[註 13]に基づき、インターネットを介した著作権侵害に対し、文化省に属する組織であるHADOPIフランス語版が監視の目を光らせている。HADOPIが著作権侵害を認識すると、被疑者に対して警告・改善通知を発信できるようになった。ただしHADOPIは行政機関であることから、司法機関である裁判所のように、侵害行為の差止命令を出すことはできない。いわゆる「三振法」をHADOPIは採用しており、三度の警告後、著作権侵害を検察に通達し、刑事手続に進む流れとなっている[2]

著作権は著作者および著作隣接権者に独占的な権利を与えるものであるから、原則として欧州連合競争法 (特に欧州連合の機能に関する条約 第101条および第102条) の適用対象外となる。ただし、著作権を預かる著作権管理団体が、その地位を濫用して市場に大きな影響をおよぼしている場合には、不正競争行為の取り締まり対象となる[2]

著作権法の成立と改正の歴史

ここからは、フランス著作権法がどのような歴史的変遷を経て現行法に至ったのか、時代背景とともに解説していく。フランスの法制史は一般的に、フランス革命以前を指す「古法時代」、1789年に勃発したフランス革命から1804年制定のナポレオン法典 (民法典) までの「中間法時代」、民法典以降の「近代法時代」に三分類される[91]

古法時代

フランスにおいて、著作権の概念の前身とも呼べる「特権許可状フランス語版」を国王が初めて発行したのは、ルイ12世治世下の1500年頃である[註 21][註 22][註 23]。この特権許可状は劇場運営者、文芸業界団体の側面もある王立アカデミー (例: アカデミー・フランセーズ)、大学、印刷業者[95]、書籍商、コメディアン (俳優)[96] といった著作隣接権者に対して与えられるものであった。したがって当初の特権許可状は、著作者本人の保護を目的としたものではなく[註 24]、むしろ著作者を搾取する側面があった[95]。その後、徐々に特権許可状の発行対象が広がっていき、1777年の王令によって、言語著作物の著作者とその相続人に対し、永久著作権 (無期限の著作権) が認められることとなった[96][91][94]。以下、著作物のジャンル別に古法時代を見ていく。

書籍
木版画家Jost Amman英語版作、1568年当時の印刷技術。

フランスでは13世紀に入ると、識字率の向上にともなって、手書きの写本の需要が高まった。13世紀前半にはパリ大学が公的な存在となり、大学が書物の修正、監督、価格決定の役割を担うようになっている[註 25]。一方で当時の著作者たちは、著作物の販売だけでは生計を立てられなかったことから、もっぱら王家や貴族などパトロンの庇護を受けていた[97]

1445年頃のグーテンベルグによる活版印刷術の発明により、1500年にはパリ市内の印刷業者は50軒以上に達し、当時のパリは欧州で2番目に印刷業が盛んな都市であった[註 26]。この印刷業者の急増に加え、海賊版印刷が横行した結果、特権がなければ出版業界が経営上成り立たなくなってしまったことが、1500年頃に初めて特権許可状がフランスで発行された背景にある[98]。しかしまだ、著作者本人には特権許可状は与えられていない。当時の印刷出版の対象はギリシャやローマの著作物、あるいは聖書が主体だったため、新作を執筆する著作者を権利保護する必要性がなかったからである[99]

著作者本人に特権許可状が徐々に与えられるようになったのは、17世紀に入ってからである[99]。書籍商の中でもパリが特権許可状を独占していたことから、都市と地方の書籍商との間で対立が起きた[91][100]。その結果、著作者たちは地方の書籍商から擁護されるようになる[100]。したがって、著作者本人の権利保護は著作者自らが求めたものではなく、都市と地方の書籍商の抗争の副産物とも言える[101]。この抗争を解決すべく、ルイ16世治世下の1777年8月30日に「特権許可状に関する裁定」が出され[91][94]、初めて著作者本人の文学的所有権が認められ、書籍商と著作者の権利を分けて捉えられるようになった[102]。また、この裁定 (王令) は、書籍商の永久著作権を10年間に短縮する一方で、著作者とその相続人に永久著作権を認めている[102][91][註 27]

戯曲
ボーマルシェ作『セビリアの理髪師』のシーン

フランスでは、アンリ4世 (在位: 1589年 - 1610年) による国家統治の結果、観劇を楽しむ余裕と社会秩序を回復したことから、17世紀にはフランスで劇場文化が興隆する[104]。当時は有名な劇作家であっても、戯曲の台本を俳優に売却する1回限りの取引が主流であったが[104]、17世紀中頃には、現代で言うところの「ロイヤルティー」に該当する「台本使用料」の考え方を取り入れているケースもあった[註 28]。1757年になるとようやく、王立劇団であるコメディ・フランセーズと著作者との間で、台本使用料の名目で劇場「利益」の一定割合が著作者にシェアされる協定が結ばれるようになった[註 29]

しかし実態は、著作者 (つまり劇作家や伴奏の作曲者) の弱い立場が続いていた。コメディ・フランセーズと著作者間の対立が激化したことから[註 30]、1777年には演劇法立法促進事務局 (フランス語: Bureau de législation dramatique) が設立された[107]。当組織は世界初の著作権集中管理団体と言われており[108]、著作者の待遇改善をコメディ・フランセーズに求め、最終的には権利保護の立法を目指すことを目的とし、終身会長には『セビリアの理髪師』などで有名なボーマルシェが就任している[註 31]。なお、この組織は後の劇作家作曲家協会 (SACD)英語版フランス語版として継承されることになる[107]。1780年には、凡庸とも言われるルイ16世 (在位: 1774年 - 1792年) への直接陳情が行われ、国王顧問会議がコメディ・フランセーズへの新たな規制を公布したが、むしろ改悪だと批判された[110]

音楽

音楽に関しても同様で、著作者である作詞・作曲家に対してではなく、楽譜を出版する印刷業者や書籍商に対して特権許可状が与えられていた[111][112]。初の音楽特権許可状は、イタリアのベネチアで聖歌集を対象に発行されており、フランスでは1551年にアンリ2世リュート演奏者のギヨーム・モルレ英語版フランス語版に与えている[112]。しかしモルレ自身は出版できず、楽譜の特権許可状を持つ書籍商に権利放棄せざるをえなかった[112]。作曲者自らが楽譜を出版・販売できる特権許可状が発行されるようになったのは、1723年のことである[113]

その後、大規模な印刷装置が必要だった活版印刷ではなく、美術業界で使用されていた彫版印刷が楽譜に用いられるようになった。彫版印刷によって、特権許可状も設備投資の余力も有しない中小業者にも楽譜の印刷が可能となったことから、18世紀に入ると楽譜印刷の海賊版が出回るようになり、特権許可状の効力が弱まることになった。そこで、楽譜の著作者本人を法的に保護し、版権を著作者から出版業者に譲渡させることで、出版業者を間接的に保護するスキームへの転換が必要認識されるようになった[111]

美術

絵画、版画、彫刻などの美術品については、(楽譜を含む) 言語著作物とは歴史が異なる。美術作品にも著作権が認められるようになったのはフランス革命以降であり、古法時代には著作権が成立していない[114]

14世紀から16世紀にイタリアのルネサンスがフランスにも流入し、フランス美術業界が質・量ともに向上した。画家や版画家、彫刻家は王室や貴族などのパトロンから直接の庇護を受ける者と、それ以外は業界ごとに設立された組合に属せざるをえない者に二分された。前者は「特権享受者」と呼ばれていたものの、後者の組合は1623年に初めて団体として特権享受者として認められるようになる。しかし、アンリ3世 (在位: - 1589年) の頃には、才能のない芸術家を組合から除名するよう命じたり、フランス王朝の最盛期を築いたルイ14世 (在位: - 1715年) の頃には、組合における特権享受者の削減を要求している。フロンドの乱 (1648年 - 1653年) の最中、組合はアカデミー・ロワヤル (フランス語: Académie Royale de Peinture et de Sculpture) とアカデミー・ド・サンリュック英語版 (フランス語: Académie de Saint-Luc) に二分され、対立と和解を繰り返すようになる。1654年にアカデミー・ロワヤルがデッサン教育の特権許可状を取得し、プロの芸術家のみを会員に限定することとなったが、アカデミー・ド・サンリュックはアマチュア芸術家、住宅の装飾家、配管工にも会員資格の門戸を広げていた。1777年にはアカデミー・ド・サンリュックが職人組合として認定される宣言が出された[114]

中間法時代

国王の権威を否定するフランス革命が1789年に勃発し、同年8月4日の憲法制定会議によって、特権許可状の制度も廃止されていくこととなる[115]。1791年1月13日 - 19日法、および1793年7月19日 - 24日法の2本の法律制定により、現代の著作権法の原点となる制度が開始された[116][117]。当時、本格的な著作権法としてはイギリスで制定された1710年のアン法が存在したが[118]、フランスはこれに次ぐ、世界2番目の著作権制度整備国となった[6]。1791年法は演劇著作物に限った上演権・演奏権を、1793年法は著作物の範囲を広げた上で出版権・複製権を、それぞれ著作者に認めるものであった[116]。しかし1777年の王令によって書籍に永久著作権が認められていたにも関わらず、1791年法と1793年法によって、権利保護期間はそれぞれ著作者の没後5年および10年にそれぞれ短縮されている[119]。この2本の法律は、1957年3月11日法まで160年以上もの間、抜本的改正なしで運用され続けた[120][91][116]

1791年1月13日 - 19日法
3か条から構成されている。劇場を通じた表現の自由、および劇場著作物の権利保護を保障する内容であった。フランス革命以前は国王からの特許付与なしでは劇場は開設できず、また上演される題目も劇場ごとに指定されていた。これが1791年法により、政府当局に申請すれば誰でも劇場は開設できるようになり、上演の題目も自由に選べるようになった (第1条)。劇場で上演するには、その著作物の著作権者から正式な文章で許諾をとる必要があり、違反した場合は上演の収益すべてが著作権者に損害賠償された (第3条)。著作者の没後5年で劇場著作物はパブリック・ドメイン (公有) に帰し、劇場で無差別に上演できると定められた (第2条)[121]
当法律の制定された同年、著作者に代わって使用料を徴収する委託管理事務所 (現代の著作権管理団体) が劇作家のフラムリによって開設されたほか[122]、1798年にはフィエット・ロロがフラムリの事務所から独立しており、徴収手数料として2%を課金していた[123]
1793年7月19日 - 24日法
7か条から構成されている。著作物の保護対象として、あらゆる文章、作曲、絵画および図案に拡大規定された[註 32]。また販売による頒布権 (出版権) が「排他的権利」であると謳われ、所有権は一部または全部を譲渡可能とも規定された (第1条)。海賊版を偽造した者は、出版物3000部相当の価値を著作権者に賠償し、また海賊版を流通させた小売業者は、500部相当の賠償が義務付けられた (第4・第5条)。著作者は告訴の前提として、国立図書館あるいは国立図書館版画室に複製2部を納本し、登録する必要があった (第6条)。著作権保護期間は、著作者の没後10年であり、本人および相続人・譲受人が権利を有する (第2・第7条)[124]
ナポレオン帝政期

1791年法により自由が保障された劇場であるが、1800年にナポレオン・ボナパルト (ナポレオン1世) と各県知事たちは、劇場の組織見直しと取り締まり強化に転じている。その結果、県知事のもとには著作者から多くの陳情書が届き、また法務大臣が各地の訴追官、判事などに著作物の剽窃や所有権の偽造を取り締まるよう、多数の通達を出している[125]。さらに1806年6月8日法によって、ナポレオンは再び劇場を特権許可状制度に戻し、上演の題目も制限し、検閲制度も復活させている。これによって閉鎖された劇場もあった。ただし、著作者と劇場の自由契約や金額交渉などの自由は保障されており、観客動員も満員であった。1812年10月15日には、遠征中の地から「モスクワの勅令」をナポレオンが発し、コメディ・フランセーズに対する国の管理体制が強化された[126]

また、ワーテルローの戦いのあった1815年6月は、経済不況のあおりを受け、劇作家の著作権徴収代行手数料も下がり、同年1月の徴収総額の1/3以下に落ち込んでいる[127]。1829年には、劇作家の著作権管理団体である二つの事務所を再編する形で、劇作家作曲家協会 (SACD) が立ち上がっている。これにより、SACDの協会員 (劇作家・作曲家) は劇場に直接台本を送ったり、対立する劇場と直接交渉することが禁じられ、違反者には罰金が科された[128]

第二帝政に入ると、1852年のルイ・ナポレオン (ナポレオン3世) 勅令により、フランス国立博物館に複製2部を寄託すれば、外国著作物もフランス国内で保護を与えるとした。ここでの外国著作物であるが、たとえその国がフランス著作物を保護していないケースであっても、フランス側では保護対象とした。ルイ・ナポレオンのこの方針は、著作権が自然権であり、国籍や政治的な壁を乗り越えるとのフランス著作権法の哲学に立脚していた[129]

近代法時代

19世紀のフランスはナポレオン帝政後に王政、共和制、帝政、共和制と体制が目まぐるしく変化していたが、欧州で最も中央集権化が進んでいた国でもあった。また欧州で最も使用頻度が高い言語がフランス語であった。したがって、フランス語の著作物は欧州に広く流通し、その結果、フランス国外で海賊版が大量に複製され、それがフランスに逆輸入する事態も発生した[130]。また、フランス国内における外国人著作物の保護もなされていなかった[註 33]

著作権保護期間の延伸

フランス国内における19世紀の著作権法は、総合的な著作権法の制定には至らず、保護期間の延長が改正議論の中心であった[132]。1791年法により演劇著作物の上演権は没後5年、1793年法によりその他著作物の出版権は没後10年と定められていたが、判例法によって演劇著作物にも1793年法が適用され、上演権も没後10年とされた。しかし19世紀に入り、権利保護期間が問題となった。なぜならばこの当時、文盲率が大幅に改善されたことにより、書籍商は過去の名著を重版出版するようになった結果、1793年法で定めた死後10年という期間では権利保護が短すぎたからである[133]

1830年に7月革命が起こり、シャルル10世 (在位: 1824年 - 1830年) が言論統制のために検閲制度を復活させたものの、市民蜂起の結果、シャルル10世からルイ・フィリップ (在位: 1830年 - 1848年) に代わった。ルイ・フィリップの治世の下、著作権改正法案策定のための委員会が1832年から立ち上がっている。この委員会では原則、永久著作権を認めたかったものの、実社会での適用に難があった。出版社が恒久的に著作権料を払わざるを得なくなると、書籍の末端販売価格が上がり、これを回避しようとして国外で海賊版を誘発する副作用が懸念されたためである[134][註 34]

こうした議論を経て1844年8月3日法が制定され、演劇著作物の複製・上演にかかる著作権の保護期間は没後20年に延伸した[137]。さらに1854年4月8日 - 19日法により、著作権の保護期間は没後30年に延伸した。条文上の対象には著作者、作曲家、美術家と書かれていることから、演劇著作物以外にも保護期間の延伸が認められている[138]。続いて1866年7月14日法によって、著作権の保護期間が著作者の没後50年に延長している[139]。これら一連の延伸に関する法改正は、当時大衆から人気の高かった作家たちが、政治家として国政に進出しており、彼らの尽力が大きかったとされる[註 35]。しかし、土地・建物のように著作権についても所有権を永久に認めるべきとの考え方も根強く残っていた[139]

二国間条約とベルヌ条約
国際著作権法に寄与した文豪・政治家ヴィクトル・ユーゴー (1876年当時、Étienne Carjat作)

フランス国外に目を向けると、本格的な多国間条約であるベルヌ条約以前、19世紀当時のフランスは二国間条約を通じて自国の著作物の保護に努めていた[註 36]。しかし二国間条約の場合、保護水準の低い国、すなわち文化の輸入国に合わせて締結内容が定められるため、保護水準が高く、文化の輸出国であったフランスは、国内と比較して国外でのフランス著作物の保護が十分ではなかった[142]

具体的には、自国民が外国で著作物を発行した場合、内国民としての保護を排除する国や、翻訳権や小説の劇化といった翻案権を認めていない国、翻訳権の保護期間が著作物登録から3か月で失効する国もあった[143]。このような状況下で、フランスの著作物が国外で無断翻訳され、損害を被っていたのである[143][129]。そもそも、各国の権利保護期間にもバラつきがあり、国際的な統一の必要性があった[143]

こうした国際状況を背景に、まずは民間レベルで動きが始まる。1858年9月、著作権の国際的な保護を協議すべく「文学的美術的所有権会議」がブラッセルで非公式に開催された[註 37]。さらに、1878年のパリ万国博覧会を契機に、フランス政府の呼びかけによって各国の学者・美術家・文学者・出版業界の代表者が集まり、著作権に関する会合が持たれた。この会合の結果、フランスの文豪であり政治家でもあったヴィクトル・ユーゴーを名誉会長とした国際文芸協会 (後の国際著作権法学会 (略称: ALAI)) が創設された[6][註 38]。当会合からフランス政府に対し、多国間条約の起草・締結を要請することとなった[6]

これ以降は、各国政府による公式な外交協議へと移った。第1回ベルヌ公式会議 (1884年9月)[註 39]、および第2回ベルヌ公式会議 (1885年9月)[註 40]を経て、第3回ベルヌ公式会議 (1886年9月) でベルヌ条約の条文が固まり、10か国が調印し、翌年1887年12月7日にベルヌ条約は発効した[149][註 41][註 42]

レコード録音権

20世紀初めに蓄音機とレコードが一般に商品化されているが[註 43]、それ以前はオルゴールが音楽再生の唯一の手段であり、19世紀に入ってオルゴールは上流階級だけでなく、一般庶民にも広まっていた[153]。オルゴール生産主力国であるスイスの国策圧力により、フランスでは1866年5月16日法を成立させ、音楽の著作権者に無断でオルゴールに楽曲を利用・複製することを合法化している[154]。1886年署名のベルヌ条約でもその第3条で、オルゴールの製造・販売は音楽の偽造とみなさない旨が規定されている[155]。しかし、レコード録音権を巡る訴訟がフランスで相次いだことから[註 44]、オルゴールの楽曲無断利用合法化の対象からレコードを切り離すこととなり、レコード録音使用料の支払が義務化された[154]。1908年のベルヌ条約ベルリン改正でも、オルゴールの免責を改定し、オルゴールを含む全ての音楽複製権が著作者にあると規定した[158]。これを受け、世界初の録音権協会である機械的複製権協会 (SDRM)フランス語版が1935年に設立され、録音使用料の徴収・分配を権利者に代わって行うようになった[154][註 45]

追及権

1920年5月20日法により、世界初の「追及権」が美術作品に認められた[註 46]。追及権とは、絵画や彫刻などの美術品が転売されるたびに、その売買価格の一定割合を著作者が継続して得ることができる仕組みであり、著作者が作品を安値で手放しても、後に価値が高騰した時に金銭的に報いられるようになっている。この追及権は、著作物が著作者から離れても、著作者の支配権は残るという大陸法著作者人格権思想に基づいている[161][註 47]

第二次世界大戦後

1957年3月11日法によって著作権法は大幅改正され[162]、フランス革命期の1791年法と1793年法以降、約160年の間に蓄積されたさまざまな判例法を1957年法に取り込んでいる[91]。また、著作財産権だけでなく、著作者人格権も成文化している[162]

1985年7月3日法によって、コンピュータ・プログラムが著作権保護の対象として追加されたほか、著作隣接権が新たに明文化されている[163][91]。また、音楽著作物に関しては著作権の保護期間が50年から70年に延伸している[80][164]

1992年7月1日法 (法令番号No. 92-597) によって過去の法令を全面改廃し[165]、現在の知的財産法典フランス語版に著作権法が収録された[91][116]

EU指令とフランス国内法改正

フランスは欧州連合 (EU) 加盟国として、EUの各種著作権指令に基づき、必要に応じて国内法化を行っている。EU指令の国内法化とは、既存の国内法ではEU指令の求める結果・水準を満たせない場合、国内法を改正あるいは新たに立法する手続を指し[166]、既に国内法で満たしている場合は、特に国内法化は発生しない。EU指令が発効してから、各国が国内法化を完了させるまでの導入期限は、指令ごとに個別設定されている[167]。以下、代表的なEU著作権指令 (左) とフランス国内法化 (右) を対比してまとめる。

  • 1993年の欧州連合域内における著作権保護期間の調和に関する指令 (93/98/EEC指令) -- 1997年3月27日法を成立させて、フランスでもすべての著作物の著作財産権保護期間を70年に延伸させた。音楽著作物のみは、1985年7月3日法ですでに70年に延伸していたが、1997年3月27日法によって音楽以外も70年に合わせている[80]。なお、93/98/EEC指令はその後2006/116/EC指令により改廃され、さらに2011/77/EU指令で改正されている[168]。2011/77/EU指令に伴い、フランスでは2015年に国内法化の改正を行っているが、国内法化の期限である2013年1月11日から2年以上遅延したことになる[169]
  • 2000年の電子商取引指令英語版 (2000/31/EC指令) -- インターネット・サービスを提供したISPなどに対して、侵害コンテンツを削除するよう求めるデジタル経済法フランス語版 (通称: LCEN、法令番号: 2004-575)[90]が2004年6月21日に成立している[170]。またデジタル経済法以外にデクレ (政令) 1本とオルドナンス英語版フランス語版 (大統領による委任立法) 1本が発せられている。電子商取引指令はEU加盟各国で国内法化の期限日が個別に設定されており、フランスは2002年1月17日であったことから、2年以上遅延した[171]
  • 2001年の情報社会指令 (2001/29/EC指令) -- WIPO著作権条約を具現化するために成立した、EU著作権指令の根幹を成す指令である[84]。フランスでは2006年8月1日法、通称: DADVSIフランス語版英語版[172][173]で情報社会指令を国内法化し、さらに2009年制定のHADOPI法[註 13]で強化・補完した[2]。詳細は後述する。
  • 2001年の再販権指令英語版(2001/84/EC指令、追求権指令とも[註 48]) -- フランスは世界で初めて追及権を認めた国であり、追及権指令が出る前に基礎的な法制度は整っていた。2006年8月1日法により、部分的に改正している[174]
  • 2004年の知的財産権の執行に関する指令英語版 (2004/48/EC指令) -- 当指令を受けて、フランスでも著作権侵害の救済に関して国内法化を行っている。2007年10月29日法 (法令番号: 2007-1544) および2008年6月27日法 (法令番号: 2008-624) により、民事訴訟手続上、著作権侵害者の個人情報を得ることを合法化したほか、金銭賠償に関しフランス著作権法が改正されている[172]。当指令の国内法化期限は2006年4月29日に設定されており、1年以上遅延した[176]
  • 2014年の著作権集中管理指令 (2014/26/EU指令) -- フランスは世界初の著作権管理団体発祥の地であり、既に2000年から著作権管理団体を統制するために監督委員会が設けられていた。2014年のEU指令を受け、監督委員会の役割を拡大させる法改正を2016年7月7日に成立させている[177][178][179]
  • 2019年のDSM著作権指令 (2019/790/EU指令) -- DSM著作権指令は2001年の情報社会指令以来の大型改革である[84]。2019年6月7日に発効し、フランスを含む各国は2年後の2021年6月7日までに国内法化を完了させる義務を負っている[180]
情報社会指令と国内法化の遅延

インターネットを介した著作物の流通における技術的保護 (いわゆるデジタル著作権管理、DRM) を定めた情報社会指令 (2001/29/EC指令) は、フランス国内でも著作権法の改正が複数回発生している。2006年制定のDADVSIでは、個人による違法ファイルの共有を初めて刑事罰として規定した[172][173]。しかしDADVSIが成立する過程で紛糾し、法案は修正・削除が繰り返された結果、国内法化の期限である2002年12月から3年半以上も遅延した[181]。その結果、2004年2月に欧州委員会はフランスを欧州司法裁判所に提訴し[182][183][184]、2005年1月にフランスへ制裁金を科す判決が下っている[185]。なお、情報社会指令の国内法化に苦戦したのはフランスだけではない。国内法化の期限に間に合ったのはギリシャとデンマークの2か国のみであり、特に遅延が著しかった国々 (ベルギー、スペイン、フランス、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、フィンランド、スウェーデン) はフランス同様に提訴されている[186]

国内法化がフランスで大幅に遅れた要因は複合的であるが、もともとフランスは著作権に限らず、EU指令全般で国内法化の遅延比率が他国よりも高いことが欧州委員会から指摘されている[註 49]。その文化・政治的背景として、自国で決めていない指令を導入することへの抵抗感、政治的圧力団体によるロビイングによって立法過程が複雑化していること、そして国会提出法案の入念なチェック手続の3点が挙げられる[188]

DADVSIを巡っては、フランスで紛糾の種となったのが法案の第1条に盛り込まれていた「グローバル・ライセンス」(: licence globale) である。これはインターネットユーザが毎月一定額を著作権者に支払うことで、音楽や映画などのデジタルファイルを合法的にPeer-to-peer (P2P) で共有できるようにする制度であった。フランス政府は反対したものの、著作権管理団体や消費者団体などからの強い支持を背景に、中道左派の社会党や、後の大統領を務めたニコラ・サルコジを擁する保守系の国民運動連合などが賛成に回り、2005年12月にフランス国民議会 (下院) はグローバル・ライセンス条項を含む法案を可決した[182][183]。しかしながら政府が多数派党に法案反対を働きかけた結果、最終的にグローバル・ライセンスは廃案に追い込まれている。対案として一般ユーザではなくISPに対して賦課金を課す提案が提出されるも、こちらも廃案となった[183]

また、DADVSI法案の第7条は欧米メディアから「iPod法」と呼ばれて批判を受けた[189][190]。この条項では、楽曲ファイルをダウンロードした一般ユーザが他社製の再生機器を使って鑑賞できるよう、アクセスコントロール技術に互換性を持たせることを義務化する内容であった。そのため、iTunesで楽曲配信し、iPodで楽曲再生するビジネスモデルを展開していた米国アップル社などに打撃を与えると懸念されていた[190]。しかし、相応の金銭的補償なしに楽曲配信事業者に互換性の義務を負わせてはならないとして、フランスの司法機関である憲法評議会が当条項の違憲性を指摘して、大幅な修正に至っている[189][89]

さらにDADVSIを補完する形で、違法ダウンロードに対するインターネット・アクセス制限を目的としたHADOPI法[註 13]が2009年に制定されている[2]。しかしこれらの改正法の内容を巡って、利害関係者や世論の間で激しい論争が起こった[191]。HADOPI 1法については、その一部が憲法評議会にて違憲と判示され、これに修正対応したHADOPI 2法が追加成立した経緯がある[14]

関連項目

註釈

  1. ^ 伝統的にはLa propriété littéraire et artistique (直訳: 文学的および芸術的所有権) と呼ばれていたが、著作物の対象が拡大したこと、また著作者本人だけでなく著作隣接権者にまで保護対象が拡大したことを受け、現在は使用頻度が下がっている[1]
  2. ^ 著作者本人の権利は1957年3月11日法、著作者隣接権は1985年7月3日法により、それぞれ知的財産法典に収録されることとなった[2]
  3. ^ 世界初の本格的な著作権法は、英米法系のイギリスが1710年に制定したアン法である[4]
  4. ^ 2019年9月時点で170ヶ国以上が加盟[5]
  5. ^ 美術品がオークションなどで転売されるたびに、売買価格の一定料率を著作者が受け取れる仕組み。フランスが1920年に初導入し、2013年時点で、欧州を中心に世界76ヶ国が追及権を法的に保障しているが、美術取引市場の大きいアメリカ合衆国の連邦法や日本では2018年現在、未導入である[7]米国著作権法には州法も一部存在しており、カリフォルニア州が民法典 第986条で追及権を認めているケースはあるが、その適用は同州内での転売に限定される[8]
  6. ^ 19世紀に音楽著作権の協会が立ち上がったのはフランスに続き、イタリア、オーストリア、スペインの3か国のみである[11]
  7. ^ 各種用語の日本語訳は、公益社団法人著作権情報センターの表記を一部参照している[16]
  8. ^ ラテン語のスイ・ジェネリス英語版 (Sui generis) とは、「他の分類に属しない、それ単体でユニークな」の意味であり、法学以外でも広く一般的に用いられる用語である[26]。著作権法においては、著作者本人の権利ないし著作隣接権に属しない権利として、スイ・ジェネリス権の表現が用いられ、特にEU著作権法においてはSui generis database right (スイ・ジェネリス・データベース権) を指すことが多い[27]
  9. ^ 二元論を採用する代表国としてフランスが、一元論としてドイツが挙げられる。両者の違いであるが、二元論に基づくフランスでは、著作財産権は譲渡が可能であり、また市場の現実に即して著作財産権の保護期間に上限を設けている。一方のドイツは、著作者人格権と著作財産権の差異が少なく、たとえば著作財産権も譲渡不可能であり、死後も永続すると考えられている[28]
  10. ^ 人格理論についてはドイツの法哲学者ヘーゲルを、労働理論についてはイギリスの哲学者ロックの政府二論を下敷きにしている[33]
  11. ^ たとえば同じ大陸法系の日本では、著作者人格権を含む一般的な人格権は相続の対象にならず、すなわち本人死亡で消滅するとされている (b:民法第896条 但書)。
  12. ^ たとえば米国著作権法は第106A条で著作者人格権の対象を視覚美術作品 (visual art) に限定しており[39]、第101条の定義によると、視覚美術作品の対象から応用美術が除外されている[40]。日本では、応用美術は意匠法で保護されるが、さらに著作権法でも二重に保護されるのかは司法判断が分かれている[41]
  13. ^ a b c d 通称HADOPI法とは、HADOPI 1法フランス語版」(法令番号: 2009-669)とHADOPI 2法フランス語版」(法令番号: 2009-1311) の総称。
  14. ^ 公表権については、1928年のローマ改正の際に追加が提案されるも実現していない[50]
  15. ^ しかし、同様の裁判がイタリアのローマでも問われ、2006年に改変を認めていることから、フランスとイタリアでは異なる判決となっている[53]
  16. ^ 著作権法上で「利用」と「使用」の用語は異なる意味合いを持つ。著作物を使う行為のうち、著作権者に独占が許されており、つまり著作権者に利権が発生していることから、第三者が無断で使えない領域は「利用」である。一方の「使用」は、たとえば小説本や音楽CDの購入者が、これらを鑑賞する行為などが含まれる[57]。著作権者の独占はおよばないため、著作権者である小説家や作曲家が、購入者の「使用」方法を指図したり制限することはできない。
  17. ^ デザインが審美的な目的か実用的な目的かは問われない。しかし、他の著作物には要求されない「新規性」が応用美術著作物の保護には必要とされる点に注意が必要である[67]
  18. ^ EUでは、加盟国すべてに通用する商標登録制度である欧州連合商標英語版 (略称: EUTM、旧称: 欧州共同体商標 (CTM)) がある。登録先はスペインにある欧州連合知的財産庁 (略称: EUIPO、旧称: 共同体商標意匠庁 (OHIM)) である。したがって、フランスのみで通用する国内商標登録以外に、EU全域での一括商標登録の方法も選択できる[71]
  19. ^ 例外として、公衆向けのビデオ映像は50年間、レコードは70年間が認められている[62]
  20. ^ 例外として、公衆向けのレコード提供は70年間が認められている[62]
  21. ^ 原語のprivilègeは日本語で「特権許可状」のほか、「特権」、「特認」、「出版権」、「出版允許」などと訳され、学者や辞書の間で定訳はない[92]
  22. ^ 世界初の特権許可状は、1495年にベネチア元老院によって発行された[93]
  23. ^ フランス初の特権許可状の発行年は、1498年説[94]、1500年説[93]、および1507年説[1]がある。
  24. ^ ただし『オード』の著者として知られる詩人のピエール・ド・ロンサール (1524年 - 1585年) など、著名な著作者に対しては特権許可状が与えられたケースもある[95]
  25. ^ これに伴い、印刷業者や書籍商も、パリ大学構内に居住することが義務付けられていた[97]
  26. ^ 当時、欧州で最も印刷業が盛んだったのはイタリアベネチアである[98]
  27. ^ しかし実態は、書籍商に特権許可状の権利を譲渡しなければ、著作者は書籍商との契約を打ち切られ、他の著作者に声がかかってしまう苦しい立場にあった[103]
  28. ^ 1653年の喜劇『ライバル』を執筆したフィリップ・キノとコメディアン (俳優) の間で、劇場収入がレベニューシェアされていた記録が残っている[104]
  29. ^ コメディ・フランセーズの協定は劇場「収入」ではなく「利益」の一部還元である。つまり、劇場チケット売上 (収入) が好調であっても、諸経費がかさんでしまえば、残った利益はわずかとなるため、著作者の元に入っている金額は少額となる。さらに計算の基礎となる劇場収入も窓口販売のみの金額であり、劇場総収入の多くを占めていたボックス席や、年間予約料は含まれていなかった[105]
  30. ^ たとえば、人気劇作家であり、社会弱者を支援する活動を国をまたいで展開していたことでも知られるボーマルシェは、『セビリアの理髪師』の上演使用料の条件や算出方法が不当であるとして、1775年にコメディ・フランセーズに対して条件拒否と明細提示を求めて抗議している[106]
  31. ^ またボーマルシェは、演劇法立法促進事務局創設の翌年1778年には『フィガロの結婚』を完成させ、3年後にコメディアンに納入したものの、ルイ16世によって上演が禁じられ、ボーマルシェは4日間バスティーユ牢獄に投獄されている。『フィガロの結婚』の上演が実現されたのは、6年後である[109]
  32. ^ 1791年法を改廃 (上書き) したわけではなく、1791年法が劇場著作物を、1793年法が劇場著作物以外を保護規定する併存の関係にあった。
  33. ^ たとえば1801年にオペラ座で上演されたモーツァルトの『魔笛』は、題名も変えられ、台本もオリジナルから大幅に改変され、楽曲も組み換えられている[131]
  34. ^ なお、19世紀中頃は欧州全体が経済不況と凶作にあえいだ時代である。参考までに、マルクスの『共産党宣言』が発表されたのが1848年2月である[135]。参考までに、同時期の米国でも1837年恐慌と連動して著作物の海賊版が横行したことから、米国内でも著作権保護の改正議論が展開されている[136]
  35. ^ 貢献者として、文豪ヴィクトル・ユーゴー (大衆からの人気を背景に、1841年から1851年に第二共和政の議員、1871年からは国民議会議員を務めた)、サルバンディ (著作権法立法委員会で活躍し、文部大臣および文芸家協会会員)、ビルマン (文部大臣および文芸家協会初代会長)、ラ・マルチェーヌ (上院議員、『瞑想詩集』作者) などが挙げられる[140]
  36. ^ サルジニア (1843年)、イギリス (1851年)、ポルトガル (1851, 1866年)、ハノーバー (1851年)、ベルギー (1852, 1861, 1880年)、スペイン (1853, 1880年)、オランダ (1855, 1858年)、ドイツ (1883年)、スイス (1864年)、オーストリア (1866, 1885年)、デンマーク (1858, 1866年)、イタリア (1862, 1869年) とそれぞれ二国間条約を締結している[141]
  37. ^ フランス、ドイツ、イギリス、カナダ、デンマーク、スペイン、米国、スイス、ベルギー、オランダ、イタリア、ロシア、ポルトガル、スウェーデン、ノルウェーの15ヶ国から出席している。81の学会、計441名とする資料と[144]、300名以上とする資料[145][146]がある。
  38. ^ 国際文芸協会は、1879年にロンドン、1880年にリスボン、1881年にウィーン、1882年にローマで会合を開いている[146]。当時のベルヌには、万国工業所有権保護同盟、万国郵便連盟、国際電気通信連合の事務所があったことから、著作権保護の同盟組織もベルヌに構えることが会合で協議された[144]
  39. ^ 出席国はフランス、ドイツ、イギリス、イタリア、ルクセンブルグ、エルサルバドル共和国、スウェーデン、ノルウェー、オーストリア、ハンガリー、ベルギー、コスタリカ、ハイチ、パラグアイ、オランダの15ヶ国である[147]
  40. ^ 第1回出席国からオーストリア、ハンガリー、エルサルバドルが脱落したが、代わりに米国、スペイン、ホンジュラス、チュニジアが第2回に出席している[148]
  41. ^ 第3回は1886年9月6日から9日に開催され、フランス、ドイツ、ベルギー、スペイン、イギリス、アイルランド、ハイチ、イタリア、リベリア、スイス、チュニジアが出席した他、米国と日本も傍聴者として出席。21か条からなるベルヌ条約に日本、米国、アイルランドを除く10か国が調印した。さらに署名国のうち、リベリアとハイチ以外が批准したことから、翌年1887年12月7日に発効している[148]
  42. ^ ロシアをベルヌ条約の枠組に取り入れようと何度も試みたが、失敗に終わっている。当時のロシアは、多国間条約であるベルヌ条約だけでなく、文学的所有権に関するすべての条約を排除していた[150]
  43. ^ 蓄音機の概念は既に1855年に考案され、エジソンが蓄音機の実用化に成功し、1877年に初の蓄音機が誕生している。1898年にドイツのグラマフォン、1892年にアメリカのコロンビアとビクターが設立されている[151]第一次世界大戦 (1914-18年) 後には、レコードのブームが到来した[152]
  44. ^ 1905年2月1日、パリ控訴院の判決により、1866年法はレコードには適用されないことが判示され、レコード録音権を初めて認めた判例として知られる。オルゴールは楽曲だけだったのに対し、レコードは歌詞を伴った楽曲または楽曲を伴わない歌詞が多数録音されていたため、オルゴールとレコード (楽曲のみは除く) は異なるものだという区別をした[156]。なお、これに先立って1904年7月13日にはブラッセル第一審裁判所が、著作者にレコード複製権があると認める判決を出していることから、1905年パリ控訴院もこれを参照したと考えられている[157]
  45. ^ 世界初の音楽演奏権協会であるSACEMが1851年創設され、SACEMが音楽録音権の協会であるSDRMを1935年に創設している[9]
  46. ^ しかし美術家の不遇を嘆いていたのは、もっと前の時代のルイ16世である。1780年にルイ16世は、ある画家の死後に作品の売買価格が高騰したにも関わらず、遺族に何ら還元されないことを憂いて、遺憾の意を表明したことから、ルイ16世を「追及権の父」と呼ぶ専門家もいる[159]。また、追及権の概念を最初に提唱したのは、フランス人弁護士のアルベール・ボノワであり、1893年2月15日に論文を発表している[160]
  47. ^ 一般的に英米法の国では著作者人格権の保護水準が低く、著作物の財産的価値を中心とした保護を行っている。米国連邦著作権法でも追及権は認められていない。しかしカリフォルニア州民法典 第986条のように、連邦著作権法で保護されない権利を拡大保護し、美術品の追及権を認めているケースがある。同州で転売取引が行われるか、または売主が同州住民の場合、転売価格の5%が著作権者に還元されると規定されている[8]
  48. ^ 追及権はフランス語で Droit de Suite (英訳するとRight to Followの意) と呼ばれていることから、2001/84/EC指令を追及権指令と訳す専門家も多い。追及権に詳しい早稲田大学・小川明子[174]や、フランス著作権法全般に詳しい弁護士・井奈波朋子[91]などに使用例が認められる。一方、EU官報で公示された正式名称には英語で Resale Right が使われていることから[175]、これを直訳して再販権指令と呼ぶケースもある。
  49. ^ 2004年4月末時点で、国内法化の期限内導入完了率は旧EU15か国中、フランスが最下位となっている。また新たに10か国を加えた拡大25か国で見ても、2004年5月末時点でフランスは17位となっている[187]

出典

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引用文献

主要文献 (50音・アルファベット順)
補完的文献 (50音・アルファベット順)

外部リンク