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| 色 = lightblue
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| 名称 = ハツタケ
| 名称 = ハツタケ
| 画像 = [[File:ハツタケ.jpg|280px|アカマツ林内の地上に発生したハツタケ(茨城県那珂市産)]]
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| 亜界 = [[ディカリア|ディカリア亜界]] [[:en:Dikarya|Dikarya]]
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| = [[ベニタケ]] [[:en:Russulaceae|Russulaceae]]
| = '''ハツタケ''' ''Lactarius lividatus''
| = [[カラハツタケ属]] [[:en:Lactarius|''Lactarius'']]
| 種 = '''ハツタケ''' ''Lactarius hatsudake''
| 学名 = {{snamei|Lactarius lividatus}}<br>Berk. & M.A. Curtis (1860)
| 学名 = {{Snamei||Lactarius hatsudake}} [[田中延次郎|Nobuj. Tanaka]] <ref name="今関ほか2011">{{Harvnb|今関六也・大谷吉雄・本郷次雄 編著|2011|p=395}}</ref>{{Sfn|前川二太郎 編著|2021|p=385}}
| シノニム = {{snamei|Lactarius hatsudake}} Tanaka (1890)<ref>{{cite web |author=Jorinde Nuytinck, Xiang-Hua Wang and Annemieke Verbeken|title= Descriptions and taxonomy of the Asian representatives of Lactarius sect. Deliciosi|journal=Fungal Diversity|url=http://www.fungaldiversity.org/fdp/sfdp/22-9.pdf|accessdate=2013-02-11}}</ref>
| シノニム =
* {{Snamei||Lactarius lividatus}} {{AU|Berk.}} & {{AU|M.A. Curtis}}
| 和名 = ハツタケ
}}
}}
'''ハツタケ'''(初茸{{sfn|吹春俊光|2010|p=74}}、[[学名]]: ''Lactarius hatsudake'')は、[[担子菌門]]に属し、[[ベニタケ目]][[ベニタケ科]]の[[カラハツタケ属]]に分類される中型から大型の[[キノコ]]の一種である。夏から秋にかけて、マツ林に発生する。[[子実体]]は傷がつくと赤ワイン色の乳液が出て、ゆっくりと青緑色に代わるのが特徴で、地方によってはアイタケ(藍茸)やロクショウ(緑青)などともよばれる。旨い[[出汁]]が出る食用キノコとして知られ{{Sfn|瀬畑雄三監修|2006|p=111}}、特に千葉県の房総半島では珍重される{{sfn|吹春俊光|2010|p=74}}。
'''ハツタケ'''(初茸、''Lactarius lividatus''<ref name="ffpri">[http://www.ffpri-kys.affrc.go.jp/situ/TOK/neda/hanashi/hanasi29.htm ハツタケの話]([[森林総合研究所]]九州支所)</ref>)は[[ベニタケ科]][[チチタケ属]]の[[キノコ]]の一種。


==特徴==
== 名称 ==
=== 和名 ===
夏の終わりか秋のはじめ、海岸の[[クロマツ]]林や[[里山]]の[[アカマツ]]を交えた[[雑木林]]に発生する。傘は径5-10cmで、その表面は湿っているときには多少粘りを生じる。色は淡紅褐色、淡黄赤褐色などになり、濃色の環紋がある。ひだは淡黄色でワイン紅色を帯びる。柄は長さ2-5cmになり、表面は傘とほぼ同じ色になる<ref name="Imaz">今関六也他編『山溪カラー名鑑 日本のきのこ 増補改訂新版』、2011年、山と溪谷社、p.395</ref>。傘に傷がつくと[[緑青]]色に変色することから<ref>[http://www.waseda.jp/honjo/honjo/shiki/haratake.htm 学院の四季~大久保山の自然~]([[早稲田大学]]本庄キャンパス)</ref>、緑青初茸とも呼ばれる<ref name="kinocoya">[http://www.kinocoya.jp/illust/edible/hatsu.html 山形産松茸販売きのこや]</ref>。なお、変色した個体でも、食味に問題はない。
[[和名]]「ハツタケ」は「初茸」の意で、初秋(9月中旬)に他のキノコに先駆けて多く発生するところからの命名とされる{{sfn|秋山弘之|2024|p=70}}<ref name="講談社2013">{{Cite book|和書|editor =講談社|title = からだにやさしい旬の食材 野菜の本|date=2013-05-13|publisher = [[講談社]]|isbn=978-4-06-218342-0|page=212}}</ref>。命名者は不明であり、この名がいつごろの時代から提唱されたのかも明らかになっていない。


=== 方言名 ===
日本のほか、韓国、中国に産する<ref name="Imaz" />。
[[岩手県|岩手]]・[[愛知県|愛知]]・[[滋賀県|滋賀]]・[[京都府|京都]]などで「あいずり」、[[青森県|青森]]・[[長野県|長野]]・[[鳥取県|鳥取]]・[[島根県|島根]]・[[岡山県|岡山]]・[[広島県|広島]]および[[香川県|香川]]([[小豆島]])では「あいたけ」と呼ばれるが、これらは、きのこが傷つくと青緑色に変わることに由来するものと思われる。[[岐阜県|岐阜]]・[[愛知県|愛知]]・[[静岡県|静岡]]などでの「あおはち」・[[新潟県|新潟]]における「あおはつたけ」もまた、同様の理由に基づくものであろう。同様に、きのこの変色性に基づくと思われる方言名としては、青森県・秋田県・岩手県・[[山形県]]・千葉県(特に[[夷隅郡|夷隅]]・[[君津市|君津]])などにおける「ろくしょう」・「ろくしょうはつたけ」・「ろくしょきのこ」などが挙げられる<ref name="LocalName">奥沢康正・奥沢正紀、1999. きのこの語源・方言事典. 山と溪谷社. ISBN 978-4-63588-031-2.</ref>。


[[秋田県]]下では「まつきのこ」・「まつしたきのこ」などと称され、千葉県の一部の地方でも「まつしめじ」と呼ぶという。中国地方や九州南部では「まつなば」・[[北陸地方]]([[富山県]]・[[石川県]]など)では「まつみみ(なまって「まつみん」・「まつめん」とも)」と呼ぶ地域がある<ref name=LocalName/>。マツ林で採集される食用菌の代表格とみなされていたものではないかと考えられる。
==利用==

古くから食用とされ、「重修本草綱目啓蒙」にも記述がみられる。「[[守貞漫稿]]」によると、主として関東地方で食され、近畿地方での人気は高くなかった。「続江戸砂子」によると、現在の[[千葉県]][[松戸市]]付近が名産地であった<ref name="ffpri"/>。[[炊き込みご飯]]の具や[[天ぷら]]などの調理法があるが、良い[[出汁]]が出るため、[[吸い物|すまし汁]]の実としての使用が最良とされる。
「はつたけ」の名で扱う地方も少なくなく、これがなまった「はったけ」(岩手県・[[大分県]]」・「はつだけ」(秋田県・千葉県[[房総半島|外房]]地方)・「はづたけ」(青森県)「はじたけ」・「はちだけ」(ともに秋田県)などの名も用いられる<ref name=LocalName/>。ただし、古名がこれらの地方に浸透して連綿と用いられ続けているものかどうかは定かでない。

語源が明らかでない呼称として、新潟県下ではまた、「じんしち」の呼称がある<ref>新潟きのこ同好会(著)、神田久・小林巳癸彦(編)、2010. 新潟県のきのこ. 新潟日報事業社、新潟. </ref>。

また「うるみ」(千葉県・[[茨城県]])・「おわかえ」(岩手県)・「てんぐだけ」・「まいたけ」(鳥取県)などがある<ref name=LocalName/>。

[[宮崎県]]では、「しゅろなば」([[宮崎市]]山崎町)・「まつしめじ」([[小林市]]生駒)・「まつなば」([[えびの市]])などの方言名があるほか、和名の「はつたけ」で呼ばれる地域(たとえば[[川南町]]坂ノ上・唐瀬原・[[高鍋町]]堀ノ内・[[新富町]]野口など)もある。このうち、高鍋町や新富町では、ハツタケと同様にマツ林で見出される[[シモコシ]]が多量に採取できたおりには、ハツタケは顧みられなかったという。さらに、[[佐土原町]]前牟田では、[[ショウロ]]や[[シモコシ]]のほうが食用きのことしては上等であるとされ、ハツタケを利用する習慣はなかったとされている<ref>{{Cite journal|和書|author=黒木秀一 |title=宮崎県のきのこ方言と民俗 |journal=[https://www2.lib.pref.miyazaki.lg.jp/?page_id=421 宮崎県文化講座研究紀要] |publisher=宮崎県立図書館 |year=2010 |volume=37 |pages=69-92 |naid=40018801245 |url=http://www.lib.pref.miyazaki.lg.jp/ct/other000001600/kiyoukurogi.pdf |format=PDF
}} p.89より</ref>。

沖縄では「まちなば」あるいは「しみじ」の名で呼ばれ、広く食用にされているという<ref name=Okinawa/>。

=== 学名 ===
属名''Lactarius'' は「乳を含む」の意のラテン語で、子実体を傷つけると乳液を分泌する性質に基づく<ref name=IHandT/>。種形容名の''hatudake'' は和名をそのままラテン語化したものである<ref name=Tanaka/>。

== 分布 ==
日本では[[北海道]](石狩以南)<ref name=Sanshi>{{Cite journal|title=Studies on the Agaricaceæ of Japan II |author=Sanshi Imai |journal=植物学雑誌 |publisher=日本植物学会 |volume=49 |issue=585 |pages=603-610 |year=1935 |doi=10.15281/jplantres1887.49.603 |url=https://doi.org/10.15281/jplantres1887.49.603}}</ref> から[[沖縄県]](沖縄本島)<ref name=Okinawa/> にまで分布する。[[小笠原諸島]]にも分布する<ref>Ito, S., and S. Imai, 1940. Fungi of the Bonin Islands Ⅳ. Transactions of the Sapporo Natural History Society 16: 45-56.</ref><ref>小笠原自然環境研究会(編)、1992. フィールドガイド小笠原の自然-東洋のガラパゴス. 古今書院、東京. ISBN 978-4-772-21026-3. </ref><ref>{{Cite journal|author=Sato, Toyozo and Uzuhashi, Shihomi and Hosoya, Tsuyoshi and Hosaka, Kentaro |year=2010 |title=A List of Fungi Found in the Bonin (Ogasawara) Islands |url=https://hdl.handle.net/10748/3962 |journal=小笠原研究 |ISSN=0386-8176 |publisher=首都大学東京小笠原研究委員会 |volume=35 |pages=59-160 |hdl=10748/3962}}</ref> が、これは恐らく沖縄から移入・植栽されたリュウキュウマツの根系に付着してともに移入されたものであり、自然分布ではないと考えられる。

日本国外では、[[韓国]]{{sfn|吹春俊光|2010|p=74}}、[[中華人民共和国|中国]]<ref name=IandH/><ref name=AsianLactarius/><ref name=Market>{{Cite journal |author=Wang, XiangHua and others |year=2000 |title=A taxonomic study on some commercial species in the genus ''LactariusAgaricales'' from Yunnan province, China. |journal=Acta Botanica Yunnanic |volume=22 |issue=4 |pages=419-427 |publisher=Kunming Institute of Botany |url=https://www.cabdirect.org/cabdirect/abstract/20198633210}}</ref><ref>応建浙・卯暁嵐・馬啓明、1987. 中国薬用真菌図鑑. 579 pp. 科学出版社、北京.</ref><ref>卯暁嵐、1998. 中国経済真菌. 719 pp. 河南技術出版社、河南. ISBN 7030058879.</ref>・[[台湾]]<ref name=Okinawa/><ref>* {{Cite journal|和書|author=沢田兼吉 |title=台湾産菌類調査報告第1編 |journal=農事試験場特別報告 |year=1919 |volume=第19号 |issue=第1編 |pages=519-522 |naid=10017160381 |doi=10.11501/929525 |url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I001550344-00}}<!--https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000548803-00 No.17 は執筆者、出版年が異なる為 19が正しいとかんがえられる--></ref>・[[タイ王国|タイ]]・[[ロシア]]東部<ref name=Thailand/>・[[パキスタン]]<ref>Shibata, H. 1992. Higher Basidiomycetes from Pakistan. ''in'': Cryptogamic Flora of Pakistan. (Eds.: T. Nakaike and S. Malik)1: 145-164. In collaboration of National Science Museum Tokyo and Pakistam Museum of Natural History (Pakistan Science Foundation, Islamabad).</ref><ref>Murakami, Y. 1993. Larger fungi from Pakistan. ''In'': Cryptogamic flora of Pakistan. (Eds.: T. Nakaike and S. Malik) 2: 105-147. In collaboration of National Science Museum Tokyo and Pakistam Museum of Natural History.</ref> および[[ネパール]]<ref name=Nepal>Bang, T. H., Suhara, H., Doi, K., Ishikawa, H., Fukami, K., Parajuli, G. P., Katakura, Y.,
Yamashita, S., Watanabe, K., Adhikari, M. K., Manandhar, H. K., Kondo, R., and K. Shimizu, 2014. Wild Mushrooms in Nepal: Some Potential Candidates as
Antioxidant and ACE-Inhibition Sources. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine 2014: 1-11.</ref> からも報告されている。

== 形態 ==
[[File:ハツタケ生標本.jpg|thumb|ハツタケ生品(埼玉県所沢市産)のかさ表面・かさ裏面(ひだ)・子実体の側面観、および縦断面(傷つくと暗赤色の乳汁がにじみ、ゆっくり緑変する). ]]

[[子実体]]は[[キノコの部位#傘|傘]]と[[キノコの部位#柄|柄]]からなり、背が低く、地上からあまり立ち上がらない{{sfn|秋山弘之|2024|p=70}}。傘は直径4 - 17[[センチメートル]] (cm) 程度{{Sfn|前川二太郎 編著|2021|p=385}}、幼時は半球形から丸山形であるが、生長すると中央がくぼんだまんじゅう形から次第に開いて、ほぼ平らあるいは浅い皿状となる{{sfn|吹春俊光|2010|p=74}}{{Sfn|瀬畑雄三監修|2006|p=111}}。成菌になると、不規則な円形になる{{Sfn|瀬畑雄三監修|2006|p=111}}。表面は湿った時には弱い粘性がある{{Sfn|前川二太郎 編著|2021|p=385}}が乾きやすく、淡い赤褐色ないし淡黄褐色を呈し、やや明瞭な同心円状の環紋をあらわし{{sfn|吹春俊光|2010|p=74}}{{sfn|牛島秀爾|2021|p=95}}、表皮は剥ぎとりにくい。

傘・柄の[[キノコの部位#肉|肉]]は堅く締まっているがもろい肉質で、ほぼ白色でかたく、柄の周辺と[[キノコの部位#ひだ|ヒダ]]の上部は赤ワイン色を呈し{{sfn|吹春俊光|2010|p=74}}、ほとんど無味。僅かに樹脂のような香気があり、傷つけると暗赤色ないし暗[[ワインレッド|赤ワイン色]]の乳液を少量分泌し、後にゆっくりと青緑色となる{{sfn|吹春俊光|2010|p=74}}{{Sfn|瀬畑雄三監修|2006|p=111}}。

ヒダは密で、柄に直生ないし上生、あるいは垂生状に直生し{{Sfn|瀬畑雄三監修|2006|p=111}}、帯赤褐色ないしブドウ酒色を帯びた褐色を呈し{{sfn|吹春俊光|2010|p=74}}、分岐や連絡脈を生じない。柄は長さ2 - 7&nbsp;cm{{Sfn|瀬畑雄三監修|2006|p=111}}のほぼ上下同大で比較的太くて短く、かさより色が淡く、中空ないし中実である{{sfn|吹春俊光|2010|p=74}}。ヒダや柄も、傷つけると赤ワイン色の乳液を分泌し、後に次第に青緑色となるため、古い子実体では、多くの場合は全体に不規則な青緑色のしみを生じている。

柄は中空または中実で、長さ2 - 5&nbsp;cm、表面は傘とほぼ同色である{{Sfn|前川二太郎 編著|2021|p=385}}<ref name="今関ほか2011"/>。

[[胞子紋]]はごく淡いクリーム色を呈する{{Sfn|前川二太郎 編著|2021|p=385}}。担子[[胞子]]は大きさ7 - 10 × 6 - 7[[ミリメートル]] (mm) の広卵形、ところどころで不規則に途切れた網目状の隆起と、先端に丸みを帯びたいぼ(ともに、[[ヨウ素]]溶液で青黒色に染まる)に覆われる{{Sfn|前川二太郎 編著|2021|p=385}}。側シスチジアには二種のタイプがあり、その一型は細長い槍状ないし狭紡錘状をなし、淡い黄色(ヨウ素溶液中では橙褐色)で粒状の内容物を含み、いま一型はひだの組織に深く埋もれて僅かに突出するに過ぎず、ミミズ状に屈曲し、先端は尖らず、淡褐色の内容物を含んでいる。側シスチジアにも二つの型があり、うち一型は尖った紡錘状で、先端部はしばしば鉛筆の芯状に細まり、もう一型は短いこん棒状で、しばしば多数の隔壁を備える。かさの表皮層は、ゼラチン層に埋もれつつかさの表面に平行に匍匐した[[菌糸]]で構成される。菌糸には[[かすがい連結]]を持たない。

== 生態・生理 ==
日本では、夏から秋(時に[[梅雨]]期)、[[アカマツ]]・[[クロマツ]]<ref name=IandH>{{Cite book|和書|author=今関六也, 本郷次雄 |title=原色日本新菌類図鑑 |publisher=保育社 |year=1987 |series=保育社の原色図鑑 2 |issue=75-76 |NCID=BN01127636 |ISBN=978-4-586-30076-1 |url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001989659-00}}</ref><ref name=IHandT>{{Cite book|和書|author=今関六也, 本郷次雄, 椿啓介 |title=菌類(きのこ・かび) |publisher=保育社 |year=1970 |series=標準原色図鑑全集 第14巻 |NCID=BN01317824 |id={{JP番号|69022174}} |url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001140780-00}}</ref>・[[リュウキュウマツ]]<ref name=Okinawa>{{Cite journal|和書|author=宮城元助 |title=沖縄島産マツタケ目について |journal=琉球大学文理学部紀要 理学篇 |ISSN=0557-577X |publisher=琉球大学文理学部 |year=1964 |month=may |issue=7 |pages=57-70 |naid=120003534741 |url=https://hdl.handle.net/20.500.12000/22411}}</ref>、[[ゴヨウマツ]]{{Sfn|瀬畑雄三監修|2006|p=111}}などの[[マツ]]類の樹下に発生し、これらの樹木の生きた細根に典型的な[[外生菌根]](フォーク状に二叉分岐し、白色<ref name=kuromatsu>{{Cite journal|和書|author=小川真 |title=海岸砂丘のクロマツ林における微生物相 |journal=[https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/bulletin/301/index.html 林業試験場研究報告] |ISSN=00824720 |publisher=森林総合研究所 |year=1979 |month=aug |issue=305 |pages=107-124 |naid=40003761149 |url=https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/bulletin/301/documents/305-5.pdf |format=PDF}}</ref> または赤紫色を呈する<ref name=PineMushroom>{{Cite journal|title=Pine Mushroom from Hunan of China |author=Wang Yun |journal=Acta Edulis Fungi |year=2003 |url=https://www.semanticscholar.org/paper/Pine-Mushroom-from-Hunan-of-China-Yun/d94d585adb9cfb77d5358f3ada58e53ee8d9230f}}</ref>)を形成して生活する。北海道では、植林された[[ヨーロッパアカマツ]]の樹下に発生し、[[トウヒ]]類の林内でも見出されるという<ref>{{Cite book|和書|author=高橋郁雄 |title=北海道きのこ図鑑 |publisher=亜璃西社 |year=2007 |edition=新版増補版 |series=Alice field library |NCID=BA83279157 |ISBN=9784900541726 |url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000009031031-00 |page=363}}</ref>。

[[タイ王国|タイ]]では、三針葉マツ類の一種である[[ケシアマツ]]([[:en:Pinus kesiya|''Pinus kesiya'' Royle ex Gordon]])の樹下に発生する<ref name=Thailand>[http://cmuir.cmu.ac.th/jspui/handle/6653943832/60841 Huyen, T. L., Nuytinck, J., Verbeken, A., Lumyong, S., and D. E. Desjardin, 2007-01-31. ''Lactarius'' in Northern Thailand: 1. ''Lactarius'' subgenus ''Piperites''] Fungal Diversity 24: 173-224</ref>。また、[[中国]]においては、同じく三針葉マツ類に属する[[ウンナンマツ]]([[:en:Pinus yunnanensis|''Pinus yunnanensis'' Franch.]])の樹下<ref name=AsianLactarius>{{Cite journal |author=Nuytinck, Jorinde and WANG, XH and Verbeken, Annemieke |ISSN=1560-2745 |journal=FUNGAL DIVERSITY |pages=171-203 |publisher=FUNGAL DIVERSITY PRESS |title=Descriptions and taxonomy of the Asian representatives of Lactarius sect. Deliciosi |url=https://www.researchgate.net/publication/228649377_Descriptions_and_taxonomy_of_the_Asian_representatives_of_Lactarius_sect_Deliciosi |volume=22 |year=2006}}</ref><ref>{{Cite journal|title=New records and distribution of macrofungi in Laojun Mountain, Northwest Yunnan, China. |author=Zhang, Ying and Zhou, DeQun and Zhou, TongShen and Ou, XiaoKun and others |journal=Mycosystema |volume=31 |issue=2 |pages=196-212 |year=2012 |publisher=Science Press |url=https://www.cabdirect.org/cabdirect/abstract/20123147919}}</ref> や、二針葉マツの一種である[[バビショウ]](''Pinus massoniana'' Lambert)の下に発生する<ref name=PineMushroom/><ref name=AsianLactarius/>。

[[菌根菌|外生菌根菌]]{{sfn|吹春俊光|2010|p=74}}(共生性{{sfn|牛島秀爾|2021|p=95}})。どちらかといえば未熟な[[土壌]]を好む菌であり、有機物のほとんどない状態で発生する<ref name=kuromatsu/>。クロマツ・アカマツなどの林内では、おもにH層(新鮮な落ち葉などの下に広がる、腐朽・断片化した有機物の層)からA層(動植物の遺体と土壌とが混じり合って互いの区別が困難になった、有機物に富んだ層)に生息するが、土壌への有機物供給が少ない環境下では、B層(風化が進行した鉱物質の層)や、C層(風化が十分に進行していない母岩層)などに見出されることもしばしばある。また、林齢が小さい若齢林に多いとされる<ref name=kuromatsu/>。林内の地中では大形のコロニーを作らず,きのこ(子実体)は小面積に群生する性質がある<ref name=kuromatsu/>。

アカマツの苗にハツタケの純粋培養菌株を接種して外生菌根を形成させた場合、対照(ハツタケ菌未接種)の苗と比較して、苗の全重量・主根の長さ・側根(径10mm以上)の本数などはそれぞれ50ないし60パーセント増加した<ref name=culture>{{Cite journal |author=AKITSU Norio, HATTORI Takefumi, SEO Geon-Sik, OHTA Akira, SHIMADA Mikio |title=<Preliminary>A Possible Role of Oxalate Produced in the Symbiotic Culture System with a Host Plant Pinus densiflora and a Mycorrhizal Fungus Lactarius hatsudake |journal=Wood research : bulletin of the Wood Research Institute Kyoto University |ISSN=0049-7916 |publisher=京都大学 |year=2000 |month=sep |issue=87 |pages=13-14 |naid=110000012999 |url=https://hdl.handle.net/2433/53157}}
</ref>。なお、アカマツにハツタケの菌株を接種した場合、[[乳酸]]・[[シュウ酸]]・[[リンゴ酸]]・[[コハク酸]]・[[クエン酸]]などの[[有機酸]]の[[塩]](これらは、ハツタケの単独培養下でも見出される)の産生<ref name=culture/> が認められ、それらの総量は、ハツタケの外生菌根が形成されていないアカマツに比較して 1.9倍に達した<ref>Hattori, T., Akitsu, N., Seo, G.-S., Ohta, A., and M. Shimada, 1999. The production of organic acids during the symbiotic cultivation of ''Pinus densiflora'' associated with ''Lactarius hatsudake''. Annual report of interdisciplinary research institute of environmental sciences 18; 121-127.</ref>。中でもシュウ酸の産生がもっとも多く、未感染苗と比較して 100倍にも達した一方、リンゴ酸・クエン酸・コハク酸などが、ハツタケに感染したマツ苗が産生する全有機酸量に占める割合は小さかった<ref name=culture/>。これら有機酸のうち、シュウ酸・クエン酸・コハク酸には、ハツタケの菌糸生長を促す作用があることが見出され、ハツタケとアカマツとの間で外生菌根が形成された場合、両者の生長を促進する働きは、おもにシュウ酸の産生とその再利用とによって誘引されているものと考えられている<ref name=culture/><ref>Hattori, T., Akitsu, N., Seo, G.-S., Ohta, A., and M. Shimada, 2000. A possible growth promoting effect of the organic acids produced in an axenic symbiotic culture of ''Pinus densiflora'' and ''Lactarius hatsudake'' on both of symbionts. Annual report of interdisciplinary research institute of environmental sciences 19: 59-65.</ref>。

スラッシュマツ([[:en:Pinus elliottii|''Pinus elliottii'']] Engelm.)に対しても、樹勢を増強するとともに[[窒素]]・[[リン]]・[[カリウム]]などの栄養素の吸収を促進する効果を示したが、その性質は、ハツタケの菌糸を単独でスラッシュマツに接種するよりも、ハツタケと[[ホコリタケ属]]の一種([[:en:Lycoperdon|''Lycoperdon'']] sp.)とを同時に与えたほうが顕著に発現したという
<ref>Lei, Z., Zhou1, G.-Y., Liu, J.-A., Li, L., and S.-J. Wang, 2012. "[https://doi.org/10.5897/AJMR12.1578 Using ectomycorrhizal inocula to increase slash pine (''Pinus elliottii'') growth in Southern China]". African Journal of Microbiology Research 6: 6936-6940, {{doi|10.5897/AJMR12.1578}}.</ref>。

北海道産の種子から無菌的に栽培した[[カラマツ]](あるいはカラマツと[[グイマツ]]との一代[[雑種]])の苗に、純粋培養したハツタケの菌株を接種したところ、10日ほどを経て外生菌根が形成されたという報告<ref>QU, L., QUORESHI, A. M., Iwase, K., Tamai, Y., Funada, R., and T. Koike, 2003.[https://hdl.handle.net/2115/22162 In vitro Ectomycorrhiza Formation on Two Larch Species of Seedlings with Six Different Fungal Species] Eurasian Journal of Forest Research, 6: 65-73.</ref> があるが、カラマツ属の純林でハツタケの子実体が自然発生した例は知られていないようである。

純粋培養条件下では、炭素源として[[果糖]]をもっとも好み、これに次いで[[麦芽糖]]・[[マンニット]]・[[ブドウ糖]]などをよく資化する。窒素源としては[[グルタミン酸]]・[[硫酸アンモニウム]]・[[硝酸アンモニウム]]などを好むが、[[尿素]]や[[クエン酸アンモニウム]]・[[リン酸アンモニウム]]などはあまり積極的に利用しないとされている<ref>徐鸿雁・杜双田・孟胜楠、2013. 不同碳氮源对红汁乳菇菌丝生长的影响(Effect of different carbon and nitrogen sources on the growth of ''Lactarius hatsudake'' Tanaka). 西北农林科技大学学报(自然科学版)41: 125-130</ref>。

なお、対峙培養試験において、ハツタケの菌糸は、林木に病原性を示す[[エキビョウキン]]の多くの種の生育を抑制するいっぽう、同じく病原菌として著名な[[フハイカビ]]類については生育をさまたげる性質を示さなかったという<ref>{{Cite book|和書|author=小川眞 |title=菌を通して森をみる : 森林の微生物生態学入門 |publisher=創文 |year=1980 |NCID=BN03359494 |url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001457389-00 |page=279}}</ref>。また、ハツタケの発生地点直下の土壌中における微生物相を調査したところでは、[[細菌]]・[[放線菌]]・[[真菌]]の検出数は非常に小さかったとの報告がある<ref name=kuromatsu/>。

== 類似種 ==
[[アカハツ]](''Lactarius akahatsu'')は、おもに二針葉マツ類の樹下に発生し、子実体が傷つくと緑変することでハツタケと共通しており、しばしば混同されているが、全体に橙色が強く目立ち、乳液も初めは橙色を呈するがハツタケと同様に青緑色に変色する{{sfn|秋山弘之|2024|p=70}}。なお、[[分子系統]]学的解析によれば、ハツタケは、アカハツよりもむしろ [[アカモミタケ]]に近いことが示唆されている<ref name=Thailand/> が、日本・中国およびタイ産のハツタケについての分子系統学的比較からは、ハツタケそのものの遺伝的変異がかなり大きいことが示唆されており<ref>Nuytinck, J., Verveken, A., and S. L. Miller, 2007.[http://www.mycologia.org/content/99/6/820.short Worldwide phylogeny of ''Lactarius'' section ''Deliciosi'' inferred from ITS and glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase gene sequences] Mycologia 99; 820-832.</ref>、種内にいくつかの変種が設けられる可能性もある<ref name=AsianLactarius/>。また、インドネシアから記載された''Lactarius holakii'' Nuytinck & Verbeken も、形態的・分子系統学的にはハツタケにきわめて近い種類であるが、スマトラから移入・植栽された二針葉マツの一種である[[メルクシマツ]]([[:en:Sumatran Pine|''Pinus merkusii'']] Jungh. & de Vriese)の樹下に発生し、子実体はハツタケよりもやや小さく赤みが強いこと・胞子もより小形なこと・ひだの縁には紡錘状ないし槍状のシスチジアを持たないことなどで区別されている<ref name=AsianLactarius/>。

ハツタケに対し、学名として''L. sanguifluus'' (Paulet) Fr. が用いられたこともある<ref name=Sanshi/><ref>{{Cite journal|和書|author=IMAI Sanshi |title=STUDIES ON THE AGARICACEAE OF HOKKAIDO. Ⅱ |journal=北海道帝國大學農學部紀要 |publisher=Hokkaido Imperial University |year=1938 |month=aug |volume=43 |issue=2 |pages=179-378 |naid=120000957260 |url=https://hdl.handle.net/2115/12730}}</ref> が、現在では、類縁関係は認められるものの互いに独立した種であるとする意見が強い<ref name=IandH/>。後者はヨーロッパに広く分布し、[[モンタナマツ]](''Pinus mugo'' Turra)や[[ヨーロッパクロマツ]]([[:en:Pinus nigra|''P. nigra'']] J. F. Arnold)などの五針葉マツ、あるいは二針葉マツの[[ヨーロッパアカマツ]](''P. sylvestris'' L.)などの樹下に発生するが、柄の表面に、不規則に散在する丸く浅いくぼみを持つ点<ref name=AsianLactarius/> や、乳液の青変性が弱く、肉に弱い苦味がある点<ref>Basso, M. T., 1999. Fungi Europaei 7. ''Lactarius'' Pers. Mykoflora, Alassio. . ISBN 8887740003. </ref> などによって区別される。ただし、その一変種である''L. sanguifluus'' var. ''asiatics'' Dörfelt, Kiet & A. Berg;([[ベトナム]]に分布)<ref>Dörfelt, H., Kiet, T.T and A. Berg, 2004. [https://doi.org/10.1002/fedr.200311034 Neue Makromyceten-Kollektionen von Vietnam und dered systematische und ökogeographische Bedeutung] Feddes Repertorium 115: 164-177.</ref> は、子実体が非常に小型なこと(かさの径1-3cm程度)や胞子表面の網状紋様がはるかに繊細なことを除けばハツタケに非常に類似しており、ハツタケと同一種ではないかとする意見もある<ref name=AsianLactarius/>。

ハツタケに対して用いられている''Lactarius hatsudake'' Tanakaの学名は、[[東京大学大学院理学系研究科・理学部|東京帝国大学理科大学]]の菌類学者[[田中延次郎]]による命名で、きのこ類に対し、日本人として初めて単独で新種記載を行って与えた名として知られている。しかし、この学名(記載・命名・発表は1890年<ref name=Tanaka>{{Cite journal|和書|title=On Hatsudake and Akahatsu, Two Species of Japanese Edible Fungi |author=N. Tanaka |journal=植物学雑誌 |publisher=日本植物学会 |volume=4 |issue=45 |pages=392-397 |year=1890 |doi=10.15281/jplantres1887.4.392 |url=https://doi.org/10.15281/jplantres1887.4.392}}</ref>)について、1860年にすでに記載・命名がなされていた''L. lividatus'' <ref name=Berk>Berkeley, M. A., and M. J. Curtis, 1860. Characters of new fungi collected in the North Pacific Exploring Expedition by Charles Wright. Proceedings of American Academy of Arts and Science 4: 111-130.</ref> の[[シノニム]]として扱い、学名の優先権を適用して廃棄する提案がなされている
<ref name=NandD>{{Cite journal|和書|author=根田仁, 土居祥兌 |title=九州産ハラタケ型きのこ類知見 |journal=[https://www.kahaku.go.jp/research/publication/memoir.html 国立科学博物館専報] |ISSN=00824755 |publisher=国立科学博物館 |year=1998 |month=dec |issue=31 |pages=89-95 |naid=110004313403 |url=https://www.kahaku.go.jp/research/publication/memoir.html}}</ref>。''L. lividatus'' の[[タイプ]]標本は、[[奄美大島]]において1855年1月21日に採集されたものである<ref name=NandD/> が、その保存状態は非常に悪く、この標本の検討結果をもとにして提出された''L. hatsudake'' と''L. lividatus'' とが同一種であるとの上記の見解には疑問を呈する研究者もある<ref>{{Cite journal|title=Lactarius sect. Lactifluus and allied species |author=G. Lalli, G. Pacioni |journal=Mycotaxon |volume=44 |issue=1 |pages=155-195 |year=1992 |url=https://www.semanticscholar.org/paper/Lactarius-sect.-Lactifluus-and-allied-species-Lalli-Pacioni/1c3d5371bc15da4973cce63c5a3034e302f8807a}}</ref>。いっぽう''L. hatsudake'' については、タイプ標本はその原記載において指定されておらず、現時点での所在についても不明である<ref name=Thailand/><ref name=Tanaka/>。

''L. hatsudake'' の原記載<ref name=Tanaka/> では、''L. lividatus'' についてハツタケとの類似性を認めながらも「''L. lividatus''は、'''乳液が少なくとも分泌直後の時点では白い'''ことで特徴づけられるグループに分類されており、乳液が鈍い帯紫褐色を呈するハツタケとは別種である」と述べられている。そのいっぽうで、''L.. lividatus'' の原記載では「かさは中央部がくぼみ、柄は上方に細まり、全体に淡赤褐色を呈する:ひだは密で鈍い淡赤色を帯び、青変する:日本に産し、[[チチタケ]]に似る」とされ、乳液の色調については触れられておらず、発生環境周辺の樹種についても記述がない<ref name=Berk/>。いまのところ、ハツタケの学名として''L. hatudake'' と''L. lividatus'' とのいずれを用いるべきであるのかについては、客観的な解決をみていない。

[[File:Nioi-wa-chichi-take.specimens.JPG|thumb|ニオイワチチタケ生品(ハツタケと異なり、まったく青緑色の変色がない)]]
ハツタケに似て、かさや柄が黄褐色を呈し、かさに多少とも同心円状の環紋をあらわすきのことして[[キチチタケ]](''Lactarius chrysorrheus'' Fr.)が知られており、時にはハツタケと混同して採取されることもあるが、キチチタケではひだがほぼ白色~クリーム色(ワイン色を帯びない)であること・乳液が初めは白く、後に黄変すること・多少とも辛味を有すること<ref name=IandH/><ref name=IHandT/> で区別される。[[チョウジチチタケ]](''Lactarius quietus'' (Fr.:Fr.) Fr.)や [[ニオイワチチタケ]](''Lactarius subzonarius'' Hongo)も、大きさや外観が類似しており、かさの表面に同心円状の環紋をあらわすためにまぎらわしいが、これらは主に広葉樹林に発生し、子実体を傷つけても緑変しないことや、ことに乾きかけた子実体において特有の香り(チョウジチチタケでは[[チョウジ]]様<ref>Basso, M. T., 1999. Fungi Europaei 7. ''Lactarius'' Pers. Mykoflora. ISBN 88-87740-00-3. </ref>、ニオイワチチタケでは[[カレー粉]]様<ref name=IandH/>)を放つことなどの点で、区別は容易である。

== 成分 ==
生鮮品は、その重量の87<ref name=Honda>{{Cite book|和書|author=本多静六|authorlink=本多静六 |title=森林家必携 |publisher=林野弘済会 |year=2003 |edition=改訂新版(通計73版) |NCID=BA63368458 |url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000009155515-00}}, {{全国書誌番号|21322208}}</ref> ないし 96<ref name="STFCJ">科学技術庁資源調査会(編)、1998. 四訂日本食品標準成分表. pp. 697. 大蔵省印刷局、東京. ISBN 978-4173116935.</ref> パーセントが水分である。乾重あたりのおおまかな分析値の一例を挙げれば、粗タンパク質 22.2-23.5パーセント、粗脂肪 2.2-7.3パーセント、糖質 37.7-64.4パーセント、粗繊維 6.6-7.6パーセント、灰分 4.4-5.8パーセントという値がある<ref name=Honda/><ref name=STFCJ/>。

=== 香気成分 ===
揮発性成分としては76種が認められている(うち5種は未同定)が、そのうちで比較的多量に含まれていたのは''cis''-イソロンギホレン((2S,4aR)-1,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1,1,5,5-テトラメチル-2H-2,4a-メタノナフタレン)、α-セドレンエポキシド(3a,6,6,9a-テトラメチルドデカヒドロナフト〔2,1-b〕フラン)、フムレンエポキシドIII(4,8,11,11-テトラメチル-1,2-エポキシシクロウンデカ-4,8-ジエン)、クロバン((1R,2R,5R,8S,9S)-4,4,8-トリメチルトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカン)、[[リノレン酸]]および[[パルミトレイン酸]]などであるという。

GC/MS/オルファクトメトリーおよび段階希釈による[[しきい値|閾値]]検出(Aroma Extract Dilution Analysis:AEDA法)などによって解析した結果、ハツタケの香りの構成物質としては、特に[[ヘキサナール]]、4-デヒドロビリディフロロール、ミリオール((1aS,3bβ,6aR, 6bα)-デカヒドロ-1,1,3aβ-トリメチル-6-メチルシクロペンタ-[2,3]シクロプロパ[1,2-a]シクロプロパ[c]ベンゼン-5α-オール)、および[[フェニルアセトアルデヒド]]の4種が重要な役割を果たすと考えられている<ref>Miyazawa, M., Kawauchi, Y., and N. Matsuda, 1977. [http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ffj.1977/abstract Character impact odorants from wild mushroom (''Lactarius hatsudake'') used in Japanese traditional food.] Flavour and Fragrance Journal 25: 197-201, {{DOI:10.1002/ffj.1977}}.</ref>。

=== 呈味成分 ===
[[真空乾燥]]品 100グラム当たり [[シチジル酸|5’CMP]] 198 ミリグラム、[[アデニル酸|5’AMP]] 217 ミリグラム、[[ウリジル酸|5’UMP]] 136 ミリグラム、[[グアニル酸|5’GMP]] 262 ミリグラムが検出され、[[イノシン酸|5’IMP]] は含有されていないという分析例がある<ref>青柳康夫、1997. 4.4 キノコの味. ''in'' 菅原龍幸(編)、キノコの科学. p. 106-113. 朝倉書店、東京. ISBN 4-254-43042-6.</ref>。

=== 色素 ===
色素類のおもなものとして、[[アズレン]]骨格を有する7-(1-ハイドロキシ-1-メチルエチル)-4-メチルアズレン-1-カルボアルデヒド(赤紫色)や4-メチル-7-(1-イソプロピル)アズレン-1-カルボン酸(紫色)<ref>{{PDFlink|[http://www.mycochem.cn/article/uploadfiles/200705/20070517094059814.pdf Fang, L.-Z., Fang, L.-Z., Shao, H.-J., Shoa, H.-J., Yang, W. Q., and J. K. Liu, 2006. Two New Azulene Pigments from the Fruiting Bodies of the Basidiomycete ''Lactarius hatsudake'']}} Helvetica Chimica Acta 89: 1463-1466.</ref>、および 1-[(15E)-ブテン-17-オン]-4-メチル-7-イソプロピルアズレン(緑色)<ref>Fang, L.-Z., Yang, W.-Q., Dong, Z.-J., Shao, H.-J., and J.-K. Liu, 2007.[http://europepmc.org/abstract/cba/634337 A New Azulene Pigment from the Fruiting Bodies of the Basidiomycete ''Lactarius hatsudake'' (Russulaceae)] Acta Botanica Yunnanica 29: 122-124.</ref> が単離されている。

また、[[セスキテルペン]]骨格を持つ'''ラクタリオリン'''(AおよびBに区別される)も含まれており、これはヒトの体内における γ-[[インターフェロン]]の生合成に関与し得るという<ref>Xu, G.-H., Kim, J. W., Ryoo, I.-J., Choo, S.-J., Kim, Y.-H., Seok, S.-J., Ahn, J.-S., and I.-D. Yoo, 2010. [http://www.nature.com/ja/journal/v63/n6/full/ja201043a.html Lactariolines A and B: new guaiane sesquiterpenes with a modulatory effect on interferon-γ production from the fruiting bodies of ''Lactarius hatsudake''] The Journal of Antibiotics 63: 335-337, {{doi:10.1038/ja.2010.43}}</ref>。

=== 脂質 ===
子実体には、[[中性脂肪|中性脂質]] と[[リン脂質]]とがほぼ等比率で含まれている<ref name=Hiroi>広井勝、 1988. きのこ脂質の脂肪酸組成と分類. 日本菌学会会報29: 449-470.</ref>。 [[脂肪酸]]として、[[パルミチン酸]]・[[ステアリン酸]]・[[オレイン酸]]・[[リノール酸]]・α-[[リノレン酸]]が検出されるが、特にステアリン酸(脂肪酸総量の約60パーセント)が多く、リノール酸(同25パーセント)がこれに次ぐ<ref>{{Cite journal|和書|author=広井勝 |title=キノコ脂質の脂肪酸組成について (第1報):分類群間における脂肪酸パターンの比較 |journal=家政学雑誌 |ISSN=0449-9069 |publisher=日本家政学会 |year=1977 |volume=28 |issue=3 |pages=243-246 |naid=130003716831 |doi=10.11428/jhej1951.28.243 |url=https://doi.org/10.11428/jhej1951.28.243}}</ref>。なお、ラクタリン酸(6-オキソオクタデカノン酸 = 6-ケトステアリン酸)は、[[トビチャチチタケ]]・[[ツチカブリ]]・[[ヒメチチタケ]]などから見出された特殊な脂肪酸である<ref>Bougault, J., and C. Chapaux. 1911. Sur L’acide Lactarinique, acide cetostearique, retire de quelques Champignons. Comptes Rendus, Biologies 153: 572-573.</ref> が、ハツタケからは見出されていない<ref name=Hiroi/>。

[[ステロール]]類としては、[[エルゴステロール]]、'''過酸化エルゴステロール'''(エルゴステロールパーオキサイド:5-α-8-α-エピドキシ-(24E,24R)-エルゴスタ-6,22-ジエン-3β-オール)およびその誘導体(5-α-8-α-エピドキシ(24S)-エルゴスタ-6-エン-3β-オールのほか、'''セレビステロール'''((22E, 24R)-エルゴスタ-7,12-ジエン-3β,5α,6β-トリオール)の4種が見出されている。このうち、過酸化エルゴステロールとその誘導体は、[[ヒガシダイヤガラガラヘビ]](''Crotalus adamenteus'' Beauvois)の毒液に含まれる[[ホスホリパーゼ|ホスホリパーゼA2]]に対して、選択的阻害物質として働く一方、[[セイヨウミツバチ]](''Apis mellifera'' L.)毒に由来するホスホリパーゼには作用しない<ref>Gao, J.M., Wang. M., Liu, L. P., Wei, G. H., Zhang, A.L., Draghici, C., and Y. Konishi, 2007. [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17292597 Ergosterol peroxides as phospholipase A(2) inhibitors from the fungus ''Lactarius hatsudake''] Phytomedicine 14: 821-824.</ref>。また、[[ヒト免疫不全ウイルス]]に対して、多少とも抑制作用を示すという報告<ref>Zhang, A.-L., Liu, L.-P., Wang, M., and J.-M. Gao, 2007. Bioactive ergosterol derivatives isolated from the fungus ''Lactarius hatsudake''. Chemistry of Natural Compounds 43: 637-638.</ref> もある。

=== 糖質 ===
ハツタケの熱水抽出物から得られた[[多糖|多糖類]]は、全糖量74.2パーセント・[[ウロン酸]]含量12.5パーセントの組成を有する。構成糖としてはD-[[グルコース]]・D-[[ガラクトース]]・D-[[マンノース]]・D-[[グルクロン酸]]などが検出されているほか、生物からは初の単離例となる 6-デオキシ-D-[[アルトロース]]が見出されている<ref>{{Cite journal|和書|author=土橋康比古, 上地敬子, 小西照子, 何森健, 石田秀治, 木曽真, 田幸正邦 |title=ハツタケからの6-デオキシ-D-アルトロースを置換する多糖の分離・同定 |journal=Journal of Applied Glycoscience Supplement |publisher=日本応用糖質科学会 |year=2008 |volume=日本応用糖質科学会平成20年度大会(第57回)・第16回糖質関連酵素化学シンポジウム |issue=セッションID: Ba-11 |page=51 |naid=130004626662 |doi=10.11541/jsag.2008.0.51.0 |url=https://doi.org/10.11541/jsag.2008.0.51.0}}</ref><ref>Tako, M., Dobashi, Y., Tamaki, Y., Konishi, T., Yamada, M., Ishida, H., and M. Kiso, 2012. [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22277536 Identification of rare 6-deoxy-d-altrose from an edible mushroom (''Lactarius lividatus'')] Carbohydrate Research 350: 25-30.</ref><ref>Tako, M., Dobashi, Y., Shimabukuro, J., Yogi, T., Uechi, K., Tamaki, Y., and T. Konishi, 2013.[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23399268 Structure of a novel alpha-glucan substitute with the rare 6-deoxyd-altrose from ''Lactarius lividatus'' (mushroom)] Carbohydrate Polymers 92: 2135-2140.</ref>。なお、 6-デオキシ-D-アルトロースは、ハツタケにきわめて近縁であるとされる[[アカハツ]]の子実体からも単離されている<ref>{{Cite journal|title=Rare 6-deoxy-D-altrose from the folk medicinal mushroom ''Lactarius akahatsu'' |author=Masakuni Tako, Jyunpei Shimabukuro, Wen W. Jiang, Masashi Yamada, Hideharu Ishida, Makoto Kiso |year=2013|journal=Biochemical Compounds |volume=1|url=http://www.hoajonline.com/journals/pdf/2052-9341-1-5.pdf|doi=10.7243/2052-9341-1-5|publisher=Herbert Open Access Journals|access-date=2022-11-26}}</ref>。

=== 有機酸 ===
もっとも多いのは[[リンゴ酸]](乾物 100グラム当たり2158ミリグラム)であり、これに[[ピログルタミン酸]](同 631ミリグラム)や[[フマル酸]](同 402グラム)などが次いでいる。他に[[クエン酸]]や[[コハク酸]]が含まれており、さらに [[α-ケトグルタル酸]]・[[シュウ酸]]および微量の[[ギ酸]]・[[酢酸]]・[[乳酸]]が検出されている<ref>{{Cite book|和書|author=菅原竜幸 |title=キノコの科学 |publisher=朝倉書店 |year=1997 |series=シリーズ《食品の科学》 |NCID=BA29922178 |chapter=4.1 キノコの主要成分 |ISBN=4254430426 |url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002578013-00}}</ref>。

=== 無機成分 ===
無機成分としてもっとも豊富なのは[[カリウム]]で、灰分の約50パーセントを占めている<ref name=Honda/>。以下、[[鉄]](5.56パーセント)・[[ナトリウム]](3.67パーセント)・[[アルミニウム]](1.34パーセント)と続き、[[カルシウム]]・[[マグネシウム]]・[[亜鉛]]・[[マンガン]]・[[銅]]などが含まれている<ref name=Honda/>。

=== ビタミン ===
分析値の一例として、乾重 100グラム当たり[[エルゴステロール]] 0.19ミリグラム、[[ビタミンC]]12.6ミリグラム、[[リボフラビン|ビタミンB<sub>2</sub>]] 261.6ミリグラムを含むという報告<ref name=Honda/> がなされている。

=== その他 ===
ハツタケの子実体の水抽出物は[[イヌビエ]]や[[アブラナ]]あるいは[[ダイコン]]に対して[[アレロパシー]]を誘引するとされているが、その本態物質はまだ明らかにされていない<ref>Meihua , M., Xiao, O., Zhang, Y., and C. Nie, 2006. Allelopathy of aqueous leachates of ''Lactarius hatsudake'' on several crops and barnyard grass (''Echinochloa crussgalli'' L.). Proceedings, 4th World Congress on Allelopathy, 2006, August, Wagga Wagga, Australia.</ref>。

== 食材として ==
[[日本]]ではマツ林に生え、紛らわしい毒キノコがないことや、傷をつけると青変性があることで古くから知られた食用キノコの一つである<ref name="今関ほか2011"/><ref>Nagasawa, E., 1998. A primary checklist of the Japanese Agaricales II, The Suborder Russulineae. Reports of the Tottori Mycological Institute 36: 36-71.</ref>。香りがよく、味のよいダシが出る<ref name="講談社2013"/>。[[中華人民共和国|中国]]([[雲南省]]および[[湖南省]])でも、食用菌として市場に出されている<ref name=AsianLactarius/><ref name=Market/><ref>Wang X.H., Liu P. and F. Yu, 2004. Colour atlas of wild commercial mushrooms in Yunnan. Yunnan Science and Technology Press, Kunming.</ref>。なお、中国の市場では'''红汁乳菇'''の名で呼ばれ、抗腫瘍活性を有すると信じられている<ref>戴玉成・揚祝良、2008. 中国药用真菌名录及部分名称的修订. 菌物学報 15: 801-824.</ref>。

[[大韓民国|韓国]]あるいは[[ロシア]]でも、商業的規模で消費されているかどうかは不明であるが、少なくとも食用菌として利用されているのは確かであろうという<ref name=AsianLactarius/>。

=== 調理 ===
[[梅雨]]明けのころにも多少出回るが、[[暑中|残暑]]の候から初秋が旬である([[江戸時代]]には[[旧暦]]4月から7月ごろの季節物として扱われていた<ref>長谷川青峰(監修)、1958. 江戸料理集(日本料理大鑑第一巻). 料理古典研究會、東京.</ref>)。

肉質がかたくてもろく、口当たりがぼそぼそしてあまり良くない<ref name="今関ほか2011"/>。傷がついて青緑色に変色したとしても食用には差し支えなく、味や香りにも影響はないが、見栄えを悪くするため、取扱いは慎重にする必要がある<ref>清水桂一、1974. きのこ健康法ー無公害スタミナ食のすすめ. pp.240. グリーンアロー出版社、東京. </ref>。ひだにはしばしば砂粒が入り込んでいるため、一個ずつかさを上方に向け、柄を[[菜箸]]で挟み、別の[[箸]]でかさの上面を軽く叩いて砂粒を落としてから調理する<ref>服部喜太郎(編)、1898. 社会有益秘法 日用宝鑑. pp. 396. 求光閣、東京.</ref><ref name=ryouri1500>料理の友社編輯局(編)、1940. 特撰家庭料理千五百種. 料理の友社、東京.</ref>。口当たりはボソボソしているが、香りがよく、うまみのある[[出汁]]が出る{{sfn|吹春俊光|2010|p=74}}<ref name="今関ほか2011"/>。肉厚で、油を使った料理や[[炊き込みご飯]]、[[煮物]]、[[汁物]]、[[鍋物]]によく合う<ref name="今関ほか2011"/>{{Sfn|瀬畑雄三監修|2006|p=111}}{{sfn|牛島秀爾|2021|p=95}}。[[醤油]]と[[味噌]]で炊き込んだ「初茸ご飯」や、洋風の煮込み料理、[[すき焼き]]、[[鉄板焼き]]、[[バター炒め]]、[[野菜炒め]]などによい{{sfn|吹春俊光|2010|p=74}}{{Sfn|瀬畑雄三監修|2006|p=111}}。

;初茸飯
:江戸時代の料理書である'''料理網目調味抄'''(嘯夕軒宋堅著:享保15年=1730年)に、すでに[[芳飯]](混ぜご飯・[[炊き込みご飯]])の一例としてその名が見える<ref>根田仁、2003. きのこ博物館. 八坂書房、東京. ISBN 978-4-89694-819-6. </ref>。「[[米]]に[[醬油]]と[[日本酒|酒]]とを加へて飯をたき、別にハツタケを味付けおき飯と混ぜるなり。叉初より米と共に煮るも差支へなし。」と紹介された例<ref name=Murakoshi>村越三千男、1937. 大植物図鑑. 大植物図鑑刊行会. </ref> もある。

;[[焼く (調理)|焼き物]]
: [[宮沢賢治]]の童話'''「[[狼森と笊森、盗森]]」'''(大正13年=1924年)では、「だん/\近くへ行って見ると居なくなった子供らは四人共、その火に向いて焼いた[[クリ|栗]]や初茸などをたべてゐました。」という描写がなされている<ref>宮沢賢治(谷川徹三:編)、1981. 童話集 風の又三郎(39刷). 岩波書店、東京. ISBN 978-4-00310-762-1. </ref>。もっとも素朴で、ハツタケの香味を生かした調理法である<ref name=ryouri1500/>。[[村越三千男]]は、[[味噌]]焼き(「よく洗ひ竹串にさし、あぶりて[[サンショウ|山椒]]味噌をつけ竹串をとりかへ皿に盛るなり。」)・醤油焼き(「ハツタケを白水に暫時つけおき、水に洗ひて竹串にさし、醬油に浸けて焼くなり。」)および塩焼き(「ハツタケを水にて洗ひ更に鹽水の中に浸し、暫時すぎて強火に網をかけ其の上にハツタケをのせ程よく焼くなり。」)の三種の調理法を挙げている<ref name=Murakoshi/>。焦がさぬようにあぶったハツタケを、[[柚子|ユズ]]醤油とともに供する場合もある<ref name=ryouri1500/>。

;[[吸い物]]
: [[宮内省]]の[[大膳職]]を務めた石井治兵衛の手になる'''日本料理法大全'''には、[[文政]]二年(1819年)の秋、[[知恩院]]の[[門跡]]が[[江戸]]を来訪したおりに供された[[接待]]料理の一品として、「ハツタケ・[[エノキタケ]]の吸い物」が挙げられている<ref>石井治兵衛(石井秦二郎校訂・清水桂一訳捕)、1965. 日本料理法大全. 第一出版、東京. ASIN: B000JAC8LA</ref>。また、「右の如く鹽水にて洗ひ後笊にあげ別につゆを造り其の中へ[[豆腐]]などと一緒に入るるなり。」と紹介された例<ref name=Murakoshi/> もある。汁の中でひと煮立ちさせてから、余分な水気を切った[[大根おろし]]を加える別法があり、これを特に霙椀(みぞれわん)と称する<ref name=ryouri1500/>。

;[[煮る|煮物]]
:歯触りを残すため、ひたひたの湯を加えてさっと火を通す程度で仕上げ、ハツタケ本来の風味を生かして薄い塩味のみで供する<ref>{{Cite book|和書|author=吉井始子 |title=江戸時代料理本集成 : 翻刻 |publisher=臨川書店 |year=1978 |edition=第1巻 |NCID=BN04012040 |ISBN=9784653003656 |url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000010895963-00}}</ref>。また、[[白身魚]]とともに[[みりん]]・[[酒]]・[[出汁|だし]]汁で煮つける別法があり、これを「すっぽん煮」と呼ぶ<ref name=ryouri1500/>。あるいは、きれいに下ごしらえしたハツタケのかさの裏面に、[[すり身]]にして[[卵白]]と[[片栗粉]]とを加えた[[鶏肉]]を伸ばし、軽く蒸したものをさっと仕上げ煮する方法があり、これを特に「笠の雪」の名で呼ぶ。蒸しあげてから多めの汁で煮て、煮物と吸い物の中間のような仕上げとされることもある<ref name=ryouri1500/>。

;[[漬物]]
:やや長期にわたる保存を目標とする方法としては「松葉漬」と称されるものがある。まず、新鮮なハツタケにひたひたの分量の水を加え、さらにハツタケの重量の20パーセント程度の食塩を加えてさっと茹で上げておく。別に、よく水洗いした[[マツ]]の青葉を用意し、甕または壺の底にこれを敷き詰め、その上に茹でたハツタケを一並べにする。容器の上端まで、松葉とハツタケとを交互に入れ、容器の蓋をしっかり閉じ、紙で目張りをして密封し、冷暗所に蓄える。調理に際しては、流水に浸して塩分を抜く必要がある<ref name=TSUKEMONO>八百繁主人、1922. おいしく出来る家庭つけ物の仕方. pp. 180. 善文社、東京.</ref>。

:また、「辛子漬」とされることもあり、漬け床としては[[麹]]71パーセントと醤油16パーセントおよび[[からし|和がらし]]13パーセントを混合して用いる。あらかじめ少量の食塩で2-3日ほど下漬け(ごく軽い重石を載せる)したハツタケを漬け込み、からしの香りを保つため容器の蓋を紙で目張りして保存し、2か月程度を経たころから供する<ref name=TSUKEMONO/>。これはそのまま食べることができる。

=== 栽培・培養 ===
食用として利用された歴史があるにもかかわらず、日本では、人工栽培の手法についての研究例が少なく、[[マツタケ]]などの増殖法にならい、マツの若齢林の下草刈りや落ち葉・落ち枝の除去を行う程度の段階に留まっている<ref>小川眞(編著)、1992. 野生きのこの作り方. 社団法人全国林業改良普及協会、東京. </ref><ref>衣川堅二郎・小川眞(編著)、2000. きのこハンドブック. 朝倉書店、東京. ISBN 978-4-254-47029-1</ref><ref name=Ohita3>村上康明・松尾芳徳、1998. 菌根性きのこの安定生産技術の開発(Ⅲ). 大分県きのこ研究指導センター業務年報 10: 46-50.</ref><ref>村上康明、2003. 菌根性きのこの安定生産技術の開発(Ⅶ).大分県きのこ研究指導センター業務年報 14: 60-65</ref>。中国では、[[ウンナンアカマツ]]の林地にハツタケの[[培養]]菌株を接種して増殖試験を行い、ヘクタール当り675kgの子実体を収穫した例がある<ref>Tan, Z., Eric, D., Shen, A., and F. U. Shaochun, 2008. Succussful Cultivation of ''Lactarius hatsutake'' —an Evaluation with Molecular Methods. Acta Edulis Fungi 15: 88-91/</ref>。

菌糸体の人工培養に際し、分離源としては子実体のかさ肉や柄の内部組織は不向きで、ひだの断片を用いるべきであるとされている<ref name=JapaneseCulture>{{Cite journal|和書|author=南川幸 |title=食用担子菌類の培養と分類に関する研究(第4報) |journal=名古屋女子大学紀要 |ISSN=02867397 |publisher=名古屋女子大学 |year=1965 |month=mar |issue=11 |pages=63-67 |naid=110000989064 |url=http://id.nii.ac.jp/1103/00000632/}}</ref>。また、アカマツの生葉の煎汁培地上での生育は不良<ref name=JapaneseCulture/> で、菌糸体の大量培養には[[スクロース|ショ糖]]34g ・廃[[糖蜜]]13ml ・[[コムギ|小麦]]の[[糠|ふすま]] 36g ・[[コーンミール]]20g ・[[リン酸二水素カリウム]]3g([[蒸留水]]1000 ml 当り)を用いた液体培地がよく、この培地1リットル当り約18gの培養菌体が得られるという<ref>Ma, H.-M., and M.-H. Mo, 2003. [http://en.cnki.com.cn/Article_en/CJFDTOTAL-SYJB200304008.htm The screening of the submerged Culture Medium for ''Lactarius hatsudake''] Acta Edulis Fungi 10: 34-37.</ref>。なお、培地の[[水素イオン指数|pH]]については5.0前後が最適であるとの報告<ref name=Ohita3/> がある。菌株の系統いかんによっては、無菌栽培したアカマツの苗の根に純粋培養したハツタケを接種することにより、感染苗を作出することが可能であり、場合によっては'''子実体原基'''(ごく幼く、かさや柄・ひだなどが未分化な状態にある'''つぼみ''')が形成されることもある。ただし、原基の形成条件の詳細については不明な点が大きく、確実にこれを誘導する技術は未完成である。さらに、原基が形成された場合であっても、現時点では、それらが完全な子実体として生育をまっとうするまでに至った例はなく、実用化にはさらに検討を行う必要がある<ref>Yamada, A., Ogura, T., and M. Ohmasa, 2001. [https://doi.org/10.1007/s005720000092 Cultivation of mushrooms of edible ectomycohhizal fungi associated with ''Pinus densiflora'' by ''in vitro'' mycorrhizal synthesis] Mycorrhiza 11: 59-66.{{要購読}}</ref>。

=== 歴史 ===
特に[[関東地方]]で親しまれ、'''[[守貞漫稿]]'''(食類-後巻之一)には「初茸売り。山の[[樵|きこり]]や[[八百屋]]がハツタケを売る。[[京阪]]にはハツタケは無い。江戸だけで売られる。」とあり、当時の関西ではあまり人気がなかったのに対し、[[マツタケ]]がほとんど産出しない江戸近辺では、食用としてよく利用されたようである。[[千葉県]]では特に珍重されたといい<ref>{{Cite journal|和書|author=吹春公子 |title=房総きのこ今昔 |journal=[http://chibakin.la.coocan.jp/kaiho26mokuji.html 千葉菌類談話会通信] |issue=26 |publisher=千葉菌類談話会 |date=2010-03 |pages=12-13 |url=http://chibakin.la.coocan.jp/kaihou26/26.p12-13.pdf |format=PDF |ref= harv}}</ref>、旧[[佐倉藩|佐倉堀田藩]]鹿渡村(現在の千葉県[[四街道市]]鹿渡)においては、[[嘉永]]3(1850)年庚戌年(かのえいぬ)九月十日(旧暦)付の回状として「'''初茸 七十ケ 右ハ御用ニテ不足無ク 来ル十三日 四ツ時迄ニ 上納致ス可シ 尤モ軸切下致シ 相納メル可ク候 此廻状 早々順達致ス可ク候 以上'''」の文面が発行された記録がある<ref>{{Cite journal|和書|author=松田弘義 |title=幕末の鹿渡村 |journal=[http://chibakin.la.coocan.jp/kaiho27mokuji.html 千葉菌類談話会通信] |issue=27 |publisher=千葉菌類談話会 |date=2011-03 |pages=20-23 |url=http://chibakin.la.coocan.jp/kaihou27/27p20-23shikawatashi.pdf |format=PDF |ref= harv}}</ref>。

ほかにも、[[佐倉市|佐倉]]近辺の名産品として、[[カキノキ|カキ]]・[[クリ]]・[[ゼンマイ]]・[[ワラビ]]・[[ジュンサイ]]・[[タケノコ]]・[[ブクリョウ]]・[[ショウロ]]などとともに、ハツタケが挙げられた例<ref>佐倉市教育委員会(編)、1977. 新撰佐倉風土記. 佐倉市教育委員会、佐倉. </ref><ref>[[赤松宗旦]]、1938. [[利根川図志]](岩波文庫 黄 203-1:第9刷). 394 pp. 岩波書店、東京. ISBN 978-4-00-302031-9</ref><ref>佐倉市教育委員会・佐倉市文化財保護協会・佐倉市民憲章推進協議会(編)、佐倉風土記. 66 pp. 佐倉市教育委員会、佐倉. </ref> があり、さらに、今を去る百六十年前の[[天保]]十四年、龍腹寺村(現在の千葉県[[印西市]]の一部)在の要蔵という人物の日記に 「'''九月廿日 村方分例年ノ通リ初茸献上致シ候'''」との記事がある。この記述は、近隣の[[淀藩]]大森役所の役人にハツタケを届けた記録であるとみられ、淀(現代の京都付近)や江戸から赴任した舌の肥えた役人(およびその家族)に、龍腹寺村の村民が毎年ハツタケを献上していたのがうかがえる<ref>五十嵐行男、2004. ホンキノコ「初茸」. 月刊 千葉ニュータウン 41: 4. </ref>。

なお、現代の千葉県下において「ハツタケ」の名称で市販されているものの中には、近縁種の[[アカモミタケ]]なども含まれているとされている<ref>{{Cite journal|和書|author=吹春公子 |title=千葉県産ハツタケの正体見たり! |journal=[http://chibakin.la.coocan.jp/kaiho21mokuji.html 千葉菌類談話会通信] |issue=21 |publisher=千葉菌類談話会 |date=2005-03 |pages=23-25 |url=http://chibakin.la.coocan.jp/kaihou21/21p23to25hatsutake.pdf |format=PDF |ref= harv}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author=吹春公子 |title=続千葉県ハツタケ事情 |journal=[http://chibakin.la.coocan.jp/kaiho25mokuji.html 千葉菌類談話会通信] |issue=25 |publisher=千葉菌類談話会 |date=2009-03 |pages=46-48 |url=http://chibakin.la.coocan.jp/kaihou25/25.p46-48.pdf |format=PDF |ref= harv}}</ref>。

食文化の面からではなく、多少とも[[博物学]]的な観点からハツタケについて記述した文献も散見される。たとえば、'''神門郡組下村々産物帳出寄帳'''(1735年=享保20年)では、菌類11種のうちの一つとして初茸の名称が挙げられている<ref>田籠博、2000. 翻刻 神門郡組下村々産物書出寄帳. 島根大学法文学部紀要(言語文化学科編)9: 159-172.</ref>。また'''重修本草綱目啓蒙'''([[小野蘭山]]著、享和3年=1803年:重修としての復刊は弘化4年=1847年)には、「称青頭菌云雲南通志中・而称青紫云呉蕈譜・・・在叢中松樹元・黄赤微含禁色・転藍候触以テ手指・蓋上含ム青斑於尾州産・土名称阿生葉地(雲南通志に云うところの青頭菌であり、あるいは呉蕈譜に云う青紫である…(中略)…松の樹下の草中に発生する。黄赤色で、やや紫色を帯び、手で触れると藍色に変色する。[[尾張国|尾州]]産のものは傘に青斑があり、方言は”あをはち”という)」と記述されているが、「あをはち」という方言名が尾州特有のものであるのか否かは不明である。また、'''[[本朝食鑑]]'''には、「松の樹の日陰の所に生える。庭園でも松が多い所なら、ハツタケの石突を細かく砕いてから米の研ぎ汁に漬け、これを蒔くと、何年かを経て必ず生えてくる。形状はマツタケに似るがより小さく、つぼみの時点からかさが張っている。かさの裏面には細い刻み(=ひだ)がある。かさの上面・下面と柄とは赤黄色で、また木の葉をかぶって生えるので、これを見出すのは大変に難しい。四・五月の雨の後に生えるが、秋の時に比べると多くはなく、八・九月の雨の後に生えるものが最も多い。味は甘くて香気があり、その甘さはマツタケよりまさっているが、香りは(マツタケに)及ばない」と解説されている<ref>人見必大(島田勇雄:現代語訳)、1980. 本朝食鑑 4 (東洋文庫 378).410 pp. 平凡社、東京. ISBN 978-4582803785.</ref>。

いっぽうで'''巻懐食鏡'''(香月牛山著:[[寛政]]2年=1790年)においては、「秋が来ると、山野の松の樹の下に生える。味は甘美で毒は無く、食べられる。傘の裏が緑青色に見える物がよい。味が軽い(?)ので、病人が食べてもよい。[[シメジ]]・[[エノキタケ|ナメススキ]]・ハツタケの三種は、きのこの中の佳品なり。」と説明されている。 '''倭訓栞'''(巻之参:[[谷川士清]]著:[[明治]]32年=1899年)には、「ハツタケ、紫蕈ともいう。ハツは早いことをいう。[[吉備国|備州]]ではアイタケ、尾州ではアオハチ、[[江州 (日本)|江州]]ではアオスリまたはアイスリ、賀州ではマツミミ、[[中国地方|中国]]、[[九州]]ではマツナバという。」との記述がある。日本初の[[方言]]研究書である物類称呼([[越谷吾山]]著:[[安永]]4年=1775年)にも同様の記事があり、すでに江戸時代には、食用菌として全国的に知られていたもののようである。

さらに、'''続江戸砂子'''(菊岡光行著:[[享保]]20年=1735年)には、「江府(=江戸)名産並近在近国」として「小金初茸・[[下総国]][[葛飾郡]][[小金]]之辺、所々出而発:在江府隔六里内外:在[[相模国|相州]][[藤沢市|藤沢]][[戸塚区|戸塚]]辺産、早産比下総:相州之産存微砂而食味下品。下総之産解砂而有風味佳品(小金初茸、下総国葛飾郡小金の辺、所々より出る。江戸より六里程。相州藤沢戸塚辺より出る初茸は、下総より早い。しかし相州産のものは微砂をふくみ、歯にさわってよくない。下総産のものは砂がなく、風味ももっとも佳い)。」との記事<ref>小池章太郎(編)、1976. 江戸砂子 沾凉纂輯. 813 pp. 東京堂出版、東京.</ref> がみえる。おそらくは、[[相模湾]]岸に広がるクロマツ林に産するハツタケと、内陸のアカマツ林に生えるハツタケとを比較したものではないかと思われる。


== ハツタケと文学 ==
秋の[[季語]]の一つとして知られることからも、日本人とハツタケとの関わりが深いものであることが推察される<ref>[[水原秋桜子|水原秋櫻子]]・[[加藤楸邨]]・[[山本健吉]]、1960. 日本大歳時記. 講談社、東京. ISBN 978-4-06128-966-6. </ref>。

* 初茸を 山浅く狩りて 戻りけり [[高浜虚子]]
* 初茸の 無疵に出るや 袂から [[小林一茶|一茶]]
* 初茸や まだ日数 へぬ 秋の露 [[松尾芭蕉|芭蕉]]
* 初茸やひとつにゑくぼひとつづつ 雲津水国
* 初茸や 秋すさまじき 浅茅原 [[籾山梓月]]
* 初茸は われを待つことなく ほうけ [[山口青邨]]
* 月光に濡れて 初茸 ひらきだす 野村東央留
* 初茸のさび声門に秋の風 [[誹風柳多留|柳樽]]七五・8
* 初茸を喰ふと娘の声が錆び
* 青錆に成る初茸の旅労(つか)レ 柳樽八三・75

近代文学の作品中でハツタケの名が現れた例として、[[宮沢賢治]]の作品のうち、「'''狼森と笊森、盗森'''」(前述)のほか、「'''二人の役人'''」の中で、「けれども虫がしんしん鳴き時々鳥が百匹も一かたまりになってざあと通るばかり、一向人も来ないやうでしたからだんだん私たちは恐くなくなってはんのきの下の萱をがさがさわけて'''初茸'''をさがしはじめました。」という描写<ref>宮沢賢治([[宮澤清六|宮沢清六]]:編)、1983. 新修宮沢賢治全集 第9巻 童話2(初版第5刷). 筑摩書房、東京. ISBN 978-4-48070-209-8. </ref> がある。

[[中里介山]]の筆になる長編小説[[大菩薩峠 (小説)|大菩薩峠]]では、その「畜生谷の巻 二十五」および「椰子林の巻 六十五」においてハツタケの名が登場する。畜生谷の巻では「この附近の石占山(いしうらやま)というところは、[[大御所時代|文化文政]]の頃から茸の名所となってはいるが、そこで取れる茸は、松茸(まつたけ)、湿茸(しめじ)、小萩茸(おはぎたけ)、'''初茸(はつたけ)'''、老茸(おいたけ)、鼠茸([[ホウキタケ|ねずみたけ]])というようなものに限ったもので、そこから毒茸が出て、人を殺したという例(ためし)はまだ無い」と描写されている<ref>中里介山、1982. 大菩薩峠 12 畜生谷の巻(時代小説文庫 1-12). pp. 423. 富士見書房、東京. ISBN 978-4829110126.</ref>。いっぽう椰子林の巻には、「その翌朝、昨夜の侵入者と、この庵(いおり)の主(あるじ)なる若い老尼とは、お取膳で御飯を食べました。'''初茸(はつたけ)'''の四寸、[[サケ|鮭]](さけ)のはらら子、生椎茸(なま[[シイタケ|しいたけ]])、茄子([[ナス|なす]])、[[ゴマ|胡麻]]味噌などを取りそろえて、老尼がお給仕に立つと(後略)・・・」との記述がなされている<ref>中里介山、1976. 大菩薩峠 20(ちくま文庫). 筑摩書房、東京. ISBN 4-480-03240-1.</ref>。

[[島崎藤村]]の[[千曲川のスケッチ]](その五 山の温泉)においては、ハツタケについて「最早'''初茸'''を箱に入れて、木の葉のついた樺色(かばいろ)なやつや、緑青(ろくしょう)がかったやつなぞを近在の老婆達が売りに来る」と描写している。また、この作品の別の個所(その五 山中生活)でも、マツ林でのきのこ狩りの様子が描写される中で、ハツタケの名が登場している<ref>島崎藤村、1955. 千曲川のスケッチ. (岩波文庫 緑23-6). pp.236. 岩波書店、東京. ISBN 978-4003102367.</ref>。また、[[立原道造]]が[[盛岡市|盛岡]]に着いて初めて出した実家宛ての私信には、「きのふ會ひました けさもまた'''初茸御飯'''を届けて来ました」の一節がある<ref>立原道造、1973. 立原道造全集 第5巻(書翰). pp. 505. 角川書店、東京. ASIN:B000J99NO6</ref>。

漫画では、[[つげ義春]]の「[[初茸がり]]」を挙げられる。詳細は当該項目を参照。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{Reflist}}
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|author=秋山弘之|title=知りたい会いたい 色と形ですぐわかる 身近なキノコ図鑑|publisher=[[家の光協会]]|date=2024-09-20|isbn=978-4-259-56812-2|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=[[今関六也]]・大谷吉雄・[[本郷次雄]] 編著|title=日本のきのこ|edition=増補改訂新版|publisher=[[山と渓谷社]]|series=山渓カラー名鑑|date=2011-12-25|isbn=978-4-635-09044-5|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=牛島秀爾|title=道端から奥山まで。採って食べて楽しむ菌活 きのこ図鑑|publisher=[[つり人社]]|date=2021-11-01|isbn=978-4-86447-382-8|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=瀬畑雄三監修 家の光協会編|title=名人が教える きのこの採り方・食べ方|publisher=[[家の光協会]]|date=2006-09-01|isbn=4-259-56162-6|ref={{SfnRef|瀬畑雄三監修|2006}} }}
* {{Cite book|和書|author=吹春俊光|others=大作晃一(写真)|title=おいしいきのこ 毒きのこ|publisher=[[主婦の友社]]|date=2010-09-30|isbn=978-4-07-273560-2|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=前川二太郎 編著|title=新分類 キノコ図鑑:スタンダード版|publisher=[[北隆館]]|date=2021-07-10|isbn=978-4-8326-0747-7|ref=harv}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[アカモミタケ]] - モミ林に発生するハツタケに似た食用キノコ。乳液は赤いシミとなって、ほとんど変色しない。
* [[ラクタリウス・インディゴ]](通称 ルリハツタケ)
* [[ルリハツタケ]] - ハツタケと同属で、マツ、シイ、コナラの林に発生する全体が藍青色の食用になるキノコ。乳液は藍色で緑色に変化する。
{{Wikispecies|Lactarius lividatus}}

{{Commons|Lactarius lividatus}}
== 外部リンク ==
{{food-stub}}
* [http://www.kinoco-zukan.net/hatsutake.php ハツタケ] キノコ図鑑
{{Fungi-stub}}
* [http://www.ne.jp/asahi/anesaki/ichihara/rotiku/pages/P1025.htm 初茸狩りの図] -千葉県市原市姉崎郷土資料館

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[[Category:ベニタケ科]]
[[Category:ベニタケ科]]
[[Category:食用キノコ]]
[[Category:食用キノコ]]
[[Category:日本の食文化]]
[[Category:日本の食文化]]

[[pt:Lactarius hatsudake]]

2024年12月16日 (月) 12:34時点における最新版

ハツタケ
アカマツ林内の地上に発生したハツタケ(茨城県那珂市産)
アカマツ林内の地上に発生したハツタケ
茨城県那珂市
分類
: 菌界 Fungi
亜界 : ディカリア亜界 Dikarya
: 担子菌門 Basidiomycota
亜門 : ハラタケ亜門 Agaricomycotina
: ハラタケ綱 Agaricomycetes
: ベニタケ目 Russulales
: ベニタケ科 Russulaceae
: カラハツタケ属 Lactarius
: ハツタケ Lactarius hatsudake
学名
Lactarius hatsudake Nobuj. Tanaka [1][2]
シノニム
和名
ハツタケ

ハツタケ(初茸[3]学名: Lactarius hatsudake)は、担子菌門に属し、ベニタケ目ベニタケ科カラハツタケ属に分類される中型から大型のキノコの一種である。夏から秋にかけて、マツ林に発生する。子実体は傷がつくと赤ワイン色の乳液が出て、ゆっくりと青緑色に代わるのが特徴で、地方によってはアイタケ(藍茸)やロクショウ(緑青)などともよばれる。旨い出汁が出る食用キノコとして知られ[4]、特に千葉県の房総半島では珍重される[3]

名称

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和名

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和名「ハツタケ」は「初茸」の意で、初秋(9月中旬)に他のキノコに先駆けて多く発生するところからの命名とされる[5][6]。命名者は不明であり、この名がいつごろの時代から提唱されたのかも明らかになっていない。

方言名

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岩手愛知滋賀京都などで「あいずり」、青森長野鳥取島根岡山広島および香川小豆島)では「あいたけ」と呼ばれるが、これらは、きのこが傷つくと青緑色に変わることに由来するものと思われる。岐阜愛知静岡などでの「あおはち」・新潟における「あおはつたけ」もまた、同様の理由に基づくものであろう。同様に、きのこの変色性に基づくと思われる方言名としては、青森県・秋田県・岩手県・山形県・千葉県(特に夷隅君津)などにおける「ろくしょう」・「ろくしょうはつたけ」・「ろくしょきのこ」などが挙げられる[7]

秋田県下では「まつきのこ」・「まつしたきのこ」などと称され、千葉県の一部の地方でも「まつしめじ」と呼ぶという。中国地方や九州南部では「まつなば」・北陸地方富山県石川県など)では「まつみみ(なまって「まつみん」・「まつめん」とも)」と呼ぶ地域がある[7]。マツ林で採集される食用菌の代表格とみなされていたものではないかと考えられる。

「はつたけ」の名で扱う地方も少なくなく、これがなまった「はったけ」(岩手県・大分県」・「はつだけ」(秋田県・千葉県外房地方)・「はづたけ」(青森県)「はじたけ」・「はちだけ」(ともに秋田県)などの名も用いられる[7]。ただし、古名がこれらの地方に浸透して連綿と用いられ続けているものかどうかは定かでない。

語源が明らかでない呼称として、新潟県下ではまた、「じんしち」の呼称がある[8]

また「うるみ」(千葉県・茨城県)・「おわかえ」(岩手県)・「てんぐだけ」・「まいたけ」(鳥取県)などがある[7]

宮崎県では、「しゅろなば」(宮崎市山崎町)・「まつしめじ」(小林市生駒)・「まつなば」(えびの市)などの方言名があるほか、和名の「はつたけ」で呼ばれる地域(たとえば川南町坂ノ上・唐瀬原・高鍋町堀ノ内・新富町野口など)もある。このうち、高鍋町や新富町では、ハツタケと同様にマツ林で見出されるシモコシが多量に採取できたおりには、ハツタケは顧みられなかったという。さらに、佐土原町前牟田では、ショウロシモコシのほうが食用きのことしては上等であるとされ、ハツタケを利用する習慣はなかったとされている[9]

沖縄では「まちなば」あるいは「しみじ」の名で呼ばれ、広く食用にされているという[10]

学名

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属名Lactarius は「乳を含む」の意のラテン語で、子実体を傷つけると乳液を分泌する性質に基づく[11]。種形容名のhatudake は和名をそのままラテン語化したものである[12]

分布

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日本では北海道(石狩以南)[13] から沖縄県(沖縄本島)[10] にまで分布する。小笠原諸島にも分布する[14][15][16] が、これは恐らく沖縄から移入・植栽されたリュウキュウマツの根系に付着してともに移入されたものであり、自然分布ではないと考えられる。

日本国外では、韓国[3]中国[17][18][19][20][21]台湾[10][22]タイロシア東部[23]パキスタン[24][25] およびネパール[26] からも報告されている。

形態

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ハツタケ生品(埼玉県所沢市産)のかさ表面・かさ裏面(ひだ)・子実体の側面観、および縦断面(傷つくと暗赤色の乳汁がにじみ、ゆっくり緑変する).

子実体からなり、背が低く、地上からあまり立ち上がらない[5]。傘は直径4 - 17センチメートル (cm) 程度[2]、幼時は半球形から丸山形であるが、生長すると中央がくぼんだまんじゅう形から次第に開いて、ほぼ平らあるいは浅い皿状となる[3][4]。成菌になると、不規則な円形になる[4]。表面は湿った時には弱い粘性がある[2]が乾きやすく、淡い赤褐色ないし淡黄褐色を呈し、やや明瞭な同心円状の環紋をあらわし[3][27]、表皮は剥ぎとりにくい。

傘・柄のは堅く締まっているがもろい肉質で、ほぼ白色でかたく、柄の周辺とヒダの上部は赤ワイン色を呈し[3]、ほとんど無味。僅かに樹脂のような香気があり、傷つけると暗赤色ないし暗赤ワイン色の乳液を少量分泌し、後にゆっくりと青緑色となる[3][4]

ヒダは密で、柄に直生ないし上生、あるいは垂生状に直生し[4]、帯赤褐色ないしブドウ酒色を帯びた褐色を呈し[3]、分岐や連絡脈を生じない。柄は長さ2 - 7 cm[4]のほぼ上下同大で比較的太くて短く、かさより色が淡く、中空ないし中実である[3]。ヒダや柄も、傷つけると赤ワイン色の乳液を分泌し、後に次第に青緑色となるため、古い子実体では、多くの場合は全体に不規則な青緑色のしみを生じている。

柄は中空または中実で、長さ2 - 5 cm、表面は傘とほぼ同色である[2][1]

胞子紋はごく淡いクリーム色を呈する[2]。担子胞子は大きさ7 - 10 × 6 - 7ミリメートル (mm) の広卵形、ところどころで不規則に途切れた網目状の隆起と、先端に丸みを帯びたいぼ(ともに、ヨウ素溶液で青黒色に染まる)に覆われる[2]。側シスチジアには二種のタイプがあり、その一型は細長い槍状ないし狭紡錘状をなし、淡い黄色(ヨウ素溶液中では橙褐色)で粒状の内容物を含み、いま一型はひだの組織に深く埋もれて僅かに突出するに過ぎず、ミミズ状に屈曲し、先端は尖らず、淡褐色の内容物を含んでいる。側シスチジアにも二つの型があり、うち一型は尖った紡錘状で、先端部はしばしば鉛筆の芯状に細まり、もう一型は短いこん棒状で、しばしば多数の隔壁を備える。かさの表皮層は、ゼラチン層に埋もれつつかさの表面に平行に匍匐した菌糸で構成される。菌糸にはかすがい連結を持たない。

生態・生理

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日本では、夏から秋(時に梅雨期)、アカマツクロマツ[17][11]リュウキュウマツ[10]ゴヨウマツ[4]などのマツ類の樹下に発生し、これらの樹木の生きた細根に典型的な外生菌根(フォーク状に二叉分岐し、白色[28] または赤紫色を呈する[29])を形成して生活する。北海道では、植林されたヨーロッパアカマツの樹下に発生し、トウヒ類の林内でも見出されるという[30]

タイでは、三針葉マツ類の一種であるケシアマツPinus kesiya Royle ex Gordon)の樹下に発生する[23]。また、中国においては、同じく三針葉マツ類に属するウンナンマツPinus yunnanensis Franch.)の樹下[18][31] や、二針葉マツの一種であるバビショウPinus massoniana Lambert)の下に発生する[29][18]

外生菌根菌[3](共生性[27])。どちらかといえば未熟な土壌を好む菌であり、有機物のほとんどない状態で発生する[28]。クロマツ・アカマツなどの林内では、おもにH層(新鮮な落ち葉などの下に広がる、腐朽・断片化した有機物の層)からA層(動植物の遺体と土壌とが混じり合って互いの区別が困難になった、有機物に富んだ層)に生息するが、土壌への有機物供給が少ない環境下では、B層(風化が進行した鉱物質の層)や、C層(風化が十分に進行していない母岩層)などに見出されることもしばしばある。また、林齢が小さい若齢林に多いとされる[28]。林内の地中では大形のコロニーを作らず,きのこ(子実体)は小面積に群生する性質がある[28]

アカマツの苗にハツタケの純粋培養菌株を接種して外生菌根を形成させた場合、対照(ハツタケ菌未接種)の苗と比較して、苗の全重量・主根の長さ・側根(径10mm以上)の本数などはそれぞれ50ないし60パーセント増加した[32]。なお、アカマツにハツタケの菌株を接種した場合、乳酸シュウ酸リンゴ酸コハク酸クエン酸などの有機酸(これらは、ハツタケの単独培養下でも見出される)の産生[32] が認められ、それらの総量は、ハツタケの外生菌根が形成されていないアカマツに比較して 1.9倍に達した[33]。中でもシュウ酸の産生がもっとも多く、未感染苗と比較して 100倍にも達した一方、リンゴ酸・クエン酸・コハク酸などが、ハツタケに感染したマツ苗が産生する全有機酸量に占める割合は小さかった[32]。これら有機酸のうち、シュウ酸・クエン酸・コハク酸には、ハツタケの菌糸生長を促す作用があることが見出され、ハツタケとアカマツとの間で外生菌根が形成された場合、両者の生長を促進する働きは、おもにシュウ酸の産生とその再利用とによって誘引されているものと考えられている[32][34]

スラッシュマツ(Pinus elliottii Engelm.)に対しても、樹勢を増強するとともに窒素リンカリウムなどの栄養素の吸収を促進する効果を示したが、その性質は、ハツタケの菌糸を単独でスラッシュマツに接種するよりも、ハツタケとホコリタケ属の一種(Lycoperdon sp.)とを同時に与えたほうが顕著に発現したという [35]

北海道産の種子から無菌的に栽培したカラマツ(あるいはカラマツとグイマツとの一代雑種)の苗に、純粋培養したハツタケの菌株を接種したところ、10日ほどを経て外生菌根が形成されたという報告[36] があるが、カラマツ属の純林でハツタケの子実体が自然発生した例は知られていないようである。

純粋培養条件下では、炭素源として果糖をもっとも好み、これに次いで麦芽糖マンニットブドウ糖などをよく資化する。窒素源としてはグルタミン酸硫酸アンモニウム硝酸アンモニウムなどを好むが、尿素クエン酸アンモニウムリン酸アンモニウムなどはあまり積極的に利用しないとされている[37]

なお、対峙培養試験において、ハツタケの菌糸は、林木に病原性を示すエキビョウキンの多くの種の生育を抑制するいっぽう、同じく病原菌として著名なフハイカビ類については生育をさまたげる性質を示さなかったという[38]。また、ハツタケの発生地点直下の土壌中における微生物相を調査したところでは、細菌放線菌真菌の検出数は非常に小さかったとの報告がある[28]

類似種

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アカハツLactarius akahatsu)は、おもに二針葉マツ類の樹下に発生し、子実体が傷つくと緑変することでハツタケと共通しており、しばしば混同されているが、全体に橙色が強く目立ち、乳液も初めは橙色を呈するがハツタケと同様に青緑色に変色する[5]。なお、分子系統学的解析によれば、ハツタケは、アカハツよりもむしろ アカモミタケに近いことが示唆されている[23] が、日本・中国およびタイ産のハツタケについての分子系統学的比較からは、ハツタケそのものの遺伝的変異がかなり大きいことが示唆されており[39]、種内にいくつかの変種が設けられる可能性もある[18]。また、インドネシアから記載されたLactarius holakii Nuytinck & Verbeken も、形態的・分子系統学的にはハツタケにきわめて近い種類であるが、スマトラから移入・植栽された二針葉マツの一種であるメルクシマツPinus merkusii Jungh. & de Vriese)の樹下に発生し、子実体はハツタケよりもやや小さく赤みが強いこと・胞子もより小形なこと・ひだの縁には紡錘状ないし槍状のシスチジアを持たないことなどで区別されている[18]

ハツタケに対し、学名としてL. sanguifluus (Paulet) Fr. が用いられたこともある[13][40] が、現在では、類縁関係は認められるものの互いに独立した種であるとする意見が強い[17]。後者はヨーロッパに広く分布し、モンタナマツPinus mugo Turra)やヨーロッパクロマツP. nigra J. F. Arnold)などの五針葉マツ、あるいは二針葉マツのヨーロッパアカマツP. sylvestris L.)などの樹下に発生するが、柄の表面に、不規則に散在する丸く浅いくぼみを持つ点[18] や、乳液の青変性が弱く、肉に弱い苦味がある点[41] などによって区別される。ただし、その一変種であるL. sanguifluus var. asiatics Dörfelt, Kiet & A. Berg;(ベトナムに分布)[42] は、子実体が非常に小型なこと(かさの径1-3cm程度)や胞子表面の網状紋様がはるかに繊細なことを除けばハツタケに非常に類似しており、ハツタケと同一種ではないかとする意見もある[18]

ハツタケに対して用いられているLactarius hatsudake Tanakaの学名は、東京帝国大学理科大学の菌類学者田中延次郎による命名で、きのこ類に対し、日本人として初めて単独で新種記載を行って与えた名として知られている。しかし、この学名(記載・命名・発表は1890年[12])について、1860年にすでに記載・命名がなされていたL. lividatus [43]シノニムとして扱い、学名の優先権を適用して廃棄する提案がなされている [44]L. lividatusタイプ標本は、奄美大島において1855年1月21日に採集されたものである[44] が、その保存状態は非常に悪く、この標本の検討結果をもとにして提出されたL. hatsudakeL. lividatus とが同一種であるとの上記の見解には疑問を呈する研究者もある[45]。いっぽうL. hatsudake については、タイプ標本はその原記載において指定されておらず、現時点での所在についても不明である[23][12]

L. hatsudake の原記載[12] では、L. lividatus についてハツタケとの類似性を認めながらも「L. lividatusは、乳液が少なくとも分泌直後の時点では白いことで特徴づけられるグループに分類されており、乳液が鈍い帯紫褐色を呈するハツタケとは別種である」と述べられている。そのいっぽうで、L.. lividatus の原記載では「かさは中央部がくぼみ、柄は上方に細まり、全体に淡赤褐色を呈する:ひだは密で鈍い淡赤色を帯び、青変する:日本に産し、チチタケに似る」とされ、乳液の色調については触れられておらず、発生環境周辺の樹種についても記述がない[43]。いまのところ、ハツタケの学名としてL. hatudakeL. lividatus とのいずれを用いるべきであるのかについては、客観的な解決をみていない。

ニオイワチチタケ生品(ハツタケと異なり、まったく青緑色の変色がない)

ハツタケに似て、かさや柄が黄褐色を呈し、かさに多少とも同心円状の環紋をあらわすきのことしてキチチタケLactarius chrysorrheus Fr.)が知られており、時にはハツタケと混同して採取されることもあるが、キチチタケではひだがほぼ白色~クリーム色(ワイン色を帯びない)であること・乳液が初めは白く、後に黄変すること・多少とも辛味を有すること[17][11] で区別される。チョウジチチタケLactarius quietus (Fr.:Fr.) Fr.)や ニオイワチチタケLactarius subzonarius Hongo)も、大きさや外観が類似しており、かさの表面に同心円状の環紋をあらわすためにまぎらわしいが、これらは主に広葉樹林に発生し、子実体を傷つけても緑変しないことや、ことに乾きかけた子実体において特有の香り(チョウジチチタケではチョウジ[46]、ニオイワチチタケではカレー粉[17])を放つことなどの点で、区別は容易である。

成分

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生鮮品は、その重量の87[47] ないし 96[48] パーセントが水分である。乾重あたりのおおまかな分析値の一例を挙げれば、粗タンパク質 22.2-23.5パーセント、粗脂肪 2.2-7.3パーセント、糖質 37.7-64.4パーセント、粗繊維 6.6-7.6パーセント、灰分 4.4-5.8パーセントという値がある[47][48]

香気成分

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揮発性成分としては76種が認められている(うち5種は未同定)が、そのうちで比較的多量に含まれていたのはcis-イソロンギホレン((2S,4aR)-1,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1,1,5,5-テトラメチル-2H-2,4a-メタノナフタレン)、α-セドレンエポキシド(3a,6,6,9a-テトラメチルドデカヒドロナフト〔2,1-b〕フラン)、フムレンエポキシドIII(4,8,11,11-テトラメチル-1,2-エポキシシクロウンデカ-4,8-ジエン)、クロバン((1R,2R,5R,8S,9S)-4,4,8-トリメチルトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカン)、リノレン酸およびパルミトレイン酸などであるという。

GC/MS/オルファクトメトリーおよび段階希釈による閾値検出(Aroma Extract Dilution Analysis:AEDA法)などによって解析した結果、ハツタケの香りの構成物質としては、特にヘキサナール、4-デヒドロビリディフロロール、ミリオール((1aS,3bβ,6aR, 6bα)-デカヒドロ-1,1,3aβ-トリメチル-6-メチルシクロペンタ-[2,3]シクロプロパ[1,2-a]シクロプロパ[c]ベンゼン-5α-オール)、およびフェニルアセトアルデヒドの4種が重要な役割を果たすと考えられている[49]

呈味成分

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真空乾燥品 100グラム当たり 5’CMP 198 ミリグラム、5’AMP 217 ミリグラム、5’UMP 136 ミリグラム、5’GMP 262 ミリグラムが検出され、5’IMP は含有されていないという分析例がある[50]

色素

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色素類のおもなものとして、アズレン骨格を有する7-(1-ハイドロキシ-1-メチルエチル)-4-メチルアズレン-1-カルボアルデヒド(赤紫色)や4-メチル-7-(1-イソプロピル)アズレン-1-カルボン酸(紫色)[51]、および 1-[(15E)-ブテン-17-オン]-4-メチル-7-イソプロピルアズレン(緑色)[52] が単離されている。

また、セスキテルペン骨格を持つラクタリオリン(AおよびBに区別される)も含まれており、これはヒトの体内における γ-インターフェロンの生合成に関与し得るという[53]

脂質

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子実体には、中性脂質リン脂質とがほぼ等比率で含まれている[54]脂肪酸として、パルミチン酸ステアリン酸オレイン酸リノール酸・α-リノレン酸が検出されるが、特にステアリン酸(脂肪酸総量の約60パーセント)が多く、リノール酸(同25パーセント)がこれに次ぐ[55]。なお、ラクタリン酸(6-オキソオクタデカノン酸 = 6-ケトステアリン酸)は、トビチャチチタケツチカブリヒメチチタケなどから見出された特殊な脂肪酸である[56] が、ハツタケからは見出されていない[54]

ステロール類としては、エルゴステロール過酸化エルゴステロール(エルゴステロールパーオキサイド:5-α-8-α-エピドキシ-(24E,24R)-エルゴスタ-6,22-ジエン-3β-オール)およびその誘導体(5-α-8-α-エピドキシ(24S)-エルゴスタ-6-エン-3β-オールのほか、セレビステロール((22E, 24R)-エルゴスタ-7,12-ジエン-3β,5α,6β-トリオール)の4種が見出されている。このうち、過酸化エルゴステロールとその誘導体は、ヒガシダイヤガラガラヘビCrotalus adamenteus Beauvois)の毒液に含まれるホスホリパーゼA2に対して、選択的阻害物質として働く一方、セイヨウミツバチApis mellifera L.)毒に由来するホスホリパーゼには作用しない[57]。また、ヒト免疫不全ウイルスに対して、多少とも抑制作用を示すという報告[58] もある。

糖質

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ハツタケの熱水抽出物から得られた多糖類は、全糖量74.2パーセント・ウロン酸含量12.5パーセントの組成を有する。構成糖としてはD-グルコース・D-ガラクトース・D-マンノース・D-グルクロン酸などが検出されているほか、生物からは初の単離例となる 6-デオキシ-D-アルトロースが見出されている[59][60][61]。なお、 6-デオキシ-D-アルトロースは、ハツタケにきわめて近縁であるとされるアカハツの子実体からも単離されている[62]

有機酸

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もっとも多いのはリンゴ酸(乾物 100グラム当たり2158ミリグラム)であり、これにピログルタミン酸(同 631ミリグラム)やフマル酸(同 402グラム)などが次いでいる。他にクエン酸コハク酸が含まれており、さらに α-ケトグルタル酸シュウ酸および微量のギ酸酢酸乳酸が検出されている[63]

無機成分

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無機成分としてもっとも豊富なのはカリウムで、灰分の約50パーセントを占めている[47]。以下、(5.56パーセント)・ナトリウム(3.67パーセント)・アルミニウム(1.34パーセント)と続き、カルシウムマグネシウム亜鉛マンガンなどが含まれている[47]

ビタミン

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分析値の一例として、乾重 100グラム当たりエルゴステロール 0.19ミリグラム、ビタミンC12.6ミリグラム、ビタミンB2 261.6ミリグラムを含むという報告[47] がなされている。

その他

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ハツタケの子実体の水抽出物はイヌビエアブラナあるいはダイコンに対してアレロパシーを誘引するとされているが、その本態物質はまだ明らかにされていない[64]

食材として

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日本ではマツ林に生え、紛らわしい毒キノコがないことや、傷をつけると青変性があることで古くから知られた食用キノコの一つである[1][65]。香りがよく、味のよいダシが出る[6]中国雲南省および湖南省)でも、食用菌として市場に出されている[18][19][66]。なお、中国の市場では红汁乳菇の名で呼ばれ、抗腫瘍活性を有すると信じられている[67]

韓国あるいはロシアでも、商業的規模で消費されているかどうかは不明であるが、少なくとも食用菌として利用されているのは確かであろうという[18]

調理

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梅雨明けのころにも多少出回るが、残暑の候から初秋が旬である(江戸時代には旧暦4月から7月ごろの季節物として扱われていた[68])。

肉質がかたくてもろく、口当たりがぼそぼそしてあまり良くない[1]。傷がついて青緑色に変色したとしても食用には差し支えなく、味や香りにも影響はないが、見栄えを悪くするため、取扱いは慎重にする必要がある[69]。ひだにはしばしば砂粒が入り込んでいるため、一個ずつかさを上方に向け、柄を菜箸で挟み、別のでかさの上面を軽く叩いて砂粒を落としてから調理する[70][71]。口当たりはボソボソしているが、香りがよく、うまみのある出汁が出る[3][1]。肉厚で、油を使った料理や炊き込みご飯煮物汁物鍋物によく合う[1][4][27]醤油味噌で炊き込んだ「初茸ご飯」や、洋風の煮込み料理、すき焼き鉄板焼きバター炒め野菜炒めなどによい[3][4]

初茸飯
江戸時代の料理書である料理網目調味抄(嘯夕軒宋堅著:享保15年=1730年)に、すでに芳飯(混ぜご飯・炊き込みご飯)の一例としてその名が見える[72]。「醬油とを加へて飯をたき、別にハツタケを味付けおき飯と混ぜるなり。叉初より米と共に煮るも差支へなし。」と紹介された例[73] もある。
焼き物
宮沢賢治の童話狼森と笊森、盗森(大正13年=1924年)では、「だん/\近くへ行って見ると居なくなった子供らは四人共、その火に向いて焼いたや初茸などをたべてゐました。」という描写がなされている[74]。もっとも素朴で、ハツタケの香味を生かした調理法である[71]村越三千男は、味噌焼き(「よく洗ひ竹串にさし、あぶりて山椒味噌をつけ竹串をとりかへ皿に盛るなり。」)・醤油焼き(「ハツタケを白水に暫時つけおき、水に洗ひて竹串にさし、醬油に浸けて焼くなり。」)および塩焼き(「ハツタケを水にて洗ひ更に鹽水の中に浸し、暫時すぎて強火に網をかけ其の上にハツタケをのせ程よく焼くなり。」)の三種の調理法を挙げている[73]。焦がさぬようにあぶったハツタケを、ユズ醤油とともに供する場合もある[71]
吸い物
宮内省大膳職を務めた石井治兵衛の手になる日本料理法大全には、文政二年(1819年)の秋、知恩院門跡江戸を来訪したおりに供された接待料理の一品として、「ハツタケ・エノキタケの吸い物」が挙げられている[75]。また、「右の如く鹽水にて洗ひ後笊にあげ別につゆを造り其の中へ豆腐などと一緒に入るるなり。」と紹介された例[73] もある。汁の中でひと煮立ちさせてから、余分な水気を切った大根おろしを加える別法があり、これを特に霙椀(みぞれわん)と称する[71]
煮物
歯触りを残すため、ひたひたの湯を加えてさっと火を通す程度で仕上げ、ハツタケ本来の風味を生かして薄い塩味のみで供する[76]。また、白身魚とともにみりんだし汁で煮つける別法があり、これを「すっぽん煮」と呼ぶ[71]。あるいは、きれいに下ごしらえしたハツタケのかさの裏面に、すり身にして卵白片栗粉とを加えた鶏肉を伸ばし、軽く蒸したものをさっと仕上げ煮する方法があり、これを特に「笠の雪」の名で呼ぶ。蒸しあげてから多めの汁で煮て、煮物と吸い物の中間のような仕上げとされることもある[71]
漬物
やや長期にわたる保存を目標とする方法としては「松葉漬」と称されるものがある。まず、新鮮なハツタケにひたひたの分量の水を加え、さらにハツタケの重量の20パーセント程度の食塩を加えてさっと茹で上げておく。別に、よく水洗いしたマツの青葉を用意し、甕または壺の底にこれを敷き詰め、その上に茹でたハツタケを一並べにする。容器の上端まで、松葉とハツタケとを交互に入れ、容器の蓋をしっかり閉じ、紙で目張りをして密封し、冷暗所に蓄える。調理に際しては、流水に浸して塩分を抜く必要がある[77]
また、「辛子漬」とされることもあり、漬け床としては71パーセントと醤油16パーセントおよび和がらし13パーセントを混合して用いる。あらかじめ少量の食塩で2-3日ほど下漬け(ごく軽い重石を載せる)したハツタケを漬け込み、からしの香りを保つため容器の蓋を紙で目張りして保存し、2か月程度を経たころから供する[77]。これはそのまま食べることができる。

栽培・培養

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食用として利用された歴史があるにもかかわらず、日本では、人工栽培の手法についての研究例が少なく、マツタケなどの増殖法にならい、マツの若齢林の下草刈りや落ち葉・落ち枝の除去を行う程度の段階に留まっている[78][79][80][81]。中国では、ウンナンアカマツの林地にハツタケの培養菌株を接種して増殖試験を行い、ヘクタール当り675kgの子実体を収穫した例がある[82]

菌糸体の人工培養に際し、分離源としては子実体のかさ肉や柄の内部組織は不向きで、ひだの断片を用いるべきであるとされている[83]。また、アカマツの生葉の煎汁培地上での生育は不良[83] で、菌糸体の大量培養にはショ糖34g ・廃糖蜜13ml ・小麦ふすま 36g ・コーンミール20g ・リン酸二水素カリウム3g(蒸留水1000 ml 当り)を用いた液体培地がよく、この培地1リットル当り約18gの培養菌体が得られるという[84]。なお、培地のpHについては5.0前後が最適であるとの報告[80] がある。菌株の系統いかんによっては、無菌栽培したアカマツの苗の根に純粋培養したハツタケを接種することにより、感染苗を作出することが可能であり、場合によっては子実体原基(ごく幼く、かさや柄・ひだなどが未分化な状態にあるつぼみ)が形成されることもある。ただし、原基の形成条件の詳細については不明な点が大きく、確実にこれを誘導する技術は未完成である。さらに、原基が形成された場合であっても、現時点では、それらが完全な子実体として生育をまっとうするまでに至った例はなく、実用化にはさらに検討を行う必要がある[85]

歴史

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特に関東地方で親しまれ、守貞漫稿(食類-後巻之一)には「初茸売り。山のきこり八百屋がハツタケを売る。京阪にはハツタケは無い。江戸だけで売られる。」とあり、当時の関西ではあまり人気がなかったのに対し、マツタケがほとんど産出しない江戸近辺では、食用としてよく利用されたようである。千葉県では特に珍重されたといい[86]、旧佐倉堀田藩鹿渡村(現在の千葉県四街道市鹿渡)においては、嘉永3(1850)年庚戌年(かのえいぬ)九月十日(旧暦)付の回状として「初茸 七十ケ 右ハ御用ニテ不足無ク 来ル十三日 四ツ時迄ニ 上納致ス可シ 尤モ軸切下致シ 相納メル可ク候 此廻状 早々順達致ス可ク候 以上」の文面が発行された記録がある[87]

ほかにも、佐倉近辺の名産品として、カキクリゼンマイワラビジュンサイタケノコブクリョウショウロなどとともに、ハツタケが挙げられた例[88][89][90] があり、さらに、今を去る百六十年前の天保十四年、龍腹寺村(現在の千葉県印西市の一部)在の要蔵という人物の日記に 「九月廿日 村方分例年ノ通リ初茸献上致シ候」との記事がある。この記述は、近隣の淀藩大森役所の役人にハツタケを届けた記録であるとみられ、淀(現代の京都付近)や江戸から赴任した舌の肥えた役人(およびその家族)に、龍腹寺村の村民が毎年ハツタケを献上していたのがうかがえる[91]

なお、現代の千葉県下において「ハツタケ」の名称で市販されているものの中には、近縁種のアカモミタケなども含まれているとされている[92][93]

食文化の面からではなく、多少とも博物学的な観点からハツタケについて記述した文献も散見される。たとえば、神門郡組下村々産物帳出寄帳(1735年=享保20年)では、菌類11種のうちの一つとして初茸の名称が挙げられている[94]。また重修本草綱目啓蒙小野蘭山著、享和3年=1803年:重修としての復刊は弘化4年=1847年)には、「称青頭菌云雲南通志中・而称青紫云呉蕈譜・・・在叢中松樹元・黄赤微含禁色・転藍候触以テ手指・蓋上含ム青斑於尾州産・土名称阿生葉地(雲南通志に云うところの青頭菌であり、あるいは呉蕈譜に云う青紫である…(中略)…松の樹下の草中に発生する。黄赤色で、やや紫色を帯び、手で触れると藍色に変色する。尾州産のものは傘に青斑があり、方言は”あをはち”という)」と記述されているが、「あをはち」という方言名が尾州特有のものであるのか否かは不明である。また、本朝食鑑には、「松の樹の日陰の所に生える。庭園でも松が多い所なら、ハツタケの石突を細かく砕いてから米の研ぎ汁に漬け、これを蒔くと、何年かを経て必ず生えてくる。形状はマツタケに似るがより小さく、つぼみの時点からかさが張っている。かさの裏面には細い刻み(=ひだ)がある。かさの上面・下面と柄とは赤黄色で、また木の葉をかぶって生えるので、これを見出すのは大変に難しい。四・五月の雨の後に生えるが、秋の時に比べると多くはなく、八・九月の雨の後に生えるものが最も多い。味は甘くて香気があり、その甘さはマツタケよりまさっているが、香りは(マツタケに)及ばない」と解説されている[95]

いっぽうで巻懐食鏡(香月牛山著:寛政2年=1790年)においては、「秋が来ると、山野の松の樹の下に生える。味は甘美で毒は無く、食べられる。傘の裏が緑青色に見える物がよい。味が軽い(?)ので、病人が食べてもよい。シメジナメススキ・ハツタケの三種は、きのこの中の佳品なり。」と説明されている。 倭訓栞(巻之参:谷川士清著:明治32年=1899年)には、「ハツタケ、紫蕈ともいう。ハツは早いことをいう。備州ではアイタケ、尾州ではアオハチ、江州ではアオスリまたはアイスリ、賀州ではマツミミ、中国九州ではマツナバという。」との記述がある。日本初の方言研究書である物類称呼(越谷吾山著:安永4年=1775年)にも同様の記事があり、すでに江戸時代には、食用菌として全国的に知られていたもののようである。

さらに、続江戸砂子(菊岡光行著:享保20年=1735年)には、「江府(=江戸)名産並近在近国」として「小金初茸・下総国葛飾郡小金之辺、所々出而発:在江府隔六里内外:在相州藤沢戸塚辺産、早産比下総:相州之産存微砂而食味下品。下総之産解砂而有風味佳品(小金初茸、下総国葛飾郡小金の辺、所々より出る。江戸より六里程。相州藤沢戸塚辺より出る初茸は、下総より早い。しかし相州産のものは微砂をふくみ、歯にさわってよくない。下総産のものは砂がなく、風味ももっとも佳い)。」との記事[96] がみえる。おそらくは、相模湾岸に広がるクロマツ林に産するハツタケと、内陸のアカマツ林に生えるハツタケとを比較したものではないかと思われる。


ハツタケと文学

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秋の季語の一つとして知られることからも、日本人とハツタケとの関わりが深いものであることが推察される[97]

  • 初茸を 山浅く狩りて 戻りけり 高浜虚子
  • 初茸の 無疵に出るや 袂から 一茶
  • 初茸や まだ日数 へぬ 秋の露 芭蕉
  • 初茸やひとつにゑくぼひとつづつ 雲津水国
  • 初茸や 秋すさまじき 浅茅原 籾山梓月
  • 初茸は われを待つことなく ほうけ 山口青邨
  • 月光に濡れて 初茸 ひらきだす 野村東央留
  • 初茸のさび声門に秋の風 柳樽七五・8
  • 初茸を喰ふと娘の声が錆び
  • 青錆に成る初茸の旅労(つか)レ 柳樽八三・75

近代文学の作品中でハツタケの名が現れた例として、宮沢賢治の作品のうち、「狼森と笊森、盗森」(前述)のほか、「二人の役人」の中で、「けれども虫がしんしん鳴き時々鳥が百匹も一かたまりになってざあと通るばかり、一向人も来ないやうでしたからだんだん私たちは恐くなくなってはんのきの下の萱をがさがさわけて初茸をさがしはじめました。」という描写[98] がある。

中里介山の筆になる長編小説大菩薩峠では、その「畜生谷の巻 二十五」および「椰子林の巻 六十五」においてハツタケの名が登場する。畜生谷の巻では「この附近の石占山(いしうらやま)というところは、文化文政の頃から茸の名所となってはいるが、そこで取れる茸は、松茸(まつたけ)、湿茸(しめじ)、小萩茸(おはぎたけ)、初茸(はつたけ)、老茸(おいたけ)、鼠茸(ねずみたけ)というようなものに限ったもので、そこから毒茸が出て、人を殺したという例(ためし)はまだ無い」と描写されている[99]。いっぽう椰子林の巻には、「その翌朝、昨夜の侵入者と、この庵(いおり)の主(あるじ)なる若い老尼とは、お取膳で御飯を食べました。初茸(はつたけ)の四寸、(さけ)のはらら子、生椎茸(なましいたけ)、茄子(なす)、胡麻味噌などを取りそろえて、老尼がお給仕に立つと(後略)・・・」との記述がなされている[100]

島崎藤村千曲川のスケッチ(その五 山の温泉)においては、ハツタケについて「最早初茸を箱に入れて、木の葉のついた樺色(かばいろ)なやつや、緑青(ろくしょう)がかったやつなぞを近在の老婆達が売りに来る」と描写している。また、この作品の別の個所(その五 山中生活)でも、マツ林でのきのこ狩りの様子が描写される中で、ハツタケの名が登場している[101]。また、立原道造盛岡に着いて初めて出した実家宛ての私信には、「きのふ會ひました けさもまた初茸御飯を届けて来ました」の一節がある[102]

漫画では、つげ義春の「初茸がり」を挙げられる。詳細は当該項目を参照。

脚注

[編集]
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参考文献

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関連項目

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  • アカモミタケ - モミ林に発生するハツタケに似た食用キノコ。乳液は赤いシミとなって、ほとんど変色しない。
  • ルリハツタケ - ハツタケと同属で、マツ、シイ、コナラの林に発生する全体が藍青色の食用になるキノコ。乳液は藍色で緑色に変化する。

外部リンク

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