ツチカブリ
ツチカブリ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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薄暗い林内でもよく目立つ
ツチカブリの子実体 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Lactarius piperatus (L.) Fr. | |||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
ツチカブリ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Peppery Milk-Cap |
ツチカブリ(Lactarius piperatus (L.) Fr.)はベニタケ科チチタケ属のツチカブリ節(Section Albati)に分類されるキノコの一種。
形態
[編集]かさは直径2 - 8cm程度、幼時は半球形であるが次第に開いて、ほとんど平らあるいは浅い皿状となる。表面は湿った時には弱い粘性があるが乾きやすく、乾けばいくぶん粉状をなし、しばしば微細なちりめん状のしわをあらわすことがあり、ほぼ白色であるが老成すれば不規則な淡褐色のしみを生じ、環紋を生じることはなく、表皮は剥ぎとりにくい。
かさ・柄の肉は堅くしまってはいるがもろい肉質で、白色を呈し、傷つけても変色することはなく、グアヤク脂のエチルアルコール溶液(グアヤクチンキ)や水酸化カリウム水溶液を滴下しても、ほとんど反応しない。ホルマリンによって、すみやかに青紫色に変色し、硫酸鉄(II)水溶液で淡い赤紫色となる性質がある。特別なにおいはないが、きのこを傷つけると多量に分泌される白色の乳液は著しい辛味を持つ。
ひだはごく密で柄に直生ないし上生(もしくは垂生状に直生)し、白色であるが老成すればいくぶんクリーム色を帯び、しばしば赤褐色のしみを生じ、しばしば二又分岐し、幅は狭い。柄はほぼ上下同大で長さ2-9cm、径1-3cm程度、表面は粘性なくかさとほぼ同色、中実で堅くしまっている。
胞子紋はごく淡いクリーム色を呈する。胞子は広卵形ないし類球形で、ごく微細ないぼと、個々のいぼの基部同士を連結する細い脈(ヨウ素溶液で青黒色に染まる)とをこうむる。シスチジアは、ひだの側面にも縁にもひんぱんに認められ、細長い紡錘形ないし円筒状または中間部が膨らんだ便腹状をなし、無色あるいは淡黄色(ヨウ素溶液中では明るい橙黄色)で、先端はしばしば尖っている。かさの表皮層は僅かにゼラチン化することがあり、かさの表面に平行に匍匐した菌糸で構成されており、個々の菌糸の末端細胞は時にやや立ち上がっているが、かさシスチジアは認められない。きのこの組織中には、不規則に屈曲した太い菌糸(隔壁は少ない)が混在し、その内部には微細な泡状をなして乳液が満たされている。すべての菌糸は、隔壁部にかすがい連結を持たない。
生態
[編集]夏から秋にかけ、広葉樹(ブナ・ミズナラ・コナラ・クヌギ・クリ・シイ・シラカンバなど)の林内、あるいはこれらの樹木と針葉樹(アカマツ・モミ・ツガ・カラマツなど)との混交林内の地上に発生する。これらの樹木の生きた細根に外生菌根を形成して生活していると考えられ、培養は難しい。
分布
[編集]北半球全域に広く産し、オーストラリアにも分布する。日本では、北海道から沖縄県(名護市・石垣島・西表島)までの地域で分布が確認されている[1][2]。
類似種
[編集]アオゾメツチカブリ(Lactarius glaucescens Crossland)は、ツチカブリの一変種としてとりあつかわれることもあるが、全体にやや小形であること・乳液は初めは白色であるが、次第に鈍い灰緑色に変色すること・胞子表面の細い脈が、ときに繊細な網目状をなすことなどの点で区別されている。ツチカブリモドキ(Lactarius subpiperatus Hongo)は、ひだがはるかに疎であることで異なる。さらにケシロハツ(Lactarius velleus (Fr.) Fr.)や ケシロハツモドキ(Lactarius subvelleus (Fr.) Fr.)は、かさや柄の表面が粗毛におおわれている点で区別される。これらは、いずれも白色の乳液を分泌し、著しい辛味を有する点で共通しており、ツチカブリ節(Section Albati)にまとめられている。
分類学上の位置づけ
[編集]本種は、形態分類学上のチチタケ属(Lactarius)のタイプ種である。分子系統解析の結果からは、 むしろチチタケ(Lactarius volemus(Fr.) Fr.)に近縁であり、外観が類似していてツチカブリとともにツチカブリ節(Section Albati)に置かれているケシロハツとは、むしろやや縁が遠い。この一例からして、形態情報のみによる従来の分類体系は、チチタケ属に対しては信頼性に欠ける点があると考えられる。最近では、形態分類に基づく旧来の概念によるチチタケ属の一部と、同じくベニタケ属(Russula)の一部とを併合し、新属ウズゲツチイロタケ属(Multifurca)が提案されている[3]。
食・毒性
[編集]あまりにも辛味が強いことから、従来は日本でも海外でも「有毒」あるいは「食用に不適」であるとして扱われてきた。実際に、本種が原因となって、胃痛や嘔吐などの消化器系統の中毒症状をきたしたと思われる例も知られている[4].
きのこを小さく刻み、じゅうぶんに水にさらすことで、強い刺激性を持つ乳液を洗い去れば食用にできる。さらに、ゴマ油のような沸点の高い油脂で熱処理すれば、辛味は消えるとされている。また、青トマトなどとともに、香辛料や岩塩を用いて漬け込んだものは、ロシア料理では高級な前菜として賞味されるという[5]。
成分
[編集]脂肪酸として、ステアリン酸・オレイン酸・リノール酸などを含有しているが、特にステアリン酸の存在比率が高く、一方でラクタリン酸(6-keto ステアリン酸)が存在しないのが特徴である[6]。本種には二種類のチアミナーゼが含まれており、少なくとも長期的に食用に供することは避けるのが賢明であると考えられる[7]。このほかに、0.13-0.25%(乾燥した子実体に対する重量比)のゴム質も含有されている[8]。
なお、ツチカブリの子実体からは、ラクタピペロラノール(A-D)ほか8種のセスキテルペン系化合物が見出されているが、すべてが自然界では未知のものであったという[9][10]。さらに、ツチカブリの二次代謝産物の中には、オーキシン類似の発根ホルモンが含まれており、ハシバミやブナ・ナラなどの発根を促す作用があるという[11]。
名称
[編集]和名は古名を採用したものであるという[12]が、その出典は明らかではない[13]。なお、別名としてカワチチタケの名も用いられることがある。従来、カワチチタケにはLactarius pergameus (Sowerby: Fr.) Fr. の学名が与えられ、別種として扱われていたが、現在ではツチカブリと同一種であるとされている。
方言名としては、ツチモグリ(土潜り)・ジワリ(地割り)・カラバチ(辛初)などの呼び名がある[14][15]。
種小名のpiperatus は「コショウの(ように辛い)」の意味で、乳液の辛味に着目したものである[16]。英語圏ではPeppery Milk-Cap、ドイツ語圏ではPfeffer-milchlingの名で呼ばれ、ともに「コショウチチタケ」の意である。
脚注
[編集]- ^ 宮城元助、1964. 沖縄島産マツタケ目について. 琉球大学文理学部紀要(理学扁) 7:57-70.
- ^ 宮城元助、1971. 西表島・石垣島産マツタケ目 Agaricales について(1). 沖縄生物学会誌 7:33-37.
- ^ Buyck B, Hofstetter V, Eberhardt U, Verbeken A, Kauff F. (2008). “Walking the thin line between Russula and Lactarius: the dilemma of Russula subsect. Ochricompactae.” (PDF). Fungal Diversity 28 28: 15–40 2011年11月12日閲覧。.
- ^ 長沢栄史、2003. フィールドベスト図鑑 日本の毒きのこ. 学研マーケティング. ISBN 9784054018822
- ^ 今関六也・本郷次雄、1973. カラー自然ガイド きのこ. 保育社. ISBN 978-4586400089
- ^ 広井勝、1988. きのこ脂質の脂肪酸組成と分類. 日本菌学会会報29: 449-470.
- ^ 脇田正二、1976. ツチカブリ、コウジタケおよびヒラフスベによるビタミンB1分解物. 日本農芸化学会誌50:373-375.
- ^ Tanaka, Y., Kawahara, S., Eng, A.-H., Takei, A., and N. Ohya, 1994. Structure of cis-polyisoprene from Lactarius mushrooms. Acta biochimica Polonica 41: 303-309.
- ^ Yaoita, Y., Machida, K., and M. Kikuchi, 1999. Structures of New Marasmane Sesquiterpenoids from Lactarius piperatus (Scop.: Fr.) S. F. Gray. Chemical and Pharmaceutical Bulletin 47: 894—896.
- ^ Wang, Y., Yang, S.-P., Yue1, J.-., Chow, S., and W. Kitching, 2003. Novel Sesquiterpenes from the Fungus Lactarius piperatus. Helvetica Chimica Acta 86:2424-2433.
- ^ Mohan, J. S., Gupta, P. K., and R. J. Newton, 1999. Somatic embryogenesis in woody plants. Springer. ISBN 9780792330707
- ^ 勝本謙、2010. 日本産菌類集覧. 日本菌学会関東支部. ISBN 978-4-87974-624-5
- ^ 白井光太郎(原攝祐:編)、1981. 訂正増補日本菌類目録(復刻版). 有明書房. ISBN 978-4-87044-048-7
- ^ 松川仁、1980. キノコ方言 原色原寸図譜. 東京新聞出版部. ISBN 978-4-80830-030-2
- ^ 奥沢康正・奥沢正紀、1999. きのこの語源・方言事典. 山と溪谷社. ISBN 978-4-63588-031-2
- ^ 今関六也・本郷次雄・椿啓介、1970. 標準原色図鑑全集14 菌類(きのこ・かび). 保育社. ISBN 978-4-58632-014-1
参考文献
[編集]- 今関六也・本郷次雄 編『原色日本新菌類図鑑(II)』保育社、1989年5月。ISBN 4-586-30076-0。
- Basso, M. T., 1999. Fungi Europaei 7. Lactarius Pers. Mykoflora. ISBN 88-87740-00-3
外部リンク
[編集]- Lactarius piperatus(英文ページ)
- Lactarius piperatus -Mushroom Expert.com
- Lactarius piperatus -Russula News