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人工知能

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人工知能(じんこうちのう、: artificial intelligence)、AI(エーアイ)とは、「『計算computation)』という概念と『コンピュータcomputer)』という道具を用いて『知能』を研究する計算機科学computer science)の一分野」を指す語[1]。「言語理解推論問題解決などの知的行動人間に代わってコンピューターに行わせる技術[2]、または、「計算機(コンピュータ)による知的な情報処理システム設計や実現に関する研究分野」ともされる[3]。大学でAI教育研究は、情報工学科[4][5][6]情報理工学科コンピュータ科学専攻などの組織で行われている[4][7]工学〔エンジニアリング〕とは、数学・化学・物理学などの基礎科学を工業生産に応用する学問[8][注釈 1])。

日本大百科全書(ニッポニカ)』の解説で、情報工学者・通信工学者の佐藤理史は次のように述べている[1]

誤解を恐れず平易にいいかえるならば、「これまで人間にしかできなかった知的な行為(認識、推論、言語運用、創造など)を、どのような手順(アルゴリズム)とどのようなデータ(事前情報や知識)を準備すれば、それを機械的に実行できるか」を研究する分野である[1]

1200の大学で使用された事例がある計算機科学の教科書『エージェントアプローチ人工知能』[10]は、最終章最終節「結論」で、未来はどちらへ向かうのだろうか?と述べて次のように続ける[11]SF作家らは、筋書きを面白くするためにディストピア的未来を好む傾向がある[11]。しかし今までのAIや他の革命的な科学技術(出版・配管・航空旅行・電話システム)について言えば、これらの科学技術は全て好影響を与えてきた[11]。同時にこれらは不利な階級へ悪影響を与えており、われわれは悪影響を最小限に抑えるために投資するのがよいだろう[11]。論理的限界まで改良されたAIが、従来の革命的技術と違って人間の至高性を脅かす可能性もある[11]。前掲書の「結論」は、次の文で締めくくられている[11]

結論として、AIはその短い歴史の中で大いに発達したが、アラン・チューリングの「計算機械と知能」(1950年)という小論の最後の文は今も有効である。つまり
「われわれは少し先までしか分からないが、多くのやるべきことが残っているのは分かる」[11][注釈 2]

概要

「人工知能」の定義・解説

出典 定義・解説
日本語辞典『広辞苑 推論・判断などの知的な機能を備えたコンピューター・システム[12]
百科事典『ブリタニカ百科事典 科学技術 > コンピュータ … 人工知能(AI)。一般的に知的存在に関連している課題をデジタルコンピュータやコンピュータ制御のロボットが実行する能力〔アビリティ〕[13]
人工知能学会記事「教養知識としてのAI」 『人工知能とは何か』という問いに対する答えは,単純ではない.人工知能の専門家の間でも,大きな議論があり,それだけで1 冊の本となってしまうほど,見解の異なるものである.そのような中で,共通する部分を引き出して,一言でまとめると,『人間と同じ知的作業をする機械を工学的に実現する技術』といえるだろう[14]
学術論文「深層学習と人工知能」 人工知能は,人間の知能の仕組みを構成論的に解き明かそうとする学問分野である[15]
学術論文「人工知能社会のあるべき姿を求めて」 人工知能をはじめとする情報技術はあくまでツール[16]

人間の知的能力をコンピュータ上で実現する、様々な技術・ソフトウェアコンピュータシステムとも言われる[17]。応用例としては、自然言語処理機械翻訳かな漢字変換構文解析形態素解析等)[18][19]、専門家の推論・判断を模倣するエキスパートシステム、画像データを解析し特定のパターンを検出・抽出する画像認識等がある[17]

概史

人工知能という分野では、コンピュータの黎明期である1950年代から研究開発が行われ続けており、第1次の「探索と推論」,第2次の「知識表現」というパラダイムで2回のブームが起きたが、社会が期待する水準に到達しなかったことから各々のブームの後に冬の時代を経験した[20]

しかし2012年以降、Alexnetの登場で画像処理におけるディープラーニングの有用性が競技会で世界的に認知され、急速に研究が活発となり、第3次人工知能ブームが到来[21]。2016年から2017年にかけて、ディープラーニングと強化学習(Q学習、方策勾配法)を導入したAIが完全情報ゲームである囲碁などのトップ棋士、さらに不完全情報ゲームであるポーカーの世界トップクラスのプレイヤーも破り[22][23]麻雀では「Microsoft Suphx(Super Phoenix)」がオンライン対戦サイト「天鳳」でAIとして初めて十段に到達する[24]など最先端技術として注目された[25]。第3次人工知能ブームの主な革命は、自然言語処理、センサーによる画像処理など視覚的側面が特に顕著であるが、社会学、倫理学、技術開発、経済学などの分野にも大きな影響を及ぼしている[26]

第3次人工知能ブームが続く中、2022年11月30日にOpenAIからリリースされた生成AIであるChatGPTが質問に対する柔軟な回答によって注目を集めたことで、企業間で生成AIの開発競争が始まる[27][18]とともに、積極的に実務に応用されるようになった[28]。この社会現象を第4次人工知能ブームと呼ぶ者も現れている[29]

一方、スチュアート・ラッセルらの『エージェントアプローチ人工知能』は人工知能の主なリスクとして致死性自律兵器監視と説得偏った意思決定雇用への影響セーフティ・クリティカル〔安全重視〕な応用サイバーセキュリティを挙げている[30]。またラッセルらは『ネイチャー』で、人工知能による生物の繁栄と自滅の可能性[31]や倫理的課題についても論じている[32][33]。マイクロソフトは「AI for Good Lab」(善きAI研究所)を設置し、eラーニングサービス「DeepLearning.AI」と提携している [34]

研究開発事例

Googleはアレン脳科学研究所と連携し脳スキャンによって生まれた大量のデータを処理するためのソフトウェアを開発している。2016年の時点で、Googleが管理しているBrainmapのデータ量はすでに1ゼタバイトに達しているという[35][36]。Googleは、ドイツのマックスプランク研究所とも共同研究を始めており、脳の電子顕微鏡写真から神経回路を再構成するという研究を行っている[37]。これらの大型脳研究計画は、米国や欧州で立ち上がっている。

中国では2016年の第13次5カ年計画からAIを国家プロジェクトに位置づけ[38]、脳研究プロジェクトとして中国脳計画英語版も立ち上げ[39]、官民一体でAIの研究開発を推進している[40]。中国の教育機関では18歳以下の天才児を集めて公然とAI兵器の開発に投じられてもいる[41]マサチューセッツ工科大学(MIT)のエリック・ブリニョルフソン英語版教授や情報技術イノベーション財団英語版などによれば、中国ではプライバシー意識の強い欧米と比較してAIの研究や新技術の実験をしやすい環境にあるとされている[42][43][44]。日本でスーパーコンピュータの研究開発を推進している齊藤元章もAIの開発において中国がリードする可能性を主張している[45]。世界のディープラーニング用計算機の4分の3は中国が占めてるともされる[46]。米国政府によれば、2013年からディープラーニングに関する論文数では中国が米国を超えて世界一となっている[47]FRVT英語版ImageNetなどAIの世界的な大会でも中国勢が上位を独占している[48][49]。大手AI企業Google、マイクロソフトAppleなどの幹部でもあった台湾系アメリカ人科学者の李開復は中国がAIで覇権を握りつつあるとする『AI超大国:中国、シリコンバレーと新世界秩序英語版』を著してアメリカの政界やメディアなどが取り上げた[50][51]

フランス大統領エマニュエル・マクロンはAI分野の開発支援に向け5年で15億ドルを支出すると宣言し[52]、AI研究所をパリに開き、フェイスブック、グーグル、サムスン、DeepMind、富士通などを招致した。イギリスともAI研究における長期的な連携も決定されている。EU全体としても、「Horizon 2020」計画を通じて、215億ユーロが投じられる方向。韓国は、20億ドルを2022年までに投資をする。6つのAI機関を設立し褒賞制度も作られた。目標は2022年までにAIの世界トップ4に入ることだという[53]

日経新聞調べによると、国別のAI研究論文数は1位米国、2位中国、3位インド、日本は7位だった[54]

応用例

人工知能が突如として爆発的に成長する中、人間のために役立つ人工知能という考え方もこれまで以上に重要になっている[55]

脳神経科学・計算神経科学

計算神経科学や人工知能の産物であるChatGPTと同様の言語モデルは、逆に今、脳神経科学研究の理解に寄与している[56]

医療・医用情報工学・メドテック

医療現場ではAIが多く活用されており、最も早く導入されたのは画像診断と言われている。レントゲンやMRI画像の異常部分を検知することで、病気の見逃し発見と早期発見に役立っている。また、AIがカルテの記載内容や患者の問診結果などを解析できるよう、自然言語処理技術の発展も進んでいる。今後はゲノム解析による疾病診断、レセプトの自動作成、新薬の開発などが行えるよう期待されている[57]

また、症例が少ない希少疾患の場合、患者の個人情報の保護が重要になるため、データを暗号化した状態で統計解析を行う秘密計算技術にAIを活用して、データの前処理、学習、推論を行えることを目指す研究が行われている[58]

スマート農業・アグリテック

AIを搭載した収穫ロボットを導入することで、重労働である農作業の負担を減らしたり、病害虫が発生している個所をAIでピンポイントで見つけだして、農薬散布量を必要最小限に抑えたりすることが可能になる。また、AIで事前に収穫量を正確に予測できれば、出荷量の調整にも役立つ。[59]

Googleは農作物のスキャニングと成長記録を行う農業AIロボット「Don Roverto」を開発。多くの苗の個体識別を行い実験を繰り返すことで、厳しい環境下でも耐えられる気候変動に強い種を瞬時に見つけ出せる[60]

児童保護

子どものネット上の安全に人工知能を入れることは、国連や欧州連合で継続的に注目されている[61][62]

日常生活

2023年現在、人工知能を用いたサービスが日常生活に浸透してきている。PCやスマートフォンの画像認識による生体認証や音声認識によるアシスタント機能はすでに普通のサービスとなっている。AIスピーカーが普及してきており、中国製掃除ロボットに自動運転技術が応用されている[63]

自動車の自動運転は、2023年4月にレベル4(一定条件下で完全に自動化した公道での走行)が解禁された。福井県永平寺町では実証実験に成功しており、2023年度中に運転許可を申請する方向で検討している[64]

2022年秋にChatGPTが公開されて以来、生成AIの活用も日常化しつつある。人工知能は未だに指示(専門用語でプロンプトと言う)に対して誤った回答を返すことも多いため、誤った回答を抑制するための過渡期の手法としてプロンプトエンジニアリングという手法も実践されている。加速度的な人工知能の性能向上を考慮した場合、遅くとも2020年代の内には人間との対話と同等の質問応答が可能となるため、プロンプトに対する人工知能特有の工夫は不要となる見通しがある[65]

文化・芸術

音楽分野においては、既存の曲を学習することで、特定の作曲家の作風を真似て作曲する自動作曲ソフトが登場している。またリズムゲームに使われるタッチ位置を示した譜面を楽曲から自動生成するなど分野に特化したシステムも開発されている[66]

画像生成の技術としては、VAEGAN拡散モデルといった大きく分けて三種類が存在する。絵画分野においては、コンセプトアート用背景やアニメーションの中割の自動生成、モノクロ漫画の自動彩色など、人間の作業を補助するAIが実現している[67][68][69]。AIに自然言語で指定したイラスト生成させるサービス(Stable Diffusionなど)も登場している[70]。このような人工知能を利用して制作された絵画は「人工知能アート(Artificial intelligence art)」と呼ばれているが、教師データとして利用された著作物知的財産権などを巡り、深刻な懸念が広がっている[71]

将棋AIは人間同士・AI同士の対局から学習して新しい戦法を生み出しているが、プロ棋士(人間)の感覚では不可解ながら実際に指すと有用であるという[72]

スポーツの分野では、AIは選手の怪我のリスクやチームのパフォーマンスを予測するのに役立つ[73]

メタ分析によれば、AIが政治的な意思決定を行うことも、2020年時点では学術界ではまだ注目されておらず、AIと政治に関するトピックは、学術界ではビッグデータやソーシャルメディアにおける政治的問題に関する研究が中心となっていた[74]。人工知能による人類絶滅の危険を懸念する声が存在するが[75] [76][77][78][79]、一方で平和を促進するための文化的な応用も存在する[80]。系統的レビューの中には、人工知能の人間を理解する能力を借りてこそ、テクノロジーは人類に真の貢献ができると分析するものもある[81]

歴史

AIの構築が長い間試みられてきているが、複雑な現実世界に対応しうる性能を持つ計算機の開発やシンボルグラウンディング問題とフレーム問題の解決が大きな壁となってきた。第1次ブームで登場した「探索と推論」や第2次ブームで登場した「知識表現」というパラダイムに基づくAIは各々現実世界と比して単純な問題しか扱えなかったため社会的には大きな影響力を持つことはなかった[82][83]。第3次以降のブームでは、人間が知能を感じ取るほどに高性能なAIが登場し、AI脅威論が挙がるようになっている[84][85][86][87][88]

初期

17世紀初め、ルネ・デカルトは、動物の身体がただの複雑な機械であると提唱した(機械論)。ブレーズ・パスカルは1642年、最初の機械式計算機を製作した。チャールズ・バベッジエイダ・ラブレスはプログラム可能な機械式計算機の開発を行った。

バートランド・ラッセルアルフレッド・ノース・ホワイトヘッドは『数学原理』を出版し、形式論理に革命をもたらした。ウォーレン・マカロックウォルター・ピッツは「神経活動に内在するアイデアの論理計算」と題する論文を1943年に発表し、ニューラルネットワークの基礎を築いた。

1900年代後半

1950年代になるとAIに関して活発な成果が出始めた。1956年夏、ダートマス大学が入居している建物の最上階を引き継いだ数学と計算機科学者のグループの一人である若き教授ジョン・マッカーシーはワークショップでのプロポーザルで "Artificial Intelligence" という言葉を作り出している[89]。ワークショップの参加者は、オリバー・セルフリッジレイ・ソロモノフ、マービン・ミンスキー、クロード・シャノンハーバート・サイモンアレン・ニューウェルなどであった[90]。ジョン・マッカーシーはAIに関する最初の会議で「人工知能[注釈 3]」という用語を作り出した。彼はまたプログラミング言語LISPを開発した。知的ふるまいに関するテストを可能にする方法として、アラン・チューリングは「チューリングテスト」を導入した。ジョセフ・ワイゼンバウムELIZAを構築した。これは来談者中心療法を行うおしゃべりロボット[注釈 4]である。

1956年に行われた、ダートマス会議開催の提案書において、人類史上、用語として初めて使用され、新たな分野として創立された。

1957年、心理学者・計算機科学者のフランク・ローゼンブラットが視覚と脳の機能をモデル化した「パーセプトロン」を考案。

1960年代と1970年代の間に、ジョエル・モーゼスMacsymaマクシマプログラム[注釈 5]中で積分問題での記号的推論のパワーを示した。マービン・ミンスキーシーモア・パパートは『パーセプトロン』を出版して単純なニューラルネットの限界を示し、アラン・カルメラウアー英語版はプログラミング言語 Prolog を開発した。テッド・ショートリッフェ英語版は医学的診断と療法におけるルールベースシステムを構築し、知識表現と推論のパワーを示した。これは、最初のエキスパートシステムと呼ばれることもある。ハンス・モラベックは、障害物があるコースを自律的に走行する最初のコンピューター制御の乗り物を開発した。

1967年、甘利俊一氏が多層パーセプトロンにおける確率的勾配降下法を発案し定式化に成功。

1979年、NHK技研で研究者として所属していた福島邦彦氏が曲率を抽出する多層の神経回路にコグニトロン型の学習機能を取り入れて、多層神経回路モデル「ネオコグニトロン」を発明。[91] 当時神経科学の成果で大脳皮質の第一次視覚野では3種類の細胞が階層をなして結合し、視覚情報を処理している、という仮説を提唱していたのです。ここからヒントを得て、同じような神経回路モデルをつくり、いろんな図形の曲率(曲がり具合)を検出しようとしたという。

また、この時代にロドニー・ブルックスが、知能には身体が必須との学説(身体性)を提唱した。

1980年代から急速に普及し始めたコンピュータゲームでは、敵キャラクターやNPCを制御するため、パターン化された動きを行う人工無能が実装されていた[92][93][94]

1990年代はAIの多くの分野で様々なアプリケーションが成果を上げた。特に、ボードゲームでは目覚ましく、1992年にIBMは世界チャンピオンに匹敵するバックギャモン専用コンピュータ・TDギャモンを開発し、IBMのチェス専用コンピュータ・ディープ・ブルーは、1997年5月にガルリ・カスパロフを打ち負かし、同年8月にはオセロで日本電気のオセロ専用コンピュータ・ロジステロに世界チャンピオンの村上健が敗れた[95]国防高等研究計画局は、最初の湾岸戦争においてユニットをスケジューリングするのにAIを使い、これによって省かれたコストが1950年代以来のAI研究への政府の投資全額を上回ったことを明らかにした。日本では甘利俊一らが精力的に啓蒙し、優秀な成果も発生したが、論理のブラックボックス性が指摘された。

1998年には非構造化データ形式の国際規格であるXMLが提唱されたが、ここからWeb上の非構造化データに対して、アプリケーション別に適した意味付けを適用し、処理を行わせる試みが開始された。同年に、W3Cティム・バーナーズ=リーにより、Webに知的処理を行わせるセマンティック・ウェブが提唱された。この技術はWeb上のデータに意味を付加して、コンピュータに知的処理を行わせる方法を国際的に規格化するものである。この規格には知識工学におけるオントロジーを表現するデータ形式のOWLも含まれていることから、かつて流行したエキスパートシステムの亜種であることが分かる。2000年代前半に規格化が完了しているが、Web開発者にとっては開発工数に見合うだけのメリットが見出せなかったことから、現在も普及はしていない。

日本における第二次AIブーム

日本においてはエキスパートシステムの流行の後にニューロファジィが流行した。しかし、研究が進むにつれて計算リソースやデータ量の不足,シンボルグラウンディング問題,フレーム問題に直面し、産業の在り方を激変させるようなAIに至ることは無く、遅くとも1994年頃までにはブームは終焉した。

1994年5月25日に計測自動制御学会から第二次AIブームの全容をB5判1391ページにわたって学術論文並みの詳細度でまとめた『ニューロ・ファジィ・AIハンドブック』が発売されている[96]。この書籍ではシステム・情報・制御技術の新しいキーワード、ニューロ・ファジィ・AIの基礎から応用事例までを集めている[97]

エキスパートシステム(知識工学の応用)

1980年代に入って、大企業の研究所を中心に、知識工学に基づくエキスパートシステムが多数提案されるようになり、エキスパートシステムを専門とするAIベンチャーも次々と立ち上がった。その流行から生まれた究極のプロジェクトとして第五世代コンピュータが挙げられる。

探索

知識や組み合わせを探索する手法として、ボードゲームの分野では2006年からモンテカルロ木探索という手法が研究されはじめた。モンテカルロ法は自動定理証明という分野で活用されていたものである。今では人工知能と呼ばれていないが、カーナビのルート探索アルゴリズムはダイクストラ法が用いられている。

第五世代コンピュータ(高性能なProlog推論マシン)

1982年から1992年まで日本は国家プロジェクトとして570億円を費やして第五世代コンピュータの研究を進めるも、採用した知識工学的手法では膨大なルールの手入力が必要で、専門家間で専門知識の解釈が異なる場合には統一したルール化が行えない等の問題もあり、実用的なエキスパートシステムの実現には至らなかった。実現した成果物はPrologの命令を直接CPUのハードウェアの機構で解釈して高速に実行する、並列型のProlog専用機であるが、商業的な意味で応用先が全く見つからなかった。

ニューロファジィ[98]

1980年代後半から1990年代中頃にかけて、従来から電子制御の手法として用いられてきたON/OFF制御,PID制御,現代制御の問題を克服するため、知的制御が盛んに研究され、知識工学的なルールを用いるファジィ制御,データの特徴を学習して分類するニューラルネットワーク,その2つを融合したニューロファジィという手法が日本を中心にブームを迎えた。1987年には仙台市において開業した地下鉄ATOに採用[99]され、バブル期の高級路線に合わせて、白物家電製品でもセンサの個数と種類を大幅に増やし、多様なデータを元に運転を最適化するモデルが多数発売され始めた。更に後には、人工知能とは異なるものの制御対象のカオス性をアルゴリズムに組み込んで制御するカオス制御が実用化されることになる[100]。従来の単純な論理に基づく制御と比較して柔軟な制御が可能になることから、遅くとも2000年頃にはファジィ制御,ニューロ制御,カオス制御などの曖昧さを許容する制御方式を総称してソフトコンピューティングと呼ぶようになっている。この当時のソフトコンピューティングについては理論的な性能向上の限界が判明したため一過性のブームに終わったが、ブームが去った後も用いられ続けている。特にファジィ制御トップダウンで挙動の設計が可能であるだけでなく、マイクロコントローラでもリアルタイム処理が可能なほど軽量であるため、ディープラーニングの登場以降も[独自研究?]幅広い分野で活用されている。

ファジィについては、2018年までに日本が世界の1/5の特許を取得している事から、日本で特に大きなブームとなっていたことが分かっている[101]。現在の白物家電ではこの当時より更に発展した制御技術が用いられているが、既に状況に合わせた柔軟な制御は当たり前のものになり、利用者には意識されなくなっている。ニューロファジィがブームになった1990年代には未だビッグデータという概念は無く(ブロードバンド接続普及後の2010年に初めて提唱された)、データマイニングとしての産業応用は行われなかった。しかし、ニューラルネットワークが一般人も巻き込んで流行した事例としては初めての事例であり、2010年代のディープラーニングブームの前史とも言える社会現象が起きていたと見做すこともできる。

ブームの経緯

松下電器が1985年頃から人間が持つような曖昧さを制御に活かすファジィ制御についての研究を開始し、1990年2月1日にファジィ洗濯機第1号である「愛妻号Dayファジィ」の発売に漕ぎ着けた。「愛妻号Dayファジィ」は従来よりも多数のセンサーで収集したデータに基づいて、柔軟に運転を最適化する洗濯機で、同種の洗濯機としては世界初であった。ファジィ制御という当時最先端の技術の導入がバブル期の高級路線にもマッチしたことから、ファジィは裏方の制御技術であるにもかかわらず世間の大きな注目を集めた[101]。その流行の度合いは、1990年の新語・流行語大賞における新語部門の金賞で「ファジィ」が選ばれる程であった。その後に、松下電器はファジィルールの煩雑なチューニングを自動化したニューロファジィ制御を開発し、従来のファジィ理論の限界を突破して学会で評価されるだけでなく、白物家電への応用にも成功して更なるブームを巻き起こした。松下電器の試みの成功を受けて、他社も同様の知的制御を用いる製品を多数発売した。1990年代中頃までは、メーカー各社による一般向けの白物家電の売り文句として知的制御技術の名称が大々的に用いられており、洗濯機の製品名では「愛妻号DAYファジィ」,掃除機の分類としては「ニューロ・ファジィ掃除機」,エアコンの運転モードでは「ニューロ自動」などの名称が付与されていた[102][103][104][105][106][107]

ニューロ,ファジィ,ニューロファジィという手法は、従来の単純なオン・オフ制御や、対象を数式で客観的にモデル化する(この作業は対象が複雑な機構を持つ場合は極めて難しくなる)必要があるPID制御や現代制御等と比較して、人間の主観的な経験則や計測したデータの特徴が利用可能となるファジィ、ニューロ、ニューロファジィは開発工数を抑えながら、環境適応時の柔軟性を高くできるという利点があった[98]。しかし、開発者らの努力にもかかわらず、計算能力や収集可能なデータ量の少なさから、既存の工作機械や家電製品の制御を多少改善する程度で限界を迎えた。理論的にもファジィ集合深層学習ではない3層以下のニューラルネットワークの組み合わせであり、計算リソースや学習データが潤沢に与えられたとしても、勾配消失問題などの理論的限界によって認識精度の向上には限界があった。

以降、計算機の能力限界から理論の改善も遅々として進まず、目立った進展は無くなり、1990年代末には知的制御を搭載する白物家電が大多数になったことで、売り文句としてのブームは去った[108]。ブーム後は一般には意識されなくなったが、現在では裏方の技術として、家電製品のみならず、雨水の排水,駐車場,ビルの管理システムなどの社会インフラにも使われ、十分に性能と安定性が実証されている。2003年頃には、人間が設計したオントロジー(ファジィルールとして表現する)を利活用するネットワーク・インテリジェンスという分野に発展した[109]

統計的機械学習

日本の気象庁では、1977年から気象数値モデルの補正に統計的機械学習の利用を開始している。[110]具体的には、カルマンフィルタロジスティック回帰線形重回帰クラスタリング等である。

また地震発生域における地下の状態を示すバロメータである応力降下量を、ベイズ推定マルコフ連鎖モンテカルロ法によって推定したり、余震などの細かい地震の検知を補正するガウス過程回帰といった手法を気象庁は導入している。[111]

その後機械学習は、化合物探索やCAD設計など応力解析の高度化に使用され始めた。Webサービス上での活用例としては迷惑メールの判定、写真の分類、市場価格の予測などがある。製造ラインの異常検知、不正取引検知などにも利用されている。主成分分析は主に顔認証アルゴリズムの分野で活用されている。隠れマルコフモデルは主に音声認識のアルゴリズムに応用されている。Youtubeやニュースサイトで使用される推薦アルゴリズムは協調フィルタリング行列分解ユークリッド距離などの確率的手法を使用している。医療・病気診断や故障診断などの分野では、以前に普及した知識ベース推論に加え、ベイジアンネットワークと呼ばれる確率的手法が用いられている。

2000年代

2001年ファジィ制御を応用した自律型群衆シミュレーションツールである『MASSIVE』で、自律的に戦闘を行う膨大なモブキャラクターを描き出すことに成功した映画ロード・オブ・ザ・リング』が公開された。圧倒的なスケール感を実現する群衆シミュレーションの手法は後の映画やゲームにも大きな影響を与えた[要出典]

2002年、進化的計算の一種である遺伝的アルゴリズムを利用し、人工ニューラルネットワーク内部の結合重みやトポロジ(各層間の接続関係)の自動最適化を行う手法がテキサス大学によって開発された。

2005年、レイ・カーツワイルは著作で、「圧倒的な人工知能が知識・知能の点で人間を超越し、科学技術の進歩を担い世界を変革する技術的特異点(シンギュラリティ)が2045年にも訪れる」とする説を発表した。

2006年に、ジェフリー・ヒントンらの研究チームによりオートエンコーダによるニューラルネットワークの深層化手法が提案された(現在のディープラーニングの直接的な起源)。

2010年代前半

2010年代に入り、膨大なデータを扱う研究開発のための環境が整備されたことで、AI関連の研究が再び大きく前進し始めた。

2010年に英国エコノミスト誌で「ビッグデータ」という用語が提唱された。同年に質問応答システムワトソンが、クイズ番組「ジェパディ!」の練習戦で人間に勝利し、大きなニュースとなった[112]2012年に画像処理コンテストでジェフリー・ヒントン氏のチームが開発した畳み込みニューラルネット「Alexnet」は、従来手法からの大幅な精度改善を果たした上で優勝し、これをきっかけに第三次AIブームが始まった。コンピュータ将棋では将棋電王戦が始まり、次々とプロを破った。

その後、リカレントニューラルネット(RNN)、LSTM敵対的生成ネットワーク(GAN)、グラフニューラルネット、SOM等の人工NN派生型の研究開発が大幅に増えた。

2013年には国立情報学研究所[注釈 6]富士通研究所の研究チームが開発した「東ロボくん」で東京大学入試の模擬試験に挑んだと発表した。数式の計算や単語の解析にあたる専用プログラムを使い、実際に受験生が臨んだ大学入試センター試験と東大の2次試験の問題を解読した。代々木ゼミナールの判定では「東大の合格は難しいが、私立大学には合格できる水準」だった[113]

2014年には、日本の人工知能学者である齊藤元章により、特異点に先立ち、オートメーション化とコンピューター技術の進歩により衣食住の生産コストがゼロに限りなく近づくというプレ・シンギュラリティという概念も提唱された。

ジェフ・ホーキンスが、実現に向けて研究を続けているが、著書『考える脳 考えるコンピューター』の中で自己連想記憶理論という独自の理論を展開している。

世界各国において、軍事・民間共に実用化に向け研究開発が進んでいるが、とくに無人戦闘機UCAVや無人自動車ロボットカーの開発が進行しているものの、2010年代にはまだ完全な自動化は試験的なものに留まった(UCAVは利用されているが、一部操作は地上から行っているものが多い)。

ロボット向けとしては、CSAILのロドニー・ブルックスが提唱した包摂アーキテクチャという理論が登場している。これは従来型の「我思う、故に我あり」の知が先行するものではなく、体の神経ネットワークのみを用いて環境から学習する行動型システムを用いている。これに基づいたゲンギスと呼ばれる六本足のロボットは、いわゆる「脳」を持たないにもかかわらず、まるで生きているかのように行動する。

2010年代後半

2015年10月に、DeepMind社は2つの深層学習技術と強化学習、モンテカルロ木探索を組み合わせ「AlphaGo」を開発し、人間のプロ囲碁棋士に勝利することに成功した。それ以降、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる手法が注目されはじめた[114]

2016年10月、DeepMindが、入力された情報の関連性を導き出し仮説に近いものを導き出す人工知能技術「ディファレンシャブル・ニューラル・コンピューター」を発表[115]し、同年11月、大量のデータが不要の「ワンショット学習」を可能にする深層学習システムを[116]、翌2017年6月、関係推論のような人間並みの認識能力を持つシステムを開発[117]。2017年8月には、記号接地問題(シンボルグラウンディング問題)を解決した[118]

従来、AIには不向きとされてきた不完全情報ゲームであるポーカーでもAIが人間に勝利するようになった[119]

Googleの関係者はさらに野心的な取り組みとして、単一のソフトウェアで100万種類以上のタスクを実行可能なAIを開発していると明らかにした[120]

人工知能の第三次ブーム:AGI(汎用人工知能)と技術的特異点

2006年のディープラーニングの発明と、2010年以降のビッグデータ収集環境の整備、計算資源となるGPUの高性能化により、2012年にディープラーニングが画像処理コンテストで他の手法に圧倒的大差を付けて優勝したことで、技術的特異点という概念は急速に世界中の識者の注目を集め、現実味を持って受け止められるようになった。

ディープラーニングの発明と急速な普及を受けて、研究開発の現場においては、デミス・ハサビス率いるDeepMindを筆頭に、Vicarious、OpenAI、IBM Cortical Learning Center、全脳アーキテクチャ、PEZY Computing、OpenCog、GoodAI、NNAISENSE、IBM SyNAPSE、Nengo、中国科学院自動化研究所等、汎用人工知能AGI)を開発するプロジェクトが数多く立ち上げられている。これらの研究開発の現場では、脳をリバースエンジニアリングして構築された神経科学と機械学習を組み合わせるアプローチが有望とされている[121]。結果として、Hierarchical Temporal Memory (HTM) 理論、Complementary Learning Systems (CLS) 理論の更新版等、単一のタスクのみを扱うディープラーニングから更に一歩進んだ、複数のタスクを同時に扱う理論が提唱され始めている。

汎用人工知能を実現するためのアプローチとして、大きく分けて三つの方向性がある

  1. 脳全体、またはその一部を工学的にソフトウェアとして再現する
  2. 脳をそのまま再現する(全脳シミュレーション)
  3. 脳を参考にせず、全く新しい知能システムを構築する(特化型AIを組み合わせる等)

3Dゲームのような仮想空間でモデルを動かし現実世界のことを高速に学ばせるといったことも大きな成果を上げている(シミュレーションによる学習)。

また、数は少ないがAGIだけでは知能の再現は不可能と考えて、身体知を再現するために、全人体シミュレーションが必要だとする研究者やより生物に近い振る舞いを見せるAL(人工生命)の作成に挑む研究者、知能と密接な関係にあると思われる意識のデジタル的再現(人工意識)に挑戦する研究者もいる。

リーズナブルなコストで大量の計算リソースが手に入るようになったことで、ビッグデータが出現し、企業が膨大なデータの活用に極めて強い関心を寄せており、全世界的に民間企業主導で莫大な投資を行って人工知能に関する研究開発競争が展開されている。また、2011年のD-Wave Systemsによる量子アニーリング方式の製品化を嚆矢として、量子コンピュータという超々並列処理が可能な次世代のITインフラが急速に実用化され始めた事で、人工知能の高速化にも深く関わる組み合わせ最適化問題をリアルタイムに解決できる環境が整備され始めている。(量子機械学習を参照)この動向を受ける形で、2016年頃から、一般向けのニュース番組でも人工知能の研究開発や新しいサービス展開や量子コンピュータに関する報道が目立つようになった。

2017年にはイーロン・マスクが、急速に進化し続ける人工知能に対して人間が遅れを取らないようにするために、ブレイン・マシン・インターフェースを研究開発するニューラリンクを立ち上げていたことを公表した。

2017年10月、ジェフリー・ヒントンにより要素間の相対的な位置関係まで含めて学習できるCapsNet(カプセルネットワーク)が提唱された[122]

2017年、マルチヘッド注意機構、位置エンコーディングを採用する「Transformer」と呼ばれる新しい自然言語処理技術がGoogleによって発案された。RNNやLSTMよりも長い文章を一気に処理できる。

2018年3月16日の国際大学GLOCOMの提言によると、課題解決型のAIを活用する事で社会変革に寄与できると分析されている[123]

2018年8月、OpenAIが好奇心を実装しノーゲームスコア、ノーゴール、無報酬で目的なき探索を行うAIを公表。これまでのAIで最も人間らしいという[124]

2018年9月、MITリンカーン研究所は従来ブラックボックスであったニューラルネットワークの推論をどのような段階を経て識別したのかが明確に分かるアーキテクチャを開発した[125]

2018年、ハーバード大学は畳み込みニューラルネットの構造をそのままに、そこに量子ゲートとくりこみを適用した「量子畳み込みニューラルネット(QCNN)」を提案した。

2019年、BERTなどの言語モデルにより、深層学習では困難とされてきた言語処理において大きな進展があり、Wikipediaなどを使用した読解テストで人間を上回るに至った[126]

2020年代前半

2020年には、OpenAIが基盤モデルとしてTransformerを採用した1750億パラメータを持つ自然言語処理プログラムGPT-3が開発され、アメリカの掲示板サイトRedditで1週間誰にも気付かれず人間と投稿・対話を続けた。プログラムと気付かれた理由は文章の不自然さではなく、その投稿数が異常というものだった[127]

DeepMindが開発したタンパク質の構造予測を行うAlphaFold2CASPグローバル距離テスト (GDT) で90点以上を獲得し、計算生物学における重要な成果であり、数十年前からの生物学の壮大な挑戦に向けた大きな進歩と称された[128]

OpenAIはTransformer (言語モデル) の性能がパラメータ数N・データセットサイズD・計算予算Cの単純なべき乗になっているとの論文を発表した(スケーリングの法則)。

最先端のAI研究では2年で1000倍サイズのモデルが出現し、1000倍の演算能力を持つコンピュータが必要になって来ている[129]

2020年の時点で、メタ分析によれば、いくつかのAIアルゴリズムの進歩は停滞している[130]

2021年4月、NVIDIAの幹部、パレシュ・カーリャは「数年内に100兆パラメータを持つAIモデルが出てくるだろう」と予想した[131]

2021年5月、マイクロソフトリサーチが32兆パラメーターのAIを試験[132]

2021年6月、中国政府の支援を受けている北京智源人工知能研究院がパラメーター数1兆7500億のAI「悟道2.0」を発表[133]

2021年6月、グーグルの研究者達がグラフ畳み込みニューラルネットと強化学習(方策勾配法最適化)を用いて配線とチップの配置を自動設計させたところ、消費電力、性能など全ての主要な指数で人間が設計したもの以上の行列演算専用チップ(TPU4.0)のフロアプランを生成した。そして、設計にかかる時間は人間の1/1000であった[134]

2021年8月、グーグルの量子人工知能研究部門を率いるハルトムート・ネベンは量子コンピュータの発達の影響がもっとも大きい分野として機械学習分野などAIを挙げた[135]

2021年8月、DeepMindはさまざまな種類の入力と出力を処理できる汎用の深層学習モデル「Perceiver」を開発した。[136]

2021年10月、GoogleBrainは視覚、聴覚、言語理解力を統合し同時に処理するマルチモーダルAIモデル「Pathways」を開発中であると発表した。[137]

2022年02月、DeepMindは自動でプログラムのコーディングが可能なAI「AlphaCode」を発表した。[138]自然言語で入力した単純なプロンプトからコードを生成できる。その能力は、競技プログラミングコンテスト「Codeforces」で過去に出題されたプログラミング課題を解くタスクで、平均ランキング上位54.3%に入る実力である。

2022年4月、Googleは予告どおりPathwaysを使い、万能言語モデルPaLMを完成させた。とんち話の解説を行えるほか、9-12歳レベルの算数の文章問題を解き、数学計算の論理的な説明が可能であった。デジタルコンピュータは誕生から80年弱にして初めて数学計算の内容を文章で説明できるようになった[139]。その後、自然言語処理としてPathwaysをベースにした数学の問題を解けるモデル「Minerva」を開発した。[140]また、Pathwaysをベースにした自然言語処理とDiffusion Modelを連携し、画像生成モデルPartiを発表した。[141]

2022年5月12日、DeepMindは様々なタスクを一つのモデルで実行することができる統合モデル「Gato」を発表した。チャット、画像の生成と説明、四則演算、物体を掴むロボットの動作、ゲームの攻略等々、600にも及ぶ数々のタスクをこの一つのモデルで実行することができるという[142]

DeepMindのNando de Freitasは「今は規模が全てです。(AGIに至る道を探す)ゲームは終わった」と主張したが[143]人工知能の歴史の中で繰り返されてきた誇大広告だという批判も存在する[144]

2022年5月、GoogleのチャットボットLaMDAの試験が行われた。それに参加していたエンジニアであるブレイク・ルモワンはLaMDAに意識があると確信、会話全文を公開したがGoogleから守秘義務違反だとして休職処分を受けた。この主張には様々な批判意見がある[145]

2022年8月、拡散モデルがベースの画像生成AI・Midjourneyの作品が米国コロラド州で開催された美術品評会で優勝した[146]。ただし細かい部分は人間の手が加えられている[146]

2022年9月、Googleはテキストから3Dモデルを生成できる「DreamFusion」を開発した。複数の静止画から3Dモデルを生成するNeRFや、Diffusion Modelを使用している。

2022年10月、DeepMindは行列の積を効率的に計算するための未発見のアルゴリズムを導き出す「AlphaTensor」を開発した。[147]。「4×5の行列」と「5×5の行列」の積を求める際に、通常の計算方法で100回の乗算が必要なところを、76回に減らすことができた。またこれを受けて数学者もさらに高速な行列乗算プログラムを公表した[148]

2022年11月30日、OpenAIGPT-3.5を用いたChatGPTをリリースした。全世界的に従来よりも圧倒的に人間に近い回答を返す質問応答システムとして話題となり、産官学を巻き込んだブームを引き起こした。非常に使い勝手の良いChatGPTの登場により、AIの実務応用が爆発的に加速すると予想されたため、これを第4次AIブームの始まりとする意見も挙がっている[29][149]

2023年1月11日、DeepMindは、画像から世界モデルを学習し、それを使用して長期視点から考えて最適な行動を学習する事が出来る「DreamerV3」を発表した。[150]

Googleロボティクス部門は、ロボットの入力と出力行動(カメラ画像、タスク指示、モータ命令など)をトークン化して学習し、実行時にリアルタイム推論を可能にする「Robotics Transformer 1(RT-1)」を開発した[151]

2022年、研究者の間では大規模ニューラルネットワークに意識が存在するか議論が起こっている。深層学習の第一人者Ilya Sutskeverは「(大規模ニューラルネットワークは)少し意識的かもしれない」と見解を示した[152]

2022年12月、Googleは、「Flan-PaLM」と呼ばれる巨大言語モデルを開発した。米国医師免許試験(USMLE)形式のタスク「MedQA」で正答率67.6%を記録し、PubMedQAで79.0%を達成した。57ジャンルの選択問題タスク「MMLU」の医療トピックでもFlan-PaLMの成績は他の巨大モデルを凌駕した。臨床知識で80.4%、専門医学で83.8%、大学生物学で88.9%、遺伝医療学で75.0%の正答率である[153]

質問応答意思決定支援、需要予測、音声認識音声合成機械翻訳、科学技術計算、文章要約など、各分野に特化したシステムやこれらを組み合わせたフレームワークが実用化された[154][155][19][156]。またChatGPTのように自然言語によるチャットを使うことで、専門家以外でも利用可能な対話型の人工知能が実用化された。

従来、AIは肉体労働や単純作業を置き換え、芸術的・創造的仕事が「人間の領域」となると予想されてきたが、実際には2020年代前半から芸術的な分野へ急速に進出している[157][158]。またAIの実用化後も残るとされた翻訳、意思決定、法律相談など高度なスキルを必要とする分野への応用も進んでいる[154][159]。一方で2023年時点では肉体労働や単純作業への利用は自動倉庫の制御[160]、囲碁の盤面の映像から棋譜を作成するなど[161]限定的な利用にとどまっている。テスラ社は開発を進める二足歩行ロボットTesla Botに汎用人工知能を搭載し、単純労働を担当させると表明している。

2023年5月11日、日本政府は首相官邸で、「AI戦略会議」(座長 松尾豊・東京大学大学院教授)の初会合を開いた[162]

科学とAI

一般的には機械学習は物事の検知や分析、予測に活用されてきた。しかし深層学習以降は物理現象における逆問題を解決できたり、大量のデータから特徴を抽出し未発見の現象を特定できたりしている。また強化学習との組み合わせにより問題自体をゲームのように見なして問題を効率的に解くような科学探索手法を確立することが可能になりつつある。

AIを科学研究に適応できた例としては、生物学、宇宙物理学、化学、地球物理学、材料工学、コンピュータ科学等が挙げられる。

  1. タンパク質の折り畳みの高精度予測[163]
  2. 自然言語処理によるRNAコドン配列の解析[164]
  3. 気象物理過程式のパラメータ逆推定および気象モデルの最適統合[165]
  4. プレート境界の摩擦パラメータ推定、すべり量、発生サイクルを学習させることによる地震発生時期の予測[166]
  5. iPS細胞の生死などの状態、分化と未分化、がん化などの非標識判別[167]
  6. 膨大な論文・公開特許から化合物の物性値や製法を抽出し知識ベース化できる化学検索エンジン[168]
  7. 薬剤、分子探索、活性化合物構造の自動提案[169]
  8. 宇宙の大規模構造の偏りをもたらした初期の物理パラメータを推定、宇宙全体の3Dシミュレーションの効率化[170]
  9. 画像分類CNNを使用したマウス脳神経の自動分類、回路自動マッピング[171]
  10. GANと回帰モデルによる複雑材料系(充填剤や添加剤)の特性予測[172]
  11. CAD設計手法の一つであるトポロジー最適化における、制約条件と解析結果の因果関係の抽出[173]
  12. 第一原理計算(DFT計算)よりも10万倍以上高速な、55元素の任意の組み合わせの原子構造を高い精度で再現できる原子シミュレーターを用いた材料探索[174]
  13. 流体力学の方程式を使わない、流体シミュレーション[175]
  14. 医療診断用 視覚言語モデル[176]
  15. コーディング自動化[177]
  16. ロボットの動作生成[178]

哲学とAI

哲学・宗教・芸術

Googleは2019年3月、人工知能プロジェクトを倫理面で指導するために哲学者・政策立案者・経済学者・テクノロジスト等で構成される、AI倫理委員会を設置すると発表した[179]。しかし倫理委員会には反科学・反マイノリティ地球温暖化懐疑論等を支持する人物も含まれており、Google社員らは解任を要請した[179]。4月4日、Googleは倫理委員会が「期待どおりに機能できないことが判明した」という理由で、委員会の解散を発表した[179]

東洋哲学をAIに吸収させるという三宅陽一郎のテーマに応じて、井口尊仁は「鳥居(TORII)」という自分のプロジェクトを挙げ、「われわれはアニミズムで、あらゆるものに的存在を見いだす文化があります」と三宅および立石従寛に語る[180]。アニミズム的人工知能論は現代アートや、「悟りをどうやってAIにやらせるか」を論じた三宅の『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』にも通じている[180]

元Googleエンジニアのアンソニー゠レバンドウスキーは2017年、AIをとする宗教団体「Way of the Future(未来の道)」を創立している[181]。団体の使命は「人工知能(AI)に基づいたGodheadの実現を促進し開発すること、そしてGodheadの理解と崇拝を通して社会をより良くすることに貢献すること」と抽象的に表現されており、多くの海外メディアはSF映画歴史などと関連付けて報道した[181]UberとGoogleのWaymoは、レバンドウスキーが自動運転に関する機密情報を盗用したことを訴え裁判を行っている一方、レバンドウスキーはUberの元CEO(トラビス゠カラニック)に対し「ボットひとつずつ、我々は世界を征服するんだ」と発言するなど、野心的な振る舞いを示している[181]

2021年のメタ分析によれば、人工知能の設計はもちろん学際的なものであり、感覚の限界による偏見を避けるように注意しながら、宇宙のさまざまな物質や生物の特性を理解すべきである[182]

発明家レイ・カーツワイルが言うには、哲学者ジョン・サールが提起した強いAIと弱いAIの論争は、AIの哲学議論でホットな話題である[183]。哲学者ジョン・サールおよびダニエル・デネットによると、サールの「中国語の部屋」やネド・ブロックらの「中国脳」といった機能主義に批判的な思考実験は、真の意識が形式論理システムによって実現できないと主張している[184][185]

批判

生命情報科学者・神経科学者の合原一幸編著『人工知能はこうして創られる』によれば、AIの急激な発展に伴って「技術的特異点、シンギュラリティ」の思想や哲学が一部で論じられているが、特異点と言っても「数学」的な話ではない[186]。前掲書は「そもそもシンギュラリティと関係した議論における『人間のを超える』という言明自体がうまく定義できていない」と記している[187]。確かに、脳を「デジタル情報処理システム」として捉える観点から見れば、シンギュラリティは起こり得るかもしれない[188]。しかし実際の脳はそのような単純なシステムではなく、デジタルアナログが融合した「ハイブリッド系」であることが、脳神経科学の観察結果で示されている[188]。もちろん、人工知能が人間を超えることを期待すべきではないという学者もいるし[189]、そもそもそうした人間対人工知能の戦争不安はメンタルヘルス上よくないので控えるべきである[190]。前掲書によると、神経膜では様々な「ノイズ」が存在し、このノイズ付きのアナログ量によって脳内のニューロンの「カオス」が生み出されているため、このような状況をデジタルで記述することは「極めて困難」と考えられている[191]

文学・フィクション・SF(空想科学)

脚注

注釈

  1. ^ 電子情報通信学会で工学博士の仙石正和が述べた定義では、「工学(Engineering)」とは「数学自然科学の知識を用いて,健康と安全を守り,文化的,社会的及び環境的な考慮を行い,人類のために(for the benefit of humanity),設計開発イノベーションまたは解決を行う活動」だとされている[9]
  2. ^ 以下は原文:
    In conclusion, AI has made great progress in its short history, but the final sentence but the final sentence of Alan Turing’s (1950) essay on Computing Machinery and Intelligence is still valid today:
      We can see only a short distance ahead,
      but we can see that much remains to be done.
    [11]
  3. ^ : artificial intelligence
  4. ^ : chatterbot
  5. ^ 数学における最初の成功した知識ベースプログラム。
  6. ^ 新井紀子がリーダー。

出典

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参照文献

学術書・辞事典
教育研究機関・研究開発機関
報道

関連文献

英語資料

関連項目

教育研究・研究開発

研究開発・応用科学

開発事例・応用事例

研究課題

関連分野

深層学習・機械学習の数学的な関連分野

AIに関する哲学的項目

外部リンク