弱冷房車
弱冷房車(じゃくれいぼうしゃ)、弱冷車(じゃくれいしゃ)とは、公共交通機関(特に鉄道)において冷房時の出力を他の車両より弱めた車両のこと。
概要
[編集]日本
[編集]日本での弱冷房車は1984年夏に京阪電気鉄道で6両編成以上の車両の2両目に導入したのが始まり[1][2]。なお京阪では2004年までは特急用車両および6000系以降の車両は対象外であったが、2005年に全車種の7両編成以上の編成に拡大した。
その後他社にも拡大し、1編成中に1 - 2両ほど設けられている。編成中の他の車両に比べ、冷房の設定温度を他の車両より概ね1 - 2℃高くしているが、事業者により設定温度は異なる。乗務員がその場で設定を変更することもあり、実際には車両ごとに異なっている[2]。
夏場に男性客よりも薄着が多く冷え性の人が多い女性客を中心に「冷房が効きすぎで寒い」という要望が多かったことから各社で導入が進んだ[2]。
首都圏では「弱冷房車」、近畿地方では「弱冷車」と表記することが多い。ただし京阪では首都圏同様に「弱冷房車」という。
事業者によっては季節にかかわらず車両に「弱冷房車」の表示をしているが、一年中冷房運転をしているわけでは無く、暖房が必要な冬期などは他の車両と同様の運用が行われている。混雑が著しい場合は弱冷房車でも通常の冷房運転を行う事業者も存在する(近畿日本鉄道など)。
温度センサーの取り付け位置が車両により異なっていることや、日当たりなどの影響で同じ車内でも場所により温度が異なることは避けられないが、車内温度を均一にすることが難しいため、弱冷房車は暑いという苦情が鉄道事業者に寄せられている[3][2]。
冷房機器の性能や省エネの観点から冷房を強めた「強冷房車」は導入されていない[2]。また鉄道車両の暖房は座席の足元から放熱する方式であり、余熱が残るなど温度調整が困難なことから「弱暖房車」も導入されていない[2]。
英語表現について
[編集]適切とされる英語表現としては、Mildly air-conditioned carやLightly air-conditioned carなどがある。
日本で見られる、あるいは過去に見られた英語として適切でない表現としては、 1990年代のごく一時期に阪急電鉄や京阪電気鉄道で見られた"WEAK COOL"や、小田急電鉄の"Soft air-conditioned car"が挙げられる。前者は漢字をそのまま英単語に置き換えたもので英語として意味が通じず(weak coolは「弱い涼しい」という意味)、後者は意味は通じるものの英語圏では用いられない表現(和製英語)である。なお、その後阪急ではMild air-conditionedに、京阪もMildly air-conditionedを経て2000年代より阪急と同様にMild air-conditionedに変更している。小田急電鉄もLow-Powered Air Conditioning Carに名称を変更している。
言葉の認知度
[編集]東芝ライフスタイルが2024年に発表したエアコンには、就寝時など弱い冷房をつけっぱなしにする際に消費電力を低減するモードが採用されたが、名称について社内でアンケートをとったところ、「弱冷房車のイメージでわかりやすい」として「弱冷房モード」と命名された[4]。
海外
[編集]弱冷房車の導入は日本、韓国、中国など一部にしかない[5]。その理由は多くの国の交通機関では冷房車は一般車よりも運賃設定を高くしているため、乗客が高い運賃を支払っている以上は冷房がしっかり効いている必要があるという考え方が背景にある[5]。
中国では「強冷房車」を導入する路線が複数あり、さらに「強冷房」「中冷房」「弱冷房」と3段階を設定する路線(常州地下鉄など)もある[6]。
弱冷房車を設定している事業者
[編集]以下の鉄道事業者で弱冷房車の設定がされている。
東北地方・関東地方
[編集]設定温度は概ね27℃(弱冷房車以外は25℃。ただし、京浜東北線・京葉線は24℃、東海道線は26℃)[7]。
10・11両編成の通勤形電車では4号車(概ね西寄りから4両目)に設定されていることが多い(山手線・京浜東北線・中央・総武線各駅停車など)。
- 中央線快速 - 9号車。
- 2023年末より4号車から順次9号車に移行。
- 常磐線快速 - 8号車・14号車。
- 近郊形電車の常磐線中距離電車と同一の設定である(グリーン車導入以前は4号車に設定されていた。また当初は14号車の設定はなかった)。
- 京葉線 - 14両編成のE331系では6号車に設定されていた。
- 相模線 - 橋本寄りから2両目の3号車。
- 横浜線 - 八王子寄りから4両目の5号車。
- 埼京線 - 9号車。
10・11両編成の近郊形電車では4号車にグリーン車が連結されている関係上、8号車(概ね西寄りから8両目)に設定されていることが多い(東海道線・伊東線・横須賀・総武快速線・湘南新宿ラインなど)。
- 宇都宮線(東北線)・高崎線 - 8号車(かつて運用されていた211系は13号車にも設定されていた)。
- 常磐線 - 8号車・14号車。(5両編成の場合は4号車)(415系1500番台は3号車)
- 仙石線 - 石巻寄りから2両目の3号車。
設定温度は28℃(弱冷房車以外は26℃)[8]。
- 伊勢崎線・日光線・野田線
- 東上線 - 池袋寄りから2両目の7号車(東京メトロ車両・東急車両・横浜高速車両の8両編成)・9号車(10両編成)。
- 6・8・10両編成の車両に設定。2・4両編成の車両のみで組成された列車の場合、弱冷房車はない。
1988年6月1日に登場[9]。設定温度は28℃(弱冷房車以外は26℃)[10]。特急形車両には設定されず、通勤形車両による座席指定列車では弱冷房車設定が解除される[11]。
配置は原則として、6両以上の編成で2号車に設定され、2・4両編成の車両には設定されない。短編成を併結して列車を組成する場合があるため、車種によっては位置が不定(あるいは設定なし)となる。
例外として、101系・9000系のワンマン車(4両編成)では3号車に設定されるほか、地下鉄直通用車両(10両編成)では直通先に合わせて9号車に設定される(2013年3月より[12])。
主要な具体例を以下に列挙する。なおこれ以外にも、狭山線や多摩湖線に通常の4両編成が入ったり、逆に西武園線にワンマンの4両編成が入るような事例も稀に存在する。
- 池袋線系統(池袋線・西武秩父線・西武有楽町線・豊島線・狭山線) - 飯能・豊島園・西武球場前寄りが1号車である。飯能 - 西武秩父間では車両の方向が逆となる。
- 新宿線系統(新宿線・拝島線・多摩湖線・国分寺線・西武園線) - 西武新宿寄りが1号車である。国分寺線・西武園線では東村山・西武園寄りが1号車となる(以前は国分寺寄りが1号車だったが、2019年3月より逆転)。
- 多摩川線 - 是政寄りが1号車である。
設定温度は京成車・北総車が27℃、京急車が28℃(弱冷房車以外はそれぞれ、弱冷房車の温度から2℃低い温度)[7]。
1994年夏から設定[18]。設定温度は28℃(弱冷房車以外は26℃)[19]。
設定温度は28℃(弱冷房車以外は26℃)[7]。
- 小田急車 - 小田原・藤沢・唐木田寄りから2両目の2号車[20]。
- 4両編成以外の車両に設定。4両編成を2本組み合わせた8両編成の列車では弱冷房車の設定はない。
- 東京メトロ・JR車 - 唐木田寄りから4両目の4号車。
設定温度は28℃(弱冷房車以外は25℃から26℃)[21]。
- 東横線・みなとみらい線 - 元町・中華街寄りから2両目の7号車(8両編成)・9号車(10両編成)。
- 2013年3月16日の東京メトロ副都心線への乗り入れ開始に伴うダイヤ改正に合わせ、元町・中華街寄りから3両目の6号車(当時は8両編成のみ在籍)から、副都心線乗り入れ各社と同じ位置に変更された[22]。
- 目黒線 - 日吉寄りから3両目の4号車。
- 田園都市線 - 渋谷寄りから2両目の2号車、中央林間寄りから3両目の8号車(東武車両のみ)
- 大井町線 - 大井町寄りから2両目の2号車。
- 池上線・東急多摩川線 - 編成中央の2号車。
- こどもの国線・世田谷線 - 設定なし。
乗り入れ先の各線と同じ位置にあるものが多い。設定温度は28℃(弱冷房車以外は26℃)[23]。
- 銀座線・丸ノ内線 - 設定なし。
- 日比谷線 - 中目黒寄りから3両目の5号車。
- 東西線・東葉高速線 - 西船橋・東葉勝田台寄りから4両目の4号車。
- 千代田線
- 有楽町線・副都心線 - 新木場・元町・中華街寄りから2両目の7号車(8両編成)・9号車(10両編成)。
- 半蔵門線 - 押上・久喜寄りから2両目の2号車、渋谷・中央林間寄りから3両目の8号車(東武車両のみ)。
- 南北線・埼玉高速線 - 目黒・日吉寄りから3両目の4号車。
大江戸線以外の設定温度は28℃(弱冷房車以外は25℃)、大江戸線は24℃(弱冷房車以外は22℃)。[7]。
- 浅草線 - 西馬込・浦賀寄りから3両目(全車両)、7両目(京急車両のみ)。
- 三田線 - 日吉寄りから3両目の4号車。
- 新宿線 - 京王八王子寄りから3両目の3号車。
- 大江戸線 - 外回り・光が丘寄りから4両目の5号車。
- 日暮里・舎人ライナー - 中央の車両となる3号車。
設定温度は28℃(弱冷房車以外は26℃)[24]。
- つくば寄りから3両目の3号車。
- 東京モノレール羽田空港線 - モノレール浜松町寄りから2両目の2号車、羽田空港第2ターミナル寄りから2・3両目の4号車・5号車。
- 2011年夏の電力不足による電力制限令に対応し、同年以降編成中1両から3両に増設された[25]。全列車6両編成のうち半数の3両が弱冷房車となり、編成における弱冷房車の比率が日本で一番高い構成になっている。
1992年5月1日設定[26]。
設定温度は27℃(弱冷房車以外は25℃)。
設定温度は28℃(弱冷房車以外は27℃)[27]。
2007年9月1日設定[28]。
- 金沢シーサイドライン - 金沢八景寄りから2両目の2号車。
東海地方
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- 新浜松寄りの先頭車。
近畿地方
[編集]設定温度は弱冷車かどうかに関係なく概ね27℃[7]。
線区によらず、概ね車両の編成両数によって設定されている。複数の編成によって組成された列車の場合、各編成毎に弱冷車が存在する。
2018年5月7日の始発列車より、以下の位置に設定されている。
- 4両編成の車両 - 2号車(概ね西寄りの2両目)
- 6・7・8両編成の車両 - 前・後からそれぞれ2両目(8両の場合、2・7号車)
設定温度は28℃(弱冷房車以外は26℃)[7]。なお、近鉄特急には弱冷房車の設定がない。
設定温度は28℃(弱冷房車以外は26℃)[7]。
- なんば寄りから3両目の3号車(本線特急「サザン」は一般車6号車)。
- 4・6両編成の車両に設定。2両編成の車両のみで組成された列車の場合、弱冷房車は設定されない。4・6両編成の車両によって組成された8両編成の列車の場合、各編成毎に弱冷房車が存在する。
8両固定編成しかない泉北5000系は、3号車と泉北方から2両目の7号車に設定。
設定温度は28℃(弱冷房車以外は24℃から26℃)[29]。
設定温度は27℃(弱冷房車以外は26.5℃)[7]。
- 神戸・宝塚・京都寄りから2両目の車両。6両編成以上は大阪寄りから2両目にも設定。
- 3・4両編成は1両に、6・7・8両編成は2両に設定。2両編成の車両には設定されていない。
設定温度は28℃(弱冷房車以外は27℃)[7]。
1編成が6両以上で運用されている路線で、2019年6月中旬より順次実施。他の冷房車より1〜2℃高く設定[30]。
- 御堂筋線・南北線(10両編成):なかもず寄りから4両目の車両(4号車)。
- 堺筋線(8両編成):両先頭車両からともに2両目の車両(2号車・7号車で2両設定)。相互直通運転で乗り入れ先の阪急線で既に導入されていた弱冷房車の設定に合わせているため、8両編成で2両を設定。
- 谷町線、中央線、四つ橋線(6両編成):谷町線は大日寄りから2両目の車両(5号車)、中央線は相互直通運転で乗り入れ先の近鉄線で既に導入されていた弱冷房車の設定に合わせているため長田寄りから2両目の車両(2号車)、四つ橋線は西梅田寄りから2両目の車両(5号車)。
四国地方
[編集]伊予鉄道
[編集]四国地方で初の弱冷房車の設定となる。設定温度は28℃(弱冷房車以外は26℃)[31]。
九州地方
[編集]設定温度は27℃(弱冷房車以外は25℃)[32]。
- 天神大牟田線・太宰府線 - 各編成の大牟田寄りの先頭車(3000形2両編成・7000形・7050形は設定なし)。
- 複数の編成によって組成された列車の場合、複数の弱冷房車が存在する。
- 甘木線・貝塚線 - 設定なし。
ソウル首都圏
[編集]- 首都圏電鉄1号線・3号線・4号線 - 4号車と7号車に設定[33]
- ソウル交通公社5号線・6号線・7号線 - 4号車と5号車に設定[33]
- ソウル交通公社8号線 - 3号車と4号車に設定[33]
大邱広域市・慶尚北道
[編集]釜山広域市・慶尚南道
[編集]北京市
[編集]- 北京地下鉄1号線など-2023年6月より設定、中国語で「弱冷车厢」と標記される。
脚注
[編集]- ^ a b 京阪では後に6両編成は車両・運用とも消失している
- ^ a b c d e f “電車の「弱冷房車」は生ぬるくていらない?SNSで不満の声があっても必要な理由…“強冷房車”は難しいのかも東京メトロに聞いた|FNNプライムオンライン”. FNNプライムオンライン (2024年7月22日). 2024年9月28日閲覧。
- ^ 電車内が暑い(寒い)のですが - 京急電鉄FAQ
- ^ “消費電力ほぼ半分、“冷房つけっぱなし時代”のエアコンに採用した新モードとは? 東芝「弱冷房車両のような優しい涼しさ」”. ITmedia NEWS. 2024年9月28日閲覧。
- ^ a b 谷川一巳『こんなに違う通勤電車―関東、関西、全国、そして海外の通勤事情』交通新聞社新書、2014年、90頁
- ^ “弱冷車から「強冷車」まで…中国鉄道の冷房サービスがインパクト大「日本に迎えたい」「暑さからいち早く開放」|まいどなニュース”. まいどなニュース (2024年7月22日). 2024年9月28日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i 河尻定 (2013年6月28日). “大江戸線、冷房強いのになぜ暑い 鉄道各社の温度 (東京ふしぎ探検隊)”. 日本経済新聞 (東京都) 2013年7月13日閲覧。
- ^ 鉄道事業 - サービス向上に向けて - 東武鉄道公式サイト
- ^ 西武鉄道 会社要覧
- ^ 車内温度について - 西武鉄道Webサイト
- ^ 気になる冬の「弱冷房車」「弱暖房車」事情 - ウェザーニュース
- ^ “2013年3月16日(土) ダイヤ改正を実施します” (PDF). 西武鉄道 (2013年1月22日). 2013年1月31日閲覧。
- ^ “電車内が暑い(寒い)のですが”. 京浜急行電鉄. 2020年11月17日閲覧。
- ^ “よく頂くご質問(FAQ) 車両について”. 京成電鉄. 2012年6月12日閲覧。
- ^ “京急,弱冷房車を増設”. railf.jp. 2012年6月12日閲覧。
- ^ “夏季の鉄道事業の節電対策について”. 京急電鉄. 2012年6月12日閲覧。
- ^ “電力使用制限の終了に伴う節電対策の見直しについて”. 京急電鉄. 2012年6月12日閲覧。
- ^ “京王線に弱冷房車 今夏登場”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 3. (1994年5月12日)
- ^ “よくいただくご意見(FAQ) - クーラー設定温度について(夏季)”. 京王電鉄. 2012年6月12日閲覧。
- ^ “ODAKYU VOICE 2009年6月1日発行号” (pdf). 小田急電鉄. 2012年6月12日閲覧。
- ^ ご利用案内 - 弱冷房車 - 東京急行電鉄公式サイト
- ^ “東京メトロ副都心線との相互直通運転開始に伴い3月16日(土)に東横線のダイヤを改正します” (PDF). 東京急行電鉄 (2013年1月22日). 2013年1月31日閲覧。
- ^ よくいただくお問い合わせ - 東京地下鉄公式サイト
- ^ “車内の冷・暖房は何度ですか?”. 首都圏新都市鉄道. 2013年12月16日閲覧。
- ^ 『東京モノレールにおける節電の取組みについて』(PDF)(プレスリリース)東京モノレール、2011年6月22日 。2013年5月10日閲覧。
- ^ a b ““弱冷房車”を全列車に連結 新京成電鉄”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 2. (1992年4月30日)
- ^ 横浜市市民活力推進局広聴相談課 Q&Aよくある質問集 市営地下鉄車内の温度管理はどうなっていますか - 横浜市公式サイト
- ^ お客様の声を反映した取り組み - 横浜シーサイドライン公式サイト
- ^ よくいただくご質問と回答 - 京阪電気鉄道公式サイト
- ^ 『「弱冷車」を設定します』(プレスリリース)大阪市高速電気軌道、2019年6月1日 。2019年6月3日閲覧。
- ^ a b 新型鉄道車両(3000系)安全祈願祭 - 伊予鉄道公式サイト
- ^ よくあるお問い合せ - 西日本鉄道公式サイト
- ^ a b c d e 지하철 약냉방칸, 호선마다 위치 제각각…이용자 혼선 - JTBC 2013年8月24日
- ^ [1] [해명자료] 「지하철 냉난방 1도의 전쟁」보도 관련] - 空港鉄道 2017年5月22日