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岡井隆

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
岡井 隆おかい たかし
文化功労者顕彰に際して公表された肖像写真
誕生 (1928-01-05) 1928年1月5日
日本の旗 日本愛知県名古屋市
死没 (2020-07-10) 2020年7月10日(92歳没)
日本の旗 日本東京都武蔵野市
職業 歌人詩人文芸評論家
言語 日本語
国籍 日本の旗 日本
最終学歴 慶應義塾大学医学部卒業
活動期間 1946年 -
ジャンル 短歌
主な受賞歴 愛知県芸術文化選奨文化賞(1980年)
迢空賞(1983年)
斎藤茂吉短歌文学賞(1990年)
現代短歌大賞(1995年)
紫綬褒章(1996年)
詩歌文学館賞(1999年)
毎日芸術賞(2000年)
旭日小綬章(2004年)
読売文学賞詩歌俳句賞(2005年)
藤村記念歴程賞(2007年)
小野市詩歌文学賞(2009年)
高見順賞(2010年)
短歌新聞社賞(2011年)
文化功労者(2016年)
旭日中綬章(2020年)
所属 未来短歌会
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岡井 隆(おかい たかし、1928年昭和3年)1月5日 - 2020年令和2年)7月10日[1])は、日本歌人詩人文芸評論家未来短歌会発行人。日本藝術院会員。塚本邦雄寺山修司とともに前衛短歌の三雄の一人。2016年文化功労者選出。従四位叙位、旭日中綬章追贈。

17歳から歌作を始め、「アララギ」に参加。慶大医学部卒業後、内科医のかたわら、歌人として活躍する。浪漫的歌風の生活詠から次第にナショナリズムに傾き、先鋭的な思想性を短歌に導入し、前衛短歌運動の先頭に立った。一時は文学活動を停止したが、歌集『鵞卵亭』(1975年)を刊行して復帰。作風は柔和に転じた。著作に『海への手紙』(1962年)、『茂吉の歌私記』(1973年)などの評論、『岡井隆の短歌塾 入門編』(2012年)など入門書も多い。

経歴

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愛知県名古屋市東区主税町生まれ[2]。父も「アララギ」の歌人である傍ら、日本陶器(現ノリタケカンパニーリミテド)の技術者で、後に専務取締役も務めた。旧制愛知一中(現愛知県立旭丘高等学校)、旧制第八高等学校慶應義塾大学医学部卒。医学博士の学位を取得。内科医師として、国立豊橋病院内科医長などを歴任した。

17歳のときに作歌を始め、1946年「アララギ」に参加、土屋文明の選歌を受ける。1951年近藤芳美を中心とした「未来」創刊に参加。アララギ派の影響が濃い浪漫的な生活詠から出発したが、1955年塚本邦雄との交流が始まり、寺山修司とも知り合い、青年歌人会議、東京歌人会などの活動に参加。現代詩暗喩技法を取り入れながら、ナショナリズムなど先鋭的な主題を表現することで現代短歌に思想性を導入し、前衛短歌運動の旗手の一人となった。1957年より吉本隆明と「定型論争」を繰り広げ、前衛短歌の理論的基礎を構築した。北里研究所付属病院の医師として勤務していたが、1970年の夏に辞職して20歳ほど年下の愛人女性と九州に隠遁、あらゆる文学活動を停止した。その5年後に歌集『鵞卵亭』を発表して歌壇に復帰。1985年以降は、W・H・オーデンらの影響からライト・ヴァースを提唱し、口語文語を融和した柔らかい作風に転換していく。1989年より1998年まで深作光貞の誘いにより京都精華大学人文学部教授。この時同僚だった上野千鶴子と交友を持ち始める。

1983年から、中日新聞東京新聞に『けさのことば』を長年にわたって連載していた。2014年まで日本経済新聞歌壇選者を務め、中日新聞の歌壇選者も1983年から長年にわたり務めた。

1993年から歌会始選者となり宮廷歌人となったが、そのことに対して歌壇では批判と論争が巻き起こった。2007年宮内庁御用掛。2016年文化功労者選出[3]

2020年7月10日12時26分、心不全のため、東京都武蔵野市内の自宅で死去[4][5]。92歳没。死没日をもって従四位叙位、旭日中綬章追贈[6]

人物

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評論では、斎藤茂吉論が多い。詩集でも高見順賞を受賞するなど、詩人としても高い評価を得ている。

門下に小嵐九八郎池田はるみ山田富士郎加藤治郎大辻隆弘江田浩司田中槐紀野恵大滝和子東直子高島裕、さいかち真、嵯峨直樹笹公人岡崎裕美子中沢直人萩原慎一郎らがいる。

祖父母はロシア正教、父母はプロテスタントの家系で、自身も21歳のときに受洗しているが、その後は教会とは縁が切れていた。しかしそれでも自分はキリスト者であると認識していた[7]

受賞歴

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著作

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単著

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  • 『斉唱』白玉書房 1956/文庫版『斉唱』現代短歌社 第一歌集文庫 2020 ISBN 978-4-86534-314-4 文庫版解説:鳥居
  • 『土地よ、痛みを負え』白玉書房 1961
  • 『海への手紙 歌論集』白玉書房 1962
  • 『朝狩』白玉書房 1964
  • 『眼底紀行』思潮社 1967
  • 『現代短歌入門 危機歌学の試み』大和書房 1969/文庫版『現代短歌入門』講談社学術文庫 1997 ISBN 978-4-06-159266-7 文庫版解説:篠弘
  • 『戦後アララギ』短歌新聞社 1970
  • 『岡井隆歌集』思潮社 1972
  • 『茂吉の歌 夢あるいはつゆじも抄』創樹社 1973
  • 『辺境よりの註釈 塚本邦雄ノート』人文書院 1973
  • 『鵞卵亭』六法出版社 1975
  • 『慰藉論 吉本隆明から斎藤茂吉』思潮社 1975
  • 『韻律とモチーフ』大和書房 1977
  • 『岡井隆歌集』国文社(現代歌人文庫 2) 1977 
  • 『歳月の贈物』国文社 1978
  • 『天河庭園集』国文社 1978
  • 『遥かなる斎藤茂吉 私流「茂吉の読み方」』思潮社 1979
  • 『時の峡間に 現代短歌の現在 岡井隆評論集』雁書館 1979
  • 『ロマネスクの詩人たち 萩原朔太郎から村上一郎まで』国文社 1980
  • 『前衛短歌の問題 現代職人歌から古代歌謡まで』短歌研究社 1980
  • 『メトロポオルの燈が見える』砂子屋書房 1981
  • 『近藤芳美と戦後世界』蒼土舎 1981
  • 『人生の視える場所』思潮社 1982
  • 『歌のかけ橋』六法出版社 1983
  • 『花を視る人』砂子屋書房 1983
  • 『古代詩遠望 続・前衛短歌の問題』短歌研究社 1983
  • 『斎藤茂吉 人と作品』砂子屋書房 1984
  • 『岡井隆の短歌塾 入門編』六法出版社 1984
  • 『茂吉の万葉 現代詩歌への架橋』短歌研究社 1985
  • 『αの星』短歌新聞社 1985
  • 『岡井隆の短歌塾 鑑賞編』六法出版社 1986
  • 『岡井隆全歌集』全2 思潮社 1987
  • 『犀の独言』砂子屋書房 1987
  • 『今はじめる人のための短歌入門』角川選書 1988
  • 『人麿からの手紙 茂吉の読み方』短歌研究社 1988
  • 『けさのことば』2-3 砂子屋書房 1988-96
  • 『鵞卵亭談論』六法出版社 1989
  • 『岡井隆の短歌塾 鑑賞編・古代歌謡』六法出版社 1989-90
  • 『親和力』砂子屋書房 1989
  • 『文語詩人宮沢賢治筑摩書房 1990
  • 『宮殿』沖積舎 1991
  • 『太郎の庭』砂子屋書房 1991
  • 『愛の茂吉 リビドウの連鎖 評論集』短歌研究社 1993
  • 『斎藤茂吉と中野重治』砂子屋書房 1993
  • 岡井隆コレクション』全8巻 思潮社 1994-96
  • 『禁忌と好色』短歌新聞社 1994
  • 『茂吉の短歌を読む』岩波書店・岩波セミナーブックス 1995
  • 『短歌の世界』岩波新書 1995
  • 『茂吉と現代 リアリズムの超克』短歌研究社 1996
  • 『前衛歌人と呼ばれるまで 一歌人の回想』ながらみ書房 1996
    • 『前衛短歌運動の渦中で 一歌人の回想』ながらみ書房 1998
    • 『挫折と再生の季節 一歌人の回想』ながらみ書房 2000

共著・編著

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代表作

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  • 耳は眼を覆わむばかり 雨少女ザムザザムザムわれに蹤きくる 
  • 桜なんか勝手に咲けよまだすこし怨念がある昨日の夢に
  • 海こえてかなしき婚をあせりたる権力のやわらかき部分見ゆ
  • 蒼穹は蜜かたむけてゐたりけり時こそはわがしづけき伴侶
  • くッと言ふ急停車音広辞苑第三版を試し引き居れば
  • スラリ一すぢ白色灯を差しかへて脚立を下りる時の眩暈

脚注

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  1. ^ 戦後の短歌界をけん引した岡井隆さん死去共同通信2020年7月11日 Archived 2021-05-07 at the Wayback Machine.
  2. ^ 『あいち文学散歩』2013年浜島書店、24ページ
  3. ^ “文化勲章に6人決まる 大隅良典氏や草間彌生氏ら”. 朝日新聞. (2016年10月28日). http://www.asahi.com/articles/ASJBT543RJBTUCVL01D.html 2016年10月28日閲覧。 Archived 2020-12-04 at the Wayback Machine.
  4. ^ 文化功労者の歌人・岡井隆さん死去 皇族の和歌の相談役:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2020年7月11日閲覧。
  5. ^ 歌人の岡井隆さん死去 戦後短歌界けん引、92歳 - 時事ドットコム 2020年7月11日 Archived 2020-07-19 at the Wayback Machine.
  6. ^ 『官報』第313号7-8頁 令和2年8月18日号
  7. ^ 『ぼくの交遊録』ながらみ書房、2005年、158頁。 

参考文献

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