アリルイソプロピルアセチル尿素
IUPAC命名法による物質名 | |
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薬物動態データ | |
排泄 | 腎 |
データベースID | |
CAS番号 | 528-92-7 |
ATCコード | N05CM12 (WHO) |
PubChem | CID: 10715 |
ChemSpider | 10264 |
UNII | V18J24E25E |
KEGG | D03975 |
ChEMBL | CHEMBL509282 |
化学的データ | |
化学式 | C9H16N2O2 |
分子量 | 184.236 g/mol |
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アリルイソプロピルアセチル尿素(アリルイソプロピルアセチルにょうそ、英: allylisopropylacetylurea)、あるいはアプロナール(英: Apronal)は、ウレイド系に属する催眠/鎮静剤であり、1926年にホフマン・ラ・ロシュ社に合成され[1]、AIAUは、米国薬局方やヨーロッパ薬局方には収載されておらず、オーストラリアやニュージーランドでも使用されていないことが確認されています。ただし、韓国では販売されているようです。[要出典]国外ではセドルミド(Sedormid)の商品名で知られる。日本ではブロムワレリル尿素との合剤である「ウット」(一般用医薬品)や、鎮痛薬のアセトアミノフェンなどとの合剤である塩野義製薬の「SG配合顆粒」(医療用医薬品)が知られ、一般用医薬品で解熱鎮痛薬としてノンフィーブ、あるいは、バファリン、セデス、ノーシン、イブの派生商品に含まれ、第一類医薬品または指定第二類医薬品である。
ブロムワレリル尿素と同じモノウレイド系の薬物で似た化学構造を持ち[2]、バルビツール酸系ではないがバルビツール酸系に似た化学構造を持っている(複素環の代わりに開鎖の尿素)[3]。従って、バルビツール酸系と同様に作用するが、比較するとかなり軽度である[3]。血小板減少性紫斑病を発症する原因となる知見から、(国外の)臨床的な使用現場では姿を消した[4]。1938年、アメリカ医師会・薬理化学評議会は新規の治療には容認できないと宣言した[5]。ブロムワレリル尿素とで、両方の薬剤に薬疹を生じる交差反応が生じるという報告も存在する[6]。
日本では、アリルイソプロピルアセチル尿素の催眠剤は習慣性医薬品に分類される。また、日本では1965年より、一般用医薬品の総合感冒薬には使用できない[7]。
化学
[編集]ブロムワレリル尿素と同じモノウレイド系の薬物で、 に、ブロムワレリル尿素ではが、アリルイソプロピルアセチル尿素ではが繋がっている[2]。
国内の配合商品
[編集]日本では1948年の『日本準薬局方』(第3改定)に、「プロピルアリルアセチル尿素」の名で掲載されている。1965年に「かぜ薬の承認基準」が設けられた時、ブロムワレリル尿素とアリルイソプロピルアセチル尿素については主作用が催眠作用であるため使用できる薬剤から削除された[7]。
2010年時点でアリルイソプロピルアセチル尿素のみの医療用医薬品はない[8]。
塩野義製薬のSG配合顆粒は、2003年に発売され、解熱や鎮痛の効果効能を持ち、イソプロピルアンチピリン、アセトアミノフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素、無水カフェインが配合されている。
一般用医薬品では、アリルイソプロピルアセチル尿素は、「バファリンプレミアム」「バファリンプラスS」、「新セデス錠」「セデス・キュア」、「ノーシンピュア」、「イブクイック頭痛薬DX」「イブA錠」など鎮痛薬の配合成分の1つである。またブロムワレリル尿素との合剤である「ウット」の成分の1つである。
他に、2001年には、フェナセチンの長期連用、大量服用による腎障害が相次いだため供給の停止を要請されており[9]、アリルイソプロピルアセチル尿素が配合された製品としてトーワサールが2008年まで販売されていた[8]。
死亡例
[編集]1950年代にも、中毒死を含む中毒例は過去に報告されており、大量投与によって中枢神経系の抑制を引き起こし死亡に至った報告もある[10]。
副作用
[編集]1938年3月5日には、アメリカ医師会・薬理化学評議会は、新規または非公式の治療には容認できないことを宣言した(非公式の治療:時代背景として民間医療も多かった)[5]。アメリカでは1933年より出血性紫斑病が報告され、1930年代後半にはその症例報告は44例以上にのぼっていた[5]。
1942年に、ドイツ・ミュンヘン大学の内科医は、セドルミドは時に血小板減少性出血をきたすため全廃するよう警告し、ルミナール(フェノバルビタール)など代わりの薬もあると述べている[11]。国外では少量のアリルイソプロピルアセチル尿素によって脳が変質する脳性紫斑病は1950年代にも知られている[10]。1950年代には、セドルミド紫斑病は外部の化合物に対する免疫反応として、最も調査されたものとして注目されている[12]。アリルイソプロピルアセチル尿素をしばらく使用していると、血小板減少性紫斑病の症状が現れ、薬をやめると症状は消え、皮膚にこの化合物を貼ると紫斑を生じる[12]。
日本では1990年代より継続的に、眼瞼や口、身体に赤い薬疹を生じることが報告されている[13]。日本の山口県赤十字病院皮膚科で、1991年7月から約5年半に薬疹と診断されたうち、原因薬剤が確認できたものは121例あり、カルバマゼピン6例、アモキシシリンとアリルイソプロピルアセチル尿素が各5例で多かった[14]。またブロムワレリル尿素と類似の構造を持つため、両方の薬剤に薬疹を生じる交差反応が生じた例もある[6]。アリルイソプロピルアセチル尿素による固定薬疹の頻度は高く、薬疹の報告が多い抗生物質と同程度であるが、製造者、薬局販売者共に知識や認識が低く、見過ごされる可能性はある[15]。
アリルイソプロピルアセチル尿素は反復して摂取すると依存を生じることがある[16]。薬物乱用頭痛の原因は鎮痛成分の連用が主となるが、市販の鎮痛薬に含まれるカフェイン、ブロムワレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素などの依存や離脱症状が、発症に寄与することが考えられる[17]。
中枢抑制作用により[8]、服用後、眠気が現れることがあり、乗り物や機械類の操作をしないよう注意する必要がある[18]。
関連項目
[編集]出典
[編集]- ^ ドイツの特許 459903 - Verfahren zur Darstellung von Ureiden der Dialkylessigsaeuren
- ^ a b 矢島孝、うり谷克子、青木理恵ほか「中枢神経系抑制剤Allylisopropylacetylurea(Apronalide)の薬理作用」『応用薬理』第11巻第5号、1976年、693-717頁。
- ^ a b Roche Review .... Hoffman-La Roche, and Roche-organon. (1938). p. 164
- ^ R. L. Vollum; D. G. Jamison; C. S. Cummins (20 May 2014). Fairbrother's Textbook of Bacteriology. Elsevier Science. pp. 152–. ISBN 978-1-4831-4178-7
- ^ a b c McGovern, Teresa; Wright, Irving (1939). “PURPURA HAEMORRHAGICA FOLLOWING USE OF SEDORMID”. Journal of the American Medical Association 112 (17): 1687. doi:10.1001/jama.1939.62800170001011. ISSN 0002-9955. 訳語を「アメリカ医師会・薬理化学評議会」とした。
- ^ a b 東禹彦「アリルイソプロピルアセチル尿素とブロモバレリル尿素で同一部位に固定薬疹を生じた1例」『皮膚の科学』第13巻第6号、435-438頁、doi:10.11340/skinresearch.13.435、NAID 130005068497。
- ^ a b 藤井基之「かぜ薬の承認基準および地方委譲について」(pdf)『ファルマシア』第7巻第2号、1971年2月、157-159頁、NAID 110009914263。
- ^ a b c 今井雄一郎・編著『一般用医薬品使用上の注意ハンドブック: 適正使用のための虎の巻』(改定版)薬事日報、2010年、187頁。ISBN 978-4-8408-1109-5。
- ^ “医療用フェナセチン含有医薬品の濫用対策としての供給停止について”. 厚生労働省 (2001年4月9日). 2016年4月4日閲覧。
- ^ a b Joron GE, Downing JB, Bensley EH (1953). “Fatal poisoning by sedormid (allyl-isopropyl-acetyl urea)”. Can Med Assoc J 68 (1): 62–3. PMC 1822680. PMID 13019715 .
- ^ Graeber H「セドルミッド使用による血小板減少性出血」『日独治療』18年7・8、1943年7月、48頁。Graeber H: Münch. med. Wschr. 1942, 122.
- ^ a b M.バーネット 著、山本正、石橋幸雄、大谷杉士 訳『免疫理論―クローン選択説』岩波書店、1963年、127-129頁。
- ^ 原紀正「アリルイソプロピルアセチル尿素 (新セデス) による皮膚粘膜眼症候群型薬疹」『皮膚病診療』1990年。NAID 50003161924。固定薬疹の症例報告:1992:NAID 80006738092。1993:NAID 50003861111。1998NAID 50004458787。2000:NAID 130004474622。2000:NAID 80011986490。2001:NAID 40020004346。2002:NAID 80015249083。2002:NAID 40020001108。2003:NAID 50000323007。2003:NAID 50000877000。2003:NAID 40020005094。2004:NAID 50000034403。2005:NAID 10016591895。2005:NAID 130004475033。2006:NAID 40007312637。2007:NAID 40015636882。2009:NAID 40016530786。2010:NAID 10026637616。2011:NAID 40017659701。2011:NAID 40017659702。2012:NAID 110009482991。2012:NAID 40019382076。2013:NAID 130004546926。2013:NAID 110009797945。2014(ブロムワレリル尿素との交差反応):NAID 130005068497。2015:NAID 130005110164。多形滲出性紅斑型薬疹の症例報告NAID 50000806445
- ^ 西岡和恵、瀬口得二、村田雅子ほか「最近5年6ヵ月間の山口赤十字病院皮膚科薬疹確実例の検討」(pdf)『西日本皮膚科』第60巻第4号、1998年、520-523頁、doi:10.2336/nishinihonhifu.60.520、NAID 130004474449。
- ^ 鹿隼人、高橋直子、小松卓也ほか「アリルイソプロピルアセチル尿素による固定薬疹の1例から、薬局における一般用医薬品の販売について考察する」第47回日本薬剤師会学術大会、2014年、227~?ページ。学術大会抄録公開ページ(日本薬剤師会)
- ^ ドーモ・編集『過去問から学ぶ登録販売者試験対策問題集』薬事日報社、2009年、107頁。ISBN 978-4840810845。
- ^ 柴田護、鈴木則宏「5. 薬物乱用頭痛」『日本内科学会雑誌』第96巻第8号、2007年、1634-1640頁、doi:10.2169/naika.96.1634。
- ^ 上村直樹・編集『医薬品情報学』化学同人、2009年、140頁。ISBN 978-4759812718。