バス代行
バス代行(バスだいこう)とは、日本において鉄道がなんらかの事情でその輸送機能を途絶された場合に、バスにより輸送を代行することをいう。
その輸送の任に当たるバスを、「代行バス」あるいは「代替バス」と呼ぶことがある。
一般的に沿線のバス事業者が担当することになっている[1]。JRバス各社は主要業務の一つにこの列車代行輸送がある。車庫が鉄道路線とかなり離れていても代行する場合があるのは、このためである。JRバス、鉄道事業者系列のバス事業者、鉄道事業者と代行輸送契約しているバス事業者が所有する車両の方向幕には「列車代行」の表示が用意されている[2]。
このほか、歩道の通行止めにより車道への迂回が必要な場合にも、代行バスが運行されることがある。
バス代行を行うケース
鉄道輸送の途絶によるバス代行の発生には、一般的に次の事情が考えられる。
災害や事故等による鉄道の不通
災害や事故、不発弾処理など不測の事態の発生により列車の運行が不可能になった場合、その区間で代行バスが運行されることがある。鉄道が不通になった場合、その区間を経由・発着する切符はすべて発売が中止[3]されるが、代行バスが運行されるようになった場合、切符の発売が再開される。この場合、代行バス輸送はあくまで鉄道輸送の臨時代替とみなされ、運賃・料金は鉄道と同様に計算される。特急列車の代行バスに乗車するには特急券が必要である[4]。急行列車の場合も同様である。
1998年(平成10年)の水害による四国旅客鉄道(JR四国)土讃線大杉駅 - 高知駅間長期不通時の例では、不通区間の所要時間が代行バスの方が速く、列車と同一ダイヤでの運行が可能だったため、大杉駅止まりの特急列車と高知駅で接続する宿毛駅方面の特急列車は、代行バスを挟んで同一の列車とみなされ、通しの特急券が発行された。一方、土佐山田駅、後免駅方面は、代行バス経路が鉄道と異なるため、高知駅で接続する別の代行バス(土佐電気鉄道線と共同の代行バス)に乗換えとなった。
2000年(平成12年)の有珠山噴火の際、不通となった室蘭本線を迂回する形で札幌駅方面と函館駅方面を結ぶ特急列車や貨物列車が函館本線で運転された。函館本線のうち長万部駅 - 小樽駅間では線路容量の不足を補うため迂回の特急や貨物列車を優先し、普通列車はバス代行輸送で対応したことがあった他、室蘭本線の普通列車等も代行バスでの運行されている。
2001年(平成13年)に列車衝突事故で京福電気鉄道の福井県の路線(現・えちぜん鉄道)をバス代行にした時は、観光バスなどを代行バスに使用したことがある。
2005年(平成17年)4月25日に発生した福知山線(JR宝塚線)脱線事故では、JR宝塚線と並行する阪急宝塚本線で臨時列車の増発がされなかったのとは対照的に、阪急バスの尼崎駅(JR尼崎) - 川西能勢口駅間の路線では、通常1時間に片道1本から2本の運行のところ、他営業所の応援により増発する対応がされた。西日本旅客鉄道(JR西日本)は阪急電鉄に対し、JR宝塚線と同様の時間帯の終電運行を要望したが断られ、また阪急バス、阪神電気鉄道自動車部(現・阪神バス)にも深夜帯の代行輸送を断られた。その結果、深夜帯における代行輸送は大阪駅 - 宝塚駅間の直通バスが西日本JRバス、JR東西線対応で尼崎駅 - 宝塚駅間の各駅停車バスをエリア外の神姫バス、山陽電気鉄道自動車営業本部(山陽バス)、神戸山陽バスが担当した。
2010年7月23日時点では、名松線家城駅 - 伊勢奥津駅間が2009年(平成21年)の台風18号の被害によりバス代行となっているが、この区間は東海旅客鉄道(JR東海)から廃止の提案がなされている。また、2010年(平成22年)7月12日からの大雨により、呉線竹原駅 - 安浦駅間と美祢線全線が被害を受けバス代行となったが、呉線は同年11月1日に全線が復旧、美祢線も2011年(平成23年)9月26日に全線が復旧したことでバス代行は終了している。
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)で運休している太平洋沿岸の路線でも、バス代行輸送(一部路線は定期券・回数券所持の乗客のみ有効)を実施している。。
阪神・淡路大震災時の事例
大規模なバス代行輸送としては、1995年(平成7年)1月17日の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)発生に伴う鉄道不通区間の鉄道代替バスの運行があげられる。震災発生当日から阪急電鉄や神戸電鉄が一部の区間で鉄道代替バスの運行を開始したが、当時阪神間の不通区間の東端であった西宮市内と神戸市内のターミナルとを結ぶ路線では、路面を含む道路設備の多くが被災した影響もあり、JR西日本、阪急電鉄、阪神電気鉄道の各社とも、震災発生から約1週間後(1月23日)の国道2号の開通を待っての運行開始とした。
阪急電鉄は阪急バスと阪急観光バスを基本にした代行輸送、阪神電気鉄道は阪神電鉄バスと名古屋阪神観光バス(現・名古屋バス)を基本にした代行輸送体制を取り、JR西日本は主に西日本JRバス、九州旅客鉄道(JR九州)自動車事業部(現・JR九州バス)、神姫バスの3社を基本に、震災によって貸切バス需要が枯渇したことから観光バス会社を加えた輸送体勢であった[5]。
西宮市内から神戸市内までは、いずれの鉄道路線でも本来15 - 20分程度、国道2号を利用したバス路線でも本来50 - 60分程度の所要時間という距離関係であるが、震災直後は停滞とも言える大渋滞が発生した[6]影響もあり、代替バスでは片道が軒並み3時間以上かかる状況であった。このため、各社の代替バス運行開始から数日後(1月28日)には、国道2号と国道43号の各一車線を緊急車両・代替バス専用車線とする緊急対応が取られた。JR西日本はこれを利用して芦屋駅 - 三ノ宮駅間の「直行バス」の路線を設定、あわせて山手幹線と国道2号を路線とする各駅停車便(シャトルバス)を運行し、既存の鉄道駅近くの仮設バス停留所で乗降扱いをした。いずれの会社も車内での運賃収受を行わず、停留所に配置された鉄道事業者の社員が運賃収受を行った[7][8]。
また、山陽新幹線も被災し高架橋が落下するなどしたため、中国自動車道・播但連絡道路経由とする新大阪駅 - 姫路駅間の鉄道代替バスが西日本JRバスと神姫バスの2社を基本に運行されたが、中国道宝塚IC - 西宮北IC間が大渋滞となり[9]、運行翌日からは三田駅⇔姫路間に区間変更され、新大阪駅 - 三田駅間は福知山線(JR宝塚線)を用いる代行ルートとなった。この代行期間中は西日本JRバスの車両が神姫バス三田営業所・姫路営業所に配置されていた。
鉄道復旧に伴い、バスでの輸送区間は次第に縮小され、震災による鉄道代替バスの運行は同年8月22日までにすべて終了している。
(※ 外部リンクの平成7年度 運輸白書 第1章第2節も参照のこと)
大規模工事による鉄道営業の中止
主に地上設備の改良工事で当該区間に列車を運行させることができない場合に計画的に行われる。並行する他の鉄道・バス事業者への振替輸送を併せて行うことが多い。
- ミニ新幹線化
- 東日本旅客鉄道(JR東日本)田沢湖線を東北新幹線と直通させるために標準軌に改軌する際、同線は長期にわたり運行を休止した。その際補完としてバスによる輸送を行った。この輸送は、大曲駅 - 盛岡駅間の直通便をJRバス東北が、その他区間便を秋田県側(大曲駅 - 田沢湖駅間)は羽後交通、岩手県側(田沢湖駅 - 盛岡駅間)は国際興業系列の岩手観光バス(のちに岩手県交通に合併)、および岩手県北自動車が請け負った。お盆・年末年始にはJRバス東北と秋田中央交通が秋田駅 - 盛岡駅間の直行便を運行した。
- 高架化・地下化切り替え
- 都市部では既存の路線を高架線または地下線に改良する際に、高架化・地下化切り替え工事当日に切り替え地点の前後をバスで連絡することがある。土曜・休日の深夜から早朝のように多くの利用客に影響の少ない時間帯が選ばれるが、工事の内容や規模によっては日中でも代行が行われる。一方、名古屋鉄道常滑線のように、榎戸駅-常滑駅を1年以上にわたり全面運休して、その間に高架化工事をするという事例も存在する。
- 駅新設・改良工事
- 既存の区間に新たに駅を設置する場合や、既存の駅の配線変更など、駅の工事の関係で当該駅の前後の区間でバス代行が行われることがある。
- 橋の架け替え
- 鉄道橋を架け替える場合は橋の前後の区間で列車の運行を休止して工事を行うため、当該区間でバス代行が行われることがある。
- リフレッシュ工事
- ローカル線では日中の閑散時に列車の運行を休止して工事を行い、バス代行が行われることがある。
- 山口県内の山陽本線では昼間の保守工事で2時間ほど運行されない場合にバス代行になる。
路線の経営状況の悪化による、営業の効率化
日本国有鉄道(国鉄)士幌線において、1978年(昭和53年)から、末端部の糠平駅 - 十勝三股駅間において、鉄道営業を休止しバス輸送を行った。このケースでは、同区間の鉄道営業は「休止」扱いであり、廃止はされていなかった。
私鉄においても、閑散路線がバス代行になるケースが多かった。私鉄の場合ラッシュ時のみ列車を運行し、その他の時間帯はバス代行とするケースが見られた。該当例として、末期の有田鉄道(2002年廃止)や北陸鉄道金名線(1984年に休止後、1987年廃止)・北恵那鉄道などが挙げられる。有田鉄道の最末期は、休日は列車を全便運休としバス代行便のみとした。つまり、曜日によるバス代行と言える。また、京福電気鉄道永平寺線の末期の東古市駅 - 永平寺駅間(2001年休止後、2002年廃止)では、1時間間隔で運行される電車の間に、1時間間隔でのバスが運行されるというダイヤであった。東古市で接続する越前本線(現・えちぜん鉄道勝山永平寺線)が30分間隔での運行であったので、永平寺線への接続は電車とバスの両方があった。これらのケースでは、営業路線での代行バスという扱いであり、定期券・回数券などではバス便・列車便のいずれも乗車が可能であった。2008年現在、閑散時間帯のみのバス代行路線はない。
日本国外では、フランス国鉄 (SNCF) のローカル線にバス代行便が多い。士幌線のような完全に休止してバス代行のみにした路線もあれば、閑散時間帯のみバス便とする路線(走るのは優等列車のみで、ローカル便はバス便とする、など)もある。列車代行なので、当然ユーレイルパスなどのパスで乗車することができる。
鉄道廃止に伴う代替交通機関の確保
鉄道が廃止されたのちに、鉄道営業区間に開通されたバス路線が挙げられる。代替バス、転換バスとも称する。鉄道の代替という位置づけではあるが、上記とは異なり、鉄道営業は廃止されているため、運賃・料金は鉄道のものとは異なる独自の設定がされる。なお、既存の路線バスが並行して運行されている場合にはその路線が代替となることもある。しかし、鉄道に比べ運賃が高くなる傾向が強く、また代替路線が実際の沿線住民の需要と異なるなどのために、利用者の逸走が著しい場合もあり、代替路線バスですら廃止になってしまう場合も存在する(名鉄谷汲線の廃止に伴う、名阪近鉄バスの代替路線など)。このため、路線バスの定期運賃と鉄道時代の定期運賃の差額を自治体が補助するなどの激変緩和措置が取られることもある[10]。
1960年代から1970年代にかけては、路面電車の廃止に伴う代替バスが各地で見受けられた。
脚注
- ^ 但し代行距離が比較的長距離となる場合においては沿線の路線バス会社が全て担当する事は少なく、殆どの場合は当該区間を営業エリアとして申請登録している貸切バス会社が担当する例が多い
- ^ 貸切バス会社が運行を行う場合はサボ等で列車代行である事を示している
- ^ 区間限定で運行再開となった場合等において事前予約等で発券済みの普通席の指定券は一度無効扱いとなり通常は自由席として開放される他、グリーン車に関しては事前発券した場合は状況により有効の場合もある。細部は駅窓口等で確認が必要
- ^ 但し事故の代行バスの場合は現場も混乱している事から基本的に改札や運賃計算はその場で行う事は無く到着駅等で精算される例が多い他大幅遅延の処理は別途1年以内を基準とする期間内に最寄りの駅で処理されるよう手配される
- ^ 座席は豪華であったが、乗降口が前部1か所のみであるため、鉄道駅に相当する停留所に到着する度、乗客の乗降に多くの時間を要するなど不評であった。
- ^ 被災により車両の通行ルートが限定される中、緊急車両・復興支援用車両・物資輸送車両に加え、親戚や知人を心配して駆けつけた一般車両が殺到したことにより慢性的な大渋滞が発生した。
- ^ 運行開始当初、三宮の降車場(国道2号 新生田川橋交差点付近)では、JR・阪急・阪神の社員がバス到着時にいずれの会社のバスであっても運賃収受、定期券確認、回数券回収を行うなど、混乱回避のための協力がみられた。
- ^ 代行輸送区間の変更やその後のシステム簡略化に伴い、小型のゴミ箱を流用した簡易運賃箱をバス車内に設置したケースもある。
- ^ 宝塚東・宝塚西トンネルをボトルネックとする渋滞が慢性的に発生する区間でもある。
- ^ 深名線の廃止に伴い沿線から乗車する学生への便宜を図る観点から定期券代の差額を沿線自治体が補助する形式が取られた
関連項目
外部リンク
- 運輸省(現・国土交通省) 平成7年度 運輸白書
- 第1章第2節 地震発生後の対応 - 阪神・淡路大震災発生当時の鉄道代替バスに関して詳細な記述がある。