4四歩パックマン
9 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | |
香 | 桂 | 銀 | 金 | 王 | 金 | 銀 | 桂 | 香 | 一 |
飛 | 角 | 二 | |||||||
歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 三 | |
歩 | 四 | ||||||||
五 | |||||||||
歩 | 六 | ||||||||
歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 七 | |
角 | 飛 | 八 | |||||||
香 | 桂 | 銀 | 金 | 玉 | 金 | 銀 | 桂 | 香 | 九 |
4四歩パックマン(よんよんふパックマン)[1]は将棋の戦法のひとつ。後手が用いる奇襲戦法であり、先手の初手▲7六歩に対して、△4四歩(第1図)とする戦法をいう。この歩は無条件に取れるように見えるが、取ってしまうと非常に激しい戦いに突入し、双方とも油断すると一気に敗勢に陥る局面となる。
概要
[編集]将棋の入門書にときどき紹介される。変化が豊富であり、手順中に気付きにくい好手もあるため、研究していない相手には奇襲が成功する公算が大きい。先手としては、挑発に乗らずに▲4六歩または▲2六歩とすれば、普通の駒組みが予想されるが、プロの意見では▲4四同角と取って先手が有利である[2]。
第1図以下、▲4四同角とすれば、△4二飛▲5三角成までは必然である。ここで、単に△4七飛成とするのは、▲6三馬(桂取り)△7二銀▲3六馬で局面をおさめてしまえば、歩得で先手が指しやすくなる。そこで、△4七飛成に代えて△3四歩が狙いの一手である。ここは先手の手が広いところであるが、以下▲4二馬△同銀と清算してから▲8八銀(第2図)と守る変化と、単に▲8八銀(第6図)とする変化を見る。
プロの実戦としては、公式棋戦で上述の定型の駒組ではないが1筋の端歩を突き合った上で△3二銀も入った形が現れており、2020年に山崎隆之が棋聖戦予選で久保利明(ただし先後逆)、NHK杯本戦で西川和宏、2021年に順位戦A級で菅井竜也(先後逆)相手に採用し、3局とも勝利を収めている。なお、棋聖戦予選と順位戦A級では先後逆であったため、実際は「6六歩」であり、「4四歩」が取られて力戦となった例はNHK杯の1戦のみである。
その後2022年に折田翔吾が第5回ABEMAトーナメントのエントリートーナメント関東Aブロックにて、後手番となった決勝で勝又清和相手に先手の初手▲7六歩に△4四歩を指す。勝又は誘いに乗らず矢倉に組み、後手の折田は雁木に構えてそのまま進めて勝利しブロック通過を果たす。なお折田は準決勝の対宮田敦史戦でも、先手となった折田は初手に▲7八銀を指し、後手△3四歩に▲6六歩とした。後手は△6六同角と応じて△5七角成から中飛車にしたが、9筋からの端攻めで折田が勝利している[3]。
対談:瀬川晶司六段×今泉健司四段「B級戦法は こんなに楽し」(『将棋世界Special 将棋戦法事典100+』(将棋世界編集部編、マイナビ出版)所収)で瀬川晶司は後手△4四歩には2秒で取るとし、今泉健司も取るとしているが、タダの歩を突くからには何か研究があるはずと警戒し、プロは慎重なので取らない人も多いとしている。
変化その1
[編集]第2図からは、△9五角が後手の勝負手となる。この王手に対し、▲6八金や▲4八玉は飛車の横利きが無くなって、△8八角成と銀を取られる。▲7七銀と上がるのも、△7七同角右成▲同桂△同角成▲6八金△9九馬(第3図)となっては後手勝勢である。
△持駒 角
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△持駒 銀桂香
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よって、△9五角には▲7七飛と打つのが最強の受けである。これに対し、すぐに△7七同角右成▲同銀と清算するのでは大したことがないので、△3三桂(第4図)と力をためる。ここで▲9六歩と催促するのは、△7七角成▲同銀△4五桂▲4八銀△7七角成▲同桂△8九飛▲7八角△9九飛成(第5図)と進み、後手優勢となる。よって、第4図では▲6八玉と体勢を整えておくべきで、これなら先手も指せる。
△持駒 なし
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△持駒 銀香
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前掲の瀬川今泉の対談では、△4四歩に▲同角△4二飛▲5三角成△3四歩▲4二馬△同銀▲8八銀△9五角▲7七飛の進展は2歩得で先手よしの定跡とみているが、アマチュアは飛車が好きなので先手2歩得でも後手パックマン側も△6二玉から美濃に囲い、将棋倶楽部などネット将棋でも2700点くらいの人であれば勝負に勝っているとし、時間の短いアマ大会では面白い戦法となりうるとみられている。
変化その2
[編集]戻って、単に▲8八銀と上がった第6図からの変化を見る。後手は△4七飛成と成り込む。ここでの先手の手も広いが、▲7七銀では△5七龍(王手馬取り)▲5八飛△5六歩と食い付かれる。▲6三馬では△7二銀▲3六馬△5八歩▲同金右△3六龍▲同歩△8八角成(第7図)と進んで後手勝勢。
△持駒 なし
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△持駒 角銀
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よって、△4七飛成に対しては、馬を安定させる▲7五馬が有力な手である。後手の継続手段としては、馬を浮かせるための△7四歩があり、▲6五馬の両取りで困るように見えるが、△5八歩▲同金右△4五龍▲2一馬△8八角成▲4三桂(第8図)と進んで形勢不明。以下、一例として△6二玉▲3一桂成△5二金左▲4八飛△同龍▲同金△9九馬(第9図)が考えられる。
△持駒 銀
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△持駒 飛銀香
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△3二銀型
[編集]上述の山崎のケースは端歩を突き合いを入れ、△3二銀(先手では▲7八銀)をいれたパックマン戦法を志向したが[4]、将棋ブロガーである二歩千金[5]が編み出した、後手番で2手目に△3二銀とする「2手目△3二銀システム」[6]の一つにある指し方で、先手が初手▲7六歩なら2手目に△3二銀、△4手目に△4四歩とする。二歩千金はこれを「シン・パックマン」と紹介している。
△持駒 なし
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第10図から△4四歩以下▲4四角なら△4二飛▲5三角成△3四歩。こうすることで、通常のパックマンに比べ△3二銀で後手の陣形を引き締め、△2一桂が浮いていない型となるほか、▲2六歩が先手の負担になるとみている。
この2手目△3二銀システムでは、先手は先に歩得しても、その後の展開でも先手の得がみえないので、従来型以上に先手は△4四歩に飛びつかず、通常形で指し進めるのが最善であろうとみている[6]。つまり歩をとらない場合に、ほかの戦法につながるようにしており、その一つには角道不突き雁木を想定している。第10図から▲2五歩には△4三銀とし、以下▲2四歩△同歩▲同飛に△3二金。そこで先手が▲2三歩と打ってきても、△3一角と引いておいて(第11図)、あとで△4二飛~△3四銀~△2三銀と、2三の歩を取ってしまう方針である。おとなしく▲2八飛△2三歩となった場合、後手は左辺の形を活かして、角道不突きの雁木で戦う戦術である。
脚注
[編集]- ^ カタカナでの「パックマン」という表現はタカラトミー(第1424717号)、バンダイナムコエンターテインメント(第1766151号)などから商標を登録されているので、2016年8月7日に放送した将棋フォーカスでは「4四歩パックリ」と紹介されたことがある。なお、2022年4月24日の同放送では「パックマン戦法」と紹介された。
- ^ 『将棋世界』2007年6月号「イメージと読みの将棋観」pp. 84 - 85。羽生善治、佐藤康光、森内俊之、谷川浩司、渡辺明、藤井猛の六棋士の意見は、▲4四同角と取って先手が有利ということで一致した。六棋士の先手勝率のイメージは、60パーセントから80パーセントまでと幅がある。プロの公式戦では▲7六歩△4四歩の出だしは一例もない。
- ^ 「こんなについていてインカ帝国♪」折田翔吾四段、アゲアゲな本大会出場/将棋・ABEMAトーナメント 将棋 2022/04/10 abematimes
- ^ 西川とのNHK杯戦での感想戦では、馬をつくられたあとに▲5四馬から2一馬と潜り込まれる筋のケアで、銀を上げたとしている。
- ^ 二歩千金@将棋ブロガー note
- ^ a b 二歩千金(2024)2手目△3二銀システム (マイナビ将棋BOOKS)
参考文献
[編集]- 湯川博士、森雞二『奇襲大全』毎日コミュニケーションズ、1999年 ISBN 978-4-8399-0177-6
- 週刊将棋編『我が道を行く定跡の裏街道』毎日コミュニケーションズ、2004年 ISBN 978-4-8399-1641-1