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窒化鉄

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

窒化鉄(ちっかてつ、: Iron nitride)は、窒化物。化学式はFe2N、Fe3N1+x、Fe4N、Fe7N3、Fe16N2で表される。

性質

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強磁性窒化鉄は、現在最強の磁石とされるネオジム-鉄-ボロン磁石の性能を凌駕する可能性のある物質で、1972年に東北大学の高橋實がその存在を提唱していたが、当時は薄膜としては得られたものの、粉末として抽出することはできなかった[1]。また飽和磁化などの実験データの再現性に乏しく、磁石性能を表わす重要な指標である結晶磁気異方性に関するデータが得られなかった[1]。1989年に中谷功の研究グループによって開発された活性液面連続真空蒸着法を用いてナノ粒子が製造され[2]、粉末での一部生成確認がなされてはいるものの、強磁性窒化鉄の含有率(生成率)が低く不純物による影響もあり、再現性も含め期待されるような磁気特性は得られていなかった[1]

Fe16N2は飽和磁化が高く、最大エネルギー積が理論値で約1035kJ/m3(130MGOe)で強力な磁石になる可能性を秘めているが、保磁力に比例する異方性磁界が低く、Fe16N2の保磁力は理論値で796kA/m(10kOe)と低い。そのため、飽和磁化を多少落としてでも、Fe16N2の保磁力を高めるためにFeの一部をレアメタルではない何らかの金属元素で、さらにNの一部をホウ素酸素などの非金属元素で置換する方策が探索されている[3]

また、Fe16N2には、200℃で相分離してしまうという難点を抱えているので、焼結による成型が出来ず、結合材が必要になるため、磁粉の充填率が下がるボンド磁石としてしか使えない可能性がある[3]

磁石 残留磁束密度
Br (T)
保磁力
Hci (kA/m)
最大エネルギー積
(BH)max (kJ/m3)
キュリー温度
Tc (°C)
Nd2Fe14B (焼結) 1.0–1.4 750–2000 200–440 310–400
Nd2Fe14B (結合) 0.6–0.7 600–1200 60–100 310–400
SmCo5 (焼結) 0.8–1.1 600–2000 120–200 720
Sm2(Co,Fe,Cu,Zr)17 (焼結) 0.9–1.15 450–1300 150–240 800
アルニコ (焼結) 0.6–1.4 275 10–88 700–860
ストロンチウム-フェライト (焼結) 0.2–0.4 100–300 10–40 450
Fe16N2 (結合) -796 1000

用途

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磁性流体磁気記録材料や電動機等で希土類磁石の代替として使用が期待される。窒化鉄磁性流体の磁化は2400ガウス(0.24テスラ)で現在でも世界最高性能であり、多方面への応用が模索される[2]

脚注

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参考文献

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  • 田中隆夫, 田川公照, 田崎明「鉄窒化物超微粒子の合成と磁気特性」『日本化学会誌(化学と工業化学)』第1984巻第6号、日本化学会、1984年、930-935頁、doi:10.1246/nikkashi.1984.930ISSN 03694577CRID 1390001204389668352 
  • 真島一彦, 柳生宗一, 勝山茂, 永井宏「MA法による窒化鉄の作製」『粉体および粉末冶金』第39巻第3号、粉体粉末冶金協会、1992年、192-196頁、doi:10.2497/jjspm.39.192ISSN 05328799CRID 1390282681282317696 
  • 高橋実「窒化鉄」『金属』第63巻第1号、アグネ技術センター、1993年1月、55-59頁、ISSN 03686337CRID 1520854805001164800 
  • 広瀬次郎, 伊藤滋, 明石和夫, 小浦延幸「HIP法によるFe4N焼結体の作成」『粉体および粉末冶金』第41巻第8号、粉体粉末冶金協会、1994年、989-993頁、doi:10.2497/jjspm.41.989ISSN 05328799CRID 1390282681285074048 
  • 永富晶, 吉川信一, 樋野村徹, 那須三郎, 金丸文一「α鉄のアンモニア窒化による窒化鉄FexN(x:2,2~3,4,16/2)の合成とFe16N2バルク試料の磁性」『粉体および粉末冶金』第46巻第2号、粉体粉末冶金協会、1999年、151-155頁、doi:10.2497/jjspm.46.151ISSN 05328799CRID 1390282681285389184 
  • 平塚信之, 北地誠, 柿崎浩一, 小林秀彦, 北原清志, 福島洋一, 中川順平, 露木祐理子「窒化鉄粉末の合成および熱分解過程における常磁性一強磁性相変化」『埼玉大学地域共同研究センター紀要』第2巻、埼玉大学地域共同研究センター、2002年、51-54頁、doi:10.24561/00016614ISSN 1347-4758CRID 1390009224813730688