特発性肺ヘモジデローシス
特発性肺ヘモジデローシス | |
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概要 | |
診療科 | 呼吸器学 |
分類および外部参照情報 | |
ICD-9-CM | 516.1 |
OMIM | 178550 |
DiseasesDB | 29717 |
特発性肺ヘモジデローシス[1](とくはつせいはいへもじでろーしす、英: idiopathic pulmonary hemosiderosis; IPH)は、呼吸器疾患の一つ。肺毛細血管からの出血が繰り返され、肺胞および肺間質にヘモジデリンが沈着する疾患である[2]。鉄過剰症の一形態。
以前は予後不良とされていたが、現在はステロイド薬治療による反応が良好の症例が多いと考えられている。ただし、再発が多いため、治療に難渋する症例も多い。再発による肺線維症への進行、肺高血圧・右心不全の合併に注意が必要である。
発症頻度は非常に稀で、我が国においては「123万人に1人」との調査がある[3]。
歴史
[編集]1864年、ドイツの病理学者ルドルフ・ウィルヒョーにより、死亡した患者の肺が「肺褐色硬化症」として初めて報告される。生存する患者については、1944年、スウェーデンの内科医ヤン・ヴァルデンストロムによる報告が最初である。
病態
[編集]原因不明の疾病であり、免疫疾患の一つであると考えられている。肺毛細血管からの出血が繰り返されることから、喀血、鉄欠乏性貧血、肺への鉄の蓄積等が問題となる。
なお、肺ヘモジデローシスには、(1) 肺や肝臓の抗基底膜抗体が関係するもの(グッドパスチャー症候群)、(2) 牛乳タンパク質に過剰反応するもの(ハイナー症候群)、(3) 特発性肺ヘモジデローシス(本項)、という3つの形態が知られている。
1993年から1994年にかけて、アメリカ合衆国中西部の都市、とりわけオハイオ州クリーブランドやイリノイ州シカゴ周辺において、特発性肺ヘモジデローシスを発症する小児が急増したため、疫学的調査が行われたところ、有毒な黒カビの一種であるスタキボトリス(Stachybotrys atra)のコロニーがほとんどの家庭において認められた。ただしCDCの調査の結果、直接的な関連性は認められなかった[4]。
診断
[編集]喀血、胸部X線撮影による浸潤影、鉄欠乏性貧血の有無等に基づいて診断がなされる。
治療
[編集]主に副腎皮質ホルモンが用いられるも、その効果に関しては議論が続いている。明白なエビデンスが未だ存在しないため、肺出血の頻度を下げるという主張の一方で、何の効果も見られないという主張が並立している。ただし、副腎皮質ホルモンを用いた治療に明らかな副作用が存在するという点においては見解の一致がみられる。免疫抑制剤として、プレドニゾロン,ハイドロキシクロロキン[5] [6]、アザチオプリン[7] [8]、シクロホスファミド[9]の投与も試みられているが、未だ標準的な治療方法として確立されるには至っていない。肺出血防止にメルカプトプリン[10]や抗酸化物質のアセチルシステイン[11]が効果的、という主張が存在する。ハイドロキシクロロキンに関しては副作用で目の網膜障害が問題とされるが、薬害で問題となったクロロキンに比べ、組織親和性が低く安全に利用できるとされる。
脚注
[編集]- ^ 「特発性肺血鉄症」、「特発性肺胞出血」、「特発性肺ヘモジデリン沈着症」と表記される場合もある。
- ^ 藤岡一路, 森岡一朗, 三輪明弘, 齋藤敦郎, 橋本総子, 森川悟, 柴田暁男, 横山直樹, 松尾雅文「特発性肺ヘモジデローシスを合併した新生児期発症血球貪食性リンパ組織球症の1例」『日本未熟児新生児学会雑誌』第22巻第1号、日本未熟児新生児学会、2010年2月、97-103頁、hdl:20.500.14094/90001604、ISSN 1347-8540、NAID 10026440290。
- ^ Ohga, S; Takahashi, K; Miyazaki, S; Kato, H; Ueda, K (1995). “Idiopathic pulmonary haemosiderosis in Japan: 39 possible cases from a survey questionnaire” (letter). European Journal of Pediatrics 154 (12): 994-995. doi:10.1007/BF01958645. PMID 8801109.
- ^ “Report of the CDC Working Group on Pulmonary Hemorrhage/Hemosiderosis”. Centers for Disease Control and Prevention(June 17, 1999). 2013年8月25日閲覧。
- ^ Bush A, Sheppard MN, Warner JO (1992). “Chloroquine in idiopathic pulmonary hemosiderosis”. Arch Dis Child 67 (5): 625-627. doi:10.1136/adc.67.5.625. PMC 1793713. PMID 1599302 .
- ^ Zaki M, Al Saleh Q, Al Mutari G (1995). “Effectiveness of chloroquine therapy in idiopathic pulmonary hemosiderosis”. Pediatric Pulmonology 20: 1206.
- ^ Byrd RB, Gracey DR (1973). “Immunosuppressive treatment of idiopathic pulmonary hemosiderosis”. JAMA 226 (4): 458-459. doi:10.1001/jama.1973.03230040034008. PMID 4800237 .
- ^ Rossi GA, Balzano E, Battistini E (1992). “Long-term prednisone and azathioprine treatment of a patient with idiopathic pulmonary hemosiderosis”. Pediatr Pulmonol 13 (3): 176-180. doi:10.1002/ppul.1950130310. PMID 1437333.
- ^ Colombo JR, Stolz SM (1992). “Treatment of life-threatening primary pulmonary hemosiderosis with cyclophosphamide”. Chest 102 (3): 959-960. doi:10.1378/chest.102.3.959. PMID 1516434 .
- ^ Luo XQ, Ke ZY, Huang LB, Guan XQ, Zhang XL, Zhu J, Zhang YC (Nov 2008). “Maintenance therapy with dose-adjusted 6-mercaptopurine in idiopathic pulmonary hemosiderosis”. Pediatric Pulmonology 43 (11): 1067-1071. doi:10.1002/ppul.20894. PMID 18972408.
- ^ “Idiopathic Pulmonary Haemosiderosis - World 1st Medical Treatment By Researchers At Queen Mary University London And University Of Leicester”. Medical New Today. (2 June 2007)
外部リンク
[編集]- Hemosiderosis - eMedicine (英語)
- 鉄過剰症 MSDマニュアル プロフェッショナル版