「コケ植物」の版間の差分
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{{生物分類表 |
{{生物分類表 |
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|名称 = コケ植物 |
|名称 = コケ植物 |
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|色 = lightgreen |
|色 = lightgreen |
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|画像= [[File: |
|画像= [[File:Polytrichum commune.jpeg|300px|ウマスギゴケ]] |
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|画像キャプション = |
|画像キャプション = [[ウマスギゴケ]] {{snamei||Polytrichum commune}}([[蘚類]]) |
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|画像2 = [[File:Marchantia polymorpha 184927896.jpg|300px|ゼニゴケ]] |
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|写真 = |
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|画像キャプション2 = [[ゼニゴケ]] {{snamei||Marchantia polymorpha}}([[苔類]]) |
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|ドメイン = [[真核生物]] [[:w:Eukaryota|Eukaryota]] |
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|ドメイン = [[真核生物]] {{sname|Eukaryota}} |
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|界 = [[植物界]] {{Sname|Plantae}} <br />[[アーケプラスチダ]] {{sname||Archaeplastida}} |
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|門 = '''コケ植物門''' [[:w:Bryophyta|Bryophyta]] |
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|亜界 = [[緑色植物亜界]] {{sname||Viridiplantae}} |
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|下位分類名 = 綱 |
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|亜界階級なし={{生物分類表/階級なし複数 |
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|[[ストレプト植物]] {{Sname||Streptophyta}} |
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|[[陸上植物]] {{sname||Embryophyta}} <br />({{sname|Embryobiota}}) |
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|'''コケ植物''' {{Sname|Bryobiotina}}{{Sfn|Glime|2017|p=212}} |
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}} |
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|学名 = {{Sname|Bryobiotina}} {{AUY|Doweld|2001|bio=bot}}<ref>{{Cite web|url=https://www.gbif.org/species/121295910|website=[[GBIF]]|title=Bryobiotina Doweld, 2001|accessdate=2023-07-26}}</ref> |
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|シノニム = |
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* {{sname||Bryophyta}} {{AUY|Schimp.|1879|bio=bot}}{{Sfn|Sousa ''et al.''|2018|pp=565–575}} {{AU|s.l.}} |
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|下位分類名 = [[門 (分類学)|門]] |
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|下位分類 = |
|下位分類 = |
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* [[有柄胞子体植物]] {{sname||Setaphyta}} |
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* [[蘚綱]] Bryopsida |
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* [[ |
** [[蘚類]] {{sname||Bryophyta}} |
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** [[苔類]] {{sname||Marchantiophyta}} |
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* [[ツノゴケ類|ツノゴケ綱]] Anthocerotopsida}} |
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* [[ツノゴケ類]] {{sname||Anthocerotophyta}} |
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'''コケ植物'''(コケしょくぶつ、{{lang-en-short|[[:w:Bryophyte|Bryophyte]]}})とは、[[陸上植物]]かつ非[[維管束植物]]であるような植物の総称、もしくはそこに含まれる植物のこと。'''コケ類'''(コケるい)や'''蘚苔類'''(せんたいるい)、'''蘚苔植物'''(せんたいしょくぶつ)などともいう。世界中でおよそ2万種ほどが記録されている。多くは緑色であるが、赤色や褐色の種もある。大きな群として、[[蘚類]]・[[苔類]]・[[ツノゴケ類]]の3つを含む。それをまとめて一つの分類群との扱いを受けてきたが、現在では認められていない。コケ植物の葉に見える部分は葉状体と言う |
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}} |
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'''コケ植物'''(コケしょくぶつ、{{lang-en-short|[[:w:Bryophyte|bryophyte]]}})とは、[[維管束]]を持たず、[[胞子]]散布を行う、[[核相|単相]]({{math|n}})で[[有性]]の[[配偶体]]世代が優先する[[陸上植物]]の一群である{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=473d}}{{Sfn|長谷部|2020|p=103}}。'''コケ類'''{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=473d}}(コケるい)や'''蘚苔類'''{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=473d}}(せんたいるい)、'''蘚苔植物'''{{Sfn|岩月|2001|p=10}}(せんたいしょくぶつ)などともいう。日本では1665[[種 (分類学)|種]]程度{{Sfn|岩月|2001|p=10}}、世界中でおよそ2万種ほどが記録されている{{Sfn|嶋村|2012|p=1}}。植物体(配偶体の本体)は、その形態により、葉と茎の区別がはっきりとした'''[[茎葉体]]'''および、区別が曖昧な'''[[葉状体]]'''に分けられる{{Sfn|嶋村|2012|p=2}}。 |
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コケ植物は'''[[蘚類]]'''・'''[[苔類]]'''・'''[[ツノゴケ類]]'''の3群に大別される{{Sfn|長谷部|2020|p=103}}。初期の形態形質や化学成分を利用した古典的研究では単系統群であると考えられており{{Sfn|坪田|2012|p=23}}、'''コケ植物門'''と[[門 (分類学)|門]]の[[階級 (生物学)|階級]]に置かれた{{Sfn|井上|1975b|p=135}}。その後[[分岐学]]的解析が進み、分岐順は諸説あったものの、[[維管束植物]] {{sname||Tracheophyta}}(または[[多胞子嚢植物]] {{sname||Polysporangiomorpha}}{{Efn|多胞子嚢植物は維管束植物とのその[[基幹群]]である[[前維管束植物]]や[[リニア類]]の一部などの[[化石植物]]を加えた単系統群である。}})の[[側系統群]]と考えられることが一般的になったため{{Sfn|坪田|2012|p=23}}、3群が独立した門に置かれることが多くなった{{Sfn|坪田|2012|p=24}}。初期の分子系統解析においてもその結果が支持されてきたが{{Sfn|坪田|2012|p=23}}{{Sfn|長谷部|2020|p=68}}、陸上植物は分類群ごとに[[グアニン|G]][[シトシン|C]]の割合が偏っていることが分かっており、間違った推定がなされていたと考えられている{{Sfn|長谷部|2020|p=68}}。データセットを増やした解析では、3群が再び'''[[単系統群]]'''としてまとまり、残りの現生[[陸上植物]]([[維管束植物]])と[[姉妹群]]をなすことが明らかになった{{Sfn|Puttick ''et al.''|2018|pp=733–745}}{{Sfn|長谷部|2020|p=69}}。そのため、再びコケ植物をコケ植物門として扱う考えも提唱されている{{Sfn|Sousa ''et al.''|2018|pp=565–575}}。 |
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なお、日常用語にて「'''[[コケ]]'''」は、そのほかに[[地衣類]]なども含む。その他文化的側面については[[苔]]を参照して欲しい。 |
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なお、「'''[[コケ]]'''」という日本語は元来、[[花]]を咲かさない小さな[[植物]]の総称であり、[[地衣類]]や[[藻類]]、[[藍藻類]]など([[葉状植物]] {{lang|en|thallophyte}}{{Sfn|井上|1975a|p=3}})、時には[[シダ植物]]や[[被子植物]]に対しても用いられる{{Sfn|岩月|2001|p=10}}。文化的側面については[[苔]]を参照。 |
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==特徴== |
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重要な点は、三つの群で大きく異なるが、共通することも多い。主な共通点は、[[栄養体]]が小型で[[倍数性#半倍数性|単相]]([[:en:Ploidy#Haploid and monoploid|haploid phase]])であることである。 |
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== 生活環 == |
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{{multiple image |
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植物体は小型で、多くは高さ数cmまで。体制から茎と葉が明瞭な'''茎葉体'''(けいようたい)と明瞭でない'''[[葉状体]]'''(ようじょうたい)とに分けられる。茎葉体の場合、[[双子葉植物]]のように軸と葉の区別がつくが、構造ははるかに簡単である。いずれにせよ、[[維管束]]はないが、その役割を代用する細胞は分化している場合がある。[[胞子体]]の頂端の[[胞子嚢]]に作られる[[胞子]]によって繁殖する(ただし、コケ植物では胞子嚢を'''蒴'''(朔、さく)と呼ぶ)。蒴の形態や構造は重要な分類上の特徴である。 |
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|direction = horizontal |
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|align = center |
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|total_width = 1000 |
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|title=各系統の体制 |
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|image1=Polytrichum formosum anatomy en.svg |
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|caption1=蘚類<hr />calyptra: 帽、capsule: 蒴、annulus: 口環、operculum:蓋、spores: 胞子、seta: 蒴柄、leaves: 葉、stem: 茎、rhizoids:仮根 |
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|image2=Liverwort life cycle.jpg |
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|caption2=苔類<hr />archegonium: 造卵器、egg: 卵細胞、sperm: 精細胞、embryo: 胚、mature sporophyte: 成熟した胞子体、seta: 蒴柄、spores: 胞子、rhizoids: 仮根、antheridia: 造精器、female gametophyte: 雌性配偶体、male gametophyte: 雄性配偶体、thallus: 葉状体、gemma cup: 無性芽器 |
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|image3=Hornwort life cycle.svg |
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|caption3=ツノゴケ類<hr />protonema: 原糸体、antheridium: 造精器、sperm: 精細胞、archegonium: 造卵器、egg: 卵細胞、sporophyte: 胞子体、gametophyte plant: 配偶体、rhizoids: 仮根、columella: 軸柱、pseudoelater: 偽弾糸、stoma: 気孔、sporogenous cell: 胞子形成細胞、elater initial cell: 弾糸始原細胞、meristem: 分裂組織、foot: あし |
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}} |
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[[陸上植物]]は単相世代(多細胞[[配偶体]])と複相世代(多細胞[[胞子体]])の[[世代交代]]を行う、単複相世代交代型({{lang|en|haplodiplontic}})の[[生活環]]を持っている{{Sfn|嶋村|2012|p=1}}{{Sfn|長谷部|2020|pp=25–26}}。コケ植物の場合、[[核相]]は単相({{math|n}})の[[配偶体]]が優占し、[[複相]]({{math|2n}})の[[胞子体]]はこれに半寄生する{{Sfn|嶋村|2012|p=1}}{{Sfn|岩月|2001|p=13}}{{Sfn|長谷部|2020|p=104}}。 |
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=== 配偶体世代 === |
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繁殖は、胞子によるもののほか、[[無性生殖]]として植物体の匍匐枝や脱落した葉より不定芽を出しての増殖を行なう。一部の種では、特に分化した[[無性芽]]という構造体を作るものも知られている。 |
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[[File:Physcomitrella Protonema.jpg|thumb|200px|[[ヒメツリガネゴケ]] {{Snamei||Physcomitrium patens}} の[[原糸体]]。]] |
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コケ植物の[[配偶体]]は[[胞子]]が発芽してできた原糸体と、それが分化してできた配偶体の本体からなる。配偶体の本体は、種によって[[茎]]と[[葉]]の分化が明瞭な'''[[茎葉体]]'''(けいようたい、{{lang|en|phyllid gametophore}}{{Sfn|長谷部|2020|p=31}})もしくは明瞭でない'''[[葉状体]]'''(ようじょうたい、{{lang|en|thalloid gametophore}}{{Sfn|長谷部|2020|p=31}})の場合がある{{Sfn|嶋村|2012|p=2}}。茎葉体は全ての蘚類と苔類の一部がもち、葉状体は残りの苔類と全てのツノゴケ類が持っている{{Sfn|嶋村|2012|p=2}}。原糸体・茎葉体・葉状体いずれの体制であっても、[[維管束]]は分化しないが、蘚類の茎葉体には[[ハイドローム]]や[[レプトーム]]と呼ばれる通導組織が分化することもある{{Sfn|長谷部|2020|p=96}}{{Sfn|岩月|2001|p=16}}。 |
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まず単相({{math|n}})の[[胞子体]]から[[胞子]]が放出されて発芽し、'''[[原糸体]]'''(げんしたい、{{lang|en|protonema}})と呼ばれる配偶体({{math|2n}})を形成する{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵7}}{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵9}}{{Sfn|長谷部|2020|p=26}}{{Sfn|西田|2017|p=37}}。蘚類の原糸体は、はじめ糸状の[[葉緑体]]をもつ[[クロロネマ]]({{lang|en|chrolonema, feeding filament}}){{Sfn|長谷部|2020|p=26}}になり、クロロネマは[[カウロネマ]]({{lang|en|caulonema, foraging filament}})に分化する{{Sfn|長谷部|2020|p=27}}。カウロネマは分枝して、[[配偶体]]の本体({{lang|en|gametophore}}、茎葉体または葉状体)を分化する{{Sfn|長谷部|2020|p=31}}。蘚類の一部は、永存性の原糸体を持つものがある{{Sfn|岩月|2001|p=23}}。苔類やツノゴケ類では、蘚類よりも発達が悪く、多くは細胞の塊となり、糸状のものでも枝分かれがほとんど見られない{{Sfn|岩月|2001|p=23}}。[[葉状体|葉状性]]の苔類の原糸体ははじめ2–7細胞の短い糸状で、その上に数から数十細胞の発芽板を生じ、その上に分化した頂端細胞から葉状体ができる{{Sfn|岩月|2001|p=23}}。[[茎葉体|茎葉性]]の苔類では、まず糸状か塊状の原糸体ができ、細胞上に分化した頂端細胞から茎葉体ができる{{Sfn|岩月|2001|p=23}}。 |
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=== 生活環 === |
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[[生活環]]は、[[シダ植物]]などと同様に[[世代交代]]を行う。ただしコケ植物の場合、主要な植物体は[[配偶体]]であり、[[核相]]は単相 (n) である。 |
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配偶体がある程度成長すると、その上に'''造卵器'''と'''造精器'''が形成され、それぞれ[[卵細胞]]と[[精子]]をつくる。雨などによって水に触れた時に、精子が泳ぎだし、造卵器の中で卵細胞と[[受精]]し[[受精卵]]([[接合子]])がつくられる。受精卵はその場で[[胚発生|発生]]を始め、配偶体に栄養を依存する[[寄生]]生活の状態で発達し、[[胞子体]]を形成する。 |
配偶体がある程度成長すると、その上に'''[[造卵器]]'''と'''[[造精器]]'''が形成され、それぞれ[[卵細胞]]と[[精子]]をつくる。雨などによって水に触れた時に、精子が泳ぎだし、造卵器の中で卵細胞と[[受精]]し[[受精卵]]([[接合子]])がつくられる。受精卵はその場で[[胚発生|発生]]を始め、配偶体に栄養を依存する半[[寄生]]生活の状態で発達し、[[胞子体]]を形成する。 |
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コケ植物の雌雄性は複雑であり、[[雌雄異株]](しゆういしゅ、{{lang|en|dioicous}})のものと[[雌雄同株]](しゆうどうしゅ、{{lang|en|monoicous}})のものとがみられる{{Sfn|岩月|2001|p=15}}。雄植物と雌植物がはっきり分かれている雌雄異株では、1個体に造卵器だけを付ける雌と1個体に造精器を付ける雄が区別される{{Sfn|岩月|2001|p=15}}。雌雄異株では普通雌雄のサイズはほぼ等大か、雌植物がやや大きい程度であるが、一部の種では雄個体の方が明らかに小形となる{{Sfn|岩月|2001|p=15}}。蘚類の[[フクラゴケ]] {{snamei||Eumyurium sinicum}} などでは雌植物の上に[[矮雄]]が着生する{{Sfn|岩月|2001|p=15}}。雌雄同株では、造卵器と造精器が同一個体上にできるが、その位置により複数の型が区別される{{Sfn|岩月|2001|p=15}}。雌雄同苞の雌雄同株({{lang|en|synoicous}})では、造卵器と造精器が同一苞葉中に混生し、蘚類の多くの種に見られる{{Sfn|岩月|2001|p=15}}。異苞の雌雄同株({{lang|en|autoicous}})では、1個体上の別々の苞葉にそれぞれ造精器と造卵器のみが包まれ、蘚類と苔類の多くの種に見られる{{Sfn|岩月|2001|p=15}}。雌雄列立同株(しゆうれつりついしゅ、{{lang|en|paroicous}})では、造卵器と造精器が近接するが、造精器が雌苞葉のすぐ下にできて混じらない{{Sfn|岩月|2001|p=15}}。苔類の多くの科と蘚類のスギゴケ科などの一部に見られる{{Sfn|岩月|2001|p=15}}。 |
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この胞子体は複相 (2n) で、長く成長することがなく、先端に単一の胞子嚢を形成するとそれで成長を終了する。先端の蒴([[胞子嚢]])の内部では[[減数分裂]]が行われ、[[胞子]](単相 (n) )が形成される。 |
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繁殖は、胞子によるもののほか、[[無性生殖]]として植物体の匍匐枝や脱落した葉より不定芽を出しての増殖を行う{{Sfn|岩月|2001|p=19}}。無性生殖のために分化した器官である[[無性芽]]を作るものも知られて、蘚類や苔類で多くの型がある{{Sfn|岩月|2001|p=19}}{{Sfn|岩月|2001|p=27}}。ゼニゴケ類では、葉状体上に'''杯状体'''(はいじょうたい、{{lang|en|cupule}})と呼ばれる無性芽器を形成する{{Sfn|岩月|2001|p=31}}。 |
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胞子は放出されて発芽し、はじめは枝分かれした糸状の'''[[原糸体]]'''(げんしたい、protonema)というものを形成する。原糸体は[[葉緑体]]をもち、基質表面に伸びた後、その上に植物体が発達を始め[[配偶体]]となる。なお、一部に生涯にわたって原糸体を持つものがある。 |
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=== 胞子体世代 === |
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配偶体は雌雄同株のものが多いが、雌雄異株のものもある。雌雄異株の場合、外見上は差のない場合が多いが、はっきり見分けのつくものもあり、中には雄株が極端に小さくて雌株上に寄生的に生活する例も知られている。 |
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[[File:Moss capsule (28898030061).jpg|thumb|150px|蘚類の蒴。]] |
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胞子体は配偶体の2倍の遺伝子セットを持っているが、配偶体とは大きく形が異なっている{{Sfn|西田|2017|p=70}}。コケ植物の[[胞子体]]は分枝せず、先端に単一の[[胞子嚢]]({{lang|en|sporangium}})を形成するとそれで成長を終了する{{Sfn|Harrison|2017|pp=1–11}}{{Sfn|西田|2017|p=60}}{{Efn|それに対し、[[維管束植物]]の胞子体は植物体のほとんどを占め、分枝する。}}。特にコケ植物の胞子嚢は'''[[蒴]]'''(さく、{{lang|en|capsule}})と呼ばれる{{Sfn|岩月|2001|p=30}}。蒴の内部では[[減数分裂]]が行われ、単相の[[胞子]]が形成される{{Sfn|岩月|2001|p=14}}。 |
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[[ヒメツリガネゴケ]]の胞子体では[[クラス2 KNOX遺伝子]]が機能しており、これを[[遺伝子ノックアウト|ノックアウト]]すると胞子体の発生が抑制され、配偶体になる{{Sfn|西田|2017|p=70}}。また、重複してできていた遺伝子のもう一方の[[クラス2 KNOX遺伝子]]は胞子体分裂組織の形成と維持に関与し、体制形成を調節している{{Sfn|西田|2017|p=70}}。 |
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== 生育環境 == |
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基本的には陸上生活をするが、少ないながら淡水中に生育するものもいる。ただし海水中に生育するものは確認されていない。 |
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== 系統関係 == |
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湿った環境を好む種が多く、温暖で湿潤な地域に多くの種を産する。[[乾燥]]した環境にも、数は少ないが、適応した種はある。[[森林]]に生活する種が多いが、岩場や[[渓流]]、[[滝]]の周辺などにも多くの種が見られる。特に[[霧]]がよくかかる[[雲霧林]]には、樹木に大量のコケが着生する例があり、'''蘚苔林'''(mossy forest)とも呼ばれる。畑地や[[田|水田]]にもそれぞれに独特のものが見られるし、市街地でもいくつかの種が生育している。 |
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{{Harvtxt|Puttick ''et al.''|2018}} による分子系統解析の結果、遺伝子ごとに系統推定を行いその結果を統合する[[コアレセント法]]および、全ての遺伝子の配列を繋げて解析を行う[[コンカテネイト法]]による様々な系統樹で、次の[[トポロジー]]を示すことが分かった{{Sfn|Puttick ''et al.''|2018|pp=733–745}}{{Sfn|長谷部|2020|p=69}}。 |
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{{clade |
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|style=width:70em;font-size:100%;line-height:100% |
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|label1=[[陸上植物]] |
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|sublabel1={{small|{{sname||Embryophyta}}}} |
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|1={{clade |
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|label1='''コケ植物''' |
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|sublabel1={{small|{{sname||Bryophyta}} ''{{lang|la|[[sensu|s.l.]]}}''}} |
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|1={{clade |
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|label1=[[有柄胞子体植物]]{{Sfn|長谷川|2021|pp=223–242}} |
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|sublabel1={{small|{{sname||Setaphyta}}}} |
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|1={{clade |
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|1=[[蘚類]] {{sname||Musci}} |
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|2=[[苔類]] {{sname||Hepaticae}} |
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}} |
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|2=[[ツノゴケ類]] {{sname||Anthocerotae}} |
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}} |
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|label2=[[多胞子嚢植物]] |
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|sublabel2={{small|{{Sname||Polysporangiophyta}}}} |
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|2=[[維管束植物]] {{sname||Tracheophyta}} |
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}} |
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}} |
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なお、これ以前にも {{Harvtxt|Nishiyama ''et al.''|2004}} の[[葉緑体ゲノム]]を用いた系統解析や、{{Harvtxt|Cox ''et al.''|2014}} の葉緑体の蛋白質をコードする遺伝子の[[翻訳]]産物を用いた系統解析でも同様の結果が得られていた。また、その後の {{Harvtxt|Sousa ''et al.''|2018}}、{{Harvtxt|Li ''et al.''|2020}}、{{Harvtxt|Harris ''et al.''|2020}} や {{Harvtxt|Su ''et al.''|2021}} などの研究でもこれが正しいことが追認されている。 |
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生育する基質としては、[[土壌|土]]や腐植土、[[岩]]上、他の植物体([[樹皮]]、[[葉]]の表面、樹枝)、[[昆虫]]等の動物などあらゆる場所に、さまざまな形で生育する。 |
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=== 以前の系統推定 === |
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<gallery> |
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これまでには、コケ植物が側系統となる様々なトポロジーの系統樹が提唱されてきた。そのうち、2012年から2017年頃までは {{Harvtxt|Chang|Graham|2011}} による苔類が最基部で分岐して残りの群と姉妹群をなし、その中でもツノゴケ類と維管束植物が姉妹群をなして[[冠群]]を構成するとする考えが最もよく受け入れられてきた{{Sfn|海老原|嶋村|田村|2012|p=305}}{{Sfn|西田|2017|p=58}}。 |
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画像:木を覆う苔.jpg|立ち木を覆う苔 |
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{| style="margin:0 auto" |
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画像:水中に生える苔.jpg|水中に生える苔 |
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|+ これまで考えられてきた陸上植物の系統関係仮説 |
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画像:岩を覆う苔と地衣類.jpg|岩を覆う苔と地衣類 |
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! 苔類最基部・ツノゴケ類-維管束植物姉妹群説 !! 苔類最基部・蘚類-維管束植物姉妹群説 |
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</gallery> |
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|{{small|{{Harvtxt|Qiu ''et al.''|2006}}<br />{{Harvtxt|Qiu|2008}}<br />{{Harvtxt|Chang|Graham|2011}}}} |
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|{{small|{{Harvtxt|Mishler|Churchill|1984}}<br />{{Harvtxt|Bremer ''et al.''|1987}}<br />{{Harvtxt|Karol ''et al.''|2001}}}} |
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|- |
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{{clade| style=width:32em;font-size:95%;line-height:100%;align=center |
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|label1=[[陸上植物]] |
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|sublabel1={{small|{{sname||Embryophyta}}}} |
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|1={{clade |
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|1=[[苔類]] {{sname||Hepaticae}} |
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|label2=[[気孔植物]]{{Sfn|西田|2017|p=293}} |
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|sublabel2={{small|{{lang|en|stomatophytes}}}} |
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|2={{clade |
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|1=[[蘚類]] {{sname||Musci}} |
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|2={{clade |
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|1=[[ツノゴケ類]] {{sname||Anthocerotae}} |
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}} |
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}} |
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}}}} |
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{{clade| style=width:32em;font-size:95%;line-height:100% |
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|label1=[[陸上植物]] |
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}} |
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}} |
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}}}} |
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|} |
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{| style="margin:0 auto" |
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! 苔類最基部・ツノゴケ類-蘚類姉妹群説 !! ツノゴケ類最基部・蘚類-苔類姉妹群説 |
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|{{small|{{Harvtxt|Chang|Graham|2011}}<br />{{Harvtxt|Fiz-Palacios ''et al.''|2011}}}} |
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|{{small|{{Harvtxt|Wickett ''et al.''|2014}}}} |
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|1={{clade |
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|1=[[ツノゴケ類]] {{sname||Anthocerotae}} |
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|2={{clade |
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|1={{clade |
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|1=[[苔類]] {{sname||Hepaticae}} |
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|2=[[蘚類]] {{sname||Musci}} |
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}} |
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|2=[[維管束植物]] {{sname||Tracheophyta}} |
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}} |
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}}}} |
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|} |
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== 分類 |
== 分類史 == |
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かつて、[[リンネ式階層分類|リンネの24綱分類]]では[[シダ]]や[[キノコ]]、[[海藻]]などとともに「[[隠花植物]]綱 {{sname||Cryptogamia}}」に含められた{{Sfn|井上|1975a|p=3}}。その後の[[アウグスト・アイヒラー|アイヒラー]]の分類体系 (1883) においても、現在の[[種子植物]]を表す[[顕花植物]]に対置された隠花植物に、[[菌類]]と[[藻類]]からなる[[葉状植物]] {{sname||Thallophyta}}および[[シダ植物]] {{sname||Pteridophyta}} とともに含められた{{Sfn|井上|1975a|p=3}}。アイヒラーの分類体系では、コケ植物は[[苔類]] {{sname||Hepaticae}} と[[蘚類]] {{sname||Musci}} の2綱が区別された{{Sfn|Core|1955|p=52}}{{Sfn|Smith|1938|p=2}}。[[ギルバート・モーガン・スミス]]は1938年、隠花植物についての教科書を出版し、そこで用いられた分類体系は [[:en:Smith system|Smith system]] として知られている。この少し前からツノゴケ類が苔類と区別されるようになり、[[スミスの分類体系]] (1955) や {{Harvtxt|Proskauer|1957}} では、コケ植物門 division {{sname||Bryophyta}} は[[苔綱]] {{sname||Hepaticae}}、[[ツノゴケ綱]] {{Sname||Anthocerotae}}、[[蘚綱]] {{sname||Musci}} の3つの[[綱 (分類学)|綱]]に分けられた{{Sfn|Smith|1955|p=3}}。今日でもコケ植物はその3系統に分けられている。 |
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古くは陸上植物の中で、小柄で維管束を有さないことから、陸上生活への適応が不十分な原始的な群とされ、シダより下等な一群として扱われてきた。その中で蘚類と苔類が区別され、さらに苔類からツノゴケ類が区別された。しかし、{{疑問点範囲|最近の[[形態]]や分子を用いた[[系統学]]的研究等から、コケ植物は[[単系統群]]ではなく[[側系統群]]であることが判ってきた([[#系統|系統]]を参照)|date=2021年5月|title=系統について出典は示されているが「最近」というほど新しくない。 英語版では両論併記している。}}。新しい分類では、それぞれの[[単系統群]]を[[門 (分類学)|門]]として扱うようになってきている<ref>門の和名は [http://www2.tba.t-com.ne.jp/nakada/takashi/taxonomy/bryophytes.html きまぐれ生物学] より。</ref>。下記の綱や亜綱の分類は2009年刊の「植物の百科事典」<ref>石井龍一・岩槻邦男等編『植物の百科事典』、朝倉書店、ISBN 978-4-254-17137-2 C3545</ref> による。したがって、上掲の分類表は過去のものである。 |
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なお、コケ植物の造卵器は[[シダ植物]]の[[造卵器]]とよく似ているため、[[アドルフ・エングラー]]の植物分類体系などでは合わせて'''[[造卵器植物]]''' {{sname||Archegoniatae}} に含められた{{Sfn|岩月|2001|p=10}}{{Sfn|Core|1955|p=54}}。 |
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* '''ゼニゴケ植物門''' Marchantiophyta - [[苔類]] |
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:植物体の形は'''葉状体'''または'''茎葉体'''。茎葉体の場合、葉の形は丸っこく、大きく裂けて腹面側と背面側に分化する。胞子体(蒴)は比較的短期間しか存在せず、軟弱。胞子体は4つに割れて胞子を散布する。世界に8000種<ref name = iwa/>、日本では600種以上が知られている。 |
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**[[ゼニゴケ綱]] |
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***[[ゼニゴケ亜綱]] |
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***[[ウスバゼニゴケ亜綱]] |
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**[[ウロコゴケ綱]] |
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***[[ウロコゴケ亜綱]] |
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***[[フタマタゴケ亜綱]] |
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***[[ミズゼニゴケ亜綱]] |
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**[[コマチゴケ綱]] |
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***[[コマチゴケ亜綱]] |
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***[[トロイブゴケ亜綱]] |
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* '''ツノゴケ植物門''' Anthocerotophyta - [[ツノゴケ類]] |
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:植物体は'''葉状体'''。胞子体(蒴)は細長い角状で緑色。蒴は熟すと4片に裂ける。その中心に軸柱がある。世界に400種程度が知られている<ref name = iwa/>。 |
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**[[ツノゴケ綱]] |
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***[[キノボリツノゴケ目]] |
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***[[フィマトケロス目]] |
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***[[ツノゴケモドキ目]] |
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***[[ツノゴケ目]] |
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***[[レイオスポロケロス目]] |
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* '''マゴケ植物門''' Bryophyta - [[蘚類]] |
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:植物体の形は'''茎葉体'''。葉は木の葉型で大きく裂けることはない。胞子体は丈夫で長く存在し、'''蒴'''と'''蒴柄'''にわかれている。蒴の先端には'''帽'''という帽子状の構造によりかぶされている。例外はあるが、多くのものがさくの先端に蓋があり、それが外れて生じる穴から胞子を散布する。1万種程が生育すると推定されており<ref name = iwa/>、日本では1000種以上が記録されている。なお、新分類で蘚類のことを[[:w:Bryophyta|Bryophyta]]とするようにしたため、Bryophytaに狭義と広義の意味が生じるようになった。 |
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**[[マゴケ綱]] |
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***[[マゴケ亜綱]] |
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***[[シッポゴケ亜綱]] |
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***[[ヒョウタンゴケ亜綱]] |
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***[[クサスギゴケ亜綱]] |
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***[[イクビゴケ亜綱]] |
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***[[キセルゴケ亜綱]] |
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**[[スギゴケ綱]] |
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**[[ヨツバゴケ綱]] |
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**[[イシズチゴケ綱]] |
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**[[クロマゴケ綱]] |
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**[[クロゴケ綱]] |
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**[[ミズゴケ綱]] |
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**[[ナンジャモンジャゴケ綱]] |
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植物の学名は[[国際藻類・菌類・植物命名規約]] (ICN, 2018) に基づいて規制されている。ICNでは学名の正式発表の日付についてその出発点を定めているが、コケ植物では分類群によって出発点となる日付が異なる{{Sfn|ICN 日本語版|2019|p=38}}。ミズゴケ科を除く蘚類については、Hedwig (1801) ''{{lang|la|Species muscorum frondosorum}}'' に基づき、[[1801年]][[1月1日]]をその出発点と定めている{{Sfn|ICN 日本語版|2019|p=38}}。また、ミズゴケ科、およびツノゴケ類を含む苔類については [[カール・フォン・リンネ|Linnaeus]] (1753) ''{{lang|la|[[植物の種|Species plantarum]]}}'' ed. 1 に基づき、[[1753年]][[5月1日]]を出発点として定められている{{Sfn|ICN 日本語版|2019|p=38}}。ただし、[[属 (分類学)|属]]よりも上位の階級の分類群については、[[アントワーヌ・ローラン・ド・ジュシュー|Jussieu]] (1789) ''{{lang|la|Genera plantarum}}'' に基づき、[[1789年]][[8月4日]]がその出発点とされる{{Sfn|ICN 日本語版|2019|p=38}}。また、化石植物に関しては他の植物と同様に[[1820年]][[12月31日]]が出発点とされる{{Sfn|ICN 日本語版|2019|p=39}}。なお、は Sternberg の ''{{lang|de|Flora der Vorwelt, Versuch}}'' 1: 1–24, t. 1–13. に基づいており、Schlotheim (1820) ''{{lang|de|Petrefactenkunde}}'' はそれ以前に発表されたとみなされる{{Sfn|ICN 日本語版|2019|p=39}}。 |
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=== 伝統的な分類 === |
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伝統的な分類では、コケ植物は[[植物界]]'''コケ植物門''' (Bryophyta) として一群にまとめられる。内部分類は3つの[[綱 (分類学)|綱]]に分類され、それぞれ、[[スギゴケ]]や[[ハイゴケ]]などの[[蘚類]](蘚綱)、[[ゼニゴケ]]や[[ツボミゴケ]]などの[[苔類]](苔綱)および[[ツノゴケ類]](ツノゴケ綱)である(ツノゴケは漢字で角苔と書くが、カタカナで表記するのが一般である)。 |
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== 下位分類 == |
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;[[蘚類|蘚綱]](セン綱) Bryopsida |
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近年の分類体系では、コケ植物が側系統であると考えられていたことを反映し、コケ植物に含まれる蘚類、苔類、ツノゴケ類のそれぞれを[[門 (分類学)|門]]の階級に置く分類が用いられてきた{{Sfn|Sousa ''et al.''|2018|pp=565–575}}{{Sfn|Glime|2017|p=2-1-2}}。例えば、{{Harvtxt|Kenrick|Crane|1997}}、{{Harvtxt|Goffinet|Shaw|2008}}、{{Harvtxt|樋口|2012}}、{{Harvtxt|海老原|嶋村|田村|2012}}、{{Harvtxt|Glime|2017}} などが挙げられる。 |
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4つの亜綱に分けられるが、大部分の種はマゴケ亜綱に所属する。 |
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**ミズゴケ亜綱 Sphagnidae - [[ミズゴケ属|ミズゴケ]] |
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**クロゴケ亜綱 Andreaeidae - クロゴケ |
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**ナンジャモンジャゴケ亜綱 Takakiidae - [[ナンジャモンジャゴケ]] |
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**マゴケ亜綱 Bryidae - [[スギゴケ]]・[[ハイゴケ]]・[[ヒカリゴケ]]・[[ギンゴケ]]・[[チョウチンゴケ]]・[[コウヤノマンネングサ]]・[[サガリゴケ]]・[[ウカミカマゴケ]](マリゴケ) |
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;[[苔類|苔綱]](タイ綱) Hepaticopsida |
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**ウロコゴケ亜綱 Junbermanniidae - [[ウロコゴケ]]・[[コマチゴケ]]・[[ヨウジョウゴケ]] |
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**ゼニゴケ亜綱 Marchantiidae - [[ゼニゴケ]]・[[ウキゴケ]]・[[イチョウウキゴケ]] |
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;[[ツノゴケ綱]] Anthocerotopsida |
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** ツノゴケ亜綱 Anthocerotidae - [[ツノゴケ]] |
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{{sname||Bryophyta}} {{AUY|Schimp.|1879|bio=bot}} という学名がコケ植物全体に対しても、蘚類に対しても用いられてきたため、[[階級 (生物学)#接尾辞|階級語尾]]を付した学名は扱いづらい。そのため、 [[:en:Brent Mishler|Brent Mishler]] (2010) などは階級語尾を持たない伝統的な学名を好み、蘚類には {{sname||Musci}}、苔類には {{sname||Hepaticae}}、そしてツノゴケ類には {{sname||Anthocerotae}} を用いた{{Sfn|Glime|2017|p=2-1-11}}。 |
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=== 系統 === |
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コケ植物の3群の系統関係については、2つの[[分岐パターン]]が示されている。1つは、最初に苔類が、次にツノゴケ類が、最後に蘚類がPolysporangiates([[:en:Polysporangiates|en]]、コケ植物以外の[[陸上植物]]を含むグループ、[[維管束植物]]とほぼ同義)から分岐したパターンである。もう1つは、最初にツノゴケ類が、次にPolysporangiatesが、最後に蘚類と苔類が分岐したパターンである。 |
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=== コケ植物門 === |
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形態や精子の微細構造、化学組成等を用いた解析だとこのうち前者を示す説が多いが、[[RNA]]を用いた解析では後者を示唆する結果が示されており、また解析に使用した植物や遺伝子により異なった結果も示されている<ref>秋山弘之 「コケ植物の分子系統」 『植物の多様性と系統 バイオディバーシティ・シリーズ2』 岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房、1997年、57-59頁、ISBN 978-4-7853-5825-9。</ref>。 |
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{{Harvtxt|Sousa ''et al.''|2018}} では、コケ植物の単系統性が明らかになった今、蘚類、苔類、ツノゴケ類を以前のように[[綱 (分類学)|綱]]に降格すべきであると論じた{{Sfn|Sousa ''et al.''|2018|pp=565–575}}。この場合、コケ植物の内部系統とその[[分類階級|階級]]は以下のようになる{{Sfn|Sousa ''et al.''|2018|pp=565–575}}。 |
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* '''コケ植物門''' {{lang|en|division}} {{sname||Bryophyta}} {{small|{{AUY|Schimp.|1879|bio=bot}}}} |
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** [[ツノゴケ綱]] {{lang|en|class}} {{sname||Anthocerotopsida}} |
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** [[苔綱]] {{lang|en|class}} {{sname||Marchantiopsida}} |
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** [[蘚綱]] {{lang|en|class}} {{sname||Bryopsida}} |
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=== 3群を門とする場合 === |
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[[画像:Bryo_cladogram.jpg|thumb|556px|center|[[陸上植物]]の系統関係]] |
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[[File:Conocephalum conicum (greater scented liverwort) (banks of Blunt Run, Muskingum Township, Muskingum County, Ohio, USA) 1 (21023059943).jpg|thumb|200px|葉状性の苔類[[ジャゴケ]] {{snamei||Conocephalum conicum}}。]] |
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[[File:Calypogeia azurea (Blaues Bartkelchmoos) IMG 4164.JPG|thumb|200px|茎葉性の苔類[[ホラゴケモドキ]] {{snamei||Calypogeia azurea}}。]] |
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[[File:Fringed Bogmoss (Sphagnum fimbriatum) - Oslo, Norway 2020-08-04.jpg|thumb|200px|蘚類[[ヒメミズゴケ]] {{snamei||Sphagnum fimbriatum}}。]] |
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[[File:Dendroceros granulatus 1738235.jpg|thumb|200px|[[キノボリツノゴケ属]]の一種 {{snamei||Dendroceros granulatus}}。]] |
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以下は {{Harvtxt|Goffinet|Shaw|2008}} を基にした{{Harvtxt|樋口|2012}}、かつ {{Harvtxt|Crandall-Stotler et al.|2009}}(苔類)、{{Harvtxt|Goffinet ''et al.''|2008}}(蘚類)および {{Harvtxt|Renzaglia ''et al.''|2008}}(ツノゴケ類)を基にした {{Harvtxt|海老原|嶋村|田村|2012}} に基づく。3門をまとめたコケ植物に[[階級 (生物学)|階級]]を与える場合、[[亜界]]に置き '''{{Sname||Bryobiotina}}''' とすることもある{{Sfn|Glime|2017|p=2-1-2}}。 |
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* [[タイ植物門]]([[苔類]]){{sname||Marchantiophyta}} {{small|{{AU|Stotler}} & {{AU|Crand.-Stotl.}}}} |
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====藻類との関係==== |
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** [[コマチゴケ綱]] {{sname||Haplomitriopsida}} {{small|{{AU|}}}} {{small|{{AU|Stotler}} & {{AU|Crand.-Stotl.}}}} |
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コケ植物を含む陸上植物と緑藻類の共通する形質はいくつか知られている。例えば、[[光合成色素]]として[[クロロフィル]]aおよびbを持ち、[[同化産物]]([[糖]])の貯蔵物質は[[デンプン]]である。また[[精子]]の鞭毛を2本持つことも他の緑藻類を除く藻類との差異である。 |
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*** [[コマチゴケ亜綱]] {{Sname||Treubiidae}} {{small|{{AU|}}}} {{small|{{AU|Stotler}} & {{AU|Crand.-Stotl.}}}} |
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*** [[トロイブゴケ亜綱]] {{Sname||Haplomitriidae}} {{small|{{AU|}}}} {{small|{{AU|Stotler}} & {{AU|Crand.-Stotl.}}}} |
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**[[ゼニゴケ綱]] {{sname||Marchantiopsida}} {{small|{{AU|Cronquist}}, {{AU|Takht.}} & {{AU|W.Zimm}}}} |
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*** [[ウスバゼニゴケ亜綱]] {{sname||Blasiidae}} {{small|{{AU|He-Nygrén}}, {{AU|Juslén}}, {{AU|Ahonen}}, {{AU|Glenny}} & {{AU|Piippo}}}} |
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*** [[ゼニゴケ亜綱]] {{sname||Marchantiidae}} {{small|{{AU|Engl.}}}} |
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** [[ツボミゴケ綱]]{{Sfn|海老原|嶋村|田村|2012|p=307}}(ウロコゴケ綱{{Sfn|海老原|嶋村|田村|2012|p=307}}) {{sname||Jungermanniopsida}} {{small|{{AU|Stotler}} & {{AU|Crand.-Stotl.}}}} |
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*** [[ミズゼニゴケ亜綱]] {{sname||Pelliidae}} {{small|{{AU|He-Nygrén}}, {{AU|Juslén}}, {{AU|Ahonen}}, {{AU|Glenny}} & {{AU|Piippo}}}} |
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*** [[フタマタゴケ亜綱]] {{sname||Metzgeriidae}} {{small|{{AU|Barthol.-Began}}}} |
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*** [[ツボミゴケ亜綱]]{{Sfn|海老原|嶋村|田村|2012|p=307}}(ウロコゴケ亜綱{{Sfn|海老原|嶋村|田村|2012|p=307}}) {{Sname||Jungermannidae}} {{small|{{AU|Engl.}}}} |
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* [[セン植物門]]([[蘚類]]) {{sname||Bryophyta}} {{small|{{AU|Schimp.}}}} |
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** {{lang|en|[[門 (分類学)|subdivision]]}} {{sname||Takakiophytina}} {{small|{{AU|Stech}} & {{AU|W. Frey}}}} ({{lang|en|[[上綱|Superclass]] I}} ''{{lang|la|sensu}}'' {{Harvnb|Goffinet|Shaw|2008}}) |
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*** [[ナンジャモンジャゴケ綱]] {{sname||Takakiopsida}} {{small|{{AU|Stech}} & {{AU|W.Frey}}}} |
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** {{lang|en|[[門 (分類学)|subdivision]]}} {{sname||Sphagnophytina}} {{small|{{AU|Doweld}}}} ({{lang|en|[[上綱|Superclass]] II}} ''{{lang|la|sensu}}'' {{Harvnb|Goffinet|Shaw|2008}}) |
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*** [[ミズゴケ綱]] {{Sname||Sphagnopsida}} {{small|{{AU|Ochyra}}}} |
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** {{lang|en|[[門 (分類学)|subdivision]]}} {{Sname||Andreaeophytina}} {{small|{{AU|Goffinet}}, {{AU|Buck}} & {{AU|Shaw}}}} ({{lang|en|[[上綱|Superclass]] III}} ''{{lang|la|sensu}}'' {{Harvnb|Goffinet|Shaw|2008}}){{Sfn|Goffinet ''et al.''|2009|pp=856–857}} |
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*** [[クロゴケ綱]] {{Sname||Andreaeopsida}} {{small|{{AU|J.H.Schaffn.}}}} |
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** {{lang|en|[[門 (分類学)|subdivision]]}} {{Sname||Andreaeobryophytina}} {{small|{{AU|Goffinet}}, {{AU|Buck}} & {{AU|Shaw}}}} ({{lang|en|[[上綱|Superclass]] IV}} ''{{lang|la|sensu}}'' {{Harvnb|Goffinet|Shaw|2008}}){{Sfn|Goffinet ''et al.''|2009|pp=856–857}} |
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*** [[クロマゴケ綱]] {{Sname||Andreaeobryopsida}} {{small|{{AU|Goffinet}} & {{AU|W.R.Buck}}}} |
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** {{lang|en|[[門 (分類学)|subdivision]]}} {{sname||Bryophytina}} {{small|{{AU|Engl.}}}} ({{lang|en|[[上綱|Superclass]] V}} ''{{lang|la|sensu}}'' {{Harvnb|Goffinet|Shaw|2008}})<ref>{{Cite web|url=https://db.cngb.org/search/organism/404260/|title=Bryophytina|website=CNGBdb|accessdate=2023-07-11}}</ref> |
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*** [[イシズチゴケ綱]] {{Sname||Oedipodiopsida}} {{small|{{AU|Goffinet}} & {{AU|W.R.Buck}}}} |
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*** [[スギゴケ綱]] {{Sname||Polytrichopsida}} {{small|{{AU|Doweld}}}} |
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*** [[ヨツバゴケ綱]] {{Sname||Tetraphidopsida}} {{small|{{AU|Goffinet}} & {{AU|W.R.Buck}}}} |
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*** [[マゴケ綱]] {{Sname||Bryopsida}} {{small|{{AU|Rothm.}}}} |
|||
**** [[キセルゴケ亜綱]] {{Sname||Buxbaumiidae}} {{small|{{AU|Doweld}}}} |
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**** [[イクビゴケ亜綱]] {{Sname||Diphysciidae}} {{small|{{AU|Ochyra}}}} |
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**** [[クサスギゴケ亜綱]] {{Sname||Timmiidae}} {{small|{{AU|Ochyra}}}} |
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**** [[ヒョウタンゴケ亜綱]] {{Sname||Funariidae}} {{small|{{AU|Ochyra}}}} |
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**** [[シッポゴケ亜綱]] {{Sname||Dicranida}} {{small|{{AU|Doweld}}}} |
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**** [[マゴケ亜綱]] {{Sname||Bryidae}} {{small|{{AU|Engl.}}}} |
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* [[ツノゴケ植物門]]([[ツノゴケ類]]) {{sname||Anthocerotophyta}} {{small|{{AU|Rothm.}} {{lang|la|[[著者の引用 (植物学)|ex.]]}} {{AU|Stotler}} & {{AU|Crand.-Stotl.}}}} |
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** [[スジツノゴケ綱]]{{Sfn|海老原|嶋村|田村|2012|p=317}}(レイオスポロケロス綱{{Sfn|樋口|2012|p=20}}) {{Sname||Leiosporocerotopsida}} {{small|{{AU|Stotler}} & {{AU|Crand.-Stotl.}}}} |
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** [[ツノゴケ綱]] {{Sname||Anthocerotopsida}} {{small|{{AU|{{AU|Jancz.}} {{lang|la|[[著者の引用 (植物学)|ex.]]}} {{AU|Stotler}} & {{AU|Crand.-Stotl.}}}}}} |
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*** [[ツノゴケ亜綱]] {{Sname||Anthocerotidae}} {{small|{{AU|Rosenv.}} {{lang|la|corr.}} {{AU|Prosk.}} {{lang|la|emend.}} {{AU|Duff}} ''{{lang|la|et al.}}''}} |
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*** [[ツノゴケモドキ亜綱]] {{Sname||Notothylatidae}} {{small|{{AU|Duff}}, {{AU|J.C.Villarreal}}, {{AU|Cargill}} & {{AU|Renzaglia}}}} |
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*** [[キノボリツノゴケ亜綱]] {{Sname||Dndrocerotidae}} {{small|{{AU|Duff}}, {{AU|J.C.Villarreal}}, {{AU|Cargill}} & {{AU|Renzaglia}}}} |
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== 形態 == |
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ただし、基本的に陸上生活をするコケ植物と水中生活をする緑藻類は多くの点で異なっており、特に繁殖に関わる形質・生態は明瞭である。生殖器官は緑藻類は[[単細胞]]で、コケ植物は[[多細胞]]であり造卵器や胞子嚢は他の細胞に覆われている。これは配偶子や胞子などを乾燥から守る目的がある。また受精後、コケ植物が植物体にとどまり[[胚]]を形成することも緑藻類との相違点である。 |
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{{See also|茎葉体|葉状体}} |
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[[File:Lophocolea heterophylla (d, 144811-474708) 0104.JPG|thumb|200px|[[トサカゴケ]] {{snamei||Lophocolea heterophylla}}(苔類)の胞子と螺旋状肥厚がみられる弾糸。]] |
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全てのコケ植物が持つ[[共有派生形質]]は胞子体が退縮し、配偶体に半寄生することである{{Sfn|長谷部|2020|p=104}}{{Sfn|坪田|2012|p=23}}。 |
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また、全てではないものの、複数の群にわたって共有している形質がある。ツノゴケ類と蘚類では植物体の端部以外にも[[介在分裂組織]]と呼ばれる分裂組織ができ、苔類にはないものの、[[最節約的]]にはコケ植物の共通祖先で獲得されたと考えられる共有派生形質である{{Sfn|長谷部|2020|p=106}}。介在分裂組織は胞子嚢とあしとの間の柄に形成され、胞子嚢を造卵器の上方に押し出すように分裂を行っている{{Sfn|長谷部|2020|p=106}}。コケ植物以外でも、[[トクサ類]]の[[節 (植物)|節]]や裸子植物[[ウェルウィッチア]]の葉基部、[[単子葉植物]]の茎の節や葉の基部にも介在分裂組織は見られ、陸上植物の共通祖先で獲得したとも考えられる{{Sfn|長谷部|2020|p=106}}。 |
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なお、緑藻類の中でも[[車軸藻類]]の''Coleochaete''属と[[細胞分裂|核分裂]]の様式や共通の[[光合成酵素]]を持つこと、分子系統の結果などより近縁であることが示唆されている。 |
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苔類とツノゴケ類は'''[[弾糸]]'''(だんし、{{lang|en|elater}})を持っており、胞子形成細胞が体細胞分裂することで胞子母細胞とともに弾糸細胞が形成される{{Sfn|長谷部|2020|p=105}}{{Sfn|嶋村|2012|p=4}}{{Sfn|岩月|2001|p=31}}。ツノゴケ類は基部で分岐し、苔類も持っていることから、コケ植物の共有派生形質だと考えられるが{{Sfn|長谷部|2020|p=105}}、派生的な群である[[キノボリツノゴケ属]]および[[アナナシツノゴケ属]]といった[[キノボリツノゴケ科]]を除くツノゴケ類は[[螺旋状肥厚]]を持たない'''偽弾糸'''であり{{Sfn|長谷部|2020|p=106}}{{Sfn|嶋村|2012|p=3}}{{Sfn|岩月|2001|p=28}}、コケ植物の共通祖先は弾糸を持たず、苔類の共通祖先とキノボリツノゴケ属で[[平行進化]]したとも推定される{{Sfn|長谷部|2020|p=106}}。 |
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====シダ植物との関係==== |
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コケ植物は[[古生代]]に陸上進出したシダ植物とは、両者ともに多細胞で壷型の造卵器を形成するが、このような構造は[[藻類]]には見られない。また、両者ともに[[世代交代]]を行い、配偶体の上で胞子体が発芽する。したがって、シダ植物において、[[前葉体]]から幼いシダが伸びる姿と、コケ植物の植物体からさくが伸びる姿とは同等のものである。ただし、シダ植物や[[種子植物]]では胞子体が発達するのに対して、コケ植物では配偶体が発達するのが大きな相違点である。また[[葉緑体DNA]]の比較結果より[[苔類]]と[[ヒカゲノカズラ類]]が近縁であることが示されている<ref name="katou">[[加藤雅啓]]編 「陸上植物の分類体系」 『植物の多様性と系統 バイオディバーシティ・シリーズ2』 岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房、1997年、25頁、ISBN 978-4-7853-5825-9。</ref>。 |
|||
有柄胞子体植物として姉妹群をなす蘚類と苔類は類似した特有の[[鞭毛]]装置を形成する{{Sfn|長谷部|2020|p=108}}。 |
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コケ植物およびシダ植物・種子植物が側系統群であることが示唆されているものの、両者の系統関係については説が分かれている。コケ植物に近い先祖からシダ植物が分化したのか、両者に共通の祖先から両者が分化したのか、近縁な祖先から平行的に進化したのかなど、さまざまな議論がある。ただし、シダ植物からコケ植物に[[退行進化]]をしたことを示す結果は示されていない<ref name = katou/>。 |
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他の形質についてはそれぞれの群で同じ形質も異なる形質も持っている。以下、主に{{Harvcoltxt|嶋村|2012|p=3}} に基づき、3群の形態を比較する。 |
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== 採集と標本 == |
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{|class="wikitable" style="text-align:center" |
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コケ植物は、その姿が小型であり、しかも多様な生活環境に生育する種がある。これが[[カビ]]ともなれば野外採集はできず、持ち帰って分離操作をするのだろうが、コケはそのような方法が適用できない。どうしても野外で採集しなければならない。小さなものでは、砂岩の砂粒の間に葉が隠れてしまうようなものもあるから、ルーペは必須である。 |
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|+ 各系統の形質の比較 |
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|colspan=3| 形質 |
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! 苔類 !! 蘚類 !! ツノゴケ類 |
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|- |
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!rowspan=10|{{縦書き|配偶体の形態}} |
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|colspan=2| 原糸体 |
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| 葉状・塊状 |
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| 糸状{{small|([[マゴケ綱]])}}<br />葉状・リボン状・箆状など{{small|(ほか)}} |
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| 葉状・塊状 |
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|- |
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|colspan=2| 植物体 |
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| [[茎葉体]]・[[葉状体]] |
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| 茎葉体 |
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| 葉状体 |
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|- |
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|colspan=2| 仮根 |
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| 単細胞<br />なし{{small|([[コマチゴケ綱]])}} |
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| 多細胞で分枝する<br />なし{{small|([[ナンジャモンジャゴケ綱]])}} |
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| 単細胞 |
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|- |
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|rowspan=4|{{縦書き|茎葉体の葉}} |
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|葉序 |
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| [[左右相称]] |
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| [[螺旋葉序]]・[[対生]]・[[1/3葉序]] |
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|rowspan=4| 葉なし |
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|- |
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|葉原基 |
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| 2細胞起源<br />1細胞起源{{small|([[コマチゴケ綱]])}} |
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| 1細胞起源 |
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|- |
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|葉の形 |
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| 普通、2裂から多裂 |
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| 普通尖り、[[深裂]]しない |
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|- |
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|中肋 |
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| なし |
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| 普通あり |
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|- |
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|rowspan=2| 造卵器 |
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|形態 |
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| 頸細胞は4–6列 |
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|colspan=2| 頸細胞は6列 |
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|- |
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|形成位置 |
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| 頂生/非頂生 |
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| 頂生 |
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| 非頂生{{small|(葉状体内に埋没)}} |
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|- |
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|colspan=2| [[共生藻]] |
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| [[ウスバゼニゴケ科]]のみ持つ |
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| なし |
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| 全ての種が持つ |
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|- |
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!rowspan=7|{{縦書き|胞子体の形態}} |
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|colspan=2|帽 |
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| なし |
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| あり |
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| なし |
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|- |
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|colspan=2|蒴歯 |
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| なし |
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| あり{{small|(スギゴケ綱・ヨツバゴケ綱・マゴケ綱)}}<br />なし{{small|(ほか)}} |
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| なし |
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|- |
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|colspan=2|減数分裂の同調 |
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|colspan=2| あり |
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| なし |
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|- |
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|colspan=2|[[気孔]] |
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| なし |
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|colspan=2| あり |
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|- |
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|colspan=2|軸柱 |
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| なし |
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|colspan=2| あり |
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|- |
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|colspan=2|弾糸 |
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| 全ての種が持つ |
|||
| なし |
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| 弾糸{{small|([[キノボリツノゴケ類]]{{Sfn|長谷部|2020|p=105}})}}<br />偽弾糸{{Efn|螺旋状肥厚を持たない{{Sfn|嶋村|2012|p=3}}。}}{{small|(ほか)}} |
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|- |
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|colspan=2|蒴柄 |
|||
| 減数分裂後に伸長{{Sfn|嶋村|2012|p=4}} |
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| 減数分裂前に伸長{{Sfn|嶋村|2012|p=4}}<br />持たない{{small|([[ミズゴケ綱]]・[[クロゴケ綱]])}} |
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| なし |
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|- |
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!rowspan=7 |{{縦書き|細胞の形態}} |
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|colspan=2|受精卵の最初の分裂軸 |
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|colspan=2| 縦方向 |
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| 横方向 |
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|- |
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|colspan=2|細胞の[[トリゴン]]・[[油体]] |
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| あり |
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|colspan=2| なし |
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|- |
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|colspan=2|[[葉緑体]]数 |
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| 多数 |
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| 多数 |
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| 1–2個<br />多数{{small|([[アナナシツノゴケ属]]など)}} |
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|- |
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|colspan=2|[[ピレノイド]] |
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|colspan=2| なし |
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| あり |
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|- |
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|colspan=2|[[紡錘体]]の形成開始位置 |
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| 極形成体 |
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| 分散型 |
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| 葉緑体表面 |
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|- |
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|colspan=2|[[精子]]の[[鞭毛]]基部 |
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|colspan=2| 前後にずれて配置 |
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| [[左右対称]]に配置 |
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|- |
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|colspan=2|頂端幹細胞 |
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| 3面切出し{{small|([[コマチゴケ綱]]・[[ツボミゴケ綱]])}}{{Sfn|長谷部|2020|p=108}}<br />4面切出し{{small|(葉状性苔類)}}{{Sfn|長谷部|2020|p=108}} |
|||
| 3面切出し{{Sfn|長谷部|2020|p=108}} |
|||
| 4面切出し{{Sfn|長谷部|2020|p=108}}<br />3面切出し{{small|([[キノボリツノゴケ属]])}}{{Sfn|長谷部|2020|p=108}} |
|||
|- |
|||
|} |
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=== ツノゴケ類の形態 === |
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したがって、コケ植物の採集家は歩みが遅い。一歩進むごとに樹の肌を見、葉の上を見、枝を見、樹の根元を見、足元を見る。沢であれば岩面の向きの違う場所をずっと見て回り、岩の隙間を探し、草の根元を見、水しぶきのかかるところも見て、その周辺の樹木も見なければならない。素人目には一塊のコケの集団であっても、複数種が交じっていることも普通である。日本の蘚苔類学会のある年に行なわれた観察会では、山間部の[[渓谷]]にコースを設定してあったのに、その入り口の駐車場周辺だけで1日を過ごしてしまったとの伝説がある。 |
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[[File:Anthoceros foot L.jpg|thumb|200px|[[ツノゴケ属]] {{snamei||Anthoceros}} の胞子体。<hr /> A: 配偶体, B: placental tissue, C: あし, D: 介在分裂組織, E: 若い胞子体と偽弾糸組織]] |
|||
ツノゴケ類では、'''[[葉状体]]'''から柄と胞子嚢の境界が外形ではわからない'''ツノ状の胞子体'''をもつ{{Sfn|長谷部|2020|p=107}}。これは、介在分裂組織の分裂活性が蘚類よりも長く続き、同じ太さの組織が形成されるためである{{Sfn|長谷部|2020|p=107}}。また、細胞内に葉緑体を1–2個しか持たない[[単色素体性]]で、葉緑体に[[藻類]]とツノゴケ類にしか見られない'''[[ピレノイド]]'''を持つことが大きな特徴である{{Sfn|長谷部|2020|p=108}}{{Sfn|嶋村|2012|p=4}}。葉状体内には[[シアノバクテリア]]が共生している{{Sfn|坪田|2012|p=26}}。 |
|||
また、陸上植物の中でツノゴケ類の造精器の形態は特異である{{Sfn|長谷部|2020|p=107}}。ほとんどの現生陸上植物では、造精器嚢の最外層の細胞は外界と接しており、前維管束植物でも造精器は組織の上に突出していたが、ツノゴケ類の造精器は周りの組織中に形成される{{Sfn|長谷部|2020|p=107}}。造卵器も他の陸上植物とは異なり、頸の最先端の細胞が表皮細胞上に突出しない{{Sfn|長谷部|2020|p=107}}。 |
|||
その代わりに、標本作製と保存は簡単で、一般には陰干しして、紙に包んでおくだけ(乾燥標本)である。この状態で虫がつくこともほとんど無いと言う。シダや高等植物の[[押し葉標本]]が、放置すればあっと言う間にボロボロになるのとは大きな違いである。観察したいときは水に戻すと、ほぼ元の形に回復する。 |
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== |
=== 苔類の形態 === |
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[[File:Calypogeia azurea Cells and blue oil bodies.jpg|thumb|200px|[[ホラゴケモドキ]] {{snamei||Calypogeia azurea}} の青い油体を含む葉の細胞。]] |
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''日本文化の文脈における「コケ」については[[苔]]を参照。'' |
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苔類の共有派生形質は[[葉身]]細胞中に'''[[油体]]'''(ゆたい、{{lang|en|oil body}})と呼ばれる、膜で包まれた[[細胞小器官]]を持つことであり、他の陸上植物には見られない{{Sfn|長谷部|2020|p=109}}{{Sfn|岩月|2001|p=32}}。 |
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苔類の配偶体は'''[[茎葉体]]であることも[[葉状体]]であることもあり'''、伝統的に、茎葉性苔類と葉状性苔類の2つの群が区別されてきた{{Sfn|坪田|2012|p=25}}。また、葉状性の苔類には葉状体内部に気室などの組織分化がみられる複雑葉状性苔類と、組織分化が少ない単純葉状性苔類が細分されてきた{{Sfn|坪田|2012|p=25}}。しかし分子系統解析によりこれらの群は系統を反映していないことが明らかになり、現在では[[コマチゴケ綱]]、[[ゼニゴケ綱]]、[[ツボミゴケ綱]]の3群に再編されている{{Sfn|坪田|2012|p=25}}{{Sfn|嶋村|2012|p=5}}。茎葉性苔類と単純葉状性苔類は1つのクレードにまとまり、茎葉性苔類の中から複数回、単純葉状性への体制の進化が起こったことが分かっている{{Sfn|坪田|2012|p=26}}。コマチゴケ綱は茎葉性を持ち、中でもトロイブゴケ亜綱(トロイブゴケ科からなる単型亜綱)は茎葉体と葉状体の中間的な形態を持つ{{Sfn|嶋村|2012|p=5}}。ゼニゴケ綱は葉状体のみからなる群である{{Sfn|嶋村|2012|p=5}}。中でも複雑葉状性の体制が典型的であるが、2種からなるウスバゼニゴケ亜綱では例外的に単純葉状性の体制を持つ{{Sfn|嶋村|2012|p=6}}。苔類の大半を含むツボミゴケ綱は直立する茎葉性や匍匐する茎葉性、単純葉状性など多様な形態を持つ{{Sfn|嶋村|2012|p=6}}。うちツボミゴケ亜綱は茎葉性の体制がほとんどであるが、ミズゼニゴケ亜綱およびフタマタゴケ亜綱は単純葉状性を持つものが多い{{Sfn|嶋村|2012|p=6}}。 |
|||
コケ植物が実用的に用いられる例としては、圧倒的に[[ミズゴケ属|ミズゴケ類]]が重要である。日本ではその分布が多くないが、ヨーロッパではごく普通にあり、生きたものは園芸用の培養土としてほとんど他に換えがない。他に乾燥させて荷作りの詰め物とし、またかつては[[脱脂綿]]代わりにも使われた。またそれが枯死して炭化したものは[[泥炭]]と呼ばれ、[[燃料]]などとしても利用された。 |
|||
最基部で分岐したコマチゴケ綱は、造卵器や造精器を保護する[[葉的器官]]や、[[仮根]]を形成せず、葉を付けない根茎で基物に取り付く{{Sfn|嶋村|2012|p=5}}。こういった形質は原始的な形態であると考えられている{{Sfn|嶋村|2012|p=5}}。苔類の共通祖先がコマチゴケ綱のような茎葉性であったとすると、葉状性苔類は茎葉性苔類から進化したことになる{{Sfn|長谷部|2020|p=109}}。葉状性苔類の腹側にある鱗片は茎葉体の葉と同様の発生過程によって生じるため、葉が縮小したものであると考えられる{{Sfn|長谷部|2020|p=109}}。 |
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それ以外となるとかなり重要度が落ちる。日本では[[庭園]]や[[鉢植え]]に利用されるが、主としてバックグラウンドとしての価値を認められていると見た方が良いだろう。 |
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== |
=== 蘚類の形態 === |
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蘚類は全てが'''[[茎葉性]]'''の体制を持ち{{Sfn|嶋村|2012|p=2}}{{Sfn|岩月|2001|p=11}}、多くは螺旋状に'''[[葉]]''' ({{lang|en|phyllid}}{{Sfn|長谷部|2020|p=31}}) をつける{{Sfn|嶋村|2012|p=2}}。また、[[仮根]]は多細胞で分枝する{{Sfn|岩月|2001|p=11}}。 |
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[[Image:Gifu-kegonji5754.JPG|thumb|220px|[[華厳寺]]石灯籠の蘚苔類]] |
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[[日本]]には約1800種のコケ植物が分布しており<ref name="iwa">岩月善之・北川尚史・秋山弘之 「コケ植物にみる多様性と系統」 『植物の多様性と系統 バイオディバーシティ・シリーズ2』 岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房、1997年、49頁、ISBN 978-4-7853-5825-9。 |
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</ref>、そのうち200種以上が絶滅の危機に瀕しているといわれている<ref>環境省報道発表資料 『[https://www.env.go.jp/press/press.php?serial=8648 哺乳類、汽水・淡水魚類、昆虫類、貝類、植物I及び植物IIのレッドリストの見直しについて]』、2007年8月3日。</ref>。 |
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蘚類のほとんどは[[マゴケ綱]]に含まれ、残りの群は蘚類の進化の初期に分岐した遺存的な分類群であると考えられている{{Sfn|嶋村|2012|p=8}}。多くの群は蒴の頂端に'''蓋'''(蒴蓋)が分化しており、蒴から蓋が分離すると蒴の開口部の内側に細長い歯状の構造物である'''蒴歯'''(さくし、{{lang|en|peristome}})が並ぶ{{Sfn|岩月|2001|p=21}}{{Sfn|岩月|2001|p=31}}。蘚類は胞子体の蒴歯の構造により、無関節蒴歯蘚類と有関節蒴歯蘚類に大別される{{Sfn|坪田|2012|p=24}}。有関節蒴歯蘚類は単系統群であるが、無関節蒴歯蘚類は側系統となる{{Sfn|坪田|2012|p=24}}。[[スギゴケ綱]]は'''無関節蒴歯'''(むかんせつさくし、{{lang|en|nematodontous peristome}})を、[[マゴケ綱]]は'''有関節蒴歯'''(ゆうかんせつさくし、{{lang|en|arthrodontous peristome}})を持ち、それらと蒴歯を持たない[[イシヅチゴケ]] {{snamei||Oedipodium griffithianum}} 1種からなる[[イシヅチゴケ綱]]が姉妹群となる{{Sfn|嶋村|2012|p=9}}。 |
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日本では、古来より蘚苔類は身近なものであり、多くの和歌の中で詠われている。現在、[[ミズゴケ類]]や[[シラガゴケ類]]、[[スギゴケ類]]、[[ツルゴケ]]、[[ハイゴケ]]など多数のコケ植物が園芸用・観賞用として栽培、販売されている。 |
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2種からなる[[ナンジャモンジャゴケ綱]]は葉が棒状で、葉を付けない根茎状シュートを持ち、仮根を形成しない{{Sfn|嶋村|2012|p=8}}。また造卵器と造精器が裸出し、胞子嚢が斜めに裂開することも他の蘚類と異なる形質であり、かつては苔類とも考えられていた{{Sfn|嶋村|2012|p=8}}。ミズゴケ綱およびクロゴケ綱は蒴柄がなく、配偶体組織が伸長した'''偽柄'''(ぎへい、{{small|または}}偽足、{{lang|en|pseudopodium}})によって胞子体が持ち上げられる{{Sfn|嶋村|2012|p=8}}{{Sfn|岩月|2001|p=20}}。クロマゴケ綱はクロゴケ綱とよく似るが、蒴柄を持つ{{Sfn|嶋村|2012|p=8}}。 |
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== コケ植物の研究を行っている組織・機関 == |
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=== 日本 === |
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日本では、いくつかの大学や博物館、研究所でコケ植物に関する研究が行われている。 |
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== 生育環境 == |
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* 分類・系統・植物地理・生態関係では、以下のものがあげられる。 |
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コケ植物は[[海水]]中および[[氷雪]]上以外の、地球上のあらゆる表層に生息している{{Sfn|岩月|2001|p=10}}{{Sfn|秋山|2012|p=41}}。基本的には陸上生活をするが、少ないながら淡水中に生育するものもいる。生育する基質としては、[[土壌|土]]や腐植土、[[岩]]上、他の植物体([[樹皮]]、[[葉]]の表面、樹枝)などが多い{{Sfn|岩月|2001|p=11}}。 |
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**(大学)広島大学、東京大学、高知大学、姫路工業大学、玉川大学、岡山理科大学、南九州大学、慶應義塾大学など |
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**(博物館)国立科学博物館、千葉県立中央博物館、兵庫県立人と自然の博物館など |
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**(研究所)国立極地研究所、(公財)服部植物研究所など |
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* 生理・生化学・化学関係では、以下のものがあげられる。 |
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**(大学)広島大学、熊本大学、徳島文理大学、静岡大学、帯広畜産大学など |
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**(研究所)国立極地研究所、国立環境研究所など |
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[[温帯]]および[[熱帯]]の各地において、様々な環境で種多様性の程度に大きな差異がないことが分かっている{{Sfn|秋山|2012|p=41}}。少なくともコケ植物では熱帯に種多様性が偏在しておらず、コケ植物は {{lang|en|"Everything is everywhere"}}「あらゆるものがあらゆるところにいる」 であると評される{{Sfn|秋山|2012|p=41}}。また、同じ地域でも[[森林限界|高山]]と低山では種構成が大きく異なる{{Sfn|岩月|2001|p=11}}。高山におけるコケ植物の生育限界線を'''コケ線'''({{lang|en|moss-line}})という{{Sfn|沼田|1983|p=105}}。乾燥への適応を持つ種もあり、苛烈な環境を好む種も知られている{{Sfn|秋山|2012|p=41}}。 |
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また、[[日本蘚苔類学会]]がコケ植物を専門に取り扱う学会としてあげられる。 |
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蘚類および苔類は[[植物群落]]内の地表面のごく近くに'''蘚苔層'''{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=813a}}({{small|または}} コケ層{{Sfn|沼田|1983|p=106}}、{{lang|en|moss layer}}{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=813a}}{{Sfn|沼田|1983|p=106}})を作る{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=813a}}。やや多湿の森林の最下層や水湿地などに発達し{{Sfn|沼田|1983|p=106}}、[[リター]]が厚く積もらない岩上や[[倒木]]上に形成され、樹木の[[実生]]が定着する場となる{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=813a}}。地表付近を生活の場とする[[昆虫類]]など小動物に富む{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=813a}}。 |
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=== ドイツ === |
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*[[ライン・フリードリヒ・ヴィルヘルム大学ボン|ボン大学]] |
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[[森林]]に生活する種が多いが、岩場や[[渓流]]、[[滝]]の周辺などにも多くの種が見られる。特に年中[[空中湿度]]の高い[[雲霧林]]には、林床だけでなく樹幹や枝にまで大量のコケが着生する例があり、'''蘚苔林'''{{Sfn|沼田|1983|p=106}}({{small|または}} '''コケ林'''{{Sfn|日本植物学会|文部省|1990|p=485}}{{Sfn|沼田|1983|p=106}}、{{lang|en|mossy forest}}{{Sfn|日本植物学会|文部省|1990|p=485}}{{Sfn|沼田|1983|p=106}}, {{lang|en|moss forest}}{{Sfn|日本植物学会|文部省|1990|p=133}}{{Sfn|沼田|1983|p=106}})とも呼ばれる{{Sfn|沼田|1983|p=106}}。畑地には[[ハタケゴケ]] {{snamei||Riccia bifruca}}、[[田|水田]]など[[淡水]]中にもそれぞれ[[イチョウウキゴケ]] {{snamei||Ricciocarpus natans}} および[[ウキゴケ]](カズノゴケ){{snamei||Riccia fluitans}} など独特のものが見られ{{Sfn|大滝|石戸|1980|p=279}}、市街地でもいくつかの種が生育している。例えば、[[ヒジキゴケ]] {{snamei||Hedwigia ciliata}} は[[石垣]]などの岩上に直接生える{{Sfn|秋山|2012|p=41}}。 |
|||
[[ミズゴケ類]]などのコケ植物が多く生育する[[湿性草原]]は'''コケ湿原'''({{lang|en|moss moor}})と呼ばれる{{Sfn|沼田|1983|p=105}}。特にミズゴケ類が豊富に繁茂する湿原を'''ミズゴケ湿原'''({{snamei|Sphagnum}} {{lang|en|bog}}{{Sfn|沼田|1983|p=307}}{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=453a}}, {{snamei|Sphagnum}} {{lang|en|moor}}{{Sfn|沼田|1983|p=307}}, {{lang|en|sphagniherbosa}}{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=453a}})といい、その中でも地下水ではなく雨水によるものを {{lang|en|Sphagnoplatum}} という{{Sfn|沼田|1983|p=307}}。また、カナダの森林内にあるミズゴケ湿原は {{lang|en|muskey}} と呼ばれる{{Sfn|沼田|1983|p=307}}。ミズゴケ類は[[泥炭地沼]]、[[高層湿原]]に多く生息し、多量の水分を蓄えるため乾燥にも耐え得る{{Sfn|沼田|1983|p=307}}。高層湿原の土壌は[[腐植酸]]や[[不飽和コロイド]]により酸性化しており、[[水酸化物イオン]]を嫌うミズゴケ類が中央部によく生育するため、[[泥炭]]化が進んで盛り上がることで高層となる{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=453a}}。また、[[北極圏]]の[[ツンドラ地帯]]は広大な地域がコケ植物と[[地衣類]]に覆われており、やや湿った場所に'''[[コケツンドラ]]'''({{lang|en|moss-tundra, moss heath}})が発達する{{Sfn|岩月|2001|p=11}}{{Sfn|沼田|1983|p=106}}。ミズゴケ類はその優占種となる{{Sfn|沼田|1983|p=106}}。 |
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非常に特殊な生育環境の種も存在し、[[被子植物]]や[[大葉シダ植物]]の葉上には[[カビゴケ]] {{snamei||Leptolejeunea elliptica}} や[[ヨウジョウゴケ]] {{snamei||Cololejeunea goebelii}} のような[[生葉上苔類]](せいようじょうたいるい、{{lang|en|epiphyllous liverworts}})が生育する{{Sfn|秋山|2012|p=41}}<ref>{{Cite web|url=https://www.digital-museum.hiroshima-u.ac.jp/~main/index.php?title=%E7%94%9F%E8%91%89%E4%B8%8A%E8%8B%94%E9%A1%9E&mobileaction=toggle_view_desktop|title=生葉上苔類|website=広島大学デジタルミュージアム|publisher=[[広島大学]]|accessdate=2023-07-26}}</ref>。[[マルダイゴケ]] {{snamei||Tetraplodon mnioides}} などは[[動物]]の[[糞]]や死体にのみ生育する糞生種である{{Sfn|秋山|2012|p=41}}。[[ホソモンジゴケ]] {{snamei||Scopelophila cataractae}} は高い耐[[銅]]性を示す{{Sfn|秋山|2012|p=41}}。また、淡水中に生育する種の中には、[[ナシゴケ属]] {{snamei||Leptobryum}} のように[[南極]]の湖底に生息し'''コケ坊主'''(コケボウズ、{{lang|en|moss pillars}})を形成するものもある{{Sfn|秋山|2012|p=41}}<ref>{{Cite web|url=https://www.sankei.com/photo/story/news/170208/sty1702080017-n1.html|title=南極の湖底に緑の森 コケボウズから生態系探る|website=産経フォト|publisher=[[産経新聞社]]|date=2017-02-08|accessdate=2023-07-26}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://www.nikkei-science.com/?p=27707|title=南極湖底の「コケ坊主」〜日経サイエンス2012年10月号より|website=[[日経サイエンス]]|date=2012-10|accessdate=2023-07-26}}</ref>。 |
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{{Multiple image |
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|align=center |
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|total_width=1000 |
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|image1=木を覆う苔.jpg |
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|caption1=立ち木を覆う苔 |
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|image2=水中に生える苔.jpg |
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|caption2=水中に生える苔 |
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|image3=岩を覆う苔と地衣類.jpg |
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|caption3=岩を覆う苔と地衣類 |
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|image4=Forest in Yatsugatake 04.jpg |
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|caption4=コケ植物に覆われた八ヶ岳の林床 |
|||
}} |
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== 進化と化石記録 == |
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[[File:Bryophyte species SRIC SR 02-15-10 img1.tif|thumb|200px|蘚類の化石]] |
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[[File:Tortilicaulis transwalliensis reconstruccion.jpg|thumb|150px|[[トルチリカウリス]] {{snamei||Tortilicaulis transwalliensis}} の復元図。]] |
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コケ植物の化石記録は非常に少なく、限られている{{Sfn|秋山|2012|p=40}}{{Sfn|長谷部|2020|p=72}}。これまで報告されている化石記録の多くは、[[胞子化石]]や表皮の断片であり、植物体全体がそのまま保存されていることは少ない{{Sfn|秋山|2012|p=40}}。これはコケ植物が当時存在していなかったからではなく、[[リグニン]]を持たない軟らかい体で、化石として保存されにくいためであると考えられている{{Sfn|秋山|2012|p=40}}。[[オルドビス紀]]や[[シルル紀]]の地層から見つかる胞子化石は系統が不明な点も多いが、[[四集粒胞子]] {{lang|en|permannt tetrad}} の存在は[[減数分裂]]を伴った世代交代を行う陸上植物の存在を示唆している{{Sfn|秋山|2012|p=40}}。 |
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従来、苔類が陸上植物の最基部で分岐したのではないかと推定されており、[[基部系統]]は共通祖先に似た形質を持っている可能性があるため、陸上植物の共通祖先は苔類様の植物だと考えられてきた{{Sfn|長谷部|2020|p=72}}。また、陸上植物の進化において細胞壁が二次肥厚する仮道管および道管の獲得や分枝する胞子体の獲得が重要であったと考えられており、コケ植物はそれらを持っていないことからもその仮説の証拠となっていた{{Sfn|長谷部|2020|p=72}}。しかし、[[前維管束植物]]は仮道管ではなく[[ハイドローム]]を持っているため、これが陸上植物の共通祖先だと考えられることもある{{Sfn|長谷部|2020|p=72}}。ただし、現生のコケ植物と形態的に類似していない化石は真のコケ植物であってもコケ植物として認識されていな可能性が高い{{Sfn|秋山|2012|p=40}}。 |
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コケ植物の化石は[[小葉植物]]や[[大葉シダ植物]]の祖先群よりも後の時代の地層から見つかっていることもあり、最初の陸上植物は[[二又分枝]]する胞子体からなる[[シダ植物]]段階の[[テローム植物]]で、コケ植物の単純な体制はその退化によって生じたものであるとする'''退行進化仮説'''が提唱されている{{Sfn|西田|2017|p=57}}{{Sfn|長谷部|2020|pp=73–74}}。[[モデル植物]]である蘚類の[[ヒメツリガネゴケ]]において、[[クロマチン修飾]]を担う[[ポリコーム]]抑制複合体2の構成蛋白質をコードする ''pPCLF'' 遺伝子を欠失させると胞子体幹細胞の寿命が長くなり分枝する胞子体を形成することはこの仮説と調和的である{{Sfn|長谷部|2020|pp=73–74}}。 |
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コケ植物の可能性がある最古の大型化石は、約4億2000万年前の[[トルチリカウリス]] {{snamei||Tortilicaulis transwalliensis}} {{small|{{AUY|D.Edwards|1979|bio=bot}}}} で、胞子嚢が柄についたコケのような植物である{{Sfn|長谷部|2020|pp=73–74}}。しかし、コケ植物とは異なり胞子体が同等二又分枝を行うため、{{Harvtxt|Kenrick|Crane|1997}} の分岐系統解析からは前維管束植物であると考えられている{{Sfn|長谷部|2020|pp=73–74}}。 |
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確実な大型化石の一つに[[後期デボン紀]]の苔類、[[パラビキニテス]] {{snamei||Pallaviciniites}} ([[シノニム|syn.]] {{snamei||Hepaticites}}) がある{{Sfn|西田|2017|pp=57–58}}。現在では、最古の苔類は[[中期デボン紀]]の地層から見つかっている[[ツボミゴケ綱]]の {{snamei||Metzgeriothallus sharonae}} {{small|{{AUY|Hernick}}, {{AU|Landing}} & {{AU|Bartowski|2008|bio=bot}}}} であるとされる{{Sfn|Hernick ''et al.''|2008}}。はっきりと現在のコケ植物と断定できる化石はシルル紀から見つかっており、現生の葉状性苔類と基本的に類似した構造が備わっている{{Sfn|秋山|2012|p=40}}。 |
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前期デボン紀の約4億1000万年前の地層からは、扁平な組織から分枝しない胞子体が多数生えた[[スポロゴニテス]] {{snamei||Sporogonites exuberans}} {{small|{{AUY|Halle|1916|bio=bot}}}} が見つかっており、[[仮道管]]が見つからず、胞子嚢が胞子体先端に形成され、軸柱の周りに胞子ができる{{Sfn|長谷部|2020|pp=73–74}}。それらの特徴は蘚類と比較され、蘚類の系統ではないかと考えられている{{Sfn|長谷部|2020|pp=73–74}}。 |
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[[琥珀]]中に見つかる[[新生代]]以降の化石はほぼすべてが現生属に分類可能で、現生種そのものに比定できるものすらある{{Sfn|秋山|2012|p=40}}。このことは、コケ植物の形態分化の速度が見かけ上非常に遅いことを示唆する{{Sfn|秋山|2012|p=40}}。 |
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== 利用 == |
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{{See|苔}} |
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[[Image:Gifu-kegonji5754.JPG|thumb|220px|[[華厳寺]]石灯籠の蘚苔類]] |
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コケ植物が実用的に用いられる例としては、圧倒的に[[ミズゴケ属|ミズゴケ類]]が重要である。日本ではその分布が多くないが、ヨーロッパではごく普通にあり、生きたものは園芸用の培養土としてほとんど他に換えがない。他に乾燥させて荷作りの詰め物とし、またかつては[[脱脂綿]]代わりにも使われた。またそれが枯死して炭化したものは[[泥炭]]と呼ばれ、[[燃料]]などとしても利用された。 |
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=== 日本 === |
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[[日本]]には1665種程度のコケ植物が分布しており{{Sfn|岩月|2001|p=10}}、そのうち200種以上が絶滅の危機に瀕しているといわれている<ref>環境省報道発表資料 『[https://www.env.go.jp/press/press.php?serial=8648 哺乳類、汽水・淡水魚類、昆虫類、貝類、植物I及び植物IIのレッドリストの見直しについて]』、2007年8月3日。</ref>。日本では[[庭園]]や[[鉢植え]]に利用される。日本では、古くより蘚苔類は身近なものであり、多くの和歌の中で詠われている。現在、[[ミズゴケ類]]や[[シラガゴケ類]]、[[スギゴケ類]]、[[ツルゴケ]]、[[ハイゴケ]]など多数のコケ植物が園芸用・観賞用として栽培、販売されている。 |
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== 脚注 == |
== 脚注 == |
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{{脚注ヘルプ}} |
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=== 注釈 === |
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=== 出典 === |
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{{reflist|3}} |
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== 参考文献 == |
== 参考文献 == |
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* {{Cite journal|last1=Bremer |first1=K. |last2=Humphries |first2=C.J. |last3=Mishler |first3=B.D.|author-link3=Brendt D. Mishler |last4=Churchill |first4=S.P. |author-link4=:en:Steven P. Churchill |date=1987 |title=On cladistic relationships in green plants |journal=Taxon |volume=36 |issue=2 |pages=339–349|doi=10.2307/1221429|ref={{SfnRef|Bremer ''et al.''|1987}} }} |
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* {{Cite journal|last1=Chang |first1=Y. |last2=Graham |first2=S.W. |date=2011 |title=Inferring the higherorder phylogeny of mosses (Bryophyta) and relatives, using a large, multigene plastid dataset |journal=Am. J. Bot. |volume=98 |pages=839–849|doi=10.3732/ajb.0900384 |ref={{SfnRef|Chang|Graham|2011}} }} |
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* {{Cite book|last=Core|first=Earl Lemley|title=Plant taxonomy|date=1955|publisher=Prentice-Hall|ref={{SfnRef|Core|1955}} }} |
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* {{cite journal|last1=Crandall-Stotler|first1=B.|last2=Stotler|first2=R.E.|last3=Long|first3=D.G.|date=2009|title=Phylogeny and classification of the Marchantiophyta|journal=Edinb. J.Bot.|volume=66|pages=155–198|ref={{SfnRef|Crandall-Stotler et al.|2009}} }} |
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* {{Cite journal|last1=Qiu|first1=Ying-Long |first2=Libo |last2= Li |first3=Bin |last3=Wang |first4=Zhiduan |last4=Chen |first5=Volker |last5=Knoop |first6=Milena |last6=Groth-Malonek |first7=Olena |last7=Dombrovska |first8=Jungho |last8=Lee |first9=Livija |last9=Kent |first10=Joshua |last10=Rest |first11=George F. |last11=Estabrook |first12=Tory A. |last12=Hendry |first13=David W. |last13=Taylor |first14=Christopher M. |last14=Testa |first15=Mathew |last15=Ambros |first16=Barbara |last16=Crandall-Stotler |first17=R. Joel |last17=Duff |first18=Michael |last18=Stech |first19=Wolfgang |last19=Frey |first20=Dietmar |last20=Quandt |first21=Charles C. |last21=Davis|date=2006 |title=The deepest divergences in land plants inferred from phylogenomic evidence |journal=Proc. Natl Acad. Sci. USA |volume=103|issue=42 |pages=15511–15516|doi=10.1073/pnas.0603335103|ref={{SfnRef|Qiu ''et al.''|2006}} }} |
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* {{Cite journal|last1=Qiu|first1=Ying-Long |title=Phylogeny and evolution of charophytic algae and land plants |journal=J. Syst. Evol. |volume=46|issue=3|pages=287–306|date=2008 |doi=10.3724/SP.J.1002.2008.08035|ref={{SfnRef|Qiu|2008}} }} |
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* {{Cite book|和書|author=井上浩|chapter=序論|title=植物系統分類の基礎|editor=山岸高旺|pages=1–8|publisher=図鑑の北隆館|date=1975-05-15|ref={{SfnRef|井上|1975a}} }} |
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* {{Cite book|和書|author=井上浩|chapter=12. コケ植物門 Division BRYOPHYTA|title=植物系統分類の基礎|editor=山岸高旺|pages=135–156|publisher=図鑑の北隆館|date=1975-05-15|ref={{SfnRef|井上|1975b}} }} |
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* {{Cite book|和書|author1=巌佐庸|author2=倉谷滋|author3=斎藤成也|authorlink3=斎藤成也|author4=塚谷裕一|authorlink4=塚谷裕一|title=岩波生物学辞典 第5版|publisher=[[岩波書店]]|date=2013-2-26|pages=|isbn=9784000803144|ref={{SfnRef|巌佐ほか|2013}} }} |
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* {{Cite book|和書|author1=岩月善之助|author2=水谷正美|title=原色日本蘚苔類図鑑|others=[[服部新佐]] 監修|publisher=[[保育社]]|date=1972-06-20|ref={{SfnRef|岩月|水谷|1972}} }} |
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* 岩月善之助・北川尚史・秋山弘之 「コケ植物にみる多様性と系統」 『植物の多様性と系統 バイオディバーシティ・シリーズ2』 岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房、1997年、42-74頁、ISBN 978-4-7853-5825-9。 |
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* 岩月善之助 「コケ植物」『週刊朝日百科 植物の世界136 コケ植物1 セン類』 岩槻邦男ら監修、朝日新聞社、1996年、98-99頁。 |
* 岩月善之助 「コケ植物」『週刊朝日百科 植物の世界136 コケ植物1 セン類』 岩槻邦男ら監修、朝日新聞社、1996年、98-99頁。 |
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* {{Cite book|和書|author=岩月善之助|title=日本の野生植物 コケ|publisher=平凡社|date=2001-02-21|isbn=978-4582535075|ref={{SfnRef|岩月|2001}} }} |
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* 岩月善之・北川尚史・秋山弘之 「コケ植物にみる多様性と系統」 『植物の多様性と系統 バイオディバーシティ・シリーズ2』 岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房、1997年、42-74頁、ISBN 978-4-7853-5825-9。 |
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* {{Cite book|和書|author1=海老原淳|author-link1=海老原淳|author2=嶋村正樹|author-link2=嶋村正樹|author3=田村実|author-link3=田村実|section=陸上植物の新しい分類体系|others=日本植物分類学会 監修|editors=[[戸部博]]、[[田村実]]|title=新しい植物分類学Ⅱ |publisher=[[講談社]]|date=2012-08-10|isbn=978-4061534490|pages=305–319|ref={{SfnRef|海老原|嶋村|田村|2012}} }} |
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* 岩月善之助編 『日本の野生植物 コケ』 平凡社、東京、2001年、ISBN 9784582535075。- 生態写真が多く、日本の代表的なコケ植物について図が掲載されている。 |
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* {{Cite book|和書|author=大滝末男|author2=石戸忠|title=日本水生植物図鑑|publisher=北隆館|ref={{SfnRef|大滝|石戸|1980}} }} |
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* 加藤雅啓編 「陸上植物の分類体系」 『植物の多様性と系統 バイオディバーシティ・シリーズ2』 岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房、1997年、21-27頁、ISBN 978-4-7853-5825-9。 |
* 加藤雅啓編 「陸上植物の分類体系」 『植物の多様性と系統 バイオディバーシティ・シリーズ2』 岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房、1997年、21-27頁、ISBN 978-4-7853-5825-9。 |
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* {{Cite book|和書|author=坪田博美|author-link1=坪田博美|section=コケ植物の分子系統|others=日本植物分類学会 監修|editors=[[戸部博]]、[[田村実]]|title=新しい植物分類学Ⅱ |publisher=[[講談社]]|date=2012-08-10|isbn=978-4061534490|pages=22–33|ref={{SfnRef|坪田|2012}} }} |
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* {{Cite book|和書|author=嶋村正樹|section=コケ植物|others=日本植物分類学会 監修|editors=[[戸部博]]、[[田村実]]|title=新しい植物分類学Ⅱ |publisher=[[講談社]]|date=2012-08-10|isbn=978-4061534490|pages=1–12|ref={{SfnRef|嶋村|2012}} }} |
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* {{Cite book|和書|author=西田治文|authorlink=西田治文|title=化石の植物学 ―時空を旅する自然史|publisher=東京大学出版会|date=2017-06-24|isbn=978-4130602518|ref={{SfnRef|西田|2017}} }} |
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* {{Cite book|和書|author=沼田真|authorlink=沼田真 |title=生態学辞典 増補改訂版|publisher=[[築地書館]]|date=198307-20|origdate=1974-12-01|isbn=|pages=|ref={{SfnRef|沼田|1983}} }} |
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2023年7月25日 (火) 19:49時点における版
コケ植物 | ||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||
学名 | ||||||||||||||||||
Bryobiotina Doweld (2001)[2] | ||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||
門 | ||||||||||||||||||
コケ植物(コケしょくぶつ、英: bryophyte)とは、維管束を持たず、胞子散布を行う、単相(n)で有性の配偶体世代が優先する陸上植物の一群である[4][5]。コケ類[4](コケるい)や蘚苔類[4](せんたいるい)、蘚苔植物[6](せんたいしょくぶつ)などともいう。日本では1665種程度[6]、世界中でおよそ2万種ほどが記録されている[7]。植物体(配偶体の本体)は、その形態により、葉と茎の区別がはっきりとした茎葉体および、区別が曖昧な葉状体に分けられる[8]。
コケ植物は蘚類・苔類・ツノゴケ類の3群に大別される[5]。初期の形態形質や化学成分を利用した古典的研究では単系統群であると考えられており[9]、コケ植物門と門の階級に置かれた[10]。その後分岐学的解析が進み、分岐順は諸説あったものの、維管束植物 Tracheophyta(または多胞子嚢植物 Polysporangiomorpha[注釈 1])の側系統群と考えられることが一般的になったため[9]、3群が独立した門に置かれることが多くなった[11]。初期の分子系統解析においてもその結果が支持されてきたが[9][12]、陸上植物は分類群ごとにGCの割合が偏っていることが分かっており、間違った推定がなされていたと考えられている[12]。データセットを増やした解析では、3群が再び単系統群としてまとまり、残りの現生陸上植物(維管束植物)と姉妹群をなすことが明らかになった[13][14]。そのため、再びコケ植物をコケ植物門として扱う考えも提唱されている[3]。
なお、「コケ」という日本語は元来、花を咲かさない小さな植物の総称であり、地衣類や藻類、藍藻類など(葉状植物 thallophyte[15])、時にはシダ植物や被子植物に対しても用いられる[6]。文化的側面については苔を参照。
生活環
陸上植物は単相世代(多細胞配偶体)と複相世代(多細胞胞子体)の世代交代を行う、単複相世代交代型(haplodiplontic)の生活環を持っている[7][16]。コケ植物の場合、核相は単相(n)の配偶体が優占し、複相(2n)の胞子体はこれに半寄生する[7][17][18]。
配偶体世代
コケ植物の配偶体は胞子が発芽してできた原糸体と、それが分化してできた配偶体の本体からなる。配偶体の本体は、種によって茎と葉の分化が明瞭な茎葉体(けいようたい、phyllid gametophore[19])もしくは明瞭でない葉状体(ようじょうたい、thalloid gametophore[19])の場合がある[8]。茎葉体は全ての蘚類と苔類の一部がもち、葉状体は残りの苔類と全てのツノゴケ類が持っている[8]。原糸体・茎葉体・葉状体いずれの体制であっても、維管束は分化しないが、蘚類の茎葉体にはハイドロームやレプトームと呼ばれる通導組織が分化することもある[20][21]。
まず単相(n)の胞子体から胞子が放出されて発芽し、原糸体(げんしたい、protonema)と呼ばれる配偶体(2n)を形成する[22][23][24][25]。蘚類の原糸体は、はじめ糸状の葉緑体をもつクロロネマ(chrolonema, feeding filament)[24]になり、クロロネマはカウロネマ(caulonema, foraging filament)に分化する[26]。カウロネマは分枝して、配偶体の本体(gametophore、茎葉体または葉状体)を分化する[19]。蘚類の一部は、永存性の原糸体を持つものがある[27]。苔類やツノゴケ類では、蘚類よりも発達が悪く、多くは細胞の塊となり、糸状のものでも枝分かれがほとんど見られない[27]。葉状性の苔類の原糸体ははじめ2–7細胞の短い糸状で、その上に数から数十細胞の発芽板を生じ、その上に分化した頂端細胞から葉状体ができる[27]。茎葉性の苔類では、まず糸状か塊状の原糸体ができ、細胞上に分化した頂端細胞から茎葉体ができる[27]。
配偶体がある程度成長すると、その上に造卵器と造精器が形成され、それぞれ卵細胞と精子をつくる。雨などによって水に触れた時に、精子が泳ぎだし、造卵器の中で卵細胞と受精し受精卵(接合子)がつくられる。受精卵はその場で発生を始め、配偶体に栄養を依存する半寄生生活の状態で発達し、胞子体を形成する。
コケ植物の雌雄性は複雑であり、雌雄異株(しゆういしゅ、dioicous)のものと雌雄同株(しゆうどうしゅ、monoicous)のものとがみられる[28]。雄植物と雌植物がはっきり分かれている雌雄異株では、1個体に造卵器だけを付ける雌と1個体に造精器を付ける雄が区別される[28]。雌雄異株では普通雌雄のサイズはほぼ等大か、雌植物がやや大きい程度であるが、一部の種では雄個体の方が明らかに小形となる[28]。蘚類のフクラゴケ Eumyurium sinicum などでは雌植物の上に矮雄が着生する[28]。雌雄同株では、造卵器と造精器が同一個体上にできるが、その位置により複数の型が区別される[28]。雌雄同苞の雌雄同株(synoicous)では、造卵器と造精器が同一苞葉中に混生し、蘚類の多くの種に見られる[28]。異苞の雌雄同株(autoicous)では、1個体上の別々の苞葉にそれぞれ造精器と造卵器のみが包まれ、蘚類と苔類の多くの種に見られる[28]。雌雄列立同株(しゆうれつりついしゅ、paroicous)では、造卵器と造精器が近接するが、造精器が雌苞葉のすぐ下にできて混じらない[28]。苔類の多くの科と蘚類のスギゴケ科などの一部に見られる[28]。
繁殖は、胞子によるもののほか、無性生殖として植物体の匍匐枝や脱落した葉より不定芽を出しての増殖を行う[29]。無性生殖のために分化した器官である無性芽を作るものも知られて、蘚類や苔類で多くの型がある[29][30]。ゼニゴケ類では、葉状体上に杯状体(はいじょうたい、cupule)と呼ばれる無性芽器を形成する[31]。
胞子体世代
胞子体は配偶体の2倍の遺伝子セットを持っているが、配偶体とは大きく形が異なっている[32]。コケ植物の胞子体は分枝せず、先端に単一の胞子嚢(sporangium)を形成するとそれで成長を終了する[33][34][注釈 2]。特にコケ植物の胞子嚢は蒴(さく、capsule)と呼ばれる[35]。蒴の内部では減数分裂が行われ、単相の胞子が形成される[36]。
ヒメツリガネゴケの胞子体ではクラス2 KNOX遺伝子が機能しており、これをノックアウトすると胞子体の発生が抑制され、配偶体になる[32]。また、重複してできていた遺伝子のもう一方のクラス2 KNOX遺伝子は胞子体分裂組織の形成と維持に関与し、体制形成を調節している[32]。
系統関係
Puttick et al. (2018) による分子系統解析の結果、遺伝子ごとに系統推定を行いその結果を統合するコアレセント法および、全ての遺伝子の配列を繋げて解析を行うコンカテネイト法による様々な系統樹で、次のトポロジーを示すことが分かった[13][14]。
陸上植物 |
| ||||||||||||||||||
Embryophyta |
なお、これ以前にも Nishiyama et al. (2004) の葉緑体ゲノムを用いた系統解析や、Cox et al. (2014) の葉緑体の蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物を用いた系統解析でも同様の結果が得られていた。また、その後の Sousa et al. (2018)、Li et al. (2020)、Harris et al. (2020) や Su et al. (2021) などの研究でもこれが正しいことが追認されている。
以前の系統推定
これまでには、コケ植物が側系統となる様々なトポロジーの系統樹が提唱されてきた。そのうち、2012年から2017年頃までは Chang & Graham (2011) による苔類が最基部で分岐して残りの群と姉妹群をなし、その中でもツノゴケ類と維管束植物が姉妹群をなして冠群を構成するとする考えが最もよく受け入れられてきた[38][39]。
苔類最基部・ツノゴケ類-維管束植物姉妹群説 | 苔類最基部・蘚類-維管束植物姉妹群説 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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Qiu et al. (2006) Qiu (2008) Chang & Graham (2011) |
Mishler & Churchill (1984) Bremer et al. (1987) Karol et al. (2001) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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苔類最基部・ツノゴケ類-蘚類姉妹群説 | ツノゴケ類最基部・蘚類-苔類姉妹群説 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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Chang & Graham (2011) Fiz-Palacios et al. (2011) |
Wickett et al. (2014) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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分類史
かつて、リンネの24綱分類ではシダやキノコ、海藻などとともに「隠花植物綱 Cryptogamia」に含められた[15]。その後のアイヒラーの分類体系 (1883) においても、現在の種子植物を表す顕花植物に対置された隠花植物に、菌類と藻類からなる葉状植物 Thallophytaおよびシダ植物 Pteridophyta とともに含められた[15]。アイヒラーの分類体系では、コケ植物は苔類 Hepaticae と蘚類 Musci の2綱が区別された[41][42]。ギルバート・モーガン・スミスは1938年、隠花植物についての教科書を出版し、そこで用いられた分類体系は Smith system として知られている。この少し前からツノゴケ類が苔類と区別されるようになり、スミスの分類体系 (1955) や Proskauer (1957) では、コケ植物門 division Bryophyta は苔綱 Hepaticae、ツノゴケ綱 Anthocerotae、蘚綱 Musci の3つの綱に分けられた[43]。今日でもコケ植物はその3系統に分けられている。
なお、コケ植物の造卵器はシダ植物の造卵器とよく似ているため、アドルフ・エングラーの植物分類体系などでは合わせて造卵器植物 Archegoniatae に含められた[6][44]。
植物の学名は国際藻類・菌類・植物命名規約 (ICN, 2018) に基づいて規制されている。ICNでは学名の正式発表の日付についてその出発点を定めているが、コケ植物では分類群によって出発点となる日付が異なる[45]。ミズゴケ科を除く蘚類については、Hedwig (1801) Species muscorum frondosorum に基づき、1801年1月1日をその出発点と定めている[45]。また、ミズゴケ科、およびツノゴケ類を含む苔類については Linnaeus (1753) Species plantarum ed. 1 に基づき、1753年5月1日を出発点として定められている[45]。ただし、属よりも上位の階級の分類群については、Jussieu (1789) Genera plantarum に基づき、1789年8月4日がその出発点とされる[45]。また、化石植物に関しては他の植物と同様に1820年12月31日が出発点とされる[46]。なお、は Sternberg の Flora der Vorwelt, Versuch 1: 1–24, t. 1–13. に基づいており、Schlotheim (1820) Petrefactenkunde はそれ以前に発表されたとみなされる[46]。
下位分類
近年の分類体系では、コケ植物が側系統であると考えられていたことを反映し、コケ植物に含まれる蘚類、苔類、ツノゴケ類のそれぞれを門の階級に置く分類が用いられてきた[3][47]。例えば、Kenrick & Crane (1997)、Goffinet & Shaw (2008)、樋口 (2012)、海老原, 嶋村 & 田村 (2012)、Glime (2017) などが挙げられる。
Bryophyta Schimp. (1879) という学名がコケ植物全体に対しても、蘚類に対しても用いられてきたため、階級語尾を付した学名は扱いづらい。そのため、 Brent Mishler (2010) などは階級語尾を持たない伝統的な学名を好み、蘚類には Musci、苔類には Hepaticae、そしてツノゴケ類には Anthocerotae を用いた[48]。
コケ植物門
Sousa et al. (2018) では、コケ植物の単系統性が明らかになった今、蘚類、苔類、ツノゴケ類を以前のように綱に降格すべきであると論じた[3]。この場合、コケ植物の内部系統とその階級は以下のようになる[3]。
- コケ植物門 division Bryophyta Schimp. (1879)
- ツノゴケ綱 class Anthocerotopsida
- 苔綱 class Marchantiopsida
- 蘚綱 class Bryopsida
3群を門とする場合
以下は Goffinet & Shaw (2008) を基にした樋口 (2012)、かつ Crandall-Stotler et al. (2009)(苔類)、Goffinet et al. (2008)(蘚類)および Renzaglia et al. (2008)(ツノゴケ類)を基にした 海老原, 嶋村 & 田村 (2012) に基づく。3門をまとめたコケ植物に階級を与える場合、亜界に置き Bryobiotina とすることもある[47]。
- タイ植物門(苔類)Marchantiophyta Stotler & Crand.-Stotl.
- コマチゴケ綱 Haplomitriopsida Stotler & Crand.-Stotl.
- コマチゴケ亜綱 Treubiidae Stotler & Crand.-Stotl.
- トロイブゴケ亜綱 Haplomitriidae Stotler & Crand.-Stotl.
- ゼニゴケ綱 Marchantiopsida Cronquist, Takht. & W.Zimm
- ウスバゼニゴケ亜綱 Blasiidae He-Nygrén, Juslén, Ahonen, Glenny & Piippo
- ゼニゴケ亜綱 Marchantiidae Engl.
- ツボミゴケ綱[49](ウロコゴケ綱[49]) Jungermanniopsida Stotler & Crand.-Stotl.
- ミズゼニゴケ亜綱 Pelliidae He-Nygrén, Juslén, Ahonen, Glenny & Piippo
- フタマタゴケ亜綱 Metzgeriidae Barthol.-Began
- ツボミゴケ亜綱[49](ウロコゴケ亜綱[49]) Jungermannidae Engl.
- コマチゴケ綱 Haplomitriopsida Stotler & Crand.-Stotl.
- セン植物門(蘚類) Bryophyta Schimp.
- subdivision Takakiophytina Stech & W. Frey (Superclass I sensu Goffinet & Shaw 2008)
- ナンジャモンジャゴケ綱 Takakiopsida Stech & W.Frey
- subdivision Sphagnophytina Doweld (Superclass II sensu Goffinet & Shaw 2008)
- ミズゴケ綱 Sphagnopsida Ochyra
- subdivision Andreaeophytina Goffinet, Buck & Shaw (Superclass III sensu Goffinet & Shaw 2008)[50]
- クロゴケ綱 Andreaeopsida J.H.Schaffn.
- subdivision Andreaeobryophytina Goffinet, Buck & Shaw (Superclass IV sensu Goffinet & Shaw 2008)[50]
- クロマゴケ綱 Andreaeobryopsida Goffinet & W.R.Buck
- subdivision Bryophytina Engl. (Superclass V sensu Goffinet & Shaw 2008)[51]
- イシズチゴケ綱 Oedipodiopsida Goffinet & W.R.Buck
- スギゴケ綱 Polytrichopsida Doweld
- ヨツバゴケ綱 Tetraphidopsida Goffinet & W.R.Buck
- マゴケ綱 Bryopsida Rothm.
- キセルゴケ亜綱 Buxbaumiidae Doweld
- イクビゴケ亜綱 Diphysciidae Ochyra
- クサスギゴケ亜綱 Timmiidae Ochyra
- ヒョウタンゴケ亜綱 Funariidae Ochyra
- シッポゴケ亜綱 Dicranida Doweld
- マゴケ亜綱 Bryidae Engl.
- subdivision Takakiophytina Stech & W. Frey (Superclass I sensu Goffinet & Shaw 2008)
- ツノゴケ植物門(ツノゴケ類) Anthocerotophyta Rothm. ex. Stotler & Crand.-Stotl.
- スジツノゴケ綱[52](レイオスポロケロス綱[53]) Leiosporocerotopsida Stotler & Crand.-Stotl.
- ツノゴケ綱 Anthocerotopsida Jancz. ex. Stotler & Crand.-Stotl.
- ツノゴケ亜綱 Anthocerotidae Rosenv. corr. Prosk. emend. Duff et al.
- ツノゴケモドキ亜綱 Notothylatidae Duff, J.C.Villarreal, Cargill & Renzaglia
- キノボリツノゴケ亜綱 Dndrocerotidae Duff, J.C.Villarreal, Cargill & Renzaglia
形態
全てのコケ植物が持つ共有派生形質は胞子体が退縮し、配偶体に半寄生することである[18][9]。
また、全てではないものの、複数の群にわたって共有している形質がある。ツノゴケ類と蘚類では植物体の端部以外にも介在分裂組織と呼ばれる分裂組織ができ、苔類にはないものの、最節約的にはコケ植物の共通祖先で獲得されたと考えられる共有派生形質である[54]。介在分裂組織は胞子嚢とあしとの間の柄に形成され、胞子嚢を造卵器の上方に押し出すように分裂を行っている[54]。コケ植物以外でも、トクサ類の節や裸子植物ウェルウィッチアの葉基部、単子葉植物の茎の節や葉の基部にも介在分裂組織は見られ、陸上植物の共通祖先で獲得したとも考えられる[54]。
苔類とツノゴケ類は弾糸(だんし、elater)を持っており、胞子形成細胞が体細胞分裂することで胞子母細胞とともに弾糸細胞が形成される[55][56][31]。ツノゴケ類は基部で分岐し、苔類も持っていることから、コケ植物の共有派生形質だと考えられるが[55]、派生的な群であるキノボリツノゴケ属およびアナナシツノゴケ属といったキノボリツノゴケ科を除くツノゴケ類は螺旋状肥厚を持たない偽弾糸であり[54][57][58]、コケ植物の共通祖先は弾糸を持たず、苔類の共通祖先とキノボリツノゴケ属で平行進化したとも推定される[54]。
有柄胞子体植物として姉妹群をなす蘚類と苔類は類似した特有の鞭毛装置を形成する[59]。
他の形質についてはそれぞれの群で同じ形質も異なる形質も持っている。以下、主に嶋村 (2012:3) に基づき、3群の形態を比較する。
形質 | 苔類 | 蘚類 | ツノゴケ類 | ||
---|---|---|---|---|---|
配偶体の形態 | 原糸体 | 葉状・塊状 | 糸状(マゴケ綱) 葉状・リボン状・箆状など(ほか) |
葉状・塊状 | |
植物体 | 茎葉体・葉状体 | 茎葉体 | 葉状体 | ||
仮根 | 単細胞 なし(コマチゴケ綱) |
多細胞で分枝する なし(ナンジャモンジャゴケ綱) |
単細胞 | ||
茎葉体の葉 | 葉序 | 左右相称 | 螺旋葉序・対生・1/3葉序 | 葉なし | |
葉原基 | 2細胞起源 1細胞起源(コマチゴケ綱) |
1細胞起源 | |||
葉の形 | 普通、2裂から多裂 | 普通尖り、深裂しない | |||
中肋 | なし | 普通あり | |||
造卵器 | 形態 | 頸細胞は4–6列 | 頸細胞は6列 | ||
形成位置 | 頂生/非頂生 | 頂生 | 非頂生(葉状体内に埋没) | ||
共生藻 | ウスバゼニゴケ科のみ持つ | なし | 全ての種が持つ | ||
胞子体の形態 | 帽 | なし | あり | なし | |
蒴歯 | なし | あり(スギゴケ綱・ヨツバゴケ綱・マゴケ綱) なし(ほか) |
なし | ||
減数分裂の同調 | あり | なし | |||
気孔 | なし | あり | |||
軸柱 | なし | あり | |||
弾糸 | 全ての種が持つ | なし | 弾糸(キノボリツノゴケ類[55]) 偽弾糸[注釈 3](ほか) | ||
蒴柄 | 減数分裂後に伸長[56] | 減数分裂前に伸長[56] 持たない(ミズゴケ綱・クロゴケ綱) |
なし | ||
細胞の形態 | 受精卵の最初の分裂軸 | 縦方向 | 横方向 | ||
細胞のトリゴン・油体 | あり | なし | |||
葉緑体数 | 多数 | 多数 | 1–2個 多数(アナナシツノゴケ属など) | ||
ピレノイド | なし | あり | |||
紡錘体の形成開始位置 | 極形成体 | 分散型 | 葉緑体表面 | ||
精子の鞭毛基部 | 前後にずれて配置 | 左右対称に配置 | |||
頂端幹細胞 | 3面切出し(コマチゴケ綱・ツボミゴケ綱)[59] 4面切出し(葉状性苔類)[59] |
3面切出し[59] | 4面切出し[59] 3面切出し(キノボリツノゴケ属)[59] |
ツノゴケ類の形態
ツノゴケ類では、葉状体から柄と胞子嚢の境界が外形ではわからないツノ状の胞子体をもつ[60]。これは、介在分裂組織の分裂活性が蘚類よりも長く続き、同じ太さの組織が形成されるためである[60]。また、細胞内に葉緑体を1–2個しか持たない単色素体性で、葉緑体に藻類とツノゴケ類にしか見られないピレノイドを持つことが大きな特徴である[59][56]。葉状体内にはシアノバクテリアが共生している[61]。
また、陸上植物の中でツノゴケ類の造精器の形態は特異である[60]。ほとんどの現生陸上植物では、造精器嚢の最外層の細胞は外界と接しており、前維管束植物でも造精器は組織の上に突出していたが、ツノゴケ類の造精器は周りの組織中に形成される[60]。造卵器も他の陸上植物とは異なり、頸の最先端の細胞が表皮細胞上に突出しない[60]。
苔類の形態
苔類の共有派生形質は葉身細胞中に油体(ゆたい、oil body)と呼ばれる、膜で包まれた細胞小器官を持つことであり、他の陸上植物には見られない[62][63]。
苔類の配偶体は茎葉体であることも葉状体であることもあり、伝統的に、茎葉性苔類と葉状性苔類の2つの群が区別されてきた[64]。また、葉状性の苔類には葉状体内部に気室などの組織分化がみられる複雑葉状性苔類と、組織分化が少ない単純葉状性苔類が細分されてきた[64]。しかし分子系統解析によりこれらの群は系統を反映していないことが明らかになり、現在ではコマチゴケ綱、ゼニゴケ綱、ツボミゴケ綱の3群に再編されている[64][65]。茎葉性苔類と単純葉状性苔類は1つのクレードにまとまり、茎葉性苔類の中から複数回、単純葉状性への体制の進化が起こったことが分かっている[61]。コマチゴケ綱は茎葉性を持ち、中でもトロイブゴケ亜綱(トロイブゴケ科からなる単型亜綱)は茎葉体と葉状体の中間的な形態を持つ[65]。ゼニゴケ綱は葉状体のみからなる群である[65]。中でも複雑葉状性の体制が典型的であるが、2種からなるウスバゼニゴケ亜綱では例外的に単純葉状性の体制を持つ[66]。苔類の大半を含むツボミゴケ綱は直立する茎葉性や匍匐する茎葉性、単純葉状性など多様な形態を持つ[66]。うちツボミゴケ亜綱は茎葉性の体制がほとんどであるが、ミズゼニゴケ亜綱およびフタマタゴケ亜綱は単純葉状性を持つものが多い[66]。
最基部で分岐したコマチゴケ綱は、造卵器や造精器を保護する葉的器官や、仮根を形成せず、葉を付けない根茎で基物に取り付く[65]。こういった形質は原始的な形態であると考えられている[65]。苔類の共通祖先がコマチゴケ綱のような茎葉性であったとすると、葉状性苔類は茎葉性苔類から進化したことになる[62]。葉状性苔類の腹側にある鱗片は茎葉体の葉と同様の発生過程によって生じるため、葉が縮小したものであると考えられる[62]。
蘚類の形態
蘚類は全てが茎葉性の体制を持ち[8][67]、多くは螺旋状に葉 (phyllid[19]) をつける[8]。また、仮根は多細胞で分枝する[67]。
蘚類のほとんどはマゴケ綱に含まれ、残りの群は蘚類の進化の初期に分岐した遺存的な分類群であると考えられている[68]。多くの群は蒴の頂端に蓋(蒴蓋)が分化しており、蒴から蓋が分離すると蒴の開口部の内側に細長い歯状の構造物である蒴歯(さくし、peristome)が並ぶ[69][31]。蘚類は胞子体の蒴歯の構造により、無関節蒴歯蘚類と有関節蒴歯蘚類に大別される[11]。有関節蒴歯蘚類は単系統群であるが、無関節蒴歯蘚類は側系統となる[11]。スギゴケ綱は無関節蒴歯(むかんせつさくし、nematodontous peristome)を、マゴケ綱は有関節蒴歯(ゆうかんせつさくし、arthrodontous peristome)を持ち、それらと蒴歯を持たないイシヅチゴケ Oedipodium griffithianum 1種からなるイシヅチゴケ綱が姉妹群となる[70]。
2種からなるナンジャモンジャゴケ綱は葉が棒状で、葉を付けない根茎状シュートを持ち、仮根を形成しない[68]。また造卵器と造精器が裸出し、胞子嚢が斜めに裂開することも他の蘚類と異なる形質であり、かつては苔類とも考えられていた[68]。ミズゴケ綱およびクロゴケ綱は蒴柄がなく、配偶体組織が伸長した偽柄(ぎへい、または偽足、pseudopodium)によって胞子体が持ち上げられる[68][71]。クロマゴケ綱はクロゴケ綱とよく似るが、蒴柄を持つ[68]。
生育環境
コケ植物は海水中および氷雪上以外の、地球上のあらゆる表層に生息している[6][72]。基本的には陸上生活をするが、少ないながら淡水中に生育するものもいる。生育する基質としては、土や腐植土、岩上、他の植物体(樹皮、葉の表面、樹枝)などが多い[67]。
温帯および熱帯の各地において、様々な環境で種多様性の程度に大きな差異がないことが分かっている[72]。少なくともコケ植物では熱帯に種多様性が偏在しておらず、コケ植物は "Everything is everywhere"「あらゆるものがあらゆるところにいる」 であると評される[72]。また、同じ地域でも高山と低山では種構成が大きく異なる[67]。高山におけるコケ植物の生育限界線をコケ線(moss-line)という[73]。乾燥への適応を持つ種もあり、苛烈な環境を好む種も知られている[72]。
蘚類および苔類は植物群落内の地表面のごく近くに蘚苔層[74](または コケ層[75]、moss layer[74][75])を作る[74]。やや多湿の森林の最下層や水湿地などに発達し[75]、リターが厚く積もらない岩上や倒木上に形成され、樹木の実生が定着する場となる[74]。地表付近を生活の場とする昆虫類など小動物に富む[74]。
森林に生活する種が多いが、岩場や渓流、滝の周辺などにも多くの種が見られる。特に年中空中湿度の高い雲霧林には、林床だけでなく樹幹や枝にまで大量のコケが着生する例があり、蘚苔林[75](または コケ林[76][75]、mossy forest[76][75], moss forest[77][75])とも呼ばれる[75]。畑地にはハタケゴケ Riccia bifruca、水田など淡水中にもそれぞれイチョウウキゴケ Ricciocarpus natans およびウキゴケ(カズノゴケ)Riccia fluitans など独特のものが見られ[78]、市街地でもいくつかの種が生育している。例えば、ヒジキゴケ Hedwigia ciliata は石垣などの岩上に直接生える[72]。
ミズゴケ類などのコケ植物が多く生育する湿性草原はコケ湿原(moss moor)と呼ばれる[73]。特にミズゴケ類が豊富に繁茂する湿原をミズゴケ湿原(Sphagnum bog[79][80], Sphagnum moor[79], sphagniherbosa[80])といい、その中でも地下水ではなく雨水によるものを Sphagnoplatum という[79]。また、カナダの森林内にあるミズゴケ湿原は muskey と呼ばれる[79]。ミズゴケ類は泥炭地沼、高層湿原に多く生息し、多量の水分を蓄えるため乾燥にも耐え得る[79]。高層湿原の土壌は腐植酸や不飽和コロイドにより酸性化しており、水酸化物イオンを嫌うミズゴケ類が中央部によく生育するため、泥炭化が進んで盛り上がることで高層となる[80]。また、北極圏のツンドラ地帯は広大な地域がコケ植物と地衣類に覆われており、やや湿った場所にコケツンドラ(moss-tundra, moss heath)が発達する[67][75]。ミズゴケ類はその優占種となる[75]。
非常に特殊な生育環境の種も存在し、被子植物や大葉シダ植物の葉上にはカビゴケ Leptolejeunea elliptica やヨウジョウゴケ Cololejeunea goebelii のような生葉上苔類(せいようじょうたいるい、epiphyllous liverworts)が生育する[72][81]。マルダイゴケ Tetraplodon mnioides などは動物の糞や死体にのみ生育する糞生種である[72]。ホソモンジゴケ Scopelophila cataractae は高い耐銅性を示す[72]。また、淡水中に生育する種の中には、ナシゴケ属 Leptobryum のように南極の湖底に生息しコケ坊主(コケボウズ、moss pillars)を形成するものもある[72][82][83]。
進化と化石記録
コケ植物の化石記録は非常に少なく、限られている[84][85]。これまで報告されている化石記録の多くは、胞子化石や表皮の断片であり、植物体全体がそのまま保存されていることは少ない[84]。これはコケ植物が当時存在していなかったからではなく、リグニンを持たない軟らかい体で、化石として保存されにくいためであると考えられている[84]。オルドビス紀やシルル紀の地層から見つかる胞子化石は系統が不明な点も多いが、四集粒胞子 permannt tetrad の存在は減数分裂を伴った世代交代を行う陸上植物の存在を示唆している[84]。
従来、苔類が陸上植物の最基部で分岐したのではないかと推定されており、基部系統は共通祖先に似た形質を持っている可能性があるため、陸上植物の共通祖先は苔類様の植物だと考えられてきた[85]。また、陸上植物の進化において細胞壁が二次肥厚する仮道管および道管の獲得や分枝する胞子体の獲得が重要であったと考えられており、コケ植物はそれらを持っていないことからもその仮説の証拠となっていた[85]。しかし、前維管束植物は仮道管ではなくハイドロームを持っているため、これが陸上植物の共通祖先だと考えられることもある[85]。ただし、現生のコケ植物と形態的に類似していない化石は真のコケ植物であってもコケ植物として認識されていな可能性が高い[84]。
コケ植物の化石は小葉植物や大葉シダ植物の祖先群よりも後の時代の地層から見つかっていることもあり、最初の陸上植物は二又分枝する胞子体からなるシダ植物段階のテローム植物で、コケ植物の単純な体制はその退化によって生じたものであるとする退行進化仮説が提唱されている[86][87]。モデル植物である蘚類のヒメツリガネゴケにおいて、クロマチン修飾を担うポリコーム抑制複合体2の構成蛋白質をコードする pPCLF 遺伝子を欠失させると胞子体幹細胞の寿命が長くなり分枝する胞子体を形成することはこの仮説と調和的である[87]。
コケ植物の可能性がある最古の大型化石は、約4億2000万年前のトルチリカウリス Tortilicaulis transwalliensis D.Edwards (1979) で、胞子嚢が柄についたコケのような植物である[87]。しかし、コケ植物とは異なり胞子体が同等二又分枝を行うため、Kenrick & Crane (1997) の分岐系統解析からは前維管束植物であると考えられている[87]。
確実な大型化石の一つに後期デボン紀の苔類、パラビキニテス Pallaviciniites (syn. Hepaticites) がある[88]。現在では、最古の苔類は中期デボン紀の地層から見つかっているツボミゴケ綱の Metzgeriothallus sharonae Hernick, Landing & Bartowski (2008) であるとされる[89]。はっきりと現在のコケ植物と断定できる化石はシルル紀から見つかっており、現生の葉状性苔類と基本的に類似した構造が備わっている[84]。
前期デボン紀の約4億1000万年前の地層からは、扁平な組織から分枝しない胞子体が多数生えたスポロゴニテス Sporogonites exuberans Halle (1916) が見つかっており、仮道管が見つからず、胞子嚢が胞子体先端に形成され、軸柱の周りに胞子ができる[87]。それらの特徴は蘚類と比較され、蘚類の系統ではないかと考えられている[87]。
琥珀中に見つかる新生代以降の化石はほぼすべてが現生属に分類可能で、現生種そのものに比定できるものすらある[84]。このことは、コケ植物の形態分化の速度が見かけ上非常に遅いことを示唆する[84]。
利用
コケ植物が実用的に用いられる例としては、圧倒的にミズゴケ類が重要である。日本ではその分布が多くないが、ヨーロッパではごく普通にあり、生きたものは園芸用の培養土としてほとんど他に換えがない。他に乾燥させて荷作りの詰め物とし、またかつては脱脂綿代わりにも使われた。またそれが枯死して炭化したものは泥炭と呼ばれ、燃料などとしても利用された。
日本
日本には1665種程度のコケ植物が分布しており[6]、そのうち200種以上が絶滅の危機に瀕しているといわれている[90]。日本では庭園や鉢植えに利用される。日本では、古くより蘚苔類は身近なものであり、多くの和歌の中で詠われている。現在、ミズゴケ類やシラガゴケ類、スギゴケ類、ツルゴケ、ハイゴケなど多数のコケ植物が園芸用・観賞用として栽培、販売されている。
脚注
注釈
出典
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関連項目
外部リンク
- 広島大学デジタル自然史博物館 - コケ植物の基本的情報
- 岡山コケの会
- 国立科学博物館 陸上植物研究グループ
- 服部植物研究所 - ウェイバックマシン(2002年2月15日アーカイブ分)
- きまぐれ生物学 - コケ植物の生物分類表