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「りゅうこつ座」の版間の差分

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'''りゅうこつ座'''(りゅうこつざ、Carina)は、[[星座#国際天文学連合による88星座|現代の88星座]]の1つ。[[18世紀]]半ばに[[トレミーの48星座|プトレマイオスの48星座]]の1つ'''[[アルゴ座]]'''の中に設けられた小区画を起源とする新しい[[星座]]で、船の[[竜骨]]をモチーフとしている{{R|IAU_constellations|Ridpath}}。


&alpha;星の'''[[カノープス]]'''は、全天21の[[等級 (天文)|1等星]]の中で[[おおいぬ座]]の[[シリウス]]に次いで2番目に明るく見える恒星である。&alpha;星以外にも明るい星が多いが、南天の高緯度にあるため、日本など北半球の中緯度地域では星座の北端しか見えない。一方、南半球では[[みなみじゅうじ座]]や[[ケンタウルス座]]と共に代表的な星座となっている。
'''りゅうこつ座'''(りゅうこつざ、竜骨座、Carina)は、南天の[[星座]]の1つ。


== 主な天体 ==
&alpha;星は、全天21の1等星の中で2番目に明るく、'''[[カノープス]]'''と呼ばれる。
&iota;星・&epsilon;星と[[ほ座]]の[[ほ座デルタ星|&delta;星]]と[[ほ座カッパ星|&kappa;星]]を結んでできる十字架形は、[[みなみじゅうじ座|南十字星]]と見誤りやすいため「'''[[ニセ十字|にせ十字]]'''」と呼ばれる{{R|Numazawa2007}}。また、にせ十字とみなみじゅうじ座の間にある、&theta;星と&beta;星を結んだ線分と&upsilon;星と&omega;星を結んだ線分を組み合わせた十字形は「[[ダイヤモンド・クロス]] ({{Lang-en-short|Diamond Cross}})」と呼ばれる{{R|canterbury}}。


[[銀河面]]に近い&theta;星や&eta;星の近辺にある[[星団]]や[[星雲]]は、アマチュア天文家の観測対象とされている{{R|SEDS_Caldwell}}。
&alpha;星カノープス以外にも&beta;星、ニセ十字を構成する星など、明るい星がかなり多いが、南天の比較的高緯度にあるため、西日本で北の端がわずかに見える程度である。一方、南半球では華やかに夜空を彩り、[[みなみじゅうじ座]]や[[ケンタウルス座]]らと共に代表的な星座となっている。


[[ほ座]]の[[ほ座デルタ星|&delta;星]]と[[ほ座カッパ星|&kappa;星]]、りゅうこつ座&iota;星と&epsilon;星を結ぶと十字架の形になるので、これらの星たちは[[みなみじゅうじ座]]と見誤りやすい<ref name="jiten" />。このためこの4星を'''「[[ニセ十字]]」'''と呼ぶ<ref name="jiten" />。またニセ十字とみなみじゅうじ座の間に「Diamond Cross」というアステリズムを有する<ref name="canterbury" />。これは、&theta;星と&beta;星を結んだ縦線と&upsilon;星と&omega;星を結んだ横線を組み合わせたものである{{R|canterbury}}。

== 主な天体 ==
=== 恒星 ===
=== 恒星 ===
{{See also|りゅうこつ座の恒星の一覧}}
{{See also|りゅうこつ座の恒星の一覧}}
1等星の&alpha;星(カノープス)以外に、&beta;星、&epsilon;星、&iota;星の3つの2等星がある。これら4つの恒星には、[[国際天文学連合]]によって正式な固有名が定められている。
1等星の&alpha;星のほか、&beta;星、&epsilon;星、&iota;星の3つの2等星がある。[[2023年]]6月現在、[[国際天文学連合]] (IAU) によって6個の恒星に固有名が認証されている{{R|iaucsn}}
* &alpha;星:[[カノープス]]、りゅうこつ座で最も明る恒星で、全天21の1等星の中でも2番目に明るい恒星([[太陽]]を含めると3番目)<ref name="simbad_alpha" />
* &alpha;星:[[見かけの等級|見かけの明るさ]]-0.74 等[[スペクトル分類|スペクトル型]]A9IIの白色の[[輝巨星]]{{R|simbad_alpha}}。りゅうこつ座で最も明るく見える恒星で、全天21の1等星の中でも2番目に明るく見える。「'''カノープス'''{{R|StellaNavigator11}}(Canopus{{R|iaucsn}})」とう固有名知られる。
* [[りゅうこつ座ベータ星|&beta;星]]:ミアプラキドゥ、りゅうこつ座で2番目に明る恒星。2等星の中では最も天の南極に近い位置に見え<ref name="simbad_beta" />
* [[りゅうこつ座ベータ星|&beta;星]]:見かけの明るさ1.69 等、ペクトル型A1IIIの白色の巨星で2等星{{R|simbad_beta}}。りゅうこつ座で2番目に明るく見える恒星。2等星の中では最も天の南極に近い位置に{{R|simbad_beta}}。「'''ミアプラキドゥス'''{{R|StellaNavigator11}}(Miaplacidus{{R|iaucsn}})」という固有名を持つ
* [[りゅうこつ座イプシロン星|&epsilon;星]]:アヴィオーは、ニセ十字を形作る2等<ref name="simbad_epsilon" />
* [[りゅうこつ座イプシロン星|&epsilon;星]]:見かけの明るさ2.01 等でスペクト型K3:IIIのA星と3.85 等でB2VpのB星からなる[[二重星]]{{R|CCDM_epsitlon|simbad_epsilon}}。にせ十字を形作る星の1つで、1930年代に名付けられた{{R|Sadler}}「'''アヴィオール'''{{R|StellaNavigator11}}(Avior{{R|iaucsn}})」という固有名を持つ
* [[りゅうこつ座イオタ星|&iota;星]]:ピディスケはニセ十字を形作る2等<ref name="simbad_iota" />
* [[りゅうこつ座イオタ星|&iota;星]]:見かけの明るさ2.26 等、ペクトル型A7Ibの白色超巨星で2等星{{R|simbad_iota}}。にせ十字を形作る星の1つで「'''アスピディスケ'''{{R|StellaNavigator11}}(Aspidiske{{R|iaucsn}})」という固有名を持つ
* [[HD 63765]]:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」で[[ボリビア]]に命名権が与えられ、主星はTapecue、太陽系外惑星はYvagaと命名された{{R|approved}}。
* [[HD 63765]]:太陽系から約106 光年の距離にあるG型主系列星で8等星{{R|simbad_HD63765}}。国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoWorlds」で[[ボリビア]]に命名権が与えられ、主星はTapecue、太陽系外惑星はYvagaと命名された{{R|approved}}。
* [[HD 95086]]:太陽系から約282 光年の距離にある若いA型星{{R|Rameau2013}}で、7等星{{R|simbad_HD95086}}。2013年に太陽系外惑星HD 95086bが発見された{{R|Rameau2013}}。2022年から2023年にかけてIAUが実施したキャンペーン「NameExoWorlds 2022」で[[ギリシャ共和国]]からの提案が採用され、主星はAiolos、太陽系外惑星はLevantesとそれぞれ命名された{{R|approved2022}}。

その他によく知られた恒星として以下のものがある。
その他によく知られた恒星として以下のものがある。
* [[りゅうこつ座イータ星|&eta;星]]:「[[高光度青色変光星]] (LBV, Luminous Blue Variable)」に分類される大質量星{{R|Smith2006}}。観測記録が残る16世紀から21世紀に至るまでその明るさを大きく変化させており、[[天の川銀河]]内で次に[[超新星爆発]]を起こす天体の有力候補の1つとされている{{R|Mohon2020}}。変光星としては「かじき座S型変光星 (SDOR)」に分類され、約5.54年の周期で変光している{{R|AAVSO_eta}}。19世紀半ばには "Great Eruption" と呼ばれる大増光が起こり、ピーク時にはカノープスを凌ぐ-1.0 等まで増光した{{R|Frew2004}}。その後急激に減光し、1870年代には肉眼で観測できなくなった{{R|Frew2004}}が、1950年代から増光が始まり、2010年代後半には4.0 等前後まで増光している{{R|Richardson2018}}。[[太陽]]の100倍以上の質量を持つ超大質量星であると考えられており、直接の証拠は見つかっていないものの、[[恒星風]]の衝突に起因する[[衝撃波]]によって熱せられたガスから放射されるX線の光度変化から、{{Solar_mass|40|link=y}}程度の質量を持つ伴星が存在すると考えられている{{R|Ishibashi2017}}。この連星系を取り囲むように広がる双極性の星雲は、19世紀の Great Eruption で放出されたガスと塵によって生成されたものであり、1944年に初めて観測された際にその姿が人型に見えたことから{{R|Gaviola1950}}「ホムンクルス星雲(人形星雲、{{Lang-en-short|Homunculus Nebula}})」の通称で呼ばれる{{R|Smith2006}}。
* [[りゅうこつ座イータ星|&eta;星]]:[[高光度青色変光星]] (LBV) 。19世紀半ばには-0.8等まで増光した。
* [[りゅうこつ座シータ星|&theta;星]]:太陽系から約427 光年の距離にある、見かけの明るさ2.76 等、スペクトル型B0Vpの主系列星で、3等星{{R|simbad_theta}}。[[散開星団]][[IC 2602]]で最も明るく見える。
* [[りゅうこつ座ウプシロン星|&upsilon;星]]:見かけの明るさ2.99 等の3等星{{R|simbad_upsilon}}。約5[[秒 (角度)|秒]]離れた位置に見える5.99 等のB星{{R|simbad_upsilonB}}とは連星系を成していると考えられている。
* [[りゅうこつ座カイ星|&chi;星]]:見かけの明るさ3.431等、スペクトル型B3IVの準巨星で、3等星{{R|simbad_chi}}。変光星としては脈動変光星の一種の「[[ケフェウス座ベータ型変光星|ケフェウス座&beta;型変光星]] (BCEP)」に分類される{{R|GCVS_chi}}。
* [[りゅうこつ座オメガ星|&omega;星]]:太陽系から約285 光年の距離にある、見かけの明るさ3.33 等、スペクトル型B7IIIの巨星で、3等星{{R|simbad_omega}}。


=== 星団・星雲・銀河 ===
=== 星団・星雲・銀河 ===
* [[NGC 2867]]:太陽系から約7,350 光年の距離にある[[惑星状星雲]]{{R|simbad_NGC2867}}。{{仮リンク|パトリック・ムーア (天文学者)|label=パトリック・ムーア|en|Patrick Moore}}がアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだ[[カルドウェルカタログ|コールドウェルカタログ]]で、90番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。
* [[IC 2602]]:[[散開星団]]。[[りゅうこつ座シータ星|&theta;星]]を含み、南天のプレアデスと呼ばれることもある。
* [[NGC 3532]]:太陽系から約1,620 光年の距離にある[[散開星団]]{{R|simbad_NGC3532}}。願いを込めて投げ込まれたコインが溜まった井戸の底に喩えて「'''願いの井戸星団''' (Wishing Well Cluster)」という呼び名でも知られる{{R|natgeo20121129}}。コールドウェルカタログの91番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。
* [[NGC 3372]](イータカリーナ星雲):[[散光星雲]]。&eta;星のそばにあり、これは肉眼でも見ることができる。
* [[NGC 3372]]:「'''イータカリーナ星雲'''{{R|sorae20220516}} ({{Lang-en-short|Eta Carinae Nebula}})」や「'''カリーナ星雲'''{{R|natgeo20121129}}({{Lang-en-short|Carina Nebula}})」などの通称で知られる[[散光星雲]]。太陽系から約8,500 光年の距離にあり{{R|Kuhn2019}}、肉眼でも見ることができる。内部には星雲の名称となっている&eta;星のほか、{{仮リンク|WR 25|en|WR 25}}や[[HD 93129A|HD 93129]]など天の川銀河の中でも最大級の光度で輝く恒星が存在している。コールドウェルカタログの92番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。

** 鍵穴星雲 ({{Lang-en-short|Keyhole Nebula}}):イータカリーナ星雲の中にある[[暗黒星雲]]で、鍵穴のような形をしていることからこの名前で呼ばれる{{R|AstroArts20000203|spacetelescope20000203}}。
=== その他 ===
** ミスティック・マウンテン:イータカリーナ星雲の中にあるガスと塵からなる柱状の構造{{R|sorae20200530}}。2010年4月に[[ハッブル宇宙望遠鏡]]の打ち上げ20周年を記念して、[[広視野カメラ3]] (Wide Field Camera 3, WFC3) によって撮像された姿に対して命名された{{R|sorae20200530|ESA20100423}}。約3 光年にもわたる柱状構造の内部では星が生成されており、誕生した星や周囲の星からの恒星風で数百万年後には散逸してしまうと考えられている{{R|sorae20200530}}。
* [[GRB 080916C]]:知られている中で最も高エネルギーの[[ガンマ線バースト]]、かつ天文現象。
** NGC 3324:イータカリーナ星雲中の[[星形成|星形成領域]]。2022年7月12日、赤外線宇宙望遠鏡「[[ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡|ジェイムズ・ウェッブ]]」の最初の成果として、NGC 3324の「宇宙の断崖 ({{Lang-en-short|Cosmic Cliffs}})」と呼ばれる領域の撮像が公表された{{R|sorae20220723}}。
* [[NGC 2516]]:太陽系から約1,350 光年の距離にある散開星団{{R|simbad_NGC2516}}。[[かに座]]の[[プレセペ星団]] ({{Lang-en-short|Beehive Cluster}}) と似ていることから「The Southern Beehive Cluster」とも呼ばれる{{R|oneminute20091215}}。コールドウェルカタログの96番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。
* [[IC 2602]]:太陽系から約500 光年の距離にある[[散開星団]]{{R|simbad_IC2602}}。星団で最も明るく見える&theta;星の名を取って Theta Carinae Cluster、また[[おうし座]]の[[プレアデス星団|プレヤデス星団]]と似ていることから「'''南天のプレヤデス'''{{R|Numazawa2007}}({{Lang-en-short|Southern Pleiades}})」とも呼ばれる。コールドウェルカタログの102番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。
{{Gallery
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| NGC 2867.jpg|[[ハッブル宇宙望遠鏡]] (HST) の[[掃天観測用高性能カメラ|ACS/WFC]]の観測データから画像化された[[惑星状星雲]]NGC 2867。
| Eso1439a.jpg|[[チリ]]にある[[ヨーロッパ南天天文台|欧州南天天文台]] (ESO) の[[ラ・シヤ天文台]]のMPG/ESO2.2メートル望遠鏡で撮影された「願いの井戸星団 ({{Lang-en-short|Wishing Well Cluster}})」の通称で知られる[[散開星団]]NGC 3532。
| NGC 3372d.jpg|HSTのACSと[[セロ・トロロ汎米天文台]]のビクター・M・ブランコ4メートル望遠鏡に搭載されたMOSAIC2カメラによる撮像を合成した、イータカリーナ星雲の全景。[[アソシエーション (天文学)#OB型アソシエーション|OBアソシエーション]]の「{{仮リンク|りゅうこつ座OB1|en|Carina OB1}}」に属する星団や極大質量星の位置がマッピングされている。
| Keyhole in the Carina Nebula (eso0905a crop).jpg|ESOのラ・シヤ天文台のMPG/ESO2.2メートル望遠鏡で撮影された[[暗黒星雲]]「鍵穴星雲 ({{Lang-en-short|Keyhole Nebula}})」。
| Mystic mountaindddd.jpg|イータカリーナ星雲内にある、通称「ミスティック・マウンテン{{Lang-en-short|Mysthick Mountain}}」と呼ばれる星生成領域。
| NASA’s Webb Reveals Cosmic Cliffs, Glittering Landscape of Star Birth.jpg|2022年に[[ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡]]の[[ファーストライト]]として公開された、イータカリーナ星雲内にある星生成領域NGC 3324の「宇宙の断崖 ({{Lang-en-short|Cosmic Cliffs}})」と呼ばれる領域の撮像。
| NGC2516 DSS.jpg|The Southern Beehive の通称で知られる散開星団NGC 2516。
| The Southern Pleiades (IC 2602).jpg|「南天のプレヤデス」の通称で知られる散開星団IC 2602。
}}


== 由来と歴史 ==
== 由来と歴史 ==
{{See also|アルゴ座}}
{{See also|アルゴ座}}
りゅうこつ座の原型となったのは、[[古代ギリシア]]の伝承に登場する[[アルゴ船]]をモチーフとした星座[[アルゴ座]]である{{R|Ridpath}}。しかし、現在のりゅうこつ座の領域全てがアルゴ座の一部と見なされるようになったのは18世紀半ばになってから、また独立した星座として扱われるようになったのは19世紀後半からである。
1756年出版の、フランス科学アカデミーの1752年版『紀要』に収められた[[ニコラ・ルイ・ド・ラカーユ]]の星表の中で、[[アルゴ座]]の一部分の名称として ''Corps du Navire'' (船体) と書かれたのが始まりである。ラカーユ死後の1763年に出版された星表 ''Coelum australe stelliferum'' では、''Argûs in carina'' (アルゴの竜骨) とされた。アルゴ座はあまりに巨大すぎたため、[[1922年]]に[[国際天文学連合]]が現在の88星座を定めた際に3つに分割された<ref group="注">ラカーユによって分割された訳ではないので注意。他の2つは[[ほ座]]と[[とも座]]。</ref>。りゅうこつ座は、このアルゴー船の「[[竜骨 (船)|竜骨]]」の部分に相当する<ref name="ridpath" />。


星座としてのアルゴ座は紀元前1000年頃には生まれていたと考えられており、[[紀元前4世紀]]頃の古代ギリシアの天文学者[[エウドクソス|クニドスのエウドクソス]]の著書『ファイノメナ ({{Lang-grc-short|Φαινόμενα}})』に既に名前が登場している{{R|Barentine2015}}。[[2世紀]]頃に[[アレクサンドリア]]で活躍した[[ローマ帝国|帝政ローマ期]]の学者[[クラウディオス・プトレマイオス]]の著書『[[アルマゲスト]]』には、45個の星がアルゴ座に属するとされた。これらプトレマイオスの選んだ星の中には、現代のりゅうこつ座の星は北西端にある&alpha;・&chi;・fの3星しか含まれておらず、&beta;・&epsilon;・&iota;・&theta;・&upsilon;・&omega; などの星は含まれていなかったと考えられている{{R|Takesako2017}}。
ラカーユは、上述の星表の中でアルゴ座の明るい星に[[バイエル符号]]同様のギリシャ文字を割り振った<ref name="ridpath" />。その符号が国際天文学連合による分割後も引き継がれたため、りゅうこつ座には、&alpha;星、&beta;星、&epsilon;星、&eta;星、&theta;星、&iota;星、&upsilon;星、&chi;星、&omega;星があるが、&gamma;星や&delta;星などはない。

[[大航海時代]]以降、南天の観測記録が欧州にもたらされるようになると、アルゴ座の領域は『アルマゲスト』に記されたものから東と南に拡張されていった。[[ドイツ]]の法律家[[ヨハン・バイエル]]が、[[オランダ]]の天文学者[[ペトルス・プランシウス]]や{{仮リンク|ヨドクス・ホンディウス|en|Jodocus Hondius}}が製作した天球儀から南天の星の位置をコピーして製作した全天星図『ウラノメトリア』では、アルゴ座の領域はプトレマイオスが示したものよりも南東方向に拡張された{{R|Bayer1603_a|Bayer1603_b|Bayer1603_c|Takesako2021}}。この拡張により、現代のりゅうこつ座の領域のほぼ全てがアルゴ座の領域とされた{{R|Bayer1603_a|Bayer1603_c|Takesako2021}}。

[[17世紀]]イギリスの天文学者[[エドモンド・ハレー|エドモンド・ハリー]]は、自身の[[セントヘレナ島]]での観測記録を元に製作・出版した南天の星図『Catalogus Stellarum Australium』で、アルゴ座とケンタウルス座の間にあった未所属の星とアルゴ座の南東部の星を用いて、[[チャールズ2世]]に縁のある[[ロイヤルオーク]]をモチーフとした新星座「Robur Carolinum ([[チャールズのかしのき座|チャールズの樫]])」を設けた{{R|Barentine2015|Ridpath_Argo|Ridpath_Robur}}。ハリーが考案したこの新星座には、現在のりゅうこつ座の東側にある &beta;・&eta;・&theta;・&upsilon;・&omega; などの星が含まれていた{{R|Ridpath_Robur}}。しかし、多分に政治的色合いの濃いこの星座は天文学者たちから忌避され、次第に廃れていった{{R|Barentine2015}}。
{{Gallery
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| Uranometria Argo Navis.png|ヨハン・バイエル『ウラノメトリア』(1603年)に描かれたアルゴ座 (Navis)。プランシウスによって、現在のりゅうこつ座の南東側の星々もアルゴ座の一部とされるようになった。
| Halley's Argo and Robur Carolinum.jpg|エドモンド・ハリーの南天星図(1678年)に描かれた星座 Argo と Robur Carolinum。Robur Carolinum には、のちにりゅうこつ座の一部となる恒星が使われていた。
}}
[[File:Lacaille's Argo Navis.jpg|thumb|360px|ニコラ=ルイ・ド・ラカイユ『Coelum australe stelliferum』(1763年)に描かれた Argo Navis(アルゴ船)。ラカイユは、バイエルがマストに見立てた星を用いて Pixi Nautica、のちの[[らしんばん座]]を設けたが、それ以外の部分は1つの星座と見なしていた。]]
現在のほ座の枠組みを初めて設けたのは、18世紀[[フランス]]の天文学者[[ニコラ=ルイ・ド・ラカーユ|ニコラ=ルイ・ド・ラカイユ]]であった{{R|Ridpath}}。ラカイユは、[[1756年]]に出版された[[科学アカデミー (フランス)|フランス科学アカデミー]]の1752年版紀要に寄稿した星表と星図でアルゴ座に以下の改変を加えた{{R|Stoppa|planisphere1756}}{{Sfn|Gould|1879|p=55}}。
# ハリーの Robur Carolinum を廃して、これらの星をアルゴ座の一部分とすることで、アルゴ座を東方向に拡張した{{R|Ridpath_Argo|Barentine2015}}。これにより、現在のりゅうこつ座の領域のほとんどがアルゴ座に復帰した。
# バイエルが「マストの4星」とした部分をアルゴ座から切り離し、新たに航海用コンパスを擬した星座 la Boussole を設定した{{R|Ridpath_Pyxis}}{{efn2|[[19世紀]][[アメリカ]]の天文学者[[ベンジャミン・グールド]]は、著書『Uranometoria Argentina』の中で[[ポンプ座]](la Machine Pneumatique、のちに Antlia Pneumatica)も同じく帆柱の部分を切り取って作られたとしている{{Sfn|Gould|1879|p=55}}。}}。この星座は[[1763年]]の星表ではラテン語化した Pixis Nautica と改名され、のちの[[らしんばん座]] (Pyxis) の元となった。
# バイエルがアルゴ座に付した[[ギリシア文字]]と[[ラテン文字]]の符号を全て廃して、新たにギリシア文字の符号を&alpha;から&omega;まで振り直した{{R|Lacaille}}。
# アルゴ座に、'''Corps du Navire (船体)''' 、Pouppe du Navire (船尾) 、Voilure du Navire (船の帆) の3つに小区画を設けた。これらは、ラカイユの死後1763年に出版された星表『Coelum australe stelliferum』では、それぞれ[[ラテン語]]で '''Argûs in carina(アルゴの竜骨)'''、Argûs in puppi(アルゴの船尾)、Argûs in velis(アルゴの帆) とされた{{R|Lacaille}}。
# Corps du Navire、Pouppe du Navire、Voilure du Navire の星のうちギリシア文字の符号が付されていないものに対しては、小区画ごとにラテン文字の小文字で a、b、c……z 、続いて大文字で A、B、C…… Z と符号を付けた{{R|Stoppa}}{{efn2|ラカイユはバイエルと異なり、 a の代わりに A を用いることはせず、a星を設けた。そのため、とも座・ほ座・りゅうこつ座にはプトレマイオス星座にはない「a星」が存在する{{R|simbad_Pup|simbad_Vel|simbad_Car}}。}}。
ラカイユによるこれらの改変によって生まれた小区画の1つ '''Corps du Navire''' または '''Argûs in carina''' が、りゅうこつ座 (Carina) の原型となった。

ラカイユはプトレマイオスの権威を尊重し、それまでの天文学者らと同じくアルゴ座を1つの星座と見なしていた{{Sfn|Gould|1879|p=55}}{{R|planisphere1763}}。これは19世紀の天文学者らも同様で、19世紀半ばに[[イギリス]]の[[王室天文官]]を務めた[[フランシス・ベイリー]]が編纂した全天星表『The Catalogue of Stars of the British Association for the Advancement of Science』、いわゆる『BAC星表』でも '''Carina''' は独立した星座ではなく、あくまでアルゴ座の小区画 (subdivision) として扱われた{{Sfn|Gould|1879|pp=58-59}}。

巨大なアルゴ座とその中にある小区画、という[[入れ子構造]]に不満を覚える天文学者も少なくなかった。19世紀後半の[[アメリカ]]の天文学者[[ベンジャミン・グールド]]もその一人であった{{Sfn|Gould|1879|p=55}}。[[1879年]]、アルゼンチン国立天文台で台長の職にあったグールドは、南天の観測記録を元に星表『Uranometria Argentina』を刊行した。グールドはこの星表を編纂するにあたって、大き過ぎるが故に不便なことの多いアルゴ座に対して以下の要領で改変することとした{{Sfn|Gould|1879|pp=65-66}}。
# ラカイユが設定したアルゴ座の領域を、'''Carina(りゅうこつ座)'''、Puppis(とも座)、Vela(ほ座)の3つの星座に置き換える。
# ラカイユがアルゴ座の星に付したギリシア文字符号はそのまま残し、分割された3つの星座に新たなギリシア文字符号は付さない。
# ラカイユが Carina、Puppis、Vela の各星座の星に付したラテン文字の符号は、R以降の大文字を除いてそのまま使われる。R以降の大文字は「[[アルゲランダー記法]]」による変光星の命名のために取り置くこととする。
このグールドによる改変によって、りゅうこつ座は独立した星座として扱われるようになった。また、ラカイユがギリシア文字を付した星として &alpha;・&beta;・&epsilon;・&eta;・&iota;・&theta;・&upsilon;・&chi;・&omega; の9個だけがりゅうこつ座の星として残された{{Sfn|Gould|1879|pp=165-168}}。そのため、りゅうこつ座には現在も&gamma;星や&delta;星などは存在しない{{R|Ridpath}}。

[[1922年]]5月に[[ローマ]]で開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が提案された際、ラカイユ以降に「アルゴ座」とされていた領域は、'''Carina'''(りゅうこつ座)、'''Puppis'''(とも座)、'''Vela'''(ほ座)の3つに分割されることが決定され、りゅうこつ座の星座名は '''Carina'''、略称は '''Car''' と正式に定められた{{R|IAU_list}}。

=== 中国 ===
ドイツ人宣教師{{仮リンク|イグナーツ・ケーグラー|en|Ignaz Kögler}}(戴進賢)らが編纂し、[[清|清朝]][[乾隆帝]]治世の[[1752年]]に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、りゅうこつ座の恒星は[[二十八宿]]の[[南方朱雀]]七宿の第一宿「[[井宿]]」、第二宿「[[鬼宿]]」と、[[明|明代]]から新たに設けられた「[[近南極星区|近南極星]]」に配されていた{{Sfn|大崎正次|1987|pp=106-113}}。井宿では、&alpha;星が[[寿老人]]を表す[[星官]]「老人」に充てられた{{R|伊世同1981}}。鬼宿では、&chi;星が星官「天社」に充てられた{{R|伊世同1981}}。近南極星では、s・&eta;・u の3星が星官「海山」に、&epsilon;・&iota;・h・l・&upsilon;・a・c・i の8星が「海石」に、q・p・&theta;・&omega;・&beta;・I の6星が「南船」に、それぞれ充てられていた{{R|伊世同1981}}。

== 呼称と方言 ==
日本では、明治末期には「'''龍骨'''」という訳語が充てられていたことが、[[1910年]](明治43年)2月刊行の[[日本天文学会]]の会報『天文月報』第2巻11号に掲載された「星座名」という記事でうかがい知ることができる{{R|AH191002}}。この訳名は、[[1925年]](大正14年)に初版が刊行された『[[理科年表]]』にも「'''龍骨(りゅうこつ)'''」として引き継がれた{{R|Rika_1925}}。戦後の[[1952年]](昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」{{R|gakujutsu1994}}とした際に、Carina の日本語の学名は「'''りゆうこつ'''」と定められた{{R|AH195210}}。さらに[[1974年]](昭和49年)1月に刊行された『学術用語集(天文学編)』では、現代仮名遣いに改めた「'''りゅうこつ'''」が星座名とされた{{R|gakujutsu1974}}。これ以降は「りゅうこつ」という学名が継続して用いられている。

現代の中国では'''船底座'''{{Sfn|大崎正次|1987|pp=115-118}}と呼ばれている。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
=== 出典 ===
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== 参考文献 ==
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2023年6月22日 (木) 12:27時点における版

りゅうこつ座
Carina
Carina
属格 Carinae
略符 Car
発音 英語発音: [kəˈraɪnə] Carína, 属格:/kəˈraɪniː/[注 1]
象徴 船の竜骨[1]
概略位置:赤経  06h 02m 46.5s -  11h 20m 37.4s[2]
概略位置:赤緯 −50.75°- −75.68°[2]
広さ 494.184平方度[3]34位
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
52
3.0等より明るい恒星数 6
最輝星 カノープス(α Car)(-0.74
メシエ天体 0
隣接する星座 ほ座
とも座
がか座
とびうお座
カメレオン座
はえ座
ケンタウルス座
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りゅうこつ座(りゅうこつざ、Carina)は、現代の88星座の1つ。18世紀半ばにプトレマイオスの48星座の1つアルゴ座の中に設けられた小区画を起源とする新しい星座で、船の竜骨をモチーフとしている[1][4]

α星のカノープスは、全天21の1等星の中でおおいぬ座シリウスに次いで2番目に明るく見える恒星である。α星以外にも明るい星が多いが、南天の高緯度にあるため、日本など北半球の中緯度地域では星座の北端しか見えない。一方、南半球ではみなみじゅうじ座ケンタウルス座と共に代表的な星座となっている。

主な天体

ι星・ε星とほ座δ星κ星を結んでできる十字架形は、南十字星と見誤りやすいため「にせ十字」と呼ばれる[5]。また、にせ十字とみなみじゅうじ座の間にある、θ星とβ星を結んだ線分とυ星とω星を結んだ線分を組み合わせた十字形は「ダイヤモンド・クロス (: Diamond Cross)」と呼ばれる[6]

銀河面に近いθ星やη星の近辺にある星団星雲は、アマチュア天文家の観測対象とされている[7]

恒星

1等星のα星のほか、β星、ε星、ι星の3つの2等星がある。2023年6月現在、国際天文学連合 (IAU) によって6個の恒星に固有名が認証されている[8]

  • α星:見かけの明るさ-0.74 等、スペクトル型A9IIの白色の輝巨星[9]。りゅうこつ座で最も明るく見える恒星で、全天21の1等星の中でも2番目に明るく見える。「カノープス[10](Canopus[8])」という固有名で知られる。
  • β星:見かけの明るさ1.69 等、スペクトル型A1IIIの白色の巨星で、2等星[11]。りゅうこつ座で2番目に明るく見える恒星。2等星の中では最も天の南極に近い位置にある[11]。「ミアプラキドゥス[10](Miaplacidus[8])」という固有名を持つ。
  • ε星:見かけの明るさ2.01 等でスペクトル型K3:IIIのA星と3.85 等でB2VpのB星からなる二重星[12][13]。にせ十字を形作る星の1つで、1930年代に名付けられた[14]アヴィオール[10](Avior[8])」という固有名を持つ。
  • ι星:見かけの明るさ2.26 等、スペクトル型A7Ibの白色超巨星で、2等星[15]。にせ十字を形作る星の1つで「アスピディスケ[10](Aspidiske[8])」という固有名を持つ。
  • HD 63765:太陽系から約106 光年の距離にあるG型主系列星で8等星[16]。国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoWorlds」でボリビアに命名権が与えられ、主星はTapecue、太陽系外惑星はYvagaと命名された[17]
  • HD 95086:太陽系から約282 光年の距離にある若いA型星[18]で、7等星[19]。2013年に太陽系外惑星HD 95086bが発見された[18]。2022年から2023年にかけてIAUが実施したキャンペーン「NameExoWorlds 2022」でギリシャ共和国からの提案が採用され、主星はAiolos、太陽系外惑星はLevantesとそれぞれ命名された[20]

その他によく知られた恒星として以下のものがある。

  • η星:「高光度青色変光星 (LBV, Luminous Blue Variable)」に分類される大質量星[21]。観測記録が残る16世紀から21世紀に至るまでその明るさを大きく変化させており、天の川銀河内で次に超新星爆発を起こす天体の有力候補の1つとされている[22]。変光星としては「かじき座S型変光星 (SDOR)」に分類され、約5.54年の周期で変光している[23]。19世紀半ばには "Great Eruption" と呼ばれる大増光が起こり、ピーク時にはカノープスを凌ぐ-1.0 等まで増光した[24]。その後急激に減光し、1870年代には肉眼で観測できなくなった[24]が、1950年代から増光が始まり、2010年代後半には4.0 等前後まで増光している[25]太陽の100倍以上の質量を持つ超大質量星であると考えられており、直接の証拠は見つかっていないものの、恒星風の衝突に起因する衝撃波によって熱せられたガスから放射されるX線の光度変化から、40 M程度の質量を持つ伴星が存在すると考えられている[26]。この連星系を取り囲むように広がる双極性の星雲は、19世紀の Great Eruption で放出されたガスと塵によって生成されたものであり、1944年に初めて観測された際にその姿が人型に見えたことから[27]「ホムンクルス星雲(人形星雲、: Homunculus Nebula)」の通称で呼ばれる[21]
  • θ星:太陽系から約427 光年の距離にある、見かけの明るさ2.76 等、スペクトル型B0Vpの主系列星で、3等星[28]散開星団IC 2602で最も明るく見える。
  • υ星:見かけの明るさ2.99 等の3等星[29]。約5離れた位置に見える5.99 等のB星[30]とは連星系を成していると考えられている。
  • χ星:見かけの明るさ3.431等、スペクトル型B3IVの準巨星で、3等星[31]。変光星としては脈動変光星の一種の「ケフェウス座β型変光星 (BCEP)」に分類される[32]
  • ω星:太陽系から約285 光年の距離にある、見かけの明るさ3.33 等、スペクトル型B7IIIの巨星で、3等星[33]

星団・星雲・銀河

  • NGC 2867:太陽系から約7,350 光年の距離にある惑星状星雲[34]パトリック・ムーア英語版がアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだコールドウェルカタログで、90番に選ばれている[7]
  • NGC 3532:太陽系から約1,620 光年の距離にある散開星団[35]。願いを込めて投げ込まれたコインが溜まった井戸の底に喩えて「願いの井戸星団 (Wishing Well Cluster)」という呼び名でも知られる[36]。コールドウェルカタログの91番に選ばれている[7]
  • NGC 3372:「イータカリーナ星雲[37] (: Eta Carinae Nebula)」や「カリーナ星雲[36](: Carina Nebula)」などの通称で知られる散光星雲。太陽系から約8,500 光年の距離にあり[38]、肉眼でも見ることができる。内部には星雲の名称となっているη星のほか、WR 25英語版HD 93129など天の川銀河の中でも最大級の光度で輝く恒星が存在している。コールドウェルカタログの92番に選ばれている[7]
    • 鍵穴星雲 (: Keyhole Nebula):イータカリーナ星雲の中にある暗黒星雲で、鍵穴のような形をしていることからこの名前で呼ばれる[39][40]
    • ミスティック・マウンテン:イータカリーナ星雲の中にあるガスと塵からなる柱状の構造[41]。2010年4月にハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げ20周年を記念して、広視野カメラ3 (Wide Field Camera 3, WFC3) によって撮像された姿に対して命名された[41][42]。約3 光年にもわたる柱状構造の内部では星が生成されており、誕生した星や周囲の星からの恒星風で数百万年後には散逸してしまうと考えられている[41]
    • NGC 3324:イータカリーナ星雲中の星形成領域。2022年7月12日、赤外線宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」の最初の成果として、NGC 3324の「宇宙の断崖 (: Cosmic Cliffs)」と呼ばれる領域の撮像が公表された[43]
  • NGC 2516:太陽系から約1,350 光年の距離にある散開星団[44]かに座プレセペ星団 (: Beehive Cluster) と似ていることから「The Southern Beehive Cluster」とも呼ばれる[45]。コールドウェルカタログの96番に選ばれている[7]
  • IC 2602:太陽系から約500 光年の距離にある散開星団[46]。星団で最も明るく見えるθ星の名を取って Theta Carinae Cluster、またおうし座プレヤデス星団と似ていることから「南天のプレヤデス[5](: Southern Pleiades)」とも呼ばれる。コールドウェルカタログの102番に選ばれている[7]

由来と歴史

りゅうこつ座の原型となったのは、古代ギリシアの伝承に登場するアルゴ船をモチーフとした星座アルゴ座である[4]。しかし、現在のりゅうこつ座の領域全てがアルゴ座の一部と見なされるようになったのは18世紀半ばになってから、また独立した星座として扱われるようになったのは19世紀後半からである。

星座としてのアルゴ座は紀元前1000年頃には生まれていたと考えられており、紀元前4世紀頃の古代ギリシアの天文学者クニドスのエウドクソスの著書『ファイノメナ (古希: Φαινόμενα)』に既に名前が登場している[47]2世紀頃にアレクサンドリアで活躍した帝政ローマ期の学者クラウディオス・プトレマイオスの著書『アルマゲスト』には、45個の星がアルゴ座に属するとされた。これらプトレマイオスの選んだ星の中には、現代のりゅうこつ座の星は北西端にあるα・χ・fの3星しか含まれておらず、β・ε・ι・θ・υ・ω などの星は含まれていなかったと考えられている[48]

大航海時代以降、南天の観測記録が欧州にもたらされるようになると、アルゴ座の領域は『アルマゲスト』に記されたものから東と南に拡張されていった。ドイツの法律家ヨハン・バイエルが、オランダの天文学者ペトルス・プランシウスヨドクス・ホンディウス英語版が製作した天球儀から南天の星の位置をコピーして製作した全天星図『ウラノメトリア』では、アルゴ座の領域はプトレマイオスが示したものよりも南東方向に拡張された[49][50][51][52]。この拡張により、現代のりゅうこつ座の領域のほぼ全てがアルゴ座の領域とされた[49][51][52]

17世紀イギリスの天文学者エドモンド・ハリーは、自身のセントヘレナ島での観測記録を元に製作・出版した南天の星図『Catalogus Stellarum Australium』で、アルゴ座とケンタウルス座の間にあった未所属の星とアルゴ座の南東部の星を用いて、チャールズ2世に縁のあるロイヤルオークをモチーフとした新星座「Robur Carolinum (チャールズの樫)」を設けた[47][53][54]。ハリーが考案したこの新星座には、現在のりゅうこつ座の東側にある β・η・θ・υ・ω などの星が含まれていた[54]。しかし、多分に政治的色合いの濃いこの星座は天文学者たちから忌避され、次第に廃れていった[47]

ニコラ=ルイ・ド・ラカイユ『Coelum australe stelliferum』(1763年)に描かれた Argo Navis(アルゴ船)。ラカイユは、バイエルがマストに見立てた星を用いて Pixi Nautica、のちのらしんばん座を設けたが、それ以外の部分は1つの星座と見なしていた。

現在のほ座の枠組みを初めて設けたのは、18世紀フランスの天文学者ニコラ=ルイ・ド・ラカイユであった[4]。ラカイユは、1756年に出版されたフランス科学アカデミーの1752年版紀要に寄稿した星表と星図でアルゴ座に以下の改変を加えた[55][56][57]

  1. ハリーの Robur Carolinum を廃して、これらの星をアルゴ座の一部分とすることで、アルゴ座を東方向に拡張した[53][47]。これにより、現在のりゅうこつ座の領域のほとんどがアルゴ座に復帰した。
  2. バイエルが「マストの4星」とした部分をアルゴ座から切り離し、新たに航海用コンパスを擬した星座 la Boussole を設定した[58][注 2]。この星座は1763年の星表ではラテン語化した Pixis Nautica と改名され、のちのらしんばん座 (Pyxis) の元となった。
  3. バイエルがアルゴ座に付したギリシア文字ラテン文字の符号を全て廃して、新たにギリシア文字の符号をαからωまで振り直した[59]
  4. アルゴ座に、Corps du Navire (船体) 、Pouppe du Navire (船尾) 、Voilure du Navire (船の帆) の3つに小区画を設けた。これらは、ラカイユの死後1763年に出版された星表『Coelum australe stelliferum』では、それぞれラテン語Argûs in carina(アルゴの竜骨)、Argûs in puppi(アルゴの船尾)、Argûs in velis(アルゴの帆) とされた[59]
  5. Corps du Navire、Pouppe du Navire、Voilure du Navire の星のうちギリシア文字の符号が付されていないものに対しては、小区画ごとにラテン文字の小文字で a、b、c……z 、続いて大文字で A、B、C…… Z と符号を付けた[55][注 3]

ラカイユによるこれらの改変によって生まれた小区画の1つ Corps du Navire または Argûs in carina が、りゅうこつ座 (Carina) の原型となった。

ラカイユはプトレマイオスの権威を尊重し、それまでの天文学者らと同じくアルゴ座を1つの星座と見なしていた[57][63]。これは19世紀の天文学者らも同様で、19世紀半ばにイギリス王室天文官を務めたフランシス・ベイリーが編纂した全天星表『The Catalogue of Stars of the British Association for the Advancement of Science』、いわゆる『BAC星表』でも Carina は独立した星座ではなく、あくまでアルゴ座の小区画 (subdivision) として扱われた[64]

巨大なアルゴ座とその中にある小区画、という入れ子構造に不満を覚える天文学者も少なくなかった。19世紀後半のアメリカの天文学者ベンジャミン・グールドもその一人であった[57]1879年、アルゼンチン国立天文台で台長の職にあったグールドは、南天の観測記録を元に星表『Uranometria Argentina』を刊行した。グールドはこの星表を編纂するにあたって、大き過ぎるが故に不便なことの多いアルゴ座に対して以下の要領で改変することとした[65]

  1. ラカイユが設定したアルゴ座の領域を、Carina(りゅうこつ座)、Puppis(とも座)、Vela(ほ座)の3つの星座に置き換える。
  2. ラカイユがアルゴ座の星に付したギリシア文字符号はそのまま残し、分割された3つの星座に新たなギリシア文字符号は付さない。
  3. ラカイユが Carina、Puppis、Vela の各星座の星に付したラテン文字の符号は、R以降の大文字を除いてそのまま使われる。R以降の大文字は「アルゲランダー記法」による変光星の命名のために取り置くこととする。

このグールドによる改変によって、りゅうこつ座は独立した星座として扱われるようになった。また、ラカイユがギリシア文字を付した星として α・β・ε・η・ι・θ・υ・χ・ω の9個だけがりゅうこつ座の星として残された[66]。そのため、りゅうこつ座には現在もγ星やδ星などは存在しない[4]

1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が提案された際、ラカイユ以降に「アルゴ座」とされていた領域は、Carina(りゅうこつ座)、Puppis(とも座)、Vela(ほ座)の3つに分割されることが決定され、りゅうこつ座の星座名は Carina、略称は Car と正式に定められた[67]

中国

ドイツ人宣教師イグナーツ・ケーグラー英語版(戴進賢)らが編纂し、清朝乾隆帝治世の1752年に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、りゅうこつ座の恒星は二十八宿南方朱雀七宿の第一宿「井宿」、第二宿「鬼宿」と、明代から新たに設けられた「近南極星」に配されていた[68]。井宿では、α星が寿老人を表す星官「老人」に充てられた[69]。鬼宿では、χ星が星官「天社」に充てられた[69]。近南極星では、s・η・u の3星が星官「海山」に、ε・ι・h・l・υ・a・c・i の8星が「海石」に、q・p・θ・ω・β・I の6星が「南船」に、それぞれ充てられていた[69]

呼称と方言

日本では、明治末期には「龍骨」という訳語が充てられていたことが、1910年(明治43年)2月刊行の日本天文学会の会報『天文月報』第2巻11号に掲載された「星座名」という記事でうかがい知ることができる[70]。この訳名は、1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「龍骨(りゅうこつ)」として引き継がれた[71]。戦後の1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[72]とした際に、Carina の日本語の学名は「りゆうこつ」と定められた[73]。さらに1974年(昭和49年)1月に刊行された『学術用語集(天文学編)』では、現代仮名遣いに改めた「りゅうこつ」が星座名とされた[74]。これ以降は「りゅうこつ」という学名が継続して用いられている。

現代の中国では船底座[75]と呼ばれている。

脚注

注釈

  1. ^ オックスフォード英語辞典
  2. ^ 19世紀アメリカの天文学者ベンジャミン・グールドは、著書『Uranometoria Argentina』の中でポンプ座(la Machine Pneumatique、のちに Antlia Pneumatica)も同じく帆柱の部分を切り取って作られたとしている[57]
  3. ^ ラカイユはバイエルと異なり、 a の代わりに A を用いることはせず、a星を設けた。そのため、とも座・ほ座・りゅうこつ座にはプトレマイオス星座にはない「a星」が存在する[60][61][62]

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参考文献