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「とも座」の版間の差分

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'''とも座'''(ともざ、艫座、Puppis)は、南天の[[星座]]の1つ。日本では低い空にし上ってない星座で、[[北東北|東北北部]]より北の地域ではこの星座の全域を見ることはできない。
'''とも座'''(ともざ、Puppis)は、[[星座#国際天文学連合による88星座|現代の88星座]]の1つ。[[18世紀]]半ばに[[トレミーの48星座|プトレマイオスの48星座]]の1つ'''[[アルゴ座]]'''の中に設けられた小区画を起源とする新しい[[星座]]で、船尾をモチーフとしている{{R|IAU_constellations|Ridpath}}。南天の[[星座]]の1つ。[[赤緯]]11&deg;から51&deg;と南北に長い星座で、日本では全て地域星座の一部を見ることがきるが、[[北東北]]より北の地域では全域を見ることはできない。


== 主な天体 ==
== 主な天体 ==
=== 恒星 ===
=== 恒星 ===
{{See also|とも座の恒星の一覧}}
{{See also|とも座の恒星の一覧}}
以下の恒星には、[[国際天文学連合]]によって正式な固有名が定められている。
[[2023年]]6月現在、[[国際天文学連合]] (IAU) によって6個の恒星に固有名が認証されている{{R|iaucsn}}
* [[とも座ゼータ星|&zeta;星]]:ナオス (Naos) とも座で最も明るい恒星で、唯一の2等星{{R|simbad_zeta}}。肉眼で見える中では、特に青く見える恒星の1つ{{R|simbad_zeta}}。
* [[とも座ゼータ星|&zeta;星]]:[[太陽系]]から約1,080 [[光年]]の距離にある{{R|Howarth2019}}[[見かけの等級|見かけの明るさ]]2.25 [[等級 (天文)|等]]、[[スペクトル分類|スペクトル型]]O4I(n)fp の[[青色超巨]]で、2等星{{R|simbad_zeta}}。とも座では最も明るく見える恒星。[[ギリシア語]]で「船」を意味する言葉に由来する「'''ナオス'''{{R|StellaNavigator11}}(Naos{{R|iaucsn}})」という固有名を持つ{{R|Kunitzsch2006}}。
* [[とも座クシー星|&xi;星]]:アスミディスケは、3.30[[ (天文)|等星]]。{{R|simbad_xi}}
* [[とも座クシー星|&xi;星]]:太陽系から約1,020 光年の距離にある見かけの明るさ3.30 、スペクトル型G6Ib の黄色超巨星で、3等星{{R|simbad_ksi}}「'''アズミディ'''{{R|StellaNavigator11}}(Azmidi{{R|iaucsn}})」という固有名を持つ。
* [[とも座ロー星|&rho;星]]:太陽系から約63 光年の距離にある、見かけの明るさ2.81 等の[[輝巨星]]で、3等星{{R|simbad_rho}}。[[スペクトル#分光スペクトル|分光スペクトル]]の特徴から「[[Am星]]」と呼ばれる[[化学特異星]]に分類されている{{R|simbad_rho}}。F5IIkF2IImF5IIという複雑なスペクトル分類は、この星が[[カルシウム]]のk線ではF5、水素の吸収線ではF2、より重い元素の[[吸収線]]ではF5の特徴を持つことを示している。変光星としては脈動変光星の分類の1つ「[[たて座デルタ型変光星|たて座&delta;型変光星]]」に分類されており、約0.14日の周期で2.68 等から2.87 等の範囲で変光している{{R|GCVS_rho}}。[[アラビア語]]で「小さな盾」を意味する言葉に由来する「'''トゥレイス'''{{R|StellaNavigator11}}(Tureis{{R|iaucsn}})」という固有名を持つ{{R|Kunitzsch2006}}。
* [[とも座ロー星|&rho;星]]:トゥレイス (Tureis) は、[[たて座デルタ型変光星|たて座&delta;型変光星]]として有名{{R|simbad_rho}}。
* [[HD 48265]]:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」で[[アルゼンチン]]に命名権が与えられ、主星はNosaxa、太陽系外惑星はNaqaỹaと命名された{{R|approved}}。
* [[HD 48265]]:太陽系から約296 光年の距離にある、見かけの明るさ8.03 等、スペクトル型G5IV/Vの恒星で、8等星{{R|simbad_HD48265}}。IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoWorlds」で[[アルゼンチン]]に命名権が与えられ、主星はNosaxa、太陽系外惑星はNaqaỹaと命名された{{R|approved}}。
* [[WASP-161]]:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」で[[モロッコ]]に命名権が与えられ、主星はTislit、太陽系外惑星はIsliと命名された{{R|approved}}。
* [[WASP-161]]:太陽系から約1,160 光年の距離にある、見かけの明るさ11.08 等、スペクトル型F6の恒星で、11等星{{R|simbad_wasp161}}。IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoWorlds」で[[モロッコ]]に命名権が与えられ、主星はTislit、太陽系外惑星はIsliと命名された{{R|approved}}。
* [[WASP-121]]:太陽系から約282 光年の距離にある若いA型星{{R|Delrez2016}}で、10等星{{R|simbad_wasp121}}。[[2016年]]に太陽系外惑星WASP-121bが発見された{{R|Delrez2016}}。[[2022年]]から2023年にかけてIAUが実施したキャンペーン「NameExoWorlds 2022」で[[バーレーン王国]]からの提案が採用され、主星はDilmun、太陽系外惑星はTylosとそれぞれ命名された{{R|approved2022}}。

、以下の恒星が知られている。
ほか、以下の恒星が知られている。
* [[とも座L2星|L<sup>2</sup>星]]:SRB型に細分類れる[[半規則変光]]
* [[とも座ニュー星|&nu;星]]:見かけの明る3.17 等、スペクトルB8IIIの青色巨で、3等星{{R|simbad_nu}}
* &omicron;星:見かけの明るさ4.49等、スペクトル型B1IVeの準巨星で、4等星{{R|simbad_omicron}}。ラカイユの『Coelum Australe Stelliferum』では[[ラテン文字]]の小文字の「o星」とされていたが、[[輝星星表]]で[[ギリシア文字]]の「&omicron;星」とされた。
* [[HD 69830]]:[[惑星]]がある[[恒星]]。
* [[とも座パイ星|&pi;星]]:見かけの明るさ2.70 等、スペクトル型K4IIIの赤色巨星で、3等星{{R|simbad_pi}}。変光星としては脈動変光星の分類の1つである「[[半規則型変光星]]」のSRD型に分類されている。
* [[とも座シグマ星|&sigma;星]]:見かけの明るさ3.25 等、太陽系から約192 光年の距離にあるスペクトル型K5IIIの橙色巨星で、3等星{{R|simbad_sigma}}。IAUに未だ認証されていないが、Hadir という固有名があるとされる{{R|simbad_sigma}}。
* [[とも座タウ星|&tau;星]]:見かけの明るさ2.93 等、太陽系から約176 光年の距離にあるスペクトル型K1IIIの橙色巨星で、3等星{{R|simbad_tau}}。IAUに未だ認証されていないが、Altaleban または Taleban という固有名があるとされる{{R|simbad_tau}}。
* &chi;星:見かけの明るさ4.79 等、太陽系から約1,910 光年の距離にあるスペクトル型A7IIIの巨星で、5等星{{R|simbad_chi}}。[[フランシス・ベイリー]]や[[ニコラ=ルイ・ド・ラカーユ|ニコラ=ルイ・ド・ラカイユ]]は無印の星としていたが、[[フリードリヒ・ヴィルヘルム・アルゲランダー]]によってアルゴ座&chi;星とされた{{R|bsc_chi-note}}。
* [[とも座L2星|L{{sup|2}}星]]:[[太陽系]]に最も近い距離にある[[漸近巨星分枝|漸近巨星分枝星]]({{Lang-en-short|asymptotic giant branch star}}、AGB星)の1つ{{R|simbad_L02}}。変光星としては脈動変光星の分類の1つ「[[半規則型変光星]]」に分類されており、スペクトルをM5IIIeからM6IIIeの範囲で変化させながら2.6等から8.0等まで見かけの明るさを変化させる{{R|AAVSO_L2}}。2015年には[[ALMA]]による観測データから、L{{sup|2}}星から約2[[天文単位]]の離れた軌道を持つ太陽系外惑星の存在を示唆する研究結果が公表された{{R|Kervella2015}}。
* [[HD 49798]]:太陽系から約1,700 光年の距離にある{{R|simbad_HD49798}}、高温のO型[[準矮星]]と[[白色矮星]]と目される[[コンパクト天体]]が1.55日の周期で周回する連星系{{R|Chen2022}}。今後数千年以内に[[Ia型超新星|Ia型]]の[[超新星爆発]]を生じる可能性が示唆されている{{R|Liu2015}}。


=== 星団・星雲・銀河 ===
=== 星団・星雲・銀河 ===
* [[M46 (天体)|M46]]:[[散開星団]]。M47と近接して見えるから、南天の二重星団と表現されるもある。
* [[M46 (天体)|M46]]:太陽系から約4,930 光年の距離にある[[散開星団]]。1771年2月19日にフランスの天文学者[[シャルル・メシエ]]によって発見された{{R|SEDS_M46}}。同じく散開星団のM47と隣り合って見えることから、[[ペルセウス座]]の[[二重星団]]に準えて'''南天の二重星団'''呼ばれることもある{{R|Asada1996}}
* [[M47 (天体)|M47]]:太陽系から約1,640 光年の距離にある散開星団。[[1654年]]に[[シチリア]]の天文学者[[ジョヴァンニ・バッティスタ・オディエルナ]]が発見していたが、1984年に彼の研究資料が日の目を見るまで世に知られなかった{{R|SEDS_M47}}。M46と同じく1771年2月19日にメシエが独立に発見したが、メシエが座標を間違えて記録していたため、1959年にカナダの天文学者T.F.MorrisによってNGC 2422と同定されるまで見失われた天体となっていた{{R|SEDS_Original}}。隣り合うM46とは近くに見えるだけで、太陽系からはM46のほうが3倍ほど遠い。
* [[M47 (天体)|M47]]:散開星団。隣に見えるM46とは異なり明るい星が散在して見える。
* [[M93 (天体)|M93]]:散開星団。
* [[M93 (天体)|M93]]:太陽系から約3,360 光年の距離にある散開星団。
* [[NGC 2477]]:太陽系から約4,700 光年の距離にある[[散開星団]]{{R|simbad_NGC2477}}。{{仮リンク|パトリック・ムーア (天文学者)|label=パトリック・ムーア|en|Patrick Moore}}がアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだ[[カルドウェルカタログ|コールドウェルカタログ]]で、71番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。
* NGC 2451:散開星団。
*[[NGC 2440]]:太陽系から約4,800 光年の距離にある[[惑星状星雲]]{{R|simbad_NGC2440}}。少なくとも2つ以上の双極性の構造を持っていると考えられている{{R|Lago2016}}。中心にある惑星状星雲中心星 (Central Star of Planetary Nebula, CSPN) の表面温度は約200,000 Kと非常に高く、その強烈な紫外線で星雲を輝かせている{{R|APOD20070215}}。
*[[NGC 2440]]:惑星状星雲。中心部には超高温の白色矮星が存在する。
* [[とも座A]]:太陽系から約6,500 光年の距離にある[[電波源]]{{R|simbad_PuppisA}}で、[[超新星爆発]]から {{val|4,550|750|ul=年}}が経過した[[超新星残骸]]と考えられている{{R|Becker2012|Dubner2013}}。とも座Aの中心付近にあり、{{val|672|115|ul=km/s}}という高速で動いている[[RX J0822-4300]]という[[中性子星]]が、超新星爆発を起こした前駆天体の中心部であったと見られている{{R|Becker2012|Dubner2013}}。

{{Gallery
=== その他 ===
| width=360
* [[RX J0822-4300]]:秒速1500kmという超高速度で運動している[[中性子星]]。
| height=300
* [[RX J0648.0–4418]]:最も重い[[白色矮星]]。
| lines=5
| align=center
| M46, NGC 2423, M47 and NGC 2425 open clusters - Flickr - gjdonatiello.jpg|[[散開星団]]M46(左下)とM47(右中央)。右上部には散開星団NGC 2423、中央下部にはNGC 2425 の姿も捉えられている。
| M93 Eguivar.jpg | 散開星団M93。
| NGC2477.jpg | 散開星団NGC 2477。
| NGC 2440 by HST.jpg | [[ハッブル宇宙望遠鏡]]の[[広視野惑星カメラ2]]が捉えた[[惑星状星雲]]NGC 2440。
| Puppis A- Chandra Reveals Cloud Disrupted By Supernova Shock (2941517948).jpg | 英独共同開発の[[X線観測衛星|X線宇宙望遠鏡]][[ROSAT]]が撮影したとも座Aの広角画像(青色)と、[[NASA]]のX線宇宙望遠鏡[[チャンドラ (人工衛星)|チャンドラ]]が撮影した超新星爆発による衝撃波で生じた構造の拡大画像(カラー)。いずれもX線による撮像を色付けしたもの。
}}


== 由来と歴史 ==
== 由来と歴史 ==
{{See also|アルゴ座}}
{{See also|アルゴ座}}
とも座の原型となったのは、[[古代ギリシア]]の伝承に登場する[[アルゴ船]]をモチーフとした星座[[アルゴ座]]である{{R|Ridpath}}。これが独立した星座として扱われるようになったのは19世紀後半からである。
1756年出版の、フランス科学アカデミーの1752年版『紀要』に収められた[[ニコラ・ルイ・ド・ラカーユ]]の星表の中で、[[アルゴ座]]の一部分の名称として ''Pouppe du Navire'' (船尾) と書かれたのが始まりである。ラカーユ死後の1763年に出版された星表 ''Coelum australe stelliferum'' では、''Argûs in puppi'' (アルゴの船尾) とされた。アルゴ座はあまりに巨大すぎたため、[[1922年]]に[[国際天文学連合]]が現在の88星座を定めた際に3つに分割された{{efn2|name="注1"}}。とも座は、このアルゴー船の「[[船尾]]」の部分に相当する{{R|ridpath}}。


星座としてのアルゴ座は紀元前1000年頃には生まれていたと考えられており、[[紀元前4世紀]]頃の古代ギリシアの天文学者[[エウドクソス|クニドスのエウドクソス]]の著書『ファイノメナ ({{Lang-grc-short|Φαινόμενα}})』に既に名前が登場している{{R|Barentine2015}}。このエウドクソスの『ファイノメナ』は現存していないが、エウドクソスの著述を元に詩作したとされる[[紀元前3世紀]]前半のマケドニアの詩人[[アラトス|アラートス]]の詩篇『ファイノメナ ({{Lang-grc-short|Φαινόμενα}})』では、[[おおいぬ座]]に続いて船尾から上ってくるアルゴ座の姿がうたわれている{{R|Ito2007}}。
ラカーユは、上述の星表の中でアルゴ座の明るい星に[[バイエル符号]]同様のギリシャ文字を割り振った{{R|ridpath}}。その符号が国際天文学連合による分割後も引き継がれたため、とも座には、&zeta;星、&nu;星、&xi;星、&pi;星、&rho;星、&sigma;星、&tau;星があるが、&alpha;星や&beta;星などはない。

[[2世紀]]頃に[[アレクサンドリア]]で活躍した[[ローマ帝国|帝政ローマ期]]の学者[[クラウディオス・プトレマイオス]]の著書『[[アルマゲスト]]』では、45個の星がアルゴ座に属するとされた。プトレマイオスが示した45個の星が現在のどの星に当たるのかについては研究者の間で多少の相違は見られるものの、現代のとも座の明るい星はほぼ全て含まれているとされており{{R|Takesako2017}}、古代ギリシア・ローマ期には現在のとも座の原型が整っていたことをうかがい知ることができる。

[[File:Uranometria Argo Navis.png|thumb|360px|ヨハン・バイエル『ウラノメトリア』(1603年)に描かれたアルゴ座 (Navis)。右半分に現在のとも座の主要な星が描かれている。]]
[[大航海時代]]以降、南天の観測記録が欧州にもたらされるようになると、アルゴ座の領域は『アルマゲスト』に記されたものから東と南に拡張されていった。[[ドイツ]]の法律家[[ヨハン・バイエル]]が、[[オランダ]]の天文学者[[ペトルス・プランシウス]]や{{仮リンク|ヨドクス・ホンディウス|en|Jodocus Hondius}}が製作した天球儀から南天の星の位置をコピーして製作した全天星図『ウラノメトリア』では、アルゴ座の領域はプトレマイオスが示したものよりも南東方向に拡張された{{R|Bayer1603_a|Bayer1603_b|Bayer1603_c|Takesako2021}}。

[[File:Lacaille's Argo Navis.jpg|thumb|360px|ニコラ=ルイ・ド・ラカイユ『Coelum australe stelliferum』(1763年)に描かれた Argo Navis(アルゴ船)。ラカイユは、バイエルがマストに見立てた星を用いて Pixi Nautica、のちの[[らしんばん座]]を設けたが、それ以外の部分は1つの星座と見なしていた。]]
現在のとも座の枠組みを初めて設けたのは、[[18世紀]][[フランス]]の天文学者[[ニコラ・ルイ・ド・ラカーユ|ニコラ・ルイ・ド・ラカイユ]]であった{{R|Ridpath}}。ラカイユは、[[1756年]]に出版された[[科学アカデミー (フランス)|フランス科学アカデミー]]の1752年版紀要に寄稿した星表と天球図で、アルゴ座に以下の改変を行った{{R|Stoppa|planisphere1756}}{{Sfn|Gould|1879|p=55}}
# 17世紀末に[[エドモンド・ハレー|エドモンド・ハリー]]が設けた星座 Robur Carolinum を廃して、これらの星をアルゴ座の一部分とすることで、アルゴ座を東方向に拡張した{{R|Ridpath_Argo|Barentine2015}}。
# バイエルが「マストの4星」とした部分をアルゴ座から切り離し、新たに航海用コンパスを擬した星座 la Boussole を設定した{{R|Ridpath_Pyxis}}{{efn2|[[ベンジャミン・グールド]]は、著書『Uranometoria Argentina』の中で[[ポンプ座]](la Machine Pneumatique、のちに Antlia Pneumatica)も同じく帆柱の部分を切り取って作られたとしている{{Sfn|Gould|1879|p=55}}。}}。この星座は[[1763年]]の星表ではラテン語化した Pixis Nautica と改名され、のちの[[らしんばん座]] (Pyxis) の元となった。
# バイエルがアルゴ座に付したギリシア文字とラテン文字の符号を全て廃して、新たにギリシア文字の符号を&alpha;から&omega;まで振り直した{{R|Lacaille}}。
# アルゴ座に、Corps du Navire(船体)、'''Pouppe du Navire(船尾)'''、Voilure du Navire(帆)の3つの小区画を設けた。これらは、ラカイユの死後1763年に出版された星表『Coelum australe stelliferum』 では、それぞれ[[ラテン語]]で Argûs in carina、'''Argûs in puppi'''、Argûs in velis とされた{{R|Lacaille}}。
# Corps du Navire、Pouppe du Navire、Voilure du Navire の星のうちギリシア文字の符号が付されていないものに対しては、小区画ごとにラテン文字の小文字で a、b、c……z 、続いて大文字で A、B、C…… Z と符号を付けた{{R|Stoppa}}{{efn2|ラカイユはバイエルと異なり、 a の代わりに A を用いることはせず、a星を設けた。そのため、とも座・ほ座・りゅうこつ座にはプトレマイオス星座にはない「a星」が存在する{{R|simbad_Pup|simbad_Vel|simbad_Car}}。}}。
ラカイユによるこれらの改変によって生まれた小区画の1つ '''Pouppe du Navire''' または '''Argûs in puppi''' が、後世のとも座 (Puppis) の原型となった。

ラカイユはプトレマイオスの権威を尊重し、それまでの天文学者らと同じくアルゴ座を1つの星座と見なしていた{{Sfn|Gould|1879|p=55}}{{R|planisphere1763}}。これは19世紀の天文学者らも同様で、19世紀半ばに[[イギリス]]の[[王室天文官]]を務めた[[フランシス・ベイリー]]が編纂した全天星表『The Catalogue of Stars of the British Association for the Advancement of Science』、いわゆる『BAC星表』でも '''Puppis''' は独立した星座ではなく、あくまでアルゴ座の小区画 (subdivision) として扱われた{{Sfn|Gould|1879|pp=58-59}}。

巨大なアルゴ座とその中にある小区画、という[[入れ子構造]]に不満を覚える天文学者も少なくなかった。19世紀後半の[[アメリカ]]の天文学者[[ベンジャミン・グールド]]もその一人であった{{Sfn|Gould|1879|p=55}}。[[1879年]]、アルゼンチン国立天文台で台長の職にあったグールドは、南天の観測記録を元に星表『Uranometria Argentina』を刊行した。グールドはこの星表を編纂するにあたって、大き過ぎるが故に不便なことの多いアルゴ座に対して以下の要領で改変することとした{{Sfn|Gould|1879|pp=65-66}}。
# ラカイユが設定したアルゴ座の領域を、Carina(りゅうこつ座)、'''Puppis(とも座)'''、Vela(ほ座)の3つの星座に置き換える。
# ラカイユがアルゴ座の星に付したギリシア文字符号はそのまま残し、分割された3つの星座に新たなギリシア文字符号は付さない。
# ラカイユが Carina、Puppis、Vela の各星座の星に付したラテン文字の符号は、R以降の大文字を除いてそのまま使われる。R以降の大文字は「[[アルゲランダー記法]]」による変光星の命名のために取り置くこととする。
このグールドによる改変によって、とも座は独立した星座として扱われるようになった。また、ラカイユがギリシア文字を付した星として &zeta;・&nu;・&xi;・&pi;・&rho;・&sigma;・&tau;の7個だけがとも座の星として残された{{Sfn|Gould|1879|pp=165-168}}。のちに&omicron;星や&chi;星が加えられたが{{R|simbad_omicron|simbad_chi}}、現在もとも座には&alpha;星や&gamma;星は存在しない{{R|Ridpath}}。

[[1922年]]5月に[[ローマ]]で開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が提案された際、ラカイユ以降に「アルゴ座」とされていた領域は、'''Carina'''(りゅうこつ座)、'''Puppis'''(とも座)、'''Vela'''(ほ座)の3つに分割されることが決定され、とも座の星座名は '''Puppis'''、略称は '''Pup''' と正式に定められた{{R|IAU_list}}。

=== 中国 ===
ドイツ人宣教師{{仮リンク|イグナーツ・ケーグラー|en|Ignaz Kögler}}(戴進賢)らが編纂し、[[清|清朝]][[乾隆帝]]治世の[[1752年]]に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、とも座の恒星は[[二十八宿]]の[[南方朱雀]]七宿の第一宿「[[井宿]]」と第二宿「[[鬼宿]]」に充てられていた{{R|伊世同1981}}{{Sfn|大崎正次|1987|pp=106-113}}。井宿では、&tau;・&nu;の2星が星官「老人」、c・&chi;・&omicron;・k・&pi;・2・4・5・10・6・16・14・e・12・&xi;・HD 62412・3・d・b・&zeta;・a・&sigma; の22星が[[星官]]「狐矢」に配されていたとされる{{R|伊世同1981}}。また鬼宿では、21・20・18・19・22の5星と不明の2星の計7星が星官「外厨」に配されていたとされる{{R|伊世同1981}}。

== 呼称と方言 ==
日本では、明治末期には「'''艫'''」という訳語が充てられていたことが、[[1910年]](明治43年)2月刊行の[[日本天文学会]]の会報『天文月報』第2巻11号に掲載された「星座名」という記事でうかがい知ることができる{{R|AH191002}}。この訳名は、[[1925年]](大正14年)に初版が刊行された『[[理科年表]]』にも「'''艫(とも)'''」として引き継がれた{{R|Rika_1925}}。戦後の[[1952年]](昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」{{R|gakujutsu1994}}とした際に、Puppis の日本語の学名は「'''とも'''」と定められた{{R|AH195210}}。これ以降は「とも」という学名が継続して用いられている。

現代の中国では'''船尾座'''{{R|伊世同1981}}{{Sfn|大崎正次|1987|pp=115-118}}と呼ばれている。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
=== 注釈 ===
{{Notelist2}}
{{notelist2|refs=
<ref name="注1">ラカーユによって分割された訳ではないので注意。他の2つは[[ほ座]]と[[りゅうこつ座]]。</ref>
}}


=== 出典 ===
=== 出典 ===
{{reflist|refs=
{{Reflist|30em|refs=

<ref name="simbad_zeta">{{cite web
<ref name="IAU_constellations">{{Cite web
| title=Results for zet Pup
| title=The Constellations
| work=[[SIMBAD]] Astronomical Database
| publisher=[[国際天文学連合]]
| url=https://simbad.u-strasbg.fr/simbad/sim-id?Ident=zet+Pup
| url=https://www.iau.org/public/constellations/#pup
| accessdate=2013-01-23}}</ref>
| access-date=2023-06-04}}</ref>
<ref name="simbad_xi">{{cite web

| title=Results for xi Pup
<ref name="boundary">{{Cite web
| work=[[SIMBAD]] Astronomical Database
| title=Constellation boundary
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2023年6月30日 (金) 13:44時点における版

とも座
Puppis
Puppis
属格 Puppis
略符 Pup
発音 英語発音: [ˈpʌpɨs]、属格の発音も同じ
象徴 船尾[1]
概略位置:赤経  06h 02m 59.7s -  08h 27m 57.5s[2]
概略位置:赤緯 −11.25° - −51.10°[2]
広さ 673.434平方度[3]20位
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
76
3.0等より明るい恒星数 4
最輝星 ζ Pup(2.25
メシエ天体 3
隣接する星座 いっかくじゅう座
らしんばん座
ほ座
りゅうこつ座
がか座
はと座
おおいぬ座
うみへび座
テンプレートを表示

とも座(ともざ、Puppis)は、現代の88星座の1つ。18世紀半ばにプトレマイオスの48星座の1つアルゴ座の中に設けられた小区画を起源とする新しい星座で、船尾をモチーフとしている[1][4]。南天の星座の1つ。赤緯11°から51°と南北に長い星座で、日本では全ての地域からこの星座の一部を見ることができるが、北東北より北の地域では全域を見ることはできない。

主な天体

恒星

2023年6月現在、国際天文学連合 (IAU) によって6個の恒星に固有名が認証されている[5]

  • ζ星太陽系から約1,080 光年の距離にある[6]見かけの明るさ2.25 スペクトル型O4I(n)fp の青色超巨星で、2等星[7]。とも座では最も明るく見える恒星。ギリシア語で「船」を意味する言葉に由来する「ナオス[8](Naos[5])」という固有名を持つ[9]
  • ξ星:太陽系から約1,020 光年の距離にある、見かけの明るさ3.30 等、スペクトル型G6Ib の黄色超巨星で、3等星[10]。「アズミディ[8](Azmidi[5])」という固有名を持つ。
  • ρ星:太陽系から約63 光年の距離にある、見かけの明るさ2.81 等の輝巨星で、3等星[11]分光スペクトルの特徴から「Am星」と呼ばれる化学特異星に分類されている[11]。F5IIkF2IImF5IIという複雑なスペクトル分類は、この星がカルシウムのk線ではF5、水素の吸収線ではF2、より重い元素の吸収線ではF5の特徴を持つことを示している。変光星としては脈動変光星の分類の1つ「たて座δ型変光星」に分類されており、約0.14日の周期で2.68 等から2.87 等の範囲で変光している[12]アラビア語で「小さな盾」を意味する言葉に由来する「トゥレイス[8](Tureis[5])」という固有名を持つ[9]
  • HD 48265:太陽系から約296 光年の距離にある、見かけの明るさ8.03 等、スペクトル型G5IV/Vの恒星で、8等星[13]。IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoWorlds」でアルゼンチンに命名権が与えられ、主星はNosaxa、太陽系外惑星はNaqaỹaと命名された[14]
  • WASP-161:太陽系から約1,160 光年の距離にある、見かけの明るさ11.08 等、スペクトル型F6の恒星で、11等星[15]。IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoWorlds」でモロッコに命名権が与えられ、主星はTislit、太陽系外惑星はIsliと命名された[14]
  • WASP-121:太陽系から約282 光年の距離にある若いA型星[16]で、10等星[17]2016年に太陽系外惑星WASP-121bが発見された[16]2022年から2023年にかけてIAUが実施したキャンペーン「NameExoWorlds 2022」でバーレーン王国からの提案が採用され、主星はDilmun、太陽系外惑星はTylosとそれぞれ命名された[18]

このほか、以下の恒星が知られている。

  • ν星:見かけの明るさ3.17 等、スペクトル型B8IIIの青色巨星で、3等星[19]
  • ο星:見かけの明るさ4.49等、スペクトル型B1IVeの準巨星で、4等星[20]。ラカイユの『Coelum Australe Stelliferum』ではラテン文字の小文字の「o星」とされていたが、輝星星表ギリシア文字の「ο星」とされた。
  • π星:見かけの明るさ2.70 等、スペクトル型K4IIIの赤色巨星で、3等星[21]。変光星としては脈動変光星の分類の1つである「半規則型変光星」のSRD型に分類されている。
  • σ星:見かけの明るさ3.25 等、太陽系から約192 光年の距離にあるスペクトル型K5IIIの橙色巨星で、3等星[22]。IAUに未だ認証されていないが、Hadir という固有名があるとされる[22]
  • τ星:見かけの明るさ2.93 等、太陽系から約176 光年の距離にあるスペクトル型K1IIIの橙色巨星で、3等星[23]。IAUに未だ認証されていないが、Altaleban または Taleban という固有名があるとされる[23]
  • χ星:見かけの明るさ4.79 等、太陽系から約1,910 光年の距離にあるスペクトル型A7IIIの巨星で、5等星[24]フランシス・ベイリーニコラ=ルイ・ド・ラカイユは無印の星としていたが、フリードリヒ・ヴィルヘルム・アルゲランダーによってアルゴ座χ星とされた[25]
  • L2太陽系に最も近い距離にある漸近巨星分枝星: asymptotic giant branch star、AGB星)の1つ[26]。変光星としては脈動変光星の分類の1つ「半規則型変光星」に分類されており、スペクトルをM5IIIeからM6IIIeの範囲で変化させながら2.6等から8.0等まで見かけの明るさを変化させる[27]。2015年にはALMAによる観測データから、L2星から約2天文単位の離れた軌道を持つ太陽系外惑星の存在を示唆する研究結果が公表された[28]
  • HD 49798:太陽系から約1,700 光年の距離にある[29]、高温のO型準矮星白色矮星と目されるコンパクト天体が1.55日の周期で周回する連星系[30]。今後数千年以内にIa型超新星爆発を生じる可能性が示唆されている[31]

星団・星雲・銀河

  • M46:太陽系から約4,930 光年の距離にある散開星団。1771年2月19日にフランスの天文学者シャルル・メシエによって発見された[32]。同じく散開星団のM47と隣り合って見えることから、ペルセウス座二重星団に準えて南天の二重星団と呼ばれることもある[33]
  • M47:太陽系から約1,640 光年の距離にある散開星団。1654年シチリアの天文学者ジョヴァンニ・バッティスタ・オディエルナが発見していたが、1984年に彼の研究資料が日の目を見るまで世に知られなかった[34]。M46と同じく1771年2月19日にメシエが独立に発見したが、メシエが座標を間違えて記録していたため、1959年にカナダの天文学者T.F.MorrisによってNGC 2422と同定されるまで見失われた天体となっていた[35]。隣り合うM46とは近くに見えるだけで、太陽系からはM46のほうが3倍ほど遠い。
  • M93:太陽系から約3,360 光年の距離にある散開星団。
  • NGC 2477:太陽系から約4,700 光年の距離にある散開星団[36]パトリック・ムーア英語版がアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだコールドウェルカタログで、71番に選ばれている[37]
  • NGC 2440:太陽系から約4,800 光年の距離にある惑星状星雲[38]。少なくとも2つ以上の双極性の構造を持っていると考えられている[39]。中心にある惑星状星雲中心星 (Central Star of Planetary Nebula, CSPN) の表面温度は約200,000 Kと非常に高く、その強烈な紫外線で星雲を輝かせている[40]
  • とも座A:太陽系から約6,500 光年の距離にある電波源[41]で、超新星爆発から 4550±750 が経過した超新星残骸と考えられている[42][43]。とも座Aの中心付近にあり、672±115 km/sという高速で動いているRX J0822-4300という中性子星が、超新星爆発を起こした前駆天体の中心部であったと見られている[42][43]

由来と歴史

とも座の原型となったのは、古代ギリシアの伝承に登場するアルゴ船をモチーフとした星座アルゴ座である[4]。これが独立した星座として扱われるようになったのは19世紀後半からである。

星座としてのアルゴ座は紀元前1000年頃には生まれていたと考えられており、紀元前4世紀頃の古代ギリシアの天文学者クニドスのエウドクソスの著書『ファイノメナ (古希: Φαινόμενα)』に既に名前が登場している[44]。このエウドクソスの『ファイノメナ』は現存していないが、エウドクソスの著述を元に詩作したとされる紀元前3世紀前半のマケドニアの詩人アラートスの詩篇『ファイノメナ (古希: Φαινόμενα)』では、おおいぬ座に続いて船尾から上ってくるアルゴ座の姿がうたわれている[45]

2世紀頃にアレクサンドリアで活躍した帝政ローマ期の学者クラウディオス・プトレマイオスの著書『アルマゲスト』では、45個の星がアルゴ座に属するとされた。プトレマイオスが示した45個の星が現在のどの星に当たるのかについては研究者の間で多少の相違は見られるものの、現代のとも座の明るい星はほぼ全て含まれているとされており[46]、古代ギリシア・ローマ期には現在のとも座の原型が整っていたことをうかがい知ることができる。

ヨハン・バイエル『ウラノメトリア』(1603年)に描かれたアルゴ座 (Navis)。右半分に現在のとも座の主要な星が描かれている。

大航海時代以降、南天の観測記録が欧州にもたらされるようになると、アルゴ座の領域は『アルマゲスト』に記されたものから東と南に拡張されていった。ドイツの法律家ヨハン・バイエルが、オランダの天文学者ペトルス・プランシウスヨドクス・ホンディウス英語版が製作した天球儀から南天の星の位置をコピーして製作した全天星図『ウラノメトリア』では、アルゴ座の領域はプトレマイオスが示したものよりも南東方向に拡張された[47][48][49][50]

ニコラ=ルイ・ド・ラカイユ『Coelum australe stelliferum』(1763年)に描かれた Argo Navis(アルゴ船)。ラカイユは、バイエルがマストに見立てた星を用いて Pixi Nautica、のちのらしんばん座を設けたが、それ以外の部分は1つの星座と見なしていた。

現在のとも座の枠組みを初めて設けたのは、18世紀フランスの天文学者ニコラ・ルイ・ド・ラカイユであった[4]。ラカイユは、1756年に出版されたフランス科学アカデミーの1752年版紀要に寄稿した星表と天球図で、アルゴ座に以下の改変を行った[51][52][53]

  1. 17世紀末にエドモンド・ハリーが設けた星座 Robur Carolinum を廃して、これらの星をアルゴ座の一部分とすることで、アルゴ座を東方向に拡張した[54][44]
  2. バイエルが「マストの4星」とした部分をアルゴ座から切り離し、新たに航海用コンパスを擬した星座 la Boussole を設定した[55][注 1]。この星座は1763年の星表ではラテン語化した Pixis Nautica と改名され、のちのらしんばん座 (Pyxis) の元となった。
  3. バイエルがアルゴ座に付したギリシア文字とラテン文字の符号を全て廃して、新たにギリシア文字の符号をαからωまで振り直した[56]
  4. アルゴ座に、Corps du Navire(船体)、Pouppe du Navire(船尾)、Voilure du Navire(帆)の3つの小区画を設けた。これらは、ラカイユの死後1763年に出版された星表『Coelum australe stelliferum』 では、それぞれラテン語で Argûs in carina、Argûs in puppi、Argûs in velis とされた[56]
  5. Corps du Navire、Pouppe du Navire、Voilure du Navire の星のうちギリシア文字の符号が付されていないものに対しては、小区画ごとにラテン文字の小文字で a、b、c……z 、続いて大文字で A、B、C…… Z と符号を付けた[51][注 2]

ラカイユによるこれらの改変によって生まれた小区画の1つ Pouppe du Navire または Argûs in puppi が、後世のとも座 (Puppis) の原型となった。

ラカイユはプトレマイオスの権威を尊重し、それまでの天文学者らと同じくアルゴ座を1つの星座と見なしていた[53][60]。これは19世紀の天文学者らも同様で、19世紀半ばにイギリス王室天文官を務めたフランシス・ベイリーが編纂した全天星表『The Catalogue of Stars of the British Association for the Advancement of Science』、いわゆる『BAC星表』でも Puppis は独立した星座ではなく、あくまでアルゴ座の小区画 (subdivision) として扱われた[61]

巨大なアルゴ座とその中にある小区画、という入れ子構造に不満を覚える天文学者も少なくなかった。19世紀後半のアメリカの天文学者ベンジャミン・グールドもその一人であった[53]1879年、アルゼンチン国立天文台で台長の職にあったグールドは、南天の観測記録を元に星表『Uranometria Argentina』を刊行した。グールドはこの星表を編纂するにあたって、大き過ぎるが故に不便なことの多いアルゴ座に対して以下の要領で改変することとした[62]

  1. ラカイユが設定したアルゴ座の領域を、Carina(りゅうこつ座)、Puppis(とも座)、Vela(ほ座)の3つの星座に置き換える。
  2. ラカイユがアルゴ座の星に付したギリシア文字符号はそのまま残し、分割された3つの星座に新たなギリシア文字符号は付さない。
  3. ラカイユが Carina、Puppis、Vela の各星座の星に付したラテン文字の符号は、R以降の大文字を除いてそのまま使われる。R以降の大文字は「アルゲランダー記法」による変光星の命名のために取り置くこととする。

このグールドによる改変によって、とも座は独立した星座として扱われるようになった。また、ラカイユがギリシア文字を付した星として ζ・ν・ξ・π・ρ・σ・τの7個だけがとも座の星として残された[63]。のちにο星やχ星が加えられたが[20][24]、現在もとも座にはα星やγ星は存在しない[4]

1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が提案された際、ラカイユ以降に「アルゴ座」とされていた領域は、Carina(りゅうこつ座)、Puppis(とも座)、Vela(ほ座)の3つに分割されることが決定され、とも座の星座名は Puppis、略称は Pup と正式に定められた[64]

中国

ドイツ人宣教師イグナーツ・ケーグラー英語版(戴進賢)らが編纂し、清朝乾隆帝治世の1752年に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、とも座の恒星は二十八宿南方朱雀七宿の第一宿「井宿」と第二宿「鬼宿」に充てられていた[65][66]。井宿では、τ・νの2星が星官「老人」、c・χ・ο・k・π・2・4・5・10・6・16・14・e・12・ξ・HD 62412・3・d・b・ζ・a・σ の22星が星官「狐矢」に配されていたとされる[65]。また鬼宿では、21・20・18・19・22の5星と不明の2星の計7星が星官「外厨」に配されていたとされる[65]

呼称と方言

日本では、明治末期には「」という訳語が充てられていたことが、1910年(明治43年)2月刊行の日本天文学会の会報『天文月報』第2巻11号に掲載された「星座名」という記事でうかがい知ることができる[67]。この訳名は、1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「艫(とも)」として引き継がれた[68]。戦後の1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[69]とした際に、Puppis の日本語の学名は「とも」と定められた[70]。これ以降は「とも」という学名が継続して用いられている。

現代の中国では船尾座[65][71]と呼ばれている。

脚注

注釈

  1. ^ ベンジャミン・グールドは、著書『Uranometoria Argentina』の中でポンプ座(la Machine Pneumatique、のちに Antlia Pneumatica)も同じく帆柱の部分を切り取って作られたとしている[53]
  2. ^ ラカイユはバイエルと異なり、 a の代わりに A を用いることはせず、a星を設けた。そのため、とも座・ほ座・りゅうこつ座にはプトレマイオス星座にはない「a星」が存在する[57][58][59]

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  68. ^ 東京天文台 編『理科年表 第1冊丸善、1925年、61-64頁https://dl.ndl.go.jp/pid/977669/1/39 
  69. ^ 文部省 編『学術用語集:天文学編(増訂版)』(第1刷)日本学術振興会、1994年11月15日、316頁。ISBN 4-8181-9404-2 
  70. ^ 星座名」『天文月報』第45巻第10号、1952年10月、158頁、ISSN 0374-2466 
  71. ^ 大崎正次 1987, pp. 115–118.

参考文献