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「和歌山毒物カレー事件」の版間の差分

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中毒症状を起こした被害者67人のうち、''計4人が死亡した<ref name="読売新聞1998-07-27">『[[読売新聞]]』1998年7月27日東京朝刊第14版一面1頁「カレーに青酸 4人死亡 夏祭り会場で混入 和歌山 66人中毒、42人入院 無差別殺人で捜査」([[読売新聞東京本社]]) - 『読売新聞』縮刷版 1998年(平成10年)7月号1425頁</ref>。死亡した被害者4人は、園部第14自治会の自治会長を務めていた男性A(当時64歳)、副会長の男性B(当時53歳)、[[和歌山市立有功小学校]]4年生の男子児童C(当時10歳)、そして[[開智中学校・高等学校 (和歌山県)|私立開智高校]]1年生の女子生徒D(16歳)である<ref name="読売新聞1998-07-27/>。被害者は会場で食べた人や、自宅に持ち帰って食べた人などで、嘔吐した場所も様々だった。
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2023年1月29日 (日) 00:02時点における版

和歌山毒物カレー事件
地図
場所 日本の旗 日本和歌山県和歌山市園部1013番地の5(事件現場:夏祭り[注 1]の会場)[1]
座標
北緯34度15分35.6544秒 東経135度11分23.5860秒 / 北緯34.259904000度 東経135.189885000度 / 34.259904000; 135.189885000座標: 北緯34度15分35.6544秒 東経135度11分23.5860秒 / 北緯34.259904000度 東経135.189885000度 / 34.259904000; 135.189885000
標的 夏祭りに集まった園部地区の住民
日付 1998年平成10年)7月25日[1][2]
17時50分ごろ(夏祭りの開始時刻)[1] – 19時ごろ(終了時刻)[1]
概要 夏祭りで提供されたカレーライス毒物亜ヒ酸)が混入され、カレーを食べた67人が急性ヒ素中毒を発症[3]。うち4人が死亡した[3]
攻撃手段 カレーライスに毒物を混入[2]
攻撃側人数 1人[3]
武器 亜ヒ酸[3]
死亡者 4人[3]
負傷者 63人[3]
犯人 林 眞須美冤罪を主張)
容疑 殺人・殺人未遂詐欺[4]
動機 未解明[5]
対処 和歌山県警が林を被疑者として逮捕・和歌山地検が林を被告人として起訴
刑事訴訟 死刑(上告棄却により確定[6] / 未執行
管轄
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和歌山毒物カレー事件(わかやまどくぶつカレーじけん)は、1998年平成10年)7月25日夕方に和歌山県和歌山市園部で発生した毒物混入・無差別大量殺傷事件。地区で行われた夏祭り[注 1]において提供されたカレーライス毒物が混入され、カレーを食べた67人が急性ヒ素中毒になり、うち4人が死亡した[注 2][11]和歌山カレー事件とも呼ばれる[12]

主婦の林 眞須美(はやし ますみ)が被疑者として逮捕被告人として起訴され、殺人・殺人未遂・詐欺の罪に問われた[4]。林は無罪を訴えたが、第一審死刑判決を受け[13]控訴上告も棄却された[14][15]ため、2009年(平成21年)5月19日最高裁判所で死刑が確定[16][17]、林は戦後日本で11人目の女性死刑囚となった[18]2020年令和2年)9月27日時点で[19]、林眞須美は死刑囚死刑確定者)として、大阪拘置所収監されている[20]冤罪の可能性が指摘されており、2021年5月31日に和歌山地裁において再審請求が受理された(詳細は後述)。

地域の夏祭りでの毒物混入事件であり、不特定多数の住民らを殺傷するという残忍性、当初の「集団食中毒」から、「青酸化合物混入」、「ヒ素混入」と原因の見立てや報道が二転、三転したこと、住民らの疑心暗鬼や犯人に関する密告合戦、さらには住民の数を上回るマスメディア関係者が2か月以上も居座り続けるという異常な報道態勢などが連日伝えられた[21]

事件の概要

事件発生

事件現場周辺の航空写真(2008年撮影)。オレンジ枠で囲われた場所が事件現場の空き地(和歌山市園部1013番地の5[1]、水色の★印はカレーが調理されていたガレージの箇所。赤枠で囲った場所は林眞須美の家(和歌山市園部1014番地の1[22]の跡地。『朝日新聞』 (2017) を参考に作成[23]

1998年7月25日、和歌山市園部地区の新興住宅地にある自治会(和歌山市園部第14自治会)が開いた夏祭り[注 1][24]、出されたカレーライスを食べた未成年者30人を含む合計67人[注 3][3]腹痛吐き気などを訴えて病院に搬送された[8]。異変に気付いた人が「カレー、ストップ!」とスタッフに提供を直ちに止めるよう命じ、一連の嘔吐がカレーによるものと発覚した。

中毒症状を起こした被害者67人のうち、計4人が死亡した[7]。死亡した被害者4人は、園部第14自治会の自治会長を務めていた男性A(当時64歳)、副会長の男性B(当時53歳)、和歌山市立有功小学校4年生の男子児童C(当時10歳)、そして私立開智高校1年生の女子生徒D(16歳)である[7]。被害者は会場で食べた人や、自宅に持ち帰って食べた人などで、嘔吐した場所も様々だった。

和歌山県警察および[8]和歌山市保健所は事件発生当初、集団食中毒を疑っていた[注 4][26]が、和歌山県警科学捜査研究所が被害者の吐瀉物や容器に残っていたカレーを検査したところ、青酸化合物の反応が検出された[8]。和歌山県警捜査一課は「何者かが毒物を混入した無差別殺人事件の疑いが強い」と断定し、和歌山東警察署に捜査本部を設置した[7]

毒物

当初、死亡した自治会長Aの遺体を和歌山県立医科大学において司法解剖した結果、心臓の血液や胃の内容物から青酸化合物が検出されたため、死因を青酸化合物中毒と判断[7]。また、事件発生直後の鑑定では、青酸化合物を使った農薬などの二次製品に含まれる他の物質は検出されなかったため、県警は混入された毒物を「純粋な青酸化合物」に絞り、県外も含めて盗難・紛失事件がなかったか否かを捜査していた一方、ヒ素など他の毒物の検査は行っていなかった[27]。しかし、A以外の死者3人の遺体からは青酸化合物は検出されなかった一方、Aの胃の内容物や、Bの吐瀉物、Cの食べ残しカレーからそれぞれヒ素が検出され[28]、8月2日には捜査本部が「食べ残しのカレーからヒ素が検出された」と発表[29]。同月6日には「混入されたヒ素は、亜ヒ酸またはその化合物」と発表された[29]

これを受け、捜査本部から「死因はヒ素中毒だった疑いがある」と報告を受けた警察庁科学警察研究所が新たに鑑定を実施した結果、4人の心臓および自治会長以外の3人の心臓から採取した血液から、それぞれヒ素が検出された[注 5][28]。これを受け、捜査本部は10月5日、4人の死因を当初の「青酸中毒(およびその疑い)」から「ヒ素中毒」に変更した[31]

毒物学の専門家である山内博(当時、聖マリアンナ医科大学助教授)によると、厚生省(現:厚生労働省)からの要請で山内が和歌山市中央保健所へ向かったのは中毒発生9日目で(事件発生の当日、山内はアメリカ合衆国に滞在)、山内が患者の尿を検査して急性ヒ素中毒であると正式に確定したのは中毒発生10日目だった。原因解明までの10日間、被害者に対して急性ヒ素中毒に有効な治療薬・BAL(British Anti Lewisite)の投与は行われず、対症療法のみであった。
山内によると、急性ヒ素中毒の原因は、カレールーを作る鍋に混入された三酸化ヒ素(無機ヒ素に属す,iAs)であった。三酸化ヒ素は無味無臭で刺激性がない毒物である。鍋に投入された三酸化ヒ素の結晶は大部分が溶解し、カレールーに含有していたヒ素は約6 mg/gと極めて高濃度であった。三酸化ヒ素の致死量は成人でおよそ300 mgとされるので、わずか50 gのカレールーを口にしただけで致死量に達する計算になる。被害者のヒ素摂取量は、重症者では200 mg以上のヒ素摂取者が確認され、軽症者では20 mgから30 mgであった[32]

逮捕・起訴

林 眞須美
生誕 (1961-07-22) 1961年7月22日(63歳)[20]
日本の旗 日本和歌山県有田市(矢櫃地区)[33]
住居 日本の旗 日本・和歌山県和歌山市園部1014番地の1(逮捕当時)[22]
職業 元保険外交員[34]
刑罰 絞首刑未執行
配偶者 林 健治[注 6][34]
有罪判決 死刑確定:2009年5月19日)[16][17]
殺人
犯行期間
1998年7月25日–同日
日本の旗 日本
都道府県 和歌山県
死者 4人
負傷者 63人
凶器 亜ヒ酸
逮捕日
1998年10月4日[34]
収監場所 大阪拘置所[20](2020年9月27日時点)[19]
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1998年10月4日、知人男性に対する殺人未遂と保険金詐欺の容疑で、元保険外交員で主婦の林 眞須美[34](はやし ますみ、1961年昭和36年〉7月22日[20] - 、事件当時37歳)が、別の詐欺および同未遂容疑をかけられた元シロアリ駆除業者の夫・林健治[注 6]とともに和歌山県警捜査一課・和歌山東警察署による捜査本部に逮捕され[34]、2人とも同月25日に和歌山地方検察庁から起訴された。

10月26日には、眞須美が別の殺人未遂[注 7]および詐欺容疑で、健治も眞須美と同じ詐欺容疑[注 8]でそれぞれ再逮捕され、11月17日に追起訴された[37]

11月18日、眞須美は健治らに対する殺人未遂容疑などで、健治も詐欺容疑で再逮捕され[37]、12月9日には眞須美と健治がそれぞれ詐欺罪で起訴されたほか、眞須美は健治らを被害者とする殺人未遂罪でも追起訴された[38]

さらに12月9日には、カレーの鍋に亜ヒ酸を混入した殺人と殺人未遂の容疑で眞須美が再逮捕された[39]。同年末の12月29日に眞須美は和歌山地検により、殺人と殺人未遂の罪で和歌山地方裁判所へ起訴された[40]

当局が眞須美をカレー毒物混入事件の犯人と断定した理由は[41]

  1. カレーに混入されたものと組成上の特徴を同じくする亜ヒ酸が、眞須美の自宅等から発見された[42]
  2. 眞須美の頭髪からも高濃度のヒ素が検出され、その付着状況から亜ヒ酸等を取り扱っていたと推認できる[42]
  3. 夏祭り当日、眞須美のみが上記カレーの入った鍋に亜ヒ酸をひそかに混入する機会を有しており、その際、眞須美が調理済みのカレーの入った鍋のふたを開けるなどの不審な挙動をしていたことも目撃されている[42]

ことによる(これらに対する眞須美側の反論は #冤罪疑惑を参照)。さらに眞須美は、カレー毒物混入事件発生の約1年半以内という近接した時期に、保険金取得目的で、1997年(平成9年)2月6日から翌1998年3月28日まで合計4回にわたり人の食べ物にヒ素を混入したが、どれもカレー事件前には発覚せず、まんまと保険金をせしめることに成功した。当局は、眞須美が「カレー毒物混入事件に先立ち、長年にわたり保険金詐欺に係る殺人未遂等の各犯行にも及んでいたのであって、その犯罪性向は根深いものと断ぜざるを得ない」[43]と考えた。和歌山県警は眞須美による犯行を裏付ける直接証拠がない中、多数の間接証拠(目撃証言など)の積み重ねにより、事件当日の状況を分刻みで再現し、嫌疑を否認していた被疑者(眞須美)が犯人であることを立証するという捜査手法を取ったが、『毎日新聞』(大阪本社版)はその手法が京都・大阪連続強盗殺人事件(1984年発生)の際に取られた手法と同一である旨を報じている[44]

刑事裁判

第一審

眞須美は容疑を全面否認したまま裁判へと臨み、1999年(平成11年)5月13日に和歌山地方裁判所(小川育央裁判長)で開かれた第一審の初公判では[45]5,220人の傍聴希望者が傍聴券抽選会場の和歌山城砂の丸広場に集まった[46]。これはオウム真理教事件麻原彰晃覚せい剤取締法違反の酒井法子に次ぎ、事件前に無名だった被告人としては最多である。裁判で和歌山地検が提出した証拠は約1,700点。1審の開廷数は95回、約3年7か月に及んだ。2002年(平成14年)12月11日に開かれた第一審判決公判で和歌山地裁(小川育央裁判長)は被告人・林の殺意とヒ素混入を認めた上で「4人もの命が奪われた結果はあまりにも重大で、遺族の悲痛なまでの叫びを胸に刻むべきだ」と断罪し、求刑通り被告人・林に死刑を言い渡した[13]

被告人・眞須美は判決を不服として、同日中に大阪高等裁判所控訴[13]。同月26日、身柄を丸の内拘置支所[注 9]から大阪拘置所へ移送された[16]

一方、保険金詐欺事件3件[注 10]の共犯として、詐欺罪で起訴された健治[注 6]は、2000年(平成12年)10月20日に和歌山地裁(小川育央裁判長)で懲役6年(求刑:懲役8年)の実刑判決を言い渡された[注 11][35][50]。判決は、眞須美の中心的役割を認めながらも、健治も保険金を支払わせる目的で大きな役割を果たしたと認定した[50]。和歌山地検[52]、健治ともに控訴せず、確定した[53]。健治は滋賀刑務所に服役し、2005年(平成17年)6月7日に刑期を満了して出所した[54]

控訴審

大阪高裁(白井万久裁判長)での控訴審初公判は2004年(平成16年)4月20日に開かれ[55]、結審まで12回を要した。2005年6月28日の控訴審判決公判で、大阪高裁第4刑事部(白井万久裁判長)[56]は「カレー事件の犯人であることに疑いの余地はない」として、一審判決を支持し、被告人・林側の控訴を棄却した[14]。被告人・林は判決を不服として同日付で最高裁判所上告した[14]

上告審

直接証拠も自白も無く黙秘権を行使し、動機の解明も出来ていない状況の中、弁護側が「地域住民に対して無差別殺人を行う動機は全くない」と主張したのに対し、最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は2009年(平成21年)4月21日の判決で「動機が解明されていないことは、被告人が犯人であるとの認定を左右するものではない」と述べ、動機を解明することにこだわる必要がないという姿勢を示した上で[57]、「鑑定結果や状況証拠から、被告人が犯人であることは証明された」と述べ、林側の上告を棄却した[15]

被告人・眞須美は、2009年4月30日付で死刑判決の破棄を求めて最高裁第三小法廷に判決の訂正を申し立てたが[58]、申し立ては同小法廷の2009年5月18日付決定で棄却され[6]、翌日(2009年5月19日)付で林の死刑が確定[16][17]。これにより林は、戦後日本では11人目の女性死刑囚となり[18][59]、同年6月3日以降は死刑確定者処遇に切り替わった[16]

再審請求

死刑囚・林は2009年7月22日付で和歌山地裁に再審を請求した(第1次再審請求)[60][61]。 なお、林は2020年9月27日時点で[19]死刑囚として大阪拘置所収監されている[20]

第1次再審請求は、和歌山地裁(浅見健次郎裁判長)の2017年(平成29年)3月29日付決定により棄却され[62]、これを不服とした林は2017年4月3日までに大阪高裁に即時抗告した[63][64]。しかし、大阪高裁第4刑事部(樋口裕晃裁判長)[41]は2020年(令和2年)3月24日付で死刑囚・林の即時抗告を棄却する決定を出した[65]ため、林はこれを不服として同年4月8日付で最高裁に特別抗告を行った[66]が、後述の第2次再審請求に一本化するため、2021年(令和3年)6月20日付で特別抗告は取り下げられ、第1次再審請求は棄却決定が確定した[67]

一方、特別抗告取り下げ前の2021年5月には、「事件は第三者による犯行」として和歌山地裁に第2次再審請求を行い、同月31日付で受理された[注 12][70]

ヒ素の鑑定方法
第1次再審請求に当たり、林とその弁護団は「無罪を言い渡すべき新たな証拠」として、「祭り会場に残された紙コップのヒ素が自宅から発見されたものとは異なる。京都大学の研究者の鑑定からも『事件当時のヒ素の鑑定方法は問題がある』ことは明らかだ」と主張した[62]
労働組合委員長との養子縁組
2014年(平成26年)3月、林は支援者の釜ヶ崎地域合同労働組合委員長・北大阪合同労働組合執行委員長・稲垣浩養子縁組している[71]。この養子縁組は、本人との定期的な面会を行うためと見られる[要出典]
目撃証言のTシャツの色
また、林は長男と手紙のやり取りをしており、長男が2019年(令和元年)5月3日にTwitterで公開した林からの3枚の手紙には、最も重要視されている近隣住民の目撃証言で「白いTシャツ」を着ていたとされる点に触れ、他の主婦らは黒っぽい服装をしていたと証言し、当の眞須美も黒いTシャツを着ていたと述べていたが、この手紙の中でも再三「黒色のTシャツ」を着ていたことを強調して述べている[72]
眞須美の長女らの死
第2次再審請求を起こしたことが報じられた2021年6月9日には、眞須美の長女(当時37歳)とその長女(当時16歳)、および次女(当時4歳)が死亡した。眞須美の長女は自殺とみられ、次女とともに関西国際空港連絡橋から飛び降りたとみられる[73]。その後、半年以上経った2022年2月16日に、長女の長女を虐待したとして、父親(眞須美の長女の夫)である40歳男性を保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕するとともに、眞須美の長女についても被疑者死亡のまま同容疑で書類送検した。長女の長女は眞須美の長女の前夫との間の娘で、離婚後は前夫と暮らしていたが、眞須美の長女が再婚するに当たって引き取られたものの、眞須美の長女と現夫が断続的に暴行するなど虐待を繰り返していたという[74][75]

2020年の大阪高裁決定を不服として最高裁に特別抗告中であったが、2021年(令和3年)5月31日付で、林は生田暉雄弁護士を代理人として和歌山地裁へ第2次再審請求を行っている。申立書では、供述調書の中で示された被害者資料鑑定結果表では、青酸化合物とヒ素の両方が67人の被害者全員の体内に含まれているという鑑定結果が出ており、青酸化合物が入っていたのなら、犯行に及んだのは、林死刑囚以外の第三者となり、林は無罪だとしている。生田によれば、林眞須美からの依頼を受け、2020年9月に面会して引き受け、2021年6月までに20回近く面会を重ねたが、林は、「オリンピックが終わると死刑が執行される」と怯えているという[76][77][68][70]。これに伴い、最高裁への特別抗告は2021年6月20日に取り下げた。このため再審開始を認めなかった和歌山地裁の決定が確定した[78]

裁判上の特記事項

第一審において被告人が完全黙秘を貫いたことに対して、メディアが批判的な報道を行ったため、和歌山地方裁判所の判決文において、黙秘権の意義に関し、もっぱらメディア向けとみられる一般的な判示がなされるなど、刑事裁判の在り方の点から見ても特異な事件となった。

ビデオ映像の証拠採用

裁判では、被告人が事件について語りテレビで放送された「ビデオ映像の証拠採用」についても争点となった。これは事案の重大性の中で黙秘を続ける被告人の事件に関する言葉が得られない中で、テレビ局の取材に対して被告人が事件に関するインタビューに応じているという事情があったため、真実解明という点で検察がテレビ局の被告人に対するインタビュー映像の証拠申請をしていた。

それに対し、報道機関はビデオ映像を証拠採用されることは取材方法に対する権力の介入として反発し、弁護側も誘導による不正確な発言および意図的な編集の可能性から証拠採用に反対した。

裁判所は数少ない被告人の事件に関する証言として、民放4社6番組から収録されたインタビュー映像計約13分間分を「言動が趣旨を異にすることなく再現されている」として供述録取書として採用した。また裁判所は「報道機関が報道し、国民の多くが知っている情報を、なぜ真実の追求を目的とする刑事裁判で証拠としてはならないのか、理解に苦しむ」と判決文で述べ、ビデオ映像採用に反発する報道機関に苦言を呈した。

被害者の症状

本事件で生存した63名について、和歌山県立医科大学皮膚科が行った調査がある[79]。たとえば、事件後2週間に被害者の多くに共通して見られた兆候は、次のとおりであった。

冤罪疑惑

本事件の最たる特徴として、被告人・林眞須美による犯行動機が一切なく、直接的な証拠も存在しないという点が挙げられる。

そのため、例えば「実際には家族や知人が毒を入れた可能性」や「被告人がその家族や知人を庇っている可能性」、「誰かに陥れられた可能性」などを否定できず、冤罪の疑惑がある事件として有識者からも問題点を指摘されている。

証拠も動機もない
  • 「批判を承知であえて言えば、本人が容疑を否認し、確たる証拠はない。そして動機もない。このような状況で死刑判決が確定してよいのだろうか?」(田原総一朗[80]
  • 「私のわだかまりも、この『状況証拠のみ』と『動機未解明』の2点にある。事件に、林被告宅にあったヒ素が使われたことは間違いない。ただし、そのヒ素に足があったわけではあるまいし、勝手にカレー鍋に飛び込むわけがない。だれかが林被告宅のヒ素をカレー鍋まで持って行ったことは確かなのだ。だが、果たしてそれは本当に林被告なのか、どうしたって、わだかまりが残るのだ。」(大谷昭宏[81]
  • 「動機未解明で有罪にすること自体はありえますが、動機というのは非常に有力な状況証拠です。動機がないなら証拠が一部欠けているということなので、他の証拠はそのぶんしっかりしてないといけません。しかし、他の証拠をみても、自白はなく、鑑定に問題はあり、原則禁じられた類似事実による立証をやっている。本件の場合は動機がないなら、全体的な証拠構造が問題です」「人は普通、動機がないと人を殺しません。しかもこの事件の場合、犯人が誰を殺そうとしたのかもわからない。動機がないと真相がわからない事案だけに、余計に、動機なしでいいのかな、と思いますね」(白取祐司[82]
黙秘権の侵害
  • 「2審判決は『誠実に事実を語ったことなど1度もなかったはずの被告人が、突然真相を吐露し始めたなどとは到底考えられない』と言ったが、これは実質的に黙秘権侵害です」(小田幸児 - 林の1審、2審、上告審弁護人)[82]
曖昧な目撃証言
  • 事件当時から目撃証言などの状況証拠を積み重ねてきたが、その中には不自然でつじつまの合わない証言も多く、関係者から疑問視されるケースもある。
  • 被告の次女は、「林死刑囚がカレー鍋の見張りを離れた時間が20分以上あり、他の人物が毒物を入れる機会はあった」と主張している。なお、身内による証言ということもあり、和歌山地裁はこの証言を証拠に採用しないことを決定した[21]
  • 「林眞須美しか、カレーにヒ素を混入する機会がなかった」という結論は、警察が住民らの証言をもとに1分刻みのタイムテーブルを作成し、「消去法」によって導き出したものであった。ところが事件直後の朝日新聞の報道では、時間の証言に裏付けのある人はまれで、総合すると最大で50分前後の開きがあった。ここから、1分刻みのタイムテーブルを作ったことが疑問視されている[21]
  • 事件発生直後、カレーライスを担当した主婦のうち1人が、「知らない人も出入りしたが、当番でコンビを組んだ相手の知り合いと思った」(朝日新聞)と述べている。それにも関わらず、「犯人は夏祭りの関係者の中にいる」という前提で、「消去法」による捜査が行われた[21]
  • 眞須美が「調理済みのカレーの入った鍋のふたを開けるなどの不審な挙動をしていた」という目撃証言についても、服の色や髪の長さなどから、目撃者が見たのは眞須美ではなく、次女である可能性が高い。しかも次女がふたを開けた鍋は、2つあったカレー鍋のうち、ヒ素が混入されていない方であった。ヒ素が混入された鍋は、目撃者からは死角になり見えなかったことが、死刑確定後の再調査によって明らかになっている[21]
鑑定の不確かさ
  • 裁判で林の犯行と断定される上での唯一の物証で決定的な証拠となっていた亜ヒ酸の鑑定において、犯行に使われたとみられる現場付近で見つかった紙コップに付着していたヒ素(亜ヒ酸)、林宅の台所のプラスチック容器についていたヒ素、カレーに混入されたヒ素の3つが東京理科大学教授の中井泉による鑑定の結果、組成が同一とされた。しかし、中井は鑑定依頼内容を、林宅のヒ素と紙コップのヒ素とカレーのヒ素の3つにどれだけの差違があるかを証明することではなく、3つの試料を含む林宅周辺にあったヒ素のすべてが同じ輸入業者経由で入ってきたものだったかどうかを調べることだと理解し、それを鑑定で確認したに過ぎなかった。このため有罪の決め手となった3つの試料の差違を詳細に分析はせず、3つの試料を含む10の試料のヒ素がすべて同じ起源であることを確認するための鑑定を行っていたにすぎなかった。林が自宅にあったヒ素を紙コップでカレーに入れたことを裏付けるためには、3つのヒ素の起源が同じであることを証明しただけでは不充分であり、その3つがまったく同一でなければならない[83]
  • 2012年、弁護側の依頼で鑑定結果の再評価を行った京都大学大学院教授の河合潤により、この3つの間には重大な差違があることがわかり、3つは同一ではないと評価された[83][21]。また、河合は最高裁でも林を有罪とした根拠とされる、被告人の頭髪からも高濃度のヒ素が検出されたとする鑑定結果についても、過誤があったと指摘している[21]
夫への誘導尋問問題、司法取引疑惑
  • 林死刑囚の夫・林健治によれば、逮捕された際捜査員より「眞須美はオトせない!頼むから眞須美にヒ素を飲まされたと書いてくれ!書いてくれたらあんたを八王子の医療刑務所に入れるようにしてやる」と言われたという[84]。これは現在では司法取引に該当するが、当時は司法取引が認められていなかったことには留意が必要である。
  • 上記の件に関しては、2020年10月27日に公開されたYouTube動画でも林健治自身が詳しく語っている。それによると、逮捕から約1週間後、19時ころに検察庁から小寺検事と事務官2名が健治の拘留されている警察署を訪れた。
    健治が「確たる証拠証人もなく、ワシも口割ってないのに、なぜ逮捕し勾留しているのか」と質問したのに対し、小寺は「アホ、こんだけ世間を騒がしてマスコミが騒いで、パクッて今さら、間違えましたではすまんやろ」と返答したため、健治が「死刑事案なのに、想像でパクッてしまうんか?」と質したところ「いや、今からそのストーリーをワシが考えてやる」、「しかし、証拠がないから困っている」と言い、健治に向かって眞須美にヒ素を飲まされて殺されかかった被害者として初公判で「私、今でこそ眞須美が憎くて仕方ない。どうぞ、この女を死刑にしてやってくれ」と言って泣けと言った。
    さらに、小寺は健治の事件の公判も担当することから、求刑も自分が出すので塩梅してやる。ワシに乗れ。ワシに乗ったらお前は身体が不自由だから、エエとこに放り込んでやると言って、八王子の医療刑務所のパンフレットを出し健治に見せたが、そこにはMRIなど最新鋭の医療機器が写っていたという。さらに、今、八王子には角川春樹が収監されているので、彼に本を書いてもらえと言った。小寺は「この事件でワシを出世させてくれ」「ワシもお前と同じで4人子供がいる。よい正月を迎えさせてくれ」と事務官2人とともに土下座をしたという。
    さらに「お前がどうしても口を割らないのなら、眞須美にひとこと言わせてやる。"私は元日本生命の外交員です。あの日昼頃帰って、主人が何か紙コップに入った薬品のようなものを私に渡して、これカレーの中に入れたら隠し味になって美味しいんで持っていって入れてこいというので、何かわからずに入れました。ヒ素は主人から預かっていたもので、私は知りません。主人の言うままにやっただけです"-これひとこと、眞須美にしゃべられたら、一生お前の人生は裁判になってしまうぞ!」と恫喝したというが、健治が応じなかったため、小寺は手を上げてしまったという。健治も眞須美も検察の供述調書には1枚もサインをしなかった[85]
  • ノンフィクションライターの片岡健も2021年5月28日に公開されたYouTube動画で、上記の健治の主張を裏づけるような話をしている。片岡によると、「林眞須美に保険金目的でヒ素や睡眠薬を飲まされた被害者」とされた男6人のうち、健治を含む多くの者がカレー事件発生以前は眞須美と保険金詐欺の共犯関係にあったという。そして健治以外の者たちの何人かは警察によって山奥の警察官官舎に3、4カ月隔離されるなどしており、このことは、林の死刑判決でも認定されているという。[86]
科捜研主任研究員による証拠捏造
  • 2012年、カレー事件を捜査していた和歌山県警科捜研主任研究員が、他の事件で証拠を捏造したとして証拠捏造、有印公文書偽造および行使容疑で書類送検されたことが判明した。しかし、捜査関係者によれば、研究員が携わったカレー事件での捏造はなかったと結論づけている[87]

本事件の影響

林眞須美の家族

林夫婦には4人の子供がいたが、事件当時はマスメディアが24時間自宅を取り囲み、子供らは外出ができなくなり、通学もできなかった。当時中学3年生で高校受験を控えた長女が残した当時のノートには、「ポスト、誰かのぞく」「家の中みてる。じ~っと」など、家を取り囲むマスコミの姿が描かれていた。長男は、長女の中にはこの頃の記憶が鮮明に残っており、恐怖心として残り、自殺につながったのではないかと推測している[88][89]

両親の逮捕後、子供らは児童養護施設に預けられるが、「カエルの子はカエル」と言われ、壮絶ないじめを受けた。長女は、他の3人の子供が警察に事情聴取に呼ばれた際には「分からないことは分からないと言いなさい」と諭すなど、母親代わりとなり、兄妹の面倒を見た。事件の7年後、長女は21歳で結婚し娘を出産。その4年後、最高裁で母・眞須美の死刑が確定。長女は境遇を隠すため、母や長男とは一切関係を断つよう、家族に告げたという。長女は名前を変え周囲には素性を隠して暮らし始めた。しかし、8年後には離婚。娘の親権は夫に渡る。その理由は、夫には両親がいることだった。このため長女は長く娘には会えなかった。長女が事件にとらわれる姿を離婚後に交際した男性が記憶しており、その男性の証言では、事件のことがいつ流れるかもしれないため、長女は部屋にテレビがあっても付けない。「見ていい?」と男性が聞くといつも音楽をかけていた。顔を撮られることを恐れ、男性の手元には後姿の画像しか残されていなかったという[88][89]

子供らの中では、長男だけが唯一、無実を訴える母・眞須美と面会を続けてきた。長男も職場や友人には身分を隠しており、そのことによる罪悪感を感じながら生きているが、長女も自分を偽って暮らしていく中で、自分の付いている嘘に飲み込まれる感じがあり、虚しさみたいなものがあっただろうと推測している。長女は2015年に再婚。新たに娘を出産。第2次再審請求を起こしたことが報じられた2021年6月9日に、長女(当時37歳)とその長女(当時16歳)、および次女(当時4歳)が死亡した。眞須美の長女は自殺とみられ、次女とともに関西国際空港連絡橋から飛び降りたとみられる。16歳の長女は、虐待の痕があり不審死であったが、真相は不明で警察が夫から事情を聴くなど捜査中である[73][89]

長女は、亡くなった2021年現在、長男とは10年以上も連絡を取っていなかった。長女の死は、長男によって眞須美に伝えられたが、眞須美は「この中にいて何もすることができず、守ってあげられなくて悔しい」と何度も言ったという。インターネット上には、2021年現在も家族への誹謗中傷が溢れている[88]

カレーライスのイメージ悪化

和歌山毒物カレー事件では、報道で「毒入りカレー」の文字が前面に出ていたためカレーライスのイメージが悪化し、食品会社はカレーのCMを自粛。料理番組でもカレーライスのレシピ紹介を取りやめた。また、テレビアニメ『たこやきマントマン』と『浦安鉄筋家族』では、ストーリーにカレーライスが出る回が放送されなかった[注 13]。そして、日本ではちょうど夏祭りが各地で開催される時期だったことから、事件後は各地の夏祭りで食事の提供が自粛されるなどの騒動に発展した。

この他、前述の犠牲者である小学4年生の男子児童は事件当時、和歌山市立有功小学校に通学していたが[90]、同小学校では事件発生から19年が経った2017年時点でも、学校給食の献立でカレーライスが出されていない[注 14][91]

模倣犯の出現

和歌山毒物カレー事件の後、飲食物に毒物を混入させるといった模倣犯が日本では多数現れた。中でもアジ化ナトリウムは混入が相次ぎ、1999年にはアジ化ナトリウムの管理を徹底させるべく、日本においてアジ化ナトリウムは毒物に指定され、毒物及び劇物取締法による流通規制が行われるに至った。

林眞須美が起こした訴訟

最高裁判所判例
事件名 損害賠償請求事件
事件番号 平成15(受)281
2005年(平成17年)11月10日
判例集 民集 第59巻9号2428頁
裁判要旨

1 人はみだりに自己の容ぼう,姿態を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し,ある者の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。
2 写真週刊誌のカメラマンが,刑事事件の被疑者の動静を報道する目的で,勾留理由開示手続が行われた法廷において同人の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影した行為は,手錠をされ,腰縄を付けられた状態の同人の容ぼう,姿態を,裁判所の許可を受けることなく隠し撮りしたものであることなど判示の事情の下においては,不法行為法上違法である。
3 人は自己の容ぼう,姿態を描写したイラスト画についてみだりに公表されない人格的利益を有するが,上記イラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては,イラスト画はその描写に作者の主観や技術を反映するものであり,公表された場合も,これを前提とした受け取り方をされるという特質が参酌されなければならない。
4 刑事事件の被告人について,法廷において訴訟関係人から資料を見せられている状態及び手振りを交えて話しているような状態の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は,不法行為法上違法であるとはいえない。

5 刑事事件の被告人について,法廷において手錠,腰縄により身体の拘束を受けている状態の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は,不法行為法上違法である。
第一小法廷
裁判長 島田仁郎
陪席裁判官 横尾和子甲斐中辰夫泉徳治才口千晴
意見
多数意見 全員一致
意見 なし
反対意見 なし
参照法条
民法709条,民法710条,憲法13条,刑訴規則215条
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林眞須美は、本事件後に多数の訴訟を起こしたことで知られる。

その中で「カレー毒物混入事件法廷写真・イラスト訴訟」では、取材対象に無断で撮影した写真や、無断で描画したイラストを報道した時に、肖像権侵害となるのはどういった場合なのかについて、日本の最高裁判所として初めて基準を示すに至った[92]。この中で最高裁は、撮影や描画された人物の社会的地位、活動内容を鑑みて、撮影や描画を行った場所、目的、さらに、撮影や描画をどのように行ったか、そもそも撮影や描画の必要性があったかを総合し、撮影や描画された側の人物が社会生活上の我慢の限度を超えるかどうかで判断すべきとし、林眞須美の写真や一部のイラストについて違法と判断した[92]

なお、この訴訟以外にも、例えば2012年に再審請求中の林は、事件の裁判において虚偽の証言をしたとして、100万円の損害賠償を求めて夫を提訴した。

その他、週刊朝日の調べにより、マスメディア関係者や事件の発生地の地元住民、生命保険会社に勤務していたときの同僚など、計50人ほどを相手に訴訟を起こしていることが判明。しかし、弁護士も立てていないため訴訟の遂行は難しいという。

かつてメディアを相手に500件以上の訴訟を起こしたロス疑惑三浦和義は生前、林を支援しており、林に対しマスメディアを訴えることを勧め、手紙や面会で方法を伝授していた。これに対し林も「三浦の兄やん、民事で訴えちゃるって、ええこと教えてくれた」と答えた[93]

2017年3月、和歌山地裁は請求を棄却したが、弁護団は即時抗告するとともに、有罪を根拠づけたヒ素鑑定を行った東京理科大学教授の中井泉らを相手取り、6500万円の損害賠償を求める民事訴訟を提起した[21]

その他

  • 障害者郵便制度悪用事件村木厚子を取調べ中に、担当検察官である國井弘樹は村木に向かい「あの事件だって、本当に彼女がやったのか、実際のところは分からないですよね」といい、否認を続けることで冤罪で罪が重くなることを暗示し、自白を迫った[94]
  • 逮捕前、自宅を取り囲む報道関係者たちに笑いながらホースで放水している姿を撮った映像が繰り返し使用され、ふてぶてしい印象付けがメディアによりなされたが、これについて後に夫は、報道が過熱し夜中中取り囲まれたが、彼らが蚊に刺されないよう殺虫剤を持って行ったりしたにもかかわらず、郵便受けから郵便を抜き取ったり、塀にはしごをかけ2階の子供部屋を盗撮したりされたため、眞須美に「あいつらのぼせ上ってるから、記者会見する言うて集めて、上からいっぺん頭冷やしたれ」と命令したとした上で、「いかにもカレーに毒入れそうなおばはんの『絵』」にされたと語っている[95]
  • フジテレビジョンニュースJAPAN』で、キャスターの安藤優子が事件の注目人物であった逮捕前の林に電話インタビューを試みている。逮捕前だったこともあり、注目人物であった林の名前を自主規制音を被せて匿名化していたが、編集ミスで1か所だけ自主規制音が入っていなかったため、その部分だけ「林さんは…」という言葉がのって放送されてしまった。そのため、林から「おかげで外に買い物にも行けない。どうしてくれるのか?」と、猛抗議を受けた。
  • 林夫婦が住んでいた家(木造2階建て住宅・約180 )は2人の逮捕後、無人となり、壁などに落書きされたり、無断で敷地内に侵入したりする者が相次いでいたため、和歌山東警察署パトロールを継続していたが[96]、2000年(平成12年)2月16日未明に放火され、全焼した[注 15][97]。そのニュースを聞かされた獄中の林は「ああ、そう」と答えた。林の自宅はその後解体され[102]、土地(約360 ㎡)は競売に出された結果、2004年春に地元自治会が住民からの寄付を募って、380万円で買い取った[103]。そして、住民たちの協議により、花壇として整備された[注 16][104]

関連書籍

  • 週刊文春特別取材班『林真須美の謎 ヒ素カレー・高額保険金詐取事件を追って』ネスコ、1998年12月。ISBN 978-4890369935 
  • 三好万季『四人はなぜ死んだのか インターネットで追跡する「毒入りカレー事件」』文藝春秋、1999年7月。ISBN 978-4163554303 
  • 林眞須美『死刑判決は『シルエット・ロマンス』を聴きながら 林眞須美 家族との書簡集』講談社、2006年8月。ISBN 978-4062135139 
  • 今西憲之「和歌山カレー毒物混入事件 林真須美被告の夫・健治氏 独占告白10時間「私たち夫婦は保険金詐欺のプロ。金にならんことはやらん。真犯人は別」」『週刊朝日』第111巻第56号、朝日新聞社出版部、2006年11月3日、36-39頁、NAID 40007455802  - 2006年11月3日号・通号4782。
  • 林眞須美、林健治(林眞須美の夫)、篠田博之(月刊『創』編集長)『和歌山カレー事件 獄中からの手紙』創出版、2014年7月15日。ISBN 978-4904795316  - 林夫妻と本事件を取材し続けている篠田らによる共著書。
  • 帚木蓬生『悲素』新潮社、2015年7月。ISBN 978-4103314226  - 事件に関わった実在の医師の記録に基づく小説。
  • 田中ひかる『「毒婦」和歌山カレー事件20年目の真実』ビジネス社、2018年7月。ISBN 978-4828420370 
  • 和歌山カレー事件 林眞須美死刑囚長男『もう逃げない。〜いままで黙っていた「家族」のこと〜』ビジネス社、2019年7月。ISBN 978-4828421155 

参考サイト

脚注

注釈

  1. ^ a b c 夏祭りは住民の親睦を図るため[8]、1992年(平成4年)に園部第14自治会が主導して毎年7月の最終土曜日に開催していた[9]。ただし、1997年(平成9年)は病原性大腸菌O157の影響で中止されていた[8]。事件後、自治会の夏祭りは開かれていない[10]
  2. ^ 後に混入された毒物は亜ヒ酸[3]と判明した。
  3. ^ 当初発表では患者数は66人とされていたが[8]、7月27日になって新たに1人(軽症)が入院した[25]
  4. ^ 和歌山市保健所には25日22時ごろ、患者が搬送された一病院から「青酸化合物特有の瞳孔が閉じている症状が出た」という連絡があったが、他の病院に問い合わせても同様の報告はなかったため、保健所は毒物対応を具体的に指示しなかった[8]
  5. ^ この際、使用された毒物の組成を調べるために、SPring-8が使用された。亜ヒ酸に含まれる特定の不純物元素の量を比較して、異同識別が行われた。この為の重元素不純物の検出には『SPring-8の性能が必要』とされたためである[30]
  6. ^ a b c 林健治(1945年〈昭和20年〉5月6日[35] - )は2014年、実名で妻・眞須美や篠田博之月刊『創』編集長)とともに著書『和歌山カレー事件 獄中からの手紙』(創出版)を出版している[36]
  7. ^ 知人男性(当時35歳)にヒ素入りのうどんを食べさせて殺害しようとした容疑[37]
  8. ^ 林夫婦が共謀し、健治の病状を偽って高度障害保険金約1億3,700万円を詐取したとされる容疑[37]
  9. ^ 丸の内拘置支所は、和歌山市広瀬中ノ丁2丁目110に所在する[47]。眞須美が収容されていた当時は和歌山刑務所の下部組織だった[48]が、2007年(平成19年)3月30日付で交付された[49]平成19年法務省令第16号[48](同年4月1日から施行)により[49]大阪刑務所の下部組織となった[48]
  10. ^ # バイク事故偽装事件:1993年5月、健治が旅館で転倒して骨折したのをバイク事故が原因と偽装し、後遺障害保険金など2,052万円を詐取した[50]
    1. やけど事件:1996年2月の眞須美の両足やけどの原因を自転車事故と偽り、入院給付金459万円を詐取したほか、後遺障害保険金など7,443万円の詐取を図った[50]
    2. 高度障害偽装事件:1997年4月 - 8月に健治が入院した際、両手足の機能を失ったように装い、高度障害保険金1億3,768万円を詐取した[50]
  11. ^ 健治は同判決について、月刊『創』編集部宛の手記(同誌2000年12月号〈11月7日発売〉に掲載)で、「長い刑期を願っていたこともあったが、懲役6年を言い渡されて『何と軽い量刑だ』と思った。毒物カレー事件は保険金詐欺とは質が違いすぎ、どうしても結びつかない。眞須美の無罪を心から信じている」と述べている[51]
  12. ^ 同日時点では第1次再審請求(2009年の請求)は特別抗告中で終了していなかったが、林の弁護人を務める生田暉雄弁護士は、「異なる申立ての理由があれば、さらに再審請求できる」と説明していた[68]。なお、第2次再審請求の弁護人は第1次再審請求の弁護人とは別人である[69]
  13. ^ これらの回は、前者は再放送時に初放送され、後者はVHSソフト化の際に収録された。
  14. ^ 2017年に有功小学校の校長は『産経新聞』記者の取材に対し、その理由を「何年たってもわが子を失った痛みは消えない。重く受け止めたい」と述べている[91]
  15. ^ 放火犯の男は同年4月3日に和歌山県警察非現住建造物等放火容疑で逮捕されたほか[97]、放火する4日前(2月12日)には林宅に侵入して現金やセカンドバッグ・腕時計など(時価合計約21万3,500円相当)を盗んだとして、窃盗容疑でも追送検された[98]。男はそれらの罪で和歌山地方裁判所に起訴され[99]、2001年9月6日に「窃盗は計画的な犯行で、放火の手段も巧妙。また、住民に著しい危険・恐怖を与えた」として、懲役8年を求刑されたが[100]、同年10月30日に和歌山地裁(小川育央裁判長)から「放火は衝動的・快楽的な犯行だが、犯行時は心神耗弱状態だった」として、懲役4年の実刑判決を受けた[101]
  16. ^ 事件から20年となる2018年(平成30年)には、事件の風化を防ごうと植樹する計画が持ち上がったが、被害者から「事件を思い出すのが辛い」という反対の声が上がり、中止された[10]

出典

  1. ^ a b c d e 和歌山地裁 2003, p. 2.
  2. ^ a b 和歌山毒物カレー事件から19年 犠牲の男児の通学先、今も給食にカレーのメニューなし」『産経新聞産業経済新聞社、2017年7月24日、2面。オリジナルの2021年1月4日時点におけるアーカイブ。2021年1月4日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h 最高裁第三小法廷 2009, p. 1.
  4. ^ a b 最高裁第三小法廷 2009.
  5. ^ 最高裁第三小法廷 2009, pp. 6–7.
  6. ^ a b 『中日新聞』2009年5月21日朝刊第一社会面35面「毒物カレー事件 林被告の死刑確定 判決訂正申し立て 最高裁が棄却」(中日新聞社)
  7. ^ a b c d e 読売新聞』1998年7月27日東京朝刊第14版一面1頁「カレーに青酸 4人死亡 夏祭り会場で混入 和歌山 66人中毒、42人入院 無差別殺人で捜査」(読売新聞東京本社) - 『読売新聞』縮刷版 1998年(平成10年)7月号1425頁
  8. ^ a b c d e f g 『毎日新聞』1998年7月27日東京朝刊第14版一面1頁「和歌山・夏祭り カレーに青酸 4人死亡 何者かが混入の疑い 62人手当て、うち39人入院」(毎日新聞東京本社) - 『毎日新聞』縮刷版 1998年(平成10年)7月号1067頁
  9. ^ 『読売新聞』1998年7月28日東京夕刊第4版第一社会面11頁「青酸カレー 定番メニュー狙う? 段取り熟知か 30分前には混入」(読売新聞東京本社) - 『読売新聞』縮刷版 1998年(平成10年)7月号1399頁
  10. ^ a b 『中日新聞』2018年7月24日夕刊第三社会面24頁「毒物カレー20年 苦悩今も 地元「風化防ぐ」「忘れたい」」(中日新聞社 記者:豊田直也)
  11. ^ 和歌山「毒物カレー事件」から22年 現場の空き地で静かに祈り」『NHKニュース日本放送協会、2020年7月25日。オリジナルの2020年7月25日時点におけるアーカイブ。
  12. ^ 林死刑囚の再審請求、地裁が棄却 和歌山カレー事件」『朝日新聞デジタル』朝日新聞社、2017年3月29日。オリジナルの2021年2月23日時点におけるアーカイブ。2021年2月23日閲覧。
  13. ^ a b c 『中日新聞』2002年12月12日朝刊一面1頁「林真須美被告に死刑 毒物カレー事件和歌山地裁判決 ヒ素混入と殺意認定 激高説否定 動機不明のまま 被告側が即日控訴」(中日新聞社)
  14. ^ a b c 『中日新聞』2005年6月28日夕刊1面「毒物カレー事件 真須美被告二審も死刑 大阪高裁控訴棄却『供述信用できず』被告側が上告」(中日新聞社)
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    • 裁判官:佐村浩之(裁判長)・大野正男・井田宏
    • 原告(控訴人):林眞須美および再審請求審の弁護人4人
      • 控訴人・林の訴訟代理人弁護士:安田好弘
      • 林以外の4人の訴訟代理人弁護士:上田豊・荒木晋之介・大堀晃生
    • 被控訴人:国(代表者法務大臣上川陽子、指定代理人:飛田由華)
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    • 判決主文:被告人を懲役6年に処する。未決勾留日数中500日を右刑に算入する。訴訟費用は被告人の負担とする。
    • 裁判官:小川育央(裁判長)・遠藤邦彦・安田大二郎
    • 被告人:林健治 昭和20年5月6日生まれ 無職 本籍:和歌山市園部1014番地1 住居:和歌山市園部1014番地の1
    • 検察官:小寺哲夫、古﨑孝司
    • 弁護人:豊田泰史、木村哲也、太田健義
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    • 判決主文:本件控訴を棄却する。
    • 裁判官:白井万久(裁判長)・畑山靖・的場純男(的場はてん補のため署名できず)
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参考文献

刑事裁判の判決文

死刑囚(林眞須美)の再審請求に対する決定文

民事裁判の判決文

書籍

関連項目

外部リンク