「カエルツボカビ症」の版間の差分
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[[Image:Chytridiomycosis.jpg|thumb|250px|'''1'''. カエルツボカビ症で死亡したカエル]] |
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'''カエルツボカビ症'''(カエルツボカビしょう、[[英語|英]]: chytridiomycosis)は、[[ツボカビ門]]に属する菌類の1種である'''カエルツボカビ''' ([[学名]]: {{Snamei||Batrachochytrium dendrobatidis}}) によって引き起こされる[[両生類]]の[[感染症]]である(図1)。[[中米]]や[[オーストラリア]]で両生類の大量死を引き起こしたことで、1998年に初めて認識された。カエルツボカビは両生類の皮膚で[[ケラチン]]などを栄養分として増殖し、皮膚呼吸など皮膚のさまざまな機能を阻害する。一般的な症状としては皮膚の脱落や変色、紅斑の発症、運動失調を示し、重症化すると死亡する。カエルツボカビは1本の[[鞭毛]]をもつ遊走子を形成・放出し、これが再び両生類の皮膚に感染する。世界的な[[両生類の減少]]の一因となっているが、[[東アジア]]では大きな被害は見られない。カエルツボカビはもともと東アジアで両生類と安定的な関係を結んでいたが、人間活動によって世界中に広がり、抵抗性がない両生類に壊滅的な被害を与えていると考えられている。また、カエルツボカビの近縁種である'''[[#イモリツボカビ|イモリツボカビ]]'''({{snamei||Batrachochytrium salamandrivorans}})は[[有尾類]]([[イモリ]]、[[サンショウウオ]])のみに寄生し、[[オランダ]]などの[[ファイアサラマンダー]]に大きな被害を与えた。 |
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== 原因菌 == |
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{{生物分類表 |
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| 画像キャプション = {{snamei||Atelopus varius}} 表皮組織中のカエルツボカビ ({{snamei|Batrachochytrium}} sp.)。矢頭は遊走子嚢。 |
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| 名称 = カエルツボカビ |
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| 界 = [[菌界]] {{Sname||Fungi}} |
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| 目 = [[フタナシツボカビ目]] {{Sname||Rhizophydiales}}<ref name="MycoBank" /> |
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| 科 = [[カエルツボカビ科]] {{Sname||Batrachochytriaceae}}<ref name="Wijayawardene2018">{{Cite journal|author=Wijayawardene, N. N., Pawłowska, J., Letcher, P. M., Kirk, P. M., Humber, R. A., Schüßler, A., ... & Hyde, K. D.|year=2018|title=Notes for genera: basal clades of Fungi (including Aphelidiomycota, Basidiobolomycota, Blastocladiomycota, Calcarisporiellomycota, Caulochytriomycota, Chytridiomycota, Entomophthoromycota, Glomeromycota, Kickxellomycota, Monoblepharomycota, Mortierellomycota, Mucoromycota, Neocallimastigomycota, Olpidiomycota, Rozellomycota and Zoopagomycota)|journal=Fungal Diversity|volume=92|issue=1|pages=43-129|doi=10.1007/s13225-018-0409-5}}</ref> |
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| 科 = [[ツボカビ科]] [[:en:Chytridiaceae|Chytridiaceae]] |
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| 属 = カエルツボカビ属 {{Snamei||Batrachochytrium}} |
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| 種 = '''カエルツボカビ''' {{Snamei||Batrachochytrium dendrobatidis|B. dendrobatidis}} |
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| 学名 = {{Snamei||Batrachochytrium dendrobatidis}}<br /><small>{{AUY|Longcore, Pessier & D.K. Nichols|1999|bio=bot}}</small><ref name="MycoBank">{{Cite web|author=|date=|url=https://www.mycobank.org/page/Name%20details%20page/name/Batrachochytrium|title=''Batrachochytrium''|website=MycoBank|publisher=|accessdate=2022-09-25}}</ref> |
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| 和名 = カエルツボカビ |
| 和名 = カエルツボカビ、カエルツボカビ菌<ref name="五箇2014" /> |
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| 英名 = chytrid fungus |
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カエルツボカビ症の原因菌は、[[ツボカビ門]][[ツボカビ綱]]の1種である'''カエルツボカビ''' ([[学名]]: {{snamei||Batrachochytrium dendrobatidis}}) であり、1999年に新属新種として記載された<ref name="Longcore1999">{{Cite journal|author=Longcore, J. E., Pessier, A. P. & Nichols, D. K.|year=1999|title=''Batrachochytrium dendrobatidis'' gen. et sp. nov., a chytrid pathogenic to amphibians|journal=Mycologia|volume=91|issue=2|pages=219-227|doi=10.1080/00275514.1999.12061011}}</ref>。属名の "''Batracho-chytrium''" は[[ギリシア語]]の「カエル」(''batracho'')と「壺(つぼ)」(''chytr''; 生物学においてはしばしばツボカビ類を意味する)に由来し、種小名の "''dendrobatidis''" は、[[ヤドクガエル属]] ({{snamei|Dendrobates}}) からの分離株が記載の際に[[タイプ (分類学)|タイプ]]に用いられたことに由来する<ref name="宇根2017" /><ref name="Longcore1999" />。また、[[ファイアサラマンダー]]など有尾類に寄生する近縁種が確認され、2013年にカエルツボカビ属の2番目の種、[[#イモリツボカビ|イモリツボカビ]](サンショウウオツボカビ、{{snamei||Batrachochytrium salamandrivorans}})として記載された<ref name="宇根2017" />。ツボカビ綱の中には腐生性(生きていない[[有機物]]を栄養源とする)の種に加えて[[藻類]]、[[菌類]]、[[陸上植物]]、[[ワムシ]]、[[線虫]]、[[昆虫]]などに寄生する種が知られているが、[[脊椎動物]]に寄生するものは、カエルツボカビ属と、淡水魚に寄生する {{Snamei||Ichthyochytrium}} のみが知られている<ref name="Van Rooij2015" />。 |
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[[Image:Batrachochytrium dendrobatidis.jpg|thumb|245px|写真中の幾つかの小さな球体がカエルツボカビ遊走子嚢。<br />淡水中の (a) 節足動物や (b) 藻類に付着<br />バーは30μmを表す]] |
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'''カエルツボカビ症'''(蛙壷黴症、カエルツボカビしょう)は、[[ツボカビ門|ツボカビ]]の一属一種の真菌[[カエルツボカビ]] ({{snamei|Batrachochytrium dendrobatidis}} Longcore et al., 1999) によって引き起こされる[[両生類]]の致死的な[[感染症]]である。野生の個体群でのこの疾病に対する効果的な対策は存在しない。ただし、[[カエル]]の種によって感受性は異なり、[[アフリカツメガエル]] (''Xenopus laevis'') や[[ウシガエル]] (''Rana catesbeiana'') は感染しても発症しない。 |
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[[ファイル:Batrachochytrium species, life cycle in culture.jpg|thumb|center|400px|'''2'''. カエルツボカビ属の[[生活環]]: (A) [[遊走子]]、(B) [[シスト]]化した遊走子、(C) [[仮根]]をもつ菌体、(D) 未成熟の[[胞子嚢|遊走子嚢]]、(E) 放出管から遊走子を放出する遊走子嚢、(B1, B2; [[#イモリツボカビ|イモリツボカビ]]のみ) 発芽管を通じた出芽的増殖]] |
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== 概要 == |
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{{独自研究|section=1|date=2015年5月}} |
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カエルツボカビ症は、上記のカエルツボカビが、カエルの体表に寄生・繁殖し、カエルの皮膚呼吸が困難になる病気である。発病すると食欲の減衰が見られ、ひどくなると体が麻痺し、死ぬこともある。 |
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カエルツボカビは、細胞後端から後方へ伸びる1本の[[鞭毛]]をもつ[[遊走子]]によって増殖する<ref name="Van Rooij2015" />(上図2A)。遊走子は球形から楕円形、直径はふつう3–5[[マイクロメートル]] (µm)、鞭毛長は 20 µm ほどである<ref name="Longcore1999" />。遊走子は[[ケラチン]]やその主要構成[[アミノ酸]]である[[システイン]]、両生類の粘液構成糖に対して[[走化性]]を示すことが報告されている<ref name="Van Rooij2015" />。遊走子は[[両生類]]の皮膚に着生すると鞭毛を吸収し、[[細胞壁]]を形成して[[シスト]]化する<ref name="Van Rooij2015" />(上図2B)。シスト化した細胞は発芽管を伸ばして[[角質層]]や[[顆粒層]]の細胞内に侵入し、また仮根を形成して皮膚の[[タンパク質]]である[[ケラチン]]などを分解・利用して成長する<ref name="Van Rooij2015" /><ref name="宇根2017" /><ref name="稲葉2013">{{cite book|author=稲葉重樹|year=2013|chapter=カエルツボカビ|editor=日本菌学会 (編)|title=菌類の事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254171471|pages=20}}</ref><ref name="Van Rooij2015" />(上図2C, D, 下図3a)。遊走子嚢は細胞表面に外生、または細胞内に内生する<ref name="Van Rooij2015" />。[[内臓]]などに侵入することはない<ref name="Van Rooij2015" />。菌体の本体はふつう単細胞のままであるが、ときに複数の細胞に分裂することもあり、前者は[[単心性]](1個の[[胞子嚢|遊走子嚢]])の、後者は[[多心性]](複数の遊走子嚢)の菌体になる<ref name="Van Rooij2015" />(上図2E)。遊走子嚢内では、最大で300個ほどの遊走子が形成される<ref name="宇根2017" />。遊走子嚢は放出管を形成し、これを通って遊走子が放出される<ref name="Van Rooij2015" /><ref name="宇根2017" />(下図3b, c)。好条件では、着生した遊走子が発達して遊走子嚢になり、遊走子を放出するまで4–5日で完了する<ref name="宇根2017" /><ref name="Van Rooij2015" />。 |
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この病気は[[北米]]西部・[[中央アメリカ|中米]]・[[南アメリカ|南米]]・[[オーストラリア]]東部で劇的な[[両生類の減少]]あるいは[[絶滅]]を引き起こしてきた。この病気は世界的な両生類の生息数と、世界の両生類種の30%もの種数の減少に関連している<ref>Stuart, S. N., J. S. Chanson, ''et al.'' (2004). "Status and trends of amphibian declines and extinctions worldwide." Science 306: 1783-1786.</ref>。減少のうちいくらかはこの菌によるものと信じられているが、感染に抵抗している種もあり、またいくつかの個体群が感染が低レベルで持続して生き延びていることも報告されている<ref>Retallick, R. W. R., H. McCallum, ''et al.'' (2004). "Endemic Infection of the Amphibian Chytrid Fungus in a Frog Community Post-Decline." PLoS Biology 2(11): e351.</ref>。研究室での調査では、この菌は高温ではあまり活動しないとされており<ref>Berger, L., R. Speare, ''et al.'' (2004). "Effect of season and temperature on mortality in amphibians due to chytridiomycosis." Australian Veterinary Journal 82: 31-36.</ref>、また感染したカエルを高温に晒せば菌を殺せるとも言われている<ref>Woodhams, D. C., R. A. Alford, ''et al.'' (2003). "Emerging disease of amphibians cured by elevated body temperature." Diseases of aquatic organisms 55: 65-67.</ref>が、素人判断は薦められない。{{独自研究範囲|専門家の指導の下、抗真菌薬による治療が望ましい。飼育容器や捕獲に使用した器具や排水の滅菌は、100倍程度に希釈した市販漂白剤(200ppm次亜塩素酸ナトリウム溶液)に15分つけ置き或いは60℃以上(但し、資料によっては50℃の記述もある)の温水で5分間が推奨されている。|date=2015年5月}} |
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[[#イモリツボカビ|イモリツボカビ]]の特徴も、上記のカエルツボカビとほぼ同様である(下図3a)。ただし、シスト化した遊走子から生じた発芽管の先に新たな菌体を形成することがあり(上図2B1, B2)、また遊走子嚢が多心性となることが多い<ref name="Van Rooij2015" /><ref name="Martel2013" />([[#イモリツボカビ|下記参照]])。 |
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== 原因菌 == |
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原因菌は、カエルツボカビ ({{snamei|Batrachochytrium dendrobatidis}}) で、1999年に新属新種として記載された。名前は[[コバルトヤドクガエル]] (''Dendrobatidae azureus'') からの分離株が用いられたことに由来する。既知のツボカビ門で唯一[[脊椎動物]]に感染するとされ、両生類の皮膚で増殖し病原性を顕す。また、[[無尾目]]のカエルだけでなく[[有尾目]]の[[サンショウウオ]]等にも感染することがある。 |
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カエルツボカビの増殖には蛋白質の[[ケラチン]]が利用される。カエルのケラチンはオタマジャクシでは口の周囲にのみ存在するが、変態と共にケラチンの分布が増え、それに伴ってカエルツボカビも増える。発育に最適な温度は17℃から25℃とされるが高温に弱く、28℃で発育が止まり30℃以上で死滅するが、冷凍では不活化されない。 |
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全国から集められた約5300サンプルを分析した結果、様々な遺伝子型(ハプロタイプ)があることが判明したが、遺伝子型毎の特性の解明は不十分である。また、長期の人工培地による培養は形態の変化を引き起こす。 |
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=== 症状 === |
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『サイエンス』2009年10月23日号によれば、カエルツボカビ症によって電解質の輸送が阻害されて心不全が引き起こされることをオーストラリアの研究者が突き止めたという。感染した個体は皮膚の表面の電解質の輸送が 50%超 抑制され、血漿(けっしょう)中のナトリウム、カリウムの濃度がそれぞれ減少していた<ref>{{cite journal | author = Voyles J, Young S, Berger L, Campbell C, Voyles WF, Dinudom A, Cook D, Webb R, Alford RA, Skerratt LF, Speare R | title = Pathogenesis of chytridiomycosis, a cause of catastrophic amphibian declines. | journal = Science | year = 2009 | volume = 326 | issue = 5952 | pages = 582-5}} PMID 19900897</ref>。具体的な症状としては、背部表面に多発する発疹、腹部表面または水かき、指端のピンク~赤色調への変色、後肢の腫脹などがある。症状は肉眼で確認できない場合もあり、集団発生の場合は急死例が多い。 |
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| image1 = Batrachochytrium salamandrivorans infection.png |
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| caption1 = '''3a'''. イモリツボカビが寄生した[[ファイアサラマンダー]]の皮膚 |
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| image2 = Chytridiomycosis2.jpg |
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| caption2 = '''3b'''. {{snamei||Atelopus varius}} の皮膚中のカエルツボカビの遊走子嚢: 矢頭は放出管([[透過型電子顕微鏡]]像) |
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| image3 = CSIRO ScienceImage 1392 Scanning Electron Micrograph of Chytrid Fungus.jpg |
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| caption3 = '''3c'''. 放出管を形成中のカエルツボカビの遊走子嚢([[走査型電子顕微鏡]]像) |
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カエルツボカビ属では、[[有性生殖]]は見つかっていない<ref name="Van Rooij2015" />。しかし遺伝学的調査からは、有性生殖を行なっていることが示唆されている<ref name="Van Rooij2015" />。また、カエルツボカビについては、[[異数性]]であることも示唆されている<ref name="Van Rooij2015" />。 |
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== アフリカツメガエルとツボカビ症 == |
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カエルツボカビ感染の最初の報告は ''Xenopus'' 属の[[アフリカツメガエル]]のものであったため、当時は発祥地もアフリカと思われていた。アフリカツメガエルは世界中に広く輸出されていたので、''B. dendrobatidis'' の一時的な媒介者と考えられている。 |
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カエルツボカビの最適温度は17–25°Cであり、10°C以下では増殖が低下、28°Cで増殖が停止し、30°C以上では死滅する<ref name="Van Rooij2015" /><ref name="宇根2017" /><ref>{{Cite journal|author=Berger, L., Speare, R., Hines, H. B., Marantelli, G., Hyatt, A. D., McDonald, K. R., ... & Tyler, M. J.|year=2004|title=Effect of season and temperature on mortality in amphibians due to chytridiomycosis|journal=Australian Veterinary Journal|volume=82|issue=7|pages=434-439|doi=10.1111/j.1751-0813.2004.tb11137.x}}</ref><ref>{{Cite journal|author=Woodhams, D. C., Alford, R. A., & Marantelli, G.|year=2003|title=Emerging disease of amphibians cured by elevated body temperature|journal=Diseases of Aquatic Organisms|volume=55|issue=1|pages=65-67|doi=10.3354/dao055065}}</ref>。近縁種であるイモリツボカビの最適温度は、これよりも低い([[#イモリツボカビ|下記参照]])。最適[[水素イオン指数|pH]]は6–7<ref name="Van Rooij2015" />。5%[[塩化ナトリウム]]水溶液では死滅する<ref name="Van Rooij2015" />。 |
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国内においては、麻布大学などの調査によれば、アフリカツメガエル52匹中51匹 (98%) がツボカビ陽性であったと報告されており、このような感染しても発症しないカエルの流入と繁殖がツボカビ感染拡大の一因であると言われていた<ref name="mm2007">[http://www.eiken.co.jp/mm/pdf/MM0703-02.pdf モダンメディア 53 巻3 号2007[話題の感染症]67 両生類のツボカビ症] (PDF)</ref>。環境省も、アフリカツメガエルは日本でも定着のおそれが高い種であること、日本においては全ての両生類の中で最も多く利用されている種のひとつと考えているとなど説明している<ref>[http://www.env.go.jp/nature/intro/1outline/caution/detail_ha.html#10 要注意外来生物リスト: 爬虫類・両生類(詳細)]</ref>。 |
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カエルツボカビは両生類の皮膚中で[[タンパク質]]である[[ケラチン]]などを栄養源とし、またケラチンを含む[[ヘビ]]の皮や鳥の羽、足などでも増殖する<ref name="Van Rooij2015" />。ただし、カエルツボカビにとってケラチンは必須の栄養源ではなく、ケラチンを含まない[[培地]]でも増殖可能である<ref name="Van Rooij2015" />。また、[[甲殻類]]の[[キチン]]も利用することができる<ref name="Van Rooij2015" />。両生類がいなくても、湖水中で少なくとも7週間生きることができる<ref name="宇根2017" /><ref name="Johnson2003">{{Cite journal|author=Johnson, M. L. & Speare, R.|year=2003|title=Survival of Batrachochytrium dendrobatidis in water: quarantine and disease control implications|journal=Emerging Infectious Diseases|volume=9|issue=8|pages=922-925|doi=10.3201/eid0908.030145}}</ref>。ただし、カエルツボカビの必須栄養分や嗜好性については必ずしも明らかではない<ref name="Van Rooij2015" />。 |
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その一方で、「[[アフリカツメガエル]]の日本国内の輸入が始まってから30年以上経過しているのに、生態系への影響についての話は聞かない、国は騒ぎすぎではないか」と言う意見もあった<ref name="wp1">[http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705011300_02.html 沖縄タイムスホームページ]</ref>。 |
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実際にこのカエルが国内で帰化繁殖した事例はごく少ない。しかしたとえば2006年に和歌山県田辺市のある地域で複数のため池で繁殖しているのが発見された。市や県なども問題視はしているが駆除は進んでおらず、和歌山県では2007年以降も地元紙「紀伊民報」やテレビ等でこの問題が断続的に報じられている。このカエルはツボカビに関して陽性であることが確認されているが、2008年現在では他の両生類への影響は報告されていない。 |
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カエルツボカビは遺伝的に極めて多様であり、さまざまな種内系統群が認められている。おおよそ、世界各地で大規模感染を引き起こしたBdGPL (Bd = {{Snamei||Batrachochytrium dendrobatidis}}, GPL = Global Panzootic Lineage)、主に[[アフリカ]]から単離されたBdCAPE、[[ヨーロッパ]]から単離されたBdCH、[[アジア]]から単離されたBdASIA-1、[[アジア]]および[[南米]]から単離されたBdASIA-2(BdBRAZILを含む)に分けられている<ref name="O’hanlon2018" />。 |
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== 人間活動による伝播 == |
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[[Image:Chytridiomycosis.jpg|thumb|150px|感染したカエル]] |
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アフリカツメガエルとともに世界のツボカビ研究者が警鐘を鳴らしているのは、人間のフィールド活動である<ref name="mm2007" />。今回のツボカビ症の発症を受けて、環境省は[[イリオモテヤマネコ]]の餌である[[サキシマヌマガエル]]をツボカビから守る為に、桟橋で渡航者の靴の消毒を行っている。 |
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== 症状 == |
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2012年の研究では、食用や愛玩用として流通するザリガニがカビの拡散ルートである可能性が示唆されている<ref>[http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20121219002&expand カエルツボカビ症はザリガニが拡散?] December 19, 2012 ナショナルジオグラフィック公式日本語サイト</ref><ref>{{cite journal | author = McMahon TA, Brannelly LA, Chatfield MW, Johnson PT, Joseph MB, McKenzie VJ, Richards-Zawacki CL, Venesky MD, Rohr JR | title = Chytrid fungus ''Batrachochytrium dendrobatidis'' has nonamphibian hosts and releases chemicals that cause pathology in the absence of infection | journal = Proc Natl Acad Sci USA | year = 2012 | volume = | issue = | pages = | doi = 10.1073/pnas.1200592110}}</ref>。 |
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カエルツボカビ症は、カエルツボカビが[[両生類]]の皮膚に寄生・増殖して引き起こされる病気である。カエルツボカビはさまざまな両生類に寄生し、[[無尾類]](カエル)、[[有尾類]](サンショウウオやイモリ)、[[アシナシイモリ目|無足類]](アシナシイモリ)の約520種に寄生することが報告されている<ref name="Van Rooij2015" />。カエルツボカビに対する両生類の感受性は[[種 (分類学)|種]]や環境条件によって異なり、感染が全く成立しない場合、感染するが発症しない場合(不顕性感染)、発症し死に至る場合(顕性感染、致死的感染)がある<ref name="宇根2017" /><ref name="Van Rooij2015" /><ref>{{Cite journal|author=Retallick, R. W. R., McCallum, H., & Speare, R.|year=2004|title=Endemic infection of the amphibian chytrid fungus in a frog community post-decline|journal=PLoS Biology|volume=2|issue=11|pages=e351|doi=10.1371/journal.pbio.0020351}}</ref>。最も一般的な症状は、皮膚の脱落や、皮膚の変色、紅斑の発症であり、特に腹面や肢に発症する<ref name="Van Rooij2015" />(上図1, 下図4)。また、活力低下や食欲不振が起こり、進行すると縮撞、異常な姿勢、硬直、反射の消失などを示す<ref name="Van Rooij2015" /><ref name="宇根2017">{{Cite journal|author=宇根有美|year=2017|title=カエルツボカビ ''Batrachochytrium dendrobatidis'' のその後|journal=農業および園芸|volume=92|issue=2|pages=134-141|crid=1050001338765653504|url=https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030910536.pdf}}</ref>(下図4)。顕性感染の場合、ふつう発症してから2–5週間で死亡するが、発症後4–5日以内に死亡する急性例もある<ref name="宇根2017" />。飼育下では、飼育水の濁りや異臭の発生が起こる<ref name="宇根2017" />。 |
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== 日本におけるツボカビ症 == |
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2006年12月、日本国内で飼育されているカエルからカエルツボカビが検出された。これを受けて2007年1月13日に学会・研究機関・環境団体など16の団体による「カエルツボカビ症侵入緊急事態宣言」が発表された<ref>[http://www.jspb.org/info/tubokabi.pdf カエルツボカビ症侵入緊急事態宣言]</ref>。続く2007年3月には、多数の[[絶滅危惧種]]の両生・爬虫類が生息する[[沖縄県]]で、[[麻布大学]][[獣医学部]]の[[宇根有美]][[助教授]]の調査によりペットショップで販売されているカエルからカエルツボカビが確認された<ref>[http://ryukyushimpo.jp/modules/news/article.php?storyid=21924 琉球新報ホームページ]</ref>。これを受けて沖縄県内のペットショップの中にはカエル類の入荷・販売を自粛する業者も出た<ref name="wp1" />。 |
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| image1 = Dead Bd-infected Atelopus limosus at Sierra Llorona - unposed (5414254321).jpg |
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| image2 = Dead Bd-infected Atelopus limosus at Sierra Llorona (posed to show ventral lesions and chytridiomycosis signs).jpg |
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| footer = '''4'''. カエルツボカビ症を発症した {{Snamei|Atelopus limosus}}([[パナマ]]) |
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カエルツボカビ症による死亡機序は皮膚の生理的機能の傷害によるものであり、[[皮膚呼吸]]の阻害、[[浸透圧]]調整の阻害、皮膚を介した体温調整の障害、皮膚の生体防御機構の障害、カエルツボカビが産生する何らかの毒素などが考えられている<ref name="宇根2017" />。感染した個体では、皮膚における[[電解質]]の輸送が阻害され、[[血漿]]中の[[ナトリウム]]、[[カリウム]]、[[塩化物イオン]]濃度が大幅に低下することが報告されている<ref name="Van Rooij2015" /><ref>{{cite journal|author = Voyles, J., Young, S., Berger, L., Campbell, C., Voyles, W. F., Dinudom, A., Cook, D., Webb, R., Alford, R. A., Skerratt, L. F. & Speare, R.|title = Pathogenesis of chytridiomycosis, a cause of catastrophic amphibian declines|journal = Science|year = 2009|volume = 326|issue = 5952|pages = 582-585|doi = 10.1126/science.1176765}}</ref>。 |
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2007年6月10日、麻布大の研究チームはさらに「野生のウシガエルがツボカビに感染していることを確認した」と同大で開催されたフォーラムにて発表し、宇根助教授らは全国のペットショップや研究機関などへ警戒の呼びかけをはじめた。また、「検査をした両生類の個体は30匹で、同大が所在する神奈川県内で捕獲した[[ウシガエル]]10匹のうち、4匹で感染を確認した。」との発表があった<ref>[http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/m20070611k0000e040082000c.html 毎日新聞2007年6月11日の記事] MSN毎日新聞インタラクティブ</ref>。 |
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カエルの幼生([[オタマジャクシ]])では[[ケラチン]]は口の周囲にのみ存在するが、変態と共にケラチンの分布が増えるため、それに伴ってカエルツボカビの感染部位も増える<ref name="宇根2017" /><ref name="Van Rooij2015" />。幼生の死亡率は非常に低いが、保菌者となる<ref name="宇根2017" /><ref name="Van Rooij2015" />。 |
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2007年6月25日、毎日新聞に「カエルツボカビ症による生態系の危機へ目を凝らせ」と題した社説が掲載された。この中で著者は、ツボカビ症が単に両生類のみの危機に留まらず、[[食物連鎖]]や虫媒の[[感染症]]を介して[[生態系]]全体を崩壊させ得るものであること、その抑止のために国家レベルでの適切な対応が必要とされること、などを論じている<ref>[http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20070625k0000m070102000c.html MSN毎日新聞インタラクティブ]</ref>。 |
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== 治療 == |
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2007年及び2008年に行われた184個体に対する感染実験の結果、南日本に生息するカエルが感染しやすい可能性が示唆されている。これは、ヌマガエル、ヒメアマガエル、ハナサキガエル類について感染が認められたためである。 |
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[[ファイル:Itroconozole_bath-time_(4567907969).jpg|thumb|right|250px|'''5'''. イトラコナゾールによる薬浴]] |
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2008年に国立環境研究所などにより行われた調査では、全国944地点で5178個体のサンプルの採集を行った。解析途中の結果として、1638サンプルの感染状況は[[ニホンアマガエル]] 0.4%(1個体/238個体)、[[トノサマガエル]] 0.5%(1個体/186個体)、[[ヌマガエル]] 0.4%(1個体/229個体)、[[ウシガエル]] 7.8%(6個体/77個体)、[[ツチガエル]] 0.9%(1個体/108個体)であった。ただし、DNA配列は病原性の強いタイプ(タイプC)とは異なるタイプ(タイプA)と考えられる。 |
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カエルツボカビ症が知られるようになった当初は、[[塩化ベンザルコニウム]]や[[ホルムアルデヒド]]、[[クロラムフェニコール]]の薬浴が使用されたこともあるが、これらの薬品は[[両生類]]にも有害である<ref name="宇根2017" /><ref name="Parker2002">{{Cite journal|author=Parker, J. M., Mikaelian, I., Hahn, N. & Diggs, H. E.|year=2002|title=Clinical diagnosis and treatment of epidermal chytridiomycosis in African clawed frogs (''Xenopus tropicalis'')|journal=Comparative Medicine|volume=52|issue=3|pages=265-268|doi=}}</ref>。2017年現在では、カエルツボカビ症の治療にはふつう[[アゾール]]系の[[抗真菌薬]]である[[イトラコナゾール]]による薬浴が比較的安全で効果的とされ、ふつう0.01%イトラコナゾール水溶液に1日1回5分、10日間薬浴させる<ref name="宇根2017" />(図5)。ただし、最適な薬浴条件は両生類の種によって異なり、[[アシナシイモリ]]では30分薬浴させる<ref name="Rendle2015">{{Cite journal|author=Rendle, M. E., Tapley, B., Perkins, M., Bittencourt-Silva, G., Gower, D. J., & Wilkinson, M.|year=2015|title=Itraconazole treatment of ''Batrachochytrium dendrobatidis'' (Bd) infection in captive caecilians (Amphibia: Gymnophiona) and the first case of Bd in a wild neotropical caecilian|journal=Journal of Zoo and Aquarium Research|volume=3|issue=4|pages=137-140|doi=10.19227/jzar.v3i4.112}}</ref>。また、このような抗真菌薬も両生類にとって有害な場合もあり(特に若い個体)、またカエルツボカビを完全に根絶することは難しい<ref name="Rendle2015" /><ref name="Woodhams2012">{{Cite journal|author=Woodhams, D. C., Geiger, C. C., Reinert, L. K., Rollins-Smith, L. A., Lam, B., Harris, R. N., ... & Voyles, J.|year=2012|title=Treatment of amphibians infected with chytrid fungus: learning from failed trials with itraconazole, antimicrobial peptides, bacteria, and heat therapy|journal=Diseases of Aquatic Organisms|volume=98|issue=1|pages=11-25|doi=10.3354/dao02429}}</ref>。 |
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カエルツボカビ症に対しては高温処理も有用であり、30°C以上の条件に数日さらすことによって、カエルツボカビを除くことができる<ref name="Lam2010">{{Cite journal|author=Lam, B. A., Walke, J. B., Vredenburg, V. T. & Harris, R. N.|year=2010|title=Proportion of individuals with anti-''Batrachochytrium dendrobatidis '' skin bacteria is associated with population persistence in the frog ''Rana muscosa''|journal=Biological Conservation|volume=143|issue=2|pages=529-531|doi=10.1016/j.biocon.2009.11.015}}</ref><ref name="Chatfield2011">{{Cite journal|author=Chatfield, M. W. & Richards-Zawacki, C. L.|year=2011|title=Elevated temperature as a treatment for Batrachochytrium dendrobatidis infection in captive frogs|journal=Diseases of Aquatic Organisms|volume=94|issue=3|pages=235-238|doi=10.3354/dao02337}}</ref>。ただし、両生類は種によって高温耐性が異なるため、このような処置が致死的となる両生類もいる<ref name="Rendle2015" />。 |
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ところが、2009年5月にカエルツボカビがアジア起源ではないかとの報告がなされた。国立環境研究所などの調査で日本のカエルより約30系統のカエルツボカビが見つかったが、中米や豪州では1系統しか見つかっていないとのことであり、これが正しければ、アジア起源のカエルツボカビが世界に拡散し被害をもたらしたと考えられ、日本・中国・韓国などで感染の報告があっても被害の報告がない説明ともなる<ref>[http://mainichi.jp/life/ecology/archive/news/2009/05/20090505ddm002040054000c.html 毎日新聞2009年5月5日の記事] 毎日新聞ホームページより</ref>。 |
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2010年9月時点で50種類のカエルツボカビが確認されており、サンプルの3%が菌に感染していたが大量死は発生していないこと、1932年のオオサンショウウオの標本からもこの菌が検出されていることなどから、日本ではカエルツボカビが昔から自然に存在し、日本の両生類は抵抗力を持っている可能性が高い<ref>[http://sankei.jp.msn.com/science/science/100920/scn1009200017000-n1.htm MSN産経 2010/09/20 両生類に猛威「カエルツボカビ菌」]</ref>。 |
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飼育器具の殺菌には熱湯処理(50°C、5分以上)や[[次亜塩素酸ナトリウム]]浸漬(塩素濃度 200 [[ppm]] 以上、15分)が有効とされる<ref name="宇根2017" />。 |
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== 他国での取り組み == |
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中米パナマでは北部から侵入した本病により[[カエル]]が激減したが、本病の侵入が予想される地域のカエルを捕獲し動物園で飼育することで絶滅から救う試みが行われた。 |
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== 影響 == |
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米国[[ワシントンD.C.]]の[[スミソニアン国立動物園]]は[[2010年]][[7月22日]]、[[オオサンショウウオ]]の繁殖センターをオープンし、初めて日本のオオサンショウウオの国外繁殖を行っている。同動物園に[[広島市]][[安佐動物公園]]から寄贈されたオオサンショウウオは計5匹で、このうち11歳のオスメス各2匹が繁殖用に飼育され、19歳のメス1匹は動物園で展示される。日本のオオサンショウウオは「カエルツボカビ症」に抵抗力を持つとされ、同動物園では「ツボカビの被害を受けない秘密をぜひ知りたい」と飼育と同時にツボカビ克服のために個体を研究している<ref name=wp14>[http://www.47news.jp/CN/201007/CN2010072301000196.html 47NEWS(よんななニュース)2010/07/23 「オオサンショウウオ、米で繁殖へ 広島が寄贈、施設完成」]</ref>。 |
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[[ファイル:Ecnomiohyla_rabborum.jpg|thumb|right|250px|'''6'''. カエルツボカビ症によって絶滅したパナマ産の {{Snamei||Ecnomiohyla rabborum}}]] |
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カエルツボカビ症は、世界的な[[両生類の減少]]の一因であると考えられている<ref name="Van Rooij2015">{{Cite journal|author=Van Rooij, P., Martel, A., Haesebrouck, F. & Pasmans, F.|year=2015|title=Amphibian chytridiomycosis: a review with focus on fungus-host interactions|journal=Veterinary Research|volume=46|issue=1|pages=1-22|doi=10.1186/s13567-015-0266-0}}</ref>。カエルツボカビ症は、[[オーストラリア]]や[[パナマ]]における両生類の大規模な減少の原因として、1998年に初めて報告された<ref name="宇根2017" /><ref name="Van Rooij2015" />。その後の調査から、カエルツボカビ症は[[オーストラリア]]、[[南米]]、[[中米]]、[[カリブ諸島]]、[[北米]]の[[シエラネバダ山脈 (アメリカ合衆国)|シエラネバダ山脈]]、[[イベリア半島]]から報告されており、これらの地域での両生類の劇的な減少あるいは[[絶滅]]に関連していると考えられている<ref name="O’hanlon2018">{{Cite journal|author=O’hanlon, S. J., Rieux, A., Farrer, R. A., Rosa, G. M., Waldman, B., Bataille, A., ... & Fisher, M. C.|year=2018|title=Recent Asian origin of chytrid fungi causing global amphibian declines|journal=Science|volume=360|issue=6389|pages=621-627|doi=}}</ref><ref>{{Cite journal|author=Stuart, S. N., Chanson, J. S., Cox, N. A., Young, B. E., Rodrigues, A. S., Fischman, D. L., & Waller, R. W.|year=2004|title=Status and trends of amphibian declines and extinctions worldwide|journal=Science|volume=306|issue=5702|pages=1783-1786|doi=10.1126/science.110353}}</ref>。特にアメリカ大陸とオーストラリアの湿潤な地域に生育する大型のカエルに対して影響が大きかった<ref name="Scheele2019" />。カエルツボカビ症によって絶滅した両生類として、パナマの {{Snamei||Ecnomiohyla rabborum}}(図6; [[アマガエル科]])やオーストラリアの {{Snamei||Taudactylus acutirostris}}([[カメガエル科]])などがある<ref name="Platt2016">{{Cite web|author=Platt, J. R.|date=2016|url=https://blogs.scientificamerican.com/extinction-countdown/rabbs-tree-frog-extinct/|title=The Rabbs' Tree Frog Just Went Extinct|website=|publisher=Scientific American|accessdate=2023-10-21}}</ref><ref name="Berger2016">{{Cite journal|author=Berger, L., Roberts, A. A., Voyles, J., Longcore, J. E., Murray, K. A. & Skerratt, L. F.|year=2016|title=History and recent progress on chytridiomycosis in amphibians|journal=Fungal Ecology|volume=19|issue=|pages=89-99|doi=10.1016/j.funeco.2015.09.007}}</ref><ref name="Schloegel2006">{{Cite journal|author=Schloegel, L. M., Hero, J. M., Berger, L., Speare, R., McDonald, K., & Daszak, P.|year=2006|title=The decline of the sharp-snouted day frog (Taudactylus acutirostris): the first documented case of extinction by infection in a free-ranging wildlife species?|journal=EcoHealth|volume=3|issue=|pages=35-40|doi=10.1007/s10393-005-0012-6}}</ref>。また、オーストラリア産の[[コロボリーヒキガエルモドキ]]([[カメガエル科]])などは、人間による自然界への継続的な再導入を必要としている<ref name="Berger2016" />。1970年代から50年の間に、カエルツボカビ症は少なくとも500種の両生類の減少に関わり、約90種が絶滅したとも推定されている<ref name="Scheele2019">{{Cite journal|author=Scheele, B. C., Pasmans, F., Skerratt, L. F., Berger, L., Martel, A. N., Beukema, W., ... & Canessa, S.|year=2019|title=Amphibian fungal panzootic causes catastrophic and ongoing loss of biodiversity|journal=Science|volume=363|issue=6434|pages=1459-1463|doi=10.1126/science.aav03}}</ref>。このようなカエルツボカビによる両生類の減少は1980年代にピークに達し、2019年現在でも回復したものは12%の種にとどまっており、39%の種では減少が続いていると推計されている<ref name="Scheele2019" />(ただし、この推計に対しては批判的な見解もある<ref name="Lambert2020">{{Cite journal|author=Lambert, M. R., Womack, M. C., Byrne, A. Q., Hernández-Gómez, O., Noss, C. F., Rothstein, A. P., ... & Rosenblum, E. B.|year=2020|title=Comment on “Amphibian fungal panzootic causes catastrophic and ongoing loss of biodiversity”|journal=Science|volume=367|issue=6484|pages=eaay1838|doi=10.1126/science.aay1838}}</ref>)。また、これまでカエルツボカビ症の流行が見られなかった地域でも、感染流行が起こる可能性が指摘されている<ref name="Van Rooij2015" />。 |
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両生類の体表面には[[細菌叢]](細菌の[[生物群集|群集]])が存在するが、特定の細菌が存在する場合はカエルツボカビ症に罹病しにくいことが報告されている。{{Snamei||Janthinobacterium lividum}}([[ベータプロテオバクテリア綱]])や {{Snamei||Lysobacter gummosus}}([[ガンマプロテオバクテリア綱]])は抗真菌性の物質([[インドール-3-カルボキシアルデヒド]]や[[ビオラセイン]]、[[2,4-ジアセチルフロログルシノール]])を生成するため、これらの細菌が皮膚に生育している両生類では、カエルツボカビによる病害が低減する<ref name="Brucker2008a">{{Cite journal|author=Brucker, R. M., Harris, R. N., Schwantes, C. R., Gallaher, T. N., Flaherty, D. C., Lam, B. A. & Minbiole, K. P.|year=2008|title=Amphibian chemical defense: antifungal metabolites of the microsymbiont ''Janthinobacterium lividum'' on the salamander ''Plethodon cinereus''|journal=Journal of Chemical Ecology|volume=34|issue=|pages=1422-1429|doi=10.1007/s10886-008-9555-7}}</ref><ref name="Brucker2008b">{{Cite journal|author=Brucker, R. M., Baylor, C. M., Walters, R. L., Lauer, A., Harris, R. N. & Minbiole, K. P.|year=2008|title=The identification of 2, 4-diacetylphloroglucinol as an antifungal metabolite produced by cutaneous bacteria of the salamander ''Plethodon cinereus''|journal=Journal of Chemical Ecology|volume=34|issue=|pages=39-43|doi=10.1007/s10886-007-9352-8}}</ref>。このような共生細菌叢の違いが、両生類のカエルツボカビに対する感受性の違いに関与している可能性がある<ref name="Lam2010" />。 |
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== 出典 == |
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* {{cite journal |
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カエルツボカビ症による被害を大きく受けた[[個体群]]では、カエルツボカビ症に対する抵抗性をもつものが出現していることが報告されている<ref name="Newell2013">{{Cite journal|author=Newell, D. A., Goldingay, R. L. & Brooks, L. O.|year=2013|title=Population recovery following decline in an endangered stream-breeding frog (''Mixophyes fleayi'') from subtropical Australia|journal=PLoS One|volume=8|issue=3|pages=e58559|doi=10.1371/journal.pone.0058559}}</ref><ref name="Voyles2018">{{Cite journal|author=Voyles, J., Woodhams, D. C., Saenz, V., Byrne, A. Q., Perez, R., Rios-Sotelo, G., ... & Richards-Zawacki, C. L.|year=2018|title=Shifts in disease dynamics in a tropical amphibian assemblage are not due to pathogen attenuation|journal=Science|volume=359|issue=6383|pages=1517-1519|doi=10.1126/science.aao4806}}</ref>。このような抵抗性は、遺伝的抵抗性や上記のような抵抗性のある共生微生物の定着によるものであると考えられている。 |
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| author = Longcore JE, Pessier AP, Nichols DK |
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| title = ''Batrochochytrium dendrobatidis'' gen. et sp. nov., a chytrid pathogenic to amphibians. |
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カエルツボカビは、[[国際自然保護連合]] (IUCN) が選定した[[世界の侵略的外来種ワースト100]]の1つに選定されている<ref name="宇根2017" />。また、[[世界動物保健機関]] (OIE) は、カエルツボカビを監視すべき野生動物の重要な伝染病としている<ref name="宇根2017" />。 |
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| journal = Mycologia |
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| year = 1999 |
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ただし、世界的な[[両生類の減少]]は、カエルツボカビ症だけが原因ではなく、カエルツボカビ症のみに注視することは危険であることが指摘されている<ref name="Heard2011">{{Cite journal|author=Heard, M., Smith, K. F., & Ripp, K.|year=2011|title=Examining the evidence for chytridiomycosis in threatened amphibian species|journal=PLoS One|volume=6|issue=8|pages=e23150|doi=}}</ref>。カエルツボカビ症に対する抵抗性をもつ両生類の中にも、絶滅危惧種となっているものは多い<ref name="Heard2011" />。両生類の減少の要因は、他にも生育環境の変化・破壊、農薬などの化学物質、外来の捕食者や競争者、商業的利用などがある<ref name="両生類保全研究資料室">{{Cite web|author=|date=2023|url=http://www.kaerutanteidan.jp/index.php/2014-03-27-18-05-50/2014-03-29-07-29-20|title=世界的な両生類の減少|website=|publisher=両生類保全研究資料室|accessdate=2023-10-20}}</ref>。また、このような要因がカエルツボカビ症と複合的に影響する可能性もあり、[[殺虫剤]]などによってカエルツボカビ症に罹病しやすくなることが報告されている<ref name="Davidson2007">{{Cite journal|author=Davidson, C., Benard, M. F., Shaffer, H. B., Parker, J. M., O'Leary, C., Conlon, J. M., & Rollins-Smith, L. A.|year=2007|title=Effects of chytrid and carbaryl exposure on survival, growth and skin peptide defenses in foothill yellow-legged frogs|journal=Environmental Science & Technology|volume=41|issue=5|pages=1771-1776|doi=10.1021/es0611947}}</ref>。カエルツボカビ以外の病原体としても、[[ラナウイルス]]が問題となっており、またカエルツボカビではない未知の菌類による大量死も報告されている<ref name="両生類保全研究資料室" /><ref name="Rosa2007">{{Cite journal|author=Rosa, I. D., Simoncelli, F., Fagotti, A. & Pascolini, R.|year=2007|title=The proximate cause of frog declines?|journal=Nature|volume=447|issue=7144|pages=E4-E5|doi=10.1038/nature05941}}</ref>。 |
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| volume = 91 |
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| issue = |
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== 起源・伝播 == |
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| pages = 219-27 |
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世界各地で起こったカエルツボカビ症の起源については、主に2つの説がある。1つは常在病原体説 (endemic pathogen hypothesis, EPH) とよばれ、もともと世界中に分布していたカエルツボカビが、環境条件、宿主の感受性、菌の毒性などの変化によってさまざまな地域で独立に病原性が高くなったとする仮説である<ref name="Van Rooij2015" /><ref name="宇根2017" />。もう1つは新興病原体説 (novel pathogen hypothesis, NPH) とよばれ、それまで分布していなかった地域にカエルツボカビが侵入し、抵抗力がないその地域の両生類に大きな被害を与えたとする仮説である<ref name="Van Rooij2015" /><ref name="宇根2017" />。2020年現在では、新興病原体説が支持されている。 |
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}} |
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* [https://www.env.go.jp/nature/intro/bd-kentou/ カエルツボカビについて] [[環境省]] |
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新興病原体説では、原産地として[[アフリカ]]や[[北ヨーロッパ]]、[[ブラジル]]、[[アジア]]などが示唆されていた<ref name="Van Rooij2015" />。カエルツボカビに関する分子データが蓄積すると、特に[[日本]]、[[韓国]]、[[中国]]など[[東アジア]]においてカエルツボカビの遺伝的多様性が高いことが明らかとなった<ref name="宇根2017" />。一方で、世界各地で両生類の減少を引き起こしたカエルツボカビは、特定の遺伝型にほぼ限られている<ref name="宇根2017" />。また、東アジアでは在来種の大量死は見られず、ふつうカエルツボカビに対する抵抗性をもつ<ref name="宇根2017" />。これらのことは、カエルツボカビの原産地が東アジアであり、これが世界各地に侵入して抵抗性がない両生類に大きな被害を与えたことを示唆している<ref name="宇根2017" /><ref name="O’hanlon2018" /><ref name="Scheele2019" />。 |
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このようなカエルツボカビの他地域への侵入にはおそらく人間活動が関わっていると考えられている。特に[[アフリカツメガエル]]や[[ウシガエル]]はカエルツボカビに感染するが抵抗性をもつため保菌者となり、これらのカエルの商業的取引がカエルツボカビ症の伝播に関わったと考えられている<ref name="Van Rooij2015" />。また、食用や愛玩用として流通する[[ザリガニ]]もカエルツボカビの宿主になることが示されており、カエルツボカビ症の伝播に関わった可能性が示唆されている<ref name="Van Rooij2015" /><ref>{{Cite web|和書|author=Helen Fields|date=2012-12-19|url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7262/|title=カエルツボカビ症はザリガニが拡散?|website=|publisher=ナショナル ジオグラフィック|accessdate=2023-09-01}}</ref><ref>{{cite journal|author=McMahon TA, Brannelly LA, Chatfield MW, Johnson PT, Joseph MB, McKenzie VJ, Richards-Zawacki CL, Venesky MD, Rohr JR|year=2012|title=Chytrid fungus ''Batrachochytrium dendrobatidis'' has nonamphibian hosts and releases chemicals that cause pathology in the absence of infection|journal=Proceedings of the National Academy of Sciences|volume=110|issue=1|pages=210-215|doi=10.1073/pnas.1200592110}}</ref>。 |
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== 日本での経緯 == |
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日本では、2006年12月、[[麻布大学]]の研究グループによって、ペット用に外国から輸入されたカエルからカエルツボカビが検出された<ref name="環境研2008">{{Cite web|和書|author=|date=2008-10-15|url=https://www.nies.go.jp/kenkyusaizensen/200810.html|title=日本のカエルが危ない?〜カエルツボカビ症の現状|website=|publisher=国立環境研究所|accessdate=2023-08-20}}</ref>。これを受けて、2007年1月13日に学会・研究機関・環境団体など16の団体による「カエルツボカビ症侵入緊急事態宣言」が発表された<ref>[https://www.wbsj.org/press/pdf/070112.pdf カエルツボカビ症侵入緊急事態宣言]. 2007年1月13日.</ref>。2007年6月には、野生の[[ウシガエル]]からもカエルツボカビが検出され<!--リンク切れ<ref>[http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/m20070611k0000e040082000c.html 毎日新聞2007年6月11日の記事] MSN毎日新聞インタラクティブ</ref>--><ref name="京都府">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.pref.kyoto.jp/gairai/tsubokabi.html|title=カエルツボカビについて|website=|publisher=京都府|accessdate=2023-09-03}}</ref>、[[毎日新聞]]ではカエルツボカビ症の抑止のために国家レベルでの適切な対応が必要とする社説を掲載している<ref>[http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20070625k0000m070102000c.html MSN毎日新聞インタラクティブ](リンク切れ)</ref><ref>{{Cite news|和書 |title=社説:カエルツボカビ症 生態系の危機に目を凝らせ |newspaper=毎日新聞 |date=2007-06-25 |edition=東京朝刊 5頁 内政面}}</ref>。 |
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しかしその後、[[国立環境研究所]]や[[麻布大学]]、[[環境省]]などの調査により、[[北海道]]から[[沖縄]]まで日本各地から採集されたさまざまな[[両生類]]から、低率ではあるがカエルツボカビが検出された<ref name="環境研2008" /><ref name="環境省">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.env.go.jp/nature/intro/bd-kentou/index.html|title=両生類等の新興感染症について|website=|publisher=環境省|accessdate=2023-08-25}}</ref><ref name="環境省2">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.env.go.jp/nature/intro/bd-kentou/table.html|title=両生類等の新興感染症について 表|website=|publisher=環境省|accessdate=2023-08-25}}</ref>。特に[[ウシガエル]]や[[シリケンイモリ]]での感染率が高く、それぞれ24.4%、19.9%であった<ref name="環境省" />。さらにこれら日本産のカエルツボカビは、大きな遺伝的多様性をもつことが示された<ref name="環境研2008" />。感染実験などから、これら日本産の両生類の多くはカエルツボカビに感染しにくく、感染してもふつう致死的ではなく、また自然界で大量死は報告されなかった<ref name="環境研2008" /><ref name="環境省" />。日本固有種である[[オオサンショウウオ]]の20世紀初頭に作製された標本からも、カエルツボカビと考えられる痕跡が見つかっており、カエルツボカビが古くから日本に生育していたことを支持している<ref name="環境省" />。これらのことから、日本(を含む東アジア)にはもともとカエルツボカビが生息しており、日本産の両生類はすでにカエルツボカビに対する耐性を有していると考えられるようになった<ref name="環境研2008" />。 |
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== イモリツボカビ == |
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[[オランダ]]において[[ファイアサラマンダー]]({{Snamei||Salamandra salamandra}})は[[絶滅危惧種]]ではあるが安定した[[個体群]]を維持していた。しかし2010年から、急激な個体数の減少が起こり、2013年にはわずか4%の個体群のみが生き残った<ref name="Van Rooij2015" />。この原因となった病原生物はカエルツボカビに似るがやや異なるツボカビであることが明らかとなり、2013年に'''イモリツボカビ'''<ref name="宇根2017" /><ref name="五箇2014">{{Cite web|和書|author=五箇公一|date=2014-10-31|url=https://www.nies.go.jp/whatsnew/2014/20141031/20141031-2.html|title=両生類の新興感染症イモリツボカビの起源はアジア 〜グローバル化がもたらす生物多様性への脅威〜|website=|publisher=国立環境研究所|accessdate=2023-08-25}}</ref>(サンショウウオツボカビ<ref name="宇根2017" />、{{snamei||Batrachochytrium salamandrivorans}})として記載された<ref name="Martel2013">{{Cite journal|author=Martel, A., Spitzen-van der Sluijs, A., Blooi, M., Bert, W., Ducatelle, R., Fisher, M. C., ... & Pasmans, F.|year=2013|title=''Batrachochytrium salamandrivorans'' sp. nov. causes lethal chytridiomycosis in amphibians|journal=Proceedings of the National Academy of Sciences|volume=110|issue=38|pages=15325-15329|doi=10.1073/pnas.130735611}}</ref>。 |
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症状としては、体表に潰瘍やただれができ(下図7)、カエルツボカビ症と同様に皮膚の脱落や活力低下、食欲不振、運動失調が起こる<ref name="Van Rooij2015" />。幼生には症状は認められない<ref name="Van Rooij2015" />。 |
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[[ファイル:Batrachochytrium salamandrivorans, clinical signs and pathology.jpg|thumb|center|500px|'''7'''. イモリツボカビに寄生された[[ファイアサラマンダー]](矢印は感染部)]] |
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カエルツボカビとは異なり、宿主は[[有尾類]]に限られている<ref name="Van Rooij2015" /><ref name="五箇2014" />。原産地は[[アジア]]であると考えられており、アジア産の[[サンショウウオ属]]、[[ハコネサンショウウオ属]]、[[キタサンショウウオ属]]、[[イモリ属]]、[[コブイモリ属]]、[[ミナミイボイモリ属]]などには寄生しても致死的ではないが、ヨーロッパや新大陸の[[イモリ科]]の多くの種には致死的である<ref name="Van Rooij2015" /><ref name="五箇2014" />。おそらく[[アカハライモリ]]、[[アオイモリ]]、[[ベトナムコブイモリ]]などが保菌者となると考えられている<ref name="Van Rooij2015" /><ref name="五箇2014" />。 |
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カエルツボカビよりも低温を好み、最適温度は10–15°C、5°Cでも増殖可能であり、25°C以上では死滅する<ref name="Van Rooij2015" />。カエルツボカビよりも、[[多心性]]の菌体(遊走子嚢が複数に分かれる)を形成する傾向がある<ref name="Van Rooij2015" />。また、シスト化した遊走子から生じた発芽管の先に新たな菌体を形成することがあるが、この特徴はカエルツボカビには見られない<ref name="Van Rooij2015" />(上図2B1, B2)。 |
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== 脚注 == |
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== 外部リンク == |
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{{Commonscat|Batrachochytrium|カエルツボカビ属}} |
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* {{PDFlink|[https://www.nichiju.or.jp/ippan/info/19.5.30.pdf ツボカビ症相談などの窓口獣医]}} 社団法人日本獣医師会 |
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{{Wikispecies|Batrachochytrium|カエルツボカビ属}} |
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* [http://www.wwf.or.jp WWFジャパンホームページ] |
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* {{Cite web|和書|author=|date=2008-10-15|url=https://www.nies.go.jp/kenkyusaizensen/200810.html|title=日本のカエルが危ない?〜カエルツボカビ症の現状|website=|publisher=国立環境研究所|accessdate=2023-08-20}} |
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* [http://www.deh.gov.au/biodiversity/invasive/publications/c-disease/ Chytridiomycosis] |
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* {{Cite web|和書|author=|date=2008-10-15|url=https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/project3.html|title=カエルの感染症・カエルツボカビの上陸|website=侵入生物データベース|publisher=国立環境研究所|accessdate=2023-08-20}} |
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* [http://www.cdc.gov/ncidod/EID/vol11no07/05-0194.htm Wildlife Trade and Global Disease Emergence] |
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* {{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.env.go.jp/nature/intro/bd-kentou/index.html|title=両生類等の新興感染症について|website=|publisher=環境省|accessdate=2023-08-25}} |
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* [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=15663845&dopt=Abstract Origin of the amphibian chytrid fungus] |
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* {{Cite web|和書|author=五箇公一|date=2014-10-31|url=https://www.nies.go.jp/whatsnew/2014/20141031/20141031-2.html|title=両生類の新興感染症イモリツボカビの起源はアジア 〜グローバル化がもたらす生物多様性への脅威〜|website=|publisher=国立環境研究所|accessdate=2023-08-25}} |
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*[http://www.issg.org/database/species/reference_files/batden/man.pdf Main preventative management strategies for the Chytrid fungus] |
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* 黒木俊郎、宇根有美、[https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM0703-02.pdf 話題の感染症 両生類のツボカビ症] モダンメディア 2007年3月号(第53巻3号) |
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2024年1月14日 (日) 04:04時点における最新版
カエルツボカビ症(カエルツボカビしょう、英: chytridiomycosis)は、ツボカビ門に属する菌類の1種であるカエルツボカビ (学名: Batrachochytrium dendrobatidis) によって引き起こされる両生類の感染症である(図1)。中米やオーストラリアで両生類の大量死を引き起こしたことで、1998年に初めて認識された。カエルツボカビは両生類の皮膚でケラチンなどを栄養分として増殖し、皮膚呼吸など皮膚のさまざまな機能を阻害する。一般的な症状としては皮膚の脱落や変色、紅斑の発症、運動失調を示し、重症化すると死亡する。カエルツボカビは1本の鞭毛をもつ遊走子を形成・放出し、これが再び両生類の皮膚に感染する。世界的な両生類の減少の一因となっているが、東アジアでは大きな被害は見られない。カエルツボカビはもともと東アジアで両生類と安定的な関係を結んでいたが、人間活動によって世界中に広がり、抵抗性がない両生類に壊滅的な被害を与えていると考えられている。また、カエルツボカビの近縁種であるイモリツボカビ(Batrachochytrium salamandrivorans)は有尾類(イモリ、サンショウウオ)のみに寄生し、オランダなどのファイアサラマンダーに大きな被害を与えた。
原因菌
[編集]カエルツボカビ | ||||||||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Batrachochytrium dendrobatidis Longcore, Pessier & D.K. Nichols (1999)[1] | ||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||
カエルツボカビ、カエルツボカビ菌[3] |
カエルツボカビ症の原因菌は、ツボカビ門ツボカビ綱の1種であるカエルツボカビ (学名: Batrachochytrium dendrobatidis) であり、1999年に新属新種として記載された[4]。属名の "Batracho-chytrium" はギリシア語の「カエル」(batracho)と「壺(つぼ)」(chytr; 生物学においてはしばしばツボカビ類を意味する)に由来し、種小名の "dendrobatidis" は、ヤドクガエル属 (Dendrobates) からの分離株が記載の際にタイプに用いられたことに由来する[5][4]。また、ファイアサラマンダーなど有尾類に寄生する近縁種が確認され、2013年にカエルツボカビ属の2番目の種、イモリツボカビ(サンショウウオツボカビ、Batrachochytrium salamandrivorans)として記載された[5]。ツボカビ綱の中には腐生性(生きていない有機物を栄養源とする)の種に加えて藻類、菌類、陸上植物、ワムシ、線虫、昆虫などに寄生する種が知られているが、脊椎動物に寄生するものは、カエルツボカビ属と、淡水魚に寄生する Ichthyochytrium のみが知られている[6]。
カエルツボカビは、細胞後端から後方へ伸びる1本の鞭毛をもつ遊走子によって増殖する[6](上図2A)。遊走子は球形から楕円形、直径はふつう3–5マイクロメートル (µm)、鞭毛長は 20 µm ほどである[4]。遊走子はケラチンやその主要構成アミノ酸であるシステイン、両生類の粘液構成糖に対して走化性を示すことが報告されている[6]。遊走子は両生類の皮膚に着生すると鞭毛を吸収し、細胞壁を形成してシスト化する[6](上図2B)。シスト化した細胞は発芽管を伸ばして角質層や顆粒層の細胞内に侵入し、また仮根を形成して皮膚のタンパク質であるケラチンなどを分解・利用して成長する[6][5][7][6](上図2C, D, 下図3a)。遊走子嚢は細胞表面に外生、または細胞内に内生する[6]。内臓などに侵入することはない[6]。菌体の本体はふつう単細胞のままであるが、ときに複数の細胞に分裂することもあり、前者は単心性(1個の遊走子嚢)の、後者は多心性(複数の遊走子嚢)の菌体になる[6](上図2E)。遊走子嚢内では、最大で300個ほどの遊走子が形成される[5]。遊走子嚢は放出管を形成し、これを通って遊走子が放出される[6][5](下図3b, c)。好条件では、着生した遊走子が発達して遊走子嚢になり、遊走子を放出するまで4–5日で完了する[5][6]。
イモリツボカビの特徴も、上記のカエルツボカビとほぼ同様である(下図3a)。ただし、シスト化した遊走子から生じた発芽管の先に新たな菌体を形成することがあり(上図2B1, B2)、また遊走子嚢が多心性となることが多い[6][8](下記参照)。
カエルツボカビ属では、有性生殖は見つかっていない[6]。しかし遺伝学的調査からは、有性生殖を行なっていることが示唆されている[6]。また、カエルツボカビについては、異数性であることも示唆されている[6]。
カエルツボカビの最適温度は17–25°Cであり、10°C以下では増殖が低下、28°Cで増殖が停止し、30°C以上では死滅する[6][5][9][10]。近縁種であるイモリツボカビの最適温度は、これよりも低い(下記参照)。最適pHは6–7[6]。5%塩化ナトリウム水溶液では死滅する[6]。
カエルツボカビは両生類の皮膚中でタンパク質であるケラチンなどを栄養源とし、またケラチンを含むヘビの皮や鳥の羽、足などでも増殖する[6]。ただし、カエルツボカビにとってケラチンは必須の栄養源ではなく、ケラチンを含まない培地でも増殖可能である[6]。また、甲殻類のキチンも利用することができる[6]。両生類がいなくても、湖水中で少なくとも7週間生きることができる[5][11]。ただし、カエルツボカビの必須栄養分や嗜好性については必ずしも明らかではない[6]。
カエルツボカビは遺伝的に極めて多様であり、さまざまな種内系統群が認められている。おおよそ、世界各地で大規模感染を引き起こしたBdGPL (Bd = Batrachochytrium dendrobatidis, GPL = Global Panzootic Lineage)、主にアフリカから単離されたBdCAPE、ヨーロッパから単離されたBdCH、アジアから単離されたBdASIA-1、アジアおよび南米から単離されたBdASIA-2(BdBRAZILを含む)に分けられている[12]。
症状
[編集]カエルツボカビ症は、カエルツボカビが両生類の皮膚に寄生・増殖して引き起こされる病気である。カエルツボカビはさまざまな両生類に寄生し、無尾類(カエル)、有尾類(サンショウウオやイモリ)、無足類(アシナシイモリ)の約520種に寄生することが報告されている[6]。カエルツボカビに対する両生類の感受性は種や環境条件によって異なり、感染が全く成立しない場合、感染するが発症しない場合(不顕性感染)、発症し死に至る場合(顕性感染、致死的感染)がある[5][6][13]。最も一般的な症状は、皮膚の脱落や、皮膚の変色、紅斑の発症であり、特に腹面や肢に発症する[6](上図1, 下図4)。また、活力低下や食欲不振が起こり、進行すると縮撞、異常な姿勢、硬直、反射の消失などを示す[6][5](下図4)。顕性感染の場合、ふつう発症してから2–5週間で死亡するが、発症後4–5日以内に死亡する急性例もある[5]。飼育下では、飼育水の濁りや異臭の発生が起こる[5]。
カエルツボカビ症による死亡機序は皮膚の生理的機能の傷害によるものであり、皮膚呼吸の阻害、浸透圧調整の阻害、皮膚を介した体温調整の障害、皮膚の生体防御機構の障害、カエルツボカビが産生する何らかの毒素などが考えられている[5]。感染した個体では、皮膚における電解質の輸送が阻害され、血漿中のナトリウム、カリウム、塩化物イオン濃度が大幅に低下することが報告されている[6][14]。
カエルの幼生(オタマジャクシ)ではケラチンは口の周囲にのみ存在するが、変態と共にケラチンの分布が増えるため、それに伴ってカエルツボカビの感染部位も増える[5][6]。幼生の死亡率は非常に低いが、保菌者となる[5][6]。
治療
[編集]カエルツボカビ症が知られるようになった当初は、塩化ベンザルコニウムやホルムアルデヒド、クロラムフェニコールの薬浴が使用されたこともあるが、これらの薬品は両生類にも有害である[5][15]。2017年現在では、カエルツボカビ症の治療にはふつうアゾール系の抗真菌薬であるイトラコナゾールによる薬浴が比較的安全で効果的とされ、ふつう0.01%イトラコナゾール水溶液に1日1回5分、10日間薬浴させる[5](図5)。ただし、最適な薬浴条件は両生類の種によって異なり、アシナシイモリでは30分薬浴させる[16]。また、このような抗真菌薬も両生類にとって有害な場合もあり(特に若い個体)、またカエルツボカビを完全に根絶することは難しい[16][17]。
カエルツボカビ症に対しては高温処理も有用であり、30°C以上の条件に数日さらすことによって、カエルツボカビを除くことができる[18][19]。ただし、両生類は種によって高温耐性が異なるため、このような処置が致死的となる両生類もいる[16]。
飼育器具の殺菌には熱湯処理(50°C、5分以上)や次亜塩素酸ナトリウム浸漬(塩素濃度 200 ppm 以上、15分)が有効とされる[5]。
影響
[編集]カエルツボカビ症は、世界的な両生類の減少の一因であると考えられている[6]。カエルツボカビ症は、オーストラリアやパナマにおける両生類の大規模な減少の原因として、1998年に初めて報告された[5][6]。その後の調査から、カエルツボカビ症はオーストラリア、南米、中米、カリブ諸島、北米のシエラネバダ山脈、イベリア半島から報告されており、これらの地域での両生類の劇的な減少あるいは絶滅に関連していると考えられている[12][20]。特にアメリカ大陸とオーストラリアの湿潤な地域に生育する大型のカエルに対して影響が大きかった[21]。カエルツボカビ症によって絶滅した両生類として、パナマの Ecnomiohyla rabborum(図6; アマガエル科)やオーストラリアの Taudactylus acutirostris(カメガエル科)などがある[22][23][24]。また、オーストラリア産のコロボリーヒキガエルモドキ(カメガエル科)などは、人間による自然界への継続的な再導入を必要としている[23]。1970年代から50年の間に、カエルツボカビ症は少なくとも500種の両生類の減少に関わり、約90種が絶滅したとも推定されている[21]。このようなカエルツボカビによる両生類の減少は1980年代にピークに達し、2019年現在でも回復したものは12%の種にとどまっており、39%の種では減少が続いていると推計されている[21](ただし、この推計に対しては批判的な見解もある[25])。また、これまでカエルツボカビ症の流行が見られなかった地域でも、感染流行が起こる可能性が指摘されている[6]。
両生類の体表面には細菌叢(細菌の群集)が存在するが、特定の細菌が存在する場合はカエルツボカビ症に罹病しにくいことが報告されている。Janthinobacterium lividum(ベータプロテオバクテリア綱)や Lysobacter gummosus(ガンマプロテオバクテリア綱)は抗真菌性の物質(インドール-3-カルボキシアルデヒドやビオラセイン、2,4-ジアセチルフロログルシノール)を生成するため、これらの細菌が皮膚に生育している両生類では、カエルツボカビによる病害が低減する[26][27]。このような共生細菌叢の違いが、両生類のカエルツボカビに対する感受性の違いに関与している可能性がある[18]。
カエルツボカビ症による被害を大きく受けた個体群では、カエルツボカビ症に対する抵抗性をもつものが出現していることが報告されている[28][29]。このような抵抗性は、遺伝的抵抗性や上記のような抵抗性のある共生微生物の定着によるものであると考えられている。
カエルツボカビは、国際自然保護連合 (IUCN) が選定した世界の侵略的外来種ワースト100の1つに選定されている[5]。また、世界動物保健機関 (OIE) は、カエルツボカビを監視すべき野生動物の重要な伝染病としている[5]。
ただし、世界的な両生類の減少は、カエルツボカビ症だけが原因ではなく、カエルツボカビ症のみに注視することは危険であることが指摘されている[30]。カエルツボカビ症に対する抵抗性をもつ両生類の中にも、絶滅危惧種となっているものは多い[30]。両生類の減少の要因は、他にも生育環境の変化・破壊、農薬などの化学物質、外来の捕食者や競争者、商業的利用などがある[31]。また、このような要因がカエルツボカビ症と複合的に影響する可能性もあり、殺虫剤などによってカエルツボカビ症に罹病しやすくなることが報告されている[32]。カエルツボカビ以外の病原体としても、ラナウイルスが問題となっており、またカエルツボカビではない未知の菌類による大量死も報告されている[31][33]。
起源・伝播
[編集]世界各地で起こったカエルツボカビ症の起源については、主に2つの説がある。1つは常在病原体説 (endemic pathogen hypothesis, EPH) とよばれ、もともと世界中に分布していたカエルツボカビが、環境条件、宿主の感受性、菌の毒性などの変化によってさまざまな地域で独立に病原性が高くなったとする仮説である[6][5]。もう1つは新興病原体説 (novel pathogen hypothesis, NPH) とよばれ、それまで分布していなかった地域にカエルツボカビが侵入し、抵抗力がないその地域の両生類に大きな被害を与えたとする仮説である[6][5]。2020年現在では、新興病原体説が支持されている。
新興病原体説では、原産地としてアフリカや北ヨーロッパ、ブラジル、アジアなどが示唆されていた[6]。カエルツボカビに関する分子データが蓄積すると、特に日本、韓国、中国など東アジアにおいてカエルツボカビの遺伝的多様性が高いことが明らかとなった[5]。一方で、世界各地で両生類の減少を引き起こしたカエルツボカビは、特定の遺伝型にほぼ限られている[5]。また、東アジアでは在来種の大量死は見られず、ふつうカエルツボカビに対する抵抗性をもつ[5]。これらのことは、カエルツボカビの原産地が東アジアであり、これが世界各地に侵入して抵抗性がない両生類に大きな被害を与えたことを示唆している[5][12][21]。
このようなカエルツボカビの他地域への侵入にはおそらく人間活動が関わっていると考えられている。特にアフリカツメガエルやウシガエルはカエルツボカビに感染するが抵抗性をもつため保菌者となり、これらのカエルの商業的取引がカエルツボカビ症の伝播に関わったと考えられている[6]。また、食用や愛玩用として流通するザリガニもカエルツボカビの宿主になることが示されており、カエルツボカビ症の伝播に関わった可能性が示唆されている[6][34][35]。
日本での経緯
[編集]日本では、2006年12月、麻布大学の研究グループによって、ペット用に外国から輸入されたカエルからカエルツボカビが検出された[36]。これを受けて、2007年1月13日に学会・研究機関・環境団体など16の団体による「カエルツボカビ症侵入緊急事態宣言」が発表された[37]。2007年6月には、野生のウシガエルからもカエルツボカビが検出され[38]、毎日新聞ではカエルツボカビ症の抑止のために国家レベルでの適切な対応が必要とする社説を掲載している[39][40]。
しかしその後、国立環境研究所や麻布大学、環境省などの調査により、北海道から沖縄まで日本各地から採集されたさまざまな両生類から、低率ではあるがカエルツボカビが検出された[36][41][42]。特にウシガエルやシリケンイモリでの感染率が高く、それぞれ24.4%、19.9%であった[41]。さらにこれら日本産のカエルツボカビは、大きな遺伝的多様性をもつことが示された[36]。感染実験などから、これら日本産の両生類の多くはカエルツボカビに感染しにくく、感染してもふつう致死的ではなく、また自然界で大量死は報告されなかった[36][41]。日本固有種であるオオサンショウウオの20世紀初頭に作製された標本からも、カエルツボカビと考えられる痕跡が見つかっており、カエルツボカビが古くから日本に生育していたことを支持している[41]。これらのことから、日本(を含む東アジア)にはもともとカエルツボカビが生息しており、日本産の両生類はすでにカエルツボカビに対する耐性を有していると考えられるようになった[36]。
イモリツボカビ
[編集]オランダにおいてファイアサラマンダー(Salamandra salamandra)は絶滅危惧種ではあるが安定した個体群を維持していた。しかし2010年から、急激な個体数の減少が起こり、2013年にはわずか4%の個体群のみが生き残った[6]。この原因となった病原生物はカエルツボカビに似るがやや異なるツボカビであることが明らかとなり、2013年にイモリツボカビ[5][3](サンショウウオツボカビ[5]、Batrachochytrium salamandrivorans)として記載された[8]。
症状としては、体表に潰瘍やただれができ(下図7)、カエルツボカビ症と同様に皮膚の脱落や活力低下、食欲不振、運動失調が起こる[6]。幼生には症状は認められない[6]。
カエルツボカビとは異なり、宿主は有尾類に限られている[6][3]。原産地はアジアであると考えられており、アジア産のサンショウウオ属、ハコネサンショウウオ属、キタサンショウウオ属、イモリ属、コブイモリ属、ミナミイボイモリ属などには寄生しても致死的ではないが、ヨーロッパや新大陸のイモリ科の多くの種には致死的である[6][3]。おそらくアカハライモリ、アオイモリ、ベトナムコブイモリなどが保菌者となると考えられている[6][3]。
カエルツボカビよりも低温を好み、最適温度は10–15°C、5°Cでも増殖可能であり、25°C以上では死滅する[6]。カエルツボカビよりも、多心性の菌体(遊走子嚢が複数に分かれる)を形成する傾向がある[6]。また、シスト化した遊走子から生じた発芽管の先に新たな菌体を形成することがあるが、この特徴はカエルツボカビには見られない[6](上図2B1, B2)。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b “Batrachochytrium”. MycoBank. 2022年9月25日閲覧。
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外部リンク
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