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アクタイオーンの死後、彼の猟犬たちは主人を探してケイローンの洞窟までやって来たが、ケイローンはアクタイオーンそっくりの銅像を作って猟犬たちを慰めた<ref name=Ap_3_4_4 />。アクタイオーンの死の現場はのちに[[ペンテウス]]の死の現場となり<ref name=Eu_Ba />、両親はアクタイオーンをはじめとする数々の不幸に悲嘆してテーバイを去った。母アウトノエーは[[メガラ|メガラー]]地方のエリネイアに移住し<ref>パウサニアス、1巻44・5。</ref>、父アリスタイオスはギリシア人を率いて[[サルディニア島]]に移住した<ref>パウサニアス、10巻17・3。</ref>。 |
アクタイオーンの死後、彼の猟犬たちは主人を探してケイローンの洞窟までやって来たが、ケイローンはアクタイオーンそっくりの銅像を作って猟犬たちを慰めた<ref name=Ap_3_4_4 />。アクタイオーンの死の現場はのちに[[ペンテウス]]の死の現場となり<ref name=Eu_Ba />、両親はアクタイオーンをはじめとする数々の不幸に悲嘆してテーバイを去った。母アウトノエーは[[メガラ|メガラー]]地方のエリネイアに移住し<ref>パウサニアス、1巻44・5。</ref>、父アリスタイオスはギリシア人を率いて[[サルディニア島]]に移住した<ref>パウサニアス、10巻17・3。</ref>。 |
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アクタイオーンは死後に[[亡霊]]と化し、[[オルコメノス]]を苦しめたという話も残っている。オルコメノスの住人が亡霊を鎮める方法を[[デルポイ]]に伺うと、アクタイオーンの[[遺品]]を見つけて地中に埋め、さらにアクタイオーンの像を作り、鉄の鎖で岩に縛り付けるように命じた。この像は[[パウサニアス]]の時代にも残っていて、毎年、英雄として祀られたという<ref>パウサニアス、9巻38・5。</ref>。 |
アクタイオーンは死後に[[亡霊]]と化し、[[オルコメノス]]を苦しめたという話も残っている。オルコメノスの住人が亡霊を鎮める方法を[[デルポイ]]に伺うと、アクタイオーンの[[遺品]]を見つけて地中に埋め、さらにアクタイオーンの像を作り、鉄の鎖で岩に縛り付けるように命じた。この像は[[パウサニアス (地理学者)|パウサニアス]]の時代にも残っていて、毎年、英雄として祀られたという<ref>パウサニアス、9巻38・5。</ref>。 |
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===プラタイアの伝承=== |
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* [[アポロドーロス]]『ギリシア神話』[[高津春繁]]訳、[[岩波文庫]](1953年) |
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* 『ギリシア悲劇IV [[エウリピデス]](下)』、[[ちくま文庫]](1986年) |
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* [[パウサニアス]]『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年) |
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* [[ヒュギーヌス]]『ギリシャ神話集』[[松田治]]・青山照男訳、[[講談社学術文庫]](2005年) |
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* 『[[プルタルコス]]英雄伝(上)』[[村川堅太郎]]訳、ちくま文庫(1987年) |
* 『[[プルタルコス]]英雄伝(上)』[[村川堅太郎]]訳、ちくま文庫(1987年) |
2021年11月15日 (月) 10:40時点における版
アクタイオーン(古希: Ἀκταίων, Aktaiōn, ラテン語: Actaeon)は、ギリシア神話の登場人物である。長母音を省略してアクタイオンとも表記される。父はアポローンの子アリスタイオス、母はテーバイの王カドモスの娘アウトノエーとされている[1][2][3]。
アクタイオーンが女神アルテミスに対する不敬のために罰せられた物語は主にエウリーピデース『バッコスの信女』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス、ヒュギーヌスなどで触れられており、特にオウィディウス『変身物語』の物語が有名である。
神話
アクタイオーンはケンタウロスのケイローンに育てられ、狩猟の術を授けられた[1]。一説には狩猟を教わったのは実父からであったともいう。
あるときアクタイオーンはキタイローン山のガルガピアの谷間で[4][3]、狩り仲間とともに[4]、自分の手で育てた[5]50匹の猟犬を率いて狩りに興じていた[1]。アクタイオーンは狩りの成果が良かったので一時狩りを休止し[4]、猟犬を休ませるために泉を探して歩いた[3]。
ところがガルガピアの谷間はアルテミスに捧げられた聖域であり、ちょうど谷の一番奥まった場所にある洞窟に湧き出している泉[注釈 1]で狩りに疲れたアルテミスが従者たちとともに水浴びをしていた。そうとも知らずにアクタイオーンは洞窟に入っていき[4]、アルテミスの入浴中の裸体を誤って目撃してしまった[4][1][3]。このため女神の逆鱗に触れ、女神の裸を見たと言いふらすことが出来ないように鹿の姿に変えられ[4][3]、さらに彼の猟犬たちを狂わせ[1]、アクタイオーンにけしかけた[3]。アクタイオーンは水面に映った自分の姿に驚いたが、口から出てくるのはうめき声だった。アクタイオーンはテーバイの王宮に帰るべきか、森の中に隠れているべきか迷ったあげく、猟犬たちに見つかり食い殺された[4]。
死の異説
オウィディウスによればアクタイオーンの死は運命のいたずらであって、アクタイオーンに非はなかったとしているが[4]、ヒュギーヌスはアルテミスの裸体を目撃した時に犯そうとしたためとしている[2]。
しかし別の説ではアクタイオーンが自らの狩猟の腕を誇って女神を軽んじたためであり[5]、さらに別の説では叔母のセメレーと結婚しようとしてゼウスと争ったため[6][7]、アルテミスはアクタイオーンに鹿の毛皮を被せて猟犬たちに襲わせたという[7]。
死後
アクタイオーンの死後、彼の猟犬たちは主人を探してケイローンの洞窟までやって来たが、ケイローンはアクタイオーンそっくりの銅像を作って猟犬たちを慰めた[1]。アクタイオーンの死の現場はのちにペンテウスの死の現場となり[5]、両親はアクタイオーンをはじめとする数々の不幸に悲嘆してテーバイを去った。母アウトノエーはメガラー地方のエリネイアに移住し[8]、父アリスタイオスはギリシア人を率いてサルディニア島に移住した[9]。
アクタイオーンは死後に亡霊と化し、オルコメノスを苦しめたという話も残っている。オルコメノスの住人が亡霊を鎮める方法をデルポイに伺うと、アクタイオーンの遺品を見つけて地中に埋め、さらにアクタイオーンの像を作り、鉄の鎖で岩に縛り付けるように命じた。この像はパウサニアスの時代にも残っていて、毎年、英雄として祀られたという[10]。
プラタイアの伝承
パウサニアスによると、キタイローン近くのプラタイアにはアクタイオーンが狩りに疲れたときにベッド代わりにして眠ったとされる岩があり、アクタイオーンの寝床と呼ばれていた。またアルテミスの水浴びを目撃したとされる泉もあった[11]。
しかしアクタイオーンにとってキタイローンは狩りに興じた土地というだけでなく、この土地の興隆に関わった英雄でもあったらしい。プルタルコスによるとアクタイオーンは、アンドロクラテース、レウコーン、ペイサンドロス、ダモクラテース、ピュプシオン、ポリュエイドスとともにプラタイアを興した7人の英雄の1人であり、ペルシア戦争のプラタイアの戦いの際に、ギリシア軍はデルポイの神託に従ってゼウス、キタイローンのヘーラー、パーン、スフラギディオンのニュムペーに誓約を立て、アクタイオーンら7人の英雄に犠牲を捧げて戦い、勝利したと伝えられる[12]。
系図
ギャラリー
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フランソワ・クルーエ『ディアナの水浴』(1559年-1560年頃)サンパウロ美術館所蔵
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フランチェスコ・アルバーニ『ディアナとアクタイオン』(1617年頃) パリ、ルーブル美術館所蔵
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アンドリース・コルネリス・レンズ『ディアナとアクタイオン』(1754年-1822年)アントワープ王立美術館所蔵
脚注
注釈
脚注
- ^ a b c d e f アポロドーロス、3巻4・4。
- ^ a b ヒュギーヌス、180話。
- ^ a b c d e f g ヒュギーヌス、181話。
- ^ a b c d e f g h オウィディウス『変身物語』3巻。
- ^ a b c エウリーピデース『バッコスの信女たち』。
- ^ アクーシラーオス断片(アポロドーロス、3巻4・4による引用)。
- ^ a b ステーシコロス断片(パウサニアス、9巻2・3による引用)。
- ^ パウサニアス、1巻44・5。
- ^ パウサニアス、10巻17・3。
- ^ パウサニアス、9巻38・5。
- ^ パウサニアス、9巻2・3。
- ^ プルタルコス「アリステイデース伝」11。
参考文献
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- 『ギリシア悲劇IV エウリピデス(下)』、ちくま文庫(1986年)
- パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- 『プルタルコス英雄伝(上)』村川堅太郎訳、ちくま文庫(1987年)
- イヴ・ボンヌフォワ編『世界神話大事典』金光仁三郎訳、大修館書店(2001年) ISBN 978-4-469-01265-1
- ルネ・マルタン編『図説ギリシア・ローマ神話文化事典』松村一男訳、原書房(1998年)ISBN 978-4-562-02963-1
- マイケル・グラント、ジョン・ヘイゼル著『ギリシア・ローマ神話事典』西田実他訳、大修館書店(1988年) ISBN 978-4-469-01221-7
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』、岩波書店(1960年) ISBN 978-4-000-80013-6