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鳥取連続不審死事件
鳥取連続不審死事件 | |
---|---|
正式名称 | 鳥取連続不審死事件 |
場所 | 日本・鳥取県 |
日付 |
2009年4月4日(同11日) 同年10月6日(同7日) (カッコ内は遺体発見日) |
概要 |
強盗殺人2件 (ともに睡眠薬を服用させたのち溺死させる) |
死亡者 | 2人 |
犯人 | 元スナックホステス・U |
動機 | 債務逃れ |
刑事訴訟 | 死刑(未執行) |
管轄 | 鳥取県警察 |
鳥取連続不審死事件(とっとり れんぞくふしんしじけん)とは、広義では2004年から2009年にかけて鳥取県の元スナックホステスの女Uの周辺で起こった6件の連続不審死事件である。捜査の結果、Uによる強盗殺人2件、自殺2件、事故死1件、病死1件とされた。強盗殺人2件について、2017年の最高裁判所判決によりUの死刑が確定した。
事件の概要
2009年4月発生のトラック運転手の溺死事件(後述の第4の事案)に関し、鳥取県警は容疑者として元スナックホステスの女U[注 1]の捜査を開始した[4]。
2009年10月にはUの周辺で2件の不審死事案(第5・第6の事案)が発生した[5]。鳥取県警は2009年11月2日に別件の詐欺容疑でUを逮捕し、強制捜査に乗り出した[6]。またU周辺での過去の不審死事案3件を含めて「鳥取連続不審死」として改めて捜査することとなった[7]。
警察による捜査の結果、うち2件が強盗殺人としてUを逮捕[6]。その他の事案は自殺2件[8][9]、事故死1件[10]、病死1件とされた[11]。
第1の事案
- 自殺
1999年に鳥取に赴任した新聞記者Aは、2001年ごろUが勤めるスナックでUと出会い、2003年には妻子があるにも関わらずUと交際・同棲するようになる[12]。また、その時期にはAは周囲に借金してまわる様になった[13][7]。そんななか、2004年5月13日、鳥取市内のJR因美線でA(42歳)の轢死体が発見された[14][7]。周囲には段ボールの破片が散乱しており、段ボールを被るか、段ボール箱の中に入る状態だったと推察された[8][7]。段ボールには「Uに出会えてよかった。本当の愛を知った」と走り書きがあり、また勤務先の新聞社には「迷惑をかけた」との遺書らしきものが残されており、警察は「自殺」と判断し、司法解剖なども行われなかった[8][7]。
第2の事案
- 事故死
警備員として警備会社勤務の男Bは、2001年ごろUが勤めるスナックでUと出会い、Bの実弟も含めUと遊び友達になるとともに、2005年ごろにはU宅に居候をするようになりUの子供の面倒を見るなどしていた[15][16]。実弟によると、Bはめっぽう気が弱く、Uからは実態のない借用書を書かされたり、暴力を受けたり、給料を取り上げられたり、「奴隷」の様な扱いを受けていた[17]。2007年8月18日、B(27歳)はU家族とともに鳥取砂丘近くの海辺に貝採りに出かけ、沖合約200メートル水深約2メートルの地点の海底に沈んでいるのが発見された[18][16]。救助後に病院に搬送されたが、同年8月27日に蘇生後脳症で死亡した[19][16]。実弟によるとBは泳ぎが苦手であった[20][16]。警察および病院は特に疑念を抱かず、事故として処理された[10][16]。
第3の事案
- 自殺
鳥取県警刑事の男Cは、2007年ごろ捜査の一環ととしてUが勤めるスナックを訪れたのきっかけに、同スナックの常連となり、妻子がありながらUと交際するようになった[21][7]。関係者の証言によると、Cの勤務態度、女性問題、金銭問題などが県警内で問題視され、Cは上司より注意を受けていた[22][7]。2008年2月、鳥取県内の山中で首を吊った状態で発見された[23][7]。警察は自殺と判断し、司法解剖なども行われなかったとされる[9]。事案発生の2008年当初には県警による発表はなかったが、2009年に一連の不審死が報道されるようになると、最初は「警察署内で首吊り」として、のちに「山中で首吊り」に訂正され発表された[23]。
第4の事案
- Uによる強盗殺人(逮捕・起訴・判決。Uは一貫して否認)
トラック運転手の男Dは、2008年2月ころよりUと肉体関係を伴う交際をしており、Uに対し300万円ほどの金銭も渡していた[24]。2009年4月11日、鳥取県北栄町の沖合約600メートル水深約3メートルの海底でD(47歳)が全裸の水死体で発見され、司法解剖の結果、死因は溺死、体内から睡眠導入剤が検出されるとともに、通常の溺死では普通見られない肺からの砂が検出された[24][25]。2010年3月3日に鳥取県警は強盗殺人容疑でUを逮捕した[6]。
第5の事案
- Uによる強盗殺人(逮捕・起訴・判決。Uは一貫して否認)
鳥取市内で電器店を経営する男Eは、2009年夏ごろにUおよびUの交際相手で同棲中の男Fに対して100万円を超える電器製品を掛け売りで納品していた[26]。2009年10月7日、鳥取市の摩尼山中腹の摩尼川にて、E(57歳)が顔に傷、うつ伏せの状態で死んでいるのが発見された[27][28]。司法解剖の結果、睡眠導入剤が検出された[5][28]。状況証拠などから、2010年1月28日に鳥取県警は強盗殺人容疑でUを逮捕した[29]。
第6の事案
- 病死
U宅の近隣アパートに住む男Gは、ホテル従業員だったが、2009年に脳梗塞を患い、以後、職を失い生活保護を受けて生活していた[30]。Uの勤務するスナックの客でもあったことから、Uとは親しい間柄で、Gが家の合鍵をUに渡していたり、GがUの子供の面倒を見るなどしていた[30][31]。2009年9月には、U所有の自動車をGが運転中に事故を起こし、UとGとの間で金銭トラブルになっていた[31]。朝日新聞によると関係者の証言として「同年10月26日夕刻、Gの意識が混濁し、UがGに錠剤を服用させていた」[32]。翌27日朝には病院に救急搬送されるも死亡が確認された[30]。遺体は司法解剖され、体内から睡眠導入剤が検出された[33]。県警は、Uとの関連を捜査するも、Gは心臓に持病があったこと、死亡と睡眠導入剤との因果関係が不明なことなどにより最終的には病死と判断した[34][11]。
逮捕・裁判の経過
逮捕・起訴・公判前手続き
2009年11月2日、鳥取県警は、Uおよび交際・同棲中の男Fを詐欺の容疑で逮捕したのを皮切りに、以降、別件の詐欺や住居侵入・窃盗の容疑で5回再逮捕した[35][注 2][注 3]。2010年1月28日、鳥取県警は、第5の事案に関し、強盗殺人容疑[注 4]でUを再逮捕[29][39]。また、2010年3月3日には、第4の事案に関し、強盗殺人容疑[注 5]でUを再逮捕[6][39]。
以上の詐欺8件、住居侵入・窃盗1件、強盗殺人2件が順次起訴され、公判前整理手続きは2010年1月18日より2012年9月19日まで合計42回開催された[38]。Uは、詐欺8件、住居侵入・窃盗1件については基本的に認めたが、強盗殺人2件については否認し、直接証拠が無いなかで間接証拠のみでの犯行立証が争点となった[38]。
第1審公判
- 鳥取地方裁判所 - 死刑判決
2012年9月25日、鳥取地裁にて公判が開始され、罪状認否で被告人Uは「私はやっていません」と強盗殺人2件を否認した[41][42]。検察側は冒頭陳述において強盗殺人2件とも「Uが事前に睡眠導入剤を入手、被害者を呼び出し、睡眠導入剤を飲ませたうえで殺害、事情を知らない同棲中の男Fを迎えに越させ現場を離れた」と主張[43][44]。それに対し、弁護側は「被害者の生前最後の接触者は男Fで、睡眠薬を飲ませたのも男Fである」とし、強盗殺人2件とも「真犯人は男Fである」と無罪を主張した[45][46]。
同年10月29日に予定されていた弁護側による被告人質問はUが黙秘権行使に転じ公判取り消しに、また翌10月30日の検察側・裁判所からの被告人質問にもUは黙秘権を行使し何も語らなかった[47][48]。
同年11月5日、検察側は死刑を求刑[49][39]。翌11月6日、弁護側は最終弁論で「男Fと鳥取県警が協力してUが犯人という虚構を作り上げた」と主張、また被告人最終意見陳述でUは「強盗殺人2件は、私はやっていません」と繰り返し、結審した[50][51]。
同年12月4日に裁判所は、第4の事案に関し「Uは、Dへの270万円の債務弁済を逃れるため、Dに睡眠導入剤を飲ませ、Dの意識が朦朧としたところを現場海中に誘導し、入水・溺死させた」強盗殺人である、第5の事案に関し「Uは、Eへの53万円余の代金支払いを逃れるため、Eに睡眠導入剤を飲ませ、Eの意識が朦朧としたところを現場河川に誘導し、入水・溺死させた」強盗殺人であると各々認定し、「被害者からの債務返済の強い催促に困窮し、安易に殺害を決意・計画・実行する所業は甚だ冷酷・身勝手で悪質性が顕著。反省や謝罪の姿勢もなく、極刑も已む無し」として死刑判決を言い渡した[52][53]。Uは判決を不服として即日控訴した[54]。
控訴審公判
- 広島高等裁判所松江支部 - 控訴棄却、死刑判決維持
弁護側は強盗殺人2件について、2件とも「第1審での間接証拠に基づくUが犯人であるとの事実認定は証拠不足で誤りがある。Uには犯行に及ぶ動機がなく、また犯行の機会もなかった。睡眠導入剤により意識が朦朧とする被害者を誘導・入水させる行為はUには不可能」などとして無罪を主張し、また第1審でほぼ黙秘していたUも被告人質問で関与を否定した[55][56][57]。
これに対し広島高裁松江支部は2014年3月20日、強盗殺人2件に関し2件とも、Uの供述を「客観証拠と不整合、不合理、虚偽」として信用性を否認し、「種々の状況証拠や動機がなどからUが犯人であると認められ、原判決認定に事実誤認は認められない」とし、控訴を棄却、死刑との原判決を維持した[57][56][58]。Uの弁護団は判決を不服として即日上告した[59]。
上告審
- 最高裁判所第1小法廷 - 上告棄却、死刑判決確定
2017年6月29日に開かれた上告審弁論では、弁護側は強盗殺人2件について、2件とも「睡眠導入剤により意識が朦朧とする被害者を誘導・入水させる行為はUには不可能」と無罪を主張し、検察側は「犯行は十分可能」と上告棄却を求め、結審した[60][61]。
2017年7月27日、最高裁第1小法廷は「第1審・控訴審の過程で憲法違反無し。各種の状況証拠・動機は合理的な疑義を払拭する程度に証明済で、Uが犯人であるとする第1審・控訴審の判決は正当。犯行経緯・動機・計画性などから第1審・控訴審での死刑との量刑も已む無し」として、上告を棄却した[62][63]。
弁護側は最高裁判所に対し上告棄却判決の訂正申し立てを行ったが、最高裁判所は2017年8月23日に却下の決定を出した[64]。これにより、Uの死刑判決が確定した[64]。
事件に対する報道・評価など
裁判員裁判と実名報道・匿名報道
この事件は、2009年11月2日に詐欺容疑でUが逮捕された際、鳥取県警は県警記者クラブに加盟する報道各社にUの実名での発表資料を配布、毎日新聞・読売新聞などは詐欺容疑に関し実名で報道した[65][66]。しかし、不審死事件が発覚した11月5日以降は匿名報道に変更された[65]。これは、殺人容疑で立件されれば裁判員裁判の対象となるため、世間に予断を与えないための配慮とされている[67]。一方、週刊誌の多くは実名や顔写真を掲載しセンセーショナルに報じた[68]。週刊新潮は「重大犯罪疑義・社会的関心大きく、『知る権利』に応えるため」と、週刊文春は「事案の重大性を鑑みて」と、実名報道の理由を説明した[68]。ジャーナリズム論が専門の立正大学講師・桂敬一は、「捜査当局の結論が出ていない疑惑の段階で、興味本位に実名報道することには疑問を感じる」などと指摘した[69]。2010年1月28日にUが第5の事案に関し強盗殺人の容疑で逮捕されると、朝日新聞・産経新聞など実名報道に切り替えとなった[70][71]。
首都圏連続不審死事件と絡めた報道
同時期に発覚した関東地方で起きた「首都圏連続不審死事件」との類似点・相違点などを評した報道等が見られた[72]。ノンフィクションライターの青木理は著書の中で「ともに、疑惑の中心人物は30代半ばのふくよかで決して容姿端麗とは言えない女の周辺で、親密な交際をしており金銭も提供していた複数の男の不審死」と評し、作家でコラムニストの北原みのりは「容姿や年齢、犯行手口に類似点がみられるが、男との出会い方に大きな相違点があり、夫々の生育環境に由来するものではないか」と指摘、事件ジャーナリストの戸田一法は「双方とも、起訴された事案が一連の不審死事案の一部だったことを踏まえ、司法の限界も感じる」と評した[72][73][74]。また2016年のフジテレビの番組「追跡!平成オンナの大事件」では「東のK被告、西のU被告」として取り上げた[75]。
脚注
注釈
- ^ 1973年12月に鳥取県倉吉市に生まれ、幼少期を同県東伯郡大栄町で過ごし、両親と兄が1人の4人家族であった[1]。1988年に中学校を卒業後、高校の看護科に進学するもほどなく中退[2]。その後、大阪で結婚し1男1女を儲けるが離婚、鳥取に戻り別の男性と再婚しさらに1男1女を儲けるが折り合いが悪く別居、鳥取市の歓楽街のスナックでホステスとして働くようになった[2]。2004年には婚外子1女を儲けた[3]。
- ^ 事案詳細は、U・F共犯の詐欺7件(被害総額798万円余)、同共犯の住居侵入・窃盗1件(現金35万円入り財布2個)、U単独での詐欺1件(被害額126万円)[36]。
- ^ Fは容疑を認め、2010年9月22日の鳥取地裁での公判は即日結審、同年10月20日に懲役3年の判決が言い渡され、控訴しなかったため刑が確定した[37]。
- ^ 270万円の債務弁済を逃れるため殺害した容疑[38]。
- ^ 123万円余(最終的には鳥取地裁判決で53万円余のみ認定された[40])の電器製品購入代金の支払いを逃れるため殺害した容疑[38]。
出典
- 以下の出典において記事名に死刑囚の実名が使われている場合、この箇所を日本における収監中の死刑囚の一覧との表記矛盾解消のため苗字イニシャル「U」とする。
- ^ 青木理 2013, pp. 23–24.
- ^ a b 青木理 2013, p. 27.
- ^ 青木理 2013, p. 37.
- ^ 青木理 2013, p. 98.
- ^ a b 青木理 2013, p. 103.
- ^ a b c d 青木理 2013, p. 110.
- ^ a b c d e f g h “【鳥取連続不審死】6人全員に不自然な経緯、5人については殺人も視野”. 産経新聞. (2009年11月8日). オリジナルの2009年11月10日時点におけるアーカイブ。 2010年2月3日閲覧。
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参考文献
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- 林弘正「裁判員裁判制度に内在する諸問題 -鳥取地裁平成24年12月4日判決を素材に-」『島大法学』第56巻第3号、島根大学法文学部、2013年3月、1-152頁、ISSN 05830362、2021年6月22日閲覧。
関連書籍
- 青木理『誘蛾灯 二つの連続不審死事件』講談社+α文庫、2016年1月21日。ISBN 978-4062816397。
- 本事件と首都圏連続不審死事件について取り扱った書籍。
- 片岡健『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』笠倉出版社、2019年。ISBN 4773089598。
- 他の死刑囚7人との面会記と共にUとの面会記が収録された書籍。
- 漫画・塚原洋一、原作・片岡健『マンガ 「獄中面会物語」』笠倉出版社、2019年。ISBN 4773072202。
オリジナル
鳥取連続不審死事件 | |
---|---|
場所 | 日本鳥取県鳥取市 |
日付 | 2004年 - 2009年 |
概要 | 強盗殺人(同二項を含む) |
武器 | 睡眠薬 |
死亡者 | 6人(起訴対象は2人) |
犯人 | 事件当時35歳の元スナックホステスU |
動機 | 金銭目的・債務逃れ |
刑事訴訟 | 死刑(未執行) |
鳥取連続不審死事件(とっとり れんぞくふしんしじけん)とは、2004年(平成16年)から2009年(平成21年)にかけ、鳥取県鳥取市を中心に発生した連続不審死事件[1]。
事件の概要
2009年11月、詐欺罪で逮捕された元スナックホステスの女Uの周辺で、6人の男性が不審死していることが発覚した[2]。
翌2010年1月、Uは強盗殺人罪で逮捕され、最終的に2人を殺害した罪で起訴された。
一連の不審死事件
- 第1の事件
- 2004年(平成16年)5月13日、当時Uの交際相手である男性Aが、段ボールに詰められた状態で鳥取市内のJR因美線で列車に轢かれ死亡した。
- 段ボールには「出会って幸せだった」などのようなことが書かれており、鳥取県警は文面の様子などから遺書と判断し、Aの死因を「自殺」と処理して、司法解剖などは行わなかった。AはUとの金銭トラブルがあり、同僚などからたびたび借金をしていた[2]。
- 第2の事件
- 2007年(平成19年)8月18日、Uの家族と共に貝を採りに、鳥取砂丘近くの海岸に出かけた27歳の男性Bが海で溺れ、搬送された病院で約10日後に死亡した。
- Bは泳げなかった。Uとは2001年頃にスナックで知り合い、2005年頃から同居するようになった[3]。BはUから日常的に熱湯をかけられるなどの暴行を受けていた。
- 第3の事件
- 2008年(平成20年)2月、鳥取市郊外の山中で男性Cの首吊り死体が発見された。
- CはUが働いていたスナックの常連客であり、2人の間で金銭トラブルがあったという[2]。
- 第4の事件(起訴事案)
- 2009年(平成21年)4月11日早朝、北栄町沖の日本海で47歳男性Dの水死体を発見。
- 遺体からは睡眠導入剤のほか、肺からは(水死の場合、入るはずがない)砂が検出されるなど[4]不自然な点が多く、他殺の可能性が高いと結論づいて、起訴へ至った。
- 第5の事件(起訴事案)
- 同年10月7日、男性Eが自宅から約4km離れた鳥取市内の摩尼川にて、うつ伏せの状態で死亡しているのを発見された。
- 前日、男性Eは家族に「集金に行く」と言い残し、車でどこかへ出かけている[5]。捜査の結果、事件現場から約10m離れた場所にEの車が発見され、カーナビの走行記録を確認ところ、U宅の敷地を何度も出入りしていたことが判明する[6]。
- Uおよび同居人の男性は、Eに対して140万円ほどの未収金があり、前日の発言はこのことだと思われる[5]。また、Eの遺体が発見された事件現場は、決して溺れるはずのない"水深20cm"程度の浅い川で、第三者に顔を押しつけられた可能性が高く、遺体からも睡眠導入剤が検出されたため[7]、起訴へと至った。
- 第6の事件
- 同年10月27日、Uと同じアパートに住んでいた男性Fが、急な体調不良で急逝した。
- 同年9月、FはUの車を借りて運転していた最中、鳥取駅前で乗用車と衝突事故を起こす。その際、Uは「相手と示談する」と言ってFから8万円を受け取るが、話し合いは一向に進展せず、結局Fは示談で揉めることになった。
- その1ヶ月後、Fは昏睡状態に陥って死亡する。Fは生前、Uのスナックの常連客であり、彼女に自宅の鍵を預けていたという[8]。
報道
この事件は、2009年11月2日に詐欺容疑でUが逮捕された際、鳥取県警は実名を公表し、県警記者クラブに加盟する報道各社に発表資料を配布した。しかし、不審死事件が発覚した5日以降は匿名にきりかわった[9]。これは、殺人容疑で立件されれば裁判員裁判の対象となるため、世間に予断をあたえないための配慮とされている[10]。しかし、ほとんどの週刊誌は実名や顔写真を掲載し、センセーショナルな見出しで女の生い立ちや生活実態を報道した。『週刊新潮』は、『社会的な関心がおおきく、「知る権利」にこたえるため』、『週刊文春』は「事案の重大性をかんがみて」という理由で実名報道を選択した理由を説明している[11]。
一連の報道についてマスコミ研究者の桂敬一は、「実名報道は捜査当局の判断をまってからでもおそくない。興味本位の報道ではよくなく、インターネット上でも情報が氾濫しており、フィクションの世界で犯罪ができあがるような錯覚すらおぼえる」と指摘している[12]。
2010年1月28日にUが強盗殺人罪で逮捕されたのを機に、テレビや大手新聞でも実名報道に切り替えとなった[要出典]。
刑事裁判
裁判では目撃証言などの直接証拠が存在せず、間接証拠の積み重ねでの判断に注目が集まった[13]。
2012年12月4日、鳥取地裁(野口卓志裁判長、裁判員裁判)は求刑通り死刑を言い渡した。女性被告人に対する死刑判決は、裁判員裁判では首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗に続き2人目だった。被告側は判決を不服として即日控訴した[14]。
2014年3月20日、広島高裁松江支部(塚本伊平裁判長)は第一審の死刑判決を支持し、控訴を棄却した。被告側は最高裁に即日上告した。
最高裁判所第1小法廷(小池裕裁判長)は2017年4月7日までに、上告審口頭弁論公判の開廷日を6月29日に指定した[15][16][17]。
最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)で2017年6月29日、上告審口頭弁論公判が開廷された[18][19][20]。弁護側は2件の強盗殺人について「被告人が睡眠薬の作用でもうろうとしている男性に肩を貸し、犯行場所とされるところまで連れて行くことは不可能だ」と無罪を主張した一方、検察側は「被告人による犯行は十分可能だった」と上告棄却を求めた[18][19][20]。
2017年7月5日までに、最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)は上告審判決公判開廷日時を7月27日に指定した[21][22][23]。
2017年7月27日、最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)はUの上告を棄却する判決を言い渡した[24]。これにより、Uの死刑が確定することとなった[24] [25]。
Uは判決を不服として、最高裁第一小法廷に判決の訂正を申し立てたが、8月23日付で棄却決定がなされたことにより、死刑判決が確定した[26]。Uは戦後16人目、裁判員制度導入後では、首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗以来2人目の女性死刑囚となった。
別事件の死刑囚からの提訴
和歌山毒物カレー事件で死刑が確定した林真須美[注 1](大阪拘置所収監中)の支援誌に、林は本事件の被告人Uと面識がなく、関わりを持ちたくないにもかかわらず、Uとの関係をうかがわせる文章が林の支援誌に掲載されたり、別の雑誌で林がUに親しみを持っているかのような印象を与える表現をされたりして、苦痛を与えられたとして、林は2016年12月28日付で、Uに対し計1000万円の損害賠償を求め、東京地方裁判所に民事訴訟を提訴した[27]。この訴訟は2017年3月に松江地方裁判所で審理されることが決まった[27]。
死刑囚の現在
2016年時点で、当時上告中だったUは松江刑務所拘置区に収監されていたが[27][28]、死刑が確定した2017年9月23日現在は、広島拘置所に移送されている[29]。
関連書籍
- 青木理『誘蛾灯 鳥取連続不審死事件』講談社、2013年11月12日。ISBN 978-4062186735。
- 青木理『誘蛾灯 二つの連続不審死事件』講談社+α文庫、2016年1月21日。ISBN 978-4062816397。
- 本事件と首都圏連続不審死事件について取り扱った書籍。
- 片岡健『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』笠倉出版社、2019年。ISBN 4773089598。
- 他の死刑囚7人との面会記と共にUとの面会記が収録された書籍。
- 漫画・塚原洋一、原作・片岡健『マンガ 「獄中面会物語」』笠倉出版社、2019年。ISBN 4773072202。
脚注
注釈
- ^ 林は実名で著書を出版しているため、Wikipedia日本語版にて実名記載が認められている
出典
- 以下の出典において記事名に死刑囚の実名が使われている場合、この箇所を日本における収監中の死刑囚の一覧との表記矛盾解消のため苗字イニシャル「U」とする。
- ^ 朝日新聞 2009年11月12日30面
- ^ a b c “【鳥取連続不審死】6人全員に不自然な経緯、5人については殺人も視野”. 産経新聞. (2009年11月8日). オリジナルの2009年11月10日時点におけるアーカイブ。 2010年2月3日閲覧。
- ^ “鳥取連続不審死:女が海に誘い水死 泳げぬ27歳男性を”. 毎日新聞. (2009年11月8日). オリジナルの2009年11月11日時点におけるアーカイブ。
- ^ “鳥取・男性連続不審死:肺に砂、殺人で捜査 47歳男性、海で水死直後から”. 毎日新聞. (2009年11月9日). オリジナルの2009年11月13日時点におけるアーカイブ。
- ^ a b “【鳥取連続不審死】集金トラブルが原因か 遺体で発見の男性”. 産経新聞. (2009年11月9日). オリジナルの2009年11月13日時点におけるアーカイブ。 2010年2月3日閲覧。
- ^ “【鳥取連続不審死】水死?男性、女の自宅へ立ち寄る 不明当日に”. 産経新聞. (2009年11月11日). オリジナルの2009年11月16日時点におけるアーカイブ。 2010年2月3日閲覧。
- ^ “鳥取で男性3人が不審死 遺体から睡眠導入剤”. 中日新聞. (2009年11月5日)[リンク切れ]
- ^ “【鳥取連続不審死】疑惑の女、5人中3人と金銭トラブル”. 産経新聞. (2009年11月6日). オリジナルの2009年11月10日時点におけるアーカイブ。 2010年2月3日閲覧。
- ^ 阪秀樹 (2009年11月27日). “【鳥取連続不審死】「報道倫理」匿名か、「知る権利」実名か メディア対応分かれた 報道検証”. 産経新聞: p. 1 2010年2月3日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 阪秀樹 (2009年11月27日). “【鳥取連続不審死】「報道倫理」匿名か、「知る権利」実名か メディア対応分かれた 報道検証”. 産経新聞: p. 2 2010年2月3日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 阪秀樹 (2009年11月27日). “【鳥取連続不審死】「報道倫理」匿名か、「知る権利」実名か メディア対応分かれた 報道検証”. 産経新聞: p. 4 2010年2月3日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 阪秀樹 (2009年11月27日). “【鳥取連続不審死】「報道倫理」匿名か、「知る権利」実名か メディア対応分かれた 報道検証”. 産経新聞: p. 5 2010年2月3日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “間接証拠のみで判断 “新基準”のモデルケースに”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2012年12月4日). オリジナルの2017年9月26日時点におけるアーカイブ。 2012年12月13日閲覧。
- ^ “連続不審死、U被告に死刑判決 鳥取地裁「冷酷、身勝手」”. 『47NEWS』 (共同通信社). (2012年12月4日). オリジナルの2017年9月26日時点におけるアーカイブ。 2013年12月10日閲覧。
- ^ “鳥取不審死 6月に一、二審死刑のU被告弁論、最高裁決定”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年4月7日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
- ^ “鳥取の連続不審死事件、6月に弁論へ 最高裁が決定”. 『朝日新聞デジタル』 (朝日新聞社). (2017年4月7日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
“鳥取連続不審死、6月弁論 最高裁”. 『朝日新聞デジタル』 (朝日新聞社). (2017年4月8日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。 - ^ “鳥取連続不審死:最高裁が6月29日に弁論実施”. 『毎日新聞』 (朝日新聞社). (2017年4月7日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
- ^ a b “「もうろうとしている男性、犯行場所まで連れて行くのは不可能」と弁護側…最高裁でも2人強殺否定 鳥取連続不審死”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年6月29日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
- ^ a b “鳥取連続不審死:被告側、無罪主張 上告審弁論”. 『毎日新聞』 (毎日新聞社). (2017年6月29日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
- ^ a b “鳥取の連続不審死、U被告は無罪主張 最高裁で弁論”. 『朝日新聞』 (朝日新聞社). (2017年6月29日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
“鳥取連続不審死、最高裁で弁論”. 『朝日新聞』 (朝日新聞社). (2017年6月29日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。 - ^ “【鳥取連続不審死事件】U被告の最高裁判決は27日”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年7月5日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
- ^ “鳥取連続不審死:U被告、最高裁判決は27日”. 『毎日新聞』 (毎日新聞社). (2017年7月5日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
- ^ “鳥取連続不審死、27日に最高裁判決”. 『朝日新聞』 (朝日新聞社). (2017年7月5日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
“鳥取連続不審死、27日に上告審判決”. 『朝日新聞』 (朝日新聞社). (2017年7月5日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。 - ^ a b “鳥取連続不審死事件、U被告の死刑確定へ 上告を棄却”. 『朝日新聞デジタル』 (朝日新聞社). (2017年7月27日) 2017年7月27日閲覧。
- ^ “鳥取連続不審死事件、U被告の死刑確定へ 最高裁が上告棄却「計画的で冷酷な犯行」”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年7月27日). オリジナルの2017年9月26日時点におけるアーカイブ。 2017年9月26日閲覧。
“【鳥取連続不審死】「最後ぐらい、謝罪あっても…」死刑確定するU被告に、遺族のやるせなさ今も(1/2ページ)”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年7月27日). オリジナルの2017年9月26日時点におけるアーカイブ。 2017年9月26日閲覧。
“【鳥取連続不審死】「最後ぐらい、謝罪あっても…」死刑確定するU被告に、遺族のやるせなさ今も(2/2ページ)”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年7月27日). オリジナルの2017年9月26日時点におけるアーカイブ。 2017年9月26日閲覧。 - ^ “鳥取連続不審死 元スナック従業員、U被告の死刑確定”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年8月26日). オリジナルの2017年9月26日時点におけるアーカイブ。 2017年9月26日閲覧。
- ^ a b c “林真須美死刑囚、連続不審死事件のU被告を提訴「親しいかのような文章に苦痛」”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年7月4日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
- ^ 年報・死刑廃止編集委員会『死刑と憲法 年報・死刑廃止2016』インパクト出版会、2016年10月10日、236頁。ISBN 978-4755402692。
- ^ 年報・死刑廃止編集委員会『ポピュリズムと死刑 年報・死刑廃止2017』インパクト出版会、2017年10月15日、203頁。ISBN 978-4755402807。
関連項目
- 首都圏連続不審死事件 - 同時期に発覚した関東地方で起きた連続殺人事件
- 関西青酸連続死事件
- 実名報道