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「眠れる森の美女 (チャイコフスキー)」の版間の差分

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{{Otheruses||その他の名称|眠れる森の美女 (曖昧さ回避)}}{{Infobox バレエ
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{{External media
『'''眠れる森の美女'''』(ねむれるもりのびじょ、[[ロシア語|露]](原題): {{Lang|ru|''Спящая красавица''}})は、[[ピョートル・チャイコフスキー]]の作曲した[[バレエ音楽]]([[作品番号|作品]]66)、およびその音楽を用いた[[バレエ]]作品。[[クラシック・バレエ]]作品の最も有名なものの1つに数えられる。
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| topic = '''バレエ『眠れる森の美女』(抜粋)'''<br />[[ロイヤル・バレエ団|英国ロイヤル・バレエ団]]による上演
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[[ロイヤル・オペラ・ハウス]]公式YouTubeより
}}


『'''眠れる森の美女'''』(ねむれるもりのびじょ、{{lang-ru-short|''Спящая красавица''}}, {{lang-fr-short|''La Belle au bois dormant''}}, {{lang-en-short|''The Sleeping Beauty''}})は、[[ピョートル・チャイコフスキー]]が作曲した[[バレエ音楽]]([[作品番号|作品]]66)、およびそれを用いた[[バレエ]]作品である{{Sfn|音楽之友社|1993|p=84}}。日本語題は『'''眠りの森の美女'''』が用いられることもある。1890年、[[サンクトペテルブルク]]の[[マリインスキー劇場]]で初演された{{Sfn|デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル|2010|p=361}}。
ロシア語や英語の題は忠実に翻訳すれば『'''眠れる美女'''』であり、また日本語では『'''眠りの森の美女'''』とも訳される。台本は[[シャルル・ペロー]]の[[おとぎ話]]『[[眠れる森の美女]]』([[フランス語|仏語]]:{{lang|fr|''La Belle au bois dormant''}})に着想を得て書かれた。チャイコフスキーのバレエ音楽の中で最も演奏時間が長く、全曲を通した上演には普及している縮小版でも優に2時間を要し、原型に基づく上演の場合、上演時間は3時間に及ぶ。


本作は、[[シャルル・ペロー]]による[[説話|昔話]]『[[眠れる森の美女]]』を原作としている{{Sfn|デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル|2010|p=361}}。[[バレエ#クラシック・バレエ|クラシック・バレエ]]を代表する作品の一つであり、同じくチャイコフスキーが作曲した『[[白鳥の湖]]』『[[くるみ割り人形]]』と共に「3大バレエ」とも呼ばれている{{Sfn|ダンスマガジン編集部|1999|p=34}}。
== 作品の経緯 ==
{| style="float:right;"
|-
|[[File:Charles Perrault détail.jpg|thumb|right|185px|基となったお伽話『眠れる森の美女』を著したシャルル・ペロー]]
|[[File:Marius Petipa cabinet card.jpg|thumb|right|160px|振り付けを担当したマリウス・プティパ]]
|}
[[サンクトペテルブルク]]の[[マリインスキー劇場|帝室劇場]]総裁[[イワン・フセヴォロシスキー]]がチャイコフスキーに、ペローのおとぎ話『[[眠れる森の美女]]』に基づくバレエの音楽が欲しい、と手紙を書いたのは[[1888年]][[5月13日]](<small>[[ユリウス暦]]。新暦では[[5月25日]]</small>)のことだった。それまでチャイコフスキーの[[バレエ音楽]]の作曲の経験は『[[白鳥の湖]]』だけであり、しかもライジンガーやハンセンが振付けてモスクワの[[ボリショイ劇場]]で初演したバレエ『白鳥の湖』は、当時ほとんど歓迎されることのない作品となっていた。その後8月22日にやっと台本を手にしたチャイコフスキーは、ためらうことなく新作バレエの作曲を引き受けた。『眠れる森の美女』の作曲に当たってチャイコフスキーが取り組んだ台本は、ペローの童話を基にフセヴォロジスキーが書き下ろしたものとされている。王女の両親(国王と王妃)が娘の100年の眠りを生き長らえて、眠りから覚めた姫の晴れの婚礼を見届けるという部分や、王子のキスで目覚める部分などはグリム童話の「いばら姫」に近いが、フセヴォロシスキーはペローや[[オーノワ夫人]]などフランスの[[童話]]のいくつかの話も台本に取り入れた。ともあれチャイコフスキーはフセヴォロシスキーに、この台本を読んで大いに感動し、それを最高に生かす良い着想を得たことを嬉々として伝えた。


==上演史==
[[振付師|振付]]を担当したのは、[[マリインスキー・バレエ|ロシア帝室バレエ]]の比類ないバレエマスター(振付・演出家)[[マリウス・プティパ]]であった。プティパは作曲に必要な指示を詳細に書き、その指示に従ってチャイコフスキーはこの新作を、[[フロロスコエ]]の自宅ですばやく書き上げた。[[1888年]]の冬に草稿に着手し、[[オーケストレーション]]を開始したのは[[1889年]][[5月30日]]であった。
===チャイコフスキー以前の同名バレエ===
シャルル・ペローによる昔話『眠れる森の美女』を題材としたバレエは、19世紀前半に[[パリ・オペラ座バレエ|パリ・オペラ座]]で2回制作されている{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=37}}。一度目は[[1825年]]に上演された同名の[[オペラ]]で、作中にバレエ・シーンが挿入されており、{{仮リンク|ピエール・ガルデル|en|Pierre Gardel}}が振付を担当した{{Sfn|小倉重夫|1989|pp=98-99}}。二度目は[[1829年]]に上演されたバレエで、振付は{{仮リンク|ジャン=ルイ・オーメール|en|Jean-Louis Aumer}}、音楽は[[フェルディナン・エロルド]]が手掛け、[[リーズ・ノブレ]]や[[マリー・タリオーニ]]といった当時の人気[[バレリーナ]]が出演したが、[[1840年]]の上演を最後にオペラ座のレパートリーから外れている{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=37}}{{Sfn|小倉重夫|1989|pp=98-101}}<ref>{{Cite journal|和書|author=譲原晶子 |title=バレエ・パントマイムの時代の『眠れる森の美女』 |date=2011-03 |url=http://id.nii.ac.jp/1381/00002338/ |journal=千葉商大紀要 |publisher=千葉商科大学 |volume=48 |issue=2 |pages=45-63 |naid=110008430462 |ISSN=03854566}}</ref>。


===創作の経緯===
作品の焦点は、明らかに善の力([[ライラック|リラ]]の精に[[象徴]]される)と悪の力(カラボスに象徴される)との葛藤に置かれており、それぞれを表す[[ライトモチーフ]]が話の筋を強調する重要な撚り糸として機能しながら、バレエ音楽全体を貫いている。しかしながら第3幕では、その2つのライトモチーフはすっかり息を潜めて、その代わりに様々な宮廷舞曲の1つ1つの性格に力点が置かれる。なぜ2つのライトモチーフが第3幕で息を潜めるのかは昨今の縮小版バレエでは分からないが、原作を見ればその意味がわかる。
[[File:Ivan A. Vsevolozhsky.jpeg|right|thumb|120px|{{仮リンク|イワン・フセヴォロシスキー|en|Ivan Vsevolozhsky}}]]
[[File:Sleeping beauty cast.jpg|thumb|250px|『眠れる森の美女』初演キャスト(1890年)]]
[[1888年]]5月、[[サンクトペテルブルク]]の[[マリインスキー劇場]]支配人であった{{仮リンク|イワン・フセヴォロシスキー|en|Ivan Vsevolozhsky}}は、チャイコフスキーに手紙を書き、ペローの昔話『眠れる森の美女』に基づくバレエ音楽の作曲を依頼した{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=37}}。[[外交官]]として[[パリ]]に駐在していたこともあるフセヴォロシスキーは、文化的見識が深く、[[フランス]]文化を愛好する人物であった{{Sfn|音楽之友社|1993|p=84}}{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=37}}。『眠れる森の美女』は、当時フランスで上演されていた[[夢幻劇]]と呼ばれる大衆向け[[演劇]]において、最も人気の高い演目であった{{Sfn|鈴木晶ほか|2012|p=66}}。


また、[[ロシアの歴史#ピョートル1世以降のロシア帝国|当時のロシア]]では、[[1881年]]に起きた[[アレクサンドル2世暗殺事件 (1881年)|皇帝アレクサンドル2世の暗殺事件]]以降、[[ロシア皇帝|皇帝]]による[[ツァーリズム|専制政治]]が強化されていた{{Sfn|村山久美子|2001|p=6}}。そのような中でフセヴォロジスキーは、ペローが生きた[[ルイ14世]]時代のフランスと当代のロシアを重ね合わせ、皇帝を賛美する豪華絢爛なバレエを上演しようとしたのである{{Sfn|鈴木晶ほか|2012|p=66}}{{Sfn|村山久美子|2001|p=6}}{{Sfn|村山久美子|2018|p=45}}。
[[アレクサンドル3世]]は皇族をつれて[[ゲネプロ]]当日にこれを観覧し、立ち去り際に、たった一言「とてもいい」と言い残した。チャイコフスキーは、もっと好意的な反応を期待していたので、その言葉に苛立ったという。


フセヴォロシスキーはチャイコフスキーに宛てた依頼の手紙で、「私はペローの童話『眠れる森の美女』のバレエ台本を書きました。この作品の時代背景をルイ14世のスタイルにし、装置はミュージカル・ファンタジー風に、音楽的な色彩は[[リュリ]]や[[ラモー]]の[[バレ・ド・クール|宮廷バレエ]]様式風なものを採用して下さい。私は終幕にペローの童話集から(中略)[[長靴をはいた猫]]、[[赤頭巾]]、[[シンデレラ]]、[[ドーノワ夫人|オーノワ夫人]]の作品から{{仮リンク|青い鳥 (ドーノワ夫人)|label=青い鳥|en|The Blue Bird (fairy tale)}}なども登場させたいのです」と書いている{{Sfn|音楽之友社|1993|p=85}}。チャイコフスキーはしばらく返信をしなかったが、フセヴォロジスキーから同年8月に再度手紙が送られてくると、まだ台本を受け取っていないが内容には興味を持っている、という趣旨の返事を書いた{{Sfn|森田稔|1999|p=158}}。その数日後、チャイコフスキーはフセヴォロジスキー宛に、「やっと『眠れる森の美女』の原稿が届きました。(略)私は言いようもなく、感嘆し、魅了されました。(略)私が作曲するのにこれ以上良いものは望めません」と熱狂的な手紙を書き、作曲を承諾した{{Sfn|森田稔|1999|p=158}}。
初演は[[1890年]][[1月15日]](<small>新暦</small>)に[[マリインスキー劇場]]において行われ、『白鳥の湖』よりも好意的な評価を報道された。だがチャイコフスキーは、この作品が海外の劇場で大ヒットする栄光の瞬間を味わうことはできなかった。


バレエの振付は、マリインスキー劇場の首席バレエマスターであり、フセヴォロシスキーと協力して本作の台本も手掛けていた[[マリウス・プティパ]]が担当することになった{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=37}}{{Sfn|小倉重夫|1997|p=246}}。作曲は1888年の秋から開始され、途中に何度か中断を挟みながらも、翌1889年の夏には全曲が完成した{{Sfn|森田稔|1999|pp=158,163-164}}。作曲に当たり、プティパはチャイコフスキーに対して指示書きを手渡し、各場面の楽曲の雰囲気や[[テンポ]]、[[小節]]数などを細かく指定したが、チャイコフスキーはそのすべてを厳密に守ったわけではなく、指定された小節数を超えて作曲した部分もある{{Sfn|小倉重夫|1997|p=246}}{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=37-38}}{{Sfn|森田稔|1999|pp=195-197}}。また、作曲が完了した後も、プティパが振付を進めていく過程で、楽曲には随時修正が加えられた{{Sfn|森田稔|1999|pp=197-198}}。
チャイコフスキーは[[1893年]]に他界する。それから10年後の[[1903年]]までに、『眠れる森の美女』は帝室劇場で1番人気の[[チェーザレ・プーニ|チェザーレ・プーニ]]作曲・プティパ振付の『ファラオの娘』に次ぐ地位を得た。サンクトペテルブルクで活躍したイタリア人バレリーナが帰国して行った[[ミラノ]]・[[スカラ座]]における上演は評価されず、『眠れる森の美女』が国際的に古典的なレパートリーとして不朽の地位を射止めたのは、ようやく[[1921年]]の[[ロンドン]]公演においてであった。ただし、それはチャイコフスキーとプティパが作った『眠れる森の美女』を基にしながらも異なる部分があり、また、ロシアにおいても革命・ソ連時代を経て異なるものに変わっていった。原作がどういうものであったのかが分かったのは、1999年4月30日、ロシア、サンクトペテルブルクの[[マリインスキー・バレエ]]が復原版を上演したときのことである<ref>その一部が2007年[[マリインスキー劇場]]ニューイヤーガラのテレビ放映で流され、ネット上でも見ることができる。</ref>。


===初演===
なお、原作バレエの上演前に[[アレクサンドル・ジロティ]]によってピアノ独奏版、[[1892年]]にジロティとチャイコフスキーの監修を受けた[[セルゲイ・ラフマニノフ]]による連弾版が出版されている。また演奏会用組曲(作品66a)が存在するが、これはジロティが作曲者に提案の上で編纂したものとされる。
[[File:Krasavitsa.jpg|thumb|250px|『眠れる森の美女』初演。第3幕のオーロラ姫([[カルロッタ・ブリアンツァ|C・ブリアンツァ]])とデジレ王子([[パーヴェル・ゲルト|P・ゲルト]])]]
[[1890年]]1月15日([[ユリウス暦|ロシア旧暦]]1月3日)、マリインスキー劇場において、バレエ『眠れる森の美女』が初演された{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=38}}。主要キャストは、オーロラ姫が[[カルロッタ・ブリアンツァ]]、デジレ王子が[[パーヴェル・ゲルト]]、リラの精がマリヤ・プティパ(振付家プティパの娘)、カラボスと青い鳥の二役が[[エンリコ・チェケッティ]]であった{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=39-40}}。上演時間は4時間半で、舞台美術・衣装をはじめとする制作費には膨大な予算がつぎ込まれ、帝室劇場でもっとも費用がかかったバレエとして評判になった{{Sfn|デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル|2010|p=361}}{{Sfn|鈴木晶ほか|2012|p=66}}{{Sfn|森田稔|1999|p=187}}。


初演前日の[[ゲネプロ]]を鑑賞した[[アレクサンドル3世 (ロシア皇帝)|皇帝アレクサンドル3世]]の感想は、ただ一言「とても可愛らしい」というもので、チャイコフスキーは日記に「皇帝陛下は僕を非常に軽くあしらった」と記している{{Sfn|森田稔|1999|pp=186-187}}{{Sfn|小松佑子|2017|p=329}}。初演に対する貴族や批評家の反応は冷淡なものが多かったが、観客からの支持は公演を重ねるごとに高まり、ついにはチケットが売り切れるまでになった{{Sfn|森田稔|1999|pp=187-188}}。その後も本作はマリインスキー劇場のレパートリーとして上演され続け、初演から6年後の1896年には、[[ミラノ]]の[[スカラ座]]で初の国外上演も行われた{{Sfn|森田稔|1999|pp=208-210}}{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=40}}。
== あらすじ ==
[[画像:Sleeping Beauty Royal Ballet 2008.jpg|thumb|280px|A・アンサネッリと[[デヴィッド・マッカテリ|D・マッカテリ]]が演ずるオーロラ姫・フロリムント王子(デジレ王子<ref>{{Cite web |url=https://www.classicfm.com/composers/tchaikovsky/guides/sleeping-beauty-guide-pictures/ |title=Tchaikovsky’s The Sleeping Beauty: a beginner’s guide in pictures |website=Classic FM |publisher=[[:en:Global (company)|Global]] |accessdate=2018-10-08 |quote=当該ページ後半に掲載の写真画像『12. One hundred years later…』の[[キャプション]]から}}</ref>)《2008年4月、[[ロイヤル・バレエ団]]》]]
=== プロローグ ===
フロレスタン24世の娘、オーロラ姫の誕生により、盛大な[[洗礼]]の式典が行われている。6人の[[妖精]]たちの一行が招待を受けて、彼女の名付け親となるべくやってくる。夾竹桃の精、三色ヒルガオの精、パンくずの精、歌うカナリアの精、激しさの精、そして一番偉い善の精、リラの精である。まず国王が妖精たちに贈り物をし、妖精たちがそれぞれオーロラ姫に授け物をする(正直さ、優雅さ、繁栄、美声、および寛大さなどを授けた、とする改訂版もある)。


===改訂演出===
その時、邪悪な妖精カラボスがやってくる。カラボスは自分が洗礼に招待されなかったことに怒り狂い、オーロラ姫に次のような呪いをかける。
チャイコフスキーが作曲した3つのバレエ作品(『[[白鳥の湖]]』、『眠れる森の美女』、『[[くるみ割り人形]]』)は、いずれも初演以降、多数の改訂演出が発表されてきた{{Sfn|キーワード事典編集部|1995|p=106}}。そのうち『眠れる森の美女』は、改訂演出であってもプティパによる原振付を尊重している場合が多く、他の2作に比べると後世における改変の度合いは少ない{{Sfn|キーワード事典編集部|1995|pp=109-110}}{{Sfn|ダンスマガジン編集部|1998|p=116}}。以下、いくつかの改訂演出を挙げる。
<blockquote>「オーロラ姫は、20回目(改訂版では16回目)の誕生日に彼女の指を刺して、死ぬでしょう。」</blockquote>
しかし幸運にも、リラの精だけはまだ姫に何も授けていなかったため、次のように宣言する。
<blockquote>「カラボスの呪いの力は強すぎて、完全に取り払うことはできません。したがって姫は指を刺すでしょうが、死ぬことはありません。100年間の眠りについたあと、いつか王子様がやってきて、彼の口づけによって目を覚ますでしょう。」</blockquote>


=== 第1幕 ===
====バレエ・リュス====
[[File:Lydia Lopokova as Aurora in The Sleeping Beauty.jpg|thumb|150px|バレエ・リュス全幕版に主演した[[リディア・ロポコワ|L・ロポコワ]]]]
オーロラ姫はすくすくと成長し、20歳(16歳)の誕生日を迎えた。その誕生日に編み物をしている娘たちを見て国王は激怒する。オーロラ姫を守るために編み物・縫い物は禁止していたためだ。しかしめでたい祝いの日なので国王は怒りを鎮めて祝宴を始める。
[[1921年]]11月から翌年2月にかけて、[[セルゲイ・ディアギレフ]]率いる[[バレエ・リュス]]は、[[ロンドン]]で、『眠れる森の美女』全幕を『眠り姫』(''The Sleeping Princess'')のタイトルで上演した{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=43-44}}。従来のバレエ・リュスは新作バレエを中心に上演しており、本作のような全幕の古典バレエはレパートリーに入っていなかったが、この頃は新作を発表できる振付家が不在であったことと、ディアギレフがチャイコフスキーの傑作を西欧へ紹介したいという思いを抱いていたことから、上演の運びとなった{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=43-45}}{{Sfn|鈴木晶|1994|p=187}}。振付を手掛けたのは、{{仮リンク|ニコライ・セルゲエフ|en|Nicholas Sergeyev}}と[[ブロニスラヴァ・ニジンスカ]]である{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=43-44}}。セルゲエフはマリインスキー劇場の元舞台監督で、ロシアから亡命した際に、プティパ版『眠れる森の美女』の[[振付師#振付の記録・舞踊譜|舞踊譜]]を持ち出していた{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=43-44}}。ニジンスカはその舞踊譜を元に、[[マイム]]で演じられていた場面をダンスに置き換えたり、新たな振付を追加したりといった改変を加えた{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=44}}。また、[[レオン・バクスト]]が豪華な舞台美術をデザインし、出演者も一流のダンサーが揃えられた{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=44}}。


にもかかわらず本作は、バレエ・リュスに前衛的な作品を期待していた人々の支持を得ることができず、観客からも批評家からも不評であった{{Sfn|鈴木晶|1994|p=190}}。公演は当初予定していた上演期間の終了前に打ち切られ、ディアギレフは多額の借金を背負い、衣装や舞台美術もすべて差し押さえられた{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=44}}{{Sfn|鈴木晶|1994|p=190}}。しかしこの公演は、イギリスに『眠れる森の美女』を紹介し、後の[[ロイヤル・バレエ団]]による全幕上演のきっかけを作った点や、ニジンスカが振付家として本格的に活動する契機となった点で、後のバレエ史に影響を与えている{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=45}}。なお、バレエ・リュスは1922年5月に『眠れる森の美女』の抜粋版である『オーロラ姫の結婚』を制作して[[パリ・オペラ座]]で初演し、その後はこの抜粋版をレパートリーとして上演し続けた{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=45}}。
オーロラ姫には4人の求婚者がおり、彼らがバラを姫に手渡したそのすぐ後、姫は何者かから[[紡錘|つむ]]を贈られる。彼女は尖ったものに気をつけるようにという両親の忠告にも関わらず、それを持ったまま楽しそうに踊る。そして誤って指を刺してしまう。


====マリインスキー・バレエ====
カラボスは、すぐに邪悪な本性を明かしながら、勝ち誇り、驚く賓客の前で姿を消す。同時にリラの精が約束通りやってきて、王と王妃、そして賓客たちに、オーロラ姫は死ぬのではなく眠りにつくのだということを思い出させる。リラの精は城にいた全員に眠りの魔法をかける。オーロラ姫が目覚めるその時に、目を覚ますように、と。
プティパ版を初演した[[マリインスキー・バレエ]]では、初演以後、本作の改訂が度々行われてきた。[[1922年]]の{{仮リンク|フョードル・ロプホーフ|en|Fyodor Lopukhov}}版では、プロローグで踊られる「リラの精の[[ヴァリアシオン (バレエ)|ヴァリアシオン]]」を従来よりも高度な振付に変更したり、第3幕の「オーロラ姫のヴァリアシオン」の楽曲を、プティパが初演時に用いた「金の精の踊り」からチャイコフスキーのオリジナル曲に戻したりといった改変が行われた{{Sfn|赤尾雄人|2010|pp=26-27}}。[[1952年]]に初演された{{仮リンク|コンスタンチン・セルゲエフ|en|Konstantin Sergeyev}}版は、現在に至るまで長く踊り継がれている演出であり、1989年にはセルゲエフ自身による再改訂が行われ、全体をプティパの原振付により近づける試みがなされた<ref>{{Cite web|url=https://www.mariinsky.ru/en/playbill/repertoire/ballet/spkras2/ |title=The Sleeping Beauty |publisher=[[マリインスキー劇場]] |accessdate=2021-05-07}}</ref>{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=41}}。また[[1999年]]には、{{仮リンク|セルゲイ・ヴィハレフ|en|Sergei Vikharev}}によって、プティパによる初演版の復元上演が行われた{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=41}}。


====ロイヤル・バレエ====
=== 第2幕 ===
イギリスの[[ニネット・ド・ヴァロワ]]は『眠り姫』の全幕上演を望み、1939年2月2日に初演した。[[マーゴ・フォンテイン]]がオーロラ姫を演じた<ref name="nofixed">{{cite book|和書|title=20世紀ダンス史|author=ナンシー・レイノルズ|author2=マルコム・マコーミック|others=松澤慶信監訳|publisher=[[慶応義塾大学出版会]]|year=2013|isbn=9784766420920}}</ref>{{rp|215-216}}。[[第二次世界大戦]]後の1946年に[[コヴェント・ガーデン]]の[[ロイヤル・オペラ・ハウス]]が再開したとき、『眠れる森の美女』の題で再び上演した{{r|nofixed|page=220-221}}。この有名な版は{{仮リンク|ニコライ・セルゲーエフ|en|Nicholas Sergeyev}}の演出により、他のカンパニーによる公演の模範となった<ref name="oxford">{{cite book|和書|chapter=眠れる森の美女|pages=361-362|title=オックスフォード バレエ ダンス事典|publisher=[[平凡社]]|year=2010|isbn=9784582125221}}</ref>。1955年に[[NBC]]で放映されたフォンティン主演の『眠れる森の美女』は3000万人が視聴したといわれている<ref>{{cite book|和書|author=海野敏|chapter=現代のバレエ|title=バレエとダンスの歴史―欧米劇場舞踊史|editor=鈴木晶|publisher=[[平凡社]]|year=2012|isbn=9784582125238|page=135}}</ref>。
それから100年が経った頃、デジレ王子が一行を率いて狩りを行っていた。王子は狩りが楽しくなかったため、1人になりたいと申し出て、一行から離れる。そこに突然リラの精が現れて、オーロラ姫の幻を見せられた王子はその美しさの虜となる。王子はリラの精にオーロラ姫の元へ連れて行くよう頼み込み、今や太いツルが伸び放題でからみついている城にたどり着く。リラの精はオーロラ姫の名づけ親だが、デジレ王子の名付け親でもあった。


その後、1968年には[[ピーター・ライト]]版、1973年と1977年には[[ケネス・マクミラン]]版、1994年には[[アンソニー・ダウエル]]版が上演されている{{r|oxford}}。
王子は城の中に入り、中で眠っているオーロラ姫を発見し、王子のキスによってオーロラ姫は目を覚ます(原作は非暴力的で愛すること・考えることを重視するが、改訂版では邪悪なカラボスを打ち負かす、といった展開もある)。彼女が目を覚ましたため、城にいた全員が目を覚ます。王子は姫への愛を告白し、結婚を申し込む。


=== 第3幕 ===
====その他====
今日上演されている『眠れる森の美女』の多くはプティパ版を改訂したものであるが、物語設定を大きく変更し、現代的に再解釈した演出もある。オーロラ姫を[[薬物依存症]]という設定にした[[マッツ・エック]]版(1996年)や、ペローの原作に登場する[[オーガ|人食い鬼]]の挿話を加え、性や暴力といったテーマを描き出した[[ジャン=クリストフ・マイヨー]]版(2001年)などが挙げられる<ref>{{Cite web |author=Judith Mackrell |date=1999-8-23 |url=https://www.theguardian.com/culture/1999/aug/23/artsfeatures.edinburghfestival |title=Sleeping Beauty is a junkie |publisher=[[ガーディアン]] |accessdate=2021-4-28}}</ref>{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=47}}<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.wowow.co.jp/detail/114512/-/01 |title=モンテカルロ・バレエ団「ラ・ベル」 |website= WOWOWオンライン|publisher=[[WOWOW]] |accessdate=2021-04-28}}</ref>。
[[ファイル:Krasavitsa.jpg|thumb|280px|プティパ版『眠れる森の美女』、サンクトペテルブルク、1890年。第3幕の衣装をつけたオーロラ姫([[カルロッタ・ブリアンツァ]])とデジレ王子([[パーヴェル・ゲルト|パヴェル・ゲルト]])]]
婚礼の仕度は整った。祝祭の日にさまざまな妖精たちが招かれている。結婚を祝福するのは、[[金]]の精、[[銀]]の精、[[サファイア]]の精、[[ダイヤモンド]]の精である。リラの精もカラボスも出席している。「[[長靴をはいた猫]]」や「{{仮リンク|白い猫|en|Puddocky}}」などの[[おとぎ話]]の主人公たちも来賓として居合わせている。


==物語==
華麗なダンスが次々に踊られる。4人の(宝石・貴金属の)妖精の[[パ・ド・カトル]]、2匹の猫のダンス、青い鳥とフロリナ王女(この「青い鳥」は日本で知名度の高い[[モーリス・メーテルリンク|メーテルリンク]]の[[青い鳥|同名の作品]]ではなく、{{仮リンク|青い鳥 (おとぎ話)|label=別の作品|en|The_Blue_Bird_(fairy_tale)}}である)のパ・ド・ドゥ、[[赤ずきん|赤ずきんちゃんとおおかみ]]の踊り、[[シンデレラ|シンデレラ姫]]とフォルチュネ王子のダンスが披露され、(一般的には省略される[[サラバンド]]の後を受けて、)オーロラ姫とデジレ王子の[[パ・ド・ドゥ]]が続き、最後に[[マズルカ]]で締め括られる。オーロラ姫と王子は結婚し、(リラの精が2人を祝福する、という改訂版もあるが、原作では)妖精たちを讃える[[アポテオーズ]]の中で人々は妖精たちに感謝を表し、リラの精やカラボスなどの妖精たちが人々を見守るうちにバレエは終わる。
===原作===
{{-}}
バレエ『眠れる森の美女』の原作は、[[シャルル・ペロー]]による同名の[[説話|昔話]]([[1697年]]出版)である{{Sfn|デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル|2010|p=361}}{{Sfn|シャルル・ペロー|2013|p=5}}。原作のあらすじは以下の通りである{{Sfn|シャルル・ペロー|2013|pp=8-23}}。なお、バレエでは、王女と王子が結婚に至る前半部分の筋書きのみが用いられ、後半の人食い鬼の挿話は省略されている{{Sfn|ダンスマガジン編集部|1998|p=113}}。


[[File:La Belle au Bois Dormant - Sixth of six engravings by Gustave Doré.jpg|right|thumb|230px|ペロー『眠れる森の美女』の[[挿絵]]([[ギュスターヴ・ドレ|G・ドレ]]画、1897年)]]
== 楽器編成 ==
昔々、とある国で王女が生まれ、国中の[[妖精|仙女]]たちが[[洗礼式]]に招待されたが、ただ一人、年老いた仙女だけが招かれなかった。年老いた仙女は宴の席に現れると、王女はいずれ[[紡錘]]に刺されて死ぬだろう、と[[呪い]]をかける。しかし、ある若い仙女がその呪いを和らげ、姫は死ぬのではなく100年の眠りにつくだけだと[[予言]]する。成長した王女は予言の通り、紡錘で手を刺して眠りに落ちる。100年後、眠る王女の噂を聞いた若い王子が城を訪れると、王女は目を覚まし、2人は結婚する。
[[ピッコロ]]、[[フルート]]2、[[オーボエ]]2、[[コーラングレ]]、[[クラリネット]]2、[[ファゴット]]2、[[ホルン]]4、[[コルネット]]2、[[トランペット]]2、[[トロンボーン]]3、[[チューバ]]、[[ティンパニ]](4個)、[[バスドラム|大太鼓]]、[[スネアドラム|小太鼓]]、[[タンブリン]]、[[シンバル]]、[[タムタム]]、[[トライアングル]]、[[グロッケンシュピール]]、[[ピアノ]]、[[ハープ]]、[[弦五部]]


王女と王子の間には2人の子供が生まれ、やがて王子は国王の座に就いた。しかし、新国王の母親にあたる女王は[[オーガ|人食い鬼]]であり、国王の留守中に王妃と孫たちを食べてしまおうと目論んでいた。女王は、王妃たちを殺して調理するよう[[シェフ|料理頭]]に命じるが、料理頭は母子3人を自宅に匿い、代わりに動物の肉を女王に食べさせる。だが、ほどなく女王は王妃と孫たちが生きていることを知り、料理頭共々[[死刑]]にしようとする。死刑執行人が[[ヒキガエル科|ヒキガエル]]や[[毒蛇]]の入った桶を用意し、そこに王妃たちを投げ込もうとしたちょうどその時、国王が帰還する。悔しがった女王は自ら桶の中に飛び込み、死んでしまった。
== 作品構成(バレエ音楽) ==

===主な登場人物===
*オーロラ姫 - フロレスタン国王夫妻の間に生まれた王女。
*カラボス - 悪の妖精。オーロラ姫に死の呪いをかける。
*[[ライラック|リラ]]の精 - 善の妖精。カラボスの呪いを弱め、オーロラ姫を眠りにつかせる。
*デジレ王子 - オーロラ姫と結婚する王子。[[ロイヤル・バレエ団]]ではフロリムント王子という<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nbs.or.jp/stages/0807_royal/sleeping-story.html|title=NBS 日本舞台芸術振興会 英国ロイヤル・バレエ団:眠れる森の美女|publisher=日本舞台芸術振興会|accessdate=2021-07-27}}</ref>。

===あらすじ===
演出によって物語の展開に相違があるが、あらすじは概ね次のような内容である{{Sfn|ダンスマガジン|2008|pp=54-55}}{{Sfn|長野由紀|2003|p=150}}{{Sfn|長野由紀|2020|pp=26-27}}。

====プロローグ====
{| style="float:right;"
|-
|[[File:Uspavana lepotica, Balet SNP, Drago kamenje, foto Polzović.jpg|right|thumb|220px|プロローグ 6人の妖精たち]]
|[[File:KC Ballet Sleeping Beauty Cincinnati Ballet 2010 088 (24354957634).jpg|right|thumb|160px|邪悪な妖精カラボス]]
|}
[[フランスの歴史#ブルボン朝|17世紀のフランス]]を思わせる[[宮殿|王宮]]。フロレスタン国王夫妻の間にオーロラという姫君が誕生し、[[洗礼式]]が行われている。式には6人の[[妖精]]たちが招かれており、姫に「優しさ」「勇気」「のんき」などの様々な美質を授ける。最後にリラの精が贈り物をしようとしたとき、悪の妖精カラボスが現れる。カラボスは自分が祝宴に招かれなかったことに怒り狂い、「オーロラ姫は16歳の誕生日に、[[紡錘]]に刺されて死ぬだろう」と呪いをかける。嘆き悲しむ宮廷の人々に、リラの精は「カラボスの呪いを消し去ることはできないが、弱めることはできる。姫は死ぬのではなく眠りにつき、100年後に王子の[[口づけ]]によって目覚めるだろう」と予言する。

====第1幕====
[[File:KCB Sleeping Beauty PRESS--31 (33721399316).jpg|right|thumb|220px|第1幕 オーロラ姫]]
オーロラ姫の16歳の[[誕生日]]。美しく成長した姫の元には求婚者たちが訪れており、姫は4人の求婚者と踊る。その直後、姫は見知らぬ老婆から花束を受け取り、その中に仕込まれていた紡錘で指を刺して倒れてしまう。老婆に変装していたカラボスは正体を現すと、勝ち誇ったように去っていく。そこへリラの精がやってきて、オーロラ姫は予言通りに眠りについたのだと告げる。リラの精は、魔法でその場にいる全員を眠らせるとともに、辺りに植物を茂らせて城全体を包み込む。

====第2幕====
100年後。デジレ王子の一行が森へ[[狩り]]にやってくるが、王子は狩りを楽しめず、物思いに沈んでいる。そこへリラの精が現れ、オーロラ姫の幻影を王子に見せると、王子は姫の美しさの虜となる。王子はリラの精に導かれて城へ辿り着き、口づけによって姫を目覚めさせる。

====第3幕====
[[File:KCB Sleeping Beauty PRESS- (32949361843).jpg|right|thumb|220px|第3幕 オーロラ姫の結婚式]]
オーロラ姫とデジレ王子の結婚式が盛大に催されている。式には、[[宝石]]の精や、様々な[[童話]]の主人公たちが招かれており、[[長靴をはいた猫]]と白い猫、[[赤ずきん|赤ずきんと狼]]、{{仮リンク|青い鳥 (ドーノワ夫人)|label=フロリナ王女と青い鳥|en|The Blue Bird (fairy tale)}}などがそれぞれ個性的な踊りを披露する。人々が祝福する中、オーロラ姫とデジレ王子が[[パ・ド・ドゥ#グラン・パ・ド・ドゥ|グラン・パ・ド・ドゥ]]を踊り、物語は幕を閉じる。

===演出による違い===
『眠れる森の美女』の改訂演出は、プティパによる原振付を尊重したものが多い{{Sfn|ダンスマガジン編集部|1998|p=116}}。演出によっては一部の場面を削除することがあり、例えば、禁じられた糸紡ぎを隠れて行っていた人々が処罰される場面(第1幕)、狩りの場面(第2幕)、童話の主人公たちの踊りの一部(第3幕)等がなくなることはあるが、全体の構成が大きく変更されることは稀である{{Sfn|ダンスマガジン編集部|1998|p=116}}。

{| style="float:right;"
|-
|[[File:ShipulinaTutu.jpg|right|thumb|100px|リラの精の[[チュチュ (バレエ)|チュチュ]]]]
|[[File:BakstCarabosse.jpg|right|thumb|200px|[[レオン・バクスト|L・バクスト]]によるカラボスのデザイン画]]
|}
その中で演出による違いが表れやすいのは、[[善]]の[[象徴]]であるリラの精と、[[悪]]の精カラボスの描き方である{{Sfn|ダンスマガジン編集部|1998|p=116}}。リラの精は、[[薄紫]]色の[[チュチュ (バレエ)|チュチュ]]を着た女性ダンサーが[[トゥシューズ]]で踊るのが一般的であるが、踊らずに[[マイム]]のみで演じられる場合もある{{Sfn|ダンスマガジン編集部|1998|p=116}}{{Sfn|キーワード事典編集部|1995|pp=110-111}}。カラボスはさらに演出の幅が広く、初演版のように男性が演じる場合もあれば、チュチュとトウシューズを身に着けた女性ダンサーが踊る場合や、女性がマイムで演じる場合もある{{Sfn|キーワード事典編集部|1995|pp=110-111}}{{Sfn|ダンスマガジン編集部|1998|pp=116-117}}。これらの演じ方の組み合わせによって、カラボスとリラの精を全く異なる姿にしたり、逆に[[鏡像]]のように見せたりと、善と悪の対比が様々な形で表現される{{Sfn|長野由紀|2020|p=27}}。

==作品の特徴==
[[File:KCB Sleeping Beauty PRESS--30 (33721399546).jpg|right|thumb|230px|第1幕 ローズ・アダージョ]]
本作は、単純な筋書きのおとぎ話を題材としながらも、[[バレエ#クラシック・バレエ|クラシック・バレエ(古典バレエ)]]の様式美を体現した豪華絢爛な作品として知られる{{Sfn|長野由紀|2020|p=27}}。本作の振付家である[[マリウス・プティパ|プティパ]]は古典バレエの確立者とされているが、彼の作品の特徴は、物語の筋書きよりも純粋な舞踊を見せることに重点が置かれており、かつ、作品全体が明確な形式構造に基づいていることである{{Sfn|鈴木晶ほか|2012|pp=68-69}}{{Sfn|守山実花|2004|pp=47-48}}。『眠れる森の美女』は、プティパがこの古典バレエの様式を完成させた作品であり、作品全体に、[[コール・ド・バレエ]]や、童話の登場人物などによる多様な踊り(ディヴェルティスマン)、主役2人による[[パ・ド・ドゥ#グラン・パ・ド・ドゥ|グラン・パ・ド・ドゥ]]等が秩序立って配置され、[[古典主義]]的な調和が作り出されている{{Sfn|守山実花|2004|pp=48,102-109}}。また、本作の物語も古典主義的な世界観に基づいており、悪の精カラボスの死の呪いによってもたらされた混沌が、善の精リラによって再び調和へと導かれる様が描かれている{{Sfn|村山久美子|2018|p=45}}{{Sfn|長野由紀|2003|pp=163-166}}。

本作の主役であるオーロラ姫を演じる[[バレリーナ]]には、安定したテクニックと、王女らしい華やかさが求められる{{Sfn|ダンスマガジン編集部|1998|p=117}}{{Sfn|ダンスマガジン|2008|p=55}}。特に、第1幕でオーロラ姫が登場した直後に求婚者たちと踊る「ローズ・アダージョ」は、女性が片足で立ってバランスを保持したまま4人の男性に次々と手を預けていくなど、高度な技が連続する大きな見せ場である{{Sfn|長野由紀|2020|p=27}}{{Sfn|ダンスマガジン編集部|1998|p=112}}。

==楽曲==
===楽器編成===
[[ピッコロ]]、[[フルート]]2、[[オーボエ]]2、[[コーラングレ]]、[[クラリネット]]2、[[ファゴット]]2、[[ホルン]]4、[[コルネット]]2、[[トランペット]]2、[[トロンボーン]]3、[[チューバ]]、[[ティンパニ]]、[[バスドラム|大太鼓]]、[[スネアドラム|小太鼓]]、[[タンバリン]]、[[シンバル]]、[[タムタム]]、[[トライアングル]]、[[グロッケンシュピール]]、[[ピアノ]]、[[ハープ]]、[[弦五部]]{{Sfn|音楽之友社|1993|p=84}}

===作品構成===
{{External media
{{External media
| width = 320px
| width = 320px
| topic = 抜粋を試聴する
| topic = '''『眠れる森の美女』抜粋版(演奏会形式)'''
| audio1 = [https://www.youtube.com/watch?v=PNE76I-0V0g Tsjaikovski:Doornroosje (Sleeping Beauty)]《ナレーショ付》 - リスティアン・バルディーニ([[:en:Christian Baldini|Christian Baldini]])指揮[[:en:Noord Nederlands Orkest|北オランダ交響楽団(Noord Nederlands Orkest)]]他による演奏。[[オランダ公共放送|AVROTROS Klassiek]]公式YouTube。
| audio1 = [https://www.youtube.com/watch?v=PNE76I-0V0g 眠れる森の美女]({{仮リンク|C・バルディーニ|en|Christian Baldini}}指揮、{{仮リンク|北オランダ交響楽団|en|Noord Nederlands Orkest}}他による演奏)<br />
[[オランダ公共放送]]公式YouTubeより
}}
}}
以下は初演時の台本に基づく。台本[[フランス語]]記されている。
以下の楽曲構成初演時の台本に基づく{{要出典|date=2021年5月}}演奏時間約2時間40分(プロローグ約40分、第1幕約40分、第2幕約40分、第3幕約40分){{Sfn|音楽之友社|1993|p=62}}


=== プロローグ「オーロラ姫の洗礼」 ===
;プロローグ「オーロラ姫の洗礼」(Le baptême de la Psse. Aurore)
[[File:Tchaikovsky - Спящая красавица - Sleeping Beauty ouverture.ogg|right|thumb|序奏、広間の行進曲]]
;(Prologue, ''Le baptême de la Psse. Aurore'')
:1-a 序奏 (Introduction)
:1-a 序奏 (Introduction)
:1-b 広間の行進曲 (Marche de salon)
:1-b 広間の[[行進曲]] (Marche de salon)
:2-a 妖精の入場 (Entrée des fées)
:2-a 妖精の入場 (Entrée des fées)
:2-b おどりの情景 (Scène dansante)
:2-b りの情景 (Scène dansante)
:3 グラン・パ・アンサンブル (Grand pas ensemble)パ・ド・シス(Pas de six)としても知られる)
:3 グラン・パ・アンサンブル(パ・ド・シス(Grand pas ensemble, a.k.a. Pas de six)
::a) 甘美なアダージョ、短いアレグロ (Grand adage suave. Petit allégro)
::a) 甘美な[[アダージョ]]、短い[[アレグロ]] (Grand adage suave. Petit allégro)
::b) ヴァリアシオン - 夾竹桃の精 (Variation - Candide)
::b) [[ヴァリアシオン (バレエ)|ヴァリアシオン]] - 夾竹桃の精 (Variation - Candide)
::c) ヴァリアシオン - 流麗に、三色ヒルガオの精 (Variation - Coulante - Fleur de farine)
::c) ヴァリアシオン - 流麗に、三色ヒルガオの精 (Variation - Coulante - Fleur de farine)
::d) ヴァリアシオン - パンくずの精 - こぼれ落ちて (Variation - Miettes - qui tombent)
::d) ヴァリアシオン - パンくずの精 - こぼれ落ちて (Variation - Miettes - qui tombent)
102行目: 161行目:
::b) カラボスのマイム (Scène mimique de Carabosse)
::b) カラボスのマイム (Scène mimique de Carabosse)
::c) リラの精のマイム (Scène mimique de la Fée des lilas)
::c) リラの精のマイム (Scène mimique de la Fée des lilas)

=== 第1幕「オーロラ姫の4人の求婚者」 ===
;第1幕「オーロラ姫の4人の求婚者」(Les quatre fiancés de la Psse. Aurore)
[[Image:Sleeping beauty cast.jpg|thumb|300px|初演時のキャスト、第1幕の衣装にて]]
[[File:KCB Sleeping Beauty PRESS--33 (33377687470).jpg|right|thumb|250px|第1幕 村人の大ワルツ]]
{{External media
| width = 310px
| topic = 第1幕「オーロラ姫の4人の求婚者」から<br />『バラのアダージョ』《音楽》
| audio1 = [https://www.youtube.com/watch?v=WI1YxIQ6GH0 The Rose Adagio from Sleeping Beauty - Tchaikovsky] - [[ウラディーミル・アシュケナージ]]指揮[[EUユース管弦楽団]]による演奏。EUユース管弦楽団(EUYO)公式YouTube。
}}
;(Act I, ''Les quatre fiancés de la Psse. Aurore'')
:5-a 序奏 (Introduction)
:5-a 序奏 (Introduction)
:5-b 編み物をする女たちの情景 (Scène des tricoteuses)
:5-b 編み物をする女たちの情景 (Scène des tricoteuses)
:6 村人の大ワルツ(別名「ガーランド・ワルツ) (Grande valse villageoise, a.k.a. The Garland Waltz)
:6 村人の大[[ワルツ]](ガーランド・ワルツ) (Grande valse villageoise, a.k.a. The Garland Waltz)
:7 オーロラ姫の入場 (Entrée d'Aurore)
:7 オーロラ姫の入場 (Entrée d'Aurore)
:8 グラン・パ・ダクション (Grand pas d'action)
:8 グラン・パ・ダクション (Grand pas d'action)
::a) バラのアダージョ (Grand adage à la rose) - プティパの依頼により冒頭部の[[ハープ]]の[[カデンツァ]]を拡大
::a) ローズ・アダージョ (Grand adage à la rose) - プティパの依頼により冒頭部の[[ハープ]]の[[カデンツァ]]を拡大
::b) 女官と小姓達の踊り (Danse des demoiselles d'honneur et des pages)
::b) 女官と小姓達の踊り (Danse des demoiselles d'honneur et des pages)
::c) オーロラ姫のヴァリアシオン (Variation d'Aurore) - プティパの依頼により末尾を改変
::c) オーロラ姫のヴァリアシオン (Variation d'Aurore) - プティパの依頼により末尾を改変
::d) コーダ (Coda)
::d) コーダ (Coda)
:9 終曲 (Scène finale)
:9 終曲 (Scène finale)
::a) つむをもったオーロラ姫のおどり (La danse d'Aurore avec de fuseau)
::a) つむをもったオーロラ姫のり (La danse d'Aurore avec de fuseau)
::b) 呪文 (Le charme)
::b) 呪文 (Le charme)
::c) リラの精の到着 (L'arrivée de la Fée des lilas)
::c) リラの精の到着 (L'arrivée de la Fée des lilas)

=== 第2幕第1場「デジレ王子の狩」 ===
;(Act II (scene I), ''La chasse du Prince Désiré'')
;第2幕第1場「デジレ王子の狩」(La chasse du Prince Désiré)
:10-a 間奏曲 (Entr'acte)
:10-a 間奏曲 (Entr'acte)
:10-b 王子の狩の情景 (Scène de la chasse royale)
:10-b 王子の狩の情景 (Scène de la chasse royale)
:11 目隠し鬼ごっこ (Colin-maillard)
:11 目隠し鬼ごっこ (Colin-maillard)
:12 貴婦人たちのおどり (Danses des demoiselles nobles)
:12 貴婦人たちのり (Danses des demoiselles nobles)
::a) 情景 (Scène)
::a) 情景 (Scène)
::b) 公爵夫人の踊り (Danse des Duchesses)
::b) 公爵夫人の踊り (Danse des Duchesses)
134行目: 188行目:
::d) 伯爵夫人の踊り (Danse des Comtesses) - プティパにより初演時カット
::d) 伯爵夫人の踊り (Danse des Comtesses) - プティパにより初演時カット
::e) 侯爵夫人の踊り (Danse des Marquises) - プティパにより初演時カット
::e) 侯爵夫人の踊り (Danse des Marquises) - プティパにより初演時カット
:13 コーダ、ファランドール (Coda - Farandole)
:13 コーダ、[[ファランドール]] (Coda - Farandole)
:14-a 情景と狩人たちの出発 (Scène et départ des chasseurs)
:14-a 情景と狩人たちの出発 (Scène et départ des chasseurs)
:14-b リラの精の入場 (Entrée du Fée des lilas)
:14-b リラの精の入場 (Entrée du Fée des lilas)
:15 パ・ダクション (Pas d'action)
:15 パ・ダクション (Pas d'action)
::a) オーロラ姫の幻の入場 (Entrée de l'apparition d'Aurore)
::a) オーロラ姫の幻の入場 (Entrée de l'apparition d'Aurore)
::b) 甘美なアダージョ (Grand adage suave) - プティパの依頼により冒頭部のハープのカデンツァを拡大
::b) 甘美なアダージョ (Grand adage suave) - プティパの依頼により冒頭部のハープの[[カデンツァ]]を拡大
::c) ニンフのワルツ - コケティッシュな短いアレグロ (Valse des nymphes – Petit allégro coquet)
::c) ニンフのワルツ - コケティッシュな短いアレグロ (Valse des nymphes – Petit allégro coquet)
::挿入曲:[[リッカルド・ドリゴ|リッカルド・ドリーゴ]]による4小節のつなぎ
::挿入曲:[[リッカルド・ドリゴ]]による4小節のつなぎ
::挿入曲:ブリアンツァ嬢のヴァリアシオン(no. 23-b の金の精のヴァリアシオン)
::挿入曲:ブリアンツァ嬢のヴァリアシオン(no. 23-b の金の精のヴァリアシオン)
::c) オーロラ姫のヴァリアシオン (Variation d'Aurore) - プティパにより初演時カット
::c) オーロラ姫のヴァリアシオン (Variation d'Aurore) - プティパにより初演時カット
150行目: 204行目:
:18 交響的間奏曲 (Entr'acte symphonique) - プティパにより初演時カット
:18 交響的間奏曲 (Entr'acte symphonique) - プティパにより初演時カット


=== 第2幕第2場「眠れる森の美女の城」 ===
;第2幕第2場「眠れる森の美女の城」 (Le château de la belle au bois dormant)
;(Act II (scene II), ''Le château de la belle au bois dormant'')
:19 眠りの城の情景 (Scène du château de sommeil)
:19 眠りの城の情景 (Scène du château de sommeil)
:20 情景と終曲 - オーロラ姫の目覚め (Scène et final – Le réveil d'Aurore)
:20 情景と終曲 - オーロラ姫の目覚め (Scène et final – Le réveil d'Aurore)

=== 第3幕「デジレ王子とオーロラ姫の結婚式」 ===
;第3幕「デジレ王子とオーロラ姫の結婚式」(Act III, Les Noces de Désiré et d'Aurore)
{{External media
[[File:KCB Sleeping Beauty PRESS--13 (32919141054).jpg|right|thumb|250px|第3幕 長靴をはいた猫と白い猫]]
| width = 310px
[[File:KCB Sleeping Beauty PRESS--2 (33721396536).jpg|right|thumb|250px|第3幕 青い鳥とフロリナ姫]]
| topic = 第3幕「デジレ王子とオーロラ姫の結婚式」<br />から《舞踊》
:21 行進曲 (Marche)
| audio1 = [https://www.youtube.com/watch?v=omIZgkAPsPU 『長靴をはいた猫と白い猫』]<br />エリザベス・ハロット(Elizabeth Harrod;白猫)、ポール・ケイ(Paul Kay;長靴をはいた猫)の[[パ・ド・ドゥ]]。<br />        **********
:22 グラン・[[ポロネーズ]](おとぎ話の人物たちの行列) (Grand polonaise dansée, a.k.a. The Procession of the Fairy Tales)
| audio2 = [https://www.youtube.com/watch?v=BZe0TFU75rI 『青い鳥とフロリナ姫』]<br />[[崔由姫]](Yuhui Choe;フロリナ姫)、アレクサンダー・キャンベル([[:en:Alexander Campbell|Alexander Campbell]];青い鳥)のパ・ド・ドゥ。<br />       ─────────<br />何れも「[[ロイヤル・オペラ・ハウス]]([[ロイヤル・バレエ団|バレエ団]])公式YouTube。」
}}
;(Act III, ''Les Noces de Désiré et d'Aurore'')
:21行進曲 (Marche)
:22 グラン・ポロネーズ(別名「おとぎ話の人物たちの行列」 (Grand polonaise dansée, a.k.a. The Procession of the Fairy Tales)
:グラン・ディヴェルティスマン (Grand divertissement)
:グラン・ディヴェルティスマン (Grand divertissement)
:23 パ・ド・カトル (Pas de quatre)
:23 パ・ド・カトル (Pas de quatre)
::a) 入場 (Entrée)
::a) 入場 (Entrée)
::b) 金の精のヴァリアシオン (Variation de la fée-Or) - 初演時はプティパによりブリアンツァ嬢のヴァリアシオンとして第2幕に移動
::b) 金の精のヴァリアシオン (Variation de la fée-Or) - 初演時はプティパによりブリアンツァ嬢のヴァリアシオンとして第2幕に移動
::c) 銀の精のヴァリアシオン (Variation de la fée-Argent) - 初演時はプティパにより「金・銀・サファイアの精のパ・ド・トロワ」 (Pas de trois pour la Fées d'Or, d'Argent et de Saphir) に変更
::c) 銀の精のヴァリアシオン (Variation de la fée-Argent) - 初演時はプティパにより「金・銀・サファイアの精のパ・ド・トロワ」 (Pas de trois pour la Fées d'Or, d'Argent et de Saphir) に変更
::d) サファイアの精のヴァリアシオン (Variation de la fée-Saphir) - プティパにより初演時はカット
::d) サファイアの精のヴァリアシオン (Variation de la fée-Saphir) - プティパにより初演時はカット
::e) ダイヤモンドの精のヴァリアシオン (Variation de la fée-Diamant)
::e) ダイヤモンドの精のヴァリアシオン (Variation de la fée-Diamant)
::f) コーダ (Coda)
::f) コーダ (Coda)
:挿入曲:猫の入場(チャイコフスキーによる10小節の序奏)
:挿入曲:猫の入場(チャイコフスキーによる10小節の序奏)
:24 パ・ド・カラクテール - 長靴をはいた猫と白い猫 (Pas de caractère – Le Chat botté et la Chatte blanche)
:24 パ・ド・カラクテール - [[長靴をはいた猫]]と白い猫 (Pas de caractère – Le Chat botté et la Chatte blanche)
:25 パ・ド・カトル (Pas de quatre) - 初演時はプティパにより「青い鳥とフロリナ姫のパ・ド・ドゥ」に変更
:25 パ・ド・カトル (Pas de quatre) - 初演時はプティパにより「青い鳥とフロリナ姫のパ・ド・ドゥ」に変更
::a) 入場 (Entrée)
::a) 入場 (Entrée)
::b) シンデレラとフォルチュネ王子のヴァリアシオン (Variation de Cendrillon et Prince Fortuné) - 初演時はプティパにより「青い鳥のヴァリアシオン」に変更
::b) [[シンデレラ]]とフォルチュネ王子のヴァリアシオン (Variation de Cendrillon et Prince Fortuné) - 初演時はプティパにより「青い鳥のヴァリアシオン」に変更
::c) 青い鳥とフロリナ姫のヴァリアシオン (Variation de l'Oiseau bleu la Princesse Florine) - 初演時はプティパにより「フロリーネ姫のヴァリアシオン」に変更
::c) 青い鳥とフロリナ姫のヴァリアシオン (Variation de l'Oiseau bleu la Princesse Florine) - 初演時はプティパにより「フロリーネ姫のヴァリアシオン」に変更
::d) コーダ (Coda)
::d) コーダ (Coda)
:26 パ・ド・カラクテール - 赤ずきんと狼 (Pas de caractère – Chaperon Rouge et le Loup)
:26 パ・ド・カラクテール - [[赤ずきん]]と狼 (Pas de caractère – Chaperon Rouge et le Loup)
:挿入曲:パ・ド・カラクテール - シンデレラとフォルチュネ王子
:挿入曲:パ・ド・カラクテール - シンデレラとフォルチュネ王子
:27 [[ベリー (フランス)|ベリー]]人のおどり - 親指小僧とその兄弟と人食い鬼 (Pas berrichon – Le Petit Poucet, ses frères et l'Ogre)
:27 [[ベリー (フランス)|ベリー]]人のり - 親指小僧とその兄弟と人食い鬼 (Pas berrichon – Le Petit Poucet, ses frères et l'Ogre)
:28 [[パ・ド・ドゥ#グラン・パ・ド・ドゥ|グラン・パ・ド・ドゥ・クラシック]] (Grand pas de deux classique)
:28 [[パ・ド・ドゥ#グラン・パ・ド・ドゥ|グラン・パ・ド・ドゥ・クラシック]] (Grand pas de deux classique)
::a) 入場 (Entrée)
::a) 入場 (Entrée)
188行目: 237行目:
::d) オーロラ姫のヴァリアシオン (Variation d'Aurore) - プティパの依頼により初演時はリッカルド・ドリーゴにより編曲
::d) オーロラ姫のヴァリアシオン (Variation d'Aurore) - プティパの依頼により初演時はリッカルド・ドリーゴにより編曲
::e) コーダ (Coda)
::e) コーダ (Coda)
:29 サラバンド - トルコ人、エチオピア人、アフリカ人とアメリカ人のカドリーユ (Sarabande – quadrille pour Turcs, Éthiopiens, Africains et Américains)
:29 [[サラバンド]] - トルコ人、エチオピア人、アフリカ人とアメリカ人のカドリーユ (Sarabande – quadrille pour Turcs, Éthiopiens, Africains et Américains)
:30-a 全員のコーダ (Coda générale)
:30-a 全員のコーダ (Coda générale)
:30-b アポテオーズ - [[ルイ14世 (フランス王)|ルイ14世]]の姿をした[[アポロン]]、妖精に囲まれた太陽の光によって輝いている (Apothéose – Apollon en costume de Louis XIV, éclairé par le soleil entouré des fées)
:30-b アポテオーズ - [[ルイ14世 (フランス王)|ルイ14世]]の姿をした[[アポロン]]、妖精に囲まれた太陽の光によって輝いている (Apothéose – Apollon en costume de Louis XIV, éclairé par le soleil entouré des fées)


== 改作 ==
===編曲版===
{{External media
=== オーロラ姫の結婚(ディアギレフ版) ===
| width = 310px
[[1922年]]に[[セルゲイ・ディアギレフ]]は、自前のバレエ団[[バレエ・リュス]]のために、『眠れる森の美女』を45分の長さに短縮し、『オーロラ姫の結婚』と名付けた独自の版を編み出した。この[[編曲]]では、第1幕の導入部と、第3幕のほとんどを結び付け、その他の部分を混ぜたものとなっている。この短縮版は、[[レオポルド・ストコフスキー]]によって上演・録音されており、デジタル録音では[[シャルル・デュトワ]]指揮の録音がある。楽曲の配列は以下の通りである。
| topic = '''組曲『眠れる森の美女』(抜粋)'''
#序奏(プロローグ) Introduction (Prologue)
| audio1 = [https://www.youtube.com/watch?v=42WWTJgYcxc 組曲『眠れる森の美女』より第1・2・5曲]<br />
#ポラッカ Polacca (Act 3)
({{仮リンク|イヴ・アベル|label=Y・アベル|en|Yves Abel}}指揮、{{仮リンク|北オランダ管弦楽団|en|Noord Nederlands Orkest}}による演奏)<br />
#パ・ド・シス Pas de Six (Prologue)
[[オランダ公共放送]]公式YouTubeより
#情景 - 公爵夫人の踊り - 侯爵夫人の踊り Scene; Danse des Duchesses; Danse des Marquises (Act 2)
}}
#ファランドール:舞曲 - テンポ・ディ・マズルカ Farandole; Danse - Tempo di Mazurka (Act 2)
本作は、以下の5曲から成る演奏会用[[組曲]]としても演奏される{{Sfn|池辺晋一郎|2014|pp=169-173}}{{Sfn|音楽之友社|1993|p=90}}。これはチャイコフスキー自身の選曲によるものだが、作曲者の生前は内容が固まらず、まとまったのはチャイコフスキーの死後であった{{Sfn|池辺晋一郎|2014|p=168}}。
#パ・ド・カトル Pas de Quatre (Act 3)
# リラの精(プロローグより序奏の冒頭、第1幕第9曲よりリラの精の到着)
#パ・ド・カラクテール - 赤ずきんと狼 Pas de Caractere-Chaperone Rouge et la Loup (Act 3)
# アダージョ/パ・ダクション(第1幕第8曲よりローズ・アダージョ)
#パ・ド・カトル Pas de Quatre (Act 3)
# パ・ド・カラクテール(第3幕第24曲 - 長靴をはいた猫と白猫の踊り)
#コーダ - 3人のイヴァン Coda-The Three Ivans (Act 3)
# パノラマ(第2幕第17曲)
#パ・ド・ドゥ Pas de Deux (Act 3)
# ワルツ(第1幕第6曲)
#フィナーレ - テンポ・ディ・マズルカ - アポテオーズ Finale - Tempo di Mazurka; Apotheose (Act 3)


この他、バレエ『眠れる森の美女』の上演直前であった1889年の暮れに、楽譜出版社の[[ユルゲンソン (出版社)|ユルゲンソン]]から、本作の[[ピアノ]]独奏用編曲版が出版されている{{Sfn|小松佑子|2017|pp=320-321}}。編曲は、作曲者から依頼を受けた[[アレクサンドル・ジロティ]]が行った{{Sfn|小松佑子|2017|pp=320-321}}。
== 関連項目 ==

* [[ドーノワ夫人]] - 第3幕の青い鳥が登場する妖精物語を書いた作家。
また、バレエの上演直後である1890年初頭、チャイコフスキーはユルゲンソンに対してピアノ[[連弾]]版の出版を依頼し、ユルゲンソンは当時17歳の[[セルゲイ・ラフマニノフ]]に編曲を注文した{{Sfn|小松佑子|2017|p=331}}。この編曲版にはチャイコフスキーとジロティが校正を加えたが、チャイコフスキーはラフマニノフの編曲が気に入らず、ジロティに不満を漏らしていた{{Sfn|小松佑子|2017|p=331}}。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{Columns-list|colwidth=16em|
{{Reflist}}
{{Reflist}}
}}

== 参考文献 ==
*{{Cite book |和書 |author=赤尾雄人|authorlink=赤尾雄人|year=2010 |title=これがロシア・バレエだ! |publisher=[[新書館]] |isbn=9784403231193|ref={{SfnRef|赤尾雄人|2010}}}}
*{{Cite book |和書 |author=池辺晋一郎|authorlink=池辺晋一郎|year=2014 |title=チャイコフスキーの音符たち 池辺晋一郎の「新チャイコフスキー考」 |publisher=[[音楽之友社]] |isbn=9784276200685|ref={{SfnRef|池辺晋一郎|2014}}}}
*{{Cite book |和書 |author=小倉重夫|authorlink=小倉重夫|year=1989 |title=チャイコフスキーのバレエ音楽 |publisher=[[共同通信社]] |isbn=4764102234|ref={{SfnRef|小倉重夫|1989}}}}
*{{Cite book |和書 |author=小倉重夫|year=1997 |title=バレエ音楽百科 |publisher=音楽之友社 |isbn=4276250315|ref={{SfnRef|小倉重夫|1997}}}}
*{{Cite book |和書 |author=音楽之友社|year=1993 |title=作曲家別名曲解説ライブラリー⑧ チャイコフスキー |publisher=音楽之友社 |isbn=4276010489|ref={{SfnRef|音楽之友社|1993}} }}
*{{Cite book |和書 |author=キーワード事典編集部|year=1995 |title=キーワード事典 作曲家再発見シリーズ チャイコフスキー |publisher=[[洋泉社]] |isbn=4896911679|ref={{SfnRef|キーワード事典編集部|1995}}}}
*{{Cite book |和書 |author=デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル |translator= 鈴木晶、赤尾雄人、海野敏、長野由紀|year=2010 |title=オックスフォード バレエダンス事典 |publisher=[[平凡社]] |isbn=9784582125221 |ref={{SfnRef|デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル|2010}}}}
*{{Cite book |和書 |author=小松佑子 |year=2017 |title=チャイコーフスキイ伝 下巻 アダージョ・ラメント―ソはレクイエムの響き |publisher=[[文芸社]] |isbn=9784286181851|ref={{SfnRef|小松佑子|2017}}}}
*{{Cite book |和書 |author=鈴木晶|authorlink=鈴木晶 |year=1994 |title=踊る世紀 |publisher=新書館 |isbn=4403230385|ref={{SfnRef|鈴木晶|1994}}}}
*{{Cite book |和書 |author=鈴木晶ほか |year=2012 |title=バレエとダンスの歴史 欧米劇場舞踊史 |publisher=[[平凡社]] |isbn=9784582125238 |ref={{SfnRef|鈴木晶ほか|2012}}}}
*{{Cite book |和書 |author=ダンスマガジン |year=2008 |title=バレエ・パーフェクト・ガイド |publisher=新書館 |isbn=9784403320286|ref={{SfnRef|ダンスマガジン|2008}}}}
*{{Cite book |和書 |author=ダンスマガジン編集部|year=1998 |title=バレエ101物語 |publisher=新書館 |isbn=9784403250323|ref={{SfnRef|ダンスマガジン編集部|1998}}}}
*{{Cite book |和書 |author=ダンスマガジン編集部|year=1999 |title=ダンス・ハンドブック |publisher=新書館 |isbn=4403250378|ref={{SfnRef|ダンスマガジン編集部|1999}}}}
*{{Cite book |和書 |author=長野由紀|year=2003 |title=バレエの見方 |publisher=新書館 |isbn=4403230997|ref={{SfnRef|長野由紀|2003}}}}
*{{Cite journal |和書|author=長野由紀 |title=バレエ名作ガイド 眠れる森の美女 |date=2020-10-01 |publisher= 新書館|journal=ダンスマガジン |volume=第30巻第10号|ref={{SfnRef|長野由紀|2020}}}}
*{{Cite book |和書 |author=シャルル・ペロー|translator=[[工藤庸子]] |year=2013 |title=いま読む ペロー「昔話」|publisher=羽鳥書店 |isbn=9784904702420 |ref={{SfnRef|シャルル・ペロー|2013}}}}
*{{Cite book |和書 |author=村山久美子 |year=2001 |title=ユーラシア・ブックレット15 知られざるロシア・バレエ史 |publisher=[[東洋書店]]|isbn=4885953375|ref={{SfnRef|村山久美子|2001}}}}
*{{Cite journal |和書|author=村山久美子 |title=プティパ名作ガイド 巨匠が手がけた名作の背景 |date=2018-07-01 |publisher= 新書館|journal=ダンスマガジン |volume=第28巻第7号|ref={{SfnRef|村山久美子|2018}}}}
*{{Cite book |和書 |author=森田稔|authorlink=森田稔 |year=1999 |title=永遠の「白鳥の湖」  チャイコフスキーとバレエ音楽|publisher=新書館 |isbn=4403230644|ref={{SfnRef|森田稔|1999}}}}
*{{Cite book |和書 |author=守山実花 |year=2004 |title=もっとバレエに連れてって! |publisher=[[青弓社]]|isbn=4787271784 |ref={{SfnRef|守山実花|2004}}}}
*{{Cite book |和書 |author=渡辺真弓 |year=2014 |title=チャイコフスキー三大バレエ 初演から現在に至る上演の変遷 |publisher=[[新国立劇場|公益財団法人新国立劇場運営財団情報センター]] |isbn=9784907223069 |ref={{SfnRef|渡辺真弓|2014}}}}

== 関連項目 ==
*[[眠れる森の美女 (1959年の映画)]] - [[ウォルト・ディズニー・カンパニー|ディズニー]]が製作した[[アニメーション映画]]。チャイコフスキーによる『眠れる森の美女』の楽曲を編曲して使用している。


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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** [https://musopen.org/ja/music/2231-the-sleeping-beauty-suite-op66a/ The Sleeping Beauty (suite), Op.66a] - 『Musopen』より
** [https://musopen.org/ja/music/2231-the-sleeping-beauty-suite-op66a/ The Sleeping Beauty (suite), Op.66a] - 『Musopen』より
** [http://en.tchaikovsky-research.net/pages/The_Sleeping_Beauty_(suite) The Sleeping Beauty (suite)] - 『Tchaikovsky Research』より
** [http://en.tchaikovsky-research.net/pages/The_Sleeping_Beauty_(suite) The Sleeping Beauty (suite)] - 『Tchaikovsky Research』より



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[[Category:眠れる森の美女|はれえ]]
[[Category:眠れる森の美女|はれえ]]
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[[Category:1890年代の舞台作品]]
[[Category:城を舞台とした舞台作品]]

2024年12月11日 (水) 19:12時点における最新版

眠れる森の美女
Спящая красавица
オーロラ姫(T・ロホ)とデジレ王子(V・ムンタギロフ)のパ・ド・ドゥ(2012年)
プティパ版
構成 プロローグ付き3幕[1]
振付 M・プティパ
作曲 P・チャイコフスキー
台本 M・プティパ、I・フセヴォロシスキー英語版
美術 M・ボチャーロフ、K・イワノフ、I・アンドレエフ、M・シシコフ、H・レヴォト[1]
衣装 I・フセヴォロシスキー[1]
初演 1890年1月15日
ロシア旧暦1月3日)
マリインスキー劇場
主な初演者 【オーロラ姫】C・ブリアンツァ
【デジレ王子】P・ゲルト
【リラの精】マリヤ・プティパ
【カラボス】E・チェケッティ
ポータル 舞台芸術
ポータル クラシック音楽
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音楽・音声外部リンク
バレエ『眠れる森の美女』(抜粋)
英国ロイヤル・バレエ団による上演
プロローグより カラボスの入場
第1幕より ローズ・アダージョ
第2幕より パ・ダクション

第3幕より 長靴をはいた猫と白い猫

ロイヤル・オペラ・ハウス公式YouTubeより

眠れる森の美女』(ねむれるもりのびじょ、: Спящая красавица, : La Belle au bois dormant, : The Sleeping Beauty)は、ピョートル・チャイコフスキーが作曲したバレエ音楽作品66)、およびそれを用いたバレエ作品である[2]。日本語題は『眠りの森の美女』が用いられることもある。1890年、サンクトペテルブルクマリインスキー劇場で初演された[1]

本作は、シャルル・ペローによる昔話眠れる森の美女』を原作としている[1]クラシック・バレエを代表する作品の一つであり、同じくチャイコフスキーが作曲した『白鳥の湖』『くるみ割り人形』と共に「3大バレエ」とも呼ばれている[3]

上演史

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チャイコフスキー以前の同名バレエ

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シャルル・ペローによる昔話『眠れる森の美女』を題材としたバレエは、19世紀前半にパリ・オペラ座で2回制作されている[4]。一度目は1825年に上演された同名のオペラで、作中にバレエ・シーンが挿入されており、ピエール・ガルデル英語版が振付を担当した[5]。二度目は1829年に上演されたバレエで、振付はジャン=ルイ・オーメール英語版、音楽はフェルディナン・エロルドが手掛け、リーズ・ノブレマリー・タリオーニといった当時の人気バレリーナが出演したが、1840年の上演を最後にオペラ座のレパートリーから外れている[4][6][7]

創作の経緯

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イワン・フセヴォロシスキー英語版
『眠れる森の美女』初演キャスト(1890年)

1888年5月、サンクトペテルブルクマリインスキー劇場支配人であったイワン・フセヴォロシスキー英語版は、チャイコフスキーに手紙を書き、ペローの昔話『眠れる森の美女』に基づくバレエ音楽の作曲を依頼した[4]外交官としてパリに駐在していたこともあるフセヴォロシスキーは、文化的見識が深く、フランス文化を愛好する人物であった[2][4]。『眠れる森の美女』は、当時フランスで上演されていた夢幻劇と呼ばれる大衆向け演劇において、最も人気の高い演目であった[8]

また、当時のロシアでは、1881年に起きた皇帝アレクサンドル2世の暗殺事件以降、皇帝による専制政治が強化されていた[9]。そのような中でフセヴォロジスキーは、ペローが生きたルイ14世時代のフランスと当代のロシアを重ね合わせ、皇帝を賛美する豪華絢爛なバレエを上演しようとしたのである[8][9][10]

フセヴォロシスキーはチャイコフスキーに宛てた依頼の手紙で、「私はペローの童話『眠れる森の美女』のバレエ台本を書きました。この作品の時代背景をルイ14世のスタイルにし、装置はミュージカル・ファンタジー風に、音楽的な色彩はリュリラモー宮廷バレエ様式風なものを採用して下さい。私は終幕にペローの童話集から(中略)長靴をはいた猫赤頭巾シンデレラオーノワ夫人の作品から青い鳥英語版なども登場させたいのです」と書いている[11]。チャイコフスキーはしばらく返信をしなかったが、フセヴォロジスキーから同年8月に再度手紙が送られてくると、まだ台本を受け取っていないが内容には興味を持っている、という趣旨の返事を書いた[12]。その数日後、チャイコフスキーはフセヴォロジスキー宛に、「やっと『眠れる森の美女』の原稿が届きました。(略)私は言いようもなく、感嘆し、魅了されました。(略)私が作曲するのにこれ以上良いものは望めません」と熱狂的な手紙を書き、作曲を承諾した[12]

バレエの振付は、マリインスキー劇場の首席バレエマスターであり、フセヴォロシスキーと協力して本作の台本も手掛けていたマリウス・プティパが担当することになった[4][13]。作曲は1888年の秋から開始され、途中に何度か中断を挟みながらも、翌1889年の夏には全曲が完成した[14]。作曲に当たり、プティパはチャイコフスキーに対して指示書きを手渡し、各場面の楽曲の雰囲気やテンポ小節数などを細かく指定したが、チャイコフスキーはそのすべてを厳密に守ったわけではなく、指定された小節数を超えて作曲した部分もある[13][15][16]。また、作曲が完了した後も、プティパが振付を進めていく過程で、楽曲には随時修正が加えられた[17]

初演

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『眠れる森の美女』初演。第3幕のオーロラ姫(C・ブリアンツァ)とデジレ王子(P・ゲルト

1890年1月15日(ロシア旧暦1月3日)、マリインスキー劇場において、バレエ『眠れる森の美女』が初演された[18]。主要キャストは、オーロラ姫がカルロッタ・ブリアンツァ、デジレ王子がパーヴェル・ゲルト、リラの精がマリヤ・プティパ(振付家プティパの娘)、カラボスと青い鳥の二役がエンリコ・チェケッティであった[19]。上演時間は4時間半で、舞台美術・衣装をはじめとする制作費には膨大な予算がつぎ込まれ、帝室劇場でもっとも費用がかかったバレエとして評判になった[1][8][20]

初演前日のゲネプロを鑑賞した皇帝アレクサンドル3世の感想は、ただ一言「とても可愛らしい」というもので、チャイコフスキーは日記に「皇帝陛下は僕を非常に軽くあしらった」と記している[21][22]。初演に対する貴族や批評家の反応は冷淡なものが多かったが、観客からの支持は公演を重ねるごとに高まり、ついにはチケットが売り切れるまでになった[23]。その後も本作はマリインスキー劇場のレパートリーとして上演され続け、初演から6年後の1896年には、ミラノスカラ座で初の国外上演も行われた[24][25]

改訂演出

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チャイコフスキーが作曲した3つのバレエ作品(『白鳥の湖』、『眠れる森の美女』、『くるみ割り人形』)は、いずれも初演以降、多数の改訂演出が発表されてきた[26]。そのうち『眠れる森の美女』は、改訂演出であってもプティパによる原振付を尊重している場合が多く、他の2作に比べると後世における改変の度合いは少ない[27][28]。以下、いくつかの改訂演出を挙げる。

バレエ・リュス

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バレエ・リュス全幕版に主演したL・ロポコワ

1921年11月から翌年2月にかけて、セルゲイ・ディアギレフ率いるバレエ・リュスは、ロンドンで、『眠れる森の美女』全幕を『眠り姫』(The Sleeping Princess)のタイトルで上演した[29]。従来のバレエ・リュスは新作バレエを中心に上演しており、本作のような全幕の古典バレエはレパートリーに入っていなかったが、この頃は新作を発表できる振付家が不在であったことと、ディアギレフがチャイコフスキーの傑作を西欧へ紹介したいという思いを抱いていたことから、上演の運びとなった[30][31]。振付を手掛けたのは、ニコライ・セルゲエフ英語版ブロニスラヴァ・ニジンスカである[29]。セルゲエフはマリインスキー劇場の元舞台監督で、ロシアから亡命した際に、プティパ版『眠れる森の美女』の舞踊譜を持ち出していた[29]。ニジンスカはその舞踊譜を元に、マイムで演じられていた場面をダンスに置き換えたり、新たな振付を追加したりといった改変を加えた[32]。また、レオン・バクストが豪華な舞台美術をデザインし、出演者も一流のダンサーが揃えられた[32]

にもかかわらず本作は、バレエ・リュスに前衛的な作品を期待していた人々の支持を得ることができず、観客からも批評家からも不評であった[33]。公演は当初予定していた上演期間の終了前に打ち切られ、ディアギレフは多額の借金を背負い、衣装や舞台美術もすべて差し押さえられた[32][33]。しかしこの公演は、イギリスに『眠れる森の美女』を紹介し、後のロイヤル・バレエ団による全幕上演のきっかけを作った点や、ニジンスカが振付家として本格的に活動する契機となった点で、後のバレエ史に影響を与えている[34]。なお、バレエ・リュスは1922年5月に『眠れる森の美女』の抜粋版である『オーロラ姫の結婚』を制作してパリ・オペラ座で初演し、その後はこの抜粋版をレパートリーとして上演し続けた[34]

マリインスキー・バレエ

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プティパ版を初演したマリインスキー・バレエでは、初演以後、本作の改訂が度々行われてきた。1922年フョードル・ロプホーフ英語版版では、プロローグで踊られる「リラの精のヴァリアシオン」を従来よりも高度な振付に変更したり、第3幕の「オーロラ姫のヴァリアシオン」の楽曲を、プティパが初演時に用いた「金の精の踊り」からチャイコフスキーのオリジナル曲に戻したりといった改変が行われた[35]1952年に初演されたコンスタンチン・セルゲエフ英語版版は、現在に至るまで長く踊り継がれている演出であり、1989年にはセルゲエフ自身による再改訂が行われ、全体をプティパの原振付により近づける試みがなされた[36][37]。また1999年には、セルゲイ・ヴィハレフ英語版によって、プティパによる初演版の復元上演が行われた[37]

ロイヤル・バレエ

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イギリスのニネット・ド・ヴァロワは『眠り姫』の全幕上演を望み、1939年2月2日に初演した。マーゴ・フォンテインがオーロラ姫を演じた[38]:215-216第二次世界大戦後の1946年にコヴェント・ガーデンロイヤル・オペラ・ハウスが再開したとき、『眠れる森の美女』の題で再び上演した[38]:220-221。この有名な版はニコライ・セルゲーエフ英語版の演出により、他のカンパニーによる公演の模範となった[39]。1955年にNBCで放映されたフォンティン主演の『眠れる森の美女』は3000万人が視聴したといわれている[40]

その後、1968年にはピーター・ライト版、1973年と1977年にはケネス・マクミラン版、1994年にはアンソニー・ダウエル版が上演されている[39]

その他

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今日上演されている『眠れる森の美女』の多くはプティパ版を改訂したものであるが、物語設定を大きく変更し、現代的に再解釈した演出もある。オーロラ姫を薬物依存症という設定にしたマッツ・エック版(1996年)や、ペローの原作に登場する人食い鬼の挿話を加え、性や暴力といったテーマを描き出したジャン=クリストフ・マイヨー版(2001年)などが挙げられる[41][42][43]

物語

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原作

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バレエ『眠れる森の美女』の原作は、シャルル・ペローによる同名の昔話1697年出版)である[1][44]。原作のあらすじは以下の通りである[45]。なお、バレエでは、王女と王子が結婚に至る前半部分の筋書きのみが用いられ、後半の人食い鬼の挿話は省略されている[46]

ペロー『眠れる森の美女』の挿絵G・ドレ画、1897年)

昔々、とある国で王女が生まれ、国中の仙女たちが洗礼式に招待されたが、ただ一人、年老いた仙女だけが招かれなかった。年老いた仙女は宴の席に現れると、王女はいずれ紡錘に刺されて死ぬだろう、と呪いをかける。しかし、ある若い仙女がその呪いを和らげ、姫は死ぬのではなく100年の眠りにつくだけだと予言する。成長した王女は予言の通り、紡錘で手を刺して眠りに落ちる。100年後、眠る王女の噂を聞いた若い王子が城を訪れると、王女は目を覚まし、2人は結婚する。

王女と王子の間には2人の子供が生まれ、やがて王子は国王の座に就いた。しかし、新国王の母親にあたる女王は人食い鬼であり、国王の留守中に王妃と孫たちを食べてしまおうと目論んでいた。女王は、王妃たちを殺して調理するよう料理頭に命じるが、料理頭は母子3人を自宅に匿い、代わりに動物の肉を女王に食べさせる。だが、ほどなく女王は王妃と孫たちが生きていることを知り、料理頭共々死刑にしようとする。死刑執行人がヒキガエル毒蛇の入った桶を用意し、そこに王妃たちを投げ込もうとしたちょうどその時、国王が帰還する。悔しがった女王は自ら桶の中に飛び込み、死んでしまった。

主な登場人物

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  • オーロラ姫 - フロレスタン国王夫妻の間に生まれた王女。
  • カラボス - 悪の妖精。オーロラ姫に死の呪いをかける。
  • リラの精 - 善の妖精。カラボスの呪いを弱め、オーロラ姫を眠りにつかせる。
  • デジレ王子 - オーロラ姫と結婚する王子。ロイヤル・バレエ団ではフロリムント王子という[47]

あらすじ

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演出によって物語の展開に相違があるが、あらすじは概ね次のような内容である[48][49][50]

プロローグ

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プロローグ 6人の妖精たち
邪悪な妖精カラボス

17世紀のフランスを思わせる王宮。フロレスタン国王夫妻の間にオーロラという姫君が誕生し、洗礼式が行われている。式には6人の妖精たちが招かれており、姫に「優しさ」「勇気」「のんき」などの様々な美質を授ける。最後にリラの精が贈り物をしようとしたとき、悪の妖精カラボスが現れる。カラボスは自分が祝宴に招かれなかったことに怒り狂い、「オーロラ姫は16歳の誕生日に、紡錘に刺されて死ぬだろう」と呪いをかける。嘆き悲しむ宮廷の人々に、リラの精は「カラボスの呪いを消し去ることはできないが、弱めることはできる。姫は死ぬのではなく眠りにつき、100年後に王子の口づけによって目覚めるだろう」と予言する。

第1幕

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第1幕 オーロラ姫

オーロラ姫の16歳の誕生日。美しく成長した姫の元には求婚者たちが訪れており、姫は4人の求婚者と踊る。その直後、姫は見知らぬ老婆から花束を受け取り、その中に仕込まれていた紡錘で指を刺して倒れてしまう。老婆に変装していたカラボスは正体を現すと、勝ち誇ったように去っていく。そこへリラの精がやってきて、オーロラ姫は予言通りに眠りについたのだと告げる。リラの精は、魔法でその場にいる全員を眠らせるとともに、辺りに植物を茂らせて城全体を包み込む。

第2幕

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100年後。デジレ王子の一行が森へ狩りにやってくるが、王子は狩りを楽しめず、物思いに沈んでいる。そこへリラの精が現れ、オーロラ姫の幻影を王子に見せると、王子は姫の美しさの虜となる。王子はリラの精に導かれて城へ辿り着き、口づけによって姫を目覚めさせる。

第3幕

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第3幕 オーロラ姫の結婚式

オーロラ姫とデジレ王子の結婚式が盛大に催されている。式には、宝石の精や、様々な童話の主人公たちが招かれており、長靴をはいた猫と白い猫、赤ずきんと狼フロリナ王女と青い鳥英語版などがそれぞれ個性的な踊りを披露する。人々が祝福する中、オーロラ姫とデジレ王子がグラン・パ・ド・ドゥを踊り、物語は幕を閉じる。

演出による違い

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『眠れる森の美女』の改訂演出は、プティパによる原振付を尊重したものが多い[28]。演出によっては一部の場面を削除することがあり、例えば、禁じられた糸紡ぎを隠れて行っていた人々が処罰される場面(第1幕)、狩りの場面(第2幕)、童話の主人公たちの踊りの一部(第3幕)等がなくなることはあるが、全体の構成が大きく変更されることは稀である[28]

リラの精のチュチュ
L・バクストによるカラボスのデザイン画

その中で演出による違いが表れやすいのは、象徴であるリラの精と、の精カラボスの描き方である[28]。リラの精は、薄紫色のチュチュを着た女性ダンサーがトゥシューズで踊るのが一般的であるが、踊らずにマイムのみで演じられる場合もある[28][51]。カラボスはさらに演出の幅が広く、初演版のように男性が演じる場合もあれば、チュチュとトウシューズを身に着けた女性ダンサーが踊る場合や、女性がマイムで演じる場合もある[51][52]。これらの演じ方の組み合わせによって、カラボスとリラの精を全く異なる姿にしたり、逆に鏡像のように見せたりと、善と悪の対比が様々な形で表現される[53]

作品の特徴

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第1幕 ローズ・アダージョ

本作は、単純な筋書きのおとぎ話を題材としながらも、クラシック・バレエ(古典バレエ)の様式美を体現した豪華絢爛な作品として知られる[53]。本作の振付家であるプティパは古典バレエの確立者とされているが、彼の作品の特徴は、物語の筋書きよりも純粋な舞踊を見せることに重点が置かれており、かつ、作品全体が明確な形式構造に基づいていることである[54][55]。『眠れる森の美女』は、プティパがこの古典バレエの様式を完成させた作品であり、作品全体に、コール・ド・バレエや、童話の登場人物などによる多様な踊り(ディヴェルティスマン)、主役2人によるグラン・パ・ド・ドゥ等が秩序立って配置され、古典主義的な調和が作り出されている[56]。また、本作の物語も古典主義的な世界観に基づいており、悪の精カラボスの死の呪いによってもたらされた混沌が、善の精リラによって再び調和へと導かれる様が描かれている[10][57]

本作の主役であるオーロラ姫を演じるバレリーナには、安定したテクニックと、王女らしい華やかさが求められる[58][59]。特に、第1幕でオーロラ姫が登場した直後に求婚者たちと踊る「ローズ・アダージョ」は、女性が片足で立ってバランスを保持したまま4人の男性に次々と手を預けていくなど、高度な技が連続する大きな見せ場である[53][60]

楽曲

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楽器編成

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ピッコロフルート2、オーボエ2、コーラングレクラリネット2、ファゴット2、ホルン4、コルネット2、トランペット2、トロンボーン3、チューバティンパニ大太鼓小太鼓タンバリンシンバルタムタムトライアングルグロッケンシュピールピアノハープ弦五部[2]

作品構成

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音楽・音声外部リンク
『眠れる森の美女』抜粋版(演奏会形式)

眠れる森の美女C・バルディーニ英語版指揮、北オランダ交響楽団英語版他による演奏)

オランダ公共放送公式YouTubeより

以下の楽曲構成は、初演時の台本に基づく[要出典]。演奏時間は約2時間40分(プロローグ約40分、第1幕約40分、第2幕約40分、第3幕約40分)である[61]

プロローグ「オーロラ姫の洗礼」(Le baptême de la Psse. Aurore)
序奏、広間の行進曲
1-a 序奏 (Introduction)
1-b 広間の行進曲 (Marche de salon)
2-a 妖精の入場 (Entrée des fées)
2-b 踊りの情景 (Scène dansante)
3 グラン・パ・アンサンブル(パ・ド・シス) (Grand pas ensemble, a.k.a. Pas de six)
a) 甘美なアダージョ、短いアレグロ (Grand adage suave. Petit allégro)
b) ヴァリアシオン - 夾竹桃の精 (Variation - Candide)
c) ヴァリアシオン - 流麗に、三色ヒルガオの精 (Variation - Coulante - Fleur de farine)
d) ヴァリアシオン - パンくずの精 - こぼれ落ちて (Variation - Miettes - qui tombent)
e) ヴァリアシオン - カナリアの精 - 歌って(Variation - Canari - qui chante)
f) ヴァリアシオン - 激しさの精 - 奔放に(Variation - Violente - échevelée)
g) ヴァリアシオン - リラの精 - 扇情的に(Variation - La Fee des lilas - voluptueuse)
h) 全員のコーダ (Coda générale)
4 終曲 (Scène finale)
a) カラボスの入場 (Entrée de Carabosse)
b) カラボスのマイム (Scène mimique de Carabosse)
c) リラの精のマイム (Scène mimique de la Fée des lilas)
第1幕「オーロラ姫の4人の求婚者」(Les quatre fiancés de la Psse. Aurore)
第1幕 村人の大ワルツ
5-a 序奏 (Introduction)
5-b 編み物をする女たちの情景 (Scène des tricoteuses)
6 村人の大ワルツ(ガーランド・ワルツ) (Grande valse villageoise, a.k.a. The Garland Waltz)
7 オーロラ姫の入場 (Entrée d'Aurore)
8 グラン・パ・ダクション (Grand pas d'action)
a) ローズ・アダージョ (Grand adage à la rose) - プティパの依頼により冒頭部のハープカデンツァを拡大
b) 女官と小姓達の踊り (Danse des demoiselles d'honneur et des pages)
c) オーロラ姫のヴァリアシオン (Variation d'Aurore) - プティパの依頼により末尾を改変
d) コーダ (Coda)
9 終曲 (Scène finale)
a) つむをもったオーロラ姫の踊り (La danse d'Aurore avec de fuseau)
b) 呪文 (Le charme)
c) リラの精の到着 (L'arrivée de la Fée des lilas)
第2幕第1場「デジレ王子の狩」(La chasse du Prince Désiré)
10-a 間奏曲 (Entr'acte)
10-b 王子の狩の情景 (Scène de la chasse royale)
11 目隠し鬼ごっこ (Colin-maillard)
12 貴婦人たちの踊り (Danses des demoiselles nobles)
a) 情景 (Scène)
b) 公爵夫人の踊り (Danse des Duchesses)
c) 男爵夫人の踊り (Danse des Baronnes) - プティパにより初演時カット
d) 伯爵夫人の踊り (Danse des Comtesses) - プティパにより初演時カット
e) 侯爵夫人の踊り (Danse des Marquises) - プティパにより初演時カット
13 コーダ、ファランドール (Coda - Farandole)
14-a 情景と狩人たちの出発 (Scène et départ des chasseurs)
14-b リラの精の入場 (Entrée du Fée des lilas)
15 パ・ダクション (Pas d'action)
a) オーロラ姫の幻の入場 (Entrée de l'apparition d'Aurore)
b) 甘美なアダージョ (Grand adage suave) - プティパの依頼により冒頭部のハープのカデンツァを拡大
c) ニンフのワルツ - コケティッシュな短いアレグロ (Valse des nymphes – Petit allégro coquet)
挿入曲:リッカルド・ドリゴによる4小節のつなぎ
挿入曲:ブリアンツァ嬢のヴァリアシオン(no. 23-b の金の精のヴァリアシオン)
c) オーロラ姫のヴァリアシオン (Variation d'Aurore) - プティパにより初演時カット
d) 小コーダ (Petite coda)
16 情景 (Scène)
17 パノラマ (Panorama)
挿入曲:チャイコフスキーによるno. 19への3小節のつなぎ(no. 18は初演時カットのため)
18 交響的間奏曲 (Entr'acte symphonique) - プティパにより初演時カット
第2幕第2場「眠れる森の美女の城」 (Le château de la belle au bois dormant)
19 眠りの城の情景 (Scène du château de sommeil)
20 情景と終曲 - オーロラ姫の目覚め (Scène et final – Le réveil d'Aurore)
第3幕「デジレ王子とオーロラ姫の結婚式」(Act III, Les Noces de Désiré et d'Aurore)
第3幕 長靴をはいた猫と白い猫
第3幕 青い鳥とフロリナ姫
21 行進曲 (Marche)
22 グラン・ポロネーズ(おとぎ話の人物たちの行列) (Grand polonaise dansée, a.k.a. The Procession of the Fairy Tales)
グラン・ディヴェルティスマン (Grand divertissement)
23 パ・ド・カトル (Pas de quatre)
a) 入場 (Entrée)
b) 金の精のヴァリアシオン (Variation de la fée-Or) - 初演時はプティパによりブリアンツァ嬢のヴァリアシオンとして第2幕に移動
c) 銀の精のヴァリアシオン (Variation de la fée-Argent) - 初演時はプティパにより「金・銀・サファイアの精のパ・ド・トロワ」 (Pas de trois pour la Fées d'Or, d'Argent et de Saphir) に変更
d) サファイアの精のヴァリアシオン (Variation de la fée-Saphir) - プティパにより初演時はカット
e) ダイヤモンドの精のヴァリアシオン (Variation de la fée-Diamant)
f) コーダ (Coda)
挿入曲:猫の入場(チャイコフスキーによる10小節の序奏)
24 パ・ド・カラクテール - 長靴をはいた猫と白い猫 (Pas de caractère – Le Chat botté et la Chatte blanche)
25 パ・ド・カトル (Pas de quatre) - 初演時はプティパにより「青い鳥とフロリナ姫のパ・ド・ドゥ」に変更
a) 入場 (Entrée)
b) シンデレラとフォルチュネ王子のヴァリアシオン (Variation de Cendrillon et Prince Fortuné) - 初演時はプティパにより「青い鳥のヴァリアシオン」に変更
c) 青い鳥とフロリナ姫のヴァリアシオン (Variation de l'Oiseau bleu la Princesse Florine) - 初演時はプティパにより「フロリーネ姫のヴァリアシオン」に変更
d) コーダ (Coda)
26 パ・ド・カラクテール - 赤ずきんと狼 (Pas de caractère – Chaperon Rouge et le Loup)
挿入曲:パ・ド・カラクテール - シンデレラとフォルチュネ王子
27 ベリー人の踊り - 親指小僧とその兄弟と人食い鬼 (Pas berrichon – Le Petit Poucet, ses frères et l'Ogre)
28 グラン・パ・ド・ドゥ・クラシック (Grand pas de deux classique)
a) 入場 (Entrée)
b) アダージョ (Grand adage)
c) デジレ王子のヴァリアシオン (Variation du Prince Désiré)
d) オーロラ姫のヴァリアシオン (Variation d'Aurore) - プティパの依頼により初演時はリッカルド・ドリーゴにより編曲
e) コーダ (Coda)
29 サラバンド - トルコ人、エチオピア人、アフリカ人とアメリカ人のカドリーユ (Sarabande – quadrille pour Turcs, Éthiopiens, Africains et Américains)
30-a 全員のコーダ (Coda générale)
30-b アポテオーズ - ルイ14世の姿をしたアポロン、妖精に囲まれた太陽の光によって輝いている (Apothéose – Apollon en costume de Louis XIV, éclairé par le soleil entouré des fées)

編曲版

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音楽・音声外部リンク
組曲『眠れる森の美女』(抜粋)

組曲『眠れる森の美女』より第1・2・5曲
Y・アベル英語版指揮、北オランダ管弦楽団英語版による演奏)

オランダ公共放送公式YouTubeより

本作は、以下の5曲から成る演奏会用組曲としても演奏される[62][63]。これはチャイコフスキー自身の選曲によるものだが、作曲者の生前は内容が固まらず、まとまったのはチャイコフスキーの死後であった[64]

  1. リラの精(プロローグより序奏の冒頭、第1幕第9曲よりリラの精の到着)
  2. アダージョ/パ・ダクション(第1幕第8曲よりローズ・アダージョ)
  3. パ・ド・カラクテール(第3幕第24曲 - 長靴をはいた猫と白猫の踊り)
  4. パノラマ(第2幕第17曲)
  5. ワルツ(第1幕第6曲)

この他、バレエ『眠れる森の美女』の上演直前であった1889年の暮れに、楽譜出版社のユルゲンソンから、本作のピアノ独奏用編曲版が出版されている[65]。編曲は、作曲者から依頼を受けたアレクサンドル・ジロティが行った[65]

また、バレエの上演直後である1890年初頭、チャイコフスキーはユルゲンソンに対してピアノ連弾版の出版を依頼し、ユルゲンソンは当時17歳のセルゲイ・ラフマニノフに編曲を注文した[66]。この編曲版にはチャイコフスキーとジロティが校正を加えたが、チャイコフスキーはラフマニノフの編曲が気に入らず、ジロティに不満を漏らしていた[66]

脚注

[編集]
  1. ^ a b c d e f g デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル 2010, p. 361.
  2. ^ a b c 音楽之友社 1993, p. 84.
  3. ^ ダンスマガジン編集部 1999, p. 34.
  4. ^ a b c d e 渡辺真弓 2014, p. 37.
  5. ^ 小倉重夫 1989, pp. 98–99.
  6. ^ 小倉重夫 1989, pp. 98–101.
  7. ^ 譲原晶子「バレエ・パントマイムの時代の『眠れる森の美女』」『千葉商大紀要』第48巻第2号、千葉商科大学、2011年3月、45-63頁、ISSN 03854566NAID 110008430462 
  8. ^ a b c 鈴木晶ほか 2012, p. 66.
  9. ^ a b 村山久美子 2001, p. 6.
  10. ^ a b 村山久美子 2018, p. 45.
  11. ^ 音楽之友社 1993, p. 85.
  12. ^ a b 森田稔 1999, p. 158.
  13. ^ a b 小倉重夫 1997, p. 246.
  14. ^ 森田稔 1999, pp. 158, 163–164.
  15. ^ 渡辺真弓 2014, pp. 37–38.
  16. ^ 森田稔 1999, pp. 195–197.
  17. ^ 森田稔 1999, pp. 197–198.
  18. ^ 渡辺真弓 2014, p. 38.
  19. ^ 渡辺真弓 2014, pp. 39–40.
  20. ^ 森田稔 1999, p. 187.
  21. ^ 森田稔 1999, pp. 186–187.
  22. ^ 小松佑子 2017, p. 329.
  23. ^ 森田稔 1999, pp. 187–188.
  24. ^ 森田稔 1999, pp. 208–210.
  25. ^ 渡辺真弓 2014, p. 40.
  26. ^ キーワード事典編集部 1995, p. 106.
  27. ^ キーワード事典編集部 1995, pp. 109–110.
  28. ^ a b c d e ダンスマガジン編集部 1998, p. 116.
  29. ^ a b c 渡辺真弓 2014, pp. 43–44.
  30. ^ 渡辺真弓 2014, pp. 43–45.
  31. ^ 鈴木晶 1994, p. 187.
  32. ^ a b c 渡辺真弓 2014, p. 44.
  33. ^ a b 鈴木晶 1994, p. 190.
  34. ^ a b 渡辺真弓 2014, p. 45.
  35. ^ 赤尾雄人 2010, pp. 26–27.
  36. ^ The Sleeping Beauty”. マリインスキー劇場. 2021年5月7日閲覧。
  37. ^ a b 渡辺真弓 2014, p. 41.
  38. ^ a b ナンシー・レイノルズ、マルコム・マコーミック『20世紀ダンス史』松澤慶信監訳、慶応義塾大学出版会、2013年。ISBN 9784766420920 
  39. ^ a b 「眠れる森の美女」『オックスフォード バレエ ダンス事典』平凡社、2010年、361-362頁。ISBN 9784582125221 
  40. ^ 海野敏 著「現代のバレエ」、鈴木晶 編『バレエとダンスの歴史―欧米劇場舞踊史』平凡社、2012年、135頁。ISBN 9784582125238 
  41. ^ Judith Mackrell (1999年8月23日). “Sleeping Beauty is a junkie”. ガーディアン. 2021年4月28日閲覧。
  42. ^ 渡辺真弓 2014, p. 47.
  43. ^ モンテカルロ・バレエ団「ラ・ベル」”. WOWOWオンライン. WOWOW. 2021年4月28日閲覧。
  44. ^ シャルル・ペロー 2013, p. 5.
  45. ^ シャルル・ペロー 2013, pp. 8–23.
  46. ^ ダンスマガジン編集部 1998, p. 113.
  47. ^ NBS 日本舞台芸術振興会 英国ロイヤル・バレエ団:眠れる森の美女”. 日本舞台芸術振興会. 2021年7月27日閲覧。
  48. ^ ダンスマガジン 2008, pp. 54–55.
  49. ^ 長野由紀 2003, p. 150.
  50. ^ 長野由紀 2020, pp. 26–27.
  51. ^ a b キーワード事典編集部 1995, pp. 110–111.
  52. ^ ダンスマガジン編集部 1998, pp. 116–117.
  53. ^ a b c 長野由紀 2020, p. 27.
  54. ^ 鈴木晶ほか 2012, pp. 68–69.
  55. ^ 守山実花 2004, pp. 47–48.
  56. ^ 守山実花 2004, pp. 48, 102–109.
  57. ^ 長野由紀 2003, pp. 163–166.
  58. ^ ダンスマガジン編集部 1998, p. 117.
  59. ^ ダンスマガジン 2008, p. 55.
  60. ^ ダンスマガジン編集部 1998, p. 112.
  61. ^ 音楽之友社 1993, p. 62.
  62. ^ 池辺晋一郎 2014, pp. 169–173.
  63. ^ 音楽之友社 1993, p. 90.
  64. ^ 池辺晋一郎 2014, p. 168.
  65. ^ a b 小松佑子 2017, pp. 320–321.
  66. ^ a b 小松佑子 2017, p. 331.

参考文献

[編集]
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  • 池辺晋一郎『チャイコフスキーの音符たち 池辺晋一郎の「新チャイコフスキー考」』音楽之友社、2014年。ISBN 9784276200685 
  • 小倉重夫『チャイコフスキーのバレエ音楽』共同通信社、1989年。ISBN 4764102234 
  • 小倉重夫『バレエ音楽百科』音楽之友社、1997年。ISBN 4276250315 
  • 音楽之友社『作曲家別名曲解説ライブラリー⑧ チャイコフスキー』音楽之友社、1993年。ISBN 4276010489 
  • キーワード事典編集部『キーワード事典 作曲家再発見シリーズ チャイコフスキー』洋泉社、1995年。ISBN 4896911679 
  • デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル 著、鈴木晶、赤尾雄人、海野敏、長野由紀 訳『オックスフォード バレエダンス事典』平凡社、2010年。ISBN 9784582125221 
  • 小松佑子『チャイコーフスキイ伝 下巻 アダージョ・ラメント―ソはレクイエムの響き』文芸社、2017年。ISBN 9784286181851 
  • 鈴木晶『踊る世紀』新書館、1994年。ISBN 4403230385 
  • 鈴木晶ほか『バレエとダンスの歴史 欧米劇場舞踊史』平凡社、2012年。ISBN 9784582125238 
  • ダンスマガジン『バレエ・パーフェクト・ガイド』新書館、2008年。ISBN 9784403320286 
  • ダンスマガジン編集部『バレエ101物語』新書館、1998年。ISBN 9784403250323 
  • ダンスマガジン編集部『ダンス・ハンドブック』新書館、1999年。ISBN 4403250378 
  • 長野由紀『バレエの見方』新書館、2003年。ISBN 4403230997 
  • 長野由紀「バレエ名作ガイド 眠れる森の美女」『ダンスマガジン』第30巻第10号、新書館、2020年10月1日。 
  • シャルル・ペロー 著、工藤庸子 訳『いま読む ペロー「昔話」』羽鳥書店、2013年。ISBN 9784904702420 
  • 村山久美子『ユーラシア・ブックレット15 知られざるロシア・バレエ史』東洋書店、2001年。ISBN 4885953375 
  • 村山久美子「プティパ名作ガイド 巨匠が手がけた名作の背景」『ダンスマガジン』第28巻第7号、新書館、2018年7月1日。 
  • 森田稔『永遠の「白鳥の湖」  チャイコフスキーとバレエ音楽』新書館、1999年。ISBN 4403230644 
  • 守山実花『もっとバレエに連れてって!』青弓社、2004年。ISBN 4787271784 
  • 渡辺真弓『チャイコフスキー三大バレエ 初演から現在に至る上演の変遷』公益財団法人新国立劇場運営財団情報センター、2014年。ISBN 9784907223069 

関連項目

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外部リンク

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