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'''ベニテングタケ'''(ベニテングダケ、紅天狗茸、学名: ''Amanita muscaria'')は、[[ハラタケ目]][[テングタケ科]][[テングタケ属]]の[[キノコ]]。鮮やかなとは裏腹に、ではい担子菌類である。特に寒冷地にて育成する。[[ヨロッパ]]、[[ロシア]]、[[アア]][[北アメリカ]]などの各地広くられる。[[英語]]ではフライ・アガリック(ハエキノコ)と呼ばれる<ref name="人間"/><ref name="デコーン紅"/>。[[岩手]]におけるアシタカベニタケ<ref name="名優"/>。寒冷のヨーロッパでは身近なキノコであり、幸福を呼ぶキノコとして人気ある{{sfn|小山昇平|1999|p=52}}
'''ベニテングタケ'''(紅天狗茸{{sfn|大作晃一|2015|p=38}}[[学名]]: ''Amanita muscaria'')は、[[ハラタケ目]][[テングタケ科]][[テングタケ属]]の中型から大型の[[キノコ]]。[[子実体]]傘は赤で柄が白く、傘付着した白いイボが目立つ。多くの人にとって、毒キノコという言葉を連想させる代表的キノコの一種ある{{Sfn|長沢栄史監修|2009|p=73}}見た目の印象から派生するイメージから童話や、ゲームなどでもなじがあり、ヨーロッパでは幸福を呼ぶ象徴として人気ある。


== 特徴 ==
== 名前 ==
[[和名]]の「ベニテングタケ」は赤いテングタケという形態および分類学的特徴に由来し、恐ろしい毒性から[[天狗]]を想像し、傘の赤い表面を天狗の顔に見立てたことから名付けられている{{sfn|大作晃一|2015|p=38}}。別名でハエトリタケ、地方によりアカハエトリ(青森・秋田・岩手・長野県)、アシタカベニタケ、アネコダケ、ハエトリともよばれている{{sfn|大作晃一|2005|p=93}}{{Sfn|長沢栄史監修|2009|p=73}}。
[[Image:Amanita muscaria americana.jpg|thumb|right|黄色の傘をもつベニテングタケの亜種(アメリカ、マサチューセッツ州)]]
深紅色の[[キノコの部位#傘|傘]]には、[[キノコの部位#つぼ|つぼ]]が崩れてできた白色のイボがある。完全に成長したベニテングタケの傘は、たいてい直径8-20cmであるが、さらに巨大なものも発見されている。<!--出典ここから-->激しい雨でイボがとれると、[[タマゴタケ]]に見えるので注意<ref name="名人"/>。[[キノコの部位#柄|柄]]は白色で高さ5 - 20センチ・メートル、ささくれがあり、[[キノコの部位#つば|つば]]が付いている。根元は球根状にふくらんでいる。


[[英語]]名 fly agaric(ハエの[[ハラタケ]])や[[フランス語]]名 Amanite tue-mouches(ハエのキノコ)、[[ロシア語]]名 Мухомор красный(赤いハエのキノコ)など欧米でしばしば見られる名前は本種をハエ取りで使ったことに因む。種小名 ''muscaria'' もラテン語でハエという意味である。([[#その他]]を参照)
ベニテングタケは主に、高原の[[シラカバ]]や[[マツ]]林に生育し、[[針葉樹]]と[[広葉樹]]の双方に[[外菌根]]を形成する[[菌根菌]]である。おもに北半球の温暖地域から寒冷地域でみられる。比較的暖かい気候の[[ヒンドゥークシュ山脈]]や、[[地中海]]、[[中央アメリカ]]にも生息する。


== 分布 ==
近年の研究では、[[シベリア]]、[[ベーリング]]地域を起源とし、そこからアジア、ヨーロッパ、北アメリカへ広がったと考えられている<ref>{{cite journal |author=Geml J, Laursen GA, O'neill K, Nusbaum HC, Taylor DL |title=Beringian origins and cryptic speciation events in the fly agaric (Amanita muscaria) |journal=Mol. Ecol. |volume=15 |issue=1 |pages=225–39 |year=2006 |month=January |pmid=16367842 |doi=10.1111/j.1365-294X.2005.02799.x |url=https://s3.amazonaws.com/academia.edu.documents/38874488/Geml_Amanita_ME2006.pdf?AWSAccessKeyId=AKIAIWOWYYGZ2Y53UL3A&Expires=1513652538&Signature=1VkZjrMoOcvKos62CThzG%2BYrXpY%3D&response-content-disposition=inline%3B%20filename%3DBeringian_origins_and_cryptic_speciation.pdf}}</ref>。オーストラリアや南アフリカなどの南半球へも広く繁殖し、世界各地でみることのできるキノコとなった。
[[ユーラシア]]地域から広く知られているほか、世界各地でみられる<ref name="田中千尋2010"/>。[[日本]]([[中部地方]]以北)、極北の針葉樹林([[タイガ]])から[[ヨーロッパ]]の[[地中海沿岸]]地域、[[北米大陸]]北部から[[メキシコ]]まで、おおよそ[[北半球]][[温帯]]以北の全域に分布する{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}<ref name="田中千尋2010"/>。


近年の研究では、[[シベリア]]、[[ベーリング]]地域を起源とし、そこからアジア、ヨーロッパ、北アメリカへ広がったと考えられている<ref>{{cite journal |author=Geml J, Laursen GA, O'neill K, Nusbaum HC, Taylor DL |title=Beringian origins and cryptic speciation events in the fly agaric (Amanita muscaria) |journal=Mol. Ecol. |volume=15 |issue=1 |pages=225–39 |year=2006 |month=January |pmid=16367842 |doi=10.1111/j.1365-294X.2005.02799.x |url=https://s3.amazonaws.com/academia.edu.documents/38874488/Geml_Amanita_ME2006.pdf?AWSAccessKeyId=AKIAIWOWYYGZ2Y53UL3A&Expires=1513652538&Signature=1VkZjrMoOcvKos62CThzG%2BYrXpY%3D&response-content-disposition=inline%3B%20filename%3DBeringian_origins_and_cryptic_speciation.pdf}}</ref>。遺伝子研究により、ベニテングタケにはユーラシア集団、ユーラシア高山型集団、北アメリカ集団など複数のグループの存在が明らかとなっていて、各グループは互いに遺伝的交換が認められていないこと、極北地域で複数のグループが存在することから、極北地域から世界各地へ広がり、それぞれのグループごとに遺伝的な進化をしていったと考えられている<ref name="田中千尋2010"/>。
[[日本]]では夏から秋にかけて、白樺、ダケカンバ、コメツガ、トウヒなどに発生し、分布の中心は北国や標高の高い地域であり、南日本ではほとんど見かけない<ref name="名人">{{Cite book|和書|author=井口 潔|title=いきなりきのこ採り名人|publisher=小学館|date=2008|isbn=978-4-09-104278-1|page=30}}</ref>。


その一方で、[[オーストラリア]]や[[ニュージーランド]]などに[[帰化]]しているものも見られ{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}、もともと南半球に分布していなかったベニテングタケであったが、20世紀初頭から北半球の外来有用樹種を植林するために持ち込まれ、その際に[[菌根菌]]に感染した土によって侵入したと考えられている<ref name="田中千尋2010"/>。南アフリカなど[[南半球]]へも広く繁殖し、世界各地でみることのできるキノコとなった。ニュージーランドでは、原生林のナンキョクブナの樹下にも発生が認められるようになったため、ベニテングタケの拡大を外来種問題として捉えている<ref name="田中千尋2010"/>。
なお、人工的な栽培はできないとされる<ref name="デコーン紅">{{Cite book|和書|author=ジム・デコーン|translator=竹田純子、高城恭子|title=ドラッグ・シャーマニズム|publisher=|date=1996|isbn=4-7872-3127-8|page=241-248}}''Psychedelic Shamanism'', 1994.</ref>。

ユーラシア大陸産とアメリカ大陸産は変種扱いにするのが一般的。

共生する樹種が[[シラカンバ]]やモミ属のような寒冷地型の樹種であり、温暖な地域には少ないため、日本での分布は西日本や低地では見られず、高原や冷涼な地域に限定される<ref name="田中千尋2010"/>{{sfn|秋山弘之|2024|p=19}}。

== 生態 ==
[[菌根菌|外生菌根菌]]{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}(菌根性{{sfn|大作晃一|2015|p=38}})。夏から秋にかけて、[[ゴヨウマツ]]や[[ツガ]]などの針葉樹や[[シラカンバ]]など広葉樹いずれにも発生するが<ref name="田中千尋2010"/>、特に[[カバノキ属]]の林の樹下に多く発生する{{sfn|大作晃一|2015|p=38}}{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}。[[シラカンバ]]や[[シラビソ]]などと[[菌根]]をつくるため、平地や西日本では発生しない{{sfn|大作晃一|2015|p=38}}。他のテングタケ科同様に樹木の[[根]]と[[外生菌根]]を形成し栄養や[[抗生物質]]のやり取りなどを行う[[共生]]関係にあると考えられている。一般にカバノキ属樹木の根と共生しているといわれるが、寒冷地では[[モミ属]]や[[トウヒ属]]のようなマツ科針葉樹林でも見られる{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}。子実体は林床から発生し、日本では初夏から晩秋にかけてに多い。

日本での観察によれば[[ナメクジ]]、昆虫の他に[[リス]]や[[シカ]]が子実体を食べているという<ref>{{Cite journal|last=Suetsugu|first=Kenji|last2=Gomi|first2=Koichi|date=2021|title=Squirrel consuming “poisonous” mushrooms|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/fee.2443|journal=Frontiers in Ecology and the Environment|volume=19|issue=10|pages=556–556|language=en|doi=10.1002/fee.2443|issn=1540-9309}}</ref>{{sfn|秋山弘之|2024|p=19}}。

== 形態 ==
[[子実体]]はハラタケ型(agaricoid){{Efn|ハラタケ型の中では傘と柄の分離のしやすさなどの特徴から、ウラベニガサ型(pluteoid)に細分類される。}}で全体的に赤色で中型からやや大型{{Sfn|長沢栄史監修|2009|p=73}}。テングタケ属に特徴的なschizohymenial development(和名未定)という発生様式を採り、卵状の構造物内に子実体が形成され、成長と共にこれを破って出てくる。この発生様式の名残で根元にはツボを持つ。

傘は直径6 - 15[[センチメートル]] (cm) 程度で赤色、縁には条線はほとんど見られないが{{sfn|秋山弘之|2024|p=19}}、生長した傘の縁には条線が現れる{{Sfn|長沢栄史監修|2009|p=73}}{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}。傘ははじめ球形、のちに生長するとまんじゅう形から水平に開き{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}、老菌ではやや反り返る程度まで開く。表面は粘性があり、典型的個体では外皮膜(ツボ)の名残である白色の破片(通称:いぼ)を傘に多数まばらに付着させる{{Sfn|長沢栄史監修|2009|p=73}}{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}。これはテングタケ属のテングタケ節(Sect. ''Amanita'')ではよく見られる特徴で、卵状の構造物の菌糸の接着が弱いためにおこる。いぼは脱落しやすくしばしば完全に消失している。典型的のものは傘の色は赤色であるが、中にはかなり黄色を帯びているものもある{{Sfn|長沢栄史監修|2009|p=73}}。

ヒダは白色で密{{Sfn|長沢栄史監修|2009|p=73}}、柄に対しては離生する{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}。柄も白色で上部に膜質でリング状の白いツバを持つ{{Sfn|長沢栄史監修|2009|p=73}}{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}。柄の表面は小鱗片からささくれ状になり、基部は球根のように膨らんで、不明瞭な白色のツボの名残が環状に残る{{Sfn|長沢栄史監修|2009|p=73}}{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}。柄は中空{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}。肉は白色で、表皮下は淡黄色{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}。変色性は無く匂いや味も温和。[[胞子紋]](spore print)は白色。[[胞子]]は[[ヨウ素]]水溶液で呈色しない(非アミロイド性)

寒冷地や亜高山帯の[[マツ科]]針葉樹林に見られる個体は傘の色がかなり黄色味を帯びて、橙色のようになるものがあり別種の可能性も考えられている(後述)。アメリカには黄色い変種も知られている。


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Fungi, Stages of development of the sporocarp of the Amanita muscaria.jpg|成長段階に並べたもの。傘は水平まで開く
Amanita muscaria 001.JPG|本種・ベニテングタケ ''Amanita muscaria''
'Fly Agaric', Amanita muscaria var. muscaria (9855832663).jpg|傘の拡大部。条線が出るのが分かる。
2015-08-19 Amanita hemibapha (Berk. & Broome) Sacc 591749.jpg|食用の[[タマゴタケ]] ''Amanita hemibapha''
Amanita.muscaria2.-.lindsey.jpg|ひだは白色。ツバとツボを持つ。
Amanita muscaria3.jpg|いぼが大半脱落した幼菌
Amanita muscaria section 1 WF orig.jpg|断面図。柄は中実、内皮膜が剥がれておらずまだツバになっていない
Amanita Muscaria Spore Print (11378036753).jpg|胞子紋は白色
Amanita muscaria spores.jpg|胞子
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=== 食味 ===
== 毒性 ==
一般的には毒キノコとして扱われる。主要毒成分は[[イボテン酸]]と[[ムッシモール]]、また微量ながら猛毒の[[ムスカリン]]、溶血性[[タンパク質]]を含む{{sfn|大作晃一|2005|p=93}}{{Sfn|長沢栄史監修|2009|p=73}}。ムスカリン(muscarine)という名前は本種の種小名 ''muscaria'' に由来する。毒性の強いテングタケ属のキノコにしばしば含まれる[[アマトキシン]]類(アマニタトキシンと呼ばれることもある)については微量ながら含む説{{Sfn|長沢栄史監修|2009|p=73}}{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}と含まれない説があるが、いずれにしても致命的なほどは含まれていないとされる。
;毒について
:本種を乾燥させると、[[イボテン酸]]がより安定した成分である[[ムッシモール]]に変化する。また、微量ながら[[ドクツルタケ]]のような猛毒テングタケ類の主な毒成分である[[α-アマニチン|アマトキシン]]類も含むため、長期間食べ続けると肝臓などが冒されるという。
:毒成分は水溶性であるため、薄く刻んで、何度か水にさらしたり<ref name="RubArora">{{cite journal|doi=10.1007/s12231-008-9040-9|author=Rubel, W.|author2=Arora, D.|year=2008|title=A Study of Cultural Bias in Field Guide Determinations of Mushroom Edibility Using the Iconic Mushroom, ''Amanita Muscaria,''as an Example|journal=Economic Botany|volume=62|issue=3|pages=223–43 | url = http://www.davidarora.com/uploads/muscaria_revised.pdf | format=PDF}}</ref>、何度か茹でたりすると無毒化される<ref>[https://jp.rbth.com/arts/cuisine/2017/08/29/830226 ロシアで食されるやばいキノコ6種](2017年8月29日 著:アレクサンドラ・クラフチェンコ、ロシアビヨンド)</ref>。
;食用例
:本種の毒成分であるイボテン酸は強い[[旨味]]成分でもあり{{Efn|[[うま味調味料]]などに使用される[[グルタミン酸ナトリウム]]の約16倍。}}、少量摂取では重篤な中毒症状に至らないことから、長野県の一部地域では塩漬けにして摂食されている場合がある<ref>『科学大事典―MEGA』 講談社{{要ページ番号|date=2020-03-31}}。</ref>。長野・小諸地方では、乾燥して蓄え、煮物やうどんのだしとしても利用した{{sfn|小山昇平|1999|p=52}}。煮こぼして塩漬けで2、3か月保存すれば毒が緩和されるので、食べ物の少ない冬に備えた{{sfn|小山昇平|1999|p=32}}。傘よりも柄の方が毒が少なく、よく煮こぼして水に晒して大根おろしを添えれば、味も歯切れもよい{{sfn|小山昇平|1999|p=32}}。
:あまり広まらなかったが<ref>Viess, Debbie. [http://www.mushroomthejournal.com/amanita-muscaria-edibility-1/ "Further Reflections on Amanita muscaria as an Edible Species"] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20151006035411/http://www.mushroomthejournal.com/amanita-muscaria-edibility-1/ |date=2015-10-06 }}, ''Mushroom: The Journal of Wild Mushrooming'', Idaho, Fall 2011 - Winter 2012. Retrieved on 26 April 2015.</ref>、早くとも19世紀以降のヨーロッパ地域、特にシベリアでは入植したロシア人が何度も茹でて無毒化し、食していた。1823年には、ロシアの博物学者[[ゲオルク・ハインリッヒ・フォン・ラングスドルフ]]が無毒化の方法を記している。19世紀後期の北米では、アフリカ系アメリカ人のキノコ販売者が、湯がいて酢につけてステーキソースとしていた。


イボテン酸は神経細胞のグルタミン酸受容体、ムッシモールは[[γ-アミノ酸]] (GABA) 受容体に不可逆的に結合し、神経細胞の持続的興奮や抑制、最後には壊死などを引き起こす<ref name="田中千尋2010"/>。特にグルタミン酸が神経伝達物質として重要な役割を持つ昆虫類には致死作用率が高い<ref name="田中千尋2010"/>。
== 毒および薬理 ==
毒性はさほど強くない(しかし[[テングタケ属|近縁種]]には猛毒キノコがある)<ref>{{Cite book|和書|author=根田仁|title=きのこミュージアム―森と菌との関係から文化史・食毒まで|publisher=八坂書房|date=2014|isbn=978-4-89694-179-1|page=279}}</ref>。ベニテングタケの主な[[毒]]成分は[[イボテン酸]]、[[ムッシモール]]、[[ムスカリン]]など。食べてから20-30分で[[瞳孔]]は開いて眩しくなり、弱い酒酔い状態となるが、それ以上の向精神作用、例えば虹を見るような幻覚を起こしたといった例はない。食べすぎると腹痛、[[嘔吐]]、[[下痢]]を起こす{{sfn|小山昇平|1999|p=30}}。どちらかというと、うま味成分でもあるイボテン酸の味に魅せられ、他のキノコは要らないといったキノコ採りも増えている{{sfn|小山昇平|1999|p=50}}。少しかじる程度であれば、のぼせて腹痛がするくらいの症状であるが、焼いただけの400グラム程度であれば、瞳孔が拡大して自転車も運転できないようになり、嘔吐や下痢の症状が発生する{{sfn|小山昇平|1999|pp=57-58}}。より重い中毒であれば、混乱、[[幻覚]]といった[[せん妄]]症状や[[昏睡]]がおきる。症状は2日以上続く場合もあるが、たいていは12 - 24時間程度でおさまる。


その他の化合物成分に、[[ハエ]]誘引作用がある1,3-ジオレイン、バナジウム錯体のアマバジン、[[ヒ素]]濃縮能によるアルセノコリンのほか、ジヒドロキシグルタミン酸、ムスカフラビン、ムスカアウリン類、色素成分のベタラミン酸類を含んでいる{{Sfn|長沢栄史監修|2009|p=73}}。
ベニテングタケの中毒症状による死亡例は非常にまれで、北米では2件報告されているのみである<ref>Cagliari GE. (1897). Mushroom Poisoning. ''Medical Record'' '''52''': 298.</ref>。ヨーロッパでのベニテングの致死量は、生の状態で5キログラムと推定されているが、この量は食べられる量ではない<ref name="デコーン紅"/>。とはいえ、8月に収穫したものは効力が強く、9月に収穫したものは吐き気のような体への影響が強いなどとも記され、環境や個体差の影響も大きい<ref name="デコーン紅"/>。
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Ibotenic acid2.png|イボテン酸構造式
Muscimol chemical structure.svg|ムッシモール構造式
Muscarine.svg|ムスカリン構造式
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=== 中毒症状 ===
本種は、[[マジックマッシュルーム]]とは異なり、遊びや気晴らしに摂取されることは少ない。現在のところ、[[国際連合]]の条約で未規制のため、ほとんどの国でその所持や使用は規制されていない。
胃腸系([[腹痛]]・[[嘔吐]]・[[下痢]]など)と神経系([[発汗]]・[[心拍数]]増加・[[精神]]錯乱・[[幻覚]]・[[けいれん]]など)の複雑な症状が現れる{{Sfn|長沢栄史監修|2009|p=73}}{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}。食後20 - 30分で[[瞳孔]]は開いて眩しくなり、酒酔い状態となる。食べすぎると腹痛、嘔吐、下痢を起こす{{sfn|小山昇平|1999|p=30}}。重症になると、[[呼吸困難]]、[[昏睡]]となる{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}。


死亡例は非常にまれで、北米では2件報告されているのみである<ref>Cagliari GE. (1897). Mushroom Poisoning. ''Medical Record'' '''52''': 298.</ref>。ヨーロッパでのベニテングの致死量は、生の状態で5キログラムと推定されているが、この量は食べられる量ではない<ref name="デコーン紅">{{Cite book|和書|author=ジム・デコーン|translator=竹田純子、高城恭子|title=ドラッグ・シャーマニズム|publisher=|date=1996|isbn=4-7872-3127-8|page=241-248}}''Psychedelic Shamanism'', 1994.</ref>。とはいえ、8月に収穫したものは効力が強く、9月に収穫したものは吐き気のような体への影響が強いなどとも記され、環境や個体差の影響も大きい<ref name="デコーン紅"/>。
規制されていないことから興味を持つ者も多く、その体験談は様々に寄せられている<ref name="デコーン紅"/>。30分か1時間すると独特の吐き気やムカつきと眠気を感じ、もう少し経った後に酩酊感がくるとされる<ref name="デコーン紅"/>。後述するキノコの研究者のワッソンは、1965年と1966年にベニテングタケを日本で試したが、その毒性の効果に失望したと記している。吐き気を感じ、そのうち何人かは吐き、眠くなって眠り、そして一度だけうまくいったときには、[[今関六也]]が高揚し、アルコールによる多弁ともまた異なった感じで喋り続けた、とある<ref name="神々">{{Cite book|和書|author=テレンス・マッケナ|translator=小山田義文、中村功|title=神々の糧(ドラッグ)―太古の知恵の木を求めて|publisher=第三書館;|date=2003|isbn=4-8074-0324-9|page=134-140}} ''Food of Gods'', 1992</ref>。[[テレンス・マッケナ]]によれば、コロラド州で採取した生のベニテングダケでは、よだれが垂れ、腹痛になっただけであり、カルフォルニア州北部で、採取した乾燥ベニテングタケ5グラムを摂取したが、吐き気を感じ、よだれが垂れ、目がかすみ、目を閉じると見えるものがあったが、たいして面白いものでもなかったとある<ref name="神々"/>。


キノコの研究者のワッソンは、1965年と1966年にベニテングタケを日本で試したが、その毒性の効果に失望したと記している。吐き気を感じ、そのうち何人かは吐き、眠くなって眠り、そして一度だけうまくいったときには、[[今関六也]]が高揚し、アルコールによる多弁ともまた異なった感じで喋り続けた、とある<ref name="神々">{{Cite book|和書|author=テレンス・マッケナ|translator=小山田義文、中村功|title=神々の糧(ドラッグ)―太古の知恵の木を求めて|publisher=第三書館;|date=2003|isbn=4-8074-0324-9|page=134-140}} ''Food of Gods'', 1992</ref>。[[テレンス・マッケナ]]によれば、コロラド州で採取した生のベニテングタケでは、よだれが垂れ、腹痛になっただけであり、カルフォルニア州北部で、採取した乾燥ベニテングタケ5グラムを摂取したが、吐き気を感じ、よだれが垂れ、目がかすみ、目を閉じると見えるものがあったが、たいして面白いものでもなかったとある<ref name="神々"/>。
殺[[ハエ]]作用を持つことから、洋の東西を問わずハエ取りに用いられてきた<ref name="ヤマケイ15">小宮山勝司『ヤマケイポケットガイド15 きのこ』</ref>フランスではハエ殺し (une amanite tue-mouche) と呼ばれ、キノコ片を用いたし、日本でも東北や長野<ref name="名優">{{Cite book|和書|author=ロラン・サバティエ|translator=[[本郷次雄]]監修、永井真貴子|title=きのこの名優たち|publisher=山と溪谷社|date=1998|isbn=4-635-58804-1|page=24}} ''La Gratin Des CHAMPIGNONS'', 1986.</ref>でアカハエトリとも呼ばれ信州では米とこねて板に張り付けてハエを捕獲した<ref name="人間">{{Cite book|和書|author=ニコラス・P.マネー|translator=小川真|title=キノコと人間 医薬・幻覚・毒キノコ|publisher=築地書館|date=2016|isbn=978-4-8067-1522-1|page=172-173}} ''Mushroom'', 2011.</ref>。


[[江戸時代]]の[[1830年]]から1844年にかけて96巻が刊行された『本草図譜』の58巻には、「こうたけ」と記されたベニテングタケの絵が描かれ、食べると嘔吐すると書かれている<ref>{{Cite book|和書|author=岩崎常正|chapter=こうたけ|title=本草図譜 第8冊 巻58菜部芝〔ジ〕類4|url=http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287170/11
[[江戸時代]]の[[1830年]]から1844年にかけて96巻が刊行された『[[本草図譜]]』の58巻には、「こうたけ」と記されたベニテングタケの絵が描かれ、食べると嘔吐すると書かれている<ref>{{Cite book|和書|author=岩崎常正|chapter=こうたけ|title=本草図譜 第8冊 巻58菜部芝〔ジ〕類4|url=https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287170/11
|publisher=|date=200|}}</ref><ref name="マジ">{{Cite book|和書|author=飯沢耕太郎 |title=マジカル・ミステリアス・マッシュルーム・ツアー |publisher=東京キララ社・河出書房新社|date=2010|isbn=978-4-309-90879-3 |page=48-49、94-95頁}}</ref>。
|publisher=|date=200|}}</ref><ref name="マジ">{{Cite book|和書|author=飯沢耕太郎 |title=マジカル・ミステリアス・マッシュルーム・ツアー |publisher=東京キララ社・河出書房新社|date=2010|isbn=978-4-309-90879-3 |page=48-49、94-95頁}}</ref>。


=== 薬理作===
== 用 ==
=== 食文化 ===
本種には複数の生理活性物質がある。1869年に発見された[[ムスカリン]]が、中毒症状をおこす原因であると長い間信じられていたが、他の毒キノコと比較すると、ベニテングタケに含まれるムスカリンはごくわずかである。主要な中毒物質は、[[ムッシモール]]と[[イボテン酸]]である。20世紀半ば、日本、イギリス、スイスで同時に発見されたこの2種の物質が、中毒症状をおこす成分だと判明した。ムッシモールは抑制系[[神経伝達物質]][[γ-アミノ酪酸|GABA]]の[[アゴニスト]]活性が、イボテン酸は、神経の働きを司る[[NMDA型グルタミン酸受容体]]のアゴニスト活性がある。
イボテン酸は強いうまみ成分であり、本種が毒キノコであることを知りつつも適量を食べる人もいる。また、本種が分布するような寒冷地では毒抜きを行って食べる文化を持っていることがある{{sfn|大作晃一|2015|p=38}}。[[長野県]]の[[小諸市|小諸]]地方では、乾燥して蓄え、煮物やうどんのだしとしても利用したといい{{sfn|小山昇平|1999|p=52}}、煮こぼして塩漬けで2、3か月保存すれば毒が緩和されるので、食べ物の少ない冬に備えた{{sfn|小山昇平|1999|p=32}}。[[ロシア]]においても[[シベリア]]地域などに本種を食べる文化があるという。自然写真家の大作晃一 (2015) によれば、若気の至りで食べてみたことがあり、うまみが強く、[[タマゴタケ]]など比べものにならないほどおいしかったと感想を述べている{{sfn|大作晃一|2015|p=38}}。ただし、[[ドクツルタケ]]などに含まれる[[アマニタトキシン]]という内臓の細胞を破壊する成分が微量含まれるため、食べるのは厳禁とも述べている{{sfn|大作晃一|2015|p=38}}。


=== 薬用 ===
== シャーマニズムとの関連 ==
本種を摂食した際の中毒症状として、幻覚作用を起われているが、上述ように実際効果は深酒酩酊程度あり、幻覚というほどの状態には至ら。[[東シベリア]]の[[カムチャッカ]]では酩酊薬として使用されてきた歴史があったり、[[西シベリア]]では[[シャーマニズム|シャーマン]]が[[変性意識状態]]になるための手段として使われてきたように、ベニテングタケはシベリアの文化や宗教において重要な役割を果たしてきた。
ベニテングタケには幻覚作用のある物質が含まれているため、儀式的なことで使われている事例知られ[[シベリア]]部族や[[フィンランド]]、[[スウェーデン]]北部サーミ人[[シャーマニズム|シャーマン]]、幻覚体験を利用したさまざま儀式が発達した<ref name="ドローリ2019">{{Cite book|和書|author =ジョナサン・ドローリ|title =世界の樹木をめぐる80の物語|date=2019-12-01|publisher =[[柏書房]]|translator=三枝小夜子|isbn=978-4-7601-5190-5|page=21}}</ref>。[[東シベリア]]の[[カムチャッカ]]では酩酊薬として使用されてきた歴史があったり、[[西シベリア]]ではシャーマンが[[変性意識状態]]になるための手段として使われてきたように、ベニテングタケはシベリアの文化や宗教において重要な役割を果たしてきた。ベニテングタケの向精神作用を持つ成分は体内では完全に分解されずに尿中に排泄されるため、先にベニテングタケを摂取した人の尿を飲んで酩酊し、これにより社会的な絆を形成する風習が生まれたと言われている<ref name="ドローリ2019"/>


また、趣味で菌類の研究をしていたアメリカの銀行家、[[ロバート・ゴードン・ワッソン|ゴードン・ワッソン]]は[[古代インド]]の聖典『[[リグ・ヴェーダ]]』に登場する聖なる飲料「[[ソーマ]]」の正体が、ベニテングタケではないかという説を発表した<ref>G.C.エインズワース、小川眞訳 『キノコ・カビの研究史』p202 京都大学学術出版会、2010年10月20日発行、ISBN 978-4-87698-935-5</ref>。著書『聖なるキノコ―ソーマ』である<ref name="神々"/>。この説には、[[人類学者]]が反論を唱えた{{Efn|1971年にケンブリッジ大学のジョン・ブラフより反論が提出されている<ref>{{Cite journal|author=John Brough|date=1971|title=Soma and "Amanita muscaria"|journal=Bulletin of the School of Oriental and African Studies, University of London|volume=34|issue=2|pages=331-362 |url=https://www.jstor.org/stable/612695}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author1=山本昌木|date=1985|title=古代インドにおける植物病害と菌類について|journal=日本植物病理学会報|volume=51|issue=3|pages=251 |url=https://doi.org/10.3186/jjphytopath.51.249}}</ref>。}}が、1968年にワッソンの著書が出版された当時は広く信じられた。ワッソン自身もベニテングタケの効果に失望していたが、なぜか最後の著書『ペルセポネの探求』(未訳)ではベニテングタケを褒めたたえている<ref name="神々" />。
また、趣味で菌類の研究をしていたアメリカの銀行家、[[ロバート・ゴードン・ワッソン|ゴードン・ワッソン]]は[[古代インド]]の聖典『[[リグ・ヴェーダ]]』に登場する聖なる飲料「[[ソーマ]]」の正体が、ベニテングタケではないかという説を発表した<ref>G.C.エインズワース、小川眞訳 『キノコ・カビの研究史』p202 京都大学学術出版会、2010年10月20日発行、ISBN 978-4-87698-935-5</ref>。著書『聖なるキノコ―ソーマ』である<ref name="神々"/>。この説には、[[人類学者]]が反論を唱えた{{Efn|1971年にケンブリッジ大学のジョン・ブラフより反論が提出されている<ref>{{Cite journal|author=John Brough|date=1971|title=Soma and "Amanita muscaria"|journal=Bulletin of the School of Oriental and African Studies, University of London|volume=34|issue=2|pages=331-362 |url=https://www.jstor.org/stable/612695}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author1=山本昌木|date=1985|title=古代インドにおける植物病害と菌類について|journal=日本植物病理学会報|volume=51|issue=3|pages=251 |url=https://doi.org/10.3186/jjphytopath.51.249}}</ref>。}}が、1968年にワッソンの著書が出版された当時は広く信じられた。ワッソン自身もベニテングタケの効果に失望していたが、なぜか最後の著書『ペルセポネの探求』(未訳)ではベニテングタケを褒めたたえている<ref name="神々" />。


=== 象徴 ===
13世紀のキリスト教では、宗教的シンボルとなっており、フランスのプランクロール大修道院の礼拝堂には、知恵の木になっているベニテングタケが描かれている<ref name="人間"/>。
13世紀のキリスト教では、宗教的シンボルとなっており、フランスの(Plaincourault Chapel、{{仮リンク|プランクロー礼拝堂|en|Plaincourault Chapel}})には、知恵の木になっているベニテングタケが描かれている<ref name="人間"/>。[[ルネサンス|ルネッサンス期]]から、絵画の中でもしばしば描かれている。また、幸運のシンボルとして、1900年ごろから[[クリスマスカード]]のイラストにしばしば採用された。[[オリヴァー・ゴールドスミス]]の『世界市民』には、幻覚剤としての使用に言及した箇所がある。ベニテングタケを食べた際、物体の大きさに対する知覚が変化したという記録を残したモルデカイ・キュービット・クックの書物は、1865年の『[[不思議の国のアリス]]』のモデルになったと考えられている<ref>{{cite book |title=Shroom: A Cultural history of the magic mushroom |last=Letcher |first=Andy |year=2006 |publisher=Faber and Faber |location=London |isbn=0-571-22770-8}}</ref>


ヨーロッパでは、幸福を呼ぶキノコとして人気がある。装飾品や玩具のモチーフによく使われている{{sfn|小山昇平|1999|p=52}}。白い水玉の赤キノコの配色は、絵本やアニメ映画、ビデオゲームなどにしばしば登場することで、なじみのあるものとなっている<ref name="田中千尋2010"/>。
== 大衆文化に登場するベニテングタケ ==
{{Vertical_images_list
|1=Stamps of Germany (DDR) 1974, MiNr 1936.jpg
|2=
|3=Stamp of Azerbaijan 338.jpg
|4=切手のモチーフにも使われている。上、[[東ドイツ]]、下、[[アゼルバイジャン]]。ポーランド、ルーマニア、キューバでも切手になったことがある<ref name="マジ"/>。
}}
ヨーロッパでは、幸福を呼ぶキノコとして人気がある。装飾品や玩具のモチーフによく使われている{{sfn|小山昇平|1999|p=52}}。白い水玉の赤キノコの配色は、絵本やアニメ映画、ビデオゲームなどにしばしば登場することで、なじみのあるものとなっている。


特に有名なものに、テレビゲームソフト『[[スーパーマリオブラザーズ]]』におけるパワーアップキノのデザインや<ref>{{cite journal |author=Li C, Oberlies NH |year=2005 |month=December |title=The most widely recognized mushroom: chemistry of the genus ''Amanita'' |journal=Life Sciences |volume=78 |issue=5 |pages=532-38 |pmid=16203016}}</ref>、1940年のディズニー映画『[[ファンタジア (映画)|ファンタジア]]』がある<ref>{{cite book | author = Ramsbottom J | year = 1953 | title = Mushrooms & Toadstools | publisher = Collins | isbn = 1870630092}}</ref>。
特に有名なものに、テレビゲームソフト『[[スーパーマリオシリーズ]]』における[[キノピオ]]のデザインや<ref>{{cite journal |author=Li C, Oberlies NH |year=2005 |month=December |title=The most widely recognized mushroom: chemistry of the genus ''Amanita'' |journal=Life Sciences |volume=78 |issue=5 |pages=532-38 |pmid=16203016}}</ref>、1940年のディズニー映画『[[ファンタジア (映画)|ファンタジア]]』がある<ref>{{cite book | author = Ramsbottom J | year = 1953 | title = Mushrooms & Toadstools | publisher = Collins | isbn = 1870630092}}</ref>。


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[[ルネサンス|ルネッサンス期]]から、絵画の中でもしばしば描かれている。また、幸運のシンボルとして、1900年ごろから[[クリスマスカード]]のイラストにしばしば採用された。[[オリヴァー・ゴールドスミス]]の『世界市民』には、幻覚剤としての使用に言及した箇所がある。ベニテングタケを食べた際、物体の大きさに対する知覚が変化したという記録を残したモルデカイ・キュービット・クックの書物は、1865年の『[[不思議の国のアリス]]』のモデルになったと考えられている<ref>{{cite book |title=Shroom: A Cultural history of the magic mushroom |last=Letcher |first=Andy |year=2006 |publisher=Faber and Faber |location=London |isbn=0-571-22770-8}}</ref>。
Plaincourault fresco, Garden of Eden.jpg|礼拝堂の壁に描かれる本種と思われるキノコ([[フランス]])
A detail from part of an early 4th century AD mosaic depicting a basket of mushrooms belonging to the floor of the Theodorian transversal hall, Basilica di Santa Maria Assunta, Aquileia, Italy (21409510664).jpg|[[古代ローマ]]の作品で本種と思われる赤いキノコ([[イタリア]])
Ruebezahl (Moritz von Schwind).jpg|[[モーリッツ・フォン・シュヴィント]]作(1851年)
Children-play-on-alice-in-wonderland-sculpture-central-park-new-york-3.jpg|不思議の国のアリスの登場人物とキノコの銅像([[ニューヨーク]])
Stamps of Azerbaijan, 1995-338.jpg|郵便切手([[アゼルバイジャン]])
</gallery>

=== その他 ===
殺[[ハエ]]作用を持つことから、各地でハエ捕りに用いられてきた<ref name="田中千尋2010"/><ref name="ヤマケイ15">小宮山勝司『ヤマケイポケットガイド15 きのこ』</ref>。ベニテングタケの煮汁を置いておくと、ハエが寄ってきて、キノコの毒成分で死んでしまう{{sfn|大作晃一|2015|p=38}}。そのため日本では「ハエトリタケ」ともよばれる{{sfn|大作晃一|2015|p=38}}。フランスではハエ殺し (une amanite tue-mouche) と呼ばれ、キノコ片を用いたし、日本でも東北や長野<ref name="名優">{{Cite book|和書|author=ロラン・サバティエ|translator=[[本郷次雄]]監修、永井真貴子|title=きのこの名優たち|publisher=山と溪谷社|date=1998|isbn=4-635-58804-1|page=24}} ''La Gratin Des CHAMPIGNONS'', 1986.</ref>でアカハエトリとも呼ばれ信州では米とこねて板に張り付けてハエを捕獲した<ref name="人間">{{Cite book|和書|author=ニコラス・P.マネー|translator=小川真|title=キノコと人間 医薬・幻覚・毒キノコ|publisher=築地書館|date=2016|isbn=978-4-8067-1522-1|page=172-173}} ''Mushroom'', 2011.</ref>。しかし、世界の中にはベニテングタケの毒成分に適応し、本菌を食べて育つキノコバエもいる<ref name="田中千尋2010"/>。

== 類似種 ==
ベニテングタケ内で幾つかの亜種変種が知られるほか、近縁のテングタケ属テングタケ節のキノコには色違い程度に形態がよく似た種類が多い。ベニテングタケ(亜高山型)は亜高山帯などの寒冷なマツ科針葉樹林に発生する黄色味の強い個体である。傘は橙色になる。

[[ヒメベニテングタケ]](''Amanita rubrovolvata'')は[[ミズナラ]]林など[[ブナ科]]の樹林に発生し{{sfn|吹春俊光|2010|p=117}}、赤色系の傘に条線、柄は黄色である{{sfn|秋山弘之|2024|p=19}}。柄の基部のツボは赤色みを帯びて、起源が同じいぼも同色{{sfn|吹春俊光|2010|p=117}}。子実体はベニテングタケと比べると小さく{{sfn|吹春俊光|2010|p=117}}、最大でも傘の直径は5&nbsp;cm程度にしかならない。

[[ウスキテングタケ]]類(アジア種''Amanita orientogemmata''、欧米種''Amanita gemmata'')は広葉樹林、とくに[[コナラ]]・[[アカマツ]]林に多い{{sfn|吹春俊光|2010|p=116}}。傘の色が淡黄色でいぼが白色で縁には条線ある{{sfn|吹春俊光|2010|p=117}}。[[テングタケ]](''Amanita pantherina'')は広葉樹林に発生し、傘の色が黒色で、いぼが白色で縁には条線ある{{sfn|吹春俊光|2010|p=121}}。[[イボテングタケ]](''Amanita ibotengutake'')はマツ林に多く発生し、傘の色が灰褐色で縁には溝線があり、いぼは薄褐色{{sfn|吹春俊光|2010|p=120}}。

[[タマゴタケ]]類は赤い傘と縁には条線を持つが、日本で一般に食用にされる種類に関しては柄およびひだの色が黄色である{{sfn|大作晃一|2005|p=93}}{{sfn|吹春俊光|2010|p=117}}。傘表面にいぼを持たないのも特徴の一つであるが、テングタケ類のいぼは非常に脱落しやすく完全になくなっている場合がしばしばあり、タマゴタケと間違えやすいので{{sfn|大作晃一|2005|p=93}}{{Sfn|長沢栄史監修|2009|p=73}}、ひだの色などほかの特徴で判断するのが無難。テングタケ属タマゴタケ節(Section ''Caesareae'')に属しツバ、ツボの形状も異なる。テングタケ属の中でも猛毒種が多いタマゴテングタケ節(Section ''Phalloideae''[[ドクツルタケ]]や[[タマゴテングタケ]]などが属する)では赤い傘を持つ種は知られていないが、黄色系や白色の傘を持つものは知られており注意が必要。

[[ベニタケ科]]のきのこの中には赤い傘を持ち、柄やひだが白いものもあるが、ツバやツボを持たない。ベニタケ目に属しハラタケ目のベニテングタケとは縁遠いグループである。生態面では菌根性であり、ベニテングタケともしばしば混生する種類もある。

<gallery>
Amanita muscaria var. formosa sensu Thiers.jpg|黄色変種 ''A. muscaria'' var. ''formosa''
Amanita rubrovolvata 97093.jpg|参考:ヒメベニテングタケ
Amanita gemmata von hms.jpg|参考:ウスキテングタケ欧米種(''A. gemmata'')
Amanita pantherina 20.jpg|参考:テングタケ
AMANITA CAESAREA (Scorp. Fr.) Quelet (5981754604).jpg|参考:セイヨウタマゴタケ。ひだが黄色い
Russula emetica 117475.jpg|参考:ベニタケ科の赤いキノコ。ツバとツボは無い
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== 脚注 ==
== 脚注 ==
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{{Notelist}}
{{Notelist}}
=== 出典 ===
=== 出典 ===
{{Reflist}}
{{Reflist|refs=
<ref name="田中千尋2010">田中千尋「南半球に進出したベニテングタケ」(京都大学農学研究科)、{{Harvnb|吹春俊光|2010|pp=118&ndash;119}}(コラム欄)</ref>
}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|author=秋山弘之|title=知りたい会いたい 色と形ですぐわかる 身近なキノコ図鑑|publisher=[[家の光協会]]|date=2024-09-20|isbn=978-4-259-56812-2|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=大作晃一|title=山菜&きのこ採り入門 : 見分け方とおいしく食べるコツを解説|publisher=[[山と渓谷社]]|series=Outdoor Books 5|date=2005-09-20|isbn=4-635-00755-3|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=大作晃一|title=きのこの呼び名事典|publisher=[[世界文化社]]|date=2015-09-10|isbn=978-4-418-15413-5|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=小山昇平|title=毒きのこ・絶品きのこ狂騒記―山の中の食欲・物欲・独占欲バトル|publisher=講談社|date=1999|isbn=4-06-209840-7|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=小山昇平|title=毒きのこ・絶品きのこ狂騒記―山の中の食欲・物欲・独占欲バトル|publisher=講談社|date=1999|isbn=4-06-209840-7|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=長沢栄史監修 Gakken編|title=日本の毒きのこ|series=増補改訂フィールドベスト図鑑 13|publisher=[[Gakken]]|date=2009-09-28|isbn=978-4-05-404263-6|ref={{SfnRef|長沢栄史監修|2009}} }}
* {{Cite book|和書|author=吹春俊光|others=大作晃一(写真)|title=おいしいきのこ 毒きのこ|publisher=[[主婦の友社]]|date=2010-09-30|isbn=978-4-07-273560-2|ref=harv}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[タマゴタケ]] - 類似する食用キノコで、ヒダが黄色で柄にだんだら模様がある
{{commons|Amanita muscaria}}
* [[ウスキテングタケ]] - 類似する淡黄色の毒キノコ
* [[ハエトリシメジ]]
* [[ヒメベニテングタケ]] - 類似する毒キノコで、ベニテングタケより小型で、柄の基部のツボに赤みがある
* [[テングタケ]]
* [[ムスカゾン]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
{{commons|Amanita muscaria}}
* [http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000142728.html 自然毒のリスクプロファイル:ベニテングタケ(Amanita muscarina) テングタケ科テングタケ属](厚生労働省)
* [http://www.amanitaceae.org/ Amanitaceae.org] (英語) テングタケ科の研究者達によるサイトで各種の記載論文へのリンクや新種の論文なども多く出している。
* [http://mycoscouter.coolblog.jp/daikinrin/%E3%83%99%E3%83%8B%E3%83%86%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%BF%E3%82%B1-amanita-muscaria/ ベニテングタケ Amanita muscaria](大菌輪)
* [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000142728.html 自然毒のリスクプロファイル:ベニテングタケ(Amanita muscarina) テングタケ科テングタケ属] - 厚生労働省
* [http://mycoscouter.coolblog.jp/daikinrin/%E3%83%99%E3%83%8B%E3%83%86%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%BF%E3%82%B1-amanita-muscaria/ ベニテングタケ Amanita muscaria] - 大菌輪


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[[Category:日本の毒キノコ]]
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2024年11月13日 (水) 04:17時点における最新版

ベニテングタケ
分類
: 菌界 Fungus
: 担子菌門 Basidiomycota
: 菌じん綱 Hymenomycetes
: ハラタケ目 Agaricales
: テングタケ科 Amanitaceae
: テングタケ属 Amanita
: ベニテングタケ A.muscaria
学名
Amanita muscaria (L. : Fr.) Hook.
和名
ベニテングタケ
英名
Fly Agaric

ベニテングタケ(紅天狗茸[1]学名: Amanita muscaria)は、ハラタケ目テングタケ科テングタケ属の中型から大型のキノコ子実体の傘は赤色で柄が白く、傘に付着した白いイボが目立つ。多くの人にとって、毒キノコという言葉を連想させる代表的なキノコの一種でもある[2]。見た目の印象から派生するイメージから、童話やアニメ、ゲームなどでもなじみがあり、ヨーロッパでは幸福を呼ぶ象徴として人気がある。

名前

[編集]

和名の「ベニテングタケ」は赤いテングタケという形態および分類学的特徴に由来し、恐ろしい毒性から天狗を想像し、傘の赤い表面を天狗の顔に見立てたことから名付けられている[1]。別名でハエトリタケ、地方によりアカハエトリ(青森・秋田・岩手・長野県)、アシタカベニタケ、アネコダケ、ハエトリともよばれている[3][2]

英語名 fly agaric(ハエのハラタケ)やフランス語名 Amanite tue-mouches(ハエのキノコ)、ロシア語名 Мухомор красный(赤いハエのキノコ)など欧米でしばしば見られる名前は本種をハエ取りで使ったことに因む。種小名 muscaria もラテン語でハエという意味である。(#その他を参照)

分布

[編集]

ユーラシア地域から広く知られているほか、世界各地でみられる[4]日本中部地方以北)、極北の針葉樹林(タイガ)からヨーロッパ地中海沿岸地域、北米大陸北部からメキシコまで、おおよそ北半球温帯以北の全域に分布する[5][4]

近年の研究では、シベリアベーリング地域を起源とし、そこからアジア、ヨーロッパ、北アメリカへ広がったと考えられている[6]。遺伝子研究により、ベニテングタケにはユーラシア集団、ユーラシア高山型集団、北アメリカ集団など複数のグループの存在が明らかとなっていて、各グループは互いに遺伝的交換が認められていないこと、極北地域で複数のグループが存在することから、極北地域から世界各地へ広がり、それぞれのグループごとに遺伝的な進化をしていったと考えられている[4]

その一方で、オーストラリアニュージーランドなどに帰化しているものも見られ[5]、もともと南半球に分布していなかったベニテングタケであったが、20世紀初頭から北半球の外来有用樹種を植林するために持ち込まれ、その際に菌根菌に感染した土によって侵入したと考えられている[4]。南アフリカなど南半球へも広く繁殖し、世界各地でみることのできるキノコとなった。ニュージーランドでは、原生林のナンキョクブナの樹下にも発生が認められるようになったため、ベニテングタケの拡大を外来種問題として捉えている[4]

ユーラシア大陸産とアメリカ大陸産は変種扱いにするのが一般的。

共生する樹種がシラカンバやモミ属のような寒冷地型の樹種であり、温暖な地域には少ないため、日本での分布は西日本や低地では見られず、高原や冷涼な地域に限定される[4][7]

生態

[編集]

外生菌根菌[5](菌根性[1])。夏から秋にかけて、ゴヨウマツツガなどの針葉樹やシラカンバなど広葉樹いずれにも発生するが[4]、特にカバノキ属の林の樹下に多く発生する[1][5]シラカンバシラビソなどと菌根をつくるため、平地や西日本では発生しない[1]。他のテングタケ科同様に樹木の外生菌根を形成し栄養や抗生物質のやり取りなどを行う共生関係にあると考えられている。一般にカバノキ属樹木の根と共生しているといわれるが、寒冷地ではモミ属トウヒ属のようなマツ科針葉樹林でも見られる[5]。子実体は林床から発生し、日本では初夏から晩秋にかけてに多い。

日本での観察によればナメクジ、昆虫の他にリスシカが子実体を食べているという[8][7]

形態

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子実体はハラタケ型(agaricoid)[注釈 1]で全体的に赤色で中型からやや大型[2]。テングタケ属に特徴的なschizohymenial development(和名未定)という発生様式を採り、卵状の構造物内に子実体が形成され、成長と共にこれを破って出てくる。この発生様式の名残で根元にはツボを持つ。

傘は直径6 - 15センチメートル (cm) 程度で赤色、縁には条線はほとんど見られないが[7]、生長した傘の縁には条線が現れる[2][5]。傘ははじめ球形、のちに生長するとまんじゅう形から水平に開き[5]、老菌ではやや反り返る程度まで開く。表面は粘性があり、典型的個体では外皮膜(ツボ)の名残である白色の破片(通称:いぼ)を傘に多数まばらに付着させる[2][5]。これはテングタケ属のテングタケ節(Sect. Amanita)ではよく見られる特徴で、卵状の構造物の菌糸の接着が弱いためにおこる。いぼは脱落しやすくしばしば完全に消失している。典型的のものは傘の色は赤色であるが、中にはかなり黄色を帯びているものもある[2]

ヒダは白色で密[2]、柄に対しては離生する[5]。柄も白色で上部に膜質でリング状の白いツバを持つ[2][5]。柄の表面は小鱗片からささくれ状になり、基部は球根のように膨らんで、不明瞭な白色のツボの名残が環状に残る[2][5]。柄は中空[5]。肉は白色で、表皮下は淡黄色[5]。変色性は無く匂いや味も温和。胞子紋(spore print)は白色。胞子ヨウ素水溶液で呈色しない(非アミロイド性)

寒冷地や亜高山帯のマツ科針葉樹林に見られる個体は傘の色がかなり黄色味を帯びて、橙色のようになるものがあり別種の可能性も考えられている(後述)。アメリカには黄色い変種も知られている。

毒性

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一般的には毒キノコとして扱われる。主要毒成分はイボテン酸ムッシモール、また微量ながら猛毒のムスカリン、溶血性タンパク質を含む[3][2]。ムスカリン(muscarine)という名前は本種の種小名 muscaria に由来する。毒性の強いテングタケ属のキノコにしばしば含まれるアマトキシン類(アマニタトキシンと呼ばれることもある)については微量ながら含む説[2][5]と含まれない説があるが、いずれにしても致命的なほどは含まれていないとされる。

イボテン酸は神経細胞のグルタミン酸受容体、ムッシモールはγ-アミノ酸 (GABA) 受容体に不可逆的に結合し、神経細胞の持続的興奮や抑制、最後には壊死などを引き起こす[4]。特にグルタミン酸が神経伝達物質として重要な役割を持つ昆虫類には致死作用率が高い[4]

その他の化合物成分に、ハエ誘引作用がある1,3-ジオレイン、バナジウム錯体のアマバジン、ヒ素濃縮能によるアルセノコリンのほか、ジヒドロキシグルタミン酸、ムスカフラビン、ムスカアウリン類、色素成分のベタラミン酸類を含んでいる[2]

中毒症状

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胃腸系(腹痛嘔吐下痢など)と神経系(発汗心拍数増加・精神錯乱・幻覚けいれんなど)の複雑な症状が現れる[2][5]。食後20 - 30分で瞳孔は開いて眩しくなり、酒酔い状態となる。食べすぎると腹痛、嘔吐、下痢を起こす[9]。重症になると、呼吸困難昏睡となる[5]

死亡例は非常にまれで、北米では2件報告されているのみである[10]。ヨーロッパでのベニテングの致死量は、生の状態で5キログラムと推定されているが、この量は食べられる量ではない[11]。とはいえ、8月に収穫したものは効力が強く、9月に収穫したものは吐き気のような体への影響が強いなどとも記され、環境や個体差の影響も大きい[11]

キノコの研究者のワッソンは、1965年と1966年にベニテングタケを日本で試したが、その毒性の効果に失望したと記している。吐き気を感じ、そのうち何人かは吐き、眠くなって眠り、そして一度だけうまくいったときには、今関六也が高揚し、アルコールによる多弁ともまた異なった感じで喋り続けた、とある[12]テレンス・マッケナによれば、コロラド州で採取した生のベニテングタケでは、よだれが垂れ、腹痛になっただけであり、カルフォルニア州北部で、採取した乾燥ベニテングタケ5グラムを摂取したが、吐き気を感じ、よだれが垂れ、目がかすみ、目を閉じると見えるものがあったが、たいして面白いものでもなかったとある[12]

江戸時代1830年から1844年にかけて96巻が刊行された『本草図譜』の58巻には、「こうたけ」と記されたベニテングタケの絵が描かれ、食べると嘔吐すると書かれている[13][14]

利用

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食文化

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イボテン酸は強いうまみ成分であり、本種が毒キノコであることを知りつつも適量を食べる人もいる。また、本種が分布するような寒冷地では毒抜きを行って食べる文化を持っていることがある[1]長野県小諸地方では、乾燥して蓄え、煮物やうどんのだしとしても利用したといい[15]、煮こぼして塩漬けで2、3か月保存すれば毒が緩和されるので、食べ物の少ない冬に備えた[16]ロシアにおいてもシベリア地域などに本種を食べる文化があるという。自然写真家の大作晃一 (2015) によれば、若気の至りで食べてみたことがあり、うまみが強く、タマゴタケなど比べものにならないほどおいしかったと感想を述べている[1]。ただし、ドクツルタケなどに含まれるアマニタトキシンという内臓の細胞を破壊する成分が微量含まれるため、食べるのは厳禁とも述べている[1]

薬用

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ベニテングタケには幻覚作用のある物質が含まれているため、儀式的なことで使われている事例が知られ、シベリアの部族やフィンランドスウェーデン北部のサーミ人のシャーマンの間では、幻覚体験を利用したさまざまな儀式が発達した[17]東シベリアカムチャッカでは酩酊薬として使用されてきた歴史があったり、西シベリアではシャーマンが変性意識状態になるための手段として使われてきたように、ベニテングタケはシベリアの文化や宗教において重要な役割を果たしてきた。ベニテングタケの向精神作用を持つ成分は体内では完全に分解されずに尿中に排泄されるため、先にベニテングタケを摂取した人の尿を飲んで酩酊し、これにより社会的な絆を形成する風習が生まれたと言われている[17]

また、趣味で菌類の研究をしていたアメリカの銀行家、ゴードン・ワッソン古代インドの聖典『リグ・ヴェーダ』に登場する聖なる飲料「ソーマ」の正体が、ベニテングタケではないかという説を発表した[18]。著書『聖なるキノコ―ソーマ』である[12]。この説には、人類学者が反論を唱えた[注釈 2]が、1968年にワッソンの著書が出版された当時は広く信じられた。ワッソン自身もベニテングタケの効果に失望していたが、なぜか最後の著書『ペルセポネの探求』(未訳)ではベニテングタケを褒めたたえている[12]

象徴

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13世紀のキリスト教では、宗教的シンボルとなっており、フランスの(Plaincourault Chapel、プランクロー礼拝堂英語版)には、知恵の木になっているベニテングタケが描かれている[21]ルネッサンス期から、絵画の中でもしばしば描かれている。また、幸運のシンボルとして、1900年ごろからクリスマスカードのイラストにしばしば採用された。オリヴァー・ゴールドスミスの『世界市民』には、幻覚剤としての使用に言及した箇所がある。ベニテングタケを食べた際、物体の大きさに対する知覚が変化したという記録を残したモルデカイ・キュービット・クックの書物は、1865年の『不思議の国のアリス』のモデルになったと考えられている[22]

ヨーロッパでは、幸福を呼ぶキノコとして人気がある。装飾品や玩具のモチーフによく使われている[15]。白い水玉の赤キノコの配色は、絵本やアニメ映画、ビデオゲームなどにしばしば登場することで、なじみのあるものとなっている[4]

特に有名なものに、テレビゲームソフト『スーパーマリオシリーズ』におけるキノピオのデザインや[23]、1940年のディズニー映画『ファンタジア』がある[24]

その他

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ハエ作用を持つことから、各地でハエ捕りに用いられてきた[4][25]。ベニテングタケの煮汁を置いておくと、ハエが寄ってきて、キノコの毒成分で死んでしまう[1]。そのため日本では「ハエトリタケ」ともよばれる[1]。フランスではハエ殺し (une amanite tue-mouche) と呼ばれ、キノコ片を用いたし、日本でも東北や長野[26]でアカハエトリとも呼ばれ信州では米とこねて板に張り付けてハエを捕獲した[21]。しかし、世界の中にはベニテングタケの毒成分に適応し、本菌を食べて育つキノコバエもいる[4]

類似種

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ベニテングタケ内で幾つかの亜種変種が知られるほか、近縁のテングタケ属テングタケ節のキノコには色違い程度に形態がよく似た種類が多い。ベニテングタケ(亜高山型)は亜高山帯などの寒冷なマツ科針葉樹林に発生する黄色味の強い個体である。傘は橙色になる。

ヒメベニテングタケAmanita rubrovolvata)はミズナラ林などブナ科の樹林に発生し[27]、赤色系の傘に条線、柄は黄色である[7]。柄の基部のツボは赤色みを帯びて、起源が同じいぼも同色[27]。子実体はベニテングタケと比べると小さく[27]、最大でも傘の直径は5 cm程度にしかならない。

ウスキテングタケ類(アジア種Amanita orientogemmata、欧米種Amanita gemmata)は広葉樹林、とくにコナラアカマツ林に多い[5]。傘の色が淡黄色でいぼが白色で縁には条線ある[27]テングタケAmanita pantherina)は広葉樹林に発生し、傘の色が黒色で、いぼが白色で縁には条線ある[28]イボテングタケAmanita ibotengutake)はマツ林に多く発生し、傘の色が灰褐色で縁には溝線があり、いぼは薄褐色[29]

タマゴタケ類は赤い傘と縁には条線を持つが、日本で一般に食用にされる種類に関しては柄およびひだの色が黄色である[3][27]。傘表面にいぼを持たないのも特徴の一つであるが、テングタケ類のいぼは非常に脱落しやすく完全になくなっている場合がしばしばあり、タマゴタケと間違えやすいので[3][2]、ひだの色などほかの特徴で判断するのが無難。テングタケ属タマゴタケ節(Section Caesareae)に属しツバ、ツボの形状も異なる。テングタケ属の中でも猛毒種が多いタマゴテングタケ節(Section Phalloideaeドクツルタケタマゴテングタケなどが属する)では赤い傘を持つ種は知られていないが、黄色系や白色の傘を持つものは知られており注意が必要。

ベニタケ科のきのこの中には赤い傘を持ち、柄やひだが白いものもあるが、ツバやツボを持たない。ベニタケ目に属しハラタケ目のベニテングタケとは縁遠いグループである。生態面では菌根性であり、ベニテングタケともしばしば混生する種類もある。

脚注

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注釈

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  1. ^ ハラタケ型の中では傘と柄の分離のしやすさなどの特徴から、ウラベニガサ型(pluteoid)に細分類される。
  2. ^ 1971年にケンブリッジ大学のジョン・ブラフより反論が提出されている[19][20]

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j 大作晃一 2015, p. 38.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n 長沢栄史監修 2009, p. 73.
  3. ^ a b c d 大作晃一 2005, p. 93.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l 田中千尋「南半球に進出したベニテングタケ」(京都大学農学研究科)、吹春俊光 2010, pp. 118–119(コラム欄)
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 吹春俊光 2010, p. 116.
  6. ^ Geml J, Laursen GA, O'neill K, Nusbaum HC, Taylor DL (January 2006). “Beringian origins and cryptic speciation events in the fly agaric (Amanita muscaria)”. Mol. Ecol. 15 (1): 225–39. doi:10.1111/j.1365-294X.2005.02799.x. PMID 16367842. https://s3.amazonaws.com/academia.edu.documents/38874488/Geml_Amanita_ME2006.pdf?AWSAccessKeyId=AKIAIWOWYYGZ2Y53UL3A&Expires=1513652538&Signature=1VkZjrMoOcvKos62CThzG%2BYrXpY%3D&response-content-disposition=inline%3B%20filename%3DBeringian_origins_and_cryptic_speciation.pdf. 
  7. ^ a b c d 秋山弘之 2024, p. 19.
  8. ^ Suetsugu, Kenji; Gomi, Koichi (2021). “Squirrel consuming “poisonous” mushrooms” (英語). Frontiers in Ecology and the Environment 19 (10): 556–556. doi:10.1002/fee.2443. ISSN 1540-9309. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/fee.2443. 
  9. ^ 小山昇平 1999, p. 30.
  10. ^ Cagliari GE. (1897). Mushroom Poisoning. Medical Record 52: 298.
  11. ^ a b ジム・デコーン 著、竹田純子、高城恭子 訳『ドラッグ・シャーマニズム』1996年、241-248頁。ISBN 4-7872-3127-8 Psychedelic Shamanism, 1994.
  12. ^ a b c d テレンス・マッケナ 著、小山田義文、中村功 訳『神々の糧(ドラッグ)―太古の知恵の木を求めて』第三書館;、2003年、134-140頁。ISBN 4-8074-0324-9  Food of Gods, 1992
  13. ^ 岩崎常正「こうたけ」『本草図譜 第8冊 巻58菜部芝〔ジ〕類4』200https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287170/11 
  14. ^ 飯沢耕太郎『マジカル・ミステリアス・マッシュルーム・ツアー』東京キララ社・河出書房新社、2010年、48-49、94-95頁頁。ISBN 978-4-309-90879-3 
  15. ^ a b 小山昇平 1999, p. 52.
  16. ^ 小山昇平 1999, p. 32.
  17. ^ a b ジョナサン・ドローリ 著、三枝小夜子 訳『世界の樹木をめぐる80の物語』柏書房、2019年12月1日、21頁。ISBN 978-4-7601-5190-5 
  18. ^ G.C.エインズワース、小川眞訳 『キノコ・カビの研究史』p202 京都大学学術出版会、2010年10月20日発行、ISBN 978-4-87698-935-5
  19. ^ John Brough (1971). “Soma and "Amanita muscaria"”. Bulletin of the School of Oriental and African Studies, University of London 34 (2): 331-362. https://www.jstor.org/stable/612695. 
  20. ^ 山本昌木「古代インドにおける植物病害と菌類について」『日本植物病理学会報』第51巻第3号、1985年、251頁。 
  21. ^ a b ニコラス・P.マネー 著、小川真 訳『キノコと人間 医薬・幻覚・毒キノコ』築地書館、2016年、172-173頁。ISBN 978-4-8067-1522-1  Mushroom, 2011.
  22. ^ Letcher, Andy (2006). Shroom: A Cultural history of the magic mushroom. London: Faber and Faber. ISBN 0-571-22770-8 
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  25. ^ 小宮山勝司『ヤマケイポケットガイド15 きのこ』
  26. ^ ロラン・サバティエ 著、本郷次雄監修、永井真貴子 訳『きのこの名優たち』山と溪谷社、1998年、24頁。ISBN 4-635-58804-1  La Gratin Des CHAMPIGNONS, 1986.
  27. ^ a b c d e 吹春俊光 2010, p. 117.
  28. ^ 吹春俊光 2010, p. 121.
  29. ^ 吹春俊光 2010, p. 120.

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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