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「萼」の版間の差分

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{{出典の明記|date=2012年5月10日 (木) 10:09 (UTC)}}
| image = Campanula persicifolia alba J1.JPG
[[ファイル:Petal-sepal.jpg|thumb|[[花弁]] ({{Lang|en|petal}}) と萼片 ({{Lang|en|sepal}})]]
| width = 250
'''萼'''(がく、蕚は[[異体字]]、{{Lang-en-short|calyx}}<ref name="terms">{{Cite book|和書
| caption = [[モモノハギキョウ]] ([[キキョウ科]]) の花とつぼみの萼 (矢印)
|author = [[文部省]]
| type = thumb
|coauthors = [[日本植物学会]]編
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|title = [[学術用語集]] 植物学編
{{Location mark~
|edition = 増訂版
|year = 1990
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|publisher = [[丸善]]
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|isbn = 4-621-03376-X
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}}</ref>)とは、[[植物]]用語の一つで、[[花冠]](花弁、またはその集まり)の外側の部分をいう。ひらがな書きで「'''がく'''」とすることも多い{{要出典|date=2012年11月}}。萼の個々の部分を'''萼片'''(がくへん、{{Lang-en-short|sepal}}<ref name="terms" />)という。多くの場合、花弁(「花びら」のこと)の付け根(最外側)にある[[緑色]]の小さい[[葉]]のようなものが萼である。萼は[[花]]全体を支える役割を持つ。
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}}{{Location mark+
| image = Silene latifolia 2(loz).JPG
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| caption = [[マンテマ属]] ([[ナデシコ科]]) の花とつぼみの萼 (矢印)
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}}
'''萼'''、'''がく'''、'''ガク''' (蕚は[[異体字]]、{{Lang-en-short|calyx}}, ''[[複数形|pl]]''. calyces) とは、[[花]]において最も外側にあり、その内側の[[花冠]]とは明らかに色・大きさなどが異なる葉的な要素に対する集合名称である<ref name="清水2001萼" /><ref name="原1994花" /><ref name="原1986花" /><ref name="Iwasa2013萼" /><ref name="terms萼">{{Cite book|author=[[文部省]] & [[日本植物学会]] (編)|chapter=|title=[[学術用語集]] 植物学編 (増訂版)|edition=|year=1990|publisher=[[丸善]]|isbn=978-4621035344|page=44}}</ref> (右図)。萼を構成する個々の要素は、'''萼片'''、'''がく片'''、'''ガク片''' ({{Lang-en-short|sepal}}) とよばれる<ref name="清水2001萼" /><ref name="原1994花" /><ref name="原1986花" /><ref name="Iwasa2013萼" /><ref name="terms萼" />。


[[花]]を構成する要素のうち、ふつう萼片は最も[[葉]]的な特徴をもち、緑色で[[気孔]]をもつことが多い。萼は、ふつう開花前の花 ([[つぼみ]]) において、他の花要素を保護する役割を担うが (右図)、目立つ色・大きさで[[送粉者]]を誘引するもの ([[ガクアジサイ]]など) や、[[果実]]の発達を補助するもの、花後に発達して[[種子散布]]に寄与するもの ([[タンポポ]]など) もある。また果実に残っている萼 (と[[花托]]の一部) は、一般名として'''へた''' (蔕) とよばれることがある<ref name="コトバンクへた">{{Cite Kotobank|word=へた|author=日本大百科全書 (ニッポニカ)|accessdate=2021-02-06}}</ref><ref name="萼の働き">{{Cite web|author=今関 英雅|date=2013-07-31|url=https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2908|title=がく片の働き|website=みんなのひろば 植物Q&A|publisher=日本植物生理学会|accessdate=2021-02-07}}</ref><ref name="原1986果実">{{cite book|author=原 襄, 福田 泰二 & 西野 栄正|year=1986|chapter=果実|editor=|title=植物観察入門|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|pages=47–68}}</ref> ([[イチゴ]]、[[柿|カキ]]、[[トマト]]など)。
また、[[果実]]に残り付いている萼は、'''蔕'''(へた)と呼ばれることがある。


== 花被 ==
==特徴==
[[花]]において、[[雄しべ]]や[[雌しべ]]の外側にある非生殖性 ([[花粉]]や[[胚珠]]をつけない) の葉的要素は、[[花被片]]とよばれる。花被片のうち、花の最外輪にあり、その内側の花被片とは明らかに色や質、大きさが異なるものは、'''萼片''' (がく片、ガク片) とよばれる<ref name="清水2001萼">{{cite book|author=清水 建美|year=2001|chapter=萼|editor=|title=図説 植物用語事典|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|pages=26, 32–36}}</ref><ref name="原1994花">{{cite book|author=原 襄|year=1994|chapter=花|editor=|title=植物形態学|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254170863|pages=149–156}}</ref><ref name="原1986花">{{cite book|author=原 襄, 福田 泰二 & 西野 栄正|year=1986|chapter=花|editor=|title=植物観察入門|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|pages=5–46}}</ref><ref name="Iwasa2013萼">{{cite book|author=巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編)|year=2013|chapter=萼|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=200}}</ref> (この場合、内側の花被片は[[花弁]]とよばれ、このような花は[[異花被花]]とよばれる)。1つの花にある萼片の集合は、'''萼''' (がく、ガク) とよばれる<ref name="清水2001萼" /><ref name="原1994花" /><ref name="原1986花" /><ref name="Iwasa2013萼" /> (上図、下図1)。
萼と花冠が同じように見える場合は、ひとまとめにして'''花被'''(かひ; {{Lang-en-short|[[w:perianth|perianth]]}})ということが多い。花被を萼と花冠で区別する場合は、萼を'''外花被'''、花冠を'''内花被'''という。また、外花被、内花被のひとつひとつを、それぞれ'''外花被片'''、'''内花被片'''という。ただし、萼と花冠が一見して区別できる場合でも、ひとまとめにして花被ということもある。


萼片の配置や数は種によって決まっている。萼片はふつう[[花]]の最も外側に1輪にならんで輪生しており、その内側にならんでいる[[花弁]]とは互い違いに配列している (互生)<ref name="原1994花" /><ref name="原1986花" /><ref name="Simpson2005perianth" /> (下図1a–d)。数はふつう2枚 (下図5a)、3枚 (下図1a)、4枚 (下図1b)、または5枚 (下図1c, d) である。例外的に、不特定数の萼片がらせん状に配列している例 ([[ナンテン]]など) もある (下図1e)。
<gallery>
ファイル:LiliumAuratumVVirginaleBluete2Rework.jpg|[[ヤマユリ]]。一見すると6枚の花弁に見える。本当は手前に見える3枚が内花被片、奥の3枚が外花被片。
</gallery>


{{multiple image
== まぎらわしい萼 ==
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植物によっては、[[白]]や[[紫]]といった色が付いていたり、花弁のような形をしているものもある。また、萼のようであるが、正しくは[[苞]]のこともある。
| align = center
| caption_align = left
| image1 = Alisma plantago-aquatica ziedas 2006-07-24.jpg
| caption1 = '''1a'''. [[サジオモダカ]] ([[オモダカ科]]) の花は花弁と互生する3枚の萼片をもつ.
| image2 = UMFS flower 5.jpg
| caption2 = '''1b'''. [[チョウジタデ属]] ([[アカバナ科]]) の花は花弁と互生する4枚の萼片をもつ.
| image3 = Comarum salesovianum.jpg
| caption3 = '''1c'''. [[クロバナロウゲ属]] ([[バラ科]]) の花は花弁と互生する5枚の萼片をもつ.
| image4 = Swertia bimaculata (sepal s2).jpg
| caption4 = '''1d'''. [[アケボノソウ]] ([[キキョウ科]]) の花は花弁と互生する5枚の萼片をもつ.
| image5 = (MAD) N. domestica - fl - 08.jpg
| caption5 = '''1e'''. [[ナンテン]] ([[メギ科]]) の花と[[つぼみ]]. 萼片は小型で螺生する.
}}


ふつう萼は[[花]]の要素の中で最も[[葉]]的な特徴を示す<ref name="清水2001萼" /><ref name="原1986花" /><ref name="Iwasa2013萼" /><ref name="Rudall1997花弁とがく片">{{cite book|author=ポーラ・ルダル (著) 鈴木 三男 & 田川 裕美 (翻訳)|year=1997|chapter=花弁とがく片|editor=|title=植物解剖学入門 ―植物体の構造とその形成―|publisher=八坂書房|isbn=978-4896946963|pages=99–100}}</ref><ref name="Simpson2005perianth">{{cite book|author=Simpson, M. G.|year=2005|chapter=|editor=|title=Plant Systematics|publisher=Academic Press|isbn=978-0126444605|pages=364–371}}</ref>。多くの場合、萼は緑色で[[光合成]]を行い、[[気孔]]が存在する (下図2a)。またふつう3本の主脈がある<ref name="Iwasa2013萼" />。萼は、ふつう開花前の[[花]] ([[つぼみ]]) において、他の花要素を覆って保護している<ref name="原1986花" /><ref name="萼の働き" /><ref name="Bhojwani1995" /> (下図2b)。また、花後の萼が[[果実]]の発達や[[種子散布]]に寄与する場合もある ([[#早落萼と宿存萼|下記参照]])。
<gallery>

ファイル:Mirabilis jalapa0.jpg|[[オシロイバナ]]。白い花弁のような部分が萼、白い部分の付け根の萼ようなものが苞。本物の花弁は存在しない。
一部の植物は、[[花弁]]のように目立つ色彩をした萼片をもつ。[[ヒメウズ]]や[[オダマキ]]では、萼片が花弁と同程度、またはより目立つ<ref name="野に咲く花キンポウゲ">{{cite book|author=林 弥栄 & 門田 裕一 (監修)|year=2013|chapter=|editor=|title=野に咲く花 増補改訂新版|publisher=山と渓谷社|isbn=978-4635070195|pages=236–237}}</ref> (下図2c)。[[トリカブト]]では、外側から見える派手な部分は全て萼片であり、花弁は萼片に覆われて外からは見えない<ref name="野に咲く花キンポウゲ" /> (下図2d)。また[[ガクアジサイ]]などでは一部の花 (花の集まりにおいて周縁部に位置する花であり、[[装飾花]]とよばれる) の萼が大きく派手である<ref name="原1994花" /><ref name="多田2002アジサイ">{{cite book|author=多田 多恵子 |year=2002|chapter=アジサイの花色魔法|editor=|title=したたかな植物たち―あの手この手のマル秘大作戦|publisher=エスシーシー|isbn=978-4886479228|pages=48–52}}</ref>。このような派手な萼は、[[送粉者]] (花粉媒介する昆虫や鳥) に対する広告塔としても機能している<ref name="Bhojwani1995" />。[[園芸品種]]の[[アジサイ]]では、このように萼が発達した花のみをつけるものが多い<ref name="原1994花" /> (上図2e)。
ファイル:W kurematisu2051.jpg|[[クレマチス]]。花弁のような部分が萼。本物の花弁は存在しない。

ファイル:Anemone pseudoaltaica in Mount Kyo 2002-05-02.jpg|[[キクザキイチゲ]]。青紫色の花弁のような部分が萼。本物の花弁は存在しない。
{{multiple image
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| caption_align = left
| image1 = Veronica hederifolia (s. str.) sl29.jpg
| caption1 = '''2a'''. [[フラサバソウ]] ([[オオバコ科]]) の萼の[[表皮]]には[[気孔]]が存在する.
| image2 = Rose bud 2010.jpg
| caption2 = '''2b'''. [[バラ]] ([[バラ科]]) の[[つぼみ]]. 萼で覆われている.
| image3 = Semiaquilegia adoxoides (flower).JPG
| caption3 = '''2c'''. [[ヒメウズ]] ([[キンポウゲ科]]) の花. 萼片が目立ち、[[花弁]]は[[雄しべ]]・[[雌しべ]]を筒状に取り囲んでいる.
| image4 = Aconitum napellus3 ies.jpg
| caption4 = '''2d'''. [[トリカブト属]] (キンポウゲ科) の花の断面. 萼が目立ち、先端が湾曲した細長い花弁は萼に覆われている.
| image5 = Botanic Garden - Cluj-Napoca (2749235505).jpg
| caption5 = '''2e'''. [[アジサイ]] ([[アジサイ科]]) の花. [[花弁]]にくらべて萼片が巨大.
}}

[[ユリ]]の[[花]]のように外側と内側の[[花被片]]が類似した色や質、大きさをしている場合 ([[同花被花]])、萼片・[[花弁]]とはよばれず、ふつう外花被片・内花被片とよばれる<ref name="清水2001萼" /><ref name="原1986花" /> (花蓋片ともよばれる<ref name="Iwasa2013花被">{{cite book|author=巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編)|year=2013|chapter=花被|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=234}}</ref>)。また花被が1輪しかない花 ([[単花被花]]) では、目立つ色・大きさをした花被であっても ([[花冠]]的な特徴をもっていても)、最外輪にあることからその花被は慣習的に萼とよばれることが多い<ref name="清水2001萼" /><ref name="原1986花" /><ref name="Iwasa2013花被" /><ref name="岩瀬2004花被">{{cite book|author=
岩瀬 徹 & 大野 啓一|year=2004|chapter=花の形のいろいろ|editor=|title=写真で見る植物用語|publisher=全国農村教育協会|isbn=978-4881371077|pages=88–95}}</ref> (例: [[クレマチス]]、[[イヌタデ]]、[[オシロイバナ]]など; 下図3a–d)。ただしこのような花被の多くは、他の花の萼との相同性が必ずしも明らかではないため<ref name="イヌタデ">{{Cite web|author=長谷部 光泰|date=2013-10-21|url=https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2963&key=%E8%90%BC%E7%89%87&target=full|title=イヌタデの花について|website=みんなのひろば 植物Q&A|publisher=日本植物生理学会|accessdate=2021-01-30}}</ref>、花被とよんでいる例もある<ref name="野に咲く花花被">{{cite book|author=林 弥栄 & 門田 裕一 (監修)|year=2013|chapter=|editor=|title=野に咲く花 増補改訂新版|publisher=山と渓谷社|isbn=978-4635070195|pages=253, 282, 387, 388}}</ref><ref name="Judd2015tepal">{{cite book|author=Judd, W.S., Campbell, C.S., Kellogg, E.A., Stevens, P.F. & Donoghue, M.J.|year=2015|chapter=|editor=4th|title=Plant Systematics: A Phylogenetic Approach|publisher=Academic Press|isbn=978-1605353890|pages=327, 449, 460}}</ref>。また近縁種との比較から、明らかに萼が退化したものと考えられる単花被花では、その花被は花冠とよばれる<ref name="清水2001萼" /> (例: [[ヤエムグラ]]、[[シャク (植物)|シャク]]; 下図3e)。

{{multiple image
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| caption_align = left
| image1 = Starr-061108-9763-Achyranthes splendens var splendens-flowers-Hoolawa Farms-Maui (24573183280).jpg
| caption1 = '''3a'''. [[イノコヅチ属]] ([[ヒユ科]]) の花は5枚の[[花被片]] (萼片ともよばれる) をもつ[[単花被花]].
| image2 = Anemone flaccida (flower s2).jpg
| caption2 = '''3b'''. [[ニリンソウ]] ([[キンポウゲ科]]) の花の裏面. 白い花被片 (萼片ともよばれる) が最外輪にある.
| image3 = Fagopyrum esculentum RH (16).jpg
| caption3 = '''3c'''. [[ソバ]] ([[タデ科]]) の花は[[単花被花]]であり、花冠状の[[花被]] (萼ともよばれる) が最外輪にある.
| image4 = Mirabilis jalapa.jpg
| caption4 = '''3d'''. [[オシロイバナ]] ([[オシロイバナ科]]) の花は単花被花であり、花冠状の花被 (萼ともよばれる) の基部の萼状の構造は[[苞]].
| image5 = Arge Verrières 2.jpg
| caption5 = '''3e'''. [[シャク (植物)|シャク]] ([[セリ科]]) の花は萼を欠く単花被花.
}}

[[花]]を構成する要素は、A, B, C, D, E 遺伝子とよばれる[[ホメオティック遺伝子]] (原基がどのような器官になるのかを決める調節遺伝子) の産物の組み合わせによって、その分化が制御されている ([[ABCモデル]])<ref name="テイツ2017ABC">{{cite book|author=L. テイツ, E. ザイガー, I.M. モーラー & A. マーフィー (編)|year=2017|chapter=花芽分裂組織と花器官の発生|editor=|title=植物生理学・発生学 原著第6版|publisher=講談社|isbn=978-4061538962|pages=613–622}}</ref>。花芽において、葉状の原基にA遺伝子とE遺伝子が発現することによって、その原基は萼片へと分化する。
{{-}}
==いろいろな萼==
===離片萼と合片萼===
萼片が1枚ずつ離生している場合、そのような萼は'''離片萼''' (離片がく、離萼; aposepalous calyx, polysepalous –, chorisepalous –, schizosepalous –, dialysepalous –) とよばれる<ref name="清水2001萼" /><ref name="Iwasa2013萼" /><ref name="terms離片萼">{{Cite book|author=[[文部省]] & [[日本植物学会]] (編)|chapter=離片がく|title=[[学術用語集]] 植物学編 (増訂版)|edition=|year=1990|publisher=[[丸善]]|isbn=978-4621035344|page=190}}</ref> (下図4a, b)。離片萼は[[アブラナ科]]、[[フウロソウ科]]、[[オトギリソウ科]]、[[ハコベ属]]などに見られる。一方、萼片が多少なりとも互いに合着している場合、そのような萼は'''合片萼''' (合片がく、合萼; gamosepalous calyx, synsepalous –)<ref name="清水2001萼" /><ref name="Iwasa2013萼" /><ref name="terms合萼">{{Cite book|author=[[文部省]] & [[日本植物学会]] (編)|chapter=合片がく|title=[[学術用語集]] 植物学編 (増訂版)|edition=|year=1990|publisher=[[丸善]]|isbn=978-4621035344|page=50}}</ref> とよばれる (下図4c–e)。合片萼は[[ナス科]]、[[シソ科]]、[[キキョウ科]]、[[ナデシコ属]]などに見られる。合片萼が筒状または壷状の構造となっている場合、これを'''萼筒''' (がく筒; calyx tube) とよぶ<ref name="清水2001萼" /><ref name="原1994花" /><ref name="terms萼" /> (下図4d, e)。合片萼の場合、ふつう先端側で各萼片が分かれて裂片となっており、このような裂片は'''萼裂片''' (がく裂片; calyx lobe) とよばれる<ref name="清水2001萼" /><ref name="原1994花" /><ref name="terms萼" /> (下図4c, d)。萼裂片が小さい場合、特に'''萼歯''' (がく歯; calyx teeth) ともよばれる<ref name="清水2001萼" /> ([[マメ科]]など) (下図4e)。

{{multiple image
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| caption_align = left
| image1 = Lilac - Flickr - Stiller Beobachter (6).jpg
| caption1 = '''4a'''. [[フウロソウ属]] ([[フウロソウ科]]) の離片萼.
| image2 = Cerastium arvense flower (3327637064).jpg
| caption2 = '''4b'''. [[セイヨウミミナグサ]] ([[ナデシコ科]]) の離片萼.
| image3 = Symphytum officinale ENBLA08.jpeg
| caption3 = '''4c'''. [[ヒレハリソウ]] ([[ムラサキ科]]) の合片萼 (基部で合着し萼裂片に分かれている).
| image4 = Lamium album4 ies.jpg
| caption4 = '''4d'''. [[オドリコソウ]] ([[シソ科]]) の萼筒と細長い萼裂片.
| image5 = Vicia angustifolia2 W.jpg
| caption5 = '''4e'''. [[カラスノエンドウ]] ([[マメ科]]) の萼筒と萼歯.
}}

===早落萼と宿存萼===
ふつう萼は[[つぼみ]]の際に他の花要素を保護しており、[[ヒナゲシ]]や[[クサノオウ]]の萼は、ふつう開花時に脱落してしまう'''早落性''' (caducous) である (早落萼、早落がく; 下図5a)<ref name="清水2001萼" /><ref name="原1986花" /><ref name="terms早落">{{Cite book|author=[[文部省]] & [[日本植物学会]] (編)|chapter=早落|title=[[学術用語集]] 植物学編 (増訂版)|edition=|year=1990|publisher=[[丸善]]|isbn=978-4621035344|page=240}}</ref>。一方、[[キイチゴ属]]、[[スミレ属]]、[[ツツジ科]]、[[シソ科]]、[[ナス科]]などの萼は、花後も長く残る'''宿存性''' (persistent) である (宿存萼、宿存がく)<ref name="清水2001萼" /><ref name="原1986花" /><ref name="terms宿存">{{Cite book|author=[[文部省]] & [[日本植物学会]] (編)|chapter=宿存|title=[[学術用語集]] 植物学編 (増訂版)|edition=|year=1990|publisher=[[丸善]]|isbn=978-4621035344|page=254}}</ref> (下図5b)。花後に萼が発達して[[果実]]を保護するものもおり、[[ホオズキ]]では萼が袋状になって[[果実]]を包み<ref name="清水2001萼" /> (下図5c)、[[ヒシ]]では果実を包む萼が硬化して鋭い刺を形成する<ref name="野に咲く花ヒシ">{{cite book|author=林 弥栄 & 門田 裕一 (監修)|year=2013|chapter=|editor=|title=野に咲く花 増補改訂新版|publisher=山と渓谷社|isbn=978-4635070195|page=311}}</ref> (下図5d)。また花後に発達した萼が、[[ハエドクソウ]]では鉤に、[[ツクバネウツギ]]では翼に、[[シラタマノキ]]では可食部になり (下図5e)、それぞれ[[種子散布]]に寄与する<ref name="清水2001萼" /><ref name="清水2001果実">{{cite book|author=清水 建美|year=2001|chapter=|editor=|title=図説 植物用語事典|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|page=106}}</ref><ref name="原1986種子">{{cite book|author=原 襄, 福田 泰二 & 西野 栄正|year=1986|chapter=種子|editor=|title=植物観察入門|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|pages=69–83}}</ref>。特殊な萼である冠毛も、種子散布に働くものが多い ([[タンポポ]]など; [[#冠毛|下記参照]])。また果実に残っている萼には、ガス交換や[[植物ホルモン]]などの物質供給を通して、果実の発達・成熟に寄与すると考えられている例もある<ref name="萼の働き" /><ref name="Bhojwani1995">{{cite book|author=Bhojwani, S.S., Bhatnagar, S.P. (著), 足立 泰二, 丸橋 亘 (訳)|year=1995|chapter=花|editor=|title=植物の発生学|publisher=講談社|isbn=978-4061537088|pages=6–9}}</ref>。

{{multiple image
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| caption_align = left
| image1 = Opening bud of poppy.jpg
| caption1 = '''5a'''. [[ヒナゲシ]] ([[ケシ科]]) の開花中の花. 2枚の萼片はすぐに脱落する.
| image2 = Tomate gelber Blütenkelch2.jpg
| caption2 = '''5b'''. [[トマト]] ([[ナス科]]) の果実と宿存萼.
| image3 = Physalis2.jpg
| caption3 = '''5c'''. [[ホオズキ]] ([[ナス科]]) の萼で包まれた果実.
| image4 = Trapa natans nut.jpg
| caption4 = '''5d'''. [[ヒシ属]] ([[ミソハギ科]]) の果実では萼が刺状に発達する.
| image5 = Gaultheria miqueliana fruits.JPG
| caption5 = '''5e'''. [[シラタマノキ]] ([[ツツジ科]]) の萼は花後に発達し果実を包む.
}}

===相称性===
{{multiple image
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| caption_align = left
| image1 = Beauty Of The Back (2521255068).jpg
| caption1 = '''6a'''. [[ゼラニウム]] ([[フウロソウ科]]) の花の裏面. 花冠も萼も放射相称.
| image2 = Viola mandshurica f. hasegawae (flower s3).jpg
| caption2 = '''6b'''. [[スミレ|シロガネスミレ]] ([[スミレ科]]) の花. 花冠も萼も左右相称.
| image3 = Mazus_pumilus_flower.JPG
| caption3 = '''6c'''. [[トキワハゼ]] ([[サギゴケ科]]) の花. 花冠は明らかに左右相称、萼はほぼ放射相称.
}}
[[花冠]]と同様に、萼も放射相称 (対称軸が2本以上) のものと左右相称 (対称軸が1本のみ) のものがある。萼の相称性はふつうその花の花冠の相称性に準じており、放射相称花冠をもつ花は放射相称萼を、左右相称花冠をもつ花は左右相称萼をもつことが多い<ref name="清水2001萼" /> (右図6a, b)。ただし異なる相称性の萼と花冠をもつ種もいる (右図6c)。
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===距===
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}}
[[ツリフネソウ属]]の花は3枚の萼片をもつが、そのうちの1つ (後萼片) が袋状になり、後方へ管状に張り出している<ref name="清水2001花冠">{{cite book|author=清水 建美|year=2001|chapter=花冠|editor=|title=図説 植物用語事典|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|pages=36–41}}</ref><ref name="野に咲く花ツリフネ">{{cite book|author=林 弥栄 & 門田 裕一 (監修)|year=2013|chapter=|editor=|title=野に咲く花 増補改訂新版|publisher=山と渓谷社|isbn=978-4635070195|page=410}}</ref> (右図7a)。このような花被の管は'''距''' (きょ; spur) とよばれ、ふつう花冠に見られるが ([[サギソウ]]、[[オダマキ]]、[[イカリソウ]]、[[スミレ]]など)、ツリフネソウ属やノウゼンハレン属では萼が距を形成している (calyx spur; 右図7)。距には蜜が貯まり、そこまで口が届く送粉者を選択することができる。
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===副萼===
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===冠毛===
[[キク科]]の多くや[[スイカズラ科]]の一部では、萼が多数の毛状構造になり (剛毛状、羽毛状など)、花後に[[果実]]の先端で発達して[[種子散布]]を補助する (下図9a–c)。このような萼は'''冠毛''' (pappus, ''[[複数形|pl]]''. pappi) とよばれる<ref name="清水2001萼" /><ref name="terms冠毛">{{Cite book|author=[[文部省]] & [[日本植物学会]] (編)|chapter=冠毛|title=[[学術用語集]] 植物学編 (増訂版)|edition=|year=1990|publisher=[[丸善]]|isbn=978-4621035344|page=111}}</ref><ref name="Iwasa2013冠毛">{{cite book|author=巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編)|year=2013|chapter=冠毛|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=274}}</ref>。ただしキク科の中には、冠毛が鱗片状のもの (例: [[ハキダメギク]]) や刺状のもの (例: [[センダングサ]]; 下図9d)、棍棒状のもの (例: [[ヌマダイコン]]; 下図9e)、非常に短いもの (例: [[ヨメナ]])、冠毛を欠くもの (例: [[ヨモギ]]) もいる<ref name="清水2001萼" /><ref name="野に咲く花冠毛">{{cite book|author=林 弥栄 & 門田 裕一 (監修)|year=2013|chapter=|editor=|title=野に咲く花 増補改訂新版|publisher=山と渓谷社|isbn=978-4635070195|pages=535, 571, 573, 581}}</ref>。

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| image1 = 6108-Taraxacum officinale agg-Alpská víska.JPG
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}}

==ギャラリー==
===いろいろな萼===
<gallery style="font-size:80%;">
ファイル:Alisma plantago-aquatica20090812 249.jpg|[[サジオモダカ]] ([[オモダカ科]]) の花
ファイル:Murdannia graminea A Faden 2 99.jpg|{{Snamei||Murdannia graminea}} ([[ツユクサ科]]) の花
ファイル:Aquilegia buergeriana var. buergeriana f. flavescens (flower s2).JPG|[[ヤマオダマキ]] (キンポウゲ科) の花 (萼・花冠とも派手)
ファイル:Trif arvense(fiori).JPG|[[シャグマハギ]] ([[マメ科]]) の萼
ファイル:Arabidopsis thaliana inflorescencias.jpg|[[シロイヌナズナ]] ([[アブラナ科]]) の花
ファイル:Malva alcea sl3.jpg|[[タチアオイ属]] ([[アオイ科]]) の花
ファイル:Fale - Giardini Botanici Hanbury in Ventimiglia - 458.jpg|[[フヨウ]] ([[アオイ科]]) のつぼみ (萼と副萼)
ファイル:Bolderik 26-08-2005 12.41.20.JPG|[[ムギセンノウ]] ([[ナデシコ科]]) の萼
ファイル:Diospyros kaki3.jpg|[[カキノキ]] ([[カキノキ科]]) の花
ファイル:Epilobium angustifolium (14839240542).jpg|[[ヤナギラン]] ([[アカバナ科]]) の花
ファイル:Pieris japonica (3317961528).jpg|[[アセビ]] ([[ツツジ科]]) の花
ファイル:Primula veris ENBLA04.JPG|[[キバナノクリンザクラ]] ([[サクラソウ科]]) の花
ファイル:Gardenia jasminoides fruit.jpg|[[クチナシ]] ([[アカネ科]]) の果実と宿存萼
ファイル:Phelipanche purpurea sl16.jpg|[[ハマウツボ属]] ([[ハマウツボ科]]) の花
ファイル:Ipomoea indica in Hyderabad, AP W IMG 0329.jpg|[[アサガオ]] ([[ヒルガオ科]]) の花
ファイル:Aguilas-tomat-flor-2.JPG|[[トマト]] ([[ナス科]]) の萼
ファイル:Campanula punctata 2015-07-01 3804.JPG|[[ホタルブクロ]] ([[キキョウ科]]) の花
ファイル:Abelia tetrasepala 1.JPG|[[オオツクバネウツギ]] ([[スイカズラ科]]) の花
</gallery>
===冠毛===
<gallery style="font-size:80%;">
ファイル:Galinsoga ciliata sl15.jpg|[[ハキダメギク]] (キク科) の果実. 鱗片状の冠毛をもつ.
ファイル:C. seridis - cipsela.jpg|[[ヤグルマギク属]] (キク科) の果実.
ファイル:Akkerdistel vrucht.jpg|[[セイヨウトゲアザミ]] (キク科) の果実.
ファイル:Fleabane (3215430712).jpg|[[アレチノギク]] (キク科) の果実の集まり.
ファイル:Tragopogon pratensis seedhead-pjt.jpg|[[キバナムギナデシコ]] (キク科) の果実の集まり.
ファイル:Dandelionseed.JPG|[[タンポポ属]] (キク科) の果実.
</gallery>
</gallery>


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 出典 ===
{{Reflist}}
{{Reflist|2}}
<!-- == 参考文献 == -->


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[花被]]、[[花冠]]、[[苞]]
{{Wiktionary}}
<!-- {{Commonscat|Sepal}} -->
* [[花冠]]
* [[苞]]


<!-- == 外部リンク == -->
== 外部リンク ==
{{Commonscat|Calyx (botany)|萼}}
{{Commonscat|Pappus (botany)|冠毛}}
*福原 達人 (2020) [https://staff.fukuoka-edu.ac.jp/fukuhara/keitai/6-1.html 6-1. 花を構成する要素.] ''[https://staff.fukuoka-edu.ac.jp/fukuhara/keitai/ 植物形態学.]'' 福岡教育大学. (2021年2月5日閲覧)
* [https://jspp.org/hiroba/q_and_a/?key=%E8%90%BC&target=full 萼に関する記事.] 植物Q&A. [https://jspp.org/hiroba/ みんなのひろば.] 日本植物生理学会. (2021年2月27日閲覧)


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2021年3月16日 (火) 14:46時点における版

モモノハギキョウ (キキョウ科) の花とつぼみの萼 (矢印)
モモノハギキョウ (キキョウ科) の花とつぼみの萼 (矢印)
マンテマ属 (ナデシコ科) の花とつぼみの萼 (矢印)
マンテマ属 (ナデシコ科) の花とつぼみの萼 (矢印)

がくガク (蕚は異体字: calyx, pl. calyces) とは、において最も外側にあり、その内側の花冠とは明らかに色・大きさなどが異なる葉的な要素に対する集合名称である[1][2][3][4][5] (右図)。萼を構成する個々の要素は、萼片がく片ガク片 (: sepal) とよばれる[1][2][3][4][5]

を構成する要素のうち、ふつう萼片は最も的な特徴をもち、緑色で気孔をもつことが多い。萼は、ふつう開花前の花 (つぼみ) において、他の花要素を保護する役割を担うが (右図)、目立つ色・大きさで送粉者を誘引するもの (ガクアジサイなど) や、果実の発達を補助するもの、花後に発達して種子散布に寄与するもの (タンポポなど) もある。また果実に残っている萼 (と花托の一部) は、一般名としてへた (蔕) とよばれることがある[6][7][8] (イチゴカキトマトなど)。

特徴

において、雄しべ雌しべの外側にある非生殖性 (花粉胚珠をつけない) の葉的要素は、花被片とよばれる。花被片のうち、花の最外輪にあり、その内側の花被片とは明らかに色や質、大きさが異なるものは、萼片 (がく片、ガク片) とよばれる[1][2][3][4] (この場合、内側の花被片は花弁とよばれ、このような花は異花被花とよばれる)。1つの花にある萼片の集合は、 (がく、ガク) とよばれる[1][2][3][4] (上図、下図1)。

萼片の配置や数は種によって決まっている。萼片はふつうの最も外側に1輪にならんで輪生しており、その内側にならんでいる花弁とは互い違いに配列している (互生)[2][3][9] (下図1a–d)。数はふつう2枚 (下図5a)、3枚 (下図1a)、4枚 (下図1b)、または5枚 (下図1c, d) である。例外的に、不特定数の萼片がらせん状に配列している例 (ナンテンなど) もある (下図1e)。

1a. サジオモダカ (オモダカ科) の花は花弁と互生する3枚の萼片をもつ.
1b. チョウジタデ属 (アカバナ科) の花は花弁と互生する4枚の萼片をもつ.
1c. クロバナロウゲ属 (バラ科) の花は花弁と互生する5枚の萼片をもつ.
1d. アケボノソウ (キキョウ科) の花は花弁と互生する5枚の萼片をもつ.
1e. ナンテン (メギ科) の花とつぼみ. 萼片は小型で螺生する.

ふつう萼はの要素の中で最も的な特徴を示す[1][3][4][10][9]。多くの場合、萼は緑色で光合成を行い、気孔が存在する (下図2a)。またふつう3本の主脈がある[4]。萼は、ふつう開花前の (つぼみ) において、他の花要素を覆って保護している[3][7][11] (下図2b)。また、花後の萼が果実の発達や種子散布に寄与する場合もある (下記参照)。

一部の植物は、花弁のように目立つ色彩をした萼片をもつ。ヒメウズオダマキでは、萼片が花弁と同程度、またはより目立つ[12] (下図2c)。トリカブトでは、外側から見える派手な部分は全て萼片であり、花弁は萼片に覆われて外からは見えない[12] (下図2d)。またガクアジサイなどでは一部の花 (花の集まりにおいて周縁部に位置する花であり、装飾花とよばれる) の萼が大きく派手である[2][13]。このような派手な萼は、送粉者 (花粉媒介する昆虫や鳥) に対する広告塔としても機能している[11]園芸品種アジサイでは、このように萼が発達した花のみをつけるものが多い[2] (上図2e)。

2a. フラサバソウ (オオバコ科) の萼の表皮には気孔が存在する.
2b. バラ (バラ科) のつぼみ. 萼で覆われている.
2c. ヒメウズ (キンポウゲ科) の花. 萼片が目立ち、花弁雄しべ雌しべを筒状に取り囲んでいる.
2d. トリカブト属 (キンポウゲ科) の花の断面. 萼が目立ち、先端が湾曲した細長い花弁は萼に覆われている.
2e. アジサイ (アジサイ科) の花. 花弁にくらべて萼片が巨大.

ユリのように外側と内側の花被片が類似した色や質、大きさをしている場合 (同花被花)、萼片・花弁とはよばれず、ふつう外花被片・内花被片とよばれる[1][3] (花蓋片ともよばれる[14])。また花被が1輪しかない花 (単花被花) では、目立つ色・大きさをした花被であっても (花冠的な特徴をもっていても)、最外輪にあることからその花被は慣習的に萼とよばれることが多い[1][3][14][15] (例: クレマチスイヌタデオシロイバナなど; 下図3a–d)。ただしこのような花被の多くは、他の花の萼との相同性が必ずしも明らかではないため[16]、花被とよんでいる例もある[17][18]。また近縁種との比較から、明らかに萼が退化したものと考えられる単花被花では、その花被は花冠とよばれる[1] (例: ヤエムグラシャク; 下図3e)。

3a. イノコヅチ属 (ヒユ科) の花は5枚の花被片 (萼片ともよばれる) をもつ単花被花.
3b. ニリンソウ (キンポウゲ科) の花の裏面. 白い花被片 (萼片ともよばれる) が最外輪にある.
3c. ソバ (タデ科) の花は単花被花であり、花冠状の花被 (萼ともよばれる) が最外輪にある.
3d. オシロイバナ (オシロイバナ科) の花は単花被花であり、花冠状の花被 (萼ともよばれる) の基部の萼状の構造は.
3e. シャク (セリ科) の花は萼を欠く単花被花.

を構成する要素は、A, B, C, D, E 遺伝子とよばれるホメオティック遺伝子 (原基がどのような器官になるのかを決める調節遺伝子) の産物の組み合わせによって、その分化が制御されている (ABCモデル)[19]。花芽において、葉状の原基にA遺伝子とE遺伝子が発現することによって、その原基は萼片へと分化する。

いろいろな萼

離片萼と合片萼

萼片が1枚ずつ離生している場合、そのような萼は離片萼 (離片がく、離萼; aposepalous calyx, polysepalous –, chorisepalous –, schizosepalous –, dialysepalous –) とよばれる[1][4][20] (下図4a, b)。離片萼はアブラナ科フウロソウ科オトギリソウ科ハコベ属などに見られる。一方、萼片が多少なりとも互いに合着している場合、そのような萼は合片萼 (合片がく、合萼; gamosepalous calyx, synsepalous –)[1][4][21] とよばれる (下図4c–e)。合片萼はナス科シソ科キキョウ科ナデシコ属などに見られる。合片萼が筒状または壷状の構造となっている場合、これを萼筒 (がく筒; calyx tube) とよぶ[1][2][5] (下図4d, e)。合片萼の場合、ふつう先端側で各萼片が分かれて裂片となっており、このような裂片は萼裂片 (がく裂片; calyx lobe) とよばれる[1][2][5] (下図4c, d)。萼裂片が小さい場合、特に萼歯 (がく歯; calyx teeth) ともよばれる[1] (マメ科など) (下図4e)。

4c. ヒレハリソウ (ムラサキ科) の合片萼 (基部で合着し萼裂片に分かれている).
4d. オドリコソウ (シソ科) の萼筒と細長い萼裂片.
4e. カラスノエンドウ (マメ科) の萼筒と萼歯.

早落萼と宿存萼

ふつう萼はつぼみの際に他の花要素を保護しており、ヒナゲシクサノオウの萼は、ふつう開花時に脱落してしまう早落性 (caducous) である (早落萼、早落がく; 下図5a)[1][3][22]。一方、キイチゴ属スミレ属ツツジ科シソ科ナス科などの萼は、花後も長く残る宿存性 (persistent) である (宿存萼、宿存がく)[1][3][23] (下図5b)。花後に萼が発達して果実を保護するものもおり、ホオズキでは萼が袋状になって果実を包み[1] (下図5c)、ヒシでは果実を包む萼が硬化して鋭い刺を形成する[24] (下図5d)。また花後に発達した萼が、ハエドクソウでは鉤に、ツクバネウツギでは翼に、シラタマノキでは可食部になり (下図5e)、それぞれ種子散布に寄与する[1][25][26]。特殊な萼である冠毛も、種子散布に働くものが多い (タンポポなど; 下記参照)。また果実に残っている萼には、ガス交換や植物ホルモンなどの物質供給を通して、果実の発達・成熟に寄与すると考えられている例もある[7][11]

5a. ヒナゲシ (ケシ科) の開花中の花. 2枚の萼片はすぐに脱落する.
5b. トマト (ナス科) の果実と宿存萼.
5c. ホオズキ (ナス科) の萼で包まれた果実.
5d. ヒシ属 (ミソハギ科) の果実では萼が刺状に発達する.
5e. シラタマノキ (ツツジ科) の萼は花後に発達し果実を包む.

相称性

6a. ゼラニウム (フウロソウ科) の花の裏面. 花冠も萼も放射相称.
6b. シロガネスミレ (スミレ科) の花. 花冠も萼も左右相称.
6c. トキワハゼ (サギゴケ科) の花. 花冠は明らかに左右相称、萼はほぼ放射相称.

花冠と同様に、萼も放射相称 (対称軸が2本以上) のものと左右相称 (対称軸が1本のみ) のものがある。萼の相称性はふつうその花の花冠の相称性に準じており、放射相称花冠をもつ花は放射相称萼を、左右相称花冠をもつ花は左右相称萼をもつことが多い[1] (右図6a, b)。ただし異なる相称性の萼と花冠をもつ種もいる (右図6c)。

7a. キツリフネ (ツリフネソウ科) の花. 後萼片が後方へ張り出し、距になっている.
7b. ノウゼンハレン (ノウゼンハレン科) のつぼみ. 萼片が距を形成している.
7b. 同左 (断面).

ツリフネソウ属の花は3枚の萼片をもつが、そのうちの1つ (後萼片) が袋状になり、後方へ管状に張り出している[27][28] (右図7a)。このような花被の管は (きょ; spur) とよばれ、ふつう花冠に見られるが (サギソウオダマキイカリソウスミレなど)、ツリフネソウ属やノウゼンハレン属では萼が距を形成している (calyx spur; 右図7)。距には蜜が貯まり、そこまで口が届く送粉者を選択することができる。

副萼

8a. イチゴ (バラ科) の果実. 5枚の萼片の外側に5枚の副萼片が互生する.
8b. ハイビスカス (アオイ科) の花の基部. 萼の外側にやや小型の副萼がある.

バラ科の一部 (オランダイチゴ属キジムシロ属; 右図8a) やアオイ科の一部 (ハイビスカスなどフヨウ属; 右図8b) では、萼の外側にさらに萼状の構造が存在する。このような個々の構造を副萼片 (副がく片)、これをまとめて副萼 (副がく; epicalyx, pl. epicalices; calyculus, pl. calyculi; accessory calyx, pl. accessory calyces) とよぶ[1][3][29]。副萼は、萼と共に開花前のを保護している[1]

冠毛

キク科の多くやスイカズラ科の一部では、萼が多数の毛状構造になり (剛毛状、羽毛状など)、花後に果実の先端で発達して種子散布を補助する (下図9a–c)。このような萼は冠毛 (pappus, pl. pappi) とよばれる[1][30][31]。ただしキク科の中には、冠毛が鱗片状のもの (例: ハキダメギク) や刺状のもの (例: センダングサ; 下図9d)、棍棒状のもの (例: ヌマダイコン; 下図9e)、非常に短いもの (例: ヨメナ)、冠毛を欠くもの (例: ヨモギ) もいる[1][32]

9a. タンポポ属 (キク科) の花. 子房上部から多数の冠毛が伸びている.
9b. タンポポ属 (キク科) の冠毛をつけた果実. 花後に冠毛の基部が伸長する.
9c. カノコソウ属 (スイカズラ科) の果実. 冠毛は羽毛状.
9d. アメリカセンダングサ (キク科) の果実. 冠毛は突起状で逆刺がある.
9e. ヌマダイコン (キク科) の果実. 冠毛は棍棒状.

ギャラリー

いろいろな萼

冠毛

脚注

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 清水 建美 (2001). “萼”. 図説 植物用語事典. 八坂書房. pp. 26, 32–36. ISBN 978-4896944792 
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関連項目

外部リンク