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[[第二次世界大戦]]後、旧[[大日本帝国海軍]]の残余艦艇と人員をもとに初期の海上保安庁が創設された。[[連合国 (第二次世界大戦)|連合国]]軍による日本の非武装化政策により、当初の人員は1万名以内、船舶は125隻5万トン以下、武装も小火器のみに限られている<ref>[http://www.nids.go.jp/publication/senshi/pdf/200603/4.pdf 戦後日本の海上防衛力整備(1948~52年) 石田京吾 防衛省防衛研究所]</ref>。創設直後には[[掃海]]活動も重要な任務の一つとされ、その一部は[[朝鮮戦争]]に出動しており、作業中の事故で1名が殉職している。1952年(昭和27年)4月26日に将来的な分離独立までの臨時的措置<ref>NHK報道局「自衛隊」報道班 [[海上自衛隊]]はこうして生まれた―「Y文書」が明かす創設の秘密 P.256~261</ref>として海上保安庁内に旧海軍軍人主体の[[海上警備隊]](Maritime Safety Security Force)<ref>[[中公新書]] [[増田弘]] 自衛隊の誕生 日本の再軍備とアメリカ P.136</ref>が創設され、同年8月1日には掃海部隊も含めて[[保安庁]]の[[警備隊 (保安庁)|警備隊]](Safety Security Force)となり<ref>NHK報道局「自衛隊」報道班 [[海上自衛隊]]はこうして生まれた―「Y文書」が明かす創設の秘密 P.259</ref>、1954年(昭和29年)7月1日の[[防衛庁]]設置に伴い[[海上自衛隊]]に改編された。このとき、「[[海上公安局]]」へ再編される予定であった海上保安庁の本体部分(海上警備隊系統を除く部分)は、組織移行を免れそのまま海上保安庁として存続することとなった。 |
[[第二次世界大戦]]後、旧[[大日本帝国海軍]]の残余艦艇と人員をもとに初期の海上保安庁が創設された。[[連合国 (第二次世界大戦)|連合国]]軍による日本の非武装化政策により、当初の人員は1万名以内、船舶は125隻5万トン以下、武装も小火器のみに限られている<ref>[http://www.nids.go.jp/publication/senshi/pdf/200603/4.pdf 戦後日本の海上防衛力整備(1948~52年) 石田京吾 防衛省防衛研究所]</ref>。創設直後には[[掃海]]活動も重要な任務の一つとされ、その一部は[[朝鮮戦争]]に出動しており、作業中の事故で1名が殉職している。1952年(昭和27年)4月26日に将来的な分離独立までの臨時的措置<ref>NHK報道局「自衛隊」報道班 [[海上自衛隊]]はこうして生まれた―「Y文書」が明かす創設の秘密 P.256~261</ref>として海上保安庁内に旧海軍軍人主体の[[海上警備隊]](Maritime Safety Security Force)<ref>[[中公新書]] [[増田弘]] 自衛隊の誕生 日本の再軍備とアメリカ P.136</ref>が創設され、同年8月1日には掃海部隊も含めて[[保安庁]]の[[警備隊 (保安庁)|警備隊]](Safety Security Force)となり<ref>NHK報道局「自衛隊」報道班 [[海上自衛隊]]はこうして生まれた―「Y文書」が明かす創設の秘密 P.259</ref>、1954年(昭和29年)7月1日の[[防衛庁]]設置に伴い[[海上自衛隊]]に改編された。このとき、「[[海上公安局]]」へ再編される予定であった海上保安庁の本体部分(海上警備隊系統を除く部分)は、組織移行を免れそのまま海上保安庁として存続することとなった。 |
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その後の海上保安庁(Maritime Safety Agency of Japan)は、[[運輸省]]の[[外局]]を経て、2001年の[[中央省庁再編]]後には[[国土交通省]]の外局となり、日本の[[領海]]および[[排他的経済水域]]上においての[[警察]]権を有する法執行機関となった。現在では"JCG = Japan Coast Guard"と、[[準軍事組織]]である[[アメリカ沿岸警備隊]]("USCG = United States Coast Guard")を連想させる英語名を称しているが、沿岸警備隊の分類の中では海上警察機関系(海上保安庁職員のうち[[海上保安官]]は、[[海上保安庁法]]に基づく[[特別司法警察職員]]である)に分類される<ref>[http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/document/2003/1/20030108.pdf 国会図書館リファレンス 海上警察機関の領海警備活動] </ref>。海上保安庁法第25条により軍隊としての活動を認められておらず、準軍事組織として運営されている他国のコーストガードとは法制上は一線を画しているが、一方で[[自衛隊法]]80条により有事の場合は海保組織の全部または一部を防衛大臣の指揮下に置くことを認めている<ref> |
その後の海上保安庁(Maritime Safety Agency of Japan)は、[[運輸省]]の[[外局]]を経て、2001年の[[中央省庁再編]]後には[[国土交通省]]の外局となり、日本の[[領海]]および[[排他的経済水域]]上においての[[警察]]権を有する法執行機関となった。現在では"JCG = Japan Coast Guard"と、[[準軍事組織]]である[[アメリカ沿岸警備隊]]("USCG = United States Coast Guard")を連想させる英語名を称しているが、沿岸警備隊の分類の中では海上警察機関系(海上保安庁職員のうち[[海上保安官]]は、[[海上保安庁法]]に基づく[[特別司法警察職員]]である)に分類される<ref>[http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/document/2003/1/20030108.pdf 国会図書館リファレンス 海上警察機関の領海警備活動] </ref>。海上保安庁法第25条により軍隊としての活動を認められておらず、準軍事組織として運営されている他国のコーストガードとは法制上は一線を画しているが、一方で[[自衛隊法]]80条により有事の場合は海保組織の全部または一部を防衛大臣の指揮下に置くことを認めている<ref>[http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S29/S29HO165.html]</ref>。[[海岸|海岸線]]の長さは世界第6位、領海と排他的経済水域の合計面積も世界第6位、さらに[[G7]]の一角を担う世界第3位の経済大国であるなどという国状から組織の規模も大きく、2010年時点の人員は約12,000名、400隻を超える船艇と70機以上の航空機を保有している。諸外国との共同訓練も積極的に行っており、その任務の遂行能力は高く評価され「世界有数のコースト・ガード」<ref>海上保安庁のすべて 海人社 雑誌コード 05604-11 P97 三宅教雄</ref>と評される。 |
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現在は、不審船問題などから高速で重装備の[[巡視船]]の配備、海上自衛隊との様々な面での連携強化などが課題<ref>[http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ampobouei/dai9/9siryou7.pdf テロ対処・不審船対処能力の現状及び問題点等について 海上保安庁 平成16年9月 P13]</ref>となっている。 |
現在は、不審船問題などから高速で重装備の[[巡視船]]の配備、海上自衛隊との様々な面での連携強化などが課題<ref>[http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ampobouei/dai9/9siryou7.pdf テロ対処・不審船対処能力の現状及び問題点等について 海上保安庁 平成16年9月 P13]</ref>となっている。 |
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2017年1月11日 (水) 01:14時点における版
沿岸警備隊(えんがんけいびたい、英: Coast Guard)は、主に主権のおよぶ海洋や内水域(河川・湖沼)での哨戒・警備救難活動を行う組織。
軍事組織として位置づけられる場合は、警備艦や警備艇と呼ばれる各種の哨戒艦艇や航空機を保有し、自国の港に活動拠点を構えるのが普通である。任務の関連性から海軍や警察、税関とは密接な関係を持つ事が多い。アメリカ沿岸警備隊では哨戒任務に当たる艦艇はカッターと呼ばれ、台湾では巡防艦や巡防艇、韓国では警備艦や警備艇、日本では巡視船や巡視艇と呼ばれる船舶が業務に従事している[1]。
国によって沿岸警備隊の組織は異なり、沿岸警備隊を設けずに海軍が任務を遂行している国もある[2]。また、海軍の一部として設置する国もある。国境警備隊と同様に準軍事組織の一種として設置されることもあり、この場合には、平時には海軍に代わって領海内や内水域(河川・湖沼)での警備救難活動を行ない、戦時に海軍とともに戦闘を行う。また、新興国では海軍を設置せずに沿岸警備隊のみを設置する国もある。
任務
海軍が領海防衛に注力するのに対し、沿岸警備隊は主として領海内における警備・警察任務を遂行する。これは専門性の問題とともに、海軍の軍艦に代わって文民の海上警察組織などが警察任務を担当することで、周辺諸国との緊張を招かないようにするためである。ただし、純粋な文民の沿岸警備組織は少なく、通常は準軍事組織・軍事組織の性格を持つもの場合が多い。
外国との緊張関係に配慮する例として、日本の海上自衛隊は海上警備行動発令時などの有事でなければ逮捕権や捜査権は無く、海上において発生した事件を捜査し、容疑者を逮捕できるのは行政機関である海上保安庁の役割となっている。
世界各国において設置されている沿岸警備隊の基本的な任務は、次の3つに集約される:
ただし、これらのみに限られるのでは無く、アメリカ沿岸警備隊(USCG)のように海軍の支援部隊として戦闘地域における臨検活動といった軍事的任務に就く場合もあり、逆にイギリス王立沿岸警備隊の様に捜索・救難活動のみに限定されている場合もある。なお、イギリス海軍は沿岸警備を行なっており、民間船舶に対しても日本の海上保安庁と同様に密輸船・密漁船等などの臨検も行なう。
領海内における警備活動
以下の3つに分けられる:
- 密輸船・密漁船等の犯罪船舶の取締
- 領海内を航行中の船内における一般的刑事事件の捜査
- 航路における船舶交通の監視と取締等
1. は沿岸警備隊の最も重要な任務の一つであり、たとえばアメリカ沿岸警備隊はカリブ海経由の麻薬密輸問題に最も力を入れている。日本においても麻薬・覚醒剤の密輸を水際で阻止する役割として海上保安庁は重要であり、さらに最近は不審船(工作船)問題や不法入国者を乗せた密輸船の取締対策が重要になりつつある。また、世界各国において重装備の海賊船が領海・公海を跋扈するケースが相次いでいるため、これらに対する商船の防衛と海賊船の取締も国際的な課題となっている(2004年現在)。
近年では海洋資源保護の必要性も高まっており、担当省庁と連携して、密漁や廃棄物の不法投棄などの監視・摘発の任務も重要なものとなっている。
1. に比べ、3. は地味であるが省く事のできない任務である。航路の警戒のために各国の沿岸警備隊は哨戒艦艇の多くを割いており、安全で順調な航行を可能とするために努力を払っている。
領海内及び排他的経済水域における捜索救難活動(SAR, Search And Rescue)
領海を航行している船舶の海難事故に際して、捜索活動と適切な救助活動を行なう。多くの沿岸警備隊は、この捜索活動のために長距離飛行可能な大型固定翼機を保有し、事故を起こした船からの緊急信号も含めて事故の現場と規模の確認を行なう。 広い領海を持つ日本においては、海上保安庁のみでは困難なため、自衛隊で設けられた救難区域(Search and Rescue Region)を担当する航空自衛隊の救難隊や海上自衛隊の救難部隊などが捜索救難活動に協力しており、東シナ海の離島では陸上自衛隊第15飛行隊が医療支援活動として患者の緊急搬送に協力している。
タンカーの事故においては、石油製品や化学薬品が海洋の広範囲にわたって流出し、深刻な海洋汚染をもたらす場合も多い。流出した石油製品等の回収・中和等も沿岸警備隊の重要な任務である。
戦時における戦闘
戦時に領海を警備することはこれすなわち軍事行動であり、交戦資格を有する。指揮系統を一本化するために戦時に海軍に編入される事も多い。
領海内の水路啓開・測量・ブイ設置工事
領海内の水路啓開・測量・ブイ設置工事も、多くの国において沿岸警備隊の任務となっている。日本においては戦前は沿岸警備隊を設置せず海軍が測量任務を遂行していたが、戦後は軍事的な測量を別として、海図の作成、潮流の測定、海底地形の測定など海上交通に必要な調査は海上保安庁(海洋情報部)が行なっている。また、カナダやアメリカなど、一部もしくは全ての領海が流氷によって閉ざされる場合には、沿岸警備隊の保有する砕氷船が流氷を破壊して冬季の航路を確保する。
科学調査
一部の国では海洋調査の延長として領海内における海洋や島嶼部の生態調査など科学調査の支援として、科学者や機材の輸送を担当することもある。財政的な理由で海洋調査船を所有できない途上国だけでなく、コストカットのため稼働時間が少ない専用船を廃止し、必要時に沿岸警備隊の船を利用する先進国もある。
アメリカ沿岸警備隊は南極観測船の運用など領海外における科学調査の支援も担当している。
各国の沿岸警備隊
日本
第二次世界大戦後、旧大日本帝国海軍の残余艦艇と人員をもとに初期の海上保安庁が創設された。連合国軍による日本の非武装化政策により、当初の人員は1万名以内、船舶は125隻5万トン以下、武装も小火器のみに限られている[3]。創設直後には掃海活動も重要な任務の一つとされ、その一部は朝鮮戦争に出動しており、作業中の事故で1名が殉職している。1952年(昭和27年)4月26日に将来的な分離独立までの臨時的措置[4]として海上保安庁内に旧海軍軍人主体の海上警備隊(Maritime Safety Security Force)[5]が創設され、同年8月1日には掃海部隊も含めて保安庁の警備隊(Safety Security Force)となり[6]、1954年(昭和29年)7月1日の防衛庁設置に伴い海上自衛隊に改編された。このとき、「海上公安局」へ再編される予定であった海上保安庁の本体部分(海上警備隊系統を除く部分)は、組織移行を免れそのまま海上保安庁として存続することとなった。
その後の海上保安庁(Maritime Safety Agency of Japan)は、運輸省の外局を経て、2001年の中央省庁再編後には国土交通省の外局となり、日本の領海および排他的経済水域上においての警察権を有する法執行機関となった。現在では"JCG = Japan Coast Guard"と、準軍事組織であるアメリカ沿岸警備隊("USCG = United States Coast Guard")を連想させる英語名を称しているが、沿岸警備隊の分類の中では海上警察機関系(海上保安庁職員のうち海上保安官は、海上保安庁法に基づく特別司法警察職員である)に分類される[7]。海上保安庁法第25条により軍隊としての活動を認められておらず、準軍事組織として運営されている他国のコーストガードとは法制上は一線を画しているが、一方で自衛隊法80条により有事の場合は海保組織の全部または一部を防衛大臣の指揮下に置くことを認めている[8]。海岸線の長さは世界第6位、領海と排他的経済水域の合計面積も世界第6位、さらにG7の一角を担う世界第3位の経済大国であるなどという国状から組織の規模も大きく、2010年時点の人員は約12,000名、400隻を超える船艇と70機以上の航空機を保有している。諸外国との共同訓練も積極的に行っており、その任務の遂行能力は高く評価され「世界有数のコースト・ガード」[9]と評される。 現在は、不審船問題などから高速で重装備の巡視船の配備、海上自衛隊との様々な面での連携強化などが課題[10]となっている。
アメリカ
アメリカ沿岸警備隊 (USCG = United States Coast Guard) は国土安全保障省の傘下にある組織である。連邦の法執行機関であり、警備及び捜索救難等を任務としている。アメリカ軍の第五の軍(Armed Forces)[11]であるが、戦時には海軍の指揮下に入ることがある。隊員は軍人として統一軍刑法の適用を受け[12]、海軍と同等の階級呼称を使用している。第二次世界大戦やベトナム戦争はもちろん、合衆国が参戦した全ての戦争に派遣され、臨検活動、船団護衛等の任務を遂行した。保有する船舶(警備艦)には76mm砲やCIWSなどを装備し、構造も抗堪性の高い軍艦構造となっている。有事には対艦ミサイルランチャーを装備可能な艦艇もある。(日本の巡視船の場合、ほとんどは商船構造。)
海外で行なわれる合同軍事演習では海軍の参加艦艇としてハミルトン級カッターの姿を目にする事がある。平時の船舶数こそ日本の海上保安庁に劣るものの、長距離の海岸線を保有する事から航空機の整備に力を注いでおり、早期警戒機の能力を有するC-130やP-3を装備して麻薬密輸に対する警戒に充てている。
このほか、運河や航行可能な河川・湖沼が多いため、こうした内水における救難ボートや測量ボート、ブイ設置船を数多く保有する。海岸・河川・湖水の護岸や港湾の整備に関しても沿岸警備隊が責任を持っており、専門の工事・管理部門を保有する。
イギリス
イギリスにおいては、コーストガードを統括する行政機関として海事沿岸警備庁が置かれ、沿岸警備隊(HM Coastguard)は、沿岸での海難事故の捜索救難活動を任務にしており、これらに使用する小型船舶と救難ヘリコプター等を装備するのみである。また、必要な場合はイギリス空軍も海難救助に参加しており、海事沿岸警備庁がこれらの調整を行なっている。
領海警備や海上の治安活動などは、イギリス海軍が、大型哨戒艦(OPV)を用いて沿岸警備を行なっている。
韓国
韓国では国土海洋部(省)の下に海洋警察庁(KCG = Korea Coast Guard)が設置され沿岸警備に当っている。本庁は仁川広域市に置かれ、釜山、仁川、束草、東海、泰安、群山、木浦、莞島、麗水、統営、浦項、蔚山、済州、西帰浦の14か所に海洋警察署が設置されている。
韓国と日本は竹島(韓国名:独島)領有問題を抱えており、日本漁船を拿捕することがある。そもそも、韓国海洋警察が発足した際の主任務は、竹島周辺の日本船舶(漁船や巡視船等)の駆逐による実効支配の強化であった。一方的な李承晩ラインの設定直後から、竹島周辺で300隻以上の日本漁船を不法に銃撃、拿捕し、それにより4,000人近い日本人漁師が韓国側に拉致され、44人が死亡している。日本へ帰国できた者の中には、拉致後に不当な扱いを受け病気になったり、韓国側の拷問によって重症を負った者までいたが、1952年のサンフランシスコ平和条約発行によって日本の主権が回復される前に発生した事案も多く、当時は徹底した追求ができなかった。ただし、これらの日本漁船への不法行為は、海洋警察のみではなく、韓国海軍や民間義勇組織である独島義勇守備隊によるものも含まれている。また、韓国海洋警察による不法行為は竹島周辺だけでない。1961年には、済州島周辺の公海上で韓国の警備艇が日本の漁船を不法に銃撃、拿捕するという事件が複数発生している。たとえば、1961年3月15日には第二進栄丸が、同年3月20日には第二秋田丸が、韓国警備艇に追跡され、警備艇は漁船を攻撃、両船とも拿捕されている。また、これらの事件の際、海上保安庁の巡視船や水産庁の漁業取締船が漁船からの緊急連絡を受けて現場に急行し、漁船を追撃する韓国警備艇に警告を行ったが、警備艇は巡視船と監視船に対し一方的な銃撃を繰り返し、漁船を拿捕、韓国側へ連行している[13]。
ちなみに、韓国海洋警察の任務には、北朝鮮ゲリラの浸透阻止や、海洋環境保全のための海洋汚染監視も含まれている。歴代庁長は警察庁出身者が任用され、人事的には陸の警察と交流が深い。
2014年4月16日に発生したセウォル号沈没事故の海洋警察での救助対応が批判にさらされたことを受け、5月19日朴槿恵大統領は、海洋警察庁の解体と政府組織を刷新することを国会に提案すると発表した[14]。
台湾
中華民国(台湾)では、2000年1月に行政院海岸巡防署(Coast Guard Administration, Executive Yuan)が組織された。この組織は2004年には19,680名を擁し、日本の海上保安庁に勝るとも劣らない規模をもつ。また、単独で省に相当する国家機関であり、責任者の署長は大臣である。国防部海岸巡防司令部、内政部警政署水上警察局を統合し、さらに財政部関税総局の密輸取締船舶(一部)や農業委員会の漁船保護船舶(一部)も統合した組織である。主な内局として、海岸巡防総局(国防部から移行)と海洋巡防総局(水上警察から移行)がある。
海岸巡防総局の下に、4つの地区巡防局が設けられている。北部地区巡防局は、日本と係争している尖閣諸島も形式上管轄する。南部地区巡防局は中国や東南アジア諸国との係争地である南沙諸島(スプラトリー諸島)および中国との係争地である東沙諸島を管轄に含む。このほか、中部、東部地区巡防局が設置されている。いずれも島嶼や海岸を陸上から防衛するため、陸軍出身者によって構成されている。
中国
中国の海洋行政は、公安部が海上公安、国家海洋局が海洋資源、農業部が漁業管理、海関総署が税関業務の戦略を企画・立案し、国家海洋委員会が各機関の戦略を調整し、国家海洋局が公安部の指導を受けながら一元的に中国海警局の名称の下で公船や航空機を運用する体制がとられている[15]。2013年3月に、初代の中国海警局の局長 兼 国家海洋局副局長に公安部の次官を兼務する孟宏偉が就任した[16]。2013年7月に中国海警局の本格的な運用が開始された。ただし、船舶からの汚染物質流失への対応、水路業務などを担当する交通運輸部海事局(船体表示「海巡」)は独立して公船の運用を行う[17]。交通運輸部には捜索救助を専門とする救助打捞(救助サルベージ)局(船体表示「海救」)も存在する。
2013年3月までは、公安部辺防管理局(Border Control Department of Ministry of Public Safety)が所管する中国公安辺防海警部隊(CHINA COAST GUARD、船体表示「中国海警」)、国土資源部が所管する中国海監総隊(船体表示「海監」)、農業部漁業局(船体表示「漁政」)が、別々に公船や航空機の運用を行っていた [18]。同年3月から7月にかけて漸進的に組織の統合が行われた。
トルコ
トルコにおいては、内務省の所属機関であるトルコ沿岸警備隊が、海上警察・遭難救助・海路保全などの任務にあたっている。これらの任務のため、本部のほか、地中海方面司令部・エーゲ海方面司令部・マルマラ海方面司令部・黒海方面司令部・教育センター司令部・航空司令部がおかれている。
準軍事組織ではあるが、陸海空の3軍およびジャンダルマと比較して、国家安全保障評議会に司令官が参加しないなど格下の扱いを受ける。有事には海軍の指揮下に入るものとされている。ただし、もっとも重武装の艦艇ですら機関砲程度の武装であり、大半は小型で非武装の艦艇である。また、哨戒・救難任務のために固定翼機・ヘリコプターを保有しているがこれらも非武装である。
その他の国
- カナダの沿岸警備隊は非軍事組織であり、任務は主にブイ設置や測量、砕氷船による冬季の航路啓開等に限定されている。
- ドイツの沿岸警備隊は国境警備隊のほかに、税関など各々の官庁に分割されており、統一された組織は存在しない。
- フランスにおいては海上憲兵隊が国家憲兵隊の中に組織され、各国の沿岸警備隊と同様の任務を行っている。また、海軍も沿岸警備隊の任務を行うことがある。
- イタリアにも海事組織としてイタリア海軍傘下にイタリア沿岸警備隊は存在こそしているが、その規模および役割は歴史的経緯から限定的なものにとどまっており、代わりに財務警察が巡視船等を運用し、密輸犯、マフィア及び不法移民対策に従事している。
- ロシアにおいてはロシア国境軍が沿岸警備隊の役割を担っている。
- イスラエルの沿岸警備隊は海軍の一部であるが、その活動地域は死海やガリラヤ湖などの国境線を有する内水である。死海を超えてイスラエル領に進入してくるパレスチナゲリラの密入国阻止を狙ったものである。所有するボートはアメリカ製の河川哨戒艇(PBR)などであり、小型だが重武装を施している。
- インドネシア・タイ・フィリピンなど東南アジア各国では、日本の海上保安庁をモデルとした沿岸警備組織の設立に力を入れている。これは重要な通商航路があることから海賊行為が多発しているためであるが、海軍の整備では日本からのODAを受けられないという事情もあり、あえて軍から独立した海上警察系の組織として整備される予定である。
- マレーシア 海上法執行庁(Malaysian Maritime Enforcement Agency)は、それまで多くの国内関連機関が沿岸警備任務を分担していたが、細分化されすぎた業務の非効率性が目立ったため、全く新たな組織としてマレーシア行政府(Malaysian Civil Service)の下に領海内と公海上での国内法・国際法の執行と捜索救助その他の任務を遂行するため、2005年2月15日設立・同年11月30日に活動を開始した。国内6つの本支部を持つ。有事には大臣の命令で国軍の指揮下に入る。[2]
- シンガポール ポリスコーストガード(Police Coast Guard, PCG)はシンガポール警察軍の一部署である。1993年にシンガポール共和国海軍から沿岸警備部門が移管された時点では、海兵警察(Marine Police)と呼ばれていたが、やがて組織再編のとともに沿岸警察(Police Coast Guard)と改名され、警察部隊として、水上警察活動と沿岸警備任務を併せもつ、世界的にも特殊な形態の法執行機関の一つとなった。46t級のボート12艇が最大で他94艇の比較的小さな(艇長20-11m)警備艇を有する。[3]
- ノルウェー沿岸警備隊(Kystvakten)は、ノルウェー海軍傘下の組織であるが、装備の扱いは独立している。平時には漁業保護を中心としている。
- ルーマニアにおいては内務管理省傘下のルーマニア国境警察が沿岸警備隊と同様の役割を果たしている。
- オーストラリアでは統一した組織はなくオーストラリア税関・国境警備局の沿岸監視隊やオーストラリア海軍の哨戒艇群が沿岸警備隊と同様の役割を果たしている。現在、統一した組織を創設しようとしているが、実現のめどはたっていない。
沿岸警備隊と同種組織の一覧
- 海上保安庁(Japan Coast Guard)
- 沿岸警備隊(USCG : United States Coast Guard)
- 沿岸警備隊(CCG : Canadian Coast Guard)
- 連邦保安庁国境警備局(旧:連邦国境警備庁)
- 海洋警察庁(KCG : Korea Coast Guard)
- 中国海警局(CHINA COAST GUARD、略称「中国海警」)
- 行政院海岸巡防署(CGA : Coast Guard Administration, Executive Yuan)
- 国家憲兵隊海上憲兵隊(Gendarmerie Maritime)
- 沿岸警備隊(Guardia Costiera)
- 沿岸警備隊 (Kystvakten)
- 沿岸警備隊 (Kustbevakningen)
- 沿岸警備隊 (kustwacht)
- 沿岸警備隊(ICG : Indian Coast Guard)
- 沿岸警備隊(Bangladesh Coast Guard)
- 沿岸警備隊(Pakistan Coast Guard)
- 海上警察(Indonesian Marine Police)(海上治安調整機構の設立準備中)
- 海上法執行庁(Malaysian Maritime Enforcement Agency)(2005年11月発足。旧:海上警察)
- 沿岸警備隊(PCG : Philippine Coast Guard)
- 国家海上保安隊(National Maritime Service)
- 警察沿岸警備隊
- 海上警察(Vietnam Marine Police)
- 水上警察(Royal Thai Marine Police)
- 沿岸警備隊(Sahil Güvenlik)
- ドイツ連邦警察局 (Deutsche Küstenwache)
- 沿岸警備隊 (Grenadian Coast Guard)
- 沿岸警備隊(Hellenic Coast Guard)
- 沿岸警備隊(Sri Lanka Coast Guard)
- 防衛局(Tonga Defence Serevices)
- 水上警察(Prefectura Naval Argentina)
- 沿岸警備隊(Haitian Coast Guard)
- 沿岸警備隊(Royal New Zealand Coastguard)
- 国家警備隊(Guarda Nacional Republicana)
- グアルディア・シビル(Guardia Civil)
- 国境警備隊(Suomen rajavartiolaitos)
脚注
- ^ http://www.kaiho.mlit.go.jp/shitugi/faq/faq5.html
- ^ 国会図書館リファレンス 海上警察機関の領海警備活動
- ^ 戦後日本の海上防衛力整備(1948~52年) 石田京吾 防衛省防衛研究所
- ^ NHK報道局「自衛隊」報道班 海上自衛隊はこうして生まれた―「Y文書」が明かす創設の秘密 P.256~261
- ^ 中公新書 増田弘 自衛隊の誕生 日本の再軍備とアメリカ P.136
- ^ NHK報道局「自衛隊」報道班 海上自衛隊はこうして生まれた―「Y文書」が明かす創設の秘密 P.259
- ^ 国会図書館リファレンス 海上警察機関の領海警備活動
- ^ [1]
- ^ 海上保安庁のすべて 海人社 雑誌コード 05604-11 P97 三宅教雄
- ^ テロ対処・不審船対処能力の現状及び問題点等について 海上保安庁 平成16年9月 P13
- ^ 10 U.S.C. § 101(a)(4): The term "armed forces" means the Army, Navy, Air Force, Marine Corps, and Coast Guard.
- ^ 10 U.S.C. Chapter 47.
- ^ 韓国警備艇による日本漁船および巡視船への銃撃等に対する抗議、1961年3月25日、日本外交主要文書・年表(2),338頁.外務省情報文化局「外務省公表集,昭和36年上半期」,55-7頁
- ^ “韓国大統領、海洋警察庁を解体へ 沈没事故の対応不十分”. 朝日新聞. (2014年5月19日) 2014年6月4日閲覧。
- ^ 中国 海洋局の権限強化 権益確保へ部局一元化、東京新聞 2013年3月11日
- ^ 公安次官が国家海洋局ナンバー2を兼務「中国海警」を指揮 、日本経済新聞 2013年3月19日
- ^ 中国、尖閣監視機能を一本化 国家海洋局を強化、Sankeiニュース 2013年3月10日
- ^ 中国安全保障レポート2011 - 防衛省防衛研究所
関連項目
外部リンク
- 海上保安庁公式サイト
- 米国沿岸警備隊公式サイト(英語)
- 韓国海洋警察庁公式サイト(韓国語及び英語)
- 中華民国(台湾)行政院海岸巡防署公式サイト(中国語及び英語)