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大気中のメタンは二酸化炭素の20倍超もの[[温室効果]]があると言われており<ref name="NorthPole" />、メタンハイドレートは放置したままでも海水温の変化や海流の影響で僅かずつメタンを乖離し、そのメタンは自然と海中から大気中に放出されてしまうため、積極的に開発し、利用して温暖化効果を抑制すべきだとする意見が存在する。このメタンによる温室効果は最終的には数千兆円もの損害を与える可能性が指摘されている<ref name="NorthPole">{{Cite web|title = 北極温暖化でメタン放出、さらに加速し6千兆円損害「時限爆弾」と研究チーム|url = http://sankei.jp.msn.com/science/news/130730/scn13073011470001-n1.htm|publisher = 産経新聞|date = 2013-07-30|accessdate = 2013-08-15}}</ref><ref name="dollar">{{Cite web|title = 永久凍土が溶けたときの被害額は何と60兆ドル!?|url =http://wired.jp/2013/08/31/gas-disaste/|publisher = WIRED|date = 2013-08-31|accessdate = 2013-09-27}}</ref>。 |
大気中のメタンは二酸化炭素の20倍超もの[[温室効果]]があると言われており<ref name="NorthPole" />、メタンハイドレートは放置したままでも海水温の変化や海流の影響で僅かずつメタンを乖離し、そのメタンは自然と海中から大気中に放出されてしまうため、積極的に開発し、利用して温暖化効果を抑制すべきだとする意見が存在する。このメタンによる温室効果は最終的には数千兆円もの損害を与える可能性が指摘されている<ref name="NorthPole">{{Cite web|title = 北極温暖化でメタン放出、さらに加速し6千兆円損害「時限爆弾」と研究チーム|url = http://sankei.jp.msn.com/science/news/130730/scn13073011470001-n1.htm|publisher = 産経新聞|date = 2013-07-30|accessdate = 2013-08-15}}</ref><ref name="dollar">{{Cite web|title = 永久凍土が溶けたときの被害額は何と60兆ドル!?|url =http://wired.jp/2013/08/31/gas-disaste/|publisher = WIRED|date = 2013-08-31|accessdate = 2013-09-27}}</ref>。 |
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[[アメリカ地質調査所]]等はメタンハイドレート開発によって発生するメタンのうち回収しきれずに大気中に放出されるメタンが気候変動にさらに大きな影響をもたらす可能性があることを警告している<ref>{{Cite web|title = Japan's 'frozen gas' is worthless if we take climate change seriously|url = http://www.theguardian.com/environment/georgemonbiot/2013/mar/14/japan-gas-climate-change|publisher = ガーディアン|date = 2013-03-14|accessdate = 2013-08-17}}</ref><ref>[http://worldoceanreview.com/en/wor-1/ocean-chemistry/climate-change-and-methane-hydrates/ Climate change impacts on methane hydrates] - world ocean review</ref>が、前述のように開発せずに放置した場合の弊害も大きいとされる。[[アメリカ合衆国エネルギー省]]国立エネルギー研究所メタンハイドレート開発技術マネージャーのレイ・ボズウェルは特に表層型のメタンハイドレートは回収不能なメタン放出の危険性が高く、安易に開発を進めることは好ましくないとしており<ref>[http://www.greeningofoil.com/post/Methane-hydrate-a-future-clean-energy-source.aspx Methane hydrate: a future clean energy source?] - greening of oil</ref>、これはメタンハイドレートを温度を下げずに回収する仕組みを考案することで回避可能である。なおメタンの大気中の滞留期間は12年程度、二酸化炭素は5年から200年と解析方法によって差がある<ref>{{Cite web|title = 大気・海洋環境観測報告>二酸化炭素|url = http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/cdrom/report/html/2_1.html |publisher = 気象庁|accessdate = 2013-10-21}}</ref><ref>{{Cite web|title = 大気・海洋環境観測報告>メタン|url = http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/cdrom/report/html/2_2.html |publisher = 気象庁|accessdate = 2013-10-21}}</ref><ref>{{Cite book |author = 鳥海光弘 |coauthors = 田近英一 |year = 1996年 |title = 地球システム科学 |publisher = 岩波書店 |page = 22-37 |isbn = |
[[アメリカ地質調査所]]等はメタンハイドレート開発によって発生するメタンのうち回収しきれずに大気中に放出されるメタンが気候変動にさらに大きな影響をもたらす可能性があることを警告している<ref>{{Cite web|title = Japan's 'frozen gas' is worthless if we take climate change seriously|url = http://www.theguardian.com/environment/georgemonbiot/2013/mar/14/japan-gas-climate-change|publisher = ガーディアン|date = 2013-03-14|accessdate = 2013-08-17}}</ref><ref>[http://worldoceanreview.com/en/wor-1/ocean-chemistry/climate-change-and-methane-hydrates/ Climate change impacts on methane hydrates] - world ocean review</ref>が、前述のように開発せずに放置した場合の弊害も大きいとされる。[[アメリカ合衆国エネルギー省]]国立エネルギー研究所メタンハイドレート開発技術マネージャーのレイ・ボズウェルは特に表層型のメタンハイドレートは回収不能なメタン放出の危険性が高く、安易に開発を進めることは好ましくないとしており<ref>[http://www.greeningofoil.com/post/Methane-hydrate-a-future-clean-energy-source.aspx Methane hydrate: a future clean energy source?] - greening of oil</ref>、これはメタンハイドレートを温度を下げずに回収する仕組みを考案することで回避可能である。なおメタンの大気中の滞留期間は12年程度、二酸化炭素は5年から200年と解析方法によって差がある<ref>{{Cite web|title = 大気・海洋環境観測報告>二酸化炭素|url = http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/cdrom/report/html/2_1.html |publisher = 気象庁|accessdate = 2013-10-21}}</ref><ref>{{Cite web|title = 大気・海洋環境観測報告>メタン|url = http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/cdrom/report/html/2_2.html |publisher = 気象庁|accessdate = 2013-10-21}}</ref><ref>{{Cite book |author = 鳥海光弘 |coauthors = 田近英一 |year = 1996年 |title = 地球システム科学 |publisher = 岩波書店 |page = 22-37 |isbn = ISBN 4-00-010722-4}}</ref><ref>{{Cite web|title = メタンとは何か?|url = http://www.mh21japan.gr.jp/mh/01-2/|publisher = メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム|accessdate = 2013-09-17}}</ref>。温暖化ガスに地震で放出されるメタンも考慮すべきとの論もある<ref name="Leakage">{{cite news|title = 地震で海底地層中のメタンガス漏出する可能性、研究|url = http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2958735/11102587|publisher = AFPBB News|date = 2013年7月29日| accessdate = 2013年8月15日}}</ref>。 |
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また、[[地球温暖化]]が進むと海水温がさらに上昇し、やがてこれまでは海底で安定状態にあったメタンハイドレートからメタンが乖離され大気中に放出される。するとさらに温暖化がすすみ海水温を上げ、さらに多くのメタンが吐き出される悪循環を起こすことが予測されている。2億5千万年前の[[P-T境界]]では、この現象が実際におこり、大量絶滅をより深刻なものにしたという説もある<ref>[[NHKスペシャル]] [[地球大進化]]〜46億年・人類への旅〜第4集。</ref>。[[青山千春]]は、氷期の海退による水圧減がメタンハイドレートの分解をもたらし、間氷期に移行するきっかけになっていることが最近の研究で明らかになっているとしており{{Sfn|青山|2013|pp=106-107}}、松本良は、地球環境の変動はメタンハイドレートの安定性に大きく支配されているとした「ガスハイドレート仮説」を提唱している{{Sfn|松本|2009|pp=72-75}}<ref>{{Cite journal|和書|author=松本良|year=1996|title=炭酸塩の炭素同位体組成異常の要因と新しいパラダイム『ガスハイドレート仮説』|journal=地質学雑誌|vol=101|pages=902-924}}</ref>。 |
また、[[地球温暖化]]が進むと海水温がさらに上昇し、やがてこれまでは海底で安定状態にあったメタンハイドレートからメタンが乖離され大気中に放出される。するとさらに温暖化がすすみ海水温を上げ、さらに多くのメタンが吐き出される悪循環を起こすことが予測されている。2億5千万年前の[[P-T境界]]では、この現象が実際におこり、大量絶滅をより深刻なものにしたという説もある<ref>[[NHKスペシャル]] [[地球大進化]]〜46億年・人類への旅〜第4集。</ref>。[[青山千春]]は、氷期の海退による水圧減がメタンハイドレートの分解をもたらし、間氷期に移行するきっかけになっていることが最近の研究で明らかになっているとしており{{Sfn|青山|2013|pp=106-107}}、松本良は、地球環境の変動はメタンハイドレートの安定性に大きく支配されているとした「ガスハイドレート仮説」を提唱している{{Sfn|松本|2009|pp=72-75}}<ref>{{Cite journal|和書|author=松本良|year=1996|title=炭酸塩の炭素同位体組成異常の要因と新しいパラダイム『ガスハイドレート仮説』|journal=地質学雑誌|vol=101|pages=902-924}}</ref>。 |
2016年11月15日 (火) 17:26時点における版
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メタンハイドレート(英: methane hydrate)とは、低温かつ高圧の条件下でメタン分子が水分子に囲まれた、網状の結晶構造をもつ包接水和物の固体である[1]。およその比重は0.9 g/cm3であり、堆積物に固着して海底に大量に埋蔵されている[2]。メタンは、石油や石炭に比べ燃焼時の二酸化炭素排出量がおよそ半分であるため、地球温暖化対策としても有効な新エネルギー源であるとされる(天然ガスも参照。)が、メタンハイドレートについては現時点では商業化されていない。化石燃料の一種であるため、再生可能エネルギーには含まれない。
性状
見た目は氷に似ている。1 m3のメタンハイドレートを1気圧の状態で解凍すると164 m3のメタンガスと水に変わる[3]。解凍する前のメタンはメタンハイドレートの体積の20%に過ぎず、他の80%は水である。分子式は CH4·5.75H2O と表され、密度は0.91 g/cm3である。火をつけると燃えるために「燃える氷」と言われることもある。
水分子で構成される立体網状構造の間隙中にガス分子が位置して安定な固体結晶となっている氷状の物質は包接水和物、ガスハイドレート、あるいは、クラスレートと呼ばれる構造になっている。
ガスハイドレートには、ガスが失われると残された立体網状構造である「包接格子」だけでは格子構造を維持できないもの(ガスハイドレート、クラスレート)と、包接格子だけでも格子構造を維持出来るものがある。メタンハイドレートは「包接化合物」とも呼ばれるクラスレートであり、骨格となる水分子間の5-6 Å(オングストローム、1 Å = 100 pm)程度の隙間に入り込んだガスが出て行くと格子は壊れる。メタンで飽和したメタンハイドレート(structure I hydrate)は、2つの十二面体と6つの十四面体構造をなす46の水分子からなるユニットが8分子のメタンを包接している[4]。
生成過程
メタンハイドレートを構成するメタンの炭素同位体比は比較的小さい値(13C が少ない)を示すデータもあり、これらのメタンは海底熱水系等において確認されている非生物起源のものではなく、堆積物中で有機物の分解によって生じる生物起源のものを主としていると考えられている。
- 生物生成メタン
- メタンハイドレートは大陸周辺の海底に分布しており、大陸から遠く離れた海洋の深部に有意な発見はない。それら分布領域における表層堆積物の特徴は、長い運搬過程を経た粒度の小さい砕屑物や鉱物粒子、火山灰などの他に有機物や有孔虫などの生物遺骸が含まれる海底泥質堆積物である。その海底面(表層)では生物活動による土壌が作られ、土壌の上に新たな堆積物が積み重なり海水の比率が減少するとともに堆積物の続成作用が働く環境となる。堆積作用により表層から埋没後しばらくは硫酸還元菌(例えば Archaeoglobus、Desulforudis など)の活動が続き、この活動している地層を硫酸還元帯という。活動時間が長い深部になるほど炭素同位体比(12C : 13C)は大きい値を示す。硫酸塩の枯渇などにより硫酸還元菌の活動が終わると、メタン生成菌の活動が活発になり、メタンと炭酸水素イオンが生成される。ここでは地層深部の圧密作用を受けメタンや炭酸水素イオンを含む水が上層へ移動し、一定の条件下で水分子のかご構造にメタンが入り込みメタンハイドレートとして蓄積される。このメタン醗酵が発生する層では 13C が炭酸水素イオンに濃縮されるため、メタンの炭素同位体比は軽く(13C が少なく)なる[5]。例えば、地球深部探査船「ちきゅう」が南海トラフ海域で採集したボーリングコア・サンプルの分析では、メタン生成菌由来であるとされている[6]。
- 熱水噴出孔などでこれらのメタン産生菌の活動を垣間見ることができる。例えば Methanopyrus やMethanocaldococcus は地底で発生する水素と二酸化炭素からメタンを合成する。この他 Methanocalculus などのメタン産生菌が油田から得られている。
- 熱分解起源メタン
- 地層中深部の高温環境では、有機物が非生物的に分解する。量的には熱分解ガスの方が多いとされ、プレート境界や油田地帯では熱分解起源の天然ガスハイドレートが確認されている。上越沖では、海底下数kmに由来する熱分解起源のメタン由来のメタンハイドレートが海底表面に露出、あるいは海底下百数十mの堆積物中に密集して生成していると推定されている。海底にはメタンプルームがあり、噴出口から数10cm上昇するうちにメタンハイドレートが生成することや大規模な化学合成生物群集が確認されており、メタンプルーム探査がメタンハイドレート資源探査に有効であるとされている[7]。
- 非生物起源説
- メタンはマグマを原料とする火山ガスであり、もっとも単純な炭化水素である。近年、議論が活発になりつつある説。日本国内で産出するメタンを、この説において有力な鉱床となるプレート境界上にあるものとして考えることも可能である[8]。
安定条件
ハイドレートの網状構造を維持するためには、環境が低温かつ高圧であることが求められる。地球上では、シベリアなどの永久凍土の地下数100-1000 mの堆積物中や海底でこの条件が満たされ、メタンハイドレートが存在できる。実際にはほとんどが海底に存在し、地上の永久凍土などにはそれほど多くない。またメタンハイドレートを含有できる深海堆積物は海底直下では低温だが、地中深くなるにつれて地温が高くなるため、海底付近でしかメタンハイドレートは存在できない。また、圧力と温度の関係から同じ地温を成す大陸斜面であれば、深くなるほどメタンハイドレートの含有層は厚くなる。これらの場所では、大量の有機物を含んだ堆積物が低温・高圧の状態におかれ結晶化している。
地表の条件では、分解して吸熱反応を起こす。この時生成される水は氷の薄膜を形成するため、メタンハイドレートは常圧下-20 °C程度でも長く保存できる自己保存性を持つ。
埋蔵域
状況によって異なるがおおむね、大陸棚が海底へとつながる、海底斜面内の水深500-1000 m[9][10](2000mまでとする研究もある)[11]での、地下数十から数百m[10]に存在し、メタンガス層の上部境目に存在するとされている。通常は高圧下でありながら、凍った水分子の篭状の結晶構造に封じ込められている。
日本近海の埋蔵域
2008年現在、日本近海は世界有数のメタンハイドレート埋蔵量を持つとされる。本州、四国、九州といった西日本地方の南側の南海トラフ[10]に最大の推定埋蔵域を持ち、北海道周辺と新潟県沖[3]、南西諸島沖にも存在する[10]。また、日本海側には海底表面に純度が高く塊の状態で存在していることが独立総合研究所[12]、石油天然ガス・金属鉱物資源機構、海洋研究開発機構などの調査よりわかっている。なお、新潟、秋田、京都など日本海沿岸の10府県による「海洋エネルギー資源開発促進日本海連合」は、「日本海側では、一部の地域における学術的な調査の実施にとどまり、開発に向けた本格的な調査・産出試験が実施されていない」として、日本海のメタンハイドレートの開発に向け、経済産業省資源エネルギー庁に予算の確保を要請しており[13]、海洋基本法に合わせて海洋政策の指針とする2013年度「海洋基本計画」では2018年度の商業化と2023年度以降の民間企業主導による商業化を目途として日本海側も調査する方針を示しており[14]、日本海側における表層型の調査を行った結果、新潟県上越沖と能登半島沖だけでメタンハイドレートを含んでいるとみられる特殊な地形をした有望な地点が広範囲に渡り225ヵ所見つかったことが2013年8月に経済産業省により発表され[15][16]、経済産業省資源エネルギー庁が2014年度に採掘調査を計画していることが発表された[17][18]。
また2013年6月には、千島列島と北方領土の大陸棚に最大でガス87兆立方メートル相当のメタンハイドレートが埋蔵されている可能性が高いとして、ロシアの国立研究機関であるロシア科学アカデミー極東地質学研究所露もロシア国営石油大手「ロスネフチ」に開発検討を提案している[19]。また中国では青海地区で350億トンの油に相当するメタンハイドレートが見つかっており、南シナ海には680億トン相当のメタンハイドレートがあるとされており、2013年の6月から9月には、中国国土資源部が広東沿海の珠江口盆地東部の海域で初めて高純度のメタンハイドレート採掘に成功。1000億から1500億立方メートルの天然ガスに相当する資源を確認しており、2030年の商用化を目指していると発表している[20]。
日本近海の埋蔵量
日本のメタンハイドレートの資源量は、1996年の時点でわかっているだけでも、天然ガス換算で7.35兆m3(日本で消費される天然ガスの約96年分)以上と推計されている[21]。
採取方法とその課題
日本では1990年代より太平洋でメタンハイドレートの調査や試掘を実施している[22]。しかし、2002年にアメリカ・ドイツ・カナダ等と共同で実施したカナダ北西準州のマッケンジーデルタでの産出試験や、2014年に経産省所管の石油天然ガス・金属鉱物資源機構が2年間の準備期間を経て実施した愛知県沖での産出試験でも商業化に繋がるような方策は得ることができておらず[23][24]、2015年代においても有効な採掘方法の確立には至っていない。 2012年から3年に渡って日本海側の「表層型」と呼ばれる比較的浅い地層に存在するメタンハイドレートに関する調査が実施されている[25][26]。なお、試掘に関してはかつてバイカル湖で行われていたチャンバーによりメタンハイドレートからメタンを解離させる方法が用いられる[27]。
探査方法
メタンハイドレートの探索に関しては、超音波等を用いた反射法地震探査により海底擬似反射面(BSR)を捉えることが主流な手法であるが[28]、BSR以外に上越沖のような背斜構造やプレート境界、メタンシープ・メタンプルームを手がかりにする方法も提案されている[29]。
メタンの回収方法
回収方法に関しては、以前は採掘の際にメタンハイドレートの存在する地層の温度を上昇させ、メタンハイドレートを溶解させてメタンを回収する加熱法が検討されていたが、この方法はエネルギー効率の解決が困難であったため、近年では採掘の際にメタンハイドレートの存在する地層の圧力を低下させ、メタンハイドレートを溶解させてメタンを回収する減圧法が検証・実験の対象として進められている[30][31]。減圧法による採取はいくつかの成果も出始めているが[32]、この方法にも、減圧によって周辺海底の土砂が崩壊し、回収用のパイプが目詰まりを起こすという解決の難度が高い課題も残されている[33]。 加熱法、減圧法以外にもメタンハイドレートの地層で化学反応を起こしメタンを取り出す方法[34]など様々な提案がされているが、いずれの方法にも解決しなければならない数々の問題が存在する[35][36][37][38]。
輸送技術として
2010年4月には三井造船が世界初の天然ガスハイドレート(NGH)陸上輸送の実証研究を完了している。これは固体のメタンハイドレートをペレット状にして輸送する方式で、LNGに比べて常温付近で製造が可能で、大気圧下-20℃で安定であるため、設備全体を簡便にすることが期待されている[39]。
メタンハイドレートに関する議論
コストパフォーマンスに関して
日本近海で初期に日本政府(メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム)によるメタンハイドレート採取の研究が行われたのは、南海トラフであった。この海域では、海底油田の採掘方法を応用して1999年から2000年にかけて試掘が行われ、調査範囲における分布状況が判明し、総額500億円を費やしたが商業化には至っていない。これは、南海トラフなど太平洋側のメタンハイドレートは、分子レベルで深海における泥や砂の中に混溜しており、探索・採取が困難を極めているからであるとされている[22]。
1990年代に設立されたエネルギー総合工学研究所の、太平洋側で砂層型メタンハイドレートの調査を行ったメタンハイドレート調査委員会で初代調査委員長を務めた石井吉徳は「採掘以外にもメタンハイドレートからメタンを取り出すためにもエネルギーが必要であり、最終的に1のエネルギーを使ってメタンハイドレートから得られるエネルギーは1に満たない。」と主張している[40][41][42]。
地球温暖化
大気中のメタンは二酸化炭素の20倍超もの温室効果があると言われており[43]、メタンハイドレートは放置したままでも海水温の変化や海流の影響で僅かずつメタンを乖離し、そのメタンは自然と海中から大気中に放出されてしまうため、積極的に開発し、利用して温暖化効果を抑制すべきだとする意見が存在する。このメタンによる温室効果は最終的には数千兆円もの損害を与える可能性が指摘されている[43][44]。 アメリカ地質調査所等はメタンハイドレート開発によって発生するメタンのうち回収しきれずに大気中に放出されるメタンが気候変動にさらに大きな影響をもたらす可能性があることを警告している[45][46]が、前述のように開発せずに放置した場合の弊害も大きいとされる。アメリカ合衆国エネルギー省国立エネルギー研究所メタンハイドレート開発技術マネージャーのレイ・ボズウェルは特に表層型のメタンハイドレートは回収不能なメタン放出の危険性が高く、安易に開発を進めることは好ましくないとしており[47]、これはメタンハイドレートを温度を下げずに回収する仕組みを考案することで回避可能である。なおメタンの大気中の滞留期間は12年程度、二酸化炭素は5年から200年と解析方法によって差がある[48][49][50][51]。温暖化ガスに地震で放出されるメタンも考慮すべきとの論もある[52]。
また、地球温暖化が進むと海水温がさらに上昇し、やがてこれまでは海底で安定状態にあったメタンハイドレートからメタンが乖離され大気中に放出される。するとさらに温暖化がすすみ海水温を上げ、さらに多くのメタンが吐き出される悪循環を起こすことが予測されている。2億5千万年前のP-T境界では、この現象が実際におこり、大量絶滅をより深刻なものにしたという説もある[53]。青山千春は、氷期の海退による水圧減がメタンハイドレートの分解をもたらし、間氷期に移行するきっかけになっていることが最近の研究で明らかになっているとしており[54]、松本良は、地球環境の変動はメタンハイドレートの安定性に大きく支配されているとした「ガスハイドレート仮説」を提唱している[55][56]。
メタンハイドレートの調査・採取事例略年表
時期 | 事柄 |
---|---|
1930年代 | シベリアなどの寒地において、天然ガスのパイプライン内にできるガスハイドレート(周辺構造は、メタンハイドレートとほぼ同じ)という現象や物質自体は確認されていた。 |
1960年代 | 永久凍土内で、天然ハイドレートの堆積層が発見された。 |
1967年 | 天然ガスハイドレート岩石資料が世界で初めてシベリアのヤクーチャの永久凍土地帯で採取された。 |
1970年代 | 海底において大量に存在する可能性が予測され、実際に計測が行われた。 |
1974年 | カナダのマッケンジー・デルタで、天然のメタンハイドレートが浅い砂質層に埋蔵されている事が発見された。 |
1980年 | 南海トラフ周辺でメタンハイドレートを発見。 |
1989年 | 奥尻海嶺でサンプル回収。 |
1990年 | 四国沖でサンプル回収。 |
1996年 | アメリカ合衆国内の海底において発見され、具体的研究が進められる。 |
2000年 | 南海トラフでメタンハイドレートの存在を確認。 |
2000年 | 経済産業省に開発検討委員会設置。 |
2001年~2002年 | カナダでメタンハイドレートから世界初のガス産出。 |
2002年 | 日本・カナダ・アメリカ・ドイツ・インドの国際共同研究として、カナダのマッケンジー・デルタ Mallik 5L-38号井において、世界で初めて地下のメタンハイドレート層から地上へのメタンガス回収に成功した。 |
2004年7月 | 日本海側の新潟県上越市直江津港(佐渡島の南西沖)の、海底の深くではなく海底表面にメタンハイドレートが露出している海域で、東京大学と独立総合研究所の共同調査が実施され、ピストンコアリングにより日本海側で初めてメタンハイドレートの天然結晶サンプルの採取に成功[59][60][61][62]。 |
2005年 | 2004年に続き、新潟県上越市沖で海底に露出した試料を取得[63]。東京大学や海洋研究開発機構の研究グループにより新潟県上越市、直江津港の沖合30km付近に海底上(水深約900メートル)に露出しているメタンハイドレートを確認。 |
2008年8月 | 清水建設、北海道大学、北見工業大学、ロシア科学アカデミーは共同でバイカル湖湖底のメタンハイドレートの採取を実施。ウォータージェットで湖底を攪拌、ガスを湖水に溶け込ませて引き揚げる手法により14 m3のガスを採取した。 |
2010年 | 新潟県上越沖で試料採取。 |
2011年~2012年 | 明治大学、北見工業大学の研究・知財戦略機構を拠点に、東京大学などの研究者などが参加して構成している研究共同体・表層ガスハイドレート研究コンソーシアムが、網走沖での深さ約900メートルの海底や、秋田~山形沖、網走沖で試料を採取した[64][65]。 |
2012年2月14日 | 愛知県渥美半島沖から志摩半島南方沖(紀伊半島三重県東紀州沖の熊野灘)の深海でメタンハイドレート掘削試験を日本が開始[66]。 |
2012年2月 | 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC) は、メタンハイドレートから天然ガスを取り出す海洋産出試験に着手すると発表[67]。 |
2012年6月4日~6日 | 兵庫県と独立総合研究所が共同で県の漁業調査船「たじま」と魚群探知機を使用して、香住沖約百数十キロの海域にて埋蔵域を調査するため2度に渡り予備調査を実施[68][69]。 |
2013年3月12日 | 日本の独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と産業技術総合研究所が愛知県と三重県の沖合で、世界で初めて海底からのメタンガスの採取に成功したと発表した[70][71]。 |
2013年7月25日 | 鳥取県の平井伸治知事が定例記者会見で日本海側の資源量を調査する採掘調査が、明治大学を中心とした関連大学共同学術研究チームにより2013年8月から10月にかけ上越沖2海域、秋田山形沖1海域、隠岐東方2海域の計15地点で行われ、このうち1海域が2013年9月下旬に隠岐東方の鳥取県沖で1週間程度行われることを発表した[72][73][74][72][73][74]。 |
2014年6月21日~7月10日 | 資源エネルギー庁が2013年度に実施した広域調査の結果等を踏まえ、有望地点と考えられる上越沖、秋田・山形沖において、調査船を用いたメタンハイドレートを含む地質サンプル取得を実施[75]。経済産業省による初の表層型メタンハイドレートの本格的な地質サンプル取得作業となる[75]。 |
2014年9月19日 | 和歌山県が串本町の潮岬沖で2014年度のメタンハイドレート調査を2015年2月までの期間で実施[76][77][78][79]。 |
2014年10月1日 | 日本メタンハイドレート調査株式会社(Japan Methane Hydrate Operating Co., Ltd.)設立。石油資源開発など11社が出資。砂層型メタンハイドレート開発に関する中長期の海洋産出試験等に参画することを目指し、オールジャパンの組織体制にて効率的、効果的及び円滑に業務遂行する[80][81]。 |
2014年11月6日 | 経済産業省は「メタンハイドレート」の開発で米国と協力し、米アラスカ州で産出試験を進める方針を明らかにした[82]。 |
2014年12月10日 | 北見工業大学が北海道十勝沖で80キロの海域に、「メタンハイドレート」が存在する可能性が高いと発表[83][84][85]。調査は2014年11月22~25日、北大水産学部の練習船「おしょろ丸」を使って、十勝沖約80キロ、水深約1000メートルの海域で実施した[83][84][85]。海底から噴出するメタンプルーム(柱状のメタンの気泡塊)を約20ヵ所で観測し、付近で採取した海底堆積物からもメタンの分解過程で生じる炭酸塩の採取に成功[83][84][85]。 |
2014年12月25日 | 経済産業省が、新潟県の上越沖と秋田・山形の沖合で採掘調査を行い、メタンハイドレートを含む地質サンプルを(政府の調査としては)「日本海側では初めて採取」した[86][87][88]。 |
2015年8月27日 | 産学官による「新潟県表層型メタンハイドレート研究会」が設立される[89]。 |
その他
- メタンハイドレートが溶解したことにより発生するメタンプルームの湧出口付近にはカニの群集が見られる傾向がある、との報告がある[90][91]。
- 和歌山県御坊市の日高港新エネルギーパークにおいてメタンハイドレートの紹介が行われており[92]、一定数以上で事前予約した団体客であれば、人工的に造りだしたメタンハイドレートに触れることができたり、燃焼実験を見学することができる。
脚注
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注釈
参考文献
- 松本良、奥田義久、青木豊『メタンハイドレート―21世紀の巨大天然ガス資源』日経サイエンス、1994年。ISBN 978-4532520298。
- 松本良『エネルギー革命 メタンハイドレート』飛鳥新社、2009年。ISBN 978-4870319288。
- 青山千春、青山繁晴『希望の現場 メタンハイドレート』ワニ・プラス、2013年。ISBN 978-4847091636。
- 石川憲二『海洋資源大国を目指す日本プロジェクト! 海底油田探査とメタンハイドレートの実力』角川新書、2013年9月25日。ISBN 978-4-04-731615-7。
関連項目
外部リンク
- メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム
- メタンハイドレート研究センター 産業技術総合研究所
- 経済産業省
- 総合海洋政策本部
- メタンハイドレート Webサイト「生活環境化学の部屋」