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{{暴力的}} |
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{{Infobox 事件・事故 |
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|名称= 新潟少女監禁事件 |
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|正式名称= |
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|画像= The house that was the scene of the Niigata girl confinement incident, on August 7, 2021.jpg |
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|脚注= 事件現場となった住宅(2021年8月撮影) |
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|場所= {{JPN}}・[[新潟県]] |
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* [[三条市]](被害者少女Aが[[誘拐]]された現場)<ref name="柏崎日報2000-02-12">{{Cite news|title=女性監禁の市内男を逮捕|newspaper=[[柏崎日報]]|date=2000-02-12|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-02-12-1.html|accessdate=2021-01-26|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210126105611/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-02-12-1.html|archivedate=2021年1月26日}}</ref> |
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* [[柏崎市]]四谷一丁目9番28号(加害者宅・監禁現場<!--座標位置-->)<ref name="中日新聞2000-02-12">『[[中日新聞]]』2000年2月12日朝刊一面1頁「女性監禁 37歳男を逮捕 未成年者略取 監禁致傷容疑 被害者の心に傷 新潟県警」([[中日新聞社]])</ref><ref>『[[産経新聞]]』2000年2月12日東京朝刊総合一面1頁「女性監禁の37歳男逮捕 責任問えると判断 未成年者略取容疑など 新潟県警」([[産経新聞東京本社]])</ref> |
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|緯度度=37 |緯度分=22 |緯度秒=11.3988 |
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|経度度=138 |経度分=34 |経度秒=0.9984 |
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| map = Japan Niigata |
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|標的= 帰宅途中の少女 |
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|日付= [[1990年]]([[平成]]2年)[[11月13日]](被害者Aが誘拐される)<ref name="柏崎日報2000-02-12"/> - [[2000年]](平成12年)[[1月28日]](被害者Aを保護)<ref name="新潟日報2020-01-23"/> |
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|時間= |
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|開始時刻= 1990年11月13日17時ごろ{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}} |
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|終了時刻= 2000年1月28日14時ごろ{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}} |
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|時間帯= [[UTC+9]]〈[[日本標準時|JST]]〉 |
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|概要= 小学校から下校途中の少女A(当時9歳)が佐藤宣行によって誘拐され、約9年2か月間にわたり佐藤の自室に監禁された<ref name="中日新聞2000-02-12"/>。佐藤からの暴力により、Aは佐藤宅から逃げ出せず、一連の監禁生活によって両足の筋力低下・骨量減少などの傷害を負った<ref name="柏崎日報2000-03-04">{{Cite news|title=女性監禁事件のS容疑者起訴|newspaper=柏崎日報|date=2000-03-04|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-03-04-1.html|accessdate=2021-01-26|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210126103414/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-03-04-1.html|archivedate=2021年1月26日}}</ref>。<br/>誘拐から9年2か月後の2000年1月28日、少女A(当時19歳)は佐藤宅で保健所職員らによって発見・保護された<ref name="新潟日報2020-01-23"/>。 |
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|懸賞金= |
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|原因= |
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|手段= |
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* (誘拐の手段)ナイフを突きつけて車に押し込む{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}} |
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* (監禁中)自宅の一室で被害者Aに対し、[[スタンガン]]などを用いた暴力・脅迫を繰り返し、逃げ出すことを不可能にする{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}} |
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|攻撃側人数= 1人 |
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|凶器= ナイフ(刃体の長さ約13 [[センチメートル|cm]])・[[スタンガン]]{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}} |
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|武器= |
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|兵器= |
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|死亡= |
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|負傷= 1人 |
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|行方不明= |
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|被害者= 小学校4年生の少女(1990年当時9歳) |
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|損害= [[キャミソール]]4枚を[[万引き]](時価合計約2,464円){{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}} |
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|犯人= 佐藤宣行(逮捕当時37歳)<ref name="中日新聞2000-02-12"/> - 2017年ごろに病死<ref name="新潟日報2020-01-23"/> |
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|容疑= |
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|動機= |
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|関与= |
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|防御= |
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|対処= 佐藤宣行を新潟県警が[[逮捕 (日本法)|逮捕]]<ref name="中日新聞2000-02-12"/>・新潟地検が[[起訴]]<ref name="毎日新聞2000-03-04"/> |
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|謝罪= |
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|補償= |
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|賠償= |
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|刑事訴訟= [[懲役]]14年(上告審で[[確定判決|確定]])<ref name="柏崎日報2003-07-11">{{Cite news|title=監禁事件の佐藤被告、懲役14年確定|newspaper=柏崎日報|date=2003-07-11|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2003-07-11-1.html|accessdate=2021-01-26|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210126103053/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2003-07-11-1.html|archivedate=2021年1月26日}}</ref> |
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|少年審判= |
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|海難審判= |
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|民事訴訟= |
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|影響= 被害者Aが保護された直後から、新潟県警の捜査ミス・保健所の不十分な対応などが次々と判明し、当時の新潟県警本部長や[[田中節夫]]([[警察庁長官]])らへの処分が下される事態となった([[#新潟県警の不祥事]])<ref name="1か月経過">『読売新聞』2000年3月4日東京朝刊新潟版第二地方面29頁「S容疑者起訴までの事件の経過」([[読売新聞東京本社]]・新潟支局)</ref>。 |
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|遺族会= |
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|被害者の会= |
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|管轄= |
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* [[新潟県警察]]([[三条警察署]]・[[柏崎警察署]]など) |
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* [[新潟地方検察庁]] |
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}} |
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{{最高裁判例 |
{{最高裁判例 |
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|事件名=略取 |
|事件名=[[略取・誘拐罪|略取]]・[[逮捕・監禁罪#逮捕・監禁致死傷罪|逮捕監禁致傷]]、[[窃盗罪|窃盗]]被告事件 |
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|事件番号=平成15年(あ)第60号、第88号 |
|事件番号=平成15年(あ)第60号、第88号 |
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|裁判年月日=2003年 |
|裁判年月日=2003年(平成15年)7月10日 |
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|判例集=刑集57巻7号903頁 |
|判例集=刑集 第57巻7号903頁 |
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|裁判要旨= |
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|裁判要旨=刑法47条は、併合罪のうち2個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、同条が定めるところに従って併合罪を構成する各罪全体に対する統一刑を処断刑として形成し、修正された法定刑ともいうべきこの処断刑の範囲内で、併合罪を構成する各罪全体に対する具体的な刑を決することとした規定であり、処断刑の範囲内で具体的な刑を決するに当たり,併合罪の構成単位である各罪についてあらかじめ個別的な量刑判断を行った上これを合算するようなことは、法律上予定されていないものと解するのが相当であり、同条が更に不文の法規範として、併合罪を構成する各罪についてあらかじめ個別的に刑を量定することを前提に、その個別的な刑の量定に関して一定の制約を課していると解するのは,相当でないといわざるを得ない。 |
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# 刑法47条は,併合罪のうち2個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは,同条が定めるところに従って併合罪を構成する各罪全体に対する統一刑を処断刑として形成し,その範囲内で各罪全体に対する刑を決することとした規定であって,併合罪の構成単位である各罪について個別的な量刑判断を行うことは,法律上予定されていない。 |
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# 刑訴法495条2項2号にいう「上訴審において原判決が破棄されたとき」とは,当該上訴審における破棄判決が確定した場合をいう。 |
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|法廷名=第一小法廷 |
|法廷名=第一小法廷 |
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|裁判長=深 |
|裁判長=[[深澤武久]] |
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|陪席裁判官=甲斐中辰夫 |
|陪席裁判官=[[甲斐中辰夫]]・[[泉徳治]]・[[島田仁郎]]・[[横尾和子]] |
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|多数意見=全員一致 |
|多数意見=全員一致 |
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|意見=なし |
|意見=なし |
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|反対意見=なし |
|反対意見=なし |
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|参照法条=[[:b:刑法第21条|刑法21条]]、[[:b:刑法第47条|刑法47条]]、[[:b:刑事訴訟法第495条|刑訴法495条2項]] |
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|参照法条=刑法47条 |
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|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50069 |
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'''新潟少女監禁事件'''(にいがたしょうじょかんきんじけん)は、[[1990年]]([[平成]]2年)[[11月13日]]夕方に[[新潟県]][[三条市]]の路上で、少女A(当時9歳・小学校4年生)が佐藤宣行により[[誘拐]]され、約9年2か月間にわたり同県[[柏崎市]]四谷一丁目の加害者宅2階の一室に[[監禁]]された事件<ref name="中日新聞2000-02-12"/>。'''柏崎女性監禁事件'''<ref name="新潟日報2020-01-23"/>、'''三条市の女性監禁事件'''と呼称される場合もある<ref name="新潟地裁2002-01-22"/><ref name="新潟日報2002-12-29"/><ref name="柏崎日報2003-06-13"/>。 |
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約9年2か月後<ref name="新潟日報2020-01-23"/>(3,364日後){{Sfn|松田美智子|2009|p=17}}の[[2000年]](平成12年)[[1月28日]]、加害者である佐藤宣行(当時37歳)の母親から「息子の[[家庭内暴力]]に悩んでいる」と相談を受けた医師や[[保健所]]の職員らが、男を[[医療保護入院|強制入院]]させるために現場の住宅を訪れたところ、同宅2階(佐藤宣行の部屋)で、19歳になっていた被害者少女Aを発見・保護した<ref name="新潟日報2020-01-23"/>。 |
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'''新潟少女監禁事件'''(にいがたしょうじょかんきんじけん)は、[[2000年]][[1月28日]]、[[新潟県]][[柏崎市]]の[[加害者]]宅にて発見・保護された女性が、9年2ヶ月もの長期間の監禁をされていた誘拐事件。 |
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[[新潟県警察|新潟県警]]によって[[逮捕 (日本法)|逮捕]]された佐藤宣行は<ref name="中日新聞2000-02-12"/>、被害者少女Aを誘拐して自宅に長期監禁したとして、[[略取・誘拐罪|未成年者略取]]・[[逮捕・監禁罪#逮捕・監禁致死傷罪|逮捕監禁致傷罪]]で[[起訴]]された<ref name="毎日新聞2000-03-04"/>ほか、Aの監禁中だった[[1998年]](平成10年)10月上旬にAに着せるための衣類を[[万引き]]したとして、[[窃盗罪]]でも追起訴された<ref name="読売新聞2000-06-27">『[[読売新聞]]』2000年6月27日東京朝刊第一社会面39頁「新潟女性監禁事件 地検、S被告を万引きでも追起訴 量刑、最高で15年に」([[読売新聞東京本社]])</ref>。 |
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== 概要 == |
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2000年1月28日、新潟県柏崎市の加害者宅に別件(母親への暴力)で訪れた保健所職員が、中にいた女性を発見・保護に至り、発覚した。 |
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[[裁判|刑事裁判]]では、[[被告人]]佐藤宣行の[[量刑]]と、それに影響する[[併合罪]]の解釈をめぐって[[最高裁判所 (日本)|最高裁]]まで争われたが、[[2003年]](平成15年)に最高裁で[[懲役]]14年の刑が[[確定判決|確定]]<ref name="柏崎日報2003-07-11"/><ref name="日本経済新聞2003-08-13"/>。[[千葉刑務所]]に収監された[[受刑者]]佐藤宣行は{{Sfn|週刊新潮|2015|p=134}}、[[2015年]](平成27年)4月に刑務所を出所したが、[[2017年]](平成29年)ごろに[[千葉県]]内で病死した<ref name="新潟日報2020-01-23"/>。 |
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女性は[[小学校]]4年生だった[[1990年]][[11月13日]]、新潟県[[三条市]]で下校途中に行方不明になっていた。実に9年2ヶ月に及ぶ[[誘拐]][[監禁]]事件であり、社会に多大な衝撃を与えた。保護されたとき、[[被害者]]の女性は19歳で、[[心的外傷後ストレス障害|PTSD]]と診断され、監禁生活の影響で、同年代の女性に比べて運動能力も著しく低下していたが、後に自動車を運転できるほどにまで回復し、引き続き療養しながら生活を送っている。 |
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監禁期間が約9年2か月という長期にわたっていたことや、事件に関わる新潟県警の捜査不備・[[警察不祥事|不祥事]]([[#新潟県警の不祥事]]を参照)が次々と発覚したことなどから社会的注目を集めた。また、犯人が長期の[[引きこもり]]状態にあったことから、同様の状態にあった男が同年(本事件発覚後)に起こした[[西鉄バスジャック事件]]とともに、引きこもり問題の社会的認知度を大きく高めた事件ともなった<ref name="saitou"/>。新潟県の県紙『[[新潟日報]]』([[新潟日報社]])は、2000年の「県内10大ニュース」の1位および、「国内10大ニュース」の8位として、本事件とそれに関連する県警の不祥事を選出した<ref>『新潟日報』2000年12月30日朝刊特集面15頁「2000年10大ニュース 県内 止まらない 謝罪 釈明 県警、病院、ミス続発 [[中村真衣|真衣]]選手「銀」力泳に興奮」(新潟日報社)</ref><ref>『新潟日報』2000年12月30日朝刊特集面14頁「2000年10大ニュース 国内 [[キレる17歳|17歳の凶行]]に心寒く きばむく自然の脅威 モラル低下 信頼揺らぐ」(新潟日報社)</ref>ほか、[[審級|第一審]]・[[控訴]]審の判決が言い渡された2002年(平成14年)には「県内10大ニュース」の6位として本事件を選出した<ref name="新潟日報2002-12-29">『新潟日報』2002年12月29日朝刊特集面10頁「2002年県内10大ニュース [[北朝鮮による日本人拉致問題|国家犯罪に衝撃と怒り 拉致 全容解明道半ば]] [[2002 FIFAワールドカップ|W杯]]の熱狂、歴史を刻む」(新潟日報社)</ref>。 |
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加害者(犯行当時28歳)の容疑は当初、[[略取・誘拐罪#処罰類型|未成年者略取罪]]、[[逮捕・監禁罪#逮捕・監禁致死傷罪|逮捕・監禁致傷罪]]であった。これら2つの容疑については[[観念的競合]]の考え方から当時の刑罰規定では監禁致傷罪の懲役10年が上限になるとされたが、地裁[[判決]]では「犯行は法が想定していた刑期をはるかに越えた最悪のもの」と認定されるなど、[[罪刑法定主義]]の観点から刑罰の上限の問題が浮上した。[[検察]]は監禁致傷罪以外に、更に別件である[[窃盗罪]]でも立件したが、監禁致傷罪と窃盗罪を併せた[[併合罪]]の処理が争点となり、[[最高裁判所 (日本)|最高裁]]まで争われた。また、検察側は[[論告]]で「未決[[勾留]]日数を1日でも算出すべきではない」として、長期服役させる意図を明白にしていた(判決では未決勾留日数は算出された)。男は[[懲役]]14年が確定し、服役中。 |
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== 事件の経緯 == |
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[[2004年]]の法改正により、逮捕監禁致傷罪の上限は懲役15年となっている。 |
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=== 犯人の生い立ち === |
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犯人の佐藤宣行は[[1962年]]([[昭和]]37年)[[7月15日]]<ref name="柏崎日報20000216">『[[柏崎日報]]』2000年2月16日号(第29061号)1頁「女性監禁事件 市民の気持ちに重く… 裕福に育った容疑者 屈折した言葉なぜ 社会とプライバシー 難しい問いかけ」(柏崎日報社)</ref>{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=55}}{{Sfn|窪田順生|2006|p=43}}{{Sfn|佐木隆三|2003|p=91}}、[[柏崎市]]で生まれた{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=犯行に至る経緯}}{{Sfn|窪田順生|2006|p=43}}。佐藤宣行の父親は戦後、[[東京]]で大会社の重役を送迎する運転手をしていたが、帰郷してタクシー会社を設立{{Sfn|佐木隆三|2003|p=92}}{{Sfn|窪田順生|2006|p=92}}。最初の妻との間に{{Sfn|窪田順生|2006|p=43}}5人の子供{{Efn2|佐藤宣行が出生した当時、佐藤宣行の父親(当時62歳)の連れ子には一男一女(ともに当時30歳代、息子は佐藤宣行の母親より年上)がおり{{Sfn|窪田順生|2006|p=43}}、佐藤宣行の母親は彼らに対し敬語を使っていた{{Sfn|窪田順生|2006|p=44}}。}}をもうけていたが{{Sfn|窪田順生|2006|p=116}}、妻に先立たれ、57歳の時に佐藤宣行の母親(当時30歳){{Efn2|佐藤宣行の母親は生命・損害保険の外交員として働いていた{{Sfn|佐木隆三|2003|p=92}}。}}を後妻として迎え{{Sfn|窪田順生|2006|p=116}}、61歳のときに当時35歳の妻と再婚{{Sfn|佐木隆三|2003|p=92}}。佐藤宣行は父親が62歳、母親が36歳の時に出生し<ref name="柏崎日報20000212"/><ref name="新潟日報2000-05-24">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 監禁事件初公判 佐藤宣行被告起訴事実認める|newspaper=[[新潟日報]]|date=2000-05-24|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0524010.html|publisher=[[新潟日報社]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018234840/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0524010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>、両親から溺愛されて育てられた{{Efn2|佐藤宣行は成人後も「ボクちゃん」と呼ばれ、両親から溺愛されていた{{Sfn|佐木隆三|2003|p=94}}。}}{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=犯行に至る経緯}}。 |
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佐藤宣行は地元の幼稚園を経て{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=犯行に至る経緯}}、市内の小学校に入学した<ref name="柏崎日報20000212"/>。佐藤宣行が小学1年の時、父親は{{Sfn|佐木隆三|2003|p=93}}柏崎市四谷一丁目<ref name="中日新聞2000-02-12"/>に家を新築し、2階の十畳ほどの洋間を息子の[[子供部屋]]として与えた{{Sfn|佐木隆三|2003|p=93}}。この部屋が後の事件の舞台となる。 |
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佐藤宣行は市内の中学校に進学し、親の勧めで庭球部に入部したが<ref name="柏崎日報20000212"/>、本人は入部には乗り気ではなく、入部直後に練習を休んだことを責められ、罰走(校舎周り200 mを125周)を命じられて退部した<ref name="越後タイムス20000211">『越後タイムス』2000年2月11日号(第4197号)1頁「誘拐監禁男性の中学の思い出」(越後タイムス社)</ref>。その後は他の部活動にも興味を持てずにいたが、中学3年のころに野球に興味を持ち、バッティングセンターに通ったり、器械体操で減量に取り組んだりもしていたが、本人は卒業文集で中学生活を「おもしろかったようだが、いやな事ばかりの3年間だった」と総括している<ref name="越後タイムス20000211"/>。中学1年の時{{Efn2|当時、佐藤宣行の母親(当時45歳)は息子を病院へ連れて行くため、[[普通自動車運転免許]]を取得した{{Sfn|佐木隆三|2003|pp=91-92}}。}}、佐藤宣行が「怖くて学校に行けない」ということで[[精神科]]の診察を受けたところ[[不潔恐怖症]]と診断される{{Sfn|佐木隆三|2003|p=91}}。なお、会社でタクシーの事務所やガレージの清掃を日常的にしていた佐藤宣行の父親も同じく不潔恐怖症であった{{Sfn|佐木隆三|2003|p=92}}。佐藤宣行は虫を毛嫌いし、わずかな汚れも気にした。このころになると、70代半ばを過ぎた父親は佐藤宣行にとって薄汚れて見える存在になっており、佐藤宣行は「あんなの親父じゃない」と疎んでいた。また、母に対し「自分の父はなんで高齢なんだ」「なんで結婚したんだ」と不満をぶつけていたという報道もある<ref name="柏崎日報20000212"/>。 |
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== 裁判の争点 == |
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当時の監禁致傷罪(221条)の最高刑は懲役10年であり、窃盗罪(235条)もまた懲役10年であった。そして、併合罪(45条)は47条で「併合罪のうちの2個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする。」と定めている。そうすると形式的には懲役15年の枠内で自由に量刑が出来そうである。 |
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中学卒業後、佐藤宣行は[[新潟県立柏崎工業高等学校|柏崎工業高校]]機械科に進学し、1981年(昭和56年)に卒業した<ref name="柏崎日報20000212"/>。高校入学後には野球部でエースを目指して入部したが、約1、2か月で退部した<ref name="柏崎日報20000212"/>。高校時代、佐藤宣行は体格が大きく、身長は175 [[センチメートル|cm]]ほどあったが、覇気が無くなよなよした話し方から「オカマ」と呼ばれており、学校では目立たない存在だった。このころから自分の殻に閉じこもるようになり、家の中で鬱憤を晴らすようになっていた。 |
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ただ、枠内で自由に量刑を定められるとすれば、普通なら不起訴になる軽微な犯罪を併合罪として[[起訴]]することで法定の最高刑を簡単に超えられてしまうとも考えられる。実際、本件で追起訴された窃盗罪の被害額は2464円相当であり、弁償もされていたので普通は起訴されることのない犯罪である。ただし、別に立件された窃盗罪は監禁されていた少女の衣類用に盗んだものであり、監禁事件と全く無縁ではない。 |
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===高校卒業後=== |
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そこで、併合罪がいわゆる併科主義による過酷な結果の回避という趣旨を持つことを前提とした上で、個別の罪の量刑を定めて合算すべきなのか(高裁)、科刑上限の枠内で判断すれば良いのか(地裁)が争点となった。最高裁は後者を支持した。 |
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高校を卒業後、佐藤宣行は市内に進出していた機械精密部品製造会社に就職したが<ref name="柏崎日報20000212"/>、それから3か月後の研修期間中に退社した<ref name="柏崎日報20000216"/><ref name="越後タイムス20000204">『越後タイムス』2000年2月4日号(第4196号)1頁「タイムス秒 驚愕、9年2カ月の誘拐監禁」(越後タイムス社)</ref>。出勤途中に立小便をした際に「クモの巣にかかって汚れた」と家に引き返すなどといった奇行が続いて数か月で退職したものであり、以降は本事件で逮捕されるまで全く働いていなかった{{Sfn|佐木隆三|2003|p=91}}。 |
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[[1981年]](昭和56年)7月、当時19歳の佐藤宣行は父親を家から追い出す{{Efn2|その後、父親は娘(佐藤宣行の異母姉で、佐藤宣行の母親と同い年)の家へ避難した{{Sfn|佐木隆三|2003|p=92}}。『柏崎日報』では「市外に住む身内」と報じられている<ref name="柏崎日報20000212"/>。}}{{Sfn|佐木隆三|2003|p=92}}。生命保険会社で働く母親と2人暮らしになったが<ref name="柏崎日報20000212"/>、その半年後には母親と口論になり、「私も出て行く」と言われたため激昂{{Sfn|佐木隆三|2003|p=93}}。家の仏壇に火をつけ、危うく火事になりかけた。[[長岡市]]の国立病院の精神科にて[[強迫神経症]]([[不潔恐怖]])と診断される{{Sfn|佐木隆三|2003|p=93}}。即日入院し、向精神薬を投与された{{Sfn|佐木隆三|2003|p=93}}。この時は1か月ほどで良くなり退院する{{Sfn|佐木隆三|2003|p=93}}。 |
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== 関連する出来事 == |
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*事件前に加害者は[[1989年]][[6月13日]]に別の女児に乱暴し同年[[9月19日]]有罪判決を受けていたが、[[警察]]の[[被疑者]]リストには記載されず、警察のずさんな[[初動捜査]]が浮き彫りになった。 |
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*被害者が保護された際、[[新潟県警察|新潟県警]]本部長が[[関東管区警察局]]長を[[東蒲原郡]][[三川村 (新潟県東蒲原郡)|三川村]](現[[阿賀町]])で[[麻雀]][[接待]]していたことが後に発覚。事件の報を聞いても幹部たちは接待を続けたことで、警察への信頼は大きく揺らぐ。 |
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**その接待麻雀についても[[図書券]]を[[景品]]にしていた賭け麻雀をしており、つまり現職警察官による[[賭博罪]]に該当するのではないかとの疑念が持たれた。このことについて、2000年[[3月6日]]に新潟県警は「景品となった図書券は新潟県警本部長のみが負担していることから図書券を提供した新潟県警本部長のみ財物を提供する危険負担をしており、他の参加者は財物を提供する危険負担をしていない立場だったため、賭博罪には該当しない」としている<ref>読売新聞夕刊 2000年3月6日</ref>。 |
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**後に新潟県警本部長と関東管区警察局長が辞職。二人の辞職について報道番組で[[報道]]された際、「自ら辞職することで、数千万円の[[退職金]]が支払われようとしている。」と報道。その後二人は退職金の受取を辞退した。 |
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**当時の[[警察庁長官]]であった[[田中節夫]]も[[減給]]処分された。 |
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1985年(昭和60年)夏、当時23歳の佐藤宣行は母親に「僕もそろそろ自立しなければならない。お母さんにいつまでも甘えているわけにはいかないので、独立して生活できるように家を増築してほしい」と話す{{Sfn|佐木隆三|2003|p=93}}。息子が就職口を見つけて真面目に働くと思った母親は直ちに700万円で家の増築を決めたが、佐藤宣行が2階の自室を工事業者に踏み込まれることを頑に拒否したため増築は中途半端なまま中止となり、就職の約束も反故にされた{{Sfn|佐木隆三|2003|p=94}}。 |
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== 事件、裁判の経緯 == |
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* [[1990年]][[11月13日]] - 新潟県三条市で下校途中に、小学4年生だった女性が連れ去られ、行方不明になる。 この後9年間にわたって監禁されていたことが後に判明する。 |
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佐藤宣行は母親に対しては好きなアイドル歌手のレコードや、[[競馬]]新聞などを買いに行かせており、この母親は商店の人たちの間で、ある種の有名人となっていた。また、佐藤宣行は[[新潟競馬場]]・[[三条競馬場]]へ馬券を買うために通っていたとされる{{Efn2|このことに加え、事件当日(1990年11月13日)には三条競馬場で場外馬券が販売されていたため、2000年2月18日の[[衆議院]]法務委員会で[[坂上富男]][[国会議員|議員]]は「三条競馬場に来た人間の関与を考え、広域捜査を行うべきだったのではないか」と質問しているが、それに対し警察庁刑事局長の林則清は「佐藤宣行の趣味が競馬ということだが、被害者Aを拉致した時期(1990年)にはまだ競馬をやっていなかったようだ」と回答しており{{Sfn|松田美智子|2009|p=14}}、松田美智子 (2009) も「佐藤宣行が競馬を始めたのは、Aを拉致してから数年後だった」と述べている{{Sfn|松田美智子|2009|p=16}}。}}{{Sfn|松田美智子|2009|p=13}}が、その行き帰りも母親が車で送迎しており、レースが終わるまでベンチに腰かけて待っている母親の姿が、競馬場の常連の間でも知られていた。佐藤宣行が競馬に勝つと、母親になじみの寿司屋で極上の[[トロ]]の[[握り寿司|にぎり]]10個(8,000円分)を買わせることが何度かあった。 |
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* [[2000年]][[1月28日]] - [[柏崎市|柏崎]][[保健所]]職員が、母親への暴力という相談を受けて男の自宅へ入る。その際に被害者を発見し保護。男は精神不安定により入院。 |
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* 2000年[[2月10日]] - [[犯人]]の男は1989年、当時9歳の女児を乱暴しようとして[[逮捕]]されていたにも関わらず、[[新潟県警察|県警]]が男の名前を[[容疑者]]リストからはずしていたことが明らかに。 |
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===強制わいせつ罪で執行猶予=== |
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* 2000年[[2月11日]] - 男を逮捕。 |
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[[1989年]](平成元年)[[6月13日]]<ref name="毎日新聞2000-02-12"/>{{Sfn|週刊文春|2000|p=28}}、佐藤宣行は柏崎市宮川{{Sfn|佐木隆三|2003|p=95}}の国道で<ref name="新潟日報2000-01-30">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 女性監禁・柏崎の無職男 事件前も別の女児狙う 逮捕され未遂に|newspaper=新潟日報|date=2000-01-30|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0130010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20010506223058/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0130010.html|archivedate=2001年5月6日}}</ref>、下校する小学生を小学校{{Efn2|柏崎市立高浜小学校{{Sfn|週刊文春|2000|p=28}}。同校は柏崎市宮川2番地1号<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.city.kashiwazaki.lg.jp/material/files/group/9/201403141435034_1_1.pdf#page=6|title=対象施設一覧表|accessdate=2021-01-28|publisher=柏崎市|date=2014-03-14|website=[[柏崎市]]|page=6|quote=旧高浜小学校|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210128145246/https://www.city.kashiwazaki.lg.jp/material/files/group/9/201403141435034_1_1.pdf#page=6|archivedate=2021-01-28}}</ref>([[国道352号]]沿い)に所在していたが、2011年度限りで荒浜小学校と統合され閉校<ref>{{Cite news|title=高浜小で閉校記念式典|newspaper=柏崎日報|date=2011-10-31|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2003-07-11-1.html|accessdate=2021-01-28|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210128145501/https://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2011-10-31-1.html|archivedate=2021年1月28日}}</ref>。}}の正門付近で待ち伏せ、同校4年生の女児(当時9歳)を尾行して道路脇の空き地(小学校から約300 m)に連れ込み{{Sfn|佐木隆三|2003|p=95}}、いたずらしようとした<ref name="毎日新聞2000-02-12">『毎日新聞』2000年2月12日東京朝刊社会面26頁「新潟・女性監禁事件の経過」(毎日新聞東京本社)</ref>。しかし学校から約100 m離れた国道脇で被害女児の上級生2人が、被害女児が不審な男に抱えられているのを目撃して学校に伝え、佐藤宣行はそれを聞いて駆けつけた教職員らに取り押さえられた<ref name="柏崎日報19890621">『柏崎日報』1989年6月21日付(第25964号)2頁「柏崎署 わいせつ未遂事件で お手柄2氏に感謝状」(柏崎日報社)</ref>。現場を通りかかった車が110番通報に協力し<ref name="柏崎日報19890621"/>、同日17時30分前<ref>『柏崎日報』1989年6月14日付(第25958号)2頁「少女にいたずら未遂」(柏崎日報社)</ref>、佐藤宣行は学校近くの[[柏崎警察署]]宮川駐在所で<ref name="柏崎日報19890621"/>、強制わいせつ未遂容疑で[[現行犯]][[逮捕 (日本法)|逮捕]]された{{Efn2|当時、この事件は『新潟日報』1989年6月14日付の社会面に掲載された「少女にいたずら未遂」と題した[[ベタ記事]]で報じられている{{Sfn|佐木隆三|2003|p=95}}。}}<ref>『読売新聞』1989年6月14日東京朝刊第12版新潟県地方面22頁「わいせつ未遂で逮捕」(読売新聞東京本社・新潟支局)</ref>。当時は[[東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件]]が発生していただけでなく、新潟県内でも巻警察署や燕警察署の管内で下校途中の男子児童が連れ去られかける事件があり、柏崎署管内でも児童が不審な男に声をかけられたという届け出があり、同校でも教職員を通じて注意をしていた矢先の事件だった<ref name="柏崎日報19890621"/>。 |
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* 2000年[[3月3日]] - 被害者を監禁し、酔ってけがを負わせた監禁致傷罪で[[起訴]]。 |
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* 2000年4月 - [[長岡市]]のガソリンスタンドなどで、被害者の実名などが書かれたビラが貼られているのが見つかる。 |
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その後、佐藤宣行は警察の取り調べで「既遂」を認め、被害者側の[[親告罪|親告]](親族による告訴)もあり、新潟地検長岡支部{{Efn2|当時、同地検支部は佐藤宣行に精神病院への通院・入院歴があることを考慮し、新潟県立病院で簡易精神鑑定を行ったが、「幻覚、妄想、思考障害は認められず、精神病に罹患していない」という結果が出た{{Sfn|佐木隆三|2003|p=96}}。}}により強制わいせつ罪で起訴された{{Sfn|佐木隆三|2003|p=96}}。同年9月19日、佐藤宣行は[[新潟地方裁判所|新潟地裁]]長岡支部で懲役1年・[[執行猶予]]3年の有罪判決を受けた<ref name="毎日新聞2000-02-12"/>(同年10月5日に確定){{Sfn|佐木隆三|2003|p=97}}。当時、新潟地裁長岡支部の裁判官は「再犯の可能性は低い」として、[[保護観察]]処分ではなく、佐藤宣行の母親{{Efn2|佐藤宣行の母親(当時63歳)は当時、私選で弁護人をつけ、情状証人として「息子は優しい子で、今回は魔が差したとしか思えない。これからは自分が厳しく指導・監督するので、寛大な判決をお願いしたい」と証言していた{{Sfn|佐木隆三|2003|pp=96-97}}。}}に監督・指導を任せた{{Sfn|佐木隆三|2003|p=97}}。 |
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* 2000年[[5月23日]] - [[新潟地方裁判所|新潟地裁]]で初[[公判]]。男は罪を認めるものの、弁護側は[[精神鑑定]]を請求。 |
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* 2000年[[6月26日]] - 地元の[[デパート]]から女性用の[[下着]]を[[万引き]]した窃盗罪で男を追起訴。 |
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また、柏崎署と新潟県警本部はこの時に強制わいせつで検挙した佐藤宣行を「前歴者リスト」に登録しておらず{{Efn2|また、柏崎署が佐藤宣行を独自に調査した形跡もなかった<ref>{{Cite news|title=女性監禁事件 > 県警 捜査ミス認める 柏崎の男、リスト入力漏れ|newspaper=新潟日報|date=2000-02-11|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0211010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018170751/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0211010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>。}}、刑が確定した後も登録漏れのまま放置していた{{Sfn|佐木隆三|2003|p=98}}。なお同事件から2か月後の{{Sfn|週刊文春|2000|p=28}}{{Sfn|窪田順生|2006|p=46}}1989年8月28日には、佐藤宣行の父親が89歳で死去している<ref name="柏崎日報20000212">『[[柏崎日報]]』2000年2月12日号(第29058号)1頁「女性監禁の市内男逮捕 容疑を大筋で認める 被害者の心身両面に傷害 身柄を三条署に護送」「家で暴力、すさんだ生活 母親はでき愛しつつも脅える」(柏崎日報社)</ref>。佐藤宣行の父親は晩年、老人介護施設に入所しており{{Sfn|佐木隆三|2003|pp=96-97}}、最期まで息子の将来を心配していたが、佐藤宣行は父親の葬儀に参列しなかった{{Sfn|窪田順生|2006|p=46}}。 |
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* [[2001年]][[9月6日]] - 「完全責任能力あり」と鑑定担当の医師が結果を提出。 |
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* [[2002年]][[1月22日]] - 新潟地裁、懲役14年判決([[求刑]]15年)。 |
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=== 被害者少女Aを誘拐 === |
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* 2002年[[1月24日]] - 弁護側、判決を不服として[[控訴]]。 |
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執行猶予中(1回目の逮捕から約1年5か月後){{Sfn|週刊文春|2000|p=28}}の[[1990年]](平成2年)[[11月13日]]15時ごろ、加害者S(当時28歳)は母親が常用していた乗用車{{Efn2|佐藤宣行は事件当日に家を出る際、Aを誘拐する際に用いたナイフを車のダッシュボード内に入れ、布製粘着テープ1巻を後部座席に置いていた<ref name="新潟日報2000-05-24"/>。}}を運転して1人でドライブに出掛け、長岡市内を経由し、幹線道路である[[国道8号]]を[[新潟市]]方面へ向かって走った{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=犯行に至る経緯}}。そして[[三条市]]付近に至ったところで、国道8号から脇道の農道に入り{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=犯行に至る経緯}}、17時ごろ<ref group="注" name="日の入り"/>{{Efn2|被害者Aが小学校を出た時刻は17時10分過ぎだった{{Sfn|松田美智子|2009|p=17}}。}}に三条市内の農道上で、本事件の被害者である少女A(当時9歳{{Efn2|Aは同年11月28日に10歳の誕生日を控えていた{{Sfn|佐木隆三|2003|p=89}}。}}・小学校4年生)を誘拐した{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}}。現場は三条市街地の南側にある田園地帯を走る農道で、学校からA宅までは直線で約1 km離れており、途中は変電所の建物を除いてほとんど建物はなかった<ref name="柏崎日報20000201">『柏崎日報』2000年2月1日号(第29049号)1頁「誘拐監禁事件 捜査は長期戦か 女性は少しずつ回復へ」「女性の行方不明当時 事件の男性は全く浮かばず」「三条に土地勘 競馬雑誌を毎週購入」(柏崎日報社)</ref>。 |
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* 2002年[[12月10日]] - [[東京高等裁判所|東京高裁]]、「第一審は併合罪の処理を誤っている」として懲役11年に減刑。 |
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* 2002年[[12月24日]] - 検察側、弁護側共に[[上告]]。 |
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佐藤宣行は乗用車で単身移動中、三条市内の農道において下校途中の少女Aを発見し、誘拐を決意{{Efn2|誘拐の動機について佐藤宣行は「女の子が可愛かったし、側に誰もいなかったので」と述べている{{Sfn|松田美智子|2009|p=16}}。}}{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}}。いったんAを車で追い抜いてから目前で停車し、ナイフ{{Efn2|[[サバイバルナイフ]]{{Sfn|松田美智子|2009|p=121}}。佐藤宣行はこのナイフについて「[[山形県|山形]]へドライブした時、割り込みをしたら相手の車のドライバーと喧嘩になりそうになって怖い思いをしたので、護身用に買ったものだ」と述べ{{Sfn|松田美智子|2009|pp=120-121}}、Aを連れ去るために用意したものではないと主張した<ref name="新潟日報2000-06-28"/>。}}(刃体の長さ約13 cm)を手にして降車し、Aへ接近した{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}}。そして、Aの胸にナイフを突きつけて「おとなしくしろ。声を出すな」などと脅迫し{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}}、身動きできないAの背後に回って車の後部に連行した{{Sfn|松田美智子|2009|pp=67-68}}。そして車のトランクを開け「入れ」と指示したが、Aが入ろうとしなかったため、身体を抱え上げて{{Efn2|佐藤宣行は捜査・公判を通じて「Aの体を抱きかかえてトランクに入れたのではなく、Aにトランクの中に入るよう命じたところ、Aは自らトランク内に乗り込んだ」と供述し、弁護人も同様の主張をしたが、新潟地裁 (2002) は「佐藤宣行の供述には一貫性がなく、不自然さが感じられ、信用できない。被害者Aの『ナイフを突きつけられてトランクに入るよう命じられたが、恐怖のあまり声も出ず、足も動かせなかった。すると佐藤宣行によって身体を抱え込まれ、トランクに押し込められた』という供述は、当時の心理状態も踏まえて具体的・詳細に供述しており、こちらのほうが信用性が高い」と認定した{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=事実認定の補足説明}}。}}押し込め、トランクを閉めて車を発進させた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=67-68}}。佐藤宣行は柏崎市内の自宅にAを連行し{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}}、一緒に生活させようと考え<ref name="新潟日報2000-05-24"/>、同市方面へ向かったが、その途中の18時30分 - 19時ごろ、柏崎市内の[[北陸自動車道]]の高架下の路上に車を停めてトランクを開け、トランク内に監禁していたAの様子を確認した後、粘着テープでAの両手足を緊縛し、目隠しもした{{Efn2|両手首の緊縛・目隠しを行った理由は、佐藤宣行が「Aに暴れられたり、自宅やその周囲の様子を見られたりしないようにしなければいけない」と考えたため<ref name="新潟日報2000-05-24"/>。Aの供述によると、この時にトランクを開けた佐藤宣行に対し、Aが「三条市の家に帰れるの。お父さん、お母さんの家に帰れるの」と尋ねると、佐藤宣行は「だめだな。これからおれと一緒に暮らすんだ」と応えた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=76-78}}。}}{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}}。そして再度、Aをトランクに押し込ませたままトランクパネルを閉め、再び自宅に向かい、同日20時ごろに到着した{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}}。 |
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* [[2003年]][[7月10日]] - [[最高裁判所 (日本)|最高裁]]、「併合罪は個々の罪を別々に処理するのではなく、全体を統一し処理すべきだ」との初判断を示し、懲役14年判決 (控訴[[棄却]]の自判)。確定。 |
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自宅に到着した佐藤宣行は、日ごろ二人暮らしをしている母親にAを見られないよう、母屋の正面玄関ではなく家の増築部分(後述)の玄関前に停車、Aを抱えて自室のある2階に上がりAを自室南側の窓枠に置いたのち、改めて正面玄関前に車を回して普通に帰宅したように装いながら自室に赴き、窓枠に置いてあったAを自室に入れ、目隠しを外した{{Sfn|松田美智子|2009|pp=67-68}}。そして、Aに対し「誘拐されて殺されちゃった女の子みたいにおまえもなってみたいか」{{Efn2|佐藤宣行が柏崎市内で強制わいせつ事件を起こして逮捕された1989年には、[[宮崎勤]](2008年に死刑執行)によって4人の幼女が殺害された[[東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件]]が発覚していた{{Sfn|松田美智子|2009|p=20}}。}}{{Sfn|窪田順生|2006|p=47}}「この部屋からは出られないぞ。ずっとここで暮らすんだ。約束を守らなかったらお前なんか要らなくなる。山に埋めてやる。海に浮かべる」などと脅迫的な言葉を浴びせ{{Sfn|松田美智子|2009|pp=76-78}}、以後継続的な監禁を開始した。 |
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==== 少女捜索の状況 ==== |
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少女Aが誘拐された1990年11月13日19時45分ごろ、Aの母親は「娘が帰ってこないので捜してください」と[[駐在所]]に捜索願を出した{{Sfn|佐木隆三|2003|p=86}}{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|pp=42-43}}。これを受け、[[新潟県警察]]の所轄警察署である[[三条警察署]]と学校関係者100人以上、翌14日には200人以上がAの捜索に当たったが手掛かりさえ見つけることができず、15日から三条署内に県警機動隊、機動捜査隊など107名で構成された「女子小学生不明事案対策本部」が設置された{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=43}}。以後、捜索範囲は周辺市町村にも拡大され、[[ヘリコプター]]による空からの捜索、[[空き家]]や[[コンテナ|コンテナボックス]]の内部などの捜索や、夜間[[検問]]も実施された{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=43}}。三条署の対策本部は11月16日、ビラ2,000枚を市内と隣接する町村に配布したほか、三条市教育委員会も全小中学校を対象に、「夏休みの後、不審者から声をかけられたり、誘われたりしたことはなかったか」とアンケート調査した{{Efn2|その結果、男女30人から「ある」との回答を得たが、接触してきた人物はすべて「おじさん」だった{{Sfn|佐木隆三|2003|p=88}}。また新潟県内では1989年6月 - 7月にかけ、[[西蒲原郡]][[吉田町 (新潟県)|吉田町]]・燕市・[[見附市]]などで小学生の誘拐未遂事件が多発していた<ref name="新潟日報2000-01-31"/>。}}{{Sfn|佐木隆三|2003|p=88}}。17日、対策本部はAの顔写真入り手配書を20,000枚作成し{{Sfn|佐木隆三|2003|p=88}}、県内全域{{Efn2|バス、タクシー、ホテル、旅館、ガソリンスタンド、警備協会など{{Sfn|佐木隆三|2003|p=88}}。}}に配布したほか、さらに24日に別の手配書1,000枚を新たに配布したが、有力な情報はもたらされなかった{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|pp=43-45}}。当時の警察担当記者によれば、事案発生から数週間後に車による連れ去り事件であるとの見方が支配的になり{{Efn2|当初はA宅裏の里山・排水路の捜索に重点が置かれていたが、大規模な捜索でも発見に至らなかったため「事故ではなく、車による連れ去り事件だろう」という見方が有力になった{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=46}}。}}、[[刑事部|捜査一課]]が投入されたが、そうした見方が強まったことは却って捜査員たちに諦念を抱かせた{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|pp=45-46}}。また、少女Aが失踪した現場は幹線道路から外れ、土地勘のあるものでないと入らないような場所だったため、土地勘のある犯人像が有力視された<ref name="新潟日報2000-02-04"/>。そのため、三条市や[[燕市]]など[[新潟県県央地域|県央地域]]で、同種事件を起こしたことのある人物を1,000人以上リストアップするなど、重点的な捜査が行われた<ref name="新潟日報2000-01-31">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 監禁男 捜査網から"脱落" 県警内に「初動ミス」の指摘 県央重点 柏崎外す|newspaper=新潟日報|date=2000-01-31|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0131020.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018170648/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0131020.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>一方、佐藤宣行の住んでいた柏崎市は重点捜査の対象にされなかった{{Efn2|三条署はAの失踪当初、「(誘拐である場合は)土地勘のある者の犯行」として、市内や近隣の燕市・見附市・[[白根市]]に限定して捜査したが、柏崎市は捜査範囲外だった{{Sfn|週刊文春|2000|p=26}}。}}<ref name="新潟日報2000-02-04">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 「監禁9年」依然ナゾ多く|newspaper=新潟日報|date=2000-02-04|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0204010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018170718/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0204010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>。 |
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なお、当時この事件を報じていた『[[新潟日報]]』の記事{{Efn2|『新潟日報』1990年12月13日付記事「ナゾの失踪、大捜査網空振り/近県にも捜索願い」{{Sfn|佐木隆三|2003|p=89}}。}}では、秋・夕方の下校途中に車で何者かに連れ去られたという部分が、[[1977年]](昭和52年)に[[新潟市]]で失踪し、後に[[北朝鮮による日本人拉致問題|北朝鮮工作員に拉致]]されたことが判明した[[横田めぐみ]](失踪当時13歳・[[新潟市立寄居中学校]]1年生)の[[失踪事件]]に類似するという旨が指摘されており{{Sfn|佐木隆三|2003|pp=89-90}}、また[[1995年]]([[平成]]7年)頃には[[オウム真理教事件]]が社会問題となったため、[[オウム真理教]]や[[朝鮮民主主義人民共和国|北朝鮮]]の関与を疑う者もいた<ref name="新潟日報2000-02-15"/>ほか、副次的な事件として{{Sfn|松田美智子|2009|p=22}}、[[1991年]](平成3年)1月下旬から4月下旬にかけ、Aの家に「娘を預かっている。会わせてやるから出て来い」などと嘘の電話を繰り返しかけたり、同年3月2日に三条市下須頃のレストランへAの母親を呼び出したりしたとして、同年6月に新潟市内の男が[[強要罪|強要]]容疑で三条署に逮捕されるという事件もあった<ref name="毎日新聞19910614"/><ref name="新潟日報2000-02-15">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 緊急連載 女性監禁事件「閉ざされた部屋」 <3>|newspaper=新潟日報|date=2000-02-15|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0215010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018170012/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0215010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>。同事件で県警や三条署は、不安な思いの家庭を脅迫した悪質性を重視して[[脅迫罪]]より重い強要罪を適用した<ref>『新潟日報』1991年6月14日夕刊総合面1頁「三条 「A預かってる」いたずら電話12回 強要で会社員を逮捕」(新潟日報社)</ref>。 |
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捜索は11月19日に人員が80人規模に縮小され{{Sfn|佐木隆三|2003|p=89}}、12月25日には地元消防団などによる捜索が打ち切られた{{Sfn|松田美智子|2009|p=22}}。翌1991年4月23日 - 25日には再び県警による捜索活動が行われたが手掛かりは発見できず<ref>『朝日新聞』1991年4月26日東京朝刊第12版新潟北部版27頁「Aちゃん不明5カ月 再捜索、手がかりなし 聞き込み捜査続行」(朝日新聞東京本社・新潟支局)</ref>、このころには市民の協力情報も途絶えていた<ref name="毎日新聞19910614">『毎日新聞』1991年6月14日東京夕刊第4版第一社会面15頁「不明の女児宅に「会わせてやる。出て来い」 偽電話3カ月 新潟で会社員逮捕」(毎日新聞東京本社) - 縮刷版567頁。</ref>。以後は専従捜査員30人体制で聞き込みなどを中心とした捜査が進められ<ref>『新潟日報』1991年4月26日朝刊社会面26頁「三条の少女不明 手掛かりないまま捜索を打ち切る」(新潟日報社)</ref>、毎年[1991年 - [[1999年]](平成11年)]11月13日、三条署員が当時Aの通っていた小学校や周辺の道路上など{{Sfn|松田美智子|2009|p=22}}、三条市を含む県央地域で情報提供を呼びかけるチラシを配布し<ref name="新潟日報2000-02-04"/>、地元のマスコミもその様子の取材を続けるなど、事件の風化を心配し、市民の関心を呼び起こしてきた<ref name="柏崎日報20000201"/>。三条市[[PTA]]連合会はAの行方不明事件を機に、市内の小中学校22校の危険箇所の指摘や、通学路の安全確保のための資料を作成し、これを三条市PTA連合会がまとめ上げて市に提案した一方、三条署は事件発生直後、Aの失踪を事件と断定せず「事案」として扱い、情報提供を求めるポスターの配布にも及び腰だった{{Efn2|事件発生直後、三条署は「Aが誘拐(あるいは[[北朝鮮工作員|北朝鮮のスパイ]]により拉致)された形跡がなく、むしろ[[家出]]したことも考えられる{{Efn2|Aの失踪当時、Aの父親は同年7月から[[群馬県]][[前橋市]]に単身赴任していた{{Sfn|佐木隆三|2003|p=87}}が、Aの所持金は当時50円しかなかった上、家出する動機もなかった{{Sfn|佐木隆三|2003|p=88}}。}}ため、事件とは断定できない」として、ポスターを制作しようとしなかった<ref name="三条北RC 2018"/>。また、Aの両親もポスターを制作する意思がなかったため、当時の三条市PTA連合会会長が当時の三条市長(内山裕一)に依頼し、市長が接待交際費でポスターを制作した<ref name="三条北RC 2018"/>。しかし、三条署および[[燕警察署]]はPTA連合会からのポスター配布の依頼を拒否したため、同会は市内の小中学校22校の役員に依頼し、県内全市町村のPTA事務局にポスターを届けたほか、隣接各県([[富山県|富山]]・[[長野県|長野]]・[[群馬県|群馬]]・[[福島県|福島]]・[[山形県|山形]])のPTA連合会にもポスターを配布した<ref name="三条北RC 2018"/>。}}ため、当時連合会の会長を務めていた男性{{Efn2|また、この男性は「当時(1990年11月)の夕方5時ごろは真っ暗になる{{Efn2|name="日の入り"|1990年11月13日の三条市の日の入り時刻は16時32分{{Sfn|佐木隆三|2003|p=86}}ないし16時34分{{Sfn|松田美智子|2009|p=17}}。17時ごろには誘拐現場の辺りは暗くなり、人通りも全くなかった{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}}。}}上、事件現場の道路は電灯がなかった。当時、市内では小中学生が誘拐されそうになる事件が多発していたが、学校が市内で発生した不審者による事件情報を父兄やPTA・教育委員会に知らせていれば、本事件は起きなかったのではないか」と述べている<ref>{{Cite journal|和書|journal=三条ロータリークラブ週報|title=会長挨拶|date=2005-11-30|url=http://www.soho-net.ne.jp/~rotary/syuho03/05.11.30.pdf|issue=2390|pages=1-2|publisher=[http://www.soho-net.ne.jp/~rotary/ 三条ロータリークラブ]|accessdate=2021-01-28|location={{JPN}}・新潟県三条市}} - {{Webarchive|url=https://web.archive.org/web/20201224131909/http://www.soho-net.ne.jp/~rotary/syuho03/05.11.30.pdf|date=2020-12-24|title=週報No.20}}</ref>。}}は「三条署がAの失踪直後から事案ではなく、事件として真剣に対処していれば、Aを早期発見できたのではないかと悔しくてならない」と述べている<ref name="三条北RC 2018">{{Cite journal|和書|journal=三条北ロータリークラブ週報|title=本日の行事:「基本的教育と識字率向上月間」|date=2018-09-18|url=http://www.sanjo-nrc.org/pdf/201809/201809211043100.pdf#page=3|issue=1516|page=3|publisher=[http://www.sanjo-nrc.org 三条北ロータリークラブ]|accessdate=2021-01-28|location={{JPN}}・新潟県三条市}} - {{Webarchive|url=https://web.archive.org/web/20201224131920/http://www.sanjo-nrc.org/pdf/201809/201809211043100.pdf|date=2020-12-24|title=累計No.1516 当年No.10}}</ref>。 |
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=== 監禁の状況 === |
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佐藤宣行は被害者少女Aに対し、脅迫的な文言を繰り返し浴びせる、ナイフを突きつける、顔面を数十回殴打するといった暴行の上で、最初の2 - 3か月間は自身の外出や就寝の際にはAの両手足を緊縛して身動きが取れないようにしていた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=69-71}}。その後両手の緊縛は解かれたものの、両脚の緊縛については1年ほど続き、Aの脱出意志を喪失させた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=69-71}}。Aに対しては大声を出さないこと、家の構造を知られないため、佐藤宣行が部屋を出入りする際には顔を隠したり毛布に潜ったりすること、自室のセミダブルベッドから許可なく降りないこと、暴れないことなどを命令し、これを破った際には暴行を加えた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=69-71}}。1、2年目からは暴行の道具として[[スタンガン]]{{Efn2|凶器のスタンガンは佐藤宣行が母親に命じ、1991年4月ごろに柏崎市内(国道8号沿い)のホームセンターで購入させた{{Sfn|佐木隆三|2003|p=90}}。購入時、母親は使用目的を尋ねてきた店員に対し「自分が護身用に使う」と答えていた{{Sfn|佐木隆三|2003|pp=90-91}}。}}を使用し始めたが、Aは「叫び声を上げたら刺されると思い{{Sfn|松田美智子|2009|pp=77-78}}」自分の身体や毛布を噛むなどして声をあげることなく耐えた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=69-71}}。また、佐藤宣行の生活に関わる雑用をこなさなかったり、プロレス技を掛けられAが苦痛に声をあげたときなどにも{{Sfn|松田美智子|2009|pp=77-78}}、「スタンガンの刑」と称して暴行が加えられた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=69-71}}{{Sfn|松田美智子|2009|pp=77-78}}。佐藤宣行は監禁期間中、軽い殴打は700回程度、力を込めた殴打は200から300回程度に及んだと供述している{{Sfn|松田美智子|2009|p=86}}。Aはある時期から、目を殴られると失明すると思い自ら頬を差しだしたり、スタンガンの痛みに慣れるため自らの身体に使用するといった行動もとるようになり{{Sfn|松田美智子|2009|pp=263-264}}、また、暴行を受けている最中に「殴られているのは自分ではない」と第三者的立場を仮想して[[防衛機制]]を働かせる[[解離性障害]]の症状も出ていた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=263-264}}。 |
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食事は当初、佐藤宣行の母親が息子の夜食用に用意していた重箱詰めの弁当が与えられていたが{{Sfn|松田美智子|2009|pp=69-71}}、高齢であった母親の負担を考慮した佐藤宣行が自ら[[コンビニエンスストア]]で売られている弁当に切り替えた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=105-107}}。さらに[[1996年]](平成8年)ごろ、佐藤宣行がAの足に痣ができているのを発見、佐藤宣行はこれを高タンパク由来のものと考え[[糖尿病]]に進行することを危惧し、「運動をしない以上、減らすしかないと思い」Aの食事を1日1食に減らした{{Sfn|松田美智子|2009|pp=105-107}}。数か月後からAは体調を悪化させていった{{Sfn|松田美智子|2009|pp=69-71}}。佐藤宣行が計測すると46 [[キログラム|kg]]あった体重が38 kgまで減少しており、Aは失神を起こすようになったが、佐藤宣行の対応は弁当に[[おにぎり]]を一つ足したのみであった{{Sfn|松田美智子|2009|pp=69-71}}。長らくベッドの上で行う脚部の屈伸がAに許されていた唯一の運動であり、その後糖尿病予防のため床上での足踏みが許されたが{{Sfn|松田美智子|2009|pp=105-107}}、階下に母親がいる場合には存在を気取られないため、それも禁止された{{Sfn|松田美智子|2009|pp=125-126}}。Aの筋肉は著しく萎縮し、佐藤宣行の腕に掴まってようやく立てる状態であった{{Sfn|松田美智子|2009|pp=77-78}}。発見後の検査では著しい栄養不良に加え、両下肢筋力低下、[[骨粗鬆症]]、[[鉄欠乏性貧血]]などが認められ、通常歩行は不可能な状態だった{{Sfn|松田美智子|2009|p=73}}。また排泄は、潔癖症のためトイレが使えずビニール袋に排泄していた佐藤宣行に倣わせ、排泄後の袋は部屋の外の廊下に放置されていた。佐藤宣行は自分が部屋を出るときにAに顔を覆わせていた理由について「廊下にビニール袋が並んでいるのを見られたくなかったから」とも述べている。こうした環境下に置きながら、Aが監禁中に入浴したのは{{Sfn|松田美智子|2009|pp=69-71}}、[[1992年]](平成4年) - [[1993年]](平成5年)ごろにベッドから落下して埃まみれになった際に、目隠しをしたまま1階でシャワーを浴びせられたことが1回あるのみだった<ref name="新潟日報2000-05-24"/>。 |
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[[虐待]]の一方で、佐藤宣行はAに漫画や新聞などを与え、テレビ、ラジオで流れるニュースなどの内容や、佐藤宣行の嗜好する事柄についてAと語り合うことを好んだ。時事についての議論は、「彼女の考えが子供のままでいないように」するためであったとし{{Sfn|松田美智子|2009|pp=103-104}}、また「[[因数分解]]なんかは世の中では役に立たないけど、[[比例式]]は覚えた方が良いので教えました」と供述している{{Sfn|松田美智子|2009|p=133}}。Aが保護された後に行われた検査では、Aには一般の同年代人と比較して知的レベルに目立った低下は見られず、知識量や語彙においても目立った遅れはないとされた。裁判で佐藤宣行の弁護人は、このことは佐藤宣行がAに情報・知識を与えるよう努めたことが寄与しているとして、酌量を求める材料のひとつとした{{Sfn|松田美智子|2009|p=249}}。佐藤宣行はAを「友達」と認識しており{{Sfn|松田美智子|2009|pp=103-104}}、裁判では「被害者は、私の言いつけを本当によく守るようになりました。これからはずっと、一緒に暮らしたいと思いました。[[競馬]]や自動車など、対等に話ができた。被害者のことは、基本的に好きだった。同世代の女性と思っていた。かけがえのない話し相手だったので、解放することはできませんでした」と供述し{{Sfn|松田美智子|2009|p=86}}、また初[[公判]]で読み上げられたAの供述調書の内容に、「自分はうまくやっていたと思っていたのに、実は恨まれていたんだとわかった」と述べた{{Sfn|松田美智子|2009|p=118}}。 |
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=== 佐藤宣行の生活状況 === |
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前述のように佐藤宣行は高校卒業後、2人暮らしの母親の勧めで機械部品の製造会社に就職したが、人間関係がうまくいかないことを理由に3か月で退職し、以来[[引きこもり]]の状態にあった{{Sfn|松田美智子|2009|pp=32-33}}。一時は母親からの自立を目指し、母親に対し自宅に独立した居住スペースを設けることを求め母親もこれに応じたが、持病としていた[[潔癖症|不潔恐怖]]をはじめとする[[強迫性障害]]の症状を悪化させつつあり、大工の出入りに対して「他人が部屋に入ってくるのが嫌だ」と増築工事を中止させ、変わらない生活を続けていた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=32-33}}。Aの監禁を始める数年前から家庭内では障子や窓ガラスを破壊するといった行動を見せており{{Sfn|松田美智子|2009|p=35}}、監禁開始から5年あまり後の1996年1月には母親が保健所に赴き、息子の家庭内暴力を訴えた。職員は家庭訪問を打診したが母親は息子が暴れるとしてこれを断り、代替案として指示された[[精神科|精神病院]]に赴き、そこで[[向精神薬]]を処方され、佐藤宣行はこれを服用していた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=36-39}}。 |
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このころには母親の保険外交員としての仕事もほとんど無くなっていた。若いころに実績を上げていたため、60歳の定年を5年延長できた上に定年退職後も嘱託として仕事を続けることはできたが、既に契約はほとんど取れなくなっていた。息子の暴力が激しくなり、心底怯えた母親は10時 - 16時まで500円で居続けることのできる[[かんぽの宿]]で時間をつぶすことが多かったという。 |
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1999年(平成11年)ごろから、佐藤宣行は母親に対してもスタンガンを使用し始め{{Sfn|松田美智子|2009|p=190}}、同年12月に再び精神病院を訪れた母親は「このところ息子の暴力がひどい。自分の意のままにならないと殴る蹴るのうえに、私を縛り付けて、トイレにさえ行かしてくれない」と、佐藤宣行の家庭内暴力が激しさを増していることを訴えた。担当医師は強制的手段として[[医療保護入院]](強制入院)を提案し、母親もこれに同意したことから、翌2000年(平成12年)1月19日にはその是非を判断するため、保健所職員と柏崎市職員が佐藤宅を訪れたが、佐藤宣行が部屋に閉じこもったため面会はできなかった。後日、精神病院、保健所、市役所などが協議を行い、医療保護入院の実施日が決定され、それに向けて専門チームも作られた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=36-39}}。 |
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=== 少女Aの保護 === |
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2000年1月28日13時30分ごろ、佐藤宣行を'''医療保護入院させる措置'''を実施するため、医療関係者5人{{Efn2|柏崎市内の病院の精神保健指定医と精神科医、PSWの看護師、病院職員2人{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=12}}。}}と保健所職員および市職員の男性計7人が3台の車に分乗して被疑者宅を訪れた{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=12}}。S宅前で2人が待機し、残る5人が佐藤宣行の部屋のあった2階へ上がり、[[精神保健指定医]]が「お母さんの依頼で診察に参りました」と告げ、返事を待たず部屋に入った。ベッドで寝ていた佐藤宣行はこれに気付き「なんで入ってくるんだ!」と抗議したが、これに対し指定医が法律を説明し、「あなたは入院が必要であると認定されました」と告知すると、佐藤宣行は激しく暴れ出した。警察の応援が必要であると判断され、事前に医療保護入院があることを通知していた[[柏崎警察署]]生活安全課に対し、警官3名の派遣を要請したが、男性の課員が出払っていたため、彼らに連絡を取ったのち折り返し電話する旨が保健所職員に伝えられた{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=13}}。なおも暴れる佐藤宣行に対し、医師が鎮静剤を注射。効果が現れるまで佐藤宣行は抵抗を続けたが、やがて鎮静化し眠りに落ちた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=40-42}}。 |
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その後、関係者の注意は騒動の間にも動いていた様子があった毛布の塊に向けられた。市職員が不審に思い毛布をハサミで切り開くと、中から異様に色白な短髪の少女 (A) が現れた。市職員は「あなたは誰ですか。話をしてください」「名前は?どこから来たの」などと問い掛けたが、少女は口ごもり「気持ちの整理が付かないから」と話した。要領を得ないため、指定医が階下にいた佐藤宣行の母親を呼び出し、「この女性は誰か」と訊ねたが、母親は「知りません。顔を見たこともない」と答えた。 |
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指定医は少女に「一緒にいた(被疑者)さんは入院することになったので、ここにはいつ帰ってくるか分かりません。あなたはどうしますか」と訊ねると、少女は母親に向けて「ここにいても、いいですか」と訊ねた。母親は了承したが、市職員らが「そういう問題じゃないでしょ。家の人に連絡しないとだめよ」とたしなめると、少女は「私の家は、もうないかもしれない」と話した{{Sfn|松田美智子|2009|pp=40-42}}。また、母親の裁判での供述によると、母親が「あなたのお家はどこ?」と訊ねると、少女は「ここかもね」と答えたとされる{{Sfn|松田美智子|2009|p=185}}。新潟地裁 (2002) によれば、少女Aは「2000年1月28日午後2時ころ(=14時ごろ)」までS宅に逮捕監禁されていた{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}}。 |
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その後、医師1人とサイコソーシャルワーカー (PSW) の看護師、病院職員1人がSとともに車に乗り、佐藤宣行の母親はもう1人の医師とともに、少女Aは柏崎市および病院の職員とともにそれぞれ別々の車に分乗し、近郊の病院へ向かった{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|pp=12-13}}。被疑者宅に残った保健所職員の携帯電話には、柏崎署から折り返しの連絡が届き、人員の都合がつかないと伝えられた。これに対し職員は佐藤宣行が鎮静化し病院に向かったことと、同時に身元不明の女性が見つかった旨を伝え、警察官の出動を改めて要請したが、電話口の生活安全課係長は「そちらで住所、氏名を聞いてくれ。そんなことまで押しつけないでくれ。もし家出人なら保護する」と返答し、事実上出動を拒否した{{Efn2|ただし、この警察の対応に関し、毎日新聞新潟支局 (2000) は、応対した生活安全課係長は「身元不明の女性」が行方不明になっていたAであることを知らなかった旨を述べている{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=14}}ほか、新潟県精神保健福祉センターの後藤雅博は、月崎時央との対談で「いち市民が呼んだのに来なかった、というのとは違う」と述べ、協力関係にあるプロ同士のやり取りのため、警察バッシングに傾いた新聞報道とはニュアンスが異なることを認めている<ref name=goto>{{Cite web|和書|url=http://melma.com/backnumber_12144_927807/|title=精神保健福祉から考える『柏崎少女監禁事件』 第一回 LA LUNA vol.33(2001.1.8)【柏崎監禁事件1】|accessdate=2021-01-27|publisher=ユニティ|author=精神保健福祉センター 後藤雅博|coauthors=月崎時央|date=2001-01-08|website=[[melma!]]|archiveurl=https://web.archive.org/web/20160305005351/http://melma.com/backnumber_12144_927807/|archivedate=2016-03-05|url-status=dead|url-status-date=2021-01-27}}</ref>。}}{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=14}}。 |
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病院へ向かう車中で病院職員が少女に改めて名前を尋ねると、少女 (A) は自身の名前と住所、生年月日、両親の名前などを答えた{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=14}}。その情報に覚えがあった職員は、三条市で行方不明となった少女Aに思い当たり、病院到着後に少女から聞いた番号へ電話を掛けたが、この時は呼び出し音が鳴ったものの、誰も出なかった{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=14}}。職員は次いで柏崎署に連絡を取り、「家にいた女の人の名前が分かりました。三条で行方不明になった少女Aだと名乗っている。少女は『十年前に連れてこられて一歩も外に出ていない』と話している。Aの家に電話をしたが出なかった。いま病院にいるので、すぐ来てください」と要請した{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|pp=14-15}}。これを受け、柏崎署から刑事課の捜査員3名が病院へ急行し、Aを伴って再び柏崎署に戻った後、[[指紋]]の照合が行われ、発見された少女が三条市で行方不明になった少女Aと同一人物であることが確認された{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=15}}。同日夜には三条市から少女Aの母親が駆けつけ、娘と9年2か月ぶりの再会を果たした{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=15}}。 |
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一方、同じく病院に搬送された佐藤宣行はそのまま医療目的で収容された{{Sfn|月崎時央|2001|pp=19-20}}。新潟県警は早期の身柄引き渡しを要求したが{{Sfn|月崎時央|2001|p=81}}、院長は佐藤宣行が医療保護入院の目的で投与された鎮静剤により昏睡中であることから、「医者は患者の生命と身体を守ることが目的で、継続している医療行為の責任を取らずに警察に身柄を引き渡すことはできない」との判断を下し{{Sfn|月崎時央|2001|p=19}}、医療優先の方針を伝え、これを了承された{{Sfn|月崎時央|2001|p=81}}。 |
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佐藤宣行の覚醒後、突然の環境変化による精神的動揺、後に発症した内科疾患が全て治まるまでに10日間を要した{{Sfn|月崎時央|2001|p=81}}。この間に事件の概要がある程度報道され、病院では佐藤宣行の様子を聞きだそうとする多数のマスコミの取材や、その姿を撮影しようと病院に侵入するカメラマンの存在などで著しく混乱を来した{{Sfn|月崎時央|2001|pp=73-75}}。 |
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=== 佐藤宣行の逮捕 === |
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新潟県警は被害者Aが保護された翌日(2000年1月29日)、未成年者略取・逮捕監禁事件として<ref>『読売新聞』2000年1月30日東京朝刊新潟版地方面32頁「柏崎で保護された不明女性 「あきらめ、受け入れようとした」=新潟 「監禁の恐怖」を証言 捜査本部、生活実態の解明に全力」(読売新聞東京本社・新潟支局)</ref>、三条署に「三条市における未成年者誘拐・監禁事件」[[捜査本部]]{{Efn2|name="捜査本部"|新潟県警捜査一課と三条署・柏崎署による合同捜査本部{{Sfn|週刊文春|2000|p=27}}。}}を設置し、加害者S宅の家宅捜索を開始<ref name="新潟日報2000-01-29"/>。家宅捜索は約1週間後の2月3日まで実施され<ref name="新潟日報2000-02-04"/>、Aが行方不明になった当時に着用していた衣服・ランドセルなどが押収されたため、Aの証言と併せ、佐藤宣行がAを誘拐・監禁したことが立証された<ref name="新潟日報2000-02-02">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 男の犯行と断定 同居の母親 事情聴取へ|newspaper=新潟日報|date=2000-02-02|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0202010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018170704/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0202010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>。 |
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そして、佐藤宣行が1989年に起こした事件で逮捕された際には問題なく取り調べに応じていたことや、直前まで車を運転するなど日常生活を送っていたことから、捜査本部は[[新潟地方検察庁|新潟地検]]とともに立件に向けて協議し、未成年者略取・逮捕監禁致傷の容疑で逮捕状を請求する方針を決定<ref>{{Cite news|title=女性監禁事件 > 男の逮捕状請求へ 医師の回答待ち判断|newspaper=新潟日報|date=2000-02-11|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0211010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018170751/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0211010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>。医師が入院の必要なしと判断したため、捜査にも耐えられると判断、事件発覚から2週間後の2月11日午前中に逮捕状を請求した<ref name="柏崎日報20000212"/>。 |
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捜査本部は同日午後から病院内で佐藤宣行に対し、短期間の事情聴取を行い<ref name="柏崎日報20000212"/>、佐藤宣行は警察車両に乗せられて裏口から退院{{Sfn|月崎時央|2001|p=21}}。病院敷地内での逮捕は避けて欲しいという院長の要請により、敷地から出た時点の14時54分{{Sfn|月崎時央|2001|p=21}}、佐藤宣行は新潟県警捜査本部によって未成年者略取・逮捕監禁致傷の[[被疑者]]として[[逮捕 (日本法)|逮捕]]された<ref name="新潟日報2000-02-12">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 柏崎の男 逮捕 未成年者略取・逮捕監禁致傷の疑い|newspaper=新潟日報|date=2000-02-12|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0212010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018170033/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0212010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref><ref name="柏崎日報2000-02-12"/>。 |
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逮捕にあたり、捜査本部は被害者Aが受けた[[心的外傷後ストレス障害]] (PTSD) と足の筋力低下を「傷害」と捉え、佐藤宣行の逮捕容疑を'''未成年者略取・逮捕監禁(量刑は最長5年)'''から'''未成年者略取・逮捕監禁致傷(最長10年)'''に切り替えた<ref name="新潟日報2000-02-12"/>。 |
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== 報道 == |
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柏崎市で発行されていた週刊新聞『越後タイムス』は、本事件を「柏崎有史いらいの「[[四谷怪談]]」」と表現した上で、事件発覚後には柏崎の名が全国に鳴り響いたことや、一斉に各テレビ局のワイドショー番組が現場周辺にスタッフを送り込み、取材合戦が過熱、近隣住民や地元マスコミ各社に迷惑がかかっている場面もあるということを報じた<ref name="越後タイムス20000204"/>。 |
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=== 加害者Sとその母について === |
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少女Aが発見された当日の1月28日21時30分、[[三条警察署]]が記者会見を開き、9年前に行方不明となった少女Aを発見、保護したと発表。この会見の内容が翌朝に事件の第一報として一斉に報じられた。佐藤宣行については精神障害者の可能性があったこともあり、主要マスメディアはしばらく「男」という匿名呼称を用いて報じていたが、『[[週刊文春]]』が2月3日号でいち早く実名報道に踏み切ると同時に、高校時代のものとされる佐藤宣行の顔写真も掲載した{{Sfn|週刊文春|2000|p=27}}{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=139}}。新聞では『[[産経新聞]]』が2月5日付朝刊から佐藤宣行を[[実名報道]]し{{Efn2|同紙は朝刊にて、[[産経新聞東京本社|東京本社]]社会部長・高尾元久の名義で「佐藤宣行は最近まで社会生活を送り、車の運転もできた。仮に佐藤宣行がまったく事の善悪を弁別できず、それに従って行動もできない、責任が問えない状態だったならば、少女を誘拐して長期間監禁することは可能なのだろうか?」「実名は人格の象徴である。『障害者だから』の一言で実名を奪われ、時には[[裁判を受ける権利]]さえも失ってしまうような事例が過去にあった。一見、人権を重視しているように見えて実は深刻な差別意識が潜んではいないだろうか?」などと問いかけた上で、「捜査の進展と方向を重要な判断材料として、自らの責任において取材し、実名報道することを決めた」と説明した<ref name="産経新聞2000-02-05"/>。}}<ref name="産経新聞2000-02-05">『[[産経新聞]]』2000年2月5日大阪朝刊第三社会面「新潟の少女監禁 S容疑者を逮捕へ 県警、刑事責任問う方針 未成年者誘拐略取と逮捕監禁容疑で」([[産経新聞大阪本社]])「実名報道について」([[産経新聞東京本社|東京本社]]社会部長:高尾元久)</ref>{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=139}}、他の主要紙も佐藤宣行が逮捕され「刑事責任を問える」という新潟県警の見解が引き出されると、翌2月12日より実名報道に切り替えた{{Sfn|月崎時央|2001|p=83}}。Aが監禁されていたという事実は伝えられたが、監禁の内容については、Aを保護する観点や、Aの両親がマスコミの接触を拒んでいたこともあり、公判開始まで明らかになることはなかった{{Sfn|月崎時央|2001|p=39}}。その一方で、[[ワイドショー]]や週刊誌では、佐藤宣行の異常性を強調する報道が連日行われた{{Sfn|窪田順生|2006|pp=31-32}}。 |
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1989年3月に発覚した[[女子高生コンクリート詰め殺人事件]]において、加害者宅2階に被害女性が監禁され、集団暴行を受けていることを知りながら、1階にいた加害者の母親はこれを看過し続けたという事例があり、本事件発覚当初には1階に居住していた佐藤宣行の母親にも監禁幇助の疑いが掛けられた{{Sfn|窪田順生|2006|p=54}}。週刊誌やワイドショーでは母親の共犯を匂わせるような報道も行われていたが、事情聴取に対し母親は「監禁を知らなかった」、「2階には何年も上がっていない」と供述{{Sfn|窪田順生|2006|pp=54-55}}。捜査の結果、佐藤宣行の部屋を含む2階全体から母親の指紋が一切検出されなかったことや、Aによる「母親が住んでいることさえ知らなかった」という供述からその言葉が裏付けられ、母親は立件されず重要参考人となるに留まった{{Sfn|窪田順生|2006|p=55}}。 |
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=== 少女Aについてなど === |
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事件発覚後、[[報道機関|報道]]各社は救出された被害者女性の家から数百[[メートル]]以内に近づかないという報道協定を結んだ<ref>{{Cite news|title=かつて報道は加害者追ったが、人権尊重から被害者取材に変化|newspaper=[[NEWSポストセブン]]|date=2020-02-12|url=https://www.news-postseven.com/archives/20200212_1540769.html?DETAIL|accessdate=2021-05-20|publisher=[[小学館]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210520132346/https://www.news-postseven.com/archives/20200212_1540769.html?DETAIL|archivedate=2021年5月20日|work=[[女性セブン]]}} - 『女性セブン』2020年2月20日号掲載記事。</ref>。 |
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被害者Aの実家がある三条市の地元紙『[[三條新聞]]』は、Aが保護された翌日(2000年1月29日)から、紙面でAの実名と本人写真、家族写真を報道した{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=141}}。これに対し、新潟市の市民グループは2月10日に「人権侵害である」と抗議したが{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=142}}、同紙は2000年2月12日付の紙面に掲載された社告でAを実名報道し続けた理由について、「捜査協力を呼びかけてきた地元紙として被害者の名前を熟知する読者に匿名にする意味がなかった」と説明した{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=141}}。その上で、「前日(11日)からは捜査本部の発表文で、被害者Aは匿名に切り替えられている。他紙を併読する場合の影響を考え、今後は少女Aを匿名で報道する」と説明した{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=141}}。 |
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一部では少女Aに対しても「9年2か月もの間に逃げる機会はなかったのか」という疑問が呈され、Aが監禁状態にあるとき、犯人と運命共同体であるかのように錯覚し始め、やがて犯人への共感を示すようになる[[ストックホルム症候群]]の状態にあったのではないかとの見方もあった。しかし、これは後に佐藤宣行の[[精神鑑定]]を担当した[[小田晋]]により否定され、精神鑑定書にも併せて記述された{{Sfn|松田美智子|2009|p=207}}。Aは「縛られなくなってからも、常に見えないガムテープで手足を縛られているような感覚でした。気力をなくし、生きるためにこの部屋から出ない方がいいと思いました。佐藤宣行は気に入らないとナイフを突きつけるので、生きた心地がしませんでした。大声で泣きたかったけど、叫び声を押し殺しました。けっしてSと一緒にいたかったわけではありません」と供述している{{Sfn|松田美智子|2009|pp=76-78}}。またAは自身の母親に対し、佐藤宣行を評して「憎いとか怖いとか、そんな感情を出すのがもったいないほど、最低の人だ」と語っている{{Sfn|松田美智子|2009|p=197}}。 |
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本事件のルポルタージュを執筆したひとりであるライターの[[窪田順生]]が一部の「下衆なマスコミ」が監禁中の被害者に対する様々な憶測を行った背景には、[[松田美智子 (作家)|松田美智子]]が執筆したノンフィクション風小説『女子高生誘拐飼育事件』(1965年の事件を元に時代設定や事実関係など大幅に改編して執筆。後に『[[完全なる飼育]]』と改題され映画化)の影響が大きくあると指摘し、「この取材者は監禁を[[SMプレイ]]の延長ぐらいにしか思われていないようだ。閉じこめられるほど愛されるということに、なにか高い精神性やらを期待されておられるようだが、それは[[官能小説]]の中だけにしていただきたい。現実の女性監禁は『飼育』も『プレイ』も『愛』もなく、あの『[[女子高生コンクリート詰め殺人事件|綾瀬コンクリ詰め殺人事件]]』に代表されるように果てしない暴力の連鎖、主従関係を錯覚することによる人間性の消失である{{Sfn|窪田順生|2006|p=47}}」と松田を批判し、またそうした憶測について、被害者が監禁の始期から絶えず暴力や脅迫に晒されていた事実を挙げて「彼女 (A) は逃げなかったのではない、逃げるのが不可能だと教え込まされていただけなのだ」と反論している{{Sfn|窪田順生|2006|pp=47-48}}。また、松田も本件については「被害者には『部屋を出て逃げようとしたら殺される』という恐怖が染みついてしまっている。また、すっかり萎えてしまった足では、2階の階段を下りることもままならなかっただろう」と述べている{{Sfn|松田美智子|2009|p=247}}。 |
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事件そのものについての報道のほか、事件に関連する警察の捜査不備や不祥事についての報道も盛んに行われ、県警本部長が辞職、警察庁長官が国家公安委員会から処分を受けるという事態も起きた([[#新潟県警の不祥事]])。 |
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== 刑事裁判 == |
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=== 起訴 === |
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2000年3月3日、[[新潟地方検察庁]]は被疑者の佐藤宣行を[[略取・誘拐罪|未成年者略取]]・[[逮捕・監禁罪#逮捕・監禁致死傷罪|逮捕監禁致傷罪]]で[[新潟地方裁判所]]へ[[起訴]]した<ref name="毎日新聞2000-03-04">『[[毎日新聞]]』2000年3月4日東京朝刊一面1頁「新潟・女性監禁事件、S容疑者を起訴--新潟地検、「心の傷」立憲は見送り」([[毎日新聞東京本社]])</ref>。佐藤宣行が被害者Aに負わせた傷害のうち、起訴事実に盛り込まれたのは両下肢筋力低下と骨量減少などで{{Sfn|松田美智子|2009|p=61}}、診断されていた[[心的外傷後ストレス障害]] (PTSD) については、裁判の過程で予想される少女Aの精神的負担とプライバシー保護に配慮して起訴事実から除外された{{Efn2|なお最高裁第二小法廷([[千葉勝美]]裁判長)は2012年7月24日付の決定([[北海道・東京連続少女監禁事件]]の上告審)で、被害者にPTSDを負わせた場合は外形的な傷を負わせていなくても傷害罪が成立するという判断を示している<ref>{{Cite news |title=「PTSDも傷害」最高裁初判断 連続女性監禁、懲役刑確定へ |newspaper=日本経済新聞 |date=2012-07-26 |url=https://www.nikkei.com/article/DGXNZO44169240W2A720C1CC1000/ |access-date=2024-06-09 |publisher=日本経済新聞社 |language=ja |archive-url=https://web.archive.org/web/20240609140442/https://www.nikkei.com/article/DGXNZO44169240W2A720C1CC1000/ |archive-date=2024年6月9日}}</ref>。}}{{Sfn|松田美智子|2009|pp=49-50}}。起訴後、新潟地裁は佐藤宣行の弁護人として児玉武雄・伊津良治の2人を選任した<ref>{{Cite news|title=女性監禁事件初公判は5月23日|newspaper=柏崎日報|date=2000-04-04|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-04-04-1.html|accessdate=2021-02-04|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20201001125237/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-04-04-1.html|archivedate=2020年10月1日}}</ref>。 |
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佐藤宣行の初[[公判]]は新潟地裁(榊五十雄裁判長)で同年5月23日に開かれた<ref name="新潟日報2000-05-24"/><ref name="柏崎日報2000-05-24">{{Cite news|title=監禁事件初公判 S被告が起訴事実認める|newspaper=柏崎日報|date=2000-05-24|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-05-24-1.html|accessdate=2021-01-26|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210126123003/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-05-24-1.html|archivedate=2021年1月26日}}</ref>が、この中でも少女Aのプライバシーは保護され、通常行われる起訴状での被害者名読み上げは行われなかった。また弁護人も「私も人の親なので、法廷にまで連れてきて尋問したくないというのが本音にある」として、少女Aを証人申請することはしなかった{{Sfn|松田美智子|2009|p=90}}。罪状認否で佐藤宣行は起訴事実を認めたため、裁判の争点は[[責任能力]]の有無に絞られた<ref>{{Cite news|title=女性監禁事件 > S被告に責任能力 鑑定結果 新潟地裁へ提出|newspaper=新潟日報|date=2001-09-11|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/L0911010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018145326/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/L0911010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>。 |
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なお、新潟地裁は[[新潟市体育館]]で傍聴希望者の抽選を実施した<ref name="新潟日報2000-05-24"/>が、地裁の敷地以外で傍聴券の配布を実施した事例は本事件が初だった{{Efn2|2例目は[[新潟小2女児殺害事件]]の第一審初公判(2019年)<ref name="読売新聞2019-11-09"/>。同事件の抽選倍率は17.7倍(希望者656人:一般傍聴席37席)だった<ref name="新潟日報2019-11-09"/>。}}<ref name="読売新聞2019-11-09">『読売新聞』2019年11月9日東京朝刊新潟県第二地方面28頁「小2女児殺害 初公判 傍聴券求め656人が列 動機解明に高い関心=新潟」(読売新聞東京本社・新潟支社)</ref>。また、一般傍聴席27席に対し、傍聴希望者数は2,272人<ref name="新潟日報2000-05-24"/>(抽選倍率:84.1倍)<ref name="新潟日報2019-11-09">『新潟日報』2019年11月9日朝刊31頁「新潟女児殺害事件初公判 傍聴券求め656人」(新潟日報社)</ref>を記録したが、これは1999年5月の「[[アジ化ナトリウム]]混入事件」初公判(希望者数:242人)を大幅に上回り、新潟地裁史上最多を記録した<ref name="新潟日報2000-05-24"/>。 |
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=== 窃盗罪についての追起訴 === |
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新潟地検は第2回公判前日の6月26日、佐藤宣行が1998年(平成10年)10月上旬ごろ、[[北蒲原郡]][[中条町]](現:[[胎内市]])で少女Aに着せるための[[キャミソール]]4枚<ref name="新潟日報2000-06-27"/>(時価合計約2,464円){{Sfn|新潟地裁|2002|loc=罪となるべき事実}}を[[万引き]]{{Efn2|万引きを行った店について、『新潟日報』 (2000) は「大型スーパー」<ref name="新潟日報2000-06-27"/>、松田美智子 (2009) は「ホームセンター」と述べている{{Sfn|松田美智子|2009|p=93}}。}}したとして、窃盗罪で佐藤宣行を新潟地裁に追起訴した<ref name="新潟日報2000-06-27">{{Cite news|title=女性監禁事件 > S被告を窃盗で追起訴|newspaper=新潟日報|date=2000-06-27|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0627010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018234924/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0627010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>。これは一連の犯行の中に異なる複数の罪がある場合、「その最も重い罪の刑について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする」'''[[併合罪]]'''の適用を狙ったもので、逮捕監禁致傷罪は懲役10年が最高刑であるため、これが適用されれば佐藤宣行の量刑は15年まで引き上げられる計算であった{{Sfn|松田美智子|2009|p=93}}。検察側は窃盗について「監禁継続の手段として行われた行為であって、動機に酌量の余地はない。本件起訴にかかわる以外にも、十数回にわたって、被害者に使用させるための日用品を多数万引きしていたのであって、本件は一連の犯行の一部に過ぎず、常習性が顕著で、犯状も悪質である」と指摘{{Sfn|松田美智子|2009|p=241}}。一方、弁護側は一審判決前の最終弁論において「窃盗については、被害額が弁償されていることが大事である。本件の被害額は2,464円と低額である。違法性は低い。他に万引きもあるが、あくまで起訴されている事例において判断されるべき。5年も罪を重くするほどのものとは思えない」と主張した{{Sfn|松田美智子|2009|p=248}}。微罪をもって併合罪の適用を図ったことは、法曹界からも批判的な意見が出た{{Sfn|佐木隆三|2003|p=151}}。 |
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=== 精神鑑定 === |
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公判前に行われた佐藤宣行に対する簡易[[精神鑑定]]では「佐藤宣行は[[自己愛性パーソナリティ障害|自己愛性人格障害]]および強迫神経障害で、[[統合失調症|分裂症]]は認められない」とされたが{{Sfn|松田美智子|2009|p=82}}、弁護人は佐藤宣行が病的な潔癖症であることや、母親が事件発覚の数年前から佐藤宣行について精神科に相談していた事実などから「正常な感覚では理解できない、病的な一面がある」「精神状態は正常でなかったと思われる」として{{Sfn|松田美智子|2009|p=88}}、第3回公判(2000年7月26日){{Efn2|また、佐藤宣行は同公判から、亡父の姿や虫やヘビの類が見える、人の話し声や虫の羽音が聞こえる、といった幻覚、幻聴の体験について供述を始めていた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=142-144}}。}}にて精神鑑定の実施を請求した<ref name="新潟日報2000-07-26">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 「幻覚 幻聴」と新証言 弁護側が精神鑑定を請求|newspaper=新潟日報|date=2000-07-26|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0726010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018171221/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0726010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>。 |
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検察官は「善悪を判断する理性はあり、精神鑑定の必要はない」と却下を求めたが、新潟地裁は捜査段階で簡易鑑定を担当した専門家([[新潟大学]])と、逮捕直前に佐藤宣行が入院していた病院の医師を弁護人側の証人として採用<ref>{{Cite news|title=監禁事件公判 弁護側が精神鑑定請求|newspaper=柏崎日報|date=2000-07-26|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-07-26-1.html|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210204152552/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-07-26-1.html|archivedate=2021年2月4日}}</ref>。同年9月7日には地裁長岡支部で2人への非公開の証人尋問を行い<ref>{{Cite news|title=監禁事件 精神科医を証人尋問|newspaper=柏崎日報|date=2000-09-08|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-09-08-2.html|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200930162200/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-09-08-2.html|archivedate=2020年9月8日}}</ref>、第4回公判(2000年10月3日)で精神鑑定の実施が告知され<ref>{{Cite news|title=女性監禁事件 > 女性監禁事件・S被告 精神鑑定へ|newspaper=新潟日報|date=2000-10-04|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k1004010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018144736/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k1004010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>、公判は第5回公判<ref name="新潟日報2000-12-06"/>(2000年12月5日)を最後に一時中断<ref name="新潟日報2001-09-19">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 来月16日公判再開|newspaper=新潟日報|date=2001-09-19|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/L0919010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018144901/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/L0919010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>。鑑定期間中、佐藤宣行の身柄は[[埼玉県]]内(鑑定人の居住する県)の拘置支所に移された<ref name="新潟日報2001-10-17"/>。公判は精神鑑定結果の提出を待って再開され<ref name="新潟日報2001-09-19"/>、再開後の第6回公判(2001年10月16日)で鑑定結果が証拠採用された<ref name="新潟日報2001-10-17">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 精神鑑定を証拠採用 S被告に責任能力|newspaper=新潟日報|date=2001-10-17|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/L1017010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018144648/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/L1017010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>。 |
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なお、鑑定担当者については地裁から「これまで事件について評論したことがない精神科医から選ぶ」と告知され{{Sfn|松田美智子|2009|p=170}}、[[犯罪心理学]]が専門である[[小田晋]]([[帝塚山学院大学]]教授)が選ばれた{{Sfn|松田美智子|2009|p=206}}。鑑定書では佐藤宣行の精神病態について次のように報告された{{Sfn|松田美智子|2009|pp=208-209}}。 |
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{{Quotation|佐藤宣行には[[統合失調型パーソナリティ障害|分裂病型人格障害]]や[[強迫性パーソナリティ障害|強迫性人格障害]]などの人格障害が認められるが、物事の筋道に従って行動する能力を失ったり、著しい障害を有する状態とは判定されない。他に自己愛性人格障害も認められる。また、佐藤宣行が訴えている幻覚や妄想などは拘禁生活の影響で誇張されたものであり、犯行には直接、影響していない。<br />佐藤宣行は狭義の[[精神病]]には罹患していない。拘禁には耐えうる。しかし、強迫性人格障害や分裂病型人格障害があることは明白であり、佐藤宣行の犯行に若干の影響を与えたことは考慮すべきであろう。}} |
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また、これとは別に事件直後に佐藤宣行が収容された病院の副院長と、簡易鑑定を行った新潟大学付属病院の医師が診断した病名は、[[スキゾイドパーソナリティ障害|分裂病質人格障害]]、[[強迫性障害]]、自己愛性人格障害、[[ペドフィリア|小児性愛]]の4つであった{{Sfn|松田美智子|2009|p=167}}。弁護側は小田の精神鑑定書の内容に同意しつつも「心神耗弱の主張は維持していく」と述べた{{Sfn|松田美智子|2009|p=229}}。 |
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また、第5回公判(2000年12月5日)では被害者Aの両親が検察側の証人として出廷し、「娘は『(佐藤宣行は)全部の人の前からいなくなってほしい』と言っている」と陳述した<ref name="新潟日報2000-12-06">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 監禁事件公判 被告いなくなってほしい 被害女性の両親が証言|newspaper=新潟日報|date=2000-12-06|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k1206010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018144652/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k1206010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref><ref>{{Cite news|title=監禁事件公判 女性両親「9年埋まらない」|newspaper=柏崎日報|date=2000-12-06|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-12-06-1.html|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210127113558/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-12-06-1.html|archivedate=2021年1月27日}}</ref>。 |
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=== 結審 === |
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[[2001年]](平成13年)11月30日に開かれた第7回公判において{{Sfn|松田美智子|2009|p=238}}、[[検察官]]の[[論告]][[求刑]]が行われ、検察官は佐藤宣行に懲役15年を求刑した<ref name="新潟日報2001-11-30">{{Cite news|title=女性監禁事件 > S被告に懲役15年求刑 判決は来年1月22日|newspaper=新潟日報|date=2001-11-30|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/L1130010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018144512/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/L1130010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref><ref name="柏崎日報2001-11-30"/>。論告で、検察官は佐藤宣行の犯行について「鬼畜に劣る悪行」「非人道的で、血の通った人間の行為とは思えない。極悪非道である」などと{{Sfn|松田美智子|2009|p=238}}厳しく糾弾した。また、[[未決勾留]]期間の日数については「1日たりとも刑期に算入すべきでない」と異例の進言をした{{Sfn|佐木隆三|2003|p=142}}{{Sfn|松田美智子|2009|p=243}}。 |
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一方、弁護人は最終弁論で、小田鑑定書で言及された「強迫性人格障害や分裂病型人格障害があることは明白であり、佐藤宣行の犯行に若干の影響を与えたことは考慮すべきであろう」という部分を強調し、佐藤宣行がAの誘拐当時心神耗弱の状態にあったと改めて主張{{Sfn|松田美智子|2009|p=243}}。また略取誘拐罪はAを支配下に置いた時点で完結しており、[[公訴時効]]により[[免訴]]されるべきであるとした{{Sfn|松田美智子|2009|p=243}}。また佐藤宣行の犯行に計画性を裏付ける証拠がないこと、Aの監禁中に被告人が娯楽を与えようと配慮をしていたことなどを指摘した上で「起訴されている公訴事実を対象に、情状を考慮して、適正に判断していただきたい。被害者の気持ちは理解できるが、量刑の均等を取らなければならない」と結んだ{{Sfn|松田美智子|2009|pp=245-249}}。 |
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最終意見陳述で、佐藤宣行は「被害者に申し訳ないことをした」と陳述<ref name="柏崎日報2001-11-30"/>。これをもって全7回の審理が結審した。 |
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=== 第一審判決・懲役14年 === |
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[[2002年]](平成14年)1月22日に判決公判が開かれ<ref name="新潟地裁2002-01-22"/>、新潟地裁刑事部{{Sfn|新潟地裁|2002}}(榊五十雄裁判長)は佐藤宣行に懲役14年の判決を言い渡した<ref name="新潟地裁2002-01-22">{{Cite news|title=女性監禁事件 > S被告に懲役14年の実刑判決 9年の重みに厳罰|newspaper=新潟日報|date=2002-01-22|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/m0122010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041012043509/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/m0122010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref><ref>{{Cite news|title=監禁事件判決、S被告の責任能力認める|newspaper=柏崎日報|date=2002-01-23|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2002-01-23-1.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210127133822/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2002-01-23-1.html|archivedate=2021年1月27日}}</ref>。なお、検察官は論告で「未決勾留日数は刑期に算入すべきではない」と言及していた<ref name="柏崎日報2001-11-30"/>{{Sfn|佐木隆三|2003|p=151}}{{Sfn|松田美智子|2009|p=238}}が、新潟地裁 (2002) は未決勾留日数中350日を刑に算入した{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=主文}}。 |
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[[判決理由]]で、新潟地裁 (2002) は弁護人の主張のうち、「略取誘拐は公訴時効(5年)が経過しており、時効が完成している」という主張について「本件は、全体として一個の行為が略取罪と逮捕監禁という数個の罪名に触れる刑科上一罪としての[[観念的競合]]の関係にある。さらに、逮捕行為および監禁行為は包括一罪となるから、被害者が解放された時点まで犯罪として継続したことになる」などとして、これを退けた{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=未成年者略取罪については公訴時効が完成している旨の主張について}}{{Sfn|松田美智子|2009|pp=255-256}}。また、弁護人が主張した心神耗弱についても、「佐藤宣行には強迫性障害や人格障害があることが認められるが、犯行当時の佐藤宣行はそれらの障害により、事故の行為の是非善悪を弁識し、その弁識に従って行動する能力が著しく減退した状態(心神耗弱)にあったとは認められない」として退け、完全な責任能力の存在を認めた{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=心神耗弱の主張について}}。 |
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[[量刑]]の理由では、未成年者略取と逮捕監禁致傷の両件について、「被害者Aは長期の監禁生活を強要された結果、著しく衰弱し、両下肢筋力低下・骨量減少・低蛋白血症・低カリウム血症・低カルシウム血症および鉄欠乏性貧血の症状が判明しており、前2者(両下肢筋力低下・骨量減少)の回復には長期にわたる専門的な治療とリハビリテーションが必要と診断されている。また、解放された後も今なお、略取・逮捕監禁された際の恐怖感、監禁継続中の被告人Sからの脅迫や暴行の光景を忘れることができず、他人では想像し難い苦痛を味わっている。Aの身体的な障害はともかく、悲惨な生活環境の下に置かれたことで重要な成長期の人生を奪われたことは、どのようにしても取り返すことはできず、今後のAの人生に与える影響はあまりにも大きい。このように監禁の犯行がもたらした結果は極めて重大で、Aやその家族らが佐藤宣行に対し、極めて厳しい処罰感情を顕にしていることは当然である」と指摘した{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=量刑の理由}}。その上で、「佐藤宣行は当初、捜査段階では『Aに会いたい』と述べるなどし、公判段階でAの供述調書を聞かされるまでは『Aは自分との生活を楽しんでいた』と考えていたことなどを供述しており、Aの気持ちを推し量ることのない自己中心的な態度を露わにしており、捜査・公判を通じて、略取の態様や監禁中の暴行の態様・程度などについて、自己の刑事責任を軽減するかのような供述をするなど、非常に自己中心的な態度に終始しており、犯行後の犯情も悪質だ。強制わいせつ罪で有罪判決を受けたにもかかわらず、その執行猶予期間中に本件犯行に及ぶなど、規範意識は欠如しており、再犯のおそれが高い」と指弾した{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=量刑の理由}}。 |
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一方で、略取は事前の周到な計画に基づくものではなく、被害者Aが行方不明になった後の警察の対応などに問題があったことで監禁期間が長期化したこと、結果的に被害者Aが生命に別状なく救出されたことや、佐藤宣行は捜査公判を通じて事実を認め、被害者Aの真意を知ってからはAに謝罪の手紙を出すなどして反省の念を示していること、年老いた母親が息子の帰りを待っていることなど、佐藤宣行にとって有利な情状も指摘した{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=量刑の理由}}。その上で、「未成年者略取・逮捕監禁致傷の犯情は稀に見るほど悪質で、被害者Aに対し長期間にわたり多大な苦痛を与え、その人生の重要な時期を奪い取っており、この点はもはや取り返しがつかない。犯行の動機・態様は極めて悪質で、その発生した被害結果などはあまりにも重大であり、刑法が構成要件として想定する犯行の中でも最悪の所為」と指摘した上で、窃盗については「窃盗の犯情は同種事案と比べても、非常に悪質とまでは言えず、被害額は比較的少額で弁償もなされており、被害店舗に実害は発生していないが、その動機および様態は監禁の犯行を継続し、その犯行に資するがために敢行されたもので、相当に悪質であって、未成年者略取および逮捕監禁致傷の犯状を、いっそう悪化させている」と指摘した{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=量刑の理由}}。そして、「逮捕監禁致傷罪の法定刑(当時:10年以下の懲役)では到底その適正妥当な量刑を行うことはできず、同罪の刑に法定の併合罪加重をした刑期の範囲内で、佐藤宣行を懲役14年の刑に処する」と結論づけた{{Sfn|新潟地裁|2002|loc=量刑の理由}}。榊は退官後に『読売新聞』社会部記者から取材を受けた際、同判決の量刑について、当時逮捕監禁致死傷罪の法定刑の上限であった懲役10年では「到底償いきれない」「この罪に対し、10年以下の刑では誰も納得しない」と感じた旨を述べている{{Sfn|読売新聞社会部|2011|p=23}}。その上で、それぞれの事件で事実に即した納得できる刑を決める作業はコンピューターには不可能であり{{Efn2|最高裁は2009年5月の[[裁判員制度]]開始に合わせ、犯罪の類型を入力すると過去の判決の傾向をグラフなどで表示する「量刑検索システム」を整備し、2011年までに多くの裁判員裁判で量刑判断のための資料として利用されていた{{Sfn|読売新聞社会部|2011|p=26}}。}}、人間にしかできないとも述べている{{Sfn|読売新聞社会部|2011|p=26}}。 |
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判決翌日(2002年1月23日)、弁護人が佐藤宣行に控訴の意志を問うと、佐藤宣行は「控訴します」と即答。弁護人が確認するとやはり「控訴します」と答え{{Sfn|松田美智子|2009|p=269}}、24日に弁護人が[[東京高等裁判所]]への控訴手続きを行った<ref name="新潟日報2002-01-24">{{Cite news|title=女性監禁事件 > S被告が控訴|newspaper=新潟日報|date=2002-01-24|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/m0124010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018052425/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/m0124010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>。控訴趣意書では主に以下の5点について記述された{{Sfn|松田美智子|2009|pp=280-289}}。 |
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*未成年者略取罪と公訴時効 |
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*窃盗と併合罪加重 |
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*佐藤宣行の人格障害等精神の病に対する無理解、考慮不足 |
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*監禁期間9年2か月の評価と量刑判断の誤り |
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*監禁態様の評価の誤り |
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一方、新潟地検は「判決の量刑が著しく軽きに失するとは断じがたい」として、控訴期限(2002年2月5日)に控訴断念を決めた<ref name="新潟日報2002-02-06">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 新潟地検 S被告の控訴断念 1年の刑軽減やむなし|newspaper=新潟日報|date=2002-02-06|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/m0206010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018054941/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/m0206010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>。このため、控訴審以降の量刑は最高14年以下となる{{Efn2|[[:b:刑事訴訟法第402条|刑事訴訟法第402条]](不利益変更の禁止)「被告人が控訴をし、又は被告人のため控訴をした事件については、原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない。」<ref name="新潟日報2002-02-06"/>}}ことが確定した{{Sfn|松田美智子|2009|p=269}}。 |
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=== 控訴審判決・懲役11年 === |
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控訴審は[[東京高等裁判所]]第8刑事部で審理され{{Sfn|東京高裁|2002}}、山田利夫が裁判長を務めた<ref name="新潟日報2002-10-22"/>。佐藤宣行の国選弁護人は大野康博が担当した{{Sfn|読売新聞社会部|2011|p=24}}。 |
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2002年10月22日に控訴審初公判が開かれ、弁護人は控訴趣意書で「原判決には量刑不当および手続きの誤りがある」と指摘した<ref>{{Cite news|title=女性監禁控訴審、即日結審し12月10日判決|newspaper=柏崎日報|date=2002-10-23|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2002-10-23-1.html|accessdate=2021-01-27|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20201002140829/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2002-10-23-1.html|archivedate=2020年10月2日}}</ref>。また、弁護人は佐藤宣行の意見書を、検察官は被害者Aの母親の供述調書をそれぞれ新証拠として提出<ref name="新潟日報2002-10-22">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 控訴審初公判で結審 判決は12月10日|newspaper=新潟日報|date=2002-10-22|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/m1022010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018060715/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/m1022010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>。いずれも証拠採用され、控訴審は即日結審した<ref name="新潟日報2002-10-22"/>。 |
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2002年12月10日に控訴審判決公判が開かれ<ref name="新潟日報2002-12-10"/>、東京高裁(山田利夫裁判長)は第一審判決を破棄[[自判]]し、佐藤宣行に懲役11年の判決を言い渡した<ref name="新潟日報2002-12-10">{{Cite news|title=女性監禁事件 > S被告懲役11年に減刑 三条の女性監禁 東京高裁判決 一審破棄 法解釈に誤り|newspaper=新潟日報|date=2002-12-10|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/m1210010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018043605/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/m1210010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref><ref>{{Cite news|title=女性監禁事件控訴審でS被告減刑|newspaper=柏崎日報|date=2002-12-10|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2002-12-10-1.html|accessdate=2021-01-27|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210127104016/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2002-12-10-1.html|archivedate=2021年1月27日}}</ref>。東京高裁 (2002) は一審判決の併合罪解釈が誤りであるとした上で、その理由について次のように説明した{{Sfn|松田美智子|2009|p=296}}。 |
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{{Quotation|併合罪に関する刑法の諸規定及びそれらの立法の沿革に照らせば、刑法47条が、最も重い罪につき定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを併合罪全体に対する刑の長期とした(加重主義)のは、最も重い罪につき定めた刑の長期が併合罪全体に対する刑の上限になるという従前の制度(吸収主義)の不合理を克服しつつ、刑を併科する場合(併科主義)よりも併合罪全体に対する刑の上限を短く限定するためであって、それ以上の意味はない。<br />このような刑法47条の趣旨からすれば、併合罪全体に対する刑を量定するに当たっては、併合罪中の最も重い罪につき定めた法定刑の長期を1.5倍の限度で越えることはできるが、併合罪を構成する個別の罪について、その法定刑を越える趣旨のものとすることは許されない。}} |
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その上で、量刑について「未成年者略取と逮捕監禁致傷については、法の許す範囲内で最も重い刑をもって臨むほかない。他方、窃盗については、逮捕監禁致傷との関連性を踏まえつつ、同種事犯における量刑との均衡も考慮しなければならない。上記の諸事情を総合考慮して、佐藤宣行を懲役11年に処するのが相当と判断した」と説明{{Sfn|松田美智子|2009|p=298}}。つまりこれは、逮捕監禁致傷で最高刑の10年、窃盗で1年の計11年という足し算式の量刑であった。一方で「本件のような犯行が生じ得ることを考えたときに、国民の健全な法感情からして、逮捕監禁致傷の上限が懲役10年で軽すぎるとすれば、将来へ向けて法律を改正するほかはない」と言及し{{Sfn|松田美智子|2009|p=296}}、山田裁判長は判決を読み上げたあと佐藤宣行に向けて「判決は14年から11年に短縮されましたが、犯情がよいとか、情状酌量ということでは決してありません。一人の人間の人生を台無しにしたということを、十分に反省するよう、強く望みます」と説諭した{{Sfn|松田美智子|2009|p=293}}。 |
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この判決を受け、被害者Aの家族は「9年2か月15日に及ぶ長期監禁から無事保護されて、3年が過ぎようとしています。娘と私たち家族にとってこの時間の重さを今日の判決で求めることは到底できません。親として被告をこのような形でしか裁くことのできない現状に無念さを感じ、『許せない』という気持ちが高まるばかりです」とコメントした<ref name="新潟日報2002-12-10"/>{{Sfn|松田美智子|2009|p=294}}。 |
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[[東京高等検察庁|東京高検]]は10日後の12月20日に[[最高検察庁]]と最終協議を行い、「併合罪の解釈については最高裁の[[判例]]がなく、[[違憲|憲法違反]]もない」として<ref name="毎日新聞2002-12-21"/>、通常の[[上告]]は断念<ref>『毎日新聞』2003年1月18日東京朝刊社会面26頁「新潟・女性監禁事件 検察側の上告受理--併合罪の解釈、初の判断へ」(毎日新聞東京本社 記者:森本英彦)</ref>することを決めた<ref name="毎日新聞2002-12-21">『毎日新聞』2002年12月21日東京朝刊社会面31頁「新潟・女性監禁事件 検察、上告受理申し立てへ--「併合罪」判断求め」(毎日新聞東京本社 記者:小林直)</ref>。これは、[[刑事訴訟法]]における上告理由が憲法違反および判例違反に限定されている{{Efn2|[[:b:刑事訴訟法第405条|刑事訴訟法第405条]]:高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。 |
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# 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。 |
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# 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。 |
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# 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。}}ためだが、それらの理由がない場合でも、[[法解釈|法令解釈]]に重要な事項を含む場合は特例として、[[事件受理の申立|最高裁に上告受理を申し立て]]、審理を求めることができる{{Efn2|name="上告受理"|[[:b:刑事訴訟法第406条|刑事訴訟法第406条]](上告審として受理できる事件):「最高裁判所は、前条(第405条)の規定により上告をすることができる場合以外の場合であっても、法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件については、その判決確定前に限り、裁判所の規則の定めるところにより、自ら上告審としてその事件を受理することができる。」{{Sfn|古江頼隆|2007|p=144}}}}<ref name="毎日新聞2002-12-21"/>。そのため、東京高検は同月24日付で[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]に上告受理を申し立てた<ref name="新潟日報2002-12-25">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 上告受理申し立て 東京高検「合併罪解釈誤り」|newspaper=新潟日報|date=2002-12-25|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/m1225010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018044251/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/m1225010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>。 |
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一方で国選弁護人(大野)は判決を受け容れる方針であったが、佐藤宣行は「二審判決は、一審の新潟地裁判決と同じように、事実誤認がある。また、二つの罪を合わせて懲役11年という判決も、不当に重いから不服である」とする自筆の上告書を提出し{{Sfn|佐木隆三|2003|p=167}}、25日付で上告申状が東京高裁に届けられた<ref name="新潟日報2002-12-25"/>。大野は同判決直後にSと接見したが、佐藤宣行は原判決より刑が3年軽くなったにも関わらず、満足した様子が皆無だったため、大野はその心境を「懲役刑に服すること自体が不満だったのだろう」と評した上で、そのような状態では更生は難しく、[[応報刑|刑罰は制裁の意味しか持たなくなる]]と語っている{{Sfn|読売新聞社会部|2011|p=24}}。 |
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=== 上告審判決・懲役14年確定 === |
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東京高検の[[検事長]]は2003年(平成15年)1月6日付で、事件受理申立理由書を東京高裁に提出{{Sfn|古江頼隆|2007|p=144}}。同申立を受け、[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第一小法廷([[深澤武久]]裁判長)は2003年(平成15年)1月17日付で申し立てを認める決定<ref name="新潟日報2003-01-18">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 「合併罪」初判断へ 最高裁が検察の上告受理|newspaper=新潟日報|date=2003-01-18|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/n0118010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018045829/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/n0118010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>(上告受理決定)をした{{Sfn|古江頼隆|2007|p=144}}。これにより、最高裁が初めて併合罪の解釈をめぐる判断を示すこととなった<ref name="新潟日報2003-01-18"/>。そして、同年4月16日には同小法廷が[[口頭弁論]]期日を6月12日に指定したため、控訴審判決が見直される可能性が浮上した{{Efn2|最高裁は通常、書面審理が中心であるため、弁論を開いた場合は控訴審判決が見直される可能性が高いとされる<ref>『毎日新聞』2003年6月13日東京朝刊社会面25頁「新潟・女性監禁事件 最高裁で結審--「併合罪」の解釈が争点」(毎日新聞東京本社 記者:清水健二)</ref>。}}<ref>『毎日新聞』2003年4月17日東京朝刊社会面29頁「新潟・女性監禁事件 2審判決、見直しか--最高裁、6月に弁論」(毎日新聞東京本社 記者:森本英彦)</ref>。一方で佐藤宣行は上告審を担当した弁護人に対しても、「量刑は不当だ。こんなところ([[拘置所]]や[[刑務所]])には二度と入りたくない」と訴え続けていた{{Sfn|読売新聞社会部|2011|p=24}}。 |
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2003年6月12日に最高裁第一小法廷(深澤武久裁判長)で上告審の口頭弁論が行われ、検察側、弁護側双方が併合罪の解釈について意見陳述した<ref name="柏崎日報2003-06-13">{{Cite news|title=三条市の女性監禁事件上告審弁論、併合罪解釈で対立|newspaper=柏崎日報|date=2003-06-13|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2003-06-13-2.html|accessdate=2021-01-27|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210127103631/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2003-06-13-2.html|archivedate=2021年1月27日}}</ref>。検察は「複数の犯罪行為が一人の人間に対して行われており、処断刑は犯罪行為と犯人の人格とを総合評価すべきもの」とし、懲役11年の控訴審判決は軽すぎると主張した<ref name="柏崎日報2003-06-13"/>。弁護側は「検察側の主張では、恣意的、技術的に刑が加重される危険がある」「法治国家が長年培ってきた罪刑法定主義の原則に立つべき」と主張した<ref name="柏崎日報2003-06-13"/>。 |
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7月10日に上告審判決公判が開かれ<ref name="柏崎日報2003-07-11"/>、最高裁第一小法廷(深澤武久裁判長)は、控訴審判決を破棄自判して第一審(懲役14年)を支持し、被告人側の控訴を棄却する判決を言い渡した{{Sfn|最高裁|2003|p=1}}。最高裁 (2003) は併合罪の解釈について次のように結論づけた{{Sfn|松田美智子|2009|pp=307-308}}。 |
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{{Quotation|刑法47条は、併合罪のうち2個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、同条が定めるところに従って併合罪を構成する各罪全体に対する統一刑を処断刑として形成し、修正された法定刑ともいうべきこの処断刑の範囲内で、併合罪を構成する各罪全体に対する具体的な刑を決することとした規定であり、処断刑の範囲内で具体的な刑を決するに当たり、併合罪の構成単位である各罪についてあらかじめ個別的な量刑判断を行った上これを合算するようなことは、法律上予定されていないものと解するのが相当である。また、同条がいわゆる併科主義による過酷な結果の回避という趣旨を内包した規定であることは明らかであるが、そうした観点から問題となるのは、法によって形成される制度としての刑の枠、特にその上限であると考えられる。同条が、さらに不文の法規範として、併合罪を構成する各罪についてあらかじめ個別的に刑を量定することを前提に、その個別的な刑の量定に関して一定の制約を課していると解するのは、相当でないといわざるを得ない。<br />これを本件に即してみれば、刑法45条前段の併合罪の関係にある第一審判決の判示第1の罪(未成年者略取罪と逮捕監禁致傷罪が観念的競合の関係にあって後者の刑で処断されるもの)と同第2の罪(窃盗罪)について、同法47条に従って併合罪加重を行った場合には、同第1、第2の両罪全体に対する処断刑の範囲は、懲役3月以上15年以下となるのであって、量刑の当否という問題を別にすれば、上記の処断刑の範囲内で刑を決するについて、法律上特段の制約は存しないものというべきである。<br />したがって原判決には刑法47条の解釈適用を誤った法令違反があり、本件においては、これが判決に影響を及ぼし、原判決を破棄しなければ著しく正義に反することは明らかである。}} |
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佐藤宣行は同判決に対し7月22日付で判決訂正申立を行ったが、同年8月8日付で申立を棄却する決定がなされ、同月12日付で{{Sfn|古江頼隆|2007|p=144}}懲役14年の実刑判決が[[確定判決|確定]]した<ref name="日本経済新聞2003-08-13">『[[日本経済新聞]]』2003年8月13日東京朝刊第14版第二社会面30頁「新潟女性監禁事件 懲役14年確定」([[日本経済新聞東京本社]]) - 『日本経済新聞』縮刷版2003年8月号 622頁</ref>。 |
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== 事件当事者のその後 == |
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三条市教育委員会は2000年3月16日、被害者女性Aの社会復帰を支援するための募金窓口「三条市愛の支援募金」を[[三条郵便局]]に開設し{{Efn2|行政機関が個人の支援を目的とした募金口座を設けた事例は当時、異例なものだった<ref name="新潟日報2000-03-17"/>。}}<ref name="新潟日報2000-03-17">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 被害女性支援募金、三条市が窓口開設|newspaper=新潟日報|date=2000-03-17|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0317010.html#4|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018171113/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0317010.html#4|archivedate=2004年10月18日}}</ref>、同年5月末までに1,563件<ref>{{Cite news|title=女性監禁事件 > 監禁女性支援で募金1500件超える|newspaper=新潟日報|date=2000-06-07|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0607010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018234857/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0607010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>、2002年1月18日までに2,017件の募金(額は非公表)が全国から寄せられた{{Efn2|当初の口座開設期間は2000年夏ごろまでの予定だったが<ref>{{Cite news|title=女性監禁事件 > 三条の支援募金 振込件数983件|newspaper=新潟日報|date=2000-04-06|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0406010.html#1|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018234649/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0406010.html#1|archivedate=2004年10月18日}}</ref>、同一人物から複数回にわたる送金もあり、市教育委員会は「温かく支援していきたいという善意の人が多い」としてそれ以降も継続した<ref name="新潟地裁2002-01-22"/>。}}<ref name="新潟地裁2002-01-22"/>。 |
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少女Aの保護から1年10か月後の2001年12月1日に『新潟日報』が報じた記事{{Efn2|「家族の会い、笑顔徐々に」{{Sfn|佐木隆三|2003|p=147}}。}}では、「被害者少女Aは事件後成人式に出席したほか運転免許を取得し、家族と[[新潟スタジアム]]へサッカー観戦に赴いたり家族旅行に出かけるなど、日常を取り戻しつつある」と伝えられている{{Sfn|佐木隆三|2003|pp=147-148}}。また『週刊新潮』は2010年末、Aの祖母の「Aは現在は元気になって学校にも通っているが、現在も事件のことを考えると気がおかしくなると言っている」という旨の証言や、近隣住民の「たまに散歩しているAの姿を見るが、カメラが好きなのか田んぼの花を一生懸命撮影するなどしている」という旨の証言を報じ{{Sfn|週刊新潮|2011|pp=47-48}}、2015年にはA(当時30歳代)について、近隣住民の声を引用して「家族とともに明るく平穏に生活している」と報じている{{Sfn|週刊新潮|2015|p=137}}。なお、Aの父親は2007年(平成19年)10月に事故死している<ref>{{Cite journal|和書|journal=週刊新潮|title=解放から7年「新潟監禁少女」の目の前で「溺死した父親」 (ワイド 壊れる日本人)|volume=52|date=2007-10-25|issue=40|pages=147-148|publisher=新潮社|NAID=40015634755|{{CRID|1521980705590181888}}}} - 通巻:第2617号(2007年10月25日号)。</ref>。 |
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2004年(平成16年)の[[刑法 (日本)|刑法]]改正[施行:2005年(平成17年)1月1日]により、逮捕監禁致傷罪の懲役の長期上限が10年から15年に引き上げられた{{Sfn|松田美智子|2009|p=309}}。現行法では本件のように併合罪が適用された場合、7年6か月(15年の半分)が加算されるため、最大で22年6か月が上限となる{{Sfn|松田美智子|2009|pp=309-310}}。 |
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懲役14年の刑が確定した佐藤宣行は[[千葉刑務所]]に収監されたが{{Sfn|週刊新潮|2015|p=134}}{{Sfn|週刊新潮|2021|p=129}}、『[[週刊新潮]]』 (2015) によれば刑務作業を怠ったり、職員(刑務官)の指示を聞かなかったりなど、服役態度は不真面目だった{{Sfn|週刊新潮|2015|p=136}}。また公判中から減少していた体重がさらに減り、歩行に介助が必要な状態となり、[[八王子医療刑務所]]に移され治療を受けたと伝えられた{{Sfn|松田美智子|2009|p=312}}。服役中のSと文通などをしていた窪田順生は、佐藤宣行は2009年(平成21年)末に獄中で溜め込んでいたアイドル写真などの所持品が一杯になったことから、それを刑務所によって没収されたことによって精神的に不安定になり、最終的には隣房の受刑者と揉め事を起こしたことで、2010年(平成22年)10月ごろまで懲罰的な保護房に250日間入れられていたが、そのような処置に対し「人権侵害」「ゲバ刑(「暴力刑務所」の意味)の横暴」と不満を漏らしていたと述べ{{Sfn|週刊新潮|2011|p=47}}、佐藤宣行はまったく更生しておらず再犯の可能性も高いとして、出所後速やかに何らかの施設に入れるべきだと主張していた{{Sfn|週刊新潮|2011|p=48}}。『週刊新潮』 (2015) はそれらの出来事以外にも、佐藤宣行が服役中に[[障害者手帳]](2級)を取得したと報じている{{Sfn|週刊新潮|2015|p=136}}。佐藤宣行は『読売新聞』社会部記者からも手紙で取材を申し入れられたが、その際には条件として万単位の謝礼支払いを要求したほか、刑務所内で友人を作ることができないので、記者に友達になってほしいという旨も綴っていた{{Sfn|読売新聞社会部|2011|p=25}}。佐藤宣行と同じ刑務所に服役していた元受刑者は、自身が佐藤の独房まで食事を配膳した際も、佐藤宣行はテレビを見ることに夢中で食事にも目を向けなかったという旨を述べている{{Sfn|読売新聞社会部|2011|p=25}}。 |
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[[受刑者]]佐藤宣行は2015年(平成27年)4月に52歳で刑期満了を迎え、出所後は故郷の新潟に戻らず[[千葉県]]内で障害者福祉施設からの支援を受け、[[生活保護]]を受給しながらアパート{{Efn2|アパートは[[千葉駅]]から電車で約20分かかる駅の周辺に位置しており{{Sfn|週刊新潮|2021|p=128}}、建設会社が管理している物件だったが、佐藤宣行は仕事をしていなかった{{Sfn|週刊新潮|2021|p=131}}。}}で1人暮らしをしていた{{Sfn|週刊新潮|2021|pp=130-131}}。2017年(平成29年)ごろ、元受刑者S(当時54-55歳)はアパートの自室で病死([[孤独死]])しているのを発見され<ref name="新潟日報2020-01-23"/>{{Sfn|週刊新潮|2021|p=128}}、事件発覚から20年目となる[[2020年]]([[令和]]2年)1月23日に『[[新潟日報]]』([[新潟日報社]])や『[[柏崎日報]]』(柏崎日報社)でその事実が報道された{{Efn2|『柏崎日報』 (2020) は「(佐藤宣行が死亡した事実は)柏崎署への取材で分かった」と報道している<ref name="柏崎日報2020-01-23"/>。}}<ref name="新潟日報2020-01-23">{{Cite news|title=柏崎女性監禁事件 元受刑者が病死 2017年ごろ、出所後千葉で|newspaper=[[新潟日報]]|date=2020-01-23|author=|url=https://www.niigata-nippo.co.jp/news/national/20200123520286.html|language=ja|accessdate=2020-02-14|publisher=[[新潟日報社]]|archivedate=2020年2月14日|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200214101523/https://www.niigata-nippo.co.jp/news/national/20200123520286.html}}</ref><ref name="柏崎日報2020-01-23">{{Cite news|title=柏崎誘拐監禁事件の元受刑者17年ごろ死去|newspaper=柏崎日報|date=2020-01-23|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2020-01-23-4.html|accessdate=2021-01-26|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210126095139/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2020-01-23-4.html|archivedate=2021年1月26日}}</ref>。 |
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また佐藤宣行の母親は、息子の収監後に認知症が進み、老人介護施設に入所したため、2003年(平成15年)ごろからは面会に訪れなくなり{{Efn2|窪田順生 (2006) は2003年8月下旬に佐藤の母親(当時77歳)を取材した{{Sfn|窪田順生|2006|pp=181-182}}が、その数か月後に佐藤の母親は体調を崩して入院し、窪田がその見舞いに1度行ったのが最後の対面になった{{Sfn|窪田順生|2006|p=213}}。秋本誠は近隣住民への取材で、佐藤の母親は事件後に寝たきりになり、2003年11月に入院したという証言を得ている<ref name="FLASH増刊2005-08-05">{{Cite journal|和書|journal=[[FLASH (写真週刊誌)#FLASH EXCITING|FLASH EXCITING]]|author=取材/文:秋本誠|title=10年間で女性監禁事件が倍増!首輪男から海外まで 「ザ・監禁男」プロファイリング 新潟・9年2カ月女性監禁事件 監禁9年2カ月 '00年1月28日発覚 母親と同居している家に9年も監禁!!|page=45|date=2005-08-05|issue=85|publisher=[[光文社]]}} - 通巻:第85号(2005年8月5日増刊号)。</ref>。}}{{Sfn|松田美智子|2009|p=312}}、佐藤の服役中に死亡した<ref name="新潟日報2020-01-23"/>{{Sfn|週刊新潮|2021|p=130}}。事件現場となった加害者宅は佐藤宣行の母親名義のままで、2021年2月時点でも事件当時のまま[[空き家]]となっている{{Efn2|秋本誠が2005年6月初旬に現場の家を訪れた時点では、門扉に南京錠がかかっており、住人は不在だった。秋本の取材に答えた近隣住民によれば、この家は約2年前(最高裁判決前)に約1,200万円で売りに出されたが、当時は最高裁で審理が続いていたため、裁判所が証拠保全の処置を取ったという<ref name="FLASH増刊2005-08-05"/>。}}{{Sfn|週刊新潮|2021|p=131}}。 |
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== 新潟県警の不祥事 == |
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=== 少女A発見・保護時の状況についての虚偽発表 === |
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*''正確な状況については[[#少女Aの保護・佐藤宣行の逮捕]]を参照のこと'' |
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少女Aが保護された当日の21時30分より[[三条警察署]]で緊急の記者会見が開かれ、1990年に三条市で行方不明となった少女Aが柏崎市で発見されたことが公表された。この会見で事態の説明に当たった捜査一課長は、「15時ごろ、柏崎市内の病院で男 (佐藤) が暴れていると通報があった。一緒にいたのが(三条で行方不明になった)女性 (A) だった。女性は名前と生年月日を話した」と発表した{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=23}}。しかしその後、佐藤宣行の家庭への対応が拙かったのではないかと追及されていた保健所所長が、A発見の経緯についての警察発表が事実と異なると指摘し、改めてA発見時の状況について注目が向けられた。 |
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これについて[[柏崎警察署]]副署長は「柏崎署に『公園近くの家で男が暴れているので、警官3人に来てほしい』と通報があり、そのときは警官の都合がつかず出動できなかったが、折り返しの連絡時に出動の意向を伝えた。しかし『佐藤宣行が大人しくなったので必要がなくなった』と言われた」という旨の説明を行った{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=70}}。しかし、これに対し県健康福祉対策課長は「(保健所側が出動を)お断りしたことはないと聞いている」と反論{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|pp=70-71}}。いずれにしても佐藤宣行が暴れていたのは病院ではなく自宅であり、Aの保護を行ったのも警察ではなく県や保健所の職員であったことが明らかとなり、2月15日には県警が出動を断ったことが一斉に報じられた{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=71}}。また、佐藤宣行の母親は初めて保健所を訪れた1996年1月以前に柏崎署を訪れ、家庭内暴力について相談していたが、この時は「子供の暴力は保健所に相談してくれ」と応対されていたことも発覚した{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=71}}。 |
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2月17日昼には県警刑事部長と生活安全部長が釈明会見を行った{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=73}}。なお、記者クラブは県警本部長の出席を求めていたが、本部長は出席しなかった{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=73}}。会見では出動要請を拒否したとされる点について「臨場要請を断ったという認識はないが、結果として迅速な対応ができなかったのは事実。<small>''(中略)''</small>身元不明者がいるから、1人でも警察官を派遣してほしいという要請に関すること。これについては、現場にいた保健所の職員に対し、氏名などを確認するように依頼したことが臨場要請を拒否したと受け止められたと思われるが、迅速に対応できなかったのは大変残念。申し訳ないと思っています{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|pp=73-74}}」と謝罪。また保護の場所を佐藤の自宅ではなく病院と発表したことについては「病院関係者が第一発見者であるとそのまま発表した場合、これらの関係者にいろいろと大変なご迷惑をかけることになるのではないかなどとおもんぱかって、伏せることとしたためであります。しかし、そういった配慮のため、誤解を与えかねない表現ぶりとなってしまいまして、まことに申し訳ないと思っています{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=74}}」と、こちらについても謝罪した。また、柏崎署を訪れていた佐藤の母親に対する対応については生活安全部長が「相談の際もしっかり受け止めて十分に状況を聞き出しておれば、早急に救出できたのではないかと残念で申し訳なく思っている」と述べた{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=79}}。 |
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これに関しては、新潟県精神保健福祉センターの後藤雅博も、柏崎では医療関係者、保健所、市、警察の連携は普段より比較的うまくいっており、今回も被疑者宅に行く前に警察には連絡済みで、警察が訪問に立ち会わなかったのは医療保護入院ではあり得ることであり、(A発見は予期せぬ出来事であったため)警察を非難する気持ちはない、としている<ref name="goto" />。また、医師とともに保健所と市の職員が同行していることで官民の癒着を疑われたくない(当時はまだ移送制度が施行されていなかった)、保健所への取材攻勢を避けるため警察が情報を一元化して発表したほうが都合がよい、などの考えもあってのことだったと述べている<ref name="goto" />。 |
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=== 佐藤宣行の初犯に関わる初動捜査の不備 === |
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少女Aが佐藤宣行に誘拐され行方不明となった際、別の少女に対する強制わいせつ未遂事件の[[前科]]を持つ佐藤宣行は捜査対象に入っておらず、結果として事件の長期化を招いたとして問題視された。これは柏崎署が佐藤の犯歴データを県警本部に送信していなかったことが原因であった{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=63}}。 |
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2000年2月10日、事件発覚後最初に行われた定例記者会見において県警は犯歴データの登録不備を認め、県警本部長が「一般的にこの種の捜査においては当然、同種事件について捜査することが基本であり、当時も推進したと思われるが、発見できなかったことを重く受け止めている。(前歴者リストの登録漏れを)十分検証し、今後の捜査に生かしていきたい」と述べた{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|pp=64-65}}。また刑事部長は「いわゆる、犯罪手口システム(前歴者リスト)に、(佐藤宣行が)登録されていなかったのは事実。捜査にはいろんな手法があるので、これが即(監禁の)長期化に結びついたのかは分からないが、一つの原因であろうと思っている」と述べた{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=65}}。 |
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また[[松田美智子 (作家)|松田美智子]]は「少女Aが誘拐された翌年(1991年)春ごろに、従前から女性に対する問題行動を繰り返していた三条署勤務の警察官{{Efn2|この警察官は前任地([[小出警察署]])に勤務していたころから、職権を乱用して未成年を含む複数の女性にわいせつ行為を迫るなどしていたほか、本事案の担当ではないにも拘らず、対策本部の様子をしきりに疑うなど、不審な行動が目立っていた{{Sfn|松田美智子|2009|p=20}}。結局、本件については[[アリバイ]]が立証され、不問となったが、後に別件(別の少女へのわいせつ行為など)で諭旨免職処分となった{{Sfn|松田美智子|2009|p=20}}。ただし、そのわいせつ事件については被害者からの被害届がなかったため、立件はされていない{{Sfn|松田美智子|2009|p=20}}。}}が少女Aの失踪に関わっているのではないかとして、内密に事情聴取を受けており、警察内部から容疑者が出たことで捜査員の士気が低下した」と述べている{{Sfn|松田美智子|2009|p=20}}。その上で、警察内部における馴れ合い体質・隠蔽体質を認めた上で「良心的な捜査員も数多くいる」と訴える元警察関係者の声を紹介しながら、「良心的な捜査員が多数を占めているからこそ、警察組織は成り立っているが、警察内部の不祥事が原因で所在不明事案の捜査が緩くなったのだとすれば、関係者の言葉も弁解じみて聞こえる」とこれを批判している{{Sfn|松田美智子|2009|p=21}}。 |
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=== 事件発覚時の県警本部長らの対応 === |
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少女Aの発見当日、新潟県警には当時各地の警察を視察に回っていた警察庁特別監察チームのトップである関東管区警察局長(以下、局長)が訪れており、視察後、局長と県警本部長(以下、本部長)を含む県警幹部たちは新潟県[[三川村 (新潟県東蒲原郡)|三川村]]のホテルに1泊する予定であった。ホテルに向かう車中で刑事部長より本部長に対して「三条市で9年2か月前に行方不明になった少女Aが発見された」という一報が入り{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=11}}、以後はホテルの宴席上にFAXで続々と報告が寄せられた{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=17}}。この様子を見た局長は本部長に「(県警本部に)帰ったらどうだ」と促したが、本部長は「大丈夫です」と取り合わなかった{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=18}}。食後は局長、本部長、生活安全部長、総務課長、生活安全企画課長が参加し、[[図書券]]を景品とした[[麻雀]]が行われた{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=18}}。この間も本部長は報告を受け続け、少女Aの発見・保護状況に関して、詳細を伏せたままの発表(結果的に虚偽発表となる)を行うことの了承もこの場で行った{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=19}}。翌朝、朝食を終えた本部長らは[[捜査本部]]<ref group="注" name="捜査本部"/>設置を指示するなどしてから帰途についたが、すぐに警察本部には戻らず、その帰路に本部長は局長を[[ハクチョウ]]飛来の名所である[[水原町]]の[[瓢湖]]へ案内した{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=20}}。それから新潟市内に戻り昼食をとった後、局長は東京へ戻り、本部長は県警本部ではなく県警公舎に13時50分ごろ到着した{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=20}}。 |
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その後、相次いで発覚した県警の不祥事は[[国会]]でも取り上げられ、[[野党]]からの攻撃対象となったことから、警察庁は2月20日から「検証チーム」を新潟県警に派遣し、幹部および署員らに対する事情聴取を行った。その結果を24日に「緊急調査結果」として発表し、一連の不祥事の事実関係を認定した{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=89}}。翌25日、本部長が会見を開き、「まず、被害者と両親に9年間救出できなかったことを深くおわび申し上げたい」と前置きした上で、 |
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#少女Aの発見・保護状況で虚偽の発表をした |
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#性犯罪歴のあった佐藤宣行が少女Aの不明時に捜査対象とならなかった |
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#4年前に佐藤宣行の母親が柏崎署に相談に来た際の相談簿を紛失した |
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#少女Aを発見・保護した保健所職員からの出動要請を拒否した |
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#9年2か月の間、[[巡回連絡]]で被疑者宅を3回訪れていたにも拘らず不審情報を得られなかった |
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という5点について正式に謝罪した。その後の質疑応答で自身の進退について問われると、「最高幹部として責任は痛感しているが、進退については国家公安委員会の判断によるものであるから、私は与えられた任務を尽くしていく」と述べ、辞職の考えがないことを明らかにした{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|pp=87-88}}。他方、少女A発見時に本部長が局長を「麻雀接待」していた事実はすでに[[田中節夫]][[警察庁長官]]の知るところとなっており、25日の時点で両名は内々に田中に辞職を申し入れていた{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|pp=90-91}}。 |
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翌26日、本部長は再度会見を開き、「少女Aの発見・保護時の状況について虚偽の説明を行った」、「懇親会の席上にあった本部長自身が事件発覚の報告がなされた後も帰庁しなかったことで、警察の信用を失墜させた」という2件につき、[[国家公安委員会]]から減給100分の20(1か月)の処分を受けたことを発表。同時に自身の辞職願が2月29日付で受理されたことも合わせて発表した{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|pp=93-95}}。直後の質疑応答では、少女A発見後の行動について「その場でも十分な連絡体制があったし、被害者が保護され、容疑者も入院という措置が取られたということで、十分、指揮が執れると考えたわけだが、後日考えたところではやはり幹部として取るべき行動ではなかった。はなはだ不謹慎だったと大いに恥じている」と語り、県民や県警職員に対して謝罪の言葉を述べた{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|pp=100-101}}。 |
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局長に対しては処分が行われなかったが、これについて同日に会見を開いた田中は「自ら接待事由を報告している」「本部長に帰庁を促している」という点を鑑みたものだと説明したものの、接待を受けたこと自体については「特別監察後に夜に対象者と席を共にしてはいけない。一般的にはありえない。きわめて特異なケースだ」「(警察の)更生の道の先頭に立つべき者がとった行動だけに言語道断だ」と指弾した{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=102}}。 |
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最終的に本部長と局長はともに依願退職し、前者に3,200万円、後者に3,800万円の退職金が支払われることになったが、世論の反発は強く、両名ともにその受け取りを辞退した{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=96}}。また両名への対応が甘いとして批判された田中は、「局長の行為に対する監督責任がある」として国家公安委員会から減給100分の5(1か月)の処分を受けた{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|p=104}}。さらに虚偽発表、出動要請拒否、麻雀接待に関わった県警刑事部長、警務部長、生活安全部長ほか、[[警視]]4名、[[警部]]1名、[[警部補]]1名の計9名に減給、本部長訓戒、注意の処分が下された{{Sfn|毎日新聞新潟支局|2000|pp=104-105}}。 |
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また、柏崎市議会は2000年3月8日に柏崎署と新潟県警本部に対し、一連の不祥事の原因究明・信頼回復を求める申し入れを行った<ref>{{Cite news|title=監禁事件で市議会が警察に申し入れ|newspaper=柏崎日報|date=2000-03-09|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-03-09-2.html|accessdate=2021-02-04|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20201001113507/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-03-09-2.html|archivedate=2020年10月1日}}</ref>。 |
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== その他 == |
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本事件は同年に起こった[[西鉄バスジャック事件]]とともに、[[引きこもり]]の社会的認知度を一気に高めた<ref name="saitou">{{Cite news|title=斎藤環さん(精神科医、評論家)インタビュー|date=2009-12-08|newspaper=[[アスパラクラブ]]|author=[[塚崎朝子]](聞き手)|author2=[[斎藤環]]|url=https://aspara.asahi.com/column/medi-kataru/entry/96L44myo0C|publisher=[[朝日新聞社]]|archiveurl=https://web.archive.org/web/20120712004533/https://aspara.asahi.com/column/medi-kataru/entry/96L44myo0C|archivedate=2012年7月12日}}</ref>。これ以前から引きこもり問題に取り組んでいた精神科医の[[斎藤環]]が本事件について、「人が死ぬか誘拐でもされないと、メディアも取り上げず誰も知ろうとしない、政府も動かないのは、日本社会の病理の一つでしょう」と述べた上で、「引きこもりは、初期には犯罪者予備軍と誤解され、識者と呼ばれる方にすら『怠け』『甘え』と批判されました。実情を知らずに印象だけで語る人たちとの戦いが、まず私の仕事でした」と述懐している<ref name="saitou" />。 |
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医療ジャーナリストの月崎時央も本事件について、引きこもりや不登校児、心の病の子供を持つ家庭が、家庭ごと社会からひきこもってしまうという「典型的なケースだった{{Sfn|月崎時央|2001|p=69}}」とした上で、監禁が長期化した背景について次のように論じている{{Sfn|月崎時央|2001|p=72}}。 |
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{{Quotation|母親は、どんなに理不尽なことが起きても「私さえ我慢すれば。息子がこの家にいるかぎりは世間にも迷惑はかけない。手許にいればなんとかできる」と自分を納得させた。そうして思考停止状態になることで、精神のバランスを保っていた六十五~七十四歳の老母にとって、A子さんの監禁された密室は、家の中に作られた闇であり、死角だった。<br />そしてこの闇を内包していた母子カプセルは、息子の暴力がエスカレートする度に母親の自己犠牲という感情に支えられ、近所の人や警官の巡回パトロールぐらいでは、とうてい破たんなどしないくらい、どんどん強固なものになっていったのだろう。<br />なぜもっと早く発見できなかったのかという思いは誰もが持つし、警察の度重なる捜査ミスという困った要因も確かにそこにはあった。甘やかしと一言で片付ける人もいるだろう。しかし、これは社会に適応できない子を持つ母親の情念のようなものが作り出した、家庭という独特の閉鎖空間で起きた事件なのだ。そしてそこに他人が立ち入ることの難しさを前提にして、ひきこもりの子を持つ老いた母親の心情に寄り添わないと、理解しえない部分が多くあるように私には思えた。}} |
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なお、2001年2月9日には、佐藤宣行の母親が精神治療について相談していた病院の院長以下12名が、4年間にわたり無診察でSへの投薬を行っていたとして書類送検された{{Sfn|月崎時央|2001|pp=117-118}}。これに対して院長は「主治医の判断は間違っていないと思う。保健所や警察の手に負えず、病院に助けを求められた特殊なケースで誰がどう対処したらいいのか逆に司法の判断を仰ぎたい」と述べた{{Sfn|月崎時央|2001|p=118}}が、この件については12名全員が[[起訴猶予処分]]となった{{Sfn|月崎時央|2001|p=119}}。後に院長は、基本的に無診察投薬はすべきではないと前置きした上で「この事件について言えば、最大限の注意を払っての投薬により、無診察ではあったが、本人の激しい興奮状態が落ち着いたから、少女Aはあの危機的状況下で無事であった。そして、母親と医者との間には信頼関係ができていたからこそ、母親は当院を頼ってきていたし、最終的に入院を委ねられたのだと考えている」と主張した{{Sfn|月崎時央|2001|pp=118-119}}。一方では「小康状態を保ったことがかえって事態を長引かせ、問題を先送りしたのではないか」との批判もあり、月崎時央の取材では「患者を診ない医療行為はおかしい。母親が佐藤宣行の入院を渋った上で薬を懇願するなら、措置鑑定から措置入院という手段の説明と提案が必要ではなかったか。その場をしのぐための安易な対応は結局問題をこじれさせる。場合によっては病院から県に家族の同意が得られないことを伝えて、措置鑑定を要請することがあってもいい」という医師の談話が紹介されている{{Sfn|月崎時央|2001|p=120}}。また、精神医療の現場では無診察での薬の処方が蔓延しており、一度安易に薬を入手できた家族は、以後それに頼り切ってしまうという問題も指摘された{{Sfn|月崎時央|2001|pp=121-122}}。 |
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== 事件・裁判の経緯 == |
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!年||月日||出来事 |
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|1989年<br/>(平成元年)||6月13日||加害者の佐藤宣行が[[新潟県]][[柏崎市]]内で、(本事件の被害者とは別の)9歳の少女に対する強制わいせつ未遂事件で逮捕<ref name="毎日新聞2000-02-12"/>。 |
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|||9月19日||佐藤宣行が強制わいせつ未遂罪により、[[新潟地方裁判所|新潟地裁]]長岡支部で[[懲役]]1年・[[執行猶予]]3年の判決を受ける<ref name="毎日新聞2000-02-12"/>。 |
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|1990年<br/>(平成2年)||11月13日||佐藤宣行が[[三条市]]内で、9歳の少女A(本事件の被害者)を誘拐、柏崎市内の自宅一室で監禁を始める。 |
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|||{{center|〃|}}||少女Aの母親が駐在所に捜索願を出す。 |
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|||11月15日||[[新潟県警察|新潟県警]][[三条警察署]]に「女子小学生行方不明事案対策本部」が設置される。 |
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|||12月25日||地元消防関係者などによる捜索を打ち切り。 |
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|1991年<br/>(平成3年)||10月20日||巡回連絡のため警察官が被疑者宅を訪問。 |
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|1993年<br/>(平成5年)||6月22日||{{center|〃|}} |
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|1996年<br/>(平成8年)||1月19日||佐藤宣行の家庭内暴力について相談のため母親が柏崎保健所を訪問。 |
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|1998年<br/>(平成10年)||8月13日||巡回連絡のため警察官が被疑者宅を訪問。 |
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|||10月上旬||佐藤宣行が新潟県[[北蒲原郡]][[中条町]](現:[[胎内市]])で被害者Aに着せるための衣類4点(計2,500円)を万引きした<ref name="読売新聞2000-06-27"/>。 |
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|1999年<br/>(平成11年)||12月||佐藤宣行の家庭内暴力について相談のため母親が精神病院を訪問。医師から医療保護入院の提案を受ける。 |
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|2000年<br/>(平成12年)||1月12日||佐藤宣行の母親が息子の医療保護入院について相談するため、柏崎保健所を訪問<ref name="新潟日報2000-02-02"/>。 |
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|||1月19日||医療保護入院の判断のため、保健所職員と柏崎市職員がS宅を訪問したが、S本人と面会できず。 |
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|||1月28日||佐藤宣行に対する医療保護措置を実施。佐藤宣行の居住室内で監禁されていた被害者少女A(当時19歳)が発見、保護される。 |
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|||{{center|〃|}}||Aが両親と再会。 |
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|||1月29日||新潟県警が三条署に「三条市における未成年者誘拐・監禁事件」捜査本部を設置し、被疑者宅の[[捜索|家宅捜索]]を開始<ref name="新潟日報2000-01-29">{{Cite news|title=女性監禁事件 > 怖くて逃げられず 学校近くで連れ去る 三条署に捜査本部 男性宅を家宅捜索|newspaper=新潟日報|date=2000-01-29|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0129030.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018170636/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0129030.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref>(2月3日まで)。 |
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|||2月10日||佐藤宣行の強制わいせつ未遂事件についての犯歴データが県警に送信されていなかったことが判明。 |
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|||2月11日||病院に収容されていた被疑者の佐藤宣行が退院し、新潟県警に[[逮捕 (日本法)|逮捕]]される。 |
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|||2月13日||佐藤宣行の身柄が[[新潟地方検察庁|新潟地検]]に送致(送検)される。 |
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|||2月17日||事件発覚当初の状況について県警が虚偽の発表を行っていたことが判明。 |
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|||2月26日||事件発覚時の対応について追及されていた新潟県警本部長が辞職を発表。 |
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|||3月4日||新潟地検が未成年者略取・逮捕監禁致傷の罪で佐藤宣行を新潟地裁へ[[起訴]]<ref name="毎日新聞2000-03-04"/>。 |
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|||5月23日||新潟地裁(榊五十雄裁判長)で佐藤宣行の初公判<ref name="新潟日報2000-05-24"/><ref name="柏崎日報2000-05-24"/>。 |
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|||6月26日||新潟地検が佐藤宣行に対する併合罪の適用を図り、窃盗罪で佐藤宣行を追起訴<ref name="読売新聞2000-06-27"/>。翌日(6月27日)に第2回公判<ref name="新潟日報2000-06-28">{{Cite news|title=女性監禁事件 > S被告「友達がほしかった」|newspaper=新潟日報|date=2000-06-28|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0628010.html|publisher=新潟日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041018234928/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/k0628010.html|archivedate=2004年10月18日}}</ref><ref>{{Cite news|title=監禁事件 動機に「話し相手ほしかった」|newspaper=柏崎日報|date=2000-06-28|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-06-28-1.html|accessdate=2021-02-04|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210204153114/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-06-28-1.html|archivedate=2021年2月4日}}</ref>。 |
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|||7月26日||第3回公判。同日から窃盗事件についても審理<ref name="新潟日報2000-07-26"/>。 |
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|||10月3日||第4回公判で、新潟地裁(榊五十雄裁判長)は弁護人が申請していた精神鑑定の実施を決定<ref>{{Cite news|title=監禁事件のS被告、地裁が精神鑑定を決定|newspaper=柏崎日報|date=2000-10-04|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-10-04-1.html|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210204152337/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2000-10-04-1.html|archivedate=2021年2月4日}}</ref>。 |
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|||12月5日||第5回公判で被害者Aの両親が「娘は今も苦しんでいる。佐藤宣行を厳罰に処してほしい」と意見陳述<ref name="新潟日報2000-12-06"/>。 |
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|2001年<br/>(平成13年)||10月16日||第6回公判で「佐藤宣行には刑事責任能力がある」という[[精神鑑定]]結果が提出され、証拠採用される<ref>{{Cite news|title=女性監禁事件公判「刑事責任問える」|newspaper=柏崎日報|date=2001-10-17|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2001-10-17-1.html|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20201001080723/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2001-10-17-1.html|archivedate=2020年10月1日}}</ref>。 |
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|||11月30日||第7回公判。検察官が佐藤宣行に懲役15年を[[求刑]]し、弁護人が最終弁論を行って結審<ref name="柏崎日報2001-11-30">{{Cite news|title=監禁事件S被告に懲役15年求刑|newspaper=柏崎日報|date=2001-11-30|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2001-11-30-1.html|accessdate=2021-01-27|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210127104119/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2001-11-30-1.html|archivedate=2021年1月27日}}</ref>。 |
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|2002年<br/>(平成14年)||1月22日||第一審判決公判<ref name="新潟地裁2002-01-22"/>。新潟地裁(榊五十雄裁判長)は佐藤宣行に対し懲役14年の判決を宣告<ref name="新潟地裁2002-01-22"/>。 |
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|||1月24日||佐藤宣行の弁護人が[[東京高等裁判所|東京高裁]]へ控訴<ref name="新潟日報2002-01-24"/>。 |
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|||2月5日||新潟地検が控訴を断念したため、量刑が第一審判決(懲役14年)より重くなる可能性が消滅<ref name="新潟日報2002-02-06"/>。 |
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|||10月22日||東京高裁第8刑事部{{Sfn|東京高裁|2002}}(山田利夫裁判長)で控訴審初公判<ref name="新潟日報2002-10-22"/>。 |
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|||12月10日||控訴審判決公判。東京高裁第8刑事部{{Sfn|東京高裁|2002}}(山田利夫裁判長)は「併合罪解釈に誤りがある」として第一審判決を破棄[[自判]]し、佐藤宣行に対し懲役11年の判決を宣告<ref name="新潟日報2002-12-10"/>。 |
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|||12月24日||[[東京高等検察庁|東京高検]]が「法令解釈に重要な誤りがある」として、[[最高裁判所 (日本)|最高裁]]へ[[事件受理の申立|上告受理の申立]]を行った{{Sfn|古江頼隆|2007|p=144}}。 |
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|||{{center|〃|}}||被告人が最高裁へ上告{{Sfn|古江頼隆|2007|p=144}}<ref>{{Cite news|title=監禁事件、検察・被告とも上告|newspaper=柏崎日報|date=2002-12-25|url=http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2002-12-25-2.html|accessdate=2021-01-27|publisher=柏崎日報社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20201002141418/http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2002-12-25-2.html|archivedate=2020年10月2日}}</ref>。 |
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|2003年<br/>(平成15年)||1月17日||最高裁第一小法廷は上告受理を決定<ref group="注" name="上告受理"/>{{Sfn|古江頼隆|2007|p=144}}。 |
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|||7月10日||最高裁第一[[小法廷]]([[深澤武久]]裁判長)で上告審判決公判{{Sfn|古江頼隆|2007|p=144}}。併合罪解釈に誤りがあるとして控訴審判決を破棄し、弁護側の控訴を棄却(一審判決を支持)する判決。<br />「併合罪は個々の罪を別々に処理するのではなく、全体を統一し処理すべきだ」との初判断を示す。 |
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|||8月12日||同日付で佐藤宣行に対し{{Sfn|古江頼隆|2007|p=144}}、'''懲役14年の刑が確定'''<ref name="日本経済新聞2003-08-13"/>。 |
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|2005年<br/>(平成17年)||1月1日||改正刑法が施行され、逮捕監禁致傷罪の懲役および禁錮の長期上限が10年から15年に引き上げられる{{Sfn|松田美智子|2009|p=309}}。 |
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|2015年<br/>(平成27年)||4月||[[千葉刑務所]]に収監されていた[[受刑者]]の佐藤宣行が刑期満了を迎える{{Sfn|週刊新潮|2015|p=134}}。 |
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|2017年<br/>(平成29年)||?||加害者S(元受刑者)が[[千葉県]]内で病死<ref name="新潟日報2020-01-23"/>。 |
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== 事件をモチーフとした作品 == |
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; 『残虐記』 |
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: [[桐野夏生]]作のミステリー小説。9歳の時に誘拐され、男と1年あまりの監禁生活を送った経験を持つ女流作家が、出所した男からの手紙を受け取ったことをきっかけとして、事件の内容と自身の来し方を綴った私小説「残虐記」の原稿を残し失踪するところから物語が始まる。2004年度の[[柴田錬三郎賞]]を受賞。 |
|||
; 『完全なる飼育 赤い殺意』 |
|||
: [[若松孝二]]監督による映画。『[[完全なる飼育]]』のシリーズ6作目。少女が男に10年間監禁されている山奥の一軒家に、殺人を犯し逃走中の男が逃げ込み、奇妙な三角関係が始まるという物語。監禁男を[[佐野史郎]]、被監禁女性を[[伊東美華]]が演じる。[[ロケーション撮影]]は新潟で行われた。 |
|||
; 『北陸少女監禁事件』 |
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: [[アイエナジー]]製作の[[アダルトビデオ|AV]](未発売)。少女役は[[倉本安奈]]。虐待表現など細部にこだわったあまり、プロデューサーから「やりすぎ」と言われ、メーカー、販売会社、警察、倫理メーカーの四者会議により発売が見送られた。後に[[新宿ロフトプラスワン]]にてエロシーンをカットして一度だけ上映された。観客74人にアンケートを取ったところ、「世に出すべき」と全員が答えたという。なお、当該作は、[[2003年]]に始まったアイエナジーの「エロシネマ」シリーズ第3弾としてリリースされる予定だったが、頓挫したためにシリーズも終了した<ref> 井川楊枝 『封印されたアダルトビデオ』 彩図社、[[2012年]]、131-136頁。</ref>。 |
|||
; 『葉隠しの家』 |
|||
: [[円山みやこ]]作の短編漫画。男に誘拐された少女が暮らす日の差さない暗い二階の部屋と、男の母親が日の下で盆栽を育てる姿が対比され描かれる。 |
|||
; 『[[かいしゃいんのメロディー]]』 |
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: [[大橋ツヨシ]]の漫画。第2巻で時事ネタとして当事件や新潟県警の不祥事をネタにしている。 |
|||
;『日本言論』 |
|||
: [[爆笑問題]]の著書。当事件をネタにした話が収録されている。 |
|||
; 『[[二人静か]]』 |
|||
: [[坂本礼]]監督による2023年公開の映画。5歳で行方不明となった(当事件とは無関係の)娘を持つ夫婦が主人公。情報提供を呼び掛ける夫婦を手伝い出す莉奈は、幼少期に[[千葉県]][[成田市]]での監禁を経験しており、それは当事件に基づいている。作中に監禁男とその母親の姿や声は登場せず、あくまで莉奈の経験談として語られる。[[西山未来]](妻・涼子役)と[[水澤紳吾]](夫・雅之役)が娘を待つ夫婦役を、[[ぎぃ子]]が莉奈を、それぞれ演じる。 |
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== 脚注 == |
== 脚注 == |
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{{脚注ヘルプ}} |
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<references/> |
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=== 注釈 === |
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{{Notelist2|30em}} |
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=== 出典 === |
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{{Reflist|30em}} |
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== 参考文献 == |
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'''刑事裁判の判決文''' |
|||
* {{Cite 判例検索システム|ref={{SfnRef|新潟地裁|2002}}|事件番号=平成12年(わ)第51号・平成12年(わ)第215号|裁判年月日=[[2002年]]([[平成]]14年)[[1月22日]]|裁判所=[[新潟地方裁判所]]|法廷=刑事部|裁判形式=判決|判例集=『最高裁判所刑事判例集』([[刑集]])第57巻7号923頁|事件名=未成年者略取、逮捕監禁致傷、窃盗被告事件}} |
|||
** [[裁判官]]:[[榊五十雄]]([[裁判長]])・金子大作・武田瑞佳 |
|||
** [[判決 (日本法)|判決]][[主文]]:被告人を[[懲役]]14年に処する。[[未決勾留]]日数中350日をその刑に算入する。押収してあるナイフ1丁(平成12年押第13号の1)及びスタンガン1台(同号の2)をいずれも没収する。押収してあるキャミソール3枚(同号の9,10)をいずれも被害者甲野株式会社に還付する。 |
|||
*** [[新潟地方検察庁|新潟地検]]の[[求刑]]:懲役15年(未決勾留日数を刑期に算入しない) |
|||
** [[検察官]]・[[弁護人]] |
|||
<div style="border: 1px solid #aaa; margin-left: 25px; padding: 2px; background: #eee; font-size: 90%;"> |
|||
;『最高裁判所刑事判例集』(刑集)第57巻7号923頁 |
|||
;『[[判例時報]]』第1780号150頁 |
|||
;『[[判例タイムズ]]』第1095号93頁 |
|||
:【事案の概要】 |
|||
::1. 未成年者略取罪と逮捕監禁致傷罪とが[[観念的競合]]の関係にあるとして、前者の罪についても[[公訴時効]]が完成していないとされた事例 |
|||
::2. 心神耗弱状態にあったとの主張を退け、完全[[責任能力]]を認めた事例 |
|||
::3. 犯行当時小学生だった被害者を下校途中に誘拐し、その後約9年2か月にわたり自宅内に監禁し続けるなどした未成年者略取、逮捕監禁致傷、窃盗の事案について刑法47条の趣旨を勘案し、懲役14年の刑が言い渡された事例 |
|||
;『[[TKC]]ローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:28075302 |
|||
:【事案の概要】被告人が、下校途中の小学生女児を略取すると共に逮捕監禁し、そのまま9年2か月にわたり同女を自宅内に監禁し続け、その結果、同女に対し、両下肢筋力低下等の傷害を与えた未成年者略取、逮捕監禁致傷、および監禁中の成長した同女に着用させるため下着を万引きした窃盗の事案において、[[併合罪]]関係にある各罪ごとの犯情から導かれるその[[量刑]]を単に合算させて処断刑を決するのではなく、その各罪を総合した全体的な犯情を考慮し得てその量刑処断すべき刑を決定すべきであり、被告人に対しては、逮捕監禁致傷罪の法定刑の範囲内では到底その適正妥当な量刑を行うことはできないとして、同罪の刑に法定の併合罪加重をした刑期の範囲内で懲役14年の刑が言い渡された事例。 |
|||
:【参照法令】[[刑法 (日本)|刑法]][[:b:刑法第224条|224条]]・[[:b:刑法第45条|45条]]・[[:b:刑法第221条|221条]]・[[:b:刑法第235条|235条]]・[[:b:刑法第220条|220条]]・[[:b:刑法第54条|54条]]・[[:b:刑法第39条|39条]]・[[:b:刑法第47条|47条]]・[[:b:刑事訴訟法第250条|刑事訴訟法250条]]</div> |
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* {{Cite 判例検索システム|Ref={{SfnRef|東京高裁|2002}}|事件番号=平成14年(う)第756号|裁判年月日=2002年(平成14年)12月10日|裁判所=[[東京高等裁判所]]|法廷=第8刑事部|裁判形式=判決|判例集=『高等裁判所刑事判例集』(高裁判例集) 第55巻3号7頁|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=20112|事件名=略取、逮捕監禁致傷、窃盗被告事件|判示事項=刑法47条の趣旨|裁判要旨=刑法47条は,併合罪の処理に当たり,併合罪を構成する個別の罪について,その法定刑を超える評価をすることを許すものではない。}} |
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** 裁判官:山田利夫(裁判長)・柴田秀樹・[[藤井敏明]] |
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** 判決主文:原判決を破棄する。被告人を懲役11年に処する。原審における未決勾留日数中350日をその刑に算入する。押収してあるナイフ1丁(新潟地方裁判所平成12年押第13号の1)及びスタンガン1台(同号の2)をいずれも没収する。押収してあるキャミソール3枚(同号の9, 10)をいずれも被害者甲野株式会社に還付する。 |
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<div style="border: 1px solid #aaa; margin-left: 25px; padding: 2px; background: #eee; font-size: 90%;"> |
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;『高等裁判所刑事判例集』(高裁判例集) 第55巻3号7頁 |
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;『東京高等裁判所(刑事)判決時報』第53巻1 - 12号110頁 |
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;『判例時報』第1812号152頁 |
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;『TKCローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:28085200 |
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:【事案の概要】被告人が、当時9歳の女子小学生であった被害者を連れ去り、自宅の自室において、9年2か月間余りにわたって監禁し続け、治療期間不明の傷害を負わせた未成年者略取及び逮捕監禁致傷並びに約2400円相当の商品4点を万引きした窃盗の事実につき、原判決が懲役14年に処したのは、明らかな法定の適用の誤りがある等とし、控訴した事案で、原判決は、刑法47条の解釈を誤った結果、併合罪全体に対する刑を量定するにあたり、逮捕監禁致傷罪について、その法定刑の上限である懲役10年を超える趣旨のものとしたといわざるを得ず、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるとし、原判決を破棄し、懲役11年を言渡した事例。 |
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:【参照法令】刑法224条・刑法221条・刑法235条・刑法45条・刑法47条</div> |
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* {{Cite 判例検索システム|ref={{SfnRef|最高裁|2003}}|事件番号=平成15年(あ)第60号|裁判年月日=[[2003年]]([[平成]]15年)[[7月10日]]|法廷名=[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第一[[小法廷]]|裁判形式=判決|判例集=[[刑集]] 第57巻7号903頁|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50069|事件名=略取、逮捕監禁致傷、窃盗被告事件|判示事項=1. 刑法47条の法意 / 2. 刑訴法495条2項2号にいう「上訴審において原判決が破棄されたとき」の意義|裁判要旨=1. 刑法47条は,併合罪のうち2個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは,同条が定めるところに従って併合罪を構成する各罪全体に対する統一刑を処断刑として形成し,その範囲内で各罪全体に対する刑を決することとした規定であって,併合罪の構成単位である各罪について個別的な量刑判断を行うことは,法律上予定されていない。 / 2. 刑訴法495条2項2号にいう「上訴審において原判決が破棄されたとき」とは,当該上訴審における破棄判決が確定した場合をいう。}} |
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** [[最高裁判所裁判官]]:[[深澤武久]](裁判長)・[[横尾和子]]・[[甲斐中辰夫]]・[[泉徳治]]・[[島田仁郎]] |
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** 判決主文:原判決を破棄する。本件[[控訴]]を[[棄却]]する。原審における未決勾留日数中260日を本刑に算入する。 |
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** 検察官・弁護人 |
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*** 検察官:山田弘司・山本信一(公判出席) |
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*** 弁護人:渡辺孝 |
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<div style="border: 1px solid #aaa; margin-left: 25px; padding: 2px; background: #eee; font-size: 90%;"> |
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;『最高裁判所刑事判例集』(刑集)第57巻7号903頁 |
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;『裁判所時報』第1343号8頁 |
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;『判例時報』第1836号40頁 |
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;『判例タイムズ』第1134号102頁 |
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;『最高裁判所裁判集刑事』(集刑)第284号365頁 |
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;『TKCローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:28085590 |
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:【参照法令】刑事訴訟法495条・刑法47条・刑法21条</div> |
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'''書籍''' |
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* {{Cite book|和書|title=新潟少女監禁事件 空白の九年二カ月|publisher=[[新人物往来社]]|date=2000-12-05|ref={{SfnRef|毎日新聞新潟支局|2000}}|author=毎日新聞新潟支局|authorlink=毎日新聞東京本社|editor=毎日新聞新潟支局|edition=初版第1刷|isbn=978-4404028945}} |
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* {{Cite book|和書|title=「少女監禁」と「バスジャック」〜マスコミ報道と精神医療〜|publisher=[[宝島社]]|date=2001-05-25|ref={{SfnRef|月崎時央|2001}}|author=月崎時央|edition=第1刷発行|series=[[宝島社新書]]|isbn=978-4796622219|issue=700}} |
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* {{Cite book|和書|title=少女監禁「支配と服従」の密室で、いったい何が起きたのか|publisher=[[青春出版社]]|date=2003-10-10|ref={{SfnRef|佐木隆三|2003}}|author=佐木隆三|authorlink=佐木隆三|editor=プライム涌光(責任編集)|editor-link=プライム涌光|edition=第1刷発行|pages=85-174|chapter=第二章 新潟少女監禁事件|isbn=978-4413034302}} - 本事件と[[北九州監禁殺人事件]](2002年に発覚)の共通性を指摘し、両事件をそれぞれ取り上げた書籍。 |
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* {{Cite book|和書|title=14階段 ――検証 新潟少女9年2ヶ月監禁事件――|publisher=[[小学館]]|date=2006-04-20|ref={{SfnRef|窪田順生|2006}}|author=窪田順生|authorlink=窪田順生|edition=初版第一刷|isbn=978-4093897020}} |
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* {{Cite book|和書|title=新潟少女監禁事件 密室の3364日|publisher=[[朝日新聞出版]]|date=2009-02-06|ref={{SfnRef|松田美智子|2009}}|author=松田美智子|authorlink=松田美智子 (作家)|edition=|series=[[朝日文庫]]|isbn=978-4022616081|issue=}} - 原著:松田美智子『カプセル 新潟少女監禁事件 密室の3364日』([[主婦と生活社]])は2002年4月3日に1刷発行。 |
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* {{Cite book|和書 |title=贖罪 |publisher=[[中央公論新社]] |date=2011-12-20 |pages=17-26 |ref={{SfnRef|読売新聞社会部|2011}} |author=[[読売新聞]][[社会部]] |edition=初版発行 |isbn=978-4120043130 |ncid=BB07962926 |chapter=第一章 量刑の真実 > 人間にしかできない作業 |id={{国立国会図書館書誌ID|023191733}}・{{全国書誌番号|22061966}}}} - 『読売新聞』で2009年11月から2010年12月にかけて連載された特集「罪と罰」を加筆・修正して書籍化したもの。 |
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'''雑誌''' |
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* {{Cite journal|和書|journal=[[週刊文春]]|title=母親は知っていた?!少女「監禁飼育」9年 核心の証言|volume=42|date=2000-02-10|issue=5|pages=26-29|publisher=[[文藝春秋]]|DOI=10.11501/3376827|ref={{SfnRef|週刊文春|2000}}}} - 通巻:第2065号(2000年2月10日号)。 |
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* {{Cite journal|和書|journal=[[東京大学法科大学院ローレビュー]]|author=[[古江頼隆]]|year=2007|title=論説 刑事訴訟における「上告受理」制度|volume=2|month=9|url=http://www.sllr.j.u-tokyo.ac.jp/02/papers/v02part10.pdf|pages=143-150|publisher=[[東京大学大学院法学政治学研究科・法学部|東京大学法科大学院]]|language=ja|format=PDF|accessdate=2021-01-26|ref={{SfnRef|古江頼隆|2007}}}} |
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** {{Webarchive|url=https://web.archive.org/web/20210126135122/http://www.sllr.j.u-tokyo.ac.jp/02/papers/v02part10.pdf|date=2021-01-26|title=論説 刑事訴訟における「上告受理」制度}} |
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* {{Cite journal|和書|journal=[[週刊新潮]]|title=ワイド 失われた20年の流星 あの人は今 4 「新潟少女監禁男」は刑務所「保護房」に250日間叩き込まれた!|volume=56|date=2011-01-06|issue=1|pages=47-48|publisher=[[新潮社]]|NAID=40017406782|ref={{SfnRef|週刊新潮|2011}}|id={{CRID|1522825129633280512}}}} - 通巻:第2774号(2010年12月30日・2011年1月6日新年特大号)。 |
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* {{Cite journal|和書|journal=週刊新潮|title=特集 あれから15年「新潟少女監禁男」の刑期満了が迫っている!|volume=60|date=2015-02-19|issue=7|pages=134-137|publisher=新潮社|NAID=40020354975|ref={{SfnRef|週刊新潮|2015}}|id={{CRID|1523388079536321024}}}} -通巻:第2977号 (2015年2月19日号)。 |
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* {{Cite journal|和書|journal=週刊新潮|title=野に放たれた“脅威” それからの「新潟少女監禁男」|volume=66|date=2021-02-11|issue=6|pages=128-131|publisher=新潮社|NAID=40022472730|ref={{SfnRef|週刊新潮|2021}}}} - 通巻:第3271号(2021年2月11日特大号)。同年2月4日発売。 |
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== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
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*[[郊外型犯罪]] |
* [[郊外型犯罪]] |
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*[[監禁]] |
* [[監禁]] |
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*[[失踪事件]] |
* [[失踪事件]] |
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*[[長期捜査]] |
* [[長期捜査]] |
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* [[警察不祥事]] |
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* 女性が長期間にわたり監禁されたのち保護された事件 |
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** [[フリッツル事件]] |
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** [[ジェイシー・リー・デュガード誘拐事件]] |
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** [[オーストリア少女監禁事件]] |
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** [[クリーブランド監禁事件]] |
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== 外部リンク == |
== 外部リンク == |
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* {{Cite web|和書|url=https://www.city.sanjo.niigata.jp/soshiki/sanjoukyouiku/kyoikuiinkaijimukyoku/kyoikusomuka/sonota/10618.html|title=愛の支援募金 「三条市愛の支援募金」口座を開設しています|accessdate=2021-01-27|publisher=[[三条市]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210127114907/https://www.city.sanjo.niigata.jp/soshiki/sanjoukyouiku/kyoikuiinkaijimukyoku/kyoikusomuka/sonota/10618.html|archivedate=2021-01-17}} - 被害者女性Aへの支援を求め、三条市が開設した募金用の口座の案内 |
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* [http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=50069&hanreiKbn=02 事件番号:平成15(あ)60 最高裁判所第一小法廷 平成15年07月10日 判例検索システム] |
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* {{Cite web|和書|url=http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/kankin.html|title=女性監禁事件・県警不祥事関連|accessdate=2021-01-26|publisher=[[新潟日報社]]|website=『[[新潟日報]]』|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20041012043509/http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/kankin.html|archivedate=2004-10-12|url-status=dead|url-status-date=2021-01-26}} |
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* {{Cite web|和書|url=http://melma.com/backnumber_12144_927809/|title=LA LUNA vol.35(柏崎監禁事件)インテルビスタ 柏崎監禁事件 第二回 柏崎少女監禁事件とマスコミ報道の話 その1|accessdate=2021-01-27|publisher=TOKIO TSUKIZAKI|author=松田ひろし([[柏崎厚生病院]]院長)|coauthors=月崎時央|date=2001-01-22|website=LA LUNA|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190824064009/http://melma.com/backnumber_12144_927809/|archivedate=2019-08-24|url-status=dead|url-status-date=2021-01-27}} |
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** {{Cite web|和書|url=http://melma.com/backnumber_12144_927810/|title=LA LUNA vol.36(柏崎監禁事件)インテルビスタ 柏崎監禁事件 第三回 柏崎少女監禁事件とマスコミ報道の話 その1|accessdate=2021-01-27|publisher=TOKIO TSUKIZAKI|author=松田ひろし(立川メディカルセンター 柏崎厚生病院院長)|coauthors=月崎時央|date=2001-01-29|website=LA LUNA|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20160305070113/http://melma.com/backnumber_12144_927810/|archivedate=2016-03-05|url-status=dead|url-status-date=2021-01-27}} |
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2024年12月13日 (金) 10:20時点における最新版
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新潟少女監禁事件 | |
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事件現場となった住宅(2021年8月撮影) | |
場所 | |
座標 | |
標的 | 帰宅途中の少女 |
日付 |
1990年(平成2年)11月13日(被害者Aが誘拐される)[1] - 2000年(平成12年)1月28日(被害者Aを保護)[4] 1990年11月13日17時ごろ[5] – 2000年1月28日14時ごろ[5] (UTC+9〈JST〉) |
概要 |
小学校から下校途中の少女A(当時9歳)が佐藤宣行によって誘拐され、約9年2か月間にわたり佐藤の自室に監禁された[2]。佐藤からの暴力により、Aは佐藤宅から逃げ出せず、一連の監禁生活によって両足の筋力低下・骨量減少などの傷害を負った[6]。 誘拐から9年2か月後の2000年1月28日、少女A(当時19歳)は佐藤宅で保健所職員らによって発見・保護された[4]。 |
攻撃手段 | |
攻撃側人数 | 1人 |
武器 | ナイフ(刃体の長さ約13 cm)・スタンガン[5] |
負傷者 | 1人 |
被害者 | 小学校4年生の少女(1990年当時9歳) |
損害 | キャミソール4枚を万引き(時価合計約2,464円)[5] |
犯人 | 佐藤宣行(逮捕当時37歳)[2] - 2017年ごろに病死[4] |
対処 | 佐藤宣行を新潟県警が逮捕[2]・新潟地検が起訴[7] |
刑事訴訟 | 懲役14年(上告審で確定)[8] |
影響 | 被害者Aが保護された直後から、新潟県警の捜査ミス・保健所の不十分な対応などが次々と判明し、当時の新潟県警本部長や田中節夫(警察庁長官)らへの処分が下される事態となった(#新潟県警の不祥事)[9]。 |
管轄 |
最高裁判所判例 | |
---|---|
事件名 | 略取・逮捕監禁致傷、窃盗被告事件 |
事件番号 | 平成15年(あ)第60号、第88号 |
2003年(平成15年)7月10日 | |
判例集 | 刑集 第57巻7号903頁 |
裁判要旨 | |
| |
第一小法廷 | |
裁判長 | 深澤武久 |
陪席裁判官 | 甲斐中辰夫・泉徳治・島田仁郎・横尾和子 |
意見 | |
多数意見 | 全員一致 |
意見 | なし |
反対意見 | なし |
参照法条 | |
刑法21条、刑法47条、刑訴法495条2項 |
新潟少女監禁事件(にいがたしょうじょかんきんじけん)は、1990年(平成2年)11月13日夕方に新潟県三条市の路上で、少女A(当時9歳・小学校4年生)が佐藤宣行により誘拐され、約9年2か月間にわたり同県柏崎市四谷一丁目の加害者宅2階の一室に監禁された事件[2]。柏崎女性監禁事件[4]、三条市の女性監禁事件と呼称される場合もある[10][11][12]。
約9年2か月後[4](3,364日後)[13]の2000年(平成12年)1月28日、加害者である佐藤宣行(当時37歳)の母親から「息子の家庭内暴力に悩んでいる」と相談を受けた医師や保健所の職員らが、男を強制入院させるために現場の住宅を訪れたところ、同宅2階(佐藤宣行の部屋)で、19歳になっていた被害者少女Aを発見・保護した[4]。
新潟県警によって逮捕された佐藤宣行は[2]、被害者少女Aを誘拐して自宅に長期監禁したとして、未成年者略取・逮捕監禁致傷罪で起訴された[7]ほか、Aの監禁中だった1998年(平成10年)10月上旬にAに着せるための衣類を万引きしたとして、窃盗罪でも追起訴された[14]。
刑事裁判では、被告人佐藤宣行の量刑と、それに影響する併合罪の解釈をめぐって最高裁まで争われたが、2003年(平成15年)に最高裁で懲役14年の刑が確定[8][15]。千葉刑務所に収監された受刑者佐藤宣行は[16]、2015年(平成27年)4月に刑務所を出所したが、2017年(平成29年)ごろに千葉県内で病死した[4]。
監禁期間が約9年2か月という長期にわたっていたことや、事件に関わる新潟県警の捜査不備・不祥事(#新潟県警の不祥事を参照)が次々と発覚したことなどから社会的注目を集めた。また、犯人が長期の引きこもり状態にあったことから、同様の状態にあった男が同年(本事件発覚後)に起こした西鉄バスジャック事件とともに、引きこもり問題の社会的認知度を大きく高めた事件ともなった[17]。新潟県の県紙『新潟日報』(新潟日報社)は、2000年の「県内10大ニュース」の1位および、「国内10大ニュース」の8位として、本事件とそれに関連する県警の不祥事を選出した[18][19]ほか、第一審・控訴審の判決が言い渡された2002年(平成14年)には「県内10大ニュース」の6位として本事件を選出した[11]。
事件の経緯
[編集]犯人の生い立ち
[編集]犯人の佐藤宣行は1962年(昭和37年)7月15日[20][21][22][23]、柏崎市で生まれた[24][22]。佐藤宣行の父親は戦後、東京で大会社の重役を送迎する運転手をしていたが、帰郷してタクシー会社を設立[25][26]。最初の妻との間に[22]5人の子供[注 1]をもうけていたが[28]、妻に先立たれ、57歳の時に佐藤宣行の母親(当時30歳)[注 2]を後妻として迎え[28]、61歳のときに当時35歳の妻と再婚[25]。佐藤宣行は父親が62歳、母親が36歳の時に出生し[29][30]、両親から溺愛されて育てられた[注 3][24]。 佐藤宣行は地元の幼稚園を経て[24]、市内の小学校に入学した[29]。佐藤宣行が小学1年の時、父親は[32]柏崎市四谷一丁目[2]に家を新築し、2階の十畳ほどの洋間を息子の子供部屋として与えた[32]。この部屋が後の事件の舞台となる。
佐藤宣行は市内の中学校に進学し、親の勧めで庭球部に入部したが[29]、本人は入部には乗り気ではなく、入部直後に練習を休んだことを責められ、罰走(校舎周り200 mを125周)を命じられて退部した[33]。その後は他の部活動にも興味を持てずにいたが、中学3年のころに野球に興味を持ち、バッティングセンターに通ったり、器械体操で減量に取り組んだりもしていたが、本人は卒業文集で中学生活を「おもしろかったようだが、いやな事ばかりの3年間だった」と総括している[33]。中学1年の時[注 4]、佐藤宣行が「怖くて学校に行けない」ということで精神科の診察を受けたところ不潔恐怖症と診断される[23]。なお、会社でタクシーの事務所やガレージの清掃を日常的にしていた佐藤宣行の父親も同じく不潔恐怖症であった[25]。佐藤宣行は虫を毛嫌いし、わずかな汚れも気にした。このころになると、70代半ばを過ぎた父親は佐藤宣行にとって薄汚れて見える存在になっており、佐藤宣行は「あんなの親父じゃない」と疎んでいた。また、母に対し「自分の父はなんで高齢なんだ」「なんで結婚したんだ」と不満をぶつけていたという報道もある[29]。
中学卒業後、佐藤宣行は柏崎工業高校機械科に進学し、1981年(昭和56年)に卒業した[29]。高校入学後には野球部でエースを目指して入部したが、約1、2か月で退部した[29]。高校時代、佐藤宣行は体格が大きく、身長は175 cmほどあったが、覇気が無くなよなよした話し方から「オカマ」と呼ばれており、学校では目立たない存在だった。このころから自分の殻に閉じこもるようになり、家の中で鬱憤を晴らすようになっていた。
高校卒業後
[編集]高校を卒業後、佐藤宣行は市内に進出していた機械精密部品製造会社に就職したが[29]、それから3か月後の研修期間中に退社した[20][35]。出勤途中に立小便をした際に「クモの巣にかかって汚れた」と家に引き返すなどといった奇行が続いて数か月で退職したものであり、以降は本事件で逮捕されるまで全く働いていなかった[23]。
1981年(昭和56年)7月、当時19歳の佐藤宣行は父親を家から追い出す[注 5][25]。生命保険会社で働く母親と2人暮らしになったが[29]、その半年後には母親と口論になり、「私も出て行く」と言われたため激昂[32]。家の仏壇に火をつけ、危うく火事になりかけた。長岡市の国立病院の精神科にて強迫神経症(不潔恐怖)と診断される[32]。即日入院し、向精神薬を投与された[32]。この時は1か月ほどで良くなり退院する[32]。
1985年(昭和60年)夏、当時23歳の佐藤宣行は母親に「僕もそろそろ自立しなければならない。お母さんにいつまでも甘えているわけにはいかないので、独立して生活できるように家を増築してほしい」と話す[32]。息子が就職口を見つけて真面目に働くと思った母親は直ちに700万円で家の増築を決めたが、佐藤宣行が2階の自室を工事業者に踏み込まれることを頑に拒否したため増築は中途半端なまま中止となり、就職の約束も反故にされた[31]。
佐藤宣行は母親に対しては好きなアイドル歌手のレコードや、競馬新聞などを買いに行かせており、この母親は商店の人たちの間で、ある種の有名人となっていた。また、佐藤宣行は新潟競馬場・三条競馬場へ馬券を買うために通っていたとされる[注 6][38]が、その行き帰りも母親が車で送迎しており、レースが終わるまでベンチに腰かけて待っている母親の姿が、競馬場の常連の間でも知られていた。佐藤宣行が競馬に勝つと、母親になじみの寿司屋で極上のトロのにぎり10個(8,000円分)を買わせることが何度かあった。
強制わいせつ罪で執行猶予
[編集]1989年(平成元年)6月13日[39][40]、佐藤宣行は柏崎市宮川[41]の国道で[42]、下校する小学生を小学校[注 7]の正門付近で待ち伏せ、同校4年生の女児(当時9歳)を尾行して道路脇の空き地(小学校から約300 m)に連れ込み[41]、いたずらしようとした[39]。しかし学校から約100 m離れた国道脇で被害女児の上級生2人が、被害女児が不審な男に抱えられているのを目撃して学校に伝え、佐藤宣行はそれを聞いて駆けつけた教職員らに取り押さえられた[45]。現場を通りかかった車が110番通報に協力し[45]、同日17時30分前[46]、佐藤宣行は学校近くの柏崎警察署宮川駐在所で[45]、強制わいせつ未遂容疑で現行犯逮捕された[注 8][47]。当時は東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件が発生していただけでなく、新潟県内でも巻警察署や燕警察署の管内で下校途中の男子児童が連れ去られかける事件があり、柏崎署管内でも児童が不審な男に声をかけられたという届け出があり、同校でも教職員を通じて注意をしていた矢先の事件だった[45]。
その後、佐藤宣行は警察の取り調べで「既遂」を認め、被害者側の親告(親族による告訴)もあり、新潟地検長岡支部[注 9]により強制わいせつ罪で起訴された[48]。同年9月19日、佐藤宣行は新潟地裁長岡支部で懲役1年・執行猶予3年の有罪判決を受けた[39](同年10月5日に確定)[49]。当時、新潟地裁長岡支部の裁判官は「再犯の可能性は低い」として、保護観察処分ではなく、佐藤宣行の母親[注 10]に監督・指導を任せた[49]。
また、柏崎署と新潟県警本部はこの時に強制わいせつで検挙した佐藤宣行を「前歴者リスト」に登録しておらず[注 11]、刑が確定した後も登録漏れのまま放置していた[52]。なお同事件から2か月後の[40][53]1989年8月28日には、佐藤宣行の父親が89歳で死去している[29]。佐藤宣行の父親は晩年、老人介護施設に入所しており[50]、最期まで息子の将来を心配していたが、佐藤宣行は父親の葬儀に参列しなかった[53]。
被害者少女Aを誘拐
[編集]執行猶予中(1回目の逮捕から約1年5か月後)[40]の1990年(平成2年)11月13日15時ごろ、加害者S(当時28歳)は母親が常用していた乗用車[注 12]を運転して1人でドライブに出掛け、長岡市内を経由し、幹線道路である国道8号を新潟市方面へ向かって走った[24]。そして三条市付近に至ったところで、国道8号から脇道の農道に入り[24]、17時ごろ[注 13][注 14]に三条市内の農道上で、本事件の被害者である少女A(当時9歳[注 15]・小学校4年生)を誘拐した[5]。現場は三条市街地の南側にある田園地帯を走る農道で、学校からA宅までは直線で約1 km離れており、途中は変電所の建物を除いてほとんど建物はなかった[55]。
佐藤宣行は乗用車で単身移動中、三条市内の農道において下校途中の少女Aを発見し、誘拐を決意[注 16][5]。いったんAを車で追い抜いてから目前で停車し、ナイフ[注 17](刃体の長さ約13 cm)を手にして降車し、Aへ接近した[5]。そして、Aの胸にナイフを突きつけて「おとなしくしろ。声を出すな」などと脅迫し[5]、身動きできないAの背後に回って車の後部に連行した[59]。そして車のトランクを開け「入れ」と指示したが、Aが入ろうとしなかったため、身体を抱え上げて[注 18]押し込め、トランクを閉めて車を発進させた[59]。佐藤宣行は柏崎市内の自宅にAを連行し[5]、一緒に生活させようと考え[30]、同市方面へ向かったが、その途中の18時30分 - 19時ごろ、柏崎市内の北陸自動車道の高架下の路上に車を停めてトランクを開け、トランク内に監禁していたAの様子を確認した後、粘着テープでAの両手足を緊縛し、目隠しもした[注 19][5]。そして再度、Aをトランクに押し込ませたままトランクパネルを閉め、再び自宅に向かい、同日20時ごろに到着した[5]。
自宅に到着した佐藤宣行は、日ごろ二人暮らしをしている母親にAを見られないよう、母屋の正面玄関ではなく家の増築部分(後述)の玄関前に停車、Aを抱えて自室のある2階に上がりAを自室南側の窓枠に置いたのち、改めて正面玄関前に車を回して普通に帰宅したように装いながら自室に赴き、窓枠に置いてあったAを自室に入れ、目隠しを外した[59]。そして、Aに対し「誘拐されて殺されちゃった女の子みたいにおまえもなってみたいか」[注 20][63]「この部屋からは出られないぞ。ずっとここで暮らすんだ。約束を守らなかったらお前なんか要らなくなる。山に埋めてやる。海に浮かべる」などと脅迫的な言葉を浴びせ[61]、以後継続的な監禁を開始した。
少女捜索の状況
[編集]少女Aが誘拐された1990年11月13日19時45分ごろ、Aの母親は「娘が帰ってこないので捜してください」と駐在所に捜索願を出した[64][65]。これを受け、新潟県警察の所轄警察署である三条警察署と学校関係者100人以上、翌14日には200人以上がAの捜索に当たったが手掛かりさえ見つけることができず、15日から三条署内に県警機動隊、機動捜査隊など107名で構成された「女子小学生不明事案対策本部」が設置された[66]。以後、捜索範囲は周辺市町村にも拡大され、ヘリコプターによる空からの捜索、空き家やコンテナボックスの内部などの捜索や、夜間検問も実施された[66]。三条署の対策本部は11月16日、ビラ2,000枚を市内と隣接する町村に配布したほか、三条市教育委員会も全小中学校を対象に、「夏休みの後、不審者から声をかけられたり、誘われたりしたことはなかったか」とアンケート調査した[注 21][67]。17日、対策本部はAの顔写真入り手配書を20,000枚作成し[67]、県内全域[注 22]に配布したほか、さらに24日に別の手配書1,000枚を新たに配布したが、有力な情報はもたらされなかった[69]。当時の警察担当記者によれば、事案発生から数週間後に車による連れ去り事件であるとの見方が支配的になり[注 23]、捜査一課が投入されたが、そうした見方が強まったことは却って捜査員たちに諦念を抱かせた[71]。また、少女Aが失踪した現場は幹線道路から外れ、土地勘のあるものでないと入らないような場所だったため、土地勘のある犯人像が有力視された[72]。そのため、三条市や燕市など県央地域で、同種事件を起こしたことのある人物を1,000人以上リストアップするなど、重点的な捜査が行われた[68]一方、佐藤宣行の住んでいた柏崎市は重点捜査の対象にされなかった[注 24][72]。
なお、当時この事件を報じていた『新潟日報』の記事[注 25]では、秋・夕方の下校途中に車で何者かに連れ去られたという部分が、1977年(昭和52年)に新潟市で失踪し、後に北朝鮮工作員に拉致されたことが判明した横田めぐみ(失踪当時13歳・新潟市立寄居中学校1年生)の失踪事件に類似するという旨が指摘されており[74]、また1995年(平成7年)頃にはオウム真理教事件が社会問題となったため、オウム真理教や北朝鮮の関与を疑う者もいた[75]ほか、副次的な事件として[76]、1991年(平成3年)1月下旬から4月下旬にかけ、Aの家に「娘を預かっている。会わせてやるから出て来い」などと嘘の電話を繰り返しかけたり、同年3月2日に三条市下須頃のレストランへAの母親を呼び出したりしたとして、同年6月に新潟市内の男が強要容疑で三条署に逮捕されるという事件もあった[77][75]。同事件で県警や三条署は、不安な思いの家庭を脅迫した悪質性を重視して脅迫罪より重い強要罪を適用した[78]。
捜索は11月19日に人員が80人規模に縮小され[54]、12月25日には地元消防団などによる捜索が打ち切られた[76]。翌1991年4月23日 - 25日には再び県警による捜索活動が行われたが手掛かりは発見できず[79]、このころには市民の協力情報も途絶えていた[77]。以後は専従捜査員30人体制で聞き込みなどを中心とした捜査が進められ[80]、毎年[1991年 - 1999年(平成11年)]11月13日、三条署員が当時Aの通っていた小学校や周辺の道路上など[76]、三条市を含む県央地域で情報提供を呼びかけるチラシを配布し[72]、地元のマスコミもその様子の取材を続けるなど、事件の風化を心配し、市民の関心を呼び起こしてきた[55]。三条市PTA連合会はAの行方不明事件を機に、市内の小中学校22校の危険箇所の指摘や、通学路の安全確保のための資料を作成し、これを三条市PTA連合会がまとめ上げて市に提案した一方、三条署は事件発生直後、Aの失踪を事件と断定せず「事案」として扱い、情報提供を求めるポスターの配布にも及び腰だった[注 27]ため、当時連合会の会長を務めていた男性[注 28]は「三条署がAの失踪直後から事案ではなく、事件として真剣に対処していれば、Aを早期発見できたのではないかと悔しくてならない」と述べている[82]。
監禁の状況
[編集]佐藤宣行は被害者少女Aに対し、脅迫的な文言を繰り返し浴びせる、ナイフを突きつける、顔面を数十回殴打するといった暴行の上で、最初の2 - 3か月間は自身の外出や就寝の際にはAの両手足を緊縛して身動きが取れないようにしていた[84]。その後両手の緊縛は解かれたものの、両脚の緊縛については1年ほど続き、Aの脱出意志を喪失させた[84]。Aに対しては大声を出さないこと、家の構造を知られないため、佐藤宣行が部屋を出入りする際には顔を隠したり毛布に潜ったりすること、自室のセミダブルベッドから許可なく降りないこと、暴れないことなどを命令し、これを破った際には暴行を加えた[84]。1、2年目からは暴行の道具としてスタンガン[注 29]を使用し始めたが、Aは「叫び声を上げたら刺されると思い[87]」自分の身体や毛布を噛むなどして声をあげることなく耐えた[84]。また、佐藤宣行の生活に関わる雑用をこなさなかったり、プロレス技を掛けられAが苦痛に声をあげたときなどにも[87]、「スタンガンの刑」と称して暴行が加えられた[84][87]。佐藤宣行は監禁期間中、軽い殴打は700回程度、力を込めた殴打は200から300回程度に及んだと供述している[88]。Aはある時期から、目を殴られると失明すると思い自ら頬を差しだしたり、スタンガンの痛みに慣れるため自らの身体に使用するといった行動もとるようになり[89]、また、暴行を受けている最中に「殴られているのは自分ではない」と第三者的立場を仮想して防衛機制を働かせる解離性障害の症状も出ていた[89]。
食事は当初、佐藤宣行の母親が息子の夜食用に用意していた重箱詰めの弁当が与えられていたが[84]、高齢であった母親の負担を考慮した佐藤宣行が自らコンビニエンスストアで売られている弁当に切り替えた[90]。さらに1996年(平成8年)ごろ、佐藤宣行がAの足に痣ができているのを発見、佐藤宣行はこれを高タンパク由来のものと考え糖尿病に進行することを危惧し、「運動をしない以上、減らすしかないと思い」Aの食事を1日1食に減らした[90]。数か月後からAは体調を悪化させていった[84]。佐藤宣行が計測すると46 kgあった体重が38 kgまで減少しており、Aは失神を起こすようになったが、佐藤宣行の対応は弁当におにぎりを一つ足したのみであった[84]。長らくベッドの上で行う脚部の屈伸がAに許されていた唯一の運動であり、その後糖尿病予防のため床上での足踏みが許されたが[90]、階下に母親がいる場合には存在を気取られないため、それも禁止された[91]。Aの筋肉は著しく萎縮し、佐藤宣行の腕に掴まってようやく立てる状態であった[87]。発見後の検査では著しい栄養不良に加え、両下肢筋力低下、骨粗鬆症、鉄欠乏性貧血などが認められ、通常歩行は不可能な状態だった[92]。また排泄は、潔癖症のためトイレが使えずビニール袋に排泄していた佐藤宣行に倣わせ、排泄後の袋は部屋の外の廊下に放置されていた。佐藤宣行は自分が部屋を出るときにAに顔を覆わせていた理由について「廊下にビニール袋が並んでいるのを見られたくなかったから」とも述べている。こうした環境下に置きながら、Aが監禁中に入浴したのは[84]、1992年(平成4年) - 1993年(平成5年)ごろにベッドから落下して埃まみれになった際に、目隠しをしたまま1階でシャワーを浴びせられたことが1回あるのみだった[30]。
虐待の一方で、佐藤宣行はAに漫画や新聞などを与え、テレビ、ラジオで流れるニュースなどの内容や、佐藤宣行の嗜好する事柄についてAと語り合うことを好んだ。時事についての議論は、「彼女の考えが子供のままでいないように」するためであったとし[93]、また「因数分解なんかは世の中では役に立たないけど、比例式は覚えた方が良いので教えました」と供述している[94]。Aが保護された後に行われた検査では、Aには一般の同年代人と比較して知的レベルに目立った低下は見られず、知識量や語彙においても目立った遅れはないとされた。裁判で佐藤宣行の弁護人は、このことは佐藤宣行がAに情報・知識を与えるよう努めたことが寄与しているとして、酌量を求める材料のひとつとした[95]。佐藤宣行はAを「友達」と認識しており[93]、裁判では「被害者は、私の言いつけを本当によく守るようになりました。これからはずっと、一緒に暮らしたいと思いました。競馬や自動車など、対等に話ができた。被害者のことは、基本的に好きだった。同世代の女性と思っていた。かけがえのない話し相手だったので、解放することはできませんでした」と供述し[88]、また初公判で読み上げられたAの供述調書の内容に、「自分はうまくやっていたと思っていたのに、実は恨まれていたんだとわかった」と述べた[96]。
佐藤宣行の生活状況
[編集]前述のように佐藤宣行は高校卒業後、2人暮らしの母親の勧めで機械部品の製造会社に就職したが、人間関係がうまくいかないことを理由に3か月で退職し、以来引きこもりの状態にあった[97]。一時は母親からの自立を目指し、母親に対し自宅に独立した居住スペースを設けることを求め母親もこれに応じたが、持病としていた不潔恐怖をはじめとする強迫性障害の症状を悪化させつつあり、大工の出入りに対して「他人が部屋に入ってくるのが嫌だ」と増築工事を中止させ、変わらない生活を続けていた[97]。Aの監禁を始める数年前から家庭内では障子や窓ガラスを破壊するといった行動を見せており[98]、監禁開始から5年あまり後の1996年1月には母親が保健所に赴き、息子の家庭内暴力を訴えた。職員は家庭訪問を打診したが母親は息子が暴れるとしてこれを断り、代替案として指示された精神病院に赴き、そこで向精神薬を処方され、佐藤宣行はこれを服用していた[99]。
このころには母親の保険外交員としての仕事もほとんど無くなっていた。若いころに実績を上げていたため、60歳の定年を5年延長できた上に定年退職後も嘱託として仕事を続けることはできたが、既に契約はほとんど取れなくなっていた。息子の暴力が激しくなり、心底怯えた母親は10時 - 16時まで500円で居続けることのできるかんぽの宿で時間をつぶすことが多かったという。
1999年(平成11年)ごろから、佐藤宣行は母親に対してもスタンガンを使用し始め[100]、同年12月に再び精神病院を訪れた母親は「このところ息子の暴力がひどい。自分の意のままにならないと殴る蹴るのうえに、私を縛り付けて、トイレにさえ行かしてくれない」と、佐藤宣行の家庭内暴力が激しさを増していることを訴えた。担当医師は強制的手段として医療保護入院(強制入院)を提案し、母親もこれに同意したことから、翌2000年(平成12年)1月19日にはその是非を判断するため、保健所職員と柏崎市職員が佐藤宅を訪れたが、佐藤宣行が部屋に閉じこもったため面会はできなかった。後日、精神病院、保健所、市役所などが協議を行い、医療保護入院の実施日が決定され、それに向けて専門チームも作られた[99]。
少女Aの保護
[編集]2000年1月28日13時30分ごろ、佐藤宣行を医療保護入院させる措置を実施するため、医療関係者5人[注 30]と保健所職員および市職員の男性計7人が3台の車に分乗して被疑者宅を訪れた[101]。S宅前で2人が待機し、残る5人が佐藤宣行の部屋のあった2階へ上がり、精神保健指定医が「お母さんの依頼で診察に参りました」と告げ、返事を待たず部屋に入った。ベッドで寝ていた佐藤宣行はこれに気付き「なんで入ってくるんだ!」と抗議したが、これに対し指定医が法律を説明し、「あなたは入院が必要であると認定されました」と告知すると、佐藤宣行は激しく暴れ出した。警察の応援が必要であると判断され、事前に医療保護入院があることを通知していた柏崎警察署生活安全課に対し、警官3名の派遣を要請したが、男性の課員が出払っていたため、彼らに連絡を取ったのち折り返し電話する旨が保健所職員に伝えられた[102]。なおも暴れる佐藤宣行に対し、医師が鎮静剤を注射。効果が現れるまで佐藤宣行は抵抗を続けたが、やがて鎮静化し眠りに落ちた[103]。
その後、関係者の注意は騒動の間にも動いていた様子があった毛布の塊に向けられた。市職員が不審に思い毛布をハサミで切り開くと、中から異様に色白な短髪の少女 (A) が現れた。市職員は「あなたは誰ですか。話をしてください」「名前は?どこから来たの」などと問い掛けたが、少女は口ごもり「気持ちの整理が付かないから」と話した。要領を得ないため、指定医が階下にいた佐藤宣行の母親を呼び出し、「この女性は誰か」と訊ねたが、母親は「知りません。顔を見たこともない」と答えた。
指定医は少女に「一緒にいた(被疑者)さんは入院することになったので、ここにはいつ帰ってくるか分かりません。あなたはどうしますか」と訊ねると、少女は母親に向けて「ここにいても、いいですか」と訊ねた。母親は了承したが、市職員らが「そういう問題じゃないでしょ。家の人に連絡しないとだめよ」とたしなめると、少女は「私の家は、もうないかもしれない」と話した[103]。また、母親の裁判での供述によると、母親が「あなたのお家はどこ?」と訊ねると、少女は「ここかもね」と答えたとされる[104]。新潟地裁 (2002) によれば、少女Aは「2000年1月28日午後2時ころ(=14時ごろ)」までS宅に逮捕監禁されていた[5]。
その後、医師1人とサイコソーシャルワーカー (PSW) の看護師、病院職員1人がSとともに車に乗り、佐藤宣行の母親はもう1人の医師とともに、少女Aは柏崎市および病院の職員とともにそれぞれ別々の車に分乗し、近郊の病院へ向かった[105]。被疑者宅に残った保健所職員の携帯電話には、柏崎署から折り返しの連絡が届き、人員の都合がつかないと伝えられた。これに対し職員は佐藤宣行が鎮静化し病院に向かったことと、同時に身元不明の女性が見つかった旨を伝え、警察官の出動を改めて要請したが、電話口の生活安全課係長は「そちらで住所、氏名を聞いてくれ。そんなことまで押しつけないでくれ。もし家出人なら保護する」と返答し、事実上出動を拒否した[注 31][106]。
病院へ向かう車中で病院職員が少女に改めて名前を尋ねると、少女 (A) は自身の名前と住所、生年月日、両親の名前などを答えた[106]。その情報に覚えがあった職員は、三条市で行方不明となった少女Aに思い当たり、病院到着後に少女から聞いた番号へ電話を掛けたが、この時は呼び出し音が鳴ったものの、誰も出なかった[106]。職員は次いで柏崎署に連絡を取り、「家にいた女の人の名前が分かりました。三条で行方不明になった少女Aだと名乗っている。少女は『十年前に連れてこられて一歩も外に出ていない』と話している。Aの家に電話をしたが出なかった。いま病院にいるので、すぐ来てください」と要請した[108]。これを受け、柏崎署から刑事課の捜査員3名が病院へ急行し、Aを伴って再び柏崎署に戻った後、指紋の照合が行われ、発見された少女が三条市で行方不明になった少女Aと同一人物であることが確認された[109]。同日夜には三条市から少女Aの母親が駆けつけ、娘と9年2か月ぶりの再会を果たした[109]。
一方、同じく病院に搬送された佐藤宣行はそのまま医療目的で収容された[110]。新潟県警は早期の身柄引き渡しを要求したが[111]、院長は佐藤宣行が医療保護入院の目的で投与された鎮静剤により昏睡中であることから、「医者は患者の生命と身体を守ることが目的で、継続している医療行為の責任を取らずに警察に身柄を引き渡すことはできない」との判断を下し[112]、医療優先の方針を伝え、これを了承された[111]。
佐藤宣行の覚醒後、突然の環境変化による精神的動揺、後に発症した内科疾患が全て治まるまでに10日間を要した[111]。この間に事件の概要がある程度報道され、病院では佐藤宣行の様子を聞きだそうとする多数のマスコミの取材や、その姿を撮影しようと病院に侵入するカメラマンの存在などで著しく混乱を来した[113]。
佐藤宣行の逮捕
[編集]新潟県警は被害者Aが保護された翌日(2000年1月29日)、未成年者略取・逮捕監禁事件として[114]、三条署に「三条市における未成年者誘拐・監禁事件」捜査本部[注 32]を設置し、加害者S宅の家宅捜索を開始[116]。家宅捜索は約1週間後の2月3日まで実施され[72]、Aが行方不明になった当時に着用していた衣服・ランドセルなどが押収されたため、Aの証言と併せ、佐藤宣行がAを誘拐・監禁したことが立証された[117]。
そして、佐藤宣行が1989年に起こした事件で逮捕された際には問題なく取り調べに応じていたことや、直前まで車を運転するなど日常生活を送っていたことから、捜査本部は新潟地検とともに立件に向けて協議し、未成年者略取・逮捕監禁致傷の容疑で逮捕状を請求する方針を決定[118]。医師が入院の必要なしと判断したため、捜査にも耐えられると判断、事件発覚から2週間後の2月11日午前中に逮捕状を請求した[29]。
捜査本部は同日午後から病院内で佐藤宣行に対し、短期間の事情聴取を行い[29]、佐藤宣行は警察車両に乗せられて裏口から退院[119]。病院敷地内での逮捕は避けて欲しいという院長の要請により、敷地から出た時点の14時54分[119]、佐藤宣行は新潟県警捜査本部によって未成年者略取・逮捕監禁致傷の被疑者として逮捕された[120][1]。
逮捕にあたり、捜査本部は被害者Aが受けた心的外傷後ストレス障害 (PTSD) と足の筋力低下を「傷害」と捉え、佐藤宣行の逮捕容疑を未成年者略取・逮捕監禁(量刑は最長5年)から未成年者略取・逮捕監禁致傷(最長10年)に切り替えた[120]。
報道
[編集]柏崎市で発行されていた週刊新聞『越後タイムス』は、本事件を「柏崎有史いらいの「四谷怪談」」と表現した上で、事件発覚後には柏崎の名が全国に鳴り響いたことや、一斉に各テレビ局のワイドショー番組が現場周辺にスタッフを送り込み、取材合戦が過熱、近隣住民や地元マスコミ各社に迷惑がかかっている場面もあるということを報じた[35]。
加害者Sとその母について
[編集]少女Aが発見された当日の1月28日21時30分、三条警察署が記者会見を開き、9年前に行方不明となった少女Aを発見、保護したと発表。この会見の内容が翌朝に事件の第一報として一斉に報じられた。佐藤宣行については精神障害者の可能性があったこともあり、主要マスメディアはしばらく「男」という匿名呼称を用いて報じていたが、『週刊文春』が2月3日号でいち早く実名報道に踏み切ると同時に、高校時代のものとされる佐藤宣行の顔写真も掲載した[115][121]。新聞では『産経新聞』が2月5日付朝刊から佐藤宣行を実名報道し[注 33][122][121]、他の主要紙も佐藤宣行が逮捕され「刑事責任を問える」という新潟県警の見解が引き出されると、翌2月12日より実名報道に切り替えた[123]。Aが監禁されていたという事実は伝えられたが、監禁の内容については、Aを保護する観点や、Aの両親がマスコミの接触を拒んでいたこともあり、公判開始まで明らかになることはなかった[124]。その一方で、ワイドショーや週刊誌では、佐藤宣行の異常性を強調する報道が連日行われた[125]。
1989年3月に発覚した女子高生コンクリート詰め殺人事件において、加害者宅2階に被害女性が監禁され、集団暴行を受けていることを知りながら、1階にいた加害者の母親はこれを看過し続けたという事例があり、本事件発覚当初には1階に居住していた佐藤宣行の母親にも監禁幇助の疑いが掛けられた[126]。週刊誌やワイドショーでは母親の共犯を匂わせるような報道も行われていたが、事情聴取に対し母親は「監禁を知らなかった」、「2階には何年も上がっていない」と供述[127]。捜査の結果、佐藤宣行の部屋を含む2階全体から母親の指紋が一切検出されなかったことや、Aによる「母親が住んでいることさえ知らなかった」という供述からその言葉が裏付けられ、母親は立件されず重要参考人となるに留まった[128]。
少女Aについてなど
[編集]事件発覚後、報道各社は救出された被害者女性の家から数百メートル以内に近づかないという報道協定を結んだ[129]。
被害者Aの実家がある三条市の地元紙『三條新聞』は、Aが保護された翌日(2000年1月29日)から、紙面でAの実名と本人写真、家族写真を報道した[130]。これに対し、新潟市の市民グループは2月10日に「人権侵害である」と抗議したが[131]、同紙は2000年2月12日付の紙面に掲載された社告でAを実名報道し続けた理由について、「捜査協力を呼びかけてきた地元紙として被害者の名前を熟知する読者に匿名にする意味がなかった」と説明した[130]。その上で、「前日(11日)からは捜査本部の発表文で、被害者Aは匿名に切り替えられている。他紙を併読する場合の影響を考え、今後は少女Aを匿名で報道する」と説明した[130]。
一部では少女Aに対しても「9年2か月もの間に逃げる機会はなかったのか」という疑問が呈され、Aが監禁状態にあるとき、犯人と運命共同体であるかのように錯覚し始め、やがて犯人への共感を示すようになるストックホルム症候群の状態にあったのではないかとの見方もあった。しかし、これは後に佐藤宣行の精神鑑定を担当した小田晋により否定され、精神鑑定書にも併せて記述された[132]。Aは「縛られなくなってからも、常に見えないガムテープで手足を縛られているような感覚でした。気力をなくし、生きるためにこの部屋から出ない方がいいと思いました。佐藤宣行は気に入らないとナイフを突きつけるので、生きた心地がしませんでした。大声で泣きたかったけど、叫び声を押し殺しました。けっしてSと一緒にいたかったわけではありません」と供述している[61]。またAは自身の母親に対し、佐藤宣行を評して「憎いとか怖いとか、そんな感情を出すのがもったいないほど、最低の人だ」と語っている[133]。
本事件のルポルタージュを執筆したひとりであるライターの窪田順生が一部の「下衆なマスコミ」が監禁中の被害者に対する様々な憶測を行った背景には、松田美智子が執筆したノンフィクション風小説『女子高生誘拐飼育事件』(1965年の事件を元に時代設定や事実関係など大幅に改編して執筆。後に『完全なる飼育』と改題され映画化)の影響が大きくあると指摘し、「この取材者は監禁をSMプレイの延長ぐらいにしか思われていないようだ。閉じこめられるほど愛されるということに、なにか高い精神性やらを期待されておられるようだが、それは官能小説の中だけにしていただきたい。現実の女性監禁は『飼育』も『プレイ』も『愛』もなく、あの『綾瀬コンクリ詰め殺人事件』に代表されるように果てしない暴力の連鎖、主従関係を錯覚することによる人間性の消失である[63]」と松田を批判し、またそうした憶測について、被害者が監禁の始期から絶えず暴力や脅迫に晒されていた事実を挙げて「彼女 (A) は逃げなかったのではない、逃げるのが不可能だと教え込まされていただけなのだ」と反論している[134]。また、松田も本件については「被害者には『部屋を出て逃げようとしたら殺される』という恐怖が染みついてしまっている。また、すっかり萎えてしまった足では、2階の階段を下りることもままならなかっただろう」と述べている[135]。
事件そのものについての報道のほか、事件に関連する警察の捜査不備や不祥事についての報道も盛んに行われ、県警本部長が辞職、警察庁長官が国家公安委員会から処分を受けるという事態も起きた(#新潟県警の不祥事)。
刑事裁判
[編集]起訴
[編集]2000年3月3日、新潟地方検察庁は被疑者の佐藤宣行を未成年者略取・逮捕監禁致傷罪で新潟地方裁判所へ起訴した[7]。佐藤宣行が被害者Aに負わせた傷害のうち、起訴事実に盛り込まれたのは両下肢筋力低下と骨量減少などで[136]、診断されていた心的外傷後ストレス障害 (PTSD) については、裁判の過程で予想される少女Aの精神的負担とプライバシー保護に配慮して起訴事実から除外された[注 34][138]。起訴後、新潟地裁は佐藤宣行の弁護人として児玉武雄・伊津良治の2人を選任した[139]。
佐藤宣行の初公判は新潟地裁(榊五十雄裁判長)で同年5月23日に開かれた[30][140]が、この中でも少女Aのプライバシーは保護され、通常行われる起訴状での被害者名読み上げは行われなかった。また弁護人も「私も人の親なので、法廷にまで連れてきて尋問したくないというのが本音にある」として、少女Aを証人申請することはしなかった[141]。罪状認否で佐藤宣行は起訴事実を認めたため、裁判の争点は責任能力の有無に絞られた[142]。
なお、新潟地裁は新潟市体育館で傍聴希望者の抽選を実施した[30]が、地裁の敷地以外で傍聴券の配布を実施した事例は本事件が初だった[注 35][143]。また、一般傍聴席27席に対し、傍聴希望者数は2,272人[30](抽選倍率:84.1倍)[144]を記録したが、これは1999年5月の「アジ化ナトリウム混入事件」初公判(希望者数:242人)を大幅に上回り、新潟地裁史上最多を記録した[30]。
窃盗罪についての追起訴
[編集]新潟地検は第2回公判前日の6月26日、佐藤宣行が1998年(平成10年)10月上旬ごろ、北蒲原郡中条町(現:胎内市)で少女Aに着せるためのキャミソール4枚[145](時価合計約2,464円)[5]を万引き[注 36]したとして、窃盗罪で佐藤宣行を新潟地裁に追起訴した[145]。これは一連の犯行の中に異なる複数の罪がある場合、「その最も重い罪の刑について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする」併合罪の適用を狙ったもので、逮捕監禁致傷罪は懲役10年が最高刑であるため、これが適用されれば佐藤宣行の量刑は15年まで引き上げられる計算であった[146]。検察側は窃盗について「監禁継続の手段として行われた行為であって、動機に酌量の余地はない。本件起訴にかかわる以外にも、十数回にわたって、被害者に使用させるための日用品を多数万引きしていたのであって、本件は一連の犯行の一部に過ぎず、常習性が顕著で、犯状も悪質である」と指摘[147]。一方、弁護側は一審判決前の最終弁論において「窃盗については、被害額が弁償されていることが大事である。本件の被害額は2,464円と低額である。違法性は低い。他に万引きもあるが、あくまで起訴されている事例において判断されるべき。5年も罪を重くするほどのものとは思えない」と主張した[148]。微罪をもって併合罪の適用を図ったことは、法曹界からも批判的な意見が出た[149]。
精神鑑定
[編集]公判前に行われた佐藤宣行に対する簡易精神鑑定では「佐藤宣行は自己愛性人格障害および強迫神経障害で、分裂症は認められない」とされたが[150]、弁護人は佐藤宣行が病的な潔癖症であることや、母親が事件発覚の数年前から佐藤宣行について精神科に相談していた事実などから「正常な感覚では理解できない、病的な一面がある」「精神状態は正常でなかったと思われる」として[151]、第3回公判(2000年7月26日)[注 37]にて精神鑑定の実施を請求した[153]。
検察官は「善悪を判断する理性はあり、精神鑑定の必要はない」と却下を求めたが、新潟地裁は捜査段階で簡易鑑定を担当した専門家(新潟大学)と、逮捕直前に佐藤宣行が入院していた病院の医師を弁護人側の証人として採用[154]。同年9月7日には地裁長岡支部で2人への非公開の証人尋問を行い[155]、第4回公判(2000年10月3日)で精神鑑定の実施が告知され[156]、公判は第5回公判[157](2000年12月5日)を最後に一時中断[158]。鑑定期間中、佐藤宣行の身柄は埼玉県内(鑑定人の居住する県)の拘置支所に移された[159]。公判は精神鑑定結果の提出を待って再開され[158]、再開後の第6回公判(2001年10月16日)で鑑定結果が証拠採用された[159]。
なお、鑑定担当者については地裁から「これまで事件について評論したことがない精神科医から選ぶ」と告知され[160]、犯罪心理学が専門である小田晋(帝塚山学院大学教授)が選ばれた[161]。鑑定書では佐藤宣行の精神病態について次のように報告された[162]。
また、これとは別に事件直後に佐藤宣行が収容された病院の副院長と、簡易鑑定を行った新潟大学付属病院の医師が診断した病名は、分裂病質人格障害、強迫性障害、自己愛性人格障害、小児性愛の4つであった[163]。弁護側は小田の精神鑑定書の内容に同意しつつも「心神耗弱の主張は維持していく」と述べた[164]。
また、第5回公判(2000年12月5日)では被害者Aの両親が検察側の証人として出廷し、「娘は『(佐藤宣行は)全部の人の前からいなくなってほしい』と言っている」と陳述した[157][165]。
結審
[編集]2001年(平成13年)11月30日に開かれた第7回公判において[166]、検察官の論告求刑が行われ、検察官は佐藤宣行に懲役15年を求刑した[167][168]。論告で、検察官は佐藤宣行の犯行について「鬼畜に劣る悪行」「非人道的で、血の通った人間の行為とは思えない。極悪非道である」などと[166]厳しく糾弾した。また、未決勾留期間の日数については「1日たりとも刑期に算入すべきでない」と異例の進言をした[169][170]。
一方、弁護人は最終弁論で、小田鑑定書で言及された「強迫性人格障害や分裂病型人格障害があることは明白であり、佐藤宣行の犯行に若干の影響を与えたことは考慮すべきであろう」という部分を強調し、佐藤宣行がAの誘拐当時心神耗弱の状態にあったと改めて主張[170]。また略取誘拐罪はAを支配下に置いた時点で完結しており、公訴時効により免訴されるべきであるとした[170]。また佐藤宣行の犯行に計画性を裏付ける証拠がないこと、Aの監禁中に被告人が娯楽を与えようと配慮をしていたことなどを指摘した上で「起訴されている公訴事実を対象に、情状を考慮して、適正に判断していただきたい。被害者の気持ちは理解できるが、量刑の均等を取らなければならない」と結んだ[171]。
最終意見陳述で、佐藤宣行は「被害者に申し訳ないことをした」と陳述[168]。これをもって全7回の審理が結審した。
第一審判決・懲役14年
[編集]2002年(平成14年)1月22日に判決公判が開かれ[10]、新潟地裁刑事部[172](榊五十雄裁判長)は佐藤宣行に懲役14年の判決を言い渡した[10][173]。なお、検察官は論告で「未決勾留日数は刑期に算入すべきではない」と言及していた[168][149][166]が、新潟地裁 (2002) は未決勾留日数中350日を刑に算入した[174]。
判決理由で、新潟地裁 (2002) は弁護人の主張のうち、「略取誘拐は公訴時効(5年)が経過しており、時効が完成している」という主張について「本件は、全体として一個の行為が略取罪と逮捕監禁という数個の罪名に触れる刑科上一罪としての観念的競合の関係にある。さらに、逮捕行為および監禁行為は包括一罪となるから、被害者が解放された時点まで犯罪として継続したことになる」などとして、これを退けた[175][176]。また、弁護人が主張した心神耗弱についても、「佐藤宣行には強迫性障害や人格障害があることが認められるが、犯行当時の佐藤宣行はそれらの障害により、事故の行為の是非善悪を弁識し、その弁識に従って行動する能力が著しく減退した状態(心神耗弱)にあったとは認められない」として退け、完全な責任能力の存在を認めた[177]。
量刑の理由では、未成年者略取と逮捕監禁致傷の両件について、「被害者Aは長期の監禁生活を強要された結果、著しく衰弱し、両下肢筋力低下・骨量減少・低蛋白血症・低カリウム血症・低カルシウム血症および鉄欠乏性貧血の症状が判明しており、前2者(両下肢筋力低下・骨量減少)の回復には長期にわたる専門的な治療とリハビリテーションが必要と診断されている。また、解放された後も今なお、略取・逮捕監禁された際の恐怖感、監禁継続中の被告人Sからの脅迫や暴行の光景を忘れることができず、他人では想像し難い苦痛を味わっている。Aの身体的な障害はともかく、悲惨な生活環境の下に置かれたことで重要な成長期の人生を奪われたことは、どのようにしても取り返すことはできず、今後のAの人生に与える影響はあまりにも大きい。このように監禁の犯行がもたらした結果は極めて重大で、Aやその家族らが佐藤宣行に対し、極めて厳しい処罰感情を顕にしていることは当然である」と指摘した[178]。その上で、「佐藤宣行は当初、捜査段階では『Aに会いたい』と述べるなどし、公判段階でAの供述調書を聞かされるまでは『Aは自分との生活を楽しんでいた』と考えていたことなどを供述しており、Aの気持ちを推し量ることのない自己中心的な態度を露わにしており、捜査・公判を通じて、略取の態様や監禁中の暴行の態様・程度などについて、自己の刑事責任を軽減するかのような供述をするなど、非常に自己中心的な態度に終始しており、犯行後の犯情も悪質だ。強制わいせつ罪で有罪判決を受けたにもかかわらず、その執行猶予期間中に本件犯行に及ぶなど、規範意識は欠如しており、再犯のおそれが高い」と指弾した[178]。
一方で、略取は事前の周到な計画に基づくものではなく、被害者Aが行方不明になった後の警察の対応などに問題があったことで監禁期間が長期化したこと、結果的に被害者Aが生命に別状なく救出されたことや、佐藤宣行は捜査公判を通じて事実を認め、被害者Aの真意を知ってからはAに謝罪の手紙を出すなどして反省の念を示していること、年老いた母親が息子の帰りを待っていることなど、佐藤宣行にとって有利な情状も指摘した[178]。その上で、「未成年者略取・逮捕監禁致傷の犯情は稀に見るほど悪質で、被害者Aに対し長期間にわたり多大な苦痛を与え、その人生の重要な時期を奪い取っており、この点はもはや取り返しがつかない。犯行の動機・態様は極めて悪質で、その発生した被害結果などはあまりにも重大であり、刑法が構成要件として想定する犯行の中でも最悪の所為」と指摘した上で、窃盗については「窃盗の犯情は同種事案と比べても、非常に悪質とまでは言えず、被害額は比較的少額で弁償もなされており、被害店舗に実害は発生していないが、その動機および様態は監禁の犯行を継続し、その犯行に資するがために敢行されたもので、相当に悪質であって、未成年者略取および逮捕監禁致傷の犯状を、いっそう悪化させている」と指摘した[178]。そして、「逮捕監禁致傷罪の法定刑(当時:10年以下の懲役)では到底その適正妥当な量刑を行うことはできず、同罪の刑に法定の併合罪加重をした刑期の範囲内で、佐藤宣行を懲役14年の刑に処する」と結論づけた[178]。榊は退官後に『読売新聞』社会部記者から取材を受けた際、同判決の量刑について、当時逮捕監禁致死傷罪の法定刑の上限であった懲役10年では「到底償いきれない」「この罪に対し、10年以下の刑では誰も納得しない」と感じた旨を述べている[179]。その上で、それぞれの事件で事実に即した納得できる刑を決める作業はコンピューターには不可能であり[注 38]、人間にしかできないとも述べている[180]。
判決翌日(2002年1月23日)、弁護人が佐藤宣行に控訴の意志を問うと、佐藤宣行は「控訴します」と即答。弁護人が確認するとやはり「控訴します」と答え[181]、24日に弁護人が東京高等裁判所への控訴手続きを行った[182]。控訴趣意書では主に以下の5点について記述された[183]。
- 未成年者略取罪と公訴時効
- 窃盗と併合罪加重
- 佐藤宣行の人格障害等精神の病に対する無理解、考慮不足
- 監禁期間9年2か月の評価と量刑判断の誤り
- 監禁態様の評価の誤り
一方、新潟地検は「判決の量刑が著しく軽きに失するとは断じがたい」として、控訴期限(2002年2月5日)に控訴断念を決めた[184]。このため、控訴審以降の量刑は最高14年以下となる[注 39]ことが確定した[181]。
控訴審判決・懲役11年
[編集]控訴審は東京高等裁判所第8刑事部で審理され[185]、山田利夫が裁判長を務めた[186]。佐藤宣行の国選弁護人は大野康博が担当した[187]。
2002年10月22日に控訴審初公判が開かれ、弁護人は控訴趣意書で「原判決には量刑不当および手続きの誤りがある」と指摘した[188]。また、弁護人は佐藤宣行の意見書を、検察官は被害者Aの母親の供述調書をそれぞれ新証拠として提出[186]。いずれも証拠採用され、控訴審は即日結審した[186]。
2002年12月10日に控訴審判決公判が開かれ[189]、東京高裁(山田利夫裁判長)は第一審判決を破棄自判し、佐藤宣行に懲役11年の判決を言い渡した[189][190]。東京高裁 (2002) は一審判決の併合罪解釈が誤りであるとした上で、その理由について次のように説明した[191]。
併合罪に関する刑法の諸規定及びそれらの立法の沿革に照らせば、刑法47条が、最も重い罪につき定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを併合罪全体に対する刑の長期とした(加重主義)のは、最も重い罪につき定めた刑の長期が併合罪全体に対する刑の上限になるという従前の制度(吸収主義)の不合理を克服しつつ、刑を併科する場合(併科主義)よりも併合罪全体に対する刑の上限を短く限定するためであって、それ以上の意味はない。
このような刑法47条の趣旨からすれば、併合罪全体に対する刑を量定するに当たっては、併合罪中の最も重い罪につき定めた法定刑の長期を1.5倍の限度で越えることはできるが、併合罪を構成する個別の罪について、その法定刑を越える趣旨のものとすることは許されない。
その上で、量刑について「未成年者略取と逮捕監禁致傷については、法の許す範囲内で最も重い刑をもって臨むほかない。他方、窃盗については、逮捕監禁致傷との関連性を踏まえつつ、同種事犯における量刑との均衡も考慮しなければならない。上記の諸事情を総合考慮して、佐藤宣行を懲役11年に処するのが相当と判断した」と説明[192]。つまりこれは、逮捕監禁致傷で最高刑の10年、窃盗で1年の計11年という足し算式の量刑であった。一方で「本件のような犯行が生じ得ることを考えたときに、国民の健全な法感情からして、逮捕監禁致傷の上限が懲役10年で軽すぎるとすれば、将来へ向けて法律を改正するほかはない」と言及し[191]、山田裁判長は判決を読み上げたあと佐藤宣行に向けて「判決は14年から11年に短縮されましたが、犯情がよいとか、情状酌量ということでは決してありません。一人の人間の人生を台無しにしたということを、十分に反省するよう、強く望みます」と説諭した[193]。
この判決を受け、被害者Aの家族は「9年2か月15日に及ぶ長期監禁から無事保護されて、3年が過ぎようとしています。娘と私たち家族にとってこの時間の重さを今日の判決で求めることは到底できません。親として被告をこのような形でしか裁くことのできない現状に無念さを感じ、『許せない』という気持ちが高まるばかりです」とコメントした[189][194]。
東京高検は10日後の12月20日に最高検察庁と最終協議を行い、「併合罪の解釈については最高裁の判例がなく、憲法違反もない」として[195]、通常の上告は断念[196]することを決めた[195]。これは、刑事訴訟法における上告理由が憲法違反および判例違反に限定されている[注 40]ためだが、それらの理由がない場合でも、法令解釈に重要な事項を含む場合は特例として、最高裁に上告受理を申し立て、審理を求めることができる[注 41][195]。そのため、東京高検は同月24日付で最高裁判所に上告受理を申し立てた[198]。
一方で国選弁護人(大野)は判決を受け容れる方針であったが、佐藤宣行は「二審判決は、一審の新潟地裁判決と同じように、事実誤認がある。また、二つの罪を合わせて懲役11年という判決も、不当に重いから不服である」とする自筆の上告書を提出し[199]、25日付で上告申状が東京高裁に届けられた[198]。大野は同判決直後にSと接見したが、佐藤宣行は原判決より刑が3年軽くなったにも関わらず、満足した様子が皆無だったため、大野はその心境を「懲役刑に服すること自体が不満だったのだろう」と評した上で、そのような状態では更生は難しく、刑罰は制裁の意味しか持たなくなると語っている[187]。
上告審判決・懲役14年確定
[編集]東京高検の検事長は2003年(平成15年)1月6日付で、事件受理申立理由書を東京高裁に提出[197]。同申立を受け、最高裁判所第一小法廷(深澤武久裁判長)は2003年(平成15年)1月17日付で申し立てを認める決定[200](上告受理決定)をした[197]。これにより、最高裁が初めて併合罪の解釈をめぐる判断を示すこととなった[200]。そして、同年4月16日には同小法廷が口頭弁論期日を6月12日に指定したため、控訴審判決が見直される可能性が浮上した[注 42][202]。一方で佐藤宣行は上告審を担当した弁護人に対しても、「量刑は不当だ。こんなところ(拘置所や刑務所)には二度と入りたくない」と訴え続けていた[187]。
2003年6月12日に最高裁第一小法廷(深澤武久裁判長)で上告審の口頭弁論が行われ、検察側、弁護側双方が併合罪の解釈について意見陳述した[12]。検察は「複数の犯罪行為が一人の人間に対して行われており、処断刑は犯罪行為と犯人の人格とを総合評価すべきもの」とし、懲役11年の控訴審判決は軽すぎると主張した[12]。弁護側は「検察側の主張では、恣意的、技術的に刑が加重される危険がある」「法治国家が長年培ってきた罪刑法定主義の原則に立つべき」と主張した[12]。
7月10日に上告審判決公判が開かれ[8]、最高裁第一小法廷(深澤武久裁判長)は、控訴審判決を破棄自判して第一審(懲役14年)を支持し、被告人側の控訴を棄却する判決を言い渡した[203]。最高裁 (2003) は併合罪の解釈について次のように結論づけた[204]。
刑法47条は、併合罪のうち2個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、同条が定めるところに従って併合罪を構成する各罪全体に対する統一刑を処断刑として形成し、修正された法定刑ともいうべきこの処断刑の範囲内で、併合罪を構成する各罪全体に対する具体的な刑を決することとした規定であり、処断刑の範囲内で具体的な刑を決するに当たり、併合罪の構成単位である各罪についてあらかじめ個別的な量刑判断を行った上これを合算するようなことは、法律上予定されていないものと解するのが相当である。また、同条がいわゆる併科主義による過酷な結果の回避という趣旨を内包した規定であることは明らかであるが、そうした観点から問題となるのは、法によって形成される制度としての刑の枠、特にその上限であると考えられる。同条が、さらに不文の法規範として、併合罪を構成する各罪についてあらかじめ個別的に刑を量定することを前提に、その個別的な刑の量定に関して一定の制約を課していると解するのは、相当でないといわざるを得ない。
これを本件に即してみれば、刑法45条前段の併合罪の関係にある第一審判決の判示第1の罪(未成年者略取罪と逮捕監禁致傷罪が観念的競合の関係にあって後者の刑で処断されるもの)と同第2の罪(窃盗罪)について、同法47条に従って併合罪加重を行った場合には、同第1、第2の両罪全体に対する処断刑の範囲は、懲役3月以上15年以下となるのであって、量刑の当否という問題を別にすれば、上記の処断刑の範囲内で刑を決するについて、法律上特段の制約は存しないものというべきである。
したがって原判決には刑法47条の解釈適用を誤った法令違反があり、本件においては、これが判決に影響を及ぼし、原判決を破棄しなければ著しく正義に反することは明らかである。
佐藤宣行は同判決に対し7月22日付で判決訂正申立を行ったが、同年8月8日付で申立を棄却する決定がなされ、同月12日付で[197]懲役14年の実刑判決が確定した[15]。
事件当事者のその後
[編集]三条市教育委員会は2000年3月16日、被害者女性Aの社会復帰を支援するための募金窓口「三条市愛の支援募金」を三条郵便局に開設し[注 43][205]、同年5月末までに1,563件[206]、2002年1月18日までに2,017件の募金(額は非公表)が全国から寄せられた[注 44][10]。
少女Aの保護から1年10か月後の2001年12月1日に『新潟日報』が報じた記事[注 45]では、「被害者少女Aは事件後成人式に出席したほか運転免許を取得し、家族と新潟スタジアムへサッカー観戦に赴いたり家族旅行に出かけるなど、日常を取り戻しつつある」と伝えられている[209]。また『週刊新潮』は2010年末、Aの祖母の「Aは現在は元気になって学校にも通っているが、現在も事件のことを考えると気がおかしくなると言っている」という旨の証言や、近隣住民の「たまに散歩しているAの姿を見るが、カメラが好きなのか田んぼの花を一生懸命撮影するなどしている」という旨の証言を報じ[210]、2015年にはA(当時30歳代)について、近隣住民の声を引用して「家族とともに明るく平穏に生活している」と報じている[211]。なお、Aの父親は2007年(平成19年)10月に事故死している[212]。
2004年(平成16年)の刑法改正[施行:2005年(平成17年)1月1日]により、逮捕監禁致傷罪の懲役の長期上限が10年から15年に引き上げられた[213]。現行法では本件のように併合罪が適用された場合、7年6か月(15年の半分)が加算されるため、最大で22年6か月が上限となる[214]。
懲役14年の刑が確定した佐藤宣行は千葉刑務所に収監されたが[16][215]、『週刊新潮』 (2015) によれば刑務作業を怠ったり、職員(刑務官)の指示を聞かなかったりなど、服役態度は不真面目だった[216]。また公判中から減少していた体重がさらに減り、歩行に介助が必要な状態となり、八王子医療刑務所に移され治療を受けたと伝えられた[217]。服役中のSと文通などをしていた窪田順生は、佐藤宣行は2009年(平成21年)末に獄中で溜め込んでいたアイドル写真などの所持品が一杯になったことから、それを刑務所によって没収されたことによって精神的に不安定になり、最終的には隣房の受刑者と揉め事を起こしたことで、2010年(平成22年)10月ごろまで懲罰的な保護房に250日間入れられていたが、そのような処置に対し「人権侵害」「ゲバ刑(「暴力刑務所」の意味)の横暴」と不満を漏らしていたと述べ[218]、佐藤宣行はまったく更生しておらず再犯の可能性も高いとして、出所後速やかに何らかの施設に入れるべきだと主張していた[219]。『週刊新潮』 (2015) はそれらの出来事以外にも、佐藤宣行が服役中に障害者手帳(2級)を取得したと報じている[216]。佐藤宣行は『読売新聞』社会部記者からも手紙で取材を申し入れられたが、その際には条件として万単位の謝礼支払いを要求したほか、刑務所内で友人を作ることができないので、記者に友達になってほしいという旨も綴っていた[220]。佐藤宣行と同じ刑務所に服役していた元受刑者は、自身が佐藤の独房まで食事を配膳した際も、佐藤宣行はテレビを見ることに夢中で食事にも目を向けなかったという旨を述べている[220]。
受刑者佐藤宣行は2015年(平成27年)4月に52歳で刑期満了を迎え、出所後は故郷の新潟に戻らず千葉県内で障害者福祉施設からの支援を受け、生活保護を受給しながらアパート[注 46]で1人暮らしをしていた[223]。2017年(平成29年)ごろ、元受刑者S(当時54-55歳)はアパートの自室で病死(孤独死)しているのを発見され[4][221]、事件発覚から20年目となる2020年(令和2年)1月23日に『新潟日報』(新潟日報社)や『柏崎日報』(柏崎日報社)でその事実が報道された[注 47][4][224]。
また佐藤宣行の母親は、息子の収監後に認知症が進み、老人介護施設に入所したため、2003年(平成15年)ごろからは面会に訪れなくなり[注 48][217]、佐藤の服役中に死亡した[4][228]。事件現場となった加害者宅は佐藤宣行の母親名義のままで、2021年2月時点でも事件当時のまま空き家となっている[注 49][222]。
新潟県警の不祥事
[編集]少女A発見・保護時の状況についての虚偽発表
[編集]- 正確な状況については#少女Aの保護・佐藤宣行の逮捕を参照のこと
少女Aが保護された当日の21時30分より三条警察署で緊急の記者会見が開かれ、1990年に三条市で行方不明となった少女Aが柏崎市で発見されたことが公表された。この会見で事態の説明に当たった捜査一課長は、「15時ごろ、柏崎市内の病院で男 (佐藤) が暴れていると通報があった。一緒にいたのが(三条で行方不明になった)女性 (A) だった。女性は名前と生年月日を話した」と発表した[229]。しかしその後、佐藤宣行の家庭への対応が拙かったのではないかと追及されていた保健所所長が、A発見の経緯についての警察発表が事実と異なると指摘し、改めてA発見時の状況について注目が向けられた。
これについて柏崎警察署副署長は「柏崎署に『公園近くの家で男が暴れているので、警官3人に来てほしい』と通報があり、そのときは警官の都合がつかず出動できなかったが、折り返しの連絡時に出動の意向を伝えた。しかし『佐藤宣行が大人しくなったので必要がなくなった』と言われた」という旨の説明を行った[230]。しかし、これに対し県健康福祉対策課長は「(保健所側が出動を)お断りしたことはないと聞いている」と反論[231]。いずれにしても佐藤宣行が暴れていたのは病院ではなく自宅であり、Aの保護を行ったのも警察ではなく県や保健所の職員であったことが明らかとなり、2月15日には県警が出動を断ったことが一斉に報じられた[232]。また、佐藤宣行の母親は初めて保健所を訪れた1996年1月以前に柏崎署を訪れ、家庭内暴力について相談していたが、この時は「子供の暴力は保健所に相談してくれ」と応対されていたことも発覚した[232]。
2月17日昼には県警刑事部長と生活安全部長が釈明会見を行った[233]。なお、記者クラブは県警本部長の出席を求めていたが、本部長は出席しなかった[233]。会見では出動要請を拒否したとされる点について「臨場要請を断ったという認識はないが、結果として迅速な対応ができなかったのは事実。(中略)身元不明者がいるから、1人でも警察官を派遣してほしいという要請に関すること。これについては、現場にいた保健所の職員に対し、氏名などを確認するように依頼したことが臨場要請を拒否したと受け止められたと思われるが、迅速に対応できなかったのは大変残念。申し訳ないと思っています[234]」と謝罪。また保護の場所を佐藤の自宅ではなく病院と発表したことについては「病院関係者が第一発見者であるとそのまま発表した場合、これらの関係者にいろいろと大変なご迷惑をかけることになるのではないかなどとおもんぱかって、伏せることとしたためであります。しかし、そういった配慮のため、誤解を与えかねない表現ぶりとなってしまいまして、まことに申し訳ないと思っています[235]」と、こちらについても謝罪した。また、柏崎署を訪れていた佐藤の母親に対する対応については生活安全部長が「相談の際もしっかり受け止めて十分に状況を聞き出しておれば、早急に救出できたのではないかと残念で申し訳なく思っている」と述べた[236]。
これに関しては、新潟県精神保健福祉センターの後藤雅博も、柏崎では医療関係者、保健所、市、警察の連携は普段より比較的うまくいっており、今回も被疑者宅に行く前に警察には連絡済みで、警察が訪問に立ち会わなかったのは医療保護入院ではあり得ることであり、(A発見は予期せぬ出来事であったため)警察を非難する気持ちはない、としている[107]。また、医師とともに保健所と市の職員が同行していることで官民の癒着を疑われたくない(当時はまだ移送制度が施行されていなかった)、保健所への取材攻勢を避けるため警察が情報を一元化して発表したほうが都合がよい、などの考えもあってのことだったと述べている[107]。
佐藤宣行の初犯に関わる初動捜査の不備
[編集]少女Aが佐藤宣行に誘拐され行方不明となった際、別の少女に対する強制わいせつ未遂事件の前科を持つ佐藤宣行は捜査対象に入っておらず、結果として事件の長期化を招いたとして問題視された。これは柏崎署が佐藤の犯歴データを県警本部に送信していなかったことが原因であった[237]。
2000年2月10日、事件発覚後最初に行われた定例記者会見において県警は犯歴データの登録不備を認め、県警本部長が「一般的にこの種の捜査においては当然、同種事件について捜査することが基本であり、当時も推進したと思われるが、発見できなかったことを重く受け止めている。(前歴者リストの登録漏れを)十分検証し、今後の捜査に生かしていきたい」と述べた[238]。また刑事部長は「いわゆる、犯罪手口システム(前歴者リスト)に、(佐藤宣行が)登録されていなかったのは事実。捜査にはいろんな手法があるので、これが即(監禁の)長期化に結びついたのかは分からないが、一つの原因であろうと思っている」と述べた[239]。
また松田美智子は「少女Aが誘拐された翌年(1991年)春ごろに、従前から女性に対する問題行動を繰り返していた三条署勤務の警察官[注 50]が少女Aの失踪に関わっているのではないかとして、内密に事情聴取を受けており、警察内部から容疑者が出たことで捜査員の士気が低下した」と述べている[62]。その上で、警察内部における馴れ合い体質・隠蔽体質を認めた上で「良心的な捜査員も数多くいる」と訴える元警察関係者の声を紹介しながら、「良心的な捜査員が多数を占めているからこそ、警察組織は成り立っているが、警察内部の不祥事が原因で所在不明事案の捜査が緩くなったのだとすれば、関係者の言葉も弁解じみて聞こえる」とこれを批判している[240]。
事件発覚時の県警本部長らの対応
[編集]少女Aの発見当日、新潟県警には当時各地の警察を視察に回っていた警察庁特別監察チームのトップである関東管区警察局長(以下、局長)が訪れており、視察後、局長と県警本部長(以下、本部長)を含む県警幹部たちは新潟県三川村のホテルに1泊する予定であった。ホテルに向かう車中で刑事部長より本部長に対して「三条市で9年2か月前に行方不明になった少女Aが発見された」という一報が入り[241]、以後はホテルの宴席上にFAXで続々と報告が寄せられた[242]。この様子を見た局長は本部長に「(県警本部に)帰ったらどうだ」と促したが、本部長は「大丈夫です」と取り合わなかった[243]。食後は局長、本部長、生活安全部長、総務課長、生活安全企画課長が参加し、図書券を景品とした麻雀が行われた[243]。この間も本部長は報告を受け続け、少女Aの発見・保護状況に関して、詳細を伏せたままの発表(結果的に虚偽発表となる)を行うことの了承もこの場で行った[244]。翌朝、朝食を終えた本部長らは捜査本部[注 32]設置を指示するなどしてから帰途についたが、すぐに警察本部には戻らず、その帰路に本部長は局長をハクチョウ飛来の名所である水原町の瓢湖へ案内した[245]。それから新潟市内に戻り昼食をとった後、局長は東京へ戻り、本部長は県警本部ではなく県警公舎に13時50分ごろ到着した[245]。
その後、相次いで発覚した県警の不祥事は国会でも取り上げられ、野党からの攻撃対象となったことから、警察庁は2月20日から「検証チーム」を新潟県警に派遣し、幹部および署員らに対する事情聴取を行った。その結果を24日に「緊急調査結果」として発表し、一連の不祥事の事実関係を認定した[246]。翌25日、本部長が会見を開き、「まず、被害者と両親に9年間救出できなかったことを深くおわび申し上げたい」と前置きした上で、
- 少女Aの発見・保護状況で虚偽の発表をした
- 性犯罪歴のあった佐藤宣行が少女Aの不明時に捜査対象とならなかった
- 4年前に佐藤宣行の母親が柏崎署に相談に来た際の相談簿を紛失した
- 少女Aを発見・保護した保健所職員からの出動要請を拒否した
- 9年2か月の間、巡回連絡で被疑者宅を3回訪れていたにも拘らず不審情報を得られなかった
という5点について正式に謝罪した。その後の質疑応答で自身の進退について問われると、「最高幹部として責任は痛感しているが、進退については国家公安委員会の判断によるものであるから、私は与えられた任務を尽くしていく」と述べ、辞職の考えがないことを明らかにした[247]。他方、少女A発見時に本部長が局長を「麻雀接待」していた事実はすでに田中節夫警察庁長官の知るところとなっており、25日の時点で両名は内々に田中に辞職を申し入れていた[248]。
翌26日、本部長は再度会見を開き、「少女Aの発見・保護時の状況について虚偽の説明を行った」、「懇親会の席上にあった本部長自身が事件発覚の報告がなされた後も帰庁しなかったことで、警察の信用を失墜させた」という2件につき、国家公安委員会から減給100分の20(1か月)の処分を受けたことを発表。同時に自身の辞職願が2月29日付で受理されたことも合わせて発表した[249]。直後の質疑応答では、少女A発見後の行動について「その場でも十分な連絡体制があったし、被害者が保護され、容疑者も入院という措置が取られたということで、十分、指揮が執れると考えたわけだが、後日考えたところではやはり幹部として取るべき行動ではなかった。はなはだ不謹慎だったと大いに恥じている」と語り、県民や県警職員に対して謝罪の言葉を述べた[250]。
局長に対しては処分が行われなかったが、これについて同日に会見を開いた田中は「自ら接待事由を報告している」「本部長に帰庁を促している」という点を鑑みたものだと説明したものの、接待を受けたこと自体については「特別監察後に夜に対象者と席を共にしてはいけない。一般的にはありえない。きわめて特異なケースだ」「(警察の)更生の道の先頭に立つべき者がとった行動だけに言語道断だ」と指弾した[251]。
最終的に本部長と局長はともに依願退職し、前者に3,200万円、後者に3,800万円の退職金が支払われることになったが、世論の反発は強く、両名ともにその受け取りを辞退した[252]。また両名への対応が甘いとして批判された田中は、「局長の行為に対する監督責任がある」として国家公安委員会から減給100分の5(1か月)の処分を受けた[253]。さらに虚偽発表、出動要請拒否、麻雀接待に関わった県警刑事部長、警務部長、生活安全部長ほか、警視4名、警部1名、警部補1名の計9名に減給、本部長訓戒、注意の処分が下された[254]。
また、柏崎市議会は2000年3月8日に柏崎署と新潟県警本部に対し、一連の不祥事の原因究明・信頼回復を求める申し入れを行った[255]。
その他
[編集]本事件は同年に起こった西鉄バスジャック事件とともに、引きこもりの社会的認知度を一気に高めた[17]。これ以前から引きこもり問題に取り組んでいた精神科医の斎藤環が本事件について、「人が死ぬか誘拐でもされないと、メディアも取り上げず誰も知ろうとしない、政府も動かないのは、日本社会の病理の一つでしょう」と述べた上で、「引きこもりは、初期には犯罪者予備軍と誤解され、識者と呼ばれる方にすら『怠け』『甘え』と批判されました。実情を知らずに印象だけで語る人たちとの戦いが、まず私の仕事でした」と述懐している[17]。
医療ジャーナリストの月崎時央も本事件について、引きこもりや不登校児、心の病の子供を持つ家庭が、家庭ごと社会からひきこもってしまうという「典型的なケースだった[256]」とした上で、監禁が長期化した背景について次のように論じている[257]。
母親は、どんなに理不尽なことが起きても「私さえ我慢すれば。息子がこの家にいるかぎりは世間にも迷惑はかけない。手許にいればなんとかできる」と自分を納得させた。そうして思考停止状態になることで、精神のバランスを保っていた六十五~七十四歳の老母にとって、A子さんの監禁された密室は、家の中に作られた闇であり、死角だった。
そしてこの闇を内包していた母子カプセルは、息子の暴力がエスカレートする度に母親の自己犠牲という感情に支えられ、近所の人や警官の巡回パトロールぐらいでは、とうてい破たんなどしないくらい、どんどん強固なものになっていったのだろう。
なぜもっと早く発見できなかったのかという思いは誰もが持つし、警察の度重なる捜査ミスという困った要因も確かにそこにはあった。甘やかしと一言で片付ける人もいるだろう。しかし、これは社会に適応できない子を持つ母親の情念のようなものが作り出した、家庭という独特の閉鎖空間で起きた事件なのだ。そしてそこに他人が立ち入ることの難しさを前提にして、ひきこもりの子を持つ老いた母親の心情に寄り添わないと、理解しえない部分が多くあるように私には思えた。
なお、2001年2月9日には、佐藤宣行の母親が精神治療について相談していた病院の院長以下12名が、4年間にわたり無診察でSへの投薬を行っていたとして書類送検された[258]。これに対して院長は「主治医の判断は間違っていないと思う。保健所や警察の手に負えず、病院に助けを求められた特殊なケースで誰がどう対処したらいいのか逆に司法の判断を仰ぎたい」と述べた[259]が、この件については12名全員が起訴猶予処分となった[260]。後に院長は、基本的に無診察投薬はすべきではないと前置きした上で「この事件について言えば、最大限の注意を払っての投薬により、無診察ではあったが、本人の激しい興奮状態が落ち着いたから、少女Aはあの危機的状況下で無事であった。そして、母親と医者との間には信頼関係ができていたからこそ、母親は当院を頼ってきていたし、最終的に入院を委ねられたのだと考えている」と主張した[261]。一方では「小康状態を保ったことがかえって事態を長引かせ、問題を先送りしたのではないか」との批判もあり、月崎時央の取材では「患者を診ない医療行為はおかしい。母親が佐藤宣行の入院を渋った上で薬を懇願するなら、措置鑑定から措置入院という手段の説明と提案が必要ではなかったか。その場をしのぐための安易な対応は結局問題をこじれさせる。場合によっては病院から県に家族の同意が得られないことを伝えて、措置鑑定を要請することがあってもいい」という医師の談話が紹介されている[262]。また、精神医療の現場では無診察での薬の処方が蔓延しており、一度安易に薬を入手できた家族は、以後それに頼り切ってしまうという問題も指摘された[263]。
事件・裁判の経緯
[編集]年 | 月日 | 出来事 |
---|---|---|
1989年 (平成元年) |
6月13日 | 加害者の佐藤宣行が新潟県柏崎市内で、(本事件の被害者とは別の)9歳の少女に対する強制わいせつ未遂事件で逮捕[39]。 |
9月19日 | 佐藤宣行が強制わいせつ未遂罪により、新潟地裁長岡支部で懲役1年・執行猶予3年の判決を受ける[39]。 | |
1990年 (平成2年) |
11月13日 | 佐藤宣行が三条市内で、9歳の少女A(本事件の被害者)を誘拐、柏崎市内の自宅一室で監禁を始める。 |
〃 |
少女Aの母親が駐在所に捜索願を出す。 | |
11月15日 | 新潟県警三条警察署に「女子小学生行方不明事案対策本部」が設置される。 | |
12月25日 | 地元消防関係者などによる捜索を打ち切り。 | |
1991年 (平成3年) |
10月20日 | 巡回連絡のため警察官が被疑者宅を訪問。 |
1993年 (平成5年) |
6月22日 | 〃
|
1996年 (平成8年) |
1月19日 | 佐藤宣行の家庭内暴力について相談のため母親が柏崎保健所を訪問。 |
1998年 (平成10年) |
8月13日 | 巡回連絡のため警察官が被疑者宅を訪問。 |
10月上旬 | 佐藤宣行が新潟県北蒲原郡中条町(現:胎内市)で被害者Aに着せるための衣類4点(計2,500円)を万引きした[14]。 | |
1999年 (平成11年) |
12月 | 佐藤宣行の家庭内暴力について相談のため母親が精神病院を訪問。医師から医療保護入院の提案を受ける。 |
2000年 (平成12年) |
1月12日 | 佐藤宣行の母親が息子の医療保護入院について相談するため、柏崎保健所を訪問[117]。 |
1月19日 | 医療保護入院の判断のため、保健所職員と柏崎市職員がS宅を訪問したが、S本人と面会できず。 | |
1月28日 | 佐藤宣行に対する医療保護措置を実施。佐藤宣行の居住室内で監禁されていた被害者少女A(当時19歳)が発見、保護される。 | |
〃 |
Aが両親と再会。 | |
1月29日 | 新潟県警が三条署に「三条市における未成年者誘拐・監禁事件」捜査本部を設置し、被疑者宅の家宅捜索を開始[116](2月3日まで)。 | |
2月10日 | 佐藤宣行の強制わいせつ未遂事件についての犯歴データが県警に送信されていなかったことが判明。 | |
2月11日 | 病院に収容されていた被疑者の佐藤宣行が退院し、新潟県警に逮捕される。 | |
2月13日 | 佐藤宣行の身柄が新潟地検に送致(送検)される。 | |
2月17日 | 事件発覚当初の状況について県警が虚偽の発表を行っていたことが判明。 | |
2月26日 | 事件発覚時の対応について追及されていた新潟県警本部長が辞職を発表。 | |
3月4日 | 新潟地検が未成年者略取・逮捕監禁致傷の罪で佐藤宣行を新潟地裁へ起訴[7]。 | |
5月23日 | 新潟地裁(榊五十雄裁判長)で佐藤宣行の初公判[30][140]。 | |
6月26日 | 新潟地検が佐藤宣行に対する併合罪の適用を図り、窃盗罪で佐藤宣行を追起訴[14]。翌日(6月27日)に第2回公判[58][264]。 | |
7月26日 | 第3回公判。同日から窃盗事件についても審理[153]。 | |
10月3日 | 第4回公判で、新潟地裁(榊五十雄裁判長)は弁護人が申請していた精神鑑定の実施を決定[265]。 | |
12月5日 | 第5回公判で被害者Aの両親が「娘は今も苦しんでいる。佐藤宣行を厳罰に処してほしい」と意見陳述[157]。 | |
2001年 (平成13年) |
10月16日 | 第6回公判で「佐藤宣行には刑事責任能力がある」という精神鑑定結果が提出され、証拠採用される[266]。 |
11月30日 | 第7回公判。検察官が佐藤宣行に懲役15年を求刑し、弁護人が最終弁論を行って結審[168]。 | |
2002年 (平成14年) |
1月22日 | 第一審判決公判[10]。新潟地裁(榊五十雄裁判長)は佐藤宣行に対し懲役14年の判決を宣告[10]。 |
1月24日 | 佐藤宣行の弁護人が東京高裁へ控訴[182]。 | |
2月5日 | 新潟地検が控訴を断念したため、量刑が第一審判決(懲役14年)より重くなる可能性が消滅[184]。 | |
10月22日 | 東京高裁第8刑事部[185](山田利夫裁判長)で控訴審初公判[186]。 | |
12月10日 | 控訴審判決公判。東京高裁第8刑事部[185](山田利夫裁判長)は「併合罪解釈に誤りがある」として第一審判決を破棄自判し、佐藤宣行に対し懲役11年の判決を宣告[189]。 | |
12月24日 | 東京高検が「法令解釈に重要な誤りがある」として、最高裁へ上告受理の申立を行った[197]。 | |
〃 |
被告人が最高裁へ上告[197][267]。 | |
2003年 (平成15年) |
1月17日 | 最高裁第一小法廷は上告受理を決定[注 41][197]。 |
7月10日 | 最高裁第一小法廷(深澤武久裁判長)で上告審判決公判[197]。併合罪解釈に誤りがあるとして控訴審判決を破棄し、弁護側の控訴を棄却(一審判決を支持)する判決。 「併合罪は個々の罪を別々に処理するのではなく、全体を統一し処理すべきだ」との初判断を示す。 | |
8月12日 | 同日付で佐藤宣行に対し[197]、懲役14年の刑が確定[15]。 | |
2005年 (平成17年) |
1月1日 | 改正刑法が施行され、逮捕監禁致傷罪の懲役および禁錮の長期上限が10年から15年に引き上げられる[213]。 |
2015年 (平成27年) |
4月 | 千葉刑務所に収監されていた受刑者の佐藤宣行が刑期満了を迎える[16]。 |
2017年 (平成29年) |
? | 加害者S(元受刑者)が千葉県内で病死[4]。 |
事件をモチーフとした作品
[編集]- 『残虐記』
- 桐野夏生作のミステリー小説。9歳の時に誘拐され、男と1年あまりの監禁生活を送った経験を持つ女流作家が、出所した男からの手紙を受け取ったことをきっかけとして、事件の内容と自身の来し方を綴った私小説「残虐記」の原稿を残し失踪するところから物語が始まる。2004年度の柴田錬三郎賞を受賞。
- 『完全なる飼育 赤い殺意』
- 若松孝二監督による映画。『完全なる飼育』のシリーズ6作目。少女が男に10年間監禁されている山奥の一軒家に、殺人を犯し逃走中の男が逃げ込み、奇妙な三角関係が始まるという物語。監禁男を佐野史郎、被監禁女性を伊東美華が演じる。ロケーション撮影は新潟で行われた。
- 『北陸少女監禁事件』
- アイエナジー製作のAV(未発売)。少女役は倉本安奈。虐待表現など細部にこだわったあまり、プロデューサーから「やりすぎ」と言われ、メーカー、販売会社、警察、倫理メーカーの四者会議により発売が見送られた。後に新宿ロフトプラスワンにてエロシーンをカットして一度だけ上映された。観客74人にアンケートを取ったところ、「世に出すべき」と全員が答えたという。なお、当該作は、2003年に始まったアイエナジーの「エロシネマ」シリーズ第3弾としてリリースされる予定だったが、頓挫したためにシリーズも終了した[268]。
- 『葉隠しの家』
- 円山みやこ作の短編漫画。男に誘拐された少女が暮らす日の差さない暗い二階の部屋と、男の母親が日の下で盆栽を育てる姿が対比され描かれる。
- 『かいしゃいんのメロディー』
- 大橋ツヨシの漫画。第2巻で時事ネタとして当事件や新潟県警の不祥事をネタにしている。
- 『日本言論』
- 爆笑問題の著書。当事件をネタにした話が収録されている。
- 『二人静か』
- 坂本礼監督による2023年公開の映画。5歳で行方不明となった(当事件とは無関係の)娘を持つ夫婦が主人公。情報提供を呼び掛ける夫婦を手伝い出す莉奈は、幼少期に千葉県成田市での監禁を経験しており、それは当事件に基づいている。作中に監禁男とその母親の姿や声は登場せず、あくまで莉奈の経験談として語られる。西山未来(妻・涼子役)と水澤紳吾(夫・雅之役)が娘を待つ夫婦役を、ぎぃ子が莉奈を、それぞれ演じる。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 佐藤宣行が出生した当時、佐藤宣行の父親(当時62歳)の連れ子には一男一女(ともに当時30歳代、息子は佐藤宣行の母親より年上)がおり[22]、佐藤宣行の母親は彼らに対し敬語を使っていた[27]。
- ^ 佐藤宣行の母親は生命・損害保険の外交員として働いていた[25]。
- ^ 佐藤宣行は成人後も「ボクちゃん」と呼ばれ、両親から溺愛されていた[31]。
- ^ 当時、佐藤宣行の母親(当時45歳)は息子を病院へ連れて行くため、普通自動車運転免許を取得した[34]。
- ^ その後、父親は娘(佐藤宣行の異母姉で、佐藤宣行の母親と同い年)の家へ避難した[25]。『柏崎日報』では「市外に住む身内」と報じられている[29]。
- ^ このことに加え、事件当日(1990年11月13日)には三条競馬場で場外馬券が販売されていたため、2000年2月18日の衆議院法務委員会で坂上富男議員は「三条競馬場に来た人間の関与を考え、広域捜査を行うべきだったのではないか」と質問しているが、それに対し警察庁刑事局長の林則清は「佐藤宣行の趣味が競馬ということだが、被害者Aを拉致した時期(1990年)にはまだ競馬をやっていなかったようだ」と回答しており[36]、松田美智子 (2009) も「佐藤宣行が競馬を始めたのは、Aを拉致してから数年後だった」と述べている[37]。
- ^ 柏崎市立高浜小学校[40]。同校は柏崎市宮川2番地1号[43](国道352号沿い)に所在していたが、2011年度限りで荒浜小学校と統合され閉校[44]。
- ^ 当時、この事件は『新潟日報』1989年6月14日付の社会面に掲載された「少女にいたずら未遂」と題したベタ記事で報じられている[41]。
- ^ 当時、同地検支部は佐藤宣行に精神病院への通院・入院歴があることを考慮し、新潟県立病院で簡易精神鑑定を行ったが、「幻覚、妄想、思考障害は認められず、精神病に罹患していない」という結果が出た[48]。
- ^ 佐藤宣行の母親(当時63歳)は当時、私選で弁護人をつけ、情状証人として「息子は優しい子で、今回は魔が差したとしか思えない。これからは自分が厳しく指導・監督するので、寛大な判決をお願いしたい」と証言していた[50]。
- ^ また、柏崎署が佐藤宣行を独自に調査した形跡もなかった[51]。
- ^ 佐藤宣行は事件当日に家を出る際、Aを誘拐する際に用いたナイフを車のダッシュボード内に入れ、布製粘着テープ1巻を後部座席に置いていた[30]。
- ^ a b 1990年11月13日の三条市の日の入り時刻は16時32分[64]ないし16時34分[13]。17時ごろには誘拐現場の辺りは暗くなり、人通りも全くなかった[5]。
- ^ 被害者Aが小学校を出た時刻は17時10分過ぎだった[13]。
- ^ Aは同年11月28日に10歳の誕生日を控えていた[54]。
- ^ 誘拐の動機について佐藤宣行は「女の子が可愛かったし、側に誰もいなかったので」と述べている[37]。
- ^ サバイバルナイフ[56]。佐藤宣行はこのナイフについて「山形へドライブした時、割り込みをしたら相手の車のドライバーと喧嘩になりそうになって怖い思いをしたので、護身用に買ったものだ」と述べ[57]、Aを連れ去るために用意したものではないと主張した[58]。
- ^ 佐藤宣行は捜査・公判を通じて「Aの体を抱きかかえてトランクに入れたのではなく、Aにトランクの中に入るよう命じたところ、Aは自らトランク内に乗り込んだ」と供述し、弁護人も同様の主張をしたが、新潟地裁 (2002) は「佐藤宣行の供述には一貫性がなく、不自然さが感じられ、信用できない。被害者Aの『ナイフを突きつけられてトランクに入るよう命じられたが、恐怖のあまり声も出ず、足も動かせなかった。すると佐藤宣行によって身体を抱え込まれ、トランクに押し込められた』という供述は、当時の心理状態も踏まえて具体的・詳細に供述しており、こちらのほうが信用性が高い」と認定した[60]。
- ^ 両手首の緊縛・目隠しを行った理由は、佐藤宣行が「Aに暴れられたり、自宅やその周囲の様子を見られたりしないようにしなければいけない」と考えたため[30]。Aの供述によると、この時にトランクを開けた佐藤宣行に対し、Aが「三条市の家に帰れるの。お父さん、お母さんの家に帰れるの」と尋ねると、佐藤宣行は「だめだな。これからおれと一緒に暮らすんだ」と応えた[61]。
- ^ 佐藤宣行が柏崎市内で強制わいせつ事件を起こして逮捕された1989年には、宮崎勤(2008年に死刑執行)によって4人の幼女が殺害された東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件が発覚していた[62]。
- ^ その結果、男女30人から「ある」との回答を得たが、接触してきた人物はすべて「おじさん」だった[67]。また新潟県内では1989年6月 - 7月にかけ、西蒲原郡吉田町・燕市・見附市などで小学生の誘拐未遂事件が多発していた[68]。
- ^ バス、タクシー、ホテル、旅館、ガソリンスタンド、警備協会など[67]。
- ^ 当初はA宅裏の里山・排水路の捜索に重点が置かれていたが、大規模な捜索でも発見に至らなかったため「事故ではなく、車による連れ去り事件だろう」という見方が有力になった[70]。
- ^ 三条署はAの失踪当初、「(誘拐である場合は)土地勘のある者の犯行」として、市内や近隣の燕市・見附市・白根市に限定して捜査したが、柏崎市は捜査範囲外だった[73]。
- ^ 『新潟日報』1990年12月13日付記事「ナゾの失踪、大捜査網空振り/近県にも捜索願い」[54]。
- ^ Aの失踪当時、Aの父親は同年7月から群馬県前橋市に単身赴任していた[81]が、Aの所持金は当時50円しかなかった上、家出する動機もなかった[67]。
- ^ 事件発生直後、三条署は「Aが誘拐(あるいは北朝鮮のスパイにより拉致)された形跡がなく、むしろ家出したことも考えられる[注 26]ため、事件とは断定できない」として、ポスターを制作しようとしなかった[82]。また、Aの両親もポスターを制作する意思がなかったため、当時の三条市PTA連合会会長が当時の三条市長(内山裕一)に依頼し、市長が接待交際費でポスターを制作した[82]。しかし、三条署および燕警察署はPTA連合会からのポスター配布の依頼を拒否したため、同会は市内の小中学校22校の役員に依頼し、県内全市町村のPTA事務局にポスターを届けたほか、隣接各県(富山・長野・群馬・福島・山形)のPTA連合会にもポスターを配布した[82]。
- ^ また、この男性は「当時(1990年11月)の夕方5時ごろは真っ暗になる[注 13]上、事件現場の道路は電灯がなかった。当時、市内では小中学生が誘拐されそうになる事件が多発していたが、学校が市内で発生した不審者による事件情報を父兄やPTA・教育委員会に知らせていれば、本事件は起きなかったのではないか」と述べている[83]。
- ^ 凶器のスタンガンは佐藤宣行が母親に命じ、1991年4月ごろに柏崎市内(国道8号沿い)のホームセンターで購入させた[85]。購入時、母親は使用目的を尋ねてきた店員に対し「自分が護身用に使う」と答えていた[86]。
- ^ 柏崎市内の病院の精神保健指定医と精神科医、PSWの看護師、病院職員2人[101]。
- ^ ただし、この警察の対応に関し、毎日新聞新潟支局 (2000) は、応対した生活安全課係長は「身元不明の女性」が行方不明になっていたAであることを知らなかった旨を述べている[106]ほか、新潟県精神保健福祉センターの後藤雅博は、月崎時央との対談で「いち市民が呼んだのに来なかった、というのとは違う」と述べ、協力関係にあるプロ同士のやり取りのため、警察バッシングに傾いた新聞報道とはニュアンスが異なることを認めている[107]。
- ^ a b 新潟県警捜査一課と三条署・柏崎署による合同捜査本部[115]。
- ^ 同紙は朝刊にて、東京本社社会部長・高尾元久の名義で「佐藤宣行は最近まで社会生活を送り、車の運転もできた。仮に佐藤宣行がまったく事の善悪を弁別できず、それに従って行動もできない、責任が問えない状態だったならば、少女を誘拐して長期間監禁することは可能なのだろうか?」「実名は人格の象徴である。『障害者だから』の一言で実名を奪われ、時には裁判を受ける権利さえも失ってしまうような事例が過去にあった。一見、人権を重視しているように見えて実は深刻な差別意識が潜んではいないだろうか?」などと問いかけた上で、「捜査の進展と方向を重要な判断材料として、自らの責任において取材し、実名報道することを決めた」と説明した[122]。
- ^ なお最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)は2012年7月24日付の決定(北海道・東京連続少女監禁事件の上告審)で、被害者にPTSDを負わせた場合は外形的な傷を負わせていなくても傷害罪が成立するという判断を示している[137]。
- ^ 2例目は新潟小2女児殺害事件の第一審初公判(2019年)[143]。同事件の抽選倍率は17.7倍(希望者656人:一般傍聴席37席)だった[144]。
- ^ 万引きを行った店について、『新潟日報』 (2000) は「大型スーパー」[145]、松田美智子 (2009) は「ホームセンター」と述べている[146]。
- ^ また、佐藤宣行は同公判から、亡父の姿や虫やヘビの類が見える、人の話し声や虫の羽音が聞こえる、といった幻覚、幻聴の体験について供述を始めていた[152]。
- ^ 最高裁は2009年5月の裁判員制度開始に合わせ、犯罪の類型を入力すると過去の判決の傾向をグラフなどで表示する「量刑検索システム」を整備し、2011年までに多くの裁判員裁判で量刑判断のための資料として利用されていた[180]。
- ^ 刑事訴訟法第402条(不利益変更の禁止)「被告人が控訴をし、又は被告人のため控訴をした事件については、原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない。」[184]
- ^ 刑事訴訟法第405条:高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
- 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
- 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
- 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
- ^ a b 刑事訴訟法第406条(上告審として受理できる事件):「最高裁判所は、前条(第405条)の規定により上告をすることができる場合以外の場合であっても、法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件については、その判決確定前に限り、裁判所の規則の定めるところにより、自ら上告審としてその事件を受理することができる。」[197]
- ^ 最高裁は通常、書面審理が中心であるため、弁論を開いた場合は控訴審判決が見直される可能性が高いとされる[201]。
- ^ 行政機関が個人の支援を目的とした募金口座を設けた事例は当時、異例なものだった[205]。
- ^ 当初の口座開設期間は2000年夏ごろまでの予定だったが[207]、同一人物から複数回にわたる送金もあり、市教育委員会は「温かく支援していきたいという善意の人が多い」としてそれ以降も継続した[10]。
- ^ 「家族の会い、笑顔徐々に」[208]。
- ^ アパートは千葉駅から電車で約20分かかる駅の周辺に位置しており[221]、建設会社が管理している物件だったが、佐藤宣行は仕事をしていなかった[222]。
- ^ 『柏崎日報』 (2020) は「(佐藤宣行が死亡した事実は)柏崎署への取材で分かった」と報道している[224]。
- ^ 窪田順生 (2006) は2003年8月下旬に佐藤の母親(当時77歳)を取材した[225]が、その数か月後に佐藤の母親は体調を崩して入院し、窪田がその見舞いに1度行ったのが最後の対面になった[226]。秋本誠は近隣住民への取材で、佐藤の母親は事件後に寝たきりになり、2003年11月に入院したという証言を得ている[227]。
- ^ 秋本誠が2005年6月初旬に現場の家を訪れた時点では、門扉に南京錠がかかっており、住人は不在だった。秋本の取材に答えた近隣住民によれば、この家は約2年前(最高裁判決前)に約1,200万円で売りに出されたが、当時は最高裁で審理が続いていたため、裁判所が証拠保全の処置を取ったという[227]。
- ^ この警察官は前任地(小出警察署)に勤務していたころから、職権を乱用して未成年を含む複数の女性にわいせつ行為を迫るなどしていたほか、本事案の担当ではないにも拘らず、対策本部の様子をしきりに疑うなど、不審な行動が目立っていた[62]。結局、本件についてはアリバイが立証され、不問となったが、後に別件(別の少女へのわいせつ行為など)で諭旨免職処分となった[62]。ただし、そのわいせつ事件については被害者からの被害届がなかったため、立件はされていない[62]。
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参考文献
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- 『TKCローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:28075302
- 【事案の概要】被告人が、下校途中の小学生女児を略取すると共に逮捕監禁し、そのまま9年2か月にわたり同女を自宅内に監禁し続け、その結果、同女に対し、両下肢筋力低下等の傷害を与えた未成年者略取、逮捕監禁致傷、および監禁中の成長した同女に着用させるため下着を万引きした窃盗の事案において、併合罪関係にある各罪ごとの犯情から導かれるその量刑を単に合算させて処断刑を決するのではなく、その各罪を総合した全体的な犯情を考慮し得てその量刑処断すべき刑を決定すべきであり、被告人に対しては、逮捕監禁致傷罪の法定刑の範囲内では到底その適正妥当な量刑を行うことはできないとして、同罪の刑に法定の併合罪加重をした刑期の範囲内で懲役14年の刑が言い渡された事例。
- 【参照法令】刑法224条・45条・221条・235条・220条・54条・39条・47条・刑事訴訟法250条
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- 裁判官:山田利夫(裁判長)・柴田秀樹・藤井敏明
- 判決主文:原判決を破棄する。被告人を懲役11年に処する。原審における未決勾留日数中350日をその刑に算入する。押収してあるナイフ1丁(新潟地方裁判所平成12年押第13号の1)及びスタンガン1台(同号の2)をいずれも没収する。押収してあるキャミソール3枚(同号の9, 10)をいずれも被害者甲野株式会社に還付する。
- 『高等裁判所刑事判例集』(高裁判例集) 第55巻3号7頁
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- 【事案の概要】被告人が、当時9歳の女子小学生であった被害者を連れ去り、自宅の自室において、9年2か月間余りにわたって監禁し続け、治療期間不明の傷害を負わせた未成年者略取及び逮捕監禁致傷並びに約2400円相当の商品4点を万引きした窃盗の事実につき、原判決が懲役14年に処したのは、明らかな法定の適用の誤りがある等とし、控訴した事案で、原判決は、刑法47条の解釈を誤った結果、併合罪全体に対する刑を量定するにあたり、逮捕監禁致傷罪について、その法定刑の上限である懲役10年を超える趣旨のものとしたといわざるを得ず、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるとし、原判決を破棄し、懲役11年を言渡した事例。
- 【参照法令】刑法224条・刑法221条・刑法235条・刑法45条・刑法47条
- 最高裁判所第一小法廷判決 2003年(平成15年)7月10日 刑集 第57巻7号903頁、平成15年(あ)第60号、『略取、逮捕監禁致傷、窃盗被告事件』「1. 刑法47条の法意 / 2. 刑訴法495条2項2号にいう「上訴審において原判決が破棄されたとき」の意義」、“1. 刑法47条は,併合罪のうち2個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは,同条が定めるところに従って併合罪を構成する各罪全体に対する統一刑を処断刑として形成し,その範囲内で各罪全体に対する刑を決することとした規定であって,併合罪の構成単位である各罪について個別的な量刑判断を行うことは,法律上予定されていない。 / 2. 刑訴法495条2項2号にいう「上訴審において原判決が破棄されたとき」とは,当該上訴審における破棄判決が確定した場合をいう。”。
- 『最高裁判所刑事判例集』(刑集)第57巻7号903頁
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- 『判例タイムズ』第1134号102頁
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- 『TKCローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:28085590
- 【参照法令】刑事訴訟法495条・刑法47条・刑法21条
書籍
- 毎日新聞新潟支局 著、毎日新聞新潟支局 編『新潟少女監禁事件 空白の九年二カ月』(初版第1刷)新人物往来社、2000年12月5日。ISBN 978-4404028945。
- 月崎時央『「少女監禁」と「バスジャック」〜マスコミ報道と精神医療〜』700号(第1刷発行)、宝島社〈宝島社新書〉、2001年5月25日。ISBN 978-4796622219。
- 佐木隆三 著「第二章 新潟少女監禁事件」、プライム涌光(責任編集) 編『少女監禁「支配と服従」の密室で、いったい何が起きたのか』(第1刷発行)青春出版社、2003年10月10日、85-174頁。ISBN 978-4413034302。 - 本事件と北九州監禁殺人事件(2002年に発覚)の共通性を指摘し、両事件をそれぞれ取り上げた書籍。
- 窪田順生『14階段 ――検証 新潟少女9年2ヶ月監禁事件――』(初版第一刷)小学館、2006年4月20日。ISBN 978-4093897020。
- 松田美智子『新潟少女監禁事件 密室の3364日』朝日新聞出版〈朝日文庫〉、2009年2月6日。ISBN 978-4022616081。 - 原著:松田美智子『カプセル 新潟少女監禁事件 密室の3364日』(主婦と生活社)は2002年4月3日に1刷発行。
- 読売新聞社会部「第一章 量刑の真実 > 人間にしかできない作業」『贖罪』(初版発行)中央公論新社、2011年12月20日、17-26頁。ISBN 978-4120043130。 NCID BB07962926。国立国会図書館書誌ID:023191733・全国書誌番号:22061966。 - 『読売新聞』で2009年11月から2010年12月にかけて連載された特集「罪と罰」を加筆・修正して書籍化したもの。
雑誌
- 「母親は知っていた?!少女「監禁飼育」9年 核心の証言」『週刊文春』第42巻第5号、文藝春秋、2000年2月10日、26-29頁、doi:10.11501/3376827。 - 通巻:第2065号(2000年2月10日号)。
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- 「野に放たれた“脅威” それからの「新潟少女監禁男」」『週刊新潮』第66巻第6号、新潮社、2021年2月11日、128-131頁、NAID 40022472730。 - 通巻:第3271号(2021年2月11日特大号)。同年2月4日発売。
関連項目
[編集]外部リンク
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