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「箱根登山鉄道1000形電車」の版間の差分

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{{鉄道車両
{{ブルーリボン賞 (鉄道)|25|1982}}
|車両名=箱根登山鉄道1000形電車<br/><small>BERNINA</small>
[[ファイル:Hakonetozan-1002 .JPG|thumb|240px|right|1000形電車]]
|社色=#A14023 <!--バーミリオンオレンジ 鉄道ピクトリアル通巻829号(2010年1月号臨時増刊)「特集・小田急電鉄」p191の表から色を抽出-->
[[ファイル:Hakone-Tozan-Railway-80permillage.jpg|thumb|240px|right|80[[パーミル|&permil;]]の急勾配を登る1000形電車(1993年頃)]]
|画像=Tozan Bernina 1002 1004.jpg
'''箱根登山鉄道1000形電車'''(はこねとざんてつどう1000がたでんしゃ)は、[[箱根登山鉄道]]の[[直流電化|直流]][[電車]]。箱根登山鉄道と姉妹提携を結ぶ[[スイス]]の[[レーティッシュ鉄道]]のベルニナ線にちなんで、'''ベルニナ号'''の[[愛称]]がある。
|pxl = 300px
|画像説明=宮ノ下駅で交換する「ベルニナ」(左)と「ベルニナII」(右)
|unit = self
|編成 = 2両編成(冷房改造前)<br/>3両編成(冷房改造後)
|起動加速度 =4.0[[メートル毎秒毎秒|km/h/s]]<ref name="rj170-56"/>
|営業最高速度 =
|設計最高速度 =
|最高速度 =55[[キロメートル毎時|km/h]](小田原-箱根湯本間)<ref name="rf240-64"/><br/>40km/h(箱根湯本-強羅間)<ref name="rf240-64"/>
|定格速度 =
|減速度(常用最大)=4.0km/h/s<ref name="rj170-56"/>
|減速度(非常) =4.5km/h/s<ref name="rj170-56"/>
|編成定員 =
|車両定員 =107名
|編成長 =29,320[[ミリメートル|mm]]<ref name="rj170-56"/>
|最大寸法 =
|全長 =14,660mm<ref name="rj170-56"/>
|全幅 =2,580mm<ref name="rf240-645b"/>
|全高 =3,953mm<ref name="rj170-56"/>
|車体長 =13,800mm<ref name="rf240-645b"/>
|車体幅 =2,520mm<ref name="rj170-56"/>
|車体高 =3,503mm<ref name="rf240-645b"/>
|編成質量 =
|車両質量 =[[#編成表|編成表]]を参照
|軸配置 =
|軌間 =1,435mm
|電気方式 =[[直流電化|直流]]750V<ref name="rf240-64"/>{{refnest|group="注釈"|name="電圧"|当初より750Vで設計されている<ref name="rf240-64"/>が、登場当時は600Vで使用し、750Vに昇圧されたのは1993年7月である<ref name="rj324-73"/>。}}・1,500V<ref name="rf240-64"/><br/>([[架空電車線方式]]<ref name="rf240-64"/>)
|出力 =
|主電動機 =
|モーター出力 =95[[ワット|kW]]([[直巻整流子電動機]]・[[公称電圧|端子電圧]]375[[ボルト (単位)|V]])<ref name="rj170-56"/>
|機関出力 =
|編成出力 =
|定格出力 =
|定格引張力 =
|駆動装置 =[[中空軸平行カルダン駆動方式]]
|歯車比 =78:13=6.0<ref name="rj170-56"/>
|変速段 =
|台車 =[[東急車輛製造]] TS-330<ref name="rj170-56"/>
|制御装置 =
|ブレーキ方式 =[[発電ブレーキ|発電制動]]併用[[電気指令式ブレーキ|全電気指令式]][[電磁直通ブレーキ]] (HRD-1) <ref name="rj170-56"/><br/>レール圧着ブレーキ<ref name="rj170-56"/><br/>手ブレーキ<ref name="rj170-56"/>
|保安装置 =
|製造メーカー =[[川崎重工業車両カンパニー|川崎重工業]]
|備考 =
|備考全幅 ={{ブルーリボン賞 (鉄道)|25|1982}}
}}
'''箱根登山鉄道1000形電車'''(はこねとざんてつどう1000がたでんしゃ)は、[[箱根登山鉄道]]が[[1981年]]3月から運用している<ref name="g100-92"/>旅客用[[電車]]である。


姉妹鉄道提携を結んでいる[[スイス]]の[[レーティッシュ鉄道]]ベルニナ線にちなんで「ベルニナ号」という愛称が設定され<ref name="BL88-29"/>、[[1982年]]には[[鉄道友の会]]より「[[ブルーリボン賞 (鉄道)|ブルーリボン賞]]」を授与された<ref name="BL88-28"/>。[[1984年]]には1編成が増備され<ref name="g100-92"/>、2両編成×2編成となったが、2004年に冷房改造が行われてからは、[[箱根登山鉄道2000系電車|2000系「サン・モリッツ号」]]の中間車を組み込んだ3両編成×2編成として運用されている<ref name="h12-32"/>。
[[1982年]]([[昭和]]57年)に[[鉄道友の会]][[ブルーリボン賞 (鉄道)|ブルーリボン賞]]を受賞した。


前述の通り「ベルニナ号」という愛称が設定されているが、1984年に増備された編成には「ベルニナII」という愛称も公式に設定されている<ref name="g100-64"/>。このため、本稿全般の呼称としては「ベルニナ号」と記述し、個別の編成について記述する際には、1981年に製造された編成を「ベルニナ」、1984年に増備された編成を「ベルニナII」と記述する。また、[[箱根登山鉄道2000系電車|2000系]]については「サン・モリッツ号」と表記する。
== 概要 ==
[[箱根登山鉄道モハ2形電車|モハ2形]]以来実に46年ぶりの新車として[[1981年]](昭和56年)に第1編成(クモハ1001 - クモハ1002)が[[川崎重工業車両カンパニー|川崎重工業]]で落成した。路線の条件から[[抵抗器]]を屋根上部に搭載したため、[[エア・コンディショナー|冷房装置]]は搭載されず、代わりに客室内に横流ファン(ラインデリア)を設置した。[[電気指令式ブレーキ]]を採用し、客用ドア間の[[鉄道車両の座席|座席]]に転換クロスシートを装備した[[カルダン駆動方式|カルダン駆動]]の高性能車である。[[1984年]](昭和59年)に老朽車の置き換えとして第2編成(クモハ1003 - クモハ1004)が増備された。


== 登場の経緯 ==
当初は[[小田急電鉄]][[小田急ロマンスカー|ロマンスカー]][[小田急3000形電車 (初代)|3000形]] (SE) ・[[小田急3100形電車|3100形]] (NSE) に合わせた塗装<ref>モハ1形・2形は2008年現在もこの塗装である。</ref>であったが、[[1989年]]([[平成]]元年)に[[小田急10000形電車|10000形]] (HiSE) に合わせた塗装に変更された。さらに[[2002年]](平成14年)には第2編成が[[箱根登山鉄道2000系電車|2000系]]と同様にスイス・レーティッシュ鉄道の車両風の塗装に変更され、第1編成も後述する冷房改造時に変更されたので、現行の塗装は3代目である。[[2008年]](平成20年)3月に第2編成の塗装を登場時の塗装に復元した([[#リバイバル塗装|後述]])。
箱根登山鉄道では、[[1919年]]6月1日の開業当時に製造した[[小田原電気鉄道チキ1形電車|チキ1形]]、その後[[1927年]]と[[1935年]]に増備した[[小田原電気鉄道チキ2形電車|チキ2形]]・[[箱根登山鉄道チキ3形電車|チキ3形]]によって鉄道線の運行を行っていた<ref name="rj170-54"/>。[[1979年]]には鉄道線開通から60周年となったことを記念し<ref name="g100-72"/>、鉄道線の建設にあたって参考としたベルニナ線を運行するレーティッシュ鉄道と姉妹鉄道提携を結んだ<ref name="g100-72"/>。


一方、[[1970年]]代に入ってから[[モータリゼーション]]が進展、公共交通機関は影響を受けることになった。箱根を経由する[[国道1号]]は幹線でありながらカーブの多い山岳道路であり、観光客を乗せたマイカーが特定の道路に集中することによる渋滞がみられるようになった<ref name="bjr58-29"/>。しかし、これによって[[箱根登山バス|自動車部門]]が定時性の確保が困難となるなどの打撃を受けたのに対し、時間の正確な登山電車は逆に見直されることになった<ref name="g100-63"/>。
[[2004年]](平成16年)[[2月]]に第1編成、[[4月]]に第2編成が以下の改造を受けた。
* 2000系と同様の床置き式冷房装置を搭載した。冷房電源を供給するために中間に[[箱根登山鉄道2000系電車|モハ2200形]]を組み込んだ。
* 連結面側は2枚窓非貫通構造だったが、2000系同様の非常用[[貫通扉]]を設置した。
* 正面の[[方向幕|行先表示器]]を幕式から[[発光ダイオード|LED]]式に交換した。
* 客用扉の室内側上部に[[ドアチャイム]]とLED式車内案内表示器を設置した。
* 客用ドア間座席の固定クロスシート化および内装の更新。
* 自動放送装置の取り付け。


こうした環境の下、チキ2形・チキ3形が1935年9月に増備されて以来、約45年ぶり<!--年だけ見ると1935年から1981年で46年ですが、1935年9月から1981年2月までだと45年5ヶ月です--><ref name="rp405-118"/>となる新型車両として登場したのが本形式「ベルニナ号」である。
== 運用 ==
[[箱根登山鉄道鉄道線]]の[[箱根湯本駅]] - [[強羅駅]]間で使用される。


== 車両概説 ==
従来は[[小田原駅]] - 箱根湯本駅間でも使用されていたが、[[2006年]](平成18年)[[3月18日]]改正より営業運転で箱根湯本駅以東に乗り入れることがなくなった。ただし、鉄道線の[[車両基地]]への入出庫のため[[入生田駅]] - 箱根湯本駅間は[[回送]]運転で走行する。
本節では、登場当時の仕様を記述する。変更については沿革で後述する。


「ベルニナ号」は全長15[[メートル|m]]の車両による2両編成が製造された。全て先頭車となる[[制御車|制御電動車]]で、形式はクモハ1000形である。車両番号については、[[#編成表|巻末の編成表]]を参照。
== 車両諸元 ==
* 車体 - 全鋼製 2軸ボギー電車 片側2扉
* 全長 - 14,660mm
* 全幅 - 2,580mm
* 全高 - 3,953mm
* 軌間 - 1435mm([[標準軌]])
* 電気方式 - 直流750V/1500V([[複電圧車]])
* 制御方式 - [[電気車の速度制御#抵抗制御|抵抗制御]]
* 駆動方式 - [[中空軸平行カルダン駆動方式|中空軸撓み継手 平行カルダン]]
* 座席 セミクロスシート


== 在籍 ==
=== 車 ===
車体長13,800[[ミリメートル|mm]]・全長14,660mm<ref name="rf240-58"/>で、車体幅2,520mm・全幅2,580mm<ref name="rf240-58"/>の全金属製車体である。屋根・側面・連結面の外板には耐蝕性鋼板を採用した<ref name="rf240-58"/>。乗降の容易化を図るため<ref name="rj170-55"/>、床面の高さは軌条面から1,128mmと<ref name="rf240-61"/>それまでの車両より低くし、乗降口のステップを廃止した<ref name="rj170-55"/>。
[[2007年]](平成19年)現在は1001,1002,1003,1004の4両が在籍し、以下の編成で運行される。
* 1001-2201-1002
* 1003-2202-1004


正面は非貫通型3枚窓で、視界を広げるために窓ガラスは大きく広げ<ref name="rj170-55"/>、窓柱は細くした<ref name="rj170-55"/>。中央の運転士席窓の上部に方向幕を設置した<ref name="rf240-58"/>ほか、前照灯は左右の窓上部に内蔵させた<ref name="rf240-58"/>。側面客用扉は各車両とも片開き扉2箇所とし<ref name="rj170-55"/>、扉の幅は1,000mm幅とした<ref name="rf240-645b"/>。側面窓は眺望に配慮してバランサーつきの1段下降窓で<ref name="rj170-55"/>、窓の下辺は床面からの高さを750mmとし<ref name="rf240-61"/>、座席に座った子供でも外が眺められるようにした<ref name="rf240-61"/>。連結面側は半径30mのカーブを通過する際に危険なため貫通路は設けず<ref name="rf240-59"/>、非貫通の<ref name="rf240-58"/>2枚窓とした<ref name="rf240-59"/>。
== リバイバル塗装 ==

[[ファイル:Tozan Bernina 1004.jpg|thumb|right|200px|1000形リバイバル塗装車(2010年7月11日 小涌谷駅)]]
=== 内装 ===
箱根登山鉄道の創立120周年を記念し、本形式の第2編成が1981年に登場した当時の塗装に復元され、2008年[[3月15日]]から運行を開始した<ref>[http://www.hakone-tozan.co.jp/info/info-120anniversarl.PDF 2008年2月13日プレスリリース]による。ただし、今回の塗装が施された「ベルニナ2」と呼ばれる1003、1004については登場時多少白の面積が少ない塗り分けとなっており、厳密にはこの塗り分けは1001、1002の塗装である。</ref>。当分の間この塗装で運行され、各種イベントにも活用される。なお、本編成は冷房化改造の際に2000系の中間車であるモハ2200形を組み込んでいるが、2000系車両にこの塗装が施されるのは初めてである。
座席は客用扉間が[[鉄道車両の座席#クロスシート(横座席)|クロスシート]]<ref name="rf240-61"/>、車端部が[[鉄道車両の座席#ロングシート(縦座席)|ロングシート]]で<ref name="rf240-61"/>、クロスシート部分には[[鉄道車両の座席#転換式クロスシート(転換腰掛)|転換式腰掛]]を採用した<ref name="rj170-55"/>。座席のモケットはオレンジ色とした<ref name="rf240-62"/>。座席上部にはステレンレスパイプの荷物棚を設けた<ref name="rf240-61"/>ほか、ロングシート端にはスタンションポール(握り棒)を設置した<ref name="rf240-61"/>。

室内の配色は、天井は白色<ref name="rf240-62"/>、側壁の内張りは明るい木目柄とした<ref name="rj170-55"/>。床についてはリノリューム張りとし<ref name="rj170-55"/>、通路部分をベージュ<ref name="rf240-62"/>、それ以外の部分をオリーブグリーンとした<ref name="rf240-62"/>。車内の照明装置は交流200V仕様の40[[ワット|W]][[蛍光灯]]10本<ref name="rf240-64"/>と直流100V仕様の40W蛍光灯2本で<ref name="rf240-64"/>、直流蛍光灯は非常灯と兼用である<ref name="rf240-62"/>。冷房装置は装備せず<ref name="rf240-62"/>、各車両に横流ファン(ラインフローファン)を6台設置した<ref name="rj170-56"/>。

=== 主要機器 ===
==== 乗務員室 ====
[[運転士]]が乗務する乗務員室(運転室)は中央運転席とし<ref name="rj170-55"/>、運転席の座席は客室との仕切り扉に直接バケットシートを取り付けた<ref name="rf240-60"/>。運転台コンソールはデスクタイプとし<ref name="rj170-55"/>、中央に計器盤を配し、各種スイッチ類をその手前に配置した。計器盤の周囲はつや消し黒<ref name="rf240-60"/>、それ以外の部分はつや消しの濃い茶色として<ref name="rf240-60"/>、視認性の向上を図った<ref name="rf240-60"/>。運転台は2ハンドル仕様で、左側のハンドルは[[マスター・コントローラー|主幹制御器]]と[[電気制動]](マスコンハンドル)<ref name="rf240-60"/>、右側のハンドルが[[鉄道のブレーキ|制動]]制御器(ブレーキハンドル)で<ref name="rf240-60"/>、いずれも直線方向(前後方向)に扱う仕様である<ref name="rj170-55"/>。両方同時にハンドルを離すとデッドマン装置が作動する<ref name="rf240-63"/>。

==== 電装品・台車 ====
電装品については、蓄電池については奇数番号の車両に<ref name="rj170-56"/>、低圧電源用のインバータ装置については偶数番号の車両に設けている<ref name="rj170-56"/>が、それ以外の機器は全て各車両に搭載した<ref name="rf240-63"/>。これは電装品の故障時においても、回路を切り離した上で車庫まで運転できるように<ref name="rf240-64"/>、非常時に単車での力行運転も可能とした<ref name="rj170-55"/>ためで、2両編成ではあるが固定編成とはなっていない。

鉄道線の架線電圧は、小田原駅と箱根湯本駅の間が直流1,500V、箱根湯本駅と強羅駅の間は直流600V(登場当時)であるため、箱根湯本駅構内にデッドセクションが設けられている<ref name="rf240-63"/>。在来車両では手動で切り替えを行っていたが、「ベルニナ号」では電圧検出継電器という装置を使用し、主回路や補助回路を自動的に切り替えできるようにした<ref name="rf240-63"/>。設計上は750Vにも対応している<ref name="rf240-64"/><ref group="注釈" name="電圧"/>。

[[主電動機]]は[[東洋電機製造]]の直流[[直巻整流子電動機|直巻電動機]]であるTDK-8150-A型<ref name="1994-48"/>(端子電圧375V、定格電流285A、出力95kW<ref name="rj170-56"/>)を採用し、各車両に4基ずつ搭載した<ref name="rf240-62"/>。駆動装置は[[中空軸平行カルダン駆動方式|中空軸撓み板継手平行カルダン方式]]<!--出典の表記に従う-->で<ref name="rj170-56"/>、[[歯車比|歯数比]]は78:13=6.0である<ref name="rf240-64"/>。[[主制御器]]は[[東芝|東京芝浦電気(当時)]]<ref name="1994-48"/>のPE36-A型<ref name="1994-49"/>を各車両に搭載した。信頼性と保守の容易さを考えて<ref name="rf240-62"/>、1台で4基の電動機の制御を行い(1C4M)、主回路接続は4つの電動機を全て直列に接続する方式(永久4S)とした<ref name="rf240-62"/>。制御段数は力行13段・抑速電制13段である<ref name="rf240-62"/>。

[[鉄道車両の台車|台車]]は半径30mの急曲線を通過するため、[[ホイールベース#鉄道|軸間距離]]1,800mm<ref name="rf240-62"/>・車輪径860mm<ref name="rf240-62"/>のボックスペデスタル式コイルばね台車<ref name="rj170-55"/>である東急車輛製造のTS-330形を採用した<ref name="rf240-62"/>。

==== ブレーキ装置 ====
[[鉄道のブレーキ|ブレーキ(制動装置)]]は[[応荷重装置|応荷重機構]]付電空併用[[電気指令式ブレーキ|電気指令式電磁直通制動]]のHRD-1形を採用した<ref name="rj170-56"/>。応荷重機構は定員の150%まで一定の加減速度が保たれる<ref name="rf240-62"/>。基礎ブレーキ装置は1台車2シリンダー方式のクラスプ式(両抱え式)で<ref name="rf240-62"/>、制輪子は鋳鉄製である<ref name="2011-34"/>。空転・滑走を自動的に検知する機構を設けており、空転が発生したことを知らせるランプを運転台に設けた<ref name="rf240-63"/>。また、空転発生時には速度制限スイッチを押しながら再力行をすることにより、微弱なブレーキがかかった状態となって車輪の回転を抑える再粘着機構を装備した<ref name="rf240-63"/>。主抵抗器は屋根上に設置した<ref name="rf240-59"/>。

これらのブレーキ装置とは別系統の保安ブレーキとして、レール圧着ブレーキを装備した<ref name="rj170-55"/>。これは台車の中央下部に直径350mmのシリンダー2個を設置し<ref name="rf240-63"/>、運転台からのスイッチ操作により圧縮空気によって[[炭化ケイ素|カーボランダム]]シューをレール上面に押し付けるもので<ref name="rf240-63"/>、箱根登山鉄道では全車両に装備されている特殊なブレーキである<ref name="2011-3233"/>。

==== その他機器 ====
補助電源装置は、偶数番号の車両に7kVAの静止形インバータ (SIV) を搭載した<ref name="rf240-64"/>。電動空気圧縮機 (CP) は、すべての車両に1台ずつ搭載した<ref name="rj170-56"/>。集電装置(パンタグラフ)は各車両の屋根上に、PT1000S-M形下枠交差式パンタグラフを設置した<ref name="rf240-64"/>。編成両端の連結器については住友金属工業のKS22-C形密着連結器を採用した<ref name="rf240-64"/>。

このほか、箱根登山鉄道では急曲線で撒水を行うため<ref name="2011-20"/>、「ベルニナ号」でも各車両車端部に<ref name="rf240-63"/>容量360lの水タンクを設置し<ref name="rj170-55"/>、運転士の操作により急曲線で撒水を行うようにした<ref name="rf240-63"/>。

== 沿革 ==
1981年3月17日から「ベルニナ」が運用を開始した<ref name="g100-92"/>。運用開始後しばらくは限定された運用に入っており<ref name="rp405-119"/>、毎月1日と16日には入生田車庫で検査を行っていた<ref name="rp405-119"/>。1982年には鉄道友の会より[[第25回ブルーリボン賞 (鉄道)|第25回ブルーリボン賞]]受賞車両に選定された<ref name="BL88-28"/>。

{{Triple image|right|Hakone-Tozan-Railway-80permillage.jpg|130|Hakonetozan-1002 .JPG|130|Tozan Bernina 1004.jpg|130|「サン・モリッツ号」と同じデザインに変更された「ベルニナII」|レーティッシュ鉄道の車両と同じデザインに変更された「ベルニナII」|登場当時のデザインに戻された「ベルニナII」}}
この時点では旧型車両の廃車はなかったが、1984年10月15日には1編成が増備されて「ベルニナII」として運用を開始<ref name="g100-92"/>、これに伴い同年11月にはモハ3形113号・115号が運用から外れた<ref name="1985-mik"/>。[[1989年]]に[[箱根登山鉄道2000系電車|「サン・モリッツ号」]]が導入された後の同年10月から11月にかけて、「ベルニナ」「ベルニナII」ともに「サン・モリッツ号」と同様の塗装デザインに変更された<ref name="rp532-43"/>。

[[2002年]]には「ベルニナII」がレーティッシュ鉄道の車両と同じ塗装デザインに変更され<ref name="dj221-80"/>、同年6月22日から新塗装での運行を開始した<ref name="dj221-80"/>。[[2004年]]には「ベルニナ」「ベルニナII」ともに冷房化改造が行われた<ref name="rj454-94"/>が、「ベルニナ号」は補助電源装置の容量が小さく、冷房用電源の確保が難しかった<ref name="2011-78"/>。そこで、大容量の電源装置を装備する「サン・モリッツ号」の中間車を連結することによって冷房用の電源を確保することとなり<ref name="h12-32"/>、客室内に床置き式冷房装置を搭載した<ref name="rj454-94"/>。また、これと同時に、非貫通構造だった連結面側を「サン・モリッツ号」同様の非常用[[貫通扉]]を設置したほか、転換クロスシートは固定クロスシートに変更され<ref name="h12-32"/>、客用扉の室内側上部に[[ドアチャイム]]とLED式車内案内表示器を設置<ref name="rj454-94"/>、室内の配色の変更<ref name="rj454-94"/>などの改造が行なわれた。改造された車両は2004年4月24日から運用を開始し<ref name="rj454-94"/>、以後「ベルニナ号」は2編成とも3両固定編成として運用されることになった<ref name="h12-32"/>。

[[2008年]]には箱根登山鉄道が前身の小田原馬車鉄道として創業してから120周年を迎えることを記念して<ref name="rj500-145"/>、「ベルニナII」が登場当時の塗装デザインに復元された<ref name="rj500-145"/>。同年3月15日より登場当時のデザインでの運用を開始<ref name="rj500-145"/>、120周年イベントにも活用された<ref name="rj500-146"/>。

== 編成表 ==
; 凡例 : Mc …[[制御車|制御電動車]]、M …[[動力車|電動車]]、CON…[[主制御器|制御装置]]、SIV…補助電源装置、CP…[[圧縮機|電動空気圧縮機]]、PT…[[集電装置]]

=== 2両編成(冷房改造前) ===
{| class="wikitable" style="text-align:center; font-size:80%; margin:1em 0em 2em 3em;"
|-
|style="border-bottom:solid 3px #7B766A; background-color:#ccc;"|&nbsp;
|style="border-bottom:solid 3px #7B766A;" colspan="2"|{{TrainDirection|[[出山信号場|出山]]・[[上大平台信号場|上大平台]]/|[[小田原駅|小田原]]・[[大平台駅|大平台]]・[[強羅駅|強羅]]}}
|-
!形式
| '''クモハ1000''' || '''クモハ1000'''
|-
!style="border-bottom:solid 3px #7B766A;"|区分
|style="border-bottom:solid 3px #7B766A;"| Mc ||style="border-bottom:solid 3px #7B766A;"| Mc
|-
!車両番号
| '''1002'''<br/>'''1004''' || '''1001'''<br/>'''1003'''
|-
!style="border-bottom:solid 3px #A14023;"|自重
|style="border-bottom:solid 3px #A14023;"| 35t ||style="border-bottom:solid 3px #A14023;"| 34.5t
|-
!搭載機器
| CON,SIV,CP,PT || CON,SIV,CP,PT
|-
!定員
| 107 || 107
|}

=== 3両編成(冷房改造後) ===
{| class="wikitable" style="text-align:center; font-size:80%; margin:1em 0em 2em 3em;"
|-
|style="border-bottom:solid 3px #7B766A; background-color:#ccc;"|&nbsp;
|style="border-bottom:solid 3px #7B766A;" colspan="3"|{{TrainDirection|[[出山信号場|出山]]・[[上大平台信号場|上大平台]]/|[[小田原駅|小田原]]・[[大平台駅|大平台]]・[[強羅駅|強羅]]}}
|-
!形式
| '''クモハ1000''' || '''モハ2200'''|| '''クモハ1000'''
|-
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== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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== 参考文献 ==
=== 社史 ===
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=== 書籍 ===
* {{Cite book|和書|author = 青田孝|authorlink = |coauthors = |year = 2011|title = 箱根の山に挑んだ鉄路 「天下の険」を越えた技 |publisher = [[交通新聞社]]|ref = 青田2011|id = |isbn = 978-4330231112}}
* {{Cite book|和書|author = 荒井文治|authorlink = |coauthors = |year = 1994|origyear = 1988|title = 箱根登山鉄道への招待 |edition =第6版|publisher = [[電気車研究会]]|ref = 荒井1994|id = |isbn = 4885480698}}
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=== 雑誌記事 ===
* {{Cite journal|和書|author = 小川浩之|authorlink = |coauthors = |year= 2010|month=5|title =現役車両を分かりやすく解説 箱根登山鉄道の通になる|journal= 鉄道ひとり旅ふたり旅|issue=1 |pages=31-33|publisher = 枻出版社|ref = ひとり1|id = |isbn = 9784777916238}}
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* {{Cite journal|和書|author=西口靖宏 |coauthor=岸上明彦 |year=1982|month=6 |title=箱根登山鉄道の車両と運転 |journal=鉄道ピクトリアル |issue=405 |pages= 117-119 |publisher=電気車研究会 |ref =西口405}}
* {{Cite journal|和書|author=箱根登山鉄道(株)電車部技術課 |year=1981 |month=4 |title=箱根登山1000形ベルニナ号|journal=[[鉄道ジャーナル]] |issue=170 |pages= 54-57 |publisher=鉄道ジャーナル社 |ref = 登山170}}
* {{Cite journal|和書|author=三浦衛|coauthor= |year= 1993|month=10 |title=天下の険を攀じ登る 箱根登山鉄道 箱根湯本-強羅間3両編成運転化で輸送力増強 |journal= [[鉄道ジャーナル]]|issue=324 |pages=70-77 |publisher=鉄道ジャーナル社 |ref = 三浦324}}
* {{Cite journal|和書|author= |coauthors =|year=2002 |month=9 |title=DJ NEWS FILE |journal=[[鉄道ダイヤ情報]] |issue=221 |pages= 74-83 |publisher=[[交通新聞社]] |ref = DJ221}}
* {{Cite journal|和書|author=|coauthor= |year= 2004|month=8 |title=RAILWAY TOPICS |journal= 鉄道ジャーナル|issue=454 |pages=90-95 |publisher=鉄道ジャーナル社 |ref = RJ454}}
* {{Cite journal|和書|author=|coauthor= |year= 2008|month=6 |title=RAILWAY TOPICS |journal= 鉄道ジャーナル|issue=500|pages=144-149 |publisher=鉄道ジャーナル社 |ref = RJ500}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[レーティッシュ鉄道ABe4/4 51-56形電車]] - 姉妹鉄道のレーティッシュ鉄道の電車で、1両に「Hakone」の名称が付与されている。
* [[レーティッシュ鉄道ABe4/4 51-56形電車]] - 姉妹鉄道のレーティッシュ鉄道の電車で、1両に「Hakone」の名称が付与されている。


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2013年2月13日 (水) 02:23時点における版

箱根登山鉄道1000形電車
BERNINA
宮ノ下駅で交換する「ベルニナ」(左)と「ベルニナII」(右)
基本情報
製造所 川崎重工業
主要諸元
編成 2両編成(冷房改造前)
3両編成(冷房改造後)
軌間 1,435mm
電気方式 直流750V[1][注釈 1]・1,500V[1]
架空電車線方式[1]
最高速度 55km/h(小田原-箱根湯本間)[1]
40km/h(箱根湯本-強羅間)[1]
起動加速度 4.0km/h/s[3]
減速度(常用) 4.0km/h/s[3]
減速度(非常) 4.5km/h/s[3]
車両定員 107名
自重 編成表を参照
編成長 29,320mm[3]
全長 14,660mm[3]
車体長 13,800mm[4]
全幅 2,580mm[4]
車体幅 2,520mm[3]
全高 3,953mm[3]
車体高 3,503mm[4]
台車 東急車輛製造 TS-330[3]
主電動機出力 95kW直巻整流子電動機端子電圧375V[3]
駆動方式 中空軸平行カルダン駆動方式
歯車比 78:13=6.0[3]
制動装置 発電制動併用全電気指令式電磁直通ブレーキ (HRD-1) [3]
レール圧着ブレーキ[3]
手ブレーキ[3]
第25回(1982年
テンプレートを表示

箱根登山鉄道1000形電車(はこねとざんてつどう1000がたでんしゃ)は、箱根登山鉄道1981年3月から運用している[5]旅客用電車である。

姉妹鉄道提携を結んでいるスイスレーティッシュ鉄道ベルニナ線にちなんで「ベルニナ号」という愛称が設定され[6]1982年には鉄道友の会より「ブルーリボン賞」を授与された[7]1984年には1編成が増備され[5]、2両編成×2編成となったが、2004年に冷房改造が行われてからは、2000系「サン・モリッツ号」の中間車を組み込んだ3両編成×2編成として運用されている[8]

前述の通り「ベルニナ号」という愛称が設定されているが、1984年に増備された編成には「ベルニナII」という愛称も公式に設定されている[9]。このため、本稿全般の呼称としては「ベルニナ号」と記述し、個別の編成について記述する際には、1981年に製造された編成を「ベルニナ」、1984年に増備された編成を「ベルニナII」と記述する。また、2000系については「サン・モリッツ号」と表記する。

登場の経緯

箱根登山鉄道では、1919年6月1日の開業当時に製造したチキ1形、その後1927年1935年に増備したチキ2形チキ3形によって鉄道線の運行を行っていた[10]1979年には鉄道線開通から60周年となったことを記念し[11]、鉄道線の建設にあたって参考としたベルニナ線を運行するレーティッシュ鉄道と姉妹鉄道提携を結んだ[11]

一方、1970年代に入ってからモータリゼーションが進展、公共交通機関は影響を受けることになった。箱根を経由する国道1号は幹線でありながらカーブの多い山岳道路であり、観光客を乗せたマイカーが特定の道路に集中することによる渋滞がみられるようになった[12]。しかし、これによって自動車部門が定時性の確保が困難となるなどの打撃を受けたのに対し、時間の正確な登山電車は逆に見直されることになった[13]

こうした環境の下、チキ2形・チキ3形が1935年9月に増備されて以来、約45年ぶり[14]となる新型車両として登場したのが本形式「ベルニナ号」である。

車両概説

本節では、登場当時の仕様を記述する。変更については沿革で後述する。

「ベルニナ号」は全長15mの車両による2両編成が製造された。全て先頭車となる制御電動車で、形式はクモハ1000形である。車両番号については、巻末の編成表を参照。

車体

車体長13,800mm・全長14,660mm[15]で、車体幅2,520mm・全幅2,580mm[15]の全金属製車体である。屋根・側面・連結面の外板には耐蝕性鋼板を採用した[15]。乗降の容易化を図るため[16]、床面の高さは軌条面から1,128mmと[17]それまでの車両より低くし、乗降口のステップを廃止した[16]

正面は非貫通型3枚窓で、視界を広げるために窓ガラスは大きく広げ[16]、窓柱は細くした[16]。中央の運転士席窓の上部に方向幕を設置した[15]ほか、前照灯は左右の窓上部に内蔵させた[15]。側面客用扉は各車両とも片開き扉2箇所とし[16]、扉の幅は1,000mm幅とした[4]。側面窓は眺望に配慮してバランサーつきの1段下降窓で[16]、窓の下辺は床面からの高さを750mmとし[17]、座席に座った子供でも外が眺められるようにした[17]。連結面側は半径30mのカーブを通過する際に危険なため貫通路は設けず[18]、非貫通の[15]2枚窓とした[18]

内装

座席は客用扉間がクロスシート[17]、車端部がロングシート[17]、クロスシート部分には転換式腰掛を採用した[16]。座席のモケットはオレンジ色とした[19]。座席上部にはステレンレスパイプの荷物棚を設けた[17]ほか、ロングシート端にはスタンションポール(握り棒)を設置した[17]

室内の配色は、天井は白色[19]、側壁の内張りは明るい木目柄とした[16]。床についてはリノリューム張りとし[16]、通路部分をベージュ[19]、それ以外の部分をオリーブグリーンとした[19]。車内の照明装置は交流200V仕様の40W蛍光灯10本[1]と直流100V仕様の40W蛍光灯2本で[1]、直流蛍光灯は非常灯と兼用である[19]。冷房装置は装備せず[19]、各車両に横流ファン(ラインフローファン)を6台設置した[3]

主要機器

乗務員室

運転士が乗務する乗務員室(運転室)は中央運転席とし[16]、運転席の座席は客室との仕切り扉に直接バケットシートを取り付けた[20]。運転台コンソールはデスクタイプとし[16]、中央に計器盤を配し、各種スイッチ類をその手前に配置した。計器盤の周囲はつや消し黒[20]、それ以外の部分はつや消しの濃い茶色として[20]、視認性の向上を図った[20]。運転台は2ハンドル仕様で、左側のハンドルは主幹制御器電気制動(マスコンハンドル)[20]、右側のハンドルが制動制御器(ブレーキハンドル)で[20]、いずれも直線方向(前後方向)に扱う仕様である[16]。両方同時にハンドルを離すとデッドマン装置が作動する[21]

電装品・台車

電装品については、蓄電池については奇数番号の車両に[3]、低圧電源用のインバータ装置については偶数番号の車両に設けている[3]が、それ以外の機器は全て各車両に搭載した[21]。これは電装品の故障時においても、回路を切り離した上で車庫まで運転できるように[1]、非常時に単車での力行運転も可能とした[16]ためで、2両編成ではあるが固定編成とはなっていない。

鉄道線の架線電圧は、小田原駅と箱根湯本駅の間が直流1,500V、箱根湯本駅と強羅駅の間は直流600V(登場当時)であるため、箱根湯本駅構内にデッドセクションが設けられている[21]。在来車両では手動で切り替えを行っていたが、「ベルニナ号」では電圧検出継電器という装置を使用し、主回路や補助回路を自動的に切り替えできるようにした[21]。設計上は750Vにも対応している[1][注釈 1]

主電動機東洋電機製造の直流直巻電動機であるTDK-8150-A型[22](端子電圧375V、定格電流285A、出力95kW[3])を採用し、各車両に4基ずつ搭載した[19]。駆動装置は中空軸撓み板継手平行カルダン方式[3]歯数比は78:13=6.0である[1]主制御器東京芝浦電気(当時)[22]のPE36-A型[23]を各車両に搭載した。信頼性と保守の容易さを考えて[19]、1台で4基の電動機の制御を行い(1C4M)、主回路接続は4つの電動機を全て直列に接続する方式(永久4S)とした[19]。制御段数は力行13段・抑速電制13段である[19]

台車は半径30mの急曲線を通過するため、軸間距離1,800mm[19]・車輪径860mm[19]のボックスペデスタル式コイルばね台車[16]である東急車輛製造のTS-330形を採用した[19]

ブレーキ装置

ブレーキ(制動装置)応荷重機構付電空併用電気指令式電磁直通制動のHRD-1形を採用した[3]。応荷重機構は定員の150%まで一定の加減速度が保たれる[19]。基礎ブレーキ装置は1台車2シリンダー方式のクラスプ式(両抱え式)で[19]、制輪子は鋳鉄製である[24]。空転・滑走を自動的に検知する機構を設けており、空転が発生したことを知らせるランプを運転台に設けた[21]。また、空転発生時には速度制限スイッチを押しながら再力行をすることにより、微弱なブレーキがかかった状態となって車輪の回転を抑える再粘着機構を装備した[21]。主抵抗器は屋根上に設置した[18]

これらのブレーキ装置とは別系統の保安ブレーキとして、レール圧着ブレーキを装備した[16]。これは台車の中央下部に直径350mmのシリンダー2個を設置し[21]、運転台からのスイッチ操作により圧縮空気によってカーボランダムシューをレール上面に押し付けるもので[21]、箱根登山鉄道では全車両に装備されている特殊なブレーキである[25]

その他機器

補助電源装置は、偶数番号の車両に7kVAの静止形インバータ (SIV) を搭載した[1]。電動空気圧縮機 (CP) は、すべての車両に1台ずつ搭載した[3]。集電装置(パンタグラフ)は各車両の屋根上に、PT1000S-M形下枠交差式パンタグラフを設置した[1]。編成両端の連結器については住友金属工業のKS22-C形密着連結器を採用した[1]

このほか、箱根登山鉄道では急曲線で撒水を行うため[26]、「ベルニナ号」でも各車両車端部に[21]容量360lの水タンクを設置し[16]、運転士の操作により急曲線で撒水を行うようにした[21]

沿革

1981年3月17日から「ベルニナ」が運用を開始した[5]。運用開始後しばらくは限定された運用に入っており[27]、毎月1日と16日には入生田車庫で検査を行っていた[27]。1982年には鉄道友の会より第25回ブルーリボン賞受賞車両に選定された[7]

「サン・モリッツ号」と同じデザインに変更された「ベルニナII」 レーティッシュ鉄道の車両と同じデザインに変更された「ベルニナII」 登場当時のデザインに戻された「ベルニナII」
「サン・モリッツ号」と同じデザインに変更された「ベルニナII」
レーティッシュ鉄道の車両と同じデザインに変更された「ベルニナII」
登場当時のデザインに戻された「ベルニナII」

この時点では旧型車両の廃車はなかったが、1984年10月15日には1編成が増備されて「ベルニナII」として運用を開始[5]、これに伴い同年11月にはモハ3形113号・115号が運用から外れた[28]1989年「サン・モリッツ号」が導入された後の同年10月から11月にかけて、「ベルニナ」「ベルニナII」ともに「サン・モリッツ号」と同様の塗装デザインに変更された[29]

2002年には「ベルニナII」がレーティッシュ鉄道の車両と同じ塗装デザインに変更され[30]、同年6月22日から新塗装での運行を開始した[30]2004年には「ベルニナ」「ベルニナII」ともに冷房化改造が行われた[31]が、「ベルニナ号」は補助電源装置の容量が小さく、冷房用電源の確保が難しかった[32]。そこで、大容量の電源装置を装備する「サン・モリッツ号」の中間車を連結することによって冷房用の電源を確保することとなり[8]、客室内に床置き式冷房装置を搭載した[31]。また、これと同時に、非貫通構造だった連結面側を「サン・モリッツ号」同様の非常用貫通扉を設置したほか、転換クロスシートは固定クロスシートに変更され[8]、客用扉の室内側上部にドアチャイムとLED式車内案内表示器を設置[31]、室内の配色の変更[31]などの改造が行なわれた。改造された車両は2004年4月24日から運用を開始し[31]、以後「ベルニナ号」は2編成とも3両固定編成として運用されることになった[8]

2008年には箱根登山鉄道が前身の小田原馬車鉄道として創業してから120周年を迎えることを記念して[33]、「ベルニナII」が登場当時の塗装デザインに復元された[33]。同年3月15日より登場当時のデザインでの運用を開始[33]、120周年イベントにも活用された[34]

編成表

凡例
Mc …制御電動車、M …電動車、CON…制御装置、SIV…補助電源装置、CP…電動空気圧縮機、PT…集電装置

2両編成(冷房改造前)

 
形式 クモハ1000 クモハ1000
区分 Mc Mc
車両番号 1002
1004
1001
1003
自重 35t 34.5t
搭載機器 CON,SIV,CP,PT CON,SIV,CP,PT
定員 107 107

3両編成(冷房改造後)

 
形式 クモハ1000 モハ2200 クモハ1000
区分 Mc M Mc
車両番号 1002
1004
2201
2202
1001
1003

脚注

注釈

  1. ^ a b 当初より750Vで設計されている[1]が、登場当時は600Vで使用し、750Vに昇圧されたのは1993年7月である[2]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n 『鉄道ファン』通巻240号 p.64
  2. ^ 『鉄道ジャーナル』通巻324号 p.73
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 『鉄道ジャーナル』通巻170号 p.56
  4. ^ a b c d 『鉄道ファン』通巻240号 pp.64-65間 付図
  5. ^ a b c d 『すばらしい箱根 グラフ100』 p.92
  6. ^ 『ブルーリボン賞'88』 p.29
  7. ^ a b 『ブルーリボン賞'88』 p.28
  8. ^ a b c d 『鉄道ひとり旅ふたり旅』通巻1号 p.32
  9. ^ 『すばらしい箱根 グラフ100』 p.64
  10. ^ 『鉄道ジャーナル』通巻170号 p.54
  11. ^ a b 『すばらしい箱根 グラフ100』 p.72
  12. ^ 『バスジャパン・ハンドブックR・58』 p.29
  13. ^ 『すばらしい箱根 グラフ100』 p.63
  14. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻405号 p.118
  15. ^ a b c d e f 『鉄道ファン』通巻240号 p.58
  16. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 『鉄道ジャーナル』通巻170号 p.55
  17. ^ a b c d e f g 『鉄道ファン』通巻240号 p.61
  18. ^ a b c 『鉄道ファン』通巻240号 p.59
  19. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 『鉄道ファン』通巻240号 p.62
  20. ^ a b c d e f 『鉄道ファン』通巻240号 p.60
  21. ^ a b c d e f g h i j 『鉄道ファン』通巻240号 p.63
  22. ^ a b 『箱根登山鉄道への招待』 p.48
  23. ^ 『箱根登山鉄道への招待』 p.49
  24. ^ 『箱根の山に挑んだ鉄路』 p.34
  25. ^ 『箱根の山に挑んだ鉄路』 pp.32-33
  26. ^ 『箱根の山に挑んだ鉄路』 p.20
  27. ^ a b 『鉄道ピクトリアル』通巻405号 p.119
  28. ^ 『トコトコ登山電車』 見返し
  29. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻532号 p.43
  30. ^ a b 『鉄道ダイヤ情報』通巻221号 p.80
  31. ^ a b c d e 『鉄道ジャーナル』通巻454号 p.94
  32. ^ 『箱根の山に挑んだ鉄路』 p.78
  33. ^ a b c 『鉄道ジャーナル』通巻500号 p.145
  34. ^ 『鉄道ジャーナル』通巻500号 p.146

参考文献

社史

  • 箱根登山鉄道株式会社総務部総務課『すばらしい箱根 グラフ100』箱根登山鉄道、1988年。 

書籍

  • 青田孝『箱根の山に挑んだ鉄路 「天下の険」を越えた技』交通新聞社、2011年。ISBN 978-4330231112 
  • 荒井文治『箱根登山鉄道への招待』(第6版)電気車研究会、1994年(原著1988年)。ISBN 4885480698 
  • 鉄道友の会編『ブルーリボン賞の車両'88』保育社、1988年。ISBN 978-4586507566 
  • 渡辺一夫『トコトコ登山電車』あかね書房、1985年。ISBN 4251063961 
  • 『58 東海自動車・箱根登山バス』BJエディターズ〈バスジャパン・ハンドブックシリーズR〉、2006年。ISBN 4434072730 

雑誌記事

  • 小川浩之「現役車両を分かりやすく解説 箱根登山鉄道の通になる」『鉄道ひとり旅ふたり旅』第1号、枻出版社、2010年5月、31-33頁、ISBN 9784777916238 
  • 岸上明彦「天下の嶮に挑む箱根登山鉄道」『鉄道ピクトリアル』第532号、電気車研究会、1990年9月、41-45頁。 
  • 一寸木正長、生方良雄「箱根登山鉄道1000形登場」『鉄道ファン』第240号、交友社、1981年4月、54-64頁。 
  • 西口靖宏、岸上明彦「箱根登山鉄道の車両と運転」『鉄道ピクトリアル』第405号、電気車研究会、1982年6月、117-119頁。 
  • 箱根登山鉄道(株)電車部技術課「箱根登山1000形ベルニナ号」『鉄道ジャーナル』第170号、鉄道ジャーナル社、1981年4月、54-57頁。 
  • 三浦衛「天下の険を攀じ登る 箱根登山鉄道 箱根湯本-強羅間3両編成運転化で輸送力増強」『鉄道ジャーナル』第324号、鉄道ジャーナル社、1993年10月、70-77頁。 
  • 「DJ NEWS FILE」『鉄道ダイヤ情報』第221号、交通新聞社、2002年9月、74-83頁。 
  • 「RAILWAY TOPICS」『鉄道ジャーナル』第454号、鉄道ジャーナル社、2004年8月、90-95頁。 
  • 「RAILWAY TOPICS」『鉄道ジャーナル』第500号、鉄道ジャーナル社、2008年6月、144-149頁。 

関連項目

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