「著作権法の判例一覧 (欧州)」の版間の差分
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SNS曖昧さ回避。→対象範囲: 記事内の初出に[[tlf|Visible anchor}}=「欧州司法裁判所」、29件に縦棒のリンク({{:}}著作権法の判例一覧 (欧州){{#}}欧州司法裁判所{{|}}欧州司法裁判所)。 |
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著作権保護を主たる目的とはしない一般的なEU法令のうち、著作権にも一部関連しうるものがあり、こうした法令についても本項で取り扱う。例えば[[AI法]] (別称: AI規則) は[[人工知能]] (AI) の包括的な規制法であり、AIモデルの開発に用いられる学習データに他者の著作物が含まれることがあることから、著作権保護とも関連する。 |
著作権保護を主たる目的とはしない一般的なEU法令のうち、著作権にも一部関連しうるものがあり、こうした法令についても本項で取り扱う。例えば[[AI法]] (別称: AI規則) は[[人工知能]] (AI) の包括的な規制法であり、AIモデルの開発に用いられる学習データに他者の著作物が含まれることがあることから、著作権保護とも関連する。 |
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EU加盟各国は発令された各種著作権指令に基づいて、国内の著作権法やその関連法を改正する、あるいは新法を成立させるなどして、指令の内容に則した法整備を行う (これを[[国内法化]]と呼ぶ){{R|EULaw-Shoji|CAA2023}}。したがってEU域内で[[著作権侵害]]が起こると、多くはEU加盟各国の裁判所に提訴され、国内著作権法に基づいて審理される。しかしEU指令の条文解釈に問題がおよぶ場合は、国内裁判所がいったん審理を中断させて、[[欧州司法裁判所]] (CJEU) などに解釈を付託する{{仮リンク|先決裁定|en|Preliminary ruling}} ({{Lang-en-short|preliminary ruling procedure}}) を求めることがある{{R|PrelimRuling-KB}}{{Sfn|佐藤|2017|p=193}}。こうして欧州司法裁判所などから下された先決裁定の判決は、当事国以外のEU加盟国の判決にも後々影響をおよぼすこととなる。このような制度背景から、EU加盟国の判例をまとめて本項で取り上げる。 |
EU加盟各国は発令された各種著作権指令に基づいて、国内の著作権法やその関連法を改正する、あるいは新法を成立させるなどして、指令の内容に則した法整備を行う (これを[[国内法化]]と呼ぶ){{R|EULaw-Shoji|CAA2023}}。したがってEU域内で[[著作権侵害]]が起こると、多くはEU加盟各国の裁判所に提訴され、国内著作権法に基づいて審理される。しかしEU指令の条文解釈に問題がおよぶ場合は、国内裁判所がいったん審理を中断させて、[[欧州司法裁判所]] ({{Visible anchor|CJEU|欧州司法裁判所}}) などに解釈を付託する{{仮リンク|先決裁定|en|Preliminary ruling}} ({{Lang-en-short|preliminary ruling procedure}}) を求めることがある{{R|PrelimRuling-KB}}{{Sfn|佐藤|2017|p=193}}。こうして欧州司法裁判所などから下された先決裁定の判決は、当事国以外のEU加盟国の判決にも後々影響をおよぼすこととなる。このような制度背景から、EU加盟国の判例をまとめて本項で取り上げる。 |
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なお、2020年12月31日をもってイギリスはEUから完全に離脱しており、2021年1月1日以降の欧州司法裁判所の判決はイギリスに全く法的拘束力がおよばなくなり、またそれ以前の判決も後にイギリス国内で覆される可能性がある{{Sfn|EUIPO|2024|p=58}}。 |
なお、2020年12月31日をもってイギリスはEUから完全に離脱しており、2021年1月1日以降の欧州司法裁判所の判決はイギリスに全く法的拘束力がおよばなくなり、またそれ以前の判決も後にイギリス国内で覆される可能性がある{{Sfn|EUIPO|2024|p=58}}。 |
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事件の英語名をクリックすると、当ページ内の争点別詳細解説のセクションに遷移する。事件の英語名は文献によって表記揺れがあり{{Efn2|英名では「株式会社」に相当する表記が省略されたり、複数の原告・被告がいる場合に一部省略されるなど、表記揺れが多数存在する。一審では基本的には「原告 v 被告」の順で表記されるが、被告が控訴・上告すると「被告 v 原告」に事件名が置き換わる。このような場合でも、下表では「原告 v 被告」で統一表記している。}}、日本語の文献でもそのまま英語表記することも多く、当表に記述した英語・日本語の事件名は参考情報の扱いとされたい。 |
事件の英語名をクリックすると、当ページ内の争点別詳細解説のセクションに遷移する。事件の英語名は文献によって表記揺れがあり{{Efn2|英名では「株式会社」に相当する表記が省略されたり、複数の原告・被告がいる場合に一部省略されるなど、表記揺れが多数存在する。一審では基本的には「原告 v 被告」の順で表記されるが、被告が控訴・上告すると「被告 v 原告」に事件名が置き換わる。このような場合でも、下表では「原告 v 被告」で統一表記している。}}、日本語の文献でもそのまま英語表記することも多く、当表に記述した英語・日本語の事件名は参考情報の扱いとされたい。 |
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国内訴訟が欧州司法裁判所 (CJEU) に先決裁定が付託された場合、あるいは[[欧州評議会]]加盟国を対象とした[[欧州人権裁判所]] (ECtHR) に持ち込まれた場合は、国内裁判所の欄に {{Arrow|RU|12px}} (右上矢印) の記号を付記する。判決年、および事件番号は欧州司法裁判所ないし欧州人権裁判所を優先して表記する。デフォルトでは判決年月日の古い順に並べている。事件番号は欧州司法裁判所の判決は[[EUR-Lex]]の採番体系を記載している。その他、欧州人権裁判所や国内裁判所はそれぞれ独自の採番体系を用いている。 |
国内訴訟が[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]] (CJEU) に先決裁定が付託された場合、あるいは[[欧州評議会]]加盟国を対象とした[[欧州人権裁判所]] (ECtHR) に持ち込まれた場合は、国内裁判所の欄に {{Arrow|RU|12px}} (右上矢印) の記号を付記する。判決年、および事件番号は欧州司法裁判所ないし欧州人権裁判所を優先して表記する。デフォルトでは判決年月日の古い順に並べている。事件番号は欧州司法裁判所の判決は[[EUR-Lex]]の採番体系を記載している。その他、欧州人権裁判所や国内裁判所はそれぞれ独自の採番体系を用いている。 |
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:; {{Visible anchor|エッフェル塔のライトアップ事件}} (フランス 1992年){{Sfn|Triet|2009|p=258}} |
:; {{Visible anchor|エッフェル塔のライトアップ事件}} (フランス 1992年){{Sfn|Triet|2009|p=258}} |
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: [[エッフェル塔]]のライトアップの著作物性が問われ、[[破毀院#フランス|破毀院]] (フランス最高裁) は1992年、著作権保護の対象であると認めた (Cour de cassation, Chambre civile 1, du 3 mars 1992, {{Légifrance|url=https://www.legifrance.gouv.fr/juri/id/JURITEXT000007140663/|texte=90-18.081}}){{Sfn|Triet|2009|p=258}}。判決文によると、エッフェル塔建造100周年記念行事でエッフェル塔がライトアップされ、その風景を写真に収めた者が絵葉書にして販売したことから、事件へと発展した。エッフェル塔の公式ホームページ上では、夜間撮影であっても私的目的であれば[[SNS]]上でのシェアも問題ないとしている。その上で、プロによる撮影時はエッフェル塔管理者からの事前許諾取得が必要としている{{R|Eiffel-OfficialQA}}。 |
: [[エッフェル塔]]のライトアップの著作物性が問われ、[[破毀院#フランス|破毀院]] (フランス最高裁) は1992年、著作権保護の対象であると認めた (Cour de cassation, Chambre civile 1, du 3 mars 1992, {{Légifrance|url=https://www.legifrance.gouv.fr/juri/id/JURITEXT000007140663/|texte=90-18.081}}){{Sfn|Triet|2009|p=258}}。判決文によると、エッフェル塔建造100周年記念行事でエッフェル塔がライトアップされ、その風景を写真に収めた者が絵葉書にして販売したことから、事件へと発展した。エッフェル塔の公式ホームページ上では、夜間撮影であっても私的目的であれば[[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|SNS]]上でのシェアも問題ないとしている。その上で、プロによる撮影時はエッフェル塔管理者からの事前許諾取得が必要としている{{R|Eiffel-OfficialQA}}。 |
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:; {{Visible anchor|Levola対Smilde食品事件}} (オランダ、CJEU 2018年){{Sfn|EUIPO|2024|p=17}}{{R|IPKat-Levola}} |
:; {{Visible anchor|Levola対Smilde食品事件}} (オランダ、CJEU 2018年){{Sfn|EUIPO|2024|p=17}}{{R|IPKat-Levola}} |
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: CJEU事件名: ''Levola Hengelo BV v Smilde Foods BV'', Judgment of the Court (Grand Chamber), 13 November 2018. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62017CJ0310 C-310/17] |
: CJEU事件名: ''Levola Hengelo BV v Smilde Foods BV'', Judgment of the Court (Grand Chamber), 13 November 2018. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62017CJ0310 C-310/17] |
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: 通称「Levola Hengelo判決」{{R|IPKat-Levola}}。食品の味は、著作権の国際基本条約である[[ベルヌ条約]]の[[:s:昭和五十年条約第四号#2条|第2条第1項]] (著作物の定義)、および情報社会指令に基づいて著作権保護の対象となるうるのかが争点となった事件。クリームチーズをベースとしたフレッシュ・ハーブ入りの[[スプレッド (食品)|スプレッド]] (パンに塗る加工食品で商品名は "{{Nl|Heks'nkaas}}") が訴訟対象となった{{Sfn|EUIPO|2024|p=17}}。 |
: 通称「Levola Hengelo判決」{{R|IPKat-Levola}}。食品の味は、著作権の国際基本条約である[[ベルヌ条約]]の[[:s:昭和五十年条約第四号#2条|第2条第1項]] (著作物の定義)、および情報社会指令に基づいて著作権保護の対象となるうるのかが争点となった事件。クリームチーズをベースとしたフレッシュ・ハーブ入りの[[スプレッド (食品)|スプレッド]] (パンに塗る加工食品で商品名は "{{Nl|Heks'nkaas}}") が訴訟対象となった{{Sfn|EUIPO|2024|p=17}}。 |
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: {{Nl|Heks'nkaas}}は2007年に開発され、その後知的財産権が食品企業Levola社に移転している。一方、Smilde食品は2014年1月より "{{Nl|Witte Wievenkaas}}" の商品名でスーパーマーケットチェーン向けに商品を提供開始したことから、Levolaが味覚の著作権侵害でSmildeを提訴した。{{仮リンク|控訴裁判所 (オランダ)|label=オランダ控訴裁判所|nl|Gerechtshof (Nederland)}}<!-- 控訴審は4か所あるがどこかは不明 -->から欧州司法裁判所に付託された{{R|Levola-Wiggin}}。 |
: {{Nl|Heks'nkaas}}は2007年に開発され、その後知的財産権が食品企業Levola社に移転している。一方、Smilde食品は2014年1月より "{{Nl|Witte Wievenkaas}}" の商品名でスーパーマーケットチェーン向けに商品を提供開始したことから、Levolaが味覚の著作権侵害でSmildeを提訴した。{{仮リンク|控訴裁判所 (オランダ)|label=オランダ控訴裁判所|nl|Gerechtshof (Nederland)}}<!-- 控訴審は4か所あるがどこかは不明 -->から[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]に付託された{{R|Levola-Wiggin}}。 |
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: [[アイディア・表現二分論]]のリーディングケースとして知られる2009年のInfopaq判決<!-- ★転記後にアンカー要挿入 -->では、著作者の「創作性」が「表現」された部分にのみが著作権保護の対象となると示されている。そしてその特徴が「明確かつ客観的」に知覚できることを法的保護の要件と位置づけたのが2018年欧州司法裁判所のLevola判決である。食品の味覚は個々人の年齢や食の嗜好、日々の食生活、食事する空間やシーンなどにも影響されることから、この「明確かつ客観的」な要件を満たしえないとして、原告の主張を退けた{{Sfn|EUIPO|2024|p=17}}。 |
: [[アイディア・表現二分論]]のリーディングケースとして知られる2009年のInfopaq判決<!-- ★転記後にアンカー要挿入 -->では、著作者の「創作性」が「表現」された部分にのみが著作権保護の対象となると示されている。そしてその特徴が「明確かつ客観的」に知覚できることを法的保護の要件と位置づけたのが2018年欧州司法裁判所のLevola判決である。食品の味覚は個々人の年齢や食の嗜好、日々の食生活、食事する空間やシーンなどにも影響されることから、この「明確かつ客観的」な要件を満たしえないとして、原告の主張を退けた{{Sfn|EUIPO|2024|p=17}}。 |
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| image1 = [https://www.novagraaf.com/en/insights/g-star-clothing-designs-not-covered-copyright-protection G-StarとCofemelのデザイン対比] - www.sgcr.pt および www.aippi.org からの転載 |
| image1 = [https://www.novagraaf.com/en/insights/g-star-clothing-designs-not-covered-copyright-protection G-StarとCofemelのデザイン対比] - www.sgcr.pt および www.aippi.org からの転載 |
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: 通称「Cofemel判決」{{Sfn|EUIPO|2024|p=15}}{{Sfn|小泉|2022|p=45 (1)}}。アパレルメーカー同士の争いであり、{{仮リンク|欧州共同体意匠指令|en|Directive on the legal protection of designs}} (Directive [https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/1998/71/oj 98/71/EC]) 第17条を始めとする意匠デザインと、[[情報社会指令]]などの著作権で二重保護 (重畳的保護) されうるのかが問われた事件である{{Sfn|EUIPO|2024|p=16}}{{Sfn|小泉|2022|p=49 (5)}}。G-Star社は "Arc" の商標名でジーンズを、また "Rowdy" の商標名でスウェットシャツとTシャツを製造販売していた{{Sfn|小泉|2022|p=46 (2)}}。Cofemel社の "TIFFOSI" ブランド製品がG-Starのデザインと酷似しているとして、G-Starがポルトガルの第一審裁判所に著作権侵害および不正競争法違反で提訴した{{Sfn|EUIPO|2024|p=16}}{{Sfn|小泉|2022|p=46 (2)}}。一審、リスボンの控訴審ともに原告G-Starの訴えを認めるも、被告が上告している{{Sfn|小泉|2022|pp=46 (2)–47 (3)}}。{{仮リンク|最高裁判所 (ポルトガル)|label=ポルトガル最高裁|en|Supreme Court of Justice (Portugal)|pt|Supremo Tribunal de Justiça (Portugal)}} ({{Pt|Supremo Tribunal de Justiça}}) は[[著作権法 (ポルトガル)|ポルトガル著作権法]] ({{Pt|Código dos Direitos de Autor e dos Direitos Conexos}}、略称: CDADC)<!-- 英語版・ポルトガル語版ともページなし --> 第2条第1項(i)号で応用美術や産業デザインなどを保護対象として列記しているものの、創作性がどの程度求められるのかは過去の国内判例や学説でも一致した見解がないことから、欧州司法裁判所に先決裁定を付託した{{Sfn|小泉|2022|pp=47 (3)–48 (4)}}。 |
: 通称「Cofemel判決」{{Sfn|EUIPO|2024|p=15}}{{Sfn|小泉|2022|p=45 (1)}}。アパレルメーカー同士の争いであり、{{仮リンク|欧州共同体意匠指令|en|Directive on the legal protection of designs}} (Directive [https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/1998/71/oj 98/71/EC]) 第17条を始めとする意匠デザインと、[[情報社会指令]]などの著作権で二重保護 (重畳的保護) されうるのかが問われた事件である{{Sfn|EUIPO|2024|p=16}}{{Sfn|小泉|2022|p=49 (5)}}。G-Star社は "Arc" の商標名でジーンズを、また "Rowdy" の商標名でスウェットシャツとTシャツを製造販売していた{{Sfn|小泉|2022|p=46 (2)}}。Cofemel社の "TIFFOSI" ブランド製品がG-Starのデザインと酷似しているとして、G-Starがポルトガルの第一審裁判所に著作権侵害および不正競争法違反で提訴した{{Sfn|EUIPO|2024|p=16}}{{Sfn|小泉|2022|p=46 (2)}}。一審、リスボンの控訴審ともに原告G-Starの訴えを認めるも、被告が上告している{{Sfn|小泉|2022|pp=46 (2)–47 (3)}}。{{仮リンク|最高裁判所 (ポルトガル)|label=ポルトガル最高裁|en|Supreme Court of Justice (Portugal)|pt|Supremo Tribunal de Justiça (Portugal)}} ({{Pt|Supremo Tribunal de Justiça}}) は[[著作権法 (ポルトガル)|ポルトガル著作権法]] ({{Pt|Código dos Direitos de Autor e dos Direitos Conexos}}、略称: CDADC)<!-- 英語版・ポルトガル語版ともページなし --> 第2条第1項(i)号で応用美術や産業デザインなどを保護対象として列記しているものの、創作性がどの程度求められるのかは過去の国内判例や学説でも一致した見解がないことから、[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]に先決裁定を付託した{{Sfn|小泉|2022|pp=47 (3)–48 (4)}}。 |
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: 欧州司法裁判所はEU著作権法における「著作物」は著作者本人の知的創造性によって表現されていること、そしてその特徴が明確かつ「客観的」に知覚できることを法的保護の要件と位置づけた (前年の味覚を巡る [[#Levola対Smilde食品事件]]判決を踏襲)。またEU法では意匠と著作権の保護は異なる法制度であるものの、二律背反ではないとも示した。一方で審美性は個々人の「主観」に基づくものであり、本件では服飾デザインが知的創造性や創作的な選択の組み合わせの要件を十分に満たしているとは言い難いとした{{Sfn|EUIPO|2024|p=16}}。換言すると、実用性という客観的な目的を超えた主観的な審美性の観点を情報社会指令では保護要件として認めていない{{Sfn|小泉|2022|pp=45 (1)–46 (2)}}。 |
: 欧州司法裁判所はEU著作権法における「著作物」は著作者本人の知的創造性によって表現されていること、そしてその特徴が明確かつ「客観的」に知覚できることを法的保護の要件と位置づけた (前年の味覚を巡る [[#Levola対Smilde食品事件]]判決を踏襲)。またEU法では意匠と著作権の保護は異なる法制度であるものの、二律背反ではないとも示した。一方で審美性は個々人の「主観」に基づくものであり、本件では服飾デザインが知的創造性や創作的な選択の組み合わせの要件を十分に満たしているとは言い難いとした{{Sfn|EUIPO|2024|p=16}}。換言すると、実用性という客観的な目的を超えた主観的な審美性の観点を情報社会指令では保護要件として認めていない{{Sfn|小泉|2022|pp=45 (1)–46 (2)}}。 |
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: 先例となる2019年の[[#G-Star対Cofemel事件|#Cofemel判決]]を踏襲した判例。情報社会指令の第2条から第5条 (著作者の排他的権利) が折り畳み自転車のような実用品にも適用されるかが問われた。イギリス発祥[[ブロンプトン・バイシクル]] (社名: SI and Brompton Bicycle、ブランド名: {{En|the Brompton bicycle}}) は折り畳み自転車を販売していた。この商品の特徴は折り畳み、展開・走行、そして駐輪の3モードに切り替えられる点にある。かつては特許を取得するも特許期間が過ぎて失効していた{{Sfn|EUIPO|2024|p=15}}。一方、韓国のGet2Get社は {{En|the Chedech bicycle}} (読み: チェデックまたはチェデク{{R|Chedech-Korea2024}}) を販売しており、3モードの特徴が Brompton bicycle と極めて似ていたことから、ブロンプトンがベルギー・[[リエージュ]]の{{仮リンク|商務裁判所 (ベルギー)|label=商務裁判所|fr|Tribunal de l'entreprise (Belgique)}} ({{Fr|Tribunal de l'entreprise de Liège}}) に著作権侵害と非金銭的損害を併せて賠償を求めて訴訟を提起した{{Sfn|EUIPO|2024|p=15}}。 |
: 先例となる2019年の[[#G-Star対Cofemel事件|#Cofemel判決]]を踏襲した判例。情報社会指令の第2条から第5条 (著作者の排他的権利) が折り畳み自転車のような実用品にも適用されるかが問われた。イギリス発祥[[ブロンプトン・バイシクル]] (社名: SI and Brompton Bicycle、ブランド名: {{En|the Brompton bicycle}}) は折り畳み自転車を販売していた。この商品の特徴は折り畳み、展開・走行、そして駐輪の3モードに切り替えられる点にある。かつては特許を取得するも特許期間が過ぎて失効していた{{Sfn|EUIPO|2024|p=15}}。一方、韓国のGet2Get社は {{En|the Chedech bicycle}} (読み: チェデックまたはチェデク{{R|Chedech-Korea2024}}) を販売しており、3モードの特徴が Brompton bicycle と極めて似ていたことから、ブロンプトンがベルギー・[[リエージュ]]の{{仮リンク|商務裁判所 (ベルギー)|label=商務裁判所|fr|Tribunal de l'entreprise (Belgique)}} ({{Fr|Tribunal de l'entreprise de Liège}}) に著作権侵害と非金銭的損害を併せて賠償を求めて訴訟を提起した{{Sfn|EUIPO|2024|p=15}}。 |
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: ベルギー国内では、有形に表現されて創作性が発揮されていれば、自転車のような実用品であっても著作権保護の対象となると判示された。しかし技術的な結果として形作られている実用品にまで著作物性は認められるのか、解釈を欧州司法裁判所に付託した。欧州司法裁判所は個性が投映されていて、かつ自由で創作的な選択の組み合わせが表現されていれば、それが技術的な制約を受ける実用品であっても著作権で保護されると判示した{{Sfn|EUIPO|2024|p=15}}。 |
: ベルギー国内では、有形に表現されて創作性が発揮されていれば、自転車のような実用品であっても著作権保護の対象となると判示された。しかし技術的な結果として形作られている実用品にまで著作物性は認められるのか、解釈を[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]に付託した。欧州司法裁判所は個性が投映されていて、かつ自由で創作的な選択の組み合わせが表現されていれば、それが技術的な制約を受ける実用品であっても著作権で保護されると判示した{{Sfn|EUIPO|2024|p=15}}。 |
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:; {{Visible anchor|PRO対欧州委員会事件}} (EU一般裁判所 2021年、CJEU 2024年){{Sfn|EUIPO|2024|p=13}} |
:; {{Visible anchor|PRO対欧州委員会事件}} (EU一般裁判所 2021年、CJEU 2024年){{Sfn|EUIPO|2024|p=13}} |
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: EU一般裁判所事件名: ''Public.Resource.Org & Right to Know v European Commission'', Judgment of EU General Court (Fifth Chamber), 14 July 2021. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62019TJ0185&qid=1734753097053 T-185/19] |
: EU一般裁判所事件名: ''Public.Resource.Org & Right to Know v European Commission'', Judgment of EU General Court (Fifth Chamber), 14 July 2021. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62019TJ0185&qid=1734753097053 T-185/19] |
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: CJEU事件名: ''Public.Resource.Org, Inc. and Right to Know CLG v European Commission'', Judgment of the Court (Grand Chamber), 5 March 2024. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62021CJ0588_RES&qid=1734753849584 C-588/21 P] |
: CJEU事件名: ''Public.Resource.Org, Inc. and Right to Know CLG v European Commission'', Judgment of the Court (Grand Chamber), 5 March 2024. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62021CJ0588_RES&qid=1734753849584 C-588/21 P] |
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: [[第一審裁判所 (EU)|EU一般裁判所]]に提起された訴訟を欧州司法裁判所が覆しているため、両判決を取り上げる。米国に拠点を置く非営利団体の {{仮リンク|Public.Resource.Org|en|Public.Resource.Org}} (略称: PRO) と アイルランドの情報公開促進を目指して活動する非営利団体 [[Right to Know CLG]]<!-- 2024年12月現在、英語版の[[:en:Right To Know]]は全く別物団体にリンクするので仮リンク化不可 -->{{R|R2K-About}}が、[[欧州標準化委員会]] (略称: CEN) の策定する欧州規格4点に関連する文書の情報公開を求めて欧州委員会に請求した事件である。情報公開などを定めた2001年の規則 (Regulation (EC) No [https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2001/1049/oj 1049/2001])<!-- 英語版ページなし。日本語定訳もなし --> 第4条第2項では、公共の利益に反しない限りにおいて、個人または法人の商業上の利益保護の観点から知的財産の内容開示を拒否できる。これを根拠に欧州委員会は著作権保護下にあるとして、CENの欧州規格文書の開示を拒んだことから、原告の2団体がEU一般裁判所に提訴した{{Sfn|EUIPO|2024|p=13}}。 |
: [[第一審裁判所 (EU)|EU一般裁判所]]に提起された訴訟を[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]が覆しているため、両判決を取り上げる。米国に拠点を置く非営利団体の {{仮リンク|Public.Resource.Org|en|Public.Resource.Org}} (略称: PRO) と アイルランドの情報公開促進を目指して活動する非営利団体 [[Right to Know CLG]]<!-- 2024年12月現在、英語版の[[:en:Right To Know]]は全く別物団体にリンクするので仮リンク化不可 -->{{R|R2K-About}}が、[[欧州標準化委員会]] (略称: CEN) の策定する欧州規格4点に関連する文書の情報公開を求めて欧州委員会に請求した事件である。情報公開などを定めた2001年の規則 (Regulation (EC) No [https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2001/1049/oj 1049/2001])<!-- 英語版ページなし。日本語定訳もなし --> 第4条第2項では、公共の利益に反しない限りにおいて、個人または法人の商業上の利益保護の観点から知的財産の内容開示を拒否できる。これを根拠に欧州委員会は著作権保護下にあるとして、CENの欧州規格文書の開示を拒んだことから、原告の2団体がEU一般裁判所に提訴した{{Sfn|EUIPO|2024|p=13}}。 |
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: EU一般裁判所は、開示請求の対象となっている文書に著作権が発生しているか (つまり著作物性の要件を満たしているか) 欧州委員会に判断権限があるとした。原告2団体は、CENが規格を策定するにあたって自由で創作的な情報の選択・組み合わせを行っていない (つまり創作性に欠けて著作物性はない) との立証が不十分であった。欧州規格のように立法府が一定の前提を示している場合、規格文書の策定には創作性に一定の制約がかかるが、このような特別事情についても原告2団体は言及していない。また、欧州規格制度の円滑運用という公共の利益が、規格文書の情報開示利益に勝る。これらを勘案し、EU一般裁判所はCENの規格文書に著作物性を認めた{{Sfn|EUIPO|2024|p=13}}。 |
: EU一般裁判所は、開示請求の対象となっている文書に著作権が発生しているか (つまり著作物性の要件を満たしているか) 欧州委員会に判断権限があるとした。原告2団体は、CENが規格を策定するにあたって自由で創作的な情報の選択・組み合わせを行っていない (つまり創作性に欠けて著作物性はない) との立証が不十分であった。欧州規格のように立法府が一定の前提を示している場合、規格文書の策定には創作性に一定の制約がかかるが、このような特別事情についても原告2団体は言及していない。また、欧州規格制度の円滑運用という公共の利益が、規格文書の情報開示利益に勝る。これらを勘案し、EU一般裁判所はCENの規格文書に著作物性を認めた{{Sfn|EUIPO|2024|p=13}}。 |
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: しかし欧州司法裁判所がこれを覆し、4文書の情報公開請求を認めた。欧州規格はEU法令の一部と見なされたためである。この判決により、将来的にEU国内規格の文書についても有料販売されていたものが無料公開に変更される可能性がある{{R|PRO-MF2024}}。 |
: しかし[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]がこれを覆し、4文書の情報公開請求を認めた。欧州規格はEU法令の一部と見なされたためである。この判決により、将来的にEU国内規格の文書についても有料販売されていたものが無料公開に変更される可能性がある{{R|PRO-MF2024}}。 |
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=== コンピューター・プログラム === |
=== コンピューター・プログラム === |
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: CJEU事件名: ''CV-Online Latvia v Melons'', Judgment of the Court (Fifth Chamber), 3 June 2021. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62019CA0762&qid=1734754990159 C-762/19] |
: CJEU事件名: ''CV-Online Latvia v Melons'', Judgment of the Court (Fifth Chamber), 3 June 2021. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62019CA0762&qid=1734754990159 C-762/19] |
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: {{仮リンク|データベース指令|en|Database Directive}} (Directive 96/9/EC) 第7条の解釈を巡る事件。CV-Online はラトビアで最も普及している求人ポータルサイトを運営しており、職種や求人掲載日などのキーワードで絞り込める「メタタグ」で分類された求人データベースを有していた。同じくラトビア企業のMelonsは www.kurdarbs.lv のドメイン名で検索エンジンを運営していた。この検索エンジンは、CV-Onlineを含む他社サイト上の求人情報をポータル集約する機能を有していた。この機能により、検索エンジンのユーザーは各社求人を横比較でき、詳細はハイパーリンクを辿って各社求人広告元サイトのページにアクセスできた。CV-Online側は、自社データベースの相当割合をMelonsがデータ抽出 ({{En|extraction}}) の上で再利用 ({{En|re-utilisation}}) しているとして、{{仮リンク|データベース指令|en|Database Directive}} (Directive 96/9/EC) 第7条のスイ・ジェネリス権侵害を主張した。ラトビア国内の一審では原告CV-Onlineの主張を認めたが、二審で欧州司法裁判所に先決裁定を付託することとなった。付託されたのは、(a) ハイパーリンクがデータの「再利用」に該当するのか、(b) メタタグのデータ利用がデータベースからの「抽出」に該当するのかの2点である{{Sfn|EUIPO|2024|p=14}}。 |
: {{仮リンク|データベース指令|en|Database Directive}} (Directive 96/9/EC) 第7条の解釈を巡る事件。CV-Online はラトビアで最も普及している求人ポータルサイトを運営しており、職種や求人掲載日などのキーワードで絞り込める「メタタグ」で分類された求人データベースを有していた。同じくラトビア企業のMelonsは www.kurdarbs.lv のドメイン名で検索エンジンを運営していた。この検索エンジンは、CV-Onlineを含む他社サイト上の求人情報をポータル集約する機能を有していた。この機能により、検索エンジンのユーザーは各社求人を横比較でき、詳細はハイパーリンクを辿って各社求人広告元サイトのページにアクセスできた。CV-Online側は、自社データベースの相当割合をMelonsがデータ抽出 ({{En|extraction}}) の上で再利用 ({{En|re-utilisation}}) しているとして、{{仮リンク|データベース指令|en|Database Directive}} (Directive 96/9/EC) 第7条のスイ・ジェネリス権侵害を主張した。ラトビア国内の一審では原告CV-Onlineの主張を認めたが、二審で[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]に先決裁定を付託することとなった。付託されたのは、(a) ハイパーリンクがデータの「再利用」に該当するのか、(b) メタタグのデータ利用がデータベースからの「抽出」に該当するのかの2点である{{Sfn|EUIPO|2024|p=14}}。 |
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: 欧州司法裁判所はスイ・ジェネリス権は「実質的投資」の有無で判断されるとした上で、本件ではこの要件を満たしていると判定した。また本件に限らず一般論として、他者による再利用や抽出によってデータベースの投資回収に必要な収益を奪う行為は権利侵害に該当するとして、再利用や抽出の定義を広く捉えるべきであると言及している。データーベースの開発者、競合他社やユーザー間の利害バランスを考慮するにあたり、再利用や抽出が実質的投資に与えうる影響が主たる判断材料になるともしている{{Sfn|EUIPO|2024|p=14}}。 |
: 欧州司法裁判所はスイ・ジェネリス権は「実質的投資」の有無で判断されるとした上で、本件ではこの要件を満たしていると判定した。また本件に限らず一般論として、他者による再利用や抽出によってデータベースの投資回収に必要な収益を奪う行為は権利侵害に該当するとして、再利用や抽出の定義を広く捉えるべきであると言及している。データーベースの開発者、競合他社やユーザー間の利害バランスを考慮するにあたり、再利用や抽出が実質的投資に与えうる影響が主たる判断材料になるともしている{{Sfn|EUIPO|2024|p=14}}。 |
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: 通称「Pelham判決」{{R|Pelham-Kluwer}}。楽曲から短い部分をサンプルとして他に流用したことで著作権侵害が問われた事件。情報社会指令 第2条(c)号の複製権、同指令 第5条第3項(d)号の引用の要件、{{仮リンク|貸与権指令|en|Rental Directive}} (2006/115/EC) 第9第1項(b)号のレコード製作者の頒布権、および[[欧州連合基本権憲章]]に関する解釈が争点となった。原告はドイツの[[テクノポップ]]系バンド・[[クラフトヴェルク]] ({{De|Kraftwerk}}) のメンバー、被告は音楽プロデューサーでラッパーの{{仮リンク|モーゼス・ペラム|en|Moses Pelham|de|Moses Pelham}} ({{De|Moses Pelham}}) である。原告の楽曲 "''{{De|Metall auf Metall}}''" から約2秒分のリズムをぺラムが抽出し、それをぺラムがプロデュースする{{仮リンク|サブリナ・セトリューア|en|Sabrina Setlur|de|Sabrina Setlur}} ({{De|Sabrina Setlur}}、旧名: Schwester S) の歌唱する楽曲 "''{{De|Nur Mir}}''" 内で何度もループ再生利用した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=89–90}}{{R|Pelham-Kluwer}}。 |
: 通称「Pelham判決」{{R|Pelham-Kluwer}}。楽曲から短い部分をサンプルとして他に流用したことで著作権侵害が問われた事件。情報社会指令 第2条(c)号の複製権、同指令 第5条第3項(d)号の引用の要件、{{仮リンク|貸与権指令|en|Rental Directive}} (2006/115/EC) 第9第1項(b)号のレコード製作者の頒布権、および[[欧州連合基本権憲章]]に関する解釈が争点となった。原告はドイツの[[テクノポップ]]系バンド・[[クラフトヴェルク]] ({{De|Kraftwerk}}) のメンバー、被告は音楽プロデューサーでラッパーの{{仮リンク|モーゼス・ペラム|en|Moses Pelham|de|Moses Pelham}} ({{De|Moses Pelham}}) である。原告の楽曲 "''{{De|Metall auf Metall}}''" から約2秒分のリズムをぺラムが抽出し、それをぺラムがプロデュースする{{仮リンク|サブリナ・セトリューア|en|Sabrina Setlur|de|Sabrina Setlur}} ({{De|Sabrina Setlur}}、旧名: Schwester S) の歌唱する楽曲 "''{{De|Nur Mir}}''" 内で何度もループ再生利用した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=89–90}}{{R|Pelham-Kluwer}}。 |
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: 欧州司法裁判所はサンプル流用一般は複製権侵害に当たりうるとした上で、本件で流用された箇所が一般聴者からは原曲からの流用だと認識不能であり、このような場合は欧州連合基本権憲章で保障される表現の自由の範疇内だとして著作権侵害に当たらないとした。また貸与権指令で規定する複製は他者著作物から相当量を用いており、海賊版に相当するため損害賠償請求の対象となるが、サンプルはこの意味での複製とは別概念だとして峻別した。新たな著作物の著作者が原著作物との「対話」({{En|dialogue}}) を意図している場合、サンプル利用はむしろ引用の一類型と見なせるとした{{Sfn|EUIPO|2024|pp=89–90}}。 |
: [[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]はサンプル流用一般は複製権侵害に当たりうるとした上で、本件で流用された箇所が一般聴者からは原曲からの流用だと認識不能であり、このような場合は欧州連合基本権憲章で保障される表現の自由の範疇内だとして著作権侵害に当たらないとした。また貸与権指令で規定する複製は他者著作物から相当量を用いており、海賊版に相当するため損害賠償請求の対象となるが、サンプルはこの意味での複製とは別概念だとして峻別した。新たな著作物の著作者が原著作物との「対話」({{En|dialogue}}) を意図している場合、サンプル利用はむしろ引用の一類型と見なせるとした{{Sfn|EUIPO|2024|pp=89–90}}。 |
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:; {{Visible anchor|トップ・システム対ベルギー政府事件}} (ベルギー、CJEU 2021年){{Sfn|EUIPO|2024|pp=126–127}} |
:; {{Visible anchor|トップ・システム対ベルギー政府事件}} (ベルギー、CJEU 2021年){{Sfn|EUIPO|2024|pp=126–127}} |
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: ベルギーのIT企業トップ・システム社 ({{En|Top System SA}}) が開発したシステムが{{仮リンク|ベルギー連邦人事組織庁|nl|SELOR|fr|Travaillerpour.be}} (旧略称: SELOR、現: {{Lang-nl|Werkenvoor.be}} または {{Lang-fr-short|Travaillerpour.be}}) に導入されており、両者間でユーザーライセンス契約が締結されていた。SELORがこのシステムを[[逆コンパイル]] (別称: デコンパイル、人間には判読不能な[[機械語]]で記述されたプログラムを判読可能なプログラミング言語に置換・翻訳する作業) したことから、{{仮リンク|コンピュータプログラム指令|en|Computer Programs Directive}} (Directive 91/250/EEC) の権利侵害でトップ・システムが提訴した。一審は原告の主張を退けている。二審の{{仮リンク|ブリュッセル控訴裁判所|fr|Cour d'appel de Bruxelles|nl|Hof van Beroep van Brussel}}では、設計ミスを修正する目的で逆コンパイルしたにすぎず、同指令 第6条第1項 ([[相互運用性]]等を目的とした逆コンパイル) に基づく適法性を被告SELORが主張した。また同指令 第5条第1項ではエラー修正目的であればプログラム権利者の許諾を要しないと規定されている{{Sfn|EUIPO|2024|pp=126–127}}。 |
: ベルギーのIT企業トップ・システム社 ({{En|Top System SA}}) が開発したシステムが{{仮リンク|ベルギー連邦人事組織庁|nl|SELOR|fr|Travaillerpour.be}} (旧略称: SELOR、現: {{Lang-nl|Werkenvoor.be}} または {{Lang-fr-short|Travaillerpour.be}}) に導入されており、両者間でユーザーライセンス契約が締結されていた。SELORがこのシステムを[[逆コンパイル]] (別称: デコンパイル、人間には判読不能な[[機械語]]で記述されたプログラムを判読可能なプログラミング言語に置換・翻訳する作業) したことから、{{仮リンク|コンピュータプログラム指令|en|Computer Programs Directive}} (Directive 91/250/EEC) の権利侵害でトップ・システムが提訴した。一審は原告の主張を退けている。二審の{{仮リンク|ブリュッセル控訴裁判所|fr|Cour d'appel de Bruxelles|nl|Hof van Beroep van Brussel}}では、設計ミスを修正する目的で逆コンパイルしたにすぎず、同指令 第6条第1項 ([[相互運用性]]等を目的とした逆コンパイル) に基づく適法性を被告SELORが主張した。また同指令 第5条第1項ではエラー修正目的であればプログラム権利者の許諾を要しないと規定されている{{Sfn|EUIPO|2024|pp=126–127}}。 |
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: ブリュッセル控訴裁から付託された欧州司法裁判所は、逆コンパイル行為そのものは複製権の行使に当たるものの、エラー発生によって運用上支障をきたしている場合は、複製権侵害に当たらないとした。またエラー修正であれば第6条 (相互運用性) の要件を満たすかは不問であるともしている。ここでの「エラー」は法律外の一般的な用語定義に従うものの、エラー修正に際してはプログラムの個別ライセンスの規約に則った厳格な解釈が必要であるとも付言している{{Sfn|EUIPO|2024|pp=126–127}}。 |
: ブリュッセル控訴裁から付託された[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]は、逆コンパイル行為そのものは複製権の行使に当たるものの、エラー発生によって運用上支障をきたしている場合は、複製権侵害に当たらないとした。またエラー修正であれば第6条 (相互運用性) の要件を満たすかは不問であるともしている。ここでの「エラー」は法律外の一般的な用語定義に従うものの、エラー修正に際してはプログラムの個別ライセンスの規約に則った厳格な解釈が必要であるとも付言している{{Sfn|EUIPO|2024|pp=126–127}}。 |
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:; {{Visible anchor|Austro-Mechana対Strato事件}} (オーストリア、CJEU 2022年){{Sfn|EUIPO|2024|pp=124–126}} |
:; {{Visible anchor|Austro-Mechana対Strato事件}} (オーストリア、CJEU 2022年){{Sfn|EUIPO|2024|pp=124–126}} |
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: 原告のAustro-Mechanaは{{仮リンク|作家作曲家音楽出版社協同組合|de|AKM Autoren, Komponisten und Musikverleger}} (略称: AKM) 傘下で音楽の{{仮リンク|録音権|en|Mechanical license}} ({{En|Mechanical rights}}) を扱うオーストリアの著作権管理団体である{{R|AM-BIEM}}。ドイツIT企業でクラウドサービスを提供する{{仮リンク|Strato|en|Strato AG}}に対し、クラウド上に保存してある複製された著作物「すべて」を対象に、Austro-Mechanaが利用料を請求したことから訴訟へと発展した。被告Strato側は、そもそもクラウドサービスには直接利用料を支払う義務もなく、またサーバー所在地のドイツでは適切な支払を行っており、オーストリア在住のクラウドサービス利用者はクラウド上にコンテンツを投稿する際に個々が複製利用料を支払っていると主張して抗弁した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=124–126}}。 |
: 原告のAustro-Mechanaは{{仮リンク|作家作曲家音楽出版社協同組合|de|AKM Autoren, Komponisten und Musikverleger}} (略称: AKM) 傘下で音楽の{{仮リンク|録音権|en|Mechanical license}} ({{En|Mechanical rights}}) を扱うオーストリアの著作権管理団体である{{R|AM-BIEM}}。ドイツIT企業でクラウドサービスを提供する{{仮リンク|Strato|en|Strato AG}}に対し、クラウド上に保存してある複製された著作物「すべて」を対象に、Austro-Mechanaが利用料を請求したことから訴訟へと発展した。被告Strato側は、そもそもクラウドサービスには直接利用料を支払う義務もなく、またサーバー所在地のドイツでは適切な支払を行っており、オーストリア在住のクラウドサービス利用者はクラウド上にコンテンツを投稿する際に個々が複製利用料を支払っていると主張して抗弁した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=124–126}}。 |
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: 一審ではStratoが公衆伝達を行っているのではなく、ユーザーにクラウド保存サービスを提供しているにすぎないとして、原告の訴えを退けた。その後、控訴審の{{仮リンク|ウィーン高等地方裁判所|de|Oberlandesgericht Wien}} ({{De|Oberlandesgericht Wien}}、略称: {{De|OLG Wien}}) から欧州司法裁判所に情報社会指令 第5条第2項(b)号 (媒体上での私的複製に関する例外・制限規定) の解釈を付託した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=124–126}}。 |
: 一審ではStratoが公衆伝達を行っているのではなく、ユーザーにクラウド保存サービスを提供しているにすぎないとして、原告の訴えを退けた。その後、控訴審の{{仮リンク|ウィーン高等地方裁判所|de|Oberlandesgericht Wien}} ({{De|Oberlandesgericht Wien}}、略称: {{De|OLG Wien}}) から[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]に情報社会指令 第5条第2項(b)号 (媒体上での私的複製に関する例外・制限規定) の解釈を付託した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=124–126}}。 |
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: 本事件で{{仮リンク|法務官 (欧州連合)|label=法務官|en|Advocate general (European Union)}} ({{En|Advocate General}}、略称: AG){{Efn2|欧州連合の法務官とは欧州司法裁判所に所属する公職で、裁判官とは独立した立場から判決に先行して意見を述べる。法務官意見に法的拘束力はないものの、実質的な権威と影響力を有する{{Sfn|小泉|2022|p=49 (6)}}。}} を務めた{{仮リンク|ジェラルド・ホーガン|en|Gerard Hogan}} ({{En|Gerard Hogan}}) は欧州司法裁判所の最終判決の約半年前に意見書を提出しており ([https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A62020CC0433&qid=1734736483404 ECLI:EU:C:2021:763]){{Sfn|EUIPO|2024|pp=127–128}}、最終判決もほぼホーガン法務官の意見に従ったものとなっている{{Sfn|EUIPO|2024|p=125}}。第一に、クラウドへの保存行為は情報社会指令が規定する複製権の行使に当たるとした上で、同指令第5条の私的複製の例外・制限規定にはクラウドサービス利用者も含まれうるとした。第二に、サービス利用者は著作物購入時点で複製のための料金も含めて支払っていることから、クラウド保存時に再度支払う義務はないと判示した{{Sfn|EUIPO|2024|p=125}}。 |
: 本事件で{{仮リンク|法務官 (欧州連合)|label=法務官|en|Advocate general (European Union)}} ({{En|Advocate General}}、略称: AG){{Efn2|欧州連合の法務官とは欧州司法裁判所に所属する公職で、裁判官とは独立した立場から判決に先行して意見を述べる。法務官意見に法的拘束力はないものの、実質的な権威と影響力を有する{{Sfn|小泉|2022|p=49 (6)}}。}} を務めた{{仮リンク|ジェラルド・ホーガン|en|Gerard Hogan}} ({{En|Gerard Hogan}}) は欧州司法裁判所の最終判決の約半年前に意見書を提出しており ([https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A62020CC0433&qid=1734736483404 ECLI:EU:C:2021:763]){{Sfn|EUIPO|2024|pp=127–128}}、最終判決もほぼホーガン法務官の意見に従ったものとなっている{{Sfn|EUIPO|2024|p=125}}。第一に、クラウドへの保存行為は情報社会指令が規定する複製権の行使に当たるとした上で、同指令第5条の私的複製の例外・制限規定にはクラウドサービス利用者も含まれうるとした。第二に、サービス利用者は著作物購入時点で複製のための料金も含めて支払っていることから、クラウド保存時に再度支払う義務はないと判示した{{Sfn|EUIPO|2024|p=125}}。 |
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: ドイツ著作権法 第97a条では裁判手続を開始する前に警告を発することが義務付けられており、訴訟外の紛争解決が促されている{{R|Koch-Cotter}}。また同条では自然人が非営利・私的に著作権侵害を引き起こした場合は、侵害内容に応じて費用負担の上限を1,000ユーロに定めている{{R|Koch-Cotter}}{{Sfn|EUIPO|2024|pp=66–68}}。一審の{{仮リンク|ザールブリュッケン区裁判所|de|Amtsgericht Saarbrücken}} ({{De|Amtsgericht Saarbrücken}}) は弁護士費用総額のうち124ユーロのみを支払うよう被告に命じた{{Sfn|EUIPO|2024|pp=66–68}}。コッホ・メディア側は{{仮リンク|ザールブリュッケン地方裁判所|de|Landgericht Saarbrücken}} ({{De|Landgericht Saarbrücken}}) に控訴し、弁護士費用全額の964.60ユーロを負担するよう求めた。ファイルシェアによる損害を2万ユーロ相当と見積もって、全額負担相当と判断してのことである{{Sfn|EUIPO|2024|pp=66–68}}。 |
: ドイツ著作権法 第97a条では裁判手続を開始する前に警告を発することが義務付けられており、訴訟外の紛争解決が促されている{{R|Koch-Cotter}}。また同条では自然人が非営利・私的に著作権侵害を引き起こした場合は、侵害内容に応じて費用負担の上限を1,000ユーロに定めている{{R|Koch-Cotter}}{{Sfn|EUIPO|2024|pp=66–68}}。一審の{{仮リンク|ザールブリュッケン区裁判所|de|Amtsgericht Saarbrücken}} ({{De|Amtsgericht Saarbrücken}}) は弁護士費用総額のうち124ユーロのみを支払うよう被告に命じた{{Sfn|EUIPO|2024|pp=66–68}}。コッホ・メディア側は{{仮リンク|ザールブリュッケン地方裁判所|de|Landgericht Saarbrücken}} ({{De|Landgericht Saarbrücken}}) に控訴し、弁護士費用全額の964.60ユーロを負担するよう求めた。ファイルシェアによる損害を2万ユーロ相当と見積もって、全額負担相当と判断してのことである{{Sfn|EUIPO|2024|pp=66–68}}。 |
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: 控訴審から付託された欧州司法裁判所は、金額が過度ではなく、かつ侵害を受けた側の救済の目的に即した合理的水準に設定されていれば、個人・非営利の不法行為に弁護士費用負担の上限を国内法で個別に設けることができると判示した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=66–68}}。 |
: 控訴審から付託された[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]は、金額が過度ではなく、かつ侵害を受けた側の救済の目的に即した合理的水準に設定されていれば、個人・非営利の不法行為に弁護士費用負担の上限を国内法で個別に設けることができると判示した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=66–68}}。 |
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== 公衆伝達権 == |
== 公衆伝達権 == |
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204行目: | 204行目: | ||
: CJEU事件名: ''RTL Television GmbH v Grupo Pestana S.G.P.S., S.A. and SALVOR - Sociedade de Investimento Hoteleiro, S.A.'', Judgment of the Court (Fifth Chamber), 8 September 2022. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62020CJ0716&qid=1734655900643 C-716/20] |
: CJEU事件名: ''RTL Television GmbH v Grupo Pestana S.G.P.S., S.A. and SALVOR - Sociedade de Investimento Hoteleiro, S.A.'', Judgment of the Court (Fifth Chamber), 8 September 2022. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62020CJ0716&qid=1734655900643 C-716/20] |
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: {{仮リンク|衛星・ケーブル指令|en|Satellite and Cable Directive}} (Directive [https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/1993/83/2019-06-06 93/83/EEC])<!-- この日本語略称を使用する文献あり --> 第1条第3項 (再送信の定義) および第8条第1項 (再送信の許諾) の解釈が問われた事件であり、同指令が欧州司法裁判所で審理されるのは稀なケースだと言われている{{R|Pestana-Ganado}}。被告の{{仮リンク|ペスタナ|en|Pestana Group|pt|Grupo Pestana}} ({{Pt|Grupo Pestana}}) が傘下に治めるSALVOR – Sociedade de Investimento Hoteleiro (ポルトガルのホテル) ではホテル個室にテレビセットが設置され、[[同軸ケーブル]] ({{En|coaxial cable}}) を使ってテレビ番組を視聴できた。原告のドイツ語系[[RTLテレビジョン|RTL Television]]は無料放送を提供しており、私的空間であれば番組受信料は発生しない。また[[パラボラ・アンテナ]] (皿状のアンテナ) を使えば、RTLの番組はポルトガルを含む国外でも受信できる。RTLはテレビ信号の再送信には事前の許諾が必要だと主張し、受信料支払を求めてポルトガル国内で提訴した。被告側は、ポルトガル著作権法ではテレビ信号の単なる受信だけであれば、著作物利用にかかる利用料の支払義務はないと抗弁した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=77–79}}。 |
: {{仮リンク|衛星・ケーブル指令|en|Satellite and Cable Directive}} (Directive [https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/1993/83/2019-06-06 93/83/EEC])<!-- この日本語略称を使用する文献あり --> 第1条第3項 (再送信の定義) および第8条第1項 (再送信の許諾) の解釈が問われた事件であり、同指令が[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]で審理されるのは稀なケースだと言われている{{R|Pestana-Ganado}}。被告の{{仮リンク|ペスタナ|en|Pestana Group|pt|Grupo Pestana}} ({{Pt|Grupo Pestana}}) が傘下に治めるSALVOR – Sociedade de Investimento Hoteleiro (ポルトガルのホテル) ではホテル個室にテレビセットが設置され、[[同軸ケーブル]] ({{En|coaxial cable}}) を使ってテレビ番組を視聴できた。原告のドイツ語系[[RTLテレビジョン|RTL Television]]は無料放送を提供しており、私的空間であれば番組受信料は発生しない。また[[パラボラ・アンテナ]] (皿状のアンテナ) を使えば、RTLの番組はポルトガルを含む国外でも受信できる。RTLはテレビ信号の再送信には事前の許諾が必要だと主張し、受信料支払を求めてポルトガル国内で提訴した。被告側は、ポルトガル著作権法ではテレビ信号の単なる受信だけであれば、著作物利用にかかる利用料の支払義務はないと抗弁した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=77–79}}。 |
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: 一審と控訴審は、ホテル側が公衆伝達の行為を行ったと認定しつつも、ホテルはケーブル放送事業者ではないことから、同軸ケーブルの使用は番組の「再送信」には該当しないと判示した。原告が上告し、{{仮リンク|最高裁判所 (ポルトガル)|label=ポルトガル最高裁|en|Supreme Court of Justice (Portugal)|pt|Supremo Tribunal de Justiça (Portugal)}} ({{Pt|Supremo Tribunal de Justiça}}) が欧州司法裁判所に付託した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=77–79}}。 |
: 一審と控訴審は、ホテル側が公衆伝達の行為を行ったと認定しつつも、ホテルはケーブル放送事業者ではないことから、同軸ケーブルの使用は番組の「再送信」には該当しないと判示した。原告が上告し、{{仮リンク|最高裁判所 (ポルトガル)|label=ポルトガル最高裁|en|Supreme Court of Justice (Portugal)|pt|Supremo Tribunal de Justiça (Portugal)}} ({{Pt|Supremo Tribunal de Justiça}}) が欧州司法裁判所に付託した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=77–79}}。 |
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: ホテル事業者シタディーン<!-- 日本語公式企業HPで読み確認済 --> ({{En|Citadines}}、現: シンガポール系{{仮リンク|The Ascott Limited|en|The Ascott Limited}}傘下) が個室やフィットネスルームにテレビセットを設置してテレビ番組を配信したことから、公衆伝達権侵害に該当するのかが問われた事件{{Sfn|EUIPO|2024|pp=75–76}}。原告はテレビ番組などの米系著作権管理団体 {{仮リンク|Motion Picture Licensing Corporation|en|Motion Picture Licensing Corporation}} (略称: MPLC) のドイツ現地法人であり、{{仮リンク|ミュンヘン地方裁判所|de|Landgericht München}} ({{De|Landgericht München}}) に提訴した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=75–76}}。問題となったテレビ番組は無料の公共放送局のシリーズものである{{R|Citadines-FF}}。被告シタディーンは公衆伝達の行為者か否かは争点にはしておらず、ケーブル放送局と締結済みのライセンス契約に照らし合わせて契約範囲内の再配信であると主張した{{R|Citadines-FF}}。一方原告MPLC側は、ホテル館内のケーブル配線網まではライセンス契約の対象に含まれていないとして、双方の主張は食い違っていた{{R|Citadines-FF}}。原告が{{仮リンク|ミュンヘン高等地方裁判所|de|Oberlandesgericht München}} ({{De|Oberlandesgericht München}}) に控訴し、その後控訴審から欧州司法裁判所に付託された{{Sfn|EUIPO|2024|pp=75–76}}。 |
: ホテル事業者シタディーン<!-- 日本語公式企業HPで読み確認済 --> ({{En|Citadines}}、現: シンガポール系{{仮リンク|The Ascott Limited|en|The Ascott Limited}}傘下) が個室やフィットネスルームにテレビセットを設置してテレビ番組を配信したことから、公衆伝達権侵害に該当するのかが問われた事件{{Sfn|EUIPO|2024|pp=75–76}}。原告はテレビ番組などの米系著作権管理団体 {{仮リンク|Motion Picture Licensing Corporation|en|Motion Picture Licensing Corporation}} (略称: MPLC) のドイツ現地法人であり、{{仮リンク|ミュンヘン地方裁判所|de|Landgericht München}} ({{De|Landgericht München}}) に提訴した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=75–76}}。問題となったテレビ番組は無料の公共放送局のシリーズものである{{R|Citadines-FF}}。被告シタディーンは公衆伝達の行為者か否かは争点にはしておらず、ケーブル放送局と締結済みのライセンス契約に照らし合わせて契約範囲内の再配信であると主張した{{R|Citadines-FF}}。一方原告MPLC側は、ホテル館内のケーブル配線網まではライセンス契約の対象に含まれていないとして、双方の主張は食い違っていた{{R|Citadines-FF}}。原告が{{仮リンク|ミュンヘン高等地方裁判所|de|Oberlandesgericht München}} ({{De|Oberlandesgericht München}}) に控訴し、その後控訴審から欧州司法裁判所に付託された{{Sfn|EUIPO|2024|pp=75–76}}。 |
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: 欧州司法裁判所は、シタディーンがケーブル放送事業者ではないことを理由に、テレビセットの設置そのものは著作権侵害に当たらないとした。その上で、ケーブル放送事業者とホテル間のライセンス契約内容にかかわらず、ケーブル網を使って各室のテレビセットに番組を再配信する行為は公衆伝達に該当しうるとした。またホテル利用客は多数に上ることから、「公衆」の定義を満たす。さらに著作権保護下にあるコンテンツをホテルが利用客に能動的に提供しており、利用客は当該コンテンツを視聴する別手段は利用不可である。このようなテレビセットの導入はホテルの付加価値向上に寄与し、収益増につながる。また、各テレビセットに配信するケーブル配線網の仕組みそのものはホテル側が独自に有しているものであり、公衆伝達をホテルが行っていると判示された{{Sfn|EUIPO|2024|pp=75–76}}。 |
: [[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]は、シタディーンがケーブル放送事業者ではないことを理由に、テレビセットの設置そのものは著作権侵害に当たらないとした。その上で、ケーブル放送事業者とホテル間のライセンス契約内容にかかわらず、ケーブル網を使って各室のテレビセットに番組を再配信する行為は公衆伝達に該当しうるとした。またホテル利用客は多数に上ることから、「公衆」の定義を満たす。さらに著作権保護下にあるコンテンツをホテルが利用客に能動的に提供しており、利用客は当該コンテンツを視聴する別手段は利用不可である。このようなテレビセットの導入はホテルの付加価値向上に寄与し、収益増につながる。また、各テレビセットに配信するケーブル配線網の仕組みそのものはホテル側が独自に有しているものであり、公衆伝達をホテルが行っていると判示された{{Sfn|EUIPO|2024|pp=75–76}}。 |
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:; {{Visible anchor|GEMA対GL事件}} (ドイツ、CJEU 2024年){{Sfn|EUIPO|2024|p=3}} |
:; {{Visible anchor|GEMA対GL事件}} (ドイツ、CJEU 2024年){{Sfn|EUIPO|2024|p=3}} |
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: CJEU事件名: ''Gesellschaft für musikalische Aufführungs- und mechanische Vervielfältigungsrechte eV (GEMA) v GL'', Judgement of the Court (First Chamber), 20 June 2024. [https://eur-lex.europa.eu/eli/C/2024/4698/oj Case C-135/23] |
: CJEU事件名: ''Gesellschaft für musikalische Aufführungs- und mechanische Vervielfältigungsrechte eV (GEMA) v GL'', Judgement of the Court (First Chamber), 20 June 2024. [https://eur-lex.europa.eu/eli/C/2024/4698/oj Case C-135/23] |
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: 公衆伝達権の著作権侵害事件。被告のGLは自社が不動産管理するマンション向けに屋内アンテナを内蔵したテレビを提供していた。このアンテナは室内の音楽も拾うことができる。これが情報社会指令の第3条第1項の「公衆伝達」行為に該当するのかが問われた{{Sfn|EUIPO|2024|p=3}}。 |
: 公衆伝達権の著作権侵害事件。被告のGLは自社が不動産管理するマンション向けに屋内アンテナを内蔵したテレビを提供していた。このアンテナは室内の音楽も拾うことができる。これが情報社会指令の第3条第1項の「公衆伝達」行為に該当するのかが問われた{{Sfn|EUIPO|2024|p=3}}。 |
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: ドイツ・{{仮リンク|ポツダム地方裁判所|de|Amtsgericht Potsdam}} ({{De|Amtsgericht Potsdam}}、略称: AG Potsdam) から付託された欧州司法裁判所は2024年、GLの行為は意図的であり、かつこのようなアンテナが備わっていることで管理物件の付加価値につながり、さらに入居者が相当数に上ることから公衆伝達に該当すると認めた。また同指令は特定の技術要件に縛られない一般的な規定であることから、屋内アンテナか中央集中管理型アンテナかは不問であるとした{{Sfn|EUIPO|2024|p=3}}。 |
: ドイツ・{{仮リンク|ポツダム地方裁判所|de|Amtsgericht Potsdam}} ({{De|Amtsgericht Potsdam}}、略称: AG Potsdam) から付託された[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]は2024年、GLの行為は意図的であり、かつこのようなアンテナが備わっていることで管理物件の付加価値につながり、さらに入居者が相当数に上ることから公衆伝達に該当すると認めた。また同指令は特定の技術要件に縛られない一般的な規定であることから、屋内アンテナか中央集中管理型アンテナかは不問であるとした{{Sfn|EUIPO|2024|p=3}}。 |
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== 例外・制限規定 == |
== 例外・制限規定 == |
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: [[人工知能]] (AI) の[[機械学習|学習データ]]用に自身の写真作品が無断で利用されたとして、写真家 {{De|Robert Kneschke}} (ロベルト・クネシュケ) がデータ収集者の[[ドイツ]]非営利団体 [[LAION]] (ライオン) を著作権侵害で提訴した事件である。当事件は世界に先駆けたAI関連判決としてEU域外からも注目され{{R|OLC2024|MF2024|TLM2024}}、[[DSM著作権指令]]の「テキストおよび[[データマイニング]]」(略称: TDM) 関連では初の判決である{{R|OLC2024|MF2024}}。さらにEUでは2024年8月から[[AI法]]が施行され{{R|AIA-Timeline}}、一審ではAI法にまで踏み込んで言及している点も注目されている{{R|OLC2024|MF2024}}。 |
: [[人工知能]] (AI) の[[機械学習|学習データ]]用に自身の写真作品が無断で利用されたとして、写真家 {{De|Robert Kneschke}} (ロベルト・クネシュケ) がデータ収集者の[[ドイツ]]非営利団体 [[LAION]] (ライオン) を著作権侵害で提訴した事件である。当事件は世界に先駆けたAI関連判決としてEU域外からも注目され{{R|OLC2024|MF2024|TLM2024}}、[[DSM著作権指令]]の「テキストおよび[[データマイニング]]」(略称: TDM) 関連では初の判決である{{R|OLC2024|MF2024}}。さらにEUでは2024年8月から[[AI法]]が施行され{{R|AIA-Timeline}}、一審ではAI法にまで踏み込んで言及している点も注目されている{{R|OLC2024|MF2024}}。 |
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: 一審の{{仮リンク|ハンブルク地方裁判所|de|Landgericht Hamburg|en|Regional Court of Hamburg}}は2024年9月27日、原告の訴えを棄却したが{{R|OLC2024|MF2024}}、判決から約1か月後に原告側が[[控訴]]したと公表している{{R|KneschkeOfficial202411}}。控訴の場合には、欧州司法裁判所に先決裁定が付託される可能性も有識者から指摘されている{{R|MF2024}}。 |
: 一審の{{仮リンク|ハンブルク地方裁判所|de|Landgericht Hamburg|en|Regional Court of Hamburg}}は2024年9月27日、原告の訴えを棄却したが{{R|OLC2024|MF2024}}、判決から約1か月後に原告側が[[控訴]]したと公表している{{R|KneschkeOfficial202411}}。控訴の場合には、[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]に先決裁定が付託される可能性も有識者から指摘されている{{R|MF2024}}。 |
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=== 教育・科学研究・非営利目的 === |
=== 教育・科学研究・非営利目的 === |
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: CJEU事件名: ''Land Nordrhein-Westfalen v Dirk Renckhoff'', Judgement of the Court (Second Chamber), 7 August 2018. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/en/TXT/?uri=CELEX:62017CJ0161 Case C-161/17] |
: CJEU事件名: ''Land Nordrhein-Westfalen v Dirk Renckhoff'', Judgement of the Court (Second Chamber), 7 August 2018. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/en/TXT/?uri=CELEX:62017CJ0161 Case C-161/17] |
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: 別称「[[コルドバ (スペイン)|コルドバ]]判決」{{Sfn|Ferri|2020|p=29}} ({{En|Córdoba Case}}、写真の被写体となったスペインの都市名にちなむ)。情報社会指令の第3条第1項 (著作権者に排他的に認められる公衆伝達権){{Sfn|EUIPO|2024|p=93}}、および同指令の第5条第3項(a)号 (教育・科学研究目的の第三者利用){{Sfn|Ferri|2020|p=29}}の解釈が問われた事件である。 |
: 別称「[[コルドバ (スペイン)|コルドバ]]判決」{{Sfn|Ferri|2020|p=29}} ({{En|Córdoba Case}}、写真の被写体となったスペインの都市名にちなむ)。情報社会指令の第3条第1項 (著作権者に排他的に認められる公衆伝達権){{Sfn|EUIPO|2024|p=93}}、および同指令の第5条第3項(a)号 (教育・科学研究目的の第三者利用){{Sfn|Ferri|2020|p=29}}の解釈が問われた事件である。 |
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: 旅行ポータルサイトに掲載されていた写真をドイツ・[[ノルトライン=ヴェストファーレン州]]の公立校学生がダウンロードして、自身の論文内でイラストとして再利用した。論文には写真の出典を明記しており、この論文が学校のウェブサイトに掲載された{{Sfn|EUIPO|2024|p=93}}。欧州司法裁判所は、学校ウェブサイトへの掲載は「公衆伝達」の行為に該当し、写真の著作権者たる写真家の事前許諾が必要とされると判示した。写真を取り込んで (転載して) 別サイトにアップロードする行為と、元の写真ポータルサイトへのハイパーリンクを張る行為を判決では峻別している。なお、ハイパーリンクを巡る類似事件としては2014年の Svensson判決 (''Nils Svensson and Others v Retriever Sverige AB'', Judgment of the Court (Fourth Chamber), 13 February 2014. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A62012CJ0466 Case C-466/12]) が先例としてある{{Sfn|EUIPO|2024|p=93}}。 |
: 旅行ポータルサイトに掲載されていた写真をドイツ・[[ノルトライン=ヴェストファーレン州]]の公立校学生がダウンロードして、自身の論文内でイラストとして再利用した。論文には写真の出典を明記しており、この論文が学校のウェブサイトに掲載された{{Sfn|EUIPO|2024|p=93}}。[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]は、学校ウェブサイトへの掲載は「公衆伝達」の行為に該当し、写真の著作権者たる写真家の事前許諾が必要とされると判示した。写真を取り込んで (転載して) 別サイトにアップロードする行為と、元の写真ポータルサイトへのハイパーリンクを張る行為を判決では峻別している。なお、ハイパーリンクを巡る類似事件としては2014年の Svensson判決 (''Nils Svensson and Others v Retriever Sverige AB'', Judgment of the Court (Fourth Chamber), 13 February 2014. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A62012CJ0466 Case C-466/12]) が先例としてある{{Sfn|EUIPO|2024|p=93}}。 |
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: なお、情報社会指令第5条第3項(a)号は、非営利であること、また出典を明記することを前提に、学業や科学研究目的の他者著作物利用を適法としている。しかし第5条の例外・制限規定はEU加盟各国が国内法化するかは「任意」になっている。当判決の翌年にはDSM著作権指令が成立し、第5条では同じく教育目的の例外・制限規定を設けており、こちらは国内法化が「必須」となっている違いがある{{Sfn|Ferri|2020|p=29}}。 |
: なお、情報社会指令第5条第3項(a)号は、非営利であること、また出典を明記することを前提に、学業や科学研究目的の他者著作物利用を適法としている。しかし第5条の例外・制限規定はEU加盟各国が国内法化するかは「任意」になっている。当判決の翌年にはDSM著作権指令が成立し、第5条では同じく教育目的の例外・制限規定を設けており、こちらは国内法化が「必須」となっている違いがある{{Sfn|Ferri|2020|p=29}}。 |
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:; {{Visible anchor|UCMR-ADA対ルーマニアの魂事件}} (ルーマニア、CJEU 2021年){{Sfn|EUIPO|2024|pp=117–119}} |
:; {{Visible anchor|UCMR-ADA対ルーマニアの魂事件}} (ルーマニア、CJEU 2021年){{Sfn|EUIPO|2024|pp=117–119}} |
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: CJEU事件名: ''UCMR – ADA Asociaţia pentru Drepturi de Autor a Compozitorilor v Asociatia culturala „Suflet de Român“'', Judgment of the Court (Third Chamber), 21 February 2021. [https://https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62019CJ0501 C-501/19] |
: CJEU事件名: ''UCMR – ADA Asociaţia pentru Drepturi de Autor a Compozitorilor v Asociatia culturala „Suflet de Român“'', Judgment of the Court (Third Chamber), 21 February 2021. [https://https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62019CJ0501 C-501/19] |
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: [[ロイヤルティー]] (ライセンス料) 支払に付随する[[付加価値税]] (VAT、日本の[[消費税]]に類似) の納税主体が誰なのかが問われた事件である。原告のUCMR-ADA<!-- 英語版・ルーマニア語版ともに記事なし -->は作詞・作曲家向け著作権管理団体で、音楽コンサートなどの実演で発生するロイヤルティーの徴収を担っていた。被告の文化協会「ルーマニアの魂」({{Lang-ro|Asociația Culturală Suflet de Român}}<!-- 英語版・ルーマニア語版ともに記事なし -->、{{Lang-en-short|Cultural Association "Romanian Soul"}}) は主催する音楽ショーのロイヤルティーをUCMR-ADA側に満額支払っていなかったことが法廷闘争の発端である。二審の{{仮リンク|控訴裁判所 (ルーマニア)|label=ルーマニア控訴裁判所|ro|Curțile de apel din România}}<!-- 15か所あるがどこの地区かはEUR-Lexの判決文でも未記載 -->はこのロイヤルティー支払に係る付加価値税の納税主体は文化協会ではないと判定した。しかしこれはUCMR-ADA側に付加価値税支払義務を負わせることを意味することから、UCMR-ADAは最高裁に当たる{{仮リンク|破毀院 (ルーマニア)|label=ルーマニア破毀院|en|High Court of Cassation and Justice|ro|Înalta Curte de Casație și Justiție}}に上告し、控訴審が税法条文解釈やその背景にある税の公平性の原則を歪める判決を下したと主張したのである。そこでEUの{{仮リンク|VAT指令|en|European Union value added tax#European Union directives}} (Directive [https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2006/112/2024-01-01 2006/112/EC]{{Efn2|Directive [https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2006/112/oj 2006/112/EC]の名の通り、EUの枠組み下でVAT指令が成立したのは2006年であるが、その後複数回改正が重ねられており{{R|VATD-EUMag}}、2024年12月時点の[https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2006/112/2024-01-01 最新版]も併せて参照されたい。}}) の解釈に関し、破毀院から欧州司法裁判所に付託することとなった{{Sfn|EUIPO|2024|pp=116–117}}。 |
: [[ロイヤルティー]] (ライセンス料) 支払に付随する[[付加価値税]] (VAT、日本の[[消費税]]に類似) の納税主体が誰なのかが問われた事件である。原告のUCMR-ADA<!-- 英語版・ルーマニア語版ともに記事なし -->は作詞・作曲家向け著作権管理団体で、音楽コンサートなどの実演で発生するロイヤルティーの徴収を担っていた。被告の文化協会「ルーマニアの魂」({{Lang-ro|Asociația Culturală Suflet de Român}}<!-- 英語版・ルーマニア語版ともに記事なし -->、{{Lang-en-short|Cultural Association "Romanian Soul"}}) は主催する音楽ショーのロイヤルティーをUCMR-ADA側に満額支払っていなかったことが法廷闘争の発端である。二審の{{仮リンク|控訴裁判所 (ルーマニア)|label=ルーマニア控訴裁判所|ro|Curțile de apel din România}}<!-- 15か所あるがどこの地区かはEUR-Lexの判決文でも未記載 -->はこのロイヤルティー支払に係る付加価値税の納税主体は文化協会ではないと判定した。しかしこれはUCMR-ADA側に付加価値税支払義務を負わせることを意味することから、UCMR-ADAは最高裁に当たる{{仮リンク|破毀院 (ルーマニア)|label=ルーマニア破毀院|en|High Court of Cassation and Justice|ro|Înalta Curte de Casație și Justiție}}に上告し、控訴審が税法条文解釈やその背景にある税の公平性の原則を歪める判決を下したと主張したのである。そこでEUの{{仮リンク|VAT指令|en|European Union value added tax#European Union directives}} (Directive [https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2006/112/2024-01-01 2006/112/EC]{{Efn2|Directive [https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2006/112/oj 2006/112/EC]の名の通り、EUの枠組み下でVAT指令が成立したのは2006年であるが、その後複数回改正が重ねられており{{R|VATD-EUMag}}、2024年12月時点の[https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2006/112/2024-01-01 最新版]も併せて参照されたい。}}) の解釈に関し、破毀院から[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]に付託することとなった{{Sfn|EUIPO|2024|pp=116–117}}。 |
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: UCMR-ADAが徴収したロイヤルティーは最終的に著作権者たる各作詞・作曲家に分配されるため、VAT指令はUCMR-ADAと作詞家間の決済に適用されるとの見解が欧州司法裁判所から示された{{Sfn|EUIPO|2024|pp=116–117}}。しかしそもそも著作物のロイヤルティーが付加価値税の課税対象なのかを巡って、欧州司法裁判所では判決が揺れているとの指摘もある{{R|VATCases-2Birds}}。2021年のUCMR-ADA判決から遡ること4年前には、ポーランドから先決裁定を付託されて下されたSAWP判決 ([https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62016CA0037&qid=1734570019799 C-37/16]) が先例として知られており、著作権管理団体は付加価値税の課税対象に当たらないと判示されていた。これをUCMR-ADA判決では覆したと見られている{{R|VATCases-2Birds}}。 |
: UCMR-ADAが徴収したロイヤルティーは最終的に著作権者たる各作詞・作曲家に分配されるため、VAT指令はUCMR-ADAと作詞家間の決済に適用されるとの見解が欧州司法裁判所から示された{{Sfn|EUIPO|2024|pp=116–117}}。しかしそもそも著作物のロイヤルティーが付加価値税の課税対象なのかを巡って、欧州司法裁判所では判決が揺れているとの指摘もある{{R|VATCases-2Birds}}。2021年のUCMR-ADA判決から遡ること4年前には、ポーランドから先決裁定を付託されて下されたSAWP判決 ([https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62016CA0037&qid=1734570019799 C-37/16]) が先例として知られており、著作権管理団体は付加価値税の課税対象に当たらないと判示されていた。これをUCMR-ADA判決では覆したと見られている{{R|VATCases-2Birds}}。 |
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: CJEU事件名: ''Seven.One Entertainment Group GmbH v Corint Media GmbH'', Judgment of the Court (First Chamber), 23 November 2023. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62022CJ0260&qid=1734758799824 C-260/22] |
: CJEU事件名: ''Seven.One Entertainment Group GmbH v Corint Media GmbH'', Judgment of the Court (First Chamber), 23 November 2023. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62022CJ0260&qid=1734758799824 C-260/22] |
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: ドイツのテレビ局{{仮リンク|Seven.One|de|Seven.One}}はメディアの私的利用料の徴収業務を担う著作権管理団体{{仮リンク|Corint Media|de|Corint Media}}と独占契約を締結し、著作権および著作隣接権の管理を委託していた。この利用料は "{{En|blank media levy}}" の通称で呼ばれているものである。Seven.Oneが利用料の適正料率を分配するよう請求したところ、Corint Mediaが{{仮リンク|著作権法 (ドイツ)|label=ドイツ著作権法|en|Copyright law of Germany}} 第87条第4項を理由に拒否した。これは情報社会指令 第5条第2項(b)号の例外・制限規定に基づいた国内法化であり、自然人 (個人) による私的かつ非営利複製の場合は適正分配の対象からテレビ局が除外されるとの規定である。一審の{{仮リンク|エアフルト地方裁判所|de|Landgericht Erfurt}} ({{De|Landgericht Erfurt}}) は欧州司法裁判所に付託した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=114–116}}。 |
: ドイツのテレビ局{{仮リンク|Seven.One|de|Seven.One}}はメディアの私的利用料の徴収業務を担う著作権管理団体{{仮リンク|Corint Media|de|Corint Media}}と独占契約を締結し、著作権および著作隣接権の管理を委託していた。この利用料は "{{En|blank media levy}}" の通称で呼ばれているものである。Seven.Oneが利用料の適正料率を分配するよう請求したところ、Corint Mediaが{{仮リンク|著作権法 (ドイツ)|label=ドイツ著作権法|en|Copyright law of Germany}} 第87条第4項を理由に拒否した。これは{{Visible anchor|情報社会指令 第5条第2項(b)号|情報社会指令}}の例外・制限規定に基づいた国内法化であり、自然人 (個人) による私的かつ非営利複製の場合は適正分配の対象からテレビ局が除外されるとの規定である。一審の{{仮リンク|エアフルト地方裁判所|de|Landgericht Erfurt}} ({{De|Landgericht Erfurt}}) は[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]に付託した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=114–116}}。 |
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: 情報社会指令は複製権を定めた第2条で、テレビ局とその他権利者で特段の別扱いはしておらず、また[[欧州連合基本権憲章]] 第20条でも平等の原則が謳われていることから、Corint Mediaは適正分配の義務があると判示した。またドイツ裁判所からの付託時に、Seven.Oneはテレビ局であると同時に映画製作者の側面もあるが、映画製作者の立場で利用料が分配されるべきかとの論点が出されていたが、テレビ専業か否かは不問であるとした{{Sfn|EUIPO|2024|pp=114–116}}。 |
: [[:著作権法の判例一覧 (欧州)#情報社会指令|情報社会指令]]は複製権を定めた第2条で、テレビ局とその他権利者で特段の別扱いはしておらず、また[[欧州連合基本権憲章]] 第20条でも平等の原則が謳われていることから、著作権管理団体Corint Mediaは適正分配の義務があると判示した。またドイツ裁判所からの付託時に、Seven.Oneはテレビ局であると同時に映画製作者の側面もあるが、映画製作者の立場で利用料が分配されるべきかとの論点が出されていたが、テレビ専業か否かは不問であるとした{{Sfn|EUIPO|2024|pp=114–116}}。 |
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:; {{Visible anchor|Kopiosto対Telia事件}} (フィンランド、CJEU 2023年){{Sfn|EUIPO|2024|pp=116–117}} |
:; {{Visible anchor|Kopiosto対Telia事件}} (フィンランド、CJEU 2023年){{Sfn|EUIPO|2024|pp=116–117}} |
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: CJEU事件名: ''Kopiosto ry v Telia Finland Oyj'', Judgment of the Court (Fifth Chamber), 23 November 2023. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62022CJ0201&qid=1734758999019 C‑201/22] |
: CJEU事件名: ''Kopiosto ry v Telia Finland Oyj'', Judgment of the Court (Fifth Chamber), 23 November 2023. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62022CJ0201&qid=1734758999019 C‑201/22] |
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: 著作権管理団体の{{仮リンク|Kopiosto|fi|Kopiosto}}はケーブルテレビ局[[テリア (企業)| |
: 著作権管理団体の{{仮リンク|Kopiosto|fi|Kopiosto}}はケーブルテレビ局[[テリア (企業)|テリア]](Telia)がコンテンツの著作権者に無許諾で番組を放送しているとして、特別裁判所の一つである{{仮リンク|市場裁判所 (フィンランド)|label=市場裁判所|fi|Markkinaoikeus}} ({{Lang-fi|Markkinaoikeus}}) に提訴した。フィンランドでは著作権者の代理の立場では著作権侵害の提訴ができないとして、法的資格を根拠にKopiostoの訴えを棄却した。そこで、{{仮リンク|知的財産権執行指令|en|Enforcement Directive}}(指令 2004/48/EC)第4条(c)号に基づき、著作権管理団体Kopiostoは代理ではなく直接の利害関係者であると主張して{{仮リンク|最高裁判所 (フィンランド)|label=フィンランド最高裁|en|Supreme Court of Finland}} (Korkein oikeus) に上告した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=116–117}}。 |
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: フィンランド最高裁から付託された欧州司法裁判所は、著作権管理団体が直接の利害関係者でなければ提訴不可とする国内手続は問題ないとした。その上で、国内裁判所の判断に基づき直接の利害関係者であると判定された場合は、著作権管理団体の提訴を認めなければならないと判示した。ここでの「直接」の背景であるが、フィンランドではいわゆる{{仮リンク|拡大集中許諾制度|en|Extended collective licensing}} (略称: ECL) が導入されており、著作権管理団体に管理を委託していない著作物であっても権利処理できる。このような委託契約なしの事案も訴訟対象に含めることができるかが争点となった{{Sfn|EUIPO|2024|pp=116–117}}。 |
: フィンランド最高裁から付託された[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]は、著作権管理団体が直接の利害関係者でなければ提訴不可とする国内手続は問題ないとした。その上で、国内裁判所の判断に基づき直接の利害関係者であると判定された場合は、著作権管理団体の提訴を認めなければならないと判示した。ここでの「直接」の背景であるが、フィンランドではいわゆる{{仮リンク|拡大集中許諾制度|en|Extended collective licensing}} (略称: ECL) が導入されており、著作権管理団体に管理を委託していない著作物であっても権利処理できる。このような委託契約なしの事案も訴訟対象に含めることができるかが争点となった{{Sfn|EUIPO|2024|pp=116–117}}。 |
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== プロバイダー責任 == |
== プロバイダー責任 == |
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: CJEU事件名: ''Tobias Mc Fadden v Sony Music Entertainment Germany GmbH'', Judgement of the Court (Third Chamber), 15 September 2016. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A62014CJ0484 Case C-484/14] |
: CJEU事件名: ''Tobias Mc Fadden v Sony Music Entertainment Germany GmbH'', Judgement of the Court (Third Chamber), 15 September 2016. [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A62014CJ0484 Case C-484/14] |
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: 無料Wi-Fiサービス提供者による著作権侵害の二次責任が問われ、当Wi-Fi提供者に電子商取引指令の定めたセーフハーバー条項が適用されうるかが審理された事件である{{R|McFvSony-CnP|ISSs-Lawdit}}。被告のTobias Mc Fadden (トビアス・メクファデン<!-- 英語読みだとトバイアス・マクファイデンだがドイツ人なのでドイツ語読み採用 -->){{Efn2|name=McF|苗字は McFadden{{R|McFvSony-CnP}}あるいは Mcfadden{{R|ISSs-Lawdit}}と1語で綴られることもあるが、[[EU官報]]に掲載された欧州司法裁判所の判決文での表記は Mc Fadden の2語綴りである。}}は照明・音響製品の販売とリース業を営んでおり、新規顧客獲得を目的にパスワード保護なしのWi-Fiを無料で提供していた{{R|McFvSony-CnP}}。2010年、そのWi-Fi利用者の一人が[[ソニー・ミュージックエンタテインメント・ジャーマニー|ソニー・ミュージック]]の手掛けた楽曲を無断でオンライン上にアップロードした。ソニー・ミュージック側は、直接の著作権侵害者であるWi-Fi利用者に損害賠償を求めただけでなく、メクファデンを二次侵害者とみなして訴訟手続などの費用弁済を求めたのである{{R|McFvSony-CnP}}。メクファデンは電子商取引指令の第12条 (「情報社会サービスの提供者」に対するセーフハーバー条項) が適用されると抗弁した{{R|McFvSony-CnP}}。ドイツの{{仮リンク|ミュンヘン第一地方裁判所|de|Landgericht München I}}は、パスワード保護なしのWi-Fi接続を理由にメクファデンの主張を退けたが、先決裁定を欧州司法裁判所に付託した{{R|McFvSony-CnP}}。 |
: 無料Wi-Fiサービス提供者による著作権侵害の二次責任が問われ、当Wi-Fi提供者に電子商取引指令の定めたセーフハーバー条項が適用されうるかが審理された事件である{{R|McFvSony-CnP|ISSs-Lawdit}}。被告のTobias Mc Fadden (トビアス・メクファデン<!-- 英語読みだとトバイアス・マクファイデンだがドイツ人なのでドイツ語読み採用 -->){{Efn2|name=McF|苗字は McFadden{{R|McFvSony-CnP}}あるいは Mcfadden{{R|ISSs-Lawdit}}と1語で綴られることもあるが、[[EU官報]]に掲載された欧州司法裁判所の判決文での表記は Mc Fadden の2語綴りである。}}は照明・音響製品の販売とリース業を営んでおり、新規顧客獲得を目的にパスワード保護なしのWi-Fiを無料で提供していた{{R|McFvSony-CnP}}。2010年、そのWi-Fi利用者の一人が[[ソニー・ミュージックエンタテインメント・ジャーマニー|ソニー・ミュージック]]の手掛けた楽曲を無断でオンライン上にアップロードした。ソニー・ミュージック側は、直接の著作権侵害者であるWi-Fi利用者に損害賠償を求めただけでなく、メクファデンを二次侵害者とみなして訴訟手続などの費用弁済を求めたのである{{R|McFvSony-CnP}}。メクファデンは電子商取引指令の第12条 (「情報社会サービスの提供者」に対するセーフハーバー条項) が適用されると抗弁した{{R|McFvSony-CnP}}。ドイツの{{仮リンク|ミュンヘン第一地方裁判所|de|Landgericht München I}}は、パスワード保護なしのWi-Fi接続を理由にメクファデンの主張を退けたが、先決裁定を[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]に付託した{{R|McFvSony-CnP}}。 |
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: 欧州司法裁判所は2016年9月15日判決、無料Wi-Fiの提供は二次侵害に当たらないとした。しかしメクファデンがパスワード保護なしのWi-Fiを提供したことから、利用ユーザーの身元確認が行われておらず、同一ユーザーによる再犯予防対策を講じられないことが問題視された{{R|McFvSony-CnP}}。なお、当判決では電子商取引指令がセーフハーバー条項適用先の「情報社会サービス」が何を指すのかについても、併せて言及されている{{R|ISSs-Lawdit}}。 |
: 欧州司法裁判所は2016年9月15日判決、無料Wi-Fiの提供は二次侵害に当たらないとした。しかしメクファデンがパスワード保護なしのWi-Fiを提供したことから、利用ユーザーの身元確認が行われておらず、同一ユーザーによる再犯予防対策を講じられないことが問題視された{{R|McFvSony-CnP}}。なお、当判決では電子商取引指令がセーフハーバー条項適用先の「情報社会サービス」が何を指すのかについても、併せて言及されている{{R|ISSs-Lawdit}}。 |
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: 著作権者の権利保護と個人の情報の自由といった基本的権利の間で利害バランスに配慮した法的措置がなされるべきだと判示された事件であえる{{Sfn|Angelopoulos|2017|p=15}}。この判決は6年後に可決・成立したDSM著作権指令の第17条の第8項に影響を与えたと言われている{{Sfn|Ferri|2020|p=33}}。 |
: 著作権者の権利保護と個人の情報の自由といった基本的権利の間で利害バランスに配慮した法的措置がなされるべきだと判示された事件であえる{{Sfn|Angelopoulos|2017|p=15}}。この判決は6年後に可決・成立したDSM著作権指令の第17条の第8項に影響を与えたと言われている{{Sfn|Ferri|2020|p=33}}。 |
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: 原告の{{仮リンク|SABAM|en|SABAM}}はベルギーの作家・作詞家・出版者協会{{R|AboutSABAM}}、被告の[[Netlog]]は「ベルギー版Facebook」とも呼ばれるソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) である{{R|SABAM-Ankersmit}}{{Efn2|欧州司法裁判所の判決から2年後の2014年、Netlogはユーザー離れを起こしてサービスを停止している{{R|Bulletin2014}}。}}。SABAM関係者の管理する著作物がNetlog上でシェアされていたことから、ベルギーで著作権侵害訴訟に発展した{{R|SABAM-Ankersmit}}。ベルギー裁判所はNetlogに対してSABAMの著作物へのアクセス遮断の差止命令を下しただけでなく、投稿コンテンツのフィルターシステム導入を命じたことから、電子商取引指令の第15条<!-- ★Wikibooks側の立項後に差し替え [[:b:電子商取引指令#第15条|第15条]] -->で認められている常時ユーザー監視の義務免除に反し、ひいては[[欧州連合基本権憲章]]で認められている基本的権利の保障に反するのではないかと批判を受けた{{R|SABAM-Ankersmit}}。ベルギー裁判所から先決裁定を付託された欧州司法裁判所は2012年、ベルギー裁判所命令が不当と判示した。判旨は以下のとおりである{{R|SABAM-Ankersmit}}。 |
: 原告の{{仮リンク|SABAM|en|SABAM}}はベルギーの作家・作詞家・出版者協会{{R|AboutSABAM}}、被告の[[Netlog]]は「ベルギー版Facebook」とも呼ばれるソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) である{{R|SABAM-Ankersmit}}{{Efn2|欧州司法裁判所の判決から2年後の2014年、Netlogはユーザー離れを起こしてサービスを停止している{{R|Bulletin2014}}。}}。SABAM関係者の管理する著作物がNetlog上でシェアされていたことから、ベルギーで著作権侵害訴訟に発展した{{R|SABAM-Ankersmit}}。ベルギー裁判所はNetlogに対してSABAMの著作物へのアクセス遮断の差止命令を下しただけでなく、投稿コンテンツのフィルターシステム導入を命じたことから、電子商取引指令の第15条<!-- ★Wikibooks側の立項後に差し替え [[:b:電子商取引指令#第15条|第15条]] -->で認められている常時ユーザー監視の義務免除に反し、ひいては[[欧州連合基本権憲章]]で認められている基本的権利の保障に反するのではないかと批判を受けた{{R|SABAM-Ankersmit}}。ベルギー裁判所から先決裁定を付託された[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]は2012年、ベルギー裁判所命令が不当と判示した。判旨は以下のとおりである{{R|SABAM-Ankersmit}}。 |
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:* Netlogに命じたフィルターシステムの恒常的な導入はホスティング事業者に認められている事業活動の自由を毀損し、{{仮リンク|知的財産権執行指令|en|Enforcement Directive}} (Directive 2004/48/EC) の第3条第1項で定められた「知的財産権の保護にあたっては不必要に複雑かつ高コストな措置を事業者に求めてはならない」とする条項にも反する。 |
:* Netlogに命じたフィルターシステムの恒常的な導入はホスティング事業者に認められている事業活動の自由を毀損し、{{仮リンク|知的財産権執行指令|en|Enforcement Directive}} (Directive 2004/48/EC) の第3条第1項で定められた「知的財産権の保護にあたっては不必要に複雑かつ高コストな措置を事業者に求めてはならない」とする条項にも反する。 |
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: である{{R|IPKat-GlawischnigFB}}。命令を受けてFacebook側は応じたものの、オーストリア国内に限った対応とした{{R|IPKat-GlawischnigFB}}。控訴審の{{仮リンク|ウィーン高等地方裁判所|de|Oberlandesgericht Wien}} ({{De|Oberlandesgericht Wien}}、略称: {{De|OLG Wien}}) はFacebook側からの国内限定措置の主張を棄却したものの、(c)「実質ほぼ同一投稿」の削除義務まではFacebookは負わないとして、一審の判決を部分的に覆した{{R|IPKat-GlawischnigFB}}。これを受け、原告・被告ともに上告している{{R|IPKat-GlawischnigFB}}。 |
: である{{R|IPKat-GlawischnigFB}}。命令を受けてFacebook側は応じたものの、オーストリア国内に限った対応とした{{R|IPKat-GlawischnigFB}}。控訴審の{{仮リンク|ウィーン高等地方裁判所|de|Oberlandesgericht Wien}} ({{De|Oberlandesgericht Wien}}、略称: {{De|OLG Wien}}) はFacebook側からの国内限定措置の主張を棄却したものの、(c)「実質ほぼ同一投稿」の削除義務まではFacebookは負わないとして、一審の判決を部分的に覆した{{R|IPKat-GlawischnigFB}}。これを受け、原告・被告ともに上告している{{R|IPKat-GlawischnigFB}}。 |
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: {{仮リンク|最高裁判所 (オーストリア)|label=オーストリア最高裁|en|Supreme Court of Justice (Austria)}} ({{De|Oberster Gerichtshof}}、略称: {{De|OGH}}) から先決裁定を付託された欧州司法裁判所は2019年10月、電子商取引指令が免除しているのは「一般的」な監視義務であり、本件のような既に国内裁判所で差止命令が出ている「個別事案」への適切な削除要請とは切り分ける必要があると判示した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=164–165}}。また投稿コンテンツは短時間のうちに他ユーザーによって複製・拡散されやすいSNSの特性も考慮された{{Sfn|EUIPO|2024|p=165}}。 |
: {{仮リンク|最高裁判所 (オーストリア)|label=オーストリア最高裁|en|Supreme Court of Justice (Austria)}} ({{De|Oberster Gerichtshof}}、略称: {{De|OGH}}) から先決裁定を付託された[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]は2019年10月、電子商取引指令が免除しているのは「一般的」な監視義務であり、本件のような既に国内裁判所で差止命令が出ている「個別事案」への適切な削除要請とは切り分ける必要があると判示した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=164–165}}。また投稿コンテンツは短時間のうちに他ユーザーによって複製・拡散されやすいSNSの特性も考慮された{{Sfn|EUIPO|2024|p=165}}。 |
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: 続いて、(c) 実質ほぼ同一投稿の扱いについては、その違法性をプロバイダーたるFacebook側が追加で独自調査しない限り、各種法令に定められた合法的利用の条件に照らし合わせて判断しかねるようであれば、そのコンテンツを公開ブロックする義務をプロバイダー側は負わないと判示した{{Sfn|EUIPO|2024|p=165}}。また、差止命令の有効法域を国外にまで拡大するかは、国際的な法制度の状況も加味しながらEU加盟各国法で規定できると判示した{{Sfn|EUIPO|2024|p=165}}。 |
: 続いて、(c) 実質ほぼ同一投稿の扱いについては、その違法性をプロバイダーたるFacebook側が追加で独自調査しない限り、各種法令に定められた合法的利用の条件に照らし合わせて判断しかねるようであれば、そのコンテンツを公開ブロックする義務をプロバイダー側は負わないと判示した{{Sfn|EUIPO|2024|p=165}}。また、差止命令の有効法域を国外にまで拡大するかは、国際的な法制度の状況も加味しながらEU加盟各国法で規定できると判示した{{Sfn|EUIPO|2024|p=165}}。 |
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: 原告が控訴し、二審の{{仮リンク|ミュンヘン地方裁判所|de|Landgericht München}} ({{De|Landgericht München}}) 第一法廷はストロッツァー本人がファイルシェアした可能性が極めて高く、第三者が同一IPアドレスを使ってインターネット接続できたとは考えづらいと述べている。ストロッツァーは両親の素性を明かした上で、両親がファイルシェアした可能性も否定できないと主張した。そして欧州連合基本権憲章 第7条「家庭生活の尊重権」を根拠に、これ以上家族に関連する情報を提供する義務はないと抗弁したのである{{R|Bastei-Kluwer}}。この結果を受け、二審から欧州裁判所に解釈を付託することとなった{{R|Bastei-Kluwer}}。 |
: 原告が控訴し、二審の{{仮リンク|ミュンヘン地方裁判所|de|Landgericht München}} ({{De|Landgericht München}}) 第一法廷はストロッツァー本人がファイルシェアした可能性が極めて高く、第三者が同一IPアドレスを使ってインターネット接続できたとは考えづらいと述べている。ストロッツァーは両親の素性を明かした上で、両親がファイルシェアした可能性も否定できないと主張した。そして欧州連合基本権憲章 第7条「家庭生活の尊重権」を根拠に、これ以上家族に関連する情報を提供する義務はないと抗弁したのである{{R|Bastei-Kluwer}}。この結果を受け、二審から欧州裁判所に解釈を付託することとなった{{R|Bastei-Kluwer}}。 |
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: 欧州司法裁判所は情報社会指令 第8条第1項・第2項 (制裁および救済)、および知的財産権執行指令の第3条第1項・第2項 (効果的かつバランスに配慮した公正な救済) で定められた著作権者の権利保護と、憲章 第7条の基本的人権の尊重の間で比較衡量することとなった{{R|Bastei-Kluwer}}。ドイツ国内法では著作権侵害の証拠収集に一定のハードルを課しており、結果として著作権者の権利に甚大な損害をもたらしていると判示した{{Sfn|EUIPO|2024|p=155}}。 |
: [[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]は情報社会指令 第8条第1項・第2項 (制裁および救済)、および知的財産権執行指令の第3条第1項・第2項 (効果的かつバランスに配慮した公正な救済) で定められた著作権者の権利保護と、憲章 第7条の基本的人権の尊重の間で比較衡量することとなった{{R|Bastei-Kluwer}}。ドイツ国内法では著作権侵害の証拠収集に一定のハードルを課しており、結果として著作権者の権利に甚大な損害をもたらしていると判示した{{Sfn|EUIPO|2024|p=155}}。 |
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:; {{Visible anchor|コンスタンティン・フィルム対YouTube事件}} (ドイツ、CJEU 2020年){{Sfn|EUIPO|2024|pp=154–155}} |
:; {{Visible anchor|コンスタンティン・フィルム対YouTube事件}} (ドイツ、CJEU 2020年){{Sfn|EUIPO|2024|pp=154–155}} |
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: {{仮リンク|知的財産権執行指令|en|Enforcement Directive}} (Directive 2004/48/EC) 第8条第2項(a)号に規定される権利侵害者の情報開示対象に "{{En|addresses}}" とあるが、この文言には住所だけでなくEメールアドレス、IPアドレス、電話番号も含まれるのかが問われた事件である{{Sfn|EUIPO|2024|pp=154–155}}。 |
: {{仮リンク|知的財産権執行指令|en|Enforcement Directive}} (Directive 2004/48/EC) 第8条第2項(a)号に規定される権利侵害者の情報開示対象に "{{En|addresses}}" とあるが、この文言には住所だけでなくEメールアドレス、IPアドレス、電話番号も含まれるのかが問われた事件である{{Sfn|EUIPO|2024|pp=154–155}}。 |
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: [[コンスタンティン・フィルム]]の映画作品の一部がYouTubeに違法投稿され、情報開示請求を行った結果、氏名と住所が判明した分は和解が成立した。しかし偽名が用いられているケースもあり、Eメールアドレス、携帯電話番号およびIPアドレスも開示するようYouTube側に追加請求したものの未対応であったことから提訴に至った。一審の{{仮リンク|フランクフルト地方裁判所|de|Landgericht Frankfurt am Main}} ({{De|Landgericht Frankfurt am Main}}) は原告側の請求を退けたものの、二審の{{仮リンク|フランクフルト高等地方裁判所|de|Oberlandesgericht Frankfurt am Main}} ({{De|Oberlandesgericht Frankfurt am Main}}) は部分的に認めて、Eメールアドレスのみ開示を命じた。コンスタンティンは[[連邦裁判所 (ドイツ)|ドイツ連邦最高裁]] ({{De|Bundesgerichtshof}}) に上告し、連邦最高裁から欧州司法裁判所に知的財産権執行指令のの解釈が付託された{{Sfn|EUIPO|2024|pp=154–155}}。 |
: [[コンスタンティン・フィルム]]の映画作品の一部がYouTubeに違法投稿され、情報開示請求を行った結果、氏名と住所が判明した分は和解が成立した。しかし偽名が用いられているケースもあり、Eメールアドレス、携帯電話番号およびIPアドレスも開示するようYouTube側に追加請求したものの未対応であったことから提訴に至った。一審の{{仮リンク|フランクフルト地方裁判所|de|Landgericht Frankfurt am Main}} ({{De|Landgericht Frankfurt am Main}}) は原告側の請求を退けたものの、二審の{{仮リンク|フランクフルト高等地方裁判所|de|Oberlandesgericht Frankfurt am Main}} ({{De|Oberlandesgericht Frankfurt am Main}}) は部分的に認めて、Eメールアドレスのみ開示を命じた。コンスタンティンは[[連邦裁判所 (ドイツ)|ドイツ連邦最高裁]] ({{De|Bundesgerichtshof}}) に上告し、連邦最高裁から[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]に知的財産権執行指令のの解釈が付託された{{Sfn|EUIPO|2024|pp=154–155}}。 |
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: 欧州司法裁判所は日常的に用いられている言葉の定義だけでなく、本事件固有の背景および指令の立法目的も勘案した上で、開示請求の対象 "{{En|addresses}}" は固定された住所・自宅住所のみを指すとの解釈を示した。[[欧州連合基本権憲章]]の[[:s:en:Charter_of_Fundamental_Rights_of_the_European_Union#Article_47_Right_to_an_effective_remedy_and_to_a_fair_trial|第47条]] (効果的な救済と公正な裁判を求める権利) で保障されている救済の意義を認めつつも、知的財産権執行指令の立法者は[[下限平準化]]{{Efn2|「下限平準化」とは、EU法では最低限の基準を定めるに留め、EU加盟各国でそれを上回る基準を独自に設定することができる原則である{{R|CAA2023|LNGlossary}}。}}を選択しており、よって第8条の適用範囲は限定的に捉える必要があるとして、個人情報保護と著作権者の権利保護間はバランスをとる判決を下した。ただし下限平準化ということもあり、EU加盟各国の国内法化で住所以外も開示対象に含める権限があるともしている{{Sfn|EUIPO|2024|pp=154–155}}。 |
: 欧州司法裁判所は日常的に用いられている言葉の定義だけでなく、本事件固有の背景および指令の立法目的も勘案した上で、開示請求の対象 "{{En|addresses}}" は固定された住所・自宅住所のみを指すとの解釈を示した。[[欧州連合基本権憲章]]の[[:s:en:Charter_of_Fundamental_Rights_of_the_European_Union#Article_47_Right_to_an_effective_remedy_and_to_a_fair_trial|第47条]] (効果的な救済と公正な裁判を求める権利) で保障されている救済の意義を認めつつも、知的財産権執行指令の立法者は[[下限平準化]]{{Efn2|「下限平準化」とは、EU法では最低限の基準を定めるに留め、EU加盟各国でそれを上回る基準を独自に設定することができる原則である{{R|CAA2023|LNGlossary}}。}}を選択しており、よって第8条の適用範囲は限定的に捉える必要があるとして、個人情報保護と著作権者の権利保護間はバランスをとる判決を下した。ただし下限平準化ということもあり、EU加盟各国の国内法化で住所以外も開示対象に含める権限があるともしている{{Sfn|EUIPO|2024|pp=154–155}}。 |
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351行目: | 351行目: | ||
: CJEU事件名: ''Peterson v YouTube and Elsevier v Cyando'', Judgment of the Court (Grand Chamber), 22 June 2021. Joined Cases [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A62018CA0682&qid=1732757448783 C-682/18 and C-683/18] |
: CJEU事件名: ''Peterson v YouTube and Elsevier v Cyando'', Judgment of the Court (Grand Chamber), 22 June 2021. Joined Cases [https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A62018CA0682&qid=1732757448783 C-682/18 and C-683/18] |
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: 2事件ともに、情報社会指令 第3条の公衆伝達権、および電子商取引指令 第14条のセーフハーバー条項が法解釈の焦点ではあるが、DSM著作権指令 第17条を意識しての判決と見られている{{Sfn|鈴木|2022|p=163}}。''Peterson v YouTube'' は英国歌手[[サラ・ブライトマン]]の歌唱楽曲の録音、および自作の曲の著作権を原告で音楽プロデューサーの[[フランク・ピーターソン]]が主張し、無許諾でYouTube上で拡散されたとして差止請求と損害賠償を求めた事件である。''Elsevier v Cyando'' は学術出版社[[エルゼビア]]がファイルのホスティングと共有サービス "Upload" を運営するCyandoの無許諾シェアに対し、差止請求と損害賠償を求めた事件である。2件ともドイツ国内裁判所から欧州司法裁判所に先決裁定が付託され、併合して判決が下された{{Sfn|鈴木|2022|p=163|loc=§ 脚注41}}。 |
: 2事件ともに、情報社会指令 第3条の公衆伝達権、および電子商取引指令 第14条のセーフハーバー条項が法解釈の焦点ではあるが、DSM著作権指令 第17条を意識しての判決と見られている{{Sfn|鈴木|2022|p=163}}。''Peterson v YouTube'' は英国歌手[[サラ・ブライトマン]]の歌唱楽曲の録音、および自作の曲の著作権を原告で音楽プロデューサーの[[フランク・ピーターソン]]が主張し、無許諾でYouTube上で拡散されたとして差止請求と損害賠償を求めた事件である。''Elsevier v Cyando'' は学術出版社[[エルゼビア]]がファイルのホスティングと共有サービス "Upload" を運営するCyandoの無許諾シェアに対し、差止請求と損害賠償を求めた事件である。2件ともドイツ国内裁判所から[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]に先決裁定が付託され、併合して判決が下された{{Sfn|鈴木|2022|p=163|loc=§ 脚注41}}。 |
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: YouTube、Cyandoのユーザーともに著作権侵害コンテンツの投稿を独自判断しており、OCSSPsは公衆伝達の行為者とは見なされなかった。OCSSPsが投稿・拡散に際して意図的かつ不可欠な役割を果たしていないためである{{Sfn|鈴木|2022|p=163}}。また著作権侵害行為に貢献していると見なすには、(1) 著作権侵害コンテンツを "具体的に" 認識している (specific knowledge) にもかかわらず、迅速に削除やブロックなどの措置を取らなかった場合、(2) 著作権侵害の "一般的な" 認識を有するべき立場にありながら、適切な技術的手段を講じなかった場合、(3) ユーザー投稿の判断にOCSSPs自らも意図的に関与し、共有手段を提供したり、著作権侵害を知りながら共有を促進している場合、この3点が要件となることが判示された{{Sfn|鈴木|2022|p=164|loc=判決文 para 102}}。 |
: YouTube、Cyandoのユーザーともに著作権侵害コンテンツの投稿を独自判断しており、OCSSPsは公衆伝達の行為者とは見なされなかった。OCSSPsが投稿・拡散に際して意図的かつ不可欠な役割を果たしていないためである{{Sfn|鈴木|2022|p=163}}。また著作権侵害行為に貢献していると見なすには、(1) 著作権侵害コンテンツを "具体的に" 認識している (specific knowledge) にもかかわらず、迅速に削除やブロックなどの措置を取らなかった場合、(2) 著作権侵害の "一般的な" 認識を有するべき立場にありながら、適切な技術的手段を講じなかった場合、(3) ユーザー投稿の判断にOCSSPs自らも意図的に関与し、共有手段を提供したり、著作権侵害を知りながら共有を促進している場合、この3点が要件となることが判示された{{Sfn|鈴木|2022|p=164|loc=判決文 para 102}}。 |
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: [[EU機能条約]]の[[:s:en:Consolidated_version_of_the_Treaty_on_the_Functioning_of_the_European_Union/Title_VII:_Common_Rules_on_Competition,_Taxation_and_Approximation_of_Laws#Article_102|第102条]] (優越的地位の濫用禁止) に関する事件である{{Sfn|EUIPO|2024|pp=119–120}}。原告の{{仮リンク|SABAM|en|SABAM}}はベルギーの作家・作詞家・出版者協会であり{{R|AboutSABAM}}、実質的に音楽イベント業界の著作権管理を独占している{{Sfn|EUIPO|2024|pp=119–120}}。ベルギーの[[クラブ・ミュージック]]系大規模イベントの[[トゥモローランド (音楽イベント)|Tomorrowland]]、および{{仮リンク|Wecandance|nl|WECANDANCE}} (WeCanDanceと綴ることも) に対し、楽曲利用料を請求したがその金額算出モデルが問題となった。チケット売上総額から予約手数料および諸税を差し引いた収入を元に、一定料率を掛けて算出されており、その収入の多寡にかかわらず割引なしの固定レートが適用されていたことから、ある種のSABAM税のようになっていた。これが優越的地位の濫用に該当すると音楽イベント主催2団体が主張し、SABAMと対立した。アントワープ{{仮リンク|商務裁判所 (ベルギー)|label=商務裁判所|en|Commercial Tribunal (Belgium)|nl|Ondernemingsrechtbank}} ({{Lang-nl|Ondernemingsrechtbank Antwerp}}) はEU機能条約 第102条の解釈を欧州司法裁判所に付託した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=119–120}}。 |
: [[EU機能条約]]の[[:s:en:Consolidated_version_of_the_Treaty_on_the_Functioning_of_the_European_Union/Title_VII:_Common_Rules_on_Competition,_Taxation_and_Approximation_of_Laws#Article_102|第102条]] (優越的地位の濫用禁止) に関する事件である{{Sfn|EUIPO|2024|pp=119–120}}。原告の{{仮リンク|SABAM|en|SABAM}}はベルギーの作家・作詞家・出版者協会であり{{R|AboutSABAM}}、実質的に音楽イベント業界の著作権管理を独占している{{Sfn|EUIPO|2024|pp=119–120}}。ベルギーの[[クラブ・ミュージック]]系大規模イベントの[[トゥモローランド (音楽イベント)|Tomorrowland]]、および{{仮リンク|Wecandance|nl|WECANDANCE}} (WeCanDanceと綴ることも) に対し、楽曲利用料を請求したがその金額算出モデルが問題となった。チケット売上総額から予約手数料および諸税を差し引いた収入を元に、一定料率を掛けて算出されており、その収入の多寡にかかわらず割引なしの固定レートが適用されていたことから、ある種のSABAM税のようになっていた。これが優越的地位の濫用に該当すると音楽イベント主催2団体が主張し、SABAMと対立した。アントワープ{{仮リンク|商務裁判所 (ベルギー)|label=商務裁判所|en|Commercial Tribunal (Belgium)|nl|Ondernemingsrechtbank}} ({{Lang-nl|Ondernemingsrechtbank Antwerp}}) はEU機能条約 第102条の解釈を欧州司法裁判所に付託した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=119–120}}。 |
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: 欧州司法裁判所は一定料率を適用すること自体は適法と判定しつつも、その率が過剰であり著作権者や利用料を徴収するSABAMによってもたらされる経済的な付加価値とのバランスを逸している可能性があり、国内裁判所で率の妥当性について検証するよう求めた{{Sfn|EUIPO|2024|pp=119–120}}。 |
: [[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]は一定料率を適用すること自体は適法と判定しつつも、その率が過剰であり著作権者や利用料を徴収するSABAMによってもたらされる経済的な付加価値とのバランスを逸している可能性があり、国内裁判所で率の妥当性について検証するよう求めた{{Sfn|EUIPO|2024|pp=119–120}}。 |
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:; {{Visible anchor|AMETIC対スペイン政府事件}} (スペイン、CJEU 2022年){{Sfn|EUIPO|2024|pp=122–124}}{{R|Perez2022}} |
:; {{Visible anchor|AMETIC対スペイン政府事件}} (スペイン、CJEU 2022年){{Sfn|EUIPO|2024|pp=122–124}}{{R|Perez2022}} |
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: 原告の{{仮リンク|スペイン電機・情報通信技術連合会|es|Asociación Multisectorial de Empresas Españolas de Electrónica y Comunicaciones}} (略称: AMETIC)<!-- 日本語の定訳なしで殆どはAMETIC表記 --> は[[情報通信技術]] (ICT) を中心とした[[経済団体]]である。AMETIC会員企業はVUDから認定を受けられなければ、第25条の利用料支払義務を負うため、VUDの背後にいるCMOによる優越的地位の濫用ではないかとしてAMETICが勅令無効を求めて提訴したのである{{R|Perez2022}}。 |
: 原告の{{仮リンク|スペイン電機・情報通信技術連合会|es|Asociación Multisectorial de Empresas Españolas de Electrónica y Comunicaciones}} (略称: AMETIC)<!-- 日本語の定訳なしで殆どはAMETIC表記 --> は[[情報通信技術]] (ICT) を中心とした[[経済団体]]である。AMETIC会員企業はVUDから認定を受けられなければ、第25条の利用料支払義務を負うため、VUDの背後にいるCMOによる優越的地位の濫用ではないかとしてAMETICが勅令無効を求めて提訴したのである{{R|Perez2022}}。 |
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: {{仮リンク|最高裁判所 (スペイン)|label=スペイン最高裁|en|Supreme Court of Spain}}から付託された欧州司法裁判所は、このような徴収・還付の制度は手続の簡素化や効率的運営を担保するものであり、かつそれが実質CMOによって運営されていたとしても、制度の意義を損ねるものではないと判示した。また認定までのプロセスなども検証した結果、EU法に反するものではないと判示した{{R|Perez2022}}。 |
: {{仮リンク|最高裁判所 (スペイン)|label=スペイン最高裁|en|Supreme Court of Spain}}から付託された[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]は、このような徴収・還付の制度は手続の簡素化や効率的運営を担保するものであり、かつそれが実質CMOによって運営されていたとしても、制度の意義を損ねるものではないと判示した。また認定までのプロセスなども検証した結果、EU法に反するものではないと判示した{{R|Perez2022}}。 |
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:; {{Visible anchor|LEA対Jamendo事件}} (イタリア、CJEU 2024年){{Sfn|EUIPO|2024|pp=113–114}}{{R|LEA-Kluwer}} |
:; {{Visible anchor|LEA対Jamendo事件}} (イタリア、CJEU 2024年){{Sfn|EUIPO|2024|pp=113–114}}{{R|LEA-Kluwer}} |
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: 原告はイタリア著作権管理団体 (CMO) の[[Liberi editori e autori]] (略称: LEA)<!-- 英語版・イタリア語版ともにページなし -->、被告はルクセンブルク設立の独立管理団体 ({{En|independent management entity}}、略称: IME) である{{仮リンク|Jamendo|en|Jamendo}}である{{Efn2|CMOもIMEも著作権管理団体の一形態である。IMEは著作権者から直接・間接的に支配を受けておらず、営利目的で設立・運営されている著作権管理団体を指す。これに対してCMOは著作権者が「構成員」としている点でIMEとは組織形態が異なる。またCMOの多くは非営利団体である。CMO、IMEともに[[著作権集中管理指令]] (2014/26/EU、略称: CRM指令) の規定が適用される{{R|IME-DefUK}}。}}。Jamendoは2004年よりイタリアでも事業展開している。{{仮リンク|著作権法 (イタリア)|label=イタリア著作権法|en|Copyright law of Italy}} 第180条では、外資系IMEによるイタリア国内の著作権管理業務は排除されていることから、Jamendoの業務停止命令を求めてローマ{{仮リンク|地方裁判所 (イタリア)|label=地方裁判所|it|Tribunale ordinario}} ({{It|Tribunale ordinario di Roma}}) にLEAが提訴した。被告Jamendoは[[著作権集中管理指令]] (2014/26/EU、略称: CRM指令) が誤った形でイタリアで国内法化されたと反論し、EU域内設立の外資系IMEもイタリア含む全EU加盟国内で営業する権利があると主張した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=113–114}}。 |
: 原告はイタリア著作権管理団体 (CMO) の[[Liberi editori e autori]] (略称: LEA)<!-- 英語版・イタリア語版ともにページなし -->、被告はルクセンブルク設立の独立管理団体 ({{En|independent management entity}}、略称: IME) である{{仮リンク|Jamendo|en|Jamendo}}である{{Efn2|CMOもIMEも著作権管理団体の一形態である。IMEは著作権者から直接・間接的に支配を受けておらず、営利目的で設立・運営されている著作権管理団体を指す。これに対してCMOは著作権者が「構成員」としている点でIMEとは組織形態が異なる。またCMOの多くは非営利団体である。CMO、IMEともに[[著作権集中管理指令]] (2014/26/EU、略称: CRM指令) の規定が適用される{{R|IME-DefUK}}。}}。Jamendoは2004年よりイタリアでも事業展開している。{{仮リンク|著作権法 (イタリア)|label=イタリア著作権法|en|Copyright law of Italy}} 第180条では、外資系IMEによるイタリア国内の著作権管理業務は排除されていることから、Jamendoの業務停止命令を求めてローマ{{仮リンク|地方裁判所 (イタリア)|label=地方裁判所|it|Tribunale ordinario}} ({{It|Tribunale ordinario di Roma}}) にLEAが提訴した。被告Jamendoは[[著作権集中管理指令]] (2014/26/EU、略称: CRM指令) が誤った形でイタリアで国内法化されたと反論し、EU域内設立の外資系IMEもイタリア含む全EU加盟国内で営業する権利があると主張した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=113–114}}。 |
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: ローマ地裁から付託された欧州司法裁判所はCRM指令の本題に入る前に、まず電子商取引指令および{{仮リンク|サービス指令|en|Bolkestein directive}} (Directive 2006/123/EC) が本件に適用されるか検証した。これら2指令は狭義の著作権 (著作者本人の著作権) および著作隣接権を対象外としていることから、演繹してCMOの活動も適用外と判定した。また[[EU機能条約]]の[[:s:en:Consolidated_version_of_the_Treaty_on_the_Functioning_of_the_European_Union/Title_IV:_Free_Movement_of_Persons,_Services_and_Capital#Article_56|第56条]]が保障するEU域内サービス提供の自由と、イタリア著作権法による外資規制が[[比例原則]]に照らし合わせてバランスがとれているかも検証した。CRM指令ではCMOはIMEと比較してより高い透明性義務を課されているほか、利益率の低い著作権処理も取り扱うなど事業収益性の観点で異なることから、CMOが市場で優遇される正当性があるとの見解を示した。これらを総合的に勘案した結果、外資IME規制は著作権保護の目的から逸脱した過度な外資IME規制をイタリア著作権法が科していると判定した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=113–114}}。 |
: ローマ地裁から付託された[[:著作権法の判例一覧 (欧州)#欧州司法裁判所|欧州司法裁判所]]はCRM指令の本題に入る前に、まず電子商取引指令および{{仮リンク|サービス指令|en|Bolkestein directive}} (Directive 2006/123/EC) が本件に適用されるか検証した。これら2指令は狭義の著作権 (著作者本人の著作権) および著作隣接権を対象外としていることから、演繹してCMOの活動も適用外と判定した。また[[EU機能条約]]の[[:s:en:Consolidated_version_of_the_Treaty_on_the_Functioning_of_the_European_Union/Title_IV:_Free_Movement_of_Persons,_Services_and_Capital#Article_56|第56条]]が保障するEU域内サービス提供の自由と、イタリア著作権法による外資規制が[[比例原則]]に照らし合わせてバランスがとれているかも検証した。CRM指令ではCMOはIMEと比較してより高い透明性義務を課されているほか、利益率の低い著作権処理も取り扱うなど事業収益性の観点で異なることから、CMOが市場で優遇される正当性があるとの見解を示した。これらを総合的に勘案した結果、外資IME規制は著作権保護の目的から逸脱した過度な外資IME規制をイタリア著作権法が科していると判定した{{Sfn|EUIPO|2024|pp=113–114}}。 |
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: なお2014年成立のCRM指令を2017年に国内法化する以前のイタリアは、著作物のジャンルごとに各CMOが実質的な独占状態にあった。{{仮リンク|競争・市場保護委員会 (イタリア)|label=イタリア競争・市場保護委員会|en|Italian Competition Authority}} (略称: AGCM、日本の[[公正取引委員会]]に相当) からも外資系IMEの参入規制を問題視する意見書が提出されていたにもかかわらず、無視されてそのまま国内法化された背景があった{{R|LEA-Kluwer}}。 |
: なお2014年成立のCRM指令を2017年に国内法化する以前のイタリアは、著作物のジャンルごとに各CMOが実質的な独占状態にあった。{{仮リンク|競争・市場保護委員会 (イタリア)|label=イタリア競争・市場保護委員会|en|Italian Competition Authority}} (略称: AGCM、日本の[[公正取引委員会]]に相当) からも外資系IMEの参入規制を問題視する意見書が提出されていたにもかかわらず、無視されてそのまま国内法化された背景があった{{R|LEA-Kluwer}}。 |
2024年12月21日 (土) 12:29時点における版
欧州の著作権法に関する事件例一覧 (おうしゅうのちょさくけんほうはんれいいちらん) では、欧州連合 (EU) ないし欧州経済領域 (EEA) 加盟国、欧州評議会加盟国、およびEUを離脱したイギリスの著作権を巡る訴訟事件、および行政による制裁措置を扱う。事件は多数存在するが、法学者や著作権に精通する弁護士などの識者が言及したものに絞って本項では取り上げ、事件名の右に特筆性を示す出典を付記する。
対象範囲
本項が取り上げる法律だが、EU著作権法が具体的にどの法令を指すのかは確固たる定義が存在しない状況である。EUでは著作権に関する法令はほとんどが指令の形をとり[1]、単発で提案されて都度採択され、それぞれが並存・補完し合っている。日本国著作権法やアメリカ合衆国著作権法のように一つの法律に体系的にまとまった (法典化した) 形にはなっていない[2]。
各種著作権指令の上位法にあたる欧州連合基本権憲章や欧州連合機能条約なども、著作権に関連する場合に取り上げる。後述のとおり、同憲章の第11条 (表現の自由) や第8条 (個人情報保護) などが各種著作権指令と併せて法廷で参照されることもある。これは過度な著作権保護が時として、著作物を利用する第三者の表現の自由や、その表現を伝達するデジタル・プラットフォーム事業者の企業活動の自由を抑圧しかねず、常に利害バランスの調整が求められるためである。またEU機能条約の第102条は優越的地位の濫用を禁じており (日本の独占禁止法に相当する欧州連合競争法の一部) 、著作物利用の対価を十分に支払わない大規模デジタル・プラットフォーム事業者に対し、行政当局が制裁を科すこともある。こうした訴訟以外の制裁措置も本項の対象とする。
著作権保護を主たる目的とはしない一般的なEU法令のうち、著作権にも一部関連しうるものがあり、こうした法令についても本項で取り扱う。例えばAI法 (別称: AI規則) は人工知能 (AI) の包括的な規制法であり、AIモデルの開発に用いられる学習データに他者の著作物が含まれることがあることから、著作権保護とも関連する。
EU加盟各国は発令された各種著作権指令に基づいて、国内の著作権法やその関連法を改正する、あるいは新法を成立させるなどして、指令の内容に則した法整備を行う (これを国内法化と呼ぶ)[3][4]。したがってEU域内で著作権侵害が起こると、多くはEU加盟各国の裁判所に提訴され、国内著作権法に基づいて審理される。しかしEU指令の条文解釈に問題がおよぶ場合は、国内裁判所がいったん審理を中断させて、欧州司法裁判所 (CJEU) などに解釈を付託する先決裁定 (英: preliminary ruling procedure) を求めることがある[5][6]。こうして欧州司法裁判所などから下された先決裁定の判決は、当事国以外のEU加盟国の判決にも後々影響をおよぼすこととなる。このような制度背景から、EU加盟国の判例をまとめて本項で取り上げる。
なお、2020年12月31日をもってイギリスはEUから完全に離脱しており、2021年1月1日以降の欧州司法裁判所の判決はイギリスに全く法的拘束力がおよばなくなり、またそれ以前の判決も後にイギリス国内で覆される可能性がある[7]。
事件一覧
事件の英語名をクリックすると、当ページ内の争点別詳細解説のセクションに遷移する。事件の英語名は文献によって表記揺れがあり[注 1]、日本語の文献でもそのまま英語表記することも多く、当表に記述した英語・日本語の事件名は参考情報の扱いとされたい。
国内訴訟が欧州司法裁判所 (CJEU) に先決裁定が付託された場合、あるいは欧州評議会加盟国を対象とした欧州人権裁判所 (ECtHR) に持ち込まれた場合は、国内裁判所の欄に (右上矢印) の記号を付記する。判決年、および事件番号は欧州司法裁判所ないし欧州人権裁判所を優先して表記する。デフォルトでは判決年月日の古い順に並べている。事件番号は欧州司法裁判所の判決はEUR-Lexの採番体系を記載している。その他、欧州人権裁判所や国内裁判所はそれぞれ独自の採番体系を用いている。
事件名通称 | 国内裁判所 | 判決年月 (事件番号) |
争点 | 著作物 | 判旨・その他備考 | 特筆性 |
---|---|---|---|---|---|---|
La Mode en Image v BY (エッフェル塔のライトアップ事件) |
フランス | 1992/03 (90-18.081) |
著作物性 | 照明演出 | エッフェル塔のライトアップは著作権保護の対象。 | [8] |
SABAM v Netlog (SABAM対Netlog) |
ベルギー | 2012/02 (C-360/10) |
プロバイダー責任 | デジタル全般 | ベルギー版Facebookに課された一般的監視義務 (防止策) の是非。 | [9][10] |
Mc Fadden v Sony Music Entertainment (メクファデン対ソニー・ミュージック)[注 2] |
ドイツ | 2016/09 (C-484/14) |
プロバイダー責任 | 音楽 | 無料Wi-Fi接続提供者は著作権侵害コンテンツ拡散の責任を負うか。 | [11][12] |
Renckhoff v Land Nordrhein-Westfalen (レンコフ対ノルトライン=ヴェストファーレン州) |
ドイツ | 2018/08 (C-161/17) |
例外・制限規定 (教育) | 写真 | 学生の課題論文に他者の写真が取り込まれて学校ウェブサイトで拡散。 | [13][14] |
Bastei Lübbe v Strotzer (バスタイ・ルブー対ストロッツァー) |
ドイツ | 2018/10 (C-149/17) |
プロバイダー責任 (開示請求) | 書籍 | 基本権憲章の「家庭生活の尊重権」は開示拒否の根拠になるか。 | [15][12] |
Levola Hengelo v Smilde Foods (Levola対Smilde食品) |
オランダ | 2018/11 (C-310/17) |
著作物性 | 食品 | 味覚は主観的であり、著作権保護の対象外と判示。 | [16][17] |
Kraftwerk v Pelham (クラフトヴェルク対ぺラム) |
ドイツ | 2019/07 (C-476/17) |
複製権 | 音楽 | 約2秒のリズム流用はサンプルであり複製権侵害に当たらない。 | [18][19] |
G-Star v Cofemel (G-Star対Cofemel) |
ポルトガル | 2019/09 (C-683/17) |
著作物性 | 実用品 (アパレル) | Tシャツやジーンズ製造・販売業者同士のデザイン盗用を巡る事件。 | [20][21] |
Glawischnig-Piesczek v Facebook (グラヴィシュニク対Facebook) |
オーストリア | 2019/10 (C‑18/18) |
プロバイダー責任 | 投稿コメント | 政治家に対する誹謗中傷コメントとシェア拡散削除命令は国外にもおよぶか。 | [22][23] |
SI and Brompton Bicycle Ltd v Chedech/Get2Get (ブロンプトン対チェデック) |
ベルギー | 2020/06 (C-833/18) |
著作物性 | 実用品 (自転車) | 折り畳み自転車の技術デザインは著作権と意匠で二重保護されるか。 | [24][25] |
Constantin Film v YouTube (コンスタンティン・フィルム対YouTube) |
ドイツ | 2020/07 (C-264/19) |
プロバイダー責任 (開示請求) | 映画 | 権利侵害ユーザーの情報開示対象にEメールや電話番号なども含めるか。 | [26] |
SABAM v Tomorrowland and Wecandance (SABAM対Tomorrowland/Wecandance事件) |
ベルギー | 2020/11 (C-360/10) |
競争法 | 音楽 | 音楽イベントの売上ベースで利用料を課すのは優越的地位の濫用か。 | [27] |
UCMR-ADA v Suflet de Român (UCMR-ADA対ルーマニアの魂) |
ルーマニア | 2021/02 (C-501/19) |
集中管理団体 | 音楽 | 集中管理団体は付加価値税 (VAT) 納税主体か。 | [28] |
CV-Online v Melons (CV-Online対Melons) |
ラトビア | 2021/06 (C-762/19) |
実質的投資 | データベース (求人広告) | 求人広告まとめサイトはリンクだけでも著作権侵害か。 | [29] |
Peterson v YouTube and Elsevier v Cyando (ピーターソン対YouTube、エルゼビア対Cyando) |
ドイツ | 2021/06 (C-682/18 & C-683/18) |
プロバイダー責任 | 音楽、書籍 | 2件併合判決。YouTubeなどは一次侵害責任を負うか。 | [30] |
Top System v Belgian State (トップ・システム対ベルギー政府) |
ベルギー | 2021/10 (C-13/20) |
複製権 | プログラム | エラー修正目的の逆コンパイルは許諾を要するか。 | [31] |
Austro-Mechana v Strato (Austro-Mechana対Strato) |
オーストリア | 2022/03 (C-433/20) |
複製権 | デジタル全般 | クラウド保存は複製料支払の対象か。 | [32] |
Safarov v Azerbaijan (セフェロフ対アゼルバイジャン政府) |
アゼルバイジャン | 2022/09 (No 885/12) |
例外・制限規定 (教育)、消尽論 | 書籍 | 非営利団体による無許諾の書籍デジタル化の違法性。 | [33] |
RTL Television v Grupo Pestana (RTL対ペスタナ) |
ポルトガル | 2022/09 (C-716/20) |
公衆伝達権 | テレビセット | 無料番組をケーブルでホテル個室のテレビに流すのは「再配信」か。 | [34][35] |
MPLC v Citadines Betriebs (MPLC対シタディーン) |
ドイツ | 2024/04 (C‑723/22) |
公衆伝達権 | テレビセット | 個室にテレビセットを設置したホテルは公衆伝達権侵害か。 | [36][37] |
Poland v European Parliament and Council of the European Union (ポーランド政府対欧州議会・欧州連合理事会) |
n.a. | 2022/04 (C-401/19) |
立法無効 | デジタル全般 | 2019年に成立したDSM著作権指令の第17条 (通称「アップロードフィルター条項」) は合法立法であると判断。 | [38][39] |
AMETIC v Administración General del Estado (AMETIC対スペイン政府) |
スペイン | 2022/09 (C-263/21) |
集中管理団体 | デジタル全般 | 私的複製にかかる利用料徴収の法令無効化請求 | [40][41] |
Koch Media v FU (コッホ・メディア対FU) |
ドイツ | 2024/04 (C-559/20) |
公衆伝達権 | ゲーム | 提訴前に発生した弁護士費用も著作権侵害者負担にできるか。 | [42][43] |
Seven.One Entertainment Group v Corint Media (Seven.One対Corint Media) |
ドイツ | 2023/11 (C-260/22) |
集中管理団体 | テレビ番組 | 私的複製分の利用料をテレビ局に分配すべきか。 | [44] |
Kopiosto v Telia Finland (Kopiosto対Telia) |
フィンランド | 2023/11 (C‑201/22) |
集中管理団体 | テレビ番組 | 著作権侵害で集中管理団体に提訴資格はあるか。 | [45] |
Public.Resource.Org & Right to Know v European Commission (PRO対欧州委員会) |
n.a. (EU一般裁判所) | 2024/05 (C-588/21 P) |
著作物性 | 公的文書 | 民間団体作成の欧州規格関連文書に情報公開義務は生じるか。 | [46] |
Liberi editori e autori (LEA) v Jamendo (LEA対Jamendo) |
イタリア | 2024/05 (C-10/22) |
競争法 | 音楽 | 外資系著作権管理団体のイタリア市場参入規制は違法。 | [47][48] |
GEMA v GL (GEMA対GL) |
ドイツ | 2024/06 (C-135/23) |
公衆伝達権 | テレビアンテナ | マンションに屋内アンテナを設置した不動産管理会社は公衆伝達権侵害か。 | [49] |
Kneschke v LAION (クネシュケ対LAION) |
ドイツ | 2024年 (係争中) |
例外・制限規定 (TDM) | 写真 | 写真をAI学習データに無断・無償流用できるか。 | [50] |
著作物性
ある作品が著作権保護の対象となるのかが問われた事件を「著作物性」関連のトピックで以下にまとめる。
アイディア・表現二分論
著作権では創作的な表現を保護し、その表現の大元となるアイディア (事実・発見・概念などを含む) は保護の対象外とする法律上の原理原則がアイディア・表現二分論である[51]。どこまでを著作権法で保護するのかが問われた判例は以下のとおりである。
- エッフェル塔のライトアップ事件 (フランス 1992年)[8]
- エッフェル塔のライトアップの著作物性が問われ、破毀院 (フランス最高裁) は1992年、著作権保護の対象であると認めた (Cour de cassation, Chambre civile 1, du 3 mars 1992, 90-18.081)[8]。判決文によると、エッフェル塔建造100周年記念行事でエッフェル塔がライトアップされ、その風景を写真に収めた者が絵葉書にして販売したことから、事件へと発展した。エッフェル塔の公式ホームページ上では、夜間撮影であっても私的目的であればSNS上でのシェアも問題ないとしている。その上で、プロによる撮影時はエッフェル塔管理者からの事前許諾取得が必要としている[52]。
- CJEU事件名: Levola Hengelo BV v Smilde Foods BV, Judgment of the Court (Grand Chamber), 13 November 2018. C-310/17
- 通称「Levola Hengelo判決」[17]。食品の味は、著作権の国際基本条約であるベルヌ条約の第2条第1項 (著作物の定義)、および情報社会指令に基づいて著作権保護の対象となるうるのかが争点となった事件。クリームチーズをベースとしたフレッシュ・ハーブ入りのスプレッド (パンに塗る加工食品で商品名は "Heks'nkaas") が訴訟対象となった[16]。
- Heks'nkaasは2007年に開発され、その後知的財産権が食品企業Levola社に移転している。一方、Smilde食品は2014年1月より "Witte Wievenkaas" の商品名でスーパーマーケットチェーン向けに商品を提供開始したことから、Levolaが味覚の著作権侵害でSmildeを提訴した。オランダ控訴裁判所から欧州司法裁判所に付託された[53]。
- アイディア・表現二分論のリーディングケースとして知られる2009年のInfopaq判決では、著作者の「創作性」が「表現」された部分にのみが著作権保護の対象となると示されている。そしてその特徴が「明確かつ客観的」に知覚できることを法的保護の要件と位置づけたのが2018年欧州司法裁判所のLevola判決である。食品の味覚は個々人の年齢や食の嗜好、日々の食生活、食事する空間やシーンなどにも影響されることから、この「明確かつ客観的」な要件を満たしえないとして、原告の主張を退けた[16]。
- G-Star対Cofemel事件 (ポルトガル、CJEU 2019年)[20]
- CJEU事件名: Cofemel — Sociedade de Vestuário AS v G-Star Raw CV, Judgment of the Court (Third Chamber), 12 September 2019. C-683/17
画像外部リンク | |
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G-StarとCofemelのデザイン対比 - www.sgcr.pt および www.aippi.org からの転載 |
- 通称「Cofemel判決」[24][21]。アパレルメーカー同士の争いであり、欧州共同体意匠指令 (Directive 98/71/EC) 第17条を始めとする意匠デザインと、情報社会指令などの著作権で二重保護 (重畳的保護) されうるのかが問われた事件である[20][54]。G-Star社は "Arc" の商標名でジーンズを、また "Rowdy" の商標名でスウェットシャツとTシャツを製造販売していた[55]。Cofemel社の "TIFFOSI" ブランド製品がG-Starのデザインと酷似しているとして、G-Starがポルトガルの第一審裁判所に著作権侵害および不正競争法違反で提訴した[20][55]。一審、リスボンの控訴審ともに原告G-Starの訴えを認めるも、被告が上告している[56]。ポルトガル最高裁 (Supremo Tribunal de Justiça) はポルトガル著作権法 (Código dos Direitos de Autor e dos Direitos Conexos、略称: CDADC) 第2条第1項(i)号で応用美術や産業デザインなどを保護対象として列記しているものの、創作性がどの程度求められるのかは過去の国内判例や学説でも一致した見解がないことから、欧州司法裁判所に先決裁定を付託した[57]。
- 欧州司法裁判所はEU著作権法における「著作物」は著作者本人の知的創造性によって表現されていること、そしてその特徴が明確かつ「客観的」に知覚できることを法的保護の要件と位置づけた (前年の味覚を巡る #Levola対Smilde食品事件判決を踏襲)。またEU法では意匠と著作権の保護は異なる法制度であるものの、二律背反ではないとも示した。一方で審美性は個々人の「主観」に基づくものであり、本件では服飾デザインが知的創造性や創作的な選択の組み合わせの要件を十分に満たしているとは言い難いとした[20]。換言すると、実用性という客観的な目的を超えた主観的な審美性の観点を情報社会指令では保護要件として認めていない[58]。
- CJEU事件名: SI and Brompton Bicycle Ltd v Chedech/Get2Get, Judgment of the Court (Fifth Chamber), 11 June 2020. C-833/18
- 先例となる2019年の#Cofemel判決を踏襲した判例。情報社会指令の第2条から第5条 (著作者の排他的権利) が折り畳み自転車のような実用品にも適用されるかが問われた。イギリス発祥ブロンプトン・バイシクル (社名: SI and Brompton Bicycle、ブランド名: the Brompton bicycle) は折り畳み自転車を販売していた。この商品の特徴は折り畳み、展開・走行、そして駐輪の3モードに切り替えられる点にある。かつては特許を取得するも特許期間が過ぎて失効していた[24]。一方、韓国のGet2Get社は the Chedech bicycle (読み: チェデックまたはチェデク[59]) を販売しており、3モードの特徴が Brompton bicycle と極めて似ていたことから、ブロンプトンがベルギー・リエージュの商務裁判所 (Tribunal de l'entreprise de Liège) に著作権侵害と非金銭的損害を併せて賠償を求めて訴訟を提起した[24]。
- ベルギー国内では、有形に表現されて創作性が発揮されていれば、自転車のような実用品であっても著作権保護の対象となると判示された。しかし技術的な結果として形作られている実用品にまで著作物性は認められるのか、解釈を欧州司法裁判所に付託した。欧州司法裁判所は個性が投映されていて、かつ自由で創作的な選択の組み合わせが表現されていれば、それが技術的な制約を受ける実用品であっても著作権で保護されると判示した[24]。
- PRO対欧州委員会事件 (EU一般裁判所 2021年、CJEU 2024年)[46]
- EU一般裁判所事件名: Public.Resource.Org & Right to Know v European Commission, Judgment of EU General Court (Fifth Chamber), 14 July 2021. T-185/19
- CJEU事件名: Public.Resource.Org, Inc. and Right to Know CLG v European Commission, Judgment of the Court (Grand Chamber), 5 March 2024. C-588/21 P
- EU一般裁判所に提起された訴訟を欧州司法裁判所が覆しているため、両判決を取り上げる。米国に拠点を置く非営利団体の Public.Resource.Org (略称: PRO) と アイルランドの情報公開促進を目指して活動する非営利団体 Right to Know CLG[60]が、欧州標準化委員会 (略称: CEN) の策定する欧州規格4点に関連する文書の情報公開を求めて欧州委員会に請求した事件である。情報公開などを定めた2001年の規則 (Regulation (EC) No 1049/2001) 第4条第2項では、公共の利益に反しない限りにおいて、個人または法人の商業上の利益保護の観点から知的財産の内容開示を拒否できる。これを根拠に欧州委員会は著作権保護下にあるとして、CENの欧州規格文書の開示を拒んだことから、原告の2団体がEU一般裁判所に提訴した[46]。
- EU一般裁判所は、開示請求の対象となっている文書に著作権が発生しているか (つまり著作物性の要件を満たしているか) 欧州委員会に判断権限があるとした。原告2団体は、CENが規格を策定するにあたって自由で創作的な情報の選択・組み合わせを行っていない (つまり創作性に欠けて著作物性はない) との立証が不十分であった。欧州規格のように立法府が一定の前提を示している場合、規格文書の策定には創作性に一定の制約がかかるが、このような特別事情についても原告2団体は言及していない。また、欧州規格制度の円滑運用という公共の利益が、規格文書の情報開示利益に勝る。これらを勘案し、EU一般裁判所はCENの規格文書に著作物性を認めた[46]。
- しかし欧州司法裁判所がこれを覆し、4文書の情報公開請求を認めた。欧州規格はEU法令の一部と見なされたためである。この判決により、将来的にEU国内規格の文書についても有料販売されていたものが無料公開に変更される可能性がある[61]。
コンピューター・プログラム
データベース権
- CV-Online対Melons事件 (ラトビア、CJEU 2021年)[29]
- CJEU事件名: CV-Online Latvia v Melons, Judgment of the Court (Fifth Chamber), 3 June 2021. C-762/19
- データベース指令 (Directive 96/9/EC) 第7条の解釈を巡る事件。CV-Online はラトビアで最も普及している求人ポータルサイトを運営しており、職種や求人掲載日などのキーワードで絞り込める「メタタグ」で分類された求人データベースを有していた。同じくラトビア企業のMelonsは www.kurdarbs.lv のドメイン名で検索エンジンを運営していた。この検索エンジンは、CV-Onlineを含む他社サイト上の求人情報をポータル集約する機能を有していた。この機能により、検索エンジンのユーザーは各社求人を横比較でき、詳細はハイパーリンクを辿って各社求人広告元サイトのページにアクセスできた。CV-Online側は、自社データベースの相当割合をMelonsがデータ抽出 (extraction) の上で再利用 (re-utilisation) しているとして、データベース指令 (Directive 96/9/EC) 第7条のスイ・ジェネリス権侵害を主張した。ラトビア国内の一審では原告CV-Onlineの主張を認めたが、二審で欧州司法裁判所に先決裁定を付託することとなった。付託されたのは、(a) ハイパーリンクがデータの「再利用」に該当するのか、(b) メタタグのデータ利用がデータベースからの「抽出」に該当するのかの2点である[29]。
- 欧州司法裁判所はスイ・ジェネリス権は「実質的投資」の有無で判断されるとした上で、本件ではこの要件を満たしていると判定した。また本件に限らず一般論として、他者による再利用や抽出によってデータベースの投資回収に必要な収益を奪う行為は権利侵害に該当するとして、再利用や抽出の定義を広く捉えるべきであると言及している。データーベースの開発者、競合他社やユーザー間の利害バランスを考慮するにあたり、再利用や抽出が実質的投資に与えうる影響が主たる判断材料になるともしている[29]。
集合著作物・共同著作物
著作権の帰属
職務著作
権利譲渡
複製権
- Googleサジェスト機能 (オートコンプリート機能) が著作権法上の複製権侵害に該当するかについて、欧州各国の司法判断は分かれている[62]。
映像外部リンク | |
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Kraftwerk "Metall auf Metall" - Kraftwerk公式YouTubeより | |
Sabrina Setlur歌唱楽曲 "Nur mir" - プロデューサーMoses Pelhamの音楽レーベル "3pTV" 公式YouTubeより |
- CJEU事件名: Pelham GmbH, Moses Pelham, Martin Haas v Ralf Hütter, Florian Schneider-Esleben, Judgment of the Court (Grand Chamber), 29 July 2019. C-476/17
- 通称「Pelham判決」[19]。楽曲から短い部分をサンプルとして他に流用したことで著作権侵害が問われた事件。情報社会指令 第2条(c)号の複製権、同指令 第5条第3項(d)号の引用の要件、貸与権指令 (2006/115/EC) 第9第1項(b)号のレコード製作者の頒布権、および欧州連合基本権憲章に関する解釈が争点となった。原告はドイツのテクノポップ系バンド・クラフトヴェルク (Kraftwerk) のメンバー、被告は音楽プロデューサーでラッパーのモーゼス・ペラム (Moses Pelham) である。原告の楽曲 "Metall auf Metall" から約2秒分のリズムをぺラムが抽出し、それをぺラムがプロデュースするサブリナ・セトリューア (Sabrina Setlur、旧名: Schwester S) の歌唱する楽曲 "Nur Mir" 内で何度もループ再生利用した[18][19]。
- 欧州司法裁判所はサンプル流用一般は複製権侵害に当たりうるとした上で、本件で流用された箇所が一般聴者からは原曲からの流用だと認識不能であり、このような場合は欧州連合基本権憲章で保障される表現の自由の範疇内だとして著作権侵害に当たらないとした。また貸与権指令で規定する複製は他者著作物から相当量を用いており、海賊版に相当するため損害賠償請求の対象となるが、サンプルはこの意味での複製とは別概念だとして峻別した。新たな著作物の著作者が原著作物との「対話」(dialogue) を意図している場合、サンプル利用はむしろ引用の一類型と見なせるとした[18]。
- トップ・システム対ベルギー政府事件 (ベルギー、CJEU 2021年)[31]
- CJEU事件名: Top System SA v Belgian State, Judgment of the Court (Fifth Chamber), 6 October 2021. C-13/20
- ベルギーのIT企業トップ・システム社 (Top System SA) が開発したシステムがベルギー連邦人事組織庁 (旧略称: SELOR、現: オランダ語: Werkenvoor.be または 仏: Travaillerpour.be) に導入されており、両者間でユーザーライセンス契約が締結されていた。SELORがこのシステムを逆コンパイル (別称: デコンパイル、人間には判読不能な機械語で記述されたプログラムを判読可能なプログラミング言語に置換・翻訳する作業) したことから、コンピュータプログラム指令 (Directive 91/250/EEC) の権利侵害でトップ・システムが提訴した。一審は原告の主張を退けている。二審のブリュッセル控訴裁判所では、設計ミスを修正する目的で逆コンパイルしたにすぎず、同指令 第6条第1項 (相互運用性等を目的とした逆コンパイル) に基づく適法性を被告SELORが主張した。また同指令 第5条第1項ではエラー修正目的であればプログラム権利者の許諾を要しないと規定されている[31]。
- ブリュッセル控訴裁から付託された欧州司法裁判所は、逆コンパイル行為そのものは複製権の行使に当たるものの、エラー発生によって運用上支障をきたしている場合は、複製権侵害に当たらないとした。またエラー修正であれば第6条 (相互運用性) の要件を満たすかは不問であるともしている。ここでの「エラー」は法律外の一般的な用語定義に従うものの、エラー修正に際してはプログラムの個別ライセンスの規約に則った厳格な解釈が必要であるとも付言している[31]。
- Austro-Mechana対Strato事件 (オーストリア、CJEU 2022年)[32]
- CJEU事件名: Austro-Mechana Gesellschaft zur Wahrnehmung mechanisch-musikalischer Urheberrechte Gesellschaft mbH v Strato AG, Judgment of the Court (Second Chamber), 24 March 2022. C-433/20
- 原告のAustro-Mechanaは作家作曲家音楽出版社協同組合 (略称: AKM) 傘下で音楽の録音権 (Mechanical rights) を扱うオーストリアの著作権管理団体である[63]。ドイツIT企業でクラウドサービスを提供するStratoに対し、クラウド上に保存してある複製された著作物「すべて」を対象に、Austro-Mechanaが利用料を請求したことから訴訟へと発展した。被告Strato側は、そもそもクラウドサービスには直接利用料を支払う義務もなく、またサーバー所在地のドイツでは適切な支払を行っており、オーストリア在住のクラウドサービス利用者はクラウド上にコンテンツを投稿する際に個々が複製利用料を支払っていると主張して抗弁した[32]。
- 一審ではStratoが公衆伝達を行っているのではなく、ユーザーにクラウド保存サービスを提供しているにすぎないとして、原告の訴えを退けた。その後、控訴審のウィーン高等地方裁判所 (Oberlandesgericht Wien、略称: OLG Wien) から欧州司法裁判所に情報社会指令 第5条第2項(b)号 (媒体上での私的複製に関する例外・制限規定) の解釈を付託した[32]。
- 本事件で法務官 (Advocate General、略称: AG)[注 3] を務めたジェラルド・ホーガン (Gerard Hogan) は欧州司法裁判所の最終判決の約半年前に意見書を提出しており (ECLI:EU:C:2021:763)[65]、最終判決もほぼホーガン法務官の意見に従ったものとなっている[66]。第一に、クラウドへの保存行為は情報社会指令が規定する複製権の行使に当たるとした上で、同指令第5条の私的複製の例外・制限規定にはクラウドサービス利用者も含まれうるとした。第二に、サービス利用者は著作物購入時点で複製のための料金も含めて支払っていることから、クラウド保存時に再度支払う義務はないと判示した[66]。
画像外部リンク | |
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ゲームのスクリーンショット画像 - メーカー公式ウェブサイト掲載 |
- CJEU事件名: Koch Media GmbH v FU, Judgment of the Court (Tenth Chamber), 28 April 2022. C-559/20
- 知的財産権執行指令 (Directive 2004/48/EC) の第14条に基づき、提訴前に発せられた著作権侵害の警告にかかる弁護士費用は、敗訴した被告側に負担させることができるかが問われた事件である[42]。原告のコッホ・メディア (Koch Media、2022年8月よりPlaionに社名変更[67]) はドイツ語圏でゲームやソフトウェアなどを開発・販売する企業である。コッホ・メディア社の一部門であるDeep Silverが開発したゲーム "This War of Mine" を被告 (イニシャルはF.U.で判決文でも伏字) がP2Pファイルシェアを用いて拡散したことから、提訴前に警告を発した[42]。警告文には著作権侵害行為の停止だけでなく、弁護士費用の負担も含まれており、被告はこの内容を拒否したことから法廷へと持ち込まれた[43]。
- ドイツ著作権法 第97a条では裁判手続を開始する前に警告を発することが義務付けられており、訴訟外の紛争解決が促されている[68]。また同条では自然人が非営利・私的に著作権侵害を引き起こした場合は、侵害内容に応じて費用負担の上限を1,000ユーロに定めている[68][42]。一審のザールブリュッケン区裁判所 (Amtsgericht Saarbrücken) は弁護士費用総額のうち124ユーロのみを支払うよう被告に命じた[42]。コッホ・メディア側はザールブリュッケン地方裁判所 (Landgericht Saarbrücken) に控訴し、弁護士費用全額の964.60ユーロを負担するよう求めた。ファイルシェアによる損害を2万ユーロ相当と見積もって、全額負担相当と判断してのことである[42]。
- 控訴審から付託された欧州司法裁判所は、金額が過度ではなく、かつ侵害を受けた側の救済の目的に即した合理的水準に設定されていれば、個人・非営利の不法行為に弁護士費用負担の上限を国内法で個別に設けることができると判示した[42]。
公衆伝達権
- CJEU事件名: RTL Television GmbH v Grupo Pestana S.G.P.S., S.A. and SALVOR - Sociedade de Investimento Hoteleiro, S.A., Judgment of the Court (Fifth Chamber), 8 September 2022. C-716/20
- 衛星・ケーブル指令 (Directive 93/83/EEC) 第1条第3項 (再送信の定義) および第8条第1項 (再送信の許諾) の解釈が問われた事件であり、同指令が欧州司法裁判所で審理されるのは稀なケースだと言われている[35]。被告のペスタナ (Grupo Pestana) が傘下に治めるSALVOR – Sociedade de Investimento Hoteleiro (ポルトガルのホテル) ではホテル個室にテレビセットが設置され、同軸ケーブル (coaxial cable) を使ってテレビ番組を視聴できた。原告のドイツ語系RTL Televisionは無料放送を提供しており、私的空間であれば番組受信料は発生しない。またパラボラ・アンテナ (皿状のアンテナ) を使えば、RTLの番組はポルトガルを含む国外でも受信できる。RTLはテレビ信号の再送信には事前の許諾が必要だと主張し、受信料支払を求めてポルトガル国内で提訴した。被告側は、ポルトガル著作権法ではテレビ信号の単なる受信だけであれば、著作物利用にかかる利用料の支払義務はないと抗弁した[34]。
- 一審と控訴審は、ホテル側が公衆伝達の行為を行ったと認定しつつも、ホテルはケーブル放送事業者ではないことから、同軸ケーブルの使用は番組の「再送信」には該当しないと判示した。原告が上告し、ポルトガル最高裁 (Supremo Tribunal de Justiça) が欧州司法裁判所に付託した[34]。
- 欧州司法裁判所は衛星・ケーブル指令 第8条第1項を、有料で公衆伝達するケースに限り、放送事業者が利用許諾を求める排他的権限を有するとの解釈を示した。つまり、視聴者がホテル施設などどこで視聴するかは不問である。また同指令同条はケーブル放送事業者を対象にしており、ホテル事業者は適用対象外の業態であるとも示した[35]。
- CJEU事件名: Citadines Betriebs GmbH v MPLC Deutschland GmbH, Judgment of the Court (Sixth Chamber), 11 April 2024. C‑723/22
- ホテル事業者シタディーン (Citadines、現: シンガポール系The Ascott Limited傘下) が個室やフィットネスルームにテレビセットを設置してテレビ番組を配信したことから、公衆伝達権侵害に該当するのかが問われた事件[36]。原告はテレビ番組などの米系著作権管理団体 Motion Picture Licensing Corporation (略称: MPLC) のドイツ現地法人であり、ミュンヘン地方裁判所 (Landgericht München) に提訴した[36]。問題となったテレビ番組は無料の公共放送局のシリーズものである[37]。被告シタディーンは公衆伝達の行為者か否かは争点にはしておらず、ケーブル放送局と締結済みのライセンス契約に照らし合わせて契約範囲内の再配信であると主張した[37]。一方原告MPLC側は、ホテル館内のケーブル配線網まではライセンス契約の対象に含まれていないとして、双方の主張は食い違っていた[37]。原告がミュンヘン高等地方裁判所 (Oberlandesgericht München) に控訴し、その後控訴審から欧州司法裁判所に付託された[36]。
- 欧州司法裁判所は、シタディーンがケーブル放送事業者ではないことを理由に、テレビセットの設置そのものは著作権侵害に当たらないとした。その上で、ケーブル放送事業者とホテル間のライセンス契約内容にかかわらず、ケーブル網を使って各室のテレビセットに番組を再配信する行為は公衆伝達に該当しうるとした。またホテル利用客は多数に上ることから、「公衆」の定義を満たす。さらに著作権保護下にあるコンテンツをホテルが利用客に能動的に提供しており、利用客は当該コンテンツを視聴する別手段は利用不可である。このようなテレビセットの導入はホテルの付加価値向上に寄与し、収益増につながる。また、各テレビセットに配信するケーブル配線網の仕組みそのものはホテル側が独自に有しているものであり、公衆伝達をホテルが行っていると判示された[36]。
- GEMA対GL事件 (ドイツ、CJEU 2024年)[49]
- CJEU事件名: Gesellschaft für musikalische Aufführungs- und mechanische Vervielfältigungsrechte eV (GEMA) v GL, Judgement of the Court (First Chamber), 20 June 2024. Case C-135/23
- 公衆伝達権の著作権侵害事件。被告のGLは自社が不動産管理するマンション向けに屋内アンテナを内蔵したテレビを提供していた。このアンテナは室内の音楽も拾うことができる。これが情報社会指令の第3条第1項の「公衆伝達」行為に該当するのかが問われた[49]。
- ドイツ・ポツダム地方裁判所 (Amtsgericht Potsdam、略称: AG Potsdam) から付託された欧州司法裁判所は2024年、GLの行為は意図的であり、かつこのようなアンテナが備わっていることで管理物件の付加価値につながり、さらに入居者が相当数に上ることから公衆伝達に該当すると認めた。また同指令は特定の技術要件に縛られない一般的な規定であることから、屋内アンテナか中央集中管理型アンテナかは不問であるとした[49]。
例外・制限規定
パロディ
テキストおよびデータマイニング
- クネシュケ対LAION事件 (ドイツ、2024年時点で係争中)[50]
- 人工知能 (AI) の学習データ用に自身の写真作品が無断で利用されたとして、写真家 Robert Kneschke (ロベルト・クネシュケ) がデータ収集者のドイツ非営利団体 LAION (ライオン) を著作権侵害で提訴した事件である。当事件は世界に先駆けたAI関連判決としてEU域外からも注目され[69][70][71]、DSM著作権指令の「テキストおよびデータマイニング」(略称: TDM) 関連では初の判決である[69][70]。さらにEUでは2024年8月からAI法が施行され[72]、一審ではAI法にまで踏み込んで言及している点も注目されている[69][70]。
- 一審のハンブルク地方裁判所は2024年9月27日、原告の訴えを棄却したが[69][70]、判決から約1か月後に原告側が控訴したと公表している[73]。控訴の場合には、欧州司法裁判所に先決裁定が付託される可能性も有識者から指摘されている[70]。
教育・科学研究・非営利目的
- CJEU事件名: Land Nordrhein-Westfalen v Dirk Renckhoff, Judgement of the Court (Second Chamber), 7 August 2018. Case C-161/17
- 別称「コルドバ判決」[14] (Córdoba Case、写真の被写体となったスペインの都市名にちなむ)。情報社会指令の第3条第1項 (著作権者に排他的に認められる公衆伝達権)[13]、および同指令の第5条第3項(a)号 (教育・科学研究目的の第三者利用)[14]の解釈が問われた事件である。
- 旅行ポータルサイトに掲載されていた写真をドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州の公立校学生がダウンロードして、自身の論文内でイラストとして再利用した。論文には写真の出典を明記しており、この論文が学校のウェブサイトに掲載された[13]。欧州司法裁判所は、学校ウェブサイトへの掲載は「公衆伝達」の行為に該当し、写真の著作権者たる写真家の事前許諾が必要とされると判示した。写真を取り込んで (転載して) 別サイトにアップロードする行為と、元の写真ポータルサイトへのハイパーリンクを張る行為を判決では峻別している。なお、ハイパーリンクを巡る類似事件としては2014年の Svensson判決 (Nils Svensson and Others v Retriever Sverige AB, Judgment of the Court (Fourth Chamber), 13 February 2014. Case C-466/12) が先例としてある[13]。
- なお、情報社会指令第5条第3項(a)号は、非営利であること、また出典を明記することを前提に、学業や科学研究目的の他者著作物利用を適法としている。しかし第5条の例外・制限規定はEU加盟各国が国内法化するかは「任意」になっている。当判決の翌年にはDSM著作権指令が成立し、第5条では同じく教育目的の例外・制限規定を設けており、こちらは国内法化が「必須」となっている違いがある[14]。
- セフェロフ対アゼルバイジャン政府事件 (アゼルバイジャン、ECtHR 2022年)[33]
- ECtHR事件名: Safarov v Azerbaijan, Judgment of the Court (Fifth Section), 1 September 2022. No 885/12
- アゼルバイジャン著作権法、特に例外・制限規定および消尽に関する規定を国内司法裁判所が不当に解釈し、書籍の不法複製やデジタル頒布の著作権侵害に適切に対処していないことから、欧州人権条約の第1条に反し、著作権保護が蔑ろにされたと認定された事件[33]。
- 原告のセフェロフ (アゼルバイジャン語: Rafiq Firuz oğlu Səfərov、ラテンアルファベットでは Rafig Firuz oglu Safarov 表記) は2009年に書籍を出版し、若者を支援する非営利団体のIrali Public Unionがこれを無断・無償で電子化して自団体のウェブサイトに掲載した。セフェロフの要請により削除されるまでの間、417回ダウンロードされており、セフェロフが著作権侵害でIraliを提訴した。一審のサバイル地区裁判所 (英: Sabail District Court) はアゼルバイジャン著作権法 第18条などを理由に、原告の主張を棄却している。二審のバクー控訴裁判所 (英: Baku Court of Appeal) も一審を支持。ただしその根拠として第18条だけでなく、例外・制限規定を定めた第17条も追加している。さらにアゼルバイジャン最高裁では消尽に関する規定も追加参照した上で、原告側の主張を棄却した[33]。
- これを受け、原告がアゼルバイジャン政府を相手取って欧州人権裁判所 (ECtHR) に提訴した。この際、原告側は書籍の著作物性は争点にしておらず、アゼルバイジャン司法が国内法を不当に解釈して本件に適用しているかが主な論点となった。アゼルバイジャン著作権法 第17条第1項では、著作者の排他的な複製権は他者による「私的」利用に限って例外が適用されると欧州人権裁判所は解釈した。その上で、被告のIraliは非営利ではあれ「法人」であることから、この例外は適用されない。同法第18条は図書館、文化遺産機関、教育機関が一定条件下で著作物の無許諾利用を認めている。しかし非営利目的であれ、著作権者からの無許諾で行われた複製は法的根拠に欠くと判断された。さらにインターネット上で不特定多数に公開しており、図書館訪問利用者など限定した用途ではない点も問題として指摘された。同法第15条第3項は消尽に関する規定であるが、これは出版された (つまり部数限定された) 書籍などの著作物を購入者が物理的に中古売却するルールである。したがって、デジタル複製化やオンライン頒布 (公衆伝達) の問題と中古売却の消尽論とは切り分けるべきとも判示された。これを踏まえ、原告側に対して金銭的・非金銭的損害併せて5,000ユーロの賠償支払を命じた[33]。
著作者人格権
公表権
同一性保持権・尊重権
氏名表示権
修正・撤回権
著作隣接権
実演家の権利
報道出版物
著作権の保護期間
利用許諾と集中管理
- UCMR-ADA対ルーマニアの魂事件 (ルーマニア、CJEU 2021年)[28]
- CJEU事件名: UCMR – ADA Asociaţia pentru Drepturi de Autor a Compozitorilor v Asociatia culturala „Suflet de Român“, Judgment of the Court (Third Chamber), 21 February 2021. C-501/19
- ロイヤルティー (ライセンス料) 支払に付随する付加価値税 (VAT、日本の消費税に類似) の納税主体が誰なのかが問われた事件である。原告のUCMR-ADAは作詞・作曲家向け著作権管理団体で、音楽コンサートなどの実演で発生するロイヤルティーの徴収を担っていた。被告の文化協会「ルーマニアの魂」(ルーマニア語: Asociația Culturală Suflet de Român、英: Cultural Association "Romanian Soul") は主催する音楽ショーのロイヤルティーをUCMR-ADA側に満額支払っていなかったことが法廷闘争の発端である。二審のルーマニア控訴裁判所はこのロイヤルティー支払に係る付加価値税の納税主体は文化協会ではないと判定した。しかしこれはUCMR-ADA側に付加価値税支払義務を負わせることを意味することから、UCMR-ADAは最高裁に当たるルーマニア破毀院に上告し、控訴審が税法条文解釈やその背景にある税の公平性の原則を歪める判決を下したと主張したのである。そこでEUのVAT指令 (Directive 2006/112/EC[注 4]) の解釈に関し、破毀院から欧州司法裁判所に付託することとなった[45]。
- UCMR-ADAが徴収したロイヤルティーは最終的に著作権者たる各作詞・作曲家に分配されるため、VAT指令はUCMR-ADAと作詞家間の決済に適用されるとの見解が欧州司法裁判所から示された[45]。しかしそもそも著作物のロイヤルティーが付加価値税の課税対象なのかを巡って、欧州司法裁判所では判決が揺れているとの指摘もある[75]。2021年のUCMR-ADA判決から遡ること4年前には、ポーランドから先決裁定を付託されて下されたSAWP判決 (C-37/16) が先例として知られており、著作権管理団体は付加価値税の課税対象に当たらないと判示されていた。これをUCMR-ADA判決では覆したと見られている[75]。
- Seven.One対Corint Media事件 (ドイツ、CJEU 2023年)[44]
- CJEU事件名: Seven.One Entertainment Group GmbH v Corint Media GmbH, Judgment of the Court (First Chamber), 23 November 2023. C-260/22
- ドイツのテレビ局Seven.Oneはメディアの私的利用料の徴収業務を担う著作権管理団体Corint Mediaと独占契約を締結し、著作権および著作隣接権の管理を委託していた。この利用料は "blank media levy" の通称で呼ばれているものである。Seven.Oneが利用料の適正料率を分配するよう請求したところ、Corint Mediaがドイツ著作権法 第87条第4項を理由に拒否した。これは情報社会指令 第5条第2項(b)号の例外・制限規定に基づいた国内法化であり、自然人 (個人) による私的かつ非営利複製の場合は適正分配の対象からテレビ局が除外されるとの規定である。一審のエアフルト地方裁判所 (Landgericht Erfurt) は欧州司法裁判所に付託した[44]。
- 情報社会指令は複製権を定めた第2条で、テレビ局とその他権利者で特段の別扱いはしておらず、また欧州連合基本権憲章 第20条でも平等の原則が謳われていることから、著作権管理団体Corint Mediaは適正分配の義務があると判示した。またドイツ裁判所からの付託時に、Seven.Oneはテレビ局であると同時に映画製作者の側面もあるが、映画製作者の立場で利用料が分配されるべきかとの論点が出されていたが、テレビ専業か否かは不問であるとした[44]。
- Kopiosto対Telia事件 (フィンランド、CJEU 2023年)[45]
- CJEU事件名: Kopiosto ry v Telia Finland Oyj, Judgment of the Court (Fifth Chamber), 23 November 2023. C‑201/22
- 著作権管理団体のKopiostoはケーブルテレビ局テリア(Telia)がコンテンツの著作権者に無許諾で番組を放送しているとして、特別裁判所の一つである市場裁判所 (フィンランド語: Markkinaoikeus) に提訴した。フィンランドでは著作権者の代理の立場では著作権侵害の提訴ができないとして、法的資格を根拠にKopiostoの訴えを棄却した。そこで、知的財産権執行指令(指令 2004/48/EC)第4条(c)号に基づき、著作権管理団体Kopiostoは代理ではなく直接の利害関係者であると主張してフィンランド最高裁 (Korkein oikeus) に上告した[45]。
- フィンランド最高裁から付託された欧州司法裁判所は、著作権管理団体が直接の利害関係者でなければ提訴不可とする国内手続は問題ないとした。その上で、国内裁判所の判断に基づき直接の利害関係者であると判定された場合は、著作権管理団体の提訴を認めなければならないと判示した。ここでの「直接」の背景であるが、フィンランドではいわゆる拡大集中許諾制度 (略称: ECL) が導入されており、著作権管理団体に管理を委託していない著作物であっても権利処理できる。このような委託契約なしの事案も訴訟対象に含めることができるかが争点となった[45]。
プロバイダー責任
以下に詳述する判例上では、SNS (ソーシャルメディア) やYouTubeなどのオンライン・コンテンツ共有サービス事業者 (online content-sharing service providers、略称: OCSSPs)、Wi-Fi接続サービス提供者などがプロバイダーとしての責任を問われている。
著作権侵害事件では、プロバイダーの「二次侵害」ないし「間接侵害」責任が問われることがあり、これは他者の著作物を不法に利用した一般ユーザー (つまり「直接」の権利侵害者) に対し、権利侵害の場や手段を提供した者に「間接」的に発生する権利侵害の責任である[76]。2000年成立の電子商取引指令 (略称: ECD) は第12条から第14条が、プロバイダーに適用されるいわゆるセーフハーバー条項 (免責条項) となっており、違法コンテンツの通信・拡散にデジタル・プラットフォームが利用された際に事業者の二次侵害責任を免除する条件を規定している。電子商取引指令は著作権侵害以外のデジタル上での不法行為全般を広範にカバーし、著作権に特化した2019年のDSM著作権指令とは補完関係にある[77][78]。
- CJEU事件名: Tobias Mc Fadden v Sony Music Entertainment Germany GmbH, Judgement of the Court (Third Chamber), 15 September 2016. Case C-484/14
- 無料Wi-Fiサービス提供者による著作権侵害の二次責任が問われ、当Wi-Fi提供者に電子商取引指令の定めたセーフハーバー条項が適用されうるかが審理された事件である[79][11]。被告のTobias Mc Fadden (トビアス・メクファデン)[注 2]は照明・音響製品の販売とリース業を営んでおり、新規顧客獲得を目的にパスワード保護なしのWi-Fiを無料で提供していた[79]。2010年、そのWi-Fi利用者の一人がソニー・ミュージックの手掛けた楽曲を無断でオンライン上にアップロードした。ソニー・ミュージック側は、直接の著作権侵害者であるWi-Fi利用者に損害賠償を求めただけでなく、メクファデンを二次侵害者とみなして訴訟手続などの費用弁済を求めたのである[79]。メクファデンは電子商取引指令の第12条 (「情報社会サービスの提供者」に対するセーフハーバー条項) が適用されると抗弁した[79]。ドイツのミュンヘン第一地方裁判所は、パスワード保護なしのWi-Fi接続を理由にメクファデンの主張を退けたが、先決裁定を欧州司法裁判所に付託した[79]。
- 欧州司法裁判所は2016年9月15日判決、無料Wi-Fiの提供は二次侵害に当たらないとした。しかしメクファデンがパスワード保護なしのWi-Fiを提供したことから、利用ユーザーの身元確認が行われておらず、同一ユーザーによる再犯予防対策を講じられないことが問題視された[79]。なお、当判決では電子商取引指令がセーフハーバー条項適用先の「情報社会サービス」が何を指すのかについても、併せて言及されている[11]。
- CJEU事件名: Belgische Vereniging van Auteurs, Componisten en Uitgevers CVBA (SABAM) v Netlog NV, Judgment of the Court (Third Chamber), 16 February 2012. C-360/10
- 著作権者の権利保護と個人の情報の自由といった基本的権利の間で利害バランスに配慮した法的措置がなされるべきだと判示された事件であえる[10]。この判決は6年後に可決・成立したDSM著作権指令の第17条の第8項に影響を与えたと言われている[9]。
- 原告のSABAMはベルギーの作家・作詞家・出版者協会[80]、被告のNetlogは「ベルギー版Facebook」とも呼ばれるソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) である[81][注 5]。SABAM関係者の管理する著作物がNetlog上でシェアされていたことから、ベルギーで著作権侵害訴訟に発展した[81]。ベルギー裁判所はNetlogに対してSABAMの著作物へのアクセス遮断の差止命令を下しただけでなく、投稿コンテンツのフィルターシステム導入を命じたことから、電子商取引指令の第15条で認められている常時ユーザー監視の義務免除に反し、ひいては欧州連合基本権憲章で認められている基本的権利の保障に反するのではないかと批判を受けた[81]。ベルギー裁判所から先決裁定を付託された欧州司法裁判所は2012年、ベルギー裁判所命令が不当と判示した。判旨は以下のとおりである[81]。
- Netlogに命じたフィルターシステムの恒常的な導入はホスティング事業者に認められている事業活動の自由を毀損し、知的財産権執行指令 (Directive 2004/48/EC) の第3条第1項で定められた「知的財産権の保護にあたっては不必要に複雑かつ高コストな措置を事業者に求めてはならない」とする条項にも反する。
- さらにユーザーの言動を監視する行為は、ユーザーの個人情報保護の観点からも欧州連合基本権憲章の第11条で保障されている表現の自由や第8条の個人情報保護といった基本的権利に反するものである。投稿コンテンツの合法・違法性をシステム的に選別しようとすると、合法的なコンテンツまで排除しかねず、情報の自由を損ねることにつながりかねない。
- CJEU事件名: Eva Glawischnig-Piesczek v Facebook Ireland Limited, Judgment of the Court (Third Chamber), 3 October 2019. Case C‑18/18
- 電子商取引指令の第14条 (ホスティング事業者に適用されるセーフハーバー条項)、および第15条第1項 (一般的監視義務の不存在) の解釈を巡る事件である[22]。政治家の名誉を毀損するFacebookユーザーによるコメント投稿をどこまで削除する義務があるのかが問われた[23]。オーストリアの緑の党所属女性政治家エヴァ・グラヴィシュニク=ピスチェク (Eva Glawischnig-Piesczek、旧名: Eva Glawischnig) を取り上げた写真付き雑誌の記事とともに、Facebookユーザーが侮辱的で名誉毀損に該当する内容のコメントを投稿した。グラヴィシュニクはFacebook側に削除要請したものの、Facebookが応じなかったことから法廷闘争へと持ち込まれた[22][23]。一審のウィーン商務裁判所 (Handelsgericht Wien、略称: HG Wien) は3種類の投稿に関し、Facebookに差止命令を下している[23]。その内訳は、
- (a) 訴訟対象となっているユーザーの当初投稿 (オリジナル)
- (b) 他ユーザーがシェアボタンを押して拡散したオリジナルと同一の複製投稿 (identical)
- (c) 言葉尻を若干改変しただけの実質ほぼ同一内容の投稿 (equivalent)
- である[23]。命令を受けてFacebook側は応じたものの、オーストリア国内に限った対応とした[23]。控訴審のウィーン高等地方裁判所 (Oberlandesgericht Wien、略称: OLG Wien) はFacebook側からの国内限定措置の主張を棄却したものの、(c)「実質ほぼ同一投稿」の削除義務まではFacebookは負わないとして、一審の判決を部分的に覆した[23]。これを受け、原告・被告ともに上告している[23]。
- オーストリア最高裁 (Oberster Gerichtshof、略称: OGH) から先決裁定を付託された欧州司法裁判所は2019年10月、電子商取引指令が免除しているのは「一般的」な監視義務であり、本件のような既に国内裁判所で差止命令が出ている「個別事案」への適切な削除要請とは切り分ける必要があると判示した[83]。また投稿コンテンツは短時間のうちに他ユーザーによって複製・拡散されやすいSNSの特性も考慮された[84]。
- 続いて、(c) 実質ほぼ同一投稿の扱いについては、その違法性をプロバイダーたるFacebook側が追加で独自調査しない限り、各種法令に定められた合法的利用の条件に照らし合わせて判断しかねるようであれば、そのコンテンツを公開ブロックする義務をプロバイダー側は負わないと判示した[84]。また、差止命令の有効法域を国外にまで拡大するかは、国際的な法制度の状況も加味しながらEU加盟各国法で規定できると判示した[84]。
- CJEU事件名: Bastei Lübbe GmbH & Co. KG v Michael Strotzer, Judgment of the Court (Third Chamber), 18 October 2018. C-149/17
- 著作権保護と欧州連合基本権憲章の第7条 (私的および家庭生活の尊重) の利害バランスが問われた事件である[12]。原告のバスタイ・ルブー (Bastei Lübbe) は大衆小説などを手掛けるドイツの大手出版社であり、オーディオブック形式でも著作物を出版していた。その一部がファイルシェアを介して海賊版としてオンライン上で出回った。インターネット接続元を調査した結果、被告のミハエル・ストロッツァー (Michael Strotzer) が容疑者として浮上したことから、著作権侵害でバスタイ・ルブーがミュンヘン区裁判所 (Amtsgericht München) に提訴した。被告ストロッツァーはファイルシェアが実行された時間帯に自身のパソコンの電源は落ちていたとして、容疑を否認した。またストロッツァーの使用していたインターネット接続は自称「セキュア」であり、同一IPアドレスには自身の両親だけが接続しうるが、両親ともにオーディオブックの存在すら知らず、かつファイルシェアのソフトウェアも使用していないと主張した。一審は第三者がファイルシェアした可能性も否定できないとして、原告の訴えを退けた[12]。
- 原告が控訴し、二審のミュンヘン地方裁判所 (Landgericht München) 第一法廷はストロッツァー本人がファイルシェアした可能性が極めて高く、第三者が同一IPアドレスを使ってインターネット接続できたとは考えづらいと述べている。ストロッツァーは両親の素性を明かした上で、両親がファイルシェアした可能性も否定できないと主張した。そして欧州連合基本権憲章 第7条「家庭生活の尊重権」を根拠に、これ以上家族に関連する情報を提供する義務はないと抗弁したのである[12]。この結果を受け、二審から欧州裁判所に解釈を付託することとなった[12]。
- 欧州司法裁判所は情報社会指令 第8条第1項・第2項 (制裁および救済)、および知的財産権執行指令の第3条第1項・第2項 (効果的かつバランスに配慮した公正な救済) で定められた著作権者の権利保護と、憲章 第7条の基本的人権の尊重の間で比較衡量することとなった[12]。ドイツ国内法では著作権侵害の証拠収集に一定のハードルを課しており、結果として著作権者の権利に甚大な損害をもたらしていると判示した[15]。
- コンスタンティン・フィルム対YouTube事件 (ドイツ、CJEU 2020年)[26]
- CJEU事件名: Constantin Film Verleih GmbH v YouTube LLC and Google Inc., Judgment of the Court (Fifth Chamber), 09 July 2020. C-264/19
- 知的財産権執行指令 (Directive 2004/48/EC) 第8条第2項(a)号に規定される権利侵害者の情報開示対象に "addresses" とあるが、この文言には住所だけでなくEメールアドレス、IPアドレス、電話番号も含まれるのかが問われた事件である[26]。
- コンスタンティン・フィルムの映画作品の一部がYouTubeに違法投稿され、情報開示請求を行った結果、氏名と住所が判明した分は和解が成立した。しかし偽名が用いられているケースもあり、Eメールアドレス、携帯電話番号およびIPアドレスも開示するようYouTube側に追加請求したものの未対応であったことから提訴に至った。一審のフランクフルト地方裁判所 (Landgericht Frankfurt am Main) は原告側の請求を退けたものの、二審のフランクフルト高等地方裁判所 (Oberlandesgericht Frankfurt am Main) は部分的に認めて、Eメールアドレスのみ開示を命じた。コンスタンティンはドイツ連邦最高裁 (Bundesgerichtshof) に上告し、連邦最高裁から欧州司法裁判所に知的財産権執行指令のの解釈が付託された[26]。
- 欧州司法裁判所は日常的に用いられている言葉の定義だけでなく、本事件固有の背景および指令の立法目的も勘案した上で、開示請求の対象 "addresses" は固定された住所・自宅住所のみを指すとの解釈を示した。欧州連合基本権憲章の第47条 (効果的な救済と公正な裁判を求める権利) で保障されている救済の意義を認めつつも、知的財産権執行指令の立法者は下限平準化[注 6]を選択しており、よって第8条の適用範囲は限定的に捉える必要があるとして、個人情報保護と著作権者の権利保護間はバランスをとる判決を下した。ただし下限平準化ということもあり、EU加盟各国の国内法化で住所以外も開示対象に含める権限があるともしている[26]。
- ピーターソン対YouTube事件、エルゼビア対Cyando事件 (ドイツ、CJEU 2021年)[30]
- CJEU事件名: Peterson v YouTube and Elsevier v Cyando, Judgment of the Court (Grand Chamber), 22 June 2021. Joined Cases C-682/18 and C-683/18
- 2事件ともに、情報社会指令 第3条の公衆伝達権、および電子商取引指令 第14条のセーフハーバー条項が法解釈の焦点ではあるが、DSM著作権指令 第17条を意識しての判決と見られている[77]。Peterson v YouTube は英国歌手サラ・ブライトマンの歌唱楽曲の録音、および自作の曲の著作権を原告で音楽プロデューサーのフランク・ピーターソンが主張し、無許諾でYouTube上で拡散されたとして差止請求と損害賠償を求めた事件である。Elsevier v Cyando は学術出版社エルゼビアがファイルのホスティングと共有サービス "Upload" を運営するCyandoの無許諾シェアに対し、差止請求と損害賠償を求めた事件である。2件ともドイツ国内裁判所から欧州司法裁判所に先決裁定が付託され、併合して判決が下された[86]。
- YouTube、Cyandoのユーザーともに著作権侵害コンテンツの投稿を独自判断しており、OCSSPsは公衆伝達の行為者とは見なされなかった。OCSSPsが投稿・拡散に際して意図的かつ不可欠な役割を果たしていないためである[77]。また著作権侵害行為に貢献していると見なすには、(1) 著作権侵害コンテンツを "具体的に" 認識している (specific knowledge) にもかかわらず、迅速に削除やブロックなどの措置を取らなかった場合、(2) 著作権侵害の "一般的な" 認識を有するべき立場にありながら、適切な技術的手段を講じなかった場合、(3) ユーザー投稿の判断にOCSSPs自らも意図的に関与し、共有手段を提供したり、著作権侵害を知りながら共有を促進している場合、この3点が要件となることが判示された[87]。
- この併合判決の解釈を巡って学説が分かれている。情報社会指令や電子商取引指令がOCSSPsによる公衆伝達の範囲を狭めているとも解釈できることから、裏を返すとDSM著作権指令 第17条の創設によって、OCSSPsによる公衆伝達の範囲を拡張した (つまり責任範囲が広がった) と推定する研究者もいる[88]。
国際準拠法
立法審査
EUの基本条約や欧州連合基本権憲章といった一次法 (基本法) に基づき、EUの立法機関 (欧州議会および欧州連合理事会) は指令などの二次法 (派生法) を採択している[89]:192。時として、こうした派生法が基本法と矛盾することがあり、派生法の立法取消 (無効確認) を求めて欧州司法裁判所に提起されることがある[89]:203。
また派生法たる指令の国内法化に伴って改正・制定されたEU加盟国の法令 (さらなる派生法) が、指令や各国の憲法などの上位法と矛盾し、違憲立法審査が行われることがある。
- →「DSM著作権指令 § 判例」も参照
- CJEU事件名: Republic of Poland v European Parliament and Council of the European Union, 26 April 2022. C-401/19
- 先行する法務官による意見書: 2021年7月15日公表も参照のこと[90]。
- ポーランド政府によるDSM著作権指令 第17条 (通称「アップロード・フィルター条項) の立法無効訴訟である。
競争法
DSM著作権指令では、他者著作物の利用に際して、デジタル・プラットフォーム事業者に適正な利益分配を義務付けている[91]:81–82。Googleに代表されるこうした事業者は大規模にサービス展開し、市場における優越的地位を濫用して、利益を著作権者に十分還元していない事案があり、欧州連合競争法と著作権法が近接する分野である。また著作権管理団体 (CMO) が優越的地位を濫用して多額の利用料を請求するケースもある。
- →「フランス著作権法 § Googleに対する制裁」も参照
- SABAM対Tomorrowland/Wecandance事件 (ベルギー、CJEU 2020年)[27]
- CJEU事件名: Belgische Vereniging van Auteurs, Componisten en Uitgevers CVBA (SABAM) v Weareone.World BVBA and Wecandance NV, Judgment of the Court (Fifth Chamber), 25 November 2020. C-360/10
- EU機能条約の第102条 (優越的地位の濫用禁止) に関する事件である[27]。原告のSABAMはベルギーの作家・作詞家・出版者協会であり[80]、実質的に音楽イベント業界の著作権管理を独占している[27]。ベルギーのクラブ・ミュージック系大規模イベントのTomorrowland、およびWecandance (WeCanDanceと綴ることも) に対し、楽曲利用料を請求したがその金額算出モデルが問題となった。チケット売上総額から予約手数料および諸税を差し引いた収入を元に、一定料率を掛けて算出されており、その収入の多寡にかかわらず割引なしの固定レートが適用されていたことから、ある種のSABAM税のようになっていた。これが優越的地位の濫用に該当すると音楽イベント主催2団体が主張し、SABAMと対立した。アントワープ商務裁判所 (オランダ語: Ondernemingsrechtbank Antwerp) はEU機能条約 第102条の解釈を欧州司法裁判所に付託した[27]。
- 欧州司法裁判所は一定料率を適用すること自体は適法と判定しつつも、その率が過剰であり著作権者や利用料を徴収するSABAMによってもたらされる経済的な付加価値とのバランスを逸している可能性があり、国内裁判所で率の妥当性について検証するよう求めた[27]。
- CJEU事件名: Asociación Multisectorial de Empresas de la Electrónica, las Tecnologías de la Información y la Comunicación, de las Telecomunicaciones y de los contenidos Digitales (AMETIC) v Administración General del Estado and Others, Judgment of the Court (Fifth Chamber), 8 September 2022. C-263/21
- スペイン知的財産法 第25条 (私的複製にかかる公正な利用料支払) 第10項の規定を追加するために発せられた2018年の勅令 (Real Decreto 1398/2018) の無効を求めた事件である。複製されたメディアやデバイスなどを購入した自然人ないし法人が、私的ではなく職務上の目的であると証明できれば、第25条規定の支払義務が免除される。この資格要件を認定するのが "Ventanilla Única Digital" (直訳: 単一デジタル窓口、略称: VUD) と呼ばれる者である。仮に購入時点でこの資格を有しておらずいったん支払っても、その後にVUDから認定されれば還付される仕組みである。VUDは著作権管理団体 (集中管理団体、略称: CMO) によって独占的に設立されていた[41]。
- 原告のスペイン電機・情報通信技術連合会 (略称: AMETIC) は情報通信技術 (ICT) を中心とした経済団体である。AMETIC会員企業はVUDから認定を受けられなければ、第25条の利用料支払義務を負うため、VUDの背後にいるCMOによる優越的地位の濫用ではないかとしてAMETICが勅令無効を求めて提訴したのである[41]。
- スペイン最高裁から付託された欧州司法裁判所は、このような徴収・還付の制度は手続の簡素化や効率的運営を担保するものであり、かつそれが実質CMOによって運営されていたとしても、制度の意義を損ねるものではないと判示した。また認定までのプロセスなども検証した結果、EU法に反するものではないと判示した[41]。
- CJEU事件名: Liberi editori e autori (LEA) v Jamendo SA, Judgment of the Court (Fifth Chamber), 28 May 2024. C-10/22
- 原告はイタリア著作権管理団体 (CMO) のLiberi editori e autori (略称: LEA)、被告はルクセンブルク設立の独立管理団体 (independent management entity、略称: IME) であるJamendoである[注 7]。Jamendoは2004年よりイタリアでも事業展開している。イタリア著作権法 第180条では、外資系IMEによるイタリア国内の著作権管理業務は排除されていることから、Jamendoの業務停止命令を求めてローマ地方裁判所 (Tribunale ordinario di Roma) にLEAが提訴した。被告Jamendoは著作権集中管理指令 (2014/26/EU、略称: CRM指令) が誤った形でイタリアで国内法化されたと反論し、EU域内設立の外資系IMEもイタリア含む全EU加盟国内で営業する権利があると主張した[47]。
- ローマ地裁から付託された欧州司法裁判所はCRM指令の本題に入る前に、まず電子商取引指令およびサービス指令 (Directive 2006/123/EC) が本件に適用されるか検証した。これら2指令は狭義の著作権 (著作者本人の著作権) および著作隣接権を対象外としていることから、演繹してCMOの活動も適用外と判定した。またEU機能条約の第56条が保障するEU域内サービス提供の自由と、イタリア著作権法による外資規制が比例原則に照らし合わせてバランスがとれているかも検証した。CRM指令ではCMOはIMEと比較してより高い透明性義務を課されているほか、利益率の低い著作権処理も取り扱うなど事業収益性の観点で異なることから、CMOが市場で優遇される正当性があるとの見解を示した。これらを総合的に勘案した結果、外資IME規制は著作権保護の目的から逸脱した過度な外資IME規制をイタリア著作権法が科していると判定した[47]。
- なお2014年成立のCRM指令を2017年に国内法化する以前のイタリアは、著作物のジャンルごとに各CMOが実質的な独占状態にあった。イタリア競争・市場保護委員会 (略称: AGCM、日本の公正取引委員会に相当) からも外資系IMEの参入規制を問題視する意見書が提出されていたにもかかわらず、無視されてそのまま国内法化された背景があった[48]。
関連項目
注釈
- ^ 英名では「株式会社」に相当する表記が省略されたり、複数の原告・被告がいる場合に一部省略されるなど、表記揺れが多数存在する。一審では基本的には「原告 v 被告」の順で表記されるが、被告が控訴・上告すると「被告 v 原告」に事件名が置き換わる。このような場合でも、下表では「原告 v 被告」で統一表記している。
- ^ a b 苗字は McFadden[79]あるいは Mcfadden[11]と1語で綴られることもあるが、EU官報に掲載された欧州司法裁判所の判決文での表記は Mc Fadden の2語綴りである。
- ^ 欧州連合の法務官とは欧州司法裁判所に所属する公職で、裁判官とは独立した立場から判決に先行して意見を述べる。法務官意見に法的拘束力はないものの、実質的な権威と影響力を有する[64]。
- ^ Directive 2006/112/ECの名の通り、EUの枠組み下でVAT指令が成立したのは2006年であるが、その後複数回改正が重ねられており[74]、2024年12月時点の最新版も併せて参照されたい。
- ^ 欧州司法裁判所の判決から2年後の2014年、Netlogはユーザー離れを起こしてサービスを停止している[82]。
- ^ 「下限平準化」とは、EU法では最低限の基準を定めるに留め、EU加盟各国でそれを上回る基準を独自に設定することができる原則である[4][85]。
- ^ CMOもIMEも著作権管理団体の一形態である。IMEは著作権者から直接・間接的に支配を受けておらず、営利目的で設立・運営されている著作権管理団体を指す。これに対してCMOは著作権者が「構成員」としている点でIMEとは組織形態が異なる。またCMOの多くは非営利団体である。CMO、IMEともに著作権集中管理指令 (2014/26/EU、略称: CRM指令) の規定が適用される[92]。
出典
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