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福島悪魔払い殺人事件

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福島悪魔払い殺人事件
地図
場所 日本の旗 日本福島県須賀川市小作田竹ノ花15番地6[注 1][2]
座標
北緯37度16分08.4秒 東経140度24分32.7秒 / 北緯37.269000度 東経140.409083度 / 37.269000; 140.409083座標: 北緯37度16分08.4秒 東経140度24分32.7秒 / 北緯37.269000度 東経140.409083度 / 37.269000; 140.409083
日付 1995年(平成7年)7月5日(発覚)[1] (UTC+9)
概要 祈祷師の女ESが信者3人と共謀し、信者らへの暴行を加えて計6人を死亡させた[3]
攻撃側人数 女ESら4人[3]
武器 太鼓のばちなど[3]
死亡者 6人[3]
負傷者 1人[4][5]
犯人
  • 主犯格:女ES(祈祷師:逮捕当時47歳)[1]
  • 従犯:ESの長女 (X) と信者の男2人(YおよびZ)[3]
対処 加害者4人を逮捕起訴
刑事訴訟
管轄
  • 福島県警察須賀川警察署
  • 福島地方検察庁
  • テンプレートを表示

    福島悪魔払い殺人事件(ふくしまあくまばらいさつじんじけん)とは、1995年平成7年)7月5日[1]福島県須賀川市小作田竹ノ花15番地6の民家[注 1]で発覚した殺人傷害致死事件[2]

    自称祈祷師の女ES(逮捕当時47歳)が、信者らと共謀して「除霊」と称し、信者7人に激しい暴行を加えて6人を死亡させ[3]、1人を負傷させた[5]。同年には、オウム真理教による地下鉄サリン事件が発生しており、本事件も福島県の犯罪史に残る異様な事件[1]、およびカルト集団による凶悪犯罪として、世間を震撼させた[3]

    加害者らは5人への殺人罪・1人への傷害致死罪などで立件され[3]、主犯格のESは4件の殺人罪・2件の傷害致死罪で2008年(平成20年)に死刑判決確定[6]。戦後日本では10人目の女性死刑囚になり[7]2012年(平成24年)に死刑を執行されている[3]

    犯人ES

    本事件の主犯格である女ESは1947年昭和22年)8月21日[8]、須賀川市で生まれた[9]。地元の小中学校と県立高校を卒業後、20歳で高校の同級生と結婚したが、塗装業をしていた夫が1990年(平成2年)に仕事中の事故で腰を痛めて以降、ギャンブル(競輪・競馬)にのめり込み、家に借金取りが押しかけるようになった[9]。それをきっかけにESは化粧品や食器のセールス、ラーメン屋のアルバイトをして生活を支えていたが、同年には夫とともに新興宗教団体「天子の郷」に入った[10]。「天子の郷」は「病気・執着心・嫉妬などは、肉体内の邪霊や毒素によって起きるものである。それらを天主に宿る神力で取り除くことにより、幸福が得られる」とする教えを説き、抹殺・里造り・神査などの儀式を行っていた宗教団体で、執着心や嫉妬を動物霊に喩えていた[11]

    入信直後、夫の腰痛が治ったことをきっかけに夫婦で信仰を深め、1992年(平成4年)には三女とともに、岐阜県の教団本部で専従として活動を始めたものの、次女の眼病が治らないことや、それに対する教団の対応に不満を募らせ、同年11月に夫婦で脱会した[11]。やがて夫が「天子の郷」で知り合った神戸の女性信者と浮気関係になり、家を出たことから、ESは酒に溺れ、生活も行き詰まったことから自殺を仄めかすほどに陥ったが、そのような状況下で夫を連れ戻すべく、神戸に出向いたところで「神慈秀明会」という新興宗教を知り、1994年(平成6年)6月に入信[11]。しかし、高額な掛け軸の購入を強引に進められたため、約1ヶ月で脱会し、須賀川に戻ると7月ごろから個人の霊能祈祷師として活動を開始した[11]。ESは「天子の郷」で学んだノウハウを用いて知人からの相談に乗り、「肩凝り・腰痛が治った」という評判を得て、信者を集めていった[12]

    事件

    1994年(平成6年)の暮れから1995年6月まで、祈祷師の女ES宅[注 1]にて「キツネが憑いている」などとお告げを受けた信者7人を、ESの娘Xと信者の男で愛人のY、同じく信者の男Zが中心となって『悪魔払い』や『御用』と称して太鼓のばちで殴る、蹴るなどの暴行を加え、4名を殺害、2名を傷害致死、1名に重傷を負わせた。

    同年7月5日、重傷を負った女性信者Aの入院をきっかけに、須賀川警察署福島県警察)の捜査本部がES宅を家宅捜索したところ、信者6人の腐乱死体が発見された[3]。後に被害者であるAも、暴行に加わっていたことが発覚して逮捕された。Aは1997年(平成9年)3月、仙台高等裁判所懲役3年・執行猶予5年の判決を受け、上告せず確定している。

    この事件による死亡者は、逮捕されたZの妻、男性信者甲とその妻乙、甲・乙夫婦の娘である丙、男性信者丁、女性信者戊の6人。

    刑事裁判

    ES・X・Y・Zの4人はまず、Aへの傷害容疑で逮捕され、後に5人への殺人容疑、1人への傷害致死容疑でも再逮捕された[3]。その後、ESの刑事裁判では4人への殺人罪、2人への傷害致死罪、そしてAへの殺人未遂罪がそれぞれ認定されている[5]

    刑事裁判では事件の猟奇性・異常性から、ESの責任能力が争点となった[13]2001年(平成13年)11月16日に福島地裁論告求刑公判が開かれ、福島地方検察庁は被告人ESに死刑、X・Y両被告人に無期懲役、被告人Zに懲役20年の刑をそれぞれ求刑した。

    2002年(平成14年)5月10日、福島地裁(原啓裁判長)で第一審判決公判が開かれ、被告人ESに死刑[8]、X・Y両被告人に無期懲役、被告人Zに懲役18年の判決が言い渡された。Zの量刑が他の共犯者より軽くなった理由は、妻を殺されたことで正常な判断ができなくなったと認定されたためである。日本脱カルト研究会(現:日本脱カルト協会)代表理事の高橋紳吾・東邦大助教授(精神医学)は、「オウム真理教の一連の公判と全く同じ構図」と分析している[14]。X・Y・Zの3人はいずれも控訴したが、2003年(平成15年)11月11日に仙台高裁でいずれも控訴棄却の判決を言い渡され、確定している。

    死刑を言い渡されたESも仙台高裁に控訴したが、2005年(平成17年)11月12日に仙台高裁(田中亮一裁判長)で再び死刑を言い渡された[8]。上告審でESの弁護人(高澤文俊・高橋正俊)は、死刑制度の違憲性[15]、「ESは事件当時、憑依トランス状態に陥り、心神喪失状態だった」という主張を展開し、無罪を訴えた[13]。しかし、最高裁判所第三小法廷藤田宙靖裁判長)は2008年(平成20年)9月16日に原判決を支持し、被告人ESの上告を棄却する判決を言い渡した[6]。被告人ESは同月22日付で、判決の訂正を申し立てたが[16]、申立は10月3日付の決定で棄却され[17]、同月5日付で死刑が確定した[18]

    死刑執行

    ESは死刑確定直後、弁護人の阿部潔(仙台弁護士会)に再審請求の手続きを依頼し、責任能力か殺意の有無を争点として、2012年(平成24年)末までに請求手続きを行う予定だった[19]

    しかし同年9月27日、死刑囚ES(仙台拘置支所在監)は滝実法務大臣の死刑執行命令により、宮城刑務所[注 2]で刑を執行された(65歳没)。女性死刑囚の執行は、夕張保険金殺人事件の死刑囚(1997年に死刑執行)以来15年ぶりで、戦後ないし[21][22]1950年(昭和25年)以降では4人目である[23]。また、死刑執行は同年の8月3日以来だったが、前回との間隔(1か月24日)は1993年(平成5年)の死刑執行再開後、過去2番目の短さだった[24]

    脚注

    注釈

    1. ^ a b c 事件現場となったES宅は、事件から約四半世紀が経過した2019年(平成31年)2月時点でも空き家のまま放置されている[1]
    2. ^ 札幌仙台各矯正管区管内の裁判所で死刑判決を受け、死刑が確定した死刑囚の収監先は、それぞれ札幌拘置支所・仙台拘置支所だが、刑場(死刑執行設備)はそれぞれ隣接する札幌刑務所・宮城刑務所に設置されている[20]

    出典

    1. ^ a b c d e 【平成7年】須賀川・女祈祷師事件 集団生活...「魂清める」と信者暴行」『福島民友』福島民友新聞社、2019年2月6日。オリジナルの2021年8月28日時点におけるアーカイブ。2021年8月28日閲覧。
    2. ^ a b 『河北年鑑 1996』78頁(河北新報社
    3. ^ a b c d e f g h i j k l m <平成事件回顧・東北>(6)須賀川祈祷師殺人(7年)除霊名目集団で暴行」『河北新報河北新報社、2019年4月14日。オリジナルの2019年4月16日時点におけるアーカイブ。2019年4月16日閲覧。
    4. ^ 伊藤一郎、石川淳一「死刑:2人に執行 15年ぶりに女性死刑囚にも」『毎日新聞毎日新聞社、2012年9月27日。オリジナルの2012年9月28日時点におけるアーカイブ。
    5. ^ a b c 最高裁第三小法廷 2008, pp. 1–2.
    6. ^ a b 女祈祷師の死刑確定へ 福島 「悪魔払い」信者暴行死事件」『MSN産経ニュース産業経済新聞社、2008年9月16日。オリジナルの2008年9月22日時点におけるアーカイブ。
    7. ^ 深笛義也 2013, p. 85.
    8. ^ a b c 年報・死刑廃止 2020, p. 262.
    9. ^ a b 深笛義也 2013, p. 86.
    10. ^ 深笛義也 2013, pp. 86–87.
    11. ^ a b c d 深笛義也 2013, p. 87.
    12. ^ 深笛義也 2013, pp. 87–88.
    13. ^ a b 深笛義也 2013, p. 101.
    14. ^ 朝日新聞』2002年5月10日「悪魔払いと信者暴行死させた祈とう師に死刑判決 福島」
    15. ^ 最高裁第三小法廷 2008, p. 1.
    16. ^ 『読売新聞』2008年9月26日東京朝刊福島版地方面31頁「6人暴行死で死刑判決 被告が最高裁に訂正申し立て=福島」(読売新聞東京本社・福島支局)
    17. ^ 『読売新聞』2008年10月7日東京朝刊第二社会面37頁「信者6人死亡事件 ES被告の死刑確定/最高裁」(読売新聞東京本社・福島支局)
    18. ^ 法務大臣滝実 (2013年12月12日). “法務大臣臨時記者会見の概要 平成24年9月27日(木)”. 法務省 公式ウェブサイト. 法務省. 2014年6月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月1日閲覧。
    19. ^ 伊藤一郎「死刑執行:犯罪被害者「当然だ」 「議論が停滞」批判も」『毎日新聞』毎日新聞社、2012年9月27日、2面。オリジナルの2012年9月28日時点におけるアーカイブ。
    20. ^ 坂本敏夫序章 拘置所と刑務所」『死刑と無期懲役』(第1刷発行)筑摩書房、2010年2月10日、13頁。ISBN 978-4480065339http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480065339/ 
    21. ^ 『読売新聞』2012年9月27日東京夕刊一面1頁「2人の死刑執行 福島信者殺害 祈とう師ら」(読売新聞東京本社)
    22. ^ 男女に死刑執行…須賀川6人死亡・熊本2人殺害」『YOMIURI ONLINE読売新聞社、2012年9月27日。オリジナルの2012年9月28日時点におけるアーカイブ。
    23. ^ 2人の死刑執行 法相「しっかり調査した」」『日本経済新聞日本経済新聞社、2012年9月27日。オリジナルの2021年8月28日時点におけるアーカイブ。2021年8月28日閲覧。
    24. ^ 伊藤一郎「死刑執行:犯罪被害者「当然だ」 「議論が停滞」批判も」『毎日新聞』毎日新聞社、2012年9月27日、1面。オリジナルの2012年9月28日時点におけるアーカイブ。

    参考文献

    関連項目