戦争と女の顔
戦争と女の顔 | |
---|---|
Дылда | |
監督 | カンテミール・バラーゴフ |
脚本 |
カンテミール・バラーゴフ アレクサンデル・チェレホヴ |
製作 |
アレクサンドル・ロドニャンスキー セルゲイ・メルクモフ ナタリア・ゴリーナ エレン・ロドニアンスキー |
出演者 |
ヴィクトリア・ミロシニチェンコ ヴァシリサ・ペレリギナ アンドレイ・ブコフ イーゴリ・シローコフ コンスタンチン・バラキレフ |
音楽 | エフゲニー・ガルペリン |
撮影 | クセニヤ・セレダ |
編集 | イゴール・リトニンスキー |
製作会社 | ノンストップ・プロダクション |
配給 | アット エンタテインメント |
公開 |
2019年5月16日 (CIFF)[1] 2019年6月20日 2022年7月15日 |
上映時間 | 137分[2] |
製作国 | ロシア |
言語 | ロシア語 |
興行収入 | $2 million[3] |
『戦争と女の顔』(せんそうとおんなのかお、ロシア語: Дылда)は、カンテミール・バラーゴフ監督による2019年のロシアの歴史ドラマ映画である[4][5]。2015年のノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチの『戦争は女の顔をしていない』を原案に、監督のカンテミール・バラーゴフ自ら脚本を執筆した[6]。
第72回カンヌ国際映画祭のある視点部門でプレミア上映され[7][8] 、監督賞とFIPRESCI賞を獲得した[9][10]。第92回アカデミー賞国際長編映画賞にロシア代表作として出品され[11]、最終選考10作品に残ったが[12]、ノミネートは逃した。
2022年以降、ロシア国内での上映は禁止されている(後述)。
ストーリー
[編集]第二次世界大戦終結直後のレニングラードは独ソ戦で町も市民も荒廃していた。「のっぽ」というあだ名をつけられた元兵士の長身女性イーヤは、軍病院でニコライ院長の下、看護師として働いている。イーヤは戦争によるストレスでPTSDを患い、時々発作を起こしてしまう。イーヤは戦友マーシャが戦場で産んだ息子パシュカを預かり、自分の息子として育てている。ある日、イーヤはパシュカをあやしている最中に発作を起こし、誤ってパシュカを窒息死させる。しばらくして、戦死した夫の仇を討つために戦場に残っていたマーシャが復員し、イーヤのもとにやってくる。マーシャは息子の死に愕然とする。
パシュカの死に苦しみを抱えたマーシャは、イーヤをダンスに誘う。ダンスホールに向かう途中でイーヤとマーシャは車に乗った二人組の若い男にナンパされるが無視する。しかしダンスホールが閉まっていたため、マーシャはナンパに応じ、イーヤに二人の男のうち積極的な方と車から離れて「デート」するよう促す。その間、マーシャは臆病な男サーシャと車中でセックスする。イーヤはあてがわれた男に抵抗して腕を折り、車に戻るとマーシャを叩く。翌日、イーヤは共同浴場でマーシャの腹に傷跡があることに気付く。
マーシャはイーヤと同じ軍病院で働き始める。そこへ戦争で負傷して入院している兵士ステパンを訪ねて妻がやって来る。彼は英雄視されていたが、四肢麻痺となっており、このまま子供たちと暮らしていくことに耐えられないと訴える。ステパンは妻とともに、ニコライ院長に安楽死を懇願する。当初、ニコライは反対していたが、ステパンと妻の強い願いを受け入れ、イーヤに薬物による安楽死を頼む。皆が寝静まった夜、イーヤは葛藤しながらステパンの首に注射をし、その死を看取る。
体調を崩したマーシャは不妊手術を受けたことをニコライ院長に知られると、後日、イーヤとセックスして子供をつくってほしいと頼む。ニコライは拒否したが、マーシャは認められていない安楽死をイーヤに命じたことを暴露すると脅す。マーシャは、イーヤにもパシュカを死なせた責任を問い詰め寄る。イーヤとニコライは脅しに屈し、子づくりを引き受ける。その代わり、イーヤはニコライとセックスする際、マーシャも一緒にベッドに入ることを懇願する。そして、イーヤはマーシャを抱きながらニコライと性交する。
その後、イーヤはいつまでも妊娠しないことに焦りを感じる。マーシャも精神的不調をきたし、隣人に縫ってもらった緑色のドレスを試着しながら、狂ったように回り続ける。そんなマーシャにイーヤはキスをして落ち着かせようとするが、そのキスはあまりに激しくなり、マーシャは拒絶する。しかし、イーヤのただならぬ愛を察したマーシャは一旦受け止める。一方、マーシャは車中でセックスして以来、好意を寄せてきたサーシャと交際し、イーヤは嫉妬に苦しむ。マーシャに会うためアパートを頻繁に訪れるサーシャに対し、イーヤは怒り、追い払おうとする。イーヤは、病院の同僚に妊娠しないことを相談するが、中年男性と一回性交したくらいでは妊娠するのは難しいと告げられる。イーヤはニコライの自宅を訪ね、再び子作りをしてほしいと懇願するが、既に体調不良を理由に院長を辞任していたニコライは、レニングラードを去るので一緒に来ないかとイーヤを誘う。
マーシャはサーシャに誘われ、彼の両親の住む豪邸を訪れる。サーシャは母親に、将来マーシャと結婚したいと告げるが、母親はマーシャが慰安婦だったと察し、冷淡にあしらう。それに対してマーシャは母親を挑発し、多くの兵士を相手にする中で中絶を繰り返し、不妊手術をしたため、代理母に子供を産んでもらうと主張する。サーシャの母親は、うんざりした息子に捨てられるのが落ちだと警告する。サーシャは激怒して部屋を飛び出し、マーシャは一人で邸を後にする。
帰宅途中、マーシャが乗っていた路面電車が急停止する。下車した乗客たちの間から、背の高い女性が轢かれたという声が上がる。咄嗟にイーヤではないかとアパートに駆けつけるが、イーヤは窓辺に座っていた。動揺と安堵の入り混じるマーシャは、妊娠できなかったことで悲嘆に暮れているイーヤを叩き、サーシャと別れてこれからはずっと一緒にいる、そしていつか授かる子供と再出発したいと告げる。二人はお互いの苦しみを分かち合うように抱擁し涙を流す。
キャスト
[編集]- イーヤ - ヴィクトリア・ミロシニチェンコ
- マーシャ - ヴァシリサ・ペレリギナ
- ニコライ(病院院長) - アンドレイ・ヴァイコフ
- サーシャ - イーゴリ・シローコフ
- ステパン - コンスタンチン・バラキレフ
- リュボフ・ペトロヴナ(サーシャの母) - クセニヤ・クテポワ
- アレナ・クチコワ - アリョーナ・クチコヴァ
- バーシュカ - ティモフェイ・グラスコフ
- サーシャの友人 - ヴェニアミン・カッツ
- 隣人のお針子 - オルガ・ドラグノワ
- サーシャの父 - デニス・コジネッツ
- ケイト - アリサ・オレイニク
- シェペレフ - ドミトリー・ベルキン
- オルガ - リュドミラ・モーターナヤ
- 看護婦レオノバ - アナスタシア・フメリニナ
- リャザノフ - ヴィクトル・チュプロフ
- ペトレンコ - ウラジミール・ヴェルズビツキー
- ディコフ - ウラジミール・モロゾフ
公開
[編集]2019年5月に第72回カンヌ国際映画祭のある視点部門でプレミア上映された[7]。
評価、影響
[編集]興業収入
[編集]アメリカ合衆国およびカナダでは19万6258ドル[13]、全世界で合わせて200万ドルを売り上げている[3]。
評価
[編集]レビュー収集サイトのRotten Tomatoesでは107件のレビューで支持率は93%、平均点は7.8/10となり、「印象的な技術で撮影され、忘れがたい演技によって命を得た『戦争と女の顔』は戦争によって粉砕された人生を悲痛なほど共感的に見ている」とまとめられた[14]。Metacriticでは26件のレビューに基づいて加重平均は84/100と示された[15]。
ロシアでの上映では、女性同士のキスシーンが観客からクレームを受けた。プロデューサーのアレクサンドル・ロドニャンスキーによると、クレーム内容は「この国の神聖な時代を描くのにレズビアンなんてあり得ない」というものだった[16]。
影響
[編集]ロシアのウクライナ侵攻が起きると、監督のバラーゴフはロシアを非難した。同作品はロシア国内での上映を禁止され、監督のバラーゴフは脅迫を受けてカバルダ・バルカル共和国から脱出した[16]。プロデューサーのロドニャンスキーもロシアによる侵攻を非難し、ロシア防衛相のセルゲイ・ショイグから「あなたの作品を現代文化から排除する」という書簡を送られた[注釈 1][16]。ロドニャンスキーはロシア司法省から外国人工作員にも指定された[17]。
受賞とノミネート
[編集]賞 | 授賞式 | 部門 | 対象 | 結果 | 参照 |
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カンヌ国際映画祭 | 2019年5月25日 | ある視点・FIPRESCI賞 | カンテミール・バラーゴフ | 受賞 | [10] |
ある視点・監督賞 | 受賞 | [9] | |||
クィア・パルム | ノミネート | [18] | |||
ある視点賞 | ノミネート | [7] | |||
ヨーロッパ映画賞 | 2019年12月7日 | 女優賞 | ヴィクトリア・ミロシニチェンコ | ノミネート | [19] |
オースティン映画批評家協会賞 | 2021年3月19日 | 外国語映画賞 | 『戦争と女の顔』 | ノミネート | [20] |
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ ロドニャンスキーはウクライナのキーウ出身で家族がウクライナにいる。『ラブレス』や『チェルノブイリ1986』などの作品でも知られている[16]。
出典
[編集]- ^ “The Screenings Guide 2019” (9 May 2019). 9 May 2019閲覧。
- ^ “映画倫理機構(映倫) | 審査作品”. 2023年6月22日閲覧。
- ^ a b “Beanpole (2019)”. Box Office Mojo. IMDb. 31 December 2019時点のオリジナルよりアーカイブ。11 June 2020閲覧。
- ^ “BEANPOLE - Wild Bunch”. 18 April 2019閲覧。
- ^ Bell, Nicholas (7 January 2019). “Top 150 Most Anticipated Foreign Films of 2019: #43. The Beanpole – Kantemir Balagov”. IONCINEMA.com. 18 April 2019閲覧。
- ^ “「戦争は女の顔をしていない」が原案 カンヌ国際映画祭2冠「戦争と女の顔」7月公開決定”. 映画.com (2022年4月7日). 2022年9月22日閲覧。
- ^ a b c “The 2019 Official Selection”. Cannes (18 April 2019). 18 April 2019閲覧。
- ^ Sharf, Zack (18 April 2019). “2019 Cannes Film Festival Lineup: Terrence Malick, Xavier Dolan, Almodóvar Compete for Palme d'Or”. IndieWire. 18 April 2019閲覧。
- ^ a b Lodge, Guy (24 May 2019). “Brazil's 'Invisible Life of Eurídice Gusmão' Wins Cannes Un Certain Regard Award”. Variety. 24 May 2019閲覧。
- ^ a b “Cannes: 'It Must Be Heaven' Takes FIPRESCI Critics' Prize”. The Hollywood Reporter (25 May 2019). 25 May 2019閲覧。
- ^ “Kantemir Balagov's film Dylda nominated for an Oscar from Russia”. Teller Report (24 September 2019). 24 September 2019閲覧。
- ^ “10 Films Make Shortlist for Oscars' Best International Film”. The New York Times. 17 December 2019閲覧。
- ^ “Dylda (2019)”. The Numbers. Nash Information Services, LLC. 11 June 2020閲覧。
- ^ “Beanpole (2019)”. Rotten Tomatoes. Fandango. 2022年4月24日閲覧。
- ^ “Beanpole Reviews”. Metacritic. CBS Interactive. 11 June 2020閲覧。
- ^ a b c d “映画「戦争と女の顔」のプロデューサー「プーチンは看過できないのでしょう。それが史実でも」”. 日刊ゲンダイ (2022年7月18日). 2024年5月28日閲覧。
- ^ “Foreign agent Friday: Ukrainian producer Alexander Rodnyansky, Russian reporters Alexander Plyushchev, Tatyana Felgenhauer, Mikhail Zygar added to Russia's 'foreign agent' list”. Novaya Gazeta. Europe (2022年10月21日). 2024年5月28日閲覧。
- ^ “Queer Palm 2019 Nominee”. 7 June 2019閲覧。
- ^ “EFA Nominations - European Film Awards”. www.europeanfilmawards.eu. 9 November 2019時点のオリジナルよりアーカイブ。11 November 2019閲覧。
- ^ “2020 Austin Film Critics Association Award Nominations”. Austin Film Critics Association (12 March 2021). 19 May 2021閲覧。