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土地収用

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
強制収用から転送)

土地収用とちしゅうよう)とは、日本国憲法第29条第3項「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」に基づき、公共の利益となる事業の用に供するため、土地所有権その他の権利を、収用委員会(委員は都道府県議会の同意を経て任命された収用委員により構成される行政委員会)での審理裁決など、一連の手続きを経てその権利者の意思にかかわらず、又は地方公共団体等に強制的に取得させる行為をいう。

土地収用ができる事業

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土地の収用は、公共の利益となる事業において、民法上の手段だけではその事業の目的を達成するのが困難な場合に、私人の財産権を強制的に取得するためのものであることから、土地収用法第3条、第5条、第6条及び第7条により土地収用が可能な事業を定めている。

土地収用法第3条に定める事業(土地の収用又は使用)

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以上の一に掲げるものに関する事業のために欠くことができない通路、橋、鉄道、軌道、索道、電線路、水路、池井、土石の捨場、材料の置場、職務上常駐を必要とする職員の詰所又は宿舎その他の施設

土地収用法第5条に定める事業(権利の収用又は使用)

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上記の事業の用に供するため、その土地にある次の権利を消滅させ、又は制限することが必要且つ相当である場合において、これらの権利を収用し、又は使用することができる(同法第5条第1項)。

土地収用法第6条に定める事業(立木、建物等の収用又は使用)

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土地収用法第3条各号の事業の用に供することが、必要且つ相当である場合において、その土地の上にある立木、建物その他その土地に定着する物件を、収用し、又は使用することができる。

土地収用法第7条に定める事業(土石砂れきの収用)

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土地収用法第3条各号の事業の用に供することが、必要且つ相当である場合において、その土地に属する土石砂れきを、収用することができる。

別途の法令により定める事業

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政府が基本測量を実施するため又は公共団体等の測量計画機関が公共測量を実施するために必要がある場合において、土地、建物、樹木又は工作物を収用し、又は使用することができ、収用又は使用に当たっては、土地収用法を適用することとしている(測量法第19条、第39条)。

土地収用に伴う補償

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日本国憲法第29条第3項において、私有財産権を公共のために用いることが正当な補償の下に行われなければならないこととなっており、これを受けて土地収用法第6章において、損失の補償に関する規定が設けられている。

土地収用の手続

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土地収用の手続きは、大きく事業認定庁(国土交通省又は都道府県知事)が行う「事業認定手続」と、収用委員会が行う「収用裁決手続」に分けられる。

事業認定

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起業者は、事業のために土地を収用し、又は使用しようとするときは、事業認定庁の事業認定を受けなければならず、認定を受ける前に、国土交通省令で定める説明会等で事業の内容を利害関係を有するものに説明しなければならない(土地収用法第15条の14、第16条)。また事業の内容によって、国土交通省が事業認定庁となるものと、都道府県知事が事業認定庁となるものに分けられる(法第17条)。

ただし、都市計画法に定める都市計画事業については土地収用の事業の認定は不要であり(都市計画法第69条)、都市計画事業の認可又は承認をもって事業認定に代えるものとされる(都市計画法第70条)。

事業認定に当たっては、以下の要件をすべて満たさなければならない(法第20条)。

  1. 事業が法3条に限定列挙される収用適格のいずれかに該当すること。
  2. 起業者に当該事業を遂行する充分な意思と能力があること。
  3. 事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること。
  4. 土地を収用し、又は使用する公益上の必要性があること。

利害関係人は、意見書を提出したり、公聴会開催請求をすることができる(法第23条、第25条)。

国土交通大臣(又は地方整備局長、北海道開発局長若しくは沖縄総合事務局長)が事業の認定に関する処分を行おうとするときは、行おうとする処分と反対の意見書が提出された場合は,社会資本整備審議会の意見を聴取しなければならず、都道府県知事が事業の認定に関する処分を行おうとするときは、都道府県が設けた審議会等の意見を聴取しなければならず、その意見を尊重して処分をしなければならない(法第25条の2)。

事業認定庁は、事業の認定をしたときは、遅滞なく、その旨を起業者に文書で通知するとともに、起業者の名称、事業の種類、起業地、事業の認定をした理由、土地の図面の縦覧場所を、官報や都道府県が定める方法によって告示しなければならない(法第26条1項)。事業の認定の告示の日から、効力が発生する(法第26条4項)。起業者は、事業の認定の告示後に、土地調書及び物件調書を作成しなければならない(法第36条)。

起業者は、起業地の全部又は一部について、事業の認定後の収用又は使用の手続を保留することができる(法第31条)。

収用裁決

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  • 起業者は、事業認定の告示があった日から1年以内に限り、収用し、又は使用しようとする土地が所在する都道府県の収用委員会に収用又は使用の裁決を申請することができる(法第39条第1項)。
  • 収用委員会は、裁決の申請があった時は、市町村別に裁決申請書及びその添付書類について、当該市町村に関係がある部分の写しを当該市町村長に送付するとともに、土地所有者及びその関係人に裁決の申請があった旨を通知しなければならない(法第42条第1項)。また市町村長は、その書類を受け取った時は、裁決の申請があった旨と、「収用し、又は使用しようとする土地の所在、地番及び地目」を公告し、2週間公衆の縦覧に供しなければならない(法第42条第2項)。
  • 土地所有者及びその関係人は、縦覧期間内に意見書を提出することができる。(法第43条第1項)。
  • 収用委員会は、縦覧期間の経過後、遅延なく審理を開始しなければならない(法第46条第1項)。
  • 収用委員会は、審理の結果、申請を却下するか、又は収用若しくは使用の裁決をしなければならない(法第47条、第47条の2)。収用委員会は事業認定に関する判断権限を有しないため、事業認定が違法である場合であっても、収用委員会は法定の却下事由に該当しない場合は、必ず裁決をしなければならない[1]
  • 収用委員会は、裁決申請等を受理したときは、申請を却下する場合を除くほか、収用すべき土地の区域、損失の補償、収用の時期、明渡しの期限等について裁決しなければならない(法第48条、第49条)。
  • この裁決に不服があるものは、国土交通省に審査請求をすることができる(法第129条)。ただし、損失の補償に関する不服は審査請求することはできず、当事者訴訟による(法第133条第2項、第3項)。

起業者と土地所有者又はその関係人との協議の確認

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  • 土地について起業者と土地所有者又はその関係人の全員との間に権利を取得し、又は消滅させるための協議が成立したとき、起業者は、事業の認定の告示があった日以後、収用又は使用の裁決の申請前に限り、当該土地所有者又はその関係人の同意を得て、当該土地の所在する都道府県の収用委員会に協議の確認を申請することができる(法第116条第1項)。
  • 収用委員会は、この申請があった時は、市町村別に確認申請書及びその添付書類について、当該市町村に関係がある部分の写しを当該市町村長に送付し、市町村長は直ちに公告し、その日から2週間公衆に縦覧する(法第118条第1項、第2項)。
  • 収用委員会において確認が行われた時は、土地収用法の適用については、同時に権利取得裁決と明渡裁決があったものとみなされる(法第121条)。

公共用地の取得に関する特別措置法に基づく緊急裁決制度

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公共用地の取得に関する特別措置法第2条に基づき、公共の利害に特に重大な関係があり、かつ、緊急に施行することを要する事業として行われる特定公共事業(高速道路や国道、新幹線、成田国際空港など国家的に重要な事業が指定されている)について、国土交通大臣による特定公共事業の認定を受けることができ(公共用地の取得に関する特別措置法第7条)、その場合で、起業者の申請に基づき、収用委員会に対し補償の額について審理が終了していない場合でも、仮補償金の払渡しまたは供託を条件として権利取得裁決及び明渡裁決をすることができる(公共用地の取得に関する特別措置法第20条第1項)。この場合、申立ての日から2月以内に裁決をしなければならない(公共用地の取得に関する特別措置法第20条第4項)。尚も審理を要すると認める事項については継続し、差額等については補償裁決をする(公共用地の取得に関する特別措置法第21条)。

収用委員会が緊急裁決を行わない場合は、起業者からの異議申立てに応じ、国土交通大臣が裁決の代行を行う(公共用地の取得に関する特別措置法第38条の3)。

この制度は、近年は用いられていないが、主な適用事例として1971年に成田国際空港(当時の名称は新東京国際空港)の建設の際の土地収用に使用された事例がある。

駐留軍用地特措法に基づく収用等

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日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法(駐留軍用地特措法)により、駐留軍(在日米軍)の用に供するため土地等を必要とする場合に使用または収用する場合は地方防衛局長の申請に基づき、防衛大臣が土地等の使用又は収用の認定を行い、裁決については土地収用法の規定が適用される。

なお、前述した公共用地の取得に関する特別措置法に準ずる緊急裁決の制度や使用について従前から駐留軍の使用に供されていた土地について使用を継続するに当たり期限まで裁決の審理が終わらないときの認定土地等の暫定使用の制度が定められている。

その他の補償規定

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その他、土地収用や使用について自衛隊法消防法などの規定に基づき、補償規定が設けられている。 また、税制では収用等により土地建物を売ったときの特例として、対価補償金等で他の土地建物に買い換えたときは譲渡がなかったものとする特例や譲渡所得から最高 5,000万円までの特別控除を差し引く特例が用意されている[2]

アメリカ合衆国における土地収用

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アメリカ合衆国憲法においては、土地収用は、修正第5条「(前略)何人も、(中略)法の適正な手続きによらずに、生命、自由または財産を奪われることはない。何人も、正当な補償なしに、私有財産を公共の用のために徴収(収用)されることはない。」、および修正条項第14条「(前略)如何なる州も法の適正な手続き無しに個人の生命、自由あるいは財産を奪ってはならない。」に基づく。

なお、英語では収用を Eminent domain あるいは Taking という。

脚注

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  1. ^ 「Q&A土地収用法」p.109
  2. ^ No.3552 収用等により土地建物を売ったときの特例”. 国税庁 (2023年4月1日). 2024年2月1日閲覧。

参考文献

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  • 土地収用法令研究会編著「Q&A土地収用法」ぎょうせい 2002年

関連項目

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外部リンク

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