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空飛ぶクルマ(そらとぶクルマ、空飛ぶ車、英: Flying car)は、個人用航空機または空陸両用車の一種である。
かつてSF作品に登場していたが、2020年代の実用化が予想される次世代の交通手段として注目を集めている。各国の企業・政府が開発と利用・規制のルールづくりに鎬を削っている。
安全に飛行できる機体の開発、操縦者の免許や運行事業者への許認可の制度設計、飛行してよい空域・高度の設定、離着陸場所の確保およびこれらの国際的調整が課題となる[1]。
概要
[編集]世界全体で約200の企業・団体が開発に取り組んでおり、有人試験飛行に成功した機体もある。各開発母体はアメリカ合衆国、中華人民共和国、日本、ドイツなどを本拠地としており、欧州のエアバスのような多国籍企業もあるほか、ウーバーとヒュンダイ(韓国)、ボーイングとポルシェ、JALとボロコプター(ドイツ)のような国際的提携も行われている[1]。
日本の経済産業省は「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」を正式名称としている[2]。つまり、電気を動力として、垂直離着陸 (VTOL) が可能であり、飛行に航空機パイロットを必要としない航空機を差す[3]。
従来型の航空機と比較して電動であれば環境に優しくなり騒音も発生しにくくなる[3]。電動化で機体の構造が簡素化することによって機体設計の自由度が増し逆に様々なコストは低下する[4]。また、自律飛行であれば人件費の削減が可能になる[3]。さらに、離着陸に垂直離着陸を採用すると滑走路等が不要になり、現在地から行きたい所へ点から点への移動が可能になる[3]。
これまで人類による空の利用は飛行機やヘリコプターなどを通した限定的なものに留まっていたが電動化と無人化に成功した空飛ぶクルマが量産化されることによって交通に新たな『空の移動革命』がもたらされ一般人が日常の交通手段に空を利用する『空の移動の大衆化』の訪れが想定されている[3]。その影響は第二次世界大戦後のモータリゼーションが社会に与えた革新に匹敵する可能性があるという[3]。
アメリカのモルガン・スタンレーによれば、2040年までに空飛ぶクルマの世界市場は約170兆円に達すると予測している[5]。
定義
[編集]"空飛ぶクルマ"とあるが、必ずしも地上走行能力を持っている必要はなく、空を移動できる身近な乗り物という意味で空飛ぶクルマと呼称されることが多い[3]。また、空飛ぶクルマに明確な定義は存在しない。
日本政府は電動と自動と垂直離着陸が一つになったものと定義している[3]。しかし、空飛ぶクルマの中には電動ではなく有人であり垂直離着陸機では無い物も含まれる[3]。
機体の面からはeVTOLや大型の有人ドローンなどとも換言できる[6][7]。他にも空飛ぶクルマを乗り物としてではなくサービスやシステムとして捉える向きもある[6]。
eVTOLは電動で垂直離着陸できる機体を差す。元々小型ドローンとして販売された物をヒントに人が乗れる機体を開発する企業が出てきた。eVTOLは開発が比較的簡単であるため多くの企業が人を乗せられる機体の開発・運用を目指している。eVTOLは空飛ぶクルマの代名詞になっている[8]。
また、空を飛べて地面も走れる空陸両用車の開発も従来から行われてきたが、航空機は単発ピストンエンジンの単座機でもスーパーカー以上の価格であり、実際に操縦するには自動車免許の他、最低でも自家用操縦士と航空特殊無線技士が必要で、飛行計画の事前提出が求められるなどハードルが高く、個人やベンチャー企業の小規模な研究にとどまっていた。その後ドローンや自動運転車の発展により、自動操縦により免許不要で利用できる小型エアタクシーの計画が大手企業の出資でスタートしている[9]。
設計上、道路を走行するには機体を頑丈に作る必要が出てくるため結果的に飛行には不利になり、地上走行時に翼を折り畳む機体の場合は構造が複雑化して故障が多くなると予想される[10]。
なお、必ずしも全ての機体がこの定義の内のどれか1つに当て嵌まるわけではなく、なかには、eVTOLタイプと空陸両用車タイプを合わせた様な機体もある[11]。
歴史
[編集]古くは1920年代に自動車王ヘンリー・フォードが空陸両用車「flying car」の開発に取り組んでいたが成功しなかった[12]。1983年にはカナダ人ポール・モラーにより垂直離着陸型の空飛ぶクルマの開発が始まった[12]。
日本においては1997年に岐阜県工業会によって「ミラクルビークル」と言う空飛ぶクルマの開発が発表された[12]。これは日本国内のメディアで空飛ぶ車という言葉が最初に使用された例である[12]。しかし開発は資金難により2012年に終了した[12]。
2014年、北米トヨタはUmesh N GandhiとTaewoo Namにより設計された飛行可能な車の特許を出願したが[13]、開発などは行われていない[12]。ちなみにトヨタは2020年にeVTOL型の空飛ぶクルマ開発企業との提携を発表している[13]。
eVTOLタイプの空飛ぶクルマは、小型ドローンをベースに人が乗れる機体を作るという試みが発端となり徐々に発展した。2011年にはマルチコプターに人を乗せるテストが行われ、2016年以降様々なスタートアップ企業がeVTOLタイプの空飛ぶクルマの開発に当たっている。
種類
[編集]機体
[編集]空飛ぶクルマは機体の構造によってマルチコプター型と固定翼付き型に大きく分けられ[14]、地上走行能力の有無でさらに細分化できる[15]。
マルチコプター型は小型ドローンの様に複数のローターを回転させて垂直離着陸や水平飛行を行う[7]。
このタイプは各ローターの回転数に差を付けることによって全ての機体操作を賄うため固定翼がなく滑空ができない[7]。
そのため、水平飛行時の効率が悪く長距離移動より短距離移動に適していると言われる[7]。メリットとしては他の型と比べてホバリングや垂直離着陸に長けている[7]。
固定翼付き型はローターに固定翼を付け加えたタイプである[14]。水平飛行時に翼を利用できるためマルチコプター型より長距離の移動が可能である[7]。
固定翼付き型は離着陸時と水平時にプロペラの向きだけを変更するティルトローター型、プロペラが付いている固定翼ごと傾けるティルトウィング型、離着陸時と水平時にそれぞれ別の機構を使用する分離型に細分化できる[16]。
マルチコプター型の開発費用が数千万円程度なのに対し固定翼付き型の開発コストは数億円ほどになる[14]。
動力
[編集]空飛ぶクルマはフル電動が多いがバッテリーが抱える問題により、モーターとエンジンのハイブリッドを取る場合もある。ハイブリッドには幾つかタイプがあり、パラレルハイブリッド方式とシリーズハイブリッド方式に分られる。
パラレルハイブリッド方式はエンジンとモーターの両方を動力とすることによってケースバイケースで適切に動力を使い分けることが可能になるが、構造が複雑化する上にエンジンを使用するとプロペラの回転数で機体操作を行うタイプの機体では繊細な応答が難しくなる[17]。
シリーズハイブリッド方式はエンジンを発電機にして生み出された電気でモーターを動作させる。パラレルハイブリッドがもつ構造の複雑化はある程度抑えられ、相性の悪さも発生しないため後者の方式を採用する企業が多い[17]。
利用
[編集]都市
[編集]近年世界各国では都市部での交通渋滞が問題になっているが、空飛ぶクルマを使用すれば渋滞している道路を避けて移動することができる。
そういった需要を見越して航空大手のエアバスなどは空飛ぶクルマを使った空飛ぶタクシーのサービス「CityAirbus」を計画している[18]。また世界的なライドシェア企業ウーバー社は空飛ぶクルマのライドシェア(相乗り)サービス「UberAir」の展開を目指して様々な開発企業と提携している[19]。
アメリカ航空宇宙局 (NASA) は都市部における空飛ぶクルマの利用方法としてエアメトロ型とエアタクシー型を挙げている[20]。
エアメトロ型は地上におけるバスや地下鉄と同様に予め決められたルートを時間通りに運航するものである[20]。エアタクシー型は乗客が空飛ぶクルマを自由に呼び出せるタイプで行きたい場所に直線的に移動することができる[20]。これは地上におけるライドシェアやタクシーに相当する[20]。なお、どちらのサービスも電動で自律飛行が可能な垂直離着陸機の使用を前提としている[20]。
日本は既に交通インフラが整っているため、都市の空飛ぶタクシーは海外ほどの高い需要はないとみられ[21]、東京等の大都市では終電後の交通手段としてのニーズの方が高いと考えられる[22]。
地方
[編集]空飛ぶクルマは地方における新たな交通手段として注目を集めている。
専門家からは空飛ぶクルマを都心部での空飛ぶタクシーとして運用するより、先ずは地方での新たな交通手段として導入すべきと言う意見がある[23]。
災害対応
[編集]地震や洪水で道路が寸断されると人命の救助や支援物資の輸送等が難しくなる。現在でも災害時にはドクターヘリが活用されているが空飛ぶクルマは機体がより小さいため、よりピンポイントな支援が可能になる。
不安定な場所への離着陸や夜間飛行が必要になり平時での運用とは異なる課題があるが[24]、具体的な役割としてはケガ人の救助、救援部隊の投入、被災地への支援物資の運搬などが想定されている[25]。
実際に2023年から災害救助に空飛ぶクルマを使用することを「空の移動革命に向けた官民協議会」 (後述) がロードマップで発表している[24]。
医療
[編集]空飛ぶクルマは、現在、ドクターヘリがその役割を担っている救急医療などにも利用できる[25]。ドクターヘリは医師や患者の高速搬送などで使用され成果を上げている一方、離着陸可能な場所が多くない、夜間飛行が実施されてない、若手パイロットが少ないなどの問題を抱えている[26]。
空飛ぶクルマは機体がコンパクトで離着陸場所の選択肢が多く、自律飛行であれば夜間飛行も可能で、操縦も容易であることからフライトドクターなどから注目を集めている[26]。
日本にドクターヘリを普及させた医師の松本尚は空飛ぶクルマはドクターヘリの補完ではなく置き換える存在だと発言している[27]。
2020年2月、中国の企業イーハンの「EHang 216」が実際に中国で救急車として運用され医療品や人を運搬した[28]。
バッテリー
[編集]空飛ぶクルマは電動を前提としているが、現在のリチウムイオン電池で充電なしに一度に飛行できるのは30分程度であり飛行距離に置き換えると100kmから150kmほどである[29]。そのため長距離移動が可能な空飛ぶクルマの実現には全固体電池の実用化などが必要になる[30]。ただし、都市内での移動のような短距離の用途であれば現行の技術でも十分可能である[30][31]。
また、Alaka’i Technologiesの機体「Skai」やイスラエルの企業の「CityHawk」はバッテリーではなく水素燃料電池をエネルギー源にしている[32][33]。水素燃料電池はバッテリーよりもエネルギーをより多く蓄えられより長距離を移動できる[32]。その場合燃料電池の価格がネックになる[32]。
自律飛行
[編集]空飛ぶクルマはパイロットレスの自律飛行を採用するものが多い。理由の1つは安全性の問題である。これは現在地上においても自動車による事故が絶えない以上空飛ぶクルマを人間が運転するのは危険だという判断がある[34]。
自動運転は既に地上の車において実現のために実験が進められているが、障害物や人が存在する地上より空中のほうがむしろ自動運転の難易度は低い[34]。そのため地上における自動運転車の実現より空飛ぶクルマの自動運転化のほうが早いという指摘もある[35]。
ただし社会導入の初期の段階では訓練されたパイロットに操縦してもらうという形が想定される[14]。飛行にプロのパイロットが必要だと人件費が高騰してしまうため最終的にはパイロットレスの自律飛行に移行する[14]。
社会受容性
[編集]都市において空飛ぶクルマが運用されるには騒音や安全性が問題になる。日本国内においては航空機と同レベルの安全性と静音性が求められる[36]。
空飛ぶクルマは航空機とドローンの間くらいの所を飛行する予定である。これはヘリコプターが利用する高さと同じであるが、騒音は内燃機関を使用するヘリコプターと比べて空飛ぶクルマのほうが低い[29]。
ただし街中に離着陸するには現在の技術では騒音が大きすぎるため当面は専用のポートを使用する必要があると考えられる[37]。
安全性に関しては空飛ぶクルマは複数のローターを使用するため冗長性が高く1つのローターが停止したところで即墜落することは無い[38]。ただし、動力が停止して全てのローターが動か無くなることはあり得る。
その場合は機体ごとバリスティック・パラシュートなどで吊り下げて緩やかに着陸する方法が考えられる[39]。
高級モデル
[編集]空飛ぶクルマの高級モデルの開発も進められている。
アストン・マーティンは2018年に開催されたファーンボロー国際航空ショーで空飛ぶクルマの高級モデル「Volante Vision Concept」を発表した[40]。機体はハイブリッドのeVTOL機で、2020年代半ばの生産を目指し、価格は10億円ほどを予定している[40]。
2019年10月、高級車メーカーのポルシェはボーイングとの共同チームを発足させ、空飛ぶクルマの高級モデルについて研究を行うことを明らかにした[41]。
イギリスの企業VRCOは高級モデル「NeoXcraft」を販売予定である[42]。価格は2億円ほどで、世界で年間200-300機の販売を目指している[42]。日本では2021年後半の販売を予定している[42]。
国・行政による取り組み
[編集]日本
[編集]2018年には日本の経済産業省と国土交通省による官民合同の「空の移動革命に向けた官民協議会」が開催され、空飛ぶクルマの実用化に関するロードマップが作成された[43]。
ロードマップによると2019年から実証実験や飛行試験をスタートさせ、2023年に事業化、2030年代にはそれを更に拡大させていく予定である[43]。最初は物の運搬からスタートさせて徐々に地方での人の移動に移っていき、最終的には都市における人の移動を担うという[43]。
また、大阪府においても2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)での利用を見据えて、約40社が参加する産官学連携のラウンドテーブルを2020年11月に設立し、2023年の事業化を目指している[44]。
開発中の空飛ぶクルマ
[編集]現代では多くの企業が空飛ぶクルマの開発を行っている。
eVTOLタイプ
[編集]SkyDrive
[編集]日本のスタートアップ企業SkyDriveは「SkyDrive」の開発を行っている。SkyDriveはeVTOL機でありながら地上走行も可能な機体である。2020年東京オリンピックでオリンピックの聖火に点火する予定であったが[45]、新型コロナウイルス感染症の流行により延期された[46]。2020年8月、4隅にプロペラとモーターを計8個配置したクアッドコプターの試作機で空中を4分間飛行するテストに成功した[47][48]。
2023年に大阪でのサービス開始を目指している[49]。
キティー・ホーク
[編集]ラリー・ペイジが出資するZee.AeroとKitty Hawk社は空飛ぶクルマの開発を行っている[50]。2017年4月、Kitty Hawk社は水上飛行機能のみを備えたFlyerと呼ばれるVTOL航空機を発表した[51]。2019年、Kitty Hawkはボーイングとの合併会社Wisk Aeroを設立し新たな機体「Cora」を開発[52][53]。2020年にはFlyerの開発終了が発表され、今後は大型eVTOL機「Heaviside」の開発に注力するという[54]。
ボロコプター
[編集]ドイツの企業ボロコプターは「Volocopter 2X」の開発に当たっている[45]。2019年8月にヘルシンキ空港で行われた無人航空機用と有人飛行機用のシステムが都市空間で問題を起こさずに動作するかを確認するテストに成功した[55]。テストにはAirMap、Altitude Angel、Unifly等の無人航空機用システム開発企業が参加した[56]。
2020年現在は、Volocopter 2Xの後継機である「VoloCity」の開発に当たっている[57]。VoloCityは2人乗りのeVTOL機で航続距離は35km、最大速度は110km、空港と都市を結ぶ空飛ぶタクシーとして使用される予定である[57]。
発着場にはビルの屋上を使用するほかVoloportと呼ばれる専用の発着場を建設する[57]。Voloportでは専用のロボットが機体の電池の交換を行う[57]。VoloCityには専用アプリを利用して事前予約して乗車する[57]。
エアバス
[編集]航空大手のエアバスはeVTOL機『CityAirbus』を使った空飛ぶタクシーのサービスを構想している[58]。
CityAirbusは4人乗りの機体で航続距離は30km、一度の充電で15分間飛行可能であり、パイロットを必要としない自律飛行を想定している[58]。主にインフラの不足している発展途上国の都市部で空飛ぶタクシーとして運用する予定である[58]。
2019年5月3日にはドイツのドナウヴェルトで初飛行を行った[59]。現在は2024年のパリ五輪に向けて開発を急いでいる[58]。
また、過去には「A³ Vahana」の開発を行っていたが2019年12月に開発の終了を明らかにしている[60]。
イーハン
[編集]中国の企業イーハンの機体EHang 216[45] は2019年8月に行われた「2019 China-Northeast Asia Expo」で乗客を載せたままデモ飛行を行った [61]。
Urban Aeronautics
[編集]イスラエルの企業Urban AeronauticsによるCityHawkは機体の前方と後方にローターを備えた設計である。
Alia
[編集]ベータ・テクノロジーズが2020年6月に発表した『Alia』は2人乗り用の空飛ぶクルマである[62]。機体の構造は渡り鳥のキョクアジサシをモデルに開発され[63]、総重量は2720kgで航行距離は400km、乗車スペースとは別に貨物を載せるスペースがある[62]。
離着陸時と飛行時にそれぞれ別の推進機構を使用する設計であり、4機の回転翼は離着陸に、機体後方のプロペラは通常飛行に使用される[62]。Aliaの主な使用用途は移植用臓器の搬送である[62]。
Archer
[編集]Archer Aviationが2020年5月に発表した「Archer」は総重量3175kgの4人乗りの大型機である[62]。最高時速は250㎞で最大航続距離は約100km[62]。機体は旅客機と同等の安全性を持たせるとしている[64]。
Archerは都市部での使用を想定しており、渋滞の解消やエネルギー問題の解決に寄与することを目指している[64]。飛行時の騒音は住宅地の騒音レベルを超えない程度に抑えるという[64]。
Joby
[編集]2019年12月、Joby AviationはUberとの提携を明らかにした。Jobyが開発する「S4」はUberの空飛ぶタクシー構想UberElevateに使用される予定である。
空陸両用タイプ
[編集]Moller Skycar
[編集]カナダの発明家、ポール・モラー (Paul Moller) がMoller Internationalで開発した空を飛ぶ自動車(スーパーカー)である。そのうち、モラー・スカイカーM400 (Moller Skycar M400) は4人乗りで最高時速350マイル(約560km)、垂直に離陸が可能 (VTOL) である。飛行機やヘリコプターなどとはあくまで一線を画しており、スカイカーはあくまで自動車のように、庶民の誰もが運転できるようになる、手軽な交通手段としての普及を目指している。現在は競売価格で4億円程度と高額だが、大量生産が始まれば、近い未来には10万ドル以内(1,000万円程度)での販売を視野に入れている。
2013年、モラーは米国企業と中国企業のコンソーシアムと共同生産することで合意した[65]。
Transition
[編集]米国企業のテラフージア (Terrafugia) によるもので、2011年中に生産を開始すると発表している。30秒以内に地上走行モードから飛行モードへの切り替えが可能。また、燃料の満タン時には640~720キロの飛行ができ、最高速度は時速185km、価格は1,600万円〜2,100万円と発表している。現在、同社のホームページにて1万ドル(約80万円)で予約を受け付けている[66]。
テラフージアではこの他にDARPAのトランスフォーマーTXという空陸両用車の製造を担当[67]した他、「AirCar」(エアカー)という名称の空陸両用車も開発している[68]。
2017年11月にテラフージアは中国の吉利汽車の親会社の浙江吉利控股集団に買収され[69]、3倍の人員と資金を得てTransitionの開発体制を安定させたことから2019年の市販を発表し[70]、2018年10月に世界初の量産型空飛ぶクルマとして注文開始した[71][72][73]。
flying Maruti
[編集]インドのバンガロールに住むヴィシュワナート (A.K. Vishwanath) がマルチ・スズキ・インディアのマルチ・800(2代目スズキ・アルトベース)を改造して製作。バンガロール空港で開催された航空ショー「エアロインディア2011」に展示された。ミツバチの飛行能力などを参考にし開発に16年を費やしたとしているが、航空力学的に飛行出来ないと言われ現在のところ飛行試験は行われていない[74]。
パラジェット社製スカイカー
[編集]英国企業パラジェット (Parajet) によるモーターパラグライダーを利用した空陸両用車。ギー風の車にパラグライダーのような翼を持つ[75]。レイジ・モータースポーツ (Rage Motorsport) との共同生産、スカイカーの考案は冒険家のニール・ロートン (Neil Laughton) である。地上走行モードから飛行モードへの切り替えは3分程、離陸するための速度は時速約56km、200メートル以上の滑走路により離陸可能である。飛行モードでの最高速度は時速約110km、巡航高度約600〜900メートル、最高高度約4,500メートルとなっている。また、地上走行モードでの最高速度は時速約160km、4.5秒で時速約97kmまで加速できる。ロンドンからアフリカ・マリ共和国のトンブクトゥまで飛行するプロジェクト「スカイカー・エクスペディション2009」に成功した。将来的には車体を80kg軽量化し、約142psのヤマハ燃料噴射式3気筒エンジンを搭載する予定である[76][77]。
PAL-V Liberty
[編集]PAL-V Libertyはオランダの企業が2004年から開発に着手している空陸両用車である[78]。2012年に試作機での初飛行に成功し、2018年にはジュネーヴ・モーターショーで量産モデルが初公開された[78]。2020年に最初の空飛ぶクルマとして発売される予定であり[79] 、2021年にはインドのグジャラートでフル生産に入る予定である[80]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b 【GlobalEconomy 国際経済】空飛ぶ車 実用化レース「20年代半ばにも」企業続々参入『読売新聞』朝刊2020年10月30日
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関連文献
[編集]- BBC News Flying cars in 25 years, BBC News Online, 22 September 2004.
- Brown, Stuart F. Why We’re Not Driving the Friendly Skies, The New York Times online, 22 August 2014, and in print on 24 August 2014, on p. AU1 of the New York edition.
- Feltman, Rachel. Why Don't We Have Flying Cars?, Popular Mechanics, 21 February 2013.
- Hakim, Danny. A Helicopter of One’s Own, The New York Times online, 16 June 2014, and in print on 17 June 2014, p. D2 of the New York edition.
- Hodgdon, Theodore, A.; Onosko, Tim (ed.) "At Last —a Convertible Auto-Plane", in Wasn't the Future Wonderful?: A View of Trends and Technology from the 1930s, Dutton, 1979, pp. 152–153, ISBN 0525475516, ISBN 978-0525475514.
関連項目
[編集]- 空陸両用車
- 垂直離着陸機(VTOL機)
- MaaS
- アーバン・エア・モビリティ
外部リンク
[編集]- Roadable Times, pictures and descriptions of over 70 designs of flying cars and roadable aircraft past and present.
- How Flying Cars Will Work at HowStuffWorks.
- X-Hawk from HowStuffWorks
- “空飛ぶクルマ”の実現に向けたロードマップを取りまとめました -経済産業省
- クラスターファンVTOL技術による「空飛ぶクルマ」の提案
- Moller International
- Terrafugia
- Parajet