門 (分類学)
門(もん、英: phylum, division、複数形: phyla、羅: phylum, divisio)は、生物分類のリンネ式階層分類における基本的分類階級のひとつであり、またその階級に属するタクソンのことである。生物全体はおよそ100の門に分類されているが、この数字は分類学者によって大きく異なる。界の下・綱の上に位置しており、門の下に亜門(あもん、英: subphylum, subdivision)を置く場合もある。
位置
[編集]門はリンネが『自然の体系』で用いた分類階級ではなく、19世紀以降に綱をさらにグループ化する階級として導入された。必要に応じて(界)・亜界・下界・上枝・枝・亜枝・下枝・上門・(門・亜門)・下門・上綱・(綱)などを適宜使う。
後生動物では慣例的に、基本的な体制が共通しているタクソンが門とされ、約30の門に分類されている。たとえば、ヒトは脊索動物門に属する。
呼称
[編集]従来、英語などでは門を、動物学では phylum と呼び、植物学では国際植物命名規約(現在の国際藻類・菌類・植物命名規約)に基づき division と呼んだ。東京規約(国際植物命名規約の1994年の版)から、植物学でも phylum と呼ぶことが認められたが、現在でも division と呼ぶことが多い。
植物学の命名規約では1905年のウィーン規則以来divisionと呼んでいたが、藻類や菌類は原生動物と密接な関係があり、同じ階級に対して複数の用語が使われる煩わしさが指摘されていた。これを動物学で用いられているphylumに統一しようという提案は1974年にはじめてなされ、以降数回にわたって国際植物学会議における議題に上がっているが、様々な理由から可決されなかった。その1つには、過去にphylumとdivisionを同時に別の階級として利用した例があり、その扱いが考慮されていないというものがあった。またphylumは系統関係を強く示唆する語であって階級の名としては相応しくない、わざわざ動物学の不適切な用語に合わせる必要はないというものもあった[1][2]。最終的に1993年の東京会議で、phylumとdivisionを等価なものとしてどちらも利用可能とし、仮に同時に別の階級として利用した場合には既存の規定通り正式発表されたと見なさない、とする変更が可決された[3][4]。
phylum の語源はギリシア語の phylai で、原義は古代ギリシアの都市国家において血縁に基づき決められた投票グループのことである。ヘッケルが Generelle Morphologie der Organismen (1866) で導入した語であるが、概念としてはキュヴィエが用いた embranchement「分岐」と同義である。division の原義は「分ける」である。
命名法
[編集]門・亜門に対する命名法は一般にあまり強く規制されていない。国際藻類・菌類・植物命名規約、国際動物命名規約、国際原核生物命名規約のいずれでも、優先権を必ずしも守る必要がなく、タイプの名前を元にして作る必要もない。国際藻類・菌類・植物命名規約では、タイプの名前を元にして命名する場合には属名を元にして語尾を統一することが規定されているが、説明的な名前の場合にはその必要はない。なお、植物学では上門・下門はほとんど使われない。国際動物命名規約や国際原核生物命名規約にはそもそも門以上の階級に対する規定はないため統一語尾は存在しないが、慣例的にほとんどは -a で終わり、とくに動物は -zoa、細菌は -bacteria、古細菌は -archaeota が多い。国際原核生物命名規約では、2015年と2018年に門に対する規定の提案が提出されており[5]、タイプ綱の語幹に語尾 -otaを付ける(綱名が -bacteria の場合は -bacteriota となる)ことが提案されている[6]。
ウイルスには現在のところ門・亜門などの階級は存在しない。
階級 | 陸上植物 | 藻類 | 菌類 | 細菌 | 動物 |
---|---|---|---|---|---|
門 | -phyta | -mycota | |||
亜門 | -phytina | -mycotina |
一覧
[編集]真核生物ドメイン
[編集]真核生物ドメイン(Domain Eukarya)の門(phylum)一覧。
動物界
[編集]動物界(Kingdom Animalia)の門(phylum)一覧。
植物界
[編集]植物界(Kingdom Plantae)の門(division)一覧。
菌界
[編集]菌界(Kingdom Fungi)の門(phylum)一覧。
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原生生物界
[編集]原生生物界(Kingdom Protista)の門(phylum)一覧。
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古細菌(アーキア)ドメイン
[編集]古細菌(アーキア)ドメイン(Domain Archaea)の門(phylum)一覧。
上位分類 (界・上門) |
門 | 細胞機構等 | 特徴 | 代表例 | 種類 | |
---|---|---|---|---|---|---|
ユーリ古細菌界 Euryarchaeota |
ユーリ古細菌門 Euryarchaeota |
Zリングによる細胞分裂 | DNAPolD,BI | 9綱を含み多様 | Pyrococcus furiosus, Halobacterium salinarum, Methanobrevibacter smithii, Thermoplasma acidophilum | 539 |
DPANN群またはユーリ古細菌界 | ナノ古細菌門 Nanoarchaeota |
Zリングによる細胞分裂 | 寄生性 | Nanobdella aerobiophila | 1 | |
プロテオ古細菌界 Proteoarchaeota |
クレン古細菌門 Crenarchaeota |
ESCRT複合体による細胞分裂 | DNAPolBI,BII、RNApolG | 大半が好熱菌 | Sulfolobus acidocaldarius, Pyrobaculum islandicum | 69 |
タウム古細菌門 Thaumarchaeota |
ESCRT複合体による細胞分裂 | DNAPolBII,D、TopIB | 中温性が多い。大半は亜硝酸菌で残りも好気性菌が占める。 | Nitrososphaera viennensis, Nitrosopumilus maritimus | 6 |
他に記載種を含まないものとして10門以上
細菌(バクテリア)ドメイン
[編集]細菌(バクテリア)ドメイン(Domain Bacteria)の門(phylum)一覧。
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参考文献
[編集]- ^ Thomas & Raven (1986). “(258) Proposal to Substitute the Term "Phylum" for "Division" in Art. 3.1 and Elsewhere in the Code”. Taxon 35 (4): 842-843. doi:10.2307/1221673.
- ^ Greuter et al. (1989). “Report on Botanical Nomenclature: Berlin 1987. XIV International Botanical Congress, Berlin: Nomenclature Section, 20 to 24 Juli 1987”. Englera 9: 34-36. doi:10.2307/3776740.
- ^ Hawksworth, D.L. (1993). “(245-259) Fifteen Miscellaneous Proposals Towards the Evolution of a "Code" Appropriate to the Needs of the 21st Century”. Taxon 42 (1): 156-162. doi:10.2307/1223328.
- ^ Greuter et al. (1994). “Report on Botanical Nomenclature: Yokohama 1993. XV International Botanical Congress, Tokyo: Nomenclature Section, 23 to 27 August 1993”. Englera 14: 38-39. doi:10.2307/3776762.
- ^ Oren et al. (2015). “Proposal to include the rank of phylum in the International Code of Nomenclature of Prokaryotes”. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 65 (11): 4284–4287. doi:10.1099/ijsem.0.000664.
- ^ Whitman et al. (2018). “Proposal of the suffix –ota to denote phyla. Addendum to ‘Proposal to include the rank of phylum in the International Code of Nomenclature of Prokaryotes’”. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 68 (3): 967–969. doi:10.1099/ijsem.0.002593.