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オクソコ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
オクソコ
オクソコの復元図
地質時代
後期白亜紀マーストリヒチアン期前期
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Saurischia
亜目 : 獣脚亜目 Theropoda
階級なし : コエルロサウルス類 Coelurosauria
階級なし : オヴィラプトロサウルス類 Oviraptorosauria
: オヴィラプトル科英語版 Oviraptoridae
亜科 : ヘユアンニア亜科 Heyuanninae
: オクソコ属 Oksoko
学名
Oksoko
Funston et al., 2020
タイプ種
Oksoko avarsan
Funston et al., 2020

オクソコ学名Oksoko[1]は、モンゴル国化石が産出したオヴィラプトロサウルス類オヴィラプトル科英語版に属する獣脚類恐竜[2]。ホロタイプ標本はゴビ砂漠に広がるネメグト層から産出しており、生息した時代は後期白亜紀マーストリヒチアン期前期と推定されている[2]。タイプ種はOksoko avarsan[2]。近縁のオヴィラプトルが前肢に3本の指を持つのに対し、本属は前肢が小型でかつ指が2本しか存在しておらず、ティラノサウルス科アルヴァレスサウルス科を彷彿とさせる前肢の退化を示している[1]

発見と命名

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オクソコの化石はFunston et al. (2020)時点で複数発見されており、モンゴル国ネメグト盆地英語版で産出している[2]。具体的な産地が判明しているものはブギンツァフとグリリンツァフ[注 1]から産出しており、これらの産地はいずれもネメグト層の露頭が分布している[2]

ホロタイプ標本に基づき、古生物学者グレゴリー・F・ファンストン[注 2]ツクトバートル・チンゾリッグヒシグジャウ・ツクトバートル[注 3]小林快次コーウィン・サリバン[注 4]フィリップ・J・カリーが2020年にタイプ種Oksoko avarsanを記載・命名した[2]。属名はホロタイプを含む群集に3個の頭蓋骨が保存されていたことから、アルタイの神話に登場する3個の頭部を持つワシにちなんでOksokoと命名された[2]。タイプ種の種小名avarsanモンゴル語で「救出された」を意味する"аварсан"に由来しており、密売業者や密輸業者から化石が回収されたことを反映している[2]

標本

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オクソコの標本はFunston et al. (2020)時点でホロタイプ標本を含めて6個知られており、その全てがモンゴル科学アカデミー英語版古生物学地質学研究所に所蔵されている[2]。特にホロタイプ標本を含む3個体が1つの母岩に埋まっており、これらは纏めてMPC-D 102/110の標本番号を与えられた上で、a, b, cの枝番号が付与された[2]。MPC-D 102/110の3個体はいずれも体重45キログラム程度と推定されており、ホロタイプ標本MPC-D 102/110aが最も完全で、MPC-D 102/110bで右半身、MPC-D 102/110cで骨盤付近のみが保存されている[2]。MPC-D 102/110aとMPC-D 102/110bには、他のオヴィラプトロサウルス類にも見られる、休息姿勢に類似した姿勢が確認されている[2]。6個の標本全てを統合すれば、オクソコは全身の骨が保存されていることになる[2]

プレパーレション前のホロタイプ群集(MPC-D 102/110a, b, c)
MPC-D 102/110a(ホロタイプ)
ほぼ完全な幼若個体の骨格。尾椎の後側半分が失われている[2]
MPC-D 102/110b
ほぼ完全な幼若個体の骨格[2]
MPC-D 102/110c
部分的な幼若個体の体骨格[2]
MPC-D 100/33
亜成体の部分的な体骨格[2]。1974年にブギンツァフで回収された[2]
MPC-D 102/11
頭蓋骨を伴う部分的な幼若個体の骨格[2]。MPC-D 102/110aやMPC-D 102/110bと同じくかがみこんだ姿勢が確認されている[2]
ホロタイプの群集に由来すると思われる、別個体の頭蓋骨要素(後眼窩骨方形骨方形頬骨)が付随している[2]
MPC-D 102/12
成体の体骨格[2]。1998年にグリリンツァフで回収された[2]

特徴

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ホロタイプ標本の頭蓋骨

Oksoko avarsanは小型のオヴィラプトル科恐竜である[2]。本種を特徴づける形質状態としては、鼻骨前頭骨が同程度に構成する頂部が厚い頭部のドーム状の鶏冠、窪みの中に位置する鼻骨の凹部、背側に向いた前頭突起を持つ後眼窩骨、発達したepipophyses (enが存在する頸椎、機能指が2本である手、腸骨のbrevis fossaに存在する装飾稜、前側に湾曲する恥骨、遠位第IV足根骨に存在する大型の近位背側突起がある[2]。このうち、鶏冠と腸骨の装飾稜、および2本の機能指は固有派生形質と見なされている[2]

オヴィラプトルのような近縁な恐竜に機能指が3本存在しており、また手の指の退化傾向がオクソコの属する亜科において進行していることから、オクソコが機能指を2本しか持たないことは注目されている[1]。指の退化・前肢の小型化はティラノサウルス科アルヴァレスサウルス科にも通じるものであり、こうした他の分類群の進化の過程にも視座を与える可能性がある[1]

分類

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オクソコの前半身の体骨格要素。2本の機能指を持つ手はd。

オクソコはオヴィラプトル科のうちHeyuanninaeというヘユアンニアに近縁な亜科に分類された[2]。42分類群246形質を用いたFunston et al. (2020)の系統解析でオクソコはHeyuanninaeのうち派生的な位置に置かれており、ジアングシサウルスとの姉妹群をなし、また本属とジアングシサウルスの2属からなる分岐群はバンジとの姉妹群をなす[2]。オクソコに見られる前肢の退化はHeyuanninaeの分岐群内で進行したことが示唆されている[2]

以下はFunston et al. (2020)に基づくクラドグラム[2]

オヴィラプトル科英語版

Nankangia

Oviraptor

Yulong

Citipatiinae (en

Wulatelong

Rinchenia

Tongtianlong

Ganzhousaurus

Citipati

Zamyn Khondt oviraptorid

Huanansaurus

Corythoraptor

Heyuanninae (en

Shixinggia

Khaan

Conchoraptor

Machairasaurus

Nemegtomaia

Heyuannia huangi

Heyuannia yanshini

Banji

Jiangxisaurus

Oksoko

古環境

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オクソコの化石が産出したネメグト層およびその相当層ではモノニクスネメグトニクス英語版といったアルヴァレスサウルス科[7]ガリミムス[8]エピオルニトミムス[9]といったオルニトミムス科タルボサウルスティラノサウルス科[3]テリジノサウルステリジノサウルス科英語版[8]デイノケイルスデイノケイルス科英語版[8]アヴィミムス(アヴィミムス科)[3]ザナバザルトロオドン科[8]オピストコエリカウディアティタノサウルス類[8]サウロロフスハドロサウルス科[8]ホマロケファレパキケファロサウルス科[8]鎧竜類[8]といった様々な恐竜化石が知られている。

脚注

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注釈

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  1. ^ カナ転写表記は林原自然科学博物館の特集・講演録記事に基づく[3]
  2. ^ カナ転写表記は創元社のページに基づく[4]
  3. ^ カナ転写表記はヤキュリニクスの記載に関する北海道大学のプレスリリースに基づく[5]
  4. ^ カナ転写表記はユウティラヌスの記載に関するナショナルジオグラフィックの記事に基づく[6]

出典

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  1. ^ a b c d MOVE編集部 (2024年3月9日). “アジアと北米を大移動?世界的恐竜学者・ダイナソー小林が最新研究を紹介!「とっても不思議な恐竜たち」”. 現代ビジネス. 講談社. 2024年4月14日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad Funston, G. F.; Tsogtbaatar, C.; Tsogtbaatar, K.; Kobayashi, Y.; Sullivan, C.; Currie, P. J. (2020). “A new two-fingered dinosaur sheds light on the radiation of Oviraptorosauria”. Royal Society Open Science 7 (10): 201184. Bibcode2020RSOS....701184F. doi:10.1098/rsos.201184. PMC 7657903. PMID 33204472. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7657903/. 
  3. ^ a b c 鈴木茂「林原-モンゴル共同調査の15年と問題点」『化石研究会会誌』第41巻第1号、2008年、20-24頁。 
  4. ^ 書籍紹介 - 恐竜・古生物図鑑 - 創元社”. 創元社. 2024年4月14日閲覧。
  5. ^ 鳥のように眠る新種の恐竜をモンゴルで発見~恐竜の生態から明らかになる、鳥類への休眠行動の進化~』(プレスリリース)北海道大学、2024年4月14日https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/231116_pr.pdf2023年11月16日閲覧 
  6. ^ Christine Dell'Amore (2012年4月3日). “最大の羽毛恐竜、中国で化石発見”. ナショナルジオグラフィック協会. 2024年4月14日閲覧。
  7. ^ Kubo, Kohta; Kobayashi, Yoshitsugu; Chinzorig, Tsogtbaatar; Tsogtbaatar, Khishigjav (2023-11-15). “A new alvarezsaurid dinosaur (Theropoda, Alvarezsauria) from the Upper Cretaceous Baruungoyot Formation of Mongolia provides insights for bird-like sleeping behavior in non-avian dinosaurs” (英語). PLOS ONE 18 (11): e0293801. doi:10.1371/journal.pone.0293801. ISSN 1932-6203. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0293801. 
  8. ^ a b c d e f g h 国立科学博物館読売新聞社 編『大恐竜展 ─ ゴビ砂漠の驚異』真鍋真對比地孝亘 監修、坂田智佐子 編集協力、読売新聞社、2013年、77-99頁。 
  9. ^ モンゴルで新種のオルニトミムス類恐竜を発見・命名』(プレスリリース)北海道大学、2017年7月28日https://www.hokudai.ac.jp/news/170728_pr.pdf2024年4月14日閲覧