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コリトラプトル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
コリトラプトル
コリトラプトルの骨格図
地質時代
後期白亜紀カンパニアン - マーストリヒチアン
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Saurischia
亜目 : 獣脚亜目 Theropoda
階級なし : コエルロサウルス類 Coelurosauria
階級なし : オヴィラプトロサウルス類 Oviraptorosauria
: オヴィラプトル科英語版 Oviraptoridae
亜科 : オヴィラプトル亜科 Oviraptorinae
: コリトラプトル属 Corythoraptor
学名
Corythoraptor
et al., 2017
タイプ種
Corythoraptor jacobsi
et al., 2017

コリトラプトル学名Corythoraptor)は、中華人民共和国江西省贛州市から化石が産出した、後期白亜紀に生息したオヴィラプトル科英語版に属する獣脚類恐竜[1]。タイプ種コリトラプトル・ジェイコブシCorythoraptor jacobsi)が知られている[1]。中国南部から産出した白亜紀のオヴィラプトロサウルス類としては7番目の属であり、同地域から産出したフアナンサウルスとの近縁性が系統解析から示唆される[1]。現生のヒクイドリと同様に発達した鶏冠を収斂進化で獲得しており、繁殖用のディスプレイや体温調節など複合的な機能を有したと推測されている[1]

発見と命名

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コリトラプトルの化石は中華人民共和国江西省の贛州市に位置する贛州駅英語版付近の建設現場で発見された[2]。産出層準は上部白亜系南雄層であり、カンパニアン階からマーストリヒチアン階と推定されている[2]。発見されたホロタイプ標本JPM-2015-001は同国の遼寧省錦州市に位置する錦州古生物博物館に所蔵された[2]。ホロタイプ標本は頭蓋骨と下顎を伴うほぼ完全な骨格であり、Lü et al. (2017)の骨格図には尾椎肩甲骨烏口骨胸骨・左遠位腓骨などを除くほぼすべての体骨格が図示されている[2]

タイプ種コリトラプトル・ジェイコブシはLü et al. (2017)により命名された[2]。属名は頭部に発達した鶏冠が存在することを反映している[2]。タイプ種の種小名はアメリカの古脊椎動物学者ルイス・L・ジェイコブス英語版への献名である[2]。ジェイコブスはLü et al. (2017)の筆頭著者である呂君昌や共著者である小林快次李隆濫(リー・ヨンナム)の博士課程指導教官であり[2]、また呂、李、ジェイコブスの3名は小林が所属する北海道大学総合博物館の招聘教授でもあった[1]

特徴

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頭蓋骨

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頭蓋骨の復元(左)と頭部の復元(右)

コリトラプトルは現生ヒクイドリのものに類似する高い鶏冠を頭部に有しており、その厚さは2ミリメートルで、おそらくその骨はケラチン質で被覆されていた。鶏冠はヒクイドリのものよりも含気化しており、薄い骨の壁によって区分された複数のチャンバーが存在する。このため、鶏冠は非常に柔軟になり、頭突きをはじめとする衝撃に耐えられなかった可能性がある[2]

コリトラプトルの眼窩は比較的大型であった。鼻骨は高度に含気化しているようである。前上顎骨の下部には不規則に分布する孔が存在しており、おそらくこれは血管を通す孔であり、オルニトミムス科と同様にケラチン質の鞘が嘴全体を被覆したことを示唆する。前上顎骨の腹側は大きく破損しており、これは前上顎骨が軽量で、おそらく含気化していたことが窺える。また、は存在しなかった[2]

体骨格

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ホロタイプのブロック
ホロタイプのスケッチ

コリトラプトルには12個の頸椎が存在し、そのうち第6頸椎と第11頸椎が最長である。第5頸椎から第12頸椎までは各椎骨の中央部に側腹腔が存在する。側腹腔は第5頸椎において直径約4.8ミリメートルの円形に近く、第6頸椎で長さ約5ミリメートルの楕円形である。前側の関節面は強く窪み、後側の関節面はやや凸である。前側の関節面はほぼ正方形であり、後側の関節面よりも幅広である。肋骨は椎骨に癒合している。神経弓も含気化しており、複数の小型のチャンバーが密集している[2]

コリトラプトルの胴椎は前側の6個の胴椎しか保存されていないため、全体で胴椎が何個であったのかは定かでない。胴椎は頸椎よりも短いが、第2胴椎と第3胴椎は側腹腔がより大型である。前側の関節面は僅かに窪んでおり、後側の関節面はほぼ平坦である。仙椎は後側の2個のみが保存されており、いずれも滑らかで丸みを帯びており、側腹腔が小型である。最後側仙椎の肋骨は頑強であり、骨盤腸骨に位置する寛骨臼後部の突起に接触する。尾椎は前側の5個が保存されており、そのうち前側の3個が完全である。前後の関節面はいずれも平坦である。前側2個の尾椎において側腹腔は小型かつ長く、より後側の尾椎である程度大型化している。ナンカンジアと同様に、最初の椎骨を除いて椎骨には3個の孔(前関節突起および横突起と関節するinfraprezygapophyseal fossa、横突起の基部に存在するinfradiapophyseal fossa、および側腹腔)が存在する。神経弓はナンカンジアのものに類似する[2]

復元図

上腕骨はほぼ完全に保存されており、前肢全体の長さの約27%を占め、手を除けば48%を占める。他のオヴィラプトル科恐竜と同様に、上腕骨は弱く捻じれている。肩付近の三角筋稜は短く、上腕骨長の約31%に亘って伸びる。遠位端は拡大しており、発達した顆が存在する。尺骨は上腕骨よりもわずかに短く、手を含めた前肢全体長の26%を占め、あまり発達しない肘頭英語版を特徴とする。橈骨は尺骨よりもわずかに短くかつ細く、ヘユアンニアの橈骨と同様に頭側に湾曲しているため、尺骨と橈骨との間に空隙が生じている。中手骨の近位端は互いに近く圧縮されている。第I中手骨は最も短く、僅かに下側で窪んでいる。第II中手骨は第I中手骨よりも41%長く、シャフトの直径が全長の13%に達してやや頑強である。第III中手骨は第II中手骨とほぼ同程度の長さであるが、68%細い。指骨は長く頑強であり、最も長い第I指は第II中手骨よりも72%長く、また第III指が最も小型である。末節骨は弱くカーブしており、第I指から第III指にかけて曲率と大きさが減少する[2]

コリトラプトルは竜盤類であり、骨盤の形状も竜盤類型である。コリトラプトルはノミンギアを除く新しい時代の他のオヴィラプトル科恐竜と同様に恥骨が頭側に窪み、また他のオヴィラプトル科恐竜と同様にobturator processが坐骨の中腹に位置していてその形状が三角形である。大腿骨は腸骨よりも長く、後肢全体長の30%を占める。大転子は大型で、小転子は大転子に癒合していた可能性がある。第四転子が存在すると予測される位置には41x15ミリメートルにおよぶ筋痕が存在しており、キチパチカーンと類似する。脛骨は大腿骨よりも19%長く、発達した脛骨稜英語版が脛骨長の約半分に沿って走る。足は後肢全体長の29%を占める。趾骨の本数は第I趾から順に2本、3本、4本、5本である。この中で第III趾が最も長く、第IV趾は第II趾よりもわずかに長い。後肢の末節骨はややカーブしている[2]

分類

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コリトラプトルはオヴィラプトル科英語版の恐竜である。系統解析ではフアナンサウルスと共に分岐群に置かれ、またキチパチやZamyn Khondt oviraptorid、リンチェニアオヴィラプトルと近縁とされた。後期白亜紀の華南ではオヴィラプトル科が高い多様性を持っており、3つの異なるオヴィラプトル科の分岐群に代表される。以下はLü et al. (2017)に基づいてオヴィラプトル科の類縁関係を示すクラドグラムであり、太字の種は華南に生息したものを指す[2]

 オヴィラプトル科英語版 

Nankangia jiangxiensis

Yulong mini

Nomingia gobiensis

Oviraptor philoceratops

Rinchenia mongoliensis

Zamyn Khondt oviraptorid

Citipati osmolskae

Corythoraptor jacobsi

Huanansaurus ganzhouensis

Tongtianlong limosus

Wulatelong gobiensis

Banji long

Shixinggia oblita

Khaan mckennai

Conchoraptor gracilis

Machairasaurus leptonychus

Jiangxisaurus ganzhouensis

Ganzhousaurus nankangensis

Nemegtomaia barsboldi

"Ingenia" yanshini

Heyuannia huangi

なお、コリトラプトルを同じユニットから化石が産出したバンジジュニアシノニム(新参異名)とする見解も存在する[3]。Cau (2024)は、前上顎骨のsubnarial processが涙骨の棒状部分に重なることや、前上顎骨のsubnarial ramusが分岐しないこと、鶏冠が含気化していること、鶏冠の後背側が頭蓋天井英語版と比較して急激に高くなることといった特徴がバンジとコリトラプトルとの間で共通することを指摘した[3]。この一方でCau (2024)は両者を区別する形質状態(相対的な鶏冠の大きさや頭蓋骨に占める窓の割合)が個体成長に応じて変化することに触れ、加えてバンジの長い外鼻孔が未成熟のコエルロサウルス類に広く見られるものであることを指摘した[3]

古生物学

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食性

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オヴィラプトル科の顎構造は植物食性のディキノドン類オウム目リクガメ科のものに類似している。また、カウディプテリクスは丈夫な植物の消化を補助するためにいくつかの植物食性動物が用いるような胃石が発見されており、オヴィラプトル科の恐竜が雑食性であった可能性が示唆されている。後期白亜紀の中国における古植物群集があまり知られていないためオヴィラプトル科恐竜が何の植物を摂食していたのかは定かでないが、オヴィラプトル科は一般的に乾燥環境で発見されているため、乾燥に強い植物や殻果種子を摂食していた可能性がある。類を摂食したとする見解も提唱されているが、顎は殻の破砕に特別適していなかったようであり、また乾燥環境であるため十分な個体数の貝類も生息していなかったとも推測されている[4]

贛州市から6種の異なるオブィラプトル科の種が産出していることから、オブィラプトル科は異なる採食戦略を取ってニッチ分割を行っていた可能性がある[2]

発生学

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コリトラプトルとヒクイドリおよびパプアヒクイドリの比較

腓骨橈骨の薄片の骨組織学的分析に基づき、コリトラプトルのホロタイプ標本は6歳あるいは7歳で死亡したことが示唆される。橈骨の薄片には成長の停止を示唆する3本の明瞭な暗いバンドが存在しており、これは成長停止期以外の時期に季節的な高速度の成長があったことも示す。骨の端の付近で成長が再開していることから、本標本の個体は新しい成長期の始まりで死亡したこと、また最大サイズに到達していないまだ若い成体であったことが示唆される。鶏冠が交尾のディスプレイとして機能していたとすれば、コリトラプトルは成長を完了する以前に性成熟を迎えており、また個体成長が8年よりも長く継続したことが示唆される。この成長段階の時点でコリトラプトルは全長約1.6メートルに達しており、中型のオヴィラプトル科恐竜に至っている[2]

鶏冠の機能

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コリトラプトルの鶏冠は現生のヒクイドリのものに極めて類似する。ヒクイドリの鶏冠の用途は、頭蓋腔から熱を放散すること、また共振器としてより長距離に亘って低周波信号の発信源の検出または測定に役立てることある。コリトラプトルにおいて、後者は捕食者や獲物の音を聞き取ることに用いられた可能性があり、あるいは現生のヒクイドリが行うように低周波の交尾の声を聞き取るために用いられた可能性もある。しかし、低周波の声は喉で発されるため、コリトラプトルが実際に低周波の音を発声できたか否かは定かでない。また鶏冠はディスプレイとして用いられた可能性もある。この場合より大型でより修飾の存在する鶏冠を持つ個体ほど、群れの中でのヒエラルキーが高いか、あるいは繁殖能力が高いことになる。ただしヒクイドリの場合、個体間にそれほど顕著な鶏冠の差異が存在しない。ヒクイドリに類似する鶏冠や頸部および鋭利な鉤爪は、コリトラプトルがヒクイドリのような生態を持っていたことを示唆する可能性がある[2]

古環境

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コリトラプトルの群れ

贛州市はオヴィラプトル科の多様性が高いことで知られており、コリトラプトル以外にもBanjiJiangxisaurusNankangiaGanzhousaurusHuanansaurusTongtianlongの6属が知られている。これらの群集は"Ganzhou Dinosaurian Fauna"を形成している[2]。他の恐竜には、テリジノサウルス科英語版Nanshiungosaurusティラノサウルス科Qianzhousaurus竜脚類GannansaurusJiangxititanハドロサウルス科Microhadrosaurusがある。ハドロサウルス科は際立って希少である[5]。しかし、近隣の楊梅坑地域から産出する足跡化石からは曲竜類ノドサウルス科)、テリジノサウルス科、ティラノサウルス科、オヴィラプトル科、コエルロサウルス類デイノニコサウルス類鳥類Wupus、竜脚類(おそらくGannansaurus)、翼竜Pteraichnus)、カメ(おそらくJiangxichelys)の足跡も確認されているものの、示唆される主なものは鳥脚類(ハドロサウルス科)の群集のものである。この地域はおそらく湖畔環境であったと推測される[6]

出典

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  1. ^ a b c d e ヒクイドリのように大きなトサカを持つ 新種のオヴィラプトロサウルス類恐竜を発見・命名』(プレスリリース)北海道大学、2017年8月8日https://www.hokudai.ac.jp/news/170808_pr.pdf2024年3月10日閲覧 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Lü, J.; Li, G.; Kundrát, M.; Lee, Y.-N.; Sun, Z.; Kobayashi, Y.; Shen, C.; Teng, F. et al. (2017). “High diversity of the Ganzhou Oviraptorid Fauna increased by a new cassowary-like crested species”. Scientific Reports 7 (6393). Bibcode2017NatSR...7.6393L. doi:10.1038/s41598-017-05016-6. PMC 5532250. PMID 28751667. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5532250/. 
  3. ^ a b c Cau, Andrea (2024). “A Unified Framework for Predatory Dinosaur Macroevolution”. Bollettino della Società Paleontologica Italiana 63: 1-19. doi:10.4435/BSPI.2024.08. https://www.paleoitalia.it/wp-content/uploads/2024/04/Cau_2024_BSPI_ONLINE.pdf. 
  4. ^ Longrich, N.R.; Currie, P.J.; Zhi-Ming, D. (2010). “A new oviraptorid (Dinosauria: Theropoda) from the Upper Cretaceous of Bayan Mandahu, Inner Mongolia”. Palaeontology 53 (5): 945–960. doi:10.1111/j.1475-4983.2010.00968.x. 
  5. ^ Xing, L.; Niu, K.; Wang, D.; Marquez, A. P. (2020). “A partial articulated hadrosaurid skeleton from the Maastrichtian (Upper Cretaceous) of the Ganzhou area, Jiangxi Province, China”. Historical Biology. doi:10.1080/08912963.2020.1782397. 
  6. ^ Xing, L.; Lockley, M. G.; Li, D.; Klein, H.; Ye, Y.; Persons IV, W.; Ran, H. (2017). “Late Cretaceous ornithopod-dominated, theropod, and pterosaur track assemblages from the Nanxiong Basin, China: New discoveries, ichnotaxonomy, and paleoecology”. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 466: 303–313. doi:10.1016/j.palaeo.2016.11.035.