だくだく
だくだくは、古典落語の演目の一つ。上方落語の書割盗人(かきわりぬすと)についても本項で記述する。
概要
[編集]両演目は、ナンセンスな状況の中で、それぞれにとぼけた洒落っ気を見せ合うふたりの男の噺である。
『書割盗人』の原話は、1773年(安永2年)に出版された笑話本『芳野山』の一編「盗人」[1]。「書割」とは、歌舞伎などの舞台背景に使われる風景画のこと。
『だくだく』は『書割盗人』を東京落語に移入したもの。サゲの原話は1778年(安永7年)に出版された笑話本『梅の笑顔』の一編「槍」。
主な演者
[編集]物故者
[編集]現役
[編集]あらすじ
[編集]男(『だくだく』では八五郎)は引越しをしたが、前の長屋でたまった家賃を工面するため(あるいは、かついでいくのが面倒くさかったため)に家財道具の一切を古道具屋に売ってしまった。男は壁、床、天井一面に白い紙を貼り、近所に住む画家に、豪華な家具や日用品、そして眠る猫を細密に描いてもらう。さらに男は「用心のため、武芸の心得があるように見せたい」と希望し、長押に掛けた1本の槍を描いてもらう。
男が留守にしている間、泥棒が男の部屋を物色にやって来る。眠る猫(の絵)を見て「番犬がいない証拠だ」と早合点した泥棒は、夜ふけを待って男の部屋に忍び込む。
泥棒はたくさんの豪華な家財道具(の絵)を見て驚喜し、タンスの引き出しを開けようとするが、絵なので開くわけがない。ここで男が泥棒に気づくが、面白がって寝たふりをしつづけ、ひそかに泥棒の様子を観察する。
驚きながらも男の事情を悟り、同情しつつあきれた泥棒は「このまま帰ったのでは面白くない。この男が、ものがある『つもり』で生きているなら、こっちも盗んだ『つもり』になって帰ろう。一反風呂敷を広げた、つもり。風呂敷の中にタンスの中身をぶちまけた、つもり。金庫を開けた、つもり。1億円ばかり盗んだ、つもり。風呂敷の両端を縛り、背負って立ち上がろうとして立ち上がらない、つもり」とつぶやきつつ、孤独なパントマイムを始める。
泥棒の粋に感じ入った男が「1億も盗まれては、黙ってはいられない」と、ここで起き上がり、「袴の股立ちを取った(=すそを引き上げた)、つもり。たすき十字に綾なした、つもり。長押の槍に手をかけて、石突きをトンと突き、りゅうとしごいて泥棒のわき腹めがけてブツーッ! と突き立てた、つもり!」そこで泥棒が、
「ううむ、無念。血がだくだくと出た、つもり」
バリエーション
[編集]- 『書割盗人』では、語尾を「つもり」ではなく「体(てい)」とする演じ方が多い。また、槍で突くまねをした男が「おい、どないしたんや」と問い、泥棒が「死んだ体でおます」と言ってサゲる演じ方が多い。
- 画家が「騒ぎを聞いて駆けつけた、つもり」と言ってサゲる演じ方がある(志の輔など)。
- 泥棒を石川五右衛門の子孫としていて「長年の泥棒だ。ご先祖の五右衛門様に申し訳が立たねぇ」と言って演じる者もいる(志ん輔など)。
- 男が家にあるに家財道具は全て絵だから泥棒に入られても何も盗めないからと戸を開けっ放しで湯屋に行き、入れ替わりに長屋に泥棒が物色にやって来る筋で演じる者もいる(志ん輔など)。
- 引っ越しの理由を前の長屋で大家に今、出て行ってくれれば今まで溜めた店賃を棒引きにする(払わなくて良い。)と言われるとし、また家財道具を売った理由も家財道具を持って引っ越すには大八車借りなきゃならないが、大八車の借り賃を払えないから持って行けないんで売ってしまうとして演じる者もいる(志ん輔など)。
エピソード
[編集]- 2代目枝雀が「無念、と言うたまんま、この泥棒死んでしまいました」とサゲたという逸話があるが、本当かどうかはわからない。[要出典]
- 4代目痴楽が新宿末廣亭で同演目をかけて高座から降りかけると、ひとりの客が「アーア、面白かった、つもり」と言った。痴楽は客の方を向き、「いやな客、のつもり。ポカッと横っ面を殴り倒した、つもり」と返し、場が笑いの渦に包まれた。[要出典]
- 11代目文治が前座時代、通常のサゲの後に「お客がワーと笑った、つもり」と付け加えて締めくくったところ、師匠の10代目は「教えねえ事やるな」と激怒したという[2]。
- 「だく」を「駄句(つまらない・下手な俳句)」とかけた演芸関係者の俳句の会が複数存在する。
脚注
[編集]- ^ 武藤禎夫『定本 落語三百題』 岩波書店、2007年
- ^ 桂平治の噺の穴 第七回
- ^ “芸協トピックス 協会員サークル活動”. 落語芸術協会. 2023年8月17日閲覧。
- ^ 山藤章二・駄句駄句会(編)『駄句だくさん』講談社、2013年3月21日、233-239頁。ISBN 9784062182690。