コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

さそり座ミュー星

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
さそり座μ1[1]
μ1 Scorpii
仮符号・別名 Xamidimura[2]
星座 さそり座
見かけの等級 (mv) 2.98[1]
2.94 - 3.22(変光)[3]
変光星型 EB/SD[3]
分類 B型星同士の連星
位置
元期:J2000.0[1]
赤経 (RA, α)  16h 51m 52.21569s[1]
赤緯 (Dec, δ) −38° 02′ 50.6354″[1]
赤方偏移 -0.000025 ± 0.000013[1]
視線速度 (Rv) -7.60 ± 3.9 km/s[1]
固有運動 (μ) 赤経: -0.840 ミリ秒/年[1]
赤緯: -18.506 ミリ秒/年[1]
年周視差 (π) 3.7265 ± 0.6859ミリ秒[1]
(誤差18.4%)
距離 約 900 光年[注 1]
(約 270 パーセク[注 1]
絶対等級 (MV) -4.2[注 2]
μ1、μ2星の位置
軌道要素と性質
軌道長半径 (a) 12.90 ± 0.04 R[4]
離心率 (e) 0.0[4]
公転周期 (P) 1.4462700 ± 0.0000005 [4]
軌道傾斜角 (i) 65.4 ± 1°[4]
通過時刻 2412374.434 HJD[4]
物理的性質
半径 4.07 ± 0.05 / 4.38 ± 0.05 R[4]
質量 8.49 ± 0.05 / 5.33 ± 0.05 M[4]
自転速度 239 km/s[5]
スペクトル分類 B1.5V / B3-B8[4]
表面温度 23,725 ± 500 / 16,850 ± 500 K[4]
色指数 (B-V) -0.20[5]
色指数 (U-B) -0.87[5]
色指数 (R-I) -0.19[5]
他のカタログでの名称
CD -37 11033[1]
CPD -37 6761[1]
FK5 1439[1]
Gaia DR2 5971289565609165056[1]
HD 151890[1]
HIP 82514[1], HR 6247[1]
SAO 208102[1]
WDS J16519-3803Aa[6]
Template (ノート 解説) ■Project
さそり座μ2[7]
μ2 Scorpii
仮符号・別名 Pipirima[2]
星座 さそり座
見かけの等級 (mv) 3.542[7]
分類 B型準巨星[7]
位置
元期:J2000.0[7]
赤経 (RA, α)  16h 52m 20.14246s[7]
赤緯 (Dec, δ) −38° 01′ 03.1740″[7]
赤方偏移 0.000004 ± 0.000003[7]
視線速度 (Rv) 1.30 ± 0.8 km/s[7]
固有運動 (μ) 赤経: -9.979 ミリ秒/年[7]
赤緯: -19.875 ミリ秒/年[7]
年周視差 (π) 7.9207 ± 0.5492ミリ秒[7]
(誤差6.9%)
距離 410 ± 30 光年[注 1]
(126 ± 9 パーセク[注 1]
絶対等級 (MV) -2.0[注 2]
物理的性質
半径 7.0 R[8]
質量 8.7 ± 0.2 M[9]
自転速度 57 km/s[10]
スペクトル分類 B2IV [7]
光度 2,385 L[11]
表面温度 23,113 K[8]
色指数 (B-V) -0.21[10]
色指数 (U-B) -0.85[10]
色指数 (R-I) -0.22[10]
年齢 1,850 ± 320 万年[9]
他のカタログでの名称
CD -37 11037[7]
CPD -37 6764[7]
Gaia DR2 5971244451257058176[7]
HD 151985[7]
HIP 82545[7], HR 6252[7]
SAO 208116[7]
WDS J16523-3801[12]
Template (ノート 解説) ■Project

さそり座μ星英語: Mu Scorpii)は、さそり座に位置する重星。6′離れたμ1星とμ2星で構成される。μ1星はそれ自体が分光連星である。μ1星AaはXamidimura、μ2星はPipirimaの固有名を持つ[2]

この2つの恒星は、連星であるという主張[13]と、単なる見かけの二重星であるという主張[14]の両方が存在していた。見かけの固有運動は似ており、連星でないとしてもさそり座OB2運動星団には属すと考えられた[15][16]。しかし、ガイア計画での年周視差の測定値が正しければ、μ1星が従来の測定値よりほぼ倍も遠く、μ2星と490光年近く離れており、連星ではないと考えられる[1][7]。さそり座OB2の距離範囲380~470光年[17]からもμ1星は大幅に外れ、星団から除外されている[17]

μ1連星系

[編集]

(μ1星+μ2星の話ではないので混同に注意)

μ1星が分光連星であることは、ソロン・アーヴィング・ベイリー1896年に発見した。これは史上3番目に発見された分光連星である[4]

μ1星は分光連星であると同時に、こと座β食変光星、すなわち星が潮汐力で変形するほど近づいた食連星でもある。2つのB型星が、互いに900万km(0.060天文単位)離れた円軌道を、1.446270日周期公転している[4]。0.5公転周期ごとに主星と伴星が交互にを起こすが、少し斜めから見ているため減光は大きくなく、主星が最大食の主極小で0.30等、伴星が最大食の副極小で0.19等減光する[4]。それらの間が極大だが、恒星が潮汐力で引き伸ばされているため、真横を向いた時以外は食でなくても見かけの面積が小さくなり減光し、極大が平常光度として続くことはない。

恒星の質量は8.5と5.3太陽質量、半径は4.1と4.4太陽半径(主星が小さい)であるのに対し、軌道長半径は12.9太陽半径しかない[4]。これらから求まる伴星のロシュ・ローブ半径は伴星の半径とほぼ同じであり、伴星はローブを(完全にあるいはほぼ)満たし涙滴型に変形している[4]。つまり、半分離型連星である。ローブを完全に満たしている場合に発生する、ローブからあふれたガスが主星に落下する時のドップラー効果は観測されていないが、技術の向上によりかすかな流れが観測できる可能性はある[4]

主星と伴星を符号で呼ぶことは希だが、その場合は(AとBではなく)分光連星なのでAaとAbを使う[2]。Aはμ1星、Bは9″離れた9等星、Cは1.3′離れた9等星、Dはμ2星にあたる[18]が、これらは連星をなしているというわけではない。

文化

[編集]

ポリネシア

[編集]

タヒチ[19]の伝承では、意地の悪い親から逃げた双子の男女である(双子と明言しない物語もある[20])。男の子はPipiri、女の子はRehua、父はTaua-tiaroroa、母は女の子と同名のRehuaである[20]。双子は合わせて Pipiri ma と呼ばれる。maは「~たち(当人と誰か)」、Pipiri ma は「Pipiriたち」という意味である[20]

両親から逃げた2人は星になりμ星になったと伝わる[19][注 3]前方の明るい星がPipiri、後方の暗い星がRehuaであり[20]、μ星に当てはめるとPipiriがμ1星、Rehuaがμ2星となる。さらに、双子を乗せて飛んだ巨大クワガタアンタレスである[20]

クック諸島の、マヌアエ島(旧ハーヴェイ島)[20][21]マンガイア島[22]では、双子ではあるが性別は姉弟となっている。姉はPiri-ere-uaあるいは英訳でInseparable(分けられない)[20][21][22]、母はTara-korekoreである[20](弟と父の名は不明)。姉がμ1星、弟がμ2[21][注 4]、さらに、彼らを追う両親がλ星シャウラυ星レサトである[21]。Piri-ere-uaという名は、PipiriとRehuaをつなげたように見えることが指摘されている[22]

なお、ロバート・バーナム Jr原著の和訳書では、W.W.ギル英語版によるとして、ポリネシアの伝承のピリ・エ・ウア(分けられない真友)としている[13]。ギルの名から、別書で彼によるとされている[22]、マンガイア島のPiri-ere-uaに対応できる。バーナムは、この話はヘンゼルとグレーテルの物語に似ていると述べている[13]

マンガイア島ではμ星がPipiriであるとする資料もある[23]

ただし、これらの名がμ星以外の星のこともある。トゥアモトゥ諸島では、すぐ南(さそりの尾の側)の見かけの2重星$zeta;星、すなわちζ1ζ2が、Pipiri-maとされる[23]ソシエテ諸島などでは、ふたご座カストルがPipiri、ポルックスがRehuaとされる[24][22]

また原始ポリネシアでRehua英語版の古い形Refuaはおそらくアンタレスのことで[25]マオリトゥーホエ族英語版トゥアモトゥ諸島などでRehuaはアンタレス(もしくはアンタレスの男神)である。ただし、シリウスなど別の明るい星とする民族もある。

コイコイ人

[編集]

コイコイ人(総称であるナマ人とも)は、「ライオン眼」を意味する xami di mura と呼ぶ[26]。ただし、物語のようなものは記録されていない。

xami(χamiとも)がライオン、mura(mũra・mûraとも)が両眼だが、単語ではまったく別の星を指し、Xamiはベテルギウス[27]、Muraはケンタウルス座α星β星[26]である。

なお、コイコイ語では xami di mura は「ハミ・ティ・ムンラ」と発音する。文字xは/x/を表す。/d/の音はコイコイ語にはなく、文字dtは同じ/t/の音と、声調の違いを表す。uは、この表記法では明示されていない声調により鼻母音となる。

名称

[編集]

μ1星AaはXamidimura、μ2[注 5]Pipirimaという固有名を持つ[2]2017年9月5日国際天文学連合の恒星の命名に関するワーキンググループ (Working Group on Star Names, WGSN) は、それらの固有名を正式に承認した[2]

これらはいずれも本来はμ1星とμ2星からなる二重星の名だが、それぞれに割り振られた。

Xamidimura は、アフリカ大陸南部に住むコイコイ人の言葉で「ライオンの眼」を意味する xami di muraに由来する[19]。またPipirima は、上記のタヒチの伝承に登場する双子の男女に由来する[19]

クック諸島の類話のPiri-ere-ua[20][21]や、和訳書にあるピリ・エラ・ウア[13]が、名前として挙げられることもある。

日本では、μ星やν星を、「すもうとり星」と呼ぶ地方がある[28]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ a b c d パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
  2. ^ a b 視等級 + 5 + 5×log(年周視差(秒))より計算。小数第1位まで表記
  3. ^ 英語版en:Mu2 Scorpiiは、λ星υ星とする異説をあげ、Anderson(2011)の旧版を出典にしているが、Anderson(2011)にはそのような記述はない。「サソリの尾の最後の2つの星」というあいまいな表現がこう解釈できるかもしれないが、明るい星が先行するという記述とは矛盾する。
  4. ^ 英語版en:Mu2 Scorpiiは、ω1英語版ω2英語版だとし、Anderson(2011)の旧版を出典にしているが、Anderson(2011)にはそのような記述はない。「尾に位置する、(両親の星より)に近い二重星」を、鋏にある二重星と誤読したのかもしれない。
  5. ^ CSN(出典)のテーブルは「mu02 Sco A」、Noteは「mu02 Sco」となっているが、μ2星は単独星であり、Noteが正しいと思われる。

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Results for mu.01 Sco”. SIMBAD Astronomical Database. 2017年7月19日閲覧。
  2. ^ a b c d e f IAU Catalog of Star Names (IAU-CSN)”. 国際天文学連合 (2017年10月23日). 2017年10月28日閲覧。
  3. ^ a b GCVS”. Results for mu. 1 sco. 2017年7月19日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o van Antwerpen, C.; Moon, T. (2010). “New observations and analysis of the bright semidetached eclipsing binary μ1Sco”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 401 (3): 2059-2066. arXiv:0910.1241. Bibcode2010MNRAS.401.2059V. doi:10.1111/j.1365-2966.2009.15796.x. ISSN 00358711. 
  5. ^ a b c d Hoffleit, D.; Warren, W. H., Jr. (1995-11). “Bright Star Catalogue, 5th Revised Ed.”. VizieR On-line Data Catalog: V/50. Bibcode1995yCat.5050....0H. https://vizier.cds.unistra.fr/viz-bin/VizieR-5?-ref=VIZ5a76628e9487&-out.add=.&-source=V/50/catalog&recno=6247. 
  6. ^ Mason, Brian D.; Wycoff, Gary L.; Hartkopf, William I.; Douglass, Geoffrey G.; Worley, Charles E. (2001). “The 2001 US Naval Observatory Double Star CD-ROM. I. The Washington Double Star Catalog”. The Astronomical Journal 122 (6): 3466-3471. Bibcode2001AJ....122.3466M. doi:10.1086/323920. ISSN 00046256. https://vizier.cds.unistra.fr/viz-bin/VizieR-S?WDS%20J16519-3803. 
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t Results for mu.02 Sco”. SIMBAD Astronomical Database. 2017年7月19日閲覧。
  8. ^ a b Underhill, A. B.; Divan, L.; Prevot-Burnichon, M.- L.; Doazan, V. (1979). “Effective temperatures, angular diameters, distances and linear radii for 160 O and B stars”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 189 (3): 601-605. Bibcode1979MNRAS.189..601U. doi:10.1093/mnras/189.3.601. ISSN 0035-8711. 
  9. ^ a b Tetzlaff, N.; Neuhäuser, R.; Hohle, M. M. (2011). “A catalogue of young runaway Hipparcos stars within 3 kpc from the Sun”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 410 (1): 190-200. arXiv:1007.4883. Bibcode2011MNRAS.410..190T. doi:10.1111/j.1365-2966.2010.17434.x. ISSN 00358711. 
  10. ^ a b c d Hoffleit, D.; Warren, W. H., Jr. (1995-11). “Bright Star Catalogue, 5th Revised Ed.”. VizieR On-line Data Catalog: V/50. Bibcode1995yCat.5050....0H. https://vizier.cds.unistra.fr/viz-bin/VizieR-5?-ref=VIZ5a76628e9487&-out.add=.&-source=V/50/catalog&recno=6252. 
  11. ^ McDonald, I.; Zijlstra, A. A.; Boyer, M. L. (2012). “Fundamental parameters and infrared excesses ofHipparcosstars”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 427 (1): 343-357. arXiv:1208.2037. Bibcode2012MNRAS.427..343M. doi:10.1111/j.1365-2966.2012.21873.x. ISSN 00358711. 
  12. ^ Mason, Brian D.; Wycoff, Gary L.; Hartkopf, William I.; Douglass, Geoffrey G.; Worley, Charles E. (2001). “The 2001 US Naval Observatory Double Star CD-ROM. I. The Washington Double Star Catalog”. The Astronomical Journal 122 (6): 3466-3471. Bibcode2001AJ....122.3466M. doi:10.1086/323920. ISSN 00046256. https://vizier.cds.unistra.fr/viz-bin/VizieR-S?WDS%20J16523-3801. 
  13. ^ a b c d ロバート・バーナム Jr 著、斉田博 編『星百科大事典 改訂版』地人書館、1988年1月、855頁。ISBN 978-4805202661 
  14. ^ MU-1 SCO”. STARS. Jim Kaler. 2017年7月20日閲覧。
  15. ^ V* mu.01 Sco: parents
  16. ^ NAME Pipirima: parents
  17. ^ a b de Zeeuw, P.T.; Hoogerwerf, R.; de Bruijne, J.H.J.; Brown, A.G.A. et al. (1999). “A Hipparcos Census of Nearby OB Associations”. Astronomical Journal 117 (1): 354–399. arXiv:astro-ph/9809227. Bibcode1999AJ....117..354D. doi:10.1086/300682. 
  18. ^ The Washington Double Star Catalog: 06-11 hour section
  19. ^ a b c d "IAU Approves 86 New Star Names From Around the World" (Press release). 国際天文学連合. 11 December 2017. 2018年2月4日閲覧
  20. ^ a b c d e f g h i Johannes C. Anderson (2011), Myths and Legends of the Polynesians, p. 399-402, ISBN 9780486285825 
  21. ^ a b c d e Richard Hinckley Allen (1963), Star Names: Their Lore and Meaning, p. 371, ISBN 0486210790 
  22. ^ a b c d e Robert W. Williamson (1933), Religious and Cosmic Beliefs of Central Polynesia, p. 133 
  23. ^ a b Maud Worcester Makemson (1941), The Morning Star Rises: An Account of Polynesian Astronomy, p. 243 
  24. ^ Richard Hinckley Allen (1963), Star Names: Their Lore and Meaning, p. 229, ISBN 0486210790 
  25. ^ Polynesian Lexicon Project Online: Entries for REFUA CE A star name, perhaps Antares (Mkn) and month name, December, January
  26. ^ a b Theophilus Hahn (2000), Tsuni-Goam: the Supreme Being of the Khoi-khoi, p. 109, ISBN 0415244552 
  27. ^ Theophilus Hahn (2000), Tsuni-Goam: the Supreme Being of the Khoi-khoi, p. 23, ISBN 0415244552 
  28. ^ 原恵『星座の神話 - 星座史と星名の意味』(新装改訂版第4刷)恒星社厚生閣、2007年2月28日、140頁。ISBN 978-4-7699-0825-8