スピカ
スピカ[1] Spica[2][3] | ||
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仮符号・別名 | おとめ座α星[4] | |
星座 | おとめ座 | |
見かけの等級 (mv) | 0.97[4] | |
変光星型 | ELL+BCEP[5] | |
位置 元期:J2000.0[4] | ||
赤経 (RA, α) | 13h 25m 11.57937s[4] | |
赤緯 (Dec, δ) | −11° 09′ 40.7501″[4] | |
赤方偏移 | 0.000003[4] | |
視線速度 (Rv) | 1.0 km/s[4] | |
固有運動 (μ) | 赤経: -42.35 ミリ秒/年[4] 赤緯: -30.67 ミリ秒/年[4] | |
年周視差 (π) | 13.06 ± 0.70ミリ秒[4] (誤差5.4%) | |
距離 | 250 ± 10 光年[注 1] (77 ± 4 パーセク[注 1]) | |
絶対等級 (MV) | -3.5[注 2] | |
スピカの位置
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軌道要素と性質 | ||
軌道長半径 (a) | 28.20±0.92 R☉[6] 0.1312±0.0044 au | |
離心率 (e) | 0.133±0.017[6] | |
公転周期 (P) | 4.0145±0.0001 日[6] | |
軌道傾斜角 (i) | 63.1±2.5°[6] | |
物理的性質 | ||
半径 | 7.47±0.54 / 3.74±0.53 R☉[6] | |
質量 | 11.43±1.15 / 7.21±0.75 M☉[6] | |
スペクトル分類 | B1III-IV+[4] | |
光度 | 20,512±4,487 / 2,254±939 L☉[6] | |
表面温度 | 25,300±500 / 20,900±800 K[6] | |
色指数 (B-V) | -0.23[7] | |
色指数 (U-B) | -0.93[7] | |
色指数 (R-I) | -0.24[7] | |
他のカタログでの名称 | ||
真珠星[1], アジメク[8] (Azimech[8]), 角宿一, Alaraph, Dana, おとめ座67番星[4], BD -10 3672[4], FK5 498[4], HD 116658[4], HIP 65474[4], HR 5056[4], SAO 157923[4] | ||
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スピカ[9] (Spica, α Virginis: α Vir) はおとめ座α星(おとめざアルファせい)とも呼ばれる、おとめ座で最も明るい星(恒星)である。全天21の1等星の1つ。春の夜に青白く輝く。
概要
[編集]スピカは全天で21個ある1等星のうち、見かけの等級が最も1に近い0.97[4]で、ほぼ1.0等に相当する。
スピカを見つける簡単な方法は、北斗七星の取っ手の部分からうしかい座のアークトゥルスまでの長さを同じ分だけ伸ばした所にある。なお、この線を春の大曲線という[10]。
スピカは秋分点の近くにある1等星であるため、しばしば歳差運動の観測に利用されてきた。古代ギリシャの天文学者ヒッパルコスはスピカの位置を観測することで初めて分点の歳差運動を発見した。テーベの神殿は紀元前3200年頃に建てられた時、スピカの方向を向いていた。時代を経るにつれてその歳差運動により、神殿の建設された頃の方位からスピカの方向が異なっていったのである。のちの時代の天文学者コペルニクスも、歳差運動の研究のために、手製の視差定規でスピカを何度も観測している。
連星系
[編集]共にB型のスペクトルを持つ1.3等の主星Aaと4.5等の伴星Abからなる連星系である[11]。主星はケフェウス座β型変光星で、0.17日の周期で0.015等変光している[12]。また、主星と伴星は0.12auしか離れていないため、互いの潮汐力によって形状が楕円体型に歪み、地球からの見かけの大きさが変わることで変光して見える楕円体状変光星となっている[12]。
加えて、月による掩蔽の際の観測により、さらに3つの伴星があるものと考えられている[12]。WDSによると、Aa+Abから0.5秒離れて7.5等星のAc、152秒離れて12.0等星のB、367秒離れて10.5等星のCがある[11](1秒は77天文単位に相当)。しかし、これらの星の固有運動が不明であるため、スピカと重力的に結合しているかは結論が出せない。
名称
[編集]固有名のスピカ[1] (Spica[2][3]) は、古代ローマ時代に付けられた名前で、もともとはギリシャ語名で穀物の「穂先」を意味する Σταχυς に由来する[2]。そのため「麦穂星」と訳した例もある[13]。原義は「尖ったもの」の意で、英語のスパイク(Spike)と同根。英語読みはスパイカに近い。2016年6月30日、国際天文学連合の恒星の固有名に関するワーキンググループは、Spica をおとめ座α星 Aa の固有名として正式に承認した[3]。
別名のアジメク[8] (Azimech[8]) は、アラビア語の「السماك الأعزل al-simāk al-ʼaʽzal」から来ており、これは「守られていないsimāk」を意味するが、simāk が何かは不明である。なお、Azimechもしくは al-simāk の意味が「守られていない」だとする文献もあるが、「守られていない」を意味するのは al-ʼaʽzal の方である。
中国では「角」と呼ばれている。これは青龍のツノであり、付近の領域は二十八宿の起点となる角宿と呼ばれる。
「真珠星」について
[編集]元々スピカには広く知られた和名はなかった[14]。野尻抱影は、40年以上この星の和名を探したものの、雑誌『民間伝承』に宮本常一が福井県三方郡美浜町日向(ひるが)[注 3]で発見した星の名前として「シンジボシ(六月の八時頃上る。白色で小さい)」と報告したものを見つけただけに留まった[14][15]。野尻はこの星をスピカと推定し、その語源を「真珠」と類推して「真珠星」という名前を考案[14]、その後太平洋戦争末期に海軍航空隊から常用恒星の日本語の名前を付けるように依頼された際に「真珠星」の名をスピカに充てた[14]。戦後も野尻がこの呼び名を使い続けたことにより、「日本では「真珠星」と呼ばれる」[1]という認識が広まった。
「春の夫婦星」について
[編集]日本のプラネタリウムや天体観望会などでは、「日本では、アークトゥルスとスピカは「春の夫婦星」と呼ばれる」と解説されることがある[17]が、野尻抱影や北尾浩一による日本各地に伝わる星名の収集・調査の中では、古名としてこの名称を伝えたものは存在しない[注 4]。なお、富山県八尾町(現・富山市)には、アークトゥルスを「アンサマボシ(兄)」、スピカを「アネサマボシ(姉)」と男女にたとえた伝承があった[21]。
注釈
[編集]- ^ a b パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
- ^ 視等級 + 5 + 5×log(年周視差(秒))より計算。小数第1位まで表記
- ^ 『日本星名辞典』には「日高」とある[14]が、これは「日向」の誤記。ただし、元となった『民間伝承』3巻3号に掲載された宮本常一の投稿「若狭漁村民俗」の「星と酒」の項は、他の項と異なり若狭のどの地域で採集されたものか明記されていない[15]。前項と同じ「日向」で採集されたものと考えられているが、1987年10月に北尾浩一が同地で行ったフィールド調査では採集できなかった[16]。
- ^ 「みょうとぼし」「みょーとぼし」などの呼び名は、ふたご座α・β[18]、やぎ座α2・β[19]、さそり座λ・υ[20]など、比較的近くに位置する星の組み合わせを指す例がある。
出典
[編集]- ^ a b c d 原恵『星座の神話 - 星座史と星名の意味』(新装改訂版第4刷)恒星社厚生閣、2007年2月28日、120-121頁。ISBN 978-4-7699-0825-8。
- ^ a b c Paul Kunitzsch; Tim Smart (2006). A Dictionary of Modern star Names: A Short Guide to 254 Star Names and Their Derivations. Sky Pub. Corp.. pp. 59-60. ISBN 978-1-931559-44-7
- ^ a b c “IAU Catalog of Star Names”. 国際天文学連合. 2016年12月8日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s “* alf Vir -- Variable Star of beta Cep type”. SIMBAD Astronomical Database. CDS. 2021年6月23日閲覧。
- ^ “GCVS”. Results for alf Vir. 2015年10月26日閲覧。
- ^ a b c d e f g h TkachenkoMatthews2016, A.; Matthews, J. M.; Aerts, C. et al. (2016). “Stellar modelling of Spica, a high-mass spectroscopic binary with a β Cep variable primary component”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 458 (2): 1964-1976. arXiv:1601.08069. Bibcode: 2016MNRAS.458.1964T. doi:10.1093/mnras/stw255. ISSN 0035-8711.
- ^ a b c Hoffleit, D.; Warren, W. H., Jr. (1995-11). “Bright Star Catalogue, 5th Revised Ed.”. VizieR On-line Data Catalog: V/50. Bibcode: 1995yCat.5050....0H .
- ^ a b c d 山崎篤磨. “日本大百科全書(ニッポニカ)「スピカ」”. 2020年2月4日閲覧。
- ^ “おもな恒星の名前”. こよみ用語解説. 国立天文台. 2018年11月14日閲覧。
- ^ 原恵 2007, p. 67.
- ^ a b “The Washington Visual Double Star Catalog (Mason+ 2001-2014)”. VizieR. ストラスブール天文データセンター. 2016年12月8日閲覧。
- ^ a b c Jim Kaler (2009年7月3日). “Spica”. Stars. 2016年12月8日閲覧。
- ^ 渡辺一夫『パンタグリュエル物語』
- ^ a b c d e 野尻抱影 1986, pp. 29–30.
- ^ a b 宮本常一「若狭漁村民俗」『民間傳承』第3巻第3号、1937年、doi:10.11501/2264261、ISSN 0288-528X。
- ^ 北尾浩一 2018, p. 328-329.
- ^ 山田卓『春の星座博物館』(第二版第一刷)地人書館、1993年5月15日、213頁。ISBN 4-8052-0160-6。
- ^ 北尾浩一 2018, pp. 184–185.
- ^ 北尾浩一 2018, pp. 391–392.
- ^ 野尻 1986, p. 58.
- ^ 北尾浩一 2018, pp. 325–328.
参考文献
[編集]- 草下英明『星座手帖』社会思想社、1969年、72頁。ISBN 978-4390106580。
- 野尻抱影『日本星名辞典』(七)東京堂出版、1986年4月10日。ISBN 978-4490100785。
- 野尻抱影『星座の話』(改)偕成社、1977年9月。ISBN 4037230100。
- 村山定男『キャプテン・クックと南の星』(初)河出書房新社、2003年5月10日。ISBN 978-4-309-90533-4。
- 北尾浩一『日本の星名事典』原書房、2018年5月30日。ISBN 978-4-562-05569-2。