サクラ
サクラ亜属 | |||||||||||||||||||||||||||
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上の画像は一重のソメイヨシノ
下の画像はヤエザクラの一種 | |||||||||||||||||||||||||||
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サクラ(桜、櫻)は、バラ科サクラ属サクラ亜属 Prunus subg. Cerasus またはサクラ属 Cerasus の総称である。日本で最も知られている花の一つである。
語源
「サクラ」の名称の由来は、一説に「咲く」に複数を意味する「ら」を加えたものとされ、元来は花の密生する植物全体を指したと言われている。また他説として、春に里にやってくる稲(サ)の神が憑依する座(クラ)だからサクラであるとも考えられている。
富士の頂から、花の種をまいて花を咲かせたとされる、「コノハナノサクヤビメ(木花之開耶姫)」の「さくや」をとって「桜」になった、とも言われている。
特徴
サクラのおおもとの原産地はヒマラヤ近郊と考えられており、北半球の温帯に広範に分布している[1][2]。日本では少なくとも数百万年前から自生しているとされ、鮮新世の地層とされる三朝層群からムカシヤマザクラの葉の化石が見つかっている[3]。また、各地で気候に適応し、ほぼ日本全土で生育が可能である。さまざまな自然環境に合わせて多様な種類が生まれており、日本においてもいくつかの固有種が見られる。たとえばソメイヨシノの片親であるオオシマザクラは伊豆大島など、南部暖帯に自生する固有種とされる。
桜の花は日本人に非常に親しまれ、園芸用樹として好まれた。エドヒガンやヤマザクラ、オオシマザクラなどは比較的に変性を起こしやすい種であり、このため、園芸技術の発達に伴ってこれらを用いた品種改良が多く行われた。代表的なものはソメイヨシノであり、この種はオオシマザクラとエドヒガン群の特徴を持っている。また、ヤマザクラなどは一枝だけに限って突然変異することもあり、その枝を挿し木や接木にすることによって新たな品種とすることもある。現在、固有種・交配種を含め600種以上の品種が存在するとされる[4]園芸種をサトザクラとまとめて分類することもある。現代では遺伝子情報が良くわかるようになり、品種の特定がよりしやすくなった。理研では重イオンビームの照射による新品種の開発をしている[5]。
樹木としては中高木から低木程度の大きさであることが多い。皮は水平方向に裂け目が出来るものが多い。サクラ属の葉の形は多くの物で楕円形であり、枝に互生し、葉の端はぎざぎざの鋸状になっていることが多い。また、葉に薄い細毛が生えるものも少なくない。葉は秋になると紅葉する。サクラは根から新たな茎が生える種類も多い。(ひこばえとも言う)不定根も良く発生する。
開花期は種によってばらつきがあるが主だったものでは早いと3月中旬頃から、遅いものは5月中旬頃までである。日本においては1月、沖縄のカンヒザクラを皮切りに、カンザクラが2月頃、ヤマザクラが3月下旬、ソメイヨシノが4月上旬、ヤエザクラが4月中旬くらいに見頃を迎え、カスミザクラは5月上旬くらいまで花を咲かす。特にソメイヨシノで顕著であるが、葉が出そろう前に花が咲きそろう。花はモモやウメと違い花柄があり、枝からはなれて咲く。
花びらは五枚から百数十枚までさまざまであり、多くのものが白から桃色である。花弁が五枚までのものを一重、五枚から十枚のものを半八重、十枚以上の花弁をもつものを八重と言う。また、花弁が非常に多く、一枚一枚が細長い場合、菊咲きと称する。さらに萼、花弁、雄蕊の中にさらに萼、花弁、雄蕊のある二重構造のものも見られ、これは段咲きと呼ばれる。花弁の枚数の増え方には雄蕊が花弁に変化するものと、花弁や雄蕊そのものが倍数加する変化が見られる[6]。花観賞用の園芸品種としても好まれたためにさまざまな姿の花が見られる。
開花期間は花見によく使われるソメイヨシノが短く、満開から一週間程度で花が散る。これに比べヤエザクラはより長い期間花を咲かせ続ける。その他、温度や雨が散る散らないの原因になる。花が咲いた後に気温が下がる花冷えが起こると、花は長く持ち、咲いた後に雨が降ると早く散る。花が散り頃に葉が混ざって生えた状態から初夏過ぎまでを葉桜と呼ぶ。
サクラは花芽を作ると葉で休眠ホルモンを作り休眠し、一定の寒さに置かれることによって花の蕾が休眠打破の状態になり、その後暖かくなり始めると開花を迎える。この工程は一般的には冬から春にかけて行われることが多いが、秋に何らかの影響で葉がなくなった場合休眠ホルモンが足りず、寒い日を二~三日経てその後小春日和になるとこの条件を満たしてしまい狂い咲きが起きる。また、狂い咲きとは別に十月頃に花を咲かせる品種も存在する[7]。
近年、サクラが以前に比べ若干早く咲く現象も見られている。また、九州では桜前線の南下現象が見られるようになった[8]。冬が暖かすぎると休眠打破が起こりにくいため、暖かい九州南部では開花が遅れていると考えられる。これには温暖化の影響が見られ、また、都市部で開花が早まることはヒートアイランド現象も少なからず影響している。これらの要因は季節学的な自然環境の変化を端的に表す指標にもなっている。
サクラは木を傷つけるとそこから腐りやすい性質を持つ。この特性から「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」という諺まである。このため、花見の宴会でサクラの木を折る観光客の被害によってサクラが弱ってしまうことが多い。一方、枝が混んできた場合は適切な剪定を行うと樹勢が回復する場合もある。青森県の弘前市では同じバラ科のリンゴの剪定技術をサクラに応用することで同地に生えていたソメイヨシノの樹勢を回復することに成功している[9]剪定の際は不要な枝を根元から切り取り、その傷口を消毒し保護剤で保護する。
本来、特に自生種は病害にも害虫にもそれほど弱くはないが、人為的に集中して植えられている場合や人工的に作られた品種はこれらに弱くなる場合もある。桜の病気としてはテングス病や根頭がんしゅ病が、害虫などとしては蛾の幼虫やアブラムシ、カイガラムシなどがよく知られている。また、キノコなどの菌類の発生も桜の生育を妨げる。いずれも桜の密集地では互いに伝染し、集団発生する可能性がある。
桜は生育環境さえ良ければ非常に長寿になる。日本三大桜がいずれも樹齢千年を超える老古木となっているほか、五大桜も古木が多く、それ以外にも有名で長寿の一本桜が多く存在する[10]。寿命60年という説があるソメイヨシノでも樹齢100歳を超えるものはあり、樹木には事実上寿命と言うものはない[6]。育つ環境が良く、健康状態の良い木は年齢を重ねても華麗に花を咲かす。
分類
サクラ属 Prunus は約400種からなるが、主に果実の特徴から5–7の亜属に分類される。サクラ亜属 subg. Cerasus はその1つである。これらの亜属を属とする説もあり、その場合、サクラ亜属はサクラ属 Cerasus となる。イヌザクラ、ウワズミザクラなどはサクラ属ウワミズザクラ亜属 subg. Padu(もしくはウワズミザクラ属 Padu )であり、サクラ亜属ではない(つまりサクラではない)。
サクラ亜属は節に分かれ、それらは非公式な8群に分かれる[11]。
- サクラ節 sect. Cargentiella (sect. Pseudocerasus)
- ミザクラ節 sect. Cerasus
- ミザクラ群 - セイヨウミザクラ など
- ミヤマザクラ節 sect. Phyllomahaleb
- ミヤマザクラ群 - ミヤマザクラ など
- ロボペタルム節 sect. Lobopetalum
- シナミザクラ群 - シナミザクラ など
かつてはこのほかに、ニワザクラ、ユスラウメなどを含むユスラウメ節 sect. Microcerasus があったが、Krüssmann (1978) によりニワウメ亜属 subg. Lithocerasus に分離された。分子系統からも、ニワウメ亜属は別系統(ただし独立した亜属ではなくスモモ亜属/モモ亜属 Prunus/Amygdalus alliance 内に分散した多系統)という結果が出ている[12]。ただし、サクラ亜属をサクラ節 sect. Cerasus(通常のサクラ亜属)とニワウメ節 sect. Lithocerasus(ニワウメ亜属とウワミズザクラ亜属?)に分ける資料もある[13]。サクラの種類に関してはサクラの一覧も参照。
突然変異と品種改良
サクラは突然変異が多い植物として知られており、花弁や雄蕊の変化、花の大きさ、色の変化、実の増減などが多分に見られる。時には枝ごとに突然変異を起こすこともある。この特徴から、様々な場所にあわせて変化し、多くの自然種が生まれている。また、自家不和合性を持つものも多いため一代限りの突然変異も稀ではない。自家不和合性を持つ場合、次の代には同じ特徴が受け継がれない事が多い。
このように変化しやすい特徴があるため、サクラは品種改良が多く行われる。また、変化させるだけでなく、代を重ねることや接木によって、突然変異を固定化することも行われる。西欧では実をより有用な食品にするため、実を大きく、収穫量がおおくなるような品種改良がおこなわれ、一方日本では花を変化させるために多くの努力が払われた。
日本では花を楽しむために多くの園芸品種が作られている。また、野生種、自生種だけで100種程度のサクラが存在し、各々の野生、自生種の特徴を継がせながらの配合も行われている。野生種の特徴としてはおおむね、ヤマザクラは健康なものが多く、エドヒガンは見栄えがよく、マメザクラは樹高が小さく、カンヒザクラは暖かいところでも育ち、チョウジザクラは寒いところでも育つ。花が多かったり八重で豪勢であるなどの見栄えのよいものや花の変わったものに加え、虫害への強さ、樹形、木の高さ、寒さや暖かさへの強さなども考慮された園芸品種が存在し、作られている。サトザクラは節の間の雑種の意味もあるが、人間が作った園芸品種をまとめてサトザクラと呼ぶこともある。
日本におけるサクラ
日本で桜は最も一般的な花であり、最も愛されている花である。サクラの花は往々にして葉が出そろう前に花が咲きそろう。この「何もないところに花が咲く」という状態に、古来生命力の強さを感じたものと思われる。
歴史
日本最古の史書である『古事記』『日本書紀』にも桜に関する記述があり、日本最古の歌集である『万葉集』にも桜を詠んだ歌がある[14]。奈良時代は和歌などで単に「花」といえば梅をさしていた。万葉集においては梅の歌118首に対し桜の歌は44首に過ぎなかった。
しかしその後、遣唐使の廃止、唐の滅亡などで唐風文化が廃れ、平安時代に国風文化が育つに連れて徐々に桜の人気が高まっていった。
難波津の咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花 — 王仁
の「花」は梅であるが[15]、
ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花ぞ散るらむ — 紀友則
の「花」は桜である。
嵯峨天皇は桜を愛し、花見を開いたとされており[16]、左近の桜は、元は梅であったとされるが桜が好きであった仁明天皇が在位期間中に梅が枯れた後に桜に植え替えたとされている[9]。風流事を称して「花鳥風月」というが、平安時代以後の日本において単に「花」といえば桜のことを指すようになった。その後の和歌にも桜を詠んだものは多い。
歌人の中でも特に平安時代の西行法師が、月と花(サクラ)を愛したことは有名である。彼は吉野の桜を多く歌にしており、西行法師が詠んだ歌の中でも、次の歌は有名である。
願はくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月のころ — 西行法師
西行法師は、この歌に詠んだとおり、旧暦二月十六日に入寂したとされる。
また、名前の由来の一つの通り、桜は穀物の神が宿るともされ、稲作神事に関連していたともされている。また、暦のしっかりとしない時代には桜の開花を農業開始の指標としていた。このため、農民にとっても昔から桜は非常に大切なものであり、各地に田植え桜や種まき桜とよばれる桜が残っている[17]。
江戸時代までには「花は桜木、人は武士」という言葉が成立しており、それまでに「花」=「桜」のイメージは日本で定着した。また、桜の名所も次々と整備された。園芸品種の開発も大いに進み、さまざまな種類の花を見ることが出来るようになった。江戸末期までには300を超える品種が存在するようになった[6]。また、江戸末期にはソメイヨシノが開発され、明治になって以降さらに多くの場所に桜が植えられていった。このころには全ての階層の人々にとって花といえば桜となっていた。
春の象徴、花の代名詞
上記のような歴史から桜は花の代名詞となっている。また、春を象徴する花として日本人にはなじみが深く、初春に一斉に開花する特徴があり春を告げる役割を果たす。俳句の季語になっているほか、桜の開花予報、開花速報は春を告げる合図となっている。また、入学式を演出する春の花として多くの学校に植えられている。桜が咲いている季節がまさに春である。日本全土で全ての種類の桜が全て散り終わると晩春の季節となり、初夏がやってくる。
日本人の精神の象徴
ぱっと花を咲かせた後、散ってゆく桜の儚さや潔さが非常に好まれている。
古くから桜は諸行無常といった感覚にたとえられており、ぱっと咲き、さっと散る姿ははかない人生を投影する対象となった。
江戸時代の国学者、本居宣長は「敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」と詠み、桜が「もののあはれ」などと基調とする日本人の精神具体的な例えとみなした。また、潔よさを人の模範と見て、江戸時代以降しばしば武士道のたとえにされてきた。ただし、そのようにすぐに花が散ってしまう様は、家が長続きしないという想像を抱かせたため、意外と桜を家紋とした武家は少ない。
明治時代に新渡戸稲造が著した『武士道』では「武士道(シヴァリー)とは日本の象徴たる桜の花のようなもの」と冒頭に記している。武士道的な美徳を重視した旧日本軍では、潔く散る桜が自己犠牲のシンボルとして多用された(特攻機桜花など)。たとえば「花(華)と散る」という言葉は戦死や殉職の暗喩である。同期の桜の歌も戦中非常に良く歌われた。
現在でも、桜は日本人の精神を象徴するものして良く取り上げられる。ウェザーニュースの調査では日本人のおよそ8割が桜をとても好きと答えた[18]。咲いている様の美しさはもちろん、花を咲かすためのみに持てる全ての力を使う生命力の強さに惹かれること、咲いてから散るまでの移ろい行く様に人生や一期一会、幸福、恋愛などを投影すること、咲き終えた後には潔く散る姿を美しいと考えること、そしてこれらを自らに当てはめることは日本人にとって稀ではない[16]。春が日本では年度の変わり目であり、出会いと別れの時期であることもこれらの要因を引き立てている。また近年では、散ることをただ惜しむだけではなく、ひらひらと散る桜を精一杯さいた勲章のようにいうことも多い。現代の歌や文学にもこれらの象徴として多く取り上げられている。また、警察官および自衛官の階級章は、他国なら星形を使うべき所を桜花で表している。これらの職種は国民の生命と財産を守るために命を投げ打つと宣誓しているためである。自衛隊の旗でも、陸海空を問わず、旭日と並んで桜の花を使用した旗は数多い。
日本では桜を外国との友好のために贈ることがある[19][20][21]。また、樹木医が海外に送られたこともある[22]。
サクラの開花予想
サクラの開花予想は、代表的な地点での開花が予想される日と、予想日を地図上の等値線で結んだ図(この図は一般に「桜前線」と呼ばれる)が知られている。2009年まで気象庁がサクラの開花予想を発表していたが、2010年以降は開花予想を行わなくなった[23]。ただし、開花や満開の観測は引き続き行っている。一方で、それ以前から民間気象会社も複数社が独自の開花予想を行っており、2010年以降はこれらの会社の予想が使われている[24]。
気象庁では各地で特定のサクラを標本木として定めて職員の目視による観測を行っている。標本木は南西諸島や北海道の大部分を除いてソメイヨシノである。標本木の蕾が5–6輪ほころびると、開花したことが発表される。これをマスコミでは「開花宣言」と呼ぶことがある。標本木全体の80%以上のつぼみが開くと、満開となったことが発表される。
平成21年まで気象庁が行っていた予想方法は、各地点の冬期の気温経過や春期の気温予想等を考慮した各種計算を経て、標本木に対して開花予想日を決定していた。民間気象会社の予想方法も概ねこれに近いが、独自の手法を採り入れて行っているものもある。
気象庁が定める東京のサクラの標本木は、靖国神社境内にある特定のソメイヨシノであるが、その樹木がどれであるかは、公開されていない。近年では、サクラの開花については特にマスコミの注目を集める傾向にあり、開花の時期になると、東京管区気象台の職員が観測する風景を、複数のマスコミが取材に訪れる様子がしばしば見られる。
樹木全体から見た開花具合によって咲き始め、三分咲き、五分咲き、七分咲き、満開、散り始めなどと刻一刻と報道される。このように木々の様子を逐一報道することは、世界から見ても珍しい例である。
桜と文化
桜は春の象徴、花の代名詞として和歌、俳句をはじめ文学全般において非常に良く使われており、現代でも多くの音楽、文化作品が生み出されている。
伝統文化的作品では桜を人に見立てた西行桜などがある[25]。江戸時代の代表的俳人・松尾芭蕉は、1688年(貞享5年)春、かつて奉公した頃のことなどを思って次の句を詠んだ。
さまざまの 事おもひ出す 桜哉 — 松尾芭蕉
音楽においては江戸時代の箏曲や、地歌をはじめとする三味線音楽に多く取り上げられている。一般に「日本古謡」とされる『さくらさくら』も、実は幕末頃に箏の手ほどきとして作られたものである。明治時代以降では滝廉太郎の歌曲『花』などが有名である。長唄『元禄花見踊』も明治以降の作であるがよく知られている。
戯曲では義経千本桜は本来その話の中には桜が登場しないにもかかわらず題名に桜を関しており、現在では桜を背景にする例も多い。
現在でもポピュラー音楽、映画、ドラマ、ゲームなど様々な作品のモチーフや題材になっている。特に春に発表されるポピュラー音楽では他に比べて桜を扱ったものが多く、これらの歌は桜ソングとして知られている。
用途
花・景観
他の花の咲く植物全般に対して、桜のみを特に区別して「観桜」と呼ぶ事がある。それくらいに桜はその景観から人気が高く多くの場所に植えられている。植栽の場合街路樹、公園、庭木、河川敷等に使われることが多い。2007年現在、サクラは街路樹に用いられている樹種として2番目に多く、49万本が植えられている(2007年現在)[26]。 並木のように道に沿って、あるいは河川に沿って植えられることが多く、あたり一面が花景色になることも多い。また、学校の校庭には桜が植えられていることが多い。小学校などの校庭には、児童や生徒の入学時に桜の花が咲いているようにするため、ソメイヨシノに比べて開花期間が長い八重桜を混植することが多い。また、古くから桜の花を育てている神社や寺も少なくない。しかし、害虫や病気など手入れが大変で、大きく育つためか庭木にされることは少ない。
春に日本では、桜の咲く木の下に人々が集まって、花見と呼ばれる宴が開かれる。花見や宴会の場所として広く知れ渡っているところを桜の名所という。花見の習慣とともに、桜の名所も日本全国各地にある。また、神社や寺など桜を持っている団体が桜祭りを開いている例も多い。また、夜の桜を楽しむために、桜をライトアップする夜桜も各所で行われる。
食用
桜は六月から七月にかけて実をつける。桜の実は俗に「サクランボ」と呼ばれ、果実を食用とする品種も育てられている。品種はおおむねセイヨウミザクラ(西洋実桜)とシナミザクラ(中国実桜、支那実桜)の二系統に分けることが出来、近年では多くが西洋系の品種であるセイヨウミザクラである。これはしばしば「桜桃」(おうとう)とも呼ばれるが本来「桜桃」とはシナミザクラを指している。サクランボの品種としては佐藤錦やナポレオン、アメリカンチェリーが有名である。スミミザクラのように酸味が強いが料理に利用される品種もある。観賞用の桜にも赤い実をつけるものがあるが、小さく酸っぱい場合がほとんどであり、これは一般には食用とはされない。
花(花弁)自体も塩漬けにすると独特のよい香りを放ち、ハーブの一種として和菓子・あんパンなどの香り付けに使われる[27]。花の塩漬けは、お茶または湯に入れて茶碗の中で花びらが開くことから、祝い事に使われる。婚礼や見合いなどの席では「お茶を濁す」ことを嫌い、お茶を用いずに桜湯を用いることが多い。
桜の葉の塩漬けも食用として用いられる。桜餅は、塩漬けの葉で包まれている。桜の葉の塩漬けには多くの場合オオシマザクラが用いられており、伊豆半島南部において生産が盛んである。
それ以外の使用
花の形をかたどったものも多く、小中学校や商業高校などの校章をはじめ、警察、自衛隊などの紋章に多く用いられている。
木自体は材木として使われることがある。材木は家具や彫刻に用いられるほか、小物入れや茶筒などの細工物(樺細工)や版木に利用される[28]。また、燻製のスモークチップとしてよく用いられる[29]。桜の樹皮は水平方向にはがれ、その表面は灰色を帯びてつやがあって美しいため、木工製品の表面に利用される。
その他では生薬や染料として用いられている樹皮は桜皮(おうひ)という生薬になり、鎮咳、去痰作用がある。染料としては開花時期の樹皮を染色に使用する事ができる。薄いピンク色である[30]。
桜の保護と育成
日本では桜が至るところに植えられており、花見を楽しむ人は非常に多い。しかしその一方では桜に対する管理や保護がきちんと行き届いているとは言いがたい状況にある[31]。桜は元々弱くない植物であるため、放置することも悪いことではないが、特に桜を長く生き長らえさせ、樹勢を保つためにはきちんとした保護や育成が必要である。落葉期の適切な剪定、寒肥、病気や害虫への対策、夏場の水遣り、土壌の改良などがその例に挙げられる。
また、植え付けの際に樹木同士の間隔を広く取ること、桜への負荷がかからない場所を選ぶことなども大切である。
剪定
桜はそもそも「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」といわれるように、傷口が傷みやすく、剪定には不向きとされている。実際、台風などで枝が折れる、観光客に枝が折られるなどの被害を受けるとその傷口から腐って一気に枯れてしまうこともある。
しかし、枝が込んできた場合、枯れ枝が出た場合、あるいは枝が伸びすぎている場合はこれを適切に切ることで樹勢をより強めることが出来る[9]。不要な枝は根元近くで切り落とし、切り落とした切り口には消毒を行い、癒合剤などを塗り、癒合を促進する。これらの剪定は樹木が休眠期に入っている秋から冬にかけて行うことが好ましい。また、剪定時には鋏や鋸は消毒剤や加熱によって消毒されていることが必要である。
樹勢回復のためのしっかりとした剪定が行いたい場合は樹木医の管理の下で剪定を行うことが好ましい。
土壌改良
桜は水はけの良く、日当たりの良い場所を好む。また、桜は根を浅く広く広げるため、土が固くない場所をより好む。また、毎年花を咲かせるためには非常に多くの栄養を必要としている。このため、他の落葉樹と同じく、寒肥をやることによって桜の樹勢を回復し、花をより多く咲かせることが出来る。土壌が踏み固められていると根頭がんしゅ病やネコブセンチュウ病を誘発し、これらの病気は土壌を汚染する。早いうちであれば土壌改良によって病気を止める事が出来るが、これらで桜が枯れた場合、何度桜を植えても枯れる場合がある。このため、これらの病気にかかった土壌は加熱殺菌すること、石灰などで消毒すること、土そのものを入れ替えること、桜の枯れた後には数年の間樹木を植えないことなどで対策をとることが出来る。桜の周りをコンクリートやアスファルトなどで固めないことや、桜を離れた位置から眺めるようにすることで土を踏み固めることを避けることが出来る[32][33]。
水遣り
桜は水はけの良い土壌を好むが、乾燥には強くない。夏場などは地面の乾燥に気をつけることが大切である[34]。
病害虫対策
桜が良くかかる病気としては根頭がんしゅ病、根瘤線虫病、てんぐ巣病、膏薬病、うどんこ病などがある。
根頭がんしゅ病、根瘤線虫病は根や根の付け根あたりで瘤が発生する病気である。根元の土が踏み固められていると促進される。病気にかかるとすぐ枯れるわけではないが徐々に樹勢がそがれ、桜が弱っていく。これらの病気は病変部位を切り取り、切り取った部分を殺菌し、表面を保護する塗布剤などで保護すること、土壌改良を行うことが有効である。対策を行えば少なくとも病気の進行は抑えられる[35]。
てんぐ巣病は枝に発生し、枝が竹箒状になる病気である。この病変も徐々に桜が弱り、全ての枝に広がると手遅れになりかねない。発見したら、休眠期を待ち、消毒した鋏や鋸で病変部位を切り落とすことが望ましい。切り落とした後は癒合剤などで回復をうながし、剪定した枝は焼却、鋏や鋸も切った後すぐに消毒することが必要である。消毒の行われていないはさみを使うとそれを元に移る可能性もあるので気をつけるべきである。菌が原因であるので風通しを浴することも対策になる。
膏薬病やうどんこ病については水気が多い場所や湿気の多い場所、あるいは病害虫が引き起こす。胴の部分に菌が入ったりキノコが出来ることによって病気になる。病害虫は菌が入るための傷口を作ったり、傷口を広げるのに加担することが多い。風通しを良くする事や水気がたまらないようにすること、病害虫を駆除することによって病気を抑えることが出来る。
桜に良く付く害虫としてはカイガラムシ、アブラムシ、ハダニ、ハマキムシ、コスカシバ、オビカレハ、アメリカシロヒトリ、サクラケンモンなどが挙げられる。
これらの害虫に対しては見つけたら駆除することに加えクモやアシナガバチなどの害虫の天敵を殺さないことなどが対策になる[36]。害虫によって桜が枯れることは少ないが、これらの害虫を放置すると病気の遠因になるため、出来るだけ早いうちに対策を行うことが必要である。
環境の変化
桜は街路樹として植えられることも多いことなどから、車などの排気ガスによっていためられることも多い。このような場合対策はとりづらいため、その他の要因で樹木が弱らないようにすることが大切である。高山神代桜では桜を守るために近くを通っていた道路に迂回路が作られた[37]。
酸性雨なども木を弱める要因になる。また、近年では温暖化によって桜の花が早く咲く現象が起こっている。いずれにせよ、これらの場合、環境の悪化をとめることが一番の対策である。
花見客による被害
花見客のマナーの悪さによって桜の木が傷んでしまうこともある。マナーの悪い花見客による枝折り、火気の持ち込み、ごみの放置、むやみに根元を踏みつける行為などが桜をいためつける原因となっている[38]。枝折りは桜の木を腐らせる可能性があり、火気は桜を熱や煙で痛める。ごみの放置は周辺環境を汚染し、根元を踏みつけることは根を窒息させ樹勢を弱める。夜桜で騒ぐことによって桜だけでなく周辺住民への迷惑も発生している
これらに対し桜の名所といわれる場所では多くが火気の持込を禁止しており、ごみの持ち帰りを呼びかけている[39]。しかしながら、これらは花見客に対し罰則を与えるものでないため、あくまで警告にとどまっている。花見を楽しむためにはマナーを守ることが大切である[40]。
桜守
桜を保護し、見守る人を桜守と言う。近年では放置されていた桜に対し、保護や手入れをする桜守の団体が増えている[41]
御母衣ダムに沈む村の桜をダム湖岸に植え替えた笹部新太郎の話は水上勉の小説『櫻守』にもとり上げられており、非常に有名である[9]。
ギャラリー
日本
種類別
日本以外
関連語
- 桜の散るさまをたとえて花吹雪と言う。桜吹雪とも。
- 秋桜はコスモスのことをさす。桜に似た花の形からこう呼ばれる
- 馬肉のことを桜肉と言う。切り身の色や、桜の咲く季節に一番美味くなることから由来している。
- サクラエビ、サクラマスなど、体色の赤いものに使われ、淡い紅色を「桜色(さくらいろ)」という。
- 電報などの文面で、桜の花は「合格」の意味である。「サクラサク」は合格を、「サクラチル」は不合格の意味に使われた。
- うばざくら(姥桜、乳母桜)は、開花時に葉がないことから歯がないを暗喩した桜の通称。または桜には見ごろがあることから、年配でありながら艶めかしい女性を指す古語。春の季語。
- 「花は桜木(さくらぎ)、人は武士」:武士の理想としての潔い生き様を、ぱっと咲いてぱっと散るサクラにたとえた言葉。もとは一休宗純の言葉の一部。→散華
- 和文通話表では、「さ」を送る際に「桜のサ」という。
- 商売でのサクラは客寄せのための店が仕込んだ偽の客の事をさす。心理学実験でも使われることがある。
- その他、桜にちなんだ言葉については、サクラ (曖昧さ回避)を参照。
スポーツ
地名・人名
サクラの名のつく地名は多くはない。しかし、桜井、桜田、桜川、桜町など、桜の付く地名を含めると非常に多く見ることができる。これらの地名は特に桜の名所であったりする場所でなくとも瑞祥地名として見られる。おそらく一番有名な地名は奈良の桜井市である。
人名にも桜の付くものは少なくない。桜が入った苗字もそうであるが、近年は女性の名前として「さくら」の語が使われることが多い[42]。音を「さくら」から取り、漢字は当て字を使う例も見られる
脚注
- ^ さくらFQA 日本以外にもサクラは自生しているの?、財団法人日本花の会
- ^ 桜の種類、財団法人日本さくらの会
- ^ サクラの化石、鳥取県教育センター
- ^ 引用エラー: 無効な
<ref>
タグです。「sakuyakonohana_Jp_sakura
」という名前の注釈に対するテキストが指定されていません - ^ 重イオンビームで世界初のサクラの新品種の作成に成功、平成19年10月31日、独立行政法人理化学研究所
- ^ a b c 『Newton』、株式会社ニュートンプレス、2004年5月号
- ^ 「十月桜」が開花 深まる秋に「春」、AGARA紀伊民報、2009年10月09日
- ^ 第7回 桜前線に異変あり! P3、日経BP社、2009年03月12日
- ^ a b c d 。丸谷馨、『日本一の桜』(講談社現代新書、2010年)、ISBN 978-4-06-288041-1
- ^ さくら長寿番付、桜雑学辞典
- ^ 和名と群は このはなさくや図鑑 より
- ^ Wen, J.; et al. (2008), “Phylogenetic inferences in Prunus (Rosaceae) using chloroplast ndhF and nuclear ribosomal ITS sequences”, Journal of Systematics and Evolution 46 (3): 322–332, doi:10.3724/SP.J.1002.2008.08050
- ^ Infrageneric information from NPGS/GRIN: Prunus
- ^ 桜について詠っている万葉集を写真付きで見る
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タグです。「sakuratonihonjin
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- ^ 各地の桜に“こぶ病” 樹勢衰え、枯れる被害も P2、産経ニュース、2008年3月22日
- ^ 桜はよく虫がつく?、このはなさくや図鑑
- ^ もうすぐ満開“村の宝”…樹齢2千年、山高神代桜 山梨・北杜、産経新聞、2010年4月2日
- ^ 代々木公園、「花見の宴」マナーは都内最悪=悪質で危険な置き土産も、Livedoorニュース、2009年4月7日
- ^ 和歌山公園に高札 花見客のマナー改善呼びかけ、産経新聞、2009年4月3日
- ^ お花見マナーガイド
- ^ 桜守プロジェクト 日本気象協会
- ^ 生まれ年別名前ベスト10(女性)