コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

NEOWISE彗星 (C/2020 F3)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
NEOWISE彗星
C/2020 F3 (NEOWISE)
2020年7月14日にドイツで撮影されたNEOWISE彗星
2020年7月14日にドイツで撮影されたNEOWISE彗星
分類 長周期彗星
発見
発見日 2020年3月27日[1][2]
発見者 NEOWISE[1][2]
軌道要素と性質
元期:JD 2459064.5(2020年8月3.0日)[1]
軌道の種類 太陽周回軌道
軌道長半径 (a) 354.82402 au[1]
近日点距離 (q) 0.29465 au[1]
遠日点距離 (Q) 709.35339 au[1]
離心率 (e) 0.99917[1]
公転周期 (P) 2,441,281.97888 [1]
(6,683.87 [1]
軌道傾斜角 (i) 128.93740°[1]
近日点引数 (ω) 37.27847°[1]
昇交点黄経 (Ω) 61.00942°[1]
平均近点角 (M) 0.00447°[1]
前回近日点通過 JD 2459034.17906[1]
2020年7月3日
次回近日点通過 8700年前後
物理的性質
直径 約5 km[3]
絶対等級 (H) 10.7 ± 0.7(彗星全体)[1]
Template (ノート 解説) ■Project

NEOWISE彗星 (C/2020 F3) は、赤外線観測衛星NEOWISEによって2020年に発見された長周期彗星である[1][2]。NEOWISE彗星という名称のついた彗星は複数発見されているため、明確な区別のために以下、本文では「C/2020 F3」と呼称する。日本国内ではネオワイズ彗星と表記されることが多い[4][5][6]。「2020年の大彗星 (The Great Comet of 2020) 」とも呼ばれている[7][8]

発見と特性

[編集]
NEOWISE彗星 (C/2020 F3)の軌道

C/2020 F3は2020年3月27日アメリカ航空宇宙局(NASA)が2009年に打ち上げた赤外線観測衛星NEOWISEでの観測から発見された[2][5]。C/2020 F3は軌道離心率が1(1だと放物線軌道、それを超えると双曲線軌道になる)に非常に近い極めて潰れた楕円軌道で太陽公転しており[1][2]オールトの雲から飛来してきた天体とされている[9]。極めて極端な楕円軌道を公転しているため、近日点では水星よりも内側の太陽から約0.29 au(約4400万 km)まで接近するが、遠日点では709.35 au(約1061億 km)まで遠ざかる。黄道面に対する軌道傾斜角は約129に達する[1]

太陽系内部へ飛来する前の公転周期は4,300年であったが、2020年の太陽系の内部への接近により現在では6,700年程度まで長くなっている[9]。2020年7月5日時点の軌道要素では、次に近日点を通過するのは8786年頃になるとされていたが[10]、2020年7月21日時点でジェット推進研究所が公開している小天体データベースJPL Small-Body Databaseが採用している、元期2020年8月3日の軌道要素に沿うと、次にC/2020 F3が近日点を通過するのは8704年頃となる[1]

NEOWISEによって撮影された赤外線画像からは、C/2020 F3のの直径は約5 kmほどと推定されている[3]。これはエンケ彗星(4.8 km)や百武彗星(4.2 km)の核の直径よりも大きく、この程度の規模の核を持つ彗星は大抵が短周期彗星である[11]。赤外線画像と可視光線によるデータを組み合わせた結果、核は煤けた暗い粒子によって覆われているとみられている[3]

2020年7月13日には、これまでヘール・ボップ彗星やアイソン彗星などの非常に明るい彗星でしか確認されていなかった「ナトリウムの尾」がC/2020 F3に存在することが発表された[12]

観測

[編集]

地球上からの観測

[編集]

2020年の前半にはすでにATLAS彗星 (C/2019 Y4)SWAN彗星 (C/2020 F8)の2つの彗星が太陽に接近し、明るい彗星になることが期待されたが、共に近日点通過前に核が崩壊し、それほど明るくなることはなかった。それに対して、これらの彗星の後に太陽に接近したC/2020 F3は近日点通過後も核の崩壊が発生せず、長いを伴う巨大な彗星となり、多くの天体観測者を魅了させた[13][14]。その尾の大きさからC/2020 F3は、メディアなどでは1997年に観測された大彗星であるヘール・ボップ彗星と対比されることもある[13][15][16]

発見当時の見かけの等級は17等級だったが、6月頃には眼視等級まで達した[5]。C/2020 F3は2020年7月3日(日本時間では7月4日)に近日点を通過したが、彗星接近前はこのころのC/2020 F3の見かけの等級は最大でも約3等級程度と予想されていた[6]。しかし、C/2020 F3は近日点通過直前から予想以上の増光を起こし、6月末にはC/2020 F3は0〜1等級程度にまで明るくなり[17]、夜明け前の空の低い位置に尾をなびく様子が肉眼でも観測された[5][9][10]。近日点通過直後には彗星のダストテイル(塵の尾)の長さは地球上から見ると約6に達し、また淡い青色のイオンテイル(イオンの尾)も観測されている[15][18]。日本国内でも、沖縄県石垣島天文台[19][20]を始め、広い地域で尾をなびく姿が観測されている[21][22]

7月中旬からはC/2020 F3は日没後の北西の空に見えるようになり、7月23日に地球から約1億300万 kmの距離まで最接近する[9]。その後、7月下旬にかけてC/2020 F3は暗くなっていき、8月下旬には肉眼で観測することができなくなると予想されている[5][23]

宇宙からの観測

[編集]
2020年7月5日にパーカー・ソーラー・プローブが撮影したNEOWISE彗星

6月22日 - 27日には、C/2020 F3は太陽観測衛星SOHOのLASCO C3カメラが撮影しているコロナグラフ画像の視野内に写り込んだ[9]。コロナグラフ画像に写り込む頃にはC/2020 F3の見かけの明るさは3等級よりも明るくなっていた[24]

また、尾をなびくC/2020 F3の様子は国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中の宇宙飛行士[10][23][25]や、太陽探査機パーカー・ソーラー・プローブと太陽観測衛星のSTEREO[26]からも撮影されている。パーカー・ソーラー・プローブに搭載されている光学観測装置「WISPR」からも、C/2020 F3から伸びるダストテイル(塵の尾)とイオンテイル(イオンの尾)の姿が観測されているが、この画像からイオンテイルがさらに2方向に分化している可能性が示されている[26]

画像

[編集]

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s JPL Small-Body Database Browser: C/2020 F3 (NEOWISE)”. JPL Small-Body Database. Jet Propulsion Laboratory. 2020年7月21日閲覧。 (2020-07-18 last obs. ver)
  2. ^ a b c d e C/2020 F3 (NEOWISE)”. Minor Planet Center. 2020年7月9日閲覧。
  3. ^ a b c Comet NEOWISE Sizzles as It Slides by the Sun, Providing a Treat for Observers”. Jet Propulsion Laboratory. NASA (2020年7月8日). 2020年7月14日閲覧。
  4. ^ (速報)ネオワイズ彗星が明るい(2020年7月)”. 国立天文台. 2020年7月11日閲覧。
  5. ^ a b c d e 吉田誠一 (2020年7月7日). “ネオワイズ彗星 C/2020 F3 ( NEOWISE )”. aerith.net. 2020年7月9日閲覧。
  6. ^ a b 2020年7月 ネオワイズ彗星が3等前後”. AstroArts. 2020年7月9日閲覧。
  7. ^ The Great Comet of 2020 (NEOWISE)”. The University of Arizona. 2020年7月11日閲覧。
  8. ^ The Great Comet of 2020”. 2020年7月16日閲覧。
  9. ^ a b c d e David Dickinson (2020年6月30日). “Comet F3 NEOWISE May Perform in July”. Universe Today. 2020年7月9日閲覧。
  10. ^ a b c Eddie Irizarry (2020年7月5日). “How to see comet NEOWISE”. EarthSky. 2020年7月9日閲覧。
  11. ^ JPL Small-Body Database Search Engine: all comets and diameter > 4 (km) and diameter < 6 (km)”. JPL Small-Body Database Search Engine. Jet Propulsion Laboratory. 2020年7月14日閲覧。
  12. ^ NEOWISE: Rare Image of a Comet's Sodium Tail”. Planetary Science Institute (PSI) (2020年7月13日). 2020年7月21日閲覧。
  13. ^ a b Dan Falk (2020年7月9日). “One of the brightest comets in decades is passing Earth. Here’s how to see it.”. National Geographic. 2020年7月11日閲覧。
  14. ^ Scott Hershberger (2020年7月9日). “Comet NEOWISE Could Be Spectacular: Here’s How to See It”. Scientific American. 2020年7月11日閲覧。
  15. ^ a b Miloslav Druckmuller; Robert Nemiroff; Jerry Bonnell (2020年7月11日). “The Tails of Comet NEOWISE”. Astronomy Picture of the Day. NASA. 2020年7月14日閲覧。
  16. ^ Joe Rao (2020年7月10日). “How to see Comet NEOWISE in the night sky this month”. Space.com. 2020年7月14日閲覧。
  17. ^ Comet C/2020 F3 (NEOWISE)”. Comet Observation Database (COBS). 2020年7月9日閲覧。
  18. ^ Mark Armstrong (2020年7月7日). “A naked-eye comet graces our skies”. Astronomy Now. 2020年7月11日閲覧。
  19. ^ 明け方の空に現れたネオワイズ彗星”. 石垣島天文台. 国立天文台 (2020年7月7日). 2020年7月9日閲覧。
  20. ^ 石垣島でネオワイズ彗星の撮影に成功 7月中旬ごろまで観察可能”. Yahoo!ニュース (2020年7月8日). 2020年7月9日閲覧。
  21. ^ ネオワイズ彗星、青森県内でも観測”. 東奥日報 (2020年7月10日). 2020年7月11日閲覧。
  22. ^ 夜明けの津別峠に輝く白い尾 3月に発見 ネオワイズ彗星”. 北海道新聞 (2020年7月10日). 2020年7月11日閲覧。
  23. ^ a b Judson Jones (2020年7月7日). “A new comet is now visible with the naked eye”. CNN. 2020年7月11日閲覧。
  24. ^ Michal Kusiak (2020年6月22日). “C/2020 F3 has entered in SOHO LASCO C3 field of view. Currently becomes to be brighter than +3.0 mag!!” (Tweet). Twitter. 2020年7月9日閲覧。
  25. ^ Amanda Kooser. “NASA astronaut captures view of rare bright comet Neowise from ISS”. CNET. 2020年7月9日閲覧。
  26. ^ a b Sarah Frazier (2020年7月10日). “NASA’s Parker Solar Probe Spies Newly-Discovered Comet NEOWISE”. NASA. 2020年7月11日閲覧。

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]