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タニワタリノキ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Adinauclea fagifoliaから転送)
タニワタリノキ
タニワタリノキの図版(正確には現在シノニムとされている Adina globiflora記載された時のもの)
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : キク上群 superasterids
階級なし : キク類 asterids
階級なし : asterids I
: リンドウ目 Gentianales
: アカネ科 Rubiaceae
亜科 : キナノキ亜科 Cinchonoideae
: タニワタリノキ連 Naucleeae
: タニワタリノキ属 Adina
: タニワタリノキ A. pilulifera
学名
Adina pilulifera (Lam.) Franch. ex Drake[2]
シノニム

タニワタリノキ(谷渡りの木; 学名: Adina pilulifera)とは、アカネ科タニワタリノキ属樹木である。日本九州南部、中華人民共和国インドシナにかけて分布する。特徴の一つは頭状花序であるが、これはインドから東南アジアにかけて分布する同属のハルドゥAdina cordifolia)のみならずタニワタリノキ連Naucleeae)の植物全体に共通して見られ[3]、葉は披針形である(参照: #特徴)。

和名の由来は谷沿いに生えることによる[4]。また、タニワタリノキという呼称は鹿児島県垂水市ではバラ科カマツカ(別名: ウシコロシ)を指す[5]

中国語では水團花 (水团花) と呼ぶ[6]

分類

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タニワタリノキの花。花冠は5裂。
参考: 別種のアメリカヤマタマガサ。こちらの花冠は4裂である。

タニワタリノキの史上初めての記載は1785年のラマルクによる『植物百科事典』(Encyclopédie) 第1巻、 p. 678 における Cephalanthus pilulifer としてのもので、その後アドリアン・ルネ・フランシェの見直しによりAdina属とされたものが1895年にエマヌエル・ドレーク・デル・カスティリョを介して発表され[7]、これが正名として受容されるようになった[2]

牧野 (1940) はタニワタリノキの正名を Nauclea orientalis L. とし、そのシノニムとして Adina globiflora Salisb. を添えているが、Govaerts et al. (2022) は両者は互いに無関係としている。中井猛之進中井 & 小泉 (1927:511) で N. orientalis変種として macrophylla を記載しているが Ridsdale (1978:357) が Adina pilulifera のシノニムとし、Govaerts も同じ判断を下している。熱帯植物研究会 (1996)インドシナフィリピンインドネシアニューギニアに分布する Nauclea orientalis に「バンカル」(フィリピン: bangkal)、後に Govaerts et al. (2022) により N. orientalis のシノニムとして扱われるようになるモルッカス(モルッカ諸島)原産の Nauclea undulata Roxb. に「チーズウッド」(パプアニューギニアオーストラリア英語: cheese wood)や「ヤエヤマアオキ」という呼称をあてているが、ヤエヤマアオキというと今度はアカネ科の別種 Morinda citrifolia の標準和名となってしまう[8]

また、同じアカネ科タニワタリノキ連に属し園芸植物として知られるアメリカヤマタマガサCephalanthus occidentalis; 通称: セファランサス[9]も「タニワタリノキ」の名で流通し混同されていることがあるが、北アメリカ原産で Adina pilulifera と異なり耐寒性を有しており、また形態的にもタニワタリノキの花が5裂であるのに対しアメリカヤマタマガサは4裂であるなど全くの別物である[10]

分布

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日本九州南部、中華人民共和国南部、インドシナに分布する[4]

生態

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日本では谷沿いのやや湿った岩礫地に見られ、花期は8月である[4]

特徴

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常緑低木あるいは小高木で、大きなものは高さ4-5メートルとなる[4]

葉は対生し倒披針形あるいは狭長楕円形で全縁、先端が短く尖り、両面ともに無毛、長さ5-11センチメートル、幅1.5-3センチメートル[4]

花は上部の葉腋から長さ3-4.5センチメートルの花梗が伸び、1個の頭状花序がつく[4]。この頭状花序は花が咲いている時は径約1センチメートルである[4]萼筒は短い円筒形で角張り、倒披針形で5裂し、先は丸くなる[4]花冠は淡黄色、高杯形で長さ約4ミリメートル、筒は細長く外面は無毛、先が5裂し、裂片は3角状卵形で先は丸いか短く尖り長さ約1ミリメートル、のときはすり合わせ状にたたまる[4]花柱の先は棍棒状に膨らむ[4]子房は2室で各室に4個の胚珠がある[4]

果実は蒴果で倒披針形、先に萼片が残り、長さ3-4ミリメートル[4]。種子は長さ約2ミリメートルで広線形、両端に翼がある[4]

利用

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中華人民共和国では葉や果実が下痢腸炎腫れ物湿疹打ち身外傷出血などに対して用いられる[6]

タニワタリノキ属

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ハルドゥ
シマタニワタリノキ

Govaerts & et al. (2022) によればタニワタリノキ属Adina)は12種が認められ、日本にはタニワタリノキとヘツカニガキが自生する。タニワタリノキを除く11種は以下の通りである。

2014年に行われたタニワタリノキ連の見直しでは Metadina[注 1]AdinaucleaHaldinaPertusadina・ヘツカニガキ属(Sinoadina[注 2]の5属はタニワタリノキ属のシノニムとして含むのが妥当という結果が得られた[13]

脚注

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注釈

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  1. ^ 1970年に Reinier Cornelis Bakhuizen van den Brink (1911年生) により新設。
  2. ^ 以上の4属は1978年にコリン・リズデイルスペイン語版によりタニワタリノキ属と比較した際の頂生生長する芽・托葉・花冠裂片・花序につく頭状花の数・室ごとの胚珠の数といった形態の違いを根拠に新設されていた[12]

出典

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  1. ^ Yan, l., Botanic Gardens Conservation International (BGCI) & IUCN SSC Global Tree Specialist Group. (2019). Adina pilulifera. The IUCN Red List of Threatened Species 2019: e.T147627719A147627721. doi:10.2305/IUCN.UK.2019-2.RLTS.T147627719A147627721.en. Downloaded on 9 December 2021.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o Govaerts & et al. (2022).
  3. ^ Stevens (2001-).
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m 山崎 (1999:192).
  5. ^ 八坂書房 (2001).
  6. ^ a b 堀田 (1989).
  7. ^ Drake del Castillo, E. (1895). “Contribution a la flore du Tonkin: Énumération des Rubiacées trouvées au Tonkin par M. Balansa en 1885–89” (フランス語). Journal de Botanique [Morot] 9 (11): 207. https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k6288425k/f15.item. 
  8. ^ a b 米倉・梶田 (2003-).
  9. ^ ブリッケル (2003).
  10. ^ Cephalanthus occidentalus セファランサス『ムーンライトファンタジー』 (Junk sweet Garden tef*tef*). 2019年6月6日閲覧。
  11. ^ Matthew (1995).
  12. ^ Ridsdale, C.E. (1978). “A revision of the tribe Naucleeae s.l. (Rubiaceae)”. Blumea 24 (2): 307–366. https://repository.naturalis.nl/pub/524828. 
  13. ^ Löfstrand, Stefan. D.; Krüger, Åsa; Razafimandimbison, Sylvain G.; Bremer, Birgitta (2014). “Phylogeny and Generic Delimitations in the Sister Tribes Hymenodictyeae and Naucleeae (Rubiaceae)”. Systematic Botany 39 (1): 304–315. doi:10.1600/036364414X678116. 

参考文献

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英語:

  • Matthew, K.M. (1995). An Excursion Flora of Central Tamilnadu, India. Rotterdam: A.A. Balkema. p. 235. ISBN 90 5410 286 1. https://books.google.co.jp/books?id=umMFT6tKtrkC&pg=PA230&dq=Haldina+axillary&hl=ja&sa=X&ved=0ahUKEwiR57iIiqziAhUHEqYKHZf6AeoQ6AEISDAE#v=onepage&q=Haldina%20axillary&f=false 
  • Stevens, P. F. (2001 onwards). Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017 [and more or less continuously updated since]. 2019年6月6日閲覧。
  • Govaerts, R., Ruhsam, M., Andersson, L., Robbrecht, E., Bridson, D., Davis, A., Schanzer, I., Sonké, B. (2021). World Checklist of Rubiaceae. Facilitated by the Royal Botanic Gardens, Kew. Published on the Internet; https://wcsp.science.kew.org/home.do Retrieved 19 January 2022

日本語: