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阪急8200系電車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
阪急8200系から転送)
阪急8200系電車
朝ラッシュ時の通勤特急運用に就く8201F
基本情報
運用者 阪急電鉄
製造所 アルナ工機
製造年 1995年
製造数 2編成4両
運用開始 1995年6月12日[1]
投入先 神戸線
主要諸元
編成 2両編成
軌間 1,435 mm
電気方式 直流1,500V
架空電車線方式
設計最高速度 130 km/h
車両定員 90(立席)+43(座席)=133
全長 19,000 mm
全幅 2,750 mm
全高 4,095 mm
車体 アルミニウム合金
台車 住友金属工業 SS-139A(8200形)・SS-039A(8250形)
主電動機 東芝 SEA-350
主電動機出力 200 kW × 3
駆動方式 WNドライブ
歯車比 1:6.13
制御方式 VVVFインバータ制御GTOサイリスタ素子・ベクトル制御)
制御装置 東芝 SVF018-A0 (1C1M×3)
制動装置 回生ブレーキ優先電気指令式空気ブレーキ(HRDA-1)
保安装置 パターン式ATS
デッドマン装置
備考 竣工時のデータ
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阪急8200系電車(はんきゅう8200けいでんしゃ)は、1995年(平成7年)に導入された阪急電鉄通勤形電車である。

本記事では、大阪梅田方先頭車+F(Formation=編成の略)を編成名として記述する(例:8200F)。

概要

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神戸線における通勤需要の増大を受けて、当時導入されていた8000系をベースに、ラッシュ時にすべての座席を収納可能とした車両として、2両編成2本がアルナ工機で製造された[2]。すでに東日本旅客鉄道(JR東日本)の205系サハ204形6扉車などで採用実績があったが、関西鉄道事業者では阪急が初採用となった[注 1]

製造当時の新機軸も可能な限り導入され[3]、車内案内情報装置やカーテン式の日よけ、シングルアーム式のパンタグラフなどは後の新造車・更新車にも引き継がれた。

車両概説

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車体

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通勤特急運用に就く8200系(改造前)の車体側面

8000系に準じた構造・寸法の押し出し型材の溶接組み立てによるアルミ合金製3扉車体を備える。

ラッシュ時の混雑緩和と乗降時間の短縮を目的として、乗降扉は従来より200mm広い1,500mmとなった[2]。座席収納時は全て立席となるため、側窓を上に105mm拡大し、荷物棚も100mm高くした[2]。側窓は横方向にも拡大され、扉間に2枚、連結面側が1枚に減少した[2][注 2]ものの、開口寸法を極力在来車に近づけている。戸袋窓や扉窓を含め、すべて複層式の熱線吸収ガラスを採用しており、日よけはアルミ製鎧戸をやめ、フリーストップタイプのロールアップカーテンとされた。

側扉間および連結面寄り車端部の側窓は8000系同様に、空気圧動作による一斉・個別操作可能な下降式のパワーウィンドウとなっている。

前面形状は、風圧対策のため幾度も形状変更を繰り返していた8000系・8300系の実績を受け、左右窓下辺直下のラインで「く」の字状に折れ曲がる複雑な3面折妻構成とされた。車両番号は向かって左の車掌台側妻窓内側下部に掲示し、電照式として夜間などにおける視認性を確保している。

種別・行先表示器は、前面は従来どおり幕式を踏襲したが、側面については側窓寸法拡大の関係で省スペース化が可能なLED式が採用され[注 3]、日本語用と英語用の2つを並べて配置している[2]

前面の連結器は、大阪梅田方は密着連結器のみを、神戸三宮方は電気連結器付き密着連結器を装着している。

改造前の室内(2005年、正雀車庫の公開時に撮影)

内装

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座席は、ラッシュ時に最も混雑率の高い梅田(現:大阪梅田)方に増結すること[注 4]を前提として、折りたたみ式ロングシートとされた。空気圧動作のシリンダーを内蔵しており、運転台からの指令で開閉操作や手動開閉の可・不可を切り替え可能とした。

壁面の木目化粧板は、戸袋部分の壁面積が拡大したため、7000系以前と同様の明るい色調に戻された[3]。床材は小石模様で、座席・出入口側(枕木方向に向かって両端)が濃色、中央が淡色のツートーンとされた[4]

つり革は数を増やし、阪急では初めて枕木方向にも設置するとともに三角型のものを採用した。車内の出入口中央部にはスタンションポールを設置している。乗降ドア上部にはLED式の車内案内表示装置と、14インチ液晶ディスプレイを千鳥配置で設置し[2]FM大阪のニュース(見えるラジオ)や天気予報、沿線情報を提供する。

主要機器

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制御装置は8000系と同様に東芝製のVVVFインバータで、スイッチング素子としてGTOサイリスタを採用する[5]

ただし、8000系では1基のインバータ装置で4個のかご形三相誘導電動機を制御する1C4M制御方式によるINV032-A0を搭載しているのに対し、本系列では粘着特性の改善を狙って小型のインバータ装置を3セット内蔵し、それぞれ1個の電動機を制御する1C1M個別制御方式としたSVF018-A0を搭載している[5]。また、この装置は日本製のVVVFインバータでは最初のベクトル制御方式[6]を採用、惰行制御も装備している。

主電動機は東芝SEA-350かご形三相誘導電動機(1時間定格出力200kW、定格回転数は2,060rpm、最大回転数は6,230rpm)を8200形の各台車に合計3基搭載する[注 5]。この電動機は設計最高速度を130km/hとして将来のスピードアップにも対応可能なように8000系のSEA-317(1時間定格出力170kW)よりも出力に余裕を持たせて計画され、一方で高定格回転数仕様として磁気回路容量を削減することで軽量化を実現している。

駆動装置はWNドライブで、高定格回転数のため歯数比を8000系の5.31から6.13に引き上げて定格速度を8000系と揃えている。なお、この電動機は8両編成時の各電動車に4基ずつ搭載とすることで、最高速度130km/hの条件の下でもMT比3M5Tでの運転が可能な性能[注 6]を備える。

台車は京都線8300系後期車にも採用されたボルスタレス式台車で、住友金属工業SS-139A(8200形)・SS-039A(8250形)を装着する[2]。Zリンク式牽引装置とモノリンク式軸箱支持機構を備える。

1997年に増備された宝塚線用増結車の8000系8040形は、8200系と同じ台車、電装品を採用している[2]

ブレーキ時の電力回生効率を向上させるため、制御器側の回生ブレーキを優先使用する設計のナブテスコHRDA-1電気指令式ブレーキを搭載する。各台車の基礎ブレーキ装置は、ブレーキ動作時の滑走防止を目的としてABS装置付のユニットブレーキとしている[7]

集電装置は冷房装置の増強で屋根上スペース確保が困難となったことから、阪急電鉄では初採用となる、軽量小型のシングルアーム式パンタグラフPT70形が8200形に2基搭載されている[注 7]

空調装置は、ラッシュ時の快適性を改善すべく冷凍能力10,500kcal/hの集約分散式を4基搭載し[5]、カバーは連続式とした[2]。冬期の暖房能力を向上させるためヒートポンプ式の冷暖房兼用とし[2]、座席下部のヒーターと併用している[5]

形式

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8000系の派生系列であるが、両数が限られることから予備番号を使用し[2]5200系2200系と同様、形式の百の位が200番台とされている。

8200形
大阪梅田方制御電動車 (Mc1) 。
8250形
神戸三宮方制御車 (Tc) 。補助電源装置(SIV)および空気圧縮機(CP)を搭載。

2017年9月に形式呼称が変更[8]され、8200形はMc8200形に、8250形はTc8250形に改められた。

改造

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2007年10月29日より、優先座席の再区分化にあわせて、座席の収納が取りやめられたことに伴い、2007年12月から2008年3月にかけて、8200F・8201Fともに正雀工場にて以下の改造が行われた。

  • スタンションポールの撤去。
  • 枕木方向に配置されていたつり革の撤去。
  • つり革の握り部を三角型から丸型に変更。
  • 折りたたみ式座席を9000系に準じた仕切り板付きロングシートに変更。
  • パイプ式荷棚を9000系と同じ棒状のものに変更。
  • 床材をタイル状の模様が入ったものに変更。
  • 車内の製造銘板を製造年の記載のない「アルナ工機」の文字のみのものに交換。

接客設備については、2014年3月31日の「見えるラジオ」サービス終了に伴い、液晶ディスプレイでのFM大阪ニュースの提供を同日をもって終了した。その後2015年6月頃に、液晶ディスプレイが撤去されている。

なお、LED式車内案内表示器は、2013年駅ナンバリング導入を機に、次駅案内・乗換案内等の表示に一部改良を加えた上で、引き続き使用されている。

2016年ごろに2編成ともに前照灯がLEDに換装されている。

運用

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特急新開地行きに増結されている三宮どまりの阪急8200系
特急新開地行きに増結されている三宮どまりの阪急8200系

本系列は、神戸線の阪神・淡路大震災からの全線復旧に伴う1995年6月12日のダイヤ改正から運用を開始した。乗客の混乱を避けるため、座席の収納は平日朝ラッシュ時に西宮北口駅で増結を行う梅田行き通勤急行2運用に限定され[注 8]時刻表に「※大阪方前2両座席収納車」の注釈があった。検査時などは他系列が充当された[1]

収納式座席をはじめ、阪急初となる接客設備が多数採り入れられた本系列は、上述のとおり朝ラッシュ時の混雑緩和に大きな威力を発揮した。しかし、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災で大きな被害を受けた阪神間の沿線人口減少により、本系列は4両で製造終了となった[注 9]

イベントや訓練等では、2両編成で伊丹線今津線を走行したことがある[9][10]

編成表

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← 大阪梅田
神戸三宮 →
竣工
Mc1 Tc
8200 8250 1995年6月10日[2]
8201 8251

脚注

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注釈

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  1. ^ 一部座席を収納可能な車両として京阪5000系電車があったが、全ての座席が畳まれ、立席のみとなる車両は関西初であった。
  2. ^ そのため、窓配置はd (1) D2D2D1(d:乗務員扉、D:客用扉、 (1) :戸袋窓、数字:窓数)となり、位置的に戸袋と干渉する乗務員室直後の細窓は固定式の戸袋窓とせざるを得なくなっている。
  3. ^ この装置は視認性から後の系列には波及せず、京都線用の9300系 (9300F - 9302F) では従来の幕式を踏襲した。9000系および9300系9303F以降の編成と7300系 (7320F) 、7000系(7007F・7008F)では視認性に優れたフルカラーLEDが採用された。
  4. ^ 頭端式ホームの大阪梅田駅では、3階改札口・2階中央改札口に近い大阪梅田方の車両に乗客が集中する傾向がある。2800系では対策として編成替えを実施している。
  5. ^ 1999年にJR西日本で導入された223系2000番台1次車と同じく、電動車に本来4軸あるうちの1つを省略した形。
  6. ^ 言い換えれば、8200形は2両編成でMT比3:5を維持するために主電動機を1基減らして3基搭載としている。なお、8000系のSE317でも現行ダイヤの下では電動車1両あたり4基搭載で3M5T運転が可能な性能を備えている。
  7. ^ 8300系8315Fと同様の集電舟が1本のタイプである。
  8. ^ 本系列の充当は西宮北口→梅田。
  9. ^ なお、関西の各社局では本系列以降、ラッシュ時対策として全座席を収納可能とした車両を導入する動きはない。

出典

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  1. ^ a b “阪急電鉄座席収納車が登場 神戸線にきょうから”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 3. (1995年6月12日) 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l 山口益生『阪急電車』215頁。
  3. ^ a b 篠原丞「デビューから30年 阪急電鉄8000系・8300系の思い出」17 - 18頁。『鉄道ピクトリアル』2018年10月号、電気車研究会。
  4. ^ 杉山直哉「阪急8000系・8300系 30年のあゆみ」75頁。『鉄道ピクトリアル』2018年10月号、電気車研究会。
  5. ^ a b c d 阪急電鉄(株)8200系車両 (PDF) (東芝レビュー1995年6月号)。
  6. ^ 中沢、戸田、島田:「ベクトル制御を適用した車両駆動システム」、第33回鉄道におけるサイバネディクスシンポジウム論文集、516、pp.247 - 250、1996.11
  7. ^ 山口益生『阪急電車』216頁。
  8. ^ 『鉄道ピクトリアル』2018年10月号の阪急8000系特集より。
  9. ^ 阪急8200系が伊丹線などに入線railf.jp
  10. ^ 篠原丞「デビューから30年 阪急電鉄8000・8300系の思い出」『鉄道ピクトリアル』2018年10月号29頁、株式会社電気車研究会。

参考文献

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  • 『鉄道ピクトリアル No.837 2010年8月臨時増刊号』、電気車研究会、2010年
  • 山口益生『阪急電車』JTBパブリッシング、2012年。ISBN 4533086985